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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2025-03-25
(45)【発行日】2025-04-02
(54)【発明の名称】透明導電膜としての機能を有する積層体
(51)【国際特許分類】
   H01B 5/14 20060101AFI20250326BHJP
   B32B 9/00 20060101ALI20250326BHJP
   G02B 5/28 20060101ALI20250326BHJP
   C23C 14/08 20060101ALI20250326BHJP
   G02B 1/115 20150101ALI20250326BHJP
【FI】
H01B5/14 A
B32B9/00 A
G02B5/28
C23C14/08 N
G02B1/115
【請求項の数】 9
(21)【出願番号】P 2021201176
(22)【出願日】2021-12-10
(65)【公開番号】P2025014087
(43)【公開日】2025-01-29
【審査請求日】2024-08-15
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】502362758
【氏名又は名称】JX金属株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002860
【氏名又は名称】弁理士法人秀和特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】奈良 淳史
(72)【発明者】
【氏名】水藤 耕介
【審査官】北嶋 賢二
(56)【参考文献】
【文献】特開2001-1441(JP,A)
【文献】中国特許出願公開第104210167(CN,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01B 5/14
G02B 1/115
B32B 9/00
G02B 5/28
C23C 14/08
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
IZO膜と酸化膜が積層した積層体であり、大気中、350℃でアニールを実施した場合の当該積層体の表面抵抗が200Ω/sq.以下であり、大気中、350℃でアニールを実施した場合の可視光(波長:380~780nm)平均透過率が85%以上であり、前記酸化膜がGaを含む酸化物からなる積層体。
【請求項2】
IZO膜と酸化膜が積層した積層体であり、アニールを実施していない当該積層体の表面抵抗をRs0とし、大気中、350℃でアニールを実施した場合の当該積層体の表面抵抗をRs1としたとき、Rs1/Rs0≦10.0であり、大気中、350℃でアニールを実施した場合の当該積層体の可視光平均透過率が85%以上であり、前記酸化膜がGaを含む酸化物からなる積層体。
【請求項3】
前記積層体において、Rs1/Rs0が5.0未満であり、大気中、350℃でアニールを実施した場合の可視光平均透過率が85%以上である請求項2に記載の積層体。
【請求項4】
前記積層体において、Rs1/Rs0が2.0未満であり、大気中、350℃でアニールを実施した場合の可視光平均透過率が85%以上である請求項2に記載の積層体。
【請求項5】
IZO膜と酸化膜が積層した積層体であり、当該積層体の表面抵抗をRsとし、IZO膜の膜厚をTとしたとき、Rs×T≦1.0×10-3Ω・cmであり、可視光(波長:380~780nm)平均透過率が85%以上であり、前記酸化膜がGaを含む酸化物からなる積層体。
【請求項6】
大気中、350℃でアニールを実施した場合の当該積層体の近赤外(波長:800~1400nm)平均透過率が85%以上である請求項1~5のいずれか一項に記載の積層体。
【請求項7】
前記酸化膜の膜厚が90nm以下である請求項1~6のいずれか一項に記載の積層体。
【請求項8】
当該積層体の屈折率が2.0以下である請求項1~7のいずれか一項に記載の積層体。
【請求項9】
IZO膜と酸化膜が積層した積層体であって、前記酸化膜がZn、Siのいずれか一種
以上を含む酸化物からなる請求項1~8のいずれか一項に記載の積層体。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、透明導電膜としての機能を有する積層体に関する。
【背景技術】
【0002】
IZO(Indium-Zinc-Oxide)膜は、ITO(Indium-Tin-Oxide)膜と同様に、低抵抗率かつ高透過率、微細加工容易性等の特徴を有することから、ディスプレイ用電極材料を始め、透明導電膜として広く使用されている。現在、産業生産上のIZO膜のほとんどは、大面積に均一性、生産性良く作製できることから、IZOを成分とする焼結体をスパッタリングターゲットとして使用して成膜する、いわゆるスパッタ成膜法で形成されている。
【0003】
IZO膜は、常温成膜ではアモルファスであり、結晶化させなくとも低抵抗であるため、主に低温プロセス(フィルム基板、有機ELデバイス等)で使用されている。一方、IZO膜はITO膜に比べて近赤外光に対して高透過率であるため、近赤外光を用いたセンサー等への使用が検討されている。しかし、IZO膜は、大気中、220~250℃を超える温度でアニールを実施すると、高抵抗化してしまうため、加熱プロセスを必要とするデバイスにおいて、透明導電膜としての使用が困難になる。
【0004】
出願人は、以前、ITO膜に酸化膜を積層した積層体に関する発明について出願を行った(特許文献1)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特願2021-074650
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、アニールによる抵抗率の上昇を防ぎつつ、高い透過率を維持することができる積層体を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決するために、本発明者は鋭意研究を行った結果、IZO膜に酸化膜を積層した積層体とすることで、アニールによる抵抗率の上昇を防ぎつつ、高透過率を達成できるとの知見が得られた。かかる知見に鑑み、本発明は、以下の実施態様を提供する。
1)IZO膜と酸化膜が積層した積層体であり、大気中、350℃でアニールを実施した場合の当該積層体の表面抵抗が200Ω/sq.以下であり、大気中、350℃でアニールを実施した場合の可視光(波長:380~780nm)平均透過率が85%以上である積層体。
2)IZO膜と酸化膜が積層した積層体であり、アニールを実施していない当該積層体の表面抵抗をRs0とし、大気中、350℃でアニールを実施した場合の当該積層体の表面抵抗をRs1としたとき、Rs1/Rs0≦10.0であり、大気中、350℃でアニールを実施した場合の当該積層体の可視光平均透過率が85%以上である積層体。
3)Rs1/Rs0<5.0であり、大気中、350℃でアニールを実施した場合の当該積層体の可視光平均透過率が85%以上である上記2)記載の積層体。
4)Rs1/Rs0<2.0であり、大気中、350℃でアニールを実施した場合の当該積層体の可視光平均透過率が85%以上である上記2)記載の積層体。
5)IZO膜と酸化膜が積層した積層体であり、当該積層体の表面抵抗をRとし、I
ZO膜の膜厚をTとしたとき、Rs×T≦1.0×10-3Ω・cmであり、可視光(波長:380~780nm)平均透過率が85%以上である積層体。
6)大気中、350℃でアニールを実施した場合の当該積層体の近赤外(波長:800~1400nm)平均透過率が85%以上である上記1)~5)のいずれか一に記載の積層体。
7)前記酸化膜の膜厚が90nm以下である上記1)~6)のいずれか一に記載の積層体。
8)当該積層体の屈折率が2.0以下である上記1)~7)のいずれか一に記載の積層体。
9)IZO膜と酸化膜が積層した積層体であって、前記酸化膜がGaを含む酸化物からなる上記1)~8)のいずれか一に記載の積層体。
10)IZO膜と酸化膜が積層した積層体であって、前記酸化膜がZn、Siのいずれか一種以上を含む酸化物からなる上記9)に記載の積層体。
【発明の効果】
【0008】
本態様に係る積層体は、アニールによる抵抗率の上昇を防ぎつつ、高い透過率を維持することができるという優れた効果を備える。また、既存のIZO膜に特定の酸化膜を積層することで、良好な特性を備えた透明導電膜を簡便に提供することができるという優れた効果を有する。
【発明を実施するための形態】
【0009】
通常、IZO単膜の場合、大気中でアニールすると、抵抗率(表面抵抗)が上昇してしまい、透明導電膜としての機能が発揮できなくなる。IZO単膜の場合、アニール時にIZO膜中に酸素が透過して、キャリア濃度が低下し、抵抗率が上昇すると考えられる。IZO膜に所定の酸化膜を積層することで、抵抗率の上昇を防げる作用メカニズムの詳細は定かでないが、当該酸化膜がIZO膜への酸素の透過を抑制する保護膜となって、抵抗率の上昇を抑制できるものと考えられる。
【0010】
本発明の第一の実施形態は、IZO膜と酸化膜が積層した積層体であり、大気中、350℃でアニールを実施した場合の当該積層体の表面抵抗が200Ω/sq.以下であることを特徴とする。少なくとも表面抵抗が200Ω/sq.以下であれば、所望の導電性を確保することができる。好ましくは、表面抵抗が150Ω/sq.以下であり、より好ましくは、表面抵抗が100Ω/sq.以下である。
【0011】
また、第一の実施形態に係る積層体は、大気中、350℃でアニールを実施した場合の当該積層体の可視光(波長:380~780nm)平均透過率が85%以上であることを特徴とする。少なくとも可視光(波長:380~780nm)平均透過率が85%以上であれば、所望の透明性を確保することができる。好ましくは、平均透過率が87%以上であり、より好ましく、平均透過率が90%以上である。
【0012】
透明導電膜は、太陽電池など多様な用途で使用されているが、その製造プロセスの過程で熱的な負荷がかかり、本開示でいうアニールされた状態となる。一定の温度以上の熱的負荷がかかると、IZO膜は結晶化するが、積層された酸化膜は、アモルファスの状態を維持する。このアモルファス状態を維持できることが、抵抗率の上昇の抑制に大きく寄与しているものと考えられる。
【0013】
透明導電膜が、どの程度の熱的負荷がかかるかどうかは、製造プロセスに依存するため、アニール温度を特定することは重要ではない。つまり、本実施形態に係る積層体は、高温でアニールされても、抵抗率の上昇を抑制できるものであり、実際にアニールされていることまでは必要としない。少なくとも、350℃の温度でアニールを施した場合に、上
記所定の表面抵抗と可視光透過率(近赤外透過率)が得られるものであれば、本実施形態の積層体に含まれるものである。
【0014】
本発明の第二の実施形態は、IZO膜と酸化膜が積層した積層体であり、アニールを実施していない当該積層体の表面抵抗をRs0とし、大気中、350℃でアニールを実施した場合の当該積層体の表面抵抗をRs1としたとき、Rs1/Rs0≦10.0である。IZO単膜の場合、大気中、350℃でアニールを実施すると、アニールなし(As-Depo)の場合に比べて10倍以上も表面抵抗が上昇する。一方、IZO膜に所定の酸化膜を積層した場合は、大気中、350℃でアニールしても、表面抵抗の上昇を顕著に抑制することが可能となる。好ましくは、Rs1/Rs0<5.0であり、より好ましくはRs1<Rs0<2.0である。
【0015】
第二実施形態に係る積層体は、大気中、350℃でアニールを実施した場合の当該積層体の可視光(波長:380~780nm)平均透過率が85%以上である。少なくとも可視光(波長:380~780nm)平均透過率が85%以上であれば、所望の透明性を確保することができる。好ましくは、平均透過率が87%以上であり、より好ましく90%以上である。
【0016】
本発明の第三の実施形態は、IZO膜と酸化膜が積層した積層体であり、当該積層体の表面抵抗をRとし、IZO膜の膜厚をTとしたとき、Rs×T≦1.0×10-3Ω・cmである。積層体の体積抵抗率は膜厚に依存し、IZO膜の膜厚をTとしたときに、上記の関係式を満たすことは、導電膜として良好な特性を有するものいえる。なお、この場合、アニール温度(加熱プロセスが何℃で行われたか)については特に問わず、積層体が上記の関係式を満たすものは、本実施形態の範囲に含まれるものである。
【0017】
第三の実施形態に係る積層体は、大気中、350℃でアニールを実施した場合の当該積層体の可視光(波長:380~780nm)平均透過率が85%以上である。少なくとも可視光(波長:380~780nm)平均透過率が85%以上であれば、所望の透明性を確保することができる。好ましくは、平均透過率が87%以上であり、より好ましく90%以上である。
【0018】
第一実施態様、第二実施態様、及び、第三実施態様のいずれにおいても、350℃でアニールを実施した場合の当該積層体の近赤外(波長:800~1400nm)平均透過率が85%以上であることが好ましい。より好ましくは平均透過率が90%以上である。IZO膜は、近赤外光を用いたセンサー等への使用が検討されていることから、近赤外における透過率が高いことはより好ましい。
【0019】
第一実施態様、第二実施態様、及び、第三実施態様のいずれにおいても、酸化膜の膜厚に特に制限はないが、膜厚が90nm以下であることが好ましい。膜厚が厚すぎると積層体の抵抗率が上昇することがある。より好ましくは膜厚が70nm以下であり、さらに好ましくは膜厚が50nm以下である。一方、膜厚が薄すぎる、IZO膜の抵抗率の上昇を十分に抑制できないことがあるため、10nm以上であることが好ましい。もっとも、抵抗率の上昇抑制効果や透過率の向上効果は、酸化膜の種類や組成の影響を受けるため、酸化膜の種類などによって、膜厚を調整することが好ましい。
【0020】
第一実施態様、第二実施態様、及び、第三実施態様のいずれにおいても、積層体の屈折率が2.0以下であることが好ましい。IZO膜上に屈折率の低い酸化膜を積層することで、反射率を減らして、透過率を向上させることができる。
【0021】
アモルファス状態を維持できる酸化膜として、例えば、Gaを含む酸化物、また、Ga
に加えてさらに、Zn、Siのいずれか一種以上を含む酸化物からなる酸化膜が挙げられる。これら元素の含有量に制限はなく、GaをGa換算で100mol%以下含む酸化膜、あるいは、ZnをZnO換算で80mol%以下含む酸化膜、SiをSiO換算で100mol%未満含む酸化膜が好適である。
【0022】
本開示において、IZO膜は、ZnOとInを主成分とする膜であり、組成比に特に制限はないが、ZnO:7~30wt%、残部がInであることが望ましい。ZnOの組成比が低いと、結晶化温度が低下しやすくなる傾向がある。一方で、ZnOの組成比が高いと、IZO膜自体の抵抗が高くなって、透明導電膜としての機能を発揮し難くなるということがある。
【0023】
本発明の積層体の製造方法について、以下に具体的に説明する。以下は、例示であって、この製造方法に限定する意図はなく、積層体自体の製造方法にあっては、他の方法が存在することを理解されたい。透明導電膜(積層体)としての特性を大きく変えない範囲で、その製造条件を変更することができる。なお、開示する製造方法が不必要に不明瞭となることを避けるために、周知の製造工程や処理動作の詳細な説明は省略する。
【0024】
In、Znを含む酸化物からなるIZOスパッタリングターゲット、Zn、Ga、Siを含む酸化物からなるZn-Ga-Si-Oスパッタリングターゲットを準備する。まず、IZOスパッタリングターゲットをスパッタ装置の真空チャンバー内に装着し、スパッタリングターゲットに対向する基板に成膜を行う。その後、同様に、Zn-Ga-Si-Oスパッタリングターゲットにて、前記基板に成膜されたIZO膜上に酸化膜を形成する。酸化膜の膜厚は、スパッタパワーやスパッタ時間を調整することで、適宜、変更することができる。
【0025】
スパッタリングの条件は、例えば以下の通りとすることができる。また、所望の膜厚やスパッタリングターゲットの組成などによって、適宜、変更することができる。
(スパッタリングの条件)
スパッタ装置:ANELVA製C-7500L
スパッタパワー:DC500~1000W
(DCスパッタ不可なターゲットはRF500~1000W)
ガス圧:0.5Pa
基板加熱:室温
酸素濃度:0%、2%
【0026】
その後、IZO膜の上に酸化膜(Zn-Ga-Si-O)が形成された積層体をスパッタ装置から取り出した後、200~600℃でアニールを行って、IZO膜を結晶化させる。アニール温度は、所望の抵抗率や透過率、基材の耐熱温度などを考慮して、適宜、決定することができる。アニール雰囲気については、大気に限らず、酸素濃度を調整した雰囲気、あるいは真空、窒素雰囲気でも良い。以上により、低抵抗率で、高透過率な積層体を得ることができる。なお、スパッタリングは、酸化膜の成膜に適した方法であるが、他の化学的あるいは物理的な蒸着方法を用いてもよい。
【0027】
上記では、酸化膜の形成用として、Zn-Ga-Si-Oスパッタリングターゲットを使用する例を示したが、その他にも、例えば、ZnOスパッタリングターゲット、Gaスパッタリングターゲット、SiOスパッタリングターゲット、Zn-Ga-Oスパッタリングターゲットなど、を選択することもできる。
【0028】
実施例及び比較例は、以下の方法によって積層体の特性を評価した。
(膜の表面抵抗について)
表面抵抗
方式:定電流印加方式
装置:NPS社製 抵抗率測定器 Σ-5+
方法:直流4探針法
高抵抗率の場合
方式:定電圧印加方式
装置:三菱化学アナリテック社製 高抵抗率計 ハイレスタ-UX
方法:MCC-A法(JIS K 6911)
リング電極プローブ:URS
測定電圧:1~1000V
【0029】
(膜の透過率について)
可視光・近赤外光平均透過率
装置:SHIMADZU社製 分光光度計 UV-2600
リファレンス:未成膜ガラス基板(EagleXG)
測定波長:380~1400nm
ステップ:5nm
【0030】
(膜厚について)
装置:BRUKER製 触針式薄膜段差計 Dektak XT
【0031】
(膜の屈折率について)
装置:SHIMADZU社製 分光光度計 UV-2450、UV-2600
方法:透過率、表裏面反射率から算出
波長:550nm
【0032】
(膜のキャリア濃度・移動度)
原理:ホール測定
装置:Lake Shore社 8400型
【実施例
【0033】
以下、実施例及び比較例に基づいて説明する。本実施例はあくまで一例であり、この例によって何ら制限されるものではない。すなわち、本発明は特許請求の範囲によってのみ制限されるものであり、本発明に含まれる実施例以外の種々の変形を包含するものである。
【0034】
(比較例1)
IZO(ZnO:10.7wt%、In:残部)スパッタリングターゲットをスパッタ装置に取り付け、上記条件でスパッタリングを実施し、基板上に膜厚が100nmのIZO膜(単膜)を形成した。なお、比較例1では、成膜時の酸素濃度を2vol%(Ar:98vol%)とした。その後、大気中、温度を変えて30分間アニールを実施した。そして、得られた各IZO膜について、表面抵抗及び可視光・近赤外光平均透過率を測定した。その結果を表1に示す。表中、「as-depo」とあるのは、成膜したまま(アニール前)の膜を意味する。
【0035】
表1から、IZO膜は、アニール温度を上げていくと、アニール温度が300℃以上から、抵抗率が急激に上昇した。そして、Rs1/Rs0=14.78と高い値を示した。また、可視光平均透過率及び近赤外光平均透過率は85%未満まで低下した。なお、表1に示す通り、比較例1では、アニール温度を高くしていくとキャリア濃度の低下が見られた。これは、アニール時にIZO膜に酸素が拡散していることが原因と考えられる。
【0036】
【表1】
【0037】
(実施例1、2)
Zn-Ga-Si-Oスパッタリングターゲットをスパッタ装置に取り付け、上記条件にてスパッタリングを実施し、基板上に膜厚100nmのIZO膜が形成された上に酸化膜(Zn-Ga-Si-O)を形成した。実施例1は、酸化膜の組成をZnO:40mol%、Ga:20mol%、SiO:40mol%とし、実施例2は、酸化膜の組成をZnO:83mol%、Ga:8mol%、SiO:9mol%とした。また、実施例1、2は、酸素濃度2%で成膜したIZO膜上に膜厚20nmの酸化膜を形成した。
【0038】
その後、大気中、温度を変えて30分間アニールを実施した。そして、得られた各積層体について、表面抵抗及び可視光・近赤外光平均透過率を測定した。その結果を表1に示す。表1の通り、積層体について、IZO膜単膜とは異なり、アニール温度を上げていっても、ある一定の温度までは、抵抗率の急激な上昇は見られなかった。特にRs1/Rs0は、10.0を大きく下回り、アニール温度:350℃によっても、抵抗率の急激な上昇が抑制されていた。また、アニール温度を上げていっても、ある一定の温度までは、可視光平均透過率及び近赤外平均透過率は85%以上を維持していた。このようにIZO膜と酸化膜を積層した積層体とすることにより、既存のIZO膜では得られなかった高温アニール時の低抵抗率かつ高透過率の実現を可能とした。
【産業上の利用可能性】
【0039】
本発明の積層体は、アニールによる抵抗率の上昇を防ぎつつ、高い透過率を維持することができ、透明導電体膜として良好な機能を有する。また、本発明は、IZO膜に酸化膜を積層することで、簡便に、良好な特性を備えた透明導電膜を提供することができる。本発明に係る積層体は、特に、高温でのアニールが可能であるガラス基板やSi基板を用いるデバイス(フラットパネルディスプレイ、マイクロLED等)における透明導電膜として有用である。