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特許7656269積層造形用サポート材、これを用いた積層造形物及び立体構造体の製造方法
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  • 特許-積層造形用サポート材、これを用いた積層造形物及び立体構造体の製造方法 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2025-03-26
(45)【発行日】2025-04-03
(54)【発明の名称】積層造形用サポート材、これを用いた積層造形物及び立体構造体の製造方法
(51)【国際特許分類】
   B29C 64/40 20170101AFI20250327BHJP
   B29C 64/314 20170101ALI20250327BHJP
【FI】
B29C64/40
B29C64/314
【請求項の数】 13
(21)【出願番号】P 2022511845
(86)(22)【出願日】2021-03-17
(86)【国際出願番号】 JP2021010809
(87)【国際公開番号】W WO2021200153
(87)【国際公開日】2021-10-07
【審査請求日】2024-01-09
(31)【優先権主張番号】P 2020062287
(32)【優先日】2020-03-31
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000006035
【氏名又は名称】三菱ケミカル株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100109793
【弁理士】
【氏名又は名称】神谷 惠理子
(72)【発明者】
【氏名】酒井 紀人
【審査官】家城 雅美
(56)【参考文献】
【文献】特開2018-099788(JP,A)
【文献】国際公開第2018/139537(WO,A1)
【文献】特開2018-086814(JP,A)
【文献】特表2019-531214(JP,A)
【文献】特開2016-078284(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B29C 64/40
B29C 64/314
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
(A)スルホン酸基又はその塩含有基を有するポリビニルアルコール系樹脂;及び
(B)生分解性ポリエステル
を含有する積層造形用サポート材であって、
前記(A)スルホン酸基又はその塩含有基を有するポリビニルアルコール系樹脂100重量部に対して、酢酸ナトリウム0.5~2.0重量部含有されている積層造形用サポート材
【請求項2】
前記(A)スルホン酸基又はその塩含有基を有するポリビニルアルコール系樹脂は、前記スルホン酸基又はその塩含有基として、下記式(3-1)、(3-2)、又は(3-3)で表される構造単位を有するポリビニルアルコール系樹脂である請求項1に記載の積層造形用サポート材。
【化3】
(式中、Mは水素又はアルカリ金属又はアンモニウム基、X,Yは介在基である)
【請求項3】
前記(A)スルホン酸基又はその塩含有基を有するポリビニルアルコール系樹脂における、前記(3-1)、(3-2)、及び(3-3)で表される構造単位の含有率は、0.01~10モル%である請求項2に記載の積層造形用サポート材。
【請求項4】
前記(A)スルホン酸基又はその塩含有基を有するポリビニルアルコール系樹脂100重量部に対して、(B)生分解性ポリエステルの含有量は5~100重量部である請求項1~のいずれか1項に記載の積層造形用サポート材。
【請求項5】
前記(A)スルホン酸基又はその塩含有基を有するポリビニルアルコール系樹脂と、前記(B)生分解性ポリエステルとは、一方がマトリックスで他方が該マトリックス中に微分散した相分離構造となっている請求項1~のいずれか1項に記載の積層造形用サポート材。
【請求項6】
前記(A)スルホン酸基又はその塩含有基を有するポリビニルアルコール系樹脂を海成分として、前記(B)生分解性ポリエステルが島成分として分散している海島構造となっている請求項に記載の積層造形用サポート材。
【請求項7】
前記(B)生分解性ポリエステルのドメインの粒子径が0.05~2μmである請求項に記載の積層造形用サポート材。
【請求項8】
前記(B)生分解性ポリエステルは、ジカルボン酸単位における脂肪族ジカルボン酸単位の割合が40~80モル%である請求項1~のいずれか1項に記載の積層造形用サポート材。
【請求項9】
熱溶融積層型の積層造形用サポート材である請求項1~のいずれか1項に記載の積層造形用サポート材。
【請求項10】
前記積層造形用サポート材は、フィラメント状である請求項に記載の積層造形用サポート材。
【請求項11】
請求項1~10のいずれか1項に記載の積層造形用サポート材及びモデル材材料を、溶融状態で積層し、固化して積層造形物を作製する工程;並びに
前記積層造形物を、水と接触させる工程
を含む立体構造体の製造方法。
【請求項12】
前記モデル材材料は、ポリ乳酸、アクリロニトリル-ブタジエン-スチレン樹脂、ポリアミド樹脂、ポリエチレンテレフタレート、又はポリカーボネートである請求項11に記載の製造方法。
【請求項13】
請求項1~10のいずれか1項に記載の積層造形用サポート材を含む積層造形物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、積層造形される立体構造体との接着性に優れたサポート材であって、且つ積層造形完成後の除去廃棄が簡易で環境にも優しいサポート材、及びこれを用いた積層造形物、立体構造体の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
積層造形とは、所定の構造を有する立体を造形する方法であって、流動状態の材料が押出された後、固化し、その上にさらに材料を積層していくことで物品を造形することをいう。積層造形方法にはUV硬化法、熱溶融積層法等が提案されているが、装置構造が簡便であることから、熱溶融積層法が広く使用されている。
【0003】
サポート材は、立体を積層造形する際に、目的とする立体構造体には存在しない部分を補うために用いられるものである。得られた積層造形物において、サポート材は、目的とする立体構造体には不要な部分であることから、造形後、除去する必要がある。
【0004】
除去する方法としては、造形物を傷つけずに除去できる簡易な除去方法として、溶媒に溶解して除去する方法がある。サポート材として水溶性樹脂であるポリビニルアルコール系樹脂(PVA系樹脂)を用いることで、溶媒を水にすることができるため、安全で環境に優しい。
【0005】
一方、PVA系樹脂は、硬質で耐衝撃性が劣っていること、溶融成形・溶融フィラメント化も容易でないという特性がある。サポート材として用いるためには、種々の形状に対応できるように、柔軟性、耐衝撃性を有することが求められていることから、PVA系樹脂に柔軟性を付与するために、スチレン-エチレン-ブチレン-スチレンブロックコポリマー(SEBS)等の熱可塑性エラストマーを添加することが提案されている(例えば、国際公開2015/182681号、国際公開2018/061694号公報、特開2019-155917号公報)。
【0006】
上述のサポート材は、PVA系樹脂をマトリックス(海成分)として、SEBSが分散した海島構造を有している。このため、PVA系樹脂を水に溶解させた後に生じた廃液(PVA系樹脂の水溶液)中には、水不溶性のSEBSが分散した懸濁液状態となり、SEBSは生分解性を有しないので、別途廃棄物処理が必要となる。
【0007】
近年のグリーンケミストリーの観点から、生分解性を有しないSEBSに代えて、生分解性ポリエステルを用いることが、特開2018-99788において提案されている。具体的には、側鎖1,2-ジオール含有PVA系樹脂と生分解性ポリエステルを含有する組成物を積層造形用サポート材であり、かかるサポート材は、積層造形用材料として広く用いられているポリ乳酸(PLA)系樹脂との接着性が優れているという利点もある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【文献】国際公開2015/182681号公報
【文献】国際公開2018/061694号公報
【文献】特開2019-155917号公報
【文献】特開2018-99788号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
しかしながら、側鎖1,2-ジオール含有PVA系樹脂と生分解性ポリエステルを含有する組成物からなるサポート材は、グリーンケミストリーの観点では、その利点があるが、下記のような問題点があり、その使用拡大の妨げとなっている。
問題点1:PLA樹脂との接着性は良好であるが、ABS等の他の汎用樹脂との接着性が低い。
問題点2:水溶解除去の際、水溶性が劣っている生分解性ポリエステルの凝集物が発生し、この凝集物が造形物に付着したり、水洗工程での目詰まりの原因となる。
問題点3:溶融フィラメント化する場合、フィラメントの線径振れが大きい傾向にある。
【0010】
本発明は、以上のような事情に鑑みてなされたものであり、その目的とするところは、積層造形に用いるモデル材材料として、ポリ乳酸(PLA)だけでなく、アクリロニトリル-ブタジエン-スチレンコポリマー(ABS)、ポリアミド(PA)、グリコール変性ポリエチレンテレフタレート(PETG)、ポリカーボネート(PC)を用いた場合もそれらとの接着性にも優れ、且つ水洗除去した際に凝集物に係る問題がなく、容易に水溶解除去され、生じる廃液(PVA系水溶液)として、そのまま排水除去しても環境規制に支障がないサポート材を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明の積層造形用サポート材は、(A)スルホン酸基又はその塩含有基を有するポリビニルアルコール系樹脂;及び(B)生分解性ポリエステルを含有する。
【0012】
前記(A)スルホン酸基又はその塩含有基を有するポリビニルアルコール系樹脂は、前記スルホン酸基又はその塩含有基として、下記式(3-1)、(3-2)、又は(3-3)で表される構造単位を有するポリビニルアルコール系樹脂である。
【化3】
【0013】
(3-1)、(3-2)、(3-3)式中、Mは水素又はアルカリ金属又はアンモニウム基、X,Yは介在基である。
(3-1)、(3-2)、及び(3-3)で表される構造単位の含有率は、0.01~10モル%であることが好ましい。
前記(A)スルホン酸基又はその塩含有基を有するポリビニルアルコール系樹脂100重量部に対して、酢酸ナトリウム0.5~2.0重量部含有されていることが好ましい。
また、前記(A)スルホン酸基又はその塩含有基を有するポリビニルアルコール系樹脂100重量部に対して、(B)生分解性ポリエステルの含有量は5~100重量部であることが好ましい。
【0014】
前記(A)スルホン酸基又はその塩含有基を有するポリビニルアルコール系樹脂と、前記(B)生分解性ポリエステルとは、一方がマトリックスで他方が該マトリックス中に微分散した相分離構造となっていることが好ましく、より好ましくは前記(A)スルホン酸基又はその塩含有基を有するポリビニルアルコール系樹脂を海成分として、前記(B)生分解性ポリエステルが島成分として分散している海島構造である。さらに好ましい海島構造では、前記(B)生分解性ポリエステルのドメインの粒子径が0.05~2μmである。
【0015】
前記(B)生分解性ポリエステルは、ジカルボン酸単位における脂肪族ジカルボン酸単位の割合が40~80モル%であることが好ましい。
【0016】
本発明の積層造形用サポート材は、熱溶融積層型の積層造形用サポート材として好適に用いられる。この場合、前記積層造形用サポート材は、フィラメント状であることが好ましい。
【0017】
本発明は、上記本発明の積層造形用サポート材を含む積層造形物、及び当該積層造形用サポート材を用いた立体構造体の製造方法も包含する。
【0018】
本発明の立体構造体の製造方法は、本発明の積層造形用サポート材及びモデル材材料を、溶融状態で積層し、固化して積層造形物を作製する工程;並びに前記積層造形物を、水と接触させる工程を含む。
【0019】
本発明の立体構造体の製造方法は、上記モデル材材料が、ポリ乳酸、アクリロニトリル-ブタジエン-スチレン樹脂、ポリアミド樹脂、ポリエチレンテレフタレート、又はポリカーボネートの場合に好適である。
【発明の効果】
【0020】
本発明の積層造形用サポート材は、種々のモデル材との接着性に優れ、しかも水溶性に優れているため、水洗除去後の廃液に、不溶解分の凝集物が存在しない。さらに、サポート材は生分解性を有しているので、水洗除去した場合に生じる廃液の処理が容易で、環境にも優しい。
【図面の簡単な説明】
【0021】
図1】実施例で行った測定方法を説明するための図である。
【発明を実施するための形態】
【0022】
以下、本発明の構成につき詳細に説明するが、これらは望ましい実施態様の一例を示すものである。
【0023】
〔積層造形用サポート材〕
本発明の積層造形用サポート材は、(A)スルホン酸基又はその塩含有基を有するポリビニルアルコール(PVA)系樹脂と(B)生分解性ポリエステルを含有している。
【0024】
(A)スルホン酸基又はその塩含有基を有するPVA系樹脂
本発明のサポート材で用いられる(A)スルホン酸基又はその塩含有基を有するPVA系樹脂は、水溶性及び溶融成形性に優れ、しかもサポート材のもう一方の必須構成成分である(B)生分解性ポリエステルとの相溶性にも優れている。したがって、フィラメント状サポート材として利用することができ、且つ積層造形後の水洗除去の際、ポリエステルの凝集物の発生がなく、容易に水溶解除去が可能で、生じる廃液の処理も以下のように容易である。
【0025】
すなわち、(A)スルホン酸基又はその塩含有基を有するPVA系樹脂は、分子内に存在しているスルホン酸基又はその塩含有基に基づき、後述する(B)生分解性ポリエステルとの相溶性に優れるため、両成分を溶融混練すると、(A)スルホン酸基又はその塩含有基を有するPVA系樹脂と(B)生分解性ポリエステルとが、一方がマトリックス、他方が当該マトリックス中に微分散した相分離構造となっている。通常、(A)成分が過半の場合、(A)成分であるPVA系樹脂が海成分となり、(B)生分解性ポリエステルが島成分の海島構造を有している。未変性PVA系樹脂、側鎖1,2-ジオール含有PVA系樹脂等では、分子内に存在する極性基が、原則として水酸基とアセチル基のみであることから、(B)生分解性ポリエステルとの相溶性が低い。具体的には、海成分となるPVA系樹脂中に、島成分となるポリエステル系樹脂の分散粒子径は2~5μmであり、水洗除去した際に(B)生分解性ポリエステルの2mm~5mmの凝集物が多量に発生する。このような凝集物は、積層造形されたモデル材に付着したり、廃液処理のための濾過ストレーナー等の目詰まりの原因となり、廃水処理を困難にしている。この点、スルホン酸基又はその塩含有基を有するPVA系樹脂を用いた場合、相溶性が良好であるため、相分離構造(好ましくは、スルホン酸基又はその塩含有基を有するPVA系樹脂マトリックス(海)とする海島構造)中に、(B)生分解性ポリエステルが、0.05~2μm、好ましくは0.1~1.0μm、より好ましくは0.1~0.5μmのドメイン(島)として微分散することができる。そのため、水洗により生じるPVA系樹脂水溶液は、均一な白濁液となり、(B)生分解性ポリエステルの凝集物は発生しない。従って、凝集物のモデル材への付着や廃液処理時の濾過工程等で目詰まりが生じず、そのまま排水することができる。さらに、分散質であるポリエステル系樹脂は、生分解性であるため、環境への影響が低減され、近年のマイクロプラスチック規制を回避することが期待できる。
【0026】
ここで、(A)スルホン酸基又はその塩含有基を有するPVA系樹脂とは、PVA系樹脂の基本構造単位である下記一般式(1)で表されるビニルアルコール単位、ケン化度が100%未満の場合には、さらに未ケン化部分に該当する下記一般式(2)で表されるビニルエステル単位の他、下記一般式(3-1)、(3-2)又は(3-3)式で表されるスルホン酸基又はその塩含有基を有する基を側鎖に含んでいる構造単位を有する。
【0027】
【化1】
【0028】
【化2】
【0029】
【化3】
【0030】
(1)式で表されるビニルアルコール単位、(2)式で表されるビニルエステル単位は、PVA系樹脂の原料モノマーとして用いられるビニルエステル化合物に由来する。
上記ビニルエステルモノマーとして用いられるビニルエステル系化合物としては、例えば、ギ酸ビニル、酢酸ビニル、プロピオン酸ビニル、バレリン酸ビニル、酪酸ビニル、イソ酪酸ビニル、ピバリン酸ビニル、カプリン酸ビニル、ラウリン酸ビニル、ステアリン酸ビニル、安息香酸ビニル、バーサチック酸ビニル等が挙げられるが、経済性の点から酢酸ビニルが好ましく用いられる。
【0031】
したがって、(2)式中、Rは、炭素数1~18のアルキル基であり、PVA系樹脂の合成原料として用いたビニルエステル化合物に依存する。Rは、好ましくはメチル基であり、好ましいビニルエステル単位は下記(2a)式で表される酢酸ビニル単位である。
【0032】
【化2a】
【0033】
(3-1)式、(3-2)式、(3-3)式中の「-SOM」(Mは、水素又はアルカリ金属又はアンモニウム基を示す。)において、Mが水素の場合はスルホン酸基含有基に該当し、Mがアルカリ金属又はアンモニウムの場合にはその塩含有基に該当する。式中のR、R、R、R、R、Rは、それぞれ独立して、水素又は炭素数1~4のアルキル基である。X、Yは、介在基であり、通常、炭素数1~4のアルキレン基、エステル結合、アミド結合、エーテル結合などである。Rは、水素、アルキル基、スルホン酸基又はその塩含有基(「-SOM」(Mは、水素又はアルカリ金属又はアンモニウム基を示す))、あるいは-SOMを含有する基であってもよい。
【0034】
(3-1)式のスルホン酸基又はその塩含有基を有する構造単位は、例えば、下記オレフィンスルホン酸(4-1)、スルホアルキル(メタ)アクリルアミド(4-2)又は(4-3)、スルホアルキル(メタ)アクリレート(4-4)などの、スルホン酸基又はその塩含有基を有する不飽和単量体(以下「スルホン酸基等含有不飽和単量体」と称する)を用いることで形成される。介在基X、Yは、使用するスルホン酸基等含有不飽和単量体の種類に応じて、アルキレン基(-(CH)n-)、エステル結合(-COO-)、カルボニル結合(-CO-)、アミド結合等、又はこれらの組合せとなる。
【0035】
【化4-1】
【化4-2】
【化4-3】
【化4-4】
【0036】
上記(4-1)式、(4-2)式、(4-3)式、(4-4)式中、R11、R12、R13、R14は、それぞれ独立して、水素又は炭素数1~4のアルキル基である。nは2~4の整数であり、Mは水素原子又はアルカリ金属又はアンモニウム基を示す。
【0037】
また、(3-2)式のスルホン酸基又はその塩含有基を有する構造単位は、例えば、スルホン酸基等含有不飽和単量体として、下記で表されるスルホアルキルマレートなどを用いることで形成される。
【0038】
【化5-1】
【化5-2】
【0039】
上記(5-1)(5-2)式中、nは2~4の整数であり、Mは水素原子又はアルカリ金属又はアンモニウム基を示す。
【0040】
さらに、(3-3)式のスルホン酸基又はその塩含有基を有する構造単位は、例えば、スルホン酸基等含有不飽和単量体として、下記スルホアルキル(メタ)アクリルアミドを用いることで形成される。
【0041】
【化5-3】
【0042】
上記(5-3)式中、R15は水素又は炭素数1~4のアルキル基である。nは2~4の整数であり、Mは水素原子又はアルカリ金属又はアンモニウム基を示す。
【0043】
上記のオレフィンスルホン酸の具体例としては、例えば、ビニルスルホン酸、アリルスルホン酸、メタアリルスルホン酸等のオレフィンスルホン酸又はその塩が挙げられる。
また、上記のスルホアルキルマレートの具体例としては、例えば、ナトリウムスルホプロピル-2-エチルヘキシルマレート、ナトリウムスルホプロピル-2-エチルヘキシルマレート、ナトリウムスルホプロピルトリデシルマレート、ナトリウムスルホプロピルエイコシルマレート等が挙げられる。
また、上記のスルホアルキル(メタ)アクリルアミドとしての具体例としては、例えば、ナトリウムスルホメチルアクリルアミド、ナトリウムスルホt-ブチルアクリルアミド、ナトリウムスルホ-S-ブチルアクリルアミド、ナトリウムスルホ-t-ブチルメタクリルアミド等が挙げられる。
さらに、上記のスルホアルキル(メタ)アクリレートとしての具体例としては、例えば、ナトリウムスルホエチルアクリレート等が挙げられる。共重合により導入する場合、上記スルホン酸基等含有不飽和単量体の中でもオレフィンスルホン酸、又はその塩が好適に使用される。
【0044】
本発明で用いられる(A)スルホン酸基又はその塩含有基を有するPVA系樹脂のケン化度(JIS K 6726に準拠して測定)は、好ましくは75~99モル%、より好ましくは80~95モル%、さらに好ましくは85~90モル%である。かかるケン化度が低すぎると水溶性が低下する傾向がある。
【0045】
また、(A)スルホン酸基又はその塩含有基を有するPVA系樹脂の平均重合度(JIS K 6726に準拠して測定)は、好ましくは150~4000、より好ましくは250~1000、更に300~500である。
かかる平均重合度が低すぎると、溶融粘度が低くなる傾向にあり、積層造形の際に垂れが生じやすくなったり、フィラメント強度が低下し、造形時に折れやすくなる傾向がある。一方、平均重合度が高くなりすぎると、溶融粘度が高くなり、フィラメント状サポート材とした場合に、積層造形スピードを高めることが困難になったり、水溶解除去の速度が低下する傾向にある。
【0046】
さらに、(A)スルホン酸基又はその塩含有基を有するPVA系樹脂のスルホン酸基又はその塩含有基を有する構造単位の含有量(変性率)は、好ましくは0.01~10モル%、より好ましくは0.1~5モル%、特に好ましくは0.5~3モル%である。かかる変性率が低すぎると樹脂の帯電性が低下したり、保護コロイド性が低下する傾向がある。このことは、(B)生分解性ポリエステルとの相溶性が低下する原因となる。変性率が高すぎると、サポート材の耐熱性が低下したり、スルホン酸基又はその塩含有基を有するPVA系樹脂の合成が困難となる傾向がある。
【0047】
(A)スルホン酸基又はその塩含有基を有するPVA系樹脂は、(1)ビニルエステル系単量体とスルホン酸基等含有不飽和単量体を共重合しケン化する方法、(2)スルホン酸基又はその塩含有基を有するアルコール、アルデヒドあるいはチオールなどの官能基を有する化合物を連鎖移動剤の存在下でビニルエステル系単量体を重合し、ケン化する方法、(3)PVA系樹脂を臭素、ヨウ素等で処理した後、酸性亜硫酸ソーダ水溶液で加熱する方法、(4)PVA系樹脂を濃厚な硫酸水溶液中で加熱する方法、(5)PVA系樹脂をスルホン酸基又はその塩含有基を有するアルデヒド化合物でアセタール化する方法などにより製造することができる。
中でも製造時の安全面と作業性の点から、(1)ビニルエステル系単量体とスルホン酸基等含有不飽和単量体を共重合し、得られた重合体をケン化して得ることが好ましい。
【0048】
なお、本発明で対象とするスルホン酸基又はその塩含有基を有するPVA系樹脂としては、上記ビニルエステルモノマー、オキシアルキレン基供与ビニルモノマーの他、例えば、1モル%以下の範囲であれば、以下のようなモノマー(その他のモノマー)が共重合されていてもよい。その他のモノマーとしては、例えば、エチレンやプロピレン、イソブチレン、α-オクテン、α-ドデセン、α-オクタデセン等のオレフィン類;3-ブテン-1-オール、4-ペンテン-1-オール、5-ヘキセン-1-オール、3,4-ジヒドロキシ-1-ブテン等のヒドロキシ基含有α-オレフィン類およびそのアシル化物などの誘導体;アクリル酸、メタクリル酸、クロトン酸、マレイン酸、無水マレイン酸、イタコン酸、ウンデシレン酸等の不飽和酸類、その塩、モノエステル、あるいはジアルキルエステル;アクリロニトリル、メタアクリロニトリル等のニトリル類;アクリルアミド、メタクリルアミド等のアミド類;エチレンスルホン酸、アリルスルホン酸、メタアリルスルホン酸等のオレフィンスルホン酸類あるいはその塩;アルキルビニルエーテル類;ジメチルアリルビニルケトン、N-ビニルピロリドン、塩化ビニル、ビニルエチレンカーボネート、2,2-ジアルキル-4-ビニル-1,3-ジオキソラン、グリセリンモノアリルエーテル等のビニル化合物;酢酸イソプロペニル、1-メトキシビニルアセテート等の置換酢酸ビニル類、塩化ビニリデン、1,4-ジアセトキシ-2-ブテン、1,4-ジヒドロキシ-2-ブテン、ビニレンカ-ボネート等があげられる。
【0049】
ビニルエステルモノマーと既述のスルホン酸基等含有不飽和単量体との共重合、さらに必要により添加されるその他のモノマーとの共重合の方法としては、特に制限はなく、塊状重合、溶液重合、懸濁重合、分散重合、またはエマルジョン重合等の公知の方法を採用することができるが、通常は溶液重合が行われる。
共重合時の単量体成分の仕込み方法としては特に制限されず、一括仕込み、分割仕込み、連続仕込み等任意の方法が採用される。
かかる共重合で用いられる溶媒としては、通常、メタノール、エタノール、イソプロピルアルコール、n-プロパノール、ブタノール等の低級アルコールやアセトン、メチルエチルケトン等のケトン類等が挙げられ、工業的には、炭素数1~3のアルコール、特にはメタノールが好適に使用される。
溶媒の使用量は、目的とする共重合体の重合度に合わせて、溶媒の連鎖移動定数を考慮して適宜選択すればよく、例えば、溶媒がメタノールの時は、S(溶媒)/M(単量体)=0.01~10(質量比)、好ましくは0.05~3(質量比)程度の範囲から選択される。
【0050】
共重合に当たっては重合触媒が用いられ、かかる重合触媒としては、例えばアゾビスイソブチロニトリル、過酸化アセチル、過酸化ベンゾイル、過酸化ラウリル等の公知のラジカル重合触媒やアゾビスジメチルバレロニトリル、アゾビスメトキシジメチルバレロニトリル等の低温活性ラジカル重合触媒等が挙げられる。重合触媒の使用量は、触媒の種類により異なり一概には決められないが、重合速度に応じて任意に選択される。例えば、アゾイソブチロニトリルや過酸化アセチルを用いる場合、ビニルエステル系単量体に対して0.01~1.0モル%が好ましく、特には0.02~0.5モル%が好ましい。
また、共重合反応の反応温度は、使用する溶媒や圧力により30℃~沸点程度で行われ、より具体的には、35~150℃、好ましくは40~75℃の範囲で行われる。
【0051】
得られた共重合体は、次いでケン化される。かかるケン化は、上記で得られた共重合体をアルコール又は含水アルコールに溶解し、アルカリ触媒又は酸触媒を用いて行われる。
アルコールとしては、例えば、メタノール、エタノール、プロパノール、tert-ブタノール等の低級アルコールが挙げられるが、中でも炭素数1~3のアルコール、特にはメタノールが好ましく用いられる。アルコール中の共重合体の濃度は、系の粘度により適宜選択されるが、通常は10~60質量%の範囲から選ばれる。ケン化に使用される触媒としては、例えば、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、ナトリウムメチラート、ナトリウムエチラート、カリウムメチラート、リチウムメチラート等のアルカリ金属の水酸化物やアルコラートの如きアルカリ触媒;硫酸、塩酸、硝酸、メタスルフォン酸、ゼオライト、カチオン交換樹脂等の酸触媒が挙げられる。
【0052】
かかるケン化触媒の使用量については、ケン化方法、目標とするケン化度等により適宜選択されるが、アルカリ触媒を使用する場合は通常、ビニルエステル単量体及びスルホン酸基等含有不飽和単量体の合計量1モルに対して0.1~30ミリモル、好ましくは2~15ミリモルの割合が適当である。
また、ケン化反応の反応温度は特に限定されないが、10~60℃(特には、20~50℃)であることが好ましい。
【0053】
以上のようにして、本発明で用いられる(A)スルホン酸基又はその塩含有基を有するPVA系樹脂が得られる。
なお、上記のようにして得られるスルホン酸基又はその塩含有基を有するPVA系樹脂には、合成時の副生成物として酢酸Naが含有されている。
酢酸ナトリウムの含有量は、(A)スルホン酸基又はその塩含有基を有するPVA系樹脂100重量部に対して0.1重量部以上、好ましくは0.3重量部以上、より好ましくは0.5重量部以上であり、2.0重量部以下、好ましくは1.5重量部以下である。この程度の酢酸ナトリウムが存在することは、フィラメント溶融時に接触部分が軽度に分解することにより、モデル材(材料)との接着性を向上できるので好ましい。すなわち、酢酸ナトリウム量が少なすぎると、モデル材(材料)との接着性が低下する傾向にある。一方、酢酸ナトリウムの含有量が多くなりすぎると、PVA系樹脂の熱安定性が低下する傾向にあり、積層造形中に、高温状態にあるモデル材材料の積層造形物に接する部分において、サポート材が変質したり、熱劣化しやすくなり、ひいてはサポート材が分解発泡したりする場合もある。
【0054】
(B)生分解性ポリエステル
本発明で用いられる生分解性ポリエステルとは、ISO14851、ISO14855、ISO 9408、ISO 9439、ISO 10707、JIS K 6950、JIS K 6951、JIS K 6953又は、JIS K 6955のいずれかで規定する生分解性を充足するポリエステル系樹脂をいう。
【0055】
生分解性を充足できるポリエステル系樹脂としては、(11)式で表される脂肪族ジオ-ル単位と(12)式で表される脂肪族ジカルボン酸単位を必須構成成分として含み、さらに生分解性、機械的特性、溶融成形性など、所望とする特性に応じて、(13)式で表される芳香族ジカルボン酸単位や(14)式で表されるヒドロキシカルボン酸由来の単位を含んでいる。
【0056】
【化11】

【化12】
【化13】
【化14】
【0057】
(11)式、(12)式、(14)式において、p、q、rは、それぞれ独立して2~10、好ましくは2~6の整数である。また、(13)式中、Arは芳香環を示す。
【0058】
(11)式に由来する脂肪族ジオールとしては、炭素数が通常2以上10以下のものであり、例えば、エチレングリコール、1,3-プロパンジオール、1,4-ブタンジオール、1,4-シクロヘキサンジメタノール等が挙げられる。中でも、炭素数2以上4以下のジオールが好ましく、エチレングリコール、1,4-ブタンジオールがより好ましく、1,4-ブタンジオールが特に好ましい。
【0059】
(12)式に由来する脂肪族ジカルボン酸としては、炭素数が通常2以上10以下のものであり、例えば、コハク酸、アジピン酸、スベリン酸、セバシン酸、ドデカン二酸等が挙げられる。中でも、アジピン酸が好ましい。
【0060】
(13)式に由来する芳香族ジカルボン酸としては、例えば、テレフタル酸、イソフタル酸、ナフタレンジカルボン酸等が挙げられ、中でも、テレフタル酸、イソフタル酸が好ましく、テレフタル酸が特に好ましい。また、芳香環の一部がスルホン酸塩で置換されている芳香族ジカルボン酸も挙げられる。
【0061】
(14)式に由来するヒドロキシカルボン酸としては、例えば、4-ヒドロキシ酪酸、5-ヒドロキシ吉草酸、6-ヒドロキシヘキサン酸などが挙げられる。
【0062】
本発明で用いられる(B)生分解性ポリエステルは、構成単位となる脂肪族ジオール単位、脂肪族ジカルボン酸単位、芳香族ジカルボン酸単位は、各々1種類に限定されず、異なる複数種類が含まれていてもよい。
また、生分解性を損なわない範囲であれば、上記ジオール単位、ジカルボン酸単位の他、q、rが2未満のジカルボン酸単位、例えば、シュウ酸、マロン酸、グリコール酸、乳酸などに由来する構造単位が含有されていてもよい。
【0063】
本発明で用いられる(B)生分解性ポリエステルの具体例としては、1,4-ブタンジオールを基本構成単位とするポリブチレンサクシネート(PBS)、ポリブチレンサクシネートアジペート(PBSA)、ポリブチレンサクシネートラクテート(PBSL)、ポリブチレンアジペートテレフタレート(PBAT)、ポリエチレンサクシネート(PES)などが挙げられる。
【0064】
市販品を用いてもよく、例えば、アジピン酸/テレフタル酸と1,4-ブタンジオールの縮重合物を主成分とするBASF社製「エコフレックス」(商品名)、コハク酸/1,4-ブタンジオール/乳酸の縮重合物を主成分とする三菱化学社製「GS-PLA」、この他、昭和高分子社製のビオノーレ(商品名)、日本触媒社製のルナーレ(商品名)、デュポン社のBiomax(登録商標)、イーストマンケミカル社のEasterBio(登録商標)などが挙げられる。
【0065】
本発明で用いる(B)生分解性ポリエステルとしては、ジカルボン酸単位のうち、脂肪族ジカルボン酸単位の含有割合が40~80モル%、好ましくは50~70モル%である生分解性ポリエステルが好ましい。
ジカルボン酸単位としては、脂肪族ジカルボ酸単位、芳香族ジカルボン酸単位が含まれるが、脂肪族ジカルボン酸単位の割合を上記範囲とすることで、機械的強度、特に柔軟性、引裂強度、耐衝撃性が高まることから、フィラメント状サポート材に用いる(B)生分解性ポリエステルとして好ましい。
【0066】
(B)生分解性ポリエステルのメルトフローレート(MFR)は、190℃、2.16kg荷重で測定した場合、通常1.0g/10分以上、好ましくは2.0g/10分以上であり、最も好ましくは3.0g/10分以上、上限が通常6.0g/10分以下、好ましくは5.0g/10分以下、さらに好ましくは4.0g/10分以下である。MFRが1.0g/10分より小さいと溶融時の流動性が劣るため、サポート材の積層造形時の造形スピードと、モデル材材料の造形スピードとの関係から好ましくない。一方、MFRが6.0g/10分より大きいとサポート材としてオリフィスからの垂れが生じやすくなる。
【0067】
(B)生分解性ポリエステルの重量平均分子量は、通常5000~50000であり、好ましくは5500~40000、特に好ましくは6000~30000である。重量平均分子量が大きすぎると溶融粘度が高くなり、溶融混練によりフィラメント状のサポート材を形成する場合、フィラメントの線形振れが生じ、線径が安定しない傾向がある。一方、重量平均分子量が小さすぎると、溶融混練によるフィラメントの製造時に、フィラメント表面に(B)生分解性ポリエステルが排斥され、サポート材の水溶解除去時に鞘状不溶解物が残留し、当該残留物がモデル材に付着したり、排水処理の際に目詰まりとなったりすることがある。
【0068】
サポート材中の(B)生分解性ポリエステルの含有量としては、(A)PVA系樹脂100重量部に対して、5~100重量部であることが好ましく、より好ましくは、10~60重量部、さらに好ましくは20~50重量部である。(B)生分解性ポリエステルの含有割合が少なすぎると、サポート材としてのフィラメントの柔軟性が低下し、造形時にフィラメントが折れやすくなり、積層造形時に積層造形物との接着性が低下する傾向がある。一方、(B)生分解性ポリエステルの含有割合が多くなりすぎると、水溶解性が低下するだけでなく、(A)スルホン酸基又はその塩含有基を有するPVA系樹脂を海成分とする海島構造の形成が困難となり、また、(A)スルホン酸基又はその塩含有基を有するPVA系樹脂を海成分とする海島構造において、(B)生分解性ポリエステルの微分散が困難になる傾向がある。これらの現象は、サポート材を水洗除去する場合に、水洗により生じた廃液処理が問題となる。
【0069】
(C)他の成分
(C-1)他のPVA系樹脂
本発明のサポート材に含有されるPVA系樹脂として、生分解性ポリエステル(B)との相溶性を損なわない範囲内(具体的にはPVA系樹脂全体の30重量%以下、好ましくは10重量%以下)であれば、(A)スルホン酸基又はその塩含有基を有するPVA系樹脂以外のPVA系樹脂、例えば、未変性PVA系樹脂、他の変性PVA系樹脂などが含まれていてもよい。
【0070】
(C-2)フィラー
本発明のサポート材には、サポート材の強度の点からフィラーを配合しても良い。フィラーとしては生分解性であることが好ましい。生分解性フィラーとしては、例えば、デンプン、セルロース、生分解性プラスチック等が挙げられる。かかるフィラーの平均粒子径としては通常0.1~50μm、更には5~30μm、特には10~20μmが好ましい。小さすぎると樹脂への練り込みが困難となる傾向があり、大きすぎると表面荒れや強度の低下の原因となるだけでなく、水洗除去により生成される廃液(PVA系樹脂水溶液)中に含まれるフィラーからなる分散質を、分離除去する必要がある。
なお、ここで言う平均粒子径とは、レーザー回折法で測定した粒子径D50を指す。
【0071】
フィラーの含有量としてはサポート材中に0.3~40重量%が好ましく、更には2~30重量%、特には5~10重量%が好ましい。少なすぎるとフィラー含有の効果が得られない傾向があり、多すぎるとサポート材表面の平滑性が低下したり、強度が低下する傾向がある。
【0072】
(C-3)その他の成分
本発明のサポート材には可塑剤が含有されてもよいが、成形安定性の点からは可塑剤の含有量は少ないことが好ましい。具体的には、20重量%以下、さらには10重量%以下、さらには1重量%以下、特には0.1重量%以下であることが好ましい。
上記成分以外に、酸化防止剤、着色剤、帯電防止剤、紫外線吸収剤、滑剤等の公知の添加剤、また他の熱可塑性樹脂を適宜配合してもよい。しかしながら、これらの添加剤は、本発明のサポート材の廃棄容易性、環境適合性を損なわないために、生分解性のものを用いることが好ましい。
【0073】
<積層造形用サポート材及びその製造方法>
本発明の積層造形用サポート材(以下、単にサポート材ということがある。)は、(A)スルホン酸基又はその塩含有基を有するPVA系樹脂と(B)生分解性ポリエステルを含有するものである。
【0074】
本発明のサポート材は、上記各成分を所定量添加し、二軸押出機にて加熱溶融状態で混練することにより、均一に混合されたペレット状の組成物として提供することができる。好ましくは、このペレット状組成物を単軸押出機により溶融混練し、フィラメント状に押出し、冷却後、リールに巻き取ったサポート材として提供される。
【0075】
具体的には、二軸押出機での溶融混練で得られたペレット状組成物を単軸押出機にて加熱溶融混練後、1穴もしくは多穴のストランドダイスから径1.5~3.0mmのフィラメント状に押出し、空冷により冷却固化した後、リールに巻き取った状態で提供される。このようなフィラメント状サポート材は、積層造形の際に、ヘッドから、目的とするモデル材材料とともに送りだして積層造形することができるので、便利である。フィラメント状サポート材の場合、リールの巻きつけ工程で破断しない程度の柔軟性と靭性、積層造形の際、ヘッドに遅滞なく送り出される程度の剛性が求められるが、本発明のサポート材は、これらの要件を満足することができる。
【0076】
以上のようにして得られる、本発明のサポート材は、(A)スルホン酸基又はその塩含有基を有するPVA系樹脂と(B)生分解性ポリエステルとが、一方がマトリックス、他方が当該マトリックス中に微分散した相分離構造をなしている。好ましくは(A)スルホン酸基又はその塩含有基を有するPVA系樹脂を海成分として、(B)生分解性ポリエステルが島成分として微分散した海島構造を有している。(B)生分解性ポリエステルドメインの粒子径は、以下の条件でのSEM(電子顕微鏡)による0.01mm×0.01mmの視野観察で、好ましくは90%以上、より好ましくは全てのドメインが通常、約0.05~2μm程度であり、好ましくは0.1μm~1.0μm、より好ましくは0.1~0.5μm範囲内にある。
【0077】
装置:JSM-6060LA(日本電子製)
加速電圧:5kV
スポットサイズ:30
ステージ角度:0degree
観察像:二次電子像
前処理:クロロホルムでエッチング(60℃×2hr)後、真空乾燥24時間
【0078】
〔積層造形物及び立体構造体の製造方法〕
本発明の積層造形物は、本発明のサポート材を用いて、所望の形状を有する立体構造体(モデル材)を積層造形する際に得られる積層造形物であり、サポート材とモデル材とが一体的に構成されたものである。
【0079】
本発明の立体構造体の製造方法は、本発明のサポート材を用いて、所望の形状を有する立体構造体(モデル材)の製造方法であり、本発明の積層造形用サポート材及びモデル材材料を、溶融状態で積層、固化して積層造形物を作製する工程;並びに前記積層造形物を、水と接触させる工程を含む。
【0080】
本発明のサポート材を適用できるモデル材の構成材料(熱可塑性樹脂)としては、ポリ乳酸(PLA)、アクリロニトリル-ブタジエン-スチレンコポリマー(ABS)、ポリアミド(PA)、ポリカーボネート(PC)、ポリエチレンテレフタレート(PET)、グリコール変性ポリエチレンテレフタレート(PETG)、ポリヒドロキシアルカノエート(PHA)、木材充填複合材料、金属充填複合材料、炭素繊維充填複合材料、ポリビニルブチラール(PVB)、熱可塑性エラストマー(TPE)、熱可塑性ポリウレタン(TPU)、ポリオレフィン、ポリプロピレン(PP)、アクリロニトリルスチレンアクリレート(ASA)、ポリアクリレート、ポリメタクリレート、ポリスチレン(PS)、ポリオキシメチレン(POM)、及びこれらの混合物などが挙げられる。
本発明のサポート材は、特に、PLA、ABS、PA、PETG、PCとの接着性に優れていることから、これらのモデル材のサポート材として、特に優れている。
【0081】
本発明の立体構造体の製造方法において、積層造形物を作製する工程を実施する積層造形装置としては、モデル材材料とサポート材を、それぞれ熱溶融状態で押し出すことができるヘッドを複数個有する熱溶融積層造形タイプの積層造形装置であればよい。例えば、フラッシュフォージ社製クリエイト、レイズ・エンタープライズ社製Eagleed、3Dシステムズ社製MBot Grid II、Ninjabot社製NJB-200W、Airwolf社製EVO等のデュアルヘッドタイプのFDM型積層造形装置に適用することができる。
【0082】
熱溶融積層造形型プリンターの場合、上記のような構成材料で構成されるモデル材は、通常、サポート材と同様に、ストランド状又はフィラメント状に成形され、リールに巻かれた状態で提供される。モデル材材料とサポート材のストランド又はフィラメントは積層造形装置の別々のヘッドに供給され、ヘッド部で加熱溶解され、ステージ上に押し付けられる様に積層されていく。
【0083】
ヘッド部での溶融温度は通常150~300℃で、200~1000psiの圧力で押出され、積層ピッチは通常100~350μmである。
【0084】
溶融押出しされたサポート材及びモデル材材料は、順次冷却により固化され、その上を新たに溶融押し出しされたサポート材及びモデル材が積層・固化されることで、目的とするモデル材を含む積層造形物が形成される。
【0085】
積層造形物を水と接触させる工程は、立体形状を有するサポート材とモデル材とから構成される積層造形物から、サポート材を水洗除去する工程となる。サポート材の水洗除去方法としては、容器に入れた水又は温水に浸漬しても良いし、流水で洗い流しても良い。浸漬する場合、除去時間を短縮する為に攪拌したり、超音波を与えてもよい。水温は25~80℃程度が好ましい。溶解除去にはサポート材の重量に対し、10~10000倍程度の水もしくは温水が使用される。
積層造形物から、サポート材を除去することで、複雑な立体構造を有するモデル材(立体構造体)が得られる。
【0086】
水洗除去により生じた廃水(PVA系樹脂水溶液)には、水不溶性成分である(B)生分解性ポリエステルが分散質として微分散している。しかしながら、水洗除去により生成される廃水(PVA系樹脂水溶液)は、(B)生分解性ポリエステルが平均粒子径0.1~5μm、好ましくは0.2~2μmで分散している懸濁液程度である。したがって、特段分離処理をしなくても、そのまま廃棄(排水)することが可能である。排水することができるので、水洗除去方法として、比較的多量の水(温水)を使用する流水による水洗除去を好ましく採用できる。
【実施例
【0087】
以下、実施例をあげて本発明を更に具体的に説明するが、本発明はその要旨を超えない限り以下の実施例に限定されるものではない。なお、例中、「部」は、重量基準を意味する。
【0088】
〔測定評価方法〕
1.変性PVA系樹脂の特性
(1)ケン化度
残存酢酸ビニル単位の加水分解に要するアルカリ消費量の分析により求めた。側鎖1,2-ジオール変性PVA系樹脂の場合には、残存酢酸ビニル単位及び3,4-ジアセトキシ―1-ブテンの構造単位の加水分解に要するアルカリ消費量の分析により求めた。
【0089】
(2)重合度
JIS K6726に準じて測定した20℃における4%水溶液粘度(mPa・s)から算出される数平均重合度で表す。
【0090】
(3)変性度
変性基(スルホン酸基又はその塩含有基を有する構造単位の量、または側鎖1,2-ジオール含有基の量)を、H-NMR(300MHzプロトンNMR、d6-DMSO溶液、内部標準物質;テトラメチルシラン、50℃)にて測定した積分値より算出した。
【0091】
2.サポート材の特性
(1)(B)生分解性ポリエステルドメインの粒子径
作成したサポート材を、下記条件でSEM(0.01mm×0.01mm視野)で観察し、(B)生分解性ポリエステルドメイン(PBATドメイン)の粒子径を測定した。
装置:JSM-6060LA(日本電子製)
加速電圧:5kV
スポットサイズ:30
ステージ角度:0degree
観察像:二次電子像
前処理:クロロホルムでエッチング(60℃×2hr)後、真空乾燥24時間
【0092】
(2)線径安定性
作成したフィラメント状サポート材(直径2.85mm)について、長さ方向1m間隔で15箇所測定したフィラメントの直径を、所定直径2.85mmからの偏差で示す。偏差が小さい程、線径安定性に優れている。
【0093】
3.モデル材との接着性
モデル材材料として、ポリ乳酸(PLA)、ABS樹脂(ABS)、ポリアミド(PA)、グリコール変性ポリエチレンテレフタレート(PETG)、ポリカーボネート(PC)を使用し、これらのフィラメント状サポート材との接着性を以下のようにして評価した。
FDM型デュアルヘッド3Dプリンター(Airwolf3D社製EVO)に上記で得られたサポート材と上記4種類のモデル材材料のフィラメントをノズルヘッドにセットして、図1に示す積層造形物を造形した。図1中、1はサポート材からなる造形物であり、2はモデル材材料で造形されたL字状モデル材である。この積層造形物の造形状況を観察し、造形されたサポート材からなる造形物上にモデル材が積層される面(α面)及び造形されたモデル材上にサポート材を積層する面(β面)にて、サポート材の造形物とモデル材とを手で引き剥がすことにより、各面での接着性を評価した。
接着性の評価は、下記基準A,B,Cで評価した。手で剥がれる程度の接着性では、造形スピードを上げた場合に、積層造形をうまくできない場合がある。
【0094】
A:積層造形可能であり、造形後、手で引き剥がすことができない
B:積層造形可能であり、造形後、手で容易に引き剥がせる
C:積層造形が困難
【0095】
4.洗浄除去性
(1)水溶解性(完溶時間)
作成したサポート材を長さ2mmにカッティングして得られたカッティング物5gを、90メッシュの金網籠の中に入れる。その金網籠を40℃、500mlの撹拌下(300rpm)の湯浴に浸漬し、金網籠上のペレットが溶解消滅するまでの時間(完溶時間:分)を測定する。完溶時間が短いほど、水溶性に優れている。
(2)凝集物の発生
水溶解性試験で用いた金網上に、2時間経過後も不溶解物として、凝集物が残っている場合には発生有とし、金網上に凝集物が目視で確認できなかった場合には発生無として評価した。
【0096】
〔変性PVA系樹脂の製造〕
(1)スルホン酸基又はその塩含有基を有するPVA系樹脂1(以下「スルホン酸変性PVA系樹脂1」と称する)
還流冷却器、滴下漏斗、撹拌機を備えた反応缶に、酢酸ビニル1000重量部、メタノール422重量部、アリルスルホン酸ナトリウム62重量部(酢酸ビニルに対して3.7モル%、塩素含有量0.26%)を仕込み、アゾビスイソブチロニトリルを0.072モル%(対仕込み酢酸ビニル)投入し、撹拌しながら窒素気流下で温度を上昇させ、還流させながら重合を行った。
【0097】
重合途中、アゾビスイソブチロニトリルを0.072モル%(対仕込み酢酸ビニル)ずつ4回投入し、酢酸ビニルの重合率が96.4%となった時点で、m-ジニトロベンゼン0.1重量部を添加して重合を終了した。続いて、メタノール蒸気を吹き込む方法により未反応の酢酸ビニルモノマーを系外に除去し共重合体のメタノール溶液を得た。
得られた共重合体のメタノール溶液を、メタノールで希釈して濃度55%に調整してニーダーに仕込んだ。溶液温度を35℃に保ちながら、水酸化ナトリウムのメタノール溶液(ナトリウム濃度で2%)を、共重合体中の酢酸ビニル構造単位1モルに対して8ミリモルとなる割合で加えてケン化を行った。ケン化が進行すると共にケン化物が析出し、粒子状となった時点で、濾別した。得られた粒子をメタノールでよく洗浄した後、熱風乾燥機中で乾燥することにより、スルホン酸基又はその塩含有基を有するPVA系樹脂と塩素を含有する樹脂組成物を得た。酢酸ナトリウムの含有量は、スルホン酸基又はその塩含有基を有するPVA系樹脂100重量部に対して、1.3部であった。
【0098】
得られたスルホン酸変性PVA系樹脂1のケン化度は87.3モル%であり、数平均重合度は250であり、スルホン酸基又はその塩含有基を有する構造単位の量(変性量)は2.7モル%であった。
【0099】
(2)スルホン酸基又はその塩含有基を有するPVA系樹脂2,3,4,5(以下「スルホン酸変性PVA系樹脂2,3,4,5」と称する)
スルホン酸変性PVA系樹脂1の製造において、添加したアリルスルホン酸ナトリウムの仕込み量、重合時間、得られたスルホン酸基又はその塩含有基を有するPVA系樹脂のメタノールでの洗浄時間を変更することにより、変性率、重合度、樹脂中に含まれる酢酸ナトリウム量が異なる、下記スルホン酸変性PVA系樹脂2、3、4、5を得た。
スルホン酸変性PVA系樹脂2
変性率:1.6モル%、数平均重合度:370、PVA系樹脂100部あたりの酢酸ナトリウム含有量:0.9部
スルホン酸変性PVA系樹脂3
変性率:1.1モル%、数平均重合度:370、PVA系樹脂100部あたりの酢酸ナトリウム含有量:0.9部
スルホン酸変性PVA系樹脂4
変性率:1.1モル%、数平均重合度:370、PVA系樹脂100部あたりの酢酸ナトリウム含有量:0.2部
スルホン酸変性PVA系樹脂5
変性率:0.3モル%、数平均重合度:370、PVA系樹脂100部あたりの酢酸ナトリウム含有量:0.8部
【0100】
(3)側鎖1,2-ジオール変性PVA系樹脂
還流冷却器、滴下漏斗、撹拌機を備えた反応缶に、酢酸ビニル85部(全体の10%を初期仕込み)、メタノール460部、及び3,4-ジアセトキシ-1-ブテン7.6部を仕込み、アゾビスイソブチロニトリルを0.32部投入し、撹拌しながら窒素気流下で温度を上昇させ、重合を開始した。さらに、重合開始0.5時間後に酢酸ビニル765部を8時間滴下(滴下速度95.6部/hr)した。重合開始から2.5時間目と4.5時間目にアゾビスイソブチロニトリルを0.2部ずつ追加し、酢酸ビニルの重合率が85%となった時点で、m-ジニトロベンゼンを所定量添加して重合を終了し、続いて、メタノール蒸気を吹き込みつつ蒸留することで未反応の酢酸ビニルモノマーを系外に除去し共重合体のメタノール溶液を得た。
【0101】
ついで、上記溶液をメタノールで希釈し、固形分濃度を50%に調整して、かかるメタノール溶液をニーダーに仕込み、溶液温度を35℃に保ちながら、水酸化ナトリウム中のナトリウム分2%メタノール溶液を共重合体中の酢酸ビニル構造単位及び3,4-ジアセトキシ-1-ブテン構造単位の合計量1モルに対して9ミリモルとなる割合で加えてケン化を行った。ケン化が進行すると共にケン化物が析出し、粒子状となった時点で、さらに2%メタノール溶液を酢酸ビニル構造単位及び3,4-ジアセトキシ-1-ブテン構造単位の合計量1モルに対して4ミリモル追加しケン化を行った。その後、中和用の酢酸を水酸化ナトリウムの0.8当量を添加し、濾別し、メタノールでよく洗浄して熱風乾燥機中で乾燥し、側鎖に1,2-ジオール構造を有するPVA系樹脂(側鎖1,2-ジオール変性PVA系樹脂)を得た。酢酸ナトリウムの含有量は、側鎖1,2-ジオール変性PVA系樹脂100重量部に対して、1.3部であった。
【0102】
得られた側鎖1,2-ジオール変性PVA系樹脂のケン化度は86モル%、数平均重合度は380、側鎖1,2-ジオール構造単位の含有量は4モル%であった。
【0103】
〔サポート材の作製〕
サポート材No.1-6:
上記で製造したスルホン酸変性PVA系樹脂1―5のいずれか100部と、(B)生分解性ポリエステルとしてPBAT(BASF社製「Ecoflex C1200」)を、表1に示す割合で混合した。得られたブレンド物を、二軸押出機に供給し、ペレット状組成物を得た。当該ペレットを下記単軸押出機を用いて溶融混練し、直径2.85mmのフィラメント状に押出して、ベルト上で空冷し、リールに巻き取ってフィラメント状サポート材を得た。
単軸押出機:テクノベル社製SZW20GT-24MG-STD 20mmφ L/D=24
押出温度:C1/C2/C3/H/D=190/210/220/220/220℃
回転数:40rpm
吐出量:1.0kg/hr
【0104】
サポート材No.7,8:
上記で合成した側鎖1,2-ジオール含有PVA系樹脂100部と、表1に示す割合で生分解性ポリエステル(BASF社製「Ecoflex C1200」)とをドライブレンドし、ブレンド物をサポート材No.1と同様にしてフィラメント状のサポート材を作成した。
【0105】
上記で作成したサポート材No.1-8について、上記測定評価方法に基づき、(B)生分解性ポリエステルの分散性(PBATドメインの粒子径)、線径安定性、モデル材との接着性、水洗除去性を測定・評価した。結果を表2に示す。
【0106】
【表1】
【0107】
【表2】
【0108】
表2からわかるように、変性PVA系樹脂としてスルホン酸基又はその塩含有基を有するPVA系樹脂(以下「スルホン酸変性PVA系樹脂」と略記)を用いたサポート材(No.1-6)は、側鎖1,2-ジオール変性PVA樹脂を用いたサポート材(No.7、8)と比べて、生分解性ポリエステルの分散状態が微分散であった。そして、水洗除去性については、スルホン酸変性PVA系樹脂を用いたサポート材(No.1-5)では、凝集物の発生がなく、側鎖1,2-ジオール変性PVA系樹脂を用いたサポート材(No.7,8)と比べて完溶時間も短かった。
なお、スルホン酸変性PVA系樹脂の変性度が0.3モル%の場合(No.6)、スルホン酸変性の効果が不十分で、所望の水洗除去性が得られにくかった。
【0109】
さらに、フィラメント状サポート材を作成する場合、材料として、スルホン酸変性PVA系樹脂を用いた方が、側鎖1,2-ジオール変性PVAを使用するよりも、線形安定性に優れたフィラメント状サポート材を提供できた(No.1-6とNo.7,8の比較)。
【0110】
また、モデル材との接着性については、側鎖1,2-ジオール変性PVA系樹脂を用いたサポート材(No.7,8)は、特にβ面について、ABS、PA、PETG、PCに対する接着性が劣っていて、対応できるモデル材が限定的であるのに対して、スルホン酸変性PVA系樹脂を用いたサポート材(No.1-5、特にNo.1-4)は、各種モデル材(PLA、ABS、PA、PETG、PC)に対して優れた接着性を有していて、汎用性に優れていた。このことは、スルホン酸変性PVA系樹脂を用いたサポート材は、積層造形可能なモデル材材料の適用範囲が広いことを意味する。
【0111】
No.3とNo.5との比較から、変性率、ケン化度、重合度が同じであっても、スルホン酸変性PVA系樹脂に含まれる酢酸ナトリウム量が少なくなりすぎると、α面とβ面で接着性の差異が認められた。複雑な形状のサポート材として利用する場合には、PVA系樹脂100重量部あたり、酢酸ナトリウム0.5~2.0重量部となるように調節することが好ましいことがわかる。
【産業上の利用可能性】
【0112】
本発明の積層造形用サポート材は、水溶解性に優れ、不溶解分としての残留物サイズが極めて小さく、且つ生分解性を有しているので、そのまま排水することができる。したがって、積層造形後の水洗除去、水洗除去後の廃液処理が簡便であり、環境にも優しいので、一時的に成形され、廃棄されるサポート材として有用である。
また、種々の材料に対して優れた接着性を示すので、サポート材としての汎用性にも優れている。


図1