(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2025-03-26
(45)【発行日】2025-04-03
(54)【発明の名称】SiO2含有物硬化体の製造方法
(51)【国際特許分類】
C04B 28/00 20060101AFI20250327BHJP
C01B 33/12 20060101ALI20250327BHJP
C04B 24/02 20060101ALI20250327BHJP
C04B 22/06 20060101ALI20250327BHJP
C04B 22/08 20060101ALI20250327BHJP
【FI】
C04B28/00
C01B33/12 Z
C04B24/02
C04B22/06 Z
C04B22/08 Z
(21)【出願番号】P 2020022098
(22)【出願日】2020-02-13
【審査請求日】2022-12-21
(73)【特許権者】
【識別番号】504137912
【氏名又は名称】国立大学法人 東京大学
(74)【代理人】
【識別番号】100114188
【氏名又は名称】小野 誠
(74)【代理人】
【識別番号】100119253
【氏名又は名称】金山 賢教
(74)【代理人】
【識別番号】100124855
【氏名又は名称】坪倉 道明
(74)【代理人】
【識別番号】100129713
【氏名又は名称】重森 一輝
(74)【代理人】
【識別番号】100137213
【氏名又は名称】安藤 健司
(74)【代理人】
【識別番号】100143823
【氏名又は名称】市川 英彦
(74)【代理人】
【識別番号】100183519
【氏名又は名称】櫻田 芳恵
(74)【代理人】
【識別番号】100196483
【氏名又は名称】川嵜 洋祐
(74)【代理人】
【識別番号】100203035
【氏名又は名称】五味渕 琢也
(74)【代理人】
【識別番号】100185959
【氏名又は名称】今藤 敏和
(74)【代理人】
【識別番号】100160749
【氏名又は名称】飯野 陽一
(74)【代理人】
【識別番号】100160255
【氏名又は名称】市川 祐輔
(74)【代理人】
【識別番号】100202267
【氏名又は名称】森山 正浩
(74)【代理人】
【識別番号】100146318
【氏名又は名称】岩瀬 吉和
(74)【代理人】
【識別番号】100127812
【氏名又は名称】城山 康文
(72)【発明者】
【氏名】酒井 雄也
【審査官】小川 武
(56)【参考文献】
【文献】特開2019-119736(JP,A)
【文献】特開2018-149538(JP,A)
【文献】特開2002-316882(JP,A)
【文献】特開2017-114707(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C04B 7/00-28/36
C01B 33/12
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
SiO
2含有物硬化体の製造方法であって
a)SiO
2を含有する原料と、アルコール化合物と、アルカリ金属化合物とを混合する工程、
b)工程a)で得られる混合物を加熱処理することで、SiO
2含有物硬化体を生成させる工程(ただし、工程a)で得られる混合物から
モレキュラーシーブ又は有機脱水剤を用いて水分
を除去する処理を含む工程を除く)、及び
c)工程b)で生成したSiO
2含有物硬化体を分離する工程
を含み、
前記工程a)において、前記アルカリ金属化合物が、前記SiO
2を含有する原料の100重量部に対して13~20重量部であり、
前記アルカリ金属化合物が、水酸化カリウム、水酸化ナトリウム、炭酸ナトリウム、又は炭酸カリウムであり、
前記SiO
2含有物硬化体が、前記
SiO
2
を含有する原料の表面に存在するSiO
2成分が互いに結合し、前記
SiO
2
を含有する原料同士が直接接合した構造を有する集合体である、
該製造方法。
【請求項2】
前記SiO
2を含有する原料が、前記アルコール化合物の100重量部に対して1~50重量部である、請求項1に記載の製造方法。
【請求項3】
前記工程b)の加熱処理が、100~300℃の範囲で行われる、請求項1又は2に記載の製造方法。
【請求項4】
前記SiO
2を含有する原料が、1μm~10cmの範囲の粒径を有する粒子形状を有する、請求項1~3のいずれか1に記載の製造方法。
【請求項5】
前記SiO
2を含有する原料が、ケイ石、ケイ砂、ケイ藻土、石英、又はシリカを含む、請求項1~4のいずれか1に記載の製造方法。
【請求項6】
前記SiO
2を含有する原料が、砂利又は砂である、請求項1~5のいずれか1に記載の製造方法。
【請求項7】
前記アルコール化合物が、エタノール又はメタノールである、請求項1~6のいずれか1に記載の製造方法。
【請求項8】
前記工程a)において、塩基性溶液又は非プロトン性有機溶媒をさらに添加することを含む、請求項1~7のいずれか1に記載の製造方法。
【請求項9】
前記工程b)において、前記混合物中の固形成分を機械的応力によりプレスすることを更に含む、請求項1~8のいずれか1に記載の製造方法。
【請求項10】
前記工程c)において分離されたSiO
2含有物硬化体に対して、加熱乾燥処理を行うことを含む、請求項1~9のいずれか1に記載の製造方法。
【請求項11】
請求項1~10のいずれか1に記載のSiO
2含有物硬化体の製造方法に用いるための組成物であって、アルコール化合物と、アルカリ金属化合物とを含む、組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、砂や砂利などのSiO2含有物から効率的に硬化体を得る方法に関する。
【背景技術】
【0002】
コンクリートは世界で最も広く使用されている建設材料である。コンクリートの主材料としてセメントが用いられているが、その製造時に多くの二酸化炭素を排出するという問題があった。また、セメントの主原料である石灰石の可採年数が、わが国では短ければ数十年、長くても百数十年程度と見積もられている。中国やインド、米国などの大量にコンクリートを製造する他国においても同様の可採年数であることから、輸入による対応には限界がある。
【0003】
そのため、コンクリートに代わる、セメントを使用しない建設材料の開発が喫緊の課題となっている(例えば、特許文献1など)。代替材料に求められる条件としては、原料がほぼ無限に入手可能であることや、繰り返し使用可能であることが挙げられる。この点、地球上でもっとも多い材料は、ケイ素を主成分とする砂や砂利であり、これらから直接建設材料を製造することができれば、有力なコンクリート代替材料となると考えられる。しかしながら、実用に耐え得るコンクリート代替物は十分に実現していないのが現状である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
そこで、本発明は、製造過程で多くの二酸化炭素を排出するセメントを用いることのない、コンクリート代替物を提供することを課題とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは、上記課題を解決するべく鋭意検討を行った結果、砂や砂利などに代表されるSiO2含有物を、アルコール化合物とアルカリ金属化合物又はアルカリ土類金属化合物中において高温処理することで、SiO2含有物同士が互いに直接接合した硬化体を効率的に得ることができることを新規に見出し、本発明を完成するに至った。
【0007】
すなわち、本発明は、一態様において
<1>SiO2含有物硬化体の製造方法であって、a)SiO2を含有する原料と、アルコール化合物と、アルカリ金属化合物又はアルカリ土類金属化合物とを混合する工程、b)工程a)で得られる混合物を加熱処理することで、SiO2含有物硬化体を生成させる工程、及びc)工程b)で生成したSiO2含有物硬化体を分離する工程を含む、該製造方法;
<2>前記SiO2を含有する原料が、前記アルコール化合物の100重量部に対して1~50重量部である、上記<1>に記載の製造方法;
<3>前記アルカリ金属化合物又はアルカリ土類金属化合物が、前記SiO2を含有する原料の100重量部に対して1~20重量部である、上記<1>又は<2>に記載の製造方法;
<4>前記工程b)の加熱処理が、100~300℃の範囲で行われる、上記<1>~<3>のいずれか1に記載の製造方法;
<5>前記SiO2を含有する原料が、1μm~10cmの範囲の粒径を有する粒子形状を有する、上記<1>~<4>のいずれか1に記載の製造方法;
<6>前記SiO2を含有する原料が、ケイ石、ケイ砂、ケイ藻土、石英、又はシリカを含む、上記<1>~<5>のいずれか1に記載の製造方法;
<7>前記SiO2を含有する原料が、砂利又は砂である、上記<1>~<6>のいずれか1に記載の製造方法;
<8>前記アルコール化合物が、エタノール又はメタノールである、上記<1>~<7>のいずれか1に記載の製造方法;
<9>前記アルカリ金属化合物が、アルカリ金属の水酸化物、ハロゲン化物、硫酸塩、炭酸塩、及び炭酸水素塩よりなる群から選択される少なくとも1種である、上記<1>~<8>のいずれか1に記載の製造方法;
<10>前記工程a)において、塩基性溶液又は非プロトン性有機溶媒をさらに添加することを含む、上記<1>~<9>のいずれか1に記載の製造方法;
<11>前記工程b)において、前記混合物中の固形成分をプレスすることを更に含む、上記<1>~<10>のいずれか1に記載の製造方法;
<12>前記工程c)において分離されたSiO2含有物硬化体に対して、加熱乾燥処理を行うことを含む、上記<1>~<11>のいずれか1に記載の製造方法
を提供するものである。
【0008】
また、別の態様において、本発明は、SiO2含有物の処理方法及び処理剤にも関し、具体的には、
<13>SiO2含有物の処理方法であって、A)SiO2含有物と、アルコール化合物と、アルカリ金属化合物又はアルカリ土類金属化合物とを混合する工程、及びB)工程A)で得られる混合物を加熱処理する工程を含む、該処理方法;
<14>前記SiO2含有物が、1μm~10cmの範囲の粒径を有する砂利又は砂である、上記<13>に記載の処理方法;
<15>アルコール化合物と、アルカリ金属化合物又はアルカリ土類金属化合物とを含む、SiO2含有物用処理剤;及び
<16>前記SiO2含有物が、1μm~10cmの範囲の粒径を有する砂利又は砂である、上記<15>に記載の処理剤
に関する。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、製造過程で多くの二酸化炭素を排出するセメントを用いることなく、SiO2含有物が互いに直接接合した硬化体を得ることができ、新規なコンクリート代替物等を低コストかつ効率的に提供することができる。本発明の硬化体は、砂や砂利などの幅広いSiO2含有物を原料として用いることができ、地球上でほぼ無限に手に入る材料であって不足を心配する必要がない。さらに、砂や砂利は月面や火星でも容易に入手可能であることから、宇宙開発でも活用が期待できる。
【0010】
また、本発明の硬化体は、従来のセメントペーストを用いずに硬化させるものであるため、例えば、以下の利点を有する。
・乾湿による体積変化が小さい;
・クリープ変化が小さい;
・水や酸によって生じるカルシウム溶出に起因する劣化を抑制できる;
・アルカリ骨材反応(アルカリ環境下における骨材の膨張現象)による劣化を抑制できる;
・強度発現に要する時間を短縮できる(通常のコンクリートでは1か月程度であるのに対し、本発明では24時間程度でも可能);
・製造工程で用いるアルカリ金属化合物は触媒であるため、繰り返し利用が可能である。
・製造工程で用いるアルコール化合物も、高温処理後は元に戻るため繰り返し可能である
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図1】
図1は、実施例で用いた圧力反応容器を示す画像である。
【
図2】
図2は、実施例で得られた本発明の硬化体の画像である。
【
図3】
図3は、13.8%KOH/シリカ(シリカ砂 6g;KOH 0.83g)で24時間加熱の条件で得られた硬化体の画像である。
【
図4】
図4は、16.5%KOH/シリカ(シリカ砂 6g;KOH 1g)で24時間加熱の条件で得られた硬化体の画像である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明の実施形態について説明する。本発明の範囲はこれらの説明に拘束されることはなく、以下の例示以外についても、本発明の趣旨を損なわない範囲で適宜変更し実施することができる。
【0013】
1.本発明の硬化体の製造方法
本発明の製造方法は、SiO2含有物の硬化体を製造するものであって、以下のa)~c)の工程を含むことを特徴とする。
a)SiO2を含有する原料と、アルコール化合物と、アルカリ金属化合物又はアルカリ土類金属化合物とを混合する工程;
b)工程a)で得られる混合物を加熱処理することで、SiO2含有物硬化体を生成させる工程;及び
c)工程b)で生成したSiO2含有物硬化体を分離する工程。
【0014】
必ずしも理論に拘束されるものではないが、本発明の製造方法においてSiO
2含有物硬化体が得られる機構としては以下のものであると推測される。深谷らは、砂(SiO
2含有物)をアルコールで分解して脱水することで、有機ケイ素化合物であるテトラアルコキシシランが得られることを報告している(Chemistry Letters 2016 45:7, 828-830)。この反応は、以下の反応式(1)で表される。
【数1】
【0015】
深谷らの論文では、反応生成物の水(H2O)を除去することで、反応式の平衡を右側に移動させ、テトラアルコキシシラン(Si(OR)4)の効率的な生成を行っている。ここで、式(1)は可逆的な平衡反応であるため、当該反応では、SiO2の化学結合の切断と再生が繰り返し生じているものと解釈することができる。本発明では、この点に着目し、SiO2含有物に上記反応式(1)を適用し、いったんテトラアルコキシシランが生成した後に、左辺のSiO2を再度生成させることにより、SiO2含有物の表面等に存在するSiO2成分が互いに結合し、SiO2含有物同士が直接接合した集合体(硬化体)が得られることを利用したものである。
【0016】
また、別の観点では、SiO2は、ゾル-ゲル反応によってシリカ多孔体を生ずることが知られているところ、本発明は、SiO2含有物の表面のみがゾル化することにより、SiO2含有物同士が接合した硬化体が生成すると考えることも可能である。
【0017】
このように、本発明の製造方法は、SiO2含有物中のSiO2成分が上記反応式によりSiO2の化学結合の切断と再生を繰り返していることを利用し、SiO2含有物同士が直接接合した硬化体が得られることを見出し、かつ、実際に、かかる硬化体が得られることを見出した点に特徴を有するものといえる。
【0018】
本発明において、「SiO2含有物(又はSiO2を含有する原料)」とは、SiO2を一定程度含有する物質であれば特に限定されるものではないが、ケイ石、ケイ砂、ケイ藻土、石英等の天然鉱物、ケイ素含有植物の焼成灰、火山灰、ケイ酸塩類、シリカゾル由来のシリカゲル、ヒュームドシリカ、シリカアルミナ、ゼオライト、ガラス等の人工物を含む物質であることができる。好ましくは、ケイ石、ケイ砂、ケイ藻土、石英、シリカ、又はそれらの1種以上の組み合わせを含むものを挙げることができる。例えば、花崗岩や流紋岩などを含むこともできる。その入手容易性等の観点からは、典型的には、SiO2含有物は、砂利又は砂である。かかる砂利や砂は、コンクリートやモルタルを製造する際の骨材として用いられているものであることができる。
【0019】
また、本発明において用いられるSiO2を含有する原料(SiO2含有物)は、硬化反応の際の効率等の観点から、粒子形状或いは略粒子形状を有するものであることが好ましい。その際の粒径(平均粒径)は、1μ~10cmの範囲であることができ、好ましくは、10μ~5cmの範囲、より好ましくは、100μm~3cmの範囲であることができる。ただし、上述のようにSiO2含有物は、完全な粒子形状である必要はないため、いわゆる砂や砂利のように不均一な形状であってもよいため、ここでいう「粒径」とは、おおよそのサイズを表すものと理解されるべきである。
【0020】
上述のように、本発明の製造方法における工程a)は、SiO2含有物と、アルコール化合物と、アルカリ金属化合物又はアルカリ土類金属化合物とを混合する工程である。これにより、上記反応式(1)で示したような化学平衡状態を得ることができる。
【0021】
当該工程a)で用いられるアルコール化合物は、直鎖又は分岐鎖のアルキルを有するアルコールであることができ、アルキル部分は任意の置換基によって置換されていてもよい。アルコール化合物は、好ましくは、炭素数1~10のアルコールであることができ、より好ましくは、炭素数1~5のアルコールであることができる。典型的には、アルコール化合物は、メタノール又はエタノールである。当該アルコール化合物は、上記反応式(1)において右辺のアルコキシシランを得るための原料となり得るが、平衡反応全体においては、再度左辺のアルコールに戻り得る。
【0022】
当該工程a)で用いられるアルカリ金属化合物又はアルカリ土類金属化合物は、SiO2おけるケイ素-酸素結合の開裂を促進し、上記反応式(1)の右辺のアルコキシシランの生成の触媒として機能する成分である。
【0023】
かかるアルカリ金属化合物及びアルカリ土類金属化合物におけるアルカリ金属及びアルカリ土類金属としては、リチウム(Li)、ナトリウム(Na)、マグネシウム(Mg)、カリウム(K)、カルシウム(Ca)、セシウム(Cs)等を挙げることができる。また、対アニオンについては、水酸化物、ハロゲン化物、酸化物、炭酸塩、炭酸水素塩、アルコキシド、ケイ酸塩、アルミン酸塩、リン酸塩、有機酸塩、硫酸塩、硝酸塩等が挙げられる。中でも水酸化物、ハロゲン化物、炭酸塩、炭酸水素塩が好ましく、アルカリ金属水酸化物、アルカリ金属ハロゲン化物、アルカリ金属炭酸塩、及びアルカリ金属炭酸水素塩がより好ましい。
【0024】
具体的なアルカリ金属化合物及びアルカリ土類金属化合物としては、水酸化リチウム、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、水酸化カルシウム、水酸化セシウム、炭酸リチウム、炭酸ナトリウム、炭酸カリウム、炭酸セシウム、フッ化ナトリウム、フッ化カリウム、フッ化セシウム等が挙げられる。なお、アルカリ金属化合物及びアルカリ土類金属化合物は、1種類のみならず、2種類以上を組み合わせて使用してもよい。
【0025】
アルカリ金属化合物は、好ましくは、アルカリ金属の水酸化物、ハロゲン化物、硫酸塩、炭酸塩、及び炭酸水素塩よりなる群から選択される少なくとも1種であることができる。
【0026】
工程a)におけるSiO2含有物の添加量は、適宜設定することが可能であるが、好ましくは、アルコール化合物の100重量部に対して1~50重量部、より好ましくは、1~15重量部である。
【0027】
また、工程a)におけるアルカリ金属化合物又はアルカリ土類金属化合物の添加量は、好ましくは、SiO2を含有する原料の100重量部に対して1~20重量部であり、より好ましくは、13~20重量部である。
【0028】
好ましい態様において、工程a)では、溶媒として上記アルコール化合物に加えて、塩基性溶液や非プロトン性有機溶媒をさらに添加することができる。かかる塩基性溶液としてはアンモニア水等を、非プロトン性有機溶媒としては、ジメトキシプロパン等のアセタールを例示することができる。その他のエーテル類を用いることもできる。
【0029】
上述のように、本発明の製造方法における工程b)は、工程a)で得られる混合物を加熱処理することで、SiO2含有物硬化体を生成させる工程である。反応を高温環境下とした後、室温等まで冷却することにより、上記反応式(1)の左辺におけるSiO2成分の再生が生じ、これにより、SiO2含有物同士が直接接合した硬化体を得ることができる。
【0030】
当該工程b)における加熱処理は、好ましくは、100~300℃の範囲、より好ましくは、150~250℃の範囲であることができる。また、加熱時間は、反応物の量などに応じて適宜設定し得るものであるが、典型的には、12~96時間、より好ましくは、24~72時間の範囲とすることができる。加熱後の冷却は、好ましくは、室温付近まで放冷することにより行われる。
【0031】
工程a)及びb)を行うための反応器、操作手順等は特に限定されず、目的に応じて適宜選択することができる。反応器としては、オートクレーブ等の耐圧・耐熱性の反応器であることが好ましい。
【0032】
工程a)及びb)における反応は、特に限定されないが、通常0.1MPa以上、好ましくは0.5MPa以上、より好ましくは1.0MPa以上であり、通常60MPa以下、好ましくは30MPa以下、より好ましくは20MPa以下である。
【0033】
好ましい態様において、工程b)では、前記混合物中の固形成分をプレスすることを更に含むことができる。これにより、SiO2含有物硬化体の強度を増加させることができる。当該プレスは、物理的なプレス、すなわち、機械的応力を付加して混合物の圧縮等を行うことが好ましい。そのため、反応器には、反応器内にプレスするための手段を設けてもよい。そのようなプレス手段としては、例えば、上下方向に駆動可能なパンチ穴を設けた金属製平板を反応器内に設置し、これにより混合物中の固形成分をプレスすることが挙げられる。この場合、金属製平板の寸法を反応器の内径より若干小さくしてもよく、これにより、混合物中の液体成分が反応器壁面との隙間から上部に逃げ、固形成分のみに圧力を加えることができる。
【0034】
本発明の製造方法における工程c)は、工程b)で生成したSiO2含有物硬化体を溶媒等から分離し、目的物である硬化体を単離する工程である。かかる分離は、例えば、ろ過等の当該技術分野において公知の手法を用いることができる。なお、硬化体から分離されたアルコール化合物及びアルカリ金属化合物又はアルカリ土類金属化合物は、次の反応処理に再利用することができる。
【0035】
好ましい態様において、工程c)において分離されたSiO2含有物硬化体に対して加熱乾燥処理を更に行うことができる。これにより、硬化体表面における水素結合を、脱水(縮合)反応により共有結合とすることができ、硬化体の強度を更に増加させる目的において好適である。
【0036】
2.本発明の処理方法及び処理剤
以上では、SiO2含有物から硬化体を得る本発明の製造方法について説明してきたが、別の観点からは、かかる工程は、SiO2含有物の処理方法と捉えることもできる。
【0037】
すなわち、本発明は、別の態様において、以下の工程A)及びB)を含むことを特徴とするSiO2含有物の処理方法にも関する。
A)SiO2含有物と、アルコール化合物と、アルカリ金属化合物又はアルカリ土類金属化合物とを混合する工程;及び
B)工程A)で得られる混合物を加熱処理する工程。
【0038】
ここで、工程A)におけるSiO2含有物、アルコール化合物、アルカリ金属化合物又はアルカリ土類金属化合物の種類や添加量等について既に説明したとおりである。また、工程B)の加熱条件についても同様に上述の説明が当てはまる。好ましい態様において、本発明の処理方法の対象となるSiO2含有物は、1μm~10cmの範囲の粒径を有する砂利又は砂である。
【0039】
また、本発明は、アルコール化合物と、アルカリ金属化合物又はアルカリ土類金属化合物とを含む、SiO2含有物用処理剤にも関する。当該処理剤におけるアルコール化合物、アルカリ金属化合物又はアルカリ土類金属化合物の種類や含有量については、上述の説明をそのまま適用することができる。当該処理剤の対象となるSiO2含有物は、好ましくは、1μm~10cmの範囲の粒径を有する砂利又は砂である。
【実施例】
【0040】
以下、実施例により本発明をさらに詳細に説明するが、本発明はこれらによって限定されるものではない。
【0041】
1.SiO
2
含有物硬化体の製造
0.1mmの粒径を有するシリカ砂(株式会社丸東社製「三河産珪砂8号」)を6g、水酸化カリウム(KOH)を1g、エタノールを75ml、ジメトキシプロパンを0.9mlを、銅薄膜又はステンレス薄膜製の小さな箱型容器に収納し、これを圧力反応容器に投入した。反応器を密封した後、240℃で24時間加熱した。加熱終了後、反応容器を室温まで冷却し、得られた硬化体をろ過により単離した。反応器内の圧力は、5MPaに維持した。
【0042】
用いた反応容器を
図1に示す。また、得られた硬化体の画像を
図2に示す。
【0043】
加熱時間及びKOHの添加量(w/w)を種々変化させて、同様の反応を行った。その結果を表1に示す。
【表1】
【0044】
13.8%KOH/シリカ(シリカ砂 6g;KOH 0.83g)で24時間加熱の条件で得られた硬化体を
図3に示す。また、16.5%KOH/シリカ(シリカ砂 6g;KOH 1g)で24時間加熱の条件で得られた硬化体を
図4に示す。
【0045】
さらに、他の条件についても、同様に種々のバリエーションについて実験を行い、硬化体の形成に与える影響を検討した。
【0046】
2.シリカ砂とエタノールの比率について
シリカ砂とエタノールの割合(w/w)を5.1~20.5%の範囲で変更し、硬化体の合成を行った。いずれの条件でも、エタノールは50mlとし、0.15mlのジメトキシプロパンを用い、KOHは16.5%KOH/シリカとした。結果を表2に示す。
【表2】
【0047】
3.ジメトキシプロパンとエタノールの比率について
ジメトキシプロパンとエタノールの割合(w/w)を0.06~0.24%の範囲で変更し、硬化体の合成を行った。いずれの条件でも、エタノールは75mlとし、シリカ砂とジメトキシプロパンの質量比を42%に固定した。結果を表3に示す。
【表3】
【0048】
4.ジメトキシプロパンとシリカ砂の比率について
ジメトキシプロパンとシリカ砂の割合(w/w)を8~44%の範囲で変更し、硬化体の合成を行った。いずれの条件でも、エタノールは75mlとし、KOHを0.66g、シリカ砂を4gに固定した。結果を表4に示す。
【表4】
【0049】
5.加熱温度について
加熱温度を180~243の範囲で変更し、硬化体の合成を行った。いずれの条件でも、エタノールは75mlとし、KOHを0.66g、シリカ砂を4g、ジメトキシプロパンを0.6mlに固定した。結果を表5に示す。
【表5】