(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2025-03-27
(45)【発行日】2025-04-04
(54)【発明の名称】免疫細胞移行用担体及びその利用
(51)【国際特許分類】
A61K 47/34 20170101AFI20250328BHJP
A61K 47/18 20170101ALI20250328BHJP
A61P 37/02 20060101ALI20250328BHJP
【FI】
A61K47/34
A61K47/18
A61P37/02
(21)【出願番号】P 2021556131
(86)(22)【出願日】2020-11-11
(86)【国際出願番号】 JP2020042117
(87)【国際公開番号】W WO2021095781
(87)【国際公開日】2021-05-20
【審査請求日】2023-09-06
(31)【優先権主張番号】P 2019206377
(32)【優先日】2019-11-14
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】519135633
【氏名又は名称】公立大学法人大阪
(74)【代理人】
【識別番号】100103034
【氏名又は名称】野河 信久
(74)【代理人】
【識別番号】100159385
【氏名又は名称】甲斐 伸二
(74)【代理人】
【識別番号】100163407
【氏名又は名称】金子 裕輔
(74)【代理人】
【識別番号】100166936
【氏名又は名称】稲本 潔
(74)【代理人】
【識別番号】100174883
【氏名又は名称】冨田 雅己
(74)【代理人】
【識別番号】100189429
【氏名又は名称】保田 英樹
(74)【代理人】
【識別番号】100213849
【氏名又は名称】澄川 広司
(72)【発明者】
【氏名】児島 千恵
(72)【発明者】
【氏名】西本 豊
【審査官】宮岡 真衣
(56)【参考文献】
【文献】長島舟 ほか,種々のアニオン性デンドリマーによるリンパ節の蛍光イメージング,日本バイオマテリアル学会大会予稿集(Web),日本,2018年,Vol. 40,p. 137
【文献】児島千恵 ほか,種々のアニオン性末端基をもつデンドリマーを利用したリンパ節へのデリバリー,第35回日本DDS学会学術集会プログラム予稿集,日本,2019年06月15日,第144頁,1-5-13
【文献】WANG, Xue et al.,Synthesis and Evaluation of Phenylalanine-Modified Hyperbranched Poly(amido amine)s as Promising Gen,Biomacromolecules,2010年,Vol. 11,pp. 245-251
【文献】METULLIO, Lorenzo et al.,Polyamidoamine (Yet Not PAMAM) Dendrimers as Bioinspired Materials for Drug Delivery: Structure-Acti,Biomacromolecules,2004年,Vol. 5,pp. 1371-1378
【文献】WANG, Fei et al.,Synergistic effect of amino acids modified on dendrimer surface in gene delivery,Biomaterials,2014年,Vol. 35,pp. 9187-9198,ISSN 0142-9612
【文献】東野庸平 ほか,フェニルアラニン残基を表面に結合したポリアミドアミンデンドリマーの遺伝子導入活性,第55回高分子討論会予稿集,日本,社団法人高分子学会,2006年09月05日,55巻2号,第4908頁,3Pc117
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61K 47/00-47/69
A61K 45/00
A61P 37/00-37/08
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
複合体分子を含む免疫細胞移行用担体であって、
前記複合体分子が、分岐ポリマーとフェニルアラニン残基とを含み、且つアニオン性の末端構造を有し、前記分岐ポリマーの末端基に前記フェニルアラニン残基が結合して
おり、
前記アニオン性の末端構造が、前記フェニルアラニン残基のカルボキシル基もしくはその塩であるか、又は前記フェニルアラニン残基を介して結合されたアニオン性末端基であり、
前記アニオン性末端基が、カルボキシル基、スルホン基、硫酸基又はそれらの塩であり、
前記分岐ポリマーがデンドリマーである、
免疫細胞移行用担体。
【請求項2】
前記分岐ポリマーの末端基と前記フェニルアラニン残基とが直接結合している請求項1に記載の担体。
【請求項3】
前記フェニルアラニン残基に、
前記アニオン性末端基を付与できる化合物がさらに結合している請求項2に記載の担体。
【請求項4】
前記アニオン性末端基が、カルボキシル
基又は
その塩である請求項
1に記載の担体。
【請求項5】
前記分岐ポリマーの末端基と前記フェニルアラニン残基とがリンカーを介して結合している請求項1に記載の担体。
【請求項6】
前記アニオン性の末端構造が、前記分岐ポリマーの末端基に結合した前記フェニルアラニン残基を含み、下記の式(I):
【化1】
(式中、X
1は、-NH-(C=O)-又は-O-(C=O)-であり、Y
1は、-NH-(C=O)-又は-NH-であり、
Rは、置換基を有していてもよい炭素数1~10のアルキレン基、又は、置換基を有していてもよい炭素数3~8のシクロアルキレン基、ヘテロシクロアルキレン基若しくはフェニレン基であり、
Z
1は、カルボキシル基、スルホン基、硫酸基又はそれらの塩である)
で表されるか、又は、下記の式(II):
【化2】
(式中、X
2は、-NH-(C=O)-、-(C=O)-NH-、-O-(C=O)-、-(C=O)-O-、-O-(C=O)-NH-、-NH-(C=O)-O-、-NH-(C=O)-NH-、-NH-(C=S)-NH-又はマレイミドとチオールの反応で得られる構造であり、
Rは、置換基を有していてもよい炭素数1~10のアルキレン基、又は、置換基を有していてもよい炭素数3~8のシクロアルキレン基、ヘテロシクロアルキレン基若しくはフェニレン基であり、
Y
2は、-(C=O)-NH-、-O-(C=O)-NH-、-NH-(C=O)-NH-又は-NH-(C=S)-NH-であり、
Z
2は、カルボキシル基又はその塩である)
で表されるか、又は、下記の式(III):
【化3】
(式中、Z
3は、カルボキシル基又はその塩である)
で表される請求項1~5のいずれか1項に記載の担体。
【請求項7】
前記免疫細胞が、リンパ節に存在する免疫細胞である請求項1~6のいずれか1項に記載の担体。
【請求項8】
前記免疫細胞が、T細胞、B細胞、樹状細胞及びマクロファージから選択される少なくとも1種である請求項1~7のいずれか1項に記載の担体。
【請求項9】
pHに応答してT細胞への移行性が変化する請求項1~
8のいずれか1項に記載の担体。
【請求項10】
請求項1~
9のいずれか1項に記載の免疫細胞移行用担体を含む、免疫細胞移行用試薬。
【請求項11】
請求項1~
9のいずれか1項に記載の免疫細胞移行用担体と、免疫細胞とをインビボ(ただし、ヒトを除く)、インビトロ又はエクスビボで接触することを含む、免疫細胞移行用担体を免疫細胞に移送する方法。
【請求項12】
前記免疫細胞移行用担体が、興味対象の物質を含む請求項
11に記載の方法。
【請求項13】
前記興味対象の物質が、標識物質、核酸、タンパク質及びペプチドから選択される少なくとも1つである請求項
12に記載の方法。
【請求項14】
前記標識物質が、放射性同位体、低分子有機色素、蛍光色素及び核磁気共鳴イメージング用造影剤から選択される少なくとも1つである請求項
13に記載の方法。
【請求項15】
医薬と、請求項1~
9のいずれか1項に記載の免疫細胞移行用担体とを含む、医薬組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、免疫細胞移行用担体に関する。本発明は、免疫細胞移行用試薬に関する。本発明は、免疫細胞移行用担体を免疫細胞に移送する方法に関する。本発明は、医薬と、免疫細胞移行用担体とを含む医薬組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、新規ながん治療法として免疫療法が注目されている。がんの免疫療法は、受動免疫療法と能動免疫療法の二つに大別できる。受動免疫療法は、患者から採取したT細胞などの免疫細胞をインビトロで活性化して再び患者の体内に戻すことにより、活性化した免疫細胞でがん細胞を攻撃する治療法であり、例えばCAR-T細胞療法などが知られている。能動免疫療法は、免疫細胞を活性化させる物質を患者に投与することにより、活性化した免疫細胞でがん細胞を攻撃する治療法であり、例えばサイトカイン療法などが知られている。
【0003】
CD3などの細胞表面マーカーと特異的に結合するリガンドや抗体などを用いずに、免疫細胞を活性化させる物質を生体内の免疫細胞に効率よく送達するシステムはまだない。T細胞を含む種々の免疫細胞は、主にリンパ節において組織液及びリンパ液中の異物を排除する免疫反応を行っている。特許文献1には、カルボキシル基を末端基として有するデンドリマーがリンパ節に移行可能であり、当該デンドリマーをマウスに皮内投与すると、センチネルリンパ節及びその先にある二次リンパ節に集積したことが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明者らは、特許文献1のデンドリマーは生体のリンパ節には集積するが、リンパ節内の免疫細胞には取り込まれないことを見出した。生体の免疫細胞に選択的に所望の生理活性物質等を移送可能な手段を確立することは、がん免疫療法の発展に寄与すると期待される。本発明は、免疫細胞に移行可能な担体分子を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、複合体分子を含む免疫細胞移行用担体であって、前記複合体分子が、分岐ポリマーとフェニルアラニン残基とを含み、且つアニオン性の末端構造を有し、前記分岐ポリマーの末端基に前記フェニルアラニン残基が結合している、免疫細胞移行用担体を提供する。本発明は、免疫細胞移行用担体を含む免疫細胞移行用試薬を提供する。本発明は、免疫細胞移行用担体と、免疫細胞とをインビボ(ただし、ヒトを除く)、インビトロ又はエクスビボで接触することを含む、免疫細胞移行用担体を免疫細胞に移送する方法を提供する。本発明は、医薬と、免疫細胞移行用担体とを含む医薬組成物を提供する。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、免疫細胞に移行可能な担体が提供される。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【
図1】末端にフェニルアラニン残基を有さず且つ末端にリンカーが結合したデンドリマー(G4-Suc及びG4-CHex)と、リンカーを介して末端にフェニルアラニン残基が結合したデンドリマー(G4-Suc-Phe及びG4-CHex-Phe)とのそれぞれが有する64の末端基のうちの1つの化学構造を表した模式図である。
【
図2A】蛍光標識した免疫細胞移行用担体を投与したマウスのリンパ節から得た細胞をフローサイトメトリ(FCM)で分析して得た分布図である。
【
図2B】蛍光標識した免疫細胞移行用担体を投与したマウスのリンパ節から得た細胞をPE標識抗体で免疫染色し、FCMで分析して得たスキャッタグラムである。
【
図3】PE標識抗体で検出された各種の免疫細胞における、免疫細胞移行用担体を含む細胞の割合を示すグラフである。
【
図4】蛍光標識した免疫細胞移行用担体を投与したマウスをインビボ蛍光イメージングして得た画像である。
【
図5】放射性物質で標識した免疫細胞移行用担体を投与したマウスから採取した臓器等が発する放射線を測定して得たグラフである。
【
図6】PE標識抗体で検出された各種の免疫細胞における、免疫細胞移行用担体を含む細胞の割合を示すグラフである。
【
図7】PE標識抗体で検出された中性又は酸性条件下のT細胞及びB細胞における、免疫細胞移行用担体を含む細胞の割合を示すグラフである。
【
図8】リンカーを介して末端にフェニルアラニン残基が結合したデンドリマー(G4-Suc-Phe、G4-Ph-Phe及びG4-CHex-Phe)の溶液(pH 4~7)の温度に対する透過率の変化を示すグラフである。
【
図9】末端にフェニルアラニン残基を有し、末端基がスルホン基であるデンドリマー(G4-Phe-SO
3H)の溶液(pH 5又はpH 6.5)の温度に対する透過率の変化を示すグラフである。
【
図10A】デンドリマーの末端基にフェニルアラニン残基が直接結合し、アニオン性末端基がカルボキシル基である免疫細胞移行用担体(G3.5-Phe
30)の溶液(pH 4~7)の温度に対する透過率の変化を示すグラフである。
【
図10B】デンドリマーの末端基にフェニルアラニン残基が直接結合し、アニオン性末端基がカルボキシル基である免疫細胞移行用担体(G3.5-Phe
41)の溶液(pH 4~7)の温度に対する透過率の変化を示すグラフである。
【
図10C】デンドリマーの末端基にフェニルアラニン残基が直接結合し、アニオン性末端基がカルボキシル基である免疫細胞移行用担体(G2.5-Phe
18)の溶液(pH 4~7)の温度に対する透過率の変化を示すグラフである。
【
図10D】デンドリマーの末端基にフェニルアラニン残基が直接結合し、アニオン性末端基がカルボキシル基である免疫細胞移行用担体(G2.5-Phe
14)の溶液(pH 4~7)の温度に対する透過率の変化を示すグラフである。
【
図11】リンカーを介して末端にフェニルアラニン残基が結合したデンドリマー(G4-Suc-Phe及びG4-CHex-Phe)と、リンカーを介して末端にロイシン残基が結合したデンドリマー(G4-Suc-Leu及びG4-CHex-Leu)とのそれぞれが有する64の末端基のうちの1つの化学構造を表した模式図である。
【
図12】蛍光標識した免疫細胞移行用担体と接触したJurkat細胞をFCMで分析して得た、細胞の蛍光強度の平均値を示すグラフである。
【
図13】末端にフェニルアラニン残基が直接結合し、アニオン性末端基がカルボキシル基であるデンドリマー(G4-Phe-Suc及びG4-Phe-CHex)が有する64の末端基のうちの1つの化学構造を表した模式図である。
【
図14】蛍光標識した免疫細胞移行用担体と接触したJurkat細胞をFCMで分析して得た、細胞の蛍光強度の平均値を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0009】
本実施形態の免疫細胞移行用担体(以下、単に「担体」ともいう)は、分岐ポリマーの末端基にフェニルアラニン残基が直接又は間接的に結合して成る、アニオン性の末端構造を有する複合体分子を含む。分岐ポリマーは、分岐状構造又は樹状構造を有するポリマーであれば特に限定されない。分岐ポリマーの末端基とは、分岐ポリマーの分岐状構造又は樹状構造の最も外側にある基をいう。本実施形態の担体におけるアニオン性の末端構造とは、分岐ポリマーの末端基と直接又は間接的に結合したフェニルアラニン残基を含む部分であって、当該部分の末端にある基がアニオン性基である部分をいう。アニオン性基としては、例えばカルボキシル基、スルホン基、硫酸基又はそれらの塩が挙げられる。本発明者らは、該複合体分子が興味対象の物質を担持できることから、該複合体分子を免疫細胞移行用担体に利用できることを見出して、本発明を完成した。ここで、「興味対象の物質」とは、免疫細胞に移送することを所望する所定の物質をいう。「興味対象の物質を担持する」とは、複合体分子における分岐ポリマーの末端基に興味対象の物質を連結すること、該分岐ポリマーの内部空間に興味対象の物質を内包すること、及びフェニルアラニン残基に興味対象の物質を連結することを包含する。
【0010】
本実施形態では、分岐ポリマーは、末端基として、フェニルアラニン残基又は後述のリンカーと結合可能な官能基を1種以上有するものが好ましい。該官能基としては、例えばアミノ基、カルボキシル基、ヒドロキシ基、スルホン基などが挙げられる。分岐ポリマーとしては、例えばデンドリマー、樹状構造における分岐の規則性が低い「ハイパーブランチポリマー」、「デンドリグラフト」(ランダム樹状ポリマーともいう)やスターポリマーが挙げられる。
【0011】
デンドリマーは、3次元的に高度に分枝した樹状構造の化合物であり、ほぼ球状の形態であることが知られている。本明細書では、「デンドリマー」との用語には、デンドリマーを構成する部分構造であって、コアの部分の少なくとも1つの官能基が分岐していない構造を有するデンドロンも含む。デンドリマーは一般に、コアと、いくつかの世代の分岐部分と、末端基とからなる。デンドリマーのコアは、1つ以上の官能基を有する化合物から誘導される。官能基としては、第1級アミノ基、第2級アミノ基、ヒドロキシ基、カルボン酸基、チオール基、エステル基、アミド基、ケトン基、アルデヒド基などが挙げられる。好ましくは、第1級アミノ基及び第2級アミノ基である。コアを構成する化合物としては、例えばアンモニア、エチレンジアミン、1,3-ジアミノプロパン、1,4-ジアミノブタン、1,5-ジアミノペンタン、1,6-ジアミノヘキサン、1,7-ジアミノヘプタン、1,8-ジアミノオクタン、1,10-ジアミノデカン、1,12-ジアミノドデカンが挙げられる。SS結合を含むアルキルジアミン(シスタミン)でもよい。
【0012】
デンドリマーの分岐部分は、3以上の原子価を有する原子を含む分岐構造単位の繰り返しからなる。3以上の原子価を有する原子としては、炭素、窒素、ケイ素、リンなどが挙げられる。例えば、デンドリマーの分岐部分として、以下の構造が知られている。
【0013】
【化1】
(式中、nは1以上の整数であり、好ましくは60~300の整数である)
【0014】
上記(A)~(C)の分岐構造を有する各デンドリマーについては、以下の文献に記載されている。デンドリマーの分岐部分は、上記のような繰り返し単位を2種以上含むものであってもよい。
(A) Tomalia D.A.ら、Polym. J. 17, 117 (1985)及びTomalia D.A.ら、Angew. Chem. Int. Ed. Engl. 29, 138 (1990)
(B) de Brabander-van den Berg E.M.M.ら、Angew. Chem. Int. Ed. Engl. 32, 1308 (1993); de Brabander-van den Berg E.M.M.ら、Macromol. Symp. 77, 51 (1994);Hummelen J.C.ら、Chem. Eng. J. 3, 1489 (1997)及びWaner C.ら、Angew. Chem. Int. Ed. Engl. 32, 1300 (1993)
(C) Ihre H.R.ら、Bioconjugate Chem. 13, 443-452 (2002)及びGoodwin A.P.ら、J.Am.Chem.Soc., 129, 6994 (2007)
【0015】
デンドリマーの末端基の構造は適宜選択できる。例えば、末端基は、分岐部分の最後の繰り返し単位の構造を有してもよいし、分岐部分とは別の構造を有してもよい。デンドリマーの末端基は、フェニルアラニン残基又は後述のリンカーと結合可能な官能基を1種以上有することが好ましい。
【0016】
ハイパーブランチポリマーは、一般にAB2型モノマーを重合させることにより、分岐を展開させたポリマーである。ここで、A及びBは、それぞれ重合反応可能な官能基の組み合わせを示し、例えば、水酸基とカルボキシル基、アミノ基とカルボキシル基などの組み合わせが挙げられる。あるいは、分岐のコアとして機能する物質を併用してもよい。また、グリシドールやエチレンイミンなどの開環重合によって、ハイパーブランチポリマーを作製してもよい。デンドリグラフトは、モノマーではなく、モノマーが複数結合したオリゴマーを段階的に反応させることによって合成されるポリマーである。これらを総称してランダム樹状ポリマーという。ランダム樹状ポリマーはデンドリマーと同様に分岐部分を有するが、コアは必須ではない。また、ランダム樹状ポリマーの分岐部分には、一部欠損して不規則又は不連続な箇所があってもよい。
【0017】
ランダム樹状ポリマーの分岐ユニットは、ポリリシン骨格、ポリグリセリン骨格、種々の糖類の骨格でもよい。分岐ユニットがリシン(-NH-CH(C4H2NH-)CO-)であるランダム樹状ポリマーとしては、例えばPolyLysine-Dendri-graft(PLD:COLCOM社)が挙げられる。また、分岐ユニットが、下記の式で表されるポリグリセリンであるランダム樹状ポリマーとしては、例えばPGL X及びPGL 10(ダイセル化学)が挙げられる。
【0018】
【化2】
(式中、n及びmは独立して10以上、好ましくは20以上の整数である)
【0019】
スターポリマーは、3本以上のポリマー鎖が中心から放射状に分岐したポリマーとして知られている。スターポリマーは、ポリマー鎖が同一種であるレギュラー型と、ポリマー鎖の種類や分子量が異なる非対称型とに大別される。レギュラー型のスターポリマーは、スチレンや1,3-ジエン類のリビングアニオンポリマーと、多官能シリルクロリドとのリビングアニオン重合により得ることができる。現在、3~128のポリマー鎖を有するポリブタジエンスターポリマーや、33のポリマー鎖を有するスターポリスチレンなどが合成されている。また、非対称型スターポリマーとしては、ポリスチレン、ポリイソプレン、ポリブタジエン及びポリ(4一メチルスチレン)から構成される4成分系のスターポリマーなどが知られている。
【0020】
スターポリマーはマルチアームPEG型であってもよい。そのようなスターポリマーは市販されており、例えば、4本分岐鎖を有するマルチアームPEG型である4arm-PEG-NH2 (C(CH2O(CH2CH2O)nCH2CH2NH2HCl)4)、4arm-PEG-COOH (C(CH2O(CH2CH2O)nCH2COOH)4)(Merck社)など、8本分岐鎖を有するマルチアームPEG型であるトリペンタエリスリトールコアの8arm-PEG-NH2 (R(O(CH2CH2O)nCH2CH2NH2HCl)8, Rはトリペンタエリスリトール)及び8arm-PEG-COOH (R(O(CH2CH2O)nCH2COOH)8, Rはトリペンタエリスリトール)(Merck社)などが挙げられる。また、SUNBRIGHT(登録商標)シリーズのうち、下記の式で表されるPTEシリーズ、HGEOシリーズ及びDXシリーズ(油化産業株式会社)なども挙げられる。
【0021】
【化3】
(式中、Xは、-CO-CH
2CH
2-COO-Nヒドロキシスクシンイミド(NHS)、-CO-CH
2CH
2CH
2-COO-NHS-(CH
2)
3-NHCO-CH
2CH
2-マレイミド、-CH
2CH
2CH
2CH
2CH
2-COO-NHS、-COO-pニトロフェニル-NO
2、-CH
2CH
2CH
2NH
2又は-(CH
2)
3-NHCO-CH
2CH
2-マレイミドであり、nは10以上の整数である)
【0022】
【化4】
(式中、Xは、-CO-CH
2CH
2-COO-NHS、-CO-CH
2CH
2CH
2-COO-NHS、-COO-pニトロフェニル、-CH
2CH
2NH
2・HCI又は-CH
2CH
2SHであり、nは10以上の整数である)
【0023】
【化5】
(式中、Xは、-CH
2CH
2CH
2-NH
2、-CH
2CH
2-CHO又は-CO-CH
2CH
2CH
2-COO-NHSであり、nは10以上の整数である)
【0024】
本実施形態では、分岐ポリマーとしてデンドリマーを用いることが好ましい。デンドリマーの世代数は、用いるデンドリマーのコア及び分岐部分の構造に応じて適宜選択できる。当該技術分野においては、第0~第10世代のポリアミドアミン(PAMAM)デンドリマーが一般に入手可能である。また、デンドリマーの製造方法自体は公知であり、例えば上記の文献に記載されている。本実施形態では、第4世代(G4)、第5世代(G5)又は第6世代(G6)のデンドリマーを用いることが好ましい。
【0025】
本実施形態の担体では、分岐ポリマーの末端基とフェニルアラニン残基とが直接結合してもよいし、間接的に結合してもよい。分岐ポリマーの1つの末端基に結合するフェニルアラニン残基の数は、1つでもよいし、2つ以上であってもよい。フェニルアラニン残基は、L体及びD体のいずれであってもよい。フェニルアラニン残基は、分岐ポリマーの全ての末端基に結合していてもよいし、分岐ポリマーの一部の末端基に結合していてもよい。本実施形態では、フェニルアラニン残基は、分岐ポリマーが有する末端基の40%以上、好ましくは45%以上、50%以上、60%以上、65%以上、70%以上、75%以上、80%以上、85%以上、90%以上、又は95%以上に結合する。例えば、分岐ポリマーがG4 PAMAMデンドリマーである場合、該デンドリマーが有する64の末端基のうち、26以上、好ましくは29以上、32以上、36以上、39以上、42以上、45以上、48以上、52以上、55以上、58以上、又は61以上の末端基にフェニルアラニン残基が結合する。
【0026】
分岐ポリマーの末端基とフェニルアラニン残基とを直接結合させる場合、分岐ポリマーの末端基と、フェニルアラニンのアミノ末端又はカルボキシル末端とを反応させればよい。あるいは、分岐ポリマーの末端基とフェニルアラニンの誘導体とを反応させてもよい。本実施形態では、フェニルアラニン又はその誘導体の末端基と、分岐ポリマーの末端基との結合の種類は特に限定されない。好ましい結合は共有結合であり、例えばアミド結合(-NH-CO-)、エステル結合(-CO-O-)、ウレタン結合(-NH-CO-O-)、ウレア結合(-NH-CO-NH-)、チオウレア結合(-NH-CS-NH-)、スルホンアミド結合(-SO2-NH-)、スルホン酸エステル結合(-SO2-O-)などが挙げられる。また、マレイミドとチオールとの反応で形成される構造であってもよい。フェニルアラニンの誘導体としては、例えば、フェニルアラニンのアミノ末端又はカルボキシル末端を、分岐ポリマーの末端基に対して反応性を有する基で誘導体化した化合物などが挙げられる。
【0027】
一実施形態では、フェニルアラニンのアミノ末端と分岐ポリマーの末端基とを反応させることにより、免疫細胞移行用担体を得てもよい。この場合、担体におけるアニオン性の末端構造は、分岐ポリマーの末端基と直接結合したフェニルアラニン残基からなり、該フェニルアラニン残基のカルボキシル基が末端構造のアニオン性基となる。例えば、分岐ポリマーの末端基がカルボキシル基である場合、この末端基とフェニルアラニンのアミノ末端とを反応させてアミド結合を形成してもよい。分岐ポリマーの末端基がアミノ基である場合、フェニルアラニンのアミノ末端を、アミノ基とアミド結合又はウレタン結合を形成できる基(例えば4-ニトロフェニルカーボネート基又はカルボキシル基)で誘導体化してもよい。また、分岐ポリマーの末端がヒドロキシ基である場合、フェニルアラニンのアミノ末端を、ヒドロキシ基とエステル結合を形成できる基(例えばカルボキシル基)で誘導体化してもよい。フェニルアラニンのアミノ末端と分岐ポリマーの末端基とを反応させる場合、該フェニルアラニンのカルボキシル末端を予め公知の保護基で保護してもよい。
【0028】
さらなる実施形態の免疫細胞移行用担体では、分岐ポリマーの末端基とフェニルアラニン残基とが直接結合している場合、該フェニルアラニン残基に、アニオン性末端基を付与できる化合物がさらに結合していてもよい。例えば、分岐ポリマーの末端基と、フェニルアラニンのカルボキシル末端とを反応させた場合、得られた複合体分子の末端構造をアニオン性とするために、該複合体分子におけるフェニルアラニンのアミノ末端と、アニオン性末端基を付与できる化合物とを反応させること好ましい、そのような化合物としては、該化合物の一端にアミノ基と反応できる官能基を有し、他端にアニオン性基(例えばカルボキシル基、スルホン基、硫酸基など)を有する化合物及びその分子内縮合物が挙げられる。例えば、無水コハク酸、1,2-シクロヘキサンジカルボン酸無水物、無水フタル酸などのジカルボン酸の無水物が好ましい。あるいは、アニオン性末端基を付与できる化合物は、アミノ基と反応することにより開環してアニオン性末端基を形成する環状化合物であってもよい。そのような化合物としては、例えば、1,3-プロパンスルトンなどの環状スルホン酸エステルが挙げられる。
【0029】
本実施形態の担体では、分岐ポリマーの末端基とフェニルアラニン残基とが、リンカーを介して結合してもよい。リンカーは、一端に分岐ポリマーの末端基と反応できる官能基を有し、他端にフェニルアラニン又はその誘導体と反応できる官能基を有する疎水性化合物から適宜選択できる。例えば、末端基がアミノ基又は水酸基である分岐ポリマーと、フェニルアラニンのアミノ基とを、リンカーとして上記のジカルボン酸の無水物を介して結合する。そのようなリンカーとしては、無水コハク酸、1,2-シクロヘキサンジカルボン酸無水物、無水フタル酸などが挙げられる。この場合の合成スキームを簡潔に述べると、まず、分岐ポリマーのアミノ基又は水酸基とジカルボン酸の無水物とを反応させて、末端基がカルボキシル基である分岐ポリマーを得る。そして、得られた分岐ポリマーのカルボキシル基と、カルボキシル末端を保護基で保護したフェニルアラニンのアミノ末端とを反応させて、フェニルアラニン残基を末端に結合した分岐ポリマーを得る。最後に、フェニルアラニン残基の保護基を除去して、本実施形態の担体を得ることができる。このような合成スキーム自体は公知であり、例えばTamaki M.ら, RSC Adv., 2018, vol.8, pp.28147-28151に記載されている。また、分岐ポリマーの末端基とフェニルアラニンのアミノ末端を結合できる架橋剤も用いることもできる。例えば、分岐ポリマーの末端基がアミノ基である場合、イソシアネート基又はイソチオシアネート基を2つもつ化合物を用いてもよい。分岐ポリマーの末端基がカルボキシル基又は4-ニトロフェニルカーボネート基である場合、アミノ基とカルボキシル基又はスクシンイミド基をもつ化合物(アミノ酸であってもよい)を用いてもよい。分岐ポリマーの末端基がメルカプト基である場合、マレイミド基とカルボキシル基又はスクシンイミド基をもつ化合物を用いてもよい。分岐ポリマーの末端基がマレイミド基である場合、メルカプト基とカルボキシル基又はスクシンイミド基をもつ化合物を用いてもよい。
【0030】
好ましい実施形態では、免疫細胞移行用担体のアニオン性の末端構造は、分岐ポリマーの末端基に結合したフェニルアラニン残基を含み、下記の式(I)で表される。
【0031】
【化6】
(式中、X
1は、-NH-(C=O)-又は-O-(C=O)-であり、Y
1は、-NH-(C=O)-又は-NH-であり、
Rは、置換基を有していてもよい炭素数1~10のアルキレン基、又は、置換基を有していてもよい炭素数3~8のシクロアルキレン基、ヘテロシクロアルキレン基若しくはフェニレン基であり、
Z
1は、カルボキシル基、スルホン基、硫酸基又はそれらの塩である)
【0032】
式(I)で表される末端構造は、分岐ポリマーの末端基とフェニルアラニン残基とが直接結合し、該フェニルアラニン残基にアニオン性末端基を付与できる化合物がさらに結合したものに相当する。式(I)において、X1は、分岐ポリマーの末端基とフェニルアラニン残基との結合部位を示し、X1の左の結合手は分岐ポリマーと結合している。式(I)において、Y1、R及びZ1は、フェニルアラニン残基と結合した、アニオン性末端基を付与できる化合物に相当する。Y1は、フェニルアラニン残基の末端基と、アニオン性末端基を付与できる化合物との結合部位を示す。Z1は、アニオン性の末端構造の末端基である。Z1において、塩の種類は特に限定されないが、好ましくはアルカリ金属の塩である。
【0033】
Rが、炭素数1~10のアルキレン基であるとき、そのようなアルキレン基としては、例えばメチレン、エチレン、プロピレン、イソプロピレン、ブチレン、イソブチレン、ペンチレン、ネオペンチレン、ヘキシレン、ヘプチレン、オクチレン、2-エチルヘキシレン、ノニレン及びデシレンなどの基が挙げられる。それらの中でも、炭素数1~4のアルキレン基が好ましい。Rが、置換基を有するアルキレン基であるとき、上記の炭素数には、置換基の炭素数は含まれない。
【0034】
Rが、シクロアルキレン基若しくはヘテロシクロアルキレン基であるとき、そのような基は、N、S、O及びPから選択される1つ以上のヘテロ原子を含んでいてもよい炭素数3~8の非芳香環であればよい。例えばシクロプロピレン、シクロブチレン、シクロペンチレン、シクロヘキシレン、シクロヘプチレン、シクロオクチレン、ピロリジニレン、ピペリジニレン、モルホリニレンなどの基が挙げられる。Rが、置換基を有するシクロアルキレン基、ヘテロシクロアルキレン基又はフェニレン基であるとき、上記の炭素数には、置換基の炭素数は含まれない。
【0035】
Rにおける置換基としては、例えば、炭素数が1以上6以下、好ましくは炭素数が1以上3以下の直鎖状又は分岐鎖状の飽和脂肪族炭化水素基が挙げられる。
【0036】
さらなる実施形態では、免疫細胞移行用担体のアニオン性の末端構造は、分岐ポリマーの末端基に結合したフェニルアラニン残基を含み、下記の式(II)で表される。
【0037】
【化7】
(式中、X
2は、-NH-(C=O)-、-(C=O)-NH-、-O-(C=O)-、-(C=O)-O-、-O-(C=O)-NH-、-NH-(C=O)-O-、-NH-(C=O)-NH-、-NH-(C=S)-NH-又はマレイミドとチオールの反応で得られる構造であり、
Rは、置換基を有していてもよい炭素数1~10のアルキレン基、又は、置換基を有していてもよい炭素数3~8のシクロアルキレン基、ヘテロシクロアルキレン基若しくはフェニレン基であり、
Y
2は、-(C=O)-NH-、-O-(C=O)-NH-、-NH-(C=O)-NH-、-NH-(C=S)-NH-であり、
Z
2は、カルボキシル基又はその塩である)
【0038】
式(II)で表される末端構造は、分岐ポリマーの末端基とフェニルアラニン残基とがリンカーを介して結合し、該フェニルアラニン残基のカルボキシル基又はその塩がアニオン性末端基を形成するものに相当する。X2は、分岐ポリマーの末端基とリンカーとの結合部位を示し、X2の左の結合手は分岐ポリマーと結合している。式(II)において、Rは、分岐ポリマーの末端基とフェニルアラニン残基とを介在するリンカー部分に相当する。R及びRにおける置換基については上記のとおりである。式(II)において、Y2は、リンカーとフェニルアラニン残基のアミノ基との結合部位を示す。Z2は、アニオン性の末端構造の末端基である。
【0039】
さらなる実施形態では、免疫細胞移行用担体のアニオン性の末端構造は、分岐ポリマーの末端基に結合したフェニルアラニン残基を含み、下記の式(III)で表される。
【0040】
【化8】
(式中、Z
3は、カルボキシル基又はその塩である)
【0041】
式(III)で表される末端構造は、分岐ポリマーの末端基にフェニルアラニン残基のアミノ基が直接結合し、該フェニルアラニン残基のカルボキシル基又はその塩がアニオン性末端基を形成するものに相当する。式(III)において、最も左の結合手は分岐ポリマーと結合している。Z3は、アニオン性の末端構造の末端基である。
【0042】
本実施形態では、上記の式(I)で表される末端構造としては、下記の式(1)~(4)で表される構造が特に好ましい。また、上記の式(II)で表される末端構造としては、下記の式(5)~(7)で表される構造が特に好ましい。上記の式(III)で表される末端構造としては、下記の式(8)で表される構造が特に好ましい。式(1)~(8)において、最も左の結合手は分岐ポリマーと結合している。式(1)~(8)において、X+は、水素イオン又はアルカリ金属イオンである。アルカリ金属イオンとしては、例えばナトリウムイオン、カリウムイオン、リチウムイオンなどが挙げられる。それらの中でもナトリウムイオンが好ましい。
【0043】
【0044】
【0045】
【0046】
本実施形態の担体の粒子径は特に限定されないが、通常5nm以上20 nm以下であり、好ましくは5nm以上15 nm以下である。担体の粒子径は、動的光散乱(DLS)法に基づいて測定した値を、Marquardt法で解析して得た体積基準の粒径分布における最も小さい分布の平均粒径である。測定機器としては、ELSZ-DN2(大塚電子製)又はその同等品である。
【0047】
さらなる実施形態では、免疫細胞移行用担体は、興味対象の物質をさらに含んでもよい。すなわち、本実施形態の担体は、興味対象の物質を担持した複合体分子を含む。この場合、興味対象の物質は、複合体分子における分岐ポリマーの末端基に連結されてもよいし、該分岐ポリマーの内部空間に内包されてもよいし、フェニルアラニン残基に連結されてもよい。複合体分子における分岐ポリマーの末端基又はフェニルアラニン残基に興味対象の物質を連結する場合、連結の様式は特に限定されない。連結は、例えば共有結合でもよいし、非共有結合でもよい。例えば、興味対象の物質を、分岐ポリマーの末端基又はフェニルアラニン残基に直接又は間接的に結合させてもよい。分岐ポリマーがデンドリマーである場合、興味対象の物質をデンドリマーの内部空間に内包する方法自体は公知であり、例えばKojima C.ら、Bioconjuge Chem 11: 910~7 (2000)などに記載されている。また、興味対象の物質を担持させた他のキャリア(例えばリポソーム、ミセル、高分子ミセルなど)に、本実施形態の担体を付与することによって、利用してもよい。例えば、興味対象の物質を担持させた他のキャリアと本実施形態の担体との混合物としてもよいし、他のキャリアの表面に本実施形態の担体を化学結合や物理結合を介して修飾してもよい。
【0048】
興味対象の物質としては、例えば標識物質、核酸、タンパク質、ペプチドなどが挙げられる。標識物質としては、例えば、11C、13N、15O、18Fなどの放射性同位体を含むPET用化合物、111Inなどの放射性同位体を含むSPECT用化合物、インジゴカルミン、パテントブルーVなどの低分子有機色素、インドシアニングリーン、フルオレセイン、ローダミン、Alexa Fluor(商標)、HiLyte(商標)Fluorなどの蛍光色素、ガドリニウムキレート剤などの核磁気共鳴イメージング用造影剤などが挙げられる。核酸としては、所望のタンパク質をコードする遺伝子を組み込んだベクター、アンチセンスオリゴヌクレオチド、siRNA、shRNA、リボザイム、アプタマー、デコイ核酸などが挙げられる。タンパク質及びペプチドとしては、自己抗原と非自己抗原を含むペプチド及びタンパクなどが挙げられる。具体的には、がん特異的抗原(共通がん抗原、ネオアンチゲン)を標的としたがん予防ワクチンと患者個々に最適ながん免疫治療法への応用、自己免疫疾患を引き起こすアレルギー抗原を標的とした免疫寛容への応用などが挙げられる。
【0049】
上記のとおり、本実施形態の担体は、免疫細胞、特にリンパ節内の免疫細胞内に移行することを特徴とする。免疫細胞の種類は特に限定されず、例えばT細胞、B細胞、樹状細胞、マクロファージなどが挙げられる。本実施形態の担体は、哺乳動物に投与することにより、リンパ節に到達してリンパ節内の免疫細胞内に移行することができる。また、本実施形態の担体は、エクスビボ又はインビトロで免疫細胞と接触することによって、該免疫細胞内に移行することができる。後述の実施例に示されるように、本実施形態の担体は、膜透過ではなく、細胞のエンドサイトーシスにより免疫細胞内へ移行すると考えられる。
【0050】
後述の実施例に示されるように、本実施形態の担体は、T細胞への移行性が良好である。当該技術分野では、T細胞に移行することが可能な担体は少なく、本実施形態の担体は、興味対象の物質をT細胞に移送するのに好適に用いることができる。
【0051】
後述の実施例に示されるように、本実施形態の担体は、酸性条件下では、免疫細胞、特にT細胞への移行性が向上する。酸性条件としては、免疫細胞の周囲の環境のpHが5以上7以下であることが挙げられる。例えば、インビトロ又はエクスビボの場合は、培地などの細胞と接触する液体のpHを酸性条件にしてもよい。インビボの場合は、炎症が生じている部位(例えば、がん部組織など)では、pHが酸性条件となることが知られている。ここで、Tamaki M.ら, RSC Adv., 2018, vol.8, pp.28147-28151に記載のように、第4世代デンドリマーの末端基に、エチレン基、シクロヘキシレン基又はフェニレン基を介してフェニルアラニン残基が結合して成る複合体分子は、酸性のpH条件下で相転移してより疎水性になることが知られている。酸性条件下での免疫細胞への移行性の向上には、このpHに応答して相転移する性質が関与している可能性が考えられる。
【0052】
本実施形態の担体をインビボで対象(例えば哺乳動物)に投与する場合、非経口投与が好ましく、注射による投与が特に好ましい。注射による投与は、皮内注射、皮下注射、静脈注射、動脈注射、筋肉注射、腹腔内注射のいずれであってもよいが、好ましくは皮内注射、皮下注射、より好ましくは皮内注射である。本実施形態の担体をインビトロ又はエクスビボで対象(例えば細胞)に投与する場合、培養液に本実施形態の担体を適量添加することにより、対象と担体とを接触させることが好ましい。
【0053】
本発明の一実施形態は、医薬と、免疫細胞移行用担体とを含む医薬組成物である。医薬とは、有効成分又はその候補として用いられる物質をいう。好ましい実施形態では、医薬は、本実施形態の担体により担持され得る物質である。すなわち、本実施形態の医薬組成物においては、医薬は免疫細胞移行用担体に担持されていることが好ましい。医薬としては、例えば医薬化合物、タンパク質、ペプチド、核酸などが挙げられる。医薬化合物は、例えば、有効成分又はその候補として用いられる公知の化合物から選択できる。タンパク質、ペプチド及び核酸はそれぞれ、公知の抗体医薬、ペプチド医薬及び核酸医薬から選択できる。医薬組成物の形態としては、医薬と、本実施形態の担体とを含む注射剤が好ましい。該注射剤は、注射用精製水又は生理食塩水に本実施形態の担体を添加することにより調製できる。免疫細胞移行用担体の含有量は、注射剤100重量部に対して、例えば0.001~80重量部、好ましくは0.01~50重量部である。注射剤は、薬学的に許容される添加物をさらに含んでもよい。そのような添加物自体は公知であり、例えば保存剤、安定剤、pH調整剤、等張化剤、溶剤、溶解補助剤、無痛化剤などが挙げられる。
【0054】
本発明の一実施形態は、上記の免疫細胞移行用担体を含む免疫細胞移行用試薬である。本実施形態の試薬は、例えば、興味対象の物質を免疫細胞に移行するときに有用である。本実施形態の試薬中の免疫細胞移行用担体に興味対象の物質を担持させ、これを免疫細胞に接触することにより、興味対象の物質を免疫細胞に移行することができる。本実施形態の試薬は、粉末の状態(例えば凍結乾燥した状態)にある免疫細胞移行用担体を含んでもよいし、適切な溶媒に分散された状態にある免疫細胞移行用担体を含んでもよい。本実施形態の試薬では、免疫細胞移行用担体は容器に収容されてもよい。また、本実施形態の試薬では、免疫細胞移行用担体を収容した容器は箱に梱包されてもよい。箱には、添付文書を同梱していてもよい。添付文書には、試薬の組成、免疫細胞移行用担体の構造、使用方法などが記載されていてもよい。
【0055】
本発明の一実施形態は、上記の免疫細胞移行用担体と、免疫細胞とをインビボ(ただし、ヒトを除く)、インビトロ又はエクスビボで接触することを含む、免疫細胞移行用担体を免疫細胞に移送する方法である。免疫細胞の詳細は、上記のとおりである。免疫細胞移行用担体と免疫細胞との接触方法は特に限定されないが、例えば、インビボの場合は、ヒトを除く動物に免疫細胞移行用担体を投与することにより、免疫細胞移行用担体と免疫細胞とを接触することができる。投与の詳細は上記のとおりである。インビトロの場合は、培地中の免疫細胞に免疫細胞移行用担体を添加することにより、免疫細胞移行用担体と免疫細胞とを接触することができる。エクスビボの場合は、免疫細胞を含む臓器(例えば脾臓、胸腺、リンパ節など)を動物から採取し、得られた臓器を、例えば、免疫細胞移行用担体を含む液体で灌流することにより、免疫細胞移行用担体と免疫細胞とを接触することができる。免疫細胞移行用担体が興味対象の物質を担持している場合、本実施形態の移送方法により、免疫細胞移行用担体を介して興味対象の物質をインビトロ又はエクスビボで免疫細胞に移送できる。
【0056】
本発明の一実施形態は、免疫細胞移行用担体の製造のための複合体分子の使用であって、前記複合体分子が、分岐ポリマーとフェニルアラニン残基とを含み、且つアニオン性の末端構造を有し、前記分岐ポリマーの末端基に前記フェニルアラニン残基が結合している、前記使用である。免疫細胞移行用担体及び複合体分子の詳細は、上記のとおりである。
【0057】
以下に、本発明を実施例により詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【実施例】
【0058】
製造例1: 免疫細胞移行用担体の調製
(1) カルボキシ末端デンドリマーの調製
カルボキシ末端デンドリマーは、Tamaki M.ら, RSC Adv., 2018, vol.8, pp.28147-28151に記載の方法で調製した。具体的な手順は次のとおりであった。アミノ末端のG4 PAMAMデンドリマー(Sigma-Aldrich社)のメタノール溶液を減圧留去し、凍結乾燥を行った。デンドリマー(56 mg、3.9μmol)を125 mM NaHCO3緩衝液(5.5 mL)に溶解し、過剰量の無水コハク酸又はシス-1,2-シクロヘキサンジカルボン酸無水物(いずれも100当量)を添加した。各溶液を室温で一晩撹拌し、4N NaOH水溶液を用いてpHを8~10に調整した。カルボキシ末端デンドリマーを含む溶液を、透析膜(分子量カットオフ(MWCO):1,000)を用いて蒸留水中で透析して精製した。精製した溶液を凍結乾燥して、各カルボキシ末端デンドリマーの白色粉末を得た。コハク酸を末端に付加したデンドリマー(G4-Suc)の収量は95 mgであり、収率は111%であった。シクロヘキサンジカルボン酸を末端に付加したデンドリマー(G4-CHex)の収量は62 mgであり、収率は64%であった。G4-Suc及びG4-CHexの各溶液を、400 MHz JNM-LA 400 JNM-ECX(JEOL社製)を用いて室温で1H-NMRスペクトル測定した結果を、以下に示す。
【0059】
G4-Suc (NaOD含有D2O): 2.24-2.28 (br, PAMAMの内側及び末端の鎖及びコハク酸のメチレンのNCH2CH2CONHCH2CH2N), 2.46 (br, PAMAMの内側の鎖のNCH2CH2CONHCH2CH2N), 2.65 (br, PAMAMの内側及び末端の鎖のNCH2CH2CONHCH2CH2N)及び3.13 (br, PAMAMの内側及び末端の鎖のNCH2CH2CONHCH2CH2N、及びPAMAMの末端の鎖のNCH2CH2CONHCH2CH2N).
【0060】
G4-CHex (NaOD含有D2O): 1.21-1.83 (m, シクロヘキサンジカルボン酸のメチレン), 2.26(br, PAMAMのNCH2CH2CONHCH2CH2N),2.41-2.55 (br, PAMAMの内側の鎖及びシクロヘキサンジカルボン酸のメチンのNCH2CH2CONHCH2CH2N), 2.66(br, PAMAMの内側及び末端の鎖のNCH2CH2CONHCH2CH2N)及び3.14 (br, PAMAMの内側及び末端の鎖のNCH2CH2CONHCH2CH2N、及びPAMAMの末端の鎖のNCH2CH2CONHCH2CH2N).
【0061】
(2) フェニルアラニン残基を末端に付加したデンドリマーの作製
(2.1) G4-Sucへのフェニルアラニン残基の付加
G4-Sucのカルボキシ末端と、カルボキシ末端を保護したフェニルアラニン残基のアミノ末端とを反応させた。具体的な手順は次のとおりであった。G4-Suc(83 mg、3.8μmol)をDMSO(5 mL)に分散させて一晩撹拌した。その後、G4-Sucの溶液に3-フェニル-L-アラニンベンジルエステル4-トルエンスルホネート(Phe-OBzl・Tos)(0.12 g、0.30 mmol)、1-[ビス(ジメチルアミノ)メチレン]-1H-ベンゾトリアゾール-3-オキシドヘキサフルオロホスフェート(HBTU)(0.11 g、0.28 mmol)及びトリエチルアミン(TEA)(41μL、0.29 mmol)を添加して室温で撹拌した。4日間撹拌した後、蒸留水(1mL)を添加し、得られた溶液を、透析膜(分子量カットオフ(MWCO):1,000)を用いてメタノール中で透析して精製した。精製した溶液からメタノールを減圧除去し、凍結乾燥して、Phe-OBzlが末端に付加されたG4-Suc(G4-Suc-Phe-OBzl)の粉末を得た。収量は88 mgであり、収率は66%であった。G4-Suc-Phe-OBzlの溶液を1H-NMRスペクトル測定した結果を、以下に示す。
【0062】
G4-Suc-Phe-OBzl (DCl含有MeOD):2.33 (s, トシルのCH3), 2.41-2.49 (コハク酸のメチレン), 2.70-3.04 (m, PAMAMの内側及び末端の鎖のNCH2CH2CONHCH2CH2N、及びPAMAMの内側の鎖のNCH2CH2CONHCH2CH2N、及びPheのHβ), 3.25-3.62 (br, PAMAMの内側及び末端の鎖のNCH2CH2CONHCH2CH2N、及びPAMAMの内側及び末端の鎖のNCH2CH2CONHCH2CH2N、及びPAMAMの末端の鎖のNCH2CH2CONHCH2CH2N), 4.62 (br, PheのHα), 5.02 (br, Pheのベンジル), 7.11-7.26 (m, Phe及びトシルのフェニル)、及び7.69 (m, トシルのフェニル).
【0063】
(2.2) G4-CHexへのフェニルアラニン残基の付加
上記(2.1)で述べたことと同様にして、G4- CHexのカルボキシ末端と、カルボキシ末端を保護したフェニルアラニン残基のアミノ末端とを反応させた。具体的には、DMSO(5mL)中で、G4- CHex (53 mg、2.11μmol)と、Phe-OBzl・Tos(0.12 g、0.30 mmol)、HBTU(0.09g、0.24 mmol)及びTEA(41μL、0.29 mmol)とを反応させて、Phe-OBzlが末端に付加されたG4-CHex(G4-CHex-Phe-OBzl)を得た。ここに蒸留水(1 mL)を添加し、得られた溶液を、透析膜(分子量カットオフ(MWCO):1,000)を用いてメタノール中で透析して精製した。精製した溶液からメタノールを減圧除去し、凍結乾燥してG4-CHex-Phe-OBzlの粉末を得た。収量は84 mgであり、収率は109%であった。G4-CHex-Phe-OBzlの溶液を1H-NMRスペクトル測定した結果を、以下に示す。
【0064】
G4-CHex-Phe-OBzl (DCl含有MeOD): 1.27-2.03 (m, CHexのメチレン), 2.34 (s, トシルのCH3), 2.50-3.12 (m, PAMAMの内側及び末端の鎖のNCH2CH2CONHCH2CH2N、及びPAMAMの内側の鎖のNCH2CH2CONHCH2CH2N、及びPheのHβ), 3.44-3.58 (br, PAMAMの内側及び末端の鎖のNCH2CH2CONHCH2CH2N、及びPAMAMの内側及び末端の鎖のNCH2CH2CONHCH2CH2N、及びPAMAMの末端の鎖のNCH2CH2CONHCH2CH2N、及びCHexのメチン), 4.56-4.65 (br, PheのHα), 5.00 (br, Pheのベンジル), 7.15-7.28 (m, Phe及びトシルのフェニル), and 7.67-7.69 (m, トシルのフェニル).
【0065】
(2.3) デンドリマー末端のフェニルアラニン残基の脱保護
G4-Suc-Phe-OBzl(101 mg、2.9μmol)及びG4-CHex-Phe-OBzl(84 mg、2.2μmol)をそれぞれメタノール(4mL)に溶解し、4M NaOHメタノール溶液(500μL)を添加した。4℃で2時間撹拌した後、各デンドリマーの分散液を、透析膜(分子量カットオフ(MWCO):1,000)を用いて蒸留水中で透析して精製した。精製した溶液を凍結乾燥して、フェニルアラニン残基を末端に付加したデンドリマー(G4-Suc-Phe及びG4-CHex-Phe)の白色固体を得た。G4-Suc-Pheの収量は57 mgであり、収率は64%であった。G4-CHex-Pheの収量は55 mgであり、収率は77%であった。
【0066】
ここで、G4 PAMAMは64の末端基を有するデンドリマーである。G4-Suc-Phe及びG4-CHex-Pheの各溶液を
1H-NMRスペクトル測定した結果、末端基への酸無水物(Suc又はCHex)の結合数、及び酸無水物へのフェニルアラニン残基の結合数は、表1に示すとおりであった。また、G4-Suc及びG4-CHex、G4-Suc-Phe及びG4-CHex-Pheの各デンドリマーが有する64の末端基のうちの1つの化学構造を表した模式図を
図1に示す。
図1において「den」は、G4 PAMAMを示す。
【0067】
【0068】
表1より、免疫細胞移行用担体として、フェニルアラニン残基を末端に付加したデンドリマーのG4-Suc-Phe及びG4-CHex-Pheが得られたことが示された。また、G4-Suc-Phe及びG4-CHex-Pheでは、それぞれリンカーとしてエチレン基及びシクロヘキシレン基を介して、デンドリマーの末端とフェニルアラニン残基とが結合したことが示された。
【0069】
実施例1: 蛍光色素を連結した免疫細胞移行用担体のイメージング
(1) 蛍光色素を連結した免疫細胞移行用担体の調製
(1.1) G5-CHex-Phe及びG5-Sucの調製
G4 PAMAMデンドリマーに替えて、G5 PAMAMデンドリマー(Sigma-Aldrich社)を用いたこと以外は上記の製造例と同様にして、コハク酸を末端に付加したデンドリマー(G5-Suc)、及びシクロヘキシレン基をリンカーとしてフェニルアラニン残基を末端に付加したデンドリマー(G5-CHex-Phe)を調製した。
【0070】
(1.2) G5-CHex-Phe及びG5-Sucへのアミノ基の付与
G5-CHex-Phe(25.34 mg, 0.376μmol)、N-(tert-ブトキシカルボニル)-1,2-ジアミノエタン(Boc-エチレンジアミン)(東京化成工業株式会社、0.3μL、1.88μmol)及び4-(4,6-ジメトキシ-1,3,5-トリアジン-2-イル)-4-メチルモルホリニウムクロリド(DMT-MM)(Sigma-Aldrich社、1.23 mg、3.37μmol)を純水(2.5 mL)に溶解し、室温で一晩撹拌して反応させた。反応液を限外ろ過(MWCO:3000、10℃、7500 g、125 mM NaHCO3水溶液)で精製した。得られた溶液を凍結乾燥して、白色粉末(G5-CHex-Phe-Boc)を得た。収量は23.42 mgで、収率は90%であった。G5-CHex-Phe-Boc(21.03 mg、0.305μmol)をトリフルオロ酢酸(TFA)(1.2 mL)に溶解し、4℃で一晩攪拌して、Boc基を除去した。その後、溶媒を減圧留去し、純水を加えて減圧留去を複数回行って生成物を洗浄した。生成物を一晩真空乾燥した後、さらに凍結乾燥して、アミノ基を末端に付与したG5-CHex-Pheの白色結晶を得た。収量は34.48 mgで、収率は166%であった。G5-Sucについても上記と同様にして、アミノ基を末端に付与したG5-Sucを得た。
【0071】
(1.3) G5-CHex-Phe及びG5-Sucへの蛍光色素の結合
アミノ基を末端に付与したG5-CHex-Phe(20 mg、0.29μmol)を125 mM NaHCO3水溶液(1mL、pH 8.3)に溶解した。ここに、デンドリマーに対して4当量の緑色蛍光色素HiLyte(商標) Fluor 488 acid SE(Anaspec社、0.41 mg、0.587μmol)のDMSO溶液(1mL)を加え、遮光した状態で室温にて24時間撹拌した。その後、限外濾過(MWCO:3000、4℃、7500 g、125 mM NaHCO3水溶液)で精製した。得られた溶液を凍結乾燥して、蛍光色素を末端に連結したG5-CHex-Pheの結晶を得た。収量は9.24 mg、収率は45%であった。アミノ基を末端に付与したG5-Sucについても上記と同様にして、蛍光色素を末端に連結したG5-Sucを得た。
【0072】
(1.4) NMR測定及び紫外可視吸光(UV-vis)測定
蛍光色素を連結した各デンドリマー(約4mg)をD2O(30μL)及びNaOD(20μL)に溶解し、400 MHz JNM-LA 400 JNM-ECX(JEOL社製)を用いて室温で化合物の1H NMR及び31P NMR測定を行った。デンドリマー1分子に対する蛍光色素の結合数を、V-630紫外可視分光光度計(JASCO社製)を用いて同定した。蛍光色素を連結した各デンドリマーの水溶液(1mL)を測定セルに取り、吸収スペクトル(350-650 nm、25℃)を測定した。ここで、G5 PAMAMは128の末端基を有するデンドリマーである。NMR測定の結果より、G5-CHex-Pheでは、128の末端基のうち126の末端基にCHexが結合し、そのうちの111のCHex結合末端基にさらにPheが結合していた。また、G5-Sucでは、128の末端基のうち128の末端基にSucが結合していた。UV-vis測定の結果より、1分子のG5-CHex-Pheには2分子の蛍光色素が結合しており、1分子のG5-Sucには、1分子又は3分子の蛍光色素が結合していた。以下、2分子の蛍光色素を末端に連結したG5-CHex-Pheを「G5-CHex-Phe(dye2)」と呼び、1分子及び3分子の蛍光色素を末端に連結したG5-Sucをそれぞれ「G5-Suc(dye1)」及び「G5-Suc(dye3)」と呼ぶ。
【0073】
(2) 蛍光色素を連結した免疫細胞移行用担体のイメージング
(2.1) 動物
全ての動物実験は、BALB/cCrSlcマウス(8~10週齢、メス、18~21 g、日本エスエルシー株式会社)を用いて、動物実験に関する大学の規定を遵守して行った。
【0074】
(2.2) リンパ節内の免疫細胞への移行
G5-CHex-Phe(dye2)、G5-Suc(dye1)又はG5-Suc(dye3)を、色素濃度が10 nmol/100μLとなるように生理食塩水に添加して、各デンドリマーの分散液を調製した。マウスの両手両足の甲に各デンドリマーの分散液(手に20μL、足に30μL)を皮内投与した。投与後、即座に投与部位を30秒間マッサージした。3時間後及び24時間後にマウスを安楽死させ、腋窩リンパ節及び膝下リンパ節を採取した。対照として、デンドリマーを投与していないマウスから同様にしてリンパ節を採取した。採取したリンパ節を、氷冷下で1mLの無血清RPMIで満たした24ウェルプレートに浸した。ウェル内のRPMIを除去し、リンパ節をハサミで分断して、1mg/mLコラゲナーゼ溶液(1mL)を加えて37℃で30分間静置した。そして、リンパ節組織をセルストレーナ上ですりつぶして、細胞を得た。細胞を含む液を遠心分離(4000 rpm、5分)して上澄みを除去し、細胞に無血清RPMI(5mL)を加えて分散させた。細胞を含む液を遠心分離(4000 rpm、5分)して上澄みを除去し、ステインバッファー(1%FBS、0.09%NaN
3、2mM EDTA及びPBS)(0.5 mL)を加えて細胞懸濁液を得た。細胞懸濁液に、細胞数が2×10
7 cells/mLとなるようにステインバッファーを添加し、1.5 mLチューブに50μLずつ分取した。細胞懸濁液を遠心分離(9200 rpm、5分)して上澄みを除去した。ここに、黄色蛍光色素のフィコエリスリン(PE)で標識した抗CD3抗体、抗CD45R抗体、抗CD11c抗体及び抗F4/80抗体の溶液(各50μL)を添加し、氷冷下で30分間、暗所に静置した。ここで、CD3、CD45R、CD11c及びF4/80は、それぞれT細胞、B細胞、樹状細胞及びマクロファージを検出するための分子マーカーである。比較のため、いずれの標識抗体も添加しなかった細胞も用意した。その後、ステインバッファー(100μL)を加え、遠心分離(9200 rpm、5分、4℃)して上澄みを除去して、細胞を洗浄した。各標識抗体と反応させた細胞にステインバッファー(1mL)を添加して、フローサイトメトリ(FCM)解析用検体を得た。各検体をBD FACS(商標) Calibur(BD Biosciences社製)を用いて解析した。各検体における10,000 cellsの解析結果に基づいて、縦軸に細胞数を取り、横軸に緑色蛍光(530 nm)の強度を取った分布図(
図2A参照)、及び、縦軸に黄色蛍光(585 nm)の強度を取り、横軸に緑色蛍光(530 nm)の強度を取ったスキャッタグラム(
図2B参照)を作成した。解析では、死細胞及び不純物を除去するため、前方散乱及び側方散乱の測定による細胞の大きさ及び形状に関する分布図から、リンパ節の生細胞のみを測定するゲートを決定した。
【0075】
図2Aより、G5-Suc(dye1)又はG5-Suc(dye3)は、デンドリマーを投与していない対照(Control)と同様の分布を示しており、リンパ節内の細胞にはほとんど移行しないことが示唆された。これに対して、G5-CHex-Phe(dye2)は、対照に比べて、緑色蛍光強度が高値を示す細胞が多く検出された。よって、G5-CHex-Phe(dye2)は、リンパ節内の細胞に移行したことが示唆された。
【0076】
図2Bの対照のスキャッタグラムに示されるように、採取したリンパ節内の免疫細胞は、T細胞及びB細胞がほとんどを占めており、樹状細胞及びマクロファージは比較的少なかった。G5-Suc(dye3)のPE標識抗体を添加していない(No staining)のスキャッタグラムに示されるように、緑色蛍光強度が高値を示した細胞が少なかったことから、G5-Suc(dye3)はリンパ節内の細胞にはほとんど移行しないことが示された。これは
図2Aとも一致する。また、G5-Suc(dye3)について、各PE標識抗体を添加したスキャッタグラムに示されるように、緑色蛍光強度及び黄色蛍光強度の両方が高値を示した免疫細胞は少なかった。このことから、G5-Suc(dye3)がT細胞、B細胞、樹状細胞及びマクロファージのいずれにもあまり取り込まれないことが示唆された。一方、G5-CHex-Phe(dye2)について、各PE標識抗体を添加したスキャッタグラムでは、G5-Suc(dye3)に比べて、緑色蛍光強度及び黄色蛍光強度の両方が高値を示した免疫細胞が多く検出された。
図2Bに基づいて、黄色蛍光強度が高値を示した免疫細胞(PE標識抗体で検出された免疫細胞)における、緑色蛍光強度が高値を示した免疫細胞(免疫細胞移行用担体を取り込んだ細胞)の割合を示すグラフ(
図3)を作成した。
図3において「T」はT細胞を表し、「B」はB細胞を表し、「DC」は樹状細胞を表し、「MΦ」はマクロファージを表す。
図3に示されるように、G5-CHex-Phe(dye2)は、T細胞、B細胞、樹状細胞及びマクロファージのいずれにも良好に移行した。
【0077】
(2.3) インビボ蛍光イメージング
G5-CHex-Phe(dye2)又はG5-Suc(dye3)を、色素濃度が10 nmol/100μLとなるように生理食塩水に添加して、デンドリマーの分散液を調製した。マウスの足に各デンドリマーの分散液(30μL)を投与した。投与後、即座に投与部位を30秒間マッサージした。投与から4時間後及び24時間後にマウスを安楽死させ、表皮を剥いだ。手足を固定し、蛍光顕微鏡FluoVivo(INDEC Biosystems社製)を用いてインビボ蛍光イメージングを行った。結果を
図4に示す。
【0078】
図4において、楕円で囲んだ箇所は各デンドリマーの投与部位を示し、矢印が示す部位はリンパ節を示し、アローヘッドが示す部位はリンパ管を示す。G5-CHex-Phe(dye2)及びG5-Suc(dye3)の投与から4時間後のマウスでは、リンパ節が検出できた。また、G5-CHex-Phe(dye2)の投与から4時間後のマウスでは、1次リンパ節と2次リンパ節とをつなぐリンパ管も確認できた。しかし、投与から24時間後は、G5-Suc(dye3)を投与されたマウスではリンパ節を検出できなかった。一方、G5-CHex-Phe(dye2)を投与されたマウスではリンパ節を検出できた。ここで、
図4に示す画像はいずれも同じ露光時間で撮像されたが、G5-CHex-Phe(dye2)は、G5-Suc(dye3)に比べて、明らかに強い蛍光を発していることがわかる。このことから、G5-CHex-Phe(dye2)のリンパ節の集積量は、G5-Suc(dye3)よりも多いことが示唆された。
【0079】
実施例2: 放射性物質を連結した免疫細胞移行用担体の体内動態
(1) 放射性物質を連結した免疫細胞移行用担体の調製
(1.1) キレート剤を連結した免疫細胞移行用担体の調製
実施例2では、実施例1で調製した、アミノ基を末端に付与したG5-Suc及びG5-CHex-Pheを用いた。アミノ基を末端に付与したG5-CHex-Phe(12.16 mg、0.212μmol)を125 mM NaHCO3水溶液(900μL、pH 8.3)に溶解した。ここに、デンドリマーに対して7当量のキレート剤p-SCN-Bn-DTPA(0.967 mg、1.49μmol)の125 mM NaHCO3水溶液(900μL)を加え、37℃で24時間撹拌した。その後、限外濾過(MWCO:3000、4℃、7500 g、125 mM NaHCO3水溶液)で精製した。得られた溶液を凍結乾燥して、蛍光色素を末端に連結したG5-CHex-Pheの結晶を得た。収量は5.27 mgで、収率は35%であった。アミノ基を末端に付与したG5-Sucについても上記と同様にして、キレート剤を末端に連結したG5-Sucを得た。実施例1と同様にして、放射性物質を連結した各デンドリマーをUV-vis測定して、デンドリマー1分子に対するキレート剤の結合数を、V-630紫外可視分光光度計(JASCO社製)を用いて同定した。UV-vis測定の結果より、1分子のG5-CHex-Phe及びG5-Sucのいずれにも、2分子のキレート剤が結合していた。
【0080】
(1.2) キレート剤と放射性物質との会合
アミノ基を末端に付与したG5-CHex-Phe(20 nmol)を0.3 M酢酸アンモニウム水溶液(200μL)に溶解した。ここに、111InCl3(200μL、~0.18 mCi)を加え、室温で1時間撹拌した。その後、PD-10カラム(PBS)で精製し、限外濾過(MWCO:3000)した。得られた溶液を、放射性物質の濃度が10μCi/100μLとなるように生理食塩水で希釈して、放射性物質(111In)を末端に連結したG5-CHex-Pheの溶液を得た。アミノ基を末端に付与したG5-Sucについても上記と同様にして、放射性物質を末端に連結したG5-Sucを得た。
【0081】
(2) 免疫細胞移行用担体の体内動態分析
動物実験は、BALB/cCrSlcマウス(8~10週齢、メス、18~21 g、日本エスエルシー株式会社)を用いて、動物実験に関する大学の規定を遵守して行った。マウスの足に、放射性物質を連結した各デンドリマーの分散液(30μL)を皮内投与した。投与後、即座に投与部位を30秒間マッサージした。投与から3時間後及び24時間後にマウスを安楽死させ、投与部位、膝下リンパ節、血液、心臓、肺、肝臓、脾臓及び腎臓を採取して秤量した。手足を固定し、マウスから採取した臓器等の放射活性をオートウェルガンマカウンタ(PerkinElmer社製)を用いて測定した。結果を
図5に示す。
図5から分かるように、G5-CHex-Pheを投与したマウスは、G5-Sucを投与したマウスに比べて、リンパ節における放射活性が顕著に高かった。すなわち、G5-CHex-Pheは、G5-Sucに比べて顕著にリンパ節に集積することが示唆された。また、G5-CHex-Pheを投与したマウスの肝臓及び腎臓から放射線が検出されたことから、投与されたG5-CHex-Pheの一部はリンパ節から血管へ達して、全身に循環することが示唆された。
【0082】
実施例3: 蛍光色素を連結した免疫細胞移行用担体のイメージング(2)
(1) 蛍光色素を連結した免疫細胞移行用担体の調製
実施例3では、免疫細胞移行用担体として、製造例1で調製したG4-Suc-Phe及びG4-CHex-Pheを用いた。比較のため、製造例1で調製したG4-Suc及びG4-CHexも用いた。実施例1と同様にして、G4-Suc-Phe、G4-CHex-Phe、G4-Suc及びG4-CHexのそれぞれと、4当量のBoc-エチレンジアミン及び6当量のDMT-MMとを反応させ、適当量のTFAによりBoc基を除去して、各デンドリマーの末端にアミノ基を付与した。これらをNMR測定した結果、1分子の各デンドリマーの末端には4~5分子のエチレンジアミンが結合していた。アミノ基を末端に付与した各デンドリマーをDMSO(1mL)に溶解した。ここに、デンドリマーに対して4当量の緑色蛍光色素FITC(東京化成工業株式会社)及び6当量のTEAを加え、遮光した状態で室温にて一晩撹拌した。その後、限外濾過(MWCO:2000、DMSO、メタノール)で精製した。得られた溶液を凍結乾燥して、蛍光色素を末端に連結したG4-Suc-Phe、G4-CHex-Phe、G4-Suc及びG4-CHexのそれぞれの結晶を得た。これらをUV-vis測定した結果、1分子の各デンドリマーの末端には1~2分子のFITCが結合していた。
【0083】
(2) インビトロでの脾臓内の免疫細胞への移行
(2.1) 脾臓の細胞の採取、及び免疫細胞移行用担体との接触
動物実験は、BALB/c Slc-nu/nuヌードマウス(メス、MDA-MB-231がん腫瘍有り、日本エスエルシー株式会社)を用いて、動物実験に関する大学の規定を遵守して行った。マウスを安楽死させ、脾臓を採取した。採取した脾臓を、氷冷下で無血清RPMIに浸し、ハサミで分断した。分断した脾臓組織に1mg/mLコラゲナーゼ溶液(1mL)を加えて37℃で30分間静置した。そして、脾臓組織をセルストレーナ上ですりつぶして、細胞を得た。細胞を含む液を遠心分離(4000 rpm、5分)して上澄みを除去し、細胞に無血清RPMI(5mL)を加えて分散させた。細胞を含む液を遠心分離(4000 rpm、5分)して上澄みを除去し、無血清RPMI(10 mL)を加えて細胞懸濁液を得た。細胞懸濁液を96ウェルプレートに1×104 cells/wellで播種した。FITCを連結した各デンドリマーを、色素濃度が5μMとなるように無血清RPMIに添加して、各デンドリマーの分散液を調製した。各デンドリマーの分散液を1ウェル当たり100μLずつ添加して、4℃で4時間、又は37℃で1時間若しくは4時間インキュベートした。
【0084】
(2.2) 細胞の蛍光イメージング
96ウェルプレートを遠心分離(4000 rpm、20秒)して上澄みを除去して、PBSで細胞を洗浄した。細胞を倒立顕微鏡IX71(オリンパス株式会社、対物レンズ倍率10倍)で観察し、イメージングソフトウェアCellScens Standard(オリンパス株式会社製)で解析した。結果を表2に示す。表中、「×」は、緑色蛍光を発する細胞が検出されなかったことを示し、「○」は、緑色蛍光を発する細胞が検出されたことを示す。
【0085】
【0086】
実施例3では、検体としてヌードマウスの脾臓を用いた。ヌードマウスには胸腺がなく、また脾臓にはB細胞が豊富に存在することから、この実験では主にB細胞への免疫細胞移行用担体の移行を観察している。表2に示されるように、37℃でインキュベートした場合、末端にフェニルアラニン残基が末端に結合したデンドリマーのみ、細胞に移行できた。一方、4℃では、いずれのデンドリマーも細胞には移行していなかった。このことから、フェニルアラニン残基が末端に結合したデンドリマーは、細胞膜を透過して細胞内に移行しているのではなく、細胞のエンドサイトーシスを介して細胞内に移行していることが示唆された。
【0087】
実施例4: 蛍光色素を連結した免疫細胞移行用担体のイメージング(3)
(1) 蛍光色素を連結した免疫細胞移行用担体
実施例4では、免疫細胞移行用担体として、実施例3で調製した、FITCを末端に連結したG4-Suc-Phe及びG4-CHex-Pheを用いた。比較のため、FITCを末端に連結したG4-Suc及びG4-CHexも用いた。
【0088】
(2) インビトロでの脾臓内の免疫細胞への移行
(2.1) 脾臓の細胞の採取、免疫細胞移行用担体との接触、及び免疫染色
動物実験は、BALB/cマウス(6週齢、メス、日本エスエルシー株式会社)を用いて、動物実験に関する大学の規定を遵守して行った。マウスを安楽死させ、脾臓を採取した。実施例3と同様にして、採取した脾臓から細胞懸濁液を得た。細胞数が1.6×10
6 cells/tubeとなるように細胞懸濁液を1.5 mLチューブに分取した。FITCを連結した各デンドリマーを、色素濃度が5μMとなるように無血清RPMIに添加して、各デンドリマーの分散液を調製した。各デンドリマーの分散液を、細胞を含む1.5 mLチューブに添加して、37℃で3時間インキュベートした。また、無血清RPMIのpHを6.02に調整したこと以外は上記と同様にして、各デンドリマーの分散液を、細胞を含む1.5 mLチューブに添加して、37℃で3時間インキュベートした。なお、pHを調整していない無血清RPMIのpHは7.95であった。細胞を含む液を遠心分離(3000 rpm、5分、4℃)して上澄みを除去し、ステインバッファー(1%FBS、2mM EDTA及びPBS)(0.5 mL)を加えて細胞懸濁液を得た。細胞数が2×10
5cells/tubeとなるように細胞懸濁液を1.5 mLチューブに分取した。PEで標識した抗CD3抗体、抗CD45R抗体、抗CD11c抗体及び抗F4/80抗体の溶液(抗体:無血清RPMI=1:49、全量50μL)を添加し、氷冷下で30分間、暗所に静置した。その後、ステインバッファー(100μL)を加え、遠心分離(3000 rpm、5分、4℃)して上澄みを除去して、細胞を洗浄した。各標識抗体と反応させた細胞にステインバッファー(0.5 mL)を添加して、FCM解析用検体を得た。各検体をBD FACS Calibur(BD Biosciences社製)を用いて解析した。実施例1と同様にして、解析結果から、PE標識抗体で検出された免疫細胞における、免疫細胞移行用担体を含む細胞の割合を示すグラフ(
図6)を作成した。また、pHを6.02にした場合のPE標識抗体で検出されたT細胞及びB細胞における、免疫細胞移行用担体を含む細胞の割合を示すグラフ(
図7)を作成した。
【0089】
図6において「T」はT細胞を表し、「B」はB細胞を表し、「DC」は樹状細胞を表し、「MΦ」はマクロファージを表す。
図6に示されるように、G4-Suc-Pheは、脾臓由来のT細胞、B細胞、樹状細胞及びマクロファージのいずれにも移行した。G4-CHex-Pheも同様にいずれの免疫細胞にも移行した(図示せず)。一方で、G4-Suc及びG4-CHexは、いずれの細胞にもほとんど移行しなかった(図示せず)。
図7において「T」はT細胞を表し、「B」はB細胞を表す。
図7に示されるように、G4-Suc-Pheは、培地のpHを6.02に調整したことで、T細胞へ移行する割合が増加した。G4-CHex-Pheも同様の傾向を示した(図示せず)。一方、B細胞へ移行した割合に変化はなかった。このことから、G4-Suc-Phe及びG4-CHex-Pheは、酸性条件下ではT細胞への移行性が向上することが示唆された。
【0090】
製造例2: 免疫細胞移行用担体の調製(2)
(1) G4-Ph-Pheの調製
末端にフェニルアラニン残基を有し、フタル酸をリンカーにもつ免疫細胞移行用担体(G4-Ph-Phe)を、Tamaki M.ら, RSC Adv., 2018, vol.8, pp.28147-28151に記載の方法で調製した。合成スキームを下記に示す。
【0091】
【0092】
PAMAMデンドリマーG4(56.0 mg、3.94μmol)をDMSO-DMF混合溶媒(2.3 mL)に溶解し、過剰量の無水フタル酸(0.3170 g、1.90 mmol)を加え、TEA(200μL、1.44 mmol)を加え、一晩室温で撹拌した。DMSOで透析(MWCO:1000)後、蒸留水で透析した。最後に凍結乾燥を行い、G4-Phを得た(収量:67.3 mg、収率:69%)。次に、G4-Ph(34.5 mg、1.46μmol)をはかりとり、DMSO(5 mL)に分散させ、一晩撹拌させた。撹拌後、Phe-OMe・HCl (0.1200 g、280μmol)、HBTU(0.1100 g、290μmol)、TEA(40.7μL、294μmol)を加えて、4日間撹拌した後、蒸留水(1mL)を添加し、得られた溶液を、透析膜(分子量カットオフ(MWCO):1,000)を用いてメタノール中で透析して精製した。精製した溶液からメタノールを減圧除去し、凍結乾燥してG4-Ph-(Phe-OMe)を得た(収量:30.5 mg、収率:60 %)。続いて、G4-Ph-(Phe-OMe)をメタノール(4mL)に溶解し、4M NaOHメタノール溶液(500μL)を添加した。4℃で2時間撹拌した後、デンドリマーの分散液を、透析膜(分子量カットオフ(MWCO):1,000)を用いて蒸留水中で透析して精製した。精製した溶液を凍結乾燥して、G4-Ph-Pheを得た(収量:63.2mg、収率:90.2 %)。G4- Ph-Pheの1H-NMRスペクトル測定した結果、G4 PAMAMの末端基へのフタル酸(Ph)の結合数は64、フェニルアラニン残基(Phe)の結合数は58であった。
【0093】
実施例5: G4-Suc-Phe、G4-Ph-Phe及びG4-Chex-Pheの温度に対する透過率の変化の測定
種々のpHを有するG4-Suc-Phe、G4-Ph-Phe及びG4-Chex-Pheの各溶液を作製し、これらの溶液の温度を変化させて透過率を測定した。測定条件; 測定波長:500 nm、昇温速度:1℃/min、測定間隔:0.1℃、バンド幅:1.5 nm。pHをグリシン塩酸緩衝液(pH3.5以下)、酢酸緩衝液(pH 5.5以下)及びリン酸緩衝液(pH 6以上)で調整した後、UV/Vis Spectrophotometer (V-630, JASCO)により透過率の温度変化測定を行った。温度の調整にはペルチェホルダ(ETC-717, JASCO)を用いた。結果を
図8に示す。
【0094】
いずれのデンドリマーも溶液のpHが酸性になると、透過率が減少する挙動が見られた。G4-Chex-Phe、G4-Ph-Phe、G4-Suc-PheはpH6.5, pH6, pH 5の水溶液では体温付近で透過率が減少した。また、このpH条件では加温すると透過率が上昇する上限臨界溶液温度(UCST)型の挙動が見られた。
【0095】
製造例3: 免疫細胞移行用担体の調製(3)
(1) G4-Phe-SO3Hの調製
末端にフェニルアラニン残基を有し、アニオン性末端基がスルホン基である免疫細胞移行用担体(G4-Phe-SO3H)を、Chen HT.ら, J.Am.Chem.Soc., 2004, vol.126(32), pp.10044-10048を参照して、下記のスキームにより合成した。
【0096】
【0097】
G4 PAMAMデンドリマー(Sigma-Aldrich社)のアミノ末端と、アミノ基を保護したフェニルアラニン残基のカルボキシル末端とを反応させて、G4-Pheを得た。1,3-プロパンスルトン(142.3 mg、1.17 mmol)をアセトニトリル(2.8 mL)に溶解した。G4-Phe(92.2 mg、2.27μmol)を125 mM NaHCO3緩衝液(2.8 mL)に溶解した。これら2つの溶液を混合し、窒素バブリング後、室温で攪拌した。その後、2日間放置し、3日目にpHを測定した。pHが1以下になっていたので、4M NaOH水溶液を加えてpHを塩基性にして、窒素バブリングして攪拌した。4日目にpHを測定した。pHがpH7~8になっていたので、4M NaOH水溶液を加えてpHを約9まで上げた。5日目にpHを測定した。pHが約8であったので、HCl水溶液を加えてpHを下げた後、pHを約8まで上げた。エバポレーターで溶液の量を減らした後、蒸留水(2.1 mL)を加え、蒸留水で透析した。凍結乾燥後、G4-Phe-SO3Hを得た(収量:60.9 mg, 収率:95%)。G4-Phe-SO3Hの溶液を1H-NMRスペクトル測定した結果、G4 PAMAMの末端基へのフェニルアラニン残基(Phe)の結合数は49であり、G4 PAMAMの末端基及びフェニルアラニン残基へのスルホン酸の結合数は56であった。
【0098】
(2) G4-Phe-SO
3Hの温度に対する透過率の変化の測定
1 mg/mL (buffer濃度20 mM)のG4-Phe-SO
3H溶液を作製し、該溶液の温度を変化させて透過率を測定した。測定条件; 測定波長:500 nm、昇温速度:1℃/min、測定間隔:0.1℃、バンド幅:1.5 nm。pHをグリシン塩酸緩衝液(pH3.5以下)、酢酸緩衝液(pH 5.5以下)及びリン酸緩衝液(pH 6以上)で調整した後、UV/Vis Spectrophotometer (V-630, JASCO)により透過率の温度変化測定を行った。温度の調整にはペルチェホルダ(ETC-717, JASCO)を用いた。結果を
図9に示す。
【0099】
図9に示されるように、G4-Phe-SO
3Hは、pH 5では下限臨界溶液温度(LCST)型相転移(LCST=52℃)を示し、pH 6.5ではUCST型相転移(UCST=36℃)を示した。G4-Phe-SO
3Hは、酸性条件でLCST型及びUCST型相転移を鋭敏に起こすデンドリマーであった。G4-Phe-SO
3H溶液の透過率は、pH 6.5で室温の条件では3%であったが、pH 6.5で約40℃の条件では91%まで向上した。また、Tamaki M.ら, RSC Adv., 2018, vol.8, pp.28147-28151を参照すると、pH 6.5で約37℃の条件でのG4-Phe-SO
3H溶液の透過率は、同条件でのG4-CHex-Phe溶液の透過率と同程度(約30%)であった。
【0100】
製造例4: 免疫細胞移行用担体の調製(4)
(1) G3.5-Phe及びG2.5-Pheの調製
デンドリマーの末端基にフェニルアラニン残基が直接結合し、アニオン性末端基がカルボキシル基である免疫細胞移行用担体(G3.5-Phe及びG2.5-Phe)を下記のスキームにより合成した。この製造例では、末端基がカルボキシル基であるPAMAMデンドリマー(G3.5:末端数64、及びG2.5:末端数32)と、カルボキシル基を保護したフェニルアラニン残基のアミノ基とを反応させた。
【0101】
【0102】
(1.1) G3.5-Pheの調製
PAMAMデンドリマーG3.5(38.7mg、2.99μmol)を125 mM NaHCO3水溶液(pH 9.1、100μL)に溶解し、DMSO(4 mL)を加えて。DMT-MM(215.2 mg、777μmol)を加えた。Phe-OBzl・Tos(156.1 mg、365μmol)を加え、3日間室温で撹拌した。次にメタノールで透析(MWCO:2000)を行った。メタノールを減圧留去し、真空乾燥を3時間した後、凍結乾燥を行い、G3.5-(Phe-OBzl)を得た(収率:39.1 mg、収率:47.5%)。次に、合成したG3.5-(Phe-OBzl)(39.1 mg、1.42μmol)をメタノール(4 mL)に溶解し、4M NaOHを含むメタノール溶液(500μL)を加え、4℃にて2時間撹拌した。撹拌後、蒸留水で透析した(MWCO:2000)。その後、凍結乾燥してG3.5-Pheを得た(収率:25.0 mg、収率:101%)。1H NMR(DCl含有D2O)スペクトル測定の結果、PAMAMデンドリマーG3.5の末端基へのフェニルアラニン残基(Phe)の結合数は30であった。これらの反応で得られたG3.5-Pheを以下「G3.5-Phe30」と呼ぶ。
【0103】
別の合成条件でもG3.5-Pheを調製した。すなわち、縮合反応においてDMSO(1.5 mL)/水(1 mL)を溶媒として用いて同様に反応を行って、G3.5-Pheを得た(収量:39.5 mg、収率:71.0%)。1H NMR(DCl含有D2O)スペクトル測定の結果、PAMAMデンドリマーG3.5の末端基へのフェニルアラニン残基(Phe)の結合数は41であった。これらの反応で得られたG3.5-Pheを以下「G3.5-Phe41」と呼ぶ。
【0104】
(1.2) G2.5-Pheの調製
PAMAMデンドリマーG2.5(38.0 mg、6.06μmol)を蒸留水(100μL)に溶解した。次に、DMSO(4 mL)を加えG2.5を分散させた。そしてDMT-MM(198.9 mg、718μmol)、Phe-OBzl・Tos(137.2 mg、321μmol)を加え、上記と同様に反応及び精製することでG2.5-(Phe-OBzl)を得た(収量:57.8 mg、収率:71.9%)。次に、合成したG2.5-(Phe-OBzl)(55.8 mg、4.21μmol)を上記(1.1)と同様に反応及び精製をすることで、G2.5-Pheを得た(収量:25.2mg、収率:92.2%)。1H NMR(DCl含有D2O)スペクトル測定の結果、PAMAMデンドリマーG2.5の末端基へのフェニルアラニン残基(Phe)の結合数は18であった。これらの反応で得られたG2.5-Pheを以下「G2.5-Phe18」と呼ぶ。
【0105】
別の合成条件でもG2.5-Pheを調製した。すなわち、PMAMAデンドリマー(G2.5)の末端に対して0.5当量のPhe-OBzl・Tosを加えて同様に反応を行って、G2.5-Pheを得た(収量:13.7 mg、収率:53.3%)。1H NMR(DCl含有D2O)スペクトル測定の結果、PAMAMデンドリマーG2.5の末端基へのフェニルアラニン残基(Phe)の結合数は14であった。これらの反応で得られたG2.5-Pheを以下「G2.5-Phe14」と呼ぶ。
【0106】
(2) G3.5-Phe及びG2.5-Pheの温度に対する透過率の変化の測定
製造例2と同様にして、種々のpHを有するG3.5-Phe及びG2.5-Pheの溶液を調製し、該溶液の温度を変化させて透過率を測定した。結果を
図10A~Dに示す。
図10Aに示されるように、G3.5-Phe
30の溶液の透過率は、pH 7では変化はなく、pH 6では、5℃から55℃まで加温によって緩やかに上昇した。これはUCST型の挙動であった。一方、pH 5では、低温で透過率が高く、45℃付近から透過率が減少した。これはLCST型の挙動であった。また、pH 4でもLCST型の挙動を示したが、5℃において既に透過率の減少がみられた。
図10Bに示されるように、G3.5-Phe
41の溶液の透過率は、pH 7及びpH 6では変化はなく、pH 5では、35℃から85℃まで加温によって緩やかに上昇した。これはUCST型の挙動であった。一方、pH 4では低温で透過率が高く、5℃から透過率が減少した。これはLCST型の挙動であった。
【0107】
図10Cに示されるように、G2.5-Phe
18の溶液の透過率は、pH 7では変化はなく、pH 6では5℃~25℃の範囲で上昇したが、全温度範囲で高い透過率となった。pH 5では、5℃から95℃まで加温によって緩やかに上昇した。これはUCST型の挙動に類似していた。一方、pH 4では、5℃から透過率が63%と低く、加温とともに透過率が減少した。これはLCST型の挙動であった。
図10Dに示されるように、G2.5-Phe
14の溶液の透過率は、pH 7では変化はなく、pH 6では5℃から65℃まで、pH 5では45℃から95℃まで加温によって緩やかに上昇した。これはUCST型の挙動であった。一方、pH 4では低温で透過率が高く、35℃付近から透過率が減少した。これはLCST型の挙動であった。
【0108】
実施例6: 免疫細胞移行用担体におけるアミノ酸残基の比較
(1) 蛍光色素を連結した免疫細胞移行用担体
実施例6では、免疫細胞移行用担体として、実施例3で調製した、FITCを末端に連結したG4-Suc-Phe及びG4-CHex-Pheを用いた。比較のため、デンドリマーにロイシン残基を結合した担体(G4-Suc-Leu及びG4-CHex-Leu)を調製し、これにFITCを末端に連結した。G4-Suc-Leu及びG4-CHex-Leuは、製造例1において、3-フェニル-L-アラニンベンジルエステル4-トルエンスルホネートに替えてロイシンベンジルエステルp-トルエンホスホネートを用いたこと以外は、G4-Suc-Phe及びG4-CHex-Pheと同様にして調製した。G4-Suc-Leu及びG4-CHex-Leuのそれぞれにおけるロイシン残基の結合数は、いずれも64であった。G4-Suc-Phe、G4-CHex-Phe、G4-Suc-Leu及びG4-CHex-Leuの模式図を
図11に示す。G4-Suc-Leu及びG4-CHex-LeuへのFITCの連結は、実施例3と同様にして行った。FITCを連結した各デンドリマーを、色素濃度が5μMとなるように無血清RPMI(pH 8.85およびpH 6)に添加して、各デンドリマーの分散液を調製した。
【0109】
(2) インビトロでの免疫細胞への移行
免疫細胞として、ヒトT細胞性白血病由来細胞株のJurkat細胞を用いた。細胞懸濁液をマイクロチューブに1×10
5 cells/tubeとなるように入れ、マイクロチューブを遠心分離(3000 rpm、3分)して上澄みを除去した。各デンドリマーの分散液を1チューブ当たり25μLずつ添加して、37℃で3時間インキュベートした。マイクロチューブを遠心分離(3000 rpm、3分)して上澄みを除去して、PBSで細胞を洗浄した。上澄みを除去した後、マイクロチューブに無血清RPMIを1 mLずつ添加して、FCM解析用検体を得た。各検体をBD FACS Calibur(BD Biosciences社製)を用いて解析した。各デンドリマーを添加した細胞の蛍光強度の平均値を示すグラフ(
図12)を作成した。
【0110】
図12中のA及びBからわかるように、G4-Suc-LeuよりもG4-Suc-Pheの方が蛍光強度は高かった。また、
図12中のC及びDからわかるように、G4-CHex-LeuよりもG4-CHex-Pheの方が蛍光強度は高かった。フェニルアラニン及びロイシンはいずれも非極性側鎖を有するアミノ酸であるが、
図12より、ロイシン残基を結合したデンドリマーよりも、フェニルアラニン残基を結合したデンドリマーの方が免疫細胞への移行性がよいことが示された。
【0111】
実施例7: 蛍光色素を連結した免疫細胞移行用担体のイメージング(4)
(1) 蛍光色素を連結した免疫細胞移行用担体の調製
実施例7では、免疫細胞移行用担体として、FITCを末端に連結したG4-Phe-Suc及びG4-Phe-CHexを用いた。G4-Phe-Suc及びG4-Phe-CHexは次のようにして調製した。製造例3と同様にして、G4 PAMAMデンドリマー(Sigma-Aldrich社)のアミノ末端と、アミノ基を保護したフェニルアラニン残基のカルボキシル末端とを反応させて、G4-Pheを得た。G4-Phe(125 mg、5.57 μmol)を125 mM NaHCO
3緩衝液(3 mL)に溶解し、過剰量の無水コハク酸又はシス-1,2-シクロヘキサンジカルボン酸無水物(いずれも500当量)を添加した。各溶液を室温で一晩撹拌し、4N NaOH水溶液を用いてpHを8~10に調整した。デンドリマーを含む溶液を、透析膜(MWCO:1,000)を用いて蒸留水中で透析して精製した。精製した溶液を凍結乾燥して、G4-Phe-Suc及びG4-Phe-CHexを得た。G4-Phe-Sucの収量は68 mgであり、収率は56%であった。G4-Phe-CHexの収量は65 mgであり、収率は72%であった。G4-Phe-Suc及びG4-Phe-CHexの各溶液を
1H-NMRスペクトル測定した。G4-Phe-Sucでは、G4 PAMAMの末端基へのフェニルアラニン残基(Phe)の結合数は56であり、G4 PAMAMの末端基及びフェニルアラニン残基へのコハク酸の結合数は57であった。また、G4-Phe-CHexでは、G4 PAMAMの末端基へのフェニルアラニン残基(Phe)の結合数は64であり、G4 PAMAMの末端基及びフェニルアラニン残基へのシクロヘキサンジカルボン酸の結合数は64であった。G4-Phe-Suc及びG4-Phe-CHexの模式図を
図13に示す。G4-Phe-Suc及びG4-Phe-CHexへのFITCの連結は、実施例3と同様にして行った。
【0112】
(2) インビトロでの免疫細胞への移行
実施例6と同様にして、Jurkat細胞へのG4-Phe-Suc及びG4-Phe-Chexの移行性を調べた。各デンドリマーを添加した細胞の蛍光強度の平均値を示すグラフ(
図14)を作成した。
図14に示されるように、G4-Phe-Suc及びG4-Phe-ChexはJurkat細胞内に移行することが示された。