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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2025-03-27
(45)【発行日】2025-04-04
(54)【発明の名称】積層体
(51)【国際特許分類】
   B32B 27/40 20060101AFI20250328BHJP
   B32B 27/18 20060101ALI20250328BHJP
   B32B 7/023 20190101ALI20250328BHJP
   C08G 18/10 20060101ALI20250328BHJP
   C08G 18/32 20060101ALI20250328BHJP
   C08G 18/08 20060101ALI20250328BHJP
   C09K 9/02 20060101ALI20250328BHJP
   G02B 5/23 20060101ALI20250328BHJP
   G02C 7/10 20060101ALI20250328BHJP
【FI】
B32B27/40
B32B27/18 Z
B32B7/023
C08G18/10
C08G18/32 003
C08G18/08 042
C09K9/02 B
G02B5/23
G02C7/10
【請求項の数】 5
(21)【出願番号】P 2022503747
(86)(22)【出願日】2021-02-26
(86)【国際出願番号】 JP2021007325
(87)【国際公開番号】W WO2021172513
(87)【国際公開日】2021-09-02
【審査請求日】2024-01-15
(31)【優先権主張番号】P 2020033967
(32)【優先日】2020-02-28
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(31)【優先権主張番号】P 2020134225
(32)【優先日】2020-08-06
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000003182
【氏名又は名称】株式会社トクヤマ
(74)【代理人】
【識別番号】100145713
【弁理士】
【氏名又は名称】加藤 竜太
(74)【代理人】
【識別番号】100136939
【弁理士】
【氏名又は名称】岸武 弘樹
(74)【代理人】
【識別番号】100087893
【弁理士】
【氏名又は名称】中馬 典嗣
(72)【発明者】
【氏名】平連 利光
(72)【発明者】
【氏名】花崎 太一
(72)【発明者】
【氏名】森 力宏
(72)【発明者】
【氏名】竹中 潤治
(72)【発明者】
【氏名】百田 潤二
【審査官】今井 督
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2005/087882(WO,A1)
【文献】特開2005-199683(JP,A)
【文献】国際公開第2018/230513(WO,A1)
【文献】国際公開第2012/018070(WO,A1)
【文献】特開2019-164271(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08G 18/00- 18/87
C09K 9/00- 9/02
B32B 27/00- 27/42
B32B 7/00- 7/14
G02B 5/00- 5/32
G02C 7/00- 7/40
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
光学基材と、湿気硬化型ポリウレタン組成物からなるポリウレタン樹脂層と、フォトクロミック樹脂層とを備える積層体であって、
積層順がポリウレタン樹脂層/フォトクロミック樹脂層/光学基材の順であり、
前記湿気硬化型ポリウレタン組成物が、(A)湿気硬化型ポリウレタンと、(B)有機溶媒とを含有し、
前記(A)湿気硬化型ポリウレタンが、(A1)分子内に2個以上のイソシアネート基を有するポリイソシアネート化合物と、(A2)分子内に2個以上の水酸基を有する数平均分子量50~300の低分子量ポリオール化合物とを反応させて得られる、分子末端にイソシアネート基を有する湿気硬化型ポリウレタンである、積層体
【請求項2】
前記(A1)分子内に2個以上のイソシアネート基を有するポリイソシアネート化合物が、分子内に2個以上のイソシアネート基を有する芳香族ポリイソシアネート化合物である、請求項1に記載の積層体
【請求項3】
前記(A1)分子内に2個以上のイソシアネート基を有するポリイソシアネート化合物が、(A1-1)分子内に2個以上のイソシアネート基を有する分子量400以下のポリイソシアネート化合物と、(A1-2)分子内に2個以上の水酸基を有する数平均分子量400~2000の高分子量ポリオール化合物とを反応させて得られる、分子末端にイソシアネート基を有するウレタンプレポリマーである、請求項1に記載の積層体
【請求項4】
前記(B)有機溶媒が、溶解度パラメーターが8[(cal/cm1/2]以上であり、且つ、活性水素を有しない有機溶媒である、請求項1~3のいずれか1項に記載の積層体
【請求項5】
前記(A)湿気硬化型ポリウレタンが、(A3)分子内に2個以上の水酸基を有する数平均分子量400~2000のポリオール化合物、及び(A4)分子内に1個以上のアミノ基を有するアミン化合物の少なくとも一方をさらに反応させて得られる、分子末端にイソシアネート基を有する湿気硬化型ポリウレタンである、請求項1~4のいずれか1項に記載の積層体
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、湿気硬化型ポリウレタン組成物、及び該組成物からなる層を備える積層体に関する。
【背景技術】
【0002】
クロメン化合物、フルギド化合物、スピロオキサジン化合物等に代表されるフォトクロミック化合物は、太陽光や水銀灯の光のような紫外線を含む光を照射すると速やかに色が変わり、光の照射をやめて暗所におくと元の色に戻るという特性(フォトクロミック性)を有しており、この特性を活かして、種々の用途、特に光学材料の用途に使用されている。
【0003】
例えば、フォトクロミック化合物の使用によりフォトクロミック性が付与されているフォトクロミック眼鏡レンズは、太陽光のような紫外線を含む光が照射される屋外では速やかに着色してサングラスとして機能し、そのような光の照射がない屋内においては退色して透明な通常の眼鏡として機能するものであり、近年その需要が増大している。
【0004】
フォトクロミック眼鏡レンズ等のフォトクロミック光学物品の製造方法としては、例えば、重合性モノマーとフォトクロミック化合物とを混合し、それを重合させることにより、直接、レンズ等の光学物品を成形する方法;プラスチックレンズ等の光学物品の表面にフォトクロミック化合物が分散された樹脂層をコーティングする方法;2枚の光学物品を、フォトクロミック化合物が分散された接着性樹脂により形成された接着層により接合する方法;などが知られている(特許文献1~3参照)。その中でも、プラスチックレンズ等の光学物品の表面にフォトクロミック化合物が分散された樹脂層をコーティングする方法が好適に用いられている。
【0005】
上記方法で製造されるフォトクロミック光学物品には、太陽光のような紫外線を含む光が照射されると素早く応答して高濃度で発色し、そのような光がない屋内においては速やかに退色することが求められており、さらに優れたフォトクロミック性を発現させることが求められていた。
【0006】
その手法として、プラスチックレンズ等の光学物品の表面にフォトクロミック化合物が分散された樹脂層をコーティングする方法においては、フォトクロミック化合物が分散された樹脂層を強固に硬化させずに柔軟性をもたせる手法や、フォトクロミック化合物が分散された樹脂層の表面硬度を柔らかくすることで、光応答性や退色速度を向上させる手法が提案されている(特許文献4参照)。
【0007】
一般に、フォトクロミック光学物品、例えばフォトクロミック眼鏡レンズは、製造された後、レンズ表面に傷が付かないように、内紙と称される比較的柔らかい素材で包まれた後、袋に入れられて出荷される。また、フォトクロミック眼鏡レンズは、各製造工程、保管時、及び出荷時において、欠陥のないレンズ表面を得るために、専用トレーや洗浄ラックに収納されて保管及び搬送されるため、レンズ表面に保護フィルムを貼り付けることが行われている。これは、表面の傷やゴミ付着を防止するためである。加えて、フォトクロミック眼鏡レンズは、通常は透明であるため、保護フィルムが貼られているか否かを瞬時に判別することが難しい。そのため、通常は容易な判別が可能となる着色された保護フィルムが使用されている。
【0008】
上述したフォトクロミック眼鏡レンズの出荷及び製造工程において、特許文献4のように表面硬度を柔らかくしたフォトクロミック眼鏡レンズでは、フォトクロミック化合物が分散された樹脂層の表面硬度が十分ではないため、レンズ表面に傷が付きやすい点で改良の余地があった。また、着色した保護フィルムをフォトクロミック眼鏡レンズに貼り付ける場合、着色した保護フィルムの着色剤がレンズ表面に転写され、フォトクロミック眼鏡レンズの初期透明性や発色色調が損なわれることがあるという点でも改良の余地があった。
【0009】
一方、プラスチックレンズ等の光学物品の表面にフォトクロミック性能や紫外線吸収性能を有する機能層を積層する場合、密着性を向上させるためプライマー層を介して積層することが行われている。例えば、プラスチックレンズ等の光学物品の表面にフォトクロミック化合物が分散された樹脂層をコーティングする際のプライマー層として湿気硬化型コーティング組成物を使用する方法や、紫外線吸収性能を有するプライマー層として湿気硬化型コーティング組成物をプラスチックレンズ等の光学物品の表面に積層する方法等が提案されている(特許文献6、7参照)。
【0010】
しかし、プライマー層として湿気硬化型コーティング組成物を使用する場合、プラスチックレンズ等の光学基材の種類によっては、プライマー層上に塗布されるコーティング液による溶解や浸透等によって外観不良や密着不良が生じることもあり、改良の余地があった。また、プラスチックレンズ等の光学基材上に湿気硬化型コーティング組成物をプライマー層として積層した後に、さらに別の層を積層するために前処理を実施する場合には、ワイプで拭くとプライマー層に傷が入ったり、洗浄液に浸漬するとプライマー層が溶解したりする等の課題があり、改良の余地があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0011】
【文献】国際公開第2012/176439号
【文献】国際公開第2011/125956号
【文献】国際公開第2013/099640号
【文献】国際公開第2008/001578号
【文献】国際公開第2015/054036号
【文献】国際公開第2004/078476号
【文献】国際公開第2018/230513号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
フォトクロミック層の傷付き等の課題に対し、フォトクロミック化合物が分散された樹脂層の表面に、熱硬化性のエポキシ樹脂等の層を積層する方法が提案されている(特許文献5参照)。この方法によれば、フォトクロミック化合物が分散された樹脂層の表面に別の層が積層されるため、傷付きをより抑えることができる。
【0013】
しかし、本発明者らの検討によれば、特許文献5に記載の方法であっても、製造時に密着性が不足してクラックが発生し、外観不良が生じることがあるという点で改善の余地があった。
【0014】
そこで、本発明は、光学基材の表面にフォトクロミック化合物が分散された樹脂層(以下、「フォトクロミック樹脂層」ともいう。)を形成した後の保護層を形成するため、或いは光学基材の表面にフォトクロミック樹脂層を形成する前のプライマー層を形成するために好適に用いられる湿気硬化型ポリウレタン組成物、及びその湿気硬化型ポリウレタン組成物からなるポリウレタン樹脂層を備える積層体を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0015】
上記課題を解決するための具体的な手段には、以下の実施態様が含まれる。
<1> (A)湿気硬化型ポリウレタンと、(B)有機溶媒とを含有し、
前記(A)湿気硬化型ポリウレタンが、(A1)分子内に2個以上のイソシアネート基を有するポリイソシアネート化合物と、(A2)分子内に2個以上の水酸基を有する数平均分子量50~300の低分子量ポリオール化合物とを反応させて得られる、分子末端にイソシアネート基を有する湿気硬化型ポリウレタンである湿気硬化型ポリウレタン組成物。
【0016】
<2> 前記(A1)分子内に2個以上のイソシアネート基を有するポリイソシアネート化合物が、分子内に2個以上のイソシアネート基を有する芳香族ポリイソシアネート化合物である、<1>に記載の湿気硬化型ポリウレタン組成物。
【0017】
<3> 前記(A1)分子内に2個以上のイソシアネート基を有するポリイソシアネート化合物が、(A1-1)分子内に2個以上のイソシアネート基を有する分子量400以下のポリイソシアネート化合物と、(A1-2)分子内に2個以上の水酸基を有する数平均分子量300~5000の高分子量ポリオール化合物とを反応させて得られる、分子末端にイソシアネート基を有する湿気硬化型ポリウレタンである、<1>に記載の湿気硬化型ポリウレタン組成物。
【0018】
<4> 前記(B)有機溶媒が、溶解度パラメーターが8[(cal/cm1/2]以上であり、且つ、活性水素を有しない有機溶媒である、<1>~<3>のいずれか1項に記載の湿気硬化型ポリウレタン組成物。
【0019】
<5> 前記(A)湿気硬化型ポリウレタンが、(A3)分子内に2個以上の水酸基を有する数平均分子量400~2000のポリオール化合物、及び(A4)分子内に1個以上のアミノ基を有するアミン化合物の少なくとも一方をさらに反応させて得られる、分子末端にイソシアネート基を有する湿気硬化型ポリウレタンである、<1>~<4>のいずれか1項に記載の湿気硬化型ポリウレタン組成物。
【0020】
<6> 光学基材と、<1>~<5>のいずれか1項に記載の湿気硬化型ポリウレタン組成物からなるポリウレタン樹脂層とを備える積層体。
【0021】
<7> フォトクロミック樹脂層をさらに備え、積層順がフォトクロミック樹脂層/ポリウレタン樹脂層/光学基材の順である、<6>に記載の積層体。
【0022】
<8> フォトクロミック樹脂層をさらに備え、積層順がポリウレタン樹脂層/フォトクロミック樹脂層/光学基材の順である、<6>に記載の積層体。
【発明の効果】
【0023】
本発明によれば、光学基材の表面にフォトクロミック樹脂層を形成した後の保護層を形成するため、或いは光学基材の表面にフォトクロミック樹脂層を形成する前のプライマー層を形成するために好適に用いられる湿気硬化型ポリウレタン組成物、及びその湿気硬化型ポリウレタン組成物からなるポリウレタン樹脂層を備える積層体を提供することができる。特に、湿気ポリ硬化型ウレタン組成物を保護層の形成に使用することにより、良好なフォトクロミック性を有しつつ、着色した保護フィルムの着色剤転写や表面の傷付きが抑えられ、且つ、密着性も良好なフォトクロミック光学物品を提供することができる。また、湿気硬化型ポリウレタン組成物をプライマー層の形成に使用することにより、ポリウレタン樹脂層上に外観不良を生じることなく機能性層が積層された、密着性の良好な光学物品を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0024】
≪湿気硬化型ポリウレタン組成物≫
本実施形態に係る湿気硬化型ポリウレタン組成物は、(A)湿気硬化型ポリウレタン(以下、「A成分」ともいう。)と、(B)有機溶媒(以下、「B成分」ともいう。)とを含有し、(A)湿気硬化型ポリウレタンが、(A1)分子内に2個以上のイソシアネート基を有するポリイソシアネート化合物と、(A2)分子内に2個以上の水酸基を有する数平均分子量50~300の低分子量ポリオール化合物とを反応させて得られる、分子末端にイソシアネート基を有する湿気硬化型ポリウレタンである。以下、各構成について説明する。
【0025】
<(A)湿気硬化型ポリウレタン>
(A)湿気硬化型ポリウレタンは、(A1)分子内に2個以上のイソシアネート基を有するポリイソシアネート化合物(以下、「A1成分」ともいう。)と、(A2)分子内に2個以上の水酸基を有する数平均分子量50~300の低分子量ポリオール化合物(以下、「A2成分」ともいう。)とを反応させて得られる、分子末端にイソシアネート基を有する湿気硬化型ポリウレタンである。
【0026】
(A)湿気硬化型ポリウレタンは、分子末端をイソシアネート基としつつ、ポリウレタン樹脂の分子鎖中に含まれるソフトセグメント量の割合を抑制し、ハードセグメント量の割合を増加させるため、A1成分に含まれるイソシアネート基のモル数をn1とし、A2成分に含まれる水酸基のモル数をn2とした場合、n1:n2=1:0.15~0.70とすることが好ましい。
【0027】
また、(A)湿気硬化型ポリウレタンは、A1成分及びA2成分以外に、(A3)分子内に2個以上の水酸基を有する数平均分子量400~2000のポリオール化合物(以下、「A3成分」ともいう。)、及び(A4)分子内に1個以上のアミノ基を有するアミン化合物(以下、「A4成分」ともいう。)の少なくとも一方をさらに反応させて得られる、分子末端にイソシアネート基を有する湿気硬化型ポリウレタンであってもよい。
【0028】
[(A1)分子内に2個以上のイソシアネート基を有するポリイソシアネート化合物]
A1成分は、分子内に2個以上のイソシアネート基を有するポリイソシアネート化合物であり、その中でも、(A1-1)分子内に2個以上のイソシアネート基を有する分子量400以下のポリイソシアネート化合物(以下、「A1-1成分」ともいう。)、及び/又は(A1-1’)A1-1成分と(A1-2)分子内に2個以上の水酸基を有する数平均分子量300~5000の高分子量ポリオール化合物(以下、「A1-2成分」ともいう。)とを反応させて得られる、分子末端にイソシアネート基を有するウレタンプレポリマー(以下、「A1-1’成分」ともいう。)であることが好ましい。
【0029】
((A1-1)分子内に2個以上のイソシアネート基を有する分子量400以下のポリイソシアネート化合物)
A1-1成分としては、分子内に2個以上のイソシアネート基を有する分子量400以下のポリイソシアネート化合物であれば特に限定されない。A1成分は、1種類を単独で使用してもよく、2種類以上を併用してもよい。
【0030】
好適に使用できるA1-1成分としては、テトラメチレン-1,4-ジイソシアネート、ヘキサメチレン-1,6-ジイソシアネート、オクタメチレン-1,8-ジイソシアネート、2,2,4-トリメチルヘキサン-1,6-ジイソシアネート等の脂肪族ジイソシアネート化合物;シクロブタン-1,3-ジイソシアネート、シクロヘキサン-1,3-ジイソシアネート、シクロヘキサン-1,4-ジイソシアネート、2,4-メチルシクロヘキシルジイソシアネート、2,6-メチルシクロヘキシルジイソシアネート、イソホロンジイソシアネートの異性体混合物、ノルボルネンジイソシアネート、4,4’-メチレンビス(シクロヘキシルイソシアネート)の異性体混合物、ヘキサヒドロトルエン-2,4-ジイソシアネート、ヘキサヒドロトルエン-2,6-ジイソシアネート、ヘキサヒドロフェニレン-1,3-ジイソシアネート、ヘキサヒドロフェニレン-1,4-ジイソシアネート、1,9-ジイソシアナト-5-メチルノナン、1,1-ビス(イソシアナトメチル)シクロヘキサン、2-イソシアナト-4-[(4-イソシアナトシクロヘキシル)メチル]-1-メチルシクロヘキサン、2-(3-イソシアナトプロピル)シクロヘキシルイソシアネート、ノルボルナンジイソシアネート等の脂環式ジイソシアネート化合物;フェニルシクロヘキシルメタンジイソシアネート、4,4’-メチレンビス(フェニルイソシアネート)の異性体混合物、トルエン-2,3-ジイソシアネート、トルエン-2,4-ジイソシアネート、トルエン-2,6-ジイソシアネート、フェニレン-1,3-ジイソシアネート、フェニレン-1,4-ジイソシアネート、1,3-ビス(イソシアナトメチル)ベンゼン、m-キシリレンジイソシアネート、テトラメチルキシリレンジイソシアネート、ナフタレンジイソシアネート、ジフェニルエーテルジイソシアネート、1,3-ジイソシアナトメチルベンゼン、4,4’-ジイソシアナト-3,3’-ジメトキシ(1,1’-ビフェニル)、4,4’-ジイソシアナト-3,3’-ジメチルビフェニル、1,2-ジイソシアナトベンゼン、1,4-ビス(イソシアナトメチル)-2,3,5,6-テトラクロロベンゼン、2-ドデシル-1,3-ジイソシアナトベンゼン、1-イソシアナト-4-[(2-イソシアナトシクロヘキシル)メチル]2-メチルベンゼン、1-イソシアナト-3-[(4-イソシアナトフェニル)メチル]-2-メチルベンゼン、4-[(2-イソシアナトフェニル)オキシ]フェニルイソシアネート、ジフェニルメタンジイソシアネート等の芳香族ジイソシアネート化合物;などが挙げられる。
【0031】
トリレンジイソシアネートを使用する場合には、原料の入手のし易さの観点から、トリレン-2,4-ジイソシアネート(50~90質量%)とトリレン-2,6-ジイソシアネート(10~50質量%)との混合物を使用することが好ましい。
【0032】
中でも、ポリウレタン樹脂の分子鎖中に剛直なハードセグメントを形成させる観点から、A1-1成分として芳香族ジイソシアネート化合物が含まれていることが好ましく、トリレンジイソシアネート、4,4-ジフェニルメタンジイソシアネート、及びm-キシリレンジイソシアネートから選択される少なくとも1種が含まれていることがより好ましい。このような構成によれば、本実施形態に係る湿気硬化型ウレタン組成物を用いて保護層を形成した場合に、着色した保護フィルムからの着色剤転写や表面の傷付きがより抑えられる傾向にある。また、本実施形態に係る湿気硬化型ウレタン組成物を用いてプライマー層を形成した場合に、プライマー層上に積層する機能性層との密着性が良好になり、且つ、機能性層を形成するコーティング液による溶解や浸透等の外観不良が抑えられる傾向にある。
【0033】
((A1-2)分子内に2個以上の水酸基を有する数平均分子量300~5000の高分子量ポリオール化合物)
A1-2成分としては、ポリエーテルポリオール、ポリエステルポリオール、ポリカーボネートポリオール、及びポリカプロラクトンポリオールが好適に使用される。A1-2成分は、1種類を単独で使用してもよく、2種類以上を併用してもよい。
【0034】
A1-2成分の数平均分子量は、密着性や耐久性の観点から、300~5000であることが必要である。その中でも、ポリウレタン樹脂の分子鎖中に含まれるソフトセグメント量を抑制する観点から、A1-2成分の数平均分子量は、300~1000であることが好ましく、300~600であることがより好ましい。このような構成によれば、本実施形態に係る湿気硬化型ウレタン組成物を用いて保護層を形成した場合に、着色した保護フィルムからの着色剤転写や表面の傷付きがより抑えられる傾向にある。また、本実施形態に係る湿気硬化型ウレタン組成物を用いてプライマー層を形成した場合に、プライマー層上に積層する機能性層との密着性が良好になり、且つ、機能性層を形成するコーティング液による溶解や浸透等の外観不良が抑えられる傾向にある。
【0035】
また、重合して得られるポリウレタン樹脂層が高架橋体になり、クラック等の外観不良が発生し難くなる観点から、A2成分としては、分子内に含まれる水酸基数が2~6であるものが好ましく、有機溶剤への溶解性を考慮すれば、分子内に含まれる水酸基数が2~3であるものがより好ましい。
【0036】
以下、A1-2成分として使用される各種化合物について詳しく説明する。
【0037】
(ポリエーテルポリオール)
A1-2成分として使用されるポリエーテルポリオールとしては、分子中に活性水素含有基を2個以上有する化合物とアルキレンオキサイドとの反応により得られるポリエーテルポリオール化合物や、該ポリエーテルポリオール化合物の変性体である、ポリマーポリオール、ウレタン変性ポリエーテルポリオール、ポリエーテルエステルコポリマーポリオール等が挙げられる。
【0038】
分子中に活性水素含有基を2個以上有する化合物としては、水、エチレングリコール、プロピレングリコール、ブタンジオール、グリセリン、トリメチロールプロパン、ヘキサントリオール、トリエタノールアミン、ジグリセリン、ペンタエリスリトール、トリメチロールプロパン、ヘキサントリオール等が挙げられる。これらは1種類を単独で使用してもよく、2種類以上を併用してもよい。
【0039】
アルキレンオキサイドとしては、エチレンオキサイド、プロピレンオキサイド、テトラヒドロフラン等の環状エーテル化合物が挙げられる。これらは1種類を単独で使用してもよく、2種類以上を併用してもよい。
【0040】
ポリエーテルポリオールは、試薬として又は工業的に入手可能である。ポリエーテルポリオールの市販品としては、AGC株式会社製「エクセノール(登録商標)」シリーズ、「エマルスター(登録商標)」シリーズ;株式会社ADEKA製「アデカポリエーテル」シリーズ;などが挙げられる。
【0041】
(ポリエステルポリオール)
A1-2成分として使用されるポリエステルポリオールとしては、多価アルコールと多塩基酸との縮合反応により得られるポリエステルポリオール等が挙げられる。
【0042】
多価アルコールとしては、エチレングリコール、1,2-プロパンジオール、1,3-ブタンジオール、1,4-ブタンジオール、3-メチル-1,5-ペンタンジオール、1,6-ヘキサンジオール、3,3’-ジメチロールヘプタン、1,4-シクロヘキサンジメタノール、ネオペンチルグリコール、3,3-ビス(ヒドロキシメチル)ヘプタン、ジエチレングリコール、ジプロピレングリコール、グリセリン、トリメチロールプロパン等が挙げられる。これらは1種類を単独で使用してもよく、2種類以上を併用してもよい。
【0043】
多塩基酸としては、コハク酸、アジピン酸、アゼライン酸、セバシン酸、ドデカンジカルボン酸、シクロペンタンジカルボン酸、シクロヘキサンジカルボン酸、オルトフタル酸、イソフタル酸、テレフタル酸、ナフタレンジカルボン酸等が挙げられる。これらは1種類を単独で使用してもよく、2種類以上を併用してもよい。
【0044】
ポリエステルポリオールは、試薬として又は工業的に入手可能であり、ポリエステルポリオールの市販品としては、DIC株式会社製「ポリライト(登録商標)」シリーズ、東ソー株式会社製「ニッポラン(登録商標)」シリーズ、川崎化成工業株式会社製「マキシモール(登録商標)」シリーズ、株式会社クラレ製「クラレポリオール(登録商標)」シリーズ等が挙げられる。
【0045】
(ポリカーボネートポリオール)
A1-2成分として使用されるポリカーボネートポリオールとしては、エチレングリコール、1,2-プロパンジオール、1,3-プロパンジオール、2-メチル-1,3-プロパンジオール、1,2-ブタンジオール、1,3-ブタンジオール、1,4-ブタンジオール、1,5-ペンタンジオール、1,6-ヘキサンジオール、1,8-オクタンジオール、1,9-ノナンジオール、1,10-デカンジオール、3-メチル-1,5-ペンタンジオール、2-エチル-4-ブチル-1,3-プロパンジオール、ジエチレングリコール、ジプロピレングリコール、ネオペンチルグリコール、シクロヘキサン-1,4-ジオール、シクロヘキサン-1,4-ジメタノール、ダイマー酸ジオール、ビスフェノールAのエチレンオキサイド又はプロピレンオキサイド付加物、ビス(β-ヒドロキシエチル)ベンゼン、キシリレングリコール、グリセリン、トリメチロールプロパン、ペンタエリスリトール等の低分子ポリオール類の1種類以上のホスゲン化より得られるポリカーボネートポリオール;エチレンカーボネート、ジエチルカーボネート、ジフェニルカーボネート等によるエステル交換法により得られるポリカーボネートポリオール;等が挙げられる。
【0046】
ポリカーボネートポリオールは、試薬として又は工業的に入手可能である。ポリカーボネートポリオールの市販品としては、旭化成株式会社製「デュラノール(登録商標)」シリーズ、株式会社クラレ製「クラレポリオール(登録商標)」シリーズ、株式会社ダイセル製「プラクセル(登録商標)」シリーズ、東ソー株式会社製「ニッポラン(登録商標)」シリーズ、宇部興産株式会社製「ETERNACOLL(登録商標)」シリーズ等が挙げられる。
【0047】
(ポリカプロラクトンポリオール)
A1-2成分として使用されるポリカプロラクトンポリオールとしては、ε-カプロラクトン等の開環重合により得られる化合物が挙げられる。
【0048】
ポリカプロラクトンポリオールは、試薬として又は工業的に入手可能である。ポリカプロラクトンポリオールの市販品としては、株式会社ダイセル製「プラクセル(登録商標)」シリーズ等が挙げられる。
【0049】
以上のA1-2成分の中でも、湿気硬化型ウレタン樹脂の分子鎖間の分子間力を向上させる観点から、芳香族環を含有するポリエステルポリオール及びポリカーボネートポリオールが好ましい。このような構成によれば、本実施形態に係る湿気硬化型ウレタン組成物を用いて保護層を形成した場合に、着色した保護フィルムからの着色剤転写や表面の傷付きがより抑えられる傾向にある。また、本実施形態に係る湿気硬化型ウレタン組成物を用いてプライマー層を形成した場合に、プライマー層上に積層する機能性層との密着性が良好になり、且つ、機能性層を形成するコーティング液による溶解や浸透等の外観不良が抑えられる傾向にある。
【0050】
((A1-1’)ウレタンプレポリマー)
A1-1’成分は、A1-1成分とA1-2成分とを反応させて得られる、分子末端にイソシアネート基を有するウレタンプレポリマーである。
【0051】
A1-1’成分は、分子末端をイソシアネート基とするため、A1-1成分におけるイソシアネート基のモル数(n3)と、A1-2成分における水酸基のモル数(n4)とのモル比(n3:n4)を、n3:n4=1:0.01~0.7とすることが好ましく、n3:n4=1:0.3~0.6とすることがより好ましい。
【0052】
A1-1’成分の製造方法は、特に限定されず、公知の方法を採用することができる。例えば、A1-1成分及びA1-2成分を、有機溶媒の存在下又は非存在下、好ましくは窒素、アルゴン等の不活性ガス雰囲気下中で、反応温度を室温(23℃)~130℃として反応させる方法を採用することができる。反応温度を130℃以下とすることにより、A1―2成分の分解を抑制することができ、所望のウレタンプレポリマーを得ることができる。反応時間は、A1-1成分及びA1-2成分の仕込み比、及び反応温度によっても変化するが、通常は0.5~24時間の範囲で反応させればよい。A1-1成分及びA1-2成分を反応させる際の添加順序は特に制限されず、必要に応じて反応途中に適宜、A1-1成分及びA1-2成分を追加添加することも可能である。
【0053】
有機溶媒としては、プレポリマー反応に用いられる有機溶媒であれば特に制限されず、例えば、アセトン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、ジエチルケトン、シクロヘキサノン、ジオキサン、トルエン、ヘキサン、ヘプタン、酢酸エチル、酢酸ブチル、ジメチルホルムアミド(DMF)、ジメチルスルホキシド(DMSO)、テトラヒドロフラン(THF)等が挙げられる。これらの有機溶媒は、2種類以上混合して使用することもできる。中でも、後述するB成分として記載される有機溶媒を使用することが好ましい。この場合は、用いた有機溶媒をB成分の一部とすることができる。
【0054】
有機溶媒の使用量は、A1-1成分及びA1-2成分の合計量100質量部に対して、300質量部以下であることが好ましい。有機溶媒の使用量を300質量部以下とすることにより、適切な反応時間となり、A1-2成分の分解を抑制することができる。
【0055】
A1-1’成分を製造する際には、ジラウリル酸ジブチルスズ、ジメチルイミダゾール、トリエチレンジアミン、テトラメチル-1,6-ヘキサジアミン、テトラメチル-1,2-エタンジアミン、1,4-ジアザビシクロ[2,2,2]オクタン等のプレポリマー反応用の触媒を用いてもよい。触媒を使用する際の使用量は、A1-1成分及びA1-2成分の合計量100質量部に対して、0.001~3質量部であることが好ましい。
【0056】
また、A1-1’成分を製造する際には、A1-1成分中のイソシアネート基と不純物としての水との反応を避けるため、A1-2成分、有機溶媒、及び触媒は、予め脱水処理を行い、十分に乾燥しておくことが好ましい。
【0057】
[(A2)分子内に2個以上の水酸基を有する数平均分子量50~300の低分子量ポリオール化合物]
A2成分としては、分子内に2個以上の水酸基を有する数平均分子量50~300の低分子量ポリオール化合物であれば特に制限されない。A2成分は、1種類を単独で使用してもよく、2種類以上を併用してもよい。
【0058】
その中でも、湿気硬化型ポリウレタンの分子鎖中に含まれるソフトセグメント量の割合を抑制し、ハードセグメント量の割合を増加させる観点から、A2成分は、分子内に水酸基を2個有する数平均分子量50~300の低分子量ポリオール化合物であることが好ましい。また、A2成分の数平均分子量は、50~200が好ましく、50~100がより好ましい。このような構成によれば、本実施形態に係る湿気硬化型ウレタン組成物を用いて保護層を形成した場合に、着色した保護フィルムからの着色剤転写や表面の傷付きがより抑えられる傾向にある。また、本実施形態に係る湿気硬化型ウレタン組成物を用いてプライマー層を形成した場合に、プライマー層上に積層する機能性層との密着性が良好になり、且つ、機能性層を形成するコーティング液による溶解や浸透等の外観不良が抑えられる傾向にある。
【0059】
好適に使用できるA2成分としては、エチレングリコール、1,2-プロパンジオール、1,3-プロパンジオール、1,3-ブタンジオール、1,4-ブタンジオール、2-メチル-1,3-プロパンジオール、3-メチル-1,5-ペンタンジオール、1,6-ヘキサンジオール、3,3’-ジメチロールヘプタン、1,4-シクロヘキサンジメタノール、ネオペンチルグリコール、3,3-ビス(ヒドロキシメチル)ヘプタン、ジエチレングリコール、ジプロピレングリコール、グリセリン、トリメチロールプロパン、ペンタエリスリトール、1,2,4-ブタントリオール、1,2,6-ヘキサントリオール等が挙げられる。中でも、A2成分としては、1,2-プロパンジオール及び1,3-ブタンジオールから選択される少なくとも1種が含まれていることが好ましい。
【0060】
[(A3)分子内に2個以上の水酸基を有する数平均分子量400~2000のポリオール化合物]
A3成分としては、上述したA1-2成分の中で数平均分子量が400~2000であるものを適宜することができる。A3成分は、1種類を単独で使用してもよく、2種類以上を併用してもよい。
【0061】
[(A4)少なくとも1つ以上のアミノ基を有するアミン化合物]
A4成分としては、モノアミン、ジアミン、及びトリアミンが好適に使用される。A4成分は、1種類を単独で使用してもよく、2種類以上を併用してもよい。
【0062】
好適に使用できるA4成分としては、ノルマルブチルアミン、sec-ブチルアミン、tert-ブチルアミン、ジブチルアミン、ジイソプロピルアミン、1,2,2,6,6-ペンタメチル-4-アミノピペリジン、2,2,6,6-テトラメチル-4-アミノピペリジン、1,2,2,6,6-ペンタメチル-4-アミノメチルピペリジン、1,2,2,6,6-ペンタメチル-4-アミノブチルピペリジン、イソホロンジアミン、エチレンジアミン、1,2-ジアミノプロパン、1,3-ジアミノプロパン、1,2-ジアミノブタン、1,3-ジアミノブタン、1,4-ジアミノブタン、1,5-ジアミノペンタン、1,6-ジアミノヘキサン、ピペラジン、N,N-ビス-(2-アミノエチル)ピペラジン、ビス-(4-アミノシクロヘキシル)メタン、ビス-(4-アミノ-3-ブチルシクロヘキシル)メタン、1,2-、1,3-及び1,4-ジアミノシクロヘキサン、ノルボルナンジアミン、ヒドラジン、アジピン酸ジヒドラジン、フェニレンジアミン、4,4’-ジフェニルメタンジアミン、N,N’-ジエチルエチレンジアミン、N,N’-ジメチルエチレンジアミン、N,N’-ジプロピルエチレンジアミン、N,N’-ジブチルエチレンジアミン、N-メチルエチレンジアミン、N-エチルエチレンジアミン、ビス(ヘキサメチレン)トリアミン、1,2,5-ペンタントリアミン等が挙げられる。
【0063】
[A1成分、A2成分、及び必要に応じて添加されるA3成分及びA4成分の使用量]
(A)湿気硬化型ポリウレタンを構成する上記各成分の量比は、湿気硬化型ポリウレタンを使用する用途等を勘案して適宜決定すればよいが、得られる湿気硬化型ポリウレタンの硬度、耐熱性、密着性等のバランスの観点から、次のような量比とすることが好ましい。
【0064】
すなわち、A1成分に含まれるイソシアネート基のモル数をn1とし、A2成分に含まれる水酸基のモル数をn2とした場合、モル比n1:n2=1:0.15~0.70とすることが好ましく、0.25~0.65とすることがより好ましく、0.30~0.60とすることがさらに好ましい。ここで、上記n1及びn2は、各成分として用いる化合物の使用モル数と該化合物1分子中に存在する各基の数との積として求めることができる。
【0065】
なお、A1成分がA1-1成分そのままである場合には、A1-1成分に含まれるイソシアネート基のモル数をn1とすればよい。また、A1成分が、A1-1成分とA1-2成分とを反応させて得られるA1-1’成分である場合には、A1-1’成分に含まれるイソシアネート基のモル数をn1とすればよい。
【0066】
また、必要に応じて使用されるA3成分に含まれる水酸基のモル数をn5とし、A4成分に含まれるアミノ基のモル数をn6とした場合には、次のような量比とすることが好ましい。すなわち、n1:n2:(n5+n6)=1:0.15~0.70:0.01~0.7とすることが好ましく、n1:n2:(n5+n6)=1:0.25~0.65:0.01~0.4とすることがより好ましく、n1:n2:(n5+n6)=1:0.30~0.60:0.01~0.25とすることがさらに好ましい。ここで、上記n1、n2、n5、n6は、各成分として用いる化合物の使用モル数と該化合物1分子中に存在する各基の数との積として求めることができる。
【0067】
[(A)湿気硬化型ポリウレタンに含まれるイソシアネート基含有量]
(A)湿気硬化型ポリウレタンに含まれるイソシアネート含有量としては、光学基材、フォトクロミック樹脂層等への密着性の観点から、1.0~15.0質量%であることが好ましく、2.0~10.0質量%であることがより好ましく、3.5~7.0質量%であることがさらに好ましい。
【0068】
なお、(A)湿気硬化型ポリウレタンに含まれるイソシアネート基含有量は、イソシアネート基の逆滴定法により求めるものとする。
【0069】
[(A)湿気硬化型ポリウレタンの数平均分子量]
(A)湿気硬化型ポリウレタンの数平均分子量は、湿気硬化型ポリウレタンの分子鎖間の分子間力を向上させる観点から、500~10000であることが好ましく、1000~3000であることがより好ましく、1000~2500であることがさらに好ましい。このような数平均分子量とすることにより、本実施形態に係る湿気硬化型ウレタン組成物を用いて保護層を形成した場合に、着色した保護フィルムからの着色剤転写や表面の傷付きがより抑えられる傾向にある。また、本実施形態に係る湿気硬化型ウレタン組成物を用いてプライマー層を形成した場合に、プライマー層上に積層する機能性層との密着性が良好になり、且つ、機能性層を形成するコーティング液による溶解や浸透等の外観不良が抑えられる傾向にある。
【0070】
なお、(A)湿気硬化型ポリウレタンの数平均分子量は、ゲルパーミネーションクロマトグラフィー(GPC測定)により、以下の条件で測定するものとする。すなわち、装置としては、液体クロマトグラフ装置(日本ウォーターズ株式会社製)を使用する。カラムとしては、昭和電工株式会社製のShodex GPC KD-806M(排除限界分子量:200000000)を使用する。また、展開液としては、ジメチルホルムアミド(DMF)を用い、流速1mL/min、温度40℃の条件にて測定する。そして、標準試料としてポリエチレングリコールを使用し、比較換算により数平均分子量を求める。検出器としては示差屈折率計を使用する。なお、(A)湿気硬化型ポリウレタンは、予めブチルアミンで処理することでイソシアネート基を不活性化させた後に測定を行う。
【0071】
[(A)湿気硬化型ポリウレタンに含まれるウレタン結合数]
(A)湿気硬化型ポリウレタンに含まれるウレタン結合数としては、湿気硬化型ポリウレタンの分子鎖間の分子間力を向上させる観点から、0.100~0.700mol/100gであることが好ましく、0.200~600mmol/gであることがより好ましく、0.300~0.500mmol/gであることがさらに好ましい。このようなウレタン結合数とすることにより、本実施形態に係る湿気硬化型ウレタン組成物を用いて保護層を形成した場合に、着色した保護フィルムからの着色剤転写や表面の傷付きがより抑えられる傾向にある。また、本実施形態に係る湿気硬化型ウレタン組成物を用いてプライマー層を形成した場合に、プライマー層上に積層する機能性層との密着性が良好になり、且つ、機能性層を形成するコーティング液による溶解や浸透等の外観不良が抑えられる傾向にある。
【0072】
なお、(A)湿気硬化型ポリウレタンに含まれるウレタン結合数は、製造に用いた各成分が理論的に反応した際の1分子中に含まれるモル比から1分子中に含まれるウレタン結合数を算出し、その数字を該湿気硬化型ポリウレタン100g中に含まれるモル数に変換することによって求めるものとする。(A)湿気硬化型ポリウレタンを製造する際にA4成分を使用して分子鎖中にウレア結合を導入した場合には、このウレア結合もウレタン結合数に含めて算出する。
【0073】
[(A)湿気硬化型ポリウレタンの製造方法]
(A)湿気硬化型ポリウレタンの製造方法は、特に限定されず、公知の方法を採用することができる。例えば、A1成分及びA2成分、並びに必要に応じて添加されるA3成分及びA4成分を、有機溶媒の存在下又は非存在下、好ましくは窒素、アルゴン等の不活性ガス雰囲気下中で、反応温度を室温(23℃)~130℃として反応させる方法を採用することができる。反応温度を130℃以下とすることにより、反応物の分解を抑制することができ、所望の(A)湿気硬化型ポリウレタンを得ることができる。反応時間は、各成分の仕込み比、及び反応温度によっても変化するが、0.5~96時間の範囲で反応させればよい。また、必要に応じて、A1-1’成分の製造方法に記載した有機溶媒及び/又は触媒を使用してもよい。
【0074】
A成分の合計の含有率は、本実施形態に係る湿気硬化型ポリウレタン組成物の総量に対して、10~50質量%であることが好ましく、15~35質量%であることがより好ましい。
【0075】
<(B)有機溶媒>
B成分である有機溶媒としては、公知の有機溶媒を何ら制限なく使用することが可能である。有機溶媒は、1種類を単独で使用してもよく、2種類以上を併用してもよい。
【0076】
中でも、A成分の溶解性、湿気硬化型ポリウレタン組成物のプラスチックレンズ等の光学物品への塗れ性、湿気硬化型ポリウレタン組成物の保存安定性等の観点から、溶解度パラメーターが8[(cal/cm1/2]以上であり、且つ、活性水素を有しない有機溶媒が好ましい。このような有機溶媒としては、トルエン(8.8)、酢酸エチル(9.0)、キシレン(8.8)、アセトン(10.0)、テトラヒドロフラン(9.4)、ジクロロメタン(9.7)、クロロホルム(9.3)、シクロペンチルメチルエーテル(8.4)、メチルエチルケトン(9.3)、メチルイソブチルケトン(9.6)、ジエチルケトン(8.7)等が挙げられ、トルエン、酢酸エチル、テトラヒドロフラン、ジクロロメタン、クロロホルム、及びジエチルケトンが好ましい。なお、括弧内の数値は溶解度パラメーターを示す。溶解度パラメーターは、ヒルデブランドパラメーター、SP値等とも称される。
【0077】
B成分の含有量は、反応の効率性や残留する有機溶媒の影響等の観点から、A成分100質量部に対して、100~1000質量部であることが好ましく、150~700質量部であることがより好ましい。
【0078】
<(C)その他の成分>
本実施形態に係る湿気硬化型ポリウレタン組成物は、本発明の効果を損なわない範囲で、後述する(E)フォトクロミック化合物や、それ自体公知の各種配合剤を含有していてもよい。配合剤としては、例えば、紫外線吸収剤、赤外線吸収剤等の特定の波長を吸収する化合物;紫外線安定剤、酸化防止剤、着色防止剤、帯電防止剤、染料、顔料、香料、レベリング剤、シランカップリング剤、グリシジル化合物等が挙げられる。
【0079】
その他の成分の合計の含有量は、A成分100質量部に対して、0.001~20質量部であることが好ましい。
【0080】
特に、本実施形態に係る湿気硬化型ポリウレタン組成物は、ポリウレタン樹脂層の平滑性を向上させる観点から、レベリング剤を含有することが好ましい。レベリング剤としては、例えば、シリコーン界面活性剤、フッ素含有界面活性剤等の界面活性剤を挙げることができる。シリコーン界面活性剤及びフッ素含有界面活性剤を具体的に例示すると、東レ・ダウコーニング株式会社製「L-7001」、「L-7002」、「L-7604」、「FZ-2123」、「FZ-2104」;DIC株式会社製「メガファックF-470」、「メガファックF-1405」、「メガファックF-479」;スリーエム・ジャパン株式会社製「フローラッドFC-430」;等が挙げられる。界面活性剤は、2種類以上を混合して使用してもよい。
【0081】
レベリング剤の含有量は、本発明の効果を損なわない限り特に制限されるものではないが、A成分100質量部に対して、0.001~1質量部であることが好ましく、0.01~0.5質量部であることがより好ましい。
【0082】
また、本実施形態に係る湿気硬化型ポリウレタン組成物は、密着性を向上させる観点から、シランカップリング剤及び/又はグリシジル化合物を含有することが好ましい。
【0083】
シランカップリング剤としては、特に制限されるものではなく、公知の化合物を使用することができる。中でも、加水分解性基としてアルコキシ基を有している化合物が好ましく、アルコキシ基が2個以上、ケイ素原子に結合している化合物がより好ましい。
【0084】
好ましいシランカップリング剤としては、例えば、γ-グリシドキシプロピルトリメトキシシラン、γ-グリシドキシプロピルメチルジメトキシシラン、γ-グリシドキシプロピルメチルジエトキシシラン、γ-グリシドキシプロピルトリエトキシシラン、5,6-エポキシヘキシルトリエトキシシラン、β-(3、4-エポキシシクロヘキシル)エチルトリメトキシシラン、テトラエトキシシラン、テトラメトキシシランの4量体、テトラエトキシシランの5量体、ビニルトリメトキシシシラン、ビニルトリエトキシシラン、ビニルトリアセトキシシラン、メチルトリメトキシシラン、メチルトリエトキシシラン、メチルトリフェノキシシラン、ジメチルジメトキシシラン、トリメチルメトキシシラン、フェニルトリメトキシシラン、ジフェニルジメトキシシラン、シクロヘキシルメチルジメトキシシラン、1,2-ビス(トリメトキシシリル)エタン、1,2-ビス(トリエトキシシリル)エタン、1,3-ビス(トリメトキシシリル)プロパン、1,3-ビス(トリエトキシシリル)プロパン、1,6-ビス(トリメトキシシリル)ヘキサン、1,6-ビス(トリエトキシシリル)ヘキサン、n-プロピルトリメトキシシラン、n-ブチルトリメトキシシラン、イソブチルトリメトキシシラン、イソブチルトリエトキシシラン、n-ヘキシルトリメトキシシラン、n-ヘキシルトリエトキシシラン、n-オクチルトリエトキシシラン、n-デシルトリメトキシシラン、3-ウレイドプロピルトリエトキシシラン、ビス[3-(ジエトキシメチルシリル)プロピル]カーボネート、トリフルオロプロピルトリメトキシシラン、パーフルオロオクチルエチルトリエトキシシラン、γ-クロロプロピルトリメトキシシラン、ビニルトリ(β-メトキシ-エトキシ)シラン、アリルトリメトキシシラン、γ-アクリロキシプロピルトリメトキシシラン、γ-アクリロキシプロピルトリエトキシシラン、γ-メタクリロキシプロピルトリメトキシシラン、γ-メタクリロキシプロピルトリエトキシシラン、γ-メタクリロキシプロピルジメトキシメチルシラン、γ-メルカプトプロピルトリアルコキシシラン、γ-アミノプロピルトリメトキシシラン、γ-アミノプロピルトリエトキシシラン、N-フェニル-γ-アミノプロピルトリメトキシシラン、N-2(アミノエチル)3-アミノプロピルトリエトキシシラン、N-2(アミノエチル)3-アミノプロピルトリメトキシシラン、N-2(アミノエチル)3-アミノプロピルメチルジメトキシシラン、p-スチリルトリメトキシシラン、3-イソシアネートプロピルトリエトキシシラン、上記の有機ケイ素化合物中の加水分解性基の一部若しくは全部が加水分解したもの又は部分縮合したもの等が挙げられる。シランカップリング剤は、1種類を単独で使用してもよく、2種類以上を併用してもできる。
【0085】
中でも、密着性をより向上させるシランカップリング剤として、γ-グリシドキシプロピルトリメトキシシラン、γ-グリシドキシプロピルトリエトキシシラン、γ-グリシドキシプロピルメチルジメトキシシラン、γ-グリシドキシプロピルメチルジエトキシシラン等が好適に使用される。
【0086】
シランカップリング剤の配合量は、本発明の効果を損なわない限り特に制限されるものではないが、A成分100質量部に対して、0.001~20質量部であることが好ましく、0.01~10質量部であることがより好ましい。
【0087】
グリシジル化合物としては、特に制限されるものではなく、公知のグリシジル化合物を使用することができる。好ましいグリシジル化合物としては、例えば、グリシジルメタクリレート等が挙げられる。
【0088】
グリシジル化合物の含有量は、本発明の効果を損なわない限り特に制限されるものではないが、A成分100質量部に対して、0.001~20質量部であることが好ましく、0.01~10質量部であることがより好ましい。
【0089】
また、本実施形態に係る湿気硬化型ポリウレタン組成物は、特定の波長を吸収する化合物として、(C1)極大吸収波長が400nmを超え450nm以下の範囲にある化合物(以下、「C1成分」ともいう。)、(C2)紫外線吸収剤(以下、「C2成分」ともいう)、及び(C3)550~600nmの範囲に吸収ピークを有する色素(以下、「C3成分」ともいう。)からなる群より選択される少なくとも1種を含有することが好ましい。
【0090】
C1成分としては、極大吸収波長が400nmを超え450nm以下の範囲にある化合物であれば、市販の化合物を特に制限なく使用できる。本実施形態に係る湿気硬化型ポリウレタン組成物中への分散性等の観点から、C1成分としては、ペリレン系化合物、ポルフィリン化合物、カロテノイド系化合物、シアニン系化合物等が好ましい。
【0091】
カロテノイド系化合物としては、ゼータカロテン等のカロテン類が挙げられる。ゼータカロテンは、公知の方法で合成することが可能である。
【0092】
シアニン系化合物としては、市販品を使用することができる。市販品としては、例えば、東京化成工業株式会社等から販売されているシアニン化合物及びメロシアニン化合物;山田化学工業株式会社の商品名FDB-009;等が挙げられる。
【0093】
これらのC1成分の中でも、ポルフィリン化合物を使用することが好ましい。また、ポルフィリン化合物の中でも、銅、マグネシウム、亜鉛、コバルト、チタン、スズ、鉄、鉛、バナジウム等の金属を中心金属として含むポルフィリン金属錯体を使用することが好ましい。また、ポルフィリン化合物としては、国際公開第2018/230513号等に記載されている化合物を好適に使用することできる。
【0094】
該ポルフィリン金属錯体としては、市販品を使用することもできる。市販品としては、東京化成工業株式会社から販売されているものや、山田化学工業株式会社の商品名FDB-001、FDB-002等が挙げられる。
【0095】
C1成分の含有量は、特に制限されるものではなく、目的とする用途等に応じて適宜決定すればよい。中でも、A成分100質量部に対して、0.01~20質量部であることが好ましく、0.01~10質量部であることがより好ましく、0.02~3質量部であることがさらに好ましい。
【0096】
C2成分としては、市販のトリアジン系化合物、ベンゾトリアゾール系化合物、ベンゾフェノン系化合物等を使用することができる。その中でも、長波長の紫外線や青色光を効果的に吸収し、且つ、耐久性が高いものが好ましく、国際公開第2018/230513号等に記載されているような極大吸収波長が320~400nmの範囲にある紫外線吸収剤を好適に使用することができる。
【0097】
C2成分の含有量は、特に制限されるものではないが、A成分100質量部に対して、0.01~20質量部であることが好ましく、0.1~20質量部であることがより好ましく、0.5~20質量部であることがさらに好ましい。
【0098】
C3成分は、防眩性を向上させる観点から有用である。C3成分としては、ニトロ系化合物、アゾ系化合物、アントラキノン系化合物、スレン系化合物、ポルフィリン系化合物、希土類金属化合物等が挙げられる。その中でも、防眩性と視認性との兼ね合いから、ポルフィリン系化合物及び希土類金属化合物が好ましく、湿気硬化型ポリウレタン組成物中への分散安定性の観点から、ポルフィリン系化合物がより好ましい。なお、C3成分のポルフィリン化合物は、C1成分のポルフィリン化合物とは異なるものである。
【0099】
希土類金属化合物としては、アクアヒドロキシ(1-フェニル1,3-ブタンジオナト)ネオジム、アクアヒドロキシ(フェナシルフェニルケトナト)ネオジム、アクアヒドロキシ(1-フェニル-2-メチル-1,3-ブタンジオナト)ネオジム、アクアヒドロキシ(1-チオフェニル-1,3-ブタンジオナト)ネオジム、アクアヒドロキシ(1-フェニル1,3-ブタンジオナト)エルビウム、アクアヒドロキシ(1-フェニル1,3-ブタンジオナト)ホロニウム等の錯体が挙げられる。
【0100】
ポルフィリン系化合物は、ポルフィリン骨格に種々の置換基を有していてもよい化合物であり、例えば、特開平5-194616号公報、特開平5-195446号公報、特開2003-105218号公報、特開2008-134618号公報、特開2013-61653号公報、特開2015-180942号公報、国際公開第2012/020570号、特許第5626081号公報、特許第5619472号公報、特許第5778109号公報等に記載されている化合物を好適に使用することができる。
【0101】
C3成分の含有量は、特に制限されるものではなく、目的とする用途等に応じて適宜決定すればよい。中でも、A成分100質量部に対して、0.001~10質量部であることが好ましい。
【0102】
また、本実施形態に係る湿気硬化型ポリウレタン組成物に紫外線安定剤を配合すると、ポリウレタン樹脂層の耐久性を向上させることができるために好適である。このような紫外線安定剤としては、ヒンダードアミン光安定剤、ヒンダードフェノール酸化防止剤、イオウ系酸化防止剤等が知られている。特に好適な紫外線安定剤としては、ビス(1,2,2,6,6-ペンタメチル-4-ピペリジル)セバケート;株式会社ADEKA製のアデカスタブ LA-52、LA-57、LA-62、LA-63、LA-67、LA-77、LA-82、LA-87;2,6-ジ-t-ブチル-4-メチル-フェノール、エチレンビス(オキシエチレン)ビス[3-(5-t-ブチル-4-ヒドロキシ-m-トリル)プロピオネート];BASF社製のIRGANOX 1010、1035、1075、1098、1135、1141、1222、1330、1425、1520、259、3114、3790、5057、565;等が挙げられる。
【0103】
紫外線安定剤の含有量は、特に制限されるものではないが、A成分100質量部に対して、0.001~10質量部であることが好ましく、0.01~5質量部であることがより好ましい。
【0104】
A成分を製造する際には、ジラウリル酸ジブチルスズ、ジメチルイミダゾール、トリエチレンジアミン、テトラメチル-1,6-ヘキサジアミン、テトラメチル-1,2-エタンジアミン、1,4-ジアザビシクロ[2,2,2]オクタン等の触媒や、ブロックイソシアネート解離を促進させるための触媒を別途加えてもよい。また、プレポリマー反応によって得られるウレタンプレポリマーを用いる場合には、プレポリマー反応で用いた触媒を除去することなくそのまま使用してもよい。触媒を使用する際の添加量は、A成分100質量部に対して、0.001~1質量部であることが好ましい。
【0105】
<湿気硬化型ポリウレタン組成物の調製方法>
本実施形態に係る湿気硬化型ポリウレタン組成物は、公知の方法で調製することができる。例えば、(A)湿気硬化型ポリウレタンに、(B)有機溶剤と、必要に応じて(C)その他の成分とを配合して撹拌することにより、湿気硬化型ポリウレタン組成物を得ることができる。撹拌温度は0~100℃の範囲で、撹拌時間は0.1~48時間の範囲で、適宜調整すればよい。なお、(A)湿気硬化型ポリウレタンの末端にはイソシアネート基が存在するため、水分の混入抑制のために、アルゴン、窒素等の不活性ガス雰囲気下で調製することが好ましい。
【0106】
≪積層体≫
本実施形態に係る積層体は、光学基材と、上述した湿気硬化型ポリウレタン組成物からなるポリウレタン樹脂層とを備える。本実施形態に係る積層体は、フォトクロミック樹脂層をさらに備えていてもよい。本実施形態に係る積層体がフォトクロミック樹脂層を備える場合、積層順は、フォトクロミック樹脂層/ポリウレタン樹脂層/光学基材の順であってもよく、ポリウレタン樹脂層/フォトクロミック樹脂層/光学基材の順であってもよい。
【0107】
<フォトクロミック樹脂層>
フォトクロミック樹脂層は、フォトクロミック化合物を含んでいる樹脂で構成されていれば、特に制限されるものではない。樹脂としては、(メタ)アクリレート樹脂、ポリウレタン樹脂、ポリウレタンウレア樹脂、エポキシ樹脂、ポリカーボネート樹脂、アリル樹脂等を用いることができる。これらの中でも、フォトクロミック性(特に、退色速度)の観点から、(メタ)アクリレート樹脂、ポリウレタン樹脂、及びポリウレタンウレア樹脂が好ましく、フォトクロミック性及び硬度が良好である点から、(メタ)アクリレート樹脂がより好ましい。なお、「(メタ)アクリレート」という用語は、「アクリレート」及び「メタクリレート」の両者を意味する。「(メタ)アクリロイル基」等の他の用語についても同様である。
【0108】
[(D)(メタ)アクリレート樹脂]
(D)(メタ)アクリレート樹脂としては、特に制限されるものではないが、フォトクロミック性が良好であるという観点から、(D1)下記式(1)で表される重合性単量体(以下、「D1成分」ともいう。)と、(D2)D1成分以外の重合性単量体(以下、「D2成分」ともいう。)とを重合して得られる樹脂が好ましい。
【0109】
((D1)下記式(1)で表される重合性単量体)
【化1】
【0110】
式中、R及びRは、それぞれ独立に水素原子又はメチル基を示し、a及びbは、それぞれ独立に0以上の整数を示し、且つ、a+bは2以上の整数である。なお、上記式(1)で表される重合性単量体は、製造上、混合物で得られる場合が多い。そのため、a+bは平均値で2以上の数であり、好ましくは平均値で2~50の数である。
【0111】
上記式(1)で表される重合性単量体の具体例としては、例えば、ジエチレングリコールジメタクリレート、トリエチレングリコールジメタクリレート、テトラエチレングリコールジメタクリレート、ペンタエチレングリコールジメタクリレート、ペンタプロピレングリコールジメタクリレート、ジエチレングリコールジアクリレート、トリエチレングリコールジアクリレート、テトラエチレングリコールジアクリレート、ペンタエチレングリコールジアクリレート、トリプロピレングリコールジアクリレート、テトラプロピレングリコールジアクリレート、ペンタプロピレングリコールジアクリレート、ポリプロピレングリコールとポリエチレングリコールの混合物よりなるジメタアクリレート(ポリエチレンが2個、ポリプロピレンが2個の繰り返し単位を有する)、ポリエチレングリコールジメタクリレート(特に、a=4、b=0、平均分子量:330)、ポリエチレングリコールジメタクリレート(特に、a=9、b=0、平均分子量:536)、ポリエチレングリコールジメタクリレート(特に、a=14、b=0、平均分子量:736)、トリプロピレングリコールジメタクリレート、テトラプロピレングリコールジメタクリレート、ポリプロピレングリコールジメタクリレート(特に、a=0、b=7、平均分子量:536)、ポリエチレングリコールジアクリレート(特に、平均分子量:258)、ポリエチレングリコールジアクリレート(特に、a=4、b=0、平均分子量:308)、ポリエチレングリコールジアクリレート(特に、a=9、b=0、平均分子量:508)、ポリエチレングリコールジアクリレート(特に、a=14、b=0、平均分子量:708)、ポリエチレングリコールメタクリレートアクリレート(特に、a=9、b=0、平均分子量:522)等が挙げられる。
【0112】
((D2)D1成分以外の重合性単量体)
D2成分としては、D1成分と重合し得る重合性単量体であれば、特に制限されるものではなく、公知のものを使用することができる。中でも、分子内に(メタ)アクリロイル基を2個以上有する多官能(メタ)アクリレートを含むことが好ましく、分子内に(メタ)アクリロイル基を2個有する(D2-1)2官能(メタ)アクリレート(以下、「D2-1成分」ともいう。)と、分子内に(メタ)アクリロイル基を3個以上有する(D2-2)多官能(メタ)アクリレート(以下、「D2-2成分」ともいう。)とを含むことがより好ましい。また、分子内に(メタ)アクリロイル基を1個有する(D2-3)単官能(メタ)アクリレート(以下、「D2-3成分」ともいう。)を含むこともできる。
【0113】
((D2-1)2官能(メタ)アクリレート)
D2成分としては、(D2-1)2官能(メタ)アクリレートを含むことが好ましく、中でも、下記式(2)又は(3)で表される2官能(メタ)アクリレート、ウレタン結合を有する2官能(メタ)アクリレート、及び上記に該当しない2官能(メタ)アクリレートが好適に使用される。
【0114】
((D2-1-1)下記式(2)で表される2官能(メタ)アクリレート)
【化2】
【0115】
式中、R及びRは、それぞれ独立に水素原子又はメチル基を示し、R及びRは、それぞれ独立に水素原子又はメチル基を示し、Rは、水素原子又はハロゲン原子を示し、Aは、-O-、-S-、-(SO)-、-CO-、-CH-、-CH=CH-、-C(CH-、又は-C(CH)(C)-を示す。c及びdは、それぞれ独立に1以上の整数を示し、c+dは平均値で2~30の数である。なお、上記式(2)で表される2官能(メタ)アクリレートは、通常、分子量の異なる分子の混合物の形で得られる。そのため、c+dは平均値で示した。
【0116】
上記式(2)で表される2官能(メタ)アクリレートの具体例としては、例えば、2,2-ビス[4-(メタクリロイルオキシエトキシ)フェニル]プロパン(c+d=2、平均分子量:452)、2,2-ビス[4-(メタクリロイルオキシジエトキシ)フェニル]プロパン(c+d=4、平均分子量:540)、2,2-ビス[4-(メタクリロイルオキシポリエトキシ)フェニル]プロパン(c+d=7、平均分子量:672)、2,2-ビス[3,5-ジブロモ-4-(メタクリロイルオキシエトキシ)フェニル]プロパン(c+d=2、平均分子量:768)、2,2-ビス(4-(メタクリロイルオキシジプロポキシ)フェニル)プロパン(c+d=4、平均分子量:596)、2,2-ビス[4-(アクリロイルオキシジエトキシ)フェニル]プロパン(c+d=4、平均分子量:512)、2,2-ビス[4-(アクリロイルオキシポリエトキシ)フェニル]プロパン(c+d=3、平均分子量:466)、2,2-ビス[4-(アクリロイルオキシポリエトキシ)フェニル]プロパン(c+d=7、平均分子量:642)、2,2-ビス[4-(メタクリロイルキシポリエトキシ)フェニル]プロパン(c+d=10、平均分子量:804)、2,2-ビス[4-(メタクリロイルキシポリエトキシ)フェニル]プロパン(c+d=17、平均分子量:1116)、2,2-ビス[4-(メタクリロイルキシポリエトキシ)フェニル]プロパン(c+d=30、平均分子量:1684)、2,2-ビス[4-(アクリロイルキシポリエトキシ)フェニル]プロパン(c+d=10、平均分子量:776)、2,2-ビス[4-(アクリロイルキシポリエトキシ)フェニル]プロパン(c+d=20、平均分子量:1216)等が挙げられる。
【0117】
((D2-1-2)下記式(3)で表される2官能(メタ)アクリレート)
【化3】
【0118】
式中、R及びRは、それぞれ独立に水素原子又はメチル基を示し、eは、平均値で1~20の数を示し、B及びB’は、それぞれ独立に炭素数2~15の直鎖状又は分岐鎖状のアルキレン基を示す。Bが複数存在する場合、複数のBは、それぞれ同一の基であっても異なる基であってもよい。
【0119】
上記式(3)で表される2官能(メタ)アクリレートは、ポリカーボネートジオールと(メタ)アクリル酸とを反応させることにより製造することができる。
【0120】
ポリカーボネートジオールの具体例としては、例えば、トリメチレングリコールのホスゲン化で得られるポリカーボネートジオール(平均分子量:500~2000)、テトラメチレングリコールのホスゲン化で得られるポリカーボネートジオール(平均分子量:500~2000)、ペンタメチレングリコールのホスゲン化で得られるポリカーボネートジオール(平均分子量:500~2000)、ヘキサメチレングリコールのホスゲン化で得られるポリカーボネートジオール(平均分子量:500~2000)、オクタメチレングリコールのホスゲン化で得られるポリカーボネートジオール(平均分子量:500~2000)、ノナメチレングリコールのホスゲン化で得られるポリカーボネートジオール(平均分子量:500~2000)、トリエチレングリコールとテトラメチレングリコールとのホスゲン化で得られるポリカーボネートジオール(平均分子量:500~2000)、テトラメチレングリコールとヘキサメチレンジグリコールとのホスゲン化で得られるポリカーボネートジオール(平均分子量:500~2000)、ペンタメチレングリコールとヘキサメチレングリコールとのホスゲン化で得られるポリカーボネージオール(平均分子量:500~2000)、テトラメチレングリコールとオクタメチレングリコールとのホスゲン化で得られるポリカーボネージオール(平均分子量:500~2000)、ヘキサメチレングリコールとオクタメチレングリコールとのホスゲン化で得られるポリカーボネートジオール(平均分子量:500~2000)、1-メチルトリメチレングリコールのホスゲン化で得られるポリカーボネートジオール(平均分子量:500~2000)等が挙げられる
【0121】
((D2-1-3)ウレタン結合を有する2官能(メタ)アクリレート)
ウレタン結合を有する2官能(メタ)アクリレートとしては、上述した(A1-1)分子内にイソシアネート基を2個以上有するポリイソシアネート化合物、(A1-2)分子内に水酸基を2個以上有するポリオール化合物、及び水酸基含有(メタ)アクリレートを反応させて得られるものが好適である。
【0122】
分子内にイソシアネート基を2個以上有するポリイソシアネート化合物の具体例としては、例えば、ヘキサメチレンジイソシアネート、イソホロンジイソシアネート、リジンイソシアネート、2,2,4-ヘキサメチレンジイソシアネート、ダイマー酸ジイソシアネート、イソプロピリデンビス-4-シクロヘキシルイソシアネート、ジシクロヘキシルメタンジイソシアネート、ノルボルネンジイソシアネート、メチルシクロヘキサンジイソシアネート等が挙げられる。
【0123】
分子内に水酸基を2個以上有するポリオール化合物の具体例としては、例えば、エチレンオキシド、プロピレンオキシド、又はヘキサメチレンオキシドの繰り返し単位を有するポリアルキレングルコール;ポリカプロラクトンジオール等のポリエステルジオール;ポリカーボネートジオール、ポリブタジエンジオール、ペンタエリスリトール、エチレングリコール、プロピレングリコール、1,3-プロパンジオール、1,4-ブタンジオール、1,5-ペンタンジオール、1,6-ヘキサンジオール、1,9-ノナンジオール、1,8-ノナンジオール、ネオペンチルグリコール、ジエチレングリコール、ジプロピレングリコール、1,4-シクロヘキサンジオール、1,4-シクロヘキサンジメタノール、グリセリン、トリメチロールプロパン;などが挙げられる。
【0124】
また、ウレタン結合を有する2官能(メタ)アクリレートとしては、上記ポリイソシアネート化合物と上記ポリオール化合物との反応により得られる分子末端がイソシアネート基であるウレタンプレポリマーと、2-ヒドロキシ(メタ)アクリレートとを反応させた反応混合物や、上記A1-1成分と2-ヒドロキシ(メタ)アクリレートとを直接反応させた反応混合物であるウレタン(メタ)アクリレート等も使用することができる。
【0125】
水酸基含有(メタ)アクリレートの具体例としては、例えば、2-ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、2-ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、3-ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、3-ヒドロキシブチル(メタ)アクリレート、4-ヒドロキシブチル(メタ)アクリレート等が挙げられる。
【0126】
ウレタン結合を有する2官能(メタ)アクリレートとしては、市販品を使用することもできる。市販品としては、例えば、新中村化学工業株式会社製のU-2PPA(分子量:482)、UA-122P(分子量:1100)、U-122P(分子量:1100)、ダイセル・オルネクス株式会社製のEB4858(分子量:454)等が挙げられる。
【0127】
((D2-1-4)上記に該当しない2官能(メタ)アクリレート)
(D2-1-4)上記に該当しない2官能(メタ)アクリレートとしては、置換基を有していてもよいアルキレン基の両末端に(メタ)アクリレート基を有するような化合物が挙げられる。その中でも、炭素数6~20のアルキレン基を有するものが好ましい。具体的には、1,6-ヘキサンジオールジアクリレート、1,6-ヘキサンジオールジメタクリレート、1,9-ノナンジオールジアクリレート、1,9-ノナンジオールジメタクリレート、1,10-デカンジオールジアクリレート、1,10-デカンジオールジメタクリレート等が挙げられる。
【0128】
また、上記に該当しない2官能(メタ)アクリレートとしては、硫黄原子を含有する2官能(メタ)アクリレートも挙げることができる。硫黄原子は、スルフィド基として分子鎖の一部をなしているものが好ましい。具体的には、ビス(2-メタクリロイルオキシエチルチオエチル)スルフィド、ビス(メタクリロイルオキシエチル)スルフィド、ビス(アクリロイルオキシエチル)スルフィド、1,2-ビス(メタクリロイルオキシエチルチオ)エタン、1,2-ビス(アクリロイルオキシエチル)エタン、ビス(2-メタクリロイルオキシエチルチオエチル)スルフィド、ビス(2-アクリロイルオキシエチルチオエチル)スルフィド、1,2-ビス(メタクリロイルオキシエチルチオエチルチオ)エタン、1,2-ビス(アクリロイルオキシエチルチオエチルチオ)エタン、1,2-ビス(メタクリロイルオキシイソプロピルチオイソプロピル)スルフィド、1,2-ビス(アクリロイルオキシイソプロピルチオイソプロピル)スルフィド等が挙げられる。
【0129】
以上の各D2-1成分は、個々に説明した各成分について、1種類を単独で使用してもよく、2種類以上を組み合わせて使用してもよい。また、個々に説明した各成分同士を組み合わせて使用してもよい。複数種類のD2-1成分を組み合わせて使用する場合、B2-1成分の基準となる質量は、これらの合計量である。
【0130】
((D2-2)多官能(メタ)アクリレート)
D2-2成分としては、下記式(4)で表される多官能(メタ)アクリレート、ウレタン結合を有する多官能(メタ)アクリレート、(メタ)アクリロイル基を有するポリロタキサン、及び上記に該当しない多官能(メタ)アクリレートが好適に使用される。
【0131】
((D2-2-1)下記式(4)で表される多官能(メタ)アクリレート)
【化4】
【0132】
式中、R10は、水素原子又はメチル基を示し、R11は、水素原子又は炭素数1~2のアルキル基を示し、R12は、炭素数1~10である3~6価の有機基を示し、fは、平均値で0~3の数を示し、gは、3~6の整数を示す。R11で示される炭素数1~2のアルキル基としては、メチル基が好ましい。R12で示される有機基としては、ポリオールから誘導される基、3~6価の炭化水素基、3~6価のウレタン結合を含む有機基等が挙げられる。
【0133】
上記式(4)で表される多官能(メタ)アクリレートの具体例としては、例えば、トリメチロールプロパントリメタクリレート、トリメチロールプロパントリアクリレート、テトラメチロールメタントリメタクリレート、テトラメチロールメタントリアクリレート、テトラメチロールメタンテトラメタクリレート、テトラメチロールメタンテトラアクリレート、トリメチロールプロパントリエチレングリコールトリメタクリレート、トリメチロールプロパントリエチレングリコールトリアクリレート、ジトリメチロールプロパンテトラメタクリレート、ジトリメチロールプロパンテトラアクリレート等が挙げられる。
【0134】
((D2-2-2)ウレタン結合を有する多官能(メタ)アクリレート)
(D2-2-2)ウレタン結合を有する多官能(メタ)アクリレートは、上述したA1-1成分と、A1-2成分及び/又はA2成分とを反応させ、さらに水酸基含有(メタ)アクリレートを反応させて得られるものであり、中でも分子内に(メタ)アクリロイル基を3個以上有するものが好適である。
【0135】
ウレタン結合を有する多官能(メタ)アクリレートとしては、市販品を使用することもできる。市販品としては、例えば、新中村化学工業株式会社製のU-4HA(分子量:596、官能基数:4)、U-6HA(分子量:1019、官能基数:6)、U-6LPA(分子量:818、官能基数:6)、U-15HA(分子量:2300、官能基数:15)等が挙げられる。
【0136】
((D2-2-3)(メタ)アクリロイル基を有するポリロタキサン)
(D2-2-3)(メタ)アクリロイル基を有するポリロタキサンは、軸分子と、該軸分子を包接する複数の環状分子とを含む複合分子構造を有しており、該環状分子に水酸基を有する側鎖が導入されたポリロタキサンにおいて、該側鎖の水酸基を、(メタ)アクリロイル基を有する化合物で1モル%以上100モル%未満変性したポリロタキサンである。なお、本明細書においては、このように側鎖の水酸基と他の化合物とを反応させて該他の化合物に由来する構造を導入する反応を「変性」とも称する。
【0137】
(メタ)アクリロイル基を有するポリロタキサンは、国際公開第2018/030275号等に記載の公知の方法に従って製造することができる。
【0138】
((D2-2-4)上記に該当しない多官能(メタ)アクリレート)
(D2-2-4)上記に該当しない多官能(メタ)アクリレートとしては、例えば、ポリエステル化合物の末端を(メタ)アクリロイル基で修飾した化合物が挙げられる。原料となるポリエステル化合物の分子量や(メタ)アクリロイル基の修飾量により種々のポリエステル(メタ)アクリレート化合物が市販されており、これらの市販品を使用することができる。ポリエステル(メタ)アクリレート化合物の具体例としては、例えば、4官能ポリエステルオリゴマー(分子量:2500~3500、ダイセル・オルネクス株式会社製、EB80等)、6官能ポリエステルオリゴマー(分子量:6000~8000、ダイセル・オルネクス株式会社製、EB450等)、6官能ポリエステルオリゴマー(分子量:45000~55000、ダイセル・オルネクス株式会社製、EB1830等)、4官能ポリエステルオリゴマー(分子量:10000、第一工業製薬株式会社製、GX8488B等)等が挙げられる。
【0139】
以上に例示したD2-2成分を使用することにより、フォトクロミック性を維持しつつ、必要に応じて、重合により架橋密度を向上させることができる。
【0140】
以上の各D2-2成分は、個々に説明した各成分について、1種類を単独で使用してもよく、2種類以上を組み合わせて使用してもよい。また、個々に説明した各成分同士を組み合わせて使用してもよい。複数種類のD2-1成分を組み合わせて使用する場合、D2-2成分の基準となる質量は、これらの合計量である。
【0141】
((D2-3)単官能(メタ)アクリレート)
(D2-3)単官能(メタ)アクリレートとしては、下記式(5)で表される単官能(メタ)アクリレートが挙げられる。
【0142】
【化5】
【0143】
式中、R13は、水素原子又はメチル基を示し、R14は、水素原子、メチルジメトキシシリル基、トリメトキシシリル基、又はグリシジル基を示し、hは、0~10の整数を示し、iは、0~20の整数を示す。
【0144】
上記式(5)で表される単官能(メタ)アクリレートの具体例としては、例えば、メトキシポリエチレングリコールメタクリレート(特に、平均分子量:293)、メトキシポリエチレングリコールメタクリレート(特に、平均分子量:468)、メトキシポリエチレングリコールアクリレート(特に、平均分子量:218)、メトキシポリエチレングリコールアクリレート、(特に、平均分子量:454)、ステアリルメタクリレート、ラウリルメタクリレート、メチルアクリレート、エチルアクリレート、ブチルアクリレート、オクチルアクリレート、ラウリルアクリレート、γ-メタクリロイルオキシプロピルトリメトキシシラン、γ-メタクリロイルオキシプロピルメチルジメトキシシラン、グリシジルメタクリレート等が挙げられる。
【0145】
[(E)フォトクロミック化合物]
(E)フォトクロミック化合物(以下、「E成分」ともいう。)としては、例えば、フルギド化合物、クロメン化合物、スピロオキサジン化合物等が知られており、本実施形態においては、これらのフォトクロミック化合物を何ら制限なく使用することができる。これらは、1種類を単独で使用してもよく、2種類以上を併用してもよい。フルギド化合物、クロメン化合物、及びスピロオキサジン化合物としては、例えば、特開平2-28154号公報、特開昭62-288830号公報、国際公開第94/22850号、国際公開第96/14596号等に記載されている化合物が挙げられる。
【0146】
また、優れたフォトクロミック性を有する化合物として本発明者らが新たに見出した化合物、例えば、特開2001-114775号公報、特開2001-031670号公報、特開2001-011067号公報、特開2001-011066号公報、特開2000-347346号公報、特開2000-344762号公報、特開2000-344761号公報、特開2000-327676号公報、特開2000-327675号公報、特開2000-256347号公報、特開2000-229976号公報、特開2000-229975号公報、特開2000-229974号公報、特開2000-229973号公報、特開2000-229972号公報、特開2000-219687号公報、特開2000-219686号公報、特開2000-219685号公報、特開平11-322739号公報、特開平11-286484号公報、特開平11-279171号公報、特開平10-298176号公報、特開平09-218301号公報、特開平09-124645号公報、特開平08-295690号公報、特開平08-176139号公報、特開平08-157467号公報、米国特許第5645767号明細書、米国特許第5658501号明細書、米国特許第5961892号明細書、米国特許第6296785号明細書、特許第4424981号公報、特許第4424962号公報、国際公開第2009/136668号、国際公開第2008/023828号、特許第4369754号公報、特許第4301621号公報、特許第4256985号公報、国際公開第2007/086532号、特開2009-120536号公報、特開2009-67754号公報、特開2009-67680号公報、特開2009-57300号公報、特許第4195615号公報、特許第4158881号公報、特許第4157245号公報、特許第4157239号公報、特許第4157227号公報、特許第4118458号公報、特開2008-74832号公報、特許第3982770号公報、特許第3801386号公報、国際公開第2005/028465号、国際公開第2003/042203号、特開2005-289812号公報、特開2005-289870号公報、特開2005-112772号公報、特許第3522189号公報、国際公開第2002/090342号、特許第3471073号公報、特開2003-277381号公報、国際公開第2001/060811号、国際公開第2000/071544号、国際公開第2005/028465号、国際公開第2011/16582号、国際公開第2011/034202号、国際公開第2012/121414号、国際公開第2013/042800号、特許第6031035号公報、特願2019-120178号、特願2019-190604、特願2020-025057号、特願2020-031674号、特願2020-033969号等に開示されている化合物も好適に用いることができる。
【0147】
これらのE成分の中でも、発色濃度、初期着色、耐久性、退色速度等のフォトクロミック性の観点から、インデノ〔2,1-f〕ナフト〔1,2-b〕ピラン骨格を有するクロメン化合物を1種類以上用いることがより好ましい。さらにこれらのクロメン化合物中でもその分子量が540以上の化合物は、発色濃度及び退色速度に特に優れるため好適である。
【0148】
また、E成分としては、分子量が300以上の長鎖の基、特にポリシロキサン鎖、ポリオキシアルキレン鎖、ポリエステル鎖、ポリエステルポリエーテル鎖等の分子鎖を置換基として有する化合物の中から、任意のものを適宜選択して使用することもできる。分子量が300以上の分子鎖は高分子量であるため、フォトクロミック化合物を製造する際に、1種類の分子鎖ではなく、複数種類の分子鎖を有するものとなる場合がある。その場合、該分子鎖の分子量は、複数種類のものの平均値(数平均分子量)が上記の規定の範囲となればよい。この分子量は、フォトクロミック化合物の製造時の原料の種類により確認することもでき、NMR、IR、質量分析等の公知の手段により製造物から確認することもできる。
【0149】
フォトクロミック化合物が分子量300以上の分子鎖を有することにより、フォトクロミック樹脂層中においても、より高度なフォトクロミック性を発揮できると考えられる。該分子鎖の分子量は、フォトクロミック性、フォトクロミック化合物の配合量、及びフォトクロミック化合物自体の生産性を考慮すると、300~25000であることが好ましく、400~20000であることがより好ましく、440~15000であることがさらに好ましく、500~10000であることが特に好ましい。
【0150】
フォトクロミック化合物が分子量300以上の分子鎖を有する場合、該分子鎖の数は、フォトクロミック化合物1分子に対して0.5個以上となることが好ましい。すなわち、該分子鎖の数が最も少なくなる場合であっても、2つのフォトクロミック化合物を、該分子鎖で結合するような構造となることが好ましい。該分子鎖の数の上限は、分子鎖の分子量との兼ね合い、フォトクロミック性等を考慮すると、4個以下が好ましく、2個以下がより好ましく、1個であることがさらに好ましい。
【0151】
また、E成分は、フォトクロミック性を発揮する分子構造が、光の照射によって分子の一部が開裂して発色し、開裂した箇所が再結合することにより退色するものが好ましい。したがって、フォトクロミック化合物が可逆的に発色及び退色を繰り返すためには、開裂及び再結合が起こる際に分子の動きを妨げない自由空間が存在すること(分子の自由度)が重要となる。このような分子構造を有する化合物の場合、特に、該分子鎖の効果が発揮されるものと考えられる。
【0152】
このようなフォトクロミック化合物としては、例えば、国際公開第2000/015630号、国際公開第2004/041961号、国際公開第2005/105874号、国際公開第2005/105875号、国際公開第2006/022825号、国際公開第2009/146509号、国際公開第2010/20770号、国際公開第2012/121414号、国際公開第2012/149599号、国際公開第2012/162725号、国際公開第2012/176918号、国際公開第2013/078086号、国際公開第2019/013249号、国際公開第2019/203205号、国際公開第2020/017610号、国際公開2019/203205号、特開2019-182866号公報等に記載される化合物が挙げられる。
【0153】
E成分の含有量は、フォトクロミック樹脂層100質量部に対して、0.01~20質量部であることが好ましく、0.1~15質量部であることがより好ましく、0.5~10質量部であることがさらに好ましい。
【0154】
[フォトクロミック樹脂層中の各成分の配合割合]
上述したD1成分及びD2成分の配合割合は、得られるフォトクロミック樹脂層の発色濃度、及び退色速度といったフォトクロミック性を考慮すると、D1成分及びD2成分の合計量を100質量部としたときに、D1成分を40~95質量部とし、D2成分を5~60質量部とすることが好ましい。
【0155】
また、D2成分は、D2-2成分を含み、必要に応じてD2-1成分及びD2-3成分を含むことが好ましい。より具体的には、D2成分の全量を100質量部としたとき、D2-1成分を0~30質量部とし、D2-2成分を50~100質量部とし、D2-3成分を0~50質量部とすることが好ましい。
【0156】
また、フォトクロミック化合物の配合割合は、得られるフォトクロミック樹脂層の発色濃度、及び退色速度といったフォトクロミック性を考慮すると、D1成分及びD2成分の全量を100質量部としたときに、0.1~10質量部とすることが好ましく、2~10質量部とすることがより好ましい。
【0157】
[その他の成分]
フォトクロミック樹脂層は、熱重合開始剤、光重合開始剤等の重合開始剤を含有していてもよい。
【0158】
熱重合開始剤としては、ベンゾイルパーオキサイド、p-クロロベンゾイルパーオキサイド、デカノイルパーオキサイド、ラウロイルパーオキサイド、アセチルパーオキサイド等のジアシルパーオキサイド;t-ブチルパーオキシ-2-エチルヘキサネート、t-ブチルパーオキシネオデカネート、クミルパーオキシネオデカネート、t-ブチルパーオキシベンゾエート等のパーオキシエステル;ジイソプロピルパーオキシジカーボネート、ジ-sec-ブチルパーオキシジカーボネート等のパーカーボネート;アゾビスイソブチロニトリル等のアゾ化合物;などが挙げられる。
【0159】
光重合開始剤としては、1-フェニル-2-ヒドロキシ-2-メチルプロパン-1-オン、1-ヒドロキシシクロヘキシルフェニルケトン、1-(4-イソプロピルフェニル)-2-ヒドロキシ-2-メチルプロパン-1-オン等のアセトフェノン系化合物;1,2-ジフェニルエタンジオン、メチルフェニルグリコキシレート等のα-ジカルボニル系化合物;2,6-ジメチルベンゾイルジフェニルフォスフィンオキシド、2,4,6-トリメチルベンゾイルジフェニルフォスフィンオキシド、2,4,6-トリメチルベンゾイルジフェニルフォスフィン酸メチルエステル、2,6-ジクロルベンゾイルジフェニルフォスフィンオキシド、2,6-ジメトキシベンゾイルジフェニルフォスフィンオキシド等のアシルフォスフィンオキシド系化合物;などが挙げられる。
【0160】
なお、光重合開始剤を用いる場合には、3級アミン等の公知の重合硬化促進助剤を併用することもできる。
【0161】
また、フォトクロミック樹脂層には、上述した成分以外にも、本発明の効果を損なわない範囲で、それ自体公知の各種添加剤を配合していてもよい。添加剤としては、例えば、紫外線吸収剤、赤外線吸収剤、紫外線安定剤、酸化防止剤、着色防止剤、帯電防止剤、染料、顔料、香料、溶剤、レベリング剤等が挙げられる。
【0162】
中でも、紫外線安定剤を使用するとフォトクロミック化合物の耐久性を向上させることができるために好適である。このような紫外線安定剤としては、ヒンダードアミン光安定剤、ヒンダードフェノール酸化防止剤、イオウ系酸化防止剤等が知られている。特に好適な紫外線安定剤としては、ビス(1,2,2,6,6-ペンタメチル-4-ピペリジル)セバケート;株式会社ADEKA製のアデカスタブ LA-52、LA-57、LA-62、LA-63、LA-67、LA-77、LA-82、LA-87;2,6-ジ-t-ブチル-4-メチル-フェノール、エチレンビス(オキシエチレン)ビス[3-(5-t-ブチル-4-ヒドロキシ-m-トリル)プロピオネート];BASF社製のIRGANOX 1010、1035、1075、1098、1135、1141、1222、1330、1425、1520、259、3114、3790、5057、565、254;等が挙げられる。
【0163】
紫外線安定剤の配合量は、本発明の効果を損なわない限り特に制限されるものではないが、通常、D1成分及びD2成分の合計量100質量部に対して、0.001~10質量部であり、0.01~3質量部であることが好ましい。特に、ヒンダードアミン光安定剤を用いる場合、フォトクロミック化合物の種類によって耐久性の向上効果に差がある結果、調整された発色色調の色ズレが生じないようにするため、フォトクロミック化合物1モル当たり、0.5~30モルとすることが好ましく、1~20モルとすることがより好ましく、2~15モルとすることがさらに好ましい。
【0164】
<光学基材>
光学基材としては、例えば、プラスチックレンズ基材が挙げられる。プラスチックレンズ基材としては、例えば、(メタ)アクリル樹脂、ポリカーボネート樹脂等の熱可塑性樹脂レンズ;多官能(メタ)アクリル樹脂、アリル樹脂、チオウレタン樹脂、ウレタン樹脂、チオエポキシ樹脂等の架橋性樹脂レンズ;などが挙げられる。また、これらのプラスチックレンズ基材上にハードコート層等を積層したプラスチックレンズ基材にも適用可能である。
【0165】
光学基材は、フォトクロミック樹脂層等との密着性向上のために、アルカリ溶液、酸溶液等による化学的処理;コロナ放電、プラズマ放電、研磨等による物理的処理を施したものであってもよい。
【0166】
また、上述した湿気硬化型ポリウレタン組成物を光学物品のフォトクロミック樹脂層上に積層して保護層として使用する場合には、本発明の効果を損なわない範囲で、光学基材とフォトクロミック樹脂層との間、或いはフォトクロミック樹脂層と湿気硬化型ポリウレタン組成物からなる保護層との間に他の層を積層してもよい。例えば、光学基材の表面にフォトクロミック樹脂層を形成する前に、光学基材の表面にポリウレタン系、ポリエステル系、ポリビニルアセタール系、エポキシ系等のプライマー層を設けることも可能である。当然のことながら、上述した湿気硬化型ポリウレタン組成物をプライマー層の形成に使用することもできる。
【0167】
プライマー層としては、公知のポリウレタン樹脂を使用することが可能である。その中でも、密着性の観点から、特許第4405833号公報に記載されているような湿気硬化型ポリウレタン樹脂又はその前駆体、或いは特許第5016266号公報又は特許5084727号公報に記載されているような水分散ウレタンエマルジョンからなるプライマー層が好ましい。
【0168】
<光学基材上にフォトクロミック樹脂層を形成する方法>
(D)フォトクロミック樹脂層は、例えば、上述した各単量体成分、フォトクロミック化合物、及び必要に応じてその他の成分を混合してフォトクロミック単量体組成物を調製し、これを光学基材上で重合させることにより形成することが好ましい。
【0169】
フォトクロミック樹脂層を作製するための重合は、活性エネルギー線(紫外線、α線、β線、γ線、LED光等)の照射、加熱、或いは両者の併用によって行われる。すなわち、用いる重合性単量体や重合硬化促進剤の種類及び形成されるフォトクロミック樹脂層の形態に応じて、適宜の重合手段を採用すればよい。フォトクロミック樹脂層を後述するコーティング法によって形成する場合には、均一な膜厚が得られる理由から、光重合を採用することが好ましい。
【0170】
フォトクロミック単量体組成物を光重合させる場合には、重合条件のうち特に照度条件が、得られるフォトクロミック樹脂層の性状に影響を与える。この照度条件は、光重合開始剤の種類及び量や重合性単量体の種類によって影響を受けるため一概に限定はできないが、一般的には365nmの波長で10~500mW/cmのUV光を0.1~5分間照射するように条件を選ぶのが好ましい。
【0171】
上述したコーティング法によりフォトクロミック樹脂層を形成する場合には、フォトクロミック単量体組成物を塗布液として使用し、スピンコート、ディッピング等により、レンズ基材等の光学基材の表面に該塗布液を塗布し、次いで、窒素等の不活性ガス中でのUV照射や加熱等により重合を行うことにより、光学基材の表面にフォトクロミック樹脂層が形成される。
【0172】
上記のようなコーティング法によりフォトクロミック樹脂層を光学基材の表面に形成する場合には、予め光学基材の表面に、アルカリ溶液、酸溶液等による化学的処理;コロナ放電、プラズマ放電、研磨等による物理的処理;などを行っておくことにより、フォトクロミック樹脂層と光学基材との密着性を高めることもできる。勿論、光学基材の表面に別途透明な接着樹脂層を設けておくことも可能である。
【0173】
上述したフォトクロミック樹脂層は、発色濃度や特に退色速度等に優れたフォトクロミック性を発現させることができ、フォトクロミック性が付与された光学基材、例えばフォトクロミックレンズの作製に有効に利用される。なお、フォトクロミック樹脂層の形成方法としてコーティング法について説明したが、注型重合等の他の方法によりフォトクロミック樹脂層を形成してもよい。
【0174】
<光学基材上及び/又はフォトクロミック樹脂層上にポリウレタン樹脂層を形成する方法>
湿気硬化型ポリウレタン組成物からなるポリウレタン樹脂層を形成する方法は、特に限定されないが、例えば、(A)湿気硬化型ポリウレタンと(B)有機溶媒とを含有する湿気硬化型ポリウレタン組成物を調製し、これを光学基材上、及び/又は光学基材上に形成されたフォトクロミック樹脂層上に付与し、湿気(すなわち空気中の水分)の存在下、乾燥によって硬化することによりポリウレタン樹脂層を形成することが好ましい。必要に応じて、追加で加熱することも可能である。
【0175】
光学基材上及び/又はフォトクロミック樹脂層上に湿気硬化型ポリウレタン組成物を付与する方法は、特に制限されるものではなく、ディップコーティング、スピンコーティング、ディップスピンコーティング、ディップ&スピンコーティング、フローコーティング等の方法を採用することができる。中でも、湿気(すなわち空気中の水分)と反応させる観点から、スピンコーティングが好ましい。
【0176】
また、前記硬化は、前記湿気硬化型ポリウレタン組成物を塗布した後、湿気(すなわち空気中の水分)の存在下で乾燥させるだけでもよいが、光学基材や樹脂の耐熱性に影響を与えない範囲で乾燥を速めるために加熱処理、及び/又は加熱加湿処理をしてもよい。
【0177】
乾燥を速めるための温度は、具体的には、室温(23℃)~130℃の範囲であることが好ましい。また、乾燥を速めるための湿度は、45%RH~95%RHの範囲であることが好ましい。この範囲であれば、加熱による光学基材の変形や変色を抑制できる。加熱時間は、特に限定されないが、通常、1分間~6時間の範囲であり、加熱加湿時間は、特に限定されないが、通常、5分間~48時間の範囲である。
【0178】
湿気硬化型ポリウレタン樹脂層の厚みは、特に制限されるものではないが、紫外線レンズの外観、密着性、硬度、及び形成する湿気硬化型ポリウレタン樹脂層の平滑性を考慮すると、0.1~10μmとすることが好ましく、0.1~8μmとすることがより好ましく、0.5~5μmとすることがさらに好ましい。
【0179】
また、本実施形態に係る積層体には、その用途に応じて、分散染料等の染料を用いる染色;シランカップリング剤や、ケイ素、ジルコニウム、アンチモン、アルミニウム、スズ、タングステン等のゾルを主成分とするハードコート剤を用いてのハードコート膜の作製;SiO、TiO、ZrO等の金属酸化物の蒸着による薄膜形成;有機高分子を塗布しての薄膜を形成することによる、反射防止処理、帯電防止処理、ミラーコート処理、撥水処理、親水化処理、防曇処理、防汚処理、又は(近)赤外線カット処理;などの後加工を施すことも可能である。
【実施例
【0180】
次に、実施例及び比較例を用いて本発明を詳細に説明するが、本発明は本実施例に限定されるものではない。以下において、実施例5~36は、いずれも参考例と読み替えるものとする。上記の各成分及び評価方法等は、以下のとおりである。
【0181】
<湿気硬化型ポリウレタン組成物>
[A1-1成分]
TDI:トリレン-2,4-ジイソシアネート(80質量%)とトリレン-2,6-ジイソシアネート(20質量%)との混合物(分子量:174)
MDI:4,4-ジフェニルメタンジイソシアネート(分子量:250)
XDI:m-キシリレンジイソシアネート(分子量:188)
IPDI:イソホロンジイソシアネート(異性体混合物)(分子量:222)
【0182】
[A1-2成分及びA3成分]
PL1:旭化成株式会社製、デュラノール(1,5-ペンタンジオールとヘキサンジオールとを原料とするポリカーボネートジオール、数平均分子量:500)
PL2:ポリプロピレングリコール(数平均分子量:400)
PL3:旭化成株式会社製、デュラノール(1,5-ペンタンジオールとヘキサンジオールとを原料とするポリカーボネートジオール、数平均分子量:1000)
PL4:旭化成株式会社製、デュラノール(1,5-ペンタンジオールとヘキサンジオールとを原料とするポリカーボネートジオール、数平均分子量:2000)
PL5:アジピン酸と3-メチル-1,5-ペンタンジオールとを原料とするポリエステルポリオール(数平均分子量:500)
PL6;イソフタル酸と3-メチル-1,5-ペンタンジオールとを原料とするポリエステルポリオール(数平均分子量:500)
PL7:株式会社ダイセル製、プラクセル(ポリカプロラクトンジオール、数平均分子量:500)
【0183】
[A2成分]
EG:エチレングリコール(分子量:62)
PG1:1,2-プロパンジオール(分子量:76)
PG2:1,3-プロパンジオール(分子量:76)
BG:1,3-ブタンジオール(分子量:90)
HG:1,6-ヘキサンジオール(分子量:118)
TMP:トリメチロールプロパン(分子量:134)
【0184】
[A4成分]
IPDA:イソホロンジアミン(異性体混合物)
【0185】
[B成分(括弧内は溶解度パラメータを表す)]
B1:ジエチルケトン(8.7)
B2:トルエン(8.8)
B3:酢酸エチル(9.0)
【0186】
[その他の成分]
L7001:東レ・ダウコーニング株式会社製、商品名;L7001(レベリング剤)
【0187】
<フォトクロミック単量体組成物>
[D1成分]
14G:ポリエチレングリコールジメタクリレート(エチレングリコール鎖の平均鎖長:14、平均分子量:736)
A-400:ポリエチレングリコールジアクリレート(エチレングリコール鎖の平均鎖長:9、平均分子量:508)
【0188】
[D2成分]
TMPT:トリメチロールプロパントリメタクリレート
D-TMP:ジトリメチロールプロパンテトラアクリレート
SI-1:γ-メタクリロイルオキシプロピルトリメトキシシラン
GMA:グリシジルメタクリレート
RX-1:(メタ)アクリロイル基を有するポリロタキサン
【0189】
なお、RX-1は、国際公開第2018/030275号に記載の方法に従って合成した。RX-1の特性は以下のとおりである。
GPCで測定した質量平均分子量(Mw):880000
アクリロイル基の変性割合:85モル%
側鎖に残存する水酸基の割合:15モル%
軸分子;分子量20000の直鎖状ポリエチレングリコール(PEG)
包接環;α-シクロデキストリン(α-CD)(導入割合:0.25)
軸分子の末端;アダマンタンで封止
包接環に導入した側鎖:側鎖の(平均)分子量が約600
【0190】
[フォトクロミック化合物]
PC1:下記式で表される化合物
【0191】
【化6】
【0192】
[その他の成分]
CGI:フェニルビス(2,4,6-トリメチルベンゾイル)-ホスフィンオキシド(商品名:Omnirad819、IGM社製)(重合開始剤)
HALS:ビス(1,2,2,6,6-ペンタメチル-4-ピペリジル)セバケート(分子量:508)(紫外線安定剤)
HP:エチレンビス(オキシエチレン)ビス[3-(5-tert-ブチル-4-ヒドロキシ-m-トリル)プロピオネート](BASF社製、Irganox 245)(紫外線安定剤)
L7001:東レ・ダウコーニング株式会社製、L7001(レベリング剤)
【0193】
<調製例1:湿気硬化型ポリウレタン組成物(PU1)の調製>
スターラーチップ、冷却管、温度計、窒素ガス導入管、及び撹拌機を有する反応容器に、A1-1成分であるTDI(90g)、A1-2成分であるPL1(130g)、及び有機溶媒であるトルエン(235g)(後にB成分の一成分とする)を加え、均一に混合した。この混合液を窒素雰囲気下、90℃に調整してプレポリマー反応を行い、ウレタンプレポリマー溶液を得た。
【0194】
さらに、上記方法で得られたウレタンプレポリマー溶液に、A2成分であるPG1(9.8g)及びB成分である酢酸エチル(125g)を加え、75℃に調整し、反応を行った。
【0195】
上記反応液に、さらにB成分である酢酸エチル(360g)、及びその他の成分であるL7001(1.0g)を加え、窒素雰囲気下で均一になるまで撹拌し、湿気硬化型ポリウレタン組成物(PU1)を得た。湿気硬化型ポリウレタン組成物(PU1)の組成等を表1に示す。
【0196】
(湿気硬化型ポリウレタンの数平均分子量の測定)
調製例1で得られた湿気硬化型ポリウレタンの数平均分子量は、ゲルパーミネーションクロマトグラフィー(GPC測定)により、以下の条件で測定した。装置としては、液体クロマトグラフ装置(日本ウォーターズ株式会社製)を用いた。カラムとしては、昭和電工株式会社製Shodex GPC KD-806M(排除限界分子量:200000000)を使用した。また、展開液としてジメチルホルムアミド(DMF)を用い、流速1mL/min、温度40℃の条件にて測定した。そして、標準試料にポリエチレングリコールを用い、比較換算により数平均分子量を求めた。なお、検出器には示差屈折率計を用いた。湿気硬化型ポリウレタンは、予めブチルアミンで処理することでイソシアネート基を不活性化させた後に測定を行った。この方法で求めた湿気硬化型ポリウレタンの数平均分子量は1800であった。
【0197】
(湿気硬化型ポリウレタンに含まれるイソシアネート基含有量の測定)
湿気硬化型ポリウレタンに含まれるイソシアネート基含有量は、イソシアネート基の逆滴定法により求めた。イソシアネート基の逆滴定は、以下の手順により実施した。
1)500mLの脱水ジオキサンにn-ブチルアミン12.5gを添加し、均一になるまで撹拌し、n-ブチルアミン/ジオキサン溶液を調製した。
2)110mLスクリュー管に、ホールピペットで上記のn-ブチルアミン/ジオキサン溶液を10mL採取し、THF約20mL、ブロモクレゾールブルー1%エタノール溶液3滴を加え、撹拌しながら0.1mol/L硫酸水溶液にて滴定し、青色から黄緑色、又は黄色に変色した点を終点とした。滴定には、50mLのビュレットを使用した。2回測定を行い、平均値よりブランク値を算出した(単位:mL)。
3)110mLスクリュー管に湿気硬化型ポリウレタン組成物約1gを0.01g単位まで秤量し、THF約20mL、次いで上記ブチルアミン/ジオキサン溶液をホールピペットで10mL仕込み、撹拌することで均一にした。均一になったことを確認し、撹拌しながら、0.1mol/L硫酸水溶液にて滴定した。
4)イソシアネート基含有量(NCO量)は、次式により算出した。
【0198】
【数1】
【0199】
式中、fは、滴定に使用する際の0.1mol/L硫酸水溶液の力価であり、本滴定では1である。固形分濃度は、後述する方法で測定した結果を用いた。この方法で求めた、調製例1で得られた湿気硬化型ポリウレタンのイソシアネート基含有量は4.7質量%であった。
【0200】
(湿気硬化型ポリウレタンに含まれるウレタン結合数の算出)
湿気硬化型ポリウレタンに含まれるウレタン結合数は、製造に用いた各成分が理論的に反応した際の1分子中に含まれる各成分のモル比から1分子中に含まれるウレタン結合数を算出し、その数字を該湿気硬化型ポリウレタン100g中に含まれるモル数に変換することによって求めた。この方法で求めた、製造例1で得られた湿気硬化型ポリウレタン中のウレタン結合数は0.333mol/100gであった。
【0201】
(湿気硬化型ポリウレタン組成物の固形分濃度の測定)
湿気硬化型ポリウレタン組成物の固形分濃度は、以下の手順により測定した。まず、対流式オーブンを120℃に設定した。
1)空の容器(アルミカップ)の重量を、0.0001g単位まで測定した(重量1)。
2)容器(アルミカップ)に、湿気硬化型ポリウレタン組成物を約2g仕込み、0.0001g単位まで秤量(重量2)した。
3)120℃に設定した対流式オーブン内で、3時間乾燥させた。
4)乾燥後の湿気硬化型ポリウレタン組成物の重量容器ごと0.0001g単位まで秤量し(重量3)、下記式にて固形分濃度を算出した。
【0202】
【数2】
【0203】
この方法で求めた、調製例1で得られた湿気硬化型ポリウレタン組成物の固形分濃度は24.2質量%であった。
【0204】
(湿気硬化型ポリウレタン組成物の粘度測定)
湿気硬化型ポリウレタン組成物の粘度は、キャノンフェンスケ粘度計を用いて測定した。すなわち、キャノンフェンスケ粘度計に、湿気硬化型ポリウレタン組成物10mLをホールピペットにて秤量し、このキャノンフェンスケ粘度計を、25℃に設定した恒温水層(25±0.1℃)にセットし、15分間放置した後に動粘度を測定した。また、浮秤を用いて比重を測定し、動粘度と比重との積から粘度を求めた。この方法で求めた、調製例1で得られた湿気硬化型ポリウレタン組成物の粘度は5.2mPa・sであった。
【0205】
<製造例2:湿気硬化型ポリウレタン組成物(PU2)の調製>
スターラーチップ、冷却管、温度計、窒素ガス導入管、及び撹拌機を有する反応容器に、A1-1成分であるTDI(90g)、A1-2成分であるPL2(103g)、及び有機溶媒であるトルエン(193g)(後にB成分の一成分とする)を加え、均一に混合した。この混合液を窒素雰囲気下、90℃に調整してプレポリマー反応を行い、ウレタンプレポリマー溶液を得た。
【0206】
さらに、上記方法で得られたウレタンプレポリマー溶液に、A2成分であるPG1(9.8g)を加え、75℃に調整し、反応を行った。
【0207】
上記反応液に、さらにB成分である酢酸エチル(396g)、及びその他の成分であるL7001(0.8g)を加え、窒素雰囲気下で均一になるまで撹拌し、湿気硬化型ポリウレタン組成物(PU2)を得た。湿気硬化型ポリウレタン組成物(PU2)の組成等を表1に示す。
【0208】
<調製例3:湿気硬化型ポリウレタン組成物(PU3)の調製>
スターラーチップ、冷却管、温度計、窒素ガス導入管、及び撹拌機を有する反応容器に、A1-1成分であるTDI(90g)、A1-2成分であるPL2(103g)、及び有機溶媒であるトルエン(193g)(後にB成分の一成分とする)を加え、均一に混合した。この混合液を90℃に調整してプレポリマー反応を行い、ウレタンプレポリマー溶液を得た。
【0209】
さらに、上記方法で得られたウレタンプレポリマー溶液に、A2成分であるPG1(4.9g)を加え、75℃に調整し、反応を行った。さらに、A2成分であるTMP(8.7g)、B成分である酢酸エチル(117g)を加え、75℃で反応を行った。
【0210】
上記反応液に、さらにB成分である酢酸エチル(517g)、及びその他の成分であるL7001(1.1g)を加え、窒素雰囲気下で均一になるまで撹拌し、湿気硬化型ポリウレタン組成物(PU3)を得た。湿気硬化型ポリウレタン組成物(PU3)の組成等を表1に示す。
【0211】
【表1】
【0212】
<調製例4~24:湿気硬化型ポリウレタン組成物(PU4~PU24)の調製>
表2~4に示す各成分を用い、調製例1と同様にして、湿気硬化型ポリウレタン組成物(PU4~PU24)を調製した。湿気硬化型ポリウレタン組成物(PU4~PU24)の組成等を表2~4に示す。
【0213】
【表2】
【0214】
【表3】
【0215】
【表4】
【0216】
<調製例25:湿気硬化型ポリウレタン組成物(PU25)の調製>
湿気硬化型ポリウレタン組成物(PU1)(300質量部)に対して、ポルフィリン化合物(山田化学工業株式会社製「FDB-002」、極大吸収波長:431nm、吸光係数:380L/mol・cm、半値幅:18nm)(0.03質量部)、ベンゾトリアゾール系紫外線吸収剤(シプロ化成株式会社製「SEESORB 703」、極大吸収波長:345nm、吸収係数:50L/g・cm、半値幅:90nm)(7質量部)、及び三菱ケミカル株式会社製「ダイヤレジンBlueJ」(極大吸収波長:590nm、吸収係数:35L/g・cm、半値幅:110nm)(0.04質量部)を加えて、窒素雰囲気下で均一になるまで十分に撹拌して混合することにより、紫外線吸収能を有する湿気硬化型ウレタン組成物(PU25)を得た。
【0217】
<調製例26:フォトクロミック組成物(1)の調製>
ポリエチレングリコールジメタクリレート(14G)(エチレングリコール鎖の平均鎖長:14、平均分子量:736)(40質量部)、ポリエチレングリコールジアクリレート(A-400)(エチレングリコール鎖の平均鎖長:9、平均分子量:508)(21質量部)、トリメチロールプロパントリメタクリレート(TMPT)(30質量部)、RX-1(3質量部)、SI-1(3質量部)、グリシジルメタクリレート(GMA)(1質量部)、フォトクロミック化合物PC1(2質量部)、CGI(0.3質量部)、HALS(3質量部)、HP(1質量部)、及びL7001(0.1質量部)を加え、70℃で15分間撹拌混合し、コーティング法に用いるフォトクロミック組成物(1)を得た。フォトクロミック組成物(1)の組成を表5に示す。
【0218】
<調製例27:フォトクロミック組成物(2)の調製>
表3に示す材料を用いた以外は調製例26と同様にして、フォトクロミック硬化性組成物(2)を調製した。フォトクロミック組成物(1)の組成を表5に示す。
【0219】
【表5】
【0220】
<実施例1>
[フォトクロミック樹脂層の形成]
まず、光学基材として中心厚が2mmで屈折率が1.60のチオウレタン系プラスチックレンズを用意した。なお、このチオウレタン系プラスチックレンズは、事前に10%水酸化ナトリウム水溶液を用いて、50℃で5分間のアルカリエッチングを行い、その後、十分に蒸留水で洗浄を実施した。
【0221】
次いで、スピンコーター(1H-DX2、ミカサ株式会社製)を用いて、上記のプラスチックレンズの表面に、湿気硬化型プライマー(製品名;TR-SC-P、株式会社トクヤマ製)を回転数70rpmで15秒、続いて1000rpmで10秒コートした。
【0222】
その後、光学基材の湿気硬化型プライマー層上に、フォトクロミック組成物(1)(2g)を、回転数100rpmで30秒、続いて800rpmで10~20秒かけて、膜厚が40μmになるようにスピンコートした。
【0223】
その後、上記組成物が表面に塗布されているレンズを、窒素ガス雰囲気中で出力200mW/cmのメタルハライドランプを用いて80秒間光を照射し、上記組成物を重合させた。その後、さらに110℃で1時間加熱して、光学基材上に、フォトクロミック組成物(1)を重合して得られる樹脂からなる厚さ40μmのフォトクロミック樹脂層を形成した。
【0224】
[ポリウレタン樹脂層の形成]
まず、上記のフォトクロミック樹脂層を形成した光学基材を、事前に10%水酸化ナトリウム水溶液を用いて、50℃で5分間のアルカリエッチングを行い、その後、十分に蒸留水で洗浄を実施した。
【0225】
次いで、調製例1で調製した湿気硬化型ポリウレタン組成物(PU1)を、スピンコーター(1H-DX2、ミカサ株式会社製)を用いて、光学基材のフォトクロミック樹脂層の表面にスピンコートし、25℃、50%RHの条件で10分間乾燥させた。このとき、ポリウレタン樹脂層の膜厚は2~3μmとなるようにした。
【0226】
[フォトクロミック光学物品の評価]
上記で得られたフォトクロミック光学物品について、以下に示す各評価を行った。評価結果を表6に示す。
【0227】
(フォトクロミック性)
得られたフォトクロミック光学物品を試料とし、これに株式会社浜松ホトニクス製のキセノンランプL-2480(300W)SHL-100を、エアロマスフィルター(コーニング社製)を介して20±1℃、フォトクロミック光学物品表面でのビーム強度365nm=2.4mW/cm、245nm=24μW/cmで120秒間照射して発色させ、フォトクロミック性を測定した。
・最大吸収波長(λmax):株式会社大塚電子工業製の分光光度計(瞬間マルチチャンネルフォトディテクターMCPD1000)により求めた発色後の最大吸収波長である。該最大吸収波長は発色時の色調に関係する。
・発色濃度{ε(120)-ε(0)}:最大吸収波長における、120秒間光照射した後の吸光度{ε(120)}と光照射前の吸光度ε(0)との差。この値が高いほどフォトクロミック性が優れているといえる。
・退色速度〔t1/2(sec.)〕:120秒間光照射後、光の照射を止めたときに、試料の最大吸収波長における吸光度が{ε(120)-ε(0)}の1/2まで低下するのに要する時間。この時間が短いほどフォトクロミック性が優れているといえる。
【0228】
(外観等)
・外観(クラック、白濁)評価
得られたフォトクロミック光学物品を光学顕微鏡にて観察評価した。評価基準を以下に示す。
A:均一であり外観不良は全く見られない
B:ごくわずかに微細な外観不良が見られる
C:部分的に外観不良が見える
D:全体的に外観不良が見える
・ΔYI評価
スガ試験機株式会社製の色差計SM-4を用いてYIを測定し、以下の式によりΔYIを評価した。青色の保護フィルムがフォトクロミック光学物品に転写された場合、ΔYIが変化する。
ΔYI=YI24-YI
(式中、YI24は、得られたフォトクロミック光学物品に青色の保護フィルムを貼り付け、24時間経過後にフィルムを剥がした後のYIであり、YIは、青色の保護フィルムを貼り付ける前のYIである。)
・密着性
JIS D-0202に準じてクロスカットテープ試験によって密着性を評価した。すなわち、カッターナイフを使い、得られたフォトクロミック光学物品の表面に1mm間隔に切れ目を入れ、マス目を100個形成させた。その上にセロファン粘着テープ(ニチバン株式会社製セロテープ(登録商標))を強く貼り付け、次いで、表面から90°方向へ一気に引っ張り剥離した後、フォトクロミック光学物品が残っているマス目を評価した。
【0229】
<実施例2、3>
表6に示すフォトクロミック組成物及び湿気硬化型ポリウレタン組成物を用いた以外は実施例1と同様にして、フォトクロミック光学物品を作製した。得られたフォトクロミック光学物品の評価結果を表6に示す。
【0230】
<実施例4>
調製例1で調製した湿気硬化型ポリウレタン組成物(PU1)を光学基材のフォトクロミック樹脂層の表面にスピンコートし、25℃、50%RHの条件で10分間乾燥させた後、さらに90℃で3時間の加熱を行った以外は実施例1と同様にして、フォトクロミック光学物品を作製した。得られたフォトクロミック光学物品の評価結果を表6に示す。
【0231】
<比較例1>
湿気硬化型ポリウレタン樹脂層を形成しない以外は実施例1と同様にして、フォトクロミック光学物品を作製した。得られたフォトクロミック光学物品の評価結果を表6に示す。
【0232】
【表6】
【0233】
表6から明らかなように、湿気硬化型ポリウレタン組成物を用いて保護層を形成した実施例1~4のフォトクロミック光学物品は、フォトクロミック性に優れるばかりでなく、外観、密着性、及び耐侯性にも優れていた。一方、湿気硬化型ポリウレタン組成物を用いなかった比較例1のフォトクロミック光学物品は、外観及び耐侯性が不十分であり、十分な物性が得られなかった。
【0234】
<実施例5>
[ポリウレタン樹脂層の形成]
光学基材として、下記に記載する中心厚が約2mmのCR、TRB、MRA、MRB、TEA、TEB、PCを各2枚ずつ用意した。なお、これら光学基材は、事前に10%水酸化ナトリウム水溶液を用いて、50℃で5分間のアルカリエッチングを行い、その後、十分に蒸留水で洗浄を実施した。なお、用いた光学基材は以下のとおりである。
CR:アリル系樹脂プラスチックレンズ、屈折率=1.50
TRB:ウレタン系樹脂プラスチックレンズ、屈折率=1.53
MRA:チオウレタン系樹脂プラスチックレンズ、屈折率=1.60
MRB:チオウレタン系樹脂プラスチックレンズ、屈折率=1.67
TEA:チオエポキシ系樹脂プラスチックレンズ、屈折率=1.71
TEB:チオエポキシ系樹脂プラスチックレンズ、屈折率=1.74
PC:光硬化性ハードコート層付きポリカーボネートレンズ、屈折率1.58
【0235】
次いで、スピンコーター(1H-DX2、ミカサ株式会社製)を用いて、上記のプラスチックレンズの表面に、湿気硬化型ポリウレタン組成物(PU1)を回転数70rpmで15秒、続いて900rpmで10秒コートし、約7μmの厚みのポリウレタン樹脂層を形成した。また、回転数70rpmで15秒、続いて1100rpmで10秒コートし、約5μmの厚みの湿気硬化型ポリウレタン樹脂層を形成した。つまり、約7μmの厚みのポリウレタン樹脂層を形成した光学基材と、約5μmの厚みのポリウレタン樹脂層を形成した光学基材とを各1枚ずつ作製した。
【0236】
[フォトクロミック樹脂層の形成]
上記の方法で得られた光学基材のポリウレタン樹脂層上に、事前に準備しておいたフォトクロミック組成物(1)(2g)を、回転数100rpmで30秒、続いて800rpmで10~20秒かけて、短冊状に切り出したPETフィルムでフォトクロミック組成物(1)を光学基材の中心から外周に広げるようにして、膜厚が40μmになるようにスピンコートした。
【0237】
その後、上記組成物が表面に塗布されているレンズを、窒素ガス雰囲気中で出力200mW/cmのメタルハライドランプを用いて80秒間光を照射し、上記組成物を重合させた。その後、さらに110℃で1時間加熱して、ポリウレタン樹脂層上に、フォトクロミック組成物(1)を重合して得られる樹脂からなる厚さ40μmのフォトクロミック樹脂層を形成した。
【0238】
[フォトクロミック光学物品の評価]
上記で得られたフォトクロミック光学物品について、上記と同様の方法でフォトクロミック性を評価するとともに、下記の方法で外観及び煮沸密着性を評価した。評価結果を表7~9に示す。
【0239】
(外観評価)
フォトクロミック光学物品に高圧水銀ランプの光を照射して、白紙上にその投影面を写し出し、フォトクロミック光学物品全体の投影面を観察評価した。フォトクロミック光学物品は、高圧水銀ランプから約70cm、白紙から約20cmの距離に配置した。評価基準を以下に示す。
0:フォトクロミック組成物が光学基材の中心から外周部に向けて広がっていく際に生じる年輪上の不良が観察されないか、又は年輪上の不良が5本未満である。
1:フォトクロミック組成物が光学基材の中心から外周部に向けて広がっていく際に生じる年輪上の不良が5本以上~10本未満観察される。
2:フォトクロミック組成物が光学基材の中心から外周部に向けて広がっていく際に生じる年輪上の不良が、全面に10以上~20本未満観察される。
3:フォトクロミック組成物が光学基材の中心から外周部に向けて広がっていく際に生じる年輪上の不良が、全面に20本以上観察される。
【0240】
(煮沸密着性)
フォトクロミック光学物品を沸騰させた蒸留水に入れ、1時間毎にフォトクロミック樹脂層とレンズとの密着性をJISD-0202に準じてクロスカットテープ試験によって評価した。すなわち、カッターナイフを使い、フォトクロミック樹脂層に約1mm間隔に切れ目を入れ、マス目を100個形成させた。その上にセロファン粘着テープ(ニチバン株式会社製セロテープ(登録商標))を強く貼り付け、次いで、表面から90°方向へ一気に引っ張り剥離した後、フォトクロミック樹脂層が残っているマス目を測定した。評価結果は、残っているマス目が90以上のときの試験時間を記載した。例えば、3時間と表記されている場合、促進3時間後のクロスカットテープ試験で残っているマス目が90以上であり、促進4時間後には90未満となったことを意味する。また、マス目が90以上残っているフォトクロミック光学物品に関しては、促進5時間まで継続評価を行った。
【0241】
<実施例6~28>
表7~9に示す湿気硬化型ウレタン組成物を用いた以外は実施例5と同様にして、フォトクロミック光学物品を作製した。但し、ポリウレタン樹脂層の膜厚を約7μm及び約5μmに調整するため、スピンコーターの回転速度等の条件は適宜調整した。得られたフォトクロミック光学物品の評価結果を表7~9に示す。
【0242】
【表7】
【0243】
【表8】
【0244】
【表9】
【0245】
表7~9から明らかなように、湿気硬化型ポリウレタン組成物を用いてプライマー層を形成した実施例5~28のフォトクロミック光学物品(特に、実施例5~27のフォトクロミック光学物品)は、フォトクロミック性に優れるばかりでなく、外観及び密着性にも優れていた。
【0246】
<実施例29>
[ポリウレタン樹脂層の形成;第一積層体の製造]
光学基材として厚さ2.0mmのCR-39(アリル樹脂プラスチックレンズ;屈折率=1.50)を用いた。この光学基材をアセトンで十分に脱脂し、50℃の10質量%水酸化ナトリウム水溶液に10分浸漬した後、温水で十分洗浄し、70℃の乾燥機で30分乾燥した。この光学基材(プラスチックレンズ)に、ミカサ株式会社製スピンコーター1H-DX2を用いて、湿気硬化型ポリウレタン組成物(PU25)をスピンコートし、25℃、50%RHの条件で1時間乾燥させることで、プラスチックレンズ上にポリウレタン層が形成された第一積層体を製造した。このとき、ポリウレタン樹脂層の厚みは5~7μmとなるようにした。
【0247】
得られた第一積層体の外観はAであり、密着性は100であり、波長400nmの光透過率が1%であり、波長420nmの光透過率が64%であった。なお、外観及び密着性に関しては、実施例1と同様の方法で評価し、紫外線吸収特性及び青色光吸収特性については、以下の方法で評価した。
【0248】
(紫外線吸収特性、青色光吸収特性)
紫外線吸収特性及び青色光吸収特性は、得られた第一積層体のUV-visスペクトルを測定することで評価した。上述した方法で作製した第一積層体の波長400nm、420nmにおける光透過率(T%)を測定し、紫外線吸収特性及び青色光吸収特性とした。
【0249】
[ハードコート層の形成;第二積層体の製造]
t-ブタノール(12.2g)、エチレングリコールモノブチルエーテル(7.0g)、アセチルアセトン(3.7g)、メチルトリエトキシシラン(0.41g)、γ-グリシドキシプロピルトリメトキシシラン(18.9g)、及びシリコーン界面活性剤(東レ・ダウコーニング株式会社製、商品名L-7001)(0.06g)を混合し、室温で30分間撹拌した。さらに、0.05N塩酸を9.0g加え、1時間撹拌した。次いで、0.1Nトリメチルアンモニウムクロリドのメタノール溶液(3.2g)を加え、室温で1時間撹拌した。続いて、メタノールシリカゾル(固形分濃度:30質量%)(44.3g)及びアルミニウムアセチルアセトナート(0.51g)を添加し、一昼夜熟成させてハードコート組成物を得た。
【0250】
第一積層体を上記のハードコート組成物に浸漬し、引上げ速度30cm/分の速度で引き上げて、第一積層体の両表面にハードコート組成物を塗布した。塗布後、80℃で20分乾燥した後、120℃で4時間保持して硬化を行い、ハードコート層を形成した。得られたハードコート層は、厚みが約2μmの無色透明な膜であった。得られた第二積層体の外観はAであり、密着性は100であり、波長400nmの光透過率が1%であり、波長420nmの光透過率が64%であった。
【0251】
<調製例28~30:湿気硬化型ポリウレタン組成物(PU26~PU28)の調製>
表10に示す各成分を用い、調製例1と同様にして、湿気硬化型ポリウレタン組成物(PU26~PU28)を調製した。湿気硬化型ポリウレタン組成物(PU26~PU28)の組成等を表10に示す。
【0252】
【表10】
【0253】
<実施例30~32>
表11~13に示す湿気硬化型ウレタン組成物を用いた以外は実施例5と同様にして、フォトクロミック光学物品を作製した。但し、ポリウレタン樹脂層の膜厚を約7μm及び約5μmに調整するため、スピンコーターの回転速度等の条件は適宜調整した。得られたフォトクロミック光学物品の評価結果を表11~13に示す。
【0254】
【表11】
【0255】
【表12】
【0256】
【表13】
【0257】
表11~13から明らかなように、湿気硬化型ポリウレタン組成物を用いてプライマー層を形成した実施例30~32のフォトクロミック光学物品は、フォトクロミック性に優れるばかりでなく、外観及び密着性にも優れていた。
【0258】
<実施例33>
(1)ウレタン樹脂層を積層したポリカーボネートシートの作製
イソホロンジイソシアネート、ポリカーボネートジオール(分子量:1000)、及びイソホロンジアミンを原料としたウレタン樹脂を、有機溶媒であるプロピレングリコールモノメチルエーテルに固形分濃度15質量%になるように溶解した。得られたウレタン樹脂溶液を厚み10μmになるように、厚み300μmのポリカーボネートシートに塗布した後、110℃で5分乾燥し、積層シートを作製した。
【0259】
(2)湿気硬化型ポリウレタン組成物からなる樹脂層の形成
湿気硬化型ポリウレタン組成物(PU7)を厚み7μmになるように、PET製セパレートフィルムに塗布し、100℃で5分間乾燥して樹脂層を形成した。
【0260】
(3)積層シートの作製
上記(2)で得られた湿気硬化型ウレタン組成物からなる樹脂層に、上記(1)で得られた積層シートのウレタン樹脂層を0.1MPa、100℃で加熱圧着した。次いで、PET製セパレートフィルムを剥離し、もう片面の樹脂層に上記(1)で得られた積層シートのウレタン樹脂層を0.1MPa、100℃で加熱圧着し、積層シートを作製した。
【0261】
(4)剥離強度の測定
上記(3)で得られた積層シートを、25×100mmの接着部分を有する試験片とし、引張り試験機(オートグラフAGS-500NX、株式会社島津製作所製)に装着し、クロスヘッドスピード100mm/minで引張り試験を行い、剥離強度を測定した。測定結果を表14に示す。
【0262】
<実施例34~36>
表14に示す湿気硬化型ポリウレタン組成物を用いた以外は実施例33と同様にして、剥離強度の測定を行った。測定結果を表14に示す。
【0263】
【表14】