(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2025-03-28
(45)【発行日】2025-04-07
(54)【発明の名称】ガラス板の加工方法
(51)【国際特許分類】
C03B 33/09 20060101AFI20250331BHJP
B23K 26/53 20140101ALI20250331BHJP
【FI】
C03B33/09
B23K26/53
(21)【出願番号】P 2021558281
(86)(22)【出願日】2020-11-05
(86)【国際出願番号】 JP2020041372
(87)【国際公開番号】W WO2021100477
(87)【国際公開日】2021-05-27
【審査請求日】2023-08-07
(31)【優先権主張番号】P 2019210499
(32)【優先日】2019-11-21
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000000044
【氏名又は名称】AGC株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001634
【氏名又は名称】弁理士法人志賀国際特許事務所
(74)【代理人】
【識別番号】100107766
【氏名又は名称】伊東 忠重
(74)【代理人】
【識別番号】100070150
【氏名又は名称】伊東 忠彦
(72)【発明者】
【氏名】齋藤 勲
(72)【発明者】
【氏名】藤▲原▼ 卓磨
(72)【発明者】
【氏名】伊藤 淳
(72)【発明者】
【氏名】長澤 郁夫
(72)【発明者】
【氏名】小野 丈彰
【審査官】磯部 香
(56)【参考文献】
【文献】特開2005-300566(JP,A)
【文献】特開2003-228814(JP,A)
【文献】特開2017-221977(JP,A)
【文献】国際公開第2012/063348(WO,A1)
【文献】特開2016-128365(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C03B 33/09
B23K 26/53
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ガラス板の主面を2つの領域に分離する分離線にて、前記ガラス板を分離する、ガラス板の加工方法であって、
前記ガラス板に対し主に線形吸収を生じさせる第1レーザ光の照射点を前記分離線に沿っ
て移動
することにより、前記分離線に直交する断面にて前記分離線から前記主面に対して斜め方向に延びる亀裂を形成し、
前記亀裂の形成後に、
前記ガラス板に対し主に非線形吸収を生じさせる第2レーザ光の照射点を前記分離線に沿っ
て移動
することにより、前記断面にて前記亀裂の先端から板厚中心に向けて前記主面に対して垂直な方向に延びる仮想線に改質部を形成し、
前記改質部の形成後に、前記ガラス板に応力を加え、前記亀裂の先端と前記改質部にまたがる新たな亀裂を形成する、ガラス板の加工方法。
【請求項2】
前記分離線は、平面視にて曲線部を含む、請求項1に記載の加工方法。
【請求項3】
前記曲線部の曲率半径は、0.5mm以上、1000mm以下である、請求項2に記載の加工方法。
【請求項4】
前記断面にて、前記亀裂は、前記主面からの深さが深くなるほど、前記曲線部の曲率中心側に向けて傾斜する、請求項2又は3に記載の加工方法。
【請求項5】
前記第2レーザ光を線状に集束し、前記改質部を線状に形成する、請求項1~4のいずれか1項に記載の加工方法。
【請求項6】
前記第2レーザ光を点状に集光し、前記改質部を点状に形成する、請求項1~4のいずれか1項に記載の加工方法。
【請求項7】
前記第1レーザ光の照射によって、2つの前記主面のそれぞれに前記亀裂を形成する、請求項1~6のいずれか1項に記載の加工方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、ガラス板の加工方法、ガラス板に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1、2では、ガラス板の主面を2つの領域に分離する分離線にて、ガラス板を分離する。具体的には、先ず、分離線に沿ってレーザ光の照射点を移動し、分離線に直交する断面にて、分離線から主面に対して斜め方向に延びる亀裂を形成する。
【0003】
特許文献1では、分離線が主面の周縁に斜めに交わっており、その交点が照射点の移動開始点である。これにより、分離線に直交する断面にて、分離線から主面に対して斜め方向に延びる亀裂を形成できる。
【0004】
一方、特許文献2では、照射点が左右非対称なパワー密度分布を有する。左右方向は、主面に平行な方向であって、分離線に直交する方向である。これにより、分離線に直交する断面にて、分離線から主面に対して斜め方向に延びる亀裂を形成できる。
【0005】
特許文献1、2によれば、上記の通り、分離線に直交する断面にて、分離線から、主面に対して斜め方向に延びる亀裂が得られる。面取面に相当する傾斜面が得られるので、面取加工が不要である。
【0006】
一方、特許文献3、4では、ガラス板の内部にレーザ光を線状に集束し、線状の損傷部を形成する。線状の損傷部は、主面に対して垂直な方向に延びる。損傷部を起点に亀裂を形成すれば、主面から垂直に延びる端面が得られる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【文献】国際公開第2015/098641号
【文献】国際公開第2014/058354号
【文献】日本国特表2019-511989号公報
【文献】日本国特開2017-185547号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
特許文献1、2によれば、上記の通り、分離線に直交する断面にて、分離線から、主面に対して斜め方向に延びる亀裂が形成される。それゆえ、面取加工を実施しなくても、面取面に相当する傾斜面が得られる。
【0009】
ところで、特許文献1、2では、亀裂の形成後に、ガラス板に応力を加え、亀裂の先端から新たな亀裂を生成する。その際、新たな亀裂が主面に対して垂直な方向に延びないことがあった。
【0010】
一方、特許文献3、4によれば、線状の損傷部は、主面に対して垂直な方向に延びる。それゆえ、損傷部を起点に亀裂を形成すれば、主面から垂直に延びる端面が得られる。但し、主面と端面の角が垂直であるので、面取加工が必要になってしまう。
【0011】
本開示の一態様は、主面の分離線に直交する断面にて、分離線から主面に対して斜め方向に延びる亀裂の先端から、主面に対して垂直な方向に亀裂を伸展できる、技術を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本開示の一態様に係るガラス板の加工方法は、ガラス板の主面を2つの領域に分離する分離線にて、前記ガラス板を分離する。上記加工方法は、下記の処理を有する。前記ガラス板に対し主に線形吸収を生じさせる第1レーザ光の照射点を前記分離線に沿って移動することにより、前記分離線に直交する断面にて前記分離線から前記主面に対して斜め方向に延びる亀裂を形成する。前記亀裂の形成後に、前記ガラス板に対し主に非線形吸収を生じさせる第2レーザ光の照射点を前記分離線に沿って移動することにより、前記断面にて前記亀裂の先端から板厚中心に向けて前記主面に対して垂直な方向に延びる仮想線に改質部を形成する。前記改質部の形成後に、前記ガラス板に応力を加え、前記亀裂の先端と前記改質部にまたがる新たな亀裂を形成する。
【発明の効果】
【0013】
本開示の一態様によれば、主面の分離線に直交する断面にて、分離線から主面に対して斜め方向に延びる亀裂の先端から、主面に対して垂直な方向に亀裂を伸展できる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【
図1】
図1は、第1実施形態に係るガラス板の加工方法を示すフローチャートである。
【
図2E】
図2Eは、
図1のS4の後に得られる、ガラス板の第1例を示す斜視図である。
【
図5】
図5は、第2実施形態に係るガラス板の加工方法を示すフローチャートである。
【
図7】
図7は、第3実施形態に係るガラス板の加工方法を示すフローチャートである。
【
図9H】
図9Hは、
図7のS4の後に得られる、ガラス板を示す断面図であって、
図9IのIXH-IXHに沿った断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本開示の実施形態について図面を参照して説明する。なお、各図面において同一の又は対応する構成には同一の符号を付し、説明を省略することがある。明細書中、数値範囲を示す「~」は、その前後に記載された数値を下限値及び上限値として含むことを意味する。
【0016】
(第1実施形態)
図1に示すように、ガラス板の加工方法は、S1~S4を有する。以下、
図2A~
図2Eを参照して、
図1のS1~S4の第1例について説明する。
【0017】
先ず、
図1のS1では、
図2Aに示すように、ガラス板10を準備する。ガラス板10は、曲げ板でもよいが、本実施形態では平板である。ガラス板10は、第1主面11と、第1主面11とは反対向きの第2主面12を有する。
【0018】
第1主面11及び第2主面12の形状は、例えば矩形状である。なお、第1主面11及び第2主面12の形状は、台形状、円形状、又は楕円形状などであってもよく、特に限定されない。
【0019】
ガラス板10の用途は、例えば自動車用窓ガラス、インストルメントパネル、ヘッドアップディスプレイ(HUD)、ダッシュボード、センターコンソール、シフトノブ等の自動車内装部品用カバーガラス、建築用窓ガラス、ディスプレイ用基板、又はディスプレイ用カバーガラスである。ガラス板10の厚さは、ガラス板10の用途に応じて適宜設定され、例えば0.01cm~2.5cmである。
【0020】
ガラス板10は、
図1のS1~S4の後で、別のガラス板と中間膜を介して積層され、合わせガラスとして用いられてもよい。また、ガラス板10は、
図1のS1~S4の後で、強化処理に供され、強化ガラスとして用いられてもよい。
【0021】
ガラス板10は、例えばソーダライムガラス、無アルカリガラス、化学強化用ガラスなどである。化学強化用ガラスは、化学強化処理された後、例えばカバーガラスとして用いられる。ガラス板10は、風冷強化用ガラスであってもよい。
【0022】
ガラス板10は、
図1のS1~S4の後で、曲げ成形されてもよい。
【0023】
次に、
図1のS2では、
図2Bに示すように、第1分離線BL1に沿って第1レーザ光LB1の照射点を移動し、第1亀裂CR1を形成する。第1分離線BL1は、第1主面11を2つの領域に分離する。第1亀裂CR1は、第1分離線BL1に直交する断面にて、第1分離線BL1から第1主面11に対して斜め方向に延びる。
【0024】
第1亀裂CR1が形成される際に、第2亀裂CR2も形成される。第2亀裂は、第2分離線BL2に沿って形成される。第2分離線BL2は、第2主面12を2つの領域に分離する。第2亀裂CR2は、第2分離線BL2に直交する断面にて、第2分離線BL2から第2主面12に対して斜め方向に延びる。
【0025】
第1レーザ光LB1は、第1主面11の照射点から第2主面12の照射点まで、ガラス板10を透過する。第1亀裂CR1と第2亀裂CR2は、ガラスの熱応力によって同時に形成される。その形成方法として、例えば特許文献1又は特許文献2に記載の方法が用いられる。
【0026】
なお、本実施形態では、第1レーザ光LB1の照射によって、第1亀裂CR1と第2亀裂CR2の両方が同時に生成されるが、いずれか一方のみが生成されてもよい。その場合、第1亀裂CR1と第2亀裂CR2とを順番に生成してもよい。但し、第1亀裂CR1と第2亀裂CR2のいずれか一方のみを生成し、他方を生成しなくてもよい。
【0027】
第1レーザ光LB1は、ガラス板10に対する照射によって主に線形吸収を生じさせる。主に線形吸収が生じるとは、線形吸収によって生じる熱量が非線形吸収によって生じる熱量よりも大きいことを意味する。非線形吸収はほとんど生じなくてよい。第1レーザ光LB1によって生じる熱が第1亀裂CR1及び第2亀裂CR2を形成する。
【0028】
非線形吸収は、多光子吸収とも呼ばれる。多光子吸収が発生する確率は光子密度(第1レーザ光LB1のパワー密度)に対して非線形であり、光子密度が高いほど確率が飛躍的に高くなる。例えば2光子吸収が発生する確率は、光子密度の自乗に比例する。ガラス板10の任意の位置で、光子密度が1×108W/cm2未満であってよい。この場合、非線形吸収はほとんど生じない。
【0029】
一方、線形吸収は、1光子吸収とも呼ばれる。1光子吸収が発生する確率は光子密度に比例する。1光子吸収の場合、ランベルト・ベールの法則(Lambert-Beer’s law)に従って、下記式(1)が成立する。
I=I0×exp(-α×L)・・・(1)
上記式(1)において、I0は第1主面11における第1レーザ光LB1の強度、Iは第2主面12における第1レーザ光LB1の強度、Lは第1主面11から第2主面12までの第1レーザ光LB1の伝播距離、αは第1レーザ光LB1に対するガラスの吸収係数である。αは、線形吸収の吸収係数であり、第1レーザ光LB1の波長、及びガラスの化学組成等で決まる。
【0030】
α×Lは、内部透過率を表す。内部透過率は、第1レーザ光LB1が第1主面11で反射されないと仮定したときの透過率である。α×Lが小さいほど、内部透過率が大きい。α×Lは、例えば3.0以下、より好ましくは2.3以下、更に好ましくは1.6以下である。言い換えると、内部透過率は、例えば5%以上、好ましくは10%以上、より好ましくは20%以上である。α×Lが3.0以下であれば、内部透過率が5%以上であり、第1主面11及び第2主面12の両面が十分に加熱される。
【0031】
α×Lは、加熱効率の観点から、好ましくは0.002以上、より好ましくは0.01以上、更に好ましくは0.02以上である。言い換えると、内部透過率は、好ましくは99.8%以下、より好ましくは99%以下、更に好ましくは98%以下である。
【0032】
ガラスの温度が徐冷点を超えてしまうと、ガラスの塑性変形が進みやすく、熱応力の発生が制限されてしまう。そこで、ガラスの温度が徐冷以下となるように、光波長、出力、第1主面11でのビーム径などが調整される。
【0033】
第1レーザ光LB1は、例えば連続波光である。第1レーザ光LB1の光源は、特に限定されないが、例えばYbファイバーレーザである。Ybファイバーレーザは、光ファイバのコアにYbがドープされたものであり、波長1070nmの連続波光を出力する。
【0034】
但し、第1レーザ光LB1は、連続波光ではなく、パルス光であってもよい。
【0035】
第1レーザ光LB1は、集光レンズなどを含む光学系によって、第1主面11に照射される。その照射点を第1分離線BL1に沿って移動することで、第1分離線BL1の全体に亘って第1亀裂CR1が形成される。その際、第2分離線BL2の全体に亘って、第2亀裂CR2が形成される。
【0036】
照射点の移動には、例えば2Dガルバノスキャナ、又は3Dガルバノスキャナが用いられる。なお、照射点の移動は、ガラス板10を保持するステージの移動又は回転によって実施されてもよい。ステージとして、例えばXYステージ、XYθステージ、XYZステージ、又はXYZθステージが用いられる。X軸、Y軸及びZ軸は互いに直交し、X軸及びY軸は第1主面11に対して平行であり、Z軸は第1主面11に対して垂直である。
【0037】
次に、
図1のS3では、
図2Cに示すように、第1分離線BL1に沿って第2レーザ光LB2の照射点を移動し、改質部Dを形成する。改質部Dは、第1分離線BL1に直交する断面の仮想線VLに形成される。仮想線VLは、第1亀裂CR1の先端から板厚中心に向けて、第1主面11に対して垂直な方向に延びる。仮想線VLは、第1亀裂CR1の先端から第2亀裂CR2の先端にかけて、第1主面11に対して垂直な方向に延びる。
【0038】
第2レーザ光LB2は、パルス光であり、非線形吸収によって改質部Dを形成する。パルス光は、波長域が250nm~3000nm、かつ、パルス幅が10fs~1000nsのパルスレーザ光を用いることが好ましい。波長域が250nm~3000nmのレーザ光は、ガラス板10をある程度透過するため、ガラス板10の内部に非線形吸収を生じさせて改質部Dを形成できる。波長域は、好ましくは260nm~2500nmである。また、パルス幅が1000ns以下のパルスレーザ光であれば、光子密度を高め易く、ガラス板10の内部に非線形吸収を生じさせて改質部Dを形成できる。パルス幅は、好ましくは100fs~100nsである。なお、第2レーザ光LB2は、マルチフォーカス(多焦点)光学系により、光軸方向に複数の集光点を同時に形成するパルス光でもよい。
【0039】
改質部Dは、ガラスの密度又は屈折率の変化したものである。改質部Dは、空隙、又は改質層などである。改質層は、構造変化によって、又は溶融と再凝固によって、密度又は屈折率の変化した層である。
【0040】
第2レーザ光LB2は、例えば、ガラス板10の内部にて線状に集束され、改質部Dを線状に形成する。第2レーザ光LB2の光源は、バーストと呼ばれるパルス群を出力してもよい。一のパルス群は複数(例えば3~50)のパルス光を有し、各パルス光が10ナノ秒未満のパルス幅を有する。一のパルス群において、パルス光のエネルギーは徐々に減少してもよい。
【0041】
パルス光は、非線形のカー効果による自己集束で、線状に集束してもよい。なお、パルス光は、光学系によって光軸方向に線状に集束してもよい。具体的な光学系として、例えばアキシコン(Axikon)レンズが用いられる。
【0042】
パルス光が、改質部Dを生成する。改質部Dは、第1主面11から第2主面12まで、板厚方向全体に亘って形成される。なお、後で再度説明するが、改質部Dは、板厚方向一部のみに形成されてもよく、例えば板厚中心を基準として、第1主面11側にのみ形成されてもよい。
【0043】
第2レーザ光LB2の光源は、例えばNdがドープされたYAG結晶(Nd:YAG)を含み、波長1064nmのパルス光を出力してもよい。なお、パルス光の波長は1064nmには限定されない。Nd;YAG第2高調波レーザ(波長532nm)や、Nd;YAG第3高調波レーザ(波長355nm)等も使用可能である。
【0044】
第2レーザ光LB2は、集光レンズなどを含む光学系によって、第1主面11に照射される。その照射点を第1分離線BL1に沿って移動することで、第1分離線BL1の全体に亘って改質部Dが形成される。その際、改質部Dは、第2分離線BL2の全体に沿って形成される。
【0045】
照射点の移動には、例えば2Dガルバノスキャナ、又は3Dガルバノスキャナが用いられる。なお、照射点の移動は、ガラス板10を保持するステージの移動又は回転によって実施されてもよい。ステージとして、例えばXYステージ、XYθステージ、XYZステージ、又はXYZθステージが用いられる。
【0046】
次に、
図1のS4では、
図2Dに示すように、ガラス板10に応力を加え、第1亀裂CR1の先端と改質部Dにまたがる第3亀裂CR3を形成する。第3亀裂CR3は、第1亀裂CR1の先端と第2亀裂CR2の先端にまたがる。
【0047】
第3亀裂CR3の形成では、例えば、再度、第1分離線BL1に沿って第1レーザ光LB1の照射点を移動し、ガラス板10に熱応力を加える。なお、ローラをガラス板10に押し当てながら第1分離線BL1に沿って移動し、ガラス板10に応力を加えてもよい。
【0048】
第1例によれば、第3亀裂CR3の形成前に、改質部Dが仮想線VLに形成される。仮想線VLは、第1亀裂CR1の延長線、及び第2亀裂CR2の延長線とは異なり、第1主面11及び第2主面12に対して垂直に延びる。改質部Dは、第3亀裂CR3を仮想線VLに誘導する。従って、第1亀裂CR1及び第2亀裂CR2の先端から、第1主面11及び第2主面12に対して垂直な方向に、第3亀裂CR3を生成できる。
【0049】
図1のS4の後で、
図2Eに示すガラス板10が得られる。ガラス板10は、第1主面11と、第2主面12と、第1傾斜面13と、第2傾斜面14と、端面15とを有する。第2主面12は、第1主面11とは反対向きである。
【0050】
第1傾斜面13は、いわゆる面取面に相当するものであり、第1主面11の周縁に直交する断面にて、第1主面11に鈍角で交わるものである。第1傾斜面13と第1主面11との内角が鈍角である。第1傾斜面13と第1主面11との外角θ1は、例えば20°~80°、好ましくは30°~60°である。
【0051】
一方、第2傾斜面14は、第2主面12の周縁に直交する断面にて、第2主面12に鈍角で交わるものである。第2傾斜面14と第2主面12との内角が鈍角である。第2傾斜面14と第2主面12との外角θ2は、例えば20°~80°、好ましくは30°~60°である。
【0052】
第1傾斜面13は、第1亀裂CR1によって生成する。第1亀裂CR1は、第1レーザ光LB1の照射点の移動に伴い、その移動方向に伸展する。それゆえ、第1傾斜面13は、ウォルナー線(Wallner lines)、又はアレスト線(Arrest Lines)を含む。「ウォルナー線」とは、亀裂の伸展方向を示す縞模様の線である。「アレスト線」は、亀裂の伸展の一時停止を示す縞模様の線である。なお、第2傾斜面14も、第1傾斜面13と同様に、ウォルナー線、又はアレスト線を含む。
【0053】
第1傾斜面13の算術平均粗さRaは、ガラス板10の破壊強度向上の観点から、例えば0.1μm未満であり、好ましくは50nm以下であり、更に好ましくは10nm以下である。第1傾斜面13の算術平均粗さRaは、例えば1nm以上、好ましくは2nm以上である。算術平均粗さRaは、日本工業規格JIS B0601:2013に準拠して測定される。第2傾斜面14の算術平均粗さRaも、第1傾斜面13の算術平均粗さRaと同様である。ガラス板10の第1傾斜面13の算術平均粗さRa、及び/又は第2傾斜面14の算術平均粗さRaが上記の範囲であれば、ガラス板10の破壊強度が向上するため、特にガラス板10を自動車用窓ガラス、又は自動車内装部品用カバーガラスとして用いる場合に好ましい。
【0054】
端面15は、第1傾斜面13及び第2傾斜面14のそれぞれの先端から、第1主面11に対して垂直な方向に延びる。ここで、「第1主面11に対して垂直な方向」とは、第1主面11の法線とのなす角が10°以下の方向を意味する。
【0055】
端面15は、第3亀裂CR3によって生成し、仮想線VLに一致する。仮想線VLは、第1主面11の周縁に直交する断面にて、直線であるが、後述するように丸みを帯びた曲線であってもよい。
【0056】
端面15は、仮想線VLに形成された改質部Dを含むので、第1傾斜面13及び第2傾斜面14よりも大きな算術平均粗さRaを有する。端面15の算術平均粗さRaは、例えば0.1μm以上、好ましくは0.2μm以上である。端面15の算術平均粗さRaが0.1μm以上であると、端面15を掴むときに滑りを抑制できる。端面15の算術平均粗さRaは、例えば5μm以下、好ましくは3μm以下である。
【0057】
次に、
図3A及び
図3Bを参照して、
図1のS3、S4の第2例について説明する。なお、第2例のS4の後に得られるガラス板10は、第1例のS4の後に得られるガラス板10と同様であるので、図示を省略する。以下、第1例との相違点について主に説明する。
【0058】
図1のS3では、
図3Aに示すように、ガラス板10の内部にて第2レーザ光LB2を点状に集光し、改質部Dを点状に形成してもよい。第2レーザ光LB2の光源は、シングルのパルス光、又はパルス群を出力する。
【0059】
多光子吸収が集光点近傍でのみ生じるように、光波長及びパルス幅等が調整される。
【0060】
第2レーザ光LB2の光源は、例えばNdがドープされたYAG結晶(Nd:YAG)を含み、波長1064nmのパルス光を出力してもよい。なお、パルス光の波長は1064nmには限定されない。Nd;YAG第2高調波レーザ(波長532nm)や、Nd;YAG第3高調波レーザ(波長355nm)等も使用可能である。
【0061】
第2レーザ光LB2は、集光レンズなどを含む光学系によって点状に集光される。改質部Dは、第1主面11からの深さが一定の面内での集光点の二次元的な移動と、第1主面11からの集光点の深さの変更とを繰り返し、分散配置される。集光点の移動には、例えば3Dガルバノスキャナが用いられる。集光点の深さの変更が、ステージの移動によって行われる場合、2Dガルバノスキャナが用いられてもよい。
【0062】
ステージは、ガラス板10を保持するものである。集光点の移動は、ガラス板10を保持するステージの移動又は回転によって実施されてもよい。ステージとして、例えばXYステージ、XYθステージ、XYZステージ、又はXYZθステージが用いられる。X軸、Y軸及びZ軸は互いに直交し、X軸及びY軸は第1主面11に対して平行であり、Z軸は第1主面11に対して垂直である。
【0063】
改質部Dは、第1亀裂CR1の先端から第2亀裂CR2の先端まで、板厚方向全体に亘って形成される。なお、後で再度説明するが、改質部Dは、板厚方向一部のみに形成されてもよく、例えば板厚中心を基準として、第1主面11側にのみ形成されてもよい。
【0064】
次に、
図1のS4では、
図3Bに示すように、ガラス板10に応力を加え、第1亀裂CR1の先端と改質部Dにまたがる第3亀裂CR3を形成する。第3亀裂CR3は、第1亀裂CR1の先端と第2亀裂CR2の先端にまたがる。
【0065】
第2例によれば、第1例と同様に、第3亀裂CR3の形成前に、改質部Dが仮想線VLに形成される。改質部Dが、第3亀裂CR3を仮想線VLに誘導する。従って、第1亀裂CR1及び第2亀裂CR2の先端から、第1主面11及び第2主面12に対して垂直な方向に、第3亀裂CR3を生成できる。
【0066】
次に、
図4A及び
図4Bを参照して、
図1のS3、S4の第3例について説明する。以下、第1例及び第2例との相違点について主に説明する。
【0067】
図1のS3では、
図4Aに示すように、仮想線VLが丸みを帯びた曲線である。曲線の接線と、第1主面11の法線とのなす角が10°以下であればよい。仮想線VLに、複数の改質部Dが配列される。
【0068】
次に、
図1のS4では、
図4Bに示すように、ガラス板10に応力を加え、第1亀裂CR1の先端と改質部Dにまたがる第3亀裂CR3を形成する。第3亀裂CR3は、第1亀裂CR1の先端と第2亀裂CR2の先端にまたがる。
【0069】
第3例によれば、第1例と同様に、第3亀裂CR3の形成前に、改質部Dが仮想線VLに形成される。改質部Dが、第3亀裂CR3を仮想線VLに誘導する。従って、第1亀裂CR1及び第2亀裂CR2の先端から、第1主面11及び第2主面12に対して垂直な方向に、第3亀裂CR3を生成できる。
【0070】
(第2実施形態)
ところで、
図5に示すように、ガラス板の加工方法は、S1~S4に加えて、更にS5を有してもよい。以下、
図6A~
図6Eを参照して、
図5のS3~S5について説明する。なお、
図5のS1~S2は、
図1のS1~S2と同様であるので、説明を省略する。
【0071】
先ず、
図5のS3では、
図6Aに示すように、ガラス板10の内部にて第2レーザ光LB2を点状に集光し、改質部Dを点状に形成する。改質部Dは、ガラス板10の板厚中心を基準として、第1主面11側にのみ形成される。
【0072】
次に、
図5のS4では、
図6Bに示すように、ガラス板10に応力を加え、第1亀裂CR1の先端と改質部Dにまたがる第3亀裂CR3を形成する。第3亀裂CR3は、第1亀裂CR1の先端と第2亀裂CR2の先端にまたがる。
【0073】
図5のS4の後で、
図6Cに示すガラス板10が得られる。ガラス板10は、第1主面11と、第2主面12と、第1傾斜面13と、第2傾斜面14と、端面15とを有する。端面15は、表面粗さRaの観点から、板厚中心を基準として、第1主面11側の第1端面部151と、第2主面12側の第2端面部152とに区分される。
【0074】
第1端面部151は、改質部Dを含む。それゆえ、第1端面部151の算術平均粗さRaは、例えば0.1μm以上、好ましくは0.2μm以上である。第1端面部151の算術平均粗さRaは、例えば5μm以下、好ましくは3μm以下である。
【0075】
一方、第2端面部152は、改質部Dを含まない。それゆえ、第2端面部152の算術平均粗さRaは、例えば0.1μm未満であり、好ましくは50nm以下であり、更に好ましくは10nm以下である。第2端面部152の算術平均粗さRaは、例えば1nm以上、好ましくは2nm以上である。
【0076】
次に、
図5のS5では、
図6Dに示すように、第1傾斜面13を、砥石20で研削する。第1傾斜面13を粗面化できる。砥石20は、回転軸21を中心に対称な円錐台であって、回転軸21を中心に回転しながら、第1主面11の周縁に沿って移動する。
【0077】
砥石20の砥粒の平均粒径D50は、例えば20μm~40μm、好ましくは10μm~20μmである。D50は、粒度分布における累積個数50%に相当する粒径である。粒度分布は、レーザ回折式の粒度分布計で測定する。
【0078】
図5のS5の後で、
図6Eに示すガラス板10が得られる。ガラス板10は、第1主面11と、第2主面12と、第1傾斜面13と、第2傾斜面14と、端面15とを有する。端面15は、板厚中心を基準として、第1主面11側の第1端面部151と、第2主面12側の第2端面部152とを含む。
【0079】
第1傾斜面13は、砥石20で粗面化される。それゆえ、第1傾斜面13の算術平均粗さRaは、例えば0.1μm以上、好ましくは0.2μm以上である。第1傾斜面13の算術平均粗さRaは、例えば5μm以下、好ましくは3μm以下である。
【0080】
一方、第2傾斜面14は、砥石20で粗面化されない。それゆえ、第2傾斜面14の算術平均粗さRaは、例えば0.1μm未満であり、好ましくは50nm以下であり、更に好ましくは10nm以下である。第2傾斜面14の算術平均粗さRaは、例えば1nm以上、好ましくは2nm以上である。
【0081】
図6Eに示すガラス板10の側面は、板厚中心を基準に、表面粗さRaが0.1μm以上の粗面101と、表面粗さRaが0.1μm未満である鏡面102とに区分される。粗面101は、第1傾斜面13と、第1傾斜面13に続く第1端面部151とを含む。一方、鏡面102は、第2傾斜面14と、第2傾斜面14に続く第2端面部152とを含む。第1傾斜面13は、上記の通り、砥石20で粗面化されたものである。
【0082】
なお、第1傾斜面13は、
図5のS2で第1亀裂CR1を形成し、更に
図5のS5で研削して得られたものであるが、別の方法で得られたものであってもよい。例えば、
図5のS2では、第1亀裂CR1を形成することなく、第2亀裂CR2のみを形成してもよい。この場合、第1傾斜面13は、
図5のS5で第1主面11と第1端面部151の垂直な角を砥石で研削して得られる。
【0083】
なお、第1端面部151は、
図5のS5で研削されたものではないが、
図5のS5で研削されたものであってもよい。後者の場合、第1端面部151と第2端面部152との間に段差が形成されてもよい。
【0084】
図6Eに示すガラス板10は、車載ディスプレイのカバーガラスとして好適に用いられる。ガラス板10は、第1主面11を車両の搭乗者に向けて、車両の内部に設置される。第1主面11及び第1傾斜面13には、予め反射防止膜が形成される。
【0085】
反射防止膜は、光の反射を抑制するものであり、例えば、高屈折率層と、高屈折率層よりも低い屈折率の低屈折率層とを交互に積層したものである。高屈折率層の材料は、例えば酸化ニオブ、酸化チタン、酸化ジルコニウム、酸化タンタル又は窒化シリコンである。一方、低屈折率層の材料は、例えば酸化ケイ素、SiとSnの混合酸化物、SiとZrとの混合酸化物、又はSiとAlの混合酸化物である。
【0086】
車両の搭乗者が第1主面11に衝突した際に、ガラス板10の板厚中心を基準として、第1主面11側には圧縮応力が、第2主面12側には引張応力が作用する。それゆえ、ガラス板10の側面のうち、粗面101には圧縮応力が作用し、鏡面102には引張応力が作用する。
【0087】
本実施形態によれば、引張応力が鏡面102に作用するので、引張応力が粗面101に作用する場合に比べて、強度が強い。鏡面102は、粗面101に比べて、破壊の起点となる凹凸が小さいからである。なお、一般的に、材料は圧縮応力ではなく引張応力で破壊されるので、圧縮応力が粗面101に作用しても、問題にはならない。
【0088】
また、本実施形態によれば、第1傾斜面13が粗面101である。それゆえ、第1傾斜面13が鏡面102である場合に比べて、第1傾斜面13上の反射防止膜が光の干渉によって虹色に見えてしまうのを抑制できる。
【0089】
(第3実施形態)
ところで、
図7に示すように、ガラス板の加工方法は、S1~S4に加えて、更にS6を有してもよい。なお、S6が行われるタイミングは、
図7に示すタイミングには限定されず、例えばS1とS2の間、又はS2とS3の間であってもよい。以下、
図9A~
図9Iを参照して、
図7のS2~S4及びS6について説明する。なお、
図7のS1は、
図1のS1と同様であるので、説明を省略する。なお、
図7のS4の後に、
図5のS5が行われてもよい。
【0090】
先ず、
図7のS2では、
図9Bに示すように、第1分離線BL1に沿って第1レーザ光LB1の照射点を移動し、第1亀裂CR1及び第2亀裂CR2を形成する。
【0091】
図9Aに示すように、第1分離線BL1は、平面視にて曲線部BL1aを有する。第2分離線BL2も、第1分離線BL1と同様に、曲線部BL2aを有する。
【0092】
図9Bに示すように、第1分離線BL1に直交する断面にて、第1亀裂CR1は、第1主面11からの深さが深くなるほど、曲線部BL1aの曲率中心C側に向けて傾斜する。同様に、第2分離線BL2に直交する断面にて、第2亀裂CR2は、第2主面12からの深さが深くなるほど、曲率中心C側に向けて傾斜する。
【0093】
次に、
図7のS3では、
図9Cに示すように、ガラス板10の内部にて第2レーザ光LB2を点状に集光し、改質部Dを点状に形成する。改質部Dは、
図3Aに示す第2例と同様に直線状の仮想線VLに配列されるが、
図4Aに示す第3例と同様に曲線状の仮想線VLに配列されてもよい。
【0094】
なお、
図7のS3では、上記の通り、ガラス板10の内部にて第2レーザ光LB2を点状に集光し、改質部Dを点状に形成するが、
図2Cに示す第1例と同様に、第2レーザ光LB2を線状に集束し、改質部Dを線状に形成してもよい。
【0095】
次に、
図7のS6では、
図9Aに示す抜取面17にてガラス板10の一部、例えば第1分離線BL1の曲線部BL1aの曲率中心Cを含む部分を抜き取る。抜取面17は、第1分離線BL1と、その曲率中心Cとの間に設定される。
【0096】
図9Bに示すように、抜取面17は、第1主面11に交わる第1交線18と、第2主面12に交わる第2交線19とを有する。第1交線18は、第1分離線BL1と同じ曲率中心Cの曲線部を有する。第1交線18は、曲線部を有すればよく、直線部を更に有してもよい。第2交線19も、第1交線18と同様に、曲線部を有する。
【0097】
図9Aに示すように、平面視にて、第1交線18は、第2交線19の片側に配置される。具体的には、例えば、第1交線18は、第2交線19を基準として曲率中心C側に配置される。なお、第1交線18と第2交線19の配置は逆でもよく、第1交線18が第2交線19を基準として曲率中心Cとは反対側に配置されてもよい。
【0098】
図9Bに示すように、第1交線18に直交する断面にて、抜取面17は、第1主面11の法線Nに対して傾斜している。抜取面17は、例えば線形テーパである。第1主面11の法線Nと、抜取面17のなす角βは、例えば3°以上である。βが3°以上であれば、詳しくは後述するが、
図9Fに示すように、第1主面11の法線方向に、ガラス板10の一部を抜き取ることができる。βは例えば45°以下である。
【0099】
なお、抜取面17は、本実施形態では線形テーパであるが、非線形テーパであってもよい。この場合、βは、第1主面11の法線Nと、抜取面17の接線とのなす角である。βが上記範囲内であればよい。
【0100】
図7のS6は、
図8に示すS61~S63を含む。先ず、
図8のS61では、
図9Dに示すように、ガラス板10の内部にて第2レーザ光LB2を点状に集光し、その集光点に点状の改質部Dを形成する。
【0101】
改質部Dは、第1主面11からの深さが一定の面内での集光点の二次元的な移動と、第1主面11からの集光点の深さの変更とを繰り返し、抜取面17に分散配置される。集光点の移動には、例えば3Dガルバノスキャナが用いられる。集光点の深さの変更が、ステージの移動によって行われる場合、2Dガルバノスキャナが用いられてもよい。
【0102】
ステージは、ガラス板10を保持するものである。集光点の移動は、ガラス板10を保持するステージの移動又は回転によって実施されてもよい。ステージとして、例えばXYステージ、XYθステージ、XYZステージ、又はXYZθステージが用いられる。
【0103】
改質部Dは、第1主面11から第2主面12まで、板厚方向全体に亘って形成される。ここで、板厚方向全体とは、板厚の80%以上の領域を意味する。後述のS62において、板厚方向全体に亘って、第4亀裂CR4を形成できる。
【0104】
次に、
図8のS62では、
図9Eに示すように、ガラス板10に応力を加え、抜取面17に第4亀裂CR4を形成する。第4亀裂CR4は、改質部Dを起点に形成され、第1主面11から第2主面12まで形成される。
【0105】
第4亀裂CR4の形成では、例えば、第1レーザ光LB1の照射によって、ガラス板10に熱応力を加える。なお、ガラス板10に応力を加える方法は特に限定されない。ローラをガラス板10に押し付け、ガラス板10に応力を加えてもよい。
【0106】
最後に、
図8のS63では、
図9Fに示すように、ガラス板10の一部、例えば曲率中心Cを含む部分を抜き取る。抜き取りでは、ガラス板10の一部と残部とを、第1主面11の法線方向にずらす。ガラス板10の一部と残部の両方を破砕することなく、ガラス板10の一部を抜き取ることができる。
【0107】
なお、ガラス板10の一部と残部とを第1主面11の法線方向にずらす前に、ガラス板10の一部と残部とに温度差を付け、ガラス板10の一部と残部との間に隙間を形成してもよい。ガラス同士の擦れ合いを抑制できる。
【0108】
第1交線18を基準として、曲率中心C側の部分が、曲率中心Cとは反対側の部分よりも低い温度であれば、隙間が形成される。曲率中心C側の部分を冷却してもよいし、曲率中心Cとは反対側の部分を加熱してもよい。
【0109】
ガラス板10の残部は、第1亀裂CR1及び第2亀裂CR2を含む部分である。ガラス板10の一部を抜き取ることで、ガラス板10の残部の変形が容易になり、その後の処理が容易になる。
【0110】
次に、
図7のS4では、
図9Gに示すように、ガラス板10に応力を加え、第1亀裂CR1の先端と改質部Dにまたがる第3亀裂CR3を形成する。第3亀裂CR3は、第1亀裂CR1の先端と第2亀裂CR2の先端にまたがる。
【0111】
本実施形態によれば、上記第1実施形態及び上記第2実施形態と同様に、第3亀裂CR3の形成前に、改質部Dが仮想線VLに形成される。改質部Dが、第3亀裂CR3を仮想線VLに誘導する。従って、第1亀裂CR1及び第2亀裂CR2の先端から、第1主面11及び第2主面12に対して垂直な方向に、第3亀裂CR3を生成できる。
【0112】
また、本実施形態によれば、
図9Aに示すように第1分離線BL1が平面視にて曲線部BL1aを有し、曲線部BL1aに沿って複数の改質部Dが配列される。その配列方向に、第3亀裂CR3を誘導できる。
【0113】
また、本実施形態によれば、
図9Bに示すように、第1分離線BL1に直交する断面にて、第1亀裂CR1は、第1主面11からの深さが深くなるほど、曲線部BL1aの曲率中心C側に向けて傾斜する。曲線部BL1aを基準として、曲率中心Cとは反対側の部分(
図9Aにおいて曲線部BL1aよりも左側の部分)が、製品になる。
【0114】
曲線部BL1aを基準として曲率中心Cとは反対側の部分が製品になる場合に、曲線部BL1aに複数の改質部Dを配列し、その配列方向に第3亀裂CR3を誘導する技術的な意義が大きい。仮に、曲線部BL1aの特定の点においてその接線方向に真っ直ぐ第3亀裂CR3が伸展してしまうと、製品を傷付けてしまうからである。
【0115】
第3亀裂CR3が曲線部BL1aに沿って曲がりやすいように、曲線部BL1aの曲率半径は例えば0.5mm以上、好ましくは1mm以上である。また、曲線部BL1aの曲率半径は、例えば1000mm以下、好ましくは500mm以下である。
【0116】
図7のS4の後で、
図9Gに示す第3亀裂CR3から第4亀裂CR4までの不要な部分を除去する。例えば不要な部分に対してレーザ光を照射し、不要な部分を熱で複数の破片に破砕し、除去する。その結果、
図9H及び
図9Iに示すガラス板10が得られる。ガラス板10は、第1主面11と、第2主面12と、第1傾斜面13と、第2傾斜面14と、端面15とを有する。なお、不要な部分の除去は、加熱破砕の代わりに、冷却収縮によっても実現可能である。
【実施例】
【0117】
以下、ガラス板の加工方法の具体例について説明する。
【0118】
〔例1〕
例1では、
図1のS1~S4を実施した。S1では、ガラス板10として、厚み1.8mmのソーダライムガラスを用意した。第1主面11は、縦100mm、横50mmの矩形であった。第1分離線BL1は、第1主面11の長辺から、斜め方向に別の長辺まで延びる直線であった。
【0119】
S2では、
図2Bに示すように、第1分離線BL1に沿って第1レーザ光LB1の照射点を移動し、第1亀裂CR1及び第2亀裂CR2を形成した。照射点の移動には、3Dガルバノスキャナを用いた。
【0120】
S2での第1レーザ光LB1の照射条件は、下記の通りであった。
発振器:Ybファイバーレーザ(IPGフォトニクス製、YLR500)
発振方式:連続波発振
光波長:1070nm
出力:440W
面内方向の走査速度:70mm/s
第1主面11でのビーム径:0.6mm。
【0121】
S3では、
図2Cに示すように、ガラス板10の内部にて第2レーザ光LB2を線状に集束し、改質部Dを線状に形成した。第2レーザ光LB2の照射点を第1分離線BL1に沿って移動し、第1分離線BL1に沿って所定のピッチで複数の改質部Dを形成した。照射点の移動には、XYZステージを用いた。
【0122】
S3での第2レーザ光LB2の照射条件は、下記の通りであった。
発振器:ピコ秒パルスレーザ(Rofin製、StarPico3)
発振方式:パルス発振(バースト)
光波長:1064nm
出力:35.6W
発振周波数:75kHz
面内方向の走査速度:187.5mm/s
面内方向の照射ピッチ:5μm
パルスエネルギー:475μJ。
【0123】
S4では、
図2Dに示すように、ガラス板10に応力を加え、第1亀裂CR1の先端と第2亀裂CR2の先端にまたがる第3亀裂CR3を形成した。第3亀裂CR3の形成では、第1レーザ光LB1の照射によってガラス板10に熱応力を加えた。第1レーザ光LB1の照射点の移動には、XYZステージを用いた。S4での第1レーザ光LB1の照射条件は、S2での第1レーザ光LB1の照射条件と同じであった。
【0124】
S4の後、
図2Eに示すガラス板10を得ることができた。ガラス板10の第1傾斜面13、第2傾斜面14、及び端面15の算術平均粗さRaを、表面粗さ測定器(Bruker社製、DektakXT)を用いて測定した。測定条件を下記に示す。
カットオフ値λc:0.025mm
カットオフ比λc/λs:10
測定速度:0.1mm/sec
評価長さ:1.0mm。
【0125】
第1傾斜面13の算術平均粗さRaは、5.2nmであった。また、第2傾斜面14の算術平均粗さRaも、5.2nmであった。一方、端面15の算術平均粗さRaは、0.4μmであった。
【0126】
〔例2〕
例2では、
図5のS1~S5を実施した。S1では、ガラス板10として、厚み1.3mmのアルミノシリケートガラスを用意した。第1主面11は、縦100mm、横50mmの矩形であった。第1分離線BL1は、第1主面11の長辺から、斜め方向に別の長辺まで延びる直線であった。
【0127】
S2では、
図2Bに示すように、第1分離線BL1に沿って第1レーザ光LB1の照射点を移動し、第1亀裂CR1及び第2亀裂CR2を形成した。照射点の移動には、3Dガルバノスキャナを用いた。
【0128】
S2での第1レーザ光LB1の照射条件は、下記の通りであった。
発振器:Ybファイバーレーザ(IPGフォトニクス製、YLR500)
発振方式:連続波発振
光波長:1070nm
出力:440W
面内方向の走査速度:70mm/s
第1主面11でのビーム径:0.6mm。
【0129】
S3では、
図6Aに示すように、ガラス板10の内部にて第2レーザ光LB2を点状に集光し、改質部Dを点状に形成した。改質部Dは、ガラス板10の板厚中心を基準として、第1主面11側にのみ形成した。集光点の移動には、XYZステージを用いた。
【0130】
S3での第2レーザ光LB2の照射条件は、下記の通りであった。
発振器:ナノ秒パルスレーザ(スペクトラフィジックス製、Explorer532-2Y)
発振方式:パルス発振(シングル)
光波長:532nm
出力:2W
発振周波数:10kHz
面内方向の走査速度:100mm/s
面内方向の照射ピッチ:0.01mm
深さ方向の照射ピッチ:0.05mm
集光ビーム径:4μm
パルスエネルギー:200μJ。
【0131】
S4では、
図6Bに示すように、ガラス板10に応力を加え、第1亀裂CR1の先端と第2亀裂CR2の先端にまたがる第3亀裂CR3を形成した。第3亀裂CR3の形成では、第1レーザ光LB1の照射によってガラス板10に熱応力を加えた。第1レーザ光LB1の照射点の移動には、XYZステージを用いた。S4での第1レーザ光LB1の照射条件は、S2での第1レーザ光LB1の照射条件と同じであった。
【0132】
S5では、
図6Dに示すように、第1傾斜面13を、砥石20で研削し、粗面化した。砥石20の砥粒の平均粒径D50は、40μmであった。
【0133】
S5の後、
図6Eに示すガラス板10を得ることができた。第1傾斜面13の算術平均粗さRaは、0.5μmであった。端面15のうちの第1端面部151の算術平均粗さRaは、2.1μmであった。一方、端面15のうちの第2端面部152の算術平均粗さRaは2.9nmであった。第2傾斜面14の算術平均粗さRaは、5.2nmであった。
【0134】
図6Eに示すガラス板10として、4点曲げ試験の試験片を作製し、4点曲げ試験を実施した。4点曲げ試験では、第1主面11に圧縮応力を発生させ、第2主面12に引張応力を発生させた。その結果、破壊強度は248MPaであった。また、破壊の起点は、第2主面12であり、第2傾斜面14及び第2端面部152ではないことを確認できた。
【0135】
〔例3〕
例3では、
図7のS1~S4及びS6を実施した。S1では、ガラス板10として、厚み3.5mmのソーダライムガラスを用意した。第1主面11は、縦200mm、横150mmの矩形であった。第1分離線BL1の曲線部BL1aは、半径80mmの円弧であった。第1主面11の法線と抜取面17とのなす角βは、4°であった。
【0136】
S2では、
図9A及び
図9Bに示すように、第1分離線BL1に沿って第1レーザ光LB1の照射点を移動し、第1亀裂CR1及び第2亀裂CR2を形成した。照射点の移動には、XYZステージを用いた。
【0137】
S2での第1レーザ光LB1の照射条件は、下記の通りであった。
発振器:Ybファイバーレーザ(IPGフォトニクス製、YLR500)
発振方式:連続波発振
光波長:1070nm
出力:220W
面内方向の走査速度:70mm/s
第1主面11でのビーム径:1.2mm。
【0138】
S3では、
図9Cに示すように、ガラス板10の内部にて第2レーザ光LB2を点状に集光し、改質部Dを点状に形成した。改質部Dは、第1主面11からの深さが一定の面内での集光点の二次元的な移動と、第1主面11からの集光点の深さの変更とを繰り返し、抜取面17に分散配置した。集光点の移動には、XYZステージを用いた。
【0139】
S3での第2レーザ光LB2の照射条件は、下記の通りであった。
発振器:ナノ秒パルスレーザ(スペクトラフィジックス製、Explorer532-2Y)
発振方式:パルス発振(シングル)
光波長:532nm
出力:2W
発振周波数:10kHz
面内方向の走査速度:100mm/s
面内方向の照射ピッチ:0.01mm
深さ方向の照射ピッチ:0.05mm
集光ビーム径:4μm
パルスエネルギー:200μJ。
【0140】
S6に含まれるS61では、
図9Dに示すように、ガラス板10の内部にて第2レーザ光LB2を点状に集光し、その集光点に点状の改質部Dを形成した。改質部Dは、第1主面11からの深さが一定の面内での集光点の二次元的な移動と、第1主面11からの集光点の深さの変更とを繰り返し、抜取面17に分散配置した。集光点の移動には、XYZステージを用いた。S61での第2レーザ光LB2の照射条件は、上記S3での第2レーザ光LB2の照射条件と同じであった。
【0141】
S6に含まれるS62では、
図9Eに示すように、ガラス板10に応力を加え、抜取面17に第4亀裂CR4を形成した。第4亀裂CR4の形成では、第1レーザ光LB1の照射によってガラス板10に熱応力を加えた。第1レーザ光LB1は、集光レンズなどを含む光学系によって、第1主面11に照射した。その照射点を第1交線18に沿って移動することで、抜取面17の全体に第4亀裂CR4を形成した。照射点の移動には、3Dガルバノスキャナを用いた。S62での第1レーザ光LB1の照射条件は、出力を340Wに上げた以外、S2での第1レーザ光LB1の照射条件と同じであった。
【0142】
S6に含まれるS63では、
図9Fに示すように、ガラス板10の一部を抜き取った。ガラス板10の一部は曲率中心Cを含む部分であり、ガラス板10の残部は第1亀裂CR1及び第2亀裂CR2を含む部分であった。
【0143】
S4では、
図9Gに示すように、ガラス板10に応力を加え、第1亀裂CR1の先端と第2亀裂CR2の先端にまたがる第3亀裂CR3を形成した。第3亀裂CR3の形成では、第1レーザ光LB1の照射によってガラス板10に熱応力を加えた。第1レーザ光LB1の照射点の移動には、3Dガルバノスキャナを用いた。S4での第1レーザ光LB1の照射条件は、出力を340Wに上げた以外、S2での第1レーザ光LB1の照射条件と同じであった。
【0144】
S4の後、
図9Gに示す第3亀裂CR3から第4亀裂CR4までの不要な部分に対して第1レーザ光LB1を照射し、不要な部分を熱で複数の破片に粉砕し、除去した。その際の第1レーザ光LB1の照射条件は、出力を460Wに上げ、面内方向の走査速度を10mm/sに遅くした以外、S2での第1レーザ光LB1の照射条件と同じであった。不要な部分の破砕後、
図9H及び
図9Iに示すガラス板10を得ることができた。
【0145】
以上、本開示に係るガラス板の加工方法、及びガラス板について説明したが、本開示は上記実施形態などに限定されない。特許請求の範囲に記載された範疇内において、各種の変更、修正、置換、付加、削除、及び組み合わせが可能である。それらについても当然に本開示の技術的範囲に属する。
【0146】
本出願は、2019年11月21日に日本国特許庁に出願された特願2019-210499号に基づく優先権を主張するものであり、特願2019-210499号の全内容を本出願に援用する。
【符号の説明】
【0147】
10 ガラス板
11 第1主面
12 第2主面
13 第1傾斜面
14 第2傾斜面
15 端面
151 第1端面部
152 第2端面部
BL1 第1分離線
BL1a 曲線部
BL2 第2分離線
C 曲率中心
CR1 第1亀裂
CR2 第2亀裂
CR3 第3亀裂
D 改質部