(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2025-03-28
(45)【発行日】2025-04-07
(54)【発明の名称】ガラス基板、表示装置、及びガラス基板の製造方法
(51)【国際特許分類】
C03C 15/00 20060101AFI20250331BHJP
C03C 3/083 20060101ALI20250331BHJP
C03C 3/085 20060101ALI20250331BHJP
C03C 3/087 20060101ALI20250331BHJP
C03C 3/091 20060101ALI20250331BHJP
C03C 3/093 20060101ALI20250331BHJP
【FI】
C03C15/00 Z
C03C3/083
C03C3/085
C03C3/087
C03C3/091
C03C3/093
(21)【出願番号】P 2021574002
(86)(22)【出願日】2021-01-22
(86)【国際出願番号】 JP2021002345
(87)【国際公開番号】W WO2021153469
(87)【国際公開日】2021-08-05
【審査請求日】2023-08-07
(31)【優先権主張番号】P 2020013695
(32)【優先日】2020-01-30
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000000044
【氏名又は名称】AGC株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002000
【氏名又は名称】弁理士法人栄光事務所
(72)【発明者】
【氏名】掛川 貴之
(72)【発明者】
【氏名】赤間 佑紀
(72)【発明者】
【氏名】留野 暁
【審査官】酒井 英夫
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2016/010050(WO,A1)
【文献】特開2009-167090(JP,A)
【文献】国際公開第2009/131053(WO,A1)
【文献】特開2018-197183(JP,A)
【文献】特開2018-052802(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C03C 1/00-15/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
母組成として、酸化物基準のモル百分率表示で、
SiO
2:50~75%
Al
2O
3:5~25%
B
2O
3:0~10%
Y
2O
3:0~5%
MgO:0~20%
CaO:0~15%
Li
2O:0~15%
Na
2O:1~25%
K
2O:0.1~20%
TiO
2:0~1%
ZrO
2:0~2%
を含有し、かつ
Na
2
O/K
2
Oが2以上であり、
主表面の少なくとも一方に、下記方法により求められる突起数が400個以上2000個以下であるエッチング面を含む、ガラス基板。
方法:285.12μm×213.77μmの領域をレーザー顕微鏡で測定して表面形状のXYZデータを得る。Image Metrolоgy社製画像処理ソフトウェアSPIPを用いた前記XYZデータの形状解析において、全体面のレベリング後、粒子検出を閾値レベル50.0000nmとしたときの突起数を求める。
【請求項2】
前記エッチング面における凹凸平均間隔RSmの値が30μm以下である、請求項1に記載のガラス基板。
【請求項3】
前記エッチング面における算術平均傾斜角RΔaが、カットオフ値なしの条件で、1.50°以上である、請求項1又は2記載のガラス基板。
【請求項4】
前記エッチング面における算術平均傾斜角RΔaが、カットオフ値なしの条件で、1.50°以上12°以下である、請求項3に記載のガラス基板。
【請求項5】
前記エッチング面におけるJIS K 7136(2000年)に準拠する方法で測定した透過光のヘーズ率が0.2~75%である、請求項1~
4のいずれか1項に記載のガラス基板。
【請求項6】
前記エッチング面における下記方法で定量化されるぎらつきS
aが8以下である、請求項1~
5のいずれか1項に記載のガラス基板。
方法:解像度264ppiである表示装置の表示面側に、前記エッチング面が接するようにガラス板を配置する。前記表示装置にRGB(0,255,0)で構成される緑単色の画像を表示させた状態で、前記ガラス板の上方に設置したDM&S社製SMS―1000を用いた画像解析により求められたSparkle値をぎらつきS
aとする。固定撮像素子と前記ガラス板との間の距離dは568mmとし、カメラレンズは焦点距離が50mmの23FM50SPレンズを絞り16で使用する。測定はDifference Image Method(DIM)で行い、Pixel Ratio値に0を入力し、ぎらつきS
aを得る。
【請求項7】
前記母組成は、酸化物基準のモル百分率表示で、Na
2O、K
2O及びLi
2Oの合計含有量が30%未満である請求項1~
6のいずれか1項に記載のガラス基板。
【請求項8】
請求項1~
7のいずれか1項に記載のガラス基板を備える表示装置。
【請求項9】
主表面の少なくとも一方に、下記方法により求められる突起数が400個以上2000個以下であるエッチング面を含む、ガラス基板の製造方法であって、酸化物基準のモル百分率表示で、
SiO
2:50~75%
Al
2O
3:5~25%
B
2O
3:0~10%
Y
2O
3:0~5%
MgO:0~20%
CaO:0~15%
Li
2O:0~15%
Na
2O:1~25%
K
2O:0.1~20%
TiO
2:0~1%
ZrO
2:0~2%
を含有
し、かつ
Na
2
O/K
2
Oが2以上であるガラス基板をフロスト処理する工程を含む、ガラス基板の製造方法。
方法:285.12μm×213.77μmの領域をレーザー顕微鏡で測定して表面形状のXYZデータを得る。Image Metrolоgy社製画像処理ソフトウェアSPIPを用いた前記XYZデータの形状解析において、全体面のレベリング後、粒子検出を閾値レベル50.0000nmとしたときの突起数を求める。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、表示装置等に用いられる、ぎらつきが抑制され、かつ洗浄性に優れたガラス基板、および該ガラス基板を備える表示装置、ないし該ガラス基板の製造方法に関する。
【0002】
近年、例えば、LCD(Liquid Crystal Display)装置等の表示装置の表示面側には、該表示装置の保護のため、ガラスで構成されたカバーが配置される。
【0003】
しかしながら、表示装置上にこのようなガラス板を設置した場合、ガラス板を介して表示装置の表示画を視認しようとした際に、ガラス板に、しばしば周辺に置かれているものの映り込みが発生する場合がある。ガラス板にそのような映り込みが生じると、表示画の視認者は、表示画を視認することが難しくなる上、不快な印象を受けるようになる。
【0004】
このような映り込みを抑制するため、例えば、ガラス板の表面に、凹凸形状を形成するアンチグレア処理を施すことが試みられている。アンチグレア処理には、例えば、ガラス板表面をエッチングする(例えば、特許文献1参照。)、ガラス板表面に凹凸形状を有する膜を形成する(例えば、特許文献2参照。)等の手段が挙げられる。
【0005】
一方で、このような表示装置においては、カバーをなすガラス基板表面に人の指等が触れる機会が多く、人の指等が触れた場合に、ガラス基板表面に脂等が付着し易い。そして、脂等が付着した場合には視認性に影響を及ぼすことから、従来、アンチグレア処理が施されたガラス基板の表面に防汚処理が施されたものが用いられている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】国際公開第2014/119453号
【文献】米国特許第8003194号明細書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
アンチグレア処理により、上記したように映り込みが抑制され、反射を低減するとともに、防汚効果が得られる一方で、ぎらつきが生じたり、耐洗浄性が低下するといったデメリットが生じ得る。ガラス基板上にぎらつきが生じると、表示画の視認者は、表示画を視認することが難しくなる上、不快な印象を受けるようになる。
【0008】
ぎらつきは、ガラス基板のアンチグレア処理された表面の粗さが、表示装置の画素間のピッチよりも大きい場合や、ガラス基板の表面凸凹サイズの不均一、凸凹深さの不均一等がある場合に顕著になる。表示装置の高精細化とともに、画素サイズも画素ピッチも小さくなってきているため、今後、ガラス基板のぎらつきの問題は、ますます顕著になるものと予想される。また、上記したように、表示装置においてはガラス基板表面に脂等が付着し易いが、アンチグレア処理を施すことにより脂等の洗浄性が低下しやすいという問題がある。
【0009】
したがって、本発明は、ぎらつきが抑制され、かつ洗浄性に優れたエッチング面を含む、ガラス基板の提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記課題について、本発明者らは、特定の組成を有するガラスをエッチング処理することにより、ぎらつきが抑制され、かつ洗浄性に優れた、エッチング面を含むガラス基板が得られることを見出し、本発明を完成させた。
【0011】
すなわち、本発明の要旨は以下の通りである。
1.母組成として、酸化物基準のモル百分率表示で、
SiO2:50~75%
Al2O3:0.1~25%
B2O3:0~10%
Y2O3:0~5%
MgO:0~20%
CaO:0~15%
Li2O:0~15%
Na2O:1~25%
K2O:0.1~20%
TiO2:0~1%
ZrO2:0~2%
を含有し、かつ
主表面の少なくとも一方に、下記方法により求められる突起数が400個以上2000個以下であるエッチング面を含む、ガラス基板。
方法:285.12μm×213.77μmの領域をレーザー顕微鏡で測定して表面形状のXYZデータを得る。Image Metrolоgy社製画像処理ソフトウェアSPIPを用いた前記XYZデータの形状解析において、全体面のレベリング後、粒子検出を閾値レベル50.0000nmとしたときの突起数を求める。
2.前記エッチング面における凹凸平均間隔RSmの値が30μm以下である、前記1に記載のガラス基板。
3.前記エッチング面における算術平均傾斜角RΔaが、カットオフ値なしの条件で、1.50°以上である、前記1又は2に記載のガラス基板。
4.前記エッチング面におけるJIS K 7136(2000年)に準拠する方法で測定した透過光のヘーズ率が0.2~75%である、前記1~3のいずれか1に記載のガラス基板。
5.前記エッチング面における下記方法で定量化されるぎらつきSaが8以下である、前記1~4のいずれか1に記載のガラス基板。
方法:解像度264ppiである表示装置の表示面側に、前記エッチング面が接するようにガラス板を配置する。前記表示装置にRGB(0,255,0)で構成される緑単色の画像を表示させた状態で、前記ガラス板の上方に設置したDM&S社製SMS―1000を用いた画像解析により求められたSparkle値をぎらつきSaとする。固定撮像素子と前記ガラス板との間の距離dは568mmとし、カメラレンズは焦点距離が50mmの23FM50SPレンズを絞り16で使用する。測定はDifference Image Method(DIM)で行い、Pixel Ratio値に0を入力し、ぎらつきSaを得る。
6.前記母組成は、酸化物基準のモル百分率表示で、Na2O、K2O及びLi2Oの合計含有量が30%未満である前記1~5のいずれか1に記載のガラス基板。
7.前記1~6のいずれか1に記載のガラス基板を備える表示装置。
8.主表面の少なくとも一方に、下記方法により求められる突起数が400個以上2000個以下であるエッチング面を含む、ガラス基板の製造方法であって、酸化物基準のモル百分率表示で、
SiO2:50~75%
Al2O3:0.1~25%
B2O3:0~10%
Y2O3:0~5%
MgO:0~20%
CaO:0~15%
Li2O:0~15%
Na2O:1~25%
K2O:0.1~20%
TiO2:0~1%
ZrO2:0~2%
を含有するガラス基板をフロスト処理する工程を含む、ガラス基板の製造方法。
方法:285.12μm×213.77μmの領域をレーザー顕微鏡で測定して表面形状のXYZデータを得る。Image Metrolоgy社製画像処理ソフトウェアSPIPを用いた前記XYZデータの形状解析において、全体面のレベリング後、粒子検出を閾値レベル50.0000nmとしたときの突起数を求める。
【発明の効果】
【0012】
本発明の実施形態のガラス基板は、ガラスの母組成が特定範囲の組成であり、かつ、特定範囲の表面特性を有することにより、ぎらつきを効果的に抑制し、かつ優れた洗浄性を示す。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【
図1】
図1は、ぎらつきS
aを測定する際に使用される測定装置の一例を模式的に示す図である。
【
図2】
図2は、反射像拡散性指標値Rを測定する際に使用される測定装置の一例を模式的に示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明を実施するための形態について説明するが、本発明は、下記の実施形態に制限されることはなく、本発明の範囲を逸脱することなく、下記の実施形態に種々の変形および置換を加えることができる。
【0015】
<ガラスの母組成>
ガラスの組成は、簡易的には蛍光エックス線法による半定量分析によって求めることも可能であるが、より正確には、ICP発光分析等の湿式分析法により測定できる。なお、各成分の含有量は、特に断りのない限り、酸化物基準のモル百分率表示で表すものとする。
【0016】
本発明の実施形態のガラス基板は、母組成として、酸化物基準のモル百分率表示で、
SiO2:50~75%
Al2O3:0.1~25%
B2O3:0~10%
Y2O3:0~5%
MgO:0~20%
CaO:0~15%
Li2O:0~15%
Na2O:1~25%
K2O:0.1~20%
TiO2:0~1%
ZrO2:0~2%
を含有することを特徴とする。
【0017】
SiO2はガラスの骨格を構成する成分である。また、化学的耐久性を上げる成分であり、ガラス表面に傷(圧痕)がついた時のクラックの発生を低減させる成分である。
【0018】
本実施形態のガラス基板におけるSiO2の含有量は50%以上である。SiO2の含有量は、好ましくは、以下、段階的に、54%以上、58%以上、60%以上、63%以上、66%以上、68%以上である。
【0019】
一方、SiO2の含有量が75%超であると溶融性が著しく低下する。そのため、本実施形態のガラス基板におけるSiO2の含有量は75%以下であり、好ましくは74%以下、より好ましくは73%以下、さらに好ましくは72%以下、特に好ましくは71%以下、最も好ましくは70%以下である。
【0020】
本実施形態のガラス基板はAl2O3を含有することにより、エッチング面における突起数を増加させて、ぎらつきを抑制し、かつ洗浄性を向上できる。突起数の増加などのエッチング面の特性を向上する点から、Al2O3の含有量は0.1%以上であり、好ましくは、以下、段階的に、0.3%以上、0.5%以上、0.7%以上、0.8%以上、0.9%以上、1%以上、5%以上である。
【0021】
一方、Al2O3の含有量が25%超であるとガラスの耐酸性が低下し、または失透温度が高くなる。また、ガラスの粘性が増大し溶融性が低下する。そのため、本実施形態のガラス基板におけるAl2O3の含有量は、25%以下であり、好ましくは20%以下、より好ましくは18%以下、さらに好ましくは16%以下、特に好ましくは14%以下である。
【0022】
Y2O3は、化学強化ガラスの破砕性を改善する成分であり、含有させてもよい。本実施形態のガラス基板にY2O3を含有させる場合の含有量は、好ましくは0.5%以上であり、より好ましくは1%以上、さらに好ましくは1.5%以上、特に好ましくは2%以上、最も好ましくは2.5%以上である。
【0023】
Y2O3の含有量は5%超であると溶融時にガラスが失透しやすくなり品質が低下する場合がある。そのため、本実施形態のガラス基板におけるY2O3の含有量は、5%以下であり、好ましくは4%以下、より好ましくは3%以下である。
【0024】
MgOは、化学強化する際に化学強化ガラスの表面圧縮応力を増大させる成分であり、破砕性を改善する成分であり、含有させてもよい。本実施形態のガラス基板にMgOを含有させる場合の含有量は、好ましくは3%以上であり、より好ましくは、以下、段階的に、4%以上、5%以上、6%以上、7%以上、8%以上である。
【0025】
一方、MgOの含有量が20%超であるとガラスが溶融時に失透しやすくなる。そのため、本実施形態のガラス基板におけるMgOの含有量は20%以下であり、好ましくは15%以下、より好ましくは、以下、段階的に、14%以下、13%以下、12%以下、11%以下、10%以下である。
【0026】
CaOは、ガラスの溶融性を向上させる成分であり、化学強化する際に化学強化ガラスの破砕性を改善する成分であり、含有させてもよい。本実施形態のガラス基板にCaOを含有させる場合の含有量は、好ましくは0.5%以上であり、より好ましくは1%以上、さらに好ましくは2%以上、特に好ましくは3%以上、最も好ましくは5%以上である。
【0027】
一方、CaOの含有量が15%超となるとイオン交換性能が低下するため、本実施形態のガラス基板におけるCaOの含有量は15%以下とする。CaOの含有量は、好ましくは10%以下、より好ましくは9%以下、さらに好ましくは8%以下である。
【0028】
Li2Oは、またイオン交換により表面圧縮応力を形成させる成分であり、化学強化ガラスの破砕性を改善する成分である。ガラス表面のLiイオンをNaイオンに交換する化学強化処理を行う場合、本実施形態のガラス基板におけるLi2Oの含有量は、好ましくは3%以上であり、より好ましくは4%以上、さらに好ましくは5%以上、特に好ましくは6%以上、典型的には7%以上である。
【0029】
一方、本実施形態のガラス基板におけるLi2Oの含有量が15%超ではガラスの耐酸性が著しく低下する。Li2Oの含有量は、15%以下であり、好ましくは14%以下、より好ましくは13%以下、さらに好ましくは12%以下、特に好ましくは11%以下である。
【0030】
一方、ガラス表面のNaイオンをKイオンに交換する化学強化処理を行う場合、本実施形態のガラス基板におけるLi2Oの含有量が3%超であると、圧縮応力の大きさが低下する場合がある。この場合、Li2Oの含有量は、3%以下が好ましく、より好ましくは2%以下、さらに好ましくは1%以下、特に好ましくは0.5%以下、最も好ましくはLi2Oを実質的に含有しない。
【0031】
なお、本明細書において「実質的に含有しない」とは、原材料等に含まれる不可避の不純物を除いて含有しない、すなわち、意図的に含有させたものではないことを意味する。具体的には、ガラス組成中の含有量が、0.1モル%未満であることを指す。
【0032】
Na2Oを含有することにより、エッチング面における突起数を増加させて、ぎらつきを抑制し、かつ洗浄性を向上できる。また、ガラスの溶融性を向上させる成分であり、イオン交換する場合には表面圧縮応力層を形成させる。
【0033】
突起数の増加などのエッチング面の特性を向上する点から、本実施形態のガラス基板におけるNa2Oの含有量は1%以上であり、好ましくは2%以上、より好ましくは3%以上である。
【0034】
一方、本実施形態のガラス基板におけるNa2Oの含有量が25%超ではガラスの耐酸性が著しく低下する。耐酸性の点から、Na2Oの含有量は25%以下であり、好ましくは20%以下、より好ましくは18%以下、さらに好ましくは16%以下、特に好ましくは14%以下である。
【0035】
K2Oを含有することにより、エッチング面における突起数を増加させて、ぎらつきを抑制し、かつ洗浄性を向上できる。また、K2Oを含有することによりイオン交換性能を向上できる。
【0036】
突起数の増加などのエッチング面の特性を向上する点から、本実施形態のガラス基板におけるK2Oの含有量は、0.1%以上であり、好ましくは0.5%以上、より好ましくは1%以上、さらに好ましくは2%以上、特に好ましくは3%以上である。
【0037】
一方、K2Oの含有量が20%超であると、突起数の低下など、エッチング面の特性が低下するため、本実施形態のガラス基板におけるK2Oの含有量は20%以下である。K2Oの含有量は、好ましくは15%以下、より好ましくは12%以下、さらに好ましくは10%以下、特に好ましくは8%以下、最も好ましくは6%以下である。
【0038】
K2Oの含有量がNa2Oの含有量を超えるとエッチング面の突起数が不十分となることから、本実施形態のガラス基板におけるK2Oの含有量はNa2Oの含有量より少ないことが好ましい。例えば、Na2Oの含有量/K2Oの含有量は、1.1以上が好ましく、より好ましくは1.5以上、さらに好ましくは2以上、特に好ましくは2.5以上、最も好ましくは3以上である。
【0039】
本実施形態のガラス基板におけるNa2O、K2O及びLi2Oの含有量の合計(Na2O+K2O+Li2O)は、30%以下が好ましく、より好ましくは28%以下、さらに好ましくは26%以下、特に好ましくは25%以下である。Na2O+K2O+Li2Oが30%以下であることにより、RSmの低下を抑制し、洗浄性を向上できる。
【0040】
TiO2は、化学強化する際に化学強化ガラスの破砕性を改善する成分であり、含有させてもよい。本実施形態のガラス基板においてTiO2を含有させる場合の含有量は、好ましくは0.1%以上であり、より好ましくは0.15%以上、さらに好ましくは0.2%以上である。
【0041】
一方、TiO2の含有量が1%超であると溶融時に失透しやすくなり、化学強化ガラスの品質が低下する恐れがある。本実施形態のガラス基板におけるTiO2の含有量は1%以下であり、好ましくは0.8%以下、より好ましくは0.5%以下、さらに好ましくは0.25%以下である。
【0042】
ZrO2は、イオン交換による表面圧縮応力を増大させる成分であり、ガラスの破砕性を改善する効果があり、含有させてもよい。本実施形態のガラス基板においてZrO2を含有させる場合の含有量は、好ましくは0.5%以上であり、より好ましくは1%以上である。
【0043】
一方、ZrO2の含有量が2%超であると溶融時に失透しやすくなり、品質が低下する恐れがある。本実施形態のガラス基板におけるZrO2の含有量は2%以下であり、好ましくは1.8%以下、より好ましくは1.6%以下、さらに好ましくは1.4%以下、特に好ましくは1.2%以下である。
【0044】
B2O3は、ガラスのチッピング耐性を向上させ、また溶融性を向上させる成分である。B2O3は必須ではない。本実施形態のガラス基板においてB2O3を含有させる場合の含有量は、溶融性を向上するために好ましくは0.5%以上であり、より好ましくは1%以上、さらに好ましくは2%以上である。
【0045】
一方、本実施形態のガラス基板におけるB2O3の含有量は10%以下である。10%以下とすることにより溶融時に脈理が発生するのを抑制し、ガラスの品質が低下しにくい。B2O3の含有量は、好ましくは5%以下、より好ましくは4%以下、さらに好ましくは3%以下であり、特に好ましくは1%以下である。耐酸性を高くするためには含有しないことが好ましい。
【0046】
P2O5は、イオン交換性能およびチッピング耐性を向上させる成分である。本実施形態のガラス基板においてP2O5は含有させなくてもよいが、P2O5を含有させる場合の含有量は、好ましくは0.5%以上、より好ましくは1%以上、さらに好ましくは2%以上である。
【0047】
一方、本実施形態のガラス基板におけるP2O5の含有量が4%以下であることにより、化学強化ガラスの破砕性及び耐酸性が向上する。そのため、P2O5の含有量は、好ましくは4%以下、より好ましくは3%以下、さらに好ましくは2%以下、特に好ましくは1%以下である。耐酸性を高くするためには含有しないことが好ましい。
【0048】
SrOは、化学強化用ガラスの溶融性を向上する成分であり、化学強化ガラスの破砕性を改善する成分であり、含有させてもよい。本実施形態のガラス基板にSrOを含有させる場合の含有量は、好ましくは0.5%以上、より好ましくは1%以上、さらに好ましくは2%以上、特に好ましくは3%以上、最も好ましくは5%以上である。
【0049】
一方、本実施形態のガラス基板におけるSrOの含有量が20%超となるとイオン交換性能が著しく低下するため、20%以下が好ましい。SrOの含有量は、より好ましくは14%以下であり、さらに好ましくは、以下、段階的に、10%以下、8%以下、6%以下、3%以下、1%以下である。
【0050】
BaOは、化学強化用ガラスの溶融性を向上する成分であり、化学強化ガラスの破砕性を改善する成分であり、含有させてもよい。本実施形態のガラス基板においてBaOを含有させる場合の含有量は、好ましくは0.5%以上であり、より好ましくは1%以上、さらに好ましくは2%以上、特に好ましくは3%以上、最も好ましくは5%以上である。
【0051】
一方、BaOの含有量が15%超となるとイオン交換性能が著しく低下する。本実施形態のガラス基板におけるBaOの含有量は、15%以下が好ましく、より好ましくは、以下、段階的に、10%以下、8%以下、6%以下、3%以下、1%以下である。
【0052】
ZnOはガラスの溶融性を向上させる成分であり、含有させてもよい。本実施形態のガラス基板においてZnOを含有させる場合の含有量は、好ましくは0.25%以上であり、より好ましくは0.5%以上である。
【0053】
一方、ZnOの含有量が10%超となるとガラスの耐候性が著しく低下する。本実施形態のガラス基板におけるZnOの含有量は、10%以下が好ましく、より好ましくは7%以下、さらに好ましくは5%以下、特に好ましくは2%以下、最も好ましくは1%以下である。
【0054】
La2O3、Nb2O5は、ガラスの破砕性を改善する成分であり、含有させてもよい。本実施形態のガラス基板において、これらの成分を含有させる場合のそれぞれの含有量は、好ましくは0.5%以上であり、より好ましくは1%以上、さらに好ましくは1.5%以上、特に好ましくは2%以上、最も好ましくは2.5%以上である。
【0055】
一方、La2O3、Nb2O5の含有量がそれぞれ8%超であると、溶融時にガラスが失透しやすくなりガラスの品質が低下する恐れがある。本実施形態のガラス基板におけるLa2O3、Nb2O5の含有量はそれぞれ、8%以下が好ましく、より好ましくは6%以下、さらに好ましくは5%以下、特に好ましくは4%以下、最も好ましくは3%以下である。
【0056】
本実施形態のガラス基板において、Ta2O5、Gd2O3は、ガラスの破砕性を改善するために少量含有してもよいが、屈折率や反射率が高くなるので1%以下が好ましく、0.5%以下がより好ましく、含有しないことがさらに好ましい。
【0057】
さらに、ガラスに着色を行い使用する際は、所望の化学強化特性の達成を阻害しない範囲において着色成分を添加してもよい。着色成分としては、例えば、Co3O4、MnO2、Fe2O3、NiO、CuO、Cr2O3、V2O5、Bi2O3、SeO2、TiO2、CeO2、Er2O3、及びNd2O3等が好適なものとして挙げられる。
【0058】
本実施形態のガラス基板において、着色成分の含有量は、酸化物基準のモル百分率表示で、合計で7%以下の範囲が好ましい。7%を超えるとガラスが失透しやすくなり望ましくない。この含有量は好ましくは5%以下であり、より好ましくは3%以下、さらに好ましくは1%以下である。ガラスの可視光透過率を優先させる場合は、これらの成分は実質的に含有しないことが好ましい。
【0059】
本実施形態のガラス基板において、ガラスの溶融の際の清澄剤として、SO3、塩化物、及びフッ化物などを適宜含有してもよい。As2O3は含有しないことが好ましい。Sb2O3を含有する場合は、0.3%以下が好ましく、0.1%以下がより好ましく、含有しないことが最も好ましい。
【0060】
また、本実施形態のガラス基板は、銀イオンを表面に有することで、抗菌性を付与できる。
【0061】
本実施形態のガラス基板の母組成としては、例えば、以下のガラス組成が挙げられる。
SiO2を55~72%、Al2O3を0.1~18%、B2O3を0~4%、Y2O3を0~1%、MgOを2~12%、CaOを0~10%、Li2Oを0~11%、Na2Oを3~20%、K2Oを0.1~10%、TiO2を0~0.2%、ZrO2を0~1.5%含有するガラス組成。
【0062】
本実施形態のガラス基板は主表面の少なくとも一方に、エッチング面を含む。本発明において、「エッチング面」とは、化学的な方法(すなわち酸エッチング)によってある量のガラス材料が除去されて、特定の表面テクスチャー/粗さが得られた表面を指す。ガラス基板のエッチング面は、その表面特性および光学特性によって特徴付けられる。
【0063】
<表面特性>
本実施形態のガラス基板におけるエッチング面の表面特性について以下説明する。
【0064】
(シェイプカウント)
本実施形態のガラス基板におけるエッチング面は、下記方法により求められる突起数が400個以上である。方法:285.12μm×213.77μmの領域をレーザー顕微鏡で測定して表面形状のXYZデータを得る。Image Metrolоgy社製画像処理ソフトウェアSPIPを用いた前記XYZデータの形状解析において、全体面のレベリング後、粒子検出を閾値レベル50.0000nmとしたときの突起数を求める。
【0065】
前記突起数は、好ましくは500個以上、より好ましくは600個以上、さらに好ましくは700個以上、特に好ましくは800個以上である。また、前記突起数は2000個以下であり、好ましくは1600個以下、より好ましくは1400個以下、さらに好ましくは1200個以下である。
【0066】
突起数が400個以上であると、ぎらつきを抑制し、視認性を向上できる。突起数が2000個以下であると、後述するRSmの低下を抑制し、洗浄性を向上できる。
【0067】
(RSm)
本実施形態のガラス基板は、エッチング面における凹凸平均間隔(RSm)の値は、30μm以下が好ましく、より好ましくは28μm以下、さらに好ましくは26μm以下、特に好ましくは25μm以下である。RSmが30μm以下であると、後述するぎらつきSaを低減してぎらつきを抑制できる。
【0068】
RSmの下限としては、好ましくは5μm以上、より好ましくは8μm以上、さらに好ましくは12μm以上、特に好ましくは15μm以上である。RSmが5μm以上であると洗浄性を向上できる。
【0069】
凹凸平均間隔(RSm)とは、一般的に、測定対象物の断面に形成された粗さ曲線における凹凸周期の平均値を指す。なお、凹凸平均間隔(RSm)は、JIS-B0601(2013年)に準じた計算式から算出できる。
【0070】
(RΔa)
本実施形態のガラス基板は、エッチング面における算術平均傾斜角(RΔa)が、カットオフ値なしの条件で、1.50°以上が好ましく、より好ましくは1.60°以上、さらに好ましくは1.70°以上、特に好ましくは1.80°以上である。RΔaが1.50°以上であると、ぎらつきを抑制し、視認性を向上できる。
【0071】
本実施形態のガラス基板において、RΔaは好ましくは15°以下、より好ましくは12°以下、さらに好ましくは10°以下である。RΔaが15°以下であると、洗浄性を向上できる。
【0072】
算術平均傾斜角(RΔa)は、輪郭曲線を一定間隔ΔXで横方向に区切り、各区間内における輪郭曲線の終始点を結ぶ線分の傾き(角度)の絶対値を求め、その値を平均したものを指す。RΔaはレーザー顕微鏡を用いて測定、算出する。測定箇所は複数箇所とし、少なくとも10箇所、好ましくは12箇所以上とする。
【0073】
測定手順としては、線粗さ解析を選択し、任意の位置で解析を行う。データ解析は、測定データに対して横方向でもよいし、縦方向でもよい。データ解析は、カットオフ値λs、位相補償形高域フィルタλc及び位相補償形低域フィルタλfは、無しとする。
【0074】
(Ra)
本実施形態のガラス基板は、エッチング面における算術平均粗さ(Ra)は、0.02μm以上が好ましく、より好ましくは0.04μm以上、さらに好ましくは0.06μm以上である。
【0075】
また、本実施形態のガラス基板において、Raは、0.50μm以下が好ましく、より好ましくは0.40μm以下、さらに好ましくは0.30μm以下である。
【0076】
本実施形態のガラス基板において、Raが0.02μm以上であると、ぎらつきを低減できる。Raが0.50μm以下であると、洗浄性を向上できる。
RaはJIS-B0601(2013年)に準じた計算式で算出できる。
【0077】
(Rz)
本実施形態のガラス基板は、エッチング面における表面粗さの最大高さ(Rz)は、0.10μm以上が好ましく、より好ましくは0.20μm以上、さらに好ましくは0.30μm以上である。
【0078】
また、本実施形態のガラス基板において、Rzは2.50μm以下が好ましく、より好ましくは2.40μm以下、さらに好ましくは2.30μm以下である。
【0079】
Rzが0.10μm以上であると、ぎらつきを低減できる。Rzが2.50μm以下であると、洗浄性を向上できる。RzはJIS-B0601(2013年)に準じた計算式で算出できる。
【0080】
<光学特性>
(ヘーズ率)
本実施形態のガラス基板は、エッチング面におけるJIS K 7136(2000年)に準じて測定した可視光領域の透過光のヘーズ率は、0.2%以上が好ましく、より好ましくは0.5%以上、さらに好ましくは1%以上である。また、上記ヘーズ率は、75%以下が好ましく、より好ましくは70%以下、さらに好ましくは65%以下である。ヘーズ率が前記範囲であると、光の映りこみを有意に抑制できる。
【0081】
(ぎらつきSa)
本願明細書では、ぎらつきの指標として、以下の手順で測定されるぎらつきSaを用いる。ぎらつきSaとは、表示画像からの光(像)がガラス板を透過する際にガラス板表面によって散乱され、散乱された光が相互に干渉することによって生じる輝点のムラが、どの程度検出されるかを表すものであり、観察者の目視によるぎらつきの判断結果と良好な相関関係を示すことが確認されている。例えば、ぎらつきSaが大きなガラス板は、ぎらつきが顕著であり、逆にぎらつきSaが小さなガラス板は、ぎらつきが抑制される傾向にある。
【0082】
本実施形態のガラス基板は、エッチング面における下記方法により測定したぎらつきSaは、8以下が好ましく、より好ましくは7以下、さらに好ましくは6以下、特に好ましくは5以下である。
【0083】
図1を参照し、ぎらつきS
aの測定方法について説明する。ぎらつきS
aを測定する際には、まず、表示装置54[iPad(登録商標)-Air2;解像度264ppi]を準備する。表示装置の表示面側には、破損防止目的等のカバーを備えてもよい。
【0084】
次に、表示装置の表示面側に、被測定試料、すなわちガラス基板50が配置される。なお、ガラス基板50の一方の主面である第1主面52にエッチング面を含む場合、ガラス基板50は、この第1主面52が表示装置54の反対側(面輝度測定器75側)になるようにして、表示装置の表示面側に配置される。すなわち他方の主面である、第2主面53を表示装置54上に配置する。
【0085】
次に、表示装置をONにして画像を表示させた状態で、解析装置(SMS-1000;Display-Messtechnik&Systeme[DM&S]社製)を使用して、ガラス基板50のぎらつき度合いを画像解析する。これにより、Sparkle値として表されるぎらつきSaが求められる。
【0086】
なお、測定に際して、RGB(0,255,0)で構成される緑単色の像が、表示装置54の表示画面全体に表示されることが好ましい。表示色の違いによる見え方の違い等の影響を極力小さくするためである。装置の撮像カメラレンズ先端と防眩機能を有する透明基体との間の距離dは568mmとする。この時測定したPixel Ratio値(表示装置の1画素のピッチが撮像カメラの画素ピッチの何倍に相当するかを表す値)は2.45となる。カメラレンズとしては、焦点距離が50mmの23FM50SPレンズが絞り16とする。評価領域ROIは200×200に設定する。測定はDifference Image Method(DIM)で行い、Pixel Ratio値に0を入力し、ぎらつきSaを得る。なお、Single Image Method(SIM)でも同様の測定を行うことが出来るが、この場合に得られるぎらつきSaの絶対値は異なるので、区別する必要がある。
【0087】
この、ぎらつきSaは、観察者の目視によるぎらつきの判断結果と良好な相関関係を示すことが確認されている。例えば、ぎらつきSaが大きな透明基体は、ぎらつきが顕著であり、逆にぎらつきSaが小さな透明基体は、ぎらつきが抑制される傾向にある。
【0088】
(G60)
本実施形態のガラス基板は、エッチング面におけるJIS Z 8741(1997年)に定められた60度鏡面光沢の鏡面光沢度GS(60°)(以下、G60と略す)は、10以上が好ましく、より好ましくは15以上、さらに好ましくは20以上である。また、G60は、140以下が好ましく、より好ましくは135以下、さらに好ましくは130以下である。また、G60は、10以上140以下が好ましく、より好ましくは15以上135以下、さらに好ましくは20以上130以下である。G60が前記範囲であることにより、光の映り込みが抑制される。
【0089】
(反射像拡散性指標値R)
本願明細書では、防眩性の指標として、以下の手順で測定される反射像拡散性指標値(Reflection image diffusiveness index value)Rを用いる。反射像拡散性(Reflection image diffusiveness index value)とは、ガラス板の周辺に置かれている物体(例えば照明)の反射像が、元の物体とどの程度一致しているかを表すものであり、観察者の目視による防眩性の判断結果と良好な相関関係を示すことが確認されている。例えば、反射像拡散性指標値Rが小さな(0に近い)値を示すガラス板は防眩性が劣り、逆に反射像拡散性指標値Rが大きな値(1に近いほど大きい)を示すガラス板は、良好な防眩性を有する。
【0090】
本実施形態のガラス基板は、エッチング面における反射像拡散性指標値Rは、0.01以上が好ましく、より好ましくは0.05以上、さらに好ましくは0.1以上である。反射像拡散性指標値Rが前記範囲であることにより十分な防眩性が得られる。
【0091】
図2を参照し、ガラス基板50の反射像拡散性指標値Rの測定方法について説明する。
図2には、反射像拡散性指標値Rを測定する際に使用される測定装置の一例を模式的に示す。
【0092】
図2に示すように、測定装置70は、線状光源装置71および面輝度測定器75を有し、測定装置70内に、被測定試料、すなわち防眩機能を有するガラス基板50(透明基体(または防眩加工が施された防眩機能を有する透明基体)50)が配置される。線状光源装置71は、光源711と黒色平板712からなり、黒色平板712にスリット状の開口部に光源711が設けられている。ガラス基板50は、エッチング面を含む第1主面52と、第2主面53とを有する。線状光源装置71は、ガラス基板50に向かい、かつ
図2で紙面に垂直方向に配置される。
線状光源装置71の幅方向の中央を通る垂直平面内に面輝度測定器75を配置する。面輝度測定器75の焦点は、ガラス基板50で反射した線状光源装置71の像に合わせる。つまり、像の焦点があう面を黒色平板712に一致させる。ここで線状光源装置71から入射してガラス基板50で反射し、面輝度測定器75に入射した光のうち、入射角θiと反射角θrが等しい光線(以下、第1の入射光731,第1の反射光732とする)に着目すると、θi=θr=5.7°である。
【0093】
なお、ガラス基板50は、第1主面52が線状光源装置71および面輝度測定器75の側となるように配置される。ガラス基板50の第2主面53側には黒色板を配置する。従って、面輝度測定器75が検出する光は、ガラス基板50で反射された反射光である。
【0094】
次に、測定方法について説明する。例えば入射角θiと反射角θrの差θr-θi=0.5°である光線733,734に着目すると、この光線734はガラス基板50で、正反射から0.5°ずれた方向に散乱された成分を表す。この方向から来る光線は、面輝度測定器75では、黒色平板712と仮想入射光733-2(入射角が光線734の反射角と等しい角度から入射する光線)が交わる部分の像として観測される。つまり面輝度測定器75で面輝度を取得すると、線状光源装置71の正反射に対応する輝線を中心に、ガラス基板50の第1主面52で散乱された光が前記輝線の左右に広がった画像が得られる。この輝線に垂直な方向の輝度断面プロファイルを抽出する。なお、測定精度を上げるために輝線に平行な方向にデータを積算してもよい。
【0095】
まず、ガラス基板50の第1主面52に入射した光のうち正反射される第1の反射光732の輝度をR1とする。第1の入射光731の入射角θiは5.7°、第1の反射光732の反射角θrは5.7°である。ガラス基板50(透明基体50)による反射によって光線が変化する角度はθr-θiと書け、0°である。実施には誤差が含まれるので、θr-θiは0°±0.1°の範囲となる。
【0096】
次に、入射角θiと反射角θrの差θr-θi=0.5°である光線733,734の輝度をR2とする。この光線はガラス基板50(透明基体50)で、正反射から0.5°ずれた方向に散乱された成分を表す。実際には誤差が含まれるので、θr-θi=0.5°±0.1°である。
同様にθr-θi=-0.5°である光線735,736の輝度をR3とする。この光線はガラス基板50(透明基体50)で、正反射から-0.5°ずれた方向に散乱された成分を表す。実際には誤差が含まれるので、θr-θi=-0.5°±0.1°である。
【0097】
得られた各輝度R1、R2、R3を用いて、以下の式(I)により、ガラス基板50の反射像拡散性指標値Rが算出される。
反射像拡散性指標値R=(R2+R3)/(2×R1) 式(I)
【0098】
反射像拡散性指標値Rは、観察者の目視による防眩性の判断結果と良好な相関関係を示すことが確認されている。例えば、反射像拡散性指標値Rが小さな(0に近い)値を示すガラス基板50は防眩性が劣り、逆に反射像拡散性指標値Rが大きな値(1に近いほど大きい)を示すガラス基板50は、良好な防眩性を有する。
【0099】
なお、このような測定は、例えば、DM&S社製の装置SMS-1000を使用することにより実施できる。この装置を使用する場合、カメラレンズの焦点距離が16mmのC1614Aレンズが絞り5.6で使用する。また、ガラス基板50を構成する透明基体50の第1主面52からカメラレンズまでの距離は、約300mmであり、Imaging Scaleは、0.0276~0.0278の範囲に設定される。線状光源装置71の黒色平板712により形成されるスリット状開口部は101mm×1mmである。
【0100】
<製造方法>
本実施形態のガラス基板の製造方法は、上記した母組成のガラス基板をフロスト処理することによりエッチング面を形成する工程を含む。フロスト処理は、例えば、フッ化水素酸とフッ化アンモニウムの混合溶液に、被処理体であるガラス基板を浸漬し、浸漬面を化学的に表面処理することで実施できる。
【0101】
上記の目的で実施する表面処理としては、例えば、ガラス基板の第1主面にフロスト処理を施す方法が挙げられる。フロスト処理は、例えば、フッ化水素酸とフッ化アンモニウムの混合溶液、あるいは、フッ化水素酸とフッ化カリウムの混合溶液等に、被処理体であるガラス基板の第1主面を浸漬し、浸漬面を化学的に表面処理することで実施できる。特に、フッ化水素酸等の薬液を用いて化学的に表面処理するフロスト処理を施す方法では、被処理面にマイクロクラックが生じ難く、機械的強度が低下しにくいため好ましい。
【0102】
このようにして凹凸を作成した後に、表面形状を整えるために、ガラス表面を化学的にエッチングすることが好ましい。こうすることで、サンドブラスト処理等で生じたクラックを除去でき、またギラツキを効果的に抑制できる。
【0103】
エッチングの方法としては、例えば、フッ化水素を主成分とする処理溶液に、被処理体であるガラス板を浸漬する方法が挙げられる。フッ化水素以外の成分としては、例えば、塩酸、硝酸、クエン酸、及び硫酸等が挙げられ、これらの中でも特に塩酸、硫酸が好ましい。これらを含有することで、ガラスに入っているアルカリ成分とフッ化水素とが反応して析出反応が局所的に生じることを抑制し、エッチングを面内均一に進行できる。
【0104】
ガラス板は、フロート法やダウンドロー法等により成形されたガラス板である。また、平坦な形状のガラス板のみでなく、曲面を有する形状のガラス板でもよい。ガラス板の厚みは特に限定されず、例えば、厚み10mm以下のガラス板を使用できる。厚みが薄いほど光の吸収を低く抑えられるため、透過率向上を目的とする用途にとって好ましい。
【0105】
ガラス基板は、強化ガラス板であってもよい。強化ガラス板は、強化処理が施されたガラス板である。強化処理により、ガラスの強度が向上し、たとえば強度を維持しながら板厚みを削減することが可能となる。強化処理としては、ガラス板表面に圧縮応力層を形成させる処理が一般的に知られている。ガラス板表面に圧縮応力層を形成する手段としては、例えば、風冷強化法(物理強化法)と、化学強化法が挙げられる。
【0106】
化学強化処理が施されるガラス板の板厚みは、0.1~3.0mmが好ましく、0.3~1.5mmが特に好ましい。ガラスの物理強化処理及び化学強化処理は、ガラス板の主面にエッチング面を形成する前に行ってもよく、形成した後に行ってもよい。
【実施例】
【0107】
以下に具体的な実施例を挙げて説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0108】
<試料作製>
[例1~14]
以下の手順により、本実施形態のガラス板を製造した。ガラス基板として強化していない表1に示す組成のガラス板(サイズ:300mm×300mm、厚さ1.0mm)を用いた。
【0109】
まず、耐酸性の保護フィルムを、ガラス板のエッチング面を形成しない側の主面に貼合した。次いで、以下の手順でフロスト処理を行い、ガラス板にエッチング面を形成した。
【0110】
ガラス板を、フッ化水素酸水溶液に浸漬し、ガラス板の保護フィルムを貼合していない側の主面に付着した汚れを除去するとともに、前加工としてガラス板の厚みを調整した。さらに、ガラス板をフッ化水素酸とフッ化アンモニウムとの混合溶液に浸漬し、ガラス板の保護フィルムを貼合していない側の主面に対してフロスト処理を行い、ガラス板の主面に微細な凹部を多数形成した。
【0111】
<評価方法>
上記の例1~14で作製したガラス板の特性を以下の方法により評価した。結果を表1に示す。例1、例7~11は実施例であり、例2~6は参考例であり、例12~14は比較例である。また、表1中の「一」は未測定であることを示す。
【0112】
(シェイプカウント)
ガラス板について、エッチング面を有する主面の表面形状を、50倍の対物レンズで観察される285.12μm×213.77μmの領域についてレーザー顕微鏡(キーエンス社製、商品名VK-X250)で測定してXYZデータを得た。Image Metrolоgy社製画像処理ソフトウェアSPIP6.4.3を用いた該XYZデータの形状解析において、全体面のレベリング後、粒子検出を閾値レベル50.0000nmとしたとき検出される突起の数を測定した。
【0113】
(RSm、RΔa、Ra、Rz)
ガラス板について、エッチング面を有する主面の表面形状を、レーザー顕微鏡(キーエンス社製、商品名VK-X250)によって、50倍の対物レンズを用いて解析した。RSm、RΔa、Ra、Rzを、キーエンス社製マルチファイル解析アプリケーションを用いた解析によって得た。Ra、RSm、Rzの測定はJIS B 0601(2013年)に準じた計算式で算出した。データ解析は、カットオフ値λs、位相補償形高域フィルタλc及び位相補償形低域フィルタλfは、無しとした。
【0114】
(ヘーズ率)
ガラス板について、エッチング面におけるヘーズ率(%)の測定をした。ヘーズ率の測定は、ヘーズメーター(スガ試験機株式会社製、商品名:HZ-V3)を用いてJIS K 7136(2000年)に準拠して行った。
【0115】
(反射像拡散性指標値R)
ガラス板(100mm×100mm×1.3mmt)を、第1主面側が上になるように設置し、その上方から101mm幅のスリット状の光を放射して得られた反射光の輝度を、DM&S社製SMS-1000により測定した。この際、第2の主面からの反射光(裏面反射)をなくすために、第2の主面側に艶消しの黒色板を設置した。カメラレンズは焦点距離が16mmのC1614Aレンズを絞り5.6で使用し、ガラス板の前記第1主面からカメラレンズまでの距離は300mm、Imaging Scaleは0.0276~0.0278の範囲に設定した。
前記ガラス板の厚さ方向と平行な方向を角度φ=0゜とした時に、角度φ=5.7°±0.1°の角度から前記光を放射し、全反射する際の角度φ=-5.7°を基準(角度α=0°)とした。角度α=0°±0.1°の範囲の反射光の輝度の平均値をR1、角度α=0.5°±0.1°の範囲の反射光の輝度の平均値をR2、角度α=-0.5°±0.1°の範囲の反射光の輝度の平均値をR3とした場合に、下記式(1)により算出される値を反射像拡散性指標値Rとした。
反射像拡散性指標値R=(R2+R3)/(2×R1) 式(1)
【0116】
(ぎらつきSa)
解像度264ppiである表示装置[iPad(登録商標)-Air、アップル社製]の表示面側に、ガラス板(100mm×100mm×1.6mmt)の第2の主面が接するように設置した。前記表示装置にRGB(0,255,0)で構成される緑単色の画像を表示させた状態で、前記ガラス板の上方に設置したDM&S社製SMS-1000を用いた画像解析により求められたSparkle値をぎらつきSaとした。固定撮像素子と前記ガラス板との間の距離dは540mmとし、カメラレンズは焦点距離が50mmの23FM50SPレンズを絞り16で使用した。
【0117】
(G60)
ガラス板のエッチング面におけるJIS Z 8741(1997年)に準拠して60度鏡面光沢の鏡面光沢度GS(60°)を求めた。測定はコニカミノルタ製Rhopoint IQ-Sを用いた。
【0118】
【0119】
表1に示すように、本発明の実施例である例1~11は、ガラスの母組成が規定の範囲内であり、そのため、シェイプカウント、ぎらつきSa及びRSmが良好であり、ぎらつきが効果的に抑制され、洗浄性に優れていた。
【0120】
一方、比較例である例12はK2Oの含有量が規定範囲内になく、シェイプカウントの値が規定範囲外となり、ぎらつきSaが好ましくなかった。また、RSmも実施例と比較してやや高くなっていた。
また、比較例である例13は、Al2O3の含有量が規定の範囲内になく、シェイプカウントの値が規定範囲外となり、ぎらつきSa及びRSmが好ましくなかった。
さらに、比較例である例14は、Na2O、K2O及びLi2Oの合計含有量が30%以上であり、シェイプカウントの値が規定範囲外となっていた。また、RSmも実施例と比較して低く、洗浄性に劣ることが示唆された。
【0121】
以上、図面を参照しながら各種の実施の形態について説明したが、本発明はかかる例に限定されないことは言うまでもない。当業者であれば、特許請求の範囲に記載された範疇内において、各種の変更例又は修正例に想到し得ることは明らかであり、それらについても当然に本発明の技術的範囲に属するものと了解される。また、発明の趣旨を逸脱しない範囲において、上記実施の形態における各構成要素を任意に組み合わせてもよい。
【0122】
なお、本出願は、2020年1月30日出願の日本特許出願(特願2020-013695)に基づくものであり、その内容は本出願の中に参照として援用される。
【符号の説明】
【0123】
50 ガラス基板(透明基体)
52 第1主面
53 第2主面
54 表示装置
70 測定装置
71 線状光源装置
75 面輝度測定器
711 光源
712 黒色平板
731 第1の入射光
732 第1の反射光
733、734、735、736 光線
733-2 仮想入射光
θi 入射角
θr 反射角