(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2025-03-28
(45)【発行日】2025-04-07
(54)【発明の名称】透明アンテナ、アンテナアレイ、及びディスプレイモジュール
(51)【国際特許分類】
H01Q 1/38 20060101AFI20250331BHJP
H01Q 5/371 20150101ALI20250331BHJP
H01Q 9/42 20060101ALI20250331BHJP
H01Q 19/30 20060101ALI20250331BHJP
H01Q 1/24 20060101ALI20250331BHJP
【FI】
H01Q1/38
H01Q5/371
H01Q9/42
H01Q19/30
H01Q1/24 Z
(21)【出願番号】P 2022517601
(86)(22)【出願日】2021-04-09
(86)【国際出願番号】 JP2021015048
(87)【国際公開番号】W WO2021220778
(87)【国際公開日】2021-11-04
【審査請求日】2024-02-09
(31)【優先権主張番号】P 2020078662
(32)【優先日】2020-04-27
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000000044
【氏名又は名称】AGC株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001519
【氏名又は名称】弁理士法人太陽国際特許事務所
(74)【代理人】
【識別番号】100107766
【氏名又は名称】伊東 忠重
(74)【代理人】
【識別番号】100070150
【氏名又は名称】伊東 忠彦
(72)【発明者】
【氏名】森本 康夫
(72)【発明者】
【氏名】中村 伸宏
(72)【発明者】
【氏名】一色 眞誠
【審査官】岸田 伸太郎
(56)【参考文献】
【文献】特開2011-205635(JP,A)
【文献】国際公開第2020/066817(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01Q 1/38
H01Q 5/371
H01Q 9/42
H01Q 19/30
H01Q 1/24
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
透明基材と、該透明基材の上側の金属細線層を備えた透明アンテナであって、
前記透明基材は厚みが300μm以下であり、
前記金属細線層は開口率が80%以上であって、
表面抵抗率ρ[Ω/sq]の金属導体が、0.15mm離間してアンテナに平行におかれたときのf[GHz]の周波数での入力反射係数S11をS11(ρ,f)、放射効率をEff(ρ,f)[%]と書いたときに、
2GHz<f<50GHzの間の2つの周波数f1、f2において、
S11(0.1[Ω/sq],f1[GHz])<-3[dB]
S11(0.1[Ω/sq],f2[GHz])<-3[dB]
|Eff(0.1[Ω/sq],f1[GHz])-Eff(0.1[Ω/sq],f2[GHz])|<25%である、
透明アンテナ。
【請求項2】
S11(10[Ω/sq],f1[GHz])<-3dB
S11(10[Ω/sq],f2[GHz])<-3dB、
|Eff(10[Ω/sq],f1[GHz])-Eff(10[Ω/sq],f2[GHz])|<25%である、
請求項1に記載の透明アンテナ。
【請求項3】
S11(0.1[Ω/sq],f1[GHz])-S11(0.1[Ω/sq],f2[GHz])の符号と
S11(10[Ω/sq],f1[GHz])-S11(10[Ω/sq],f2[GHz])の符号が異なる、
請求項1又は2に記載の透明アンテナ。
【請求項4】
Eff(0.1[Ω/sq],f1[GHz])-Eff(0.1[Ω/sq],f2[GHz])の符号と
Eff(10[Ω/sq],f1[GHz])-Eff(10[Ω/sq],f2[GHz])の符号が異なる、
請求項1又は2に記載の透明アンテナ。
【請求項5】
|Eff(0.1[Ω/sq],28[GHz])-Eff(0.1[Ω/sq],39[GHz])|<25%、
かつ|Eff(10[Ω/sq],28[GHz])-Eff(10[Ω/sq],39[GHz])|<25%である
請求項1乃至4のいずれか一項に記載の透明アンテナ。
【請求項6】
前記透明アンテナは、前記金属細線層によって構成されるアンテナパターンと給電領域とを有し、
前記アンテナパターンは、下面側にバックグランドを有さない種類のアンテナである
請求項1乃至5のいずれか一項に記載の透明アンテナ。
【請求項7】
前記アンテナパターンが、モノポールアンテナ、八木宇田アンテナ、ダイポールアンテナ、ビバルディアンテナ、又はログペリアンテナである
請求項6に記載の透明アンテナ。
【請求項8】
前記アンテナパターンがモノポールアンテナであり、
前記アンテナパターンは、
前記給電領域と接続する給電点から、伝送方向である第1の方向に延伸する第1の線条エレメントと、
前記第1の線条エレメントの前記給電領域との接続部周辺から分岐して、前記第1の方向と直交する第2の方向に延伸する第2の線条エレメントと、
前記第2の線条エレメントの他端から折れ曲がり、前記第1の線条エレメントと略平行に前記第1の方向に延伸する第3の線条エレメント、を備える
請求項7に記載の透明アンテナ。
【請求項9】
前記アンテナパターンが八木宇田アンテナであり
前記アンテナパターンは、
前記給電領域と接続する給電点から、伝送方向である第1の方向に延伸する第1の線条エレメントと、
前記第1の線条エレメントの先端から折れ曲がり、前記第1の方向と直交する第2の方向に延伸する第2の線条エレメントと、
前記第2の線条エレメントの、前記第1の線条エレメントとの筒族部周辺から分岐して、前記第1の線条エレメントと略平行に延伸する第3の線条エレメントと、
前記第3の線条エレメントの他端から折れ曲がり、前記第2の線条エレメントと略平行に前記第2の方向に延伸する第4の線条エレメントと、を備え、
前記第2の線条エレメントから離間して、前記第2の方向に延伸している導波器と、
反射器として機能する前記給電領域の伝送方向先端の端辺と、を有する
請求項7に記載の透明アンテナ。
【請求項10】
周波数f1は、24.2~29.5GHzであり、
周波数f2は、37.3~40GHzである
請求項1乃至9のいずれか一項に記載の透明アンテナ。
【請求項11】
f[GHz]の周波数での入力反射係数S11をS11(ρ,f)と書いたときに、
2GHz<f<50GHzの間の第3の周波数f3において、
S11(0.1[Ω/sq],f3[GHz])<-3[dB]
S11(10[Ω/sq],f3[GHz])<-3[dB]であり、
f3は、3.3~5.0GHzである、
請求項1乃至10のいずれか一項に記載の透明アンテナ。
【請求項12】
金属導体を下部に置いたときに、アンテナ平面に垂直な方向に指向性を有する
請求項1乃至11のいずれか一項に記載の透明アンテナ。
【請求項13】
請求項1乃至12のいずれか一項に記載の透明アンテナが複数並んだ
アンテナアレイ。
【請求項14】
請求項1乃至12のいずれか一項に記載の透明アンテナと、
ディスプレイと、
カバーガラスと、を備え、
前記透明アンテナは、カバーガラスの下側であって、前記ディスプレイの上側に配置される
ディスプレイモジュール。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、透明アンテナ、アンテナアレイ、及び透明アンテナを含むディスプレイモジュールに関する。
【背景技術】
【0002】
近年、スマートフォン、タブレット、携帯電話、ノートパソコン等の移動式通信機器における通信技術として、第5世代移動通信システム(5G)、又は、第6世代移動通信システム(6G)等が開発されている。
【0003】
ここで、第5世代移動通信システム(5G)とよばれるミリ波は指向性が強く、到達距離も比較的短く、金属等で遮蔽されやすいため、5G用のアンテナとして、ディスプレイ(OLED、LCD、LED)や、タッチパネル(ディスプレイ一体型金属細線パネルも含む)の上に透明アンテナを配置する技術が提案されている(例えば、特許文献1、特許文献2)。
【0004】
一方、第5世代移動通信システム(5G)には、例えば、2つ又は3以上の帯域が割り当てられている国がある。割り当てられる周波数は国によって若干異なるが、例えば、24.2~29.5GHzと、37.3~40GHzの2つが割り当てられていたり、あるいは、3.3~5.0GHzと、24.2~29.5GHzの2つが割り当てられたりする。よって、近年の移動式通信機器用のアンテナとして、ディスプレイの上に配置可能であって、マルチバンドに対応した透明アンテナが望まれている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】日本国特開2013-5013号公報
【文献】米国2019/0058264号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかし、特許文献1や特許文献2の技術では、いずれの透明アンテナのアンテナエレメントも、メッシュで構成された面状のエレメントとグランド層を含むパッチアンテナであるが、パッチアンテナはアンテナパターンと対向する背面にグランド層が必要となる。ここで、パッチアンテナでは、グランド層がアンテナパターンの層から離間している方がアンテナ特性が良いため、搭載可能な範囲内で、パッチアンテナにおける基板は厚いものであった。
【0007】
また、特許文献1や特許文献2の技術では、1つの帯域のみで通信するシングルバンドのアンテナが開示されており、5Gの周波数帯域において、2つ以上の周波数帯で通信することは検討されていなかった。
【0008】
そこで、本発明は上記事情に鑑み、5Gの少なくとも2つの帯域で通信可能であって、アンテナ厚みを薄くできる透明アンテナの提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記課題を解決するため、本発明の一態様では、
透明基材と、該透明基材の上側の金属細線層を備えた透明アンテナであって、
前記透明基材は厚みが200μm以下であり、
前記金属細線層は開口率が80%以上であって、
表面抵抗率ρ[Ω/sq]の金属導体が、0.15mm離間してアンテナに平行におかれたときのf[GHz]の周波数での入力反射係数S11をS11(ρ,f)、放射効率をEff(ρ,f)[%]と書いたときに、
2GHz<f<50GHzの間の2つの周波数f1、f2において、
S11(0.1[Ω/sq],f1[GHz])<-3[dB]
S11(0.1[Ω/sq],f2[GHz])<-3[dB]
|Eff(0.1[Ω/sq],f1[GHz])-Eff(0.1[Ω/sq],f2[GHz])|<25%である、
透明アンテナ、を提供する。
【発明の効果】
【0010】
一態様によれば、透明アンテナにおいて、5Gの少なくとも2つの帯域で通信可能であって、アンテナ厚みを薄くすることができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図1】ディスプレイ搭載の電子機器の全体図と透明アンテナの位置を示す図。
【
図3】ディスプレイモジュールの詳細を示す断面分解図。
【
図4】各国の5Gに割り当てられた周波数帯と、本発明の透明アンテナの帯域例を示す図。
【
図5】本発明の第1構成例に係る透明アンテナの斜視図。
【
図6】第1構成例に係る透明アンテナの(A)上面図、及び(B)下面図。
【
図8】本発明の第1の透明アンテナに対して、透明カバーとディスプレイを模した抵抗体で挟んだ疑似ディスプレイモジュールを示す図。
【
図9】
図8の疑似ディスプレイモジュールにおいて、下側のディスプレイを模した抵抗体の抵抗値を変更した場合のS11パラメータ特性値を示す図。
【
図10】本発明の第2構成例に係る透明アンテナの斜視図。
【
図11】第2構成例に係る透明アンテナの(A)上面図と、(B)下面図。
【
図13】比較例に係る透明アンテナの(A)上面図と、(B)下面図。
【
図14】本発明の第1構成例、第2構成例及び比較例の透明アンテナにおける、放射係数及び放射効率を示す図。
【
図15】本発明の第3構成例に係る透明アンテナの斜視図。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、図面を参照して本発明を実施するための形態について説明する。下記、各図面において、同一構成部分には同一符号を付し、重複した説明を省略する場合がある。以下、本発明の透明アンテナを適用した実施の形態について説明する。
【0013】
本発明の透明アンテナ100は、一例として、第5世代移動通信システム(5G)、又は、第6世代移動通信システム(6G)等に適用可能である。
【0014】
<電子機器>
図1及び
図2を用いて本発明の透明アンテナ100を含むディスプレイモジュールDが搭載される通信装置の一例である電子機器200の構成について説明する。
図1は、本発明のディスプレイモジュールD搭載の電子機器200の全体図と透明アンテナ100の位置を示す図である。
図2は、
図1の電子機器200のA面断面図である。
【0015】
図1、
図2では、X方向は電子機器200の横方向、Y方向は電子機器200の縦方向、Z方向は電子機器200の高さ方向を指している。以下では、XYZ座標系を定義して説明する。また、以下では、説明の便宜上、平面視とはXY面視をいい、+Z方向側を上側、-Z方向側を下側とする上下方向と、上下方向に対する横方向(側方)とを用いて説明するが、普遍的な上下方向と横方向を表すものではない。
【0016】
また、平行、直角、直交、水平、垂直、上下、左右等の方向には、実施の形態における開示の効果を損なわない程度のずれが許容される。また、X方向、Y方向、Z方向は、それぞれ、X軸に平行な方向、Y軸に平行な方向、Z軸に平行な方向を表す。X方向とY方向とZ方向は、互いに直交する。XY平面、YZ平面、ZX平面は、それぞれ、X方向及びY方向に平行な仮想平面、Y方向及びZ方向に平行な仮想平面、Z方向及びX方向に平行な仮想平面を表す。
【0017】
電子機器200は、例えば、スマートフォン、タブレットコンピュータ、ノートブック型PC(Personal Computer)等の情報処理端末機である。また、電子機器200は、これらに限られず、例えば、柱や壁等の構造物、デジタルサイネージ、電車内のディスプレイパネルを含む電子機器、又は、車両の中の様々なディスプレイパネルを含む電子機器等であってもよい。
【0018】
図1及び
図2に示すように、電子機器200の上面全体、または上面の少なくとも一部は表示機能を実行可能なディスプレイモジュールDが配置されている。そして、本発明の透明アンテナ100は、ディスプレイパネル220上のタッチパネル230の上側に配置されている。本発明の透明アンテナ100は、透明カバー240を介して電子機器200の外から見えており、透明アンテナ100を介して外側からディスプレイパネル220を視認可能なように、透明である。
【0019】
図2を参照して、電子機器200において、ディスプレイパネル220、タッチパネル230、透明アンテナ100、及び透明カバー240を、合わせてディスプレイモジュールD(表示モジュールともいう)とする。
【0020】
電子機器200は、ディスプレイモジュールDの他に、筐体210、配線基板250、電子部品260A、260B、260C、260D及びバッテリー270等を含む。
【0021】
図1、
図2では、透明アンテナ100が搭載される電子機器200は、スマートフォンである例を示しているが、本発明の透明アンテナが搭載される電子機器は、筐体210、透明カバー240、及びディスプレイパネル220を含む電子機器であれば、他の構成であってもよい。また、電子機器200はタッチパネル230を設けない機器であってもよい。
【0022】
筐体210は、例えば金属製及び/又は樹脂製のケースであり、電子機器200の下面側及び側面側を覆っている。筐体210は、周壁の上端となる開口端211を有し、開口端211には、透明カバー240が取り付けられている。筐体210は、開口端211に連通する内部空間である収納部212を有し、収納部212には、配線基板250、電子部品260A~260D及びバッテリー270等が収納されている。
【0023】
カバーガラスの一例である透明カバー240は、最上面に設けられる透明なガラス板であり、平面視で筐体210の開口端211に合わせられたサイズを有する。透明カバー240は、本例では、大半が平面で、横方向(+-X方向)の両端部が緩やかに下側に湾曲した形状のガラス板である例を示すが、横方向において平板状のガラス板であってもよい。あるいは、透明カバー240は、電子機器200の縦方向(Y方向)においても両端部が緩やかに下側に湾曲した形状であってもよい。ここでは、透明カバー240がガラス製である形態について説明するが、透明カバー240は、樹脂製であってもよい。
【0024】
透明カバー240が筐体210の開口端211に取り付けられることにより、筐体210の収納部212は封止される。
【0025】
透明カバー240の上面は、透明カバー240の外表面の一例であり、透明カバー240の下面は、透明カバー240の内表面の一例である。透明カバー240の内表面側には、透明アンテナ100及びタッチパネル230が設けられる。透明カバー240は透明であるため、電子機器200の外部からは、透明カバー240を介して内部に設けられるタッチパネル230及びディスプレイパネル220が見える。
【0026】
配線基板250には、電子部品260A~260Cが実装される。配線基板250には、透明アンテナの給電領域120(
図5参照)から伸びる給電線路等が接続される。配線基板250と、透明アンテナ100の給電領域120とは、コネクタやACF(Anisotropic Conductive Film)等を用いて接続されていてもよく、その他の構成要素を用いて接続されていてもよい。
【0027】
電子部品260Aは、一例として、配線基板250の配線を介して透明アンテナ100の給電領域120に接続されており、透明アンテナ100を介して送信又は受信する信号の処理を行う通信モジュールである。また、中央の電子部品260Bは、例えば、カメラである。
【0028】
電子部品260C、260Dは、一例として、電子機器200の動作に関連する情報処理等を行う部品であり、例えば、CPU(Central Processing Unit)、RAM(Random Access Memory)、ROM(Read Only Memory)、HDD(Hard Disk Drive)、入出力インターフェース、及び内部バス等を含むコンピュータによって実現される。
【0029】
バッテリー270は、充電可能な二次電池であり、ディスプレイモジュールD、及び電子部品260A~260D等の動作に必要な電力を供給する。
【0030】
<ディスプレイモジュール>
次に、ディスプレイモジュールDにおける透明アンテナ100の位置を説明する。
図3は、ディスプレイモジュールDの断面分解図である。
【0031】
図2では記載を省略しているが、
図3に示すようにディスプレイモジュールDは、タッチパネル230と透明カバー240との間に、内側接着層281、偏光板282、及び外側接着層283を有している。内側接着層281及び外側接着層283は、透明光学粘着剤OCA(Optical Clear Adhesive)で構成されている。
【0032】
そして、本発明の透明アンテナ100は、
図3の矢印で示すように、(1)タッチパネル230と内側接着層281の間、(2)内側接着層281と偏光板282の間、(3)偏光板282と外側接着層283の間のいずれかに、設けられている。
【0033】
また、タッチパネル230と、ディスプレイパネル220との間に、接着層を設けてもよい。あるいは、タッチパネル230は、接着層を設けずに、ディスプレイパネル220の表面上に直接形成された「オンーセルタッチパネル用金属細線層」であってもよい。
【0034】
なお、
図2、
図3は、ディスプレイモジュールDにおいて、タッチパネル230を設ける例を示しているが、電子機器200に搭載されるディスプレイモジュールDにおいて、タッチパネル230は搭載されていなくてもよい。タッチパネル230が搭載されない場合においては、透明アンテナ100は、(1)のケースとして、ディスプレイパネル220と、内側接着層281の間に配置されてもよい。
【0035】
ディスプレイパネル220は、例えば、液晶ディスプレイパネル、有機EL(Electro-luminescence)、又は、OLED(Organic Light Emitting Diode)ディスプレイパネルであり、いずれの構成でも、ディスプレイモジュールDの最も下側に配置される。
【0036】
なお、ディスプレイモジュールDにおいて、透明アンテナ100は部分的に設けられるため、透明アンテナ100が設けられる領域については、他の部分よりも、タッチパネル230、内側接着層281、偏光板282、又は/及び外側接着層283を薄くしたり、あるいは、内側接着層281、偏光板282、又は/及び外側接着層283を設けない構造にしたりしてもよい。これにより、ディスプレイモジュールDにおいて、透明アンテナ100の部分だけ盛り上がることを防止することができる。
【0037】
しかし、透明アンテナ100が厚すぎると、透明アンテナのエッジ部が視認できたり、接着剤283との境界に空気が混入しやすくなる、という課題が生じることが分かった。透明アンテナ100の透明基板101(
図5参照)の厚さは300μm以下が好ましく、150μm以下がさらに好ましく、100μm以下が特に好ましい。また、ハンドリング容易性の観点から、透明アンテナ100の厚さは10μm以上が好ましく、50μm以上がさらに好ましい。
【0038】
また、
図1、
図2では、ディスプレイモジュールDは、+-Y方向の両端部が、緩やかに曲面の形状である例を示したが、ディスプレイモジュールDは、端部が曲がらない、平面形状であってもよい。その場合は、透明アンテナ100も、平面形状であってもよい。なお、透明アンテナ100が部分的に曲面になる場合は、後述する給電領域が曲面形状になる。
【0039】
<5Gの周波数帯域と本発明の透明アンテナの動作帯域例>
図4は、各国の第5世代移動通信システム(5G)に割り当てられた周波数帯と、本発明の透明アンテナの動作可能な帯域例を示す図である。本発明の透明アンテナ100は、5G帯において、f1、f2の2つの帯域で動作可能、即ち、2つの周波数帯域で共振するように設定される。
【0040】
2つの周波数帯域f1、f2の一例(帯域例1)として、周波数f1は、24.2~29.5GHzであり、周波数f2は、37.3~40GHzである。この帯域に設定することで、
図4に示すように、米国、中国、オーストラリアで設定される5Gの2つの帯域に対応することができる。下記において、周波数f1での中心周波数を28GHz、周波数f2での中心周波数を39GHzとする。
【0041】
また、2つの周波数帯域の他にさらに、周波数f3として、3.3~5.0GHzに対して適用可能であってもよい。この帯域に設定することで、
図4に示すように、米国、カナダ、中国、オーストラリア、EU、イギリス、ドイツ、イタリア、韓国、日本で設定される5Gの2つの帯域や、米国、中国、オーストラリアで設定される5Gの3つの帯域に対応することができる。
【0042】
<アンテナの第1構成例>
次に
図5~
図7を用いて本発明の第1構成例に係る透明アンテナ100の構成について説明する。
図5は、本発明の第1構成例に係る透明アンテナ100の斜視図である。
図6は、第1構成例に係る透明アンテナ100の説明図であって、(A)は+Z方向から見た上面図であり、(B)は-Z方向から見た下面図である。なお、
図1のように透明アンテナ100の一部がカーブに沿って配置される場合においても、
図5では、透明アンテナ100を折り曲げる前の状態をXY平面に平行に示す。
【0043】
透明アンテナ100は、透明基板101を有し、透明基板101上にアンテナパターン110、及び給電領域120が設けられている。本構成のアンテナパターン110は、モノポール型のアンテナの一例である。
【0044】
透明基板(透明基材ともいう)101は、一例としてポリイミド製のフレキシブル基板であり、Z方向及び/又はX方向に折り曲げ可能である。透明基板101は、無色透明である。
【0045】
また、給電領域120は、透明基板101の長手方向端部(―Y方向側端部)に配置されており、給電領域120は、アンテナパターン110の第1の線条エレメント111と、電気的に接続されている。本構成例では、給電領域120は、給電配線が形成された面状給電部であって、透明基板101の上面側(+Z側)にのみ、設けられている。
【0046】
この給電領域120は、透明アンテナ100が電子機器200に組み込まれた際、配線基板250や、通信用回路である電子部品260Aと電気的に接続される。
図5では、一例として、給電領域120は、-Y方向側の端部から約1/2の構成を示している。なお、給電領域120の範囲は、-Y方向側の1/4~3/4程度であってもよい。
【0047】
また、
図5では、給電領域120の端部が、透明基板101の端部(-Y側端部)まで伸びる例を説明しているが、給電領域120の一部又は全部が基板101の周縁よりも外側に位置していてもよい。また、給電領域120を柔軟に形成することにより、給電領域120がディスプレイモジュールDの側端や裏面に回り込んで、側面や裏面側で電気的に接続できるようにしても良い。
【0048】
本構成のアンテナパターン110は、第1の線条エレメント111、第2の線条エレメント112、及び第3の線条エレメント113を有する。本構成では、いずれのエレメント111~113も、透明基板101の上面側である+Z側に設けられている。
【0049】
詳しくは、第1の線条エレメント111は、一端は給電領域120と接続する給電点Fとなり、給電点Fから伝送方向である第1の方向(+Y方向)に延在する。第1の線条エレメント11の他端は、自由端である。
【0050】
第2の線条エレメント112は、第1の線条エレメント111の給電点F周辺から分岐して、第1の方向と直交する第2の方向(+X方向)に延在する。
【0051】
第3の線条エレメント113は、第2の線条エレメント112の他端から折れ曲がり、第1の線条エレメント111と略平行に第1の方向(+Y方向)に延在している。第3の線条エレメント113の他端は、自由端であり、第3の線条エレメント113は第1の線条エレメント111よりも短い。
【0052】
ここで、第1の線条エレメント111の導体長をL111、透明アンテナ100の共振周波数f1(28GHz)における透明基板101上での波長をλ01として、L111が約0.25λ01の奇数倍に設定される。したがって、周波数帯f1でのアンテナ利得を向上させたい場合、第1の線条エレメント111の導体長L111を、例えば、約2.1mmの±10%以内に調整するとよい。
【0053】
一方、第3の線条エレメント113の導体長をL113、透明アンテナ100の共振周波数f2(39GHz)における透明基板101上での波長をλ02として、L113が、約0.25λ02の奇数倍に設定される。したがって、周波数帯f2でのアンテナ利得を向上させたい場合、第3の線条エレメント113の導体長L113を、例えば、約1.325mmの±10%以内に調整するとよい。
【0054】
<透明アンテナの透明導体>
図7は、本発明の透明アンテナ100の透明導体30の説明図である。透明導体30は、透明な基板101の表面に形成されており、一例として、
図6及び
図7に示すアンテナパターン110及びや給電領域120の面状給電部を構成するものとして用いられる。透明導体30は、人間の視力では確認が難しいほど光透過性が高い導体である。
【0055】
詳しくは、透明導体30は、光透過性を高くするために、一例としてメッシュ状に形成されている導電線路の層、即ち金属細線層である。
図7に示すように、メッシュ状の金属細線層では、一方の方向に延在する複数の金属細線31と、他方の方向に延在する複数の金属細線32が交差するように設けられて、網目状の隙間(目開き)である開口部(透孔)33が空いている。
【0056】
透明導体30がメッシュ状に形成される場合、メッシュの開口部33は方形であってもよく、菱形であってもよい。メッシュの開口部33を方形に形成する場合、メッシュの目は正方形が好ましく、意匠性が良い。また、メッシュの開口部33は、自己組織化法によるランダム形状でもよく、そうすることでモアレを抑制できる。メッシュを構成する金属細線31,32それぞれの線幅w31、w32は、1~10μmが好ましく、1~5μmがより好ましく、1~3μmがさらに好ましい。また、メッシュの複数の金属細線31間、及び複数の金属細線32間の線間隔(目開き、ピッチともいう)p31、p32は、300~500μmが好ましい。
【0057】
透明導体30におけるメッシュ全体に対する開口部33の面積の割合である開口率は、80%以上が好ましく、90%以上がより好ましい。透明導体30の開口率を大きくするほど、透明導体30の可視光透過率を高くできる。
【0058】
透明導体30がメッシュ状に形成される場合、透明導体30の厚さは、1~40μmであってよい。透明導体30がメッシュ状に形成されることにより、透明導体30が厚くても、可視光透過率を高くできる。透明導体30の厚さは、5μm以上がより好ましく、8μm以上がさらに好ましい。また、透明導体30の厚さは、30μm以下がより好ましく、20μm以下がさらに好ましく、15μm以下が特に好ましい。
【0059】
なお、透明導体30において、メッシュ状の細線の線幅(導体幅)w31,w32よりも、導体厚tは小さく設定される。アスペクト比が1を超えると、構造的にアンバランスになり、壊れやすく、また製造も困難なためである。ただし、導体厚tは厚いほどシート抵抗値を小さくすることができるため、アンテナの効率としては導体厚tは大きい方が良いため、tはwより小さく、かつなるべく大きい値が好適である。
【0060】
なお、透明導体30の金属細線31,32の導体材料としては銅が挙げられるが、他にも、金、銀、白金、アルミニウム、クロム、錫、鉄、ニッケル等の金属材料を使用でき、また、これらの材料に限られない。
【0061】
このような透明導体30で実現されるアンテナパターン110と給電領域120は、透明であり、人間の視力では確認が難しいほど光透過性が高く、かつ導体として機能することができる。このように形成される第1構成例の透明アンテナ100は、
図6(B)に示すように、背面側にグランド層がないため、透明アンテナ100の厚みを薄くすることができる。
【0062】
ここで、小型化が求められる、スマートフォン等の携帯機器にグランド面がない透明アンテナを搭載すると、グランド面がある場合よりも透明アンテナのアンテナパターンに近接してタッチパネル又はディスプレイが配置される。しかし、タッチパネルやディスプレイの導電体の素材によって有限の抵抗率をもつため、背面側にグランド層がない透明アンテナの構成では、近接配置される所定の抵抗を有する導電体がアンテナ近傍の電磁界分布に影響し、アンテナ特性を悪化させる可能性があることが我々の検討で判明した。また、下側に配置されるディスプレイやタッチパネルを構成する素材が異なる場合、素材の表面抵抗値(アンテナ動作周波数における実効的な表面抵抗値、シート抵抗値とも言う)に応じて、アンテナの特性が変化することがあることも判明した。
【0063】
したがって、さまざまな表面抵抗値の導電体が、アンテナに近接されておかれた場合にも、安定に動作するようなアンテナ設計が求められている。
【0064】
<シミュレーション例1>
そこで、本願の発明者らは、近接する導電体による影響を確認するため、
図5に示す本発明の透明アンテナ100の上下に、透明カバー240と抵抗を有する金属導体Mを設けた状態である疑似ディスプレイモジュールPDについて各種シミュレーション測定を行った。
【0065】
図8は、本発明の第1構成例の透明アンテナ100を、透明カバー240と所定の抵抗を有する金属導体Mで挟んでディスプレイモジュールを模した状態を示す疑似ディスプレイモジュールPDを示す図である。詳しくは、疑似ディスプレイモジュールPDの最も下側には、ディスプレイ又はタッチパネルを模した、抵抗体となる、シート抵抗率1Ω/sq(オームパースクエア、Ω/□と記載することもある)の金属導体Mを配置した。その金属導電層Mの上に内側接着層281を配置した。
【0066】
そして、
図3の(2)のように、内側接着層281と偏光板282の間に、透明アンテナ100を設けた。そして、透明アンテナ100の上には、外側接着層283と透明カバー240を配置した。
【0067】
下記、
図5の透明アンテナ100単体と、
図8の透明アンテナを挟んだ疑似ディスプレイモジュールPDで測定した、S11パラメータ特性値と、指向性について説明する。
【0068】
このS11パラメータ及び指向性を測定した際の、
図5、
図6に示す第1構成例の透明アンテナ100単体、及び
図8に示す疑似ディスプレイモジュールPDの、透明アンテナ1の各部の寸法が、単位をmmとすると、
L111:20.5
L112:0.2
L113:1.4
W11:0.2
X101:6
Y101:7.5
である。
【0069】
また、アンテナパターン110及び給電領域120を構成する透明導体30の寸法は、単位をμmとすると、
透明導体30の導体厚:1
導体幅w31,w32:4
線間隔p31,p32:120
である。
【0070】
また、
図8に示す層の各部の厚みは、単位をμmとすると、
透明カバー240の厚み:500
外側接着層283の厚み:150
偏光板282の厚み:150
透明導体30(110、120)の厚み:1
透明基材101の厚み:75
内側接着層281の厚み:150
である。
とくに、透明基材101の厚みは75μmである
なお、表面抵抗が設定される表面インピーダンスを境界条件として設定しているため、金属導体Mについては、厚みは存在しない設定である。
【0071】
図9に、
図8の透明アンテナを挟んだ疑似ディスプレイモジュールPDにおいて、下側のディスプレイを模した金属導体Mの抵抗値を変更した際の、S11パラメータを示す。この測定では、
図5、
図8に示す透明アンテナ100の共振周波数を28GHz及び39GHzに設定した共電磁界シミュレーションで、下側の金属導体Mのシート抵抗値が0.1Ω/sq、1Ω/sq、10Ω/sqの場合について、それぞれのS11パラメータを求めた。
【0072】
図9に示すように、シート抵抗値が0.1Ω/sq、1Ω/sq、10Ω/sqのいずれの金属導体Mを用いても、S11パラメータは2つのピークを有しており、28GHz前後及び39GHz前後で-3dB以下になる良好な値が得られた。S11パラメータはそのピークにおいて、-4dB以下になることがさらに好ましく、-5dB以下になることが特に好ましい。
【0073】
言い換えると、f[GHz]の周波数での入力反射係数S11をS11(ρ,f)と書いたときに、2GHz<f<50GHzの間の2つの周波数f1(28GHz)、f2(39GHz)において、S11(0.1[Ω/sq],28[GHz])<-3[dB]でかつS11(0.1[Ω/sq],39[GHz])<-3[dB]であり、
S11(1[Ω/sq],28[GHz])<-3[dB]でかつS11(1[Ω/sq],39[GHz])<-3[dB]であり、
S11(10[Ω/sq],28[GHz])<-3[dB]でかつS11(10[Ω/sq],39[GHz])<-3[dB]であるといえる。
【0074】
即ち、
図5に示すような透明アンテナ100のアンテナ設計とすることで、
図9の2つの太線矢印で示すように、28GHz、39GHzにおいて、近接する導電体のシート抵抗値が変動しても、アンテナ特性が変動しにくい構成となる。
【0075】
電子機器の一例を分解して、オンセル金属細線層となるタッチパネルやディスプレイの抵抗値を測定したところ、場所や種類に応じて、0.1Ω/sq~200Ω/sqと算出した。本発明では、タッチパネルのシート抵抗値として、0.1Ω/sq~10Ω/sq等を設計指針とした。ここで「オンセル」とは、ディスプレイパネル220と独立した基板上に形成したタッチパネルを貼り付けるのではなく、ディスプレイパネル220の表面上に電極層を直接形成した構造を指す。
【0076】
本発明の透明アンテナ100は、
図9に示すように、0.1Ω/sq~10Ω/sqのシート抵抗値を有するどのような種類のディスプレイやタッチパネル上に配置されても、28GHz前後及び39GHz 前後の2つの帯域でアンテナとして比較的安定して動作することができる、即ち、5G帯において2つの周波数帯で駆動するデュアルバンドを実現することができる。
【0077】
<アンテナの第2構成例>
次に、
図10、
図11を用いて、本発明の第2構成例に係る透明アンテナ100Aを説明する。
【0078】
図10は、本発明の第2構成例に係る透明アンテナの斜視図である。
図11は、第2構成例に係る透明アンテナ100Aの説明図であって、(A)は+Z方向から見た上面図であり、(B)は-Z方向から見た下面図である。なお、
図1のように透明アンテナがカーブに沿って配置される場合においても、
図10では、透明アンテナを折り曲げる前の状態をXY平面に平行に示す。
【0079】
本構成例の透明アンテナ100Aは、透明基板102を有し、透明基板102上に、アンテナパターン140、導波器150(151、152)、及びマイクロストリップラインで構成される給電領域160が設けられている。また、下面側の給電領域160がなくなる境界の+Y側端部が反射器163となる。透明アンテナ100Aのアンテナパターン140は、八木宇田アンテナである。
【0080】
本構成例で給電領域160となるマイクロストリップラインは、上面側の伝送路161と下面側のグランド層162とを有する給電線路である。伝送路161は、基板102の+Z方向側の表面に設けられ、第1の線条エレメント141の給電点FDaに接続されている。
【0081】
グランド層162は、基板102の-Z方向側の表面において平面視で伝送路161と重ねて設けられている。グランド層122の+Y方向側の端辺の中央には、第5の線条エレメント145の給電点FDbに接続されている。
【0082】
本構成におけるアンテナパターン140は、上面側において、第1の線条エレメント141、第2の線条エレメント142、第3の線条エレメント143、及び第4の線条エレメント144を有する。
【0083】
上面側において、第1の線条エレメント141は、伝送路161と接続する給電点FDaから連続して、伝送路161と略同じ太さで、伝送方向である第1の方向(+Y方向)に延在している。第2の線条エレメント142は、第1の線条エレメント141の先端から折れ曲がり、第1の方向と直交する第2の方向(-X方向)に延在している。第2の線条エレメント142の他端は自由端である。
【0084】
第3の線条エレメント143は、第2の線条エレメント142の、第1の線条エレメント141との接続部周辺から分岐して、給電領域160に近づく方向に、第1の線条エレメント141と略平行に延在する。第4の線条エレメント144は、第3の線条エレメント143の他端から折れ曲がり、第2の線条エレメント142と略平行に第2の方向(-X方向)に延在する。第4の線条エレメント144の他端は自由端であり、第4の線条エレメント144は、第2の線条エレメント142よりも短い。
【0085】
さらに、アンテナパターン140は、下面側において、第5の線条エレメント145、第6の線条エレメント146、第7の線条エレメント147、及び第8の線条エレメント148を有する。
【0086】
下面側において、第5の線条エレメント145は、給電領域160のグランド層162と接続する給電点FDbから、伝送方向である第1の方向(+Y方向)に延在している。第6の線条エレメント146は、第5の線条エレメント145の先端から折れ曲がり、第1の方向と直交する第2の方向(+X方向)に延在している。第6の線条エレメント146の他端は自由端である。なお、
図11に示すように、第6の線条エレメント146の延伸方向は、第2の線条エレメント142の延在方向とは反対側である。
【0087】
第7の線条エレメント147は、第6の線条エレメント146の、第5の線条エレメント145との接続部周辺から分岐して、給電領域160に近づく方向に、第5の線条エレメント145と略平行に延在する。第8の線条エレメント148は、第7の線条エレメント147の他端から折れ曲がり、第6の線条エレメント146と略平行に第2の方向(+X方向)に延在する。第8の線条エレメント148の他端は自由端であり、第8の線条エレメント148は、第6の線条エレメント146よりも短い。
【0088】
図10、
図11に示すように、上面側(表面側)のアンテナエレメント141~148と、下面側(背面側)のアンテナエレメント145~148は、上下方向に重なるアンテナエレメント141,145を軸として線対称な形状である。
【0089】
ここで、第2の線条エレメント142の導体長をL142、透明アンテナ100Aの共振周波数f1(28GHz)における透明基板102上での波長をλ01として、L142は、約0.25λ01の奇数倍に設定される。したがって、周波数帯f1でのアンテナ利得を向上させたい場合、第2の線条エレメント142の導体長L142を、例えば、約2.1mmの±10%以内に調整するとよい。下面側の第6の線条エレメント146の長さは、第2の線条エレメント142の長さと等しくなるように設定される。第2の線条エレメント142及び第6の線条エレメント146は、28GHzの周波数での放射器となる。
【0090】
また、第4の線条エレメント144の導体長をL144、透明アンテナ100Aの共振周波数f2(39GHz)における透明基板102上での波長をλ02として、L144は、約0.25λ02の奇数倍に設定される。したがって、周波数帯f2でのアンテナ利得を向上させたい場合、第4の線条エレメント144の導体長L144を、例えば、約1.2mmの±10%以内に調整するとよい。下面側の第8の線条エレメント148の長さは、第4の線条エレメント144の長さと等しくなるように設定される。第4の線条エレメント144及び第8の線条エレメント148は、39GHzの周波数での放射器となる。39GHzがモノポールと微妙に数値が違うのは折り曲げ方が微妙に異なることから、微調整した結果である。
【0091】
また、上面側では、導波器151は、第2の線条エレメント142から+Y方向に距離D1離間して、第2の方向に延伸している。導波器151は、第2の線条エレメント142よりも長く、第1の線条エレメント141の位置を超えて+X側に延在している。導波器151は28GHzの周波数での導波器となり、間隔D1は、28GHzの周波数での約0.25λ01の奇数倍に設定されている。また、導波器151の長さは、28GHzの放射器である第2の線条エレメント142及び第6の線条エレメント146を足した長さである約0.5λ01よりも少し短く設定されることで容量性を確保している。
【0092】
下面側では、導波器152は、第6の線条エレメント146から+Y方向に距離D2離間して、第2の方向に延伸している。導波器152は、第6の線条エレメント146よりも長く、第5の線条エレメント145の位置を超えて-X側に延在している。導波器152は39GHzの周波数での導波器となり、間隔D2は、39GHzの周波数での約0.25λ02の奇数倍に設定されている。また、導波器152の長さは、39GHzの放射器である第4の線条エレメント144及び第8の線条エレメント148を足した長さである約0.5λ02よりも少し短く設定されることで容量性を確保している。
【0093】
また、グランド層162の+Y側端部の境界(切れ目)である反射器163は、28GHz、39GHzに共通する反射器であって、放射器であるアンテナエレメント(142,146を足した約半波長の長さ)、(144,148を足した約半波長の長さ)よりも長い。
【0094】
なお、本構成の八木宇田アンテナでは、表裏面に形成されたアンテナパターン140に加えて導波器151,152を有しているため、4つの共振周波数を有することが想定できる。そのため、本構成の透明アンテナ100Aは、
図4の帯域例2に示したように、周波数帯f1、f2に加えて、周波数帯f3となる3.3~5.0GHzに対しても共振する、トリプルバンド(マルチバンド)対応のアンテナとすることも可能である。
【0095】
また、本構成例では、アンテナパターン140と、導波器150と、マイクロストリップラインで構成される給電領域160の伝送路161及びグランド層162が、
図6に示したメッシュ状の透明導体30によって実現されている。
【0096】
本構成例では、第1構成例とは異なり、下面側にも層が形成されているが、下面側におけるアンテナエレメント145~148、導波器152、給電領域160のグランド層162は、透明導体30によって、非常に薄く形成できる。
【0097】
ここで、金属細線層で構成される透明導体30の厚さは、例えばパッチアンテナにおけるグランド基板よりも薄い。そのため、本構成例における透明アンテナ100Aの全体の厚みは、ある程度の厚みが必要なパッチアンテナのアンテナパターン用のグランド基板がないため、パッチアンテナよりも薄型化できる。例えば、電子機器において、透明アンテナに許容される厚さが100μm以下のように制約が大きく、パッチアンテナが透明基板とグランド基板の合計の厚みによって、その厚さ内に収まらない場合でも、上述の第1構成例、第2構成例の透明アンテナは薄いため、厚さの制約内に収めることができる。
【0098】
なお、第1構成例における給電領域120は、表面側のみに設けられる面状給電部である例を示し、第2構成例における給電領域160は、表裏面に設けられるマイクロストリップラインである例を示したが、給電領域の構成は逆であってもよい。詳しくは、
図5に示すような面状給電部を、
図11に示す八木宇田アンテナの給電領域に適用してもよいし、反対に、
図11に示すようなマイクロストリップラインを、
図5に示すモノポールアンテナの給電領域に適用してもよい。
【0099】
<比較例>
ここで、比較例に係る透明アンテナ900を
図12、
図13を用いて説明する。
図12は、比較例に係る透明アンテナ900の斜視図であり、
図13は、比較例に係る透明アンテナ900の説明図であって、(A)は+Z方向から見た上面図であり、(B)は-Z方向から見た下面図である。
【0100】
本構成例の透明アンテナ900は、基板901を有し、基板901上に、アンテナパターン910、給電領域920が設けられている。この構成では、給電領域920は、マイクロストリップラインで構成されている。透明アンテナ900のアンテナパターン910は、パッチアンテナである。
【0101】
基板901のアンテナパターン910のないほうの面には、グランド層931,932が設けられている。グランド層931,932はアンテナパターン910と伝送路921とに対して平面視で重なるように設けられている。
【0102】
この比較例における給電領域920は、マイクロストリップラインで構成され、上面側の伝送路921と、下面側の給電用グランド層932とを有する給電線路である。伝送路921は、基板901の+Z方向側の表面に設けられ、中央面状パッチエレメント911の端辺の略中央の給電点FDxに接続されている。
【0103】
基板901の下面側は、全体がグランド層となっており、+Y側はアンテナ用グランド層931であり、-Y側は給電用グランド層932である。給電用グランド層932は、基板901の-Z方向側の表面において平面視で伝送路921と重ねて設けられている。
【0104】
アンテナパターン910は、中央面状パッチエレメント911と、中央面状パッチエレメントの+Y側の端辺から+Y側に伸び出た、延伸部912、913を有する。中央面状パッチエレメント911における+Y側端部において、延伸部912、913との境界には、溝部914、915が形成されている。パッチアンテナでは、パッチ状のアンテナパターンをE字形状にすることで、デュアルバンドになるため、このような形状にした。ただし、E字形状はデュアルバンドを得るための一例に過ぎない。
【0105】
この比較例では、基板901の上面に形成された、アンテナパターン910と、伝送路921、及び、アンテナ用グランド層931と給電用グランド層932が、
図6に示したメッシュ状の透明導体30によって実現されている。
【0106】
後述するように、パッチアンテナの場合に、アンテナ用グランド層931とアンテナパターン910が構成するアンテナ層910が近接してくるとアンテナの動作特性が悪化することが分かった。特に2つ以上の周波数に対応する場合は悪化が顕著であって、2つ以上の周波数で同等の放射効率に設定することは難しくなる。
【0107】
<シミュレーション例2>
本願の発明者らは、第1構成例、第2構成例及び比較例の透明アンテナについて、入力反射係数であるS11パラメータ及び、放射効率Effをシミュレーションした。
図14は、本発明の第1構成例、第2構成例、及び比較例の透明アンテナにおける、S11パラメータ、放射効率Effを示す図である。
【0108】
この測定をした際の、
図5に示す第1構成例のアンテナ単体及び
図8に示す疑似ディスプレイモジュールPDは、上述と同様の寸法である。
図10に示す第2構成例の透明アンテナ100A単体の、各部の寸法が、単位をmmとすると、
L141:2.1
L142:2.1
L143:0.2
L144:1.21
L145:2.1
L146:2.1
L147:0.2
L148:1.21
L151:3.48
L152:2.38
D1:1.6
D2:1.4
W14,W15:0.18
X102:9
Y102:9.5
である。
【0109】
また、透明アンテナ100Aを疑似ディスプレイモジュールにした際の各部の厚みは、
図8に示す層の各部の厚みと同様であるが、第2構成例では、上記の寸法に加えて、透明基板102の背面側に1μmの金属細線層で構成されるマイクロストリップアンテナのグランド層162等が形成されている点が異なる。とくに、透明基材102の厚みは第1構成例と同じ75μmである。
【0110】
また、
図12に示す比較例に係る透明アンテナ900の各部の寸法が、単位をmmとすると、
L911:25
L912:25
L921:0.15
X901:10
Y901:10
である。
【0111】
また、厚みについて、単位をμmとすると、
透明カバー240の厚み:500
外側接着層283の厚み:150
偏光板282の厚み:150
透明導体30(910,921)の厚み:1
透明基材901の厚み:75
透明導体30(931,932)の厚み:1
内側接着層281の厚み:150
である。
特に、透明基材901の厚みは75μmである。
【0112】
図14において、放射効率の差とは、{Eff(ρ,28GHz)-Eff(ρ,39GHz)}を表す。すなわち、正値であれば、Eff(ρ,28GHz)>Eff(ρ,39GHz)である。パッチアンテナである透明アンテナ900では疑似ディスプレイモジュールの状態において、28GHzと39GHzの2つの周波数帯域において、Effの差が33%と大きく開いている。また、S11パラメータも、一方の周波数で比較的大きい値となっている。そのため、比較例に係る透明アンテナ900では、デュアルバンドに対応して両方の周波数で安定的にアンテナとして動作するのは、難しいと考えられる。
【0113】
これに対して、本発明の透明アンテナ100,100Aの疑似ディスプレイモジュールにおいて、28GHzと39GHzの2つの周波数帯域において、金属導体の表面抵抗率ρを変えても、放射効率Effの差はそれぞれ18%、14%、17%、13%、4%と、全て20%以内である。これにより、本発明の透明アンテナ100,100Aは、28GHz前後及び39GHz 前後の2つの帯域でアンテナとして動作することができる、即ち、5G帯において2つの周波数帯で駆動するデュアルバンドを実現することができる。
【0114】
このように、本発明の透明アンテナでは、5G帯のデュアルバンドを実現するために、28GHzと539GHzの2つの周波数帯域の放射効率Effの差が、25%未満、より好ましくは、20%未満であると好適である。
【0115】
図14に示すように、
図5の透明アンテナ100を用いた疑似ディスプレイモジュールにおいて、
S11(0.1[Ω/sq],28[GHz])<-3[dB]
S11(0.1[Ω/sq],39[GHz])<-3[dB]
S11(10[Ω/sq],28[GHz])<-3[dB]
S11(10[Ω/sq],39[GHz])<-3[dB]
であって、
|Eff(0.1[Ω/sq],28[GHz])-Eff(0.1[Ω/sq],39[GHz])|<25%、
かつ|Eff(10[Ω/sq],28[GHz])-Eff(10[Ω/sq],39[GHz])|<25%であることがわかる。
【0116】
また、
S11(0.1[Ω/sq],29[GHz])<S11(0.1[Ω/sq],38[GHz])であるが、
S11(10[Ω/sq],29[GHz])>S11(10[Ω/sq],38[GHz])であって、
近接する導体のシート抵抗によって、2つの周波数におけるS11の大小が逆転している。このように設計することで、広い範囲のシート抵抗に対して、2つの周波数の一方が偏って特性が悪化することを低減し、安定的に動作させることが可能となり、さらに好ましい。このような場合、Effは大小を変えないようにすると、さらに安定的に動作し、特に好ましい。
【0117】
同様に、
図10の透明アンテナ100Aを用いた疑似モジュールにおいて、
S11(0.1[Ω/sq],28[GHz])<-3[dB]
S11(0.1[Ω/sq],39[GHz])<-3[dB]
S11(10[Ω/sq],28[GHz])<-3[dB]
S11(10[Ω/sq],39[GHz])<-3[dB]
であって、
|Eff(0.1[Ω/sq],28[GHz])-Eff(0.1[Ω/sq],39[GHz])|<25%、
かつ|Eff(10[Ω/sq],28[GHz])-Eff(10[Ω/sq],39[GHz])|<25%であることがわかる。
【0118】
また、
Eff(0.1[Ω/sq],29[GHz])>Eff(0.1[Ω/sq],38[GHz])であるが、
Eff(10[Ω/sq],29[GHz])<Eff(10[Ω/sq],38[GHz])であって、
2つの周波数でEffの大小が逆転している。このように設計することで、広い範囲のシート抵抗に対して、2つの周波数の一方が偏って特性が悪化することを低減し、バランスよく、安定的に動作させることが可能となり、さらに好ましい。このような場合、S11は大小を変えないようにすると、さらに安定的に動作し、特に好ましい。
【0119】
このように本発明において、S11と放射効率Effの値を、二つの周波数におけるシート抵抗値にたいする挙動を設定することによって、特に安定的なアンテナ特性が得られる。
【0120】
例えば、電子機器においてデュアルバンドに対して対応可能なことで、一方の回線が混雑していたり、電波状況が悪い場合に、周波数帯を切り替えることができる。本発明では、透明アンテナにおいて2つの周波数帯により動作可能なため、1つのアンテナだけで2つの周波数帯を切り替えることができる。
【0121】
なお、透明アンテナにおけるアンテナパターンの例として、第1構成例では、モノポールアンテナ、第2構成例では、八木宇田アンテナの例を説明したが、本発明のアンテナパターンは、ダイポールアンテナ、ビバルディアンテナ、又はログペリアンテナであってもよい。ダイポールアンテナ、ビバルディアンテナ、又はログペリアンテナの場合であっても、S11とEffに対して上述した設計を適用すれば同様の効果を奏する。
【0122】
なお、ダイポールアンテナの場合は、
図10に示す八木宇田アンテナから、導波器151,152を取り除いたアンテナパターン構成とすることで、特に容易に実現することができる。
【0123】
(第3構成例)
図15は、本発明の第3構成例に係る透明アンテナ100Bを示す図である。本構成例の透明アンテナ100Bは、透明基板103を有し、透明基板103上に、アンテナパターン110M1、及びマイクロストリップラインで構成される給電領域120M1が設けられている。透明アンテナ100Bのアンテナパターン110M1は、ビバルディ(Vivaldi)アンテナである。
【0124】
本構成例における給電領域120M1は、第2構成例と同様に、マイクロストリップラインであり、上面側の伝送路121M1と下面側のグランド層122M1とを有する給電線路である。伝送路121M1は、透明基板103の+Z方向側の表面に線状に設けられ、上面側エレメント111M1に接続されている。グランド層122M1は、透明基板103の-Z側の表面に面状に設けられ、+Y側端辺は、中央部が+Y側に尖るように湾曲し、下面側エレメント112M1に接続されている。
【0125】
アンテナパターン110M1は、上面側エレメント111M1と、下面側エレメント112M1を有する。上面側エレメント111M1は、給電領域120M1の伝送路121M1から線状に接続され、徐々に広がりながら、透明基板103の+Y方向と+X方向の角部まで延伸している。下面側エレメント112M1は、給電領域120M1のグランド層122M1の中心から接続され、徐々に広がりながら、透明基板103の+Y方向と-X方向の角部まで延伸している。
【0126】
図15の給電領域120M1及びアンテナパターン110M1は、
図7に示したような格子状の金属細線層である透明導体30で構成されている。
【0127】
本構成例においても、S11とEffに対して、上述した設計を適用すれば同様の効果を奏する。
【0128】
また、本発明の透明アンテナは、1つでもデュアルバンドを実現できるが、より特性を高めるために、複数の透明アンテナを集めたアレイ状態(アンテナアレイ)で配置されてもよい。
【0129】
以上、本発明の例示的な実施の形態の透明アンテナについて説明したが、本発明は、具体的に開示された実施の形態に限定されるものではなく、特許請求の範囲から逸脱することなく、種々の変形や変更が可能である。
【0130】
なお、本国際出願は、2020年4月27日に出願した日本国特許出願2020-078662号に基づく優先権を主張するものであり、その全内容は本国際出願にここでの参照により援用されるものとする。
【符号の説明】
【0131】
30 透明導体
31 金属細線
32 金属細線
33 開口部
100,100A,100B 透明アンテナ
101 透明基板(透明基材)
102 透明基板(透明基材)
103 透明基板(透明基材)
110,110M1 アンテナパターン(透明導体、金属細線層)
111 第1の線条エレメント
112 第2の線条エレメント
113 第3の線条エレメント
114 第4の線条エレメント
111M1 上面側エレメント
112M1 下面側エレメント
120 給電領域(面状給電部、金属細線層)
120M1 給電領域
121M1 伝送路
122M1 グランド層
140 アンテナパターン
141 第1の線条エレメント
142 第2の線条エレメント
143 第3の線条エレメント
144 第4の線条エレメント
145 第5の線条エレメント
146 第6の線条エレメント
147 第7の線条エレメント
148 第8の線条エレメント
151 上面側導波器
152 下面側導波器
160 給電領域(マイクロストリップライン)
161 伝送路
162 グランド層
200 電子機器
210 筐体
220 ディスプレイパネル
230 タッチパネル
240 透明カバー(カバーガラス)
250 配線基板
260A,260B,260C,260D 電子部品
270 バッテリー
D ディスプレイモジュール
PD 疑似ディスプレイモジュール
M 金属導体