(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2025-03-31
(45)【発行日】2025-04-08
(54)【発明の名称】磁気方位配向測定用試料ホルダーおよび磁気方位配向の測定方法
(51)【国際特許分類】
G01N 23/20025 20180101AFI20250401BHJP
G01N 23/207 20180101ALI20250401BHJP
【FI】
G01N23/20025
G01N23/207
(21)【出願番号】P 2021009237
(22)【出願日】2021-01-25
【審査請求日】2023-09-13
(31)【優先権主張番号】P 2020046354
(32)【優先日】2020-03-17
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000183303
【氏名又は名称】住友金属鉱山株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100145872
【氏名又は名称】福岡 昌浩
(74)【代理人】
【識別番号】100091362
【氏名又は名称】阿仁屋 節雄
(72)【発明者】
【氏名】永尾 晴美
【審査官】田中 洋介
(56)【参考文献】
【文献】特開2003-098125(JP,A)
【文献】特開平10-115596(JP,A)
【文献】特開平08-247969(JP,A)
【文献】特許第2599175(JP,B2)
【文献】特開2012-159325(JP,A)
【文献】米国特許第05390230(US,A)
【文献】特開2017-203663(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01N 23/00-23/2276
G01N 1/00-1/44
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
X線回折により試料の磁気方位配向を測定する際に試料を保持する試料ホルダーであっ
て、
上面にて試料が配置されるステージ部と、
前記ステージ部の下面に配置された磁石と、
開口を有し、且つ、前記磁石の上方領域内に前記開口の側面が収まるよう配置された試
料配置矯正部と、を備え、
平面視において、前記磁石の輪郭は、前記磁石の輪郭と接触しないように前記開口の輪
郭を包含
し、
平面視において、前記磁石の最外縁から中心方向に0~2.0mmの範囲内に前記試料配置矯正部の前記開口の輪郭を配置され、
前記試料配置矯正部の開口深さは、試料を構成する複数の粒子が前記磁石の配置に伴う磁気的な配向により上下に連なった状態の粒子の集合体の最大の上下長さよりも小さい値であり、
前記開口を包囲する、前記試料配置矯正部の上面は同じ高さの面一である、
磁気方位配向測定用試料ホルダー。
【請求項2】
前記ステージ部は容器の底部の外面により成り、
前記容器の底部の内面に前記磁石が固定され、
前記試料配置矯正部は、リング状であり且つ前記ステージ部を挟んで前記磁石の上方に
配置された、請求項
1に記載の磁気方位配向測定用試料ホルダー。
【請求項3】
請求項
1または2に記載の試料ホルダーに試料をふりかけて前記ステージ部の上面且つ前記試料配置矯正部の開口内にて試料を磁気的に配向させる試料配置工程と、
磁気的に配向した試料に対してX線回折測定を行い、磁気方位配向度を算出する測定工程とを、有する磁気方位配向の測定方法。
【請求項4】
前記試料配置矯正部の開口深さは、試料を構成する複数の粒子が磁気的な配向により上
下に連なった状態の粒子の集合体の最大の上下長さよりも小さい値であり、
前記試料配置工程と前記測定工程との間に、前記試料配置矯正部の開口からはみ出た粒
子を、前記試料配置矯正部の上面に合わせて均す均し工程を更に有する、請求項
3に記載の磁気方位配向の測定方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、磁気方位配向測定用試料ホルダーおよび磁気方位配向の測定方法に属する。
【背景技術】
【0002】
結晶構造に起因して特定方向に結晶が揃うことを結晶配向という。圧延鋼板やめっき皮膜などは、何らかの方向へ結晶配向していることが多い。このような材料の結晶配向度を定量的に評価するには、配向したサンプルのX線回折ピーク強度比と無配向サンプルのX線回折ピーク強度比の相対値から求めるという方法が知られている。
【0003】
これに対し、結晶構造ではなく磁気的に揃うことを磁気方位配向といい、磁性を有する材料はある特定方向へ磁気方位配向する。
【0004】
材料が粉末である場合、個々の結晶粒がランダムに存在するため一般的には配向しないが、力を加えて試料を押し付けたり固めたりすることにより結晶方位配向することがある。磁性を有する粉末試料についても同様であり、固定することによって結晶配向する場合があるが、結晶配向した方位は磁気方位配向の方位とは必ずしも一致しない。そのため、従来の固定法を採用してX線回折を行うことにより、磁性を有する材料粉末の結晶配向性は定量的に評価できるが、磁気方位配向性は評価できない。
【0005】
そのような状況下、特許文献1では、磁性を有する材料粉末の磁気方位配向性をX線回折で評価するために、ステージ部(特許文献1では試料ステージ部)とベース部で構成された試料ホルダーを用いることが効果的であることを開示した。
【0006】
特許文献1では、容器内に磁石(特許文献1では磁石塊)を入れて固着剤で固定する。これをベース部に装着し、容器上面に試料をふりかけると、磁石の磁力によって容器上面にて試料が磁気方位に配向する。そのため、磁気方位に配向した状態の試料をX線回折測定すれば磁気方位配向性を反映したX線回折パターンを観測することができる。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0007】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明者の鋭意研究により、特許文献1に記載の手法に改善点が見いだされた。特許文献1に記載の手法だと、ステージ部上の試料は、容器内部に配置した磁石の中心部ではきれいに磁気方位に配向する。その一方、磁石の中心から離れると、試料は周囲に分散して(言い方を変えるとばらけて)配向する。
【0009】
図1は、特許文献1に記載の試料ホルダーに試料を配置した場合の概略図である。
【0010】
図1に示すように、試料5を構成する粒子は、磁石2の中心から離れるほど倒れやすくなる。
【0011】
この状態だと、ステージ部3上で試料を構成する粒子がばらけるため、試料5内が疎になる。試料5内が疎になると、X線回折測定を行っても十分なピーク強度が得られない。その結果、正しい磁気方位配向性情報が得られないおそれがある。
【0012】
本発明の課題は、磁石を備えた試料ホルダーを使用する際に試料を密にして正しい磁気方位配向性情報を得る手法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明者は上記課題について鋭意検討した。その結果、特許文献1に記載の構成において、ステージ部上且つ磁石の直上の領域内に開口の側面を設け、この側面により、試料を構成する粒子がばらけるのを抑制する、いわゆる試料の位置が開口内ひいては磁石直上領域内に収まるよう試料の位置を矯正するという構成を新たに想到した。この構成の具体例は以下の通りである。
【0014】
本発明の第1の態様は、
X線回折により試料の磁気方位配向を測定する際に試料を保持する試料ホルダーであって、
上面にて試料が配置されるステージ部と、
前記ステージ部の下面に配置された磁石と、
前記磁石の上方領域内に開口の側面が収まるよう配置された試料配置矯正部と、
を備えた、磁気方位配向測定用試料ホルダーである。
【0015】
本発明の第2の態様は、
前記ステージ部は容器の底部の外面により成り、
前記容器の底部の内面に前記磁石が固定され、
前記試料配置矯正部は、リング状であり且つ前記ステージ部を挟んで前記磁石の上方に配置された、第1の態様に記載の磁気方位配向測定用試料ホルダーである。
【0016】
本発明の第3の態様は、
第1または第2の態様に記載の試料ホルダーに試料をふりかけて前記ステージ部の上面且つ前記試料配置矯正部の開口内にて試料を磁気的に配向させる試料配置工程と、
磁気的に配向した試料に対してX線回折測定を行い、磁気方位配向度を算出する測定工程と、
を有する、磁気方位配向の測定方法である。
【0017】
本発明の第4の態様は、
前記試料配置矯正部の開口深さは、試料を構成する複数の粒子が磁気的な配向により上下に連なった状態の粒子の集合体の最大の上下長さよりも小さい値であり、
前記試料配置工程と前記測定工程との間に、前記試料配置矯正部の開口からはみ出た粒子を、前記試料配置矯正部の上面に合わせて均す均し工程を更に有する、第3の態様に記載の磁気方位配向の測定方法である。
【発明の効果】
【0018】
本発明によれば、磁石を備えた試料ホルダーを使用する際に試料を密にして正しい磁気方位配向性情報が得られる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【
図1】
図1は、特許文献1に記載の試料ホルダーに試料を配置した場合の概略図である。
【
図2】
図2(a)は、本実施形態の試料ホルダーを示す概略斜視図であり、
図2(b)は、該試料ホルダーに試料をふりかける様子を示す概略斜視図である。
【
図3】
図3は、本実施形態の試料ホルダーに対し、試料配置工程、均し工程を順に行った後の概略断面図である。
【
図4】
図4は、本実施形態の試料ホルダーに対し、試料配置工程、均し工程を順に行った後の概略平面図である。
【
図5】
図5(a)は均し工程前の様子を示す概略断面図であり、
図5(b)は均し工程後の様子を示す概略断面図である。
【
図6】
図6は、本実施形態の試料ホルダーの容器をベース部に固定した様子を示す概略斜視図である。
【
図7】
図7は、変形例の試料ホルダーに対し、試料配置工程、均し工程を順に行った後の概略断面図である。
【
図8】
図8(a)は、磁石保持部が設けられた変形例の試料ホルダーに対し、試料配置工程、均し工程を順に行った後の概略断面図である。
図8(b)は、磁石保持部が設けられた変形例の試料ホルダーの概略底面図である。
【
図9】
図9は、実施例1および比較例1(磁石を使用せず)のX線回折測定結果を示すグラフである。
【
図10】
図10は、実施例1および比較例2(試料配置矯正部(リング)を使用せず)のX線回折測定結果を示すグラフである。なお、
図10の実施例1のグラフは
図9の実施例1のグラフと同一である。
【
図11】
図11は、実施例1と比較例1に係る
図9の測定結果から得られた、任意の回折ピーク8本(横軸に配列)を用いた配向度(縦軸)の算出結果を示すグラフである。
【
図12】
図12は、実施例1と比較例2に係る
図10の測定結果から得られた、任意の回折ピーク8本(横軸に配列)を用いた配向度(縦軸)の算出結果を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、本実施形態について説明する。「~」は所定数値以上且つ所定数値以下を指す。なお、本明細書に記載が無い内容は、特許文献1に記載の内容を援用する。また、本明細書における上下方向は天地方向を意味する。
【0021】
図2(a)は、本実施形態の試料ホルダー1を示す概略斜視図であり、
図2(b)は、該試料ホルダー1に試料をふりかける様子を示す概略斜視図である。
【0022】
本実施形態で採用する試料は磁性を備えるものであれば限定は無いが、粒子により構成される粉体であるのが、本実施形態に係る測定方法を実施する際の作業性に優れて好ましい。
【0023】
本実施形態は、X線回折により試料の磁気方位配向を測定する際に試料を保持する試料ホルダー1である。該試料ホルダー1は、以下の構成を備える。
・上面3aにて試料が配置されるステージ部3
・ステージ部3の下面3bに配置された磁石2
・開口4hを有し、且つ、磁石2の上方領域内に開口4hの側面が収まるよう配置された試料配置矯正部4
【0024】
ステージ部3は、上面3aにて試料を配置可能であり且つ下面3bに磁石2を固定可能な構成であれば、素材や形状等に限定は無い。但し、X線回折測定を行う関係上、結晶性を有さない材料でステージ部3を構成するのが好ましい。また、ステージ部3は、磁性を有さない方が、磁石2の取り外しの際に力を要さずに済む。一例として、ステージ部3は、特許文献1に記載のステージ部3、更に言うと結晶性を有しない容器に該当する。ステージ部3は該容器の底部の外面により成るのが好ましい。なお、その際、該容器が汚れないよう、ステージ部3の構成の一部として該容器に防汚シートを設け、該容器と該防汚シートを挟み、磁石により試料を磁気方位配向させてもよい。
【0025】
磁石2は、ステージ部3を挟んで試料を磁気方位配向可能な構成であれば、素材や形状等に限定は無い。形状としては例えば円柱状を採用できる。円柱状であれば磁石2直上のステージ部3の上面3a部分の円領域(例えば直径10~15mm)をX線ビーム照射領域として有効活用できる。但し、角柱状の磁石2であっても、磁石2直上の領域がX線ビームの照射領域を十分に包含可能であれば問題無く使用可能である。一例として、磁石2は、特許文献1に記載の「磁石塊」に該当する。
【0026】
X線ビームの照射中において、容器の底部の内面に磁石2が固定されるのが好ましい。固定態様には限定は無く、粘着体(糊、粘着テープ)により固着してもよいし、容器の底部と磁石2とが係合する構造を両者に形成してもよい。容器の底部の内面と磁石2とを非接触の状態で磁石2を固定してもよいが、試料を安定して磁気方位配向させることを鑑みると両者を接触させるのが好ましい。
【0027】
なお、X線ビームの照射終了後即ち測定終了後に、磁石2を取り外すのが好ましい。つまり、磁石2は容器の底部の内面に着脱自在とするのが好ましい。測定終了後に磁石2を取り外すことにより、試料が磁石2に近づこうとする力が解除、ひいてはステージ部3から試料を容易に脱離可能となる。
【0028】
試料配置矯正部4は、開口4hを有し、且つ、磁石2の上方領域内に開口4hの側面が収まるよう配置されていれば、素材や形状等に限定は無い。但し、試料が磁石2ではなく試料配置矯正部4によって配向してしまう可能性を考えると、試料配置矯正部4は磁性を有さないもの(ステンレスやプラスチック(樹脂)等の非磁性のもの)が採用可能である。
【0029】
試料配置矯正部4は、X線ビームの照射中において、容器の底部の外面即ちステージ部3の上面3aに固定するのが好ましい。固定態様には限定は無く、両面テープや接着剤を使用してもよい。X線ビームの照射終了後即ち測定終了後、磁石2と同様に試料配置矯正部4をステージ部3から取り外してもよいし、そのまま固定していてもよい。
【0030】
磁石2の上方領域とは、磁石2の直上部分全体を指し、磁石2を平面視した際の輪郭内に収まる領域のことである。
【0031】
試料配置矯正部4は、その名の通り、試料の位置が開口4h内ひいては磁石2の直上領域内に収まるよう試料の位置を矯正する。開口4hの側面により、試料を構成する粒子がばらけるのを抑制できる。つまり、開口4h内という限られた領域内にのみ試料が配置される。それに加え、この状態で粒子がばらけようとしても、結局、試料を構成する粒子が開口側面に接触し、磁石の平面視中心での粒子の姿勢(ここでは直立)またはそれに近い姿勢へと試料の配置が矯正される。以上の結果、従来に比べ、特定方向(本実施形態だと上下方向)に試料の配向状態を保ったまま、試料を密に保持できる。
【0032】
試料配置矯正部4の開口4hに関してであるが、輪郭を残して試料ホルダーを透過して平面視したとき、ステージ部3の下面3bに固定された磁石2の輪郭内に該開口4hの輪郭が包含されるよう、ステージ部3の上面3aに試料配置矯正部4を配置する。
【0033】
ここで言う「包含」は、両輪郭が一致する場合(後掲の実施例1)も含む。但し、両輪郭が一部のみ接触するよう該開口4hの輪郭を包含すれば、試料を配置する部分において試料を構成する粒子の姿勢の傾きが大きくなる磁石の最外縁を一部排除できるため好ましい。更に、磁石2の輪郭と接触しないように該開口4hの輪郭を包含すれば、試料を配置する部分において磁石の最外縁を完全に排除できるため好ましい。
【0034】
この包含の一例としては、平面視において、磁石の最外縁から中心方向に0~2.0mmの範囲内に試料配置矯正部4の開口4hの輪郭を配置してもよい。
【0035】
試料配置矯正部4の開口4hの形状、大きさには限定は無い。該開口4hの形状が平面視で円形だと、X線ビーム照射領域を該開口4h内に効率的に包含できる。但し、X線ビーム照射領域を該開口4h内に包含可能であれば開口4hの平面視形状が矩形等であっても構わない。その際、平面視での開口4hの輪郭とX線ビーム照射領域とが接触しないように、X線ビーム照射領域を該開口4h内に包含するのが好ましい。
【0036】
平面視において、開口4hと磁石2とX線ビーム照射領域とが同心に配置されるのが好ましい。但し、完全に同心である必要はなく、互いに0.2mm程度のズレは許容される。
【0037】
開口4hの上面側形状と下面側形状とは等しい方が好ましいが、磁石2の上方領域に収まる程度の相違は許容される。
【0038】
開口4hを包囲する試料配置矯正部4の上面4aは同じ高さ(いわゆる面一)である必要がある。これにより、試料配置矯正部4の開口4hからはみ出た粒子を、試料配置矯正部4の上面4aに合わせて均す均し工程が実施可能となる。さらにX線照射高さを試料配置矯正部4の上面4aに合わせて調整するので、正確な角度位置の測定が可能となる。
【0039】
図3は、本実施形態の試料ホルダー1に対し、試料配置工程、均し工程を順に行った後の概略断面図である。
【0040】
図4は、本実施形態の試料ホルダー1に対し、試料配置工程、均し工程を順に行った後の概略平面図である。
【0041】
図5(a)は均し工程前の様子を示す概略断面図であり、
図5(b)は均し工程後の様子を示す概略断面図である。
【0042】
均し工程を行う結果、測定面の高さが一定となり、X線回折パターンのピーク位置(回折角度)のズレがなくなる。更に、
図5(a)から
図5(b)に至るように、開口4hからはみ出た粒子を均すことにより、はみ出た分の粒子を開口4h内(即ち開口4h側面と試料配置矯正部4の上面4aとで囲まれた領域)に収めることができ、該開口4h内の試料は更に密になる。これらの効果を確かなものにすべく、試料配置矯正部4の開口4h深さは、試料を構成する複数の粒子が磁気的な配向により上下に連なった状態の粒子の集合体5aの最大の上下長さよりも小さい値とするのが好ましい。開口4h深さは、1.0~3.0mmであってもよく、1.5~2.0mmが好ましい。
【0043】
試料配置矯正部4は、リング状であり且つ前記ステージ部3を挟んで前記磁石2の上方に配置されるのが好ましい。この構成を採用するならば、特許文献1に記載の既存の試料ホルダー1に対し、リング状の試料配置矯正部4(リング)をステージ部3上に配置するだけで本実施形態を実現できる。また、試料配置矯正部4(リング)を採用する場合、上記均し工程の際、リング状枠の上面4aを測定面となる試料高さを調整するための指標として用いることができる。
【0044】
試料配置矯正部4がリングである場合の最外縁の径には限定は無く、平面視にて磁石の外径よりも大きくてもよいし、小さくてもよい。また、リングの最外縁の形状には限定は無く、平面視で円形でも矩形でもそれ以外の形状でもよい。また、リングの開口4hの形状、大きさに限定が無いことは、試料配置矯正部4の開口4hとして述べた通りである。
【0045】
なお、均し工程の具体的な作業内容としては、試料配置矯正部4の上面4aを面一(
図5(a)中の破線)としつつこの上面4aに合わせて擦り切る処理を繰り返すことにより実施してもよい(
図5(a)→(b))。
【0046】
本実施形態の試料ホルダー1を用いた磁気方位配向の測定方法は以下の通りである。
【0047】
図6は、本実施形態の試料ホルダー1の容器をベース部6に設置した様子を示す概略斜視図である。
【0048】
試料ホルダー1の容器をベース部6に設置する。設置場所はX線照射部の中心が試料上面中心部になるよう設置する必要がある。なお、ベース部6はX線回折測定装置の一部であってもよい。
【0049】
本実施形態の試料ホルダー1に試料をふりかけて前記ステージ部3の上面3a且つ前記試料配置矯正部4の開口4h内にて試料を磁気的に配向させる試料配置工程と、
磁気的に配向した試料に対してX線回折測定を行い、磁気方位配向度を算出する測定工程と、
を有する。
好ましくは、試料配置工程と測定工程との間に、前記試料配置矯正部4の開口4hからはみ出た粒子を、前記試料配置矯正部4の上面4aに合わせて均す上記均し工程を更に有する。
【0050】
本実施形態の試料ホルダー1を用いた磁気方位配向の測定方法により、磁性を有する材料粉末の磁気方位配向性を精度よく且つ再現性よくX線回折で評価することができる。
【0051】
なお、本発明の技術的範囲は本実施形態に限定されるものではなく、発明の構成要件やその組み合わせによって得られる特定の効果を導き出せる範囲において、種々の変更や改良を加えた形態も含む。
【0052】
図7は、変形例の試料ホルダーに対し、試料配置工程、均し工程を順に行った後の概略断面図である。
【0053】
本実施形態では試料配置矯正部4がリングである場合を例示したが、
図7に示すように、ステージ部3の上面3aに、試料配置矯正部4の開口4hとして凹みを形成し、この凹みに試料を配置してもよい。つまり、試料配置矯正部4の開口4hは、ステージ部3の上面3aにより形成されてもよい。そして、この凹みにおけるステージ部3の下面3bに磁石2を配置し、ステージ部3の凹み部分を挟み、磁石2により試料を磁気方位配向させてもよい。つまり、本明細書における開口4hには、貫通孔も非貫通孔も含まれる。
【0054】
図8(a)は、磁石保持部7が設けられた変形例の試料ホルダーに対し、試料配置工程、均し工程を順に行った後の概略断面図である。
図8(b)は、磁石保持部7が設けられた変形例の試料ホルダーの概略底面図である。
図8の白抜き矢印は磁石2の挿脱方向である。
【0055】
図8に示すように、容器の底部の内面に磁石2が固定される態様の別の例として、容器の底部の内面に磁石保持部7を設けてもよい。
【0056】
図8に示す変形例では、容器の底部の内面から下方に突出して磁石保持部7が設けられる。磁石保持部7は、容器の底部の内面に別途取り付けても構わない。容器が樹脂の場合は、磁石保持部7と共に容器を一体成型しても構わない。
磁石保持部7は、水平方向に開口を有する。磁石2を該開口71から磁石保持部7に水平方向に挿入することにより、磁石2が容器の底部の内面に位置可能となる。
【実施例】
【0057】
以下、本発明の実施例を用いて具体的に説明するが、本発明は以下の実施例によって何ら限定されるものではない。
【0058】
[実施例1]
磁気特性のある粉末試料Aを当該試料ホルダー1に配置した。粉末試料Aの量は1gとした。実施例1の試料ホルダー1では、試料配置矯正部4はステンレス製のリングとした。該リングの内径は18mmとし、外径は30mmとし、リングの幅を6mmとし、リング高さ(厚さ)は1.5mmとした。磁石2は高さ15mmの円柱形とした。磁石2の円柱の直径は20mmとし、リングの内径より大きく設定した。そして、磁石2とリングとを同心に配置した。均し工程を行った後、X線回折測定装置により磁気方位配向性が反映されたX線回折測定結果を得た。
【0059】
[比較例1]
本実施形態の試料ホルダー1を使用せず、単なるガラス製の試料ホルダー1(磁石2無し)に試料を配置した。そのうえで、実施例1と同様にX線回折測定結果を得た。
【0060】
[比較例2]
本実施形態の試料ホルダー1において試料配置矯正部4を除いたもの(すなわち特許文献1に該当)を使用した。そのうえで、実施例1と同様にX線回折測定結果を得た。
【0061】
[結果]
図9は、実施例1および比較例1(磁石2を使用せず)のX線回折測定結果を示すグラフである。
【0062】
図9を見ると、比較例1のX線回折測定結果と実施例1のX線回折測定結果の回折ピーク位置について2θ方向にずれが無いことが確認できた。その理由は、実施例1だと試料配置矯正部4(リング)が存在し、粉末試料Aを構成する粒子のばらつきが抑えられたことが挙げられる。また、それに加え、均し工程を行ったため、試料面の高さ合わせが十分に調整できたことも挙げられる。
【0063】
実施例1と比較例1に係る
図9の測定結果から、任意の回折ピーク8本を用いた配向度算出結果を得た(
図11)。
【0064】
ここで、配向度の算出は、以下のような方法で行った。
【0065】
任意のピークの磁気方位配向度をK、任意のピークの実サンプルでのピーク強度をIPO(実サンプル)、選んだ全てのピークの実サンプルでのピーク強度の総和をIPS(実サンプル)、任意のピークの無配向状態でのピーク強度をIPO(無配向)、選んだ全てのピークの無配向状態でのピーク強度の総和をIPS(無配向)とすると、磁気方位配向度Kは以下の式にて得られる。
K={IPO(実サンプル)/IPS(実サンプル)}/{IPO(無配向)/IPS(無配向)}
【0066】
比較例1の場合、磁気方位配向度があることを確認できなかった。その一方、実施例1の場合、粉末試料Aが特定方向(C軸方向)へ磁気的に配向した状態でX線回折測定できた。また、実施例1の場合、(006)ピークにおけるK値が高く算出されており、C軸配向が顕著に示された(
図11)。
【0067】
図10は、実施例1および比較例2(試料配置矯正部4(リング)を使用せず)のX線回折測定結果を示すグラフである。なお、
図10の実施例1のグラフは
図9の実施例1のグラフと同一である。
【0068】
実施例1と比較例2に係る
図10の測定結果から、任意の回折ピーク8本を用いた配向度算出結果を得た(
図12)。
【0069】
比較例2のX線回折測定結果と実施例1のX線回折測定結果の回折ピーク位置について2θ方向にずれが存在した。その理由は、比較例2だと粉末試料Aを構成する粒子がばらつくためである。
【0070】
比較例2よりも実施例1の方が、(006)ピークにおけるK値が高く算出された。これは、実施例1の開口4h内の粉末試料Aがより均一方向に揃えられた状態で正しく磁気方位配向性を測定できているためである(
図12)。
【符号の説明】
【0071】
1 試料ホルダー
2 磁石
3 ステージ部(容器)
3a (ステージ部の)上面
3b (ステージ部の)下面
4 試料配置矯正部(リング)
4a (試料配置矯正部の)上面
5 試料
5a 複数の粒子が磁気的な配向により上下に連なった状態の粒子の集合体
6 ベース部
7 磁石保持部
71 (磁石保持部の)開口