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特許7658109セラミックス回路基板およびその製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2025-03-31
(45)【発行日】2025-04-08
(54)【発明の名称】セラミックス回路基板およびその製造方法
(51)【国際特許分類】
   C04B 37/02 20060101AFI20250401BHJP
   C22C 9/00 20060101ALI20250401BHJP
   B23K 1/00 20060101ALI20250401BHJP
   B23K 1/19 20060101ALI20250401BHJP
   H05K 3/38 20060101ALI20250401BHJP
   H05K 1/09 20060101ALI20250401BHJP
   C22F 1/08 20060101ALI20250401BHJP
   C22C 5/08 20060101ALN20250401BHJP
   C22F 1/00 20060101ALN20250401BHJP
【FI】
C04B37/02 B
C22C9/00
B23K1/00 330E
B23K1/19 B
H05K3/38 D
H05K1/09 A
C22F1/08 B
C22C5/08
C22F1/00 623
C22F1/00 604
C22F1/00 613
C22F1/00 630M
C22F1/00 650F
C22F1/00 661A
C22F1/00 691
C22F1/00 691B
C22F1/00 691C
C22F1/00 692A
C22F1/00 692B
【請求項の数】 4
(21)【出願番号】P 2021029383
(22)【出願日】2021-02-26
(65)【公開番号】P2021143120
(43)【公開日】2021-09-24
【審査請求日】2024-01-17
(31)【優先権主張番号】P 2020041172
(32)【優先日】2020-03-10
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000005083
【氏名又は名称】株式会社プロテリアル
(74)【代理人】
【識別番号】110002583
【氏名又は名称】弁理士法人平田国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】外木 達也
(72)【発明者】
【氏名】山本 佳紀
(72)【発明者】
【氏名】濱吉 繁幸
【審査官】山本 晋也
(56)【参考文献】
【文献】特開2011-199315(JP,A)
【文献】特開2012-046810(JP,A)
【文献】国際公開第2013/002407(WO,A1)
【文献】特開2018-059132(JP,A)
【文献】特開2016-216793(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C04B
C22F
C22C
H05K
B23K
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
セラミックス基板の一面にろう材層を介して接合された銅板を備えるセラミックス回路基板であって、
前記銅板は、0.03質量%を超え0.15質量%以下のZrを含有し、残部が銅および不可避的不純物である銅合金からなり、JIS H0501:1986に規定の伸銅品結晶粒度試験方法の切断法による平均結晶粒径が100μm以下、導電率がIACS基準に対して96%以上100%未満である、セラミックス回路基板。
【請求項2】
前記銅板は、熱伝導率が375W/m・K以上である、請求項1に記載のセラミックス回路基板。
【請求項3】
前記セラミックス基板は、窒化ケイ素焼結基板である、請求項1又は2に記載のセラミックス回路基板。
【請求項4】
セラミックス基板の一面にろう材を介して銅板接合されたセラミックス回路基板の製造方法であって、
前記セラミックス基板の前記一面にろう材領域を形成するろう材領域形成工程と、
前記ろう材領域に重ねて前記銅板を載置して積層体を形成する載置工程と、
前記ろう材層を介して前記セラミックス基板と前記銅板とを接合して接合体を形成する接合工程と、を有し、
前記銅板は、0.03質量%を超え0.15質量%以下のZrを含有し、残部が銅および不可避的不純物である銅合金からな
前記接合工程は、前記積層体を770~880℃の範囲内の温度に保持して加熱する加熱工程と、前記加熱工程の後に50分以上の時間をかけて350℃まで温度を下げる降温工程とを含む、セラミックス回路基板の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、パワーモジュールに使用されるセラミックス回路基板およびその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
セラミックス回路基板(以下、単に回路基板と言う場合がある)は、例えば、特開2003-110222号に開示されている。特開2003-110222号に記載の回路基板は、セラミックス基板の少なくとも一方の面にろう材を介して接合された銅板を備えている。また、特開2003-110222号に開示によれば、セラミックス基板の少なくとも一方の面にろう材を介して銅板を接合し、その銅板の表面の所定の部分にレジストを塗布して銅板の不要部分をエッチングすることにより回路部を形成し、レジストを維持したまま不要なろう材およびろう材とセラミックス基板との反応生成物を除去し、その後、レジストを剥離することにより回路パターンが形成され、回路基板となる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2003-110222号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
例えば、回路基板を構成する銅板の平均結晶粒径が過度に大きい場合、ろう材を介したセラミックス基板との接合性を損なうことが懸念される。そこで、平均結晶粒径を比較的小さく形成した銅板をセラミックス基板の一面にろう材を用いて接合したところ、回路基板を構成する銅板の導電率が低下する不都合が生じた。こうした銅板の導電率の低下に起因して、回路基板の電気的性能が低下することが懸念される。
【0005】
本発明の目的は、セラミックス基板の一面にろう材層を介して接合された銅板が高導電率を有するセラミックス回路基板およびその製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記目的に鑑み、鋭意研究の結果、ろう材を介してセラミックス基板に接合する際の銅板の結晶粒の粗大化に起因して回路基板を構成する銅板の導電率が低下することを突き止めた。そして、銅板とセラミックス基板をろう付けする際の温度プロファイルを工夫することにより、回路基板を構成する銅板の導電率の低下が抑制されることを見出し、本発明に想到した。
【0007】
本発明のセラミックス回路基板は、
セラミックス基板の一面にろう材層を介して接合された銅板を備えるセラミックス回路基板であって、
前記銅板は、0.03質量%を超え0.15質量%以下のZrを含有し、残部が銅および不可避的不純物である銅合金からなり、JIS H0501:1986に規定の伸銅品結晶粒度試験方法の切断法による平均結晶粒径が100μm以下、導電率がIACS基準に対して96%以上100%未満である。
【0008】
上記のセラミックス回路基板において、前記銅板は、熱伝導率が375W/m・K以上であることが好ましい。
【0009】
上記のセラミックス回路基板において、前記セラミックス基板は、窒化ケイ素焼結基板とすることができる。
【0010】
本発明のセラミックス回路基板の製造方法は、セラミックス基板の一面にろう材を介して銅板接合されたセラミックス回路基板の製造方法であって、前記セラミックス基板の前記一面にろう材領域を形成するろう材領域形成工程と、前前記ろう材領域に重ねて銅板を載置して積層体を形成する載置工程と、前記ろう材層を介して前記セラミックス基板と前記銅板とを接合して接合体を形成する接合工程と、を有し、前記銅板は、0.03質量%を超え0.15質量%以下のZrを含有し、残部が銅および不可避的不純物である銅合金からな前記接合工程は、前記積層体を770~880℃の範囲内の温度に保持して加熱する加熱工程と、前記加熱工程の後に50分以上の時間をかけて350℃まで温度を下げる降温工程とを含む。
【発明の効果】
【0011】
本発明は、高導電率の銅板を備えるセラミックス回路基板およびその製造方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1】セラミックス回路基板を模式的に示す正面図である。
図2図1を上方から見た平面図である。
図3図1のセラミックス回路基板の製造方法を説明する第1の平面図である。
図4図1のセラミックス回路基板の製造方法を説明する第2の平面図である。
図5図1のセラミックス回路基板の製造方法を説明する第3の平面図である。
図6図1のセラミックス回路基板の製造方法を説明する第4の平面図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
この本発明のセラミックス回路基板は、例えば、図1および図2に示すセラミックス回路基板Wである。このセラミックス回路基板Wは、セラミックス基板Sと、セラミックス基板Sの上面(一面)に間隙Gを介して形成された二つのろう材層C1,C2(以下、第1のろう材層C1および第2のろう材層C2と言う場合がある。)と、セラミックス基板Sの上面側に前記二つのろう材層C1,C2を介し各々接合された、半導体素子等が搭載される回路板として機能する二つの銅板M1,M2(以下、第1の銅板M1および第2の銅板基板M2と言う場合がある。)を基本的な構成として備える。前記二つの銅板M1,M2の表面には、Ni、Au等のメッキ層が必要に応じ形成されることがある。図1および図2に示すセラミックス回路基板Wは、セラミックス基板Sの下面(他面)にろう材層C3を介し接合された、放熱板として機能する銅板M3を有する。なお、銅板はM1,M2の二つに限定されず、上面側に三つ以上の銅板を有してもよい。
【0014】
この本発明のセラミックス回路基板を構成するセラミックス基板は、その種類は特に限定されず、アルミナ、炭化珪素などを用いることができるが、高熱伝導率を有するという観点から、窒化珪素又は窒化アルミニウムが好ましい。セラミックス基板の表面に存在する空孔の最大径を15μmとするのが好ましい。前記空孔の最大径が15μmを超える場合、セラミックス基板の強度が低下し、例えば冷熱サイクル下におけるセラミックス回路基板の信頼性を劣化させる。特に強度および破壊靭性など機械的強度の面で優れた窒化珪素質焼結体で構成するのがより好ましい。
【0015】
前記窒化珪素質焼結体は、例えば90~97質量%の窒化珪素、および0.5~10質量%の焼結助剤(Mgの化合物と、Yおよびその他希土類元素の少なくとも1種の化合物とを含む)を含む原料粉末を用いて作製することができる。具体的には、この窒化珪素質焼結体は、前記原料粉末に適量の有機バインダ、可塑剤、分散剤および有機溶剤を添加し、ボールミル等で混合し、スラリーを形成し、このスラリーをドクターブレード法やカレンダーロール法で薄板状に成形し、セラミックスグリーンシートを得る。得られたセラミックスグリーンシートを、所望の形状となるよう打ち抜き又は裁断し、1700~1900℃の温度で焼結することにより得ることができる。この場合、焼結助剤が10質量%を超えると、セラミックス基板と銅板を接合する特性が十分でなくなることがある。また、焼結助剤が0.5質量%未満であると、窒化珪素粒子の焼結が十分でなくなることがある。高い熱伝導率および高強度を得るには、焼結助剤として、マグネシウム(Mg)を酸化マグネシウム換算で2~4質量%、イットリウム(Y)を酸化イットリウム換算で2~5質量%含有するのが好ましい。
【0016】
この本発明のセラミックス回路基板において、セラミックス基板の一面にろう材を介して接合される銅板の個数は、特に限定されない。この本発明のセラミックス回路基板を構成する銅板は、0.03質量%を超え0.15質量%以下のZrを含有し、残部が銅および不可避的不純物である銅合金からなる。銅板は、電気的抵抗および延伸性、高熱伝導性(低熱抵抗性)、マイグレーションが少ない等の点から好ましい。
【0017】
この本発明のセラミックス回路基板の製造方法は、セラミックス基板の一面にろう材を介して銅板を接合する接合工程を有するセラミックス回路基板の製造方法であって、0.03質量%を超え0.15質量%以下のZrを含有し、残部が銅および不可避的不純物である銅合金からなる前記銅板を用いて、770~880℃の範囲内の温度で加熱する加熱工程と、前記加熱工程の後に50分以上の時間をかけて350℃まで温度を下げる降温工程とを含む、前記接合工程とする。
【0018】
以下、この本発明のセラミックス回路基板の製造方法について、図1および図2に示すセラミックス回路基板Wを製造する場合を挙げて、適宜、図面を参照して説明する。ここで、セラミックス回路基板Wの製造方法は、例えば、(a)セラミックス基板、ろう材および銅板を準備する準備工程、(b)セラミックス基板にろう材を塗布するろう材領域形成工程、(c)セラミックス基板、ろう材、銅板の順となるよう重ねる載置工程、(d)接合工程、(e)銅板をエッチングする回路パターン形成工程、(f)不要ろう材層除去工程、並びに、(g)洗浄工程に、区分することができる。(d)接合工程は、この本発明のセラミックス回路基板の製造方法における「加熱工程」および「降温工程」を含む。
【0019】
(a)準備工程
セラミックス基板Sと、ろう材(ろう材粉末と有機バインダとを含むペースト)と、銅板Mを準備する。
【0020】
(b)ろう材領域形成工程
図3に示すように、セラミックス基板Sにスクリーン印刷等の手法でろう材を塗布することで、間隙Gをおいて、ろう材粉末と有機バインダとを含むろう材領域c1,c2を形成する。前記ろう材粉末としては、Ag,Cu等を所定の組成で含むろう材粉末が挙げられ、前記有機バインダとしては、様々な有機系樹脂を使用することができる。
【0021】
(c)載置工程
セラミックス基板Sのろう材を塗布した側に銅板Mを載せ、治具を用いて固定する。
【0022】
(d)接合工程
接合工程は、「加熱工程」と、「降温工程」とを含む。接合工程に保持工程を加えてもよい。図4に示すように、(i)セラミックス基板S、(ii)前記セラミックス基板に形成された、ろう材粉末と有機バインダとを含むろう材領域c1,c2、および(iii)前記ろう材領域を介して載置された銅板Mを加熱することで、セラミックス基板Sと銅板Mとがろう材層を介して接合され、接合体が形成される。接合する為の加熱は、真空中又は還元雰囲気中で行うのが好ましい。昇温過程でろう材ペースト中の有機成分を除去するため、有機バインダの揮発温度近傍(たとえば400℃付近)で一旦保持することが好ましい(保持工程)。その後に、770~880℃のろう付け温度で加熱する(加熱工程(ろう付け工程))。この加熱工程を続ける時間は10分以上であることが好ましい。ろう付け温度とは、適切にろう材層を形成できる温度、すなわち、ろう材の融点以上の温度である。ろう付け温度は、通常は前記昇温過程の最高温度である。加熱工程の後に、50分以上の時間をかけて350℃まで温度を下げる(降温工程)。ついで、350℃から常温まで温度を下げる。
【0023】
接合工程中の保持工程では、有機バインダを除去するための保持温度が低いと、有機バインダ成分が揮発することが出来ず、有機バインダの残渣が残る恐れがある。従って、有機バインダを除去するための保持温度は300℃以上とするのが好ましい。例えばアクリル樹脂を含む有機バインダの場合、この保持温度は360℃以上とするのが好ましい。有機バインダ中の樹脂等に含まれる酸素によってろう材中の活性金属が酸化されることを避けるために、有機バインダを除去するための保持温度は、加熱工程(ろう付け工程)のろう付け温度よりも低くする。
【0024】
前記接合工程に用いるろう材は、例えば、高強度、高封着性等が得られる、共晶組成であるAgおよびCuを主体としTi,Zr,Hf等の活性金属を添加したAg-Cu系活性ろう材が好ましい。さらにセラミックス基板Sと銅板M1~M3の接合強度の観点から、前記Ag-Cu系活性ろう材にInが添加された三元系のAg-Cu-In系活性ろう材がより好ましい。セラミックス基板Sと銅板との接合は、前述したように、前記ろう材粉末と有機バインダとを含むろう材ペーストを用いて行う。ろう材は、たとえば770~880℃の融点を有するAg-Cu系活性ろう材を使用し、ろう付け温度を770~880℃とするのが好ましい。770℃以上にするとろう材の溶融が十分になり、ボイドの形成を抑える。より好ましくは790℃以上にする。880℃以下にすると、ろう材が濡れ広がり過ぎることがない。さらに好ましくはろう付け温度を830~870℃とする。ろう付け温度で保持する時間は、接合用加熱炉に投入する量に依存するが、通常の生産性を考慮すると5時間以内であるのが好ましく、2時間以内であるのがさらに好ましい。ろう付け温度で保持する時間は、投入する試料の枚数によって、また例えば真空雰囲気にする場合には接合用加熱炉の容積や真空ポンプの排気量に応じて適宜調節して設定する。銅板とセラミックスとがボイドなしで接合されるように、載置工程の際に荷重印加して固定した状態としておき、接合工程で加熱するのが好ましい。
【0025】
銅板に一般的な無酸素銅を用いた場合、前記のろう付け温度の加熱で結晶粒径が300μmを超える大きさまで成長する懸念がある。それに対して、本発明の0.03質量%を超え0.15質量%以下のZrを含有する銅合金を用いた銅板は、前記のろう付け温度での加熱においても平均結晶粒径を100μm以下に抑制することができる。ここで、Zrの含有量が0.03質量%以下の場合、ろう付け温度の加熱で平均結晶粒径を100μm以下に抑制することができない。また、Zrの含有量が0.15質量%を超える場合、導電率の低下が大きくなり、IACS基準に対して96%以上を確保できない懸念が生じる。
【0026】
さらに、本発明の銅板は、ろう付け温度に加熱された状態においては大部分のZrが銅の母相に固溶しており、そのままの状態では高い導電率を確保することができない。そこで、高い導電率を確保するために、ろう付け温度から350℃まで50分以上の時間をかけてゆっくり冷却するのである。これにより、Zrは、550℃から350℃の温度域で銅の母相中に固溶した状態から、母相と別の相を作って析出した状態に変化することができる。ゆっくり冷却することで上記の温度域を通過する時間を十分に確保することにより、Zrの析出が進んで銅の母相が高純度化し、高い導電率を得ることができる。なお、ろう付け温度から350℃までの冷却時間が50分より短い場合、Zrの析出が不十分になり、IACS基準に対して96%以上の導電率を確保できない懸念が生じる。
【0027】
なお、前記銅板の不可避的不純物の含有量は、例えば無酸素銅における不純物の含有量と同等に抑えることが好ましく、具体的には0.04質量%未満にすることが好ましい。前記銅板の平均結晶粒径は、好ましくは60μm以下、更に好ましくは30μm以下とすることができる。前記銅板は、熱伝導率が380W/m・K以上であることが更に好ましい。前記銅板は、平均結晶粒径G≦100μm、銅板厚さT≧0.2mmであることが好ましい(T/G≧2.0)。例えば、G=60μm、T=0.3mmのときはT/G=5.0、G=60μm、T=0.5mmのときはT/G=8.3、G=60μm、T=0.8mmのときはT/G=13.3である。
【0028】
ろう材ペーストに含まれる有機バインダとしてアクリル樹脂を使用した場合、加熱過程において、ガス化したアクリル樹脂に起因する付着物がセラミックス基板表面に特に付着しやすい。従って、前記有機バインダとしてアクリル樹脂を使用した場合には、たとえばポリアクリル酸エステル、ポリメタクリル酸エステルが挙げられる。好ましくはメタクリル酸エステルを用いる。
【0029】
(e)回路パターン形成工程
前記接合工程で得られた接合体について、さらに、図5に示すように、接合工程で形成されたろう材層の外縁に沿うパターンで銅板Mの表面にレジスト膜R1,R2を形成し、エッチングして銅板Mを分割し、図6に示すように回路パターンM1,M2を形成する。
【0030】
(f)不要ろう材層除去工程
上記(e)回路パターン形成工程の後に、不要なろう材層を除去する不要ろう材層除去工程を設けることができる。前記レジスト膜は、前記接合工程で形成された前記ろう材層の外縁に沿うパターンで形成することが好ましい。回路パターン形成工程で形成するレジスト膜は、その厚みを10~80μm、好ましくは30~70μmと薄くすることができる。前記レジスト膜は紫外線硬化型レジスト剤で形成するのが望ましい。
【0031】
例えば、ろう材除去液として過酸化水素と酸性フッ化アンモニウムとを含む薬液を使用する場合には、10~40質量%(2.9~8.8mol/L)の過酸化水素と、1~8質量%(0.7~2.1mol/L)の酸性フッ化アンモニウムとを含む水溶液を使用することができる。過酸化水素が10質量%未満の場合には、ろう材を除去する能力が不十分であり、40質量%超の場合には銅板が過度に腐食され、銅板の寸法精度が悪化する。酸性フッ化アンモニウムが1質量%未満の場合には、ろう材層とセラミックス基板の接合界面に生じる活性金属を含む反応層の除去能が低下し、一方で8質量%を超える場合には、セラミックス基板を構成する結晶粒子を溶解し、セラミックス基板に求められる電気的な絶縁性や強度を低下させる。
【0032】
(g)洗浄工程
洗浄工程において、接合体を薬剤に浸漬して洗浄する。例えば、雰囲気から酸素を低減するのが十分ではなく、前記加熱工程で銅板の表面が酸化した場合、電気伝導性の低下やはんだ付け性の低下を招くことがあるので好ましくない。そこで、接合体を過酸化水素、硫酸、塩酸、塩化アンモニウムから選ばれる少なくとも1種を含む薬剤に浸漬して洗浄することにより、銅板表面の酸化物を除去する。前記薬剤として硫酸を用いることが好ましい。
【0033】
上記(e)~(g)の工程の後、銅板間の絶縁抵抗を低下させる付着物は除去或いは低減されている。
【0034】
その他の工程として、(g)洗浄工程の後、銅板の表面にNi、Au、Ag等のメッキ層を形成する(h)メッキ工程を有していても良い。例えはNiメッキを施す場合、ニッケル(Ni)を主成分としリン(P)の濃度が8質量%に調整された無電解メッキ液(85℃)中に20~30分間浸漬することにより、銅板の表面に厚みが5μm程度のNiメッキ層を形成することができる。
【0035】
本発明を以下の実施例で説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0036】
(実施例)
実施例の共通部分を[(a)準備工程]~[(g)洗浄工程]として説明し、ついで、銅板および接合工程について実施例1~4および参考例1~5で説明する。
【0037】
[(a)準備工程]
銅板とろう材とセラミックス基板を準備する。セラミックス基板Sとしては、全原料粉100質量部においてSiを93質量%、Mgを酸化物換算で4質量%、Yを酸化物換算で3質量%含む窒化珪素基板(図2に示す紙面で表すと、縦横の大きさがそれぞれ30mmおよび40mm、並びに厚みが0.32mmである)を使用する。ろう材としては、70.6質量%のAg、2.9質量%のIn、1.9質量%のTi、残部Cuおよび微量の不純物の構成となるよう調整されたろう材粉末100質量部に対し、有機バインダとして5.3質量部のポリアクリル酸エステル、有機溶剤として19.1質量部のα-テルピネオール、分散剤として0.5質量部のポリオキシアルキレンアルキルエーテルおよびアルキルベンゼンスルホンサン塩を混合してなるろう材ペーストを使用する。
【0038】
セラミックス回路基板Sの製造方法について、その各工程を示す平面図である図3図6を参照しつつ説明する。なお、以下述べるセラミックス回路基板Sの製造工程において、回路板である銅板M1,M2および放熱板である銅板M3を形成するための各工程の内容は基本的に同一であるので、銅板M1,M2についてのみ詳述し、銅板M3については省略する。
【0039】
[(b)ろう材領域形成工程]
図3に示すように、セラミックス基板Sの上面(一面)に、厚みがいずれも40μmの二つのろう材領域c1,c2を、平面方向において間隙Gを介してスクリーン印刷法でろう材ペーストを塗布することによって形成する。図3に示す紙面において、第1のろう材領域c1の大きさは縦横が各々27.6mmおよび11.6mm、第2のろう材領域c2の大きさは縦横が各々27.6mmおよび23.6mmであり、間隙Gのろう材領域c1,c2間の距離は1.0mmとする。
【0040】
[(c)載置工程]
前記ろう材領域形成工程の後、図4において、ろう材領域c1,c2にろう材領域c1,c2を覆う大きさの厚みが0.5mmである一枚の銅板Mを重ねて、セラミックス基板S、ろう材領域c1,c2および銅板Mを積層し、治具を用いて固定する。
【0041】
[(d)接合工程]
加熱炉に挿入し、真空雰囲気下で加熱し、ろう材層C1,C2を介しセラミックス基板Sと銅板Mとを接合して接合体を形成する。なお、接合工程における銅板Mの熱膨張を考慮し、図4に示す紙面における銅板Mの縦横の大きさは、各々29.5mmおよび39.5mmであり、セラミックス基板Sの大きさより小さいものを使用する。
【0042】
接合工程では、有機バインダであるアクリル系樹脂の除去温度である400℃で10時間保持する保持工程と、前記保持工程から一定の昇温速度で加熱する昇温工程と、ろう材の溶融温度である770℃~880℃で1時間保持する加熱工程(ろう付け工程)と、加熱工程後に50分以上の時間をかけて350℃まで温度を下げる降温工程と、350℃から常温まで温度を下げる工程とを有する温度パターンで行う。
【0043】
[(e)回路パターン形成工程]
接合工程の後、図5に示すように、前記接合体を構成する銅板Mの表面に所望のパターンで二つのレジスト膜R1,R2を形成し、その後エッチング処理を施して銅板Mの不要部を除去し、図6に示すように、平面方向において間隙Gを挟む状態で、回路パターンである二つの銅板M1,M2を形成する。具体的には、紫外線硬化型エッチングレジストを、下記の第1の銅板M1および第2の銅板M2の寸法に対応したパターンで銅板Mの表面にスクリーン印刷法で塗布した接合体を、液温50℃でエッチング液[塩化第2鉄(FeCl)溶液(46.5Be)]に浸漬し、銅板M1,M2を形成した。なお、図6に示す紙面において、第1の銅板M1の縦横の大きさは各々28mmおよび12mm、および第2の銅板M2の縦横の大きさは各々28mmおよび24mmとする。
【0044】
[(f)不要ろう材層除去工程]
図6に示すように、銅板M1,M2の表面に形成したレジスト膜を除去して、銅板M1,M2の外縁からはみ出した不要なろう材層を、過酸化水素7.6mol/Lおよび酸性フッ化アンモニウムを含むろう材除去液で液温40℃および処理時間40分で除去する。
【0045】
[(g)洗浄工程]
セラミックス回路基板を濃度1mol/L、温度50℃の硫酸に10分間浸漬して洗浄して、ついで洗浄液を除去、乾燥して回路基板を得る。
【0046】
銅板について、平均結晶粒径は、JIS H0501に規定された伸銅品結晶粒度試験方法の切断法を用いて測定することができる。銅板の表面を研磨紙およびアルミナ砥粒で鏡面になるまで研磨した後、過酸化水素を加えたアンモニア水で表面をエッチングして結晶粒界を明らかにする。現れた結晶組織について顕微鏡を用いて写真撮影した後、写真上に既知の長さの線分を引き、その線分によって完全に切られる結晶粒数を数えてその切断長さの平均値をもって平均結晶粒径とする。
【0047】
銅板について、導電率は、例えばフェルスター社製の渦電流式導電率計シグマテストを用いて測定することができる。銅板の表面に接触させたプローブに交流磁界を発生させ、磁場の変化で銅板中に生じた渦電流の強さをプローブで検出することによって導電率を測定する。シグマテストによれば、測定した導電率の値を、IACS基準による%単位、およびSI単位系によるMS/m単位の両方の単位表示で得ることができる。
【0048】
銅板の熱伝導率について、セラミックス基板と接合した状態で銅板部分のみの熱伝導率を測定することは困難である。一方、熱伝導率と導電率の間にはウィーデマン・フランツの法則と呼ばれる比例関係があることが知られている。そこで、銅板の熱伝導率は、導電率の測定値からウィーデマン・フランツの法則による下記の数式を用いて計算することができる。
【0049】
K=LTσ
K:熱伝導率(W/m・K)
σ:導電率(S/m)
L:20℃の銅による補正ローレンツ数、2.3×10-8W/S・K
T:温度(K)
【0050】
本発明で規定した銅板のZr含有量について、その規定範囲の理由を実施例と参考例を挙げて説明する。Zr含有量が本発明の規定範囲を満足する実施例1~4は、銅板の平均結晶粒径が100μm以下と小さく、セラミックス基板の接合性に優れている。また、銅板の導電率はIACS基準に対して96%以上であり、熱伝導率は375W/m・K以上である。実施例1~4は、任意の120μm幅の領域を観察したが平滑であり、幅20μm以上の凹部は観察されていない。
【0051】
・実施例1
[(a)準備工程]~[(g)洗浄工程]で述べた構成について、[(d)接合工程]でZr含有量が0.04質量%である銅板を用いた。ろう付け工程は、ろう付け装置にて雰囲気温度を調整してろう付け温度800℃とし、保持する時間は1hとした(加熱工程)。その後、雰囲気温度をろう付け温度から350℃まで50分かけて降下させた(降温工程)。作製した回路基板について銅板の平均結晶粒径を測定したところ、60μmであった。また、銅板とろう材層の界面について、任意の120μm幅の領域を観察したが平滑であった。また、銅板の導電率を測定したところ、IACS基準に対して98%であった。測定した導電率から計算した熱伝導率は、383W/m・Kであった。
【0052】
・実施例2
[(a)準備工程]~[(g)洗浄工程]で述べた構成について、[(d)接合工程]でZrの含有量が0.07質量%である銅板を用いた。ろう付け工程は、実施例1と同様にろう付け温度800℃とし、保持する時間は1hとした(加熱工程)。その後、実施例1と同様に雰囲気温度をろう付け温度から350℃まで50分かけて降下させた(降温工程)。作製した回路基板について銅板の平均結晶粒径を測定したところ、30μmであった。また、銅板とろう材層の界面について、任意の120μm幅の領域を観察したが平滑であった。また、銅板の導電率を測定したところ、IACS基準に対して97%であった。測定した導電率から計算した熱伝導率は、379W/m・Kであった。
【0053】
・実施例3
[(a)準備工程]~[(g)洗浄工程]で述べた構成について、[(d)接合工程]でZrの含有量が0.15質量%である銅板を用いた。ろう付け工程は、実施例1と同様にろう付け温度800℃とし、保持する時間は1hとした(加熱工程)。その後、実施例1と同様に雰囲気温度をろう付け温度から350℃まで50分かけて降下させた(降温工程)。作製した回路基板について銅板の平均結晶粒径を測定したところ、15μmであった。また、銅板とろう材層の界面について、任意の120μm幅の領域を観察したが平滑であった。また、銅板の導電率を測定したところ、IACS基準に対して96%であった。測定した導電率から計算した熱伝導率は、375W/m・Kであった。
【0054】
・実施例4
[(a)準備工程]~[(g)洗浄工程]で述べた構成について、[(d)接合工程]でZrの含有量が0.04質量%である銅板を用いた。ろう付け工程は、ろう付け温度を880℃とし、保持する時間は1hとした(加熱工程)。その後、実施例1と同様に雰囲気温度をろう付け温度から350℃まで50分かけて降下させた(降温工程)。作製した回路基板について銅板の平均結晶粒径を測定したところ、100μmであった。また、銅板とろう材層の界面について、任意の120μm幅の領域を観察したが平滑であった。また、銅板の導電率を測定したところ、IACS基準に対して98%であった。測定した導電率から計算した熱伝導率は、383W/m・Kであった。
【0055】
上記の実施例に対して、Zr含有量が本発明の規定範囲より少ない参考例1は、銅板の平均結晶粒径が100μmを超える値になり、セラミックス基板の接合性が低下する。また、Zr含有量が本発明の規定範囲より多い参考例2は、銅板の導電率がIACS基準に対して96%を下回り、熱伝導率も375W/m・Kを下回る。
【0056】
・参考例1
[(a)準備工程]~[(g)洗浄工程]で述べた構成について、[(d)接合工程]でZr含有量が0.03質量%である銅板を用いた。ろう付け工程は、実施例1と同様にろう付け温度800℃とし、保持する時間は1hとした(加熱工程)。その後、実施例1と同様に雰囲気温度をろう付け温度から350℃まで50分かけて降下させた(降温工程)。作製した回路基板について銅板の平均結晶粒径を測定したところ、110μmであった。また、銅板とろう材層の界面について、任意の120μm幅の領域を観察し、幅20μm程度の凹部を1個見出した。また、銅板の導電率を測定したところ、IACS基準に対して98%であった。測定した導電率から計算した熱伝導率は、383W/m・Kであった。
【0057】
・参考例2
[(a)準備工程]~[(g)洗浄工程]で述べた構成について、[(d)接合工程]でZrの含有量が0.18質量%である銅板を用いた。ろう付け工程は、実施例1と同様にろう付け温度800℃とし、保持する時間は1hとした(加熱工程)。その後、実施例1と同様に雰囲気温度をろう付け温度から350℃まで50分かけて降下させた(降温工程)。作製した回路基板について銅板の平均結晶粒径を測定したところ、15μmであった。また、銅板とろう材層の界面について、任意の120μm幅の領域を観察したが平滑であった。また、銅板の導電率を測定したところ、IACS基準に対して95%であった。測定した導電率から計算した熱伝導率は、371W/m・Kであった。
【0058】
本発明で規定した、接合工程における加熱工程の温度範囲および降温工程の冷却時間について、その規定範囲の理由を実施例と参考例を挙げて説明する。前述した実施例1~4は、加熱工程の温度および降温工程の冷却時間が本発明の規定範囲を満足しており、いずれも銅板の平均結晶粒径が100μm以下と小さく、セラミックス基板の接合性に優れている。また、銅板の導電率はIACS基準に対して96%以上であり、熱伝導率は375W/m・K以上である。
【0059】
参考例3と参考例4は、加熱工程の温度が本発明の規定範囲を外れる例である。温度が770℃未満である参考例3は、ろう材の溶融が不十分になるため、セラミックス基板の接合性が低下する。温度が880℃を超える参考例4は、ろう材が濡れ広がり過ぎることでセラミックス基板の接合性が低下する。また、温度が高すぎる場合、銅板の平均結晶粒径が100μmを超える恐れが生じる。
【0060】
参考例5は、降温工程の冷却時間が本発明の規定時間より短い例である。この場合、銅板の導電率がIACS基準に対して96%を下回り、熱伝導率も375W/m・Kを下回る。
【0061】
・参考例3
[(a)準備工程]~[(g)洗浄工程]で述べた構成について、[(d)接合工程]でZrの含有量が0.04質量%である銅板を用いた。ろう付け工程は、ろう付け温度を750℃とし、保持する時間は1hとした(加熱工程)。その後、雰囲気温度をろう付け温度から350℃まで50分かけて降下させた(降温工程)。作製した回路基板について銅板の平均結晶粒径を測定したところ、30μmであった。また、銅板とろう材層の界面について、任意の120μm幅の領域を観察したところ、幅20μm程度の凹部が2個見られた。また、銅板の導電率を測定したところ、IACS基準に対して98%であった。測定した導電率から計算した熱伝導率は、383W/m・Kであった。
【0062】
・参考例4
[(a)準備工程]~[(g)洗浄工程]で述べた構成について、[(d)接合工程]でZrの含有量が0.04質量%である銅板を用いた。ろう付け工程は、ろう付け温度を900℃とし、保持する時間は1hとした(加熱工程)。その後、雰囲気温度をろう付け温度から350℃まで50分かけて降下させた(降温工程)。作製した回路基板について銅板の平均結晶粒径を測定したところ、110μmであった。また、銅板とろう材層の界面について、任意の120μm幅の領域を観察し、幅20μm程度の凹部を1個見出した。また、銅板の導電率を測定したところ、IACS基準に対して98%であった。測定した導電率から計算した熱伝導率は、383W/m・Kであった。
【0063】
・参考例5
[(a)準備工程]~[(g)洗浄工程]で述べた構成について、[(d)接合工程]でZrの含有量が0.04質量%である銅板を用いた。ろう付け工程は、実施例1と同様にろう付け温度800℃とし、保持する時間は1hとした(加熱工程)。その後、雰囲気温度をろう付け温度から350℃まで30分かけて降下させた(降温工程)。作製した回路基板について銅板の平均結晶粒径を測定したところ、60μmであった。また、銅板とろう材層の界面について、任意の120μm幅の領域を観察したが平滑であった。また、銅板の導電率を測定したところ、IACS基準に対して95%であった。測定した導電率から計算した熱伝導率は、371W/m・Kであった。
【符号の説明】
【0064】
A,B:球形電極、
C1,C2,C3:ろう材層、
c1,c2:ろう材領域、
G:間隙、
M1,M2,M3:金属基板、
M:金属基板、
R1,R2:レジスト膜、
S:セラミックス基板、
W:セラミックス回路基板
図1
図2
図3
図4
図5
図6