(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2025-03-31
(45)【発行日】2025-04-08
(54)【発明の名称】リニアモータステージの制御装置及び制御方法
(51)【国際特許分類】
G05B 11/32 20060101AFI20250401BHJP
G05B 13/02 20060101ALI20250401BHJP
G05D 3/12 20060101ALI20250401BHJP
H02P 25/064 20160101ALI20250401BHJP
G03F 7/20 20060101ALI20250401BHJP
【FI】
G05B11/32 F
G05B13/02 L
G05D3/12 T
H02P25/064
G03F7/20 501
G03F7/20 521
(21)【出願番号】P 2021155299
(22)【出願日】2021-09-24
【審査請求日】2024-05-31
(73)【特許権者】
【識別番号】000005083
【氏名又は名称】株式会社プロテリアル
(74)【代理人】
【識別番号】110000729
【氏名又は名称】弁理士法人ユニアス国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】赤松 薫
【審査官】大古 健一
(56)【参考文献】
【文献】米国特許出願公開第2006/0170382(US,A1)
【文献】特開昭61-023207(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G05B 1/00 - 7/04
G05B 11/00 -13/04
G05B 17/00 -17/02
G05B 21/00 -21/02
G05D 3/00 - 3/20
H02P 7/02 - 7/025
H02P 25/032 -25/034
H02P 25/06 -25/066
G03F 7/20 - 7/24
G03F 9/00 - 9/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
可動のステージの位置情報に基づくPI制御又はPID制御によって前記ステージをフィードバック制御するフィードバック制御部と、
フィードフォワード値によって前記ステージをフィードフォワード制御するフィードフォワード制御部と、を備え、
前記フィードフォワード
値として、予め学習された前記フィードバック制御の比例値及び微分値を
使用せず、予め学習された前記フィードバック制御の積分値を
使用する、リニアモータステージの制御装置。
【請求項2】
前記フィードバック制御は、前記ステージの指令位置と検出位置との位置偏差に基づいて比例値と積分値とを導出するとともに、前記検出位置に基づいて微分値を導出する制御である、請求項1に記載のリニアモータステージの制御装置。
【請求項3】
可動のステージの位置情報に基づくPI制御又はPID制御によって前記ステージをフィードバック制御するとともに
、フィードフォワード値によって前記ステージをフィードフォワード制御し、
前記フィードフォワード
値として、予め学習された前記フィードバック制御の比例値及び微分値を
使用せず、予め学習された前記フィードバック制御の積分値を
使用する、リニアモータステージの制御方法。
【請求項4】
前記フィードバック制御は、前記ステージの指令位置と検出位置との位置偏差に基づいて比例値と積分値とを導出するとともに、前記検出位置に基づいて微分値を導出する制御である、請求項3に記載のリニアモータステージの制御方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、リニアモータステージの制御装置及び制御方法に関する。
【背景技術】
【0002】
リニアモータステージは、工作機械や測定器、半導体製造装置などの産業用機械に搭載され、重要な役割を果たしている。
【0003】
例えば、ステップ・アンド・リピート方式の半導体露光装置(ステッパー)では、基板を載せるステージにリニアモータステージが採用されている。ステッパーは、フォトマスクに形成されたパターンを基板上のショット領域に縮小投影し、1つのショット領域に対するパターン転写が終わると、基板を移動させて別のショット領域へのパターン転写を行う、という動作を繰り返す。したがって、基板を所要の位置で早期に停止させる必要があり、ステージには停止時の整定時間の短縮化が要求される。
【0004】
リニアモータステージの制御には、そのステージの位置情報に基づくフィードバック制御が用いられており、中でもPID制御が一般的である。停止時の整定時間を短縮するには、PID制御のゲインを上げて応答性を高めることが考えられるが、ステージの位置や剛性によっては発振を起こすことがあるため、ゲインを上げるにも限界があった。
【0005】
また、フィードバック制御にフィードフォワード制御を組み合わせた制御方式も知られている(例えば、特許文献1)。これによれば、リニアガイドの摩擦やケーブルベア(登録商標)の抵抗、架台の振動といった外乱の影響を抑えて、整定時間の短縮を図ることができる。しかし、本発明者が調査した結果、フィードフォワード制御のタイミングずれによるものと思われる振動が生じる場合があり、却ってフィードフォワード制御が外乱になり得ることが判明した。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は上記実情に鑑みてなされたものであり、その目的は、フィードフォワード制御のタイミングずれによる振動を抑えて停止時の整定時間を短縮できる、リニアモータステージの制御装置及び制御方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
フィードバック制御にフィードフォワード制御を組み合わせる制御方式では、学習制御を利用してフィードフォワード制御部の設計を行うことができる。学習制御では、例えば、ステージを所定の条件で実際に移動させてフィードバック処理したときの制御量を予め学習し、それをフィードフォワード値としてフィードフォワード制御に使用する。フィードフォワード制御によって様々な外乱の影響を抑制する趣旨からすれば、全体制御量であるサーボ出力をそのままフィードフォワード値とすることが普通に考えられる。
【0009】
しかし、本発明者が鋭意研究を重ねたところ、[1]そのようなサーボ出力には、ステージの移動に伴う高周波から低周波までの様々な周波数の外乱を抑制する成分が含まれていること、[2]そのうち高周波成分は主に比例値や微分値に由来し、低周波成分は主に積分値に由来していること、及び、[3]前述したフィードフォワード制御のタイミングずれによる振動は高周波成分に起因していること、が見出された。本発明は、かかる知見に基づいてなされたものであり、下記の如き構成によって上記目的を達成できるものである。
【0010】
本発明に係るリニアモータステージの制御装置は、可動のステージの位置情報に基づくPI制御又はPID制御によって前記ステージをフィードバック制御するフィードバック制御部と、予め学習されたフィードフォワード値によって前記ステージをフィードフォワード制御するフィードフォワード制御部と、を備え、前記フィードフォワード制御は、前記フィードバック制御の比例値及び微分値を前記フィードフォワード値に含めず、前記フィードバック制御の積分値を前記フィードフォワード値とする制御である。この装置によれば、フィードフォワード制御のタイミングずれによる振動を抑えて停止時の整定時間を短縮できる。
【0011】
本発明に係るリニアモータステージの制御方法は、可動のステージの位置情報に基づくPI制御又はPID制御によって前記ステージをフィードバック制御するとともに、予め学習されたフィードフォワード値によって前記ステージをフィードフォワード制御し、前記フィードフォワード制御は、前記フィードバック制御の比例値及び微分値を前記フィードフォワード値に含めず、前記フィードバック制御の積分値を前記フィードフォワード値とする制御である。この方法によれば、フィードフォワード制御のタイミングずれによる振動を抑えて停止時の整定時間を短縮できる。
【0012】
上記の制御装置又は制御方法において、前記フィードバック制御は、例えば、前記ステージの指令位置と検出位置との位置偏差に基づいて比例値と積分値とを導出するとともに、前記検出位置に基づいて微分値を導出する制御である、としてもよい。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【
図1】リニアモータステージの構成の一例を示す概略図
【
図2】制御装置が備える制御系の一例を示すブロック線図
【
図3A】ステージの停止間際の動作波形を示すグラフ(フィードフォワード制御:なし)
【
図3B】ステージの停止間際の動作波形を示すグラフ(フィードフォワード制御:あり、フィードフォワード値:サーボ出力)
【
図4A】ステージの停止間際の動作波形を示すグラフ(フィードフォワード制御:なし)
【
図4B】ステージの停止間際の動作波形を示すグラフ(フィードフォワード制御:あり、フィードフォワード値:積分値)
【
図5】停止位置を異ならせて計測した積分値の推移データを示すグラフ
【発明を実施するための形態】
【0014】
本発明の実施の形態について図面を参照しながら説明する。
【0015】
図1は、本実施形態の制御装置及び制御方法が適用されるリニアモータステージの構成の一例を示す概略図である。リニアモータステージ1は、リニアモータによってX方向に移動可能なステージ10を有する。半導体露光装置であるステッパーに搭載される場合は、処理対象物としての基板を保持した状態でステージ10を移動させることができる。リニアモータには、例えば、電磁石からなる可動子と、永久磁石からなる固定子とを有するコアレスリニアモータを使用できる。但し、これに限られず、従来公知のリニアモータを特に制約なく採用できる。
【0016】
ステージ10は、定盤2の上に設置されたリニアガイド3に支持されている。定盤2は、位置決め精度を確保するために、剛性が高く且つ周囲の温度や湿度の変化に対して影響を受けにくい材料(例えば、石材や鉄材、セラミックス材など)で形成されている。定盤2の表面は、高い面精度と平面度を有するように加工されている。リニアガイド3の両端には、ステージ10の移動範囲を規制するストッパー31が設けられている。
【0017】
位置検出部4は、X方向におけるステージ10の位置を検出可能に構成されている。位置検出部4には、例えばリニアエンコーダを使用できる。リニアエンコーダは、磁気式リニアエンコーダでもよいが、小型化が比較的容易な光学式リニアエンコーダであることが好ましい。光学式リニアエンコーダは、固定子側に設置したリニアスケールの目盛に応じた光の反射/非反射による光パルスを検出する反射型、及び、リニアスケールのスリットの有無に応じた光の透過/遮断による光パルスを検出する透過型のいずれでもよい。リニアエンコーダに限らず、レーザ干渉計などを利用して位置検出部4を構成することも可能である。
【0018】
ステージ10の位置を検出した位置検出部4は、そのステージ10の検出位置を与える検出位置信号PS2を発生し、その検出位置としての位置情報がリニアモータステージの制御装置5に供給される。制御装置5は、ステージ10を所要の位置に移動させるために、後述する制御系によってリニアモータステージ1を制御する。制御装置5は、コンピュータのハードウェア及びソフトウェアによって提供することができる。
【0019】
図2は、制御装置5が備える制御系を示すブロック線図である。
図2に示すように、制御装置5は、位置指令部51と、フィードバック制御部6と、フィードフォワード制御部7とを含んで構成される。位置指令部51は、ステージ10の指令位置(目標位置)を与える指令位置信号PS1を発生する。フィードバック制御部6は、可動のステージ10の位置情報に基づくPI制御又はPID制御によってステージ10をフィードバック制御する。フィードフォワード制御部7は、予め学習されたフィードフォワード値によってステージ10をフィードフォワード制御する。
【0020】
本実施形態において、フィードバック制御部6は、演算器61、比例器62、積分器63、演算器64、微分器65及び演算器66を有する。演算器61には、位置指令部51から出力された指令位置信号PS1、及び、位置検出部4から出力された検出位置信号PS2が入力される。演算器61は、ステージ10の指令位置と検出位置との差分を演算し、その演算結果としての位置偏差を与える演算信号CS1は比例器62に入力される。比例器62は、位置偏差に比例ゲインを乗算し、その演算結果としての比例値を与える演算信号CS2は積分器63及び演算器64に入力される。
【0021】
積分器63は、比例値と積分ゲインとの乗算結果を積分し、その演算結果としての積分値を与える演算信号CS3は演算器64に入力される。演算器64は、比例値と積分値とを加算し、その演算結果を与える演算信号CS4は演算器66に入力される。微分器65は、ステージ10の検出位置と微分ゲインとの乗算結果を微分し、その演算結果としての微分値を与える演算信号CS5は演算器66に入力される。また、後述するフィードフォワード制御によって、フィードフォワード値を与える制御信号CS6が演算器66に入力される。
【0022】
演算器66は、比例値と積分値との加算結果に微分値を加算し、その演算結果は、ステージ10をフィードバック制御するための全体制御量であるサーボ出力(比例値+積分値+微分値)となる。また、制御信号CS6が演算器66に入力された場合、演算器66は、フィードフォワード値を加算することによりサーボ出力を補償する。演算器66による演算結果としてのサーボ出力を与える制御信号CS7は、ステージ10の駆動回路(図示せず)に入力される。駆動回路は、制御信号CS7に応じた推力がステージ10に与えられるよう、所要の駆動電流を可動子のコイルに供給する。
【0023】
フィードフォワード制御部7は、位置指令部51から出力される指令位置信号PS1に基づいて、ステージ10のフィードフォワード制御を行う。フィードフォワード制御の詳細については後述する。
【0024】
監視部81~84は、それぞれサーボ出力、比例値、積分値及び微分値を与える信号をモニタする。これらのモニタ結果は所定の場所(例えば、制御装置5が備える記憶部)に記憶される。後述のグラフで示されるサーボ出力などの推移データは、これらのモニタ結果に基づくものである。
【0025】
学習制御を利用してフィードフォワード制御部7を設計するには、所定の条件(例えば、速度、加速度及び停止位置)でステージ10を実際に移動させてフィードバック処理したときのサーボ出力を予め学習し、そのサーボ出力をフィードフォワード値とすることが普通に考えられる。しかし、本発明者が調査した結果、
図3A及び3Bを用いて説明するように、フィードフォワード制御のタイミングずれによるものと思われる振動が生じる場合があり、却ってフィードフォワード制御が外乱になり得ることが判明した。
【0026】
図3Aは、所定の条件で移動させたステージ10の停止間際の動作波形を示すグラフである。但し、フィードフォワード制御部7は作動させず、フィードフォワード制御を実行していない。横軸は時間(sec)であり、縦軸は位置偏差(μm)、指令加速度(μm/s
2)及びサーボ出力である。位置指令(指令位置信号PS1の発出)から所定時間(速度と距離との関係から導出される時間)が経過すると、指令加速度がゼロとなる。横軸の時間は、その時点をゼロとしている。整定時間Tsは、位置偏差が所望の整定幅Ws(例えば±100nm)の範囲内に収まるまでの時間である。
【0027】
なお、本明細書で参照するグラフには横軸の数値が記載されていないものの、その境界値(即ち、最小値と最大値)は、
図3A、後述する
図3B,
図4A及び
図4Bにおいて相互に一致させている。縦軸も同様である。したがって、これらのグラフの対比により、位置偏差や整定時間Tsなどを相対的に評価することは可能である。
【0028】
図3Bは、
図3Aと同じ条件でステージ10を移動させたときの動作波形である。但し、フィードフォワード制御を実行している。フィードフォワード値には、予め学習したサーボ出力、具体的には時間ゼロ以降のサーボ出力の推移データ(
図3A参照)を使用し、それが時間ゼロのタイミングで加算されるように制御した。
図3Bでは、
図3Aと比べて整定時間Tsが幾分か短縮されているものの、位置偏差の波形が乱れて振幅が大きくなっている。これは、フィードフォワード制御のタイミングずれによる振動が要因と考えられ、このような振動が生じることでフィードフォワード制御が外乱になる恐れがある。
【0029】
上記現象について本発明者が鋭意研究を重ねたところ、
図4Aを参照して説明するように、[1]予め学習したフィードフォワード値としてのサーボ出力には、ステージ10の移動に伴う高周波から低周波までの様々な周波数の外乱を抑制する成分が含まれていること、[2]そのうち高周波成分は主に比例値や微分値に由来し、低周波成分は主に積分値に由来していること、及び、[3]フィードフォワード制御のタイミングずれによる振動は高周波成分に起因していること、が見出された。
【0030】
図4Aは、所定の条件で移動させたステージ10の停止間際の動作波形を示すグラフである。但し、フィードフォワード制御部7は作動させず、フィードフォワード制御を実行していない。
図3Bと同程度の整定時間Tsが得られているが、これは
図3A及び
図3Bとは条件が異なるためである。
図4Aでは、フィードバック制御の積分値と、比例値と微分値との加算値についても示している。サーボ出力は、これら三つを加算したものに相当する。指令加速度は、
図3Aと同様に時間ゼロ以降は0μm/s
2で推移するため、記載を省略している(後述する
図4Bも同様)。
【0031】
図4Aにおいて、位置偏差の波形には、時間ゼロの近傍で相対的に高周波の外乱による影響が見られ、それに続いて相対的に低周波の外乱による影響が見られる。よって、その外乱の影響を抑制するためのサーボ出力には、高周波から低周波までの様々な周波数の成分が含まれている。このサーボ出力をそのままフィードフォワード値にすると、その高周波成分に起因してフィードフォワード制御のタイミングずれが起きやすく、タイミングが少しずれることによりフィードフォワード制御が外乱になり得ると考えられる。
【0032】
また、
図4Aより、高周波の外乱による影響の抑制に対しては主に比例値や微分値が寄与し、低周波の外乱による影響の抑制に対しては主に積分値が寄与していることが看取できる。したがって、サーボ出力に含まれる高周波成分は主に比例値や微分値に由来し、低周波成分は主に積分値に由来していることが分かる。このことは、微分値が用いられない点を除いて、フィードバック制御がPI制御である場合も同様であると考えられる。
【0033】
かかる知見に基づき、本実施形態では、フィードフォワード制御を、フィードバック制御の比例値及び微分値をフィードフォワード値に含めず、フィードバック制御の積分値をフィードフォワード値とする制御としている。よって、本実施形態で用いられるフィードフォワード値には、フィードバック制御の積分値は含まれるが、比例値や微分値は含まれない。
図3Bの場合は、監視部81のモニタ結果であるサーボ出力をフィードフォワード値に利用できたが、本実施形態では、監視部83のモニタ結果である積分値をフィードフォワード値に利用できる。
【0034】
フィードフォワード制御部7は、位置指令部51から出力される指令位置信号PS1に基づき、予め学習されたフィードフォワード値を与える制御信号CS6を出力する。上述のように、フィードフォワード値には、事前の学習によって所定の場所に記憶された積分値を使用する。演算器66は、入力された制御信号CS6に応じたフィードフォワード値(積分値)を加算してサーボ出力を補償する。後述するように、本実施形態では、時間ゼロのタイミングでフィードフォワード値が加算されるように制御を行う。
【0035】
図4Bは、
図4Aと同じ条件でステージ10を移動させたときの動作波形である。但し、フィードフォワード制御を実行している。フィードフォワード値には、予め学習した積分値、具体的には時間ゼロ以降の積分値の推移データ(
図4A参照)を使用し、それが時間ゼロのタイミングで加算されるように制御した。本実施形態では、停止間際でフィードフォワード制御するために、このようなタイミングを採用しているが、これに限定されるものではなく、フィードフォワード値としての積分値を加算するタイミングは任意である。例えば時間ゼロから遡った時点を基準とし、それ以降の積分値のデータを、その基準のタイミングで加算することも可能である。
【0036】
図4Bの位置偏差の波形を見ると、低周波の外乱による影響が効果的に抑えられ、それにより位置偏差の変動が比較的早期に収まっている。その結果、整定時間Tsが短縮され、
図4Aと比べて半分以下にまで減っている。これは、フィードフォワード値が比例値や微分値を含まず、高周波成分に起因したフィードフォワード制御のタイミングずれによる振動が抑えられたことが要因であると考えられる。ステージ10の停止時の整定時間Tsが短縮されることで、ステッパーでは露光の開始を早めることができ、タクトタイムの改善に役立つ。
【0037】
図4Bでは、積分値をフィードフォワード処理したことにより、フィードバック制御の積分値が略一定で推移している。このようにフィードバック制御では積分がほとんど仕事をしない状態となるため、積分ゲインを下げられる。積分ゲインを過度に上げると、低周波の外乱だけでなく高周波の外乱にも作用して発振を起こしやすくなるので、積分ゲインを下げることは発振の防止策になる。高周波の外乱に対しては、比例ゲインや微分ゲインを上げることで対策できるため、ゲイン調整方法が明確で分かりやすい。フィードフォワード制御による外乱抑制効果を高める観点から、フィードフォワード値となる積分値を学習する際は、積分ゲインを上げて積分値を大きくすることが好ましい。
【0038】
フィードフォワード値となる積分値を学習する際、速度や加速度、停止位置などの条件には、リニアモータステージ1を実際に使用するときの条件が用いられる。ステージ10の停止位置による積分値の変動が懸念される場合は、複数の停止位置で積分値を計測し、それらの平均値をフィードフォワード値として用いることが考えられる。
図4Bは、そのような平均値を用いた結果であり、具体的には
図5に示す平均値のデータをフィードフォワード値として採用したものである。但し、後述するように、平均値を使用しなくても構わない。
【0039】
図5は、
図4Aの動作波形に対して停止位置を異ならせて計測した積分値の推移データを示すグラフであり、
図4Aに比べて縦軸の縮尺を拡大している。停止位置としては、位置Aから位置Jまで所定ピッチ(例えば、15mmピッチ)で異ならせた10種を使用した。
図5において停止位置の違いによる積分値の変動はほとんど無く、それぞれ同様の推移を示している。よって、速度や加速度の条件が同じであれば、どの位置で停止させる場合であっても、或る積分値(例えば、位置Eでの積分値)をフィードフォワード値として使用できると考えられる。
【0040】
前述の
図3Bでは、フィードフォワード制御を実行して位置偏差の振動や振幅が大きくなった例を示したが、これは予め学習されたフィードフォワード値としてサーボ出力を使用した結果であった。よって、
図3Bの動作条件においても、予め学習されたフィードフォワード値としてフィードバック制御の積分値を使用した場合には、
図4Bの場合と同様に整定時間の短縮が見込まれる。
【0041】
本実施形態では、フィードバック制御部6が実行するフィードバック制御が、ステージ10の指令位置と検出位置との位置偏差に基づいて比例値と積分値とを導出するとともに、その検出位置に基づいて微分値を導出する制御である例を示した。但し、その他のPI制御又はPID制御によってフィードバック制御を実行してもよく、例えば位置偏差に基づいて微分値を導出するPID制御でも構わない。その場合は、微分器65に演算信号CS1が入力され、位置偏差と微分ゲインとの乗算結果を微分した演算結果を与える信号が演算器66に入力されるように構成してもよい。
【0042】
以上のように、本実施形態におけるリニアモータステージの制御方法では、可動のステージ10の位置情報に基づくPI制御又はPID制御によってステージ10をフィードバック制御するとともに、予め学習されたフィードフォワード値によってステージ10をフィードフォワード制御する。また、そのフィードフォワード制御は、フィードバック制御の比例値及び微分値をフィードフォワード値に含めず、フィードバック制御の積分値をフィードフォワード値とする制御である。
【0043】
本発明に係る制御装置及び制御方法が適用されるリニアモータステージは、1軸のリニアモータステージに限られず、例えば2軸のリニアモータステージの両方又は片方であってもよい。2軸のリニアモータステージとしては、互いに直交する方向に沿って設置された2軸のリニアモータステージを備えるXYステージでもよく、或いは、互いに平行に設置された2軸のリニアモータステージを連結用テーブルで接続したガントリステージでもよい。
【0044】
本発明に係る制御装置及び制御方法は、前述の如き作用効果を奏してステージが停止するときの整定時間を短縮できるため、半導体露光装置において基板などを移動させるリニアモータステージに対して特に有用である。半導体露光装置としては、前述したステッパーに限られず、ステップ・アンド・スキャン方式の半導体露光装置(スキャナー)でもよい。
【0045】
本発明は上述した実施形態に何ら限定されるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲内で種々の改良変更が可能である。
【符号の説明】
【0046】
1 リニアモータステージ
5 制御装置
6 フィードバック制御部
7 フィードフォワード制御部
10 ステージ