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特許7658238成形用金型、焼結磁石の製造方法、及び焼結磁石
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2025-03-31
(45)【発行日】2025-04-08
(54)【発明の名称】成形用金型、焼結磁石の製造方法、及び焼結磁石
(51)【国際特許分類】
   H01F 41/02 20060101AFI20250401BHJP
   H01F 7/02 20060101ALI20250401BHJP
   H01F 1/08 20060101ALI20250401BHJP
   B22F 3/00 20210101ALI20250401BHJP
   B22F 3/035 20060101ALI20250401BHJP
   C22C 38/00 20060101ALN20250401BHJP
【FI】
H01F41/02 G
H01F7/02 E
H01F1/08 160
B22F3/00 F
B22F3/035 D
C22C38/00 303D
【請求項の数】 8
(21)【出願番号】P 2021160006
(22)【出願日】2021-09-29
(65)【公開番号】P2023049945
(43)【公開日】2023-04-10
【審査請求日】2024-06-04
(73)【特許権者】
【識別番号】000005083
【氏名又は名称】株式会社プロテリアル
(74)【代理人】
【識別番号】100080012
【弁理士】
【氏名又は名称】高石 橘馬
(74)【代理人】
【識別番号】100168206
【弁理士】
【氏名又は名称】高石 健二
(72)【発明者】
【氏名】渡邉 一哉
(72)【発明者】
【氏名】福島 貞利
【審査官】井上 健一
(56)【参考文献】
【文献】特開2017-055074(JP,A)
【文献】特開平05-234747(JP,A)
【文献】国際公開第2011/024936(WO,A1)
【文献】米国特許出願公開第2017/0076846(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01F 41/02
H01F 7/02
H01F 1/08
B22F 3/00
B22F 3/035
C22C 38/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
焼結磁石の成形に用いるための成形用金型であって、
前記成形用金型によって成形される成形体の角部分に対応する隅部分に隅アールが設けられており、
前記隅部分の稜線方向に直交する断面において、
前記隅アールが円弧状曲線部と前記円弧状曲線部の端部に接続する直線部とからなることを特徴とする成形用金型。
【請求項2】
請求項1に記載の成形用金型において、
前記円弧状曲線部と前記直線部との接続部分を点P1としたとき、
前記円弧状曲線部の点P1における接線が前記直線部に一致することを特徴とする成形用金型。
【請求項3】
成形用金型を用いて焼結磁石用微粉を成形して成形体を作製し、前記成形体を焼結して焼結体を作製し、前記焼結体の所定の側面を加工により研削して焼結磁石を製造する方法であって、
前記成形用金型は、前記成形体の角部分に対応する隅部分に隅アールが設けられており、前記隅部分の稜線方向に直交する断面において、
前記隅アールが円弧状曲線部と前記円弧状曲線部の端部に接続する直線部とからなり、
前記焼結体は、前記成形用金型の隅部分に対応する角部分に角アールが形成され、
前記角部分の稜線方向に直交する断面において、
前記角アールは、前記成形用金型の前記円弧状曲線部と前記直線部とに対応する円弧状曲線部と直線部とからなり、
前記焼結体の前記角アールの前記直線部と前記直線部に接続する側面とを研削により除去し、もって前記円弧状曲線部からなる角アールを有する焼結磁石を形成することを特徴とする焼結磁石の製造方法。
【請求項4】
請求項3に記載の焼結磁石の製造方法において、
前記焼結体の角アールの前記円弧状曲線部と前記直線部との接続部分を点P3としたとき、
前記円弧状曲線部の点P3における接線が前記直線部に一致することを特徴とする焼結磁石の製造方法。
【請求項5】
請求項3又は4に記載の焼結磁石の製造方法において、
前記焼結磁石が、希土類焼結磁石又はフェライト焼結磁石であることを特徴とする焼結磁石の製造方法。
【請求項6】
角部分に形成された未加工の角アールと、前記角アールに接続する2つの面とを有する焼結磁石であって、
前記2つの面のうち少なくとも1つの面が加工面であり、
前記2つの面のなす角度α(deg)、及び
前記角アールを円弧で近似したときの中心角θ(deg)が、
0.5×(180-α)≦θ<(180-α)
を満たすことを特徴とする焼結磁石。
【請求項7】
請求項6に記載の焼結磁石において、
前記角度α(deg)及び前記中心角θ(deg)が、
0.7×(180-α)≦θ<(180-α)
を満たすことを特徴とする焼結磁石。
【請求項8】
請求項6又は7に記載の焼結磁石において、
前記焼結磁石が、希土類焼結磁石又はフェライト焼結磁石であることを特徴とする焼結磁石。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は成形用金型、前記成形用金型を用いた焼結磁石の製造方法、及び焼結磁石に関する。
【背景技術】
【0002】
モーター、発電機等の回転機を含む種々の用途に、希土類焼結磁石及びフェライト焼結磁石が広く用いられている。
【0003】
希土類焼結磁石としては、R-T-B系焼結磁石(Rは希土類元素の少なくとも1種であり、Nd及びPrの少なくとも一方を必ず含む。Tは遷移金属元素のうち少なくとも1種であり、鉄(Fe)を必ず含む。Bは硼素を意味する。)、Sm-Co系焼結磁石(Sm(サマリウム)の一部は他の希土類元素により置換してよい)等が知られており(特許文献1)、フェライト焼結磁石としては、六方晶系のM型(マグネトプランバイト型)Srフェライト、Baフェライト等の焼結磁石が知られている(特許文献2)。
【0004】
これらの焼結磁石は、磁性粉末を所定の形状に成形し、焼結することで得られる。また、その成形方法として、乾式成形法(例えば、特許文献3(特開2004-296849号))や湿式成形法(例えば、特許文献4(特許第3833861号))が知られている。乾式成形法では、乾燥した磁性粉末を磁場を印加した中で加圧成形することで成形体を作製し、得られた成形体を焼成する。湿式成形法では、磁性粉末を含むスラリーを、磁場を印加した中で液体成分を除去しながら加圧成形することで成形体を作製し、得られた成形体を焼成する。
【0005】
例えば、フェライト焼結磁石は、(a)Fe、Sr、Ba、Ca、La、Co等の化合物等の原材料を混合する工程、(b)仮焼によりフェライト化反応を行い仮焼体を得る工程、(c)仮焼体を粗粉砕し、焼結助剤等の化合物を添加し湿式微粉砕する工程、(d)得られた仮焼体微粒子のスラリーを磁場中成形し成形体を得る工程、(e)前記成形体を焼成する工程、及び(f)得られた焼結体を使用目的に応じた形状に加工する行程により製造される。
【0006】
焼結磁石の製造工程における成形体及び焼結体のハンドリング時や焼結磁石の製品の使用時に欠けや割れが発生しないようにするため、成形体の角部に円弧形状の面取り、いわゆるアール面取りを設ける場合がある。通常このようなアール面取り(以下、「角アール」とも言う。)は、前記角アールに対応させて成形用金型の隅部分に円弧形状の隅アール設けることによって形成する。しかしながら、前記円弧形状の隅アール形状を有する金型を用いた成形によって成形体の角部に形成された角アールは、加工前の状態(成形体及び焼結体の状態)では所望の(理想的な)円弧形状を有しているが、加工工程で焼結体の角アールに接続する面を研削する際に、形成した角アールの一部も一緒に研削により除去されてしまい、角アールの形状が所望の形状ではなくなってしまう。そのため、得られる焼結磁石においては、欠けや割れの防止効果が十分に発揮されなくなるといった問題が生じる。
【0007】
特許文献5(特開2016-188402号)は、円柱形状などの棒状の成形体を、亀裂の発生を抑制して成形するためのプレス装置、及び前記プレス装置を用いて磁石を製造する方法を開示している。前記プレス装置は、キャビティを形成する貫通孔を有するダイスと、前記キャビティ内に充填された磁性粉末をプレスするための上パンチ及び下パンチとを備え、前記ダイスの貫通孔は、長さLdおよび幅Wd(Ld>Wd)を有する成形部と、前記成形部の上側に形成されたテーパー部とを有し、前記上パンチ及び下パンチの加圧面は凹曲面と前記凹曲面に接続する平面を含む。前記プレス装置によって形成された円柱状の成形体は、前記凹曲面に接続する平面とダイスとによって形成されるフリンジ部を有しており、このフリンジ部は加工によって除去され、円柱状の成形体(又は焼結体)が得られる。
【0008】
特許文献5に記載のプレス装置及び方法は、前記テーパー部の形状を最適化することにより、成形体をプレス装置から取り出す際に成形体のフリンジ部の下部から水平方向に発生する亀裂を防止することを目的としており、角アールの効果を十分に発揮させることを目的としたものではない。
【0009】
特許文献6(特開2020-39251号)は、凸状の第1主面、その反対側の第2主面、及び側面を有する焼結磁石の第1主面の頂上部を部分的に研削することによって第1主面の一部に基準平面を形成し、側面の少なくとも一部を研削することによって焼結磁石の長さおよび/または幅を規定する面を形成することを特徴とするモーター用焼結磁石の製造方法を開示している。特許文献6の方法によって得られる焼結磁石は、研削によって形成された基準平面と、その両側に接続する未加工の(研削されていない)曲面とを有してなる。
【0010】
特許文献6に記載の方法は、モーターの性能を低下させることなく、磁石材料の歩留り向上および研削加工の工程時間短縮を目的とした方法であり、角アールの効果を十分に発揮させることを目的としたものではない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0011】
【文献】再表2014/027638号公報
【文献】特開2011-216857号公報
【文献】特開2004-296849号公報
【文献】特許第3833861号公報
【文献】特開2016-188402号公報
【文献】特開2020-39251号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
従って、本発明の目的は、焼結体を研削加工した後でも、欠けや割れの防止効果を十分に発揮できるような角アールを有する焼結磁石が得られるような成形用金型、前記成形用金型を用いて焼結磁石を製造する方法、及び欠けや割れの防止効果を十分に発揮できる角アールを有する焼結磁石を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0013】
上記目的に鑑み鋭意検討の結果、本発明者は、焼結磁石の角部分に形成する欠けや割れ防止のための角アールが、前記角部分に接続する面を研削加工した後に所望の円弧形状になるようにするため、成形体の角部分に前記所望の円弧形状を有する円弧状曲線部と前記円弧状曲線部の端部に接続する直線部とからなる角アールを形成することにより、加工時に、前記円弧状曲線部を研削せずに残して前記直線部に相当する部分のみを研削し、前記円弧状曲線部の全て又は大部分を研削せずに残して、もって所望の円弧形状からなる角アールを有する焼結磁石を作製することができることを見いだし、本発明に想到した。
【0014】
すなわち、焼結磁石の成形に用いるための本発明の成形用金型は、
前記成形用金型によって成形される成形体の角部分に対応する隅部分に隅アールが設けられており、
前記隅部分の稜線方向に直交する断面において、
前記隅アールが円弧状曲線部と前記円弧状曲線部の端部に接続する直線部とからなることを特徴とする。
【0015】
前記円弧状曲線部と前記直線部との接続部分を点P1としたとき、
前記円弧状曲線部の点P1における接線が前記直線部に一致するのが好ましい。
【0016】
焼結磁石を製造する本発明の方法は、
成形用金型を用いて焼結磁石用微粉を成形して成形体を作製し、前記成形体を焼結して焼結体を作製し、前記焼結体の所定の側面を加工により研削して焼結磁石を製造する方法であって、
前記成形用金型は、前記成形体の角部分に対応する隅部分に隅アールが設けられており、前記隅部分の稜線方向に直交する断面において、
前記隅アールが円弧状曲線部と前記円弧状曲線部の端部に接続する直線部とからなり、
前記焼結体は、前記成形用金型の隅部分に対応する角部分に角アールが形成され、
前記角部分の稜線方向に直交する断面において、
前記角アールは、前記成形用金型の前記円弧状曲線部と前記直線部とに対応する円弧状曲線部と直線部とからなり、
前記焼結体の前記角アールの前記直線部と前記直線部に接続する側面とを研削により除去し、もって前記円弧状曲線部からなる角アールを有する焼結磁石を形成することを特徴とする。
【0017】
本発明の製造方法において、
前記焼結体の角アールの前記円弧状曲線部と前記直線部との接続部分を点P3としたとき、
前記円弧状曲線部の点P3における接線が前記直線部に一致するのが好ましい。
【0018】
本発明の製造方法において、
前記焼結磁石が、希土類焼結磁石又はフェライト焼結磁石であるのが好ましい。
【0019】
本発明の焼結磁石は、
角部分に形成された未加工の角アールと、前記角アールに接続する2つの面とを有し、
前記2つの面のうち少なくとも1つの面が加工面であり、
前記2つの面のなす角度α(deg)、及び
前記角アールを円弧で近似したときの中心角θ(deg)が
0.5×(180-α)≦θ<(180-α)
を満たすことを特徴とする。
【0020】
前記角度α(deg)及び前記中心角θ(deg)は、
0.7×(180-α)≦θ<(180-α)
を満たすのが好ましい。
【0021】
前記焼結磁石が、希土類焼結磁石又はフェライト焼結磁石であるのが好ましい。
【発明の効果】
【0022】
本発明によれば、焼結体の側面を研削加工した後でも、所望の理想的な円弧形状の角アールを有する焼結磁石を得ることができるので、焼結磁石の欠けや割れを有効に防止できる。
【図面の簡単な説明】
【0023】
図1】焼結磁石の成形に用いる本発明の成形用金型の一例を模式的に示す部分断面図である。
図2図1に示す成形用金型を用いて形成された成形体の部分断面図である。
図3(a)】図2に示す成形体を焼結して得られた焼結体の部分断面図である。
図3(b)】図3(a)に示す焼結体を研削加工して得られた焼結磁石の部分断面図である。
図3(c)】図3(b)に角アールの角度の説明を加筆した部分断面図である。
図4】焼結体の側面の研削位置を説明するための模式断面図である。
図5(a)】圧縮成形用金型の一例を示す模式断面図である。
図5(b)】図5(a)のA-A断面図である。
図6】焼結磁石の成形に用いる従来の成形用金型の一例を模式的に示す部分断面図である。
図7(a)】図6に示す成形用金型を用いて形成された成形体を焼結して得られた焼結体の部分断面図である。
図7(b)】図7(a)に示す焼結体を研削加工して得られた焼結磁石の部分断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0024】
[1]成形用金型
(1)従来の成形用金型
本発明の成形用金型を説明する前に、従来の成形用金型について説明する。図6は、焼結磁石の成形に用いる従来の成形用金型110の隅部分の一例を模式的に示す、隅部分の稜線方向に直交する部分断面図である。従来の成形用金型110は、成形により形成される成形体(図示せず)の角部分(稜)に、角部分の稜線方向に直交する断面視で、所望の円弧形状からなる角アールが設けられるように、成形体の角部分に対応する隅部分112に、所望の円弧形状からなる隅アール111が設けられている。
【0025】
ここで成形体の角部分に形成する所望の円弧形状の角アールとは、角部分(稜)で交差する隣り合った2つの面がなめらかに接続するように設けられた円弧形状(稜線方向断面視)のことを言う。隣り合った2つの面のなす角度をθとしたとき、好ましくは中心角がθの円弧で形成された角アールである。
【0026】
従って、成形用金型110に形成される隅アール111は、図6に示すように、隅部分112で交差する2つの面113,114になめらかに接続するように形成された円弧形状を有する。成形用金型110の面113と面114とのなす角度をα(図では90°)としたとき、中心角がθ(=180-α)の円弧で隅アール111を形成するのが好ましい。
【0027】
なお本願において、角部分とは、隣り合った2つの面が交わってなす凸状部分(いわゆる、「稜」又は「凸稜」)のことであり、隅部分とは、隣り合った2つの面が交わってなす凹状部分(いわゆる、「稜」又は「凹稜」)のことである。また角アールとは、角部分(凸稜)に丸みをつけて隣り合った2つの面がなめらか接続するように形成された曲面部のことであり、隅アールとは、隅部分(凹稜)で交差する隣り合った2つの面がなめらか接続するように形成された曲面部のことである。
【0028】
このような成形用金型110を用いて成形された成形体は、隅アール111に対応する形状の角アールを有しており、この成形体を焼結して得られる焼結体130は、図7(a)に示すように、隅アール111に対応する形状の角アール131を有する。なお焼結体130は、焼結による収縮等により厳密には成形体の形状(すなわち成形用金型110によって成形された形状)と厳密には同じ形状にはならないが、本願では簡単のため、成形体と実質的に同じ形状であるとして説明する。
【0029】
この焼結体130の角アール131に接続する1つの面133をL0の位置(図7(a)を参照)まで研削することにより、加工された面133’と未加工の面134とそれらに接続する角アール131’を有する焼結磁石130’が得られる(図7(b)を参照)。加工後の焼結磁石130’は、面133が研削され加工取り代135が除去されたことにより、角アール131の一部も研削により除去され、角アール131’の円弧が短くなる(中心角が小さくなる)とともに、角アール131’と加工された面133’とがなめらかに接続しない。このため、欠けや割れに対する防止効果が減少してしまう。
【0030】
(2)本発明の成形用金型
次に、本発明の成形用金型について説明する。図1は、焼結磁石の成形に用いる本発明の成形用金型10の隅部分12の一例を模式的に示す部分断面図である。本発明の成形用金型10は、成形により形成される成形体20(図2を参照)の角部分22に対応する隅部分12に隅アール11が設けられており、前記隅部分12の稜線方向に直交する断面において、前記隅アール11が円弧状曲線部11aと円弧状曲線部11aの端部に接続する直線部11bとからなることを特徴とする。
【0031】
図2は、この成形用金型10を用いて形成された成形体20の角部分22を示す部分断面図である。成形用金型10を用いて形成される成形体20は、成形用金型10の隅部分12に対応する角部分22に角アール21が形成される。角アール21は、角部分22の稜線方向に直交する断面において、成形用金型10の円弧状曲線部11aと直線部11bとに対応する円弧状曲線部21aと直線部21bとからなる。
【0032】
図3(a)~図3(c)は、この成形体20を焼結して得られた焼結体30の角部分32を示す部分断面図である。前述した従来例の場合と同様に、焼結体30は、焼結による収縮等により厳密には成形体20と同じ形状にはならないが、ここでは簡単のため、成形体20と実質的に同じ形状であるとして説明する。焼結体30は、成形体20と同様に、角部分32の稜線方向に直交する断面において、角部分32に円弧状曲線部31aと前記円弧状曲線部31aの端部に接続する直線部31bとからなる角アール31を有する。すなわち、焼結体30は、成形用金型10の隅部分12に対応する角部分32に角アール31を有し、前記角アール31は、角部分32の稜線方向に直交する断面において、成形用金型10の円弧状曲線部11aと直線部11bとに対応する円弧状曲線部31aと直線部31bとからなる。
【0033】
得られた焼結体30は、図3(a)に示すように、角部分32の直線部31b側に接続する面33をLの位置まで研削し、直線部31bを含む加工取り代35が除去される。このような研削加工により、円弧状曲線部31aのみからなる角アール31’と加工取り代35を除去してなる研削された面33’とを有する焼結磁石30’が得られる(図3(b)を参照)。ここで、角アール31’(円弧状曲線部31a)は研削により除去されずに成形用金型10によって形成された形状がそのまま残っているため、所望の角アール31’を有する焼結磁石30’とすることができる。
【0034】
(a)隅アールの構成
成形用金型10の隅部分12に形成する隅アール11は、隅部分の稜線方向に直交する断面において、円弧状曲線部11aと円弧状曲線部11aの端部に接続する直線部11bとからなる。円弧状曲線部11aは、隅アール11の曲面部を形成し、隅部分12の稜線方向に直交する断面において、限定されないが、半径r及び中心角θの円弧形状であるのが好ましい。半径rは、最終的に得られる焼結磁石の大きさや使用目的等で適宜設定されるものであり特に限定されない。中心角θ(deg)は、隅部分12に接続する2つの面のなす角度α(deg)に応じて設定するのが好ましく、0.5×(180-α)≦θ<(180-α)であるのが好ましく、0.7×(180-α)≦θ<(180-α)であるのがより好ましく、0.9×(180-α)≦θ<(180-α)であるのが最も好ましい。
【0035】
直線部11bは、隅部分12で交差する2つの面のうち少なくとも一方の面13の側に、円弧状曲線部11aと前記一方の面13とを接続するように形成する。このように、隅部分12に円弧状曲線部11aと直線部11bとを形成してなる成形用金型10を用いることにより、対応する角部分に円弧状曲線部と直線部とを有する成形体及び焼結体が得られる。このとき焼結体30の角部分32に接続する2つの面33,34のうち、研削加工を施す面33の側に直線部31bが形成されるように成形用金型10の直線部11bを設ける。焼結体30の角部分32に接続する2つの面33,34のうち一方の面33のみを研削加工する場合は、それに対応する成形用金型10の面13の側のみに、円弧状曲線部11aと接続する直線部11bを形成すればよい。また焼結体30の角部分32に接続する両方の面33,34を研削加工する場合は、成形用金型10の隅部分12で交差する両方の面13,14に接続するように、円弧状曲線部と接続する直線部を形成する。
【0036】
直線部11bは、隅部分12の稜線方向に直交する断面において、円弧状曲線部11aと直線部11bとの接続部分を点P1としたとき、円弧状曲線部11aの点P1における接線が直線部11bに一致する(重なる)ように設定するのが好ましい。すなわち、円弧状曲線部11aと直線部11bとがなめらかに接続するように成形用金型10の隅部分12を形成するのが好ましい。
【0037】
円弧状曲線部11bの点P1における接線(方向)と直線部11b(方向)とを一致させるのが好ましい理由を以下に説明する。本願発明の成形用金型は、焼結磁石の成形に用いるものであるので、成形用金型によって成形した成形体はその後焼結され焼結体となる。一般に焼結することによって成形体は収縮するが、その収縮率は必ずしも一定ではないので、所定の側面を加工によりある程度研削し、所定の寸法の焼結磁石の製品とする。このときに個体ごとのばらつきによって、研削によって除去される加工取り代の厚みが異なるため、例えば、図4に示すように、点P3の位置Lを超えて位置L1まで研削する場合もあるし、点P3の位置Lの手前の位置L2までで研削を終える場合もある。点P3の位置Lの手前の位置L2までで研削を終えた場合、円弧状曲線部31aと直線部31bとの接続部分(点P3の部分)を含んで直線部31bの一部が残ってしまう。このとき、成形用金型10の円弧状曲線部11bの点P1における接線方向と直線部11bの方向とが一致しておらず、直線部11bと加工面との角度が小さすぎると、研削されずに残った円弧状曲線部31aと直線部31bとの接続部分(点P3の部分)及び直線部31bの面積が広いため、それらが視認され、製品の外観不良となる場合があり好ましくない。
【0038】
ただし、円弧状曲線部11bの点P1における接線と直線部11bとは、上記の問題が生じない範囲であれば厳密に一致させる必要はなく、隅部分12の稜線方向に直交する断面において、±2°以内の範囲であれば実質的には問題とならない。+2°より大きい場合(成形体の点P2の部分が凸形状となっている場合)、成形体及び焼結体の欠けの要因になる可能性があり、-2°より小さい場合(成形体の点P2の部分が凹形状となっている場合)、成形体のクラック発生の要因になる可能性ある。
【0039】
(b)成形用金型の全体構成
本発明の成形用金型は、圧縮成形用金型であってもよいし、射出成形用金型であってもよい。圧縮成形の場合、乾式成形と湿式成形が行われる。圧縮成形用金型を例に、成形用金型の概要を以下に説明する。
【0040】
焼結磁石を作製するための圧縮成形用金型の一例を図5(a)及び図5(b)に示す。成形用金型50は、ダイ51と、下パンチ52と、上パンチ53とを有し、これらに囲まれた空間がキャビティ54を構成する。キャビティ54には、図5(b)に示すように、隅部分に隅アール55が形成されている。なお図示はしていないが、本発明の成形用金型においては、この隅アール55が円弧状曲線部と前記円弧状曲線部の端部に接続する直線部とからなる。下パンチ52及び上パンチ53はそれぞれ独立に上下動できるように構成され、例えば、上パンチ53を上方に離脱させた状態で、キャビティ54に所定量の焼結磁石用微粉末又はスラリーを充填し、上パンチ53を下降させて圧縮成形を行う。このとき、キャビティ54内の磁粉又はスラリーに磁場を印加しながら圧縮成形することにより、一定の方向に磁粉を配向させた異方性磁石とすることができる。
【0041】
[2]焼結磁石の製造方法
焼結磁石を製造する本発明の方法は、成形用金型を用いて焼結磁石用微粉を成形して成形体を作製し、前記成形体を焼結して焼結体を作製し、前記焼結体の所定の側面を加工により研削して焼結磁石を製造する方法であって、
前記成形用金型は、前記成形体の角部分に対応する隅部分に隅アールが設けられており、前記隅部分の稜線方向に直交する断面において、
前記隅アールが円弧状曲線部と前記円弧状曲線部の端部に接続する直線部とからなり、
前記焼結体は、前記成形用金型の隅部分に対応する角部分に角アールを有し、
前記角部分の稜線方向に直交する断面において、
前記角アールは、前記成形用金型の前記円弧状曲線部と前記直線部とに対応する円弧状曲線部と直線部とからなり、
前記焼結体の前記角アールの前記直線部と前記直線部に接続する側面とを研削により除去し、もって前記円弧状曲線部からなる角アールを有する焼結磁石を形成することを特徴とする。
【0042】
本発明の方法により製造できる焼結磁石は、磁石粉体(磁粉とも言う)又は磁石粉体を水又は有機溶剤に分散させてなるスラリーを成形し、得られた成形体を焼結するといった工程が適用できる磁石であればどのようなものでも製造することができるが、特に希土類焼結磁石又はフェライト焼結磁石であるのが好ましい。
【0043】
(1)成形工程
成形は、圧縮成形(乾式成形、湿式成形)又は射出成形によって行う。乾式成形法では、例えば、乾燥した磁性粉末を加圧成形しつつ磁場を印加して成形体を形成する。湿式成形法では、例えば、磁性粉末を含むスラリーを磁場印加中で加圧成形しながら液体成分を除去して成形体を形成する。射出成形の場合、磁性粉末をバインダ樹脂と共に加熱混練して、形成したペレットを、磁場が印加された金型内で射出成形して予備成形体を得て、この予備成形体を脱バインダ処理して成形体を得る。
【0044】
圧縮成形の場合、前述した本発明の成形用金型に、焼結磁石用微粉末又はスラリーを充填して圧縮成形する。圧縮成形圧力は、R-T-B系焼結磁石用成形体の場合30~392 MPa(500~4,000 kg/cm2)とし、フェライト磁石用成形体の場合34~44 MPa(350~450 kg/cm2)とするのが好ましい。R-T-B系焼結磁石用成形体の場合、成形体の密度は3.7~4.7 g/cm3程度に調整するのが好ましい。またフェライト磁石用成形体の場合、成形体の密度は2.6~3.2 g/cm3程度に調整するのが好ましい。
【0045】
(2)焼結工程
成形工程で得られた成形体を焼結し焼結体を得る。
【0046】
(3)加工工程
本発明の方法において、焼結体の所定の側面を研削により除去する加工を行う。成形用金型は、隅部分の稜線方向に直交する断面において、隅部分に、円弧状曲線部と前記円弧状曲線部の端部に接続する直線部とからなる隅アールが設けられており、成形用金型の隅部分に対応する成形体及び焼結体の角部分に、角部分の稜線方向に直交する断面において、円弧状曲線部と前記円弧状曲線部の端部に接続する直線部とからなる角アールが形成される。加工工程で、焼結体の角アールの直線部を研削により除去することにより、円弧状曲線部からなる角アールを有する焼結磁石を形成する。
【0047】
研削は、図3(a)に示すように、点P3の位置Lまで研削するのが理想的な場合である。しかしながら、前述したように、焼結体の個体ごとのばらつきによって、研削によって除去される加工取り代の厚みが異なる場合があり、例えば、図4に示すように、点P3の位置Lを超えて位置L1まで研削する場合もあるし、点P3の位置Lの手前の位置L2までで研削を終える場合もあるが、どのような場合であっても本願発明の方法に含まれる。
【0048】
(4)その他の工程
R-T-B系焼結磁石の場合、通常、焼結工程と加工工程との間に拡散や熱処理を行い、加工工程の後、表面処理を行う。
【0049】
[3]焼結磁石
前述の方法によって得られた本発明の焼結磁石30’は、図3(c)に示すように、角部分に形成された未加工の角アール31aと、前記角アールに接続する2つの面33’,34とを有し、前記2つの面のうち少なくとも1つの面33’が加工面であり、前記2つの面のなす角度α(deg)、及び前記角アールを円弧で近似したときの中心角θ(deg)が
0.5×(180-α)≦θ<(180-α)
を満たすことを特徴とする。焼結磁石の角部分をこのような構成とすることにより、ハンドリング時に欠けや割れの発生を有効に防止することができる。角度α(deg)及び中心角θ(deg)は、0.7×(180-α)≦θ<(180-α)であるのがより好ましく、0.9×(180-α)≦θ<(180-α)であるのが最も好ましい。
【0050】
焼結磁石は、希土類焼結磁石及びフェライト焼結磁石のいずれでも良い。以下各磁石の組成について説明する。
【0051】
(a)希土類焼結磁石
希土類焼結磁石はR-T-Bから実質的になるのが好ましい。RはYを含む希土類元素の少なくとも1種であり、Nd,Dy及びPrの少なくとも1種を必ず含むのが好ましい。Tは遷移金属の少なくとも1種であり、Feを必ず含むのが好ましい。R:24~34 質量%、B:0.6~1.8 質量%、残部Feの組成が好ましい。R:24質量%未満では、残留磁束密度Br保磁力Hcjが低下する。34%超では、残留磁束密度Bが低下する。また、焼結体内部の希土類に富む相の領域が多くなり、かつ形態も粗大化して耐食性が低下する。B:0.6質量%未満の場合、主相であるR2Fe14B相が形成に必要なB量が不足し、軟磁性的な性質を有するR2Fe17相が生成し保磁力が低下する。一方B量が1.8質量%を超えると、非磁性相であるBに富む相が増加して残留磁束密度Brが低下する。Feはその一部がCoで置換されていても良く、また、3質量%以下程度のAl、Si、Cu、Ga、Nb、Mo、W、Zr等の元素を含んでいても良い。
【0052】
(b)フェライト焼結磁石
フェライト焼結磁石は、マグネトプランバイト型(M型)構造を有するSrフェライト、Baフェライト、Sr-La-Co系フェライト、Ca-La-Co系フェライト等からなるのが好ましい。
【符号の説明】
【0053】
10・・・成形用金型
11・・・隅アール
11a・・・円弧状曲線部
11b・・・直線部
12・・・隅部分
13,14・・・面
20・・・成形体
21・・・角アール
21a・・・円弧状曲線部
21b・・・直線部
22・・・角部分
30・・・焼結体
31・・・角アール
31a・・・円弧状曲線部
31b・・・直線部
32・・・角部分
33,34・・・面
35・・・加工取り代
30’・・・焼結磁石
31’・・・角アール
33’・・・加工された面
50・・・成形用金型
51・・・ダイ
52・・・下パンチ
53・・・上パンチ
54・・・キャビティ
55・・・隅アール
110・・・成形用金型
111・・・隅アール
112・・・隅部分
113,114・・・面
130・・・焼結体
131・・・角アール
133,134・・・面
135・・・加工取り代
130’・・・焼結磁石
131’・・・角アール
133’・・・加工された面
図1
図2
図3(a)】
図3(b)】
図3(c)】
図4
図5(a)】
図5(b)】
図6
図7(a)】
図7(b)】