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特許7658367ウエハ加工用仮接着剤、ウエハ積層体及び薄型ウエハの製造方法
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  • 特許-ウエハ加工用仮接着剤、ウエハ積層体及び薄型ウエハの製造方法 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2025-03-31
(45)【発行日】2025-04-08
(54)【発明の名称】ウエハ加工用仮接着剤、ウエハ積層体及び薄型ウエハの製造方法
(51)【国際特許分類】
   H01L 21/304 20060101AFI20250401BHJP
   C09J 183/04 20060101ALI20250401BHJP
   C09J 183/05 20060101ALI20250401BHJP
   C09J 183/06 20060101ALI20250401BHJP
【FI】
H01L21/304 622J
H01L21/304 621B
H01L21/304 631
C09J183/04
C09J183/05
C09J183/06
【請求項の数】 6
(21)【出願番号】P 2022517686
(86)(22)【出願日】2021-04-22
(86)【国際出願番号】 JP2021016272
(87)【国際公開番号】W WO2021220929
(87)【国際公開日】2021-11-04
【審査請求日】2022-10-18
(31)【優先権主張番号】P 2020080245
(32)【優先日】2020-04-30
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000002060
【氏名又は名称】信越化学工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002240
【氏名又は名称】弁理士法人英明国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】武藤 光夫
(72)【発明者】
【氏名】菅生 道博
(72)【発明者】
【氏名】田上 昭平
【審査官】小山 和俊
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2019/049950(WO,A1)
【文献】特表2009-543708(JP,A)
【文献】国際公開第2020/050167(WO,A1)
【文献】国際公開第2018/056297(WO,A1)
【文献】特開2020-029519(JP,A)
【文献】特表2014-525953(JP,A)
【文献】特開2016-119438(JP,A)
【文献】国際公開第2017/191815(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01L 21/304
C09J 183/04
C09J 183/05
C09J 183/06
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
(A)1分子中に2個以上のアルケニル基を有するオルガノポリシロキサン、(B)1分子中に2個以上のケイ素原子に結合した水素原子(SiH基)を含有するオルガノハイドロジェンポリシロキサン、(C)無官能性オルガノポリシロキサン、及び(D)光活性型ヒドロシリル化反応触媒を含む光硬化性シリコーン樹脂組成物であって、前記(C)無官能性オルガノポリシロキサンが、分子鎖両末端トリメチルシロキシ基または分子鎖両末端ジメチルフェニルシロキシ基により封鎖されたオルガノポリシロキサンであり、前記(C)無官能性オルガノポリシロキサンの30質量%トルエン溶液の25℃における粘度が1,000~500,000mPa・sであることを特徴とする、ウエハを支持体に仮接着するためのウエハ加工用仮接着剤。
【請求項2】
前記無官能性オルガノポリシロキサンを含む光硬化性シリコーン樹脂組成物が、更に(E)成分としてヒドロシリル化反応制御剤を前記(A)、(B)及び(C)成分の合計質量に対し、0.001~10質量部含む請求項記載のウエハ加工用仮接着剤。
【請求項3】
前記無官能性オルガノポリシロキサンを含む光硬化性シリコーン樹脂組成物の硬化後、25℃でのシリコン基板に対する25mm幅の試験片の180°ピール剥離力が2gf以上500gf以下である請求項1又は2記載のウエハ加工用仮接着剤。
【請求項4】
前記無官能性オルガノポリシロキサンを含む光硬化性シリコーン樹脂組成物の硬化後、25℃での貯蔵弾性率が1,000Pa以上1,000MPa以下である請求項1~のいずれか1項記載のウエハ加工用仮接着剤。
【請求項5】
ウエハと支持体とを仮接着剤層を介して接合、硬化してウエハ積層体を形成する工程(以下、(a)、(b)の工程)において、以下のいずれかの態様を含む、前記無官能性オルガノポリシロキサンを含む光硬化性シリコーン樹脂組成物を用いた薄型ウエハの製造方法。ここで、いずれの態様においても(c)~(e)の工程については共通のものとする。
(態様1)
(a1)表面に回路形成面及び裏面に回路非形成面を有するウエハの前記回路形成面、及び/または支持体の前記ウエハとの接合面に、請求項1~のいずれか1項記載のウエハ加工用仮接着剤組成物を塗布し、接合する工程
(b1)前記接合したウエハの仮接着剤を光硬化させる工程
(態様2)
(a2)請求項1~のいずれか1項記載のウエハ加工用仮接着剤組成物に光照射する工程
(b2)表面に回路形成面及び裏面に回路非形成面を有するウエハの前記回路形成面、及び/または支持体の前記ウエハとの接合面に、前記(a-2)で光照射を行ったウエハ加工用仮接着剤組成物を塗布し、接合する工程
(c)前記ウエハ積層体のウエハの回路非形成面を研削又は研磨する工程
(d)前記ウエハの回路非形成面に加工を施す工程
(e)前記加工を施したウエハを前記支持体から剥離する工程
【請求項6】
支持体と、その上に積層された請求項1~のいずれか1項記載のウエハ加工用仮接着剤から得られる仮接着剤層と、表面に回路形成面及び裏面に回路非形成面を有するウエハとを備えるウエハ積層体であって、
前記仮接着剤層が、前記ウエハの表面に剥離可能に接着されたものであるウエハ積層体。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ウエハ加工用仮接着剤、ウエハ積層体及び薄型ウエハの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
3次元の半導体実装は、より一層の高密度、大容量化を実現するために必須となってきている。3次元実装技術とは、1つの半導体チップを薄型化し、更にこれをシリコン貫通電極(TSV:through silicon via)によって結線しながら多層に積層していく半導体作製技術である。これを実現するためには、半導体回路を形成した基板を回路非形成面(「裏面」ともいう。)研削によって薄型化し、更に裏面にTSVを含む電極形成を行う工程が必要である。従来、シリコン基板の裏面研削工程では、研削面の反対側に裏面保護テープを貼り、研削時のウエハ破損を防いでいる。しかし、このテープは有機樹脂フィルムを支持基材に用いており、柔軟性がある反面、強度や耐熱性が不十分であり、TSV形成工程や裏面での配線層形成工程を行うには適しない。
【0003】
そこで、半導体基板をシリコン、ガラス等の支持体に接着剤層を介して接合することによって、裏面研削、TSVや裏面電極形成の工程に十分耐え得るシステムが提案されている。このとき重要なのが、基板を支持体に接合する際の接着剤層である。これは基板を支持体に隙間なく接合でき、後の工程に耐えるだけの十分な耐久性が必要で、更に最後に薄型ウエハを支持体から簡便に剥離できることが必要である。このように、最後に剥離することから、本明細書では、この接着剤層を仮接着剤層ともいう。
【0004】
これまでに公知の仮接着剤層とその剥離方法としては、光吸収性物質を含む接着剤に高強度の光を照射し、接着剤層を分解することによって支持体から接着剤層を剥離する技術(特許文献1)、及び、熱溶融性の炭化水素系化合物を接着剤に用い、加熱溶融状態で接合・剥離を行う技術(特許文献2)が提案されている。前者の技術はレーザ等の高価な装置が必要であり、かつ基板1枚あたりの処理時間が長くなるなどの問題があった。また後者の技術は加熱だけで制御するため簡便である反面、200℃を超える高温での熱安定性が不十分であるため、適用範囲は狭かった。更にこれらの仮接着剤層では、高段差基板の均一な膜厚形成と、支持体への完全接着にも適さなかった。
【0005】
シリコーン粘着剤を仮接着材層に用いる技術が提案されているが、これは基板を支持体に加熱硬化型のシリコーン粘着剤を用いて接合し、剥離の際にはシリコーン樹脂を溶解、あるいは分解するような薬剤に浸漬して基板を支持体から分離するものである(特許文献3)。そのため剥離に非常に長時間を要し、実際の製造プロセスへの適用は困難である。また剥離後、基板上に残渣として残ったシリコーン粘着剤を洗浄するのにも長時間が必要となり、洗浄除去性という点からも課題を有していた。一方、接合工程においては、加熱硬化型のシリコーンの場合150℃程度の加熱が必要であり、特にホットプレート上で加熱を行う場合ではウエハの反りが問題となることがあった。そのため、ウエハの反りを抑えるために低温で接合させようとした場合には、硬化の完了に長時間を要するという問題があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】特開2004-64040号公報
【文献】特開2006-328104号公報
【文献】米国特許第7541264号明細書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、前記課題に鑑みなされたもので、基板と支持体とを比較的低温かつ短時間での接合が可能であり、これにより接合時の作業性やウエハ反りが改善され、また高段差基板を用いた場合でも接合後の基板保持性が十分にあり、ウエハ裏面研削工程、TSV形成工程、ウエハ裏面配線工程に対する工程適合性が高く、ウエハ熱プロセス耐性にも優れ、一方で剥離工程における剥離が容易であり、剥離後の基板の残渣洗浄性にも優れる等、薄型ウエハの生産性向上に繋がるウエハ加工用仮接着剤、ウエハ積層体、及びこれを使用する薄型ウエハの製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、前記課題を解決するため鋭意検討した結果、無官能性オルガノポリシロキサンを含む光硬化性シリコーン樹脂組成物を仮接着剤に使用することで前記課題を解決できることを見出し、本発明を完成させた。
【0009】
したがって、本発明は、下記ウエハ加工用仮接着剤、ウエハ積層体及び薄型ウエハの製造方法を提供する。
1.(A)1分子中に2個以上のアルケニル基を有するオルガノポリシロキサン、(B)1分子中に2個以上のケイ素原子に結合した水素原子(SiH基)を含有するオルガノハイドロジェンポリシロキサン、(C)無官能性オルガノポリシロキサン、及び(D)光活性型ヒドロシリル化反応触媒を含む光硬化性シリコーン樹脂組成物であって、前記(C)無官能性オルガノポリシロキサンが、分子鎖両末端トリメチルシロキシ基または分子鎖両末端ジメチルフェニルシロキシ基により封鎖されたオルガノポリシロキサンであり、前記(C)無官能性オルガノポリシロキサンの30質量%トルエン溶液の25℃における粘度が1,000~500,000mPa・sであることを特徴とする、ウエハを支持体に仮接着するためのウエハ加工用仮接着剤。
.前記無官能性オルガノポリシロキサンを含む光硬化性シリコーン樹脂組成物が、更に(E)成分としてヒドロシリル化反応制御剤を前記(A)、(B)及び(C)成分の合計質量に対し、0.001~10質量部含むのウエハ加工用仮接着剤。
.前記無官能性オルガノポリシロキサンを含む光硬化性シリコーン樹脂組成物の硬化後、25℃でのシリコン基板に対する25mm幅の試験片の180°ピール剥離力が2gf以上500gf以下である1又は2のウエハ加工用仮接着剤。
.前記無官能性オルガノポリシロキサンを含む光硬化性シリコーン樹脂組成物の硬化後、25℃での貯蔵弾性率が1,000Pa以上1,000MPa以下である1~のいずれかのウエハ加工用仮接着剤。
.ウエハと支持体とを仮接着剤層を介して接合、硬化してウエハ積層体を形成する工程(以下、(a)、(b)の工程)において、以下のいずれかの態様を含む、前記無官能性オルガノポリシロキサンを含む光硬化性シリコーン樹脂組成物を用いた薄型ウエハの製造方法。ここで、いずれの態様においても(c)~(e)の工程については共通のものとする。
(態様1)
(a1)表面に回路形成面及び裏面に回路非形成面を有するウエハの前記回路形成面、及び/または支持体の前記ウエハとの接合面に、前記1~のいずれかのウエハ加工用仮接着剤組成物を塗布し、接合する工程
(b1)前記接合したウエハの仮接着剤を光硬化させる工程
(態様2)
(a2)前記1~のいずれかのウエハ加工用仮接着剤組成物に光照射する工程
(b2)表面に回路形成面及び裏面に回路非形成面を有するウエハの前記回路形成面、及び/または支持体の前記ウエハとの接合面に、前記(a2)で光照射を行ったウエハ加工用仮接着剤組成物を塗布し、接合、硬化する工程
(c)前記ウエハ積層体のウエハの回路非形成面を研削又は研磨する工程
(d)前記ウエハの回路非形成面に加工を施す工程
(e)前記加工を施したウエハを前記支持体から剥離する工程
.支持体と、その上に積層された1~のいずれかのウエハ加工用仮接着剤から得られる仮接着剤層と、表面に回路形成面及び裏面に回路非形成面を有するウエハとを備えるウエハ積層体であって、前記仮接着剤層が、前記ウエハの表面に剥離可能に接着されたものであるウエハ積層体。
【発明の効果】
【0010】
本発明のウエハ加工用仮接着剤は、無官能性オルガノポリシロキサンを含む光硬化性シリコーン樹脂組成物を使用することで、光照射によって比較的低温かつ短時間で基板の接合が可能となり、その結果接合時のウエハの反りが抑えられ、かつ接合時間の短縮も可能となる。また、接合後においても、樹脂の熱分解が生じないことはもとより、特に200℃以上の高温でも樹脂の流動が生じず、耐熱性が高い。そのため、幅広い半導体成膜プロセスに適用でき、CVD(化学気相成長)耐性にも優れ、また、段差を有するウエハに対しても、膜厚均一性の高い仮接着剤層を形成でき、この膜厚均一性のため容易に50μm以下の均一な薄型ウエハを作製することが可能となる。さらに、無官能性オルガノポリシロキサンを使用することで剥離性にも優れるため、薄型ウエハ作製後、ウエハを支持体から、例えば室温で、容易に剥離することができ、割れやすい薄型ウエハを容易に製造することが可能となる。また、本発明の仮接着剤は、支持体と選択的に接着可能なため、剥離後、薄型ウエハ上には仮接着剤由来の残渣が残らず、その後の洗浄除去性にも優れる。本発明の薄型ウエハの製造方法によれば、貫通電極構造や、バンプ接続構造を有する薄型ウエハを容易に製造することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1】本発明の薄型ウエハの製造方法の工程を示す説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
[ウエハ加工用仮接着剤]
本発明のウエハ加工用仮接着剤は、無官能性オルガノポリシロキサンを含む光硬化性シリコーン樹脂組成物からなるものである。段差を有するシリコンウエハ等への適用性から、良好なスピンコート性を有するシリコーン樹脂組成物がウエハ加工用仮接着剤として好適に使用される。
【0013】
このような光硬化性シリコーン樹脂組成物としては、例えば、下記(A)~(D)成分を含むものであることが好ましい。
(A)1分子中に2個以上のアルケニル基を有するオルガノポリシロキサン:100質量部、
(B)1分子中に2個以上のケイ素原子に結合した水素原子(SiH基)を含有するオルガノハイドロジェンポリシロキサン:(A)成分中のアルケニル基の合計に対する(B)成分中のSiH基の合計が、モル比で0.3~10となる量、
(C)無官能性オルガノポリシロキサン:0.1~200質量部、及び
(D)光活性型ヒドロシリル化反応触媒:(A)、(B)及び(C)成分の合計質量に対し、金属原子量換算で0.1~5,000ppm。
【0014】
[(A)成分]
(A)成分は、1分子中に2個以上のアルケニル基を有するオルガノポリシロキサンである。(A)成分としては、1分子中に2個以上のアルケニル基を含む直鎖状又は分岐状のジオルガノポリシロキサン、1分子中に2個以上のアルケニル基を含み、SiO4/2単位で表されるシロキサン単位(Q単位)を有する三次元網目構造のオルガノポリシロキサン等が挙げられる。これらのうち、アルケニル基含有率が0.6~9モル%である、ジオルガノポリシロキサン又は三次元網目構造のオルガノポリシロキサンが好ましい。なお、本発明においてアルケニル基含有率とは、分子中のSi原子数に対するアルケニル基数の割合(モル%)である。
【0015】
このようなオルガノポリシロキサンとしては、下記式(A-1)、(A-2)又は(A-3)で表されるものが挙げられる。これらは1種単独で使用してもよく、2種以上を組み合わせて使用してもよい。
【化1】
【0016】
式(A-1)~(A-3)中、R1~R16は、それぞれ独立に、脂肪族不飽和炭化水素基以外の1価炭化水素基である。X1~X5は、それぞれ独立に、アルケニル基含有1価有機基である。
【0017】
式(A-1)中、a及びbは、それぞれ独立に、0~3の整数である。式(A-1)及び(A-2)中、c1、c2、d1及びd2は、0≦c1≦10、2≦c2≦10、0≦d1≦100及び0≦d2≦100を満たす整数である。ただし、a+b+c1≧2である。a、b、c1、c2、d1及びd2は、アルケニル基含有率が0.6~9モル%となるような数の組み合わせであることが好ましい。
【0018】
式(A-3)中、eは、1~3の整数である。f1、f2及びf3は、(f2+f3)/f1が0.3~3.0となり、f3/(f1+f2+f3)が0.01~0.6となるような数である。
【0019】
前記脂肪族不飽和炭化水素基以外の1価炭化水素基としては、炭素数1~10のものが好ましく、例えば、メチル基、エチル基、n-プロピル基、イソプロピル基、n-ブチル基、tert-ブチル基、n-ペンチル基、n-ヘキシル基等のアルキル基;シクロペンチル基、シクロヘキシル基等のシクロアルキル基;フェニル基、トリル基等のアリール基等が挙げられる。これらのうち、メチル基等のアルキル基又はフェニル基が好ましい。
【0020】
前記アルケニル基含有1価有機基としては、炭素数2~10のものが好ましく、例えば、ビニル基、アリル基、ヘキセニル基、オクテニル基等のアルケニル基;アクリロイルプロピル基、アクリロイルエチル基、アクリロイルメチル基、メタクリロイルプロピル基等の(メタ)アクリロイルアルキル基;アクリロキシプロピル基、アクリロキシエチル基、アクリロキシメチル基、メタクリロキシプロピル基、メタクリロキシエチル基、メタクリロキシメチル基等の(メタ)アクリロキシアルキル基;シクロヘキセニルエチル基、ビニルオキシプロピル基等のアルケニル基含有1価炭化水素基が挙げられる。これらのうち、工業的観点から、ビニル基が好ましい。
【0021】
式(A-1)中、a及びbは、それぞれ独立に、0~3の整数であるが、a及びbが1~3であれば、分子鎖末端がアルケニル基で封鎖されるため、反応性のよい分子鎖末端アルケニル基により短時間で反応を完結することができるため好ましい。また、コスト面から、a及びbは1であることが工業的に好ましい。式(A-1)又は(A-2)で表されるアルケニル基含有ジオルガノポリシロキサンの性状は、オイル状又は生ゴム状であることが好ましい。
【0022】
式(A-3)で表されるオルガノポリシロキサンは、SiO4/2単位を含み、三次元網目構造を有するものである。式(A-3)中、eは、それぞれ独立に、1~3の整数であるが、コスト面から1であることが工業的に好ましい。また、eの平均値とf3/(f1+f2+f3)との積が、0.02~1.5であることが好ましく、0.03~1.0であることがより好ましい。式(A-3)で表されるオルガノポリシロキサンは、有機溶剤に溶解させた溶液として使用してもよい。
【0023】
(A)成分のオルガノポリシロキサンの数平均分子量(Mn)は、100~1000,000が好ましく、1,000~100,000がより好ましい。Mnが前記範囲であれば、組成物粘度に伴う作業性や硬化後の貯蔵弾性率に伴う加工性の点において好ましい。なお、本発明においてMnは、トルエンを溶剤として用いたゲルパーミエーションクロマトグラフィーによるポリスチレン換算測定値である。
【0024】
(A)成分は、1種単独で使用してもよく、2種以上を組み合わせて使用してもよい。特に、式(A-1)で表されるオルガノポリシロキサンと式(A-3)で表されるオルガノポリシロキサンとを組み合わせて使用することが好ましい。このとき、式(A-3)で表されるオルガノポリシロキサンの使用量は、式(A-1)で表されるオルガノポリシロキサン100質量部に対し、1~1,000質量部が好ましく、10~500質量部がより好ましい。
【0025】
[(B)成分]
(B)成分は、架橋剤であり、1分子中にケイ素原子に結合した水素原子(SiH基)を少なくとも2個、好ましくは3個以上有するオルガノハイドロジェンポリシロキサンである。前記オルガノハイドロジェンポリシロキサンは、直鎖状、分岐状、環状のいずれでもよい。また、前記オルガノハイドロジェンポリシロキサンは、1種単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0026】
(B)成分のオルガノハイドロジェンポリシロキサンの25℃における粘度は、1~5,000mPa・sが好ましく、5~500mPa・sがより好ましい。なお、本発明において粘度は、回転粘度計による25℃における測定値である。
【0027】
(B)成分のオルガノハイドロジェンポリシロキサンのMnは、100~100,000が好ましく、500~10,000がより好ましい。Mnが前記範囲であれば、組成物粘度に伴う作業性や硬化後の貯蔵弾性率に伴う加工性の点において好ましい。
【0028】
(B)成分は、(A)成分中のアルケニル基の合計に対する(B)成分中のSiH基の合計が、モル比(SiH基/アルケニル基)で0.3~10の範囲となるように配合することが好ましく、1.0~8.0の範囲となるように配合することがより好ましい。前記モル比が0.3以上であれば、架橋密度が低くなることもなく、仮接着剤層が硬化しないといった問題も起こらない。また、前記モル比が10以下であれば、架橋密度が高くなりすぎることもなく、十分な粘着力及びタックが得られ、処理液の使用可能時間を長くすることができる。
【0029】
[(C)成分]
(C)成分は、無官能性オルガノポリシロキサンである。ここで「無官能性」とは、分子内にケイ素原子に直接又は任意の基を介して結合したアルケニル基、水素原子、ヒドロキシ基、アルコキシ基、ハロゲン原子、エポキシ基等の反応性基を有しないという意味である。
【0030】
このような無官能性オルガノポリシロキサンとしては、例えば、非置換又は置換の、炭素数1~12、好ましくは1~10の、脂肪族不飽和炭化水素基以外の1価炭化水素基を有するオルガノポリシロキサンが挙げられる。このような1価炭化水素基としては、例えば、メチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基、ペンチル基、ヘキシル基、ヘプチル基等のアルキル基;シクロヘキシル基等のシクロアルキル基;フェニル基、トリル基、キシリル基、ナフチル基等のアリール基;ベンジル基、フェネチル基等のアラルキル基等が挙げられる。また、これらの基の水素原子の一部又は全部が、塩素原子、フッ素原子、臭素原子等のハロゲン原子で置換されていてもよく、このような基としては、クロロメチル基、3-クロロプロピル基、3,3,3-トリフロロプロピル基等のハロゲン化アルキル基等が挙げられる。前記1価炭化水素基としては、好ましくはアルキル基、アリール基であり、より好ましくはメチル基、フェニル基である。
【0031】
(C)成分の無官能性オルガノポリシロキサンの分子構造は、特に限定されず、直鎖状、分岐状、環状等のいずれでもよいが、直鎖状又は分岐状のオルガノポリシロキサンが好ましく、主鎖が基本的にジオルガノシロキサン単位の繰り返しからなり、分子鎖両末端がトリオルガノシロキシ基で封鎖された、直鎖状ジオルガノポリシロキサンであることが好ましい。
【0032】
(C)成分、無官能性オルガノポリシロキサンは、その30質量%トルエン溶液における粘度(25℃)が、組成物の作業性、基材への塗工性、硬化物の力学特性、支持体の剥離性等の観点から、100~500,000mPa・sであるものが好ましく、200~100,000mPa・sであるものがより好ましい。前記範囲であれば、適切な分子量を有しているため、シリコーン樹脂組成物を加熱硬化させる際に揮発して効果が得られにくくなってしまったり、CVD等のウエハ熱プロセスにおいてウエハ割れを引き起こしたりすることがなく、作業性や塗工性も良好であるため好ましい。
【0033】
前記無官能性オルガノポリシロキサンとしては、分子鎖両末端トリメチルシロキシ基封鎖ジメチルシロキサン重合体、分子鎖両末端トリメチルシロキシ基封鎖フェニルメチルポリシロキサン、分子鎖両末端トリメチルシロキシ基封鎖3,3,3-トリフロロプロピルメチルシロキサン重合体、分子鎖両末端トリメチルシロキシ基封鎖ジメチルシロキサン・メチルフェニルシロキサン共重合体、分子鎖両末端トリメチルシロキシ基封鎖ジメチルシロキサン・3,3,3-トリフロロプロピルメチル共重合体、分子鎖両末端トリメチルシロキシ基封鎖メチルフェニルシロキサン・3,3,3-トリフロロプロピルメチル共重合体、分子鎖両末端トリメチルシロキシ基封鎖ジメチルシロキサン・3,3,3-トリフロロプロピルメチルシロキサン・メチルフェニルシロキサン共重合体、分子鎖両末端ジメチルフェニルシロキシ基封鎖ジメチルポリシロキサン、分子鎖両末端ジメチルフェニルシロキシ基封鎖メチルフェニルポリシロキサン、分子鎖両末端ジメチルフェニルシロキシ基封鎖ジメチルシロキサン・メチルフェニルシロキサン共重合体等が挙げられる。
【0034】
(C)成分の無官能性オルガノポリシロキサンは、1種単独で使用してもよく、2種以上を組み合わせて使用してもよい。また、その性状はオイル状又は生ゴム状であることが好ましい。
【0035】
[(D)成分]
(D)成分は、光活性型ヒドロシリル化反応触媒であり、この光活性型ヒドロシリル化反応触媒は、光、特に波長300~400nmの紫外線の照射によって活性化され、(A)成分中のアルケニル基と、(B)成分中のSi-H基との付加反応を促進する触媒である。この促進効果には温度依存性があり、より高温で高い促進効果が得られる。よって、好ましい光照射後は0~200℃、より好ましくは10~100℃の環境温度下で使用することが、適切な反応時間内に反応を完結させる点で好ましい。
【0036】
光活性型ヒドロシリル化反応触媒は、主に白金族系金属触媒あるいは鉄族系金属触媒がこれに該当し、白金族系金属触媒としては白金系、パラジウム系、ロジウム系の金属錯体、鉄族系金属触媒としてはニッケル系、鉄系、コバルト系の鉄族錯体がある。中でも白金系金属錯体は、比較的入手し易くかつ良好な触媒活性を示すため好ましく、よく用いられる。
【0037】
また配位子としてはUV-B~UV-Aの中~長波長のUV光で触媒活性を示すものが、ウエハへのダメージを抑える点で好ましい。そのような配位子としては環状ジエン配位子、β-ジケトナト配位子などが挙げられる。
【0038】
以上より、光活性型ヒドロシリル化反応触媒の好ましい例として、環状ジエン配位子型としては、例えば、(η5-シクロペンタジエニル)トリ(σ-アルキル)白金(IV)錯体、特に具体的には(メチルシクロペンタジエニル)トリメチル白金(IV)、(シクロペンタジエニル)トリメチル白金(IV)、(1,2,3,4,5-ペンタメチルシクロペンタジエニル)トリメチル白金(IV)、(シクロペンタジエニル)ジメチルエチル白金(IV)、(シクロペンタジエニル)ジメチルアセチル白金(IV)、(トリメチルシリルシクロペンタジエニル)トリメチル白金(IV)、(メトキシカルボニルシクロペンタジエニル)トリメチル白金(IV)、(ジメチルフェニルシリルシクロペンタジエニル)トリメチル白金(IV)などが挙げられ、またβ-ジケトナト配位子型としては、β-ジケトナト白金(II)若しくは白金(IV)錯体、特に具体的にはトリメチル(アセチルアセトナト)白金(IV)、トリメチル(3,5-ヘプタンジオネート)白金(IV)、トリメチル(メチルアセトアセテート)白金(IV)、ビス(2,4-ペンタンジオナト)白金(II)、ビス(2,4-へキサンジオナト)白金(II)、ビス(2,4-へプタンジオナト)白金(II)、ビス(3,5-ヘプタンジオナト)白金(II)、ビス(1-フェニル-1,3-ブタンジオナト)白金(II)、ビス(1,3-ジフェニル-1,3-プロパンジオナト)白金(II)、ビス(ヘキサフルオロアセチルアセトナト)白金(II)などが挙げられる。
【0039】
これらの触媒の使用にあたっては、それが固体触媒であるときには固体状で使用することも可能であるが、より均一な硬化物を得るためには適切な溶剤に溶解したものを(A)成分のアルケニル基を有するオルガノポリシロキサンに相溶させて使用することが好ましい。
溶媒としては、イソノナン、トルエン、酢酸2-(2-ブトキシエトキシ)エチル等が挙げられる。
【0040】
(D)成分の添加量は有効量であればよいが、通常(A)、(B)、(C)の合計質量に対し、白金分(金属原子量換算)として0.1~5,000ppmであり、0.5~2,000ppm、さらに1~500ppmであることが好ましい。0.1ppm以上であれば組成物の硬化性が低下することもなく、架橋密度が低くなることも、保持力が低下することもない。0.5%以下であれば、処理浴の使用可能時間を長くすることができる。
【0041】
[(E)成分]
前記光硬化性シリコーン樹脂組成物は、更に(E)成分として反応制御剤を含んでもよい。反応制御剤は、組成物を調製したり、基材に塗布したりする際に、組成物が増粘やゲル化を起こさないようにするために必要に応じて任意に添加するものである。
【0042】
前記反応制御剤としては、3-メチル-1-ブチン-3-オール、3-メチル-1-ペンチン-3-オール、3,5-ジメチル-1-ヘキシン-3-オール、1-エチニルシクロヘキサノール、3-メチル-3-トリメチルシロキシ-1-ブチン、3-メチル-3-トリメチルシロキシ-1-ペンチン、3,5-ジメチル-3-トリメチルシロキシ-1-ヘキシン、1-エチニル-1-トリメチルシロキシシクロヘキサン、ビス(2,2-ジメチル-3-ブチニルオキシ)ジメチルシラン、1,3,5,7-テトラメチル-1,3,5,7-テトラビニルシクロテトラシロキサン、1,1,3,3-テトラメチル-1,3-ジビニルジシロキサン等が挙げられる。これらのうち、1-エチニルシクロヘキサノール及び3-メチル-1-ブチン-3-オールが好ましい。
【0043】
前記光硬化性シリコーン樹脂組成物が(E)成分を含む場合、化学構造によって制御能力が異なるため、その含有量は、それぞれ最適な量に調整すべきであるが、硬化性、保存安定性、硬化後物性への影響等を鑑みれば、前記(A)、(B)及び(C)成分の合計質量に対し、好ましくは0.001~10質量部、より好ましくは0.01~10質量部である。(E)成分の含有量が前記範囲であれば、組成物の使用可能時間が長く、長期保存安定性が得られ、硬化性や作業性が良好である。
【0044】
前記光硬化性シリコーン樹脂組成物には、更にRA 3SiO0.5単位(式中、RAは、それぞれ独立に、炭素数1~10の非置換又は置換の1価炭化水素基である。)及びSiO2単位を含み、SiO2単位に対するRA 3SiO0.5単位のモル比(RA 3SiO0.5/SiO2)が0.3~1.8であるオルガノポリシロキサンを添加してもよい。その添加量は、(A)成分100質量部に対し、0~500質量部が好ましい。さらに好ましくは0より大~300質量部である。
【0045】
前記光硬化性シリコーン樹脂組成物には、これから得られる仮接着剤層の耐熱性を更に高めるため、シリカ等のフィラーをその性能を損なわない範囲で添加してもよい。
【0046】
光硬化性シリコーン樹脂組成物は、該組成物の低粘度化による作業性向上や混合性の向上、仮接着剤層の膜厚調整等の理由から、溶剤を添加して溶液化して使用してもよい。用いる溶剤は、前記成分を溶解できるものであれば特に限定されないが、例えばペンタン、へキサン、シクロヘキサン、イソオクタン、ノナン、デカン、p-メンタン、ピネン、イソドデカン、リモネン等の炭化水素系溶剤が好ましい。
【0047】
溶液化の方法としては、前記光硬化性シリコーン樹脂組成物を調製した後、最後に溶剤を添加して所望の粘度に調整する方法や、高粘度の(A)、(B)及び/又は(C)成分を予め溶剤で希釈し、作業性や混合性を改善した上で残りの成分を混合する方法が挙げられる。また、溶液化する際の混合方法としては、振とう混合機、マグネチックスターラー、各種ミキサー等、組成物粘度と作業性から適宜混合方法を選択して実施すればよい。
【0048】
溶剤の配合量は、組成物の粘度や作業性、仮接着剤層の膜厚を調整する観点等から適宜設定すればよいが、例えば、光硬化性シリコーン樹脂組成物100質量部に対し、好ましくは5~900質量部、より好ましくは10~400質量部である。
【0049】
仮接着剤層は、前記光硬化性シリコーン樹脂組成物をスピンコート、ロールコート等の方法によって基板上に塗布することで、形成することができる。このうち、スピンコート等の方法によって仮接着剤層を基板上に形成する場合は、前記光硬化性シリコーン樹脂組成物を溶液化してコートすることが好ましい。
【0050】
溶液化した光硬化性シリコーン樹脂組成物は、その25℃における粘度が、塗布性の観点から、1~100,000mPa・sが好ましく、10~10,000mPa・sがより好ましい。
【0051】
前記光硬化性シリコーン樹脂組成物は、硬化後における25℃での25mm幅の試験片(例えば、シリコン基板試験片)の180°ピール剥離力が、通常2~50gfであり、好ましくは3~30gfであり、更に好ましくは5~20gfである。2gf以上であれば、ウエハ研削時にウエハのズレが生じるおそれがなく、50gf以下であれば、ウエハの剥離が容易となる。
【0052】
光硬化性シリコーン樹脂組成物は、硬化後における25℃での貯蔵弾性率が1,000Pa以上1,000MPa以下、好ましくは10,000Pa以上500MPa以下である。貯蔵弾性率が1,000Pa以上であれば、形成される膜が強靭であり、ウエハ研削時にウエハのズレやそれに伴うウエハ割れが生じるおそれがなく、1,000MPa以下であれば、CVD等のウエハ熱プロセス中の変形応力を緩和することができ、ウエハへの熱プロセス時にも安定である。
【0053】
[薄型ウエハの製造方法]
本発明の薄型ウエハの製造方法は、半導体回路等を有するウエハと支持体との接着層として、光硬化性シリコーン樹脂組成物からなる仮接着材層を用いることを特徴とするものであり、ここに2つの態様とその図説を図1に示す。いずれの態様においても本発明の製造方法により得られる薄型ウエハの厚さは、典型的には5~300μm、より典型的には10~100μmである。
【0054】
本発明の薄型ウエハの製造方法は第一の態様として以下の(a1)~(e)の工程を有する。また、必要に応じて、(f)~(i)の工程を有する。
[工程(a1)]
工程(a1)は、仮接着工程であり、表面に回路形成面及び裏面に回路非形成面を有するウエハの回路形成面を、前記ウエハ加工用仮接着剤を用いて支持体に剥離可能に接着し、ウエハ積層体を形成する工程である。
【0055】
具体的には、前記ウエハの表面に前記ウエハ加工用仮接着剤を用いて仮接着剤層を形成し、該仮接着剤層を介して支持体と前記ウエハの表面とを貼り合わせる方法、支持体の表面に前記ウエハ加工用仮接着剤を用いて仮接着剤層を形成し、該仮接着剤層を介して支持体と前記ウエハの表面とを貼り合わせる方法、前記ウエハの表面と支持体の表面の両方に前記ウエハ加工用仮接着剤を用いて仮接着剤層を形成し、該仮接着剤層を介して支持体と前記ウエハの表面とを貼り合わせる方法のいずれかの方法が適用される。
【0056】
本発明に適用できるウエハは、通常、半導体ウエハである。前記半導体ウエハの例としては、シリコンウエハのみならず、ゲルマニウムウエハ、ガリウム-ヒ素ウエハ、ガリウム-リンウエハ、ガリウム-ヒ素-アルミニウムウエハ等が挙げられる。前記ウエハの厚さは、特に限定されないが、典型的には600~800μm、より典型的には625~775μmである。
【0057】
本発明の第一の態様において、光硬化性シリコーン樹脂組成物への光照射は支持体を通して行うため、支持体としてはガラス板、石英板、アクリル板、ポリカーボネート板、ポリエチレンテレフタレート板等の光透過性のある基板が使用可能である。中でもガラス板が紫外線の光透過性があり、かつ耐熱性に優れるため好ましい。
【0058】
仮接着剤層は、前記光硬化性シリコーン樹脂組成物をフィルム状に成形したものをウエハや支持体に積層することで形成してもよく、前記光硬化性シリコーン樹脂組成物をスピンコート、ロールコート等の方法で塗布することで形成してもよい。前記光硬化性シリコーン樹脂組成物が溶剤を含む溶液である場合、塗布後、その溶剤の揮発条件に応じ、好ましくは20~200℃、より好ましくは30~150℃の温度で予めプリベークを行った後、使用に供される。
【0059】
前記仮接着剤層は、膜厚が0.1~500μm、好ましくは1.0~200μmの間で形成されて使用されることが好ましい。膜厚が0.1μm以上であれば、基材上に塗布する場合に、塗布しきれない部分を生じることなく全体に塗布することができる。一方、膜厚が500μm以下であれば、薄型ウエハを形成する場合の研削工程に耐えることができる。
【0060】
前記仮接着剤層を介して支持体とウエハの表面とを貼り合わせる方法としては、好ましくは0~200℃、より好ましくは20~100℃の温度領域で、減圧下、均一に圧着する方法が挙げられる。
【0061】
仮接着剤層が形成されたウエハ及び支持体を圧着するときの圧力は、仮接着剤層の粘度にもよるが、好ましくは0.01~10MPa、より好ましくは0.05~1.0MPaである。圧力が0.01MPa以上であれば、回路形成面やウエハ-支持体間を仮接着剤層で満たすことができ、10MPa以下であれば、ウエハの割れや、ウエハ及び仮接着剤層の平坦性の悪化を招くおそれがなく、その後のウエハ加工が良好である。
【0062】
ウエハの貼り合わせは、市販のウエハボンダー、例えばEVG社のEVG520IS、850TB、SUSS MicroTec社のXBS300等を用いて行うことができる。
【0063】
[工程(b1)]
工程(b1)は、仮接着剤層を光硬化させる工程である。上記ウエハ加工体(積層体基板)が形成された後、光透過性のある支持体側から光照射を行い仮接着剤層を光硬化させる。その際の活性光線種は特に限定はされないが、紫外線が好ましく、さらに波長300-400nmの紫外線であることが好ましい。紫外線照射量(照度)は、積算光量として100mJ/cm2~100,000mJ/cm2、好ましくは500mJ/cm2~10,000mJ/cm2、より好ましくは1,000~5,000mJ/cm2であることが良好な硬化性を得る上で望ましい。紫外線照射量(照度)が上記範囲以上であれば、仮接着剤層中の光活性型ヒドロシリル化反応触媒を活性化するのに十分なエネルギーが得られ、十分な硬化物を得ることができる。一方、紫外線照射量(照度)が上記範囲以下であれば、組成物に十分なエネルギーが照射され、重合体層中の成分の分解が起こったり、触媒の一部が失活したりすることなく、十分な硬化物を得ることができる。
【0064】
紫外線照射は複数の発光スペクトルを有する光であっても、単一の発光スペクトルを有する光であってもよい。また、単一の発光スペクトルは300nmから400nmの領域にブロードなスペクトルを有するものであってもよい。単一の発光スペクトルを有する光は、300nmから400nm、好ましくは350nmから380nmの範囲にピーク(即ち、最大ピーク波長)を有する光である。このような光を照射する光源としては、紫外線発光ダイオード(紫外線LED)や、紫外線発光半導体レーザー等の紫外線発光半導体素子光源が挙げられる。
【0065】
複数の発光スペクトルを有する光を照射する光源としては、メタルハライドランプ、キセノンランプ、カーボンアーク灯、ケミカルランプ、ナトリウムランプ、低圧水銀ランプ、高圧水銀ランプ、超高圧水銀ランプ等のランプ等、窒素等の気体レーザー、有機色素溶液の液体レーザー、無機単結晶に希土類イオンを含有させた固体レーザー等が挙げられる。
【0066】
前記光が発光スペクトルにおいて300nmより短い波長領域にピークを有する場合、あるいは、300nmより短い波長領域に前記発光スペクトルにおける最大ピーク波長の放射照度の5%より大きい放射照度を有する波長が存在する場合(例えば、発光スペクトルが広域波長領域に渡ってブロードである場合)、かつ支持体に石英ウエハ等の300nmより短い波長に対しても光透過性を有する基板を用いる場合、光学フィルターにより300nmより短い波長領域にある波長の光を除去することが、十分な硬化物を得る上で好ましい。これにより、300nmより短い波長領域にある各波長の放射照度を最大ピーク波長の放射照度の5%以下、好ましくは1%以下、より好ましくは0.1%以下、さらに好ましくは0%にする。尚、発光スペクトルにおいて300nmから400nmの波長領域に複数のピークが存在する場合には、その中で最大の吸光度を示すピーク波長を最大ピーク波長とする。光学フィルターは300nmより短い波長をカットするものであれば特に制限されず公知の物を使用すればよい。例えば365nmバンドパスフィルター等を使用することができる。なお、紫外線の照度、スペクトル分布は分光放射照度計、例えばUSR-45D(ウシオ電機)にて測定することができる。
【0067】
光照射装置としては、特に限定はされないが、例えばスポット式照射装置、面式照射装置、ライン式照射装置、コンベア式照射装置等の照射装置が使用できる。
【0068】
本発明の光硬化性シリコーン樹脂組成物を硬化させる際、光照射時間は照度にもよるため一概に規定はできないが、例えば1~300秒、好ましくは10~200秒、より好ましくは30~150秒となるように照度調整を行えば、照射時間も適度に短く、作業工程上で特に問題になることは無い。また、光照射を行った光硬化性シリコーン樹脂組成物は、照射の1~120分後、特には5~60分後にはゲル化する。なお、本発明においてゲル化とは光硬化性シリコーン樹脂組成物の硬化反応が一部進行し組成物が流動性を失った状態のことを意味する。
【0069】
[工程(c)]
工程(c)は、支持体と仮接着したウエハの回路非形成面を研削又は研磨する工程、すなわち、前記工程で得られたウエハ積層体のウエハ裏面側を研削して、該ウエハの厚みを薄くしていく工程である。ウエハ裏面の研削加工の方式には特に制限はなく、公知の研削方式が採用される。研削は、ウエハと砥石(ダイヤモンド等)に水をかけて冷却しながら行うことが好ましい。ウエハ裏面を研削加工する装置としては、例えば(株)ディスコ製DAG-810(商品名)等が挙げられる。また、ウエハ裏面側を化学機械研磨(CMP)してもよい。
【0070】
[工程(d)]
工程(d)は、工程(c)で回路非形成面を研削したウエハ積層体の回路非形成面に加工を施す工程である。すなわち、裏面研削によって薄型化されたウエハ積層体のウエハの回路非形成面に加工を施す工程である。この工程には、ウエハレベルで用いられる様々なプロセスが含まれる。例としては、電極形成、金属配線形成、保護膜形成等が挙げられる。より具体的には、電極等の形成のための金属スパッタリング、金属スパッタリング層をエッチングするウェットエッチング、金属配線形成のマスクとするためのレジストの塗布、露光、及び現像によるパターンの形成、レジストの剥離、ドライエッチング、金属めっきの形成、TSV形成のためのシリコンエッチング、シリコン表面の酸化膜形成など、従来公知のプロセスが挙げられる。
【0071】
[工程(e)]
工程(e)は、工程(d)で加工を施したウエハを支持体から剥離する工程、すなわち、薄型化したウエハに様々な加工を施した後、ダイシングする前にウエハを支持体から剥離する工程である。この剥離工程としては、一般に、室温から60℃程度の比較的温和な条件で実施される。剥離方法としては、ウエハ積層体のウエハ又は支持体の一方を水平に固定しておき、他方を水平方向から一定の角度を付けて持ち上げる方法、事前にウエハ積層体を溶剤に浸漬させて仮接着材層を膨潤させた後、上記同様ピール剥離に処する方法、研削されたウエハの研削面に保護フィルムを貼り、ウエハと保護フィルムをピール方式でウエハ積層体から剥離する方法等が挙げられる。これらの剥離方法で剥離工程を行う場合は、通常、室温で実施される。
【0072】
また、工程(e)は、
(e1)加工を施したウエハのウエハ面にダイシングテープを貼付する工程、
(e2)ダイシングテープ面を吸着面に真空吸着する工程、及び
(e3)吸着面の温度が10~100℃の範囲で、支持体を、加工を施したウエハからピールオフにて剥離する工程
を含むことが好ましい。このようにすることで、支持体を、加工を施したウエハから容易に剥離することができ、また、後のダイシング工程を容易に行うことができる。
【0073】
また、工程(e)後に、
(f)剥離したウエハの回路形成面に残存する仮接着剤層を除去する工程
を行うことが好ましい。工程(e)により支持体より剥離されたウエハの回路形成面には、仮接着剤層が一部残存している場合があり、該仮接着剤層の除去は、例えば、ウエハを洗浄することにより行うことができる。
【0074】
この工程(f)では、仮接着剤層のシリコーン樹脂を溶解するような洗浄液であればすべて使用可能であり、具体的には、ペンタン、へキサン、シクロヘキサン、デカン、イソノナン、p-メンタン、ピネン、イソドデカン、リモネン等が挙げられる。これらの溶剤は、1種単独で使用してもよく、2種以上を混合して使用してもよい。
【0075】
また、仮接着剤層を除去しにくい場合は、前記洗浄液に塩基類や酸類を添加してもよい。前記塩基類としては、エタノールアミン、ジエタノールアミン、トリエタノールアミン、トリエチルアミン、アンモニア等のアミン類;テトラメチルアンモニウムヒドロキシド等のアンモニウム塩類が使用可能である。前記酸類としては、酢酸、シュウ酸、ベンゼンスルホン酸、ドデシルベンゼンスルホン酸等の有機酸が使用可能である。前記塩基類や酸類の添加量は、洗浄液中の濃度が好ましくは0.01~10質量%、より好ましくは0.1~5質量%となる量である。また、残存物の除去性を向上させるため、既存の界面活性剤を添加してもよい。また、ウエハ洗浄剤として入手可能なSPIS-TA-CLEANERシリーズ(信越化学工業(株)製)も好適に使用可能である。
【0076】
ウエハの洗浄方法としては、前記洗浄液を用いてパドルで洗浄を行う方法、スプレー噴霧して洗浄する方法、洗浄液槽に浸漬する方法が挙げられる。洗浄する際の温度は、好ましくは10~80℃、より好ましくは15~65℃であり、必要があれば、これらの洗浄液で仮接着剤層を溶解した後、最終的に水又はアルコールによるリンスを行い、乾燥処理を行ってもよい。
【0077】
本発明の薄型ウエハの製造方法の第二の態様として、以下(a2)、(b2)の工程の工程を示す。(b2)以下の工程、つまり(c)~(e)、好ましくは(c)~(f)の工程に関しては上述の第一の態様と同様である。
【0078】
[工程(a2)]
工程(a2)は、光照射を行った光硬化性シリコーン樹脂組成物層をウエハ上及び/または支持体上に形成する工程である。
【0079】
ウエハと支持体を接合した後に光照射を行う第一の態様とは異なり、接合前に光硬化性シリコーン樹脂組成物に光照射を行うことで支持体越しの光照射工程が不要となり、その結果、支持体には光透過性が不要となる。よってこの態様によれば、上記支持体の適用例に追加してシリコン、アルミニウム、SUS、銅、ゲルマニウム、ガリウム-ヒ素、ガリウム-リン、ガリウム-ヒ素-アルミニウム等の光を透過しない基板も支持体として適用可能である。またこの方法によれば、ウエハからの硬化阻害の影響も低減可能であるため、ウエハの適用範囲も広げることが可能である。
【0080】
光照射を行った光硬化性シリコーン樹脂組成物の塗布に関しては、〔1〕ウエハ〔2〕支持体〔3〕ウエハと支持体の両側のいずれかに塗布して用いることができる。
【0081】
接合前に光硬化性シリコーン樹脂組成物に光照射を行う方法については、組成物に光照射を行いながらウエハ上及び/または支持体上に塗布する方法、組成物全体に光照射を行った後、ウエハ上及び/または支持体上に塗布する方法、ウエハ上及び/または支持体上に組成物を塗布した後に光照射を行う方法などが例示できるが、特に限定は無く、作業性を鑑みて適宜選択し行えばよい。また光照射における活性光線種、紫外線照射量(照度)、光源、発光スペクトル、光照射装置、光照射時間については、第一の態様の[工程(b1)]に挙げた方法を用いることができる。
【0082】
第一及び第二仮接着層の形成方法は第一の態様と同様に行うことができ、それぞれフィルム、あるいは対応する組成物またはその溶液をスピンコート、ロールコータなどの方法によりウエハ上及び/または支持体上に形成することができる。溶液として使用する場合、スピンコート後、その溶剤の揮発条件に応じ、20~200℃、好ましくは30~150℃の温度で、予めプリベークを行ったのち、使用に供される。
【0083】
[工程(b2)]
工程(b2)は、工程(a2)で作製された光硬化性シリコーン樹脂組成物層が形成された回路付きウエハ及び/または支持体を真空下で接合する工程である。このとき、好ましくは0~200℃、より好ましくは20~100℃の温度領域で、この温度にて減圧(真空)下、この基板を均一に圧着することで、ウエハが支持体と接合したウエハ加工体(積層体基板)が形成される。ここで、ウエハ貼り合わせ装置としては第一の態様と同様のものが使用可能である。
【実施例
【0084】
以下、調製例、比較調製例、実施例及び比較例を示して本発明をより具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。なお、粘度は、TVB-10M型回転粘度計(東機産業(株)製)による25℃における測定値である。
【0085】
[1]光硬化性シリコーン樹脂溶液の調製
[調製例1]
2.5モル%のビニル基を分子側鎖に有し、Mnが3万のジメチルポリシロキサン100質量部及びトルエン200質量部からなる溶液に、SiO4/2単位(Q単位)50モル%、(CH3)3SiO1/2単位(M単位)48モル%及び(CH2=CH)3SiO1/2単位(Vi単位)2モル%からなるMnが7,000のビニルメチルポリシロキサン50質量部及びトルエン100質量部からなる溶液、下記式(M-1)で表されるMnが2,800のオルガノハイドロジェンポリシロキサン230質量部、30質量%トルエン溶液の粘度(25℃)が30,000mPa・sである分子鎖両末端トリメチルシロキシ基封鎖ジメチルポリシロキサン50質量部及びトルエン120質量部からなる溶液、並びに1-エチニルシクロヘキサノール0.6質量部を添加し、混合した。さらに、そこへ光活性型ヒドロシリル化反応触媒;(メチルシクロペンタジエニル)トリメチル白金(IV)のトルエン溶液(白金濃度1.0質量%)を0.4質量部添加し、0.2μmのメンブレンフィルターで濾過して、光硬化性シリコーン樹脂溶液A1を調製した。樹脂溶液A1の25℃における粘度は、230mPa・sであった。
【化2】
【0086】
[調製例2]
2.5モル%のビニル基を分子側鎖に有し、Mnが3万のジメチルポリシロキサン70質量部、0.15モル%のビニル基を両末端鎖に有し、Mnが6万のジメチルポリシロキサン30質量部及びトルエン200質量部からなる溶液に、SiO4/2単位(Q単位)50モル%、(CH3)3SiO1/2単位(M単位)48モル%及び(CH2=CH)3SiO1/2単位(Vi単位)2モル%からなるMnが7,000のビニルメチルポリシロキサン50質量部及びトルエン100質量部からなる溶液、式(M-1)で表されるMnが2,800のオルガノハイドロジェンポリシロキサン180質量部、30質量%トルエン溶液の粘度(25℃)が1,000mPa・sである分子鎖両末端トリメチルシロキシ基封鎖ジメチルポリシロキサン30質量部、並びに1-エチニルシクロヘキサノール0.6質量部を添加し、混合した。さらに、そこへ光活性型ヒドロシリル化反応触媒;(メチルシクロペンタジエニル)トリメチル白金(IV)のトルエン溶液(白金濃度1.0質量%)を0.4質量部添加し、0.2μmのメンブレンフィルターで濾過して、光硬化性シリコーン樹脂溶液A2を調製した。樹脂溶液A2の25℃における粘度は、100mPa・sであった。
【0087】
[調製例3]
2.5モル%のビニル基を分子の両末端及び側鎖に有し、Mnが3万のジメチルポリシロキサン100質量部及びトルエン200質量部からなる溶液に、SiO4/2単位(Q単位)50モル%、(CH3)3SiO1/2単位(M単位)48モル%及び(CH2=CH)3SiO1/2単位(Vi単位)2モル%からなるMnが7,000のビニルメチルポリシロキサン50質量部及びトルエン100質量部からなる溶液、式(M-1)で表されるMnが2,800のオルガノハイドロジェンポリシロキサン230質量部、30質量%トルエン溶液の粘度(25℃)が100,000mPa・sである分子鎖両末端トリメチルシロキシ基封鎖ジメチルポリシロキサン20質量部及びトルエン300質量部からなる溶液、並びに1-エチニルシクロヘキサノール0.6質量部を添加し、混合した。さらに、そこへ光活性型ヒドロシリル化反応触媒;(メチルシクロペンタジエニル)トリメチル白金(IV)のトルエン溶液(白金濃度1.0質量%)を0.4質量部添加し、0.2μmのメンブレンフィルターで濾過して、光硬化性シリコーン樹脂溶液A3を調製した。樹脂溶液A3の25℃における粘度は、330mPa・sであった。
【0088】
[調製例4]
2.5モル%のビニル基を分子の両末端及び側鎖に有し、Mnが3万のジメチルポリシロキサン100質量部及びトルエン200質量部からなる溶液に、SiO4/2単位(Q単位)50モル%、(CH3)3SiO1/2単位(M単位)48モル%及び(CH2=CH)3SiO1/2単位(Vi単位)2モル%からなるMnが7,000のビニルメチルポリシロキサン200質量部及びトルエン400質量部からなる溶液、式(M-1)で表されるMnが2,800のオルガノハイドロジェンポリシロキサン430質量部、30質量%トルエン溶液の粘度(25℃)が30,000mPa・sである分子鎖両末端トリメチルシロキシ基封鎖ジメチルポリシロキサン100質量部及びトルエン120質量部からなる溶液、並びに1-エチニルシクロヘキサノール1.2質量部を添加し、混合した。さらに、そこへ光活性型ヒドロシリル化反応触媒;(メチルシクロペンタジエニル)トリメチル白金(IV)のトルエン溶液(白金濃度1.0質量%)を0.8質量部添加し、0.2μmのメンブレンフィルターで濾過して、光硬化性シリコーン樹脂溶液A4を調製した。樹脂溶液A4の25℃における粘度は、120mPa・sであった。
【0089】
[調製例5]
2.5モル%のビニル基を分子側鎖に有し、Mnが3万のジメチルポリシロキサン70質量部、0.15モル%のビニル基を両末端鎖に有し、Mnが6万のジメチルポリシロキサン30質量部及びトルエン200質量部からなる溶液に、SiO4/2単位(Q単位)50モル%、(CH3)3SiO1/2単位(M単位)48モル%及び(CH2=CH)3SiO1/2単位(Vi単位)2モル%からなるMnが7,000のビニルメチルポリシロキサン200質量部及びトルエン400質量部からなる溶液、式(M-1)で表されるMnが2,800のオルガノハイドロジェンポリシロキサン380質量部、30質量%トルエン溶液の粘度(25℃)が1,000mPa・sである分子鎖両末端トリメチルシロキシ基封鎖ジメチルポリシロキサン150質量部、並びに1-エチニルシクロヘキサノール1.2質量部を添加し、混合した。さらに、そこへ光活性型ヒドロシリル化反応触媒;(メチルシクロペンタジエニル)トリメチル白金(IV)のトルエン溶液(白金濃度1.0質量%)を0.8質量部添加し、0.2μmのメンブレンフィルターで濾過して、光硬化性シリコーン樹脂溶液A5を調製した。樹脂溶液A5の25℃における粘度は、80mPa・sであった。
【0090】
[調製例6]
2.5モル%のビニル基を分子の両末端及び側鎖に有し、Mnが3万のジメチルポリシロキサン100質量部及びトルエン200質量部からなる溶液に、SiO4/2単位(Q単位)50モル%、(CH3)3SiO1/2単位(M単位)48モル%及び(CH2=CH)3SiO1/2単位(Vi単位)2モル%からなるMnが7,000のビニルメチルポリシロキサン50質量部及びトルエン100質量部からなる溶液、式(M-1)で表されるMnが2,800のオルガノハイドロジェンポリシロキサン230質量部、30質量%トルエン溶液の粘度(25℃)が30,000mPa・sである分子鎖両末端トリメチルシロキシ基封鎖ジメチルポリシロキサン50質量部及びトルエン120質量部からなる溶液、並びに1-エチニルシクロヘキサノール0.6質量部を添加し、混合した。さらに、そこへ光活性型ヒドロシリル化反応触媒;ビス(2,4-へプタンジオナト)白金(II)の酢酸2-(2-ブトキシエトキシ)エチル溶液(白金濃度0.5質量%)を0.8質量部添加し、0.2μmのメンブレンフィルターで濾過して、光硬化性シリコーン樹脂溶液A6を調製した。樹脂溶液A6の25℃における粘度は、230mPa・sであった。
【0091】
[調製例7]
2.5モル%のビニル基を分子側鎖に有し、Mnが3万のジメチルポリシロキサン70質量部、0.15モル%のビニル基を両末端鎖に有し、Mnが6万のジメチルポリシロキサン30質量部及びトルエン200質量部からなる溶液に、SiO4/2単位(Q単位)50モル%、(CH3)3SiO1/2単位(M単位)48モル%及び(CH2=CH)3SiO1/2単位(Vi単位)2モル%からなるMnが7,000のビニルメチルポリシロキサン200質量部及びトルエン400質量部からなる溶液、式(M-1)で表されるMnが2,800のオルガノハイドロジェンポリシロキサン380質量部、30質量%トルエン溶液の粘度(25℃)が1,000mPa・sである分子鎖両末端トリメチルシロキシ基封鎖ジメチルポリシロキサン150質量部、並びに1-エチニルシクロヘキサノール1.2質量部を添加し、混合した。さらに、そこへ光活性型ヒドロシリル化反応触媒;ビス(2,4-へプタンジオナト)白金(II)の酢酸2-(2-ブトキシエトキシ)エチル溶液(白金濃度0.5質量%)を1.6質量部添加し、0.2μmのメンブレンフィルターで濾過して、光硬化性シリコーン樹脂溶液A7を調製した。樹脂溶液A7の25℃における粘度は、80mPa・sであった。
【0092】
[比較調製例1]
光活性型ヒドロシリル化反応触媒;(メチルシクロペンタジエニル)トリメチル白金(IV)のトルエン溶液(白金濃度1.0質量%)0.4質量部を熱活性型ヒドロシリル化反応触媒;CAT-PL-5(信越化学工業(株)製、白金濃度1.0質量%)0.4質量部に変更したこと以外は、調製例1と同様の方法で熱硬化性シリコーン樹脂溶液CA1を調製した。樹脂溶液CA1の25℃における粘度は、230mPa・sであった。
【0093】
[比較調製例2]
分子鎖両末端トリメチルシロキシ基封鎖ジメチルポリシロキサン50質量部及びトルエン120質量部からなる溶液を添加しなかったこと以外は、調製例1と同様の方法で光硬化性シリコーン樹脂溶液CA2を調製した。樹脂溶液CA2の25℃における粘度は、150mPa・sであった。
【0094】
[比較調製例3]
分子鎖両末端トリメチルシロキシ基封鎖ジメチルポリシロキサン30質量部を添加しなかったこと以外は、調製例2と同様の方法で光硬化性シリコーン樹脂溶液CA3を調製した。樹脂溶液CA3の25℃における粘度は、180mPa・sであった。
【0095】
[比較調製例4]
分子鎖両末端トリメチルシロキシ基封鎖ジメチルポリシロキサン50質量部を、下記式(M-2)で表される側鎖にエポキシ基を含むポリシロキサン(30質量%トルエン溶液の粘度(25℃):33,000mPa・s)50質量部に変更したこと以外は、調製例1と同様の方法で光硬化性シリコーン樹脂溶液CA4を得た。樹脂溶液CA4の25℃における粘度は、260mPa・sであった。
【化3】
【0096】
[比較調製例5]
分子鎖両末端トリメチルシロキシ基封鎖ジメチルポリシロキサン30質量部を、下記式(M-3)で表される側鎖にトリメトキシシリル基を含むポリシロキサン(30質量%トルエン溶液の粘度(25℃):2,500mPa・s)30質量部に変更したこと以外は、調製例2同様の方法で光硬化性シリコーン樹脂溶液CA5を得た。樹脂溶液CA5の25℃における粘度は、190mPa・sであった。
【化4】
【0097】
[2]ウエハ積層体の作製及びその評価
[実施例1~7及び比較例1~5]
表面に高さ10μm、直径40μmの銅ポストが全面に形成された直径200mmのシリコンウエハ(厚さ:725μm)上に、硬化性シリコーン樹脂溶液A1~A7、CA1~CA5をそれぞれスピンコートし、ホットプレートにて100℃で2分間加熱して、下記表1に示す膜厚で仮接着剤層をウエハバンプ形成面に成膜した。直径200mm(厚さ:500μm)のガラス板を支持体として、仮接着剤層を有するシリコンウエハ及びガラス板をそれぞれ、仮接着剤層とガラス板が合わさるように、EVG社のウエハ接合装置EVG520ISを用いて25℃、10-3mbar以下、荷重5kNにて真空貼り合わせを行った。その後、面照射タイプUV-LED(波長365nm)照射器を用いて、表1に示す条件にて硬化性シリコーン樹脂組成物層に光照射を行い、ウエハ積層体を作製した。また、熱硬化性シリコーン樹脂溶液CA1を用いたサンプルにおいては、ホットプレート上、表1に示す条件にて加熱を行い、ウエハ積層体を作製した。
【0098】
その後、得られたウエハ積層体に対して下記試験を行った。その結果を表1に併記する。また、試験は下記方法によって行った。
【0099】
(1)ウエハ反り試験
上記ウエハ積層体の作製において、仮接着層硬化時のウエハの反り状態を目視観察により確認した。反りが全く無かった場合を「○」、反りが発生した場合を「×」で評価した。
【0100】
(2)接着性試験
前記ウエハ積層体を180℃で1時間オーブンを用いて加熱し、室温まで冷却した後、ウエハ界面の接着状況を目視で確認し、界面に気泡等の異常が発生しなかった場合を良好と評価して「○」で示し、異常が発生した場合を不良と評価して「×」で示した。
【0101】
(3)裏面研削耐性試験
前記ウエハ積層体を用いて、グラインダー((株)ディスコ製DAG-810)でダイヤモンド砥石を用いてシリコンウエハの裏面研削を行った。基板の厚さが50μmになるまでグラインドした後、光学顕微鏡(100倍)にてクラック、剥離等の異常の有無を調べた。異常が発生しなかった場合を良好と評価して「○」で示し、異常が発生した場合を不良と評価して「×」で示した。
【0102】
(4)CVD耐性試験
(3)裏面研削耐性試験を終えた後のウエハ積層体をCVD装置に導入し、2μmのSiO2膜の成膜実験を行い、その際の外観異常の有無を目視観察によって調べた。外観異常が発生しなかった場合を良好と評価して「○」で示し、ボイド、ウエハ膨れ、ウエハ破損等の外観異常が発生した場合を不良と評価して「×」で示した。CVD耐性試験の条件は、以下のとおりである。
装置名:サムコ(株)製プラズマCVD、PD270STL
RF500W、内圧40Pa
TEOS(テトラエチルオルソシリケート):O2=20sccm:680sccm
【0103】
(5)剥離性試験
基板の剥離性は、まず、(4)CVD耐性試験を終えたウエハ積層体のウエハ側にダイシングフレームを用いてダイシングテープ(日東電工(株)製ELP UB-3083D)を貼り、このダイシングテープ面を真空吸着によって、吸着板にセットした。その後、室温にて、ガラスの1点をピンセットにて持ち上げることで、ガラス基板を剥離した。50μm厚のウエハを割ることなく剥離できた場合を「○」で示し、割れ等の異常が発生した場合を不良と評価して「×」で示した。
【0104】
(6)洗浄除去性試験
(5)剥離性試験終了後のダイシングテープを介してダイシングフレームに装着された直径200mmウエハ(CVD耐性試験条件に晒されたもの)を、剥離面を上にしてスピンコーターにセットし、洗浄溶剤としてSPIS-TA-CLEANER 25(信越化学工業(株)製)を5分間噴霧したのち、ウエハを回転させながらイソプロピルアルコール(IPA)を噴霧してリンスを行った。その後、外観を観察して残存する接着剤の有無を目視でチェックした。樹脂の残存が認められないものを良好と評価して「○」で示し、樹脂の残存が認められたものを不良と評価して「×」で示した。
【0105】
(7)ピール剥離力試験
直径200mmのシリコンウエハ(厚さ:725μm)上にシリコーン樹脂溶液A1~A7及びCA1~CA5をそれぞれスピンコートし、ホットプレートにて100℃で2分間加熱することで、表1に示す膜厚でシリコーン樹脂層を成膜した。その後、面照射タイプUV-LED(波長365nm)照射器を用いて、表1に示す条件にて硬化性シリコーン樹脂組成物層に光照射を行い、仮接着剤層を硬化させた。また、熱硬化性シリコーン樹脂溶液CA1を用いたサンプルにおいては、ホットプレート上、表1に示す条件で加熱を行い、仮接着剤層を硬化させた。
その後、前記ウエハ上のシリコーン樹脂層上に150mm長×25mm幅のポリイミドテープを5本貼り付け、テープが貼られていない部分の仮接着剤層を除去した。(株)島津製作所のAUTOGRAPH (AG-1)を用いて25℃、300mm/分の速度でテープの一端から180°剥離で120mm剥がし、そのときにかかる力の平均(120mmストローク×5回)を、そのシリコーン樹脂層のピール剥離力とした。
【0106】
(8)貯蔵弾性率測定
シリコン基板上に硬化性シリコーン樹脂溶液A1~A7及びCA1~CA5をそれぞれスピンコートし、ホットプレートにて100℃で2分間加熱することで、表1に示す膜厚でシリコン基板上にシリコーン樹脂層を形成した。その後、面照射タイプUV-LED(波長365nm)照射器を用いて、表1に示す条件にて硬化性シリコーン樹脂組成物層に光照射を行い、仮接着剤層を硬化させた。一方、熱硬化性シリコーン樹脂溶液CA1を用いたサンプルにおいては、ホットプレート上、表1に示す条件にて加熱を行い、仮接着剤層を硬化させた。
得られた仮接着剤層を含むシリコン基板を、TAインスツルメント社製アレスG2を使用し、仮接着剤層に50gfの荷重がかかるよう25mmアルミニウムプレートで挟んだ状態で25℃、1Hzでの弾性率測定を行い、得られた弾性率の値をシリコーン樹脂層の貯蔵弾性率とした。
【0107】
【表1】
【0108】
【表2】
【0109】
表1に示したように、本発明の仮接着剤層を含む実施例1~7のウエハ積層体は、比較的低温かつ短時間での硬化が可能であり、それに伴って硬化時のウエハ反りも低減されている。また十分な加工耐久性を有しており、かつ剥離性にも優れ、また剥離後の洗浄除去性も良好であることが確認された。一方、表2に示したように、熱活性型の触媒を用いた比較例1、2では、加熱不足による硬化不足や硬化時のウエハ反りが確認された。また、無官能性オルガノポリシロキサンを有しない比較例3、4や官能性オルガノポリシロキサンを含む比較例5、6では、回路付ウエハと支持体とが強密着となり、その結果、剥離工程でウエハ割れが発生し、また剥離もできなかった。
【0110】
[実施例8]
光硬化性シリコーン樹脂溶液A1に、面照射タイプUV-LED(波長365nm)照射器を用いて、表2に示す条件にて光照射を行い、次いで表面に高さ10μm、直径40μmの銅ポストが全面に形成された直径200mmのシリコンウエハ(回路付きSiウエハ、厚さ:725μm)上にスピンコートし、ホットプレートにて100℃で2分間加熱して、下記表2に示す膜厚で仮接着剤層をウエハバンプ形成面に成膜した。直径200mmのシリコンウエハ(Siウエハ、厚さ:770μm)を支持体として、仮接着剤層を有する回路付きSiウエハ及び支持体のSiウエハをそれぞれ、仮接着剤層とSiウエハが合わさるように、EVG社のウエハ接合装置EVG520ISを用いて25℃、10-3mbar以下、荷重5kNにて真空貼り合わせを行い、ウエハ積層体を作製した。
【0111】
[実施例9]
前記実施例8において、光照射を行った光硬化性シリコーン樹脂溶液A1を塗布する対象を回路付きSiウエハ上から支持体のSiウエハ上に変更した以外は、同様にしてウエハ積層体を作製した。
【0112】
[実施例10]
前記実施例8において、光照射を行った光硬化性シリコーン樹脂溶液A1を塗布する対象を回路付きSiウエハ上から回路付きSiウエハ上及び支持体のSiウエハ上の両方に変更した以外は、同様にしてウエハ積層体を作製した。
【0113】
[実施例11]
前記実施例8において、用いる光硬化性シリコーン樹脂溶液をA1からA6に変更した以外は同様にしてウエハ積層体を作製した。
【0114】
[実施例12]
前記実施例9において、用いる光硬化性シリコーン樹脂溶液をA1からA6に変更した以外は同様にしてウエハ積層体を作製した。
【0115】
[実施例13]
前記実施例10において、用いる光硬化性シリコーン樹脂溶液をA1からA6に変更した以外は同様にしてウエハ積層体を作製した。
【0116】
前記実施例8~13において、得られたウエハ積層体に対して前記(1)ウエハ反り試験~(6)洗浄除去性試験と同様の試験を行った。その結果を表3に示す。
また、(7)ピール剥離力試験と(8)貯蔵弾性率測定については、予め光照射を行った光硬化性シリコーン樹脂溶液を直径200mmのシリコンウエハ(Siウエハ、厚さ:770μm)上にスピンコートし、ホットプレートにて100℃で5分間加熱することで、シリコーン樹脂層を硬化させ、試験サンプルを準備した。その後は前記同様、ピール剥離力試験及び弾性率測定試験を実施し、その結果を表3に記載した。
【0117】
【表3】
【0118】
表3に示したように、本発明の薄型ウエハの製造方法において、予め光照射を行ったシリコーン樹脂溶液を塗布し、接合した場合でも、塗布、接合後に光照射を行った場合と同等のウエハ加工性が得られることが確認された。この場合、支持体を透過しての光照射が不要となるため、支持体の適用範囲が広がり、またデバイスウエハへの光ダメージを回避することができる等の利点が考えられる。
図1