(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2025-03-31
(45)【発行日】2025-04-08
(54)【発明の名称】モータ用焼結磁石およびその製造方法、ならびに永久磁石型同期モータ
(51)【国際特許分類】
H02K 15/03 20250101AFI20250401BHJP
H02K 1/2786 20220101ALI20250401BHJP
【FI】
H02K15/03
H02K1/2786
(21)【出願番号】P 2019196103
(22)【出願日】2019-10-29
【審査請求日】2022-09-16
【審判番号】
【審判請求日】2024-03-04
(73)【特許権者】
【識別番号】000005083
【氏名又は名称】株式会社プロテリアル
(74)【代理人】
【識別番号】100101683
【氏名又は名称】奥田 誠司
(74)【代理人】
【識別番号】100155000
【氏名又は名称】喜多 修市
(72)【発明者】
【氏名】中島 澄人
(72)【発明者】
【氏名】三角 信弘
(72)【発明者】
【氏名】瀬戸 亨
(72)【発明者】
【氏名】原田 務
(72)【発明者】
【氏名】永野 泰宏
(72)【発明者】
【氏名】安嶋 龍太
(72)【発明者】
【氏名】三好 啓太
【合議体】
【審判長】小宮 慎司
【審判官】河本 充雄
【審判官】大橋 達也
(56)【参考文献】
【文献】特開2017-177253号公報(JP,A)
【文献】特開2013-208003号公報(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H02K15/03
H02K 1/2786
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
凸状の第1主面、前記第1主面の反対側の第2主面、および側面を有する焼結磁石を用意する工程aと、
前記焼結磁石の前記第1主面の頂上部を部分的に研削することによって前記第1主面の一部に基準平面を形成する工程bと、
前記焼結磁石の前記側面の少なくとも一部を研削することによって前記焼結磁石の長さおよび/または幅を規定する面を形成する工程cと、
を含み、
前記第1主面は、研削されていない表面を含み、前記研削されていない表面は、前記基準平面の両側において曲面形状を有し、
前記第1主面における前記基準平面の面積は、前記第1主面の面積の50%以下であり、かつ、前記第1主面のうち研削されていない前記表面は、焼結工程によって形成された黒皮状態に維持されているモータ用焼結磁石として前記第1主面が前記基準平面を含む焼結磁石を作製する、モータ用焼結磁石の製造方法。
【請求項2】
前記焼結磁石の前記第2主面の少なくとも一部を研削することによって、前記基準平面に平行な他の基準平面を前記第2主面に形成する工程dを更に含む、請求項1に記載のモータ用焼結磁石の製造方法。
【請求項3】
工程bおよび工程dを同時に行う、請求項2に記載のモータ用焼結磁石の製造方法。
【請求項4】
工程cを工程aの後に行う、請求項1から3のいずれかに記載のモータ用焼結磁石の製造方法。
【請求項5】
前記第2主面を凹状曲面に加工する工程eを更に包含する、請求項1から3のいずれかに記載のモータ用焼結磁石の製造方法。
【請求項6】
凸状の第1主面、前記第1主面の反対側の第2主面、および側面を有するモータ用焼結磁石であって、
前記第1主面は、基準平面と未加工表面とを含み、前記未加工表面は、前記基準平面の両側において曲面形状を有し、
前記側面は、前記モータ用焼結磁石の長さおよび/または幅を規定する面を有
し、
前記第1主面における前記基準平面の面積は、前記第1主面の面積の50%以下であり、かつ、前記未加工表面は、焼結による黒皮状態に維持されている、モータ用焼結磁石。
【請求項7】
前記焼結磁石の前記第2主面は、前記基準平面に平行な他の基準平面を含む、請求項
6に記載のモータ用焼結磁石。
【請求項8】
前記第2主面は凹状曲面を有している、請求項
6または
7に記載のモータ用焼結磁石。
【請求項9】
ロータとステータとを備える永久磁石型同期モータであって、
前記ロータは鉄心と、前記鉄心に固定された複数の永久磁石と、
を有し、
前記複数の永久磁石のそれぞれは、請求項
6から
8のいずれかに記載されたモータ用焼結磁石である、永久磁石型同期モータ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、モータ用焼結磁石の製造方法、モータ用焼結磁石、および、当該モータ用焼結磁石を備える永久磁石型同期モータに関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1は、ステータの巻線に電流を流すことによってロータを回転させる永久磁石型同期モータ(以下、単に「モータ」と称する場合がある。)の製造方法を開示している。具体的には、ロータの鉄心に埋め込まれる複数の焼結磁石のそれぞれの端部に未加工表面(黒皮部分)を残し、未加工表面が互いに近接するように焼結磁石を配列することが特許文献1に開示されている。未加工表面の磁石特性ばらつきによるモータの性能に影響しないように焼結磁石の配置に工夫がされている。焼結磁石の形状は多様であり、それぞれ、ロータの鉄心に設けられた開口部に埋め込まれて使用される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1に記載されているモータは、焼結磁石の加工コストを低減することが可能になるため、永久磁石型同期モータの性能を落とすことなく、価格の低下を実現することが可能になる。
【0005】
製造コストの更なる低減が可能なモータ用焼結磁石の製造方法、モータ用焼結磁石、および、永久磁石型同期モータの開発が求められている。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本開示のモータ用焼結磁石の製造方法は、一態様において、凸状の第1主面、前記第1主面の反対側の第2主面、および側面を有する焼結磁石を用意する工程aと、前記焼結磁石の前記第1主面の頂上部を部分的に研削することによって前記第1主面の一部に基準平面を形成する工程bと、前記焼結磁石の前記側面の少なくとも一部を研削することによって前記焼結磁石の長さおよび/または幅を規定する面を形成する工程cとを含み、モータ用焼結磁石として前記第1主面が前記基準平面を含む焼結磁石を作製する。
【0007】
ある実施形態において、前記第1主面は、研削されていない表面を含む。
【0008】
ある実施形態において、前記研削されていない表面は、前記基準平面の両側において曲面形状を有する。
【0009】
ある実施形態において、前記焼結磁石の前記第2主面の少なくとも一部を研削することによって、前記基準平面に平行な他の基準平面を前記第2主面に形成する工程dを更に含む。
【0010】
ある実施形態において、工程bおよび工程dを同時に行う。
【0011】
ある実施形態において、工程cを工程aの後に行う。
【0012】
ある実施形態において、前記第2主面を凹状曲面に加工する工程eを更に包含する。
【0013】
ある実施形態において、前記第1主面における前記基準平面の面積は、前記第1主面の面積の50%以下である。
【0014】
ある実施形態において、前記第1主面のうち研削されていない前記表面は、焼結工程によって形成された黒皮状態に維持されている。
【0015】
本開示のモータ用焼結磁石は、一態様において、凸状の第1主面、前記第1主面の反対側の第2主面、および側面を有するモータ用焼結磁石であって、前記第1主面は、基準平面を含み、前記側面は、前記モータ用焼結磁石の長さおよび/または幅を規定する面を有する。
【0016】
ある実施形態において、前記第1主面は、未加工表面を含む。
【0017】
ある実施形態において、前記未加工表面は、前記基準平面の両側において曲面形状を有する。
【0018】
ある実施形態において、前記焼結磁石の前記第2主面は、前記基準平面に平行な他の基準平面を含む。
【0019】
ある実施形態において、前記第2主面は凹状曲面を有している。
【0020】
ある実施形態において、前記第1主面における前記基準平面の面積は、前記第1主面の面積の50%以下である。
【0021】
本開示の永久磁石型同期モータは、一態様において、ロータとステータとを備え、前記ロータは鉄心と、前記鉄心に固定された複数の永久磁石とを有し、前記複数の永久磁石のそれぞれは、上記いずれかに記載されたモータ用焼結磁石である。
【発明の効果】
【0022】
本開示の実施形態によれば、モータの性能を低下させることなく、磁石材料の歩留り向上および研削加工の工程時間短縮を実現し得るモータ用焼結磁石の製造方法が提供される。このため、高性能なモータ用焼結磁石および永久磁石型同期モータの製造コストを低下させることが可能になる。
【図面の簡単な説明】
【0023】
【
図1】従来の埋込磁石構造を有する永久磁石型同期モータの構成例を模式的に示す断面図である。
【
図2】かまぼこ型磁石を作製する従来の方法を説明するための工程断面図である。
【
図3】本開示によるモータ用焼結磁石の実施形態(左側)および比較例(右側)の形状例を示す斜視図である。
【
図4】本開示によるモータ用焼結磁石の実施形態(左側)および比較例(右側)の形状例を示す断面図である。
【
図5】本開示によるモータ用焼結磁石の製造方法の実施形態を説明するための工程断面図である。
【
図6】焼結磁石の第1主面の頂上部を部分的に研削する工程を模式的に示す斜視図である。
【
図7】焼結磁石の側面を研削することによって焼結磁石の幅を規定する面を形成する工程を模式的に示す斜視図である。
【
図8】本開示の実施形態におけるロータ鉄心の構成例を模式的に示す断面図である。
【
図9】
図8のロータ鉄心に磁石が埋め込まれた状態を模式的に示す断面図である。
【
図10】本開示によるモータ用焼結磁石(弓型)の製造方法の実施形態を説明するための工程断面図である。
【
図11】本開示の実施形態による永久磁石型同期モータの構成例を模式的に示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0024】
永久磁石(以下、単に「磁石」という。)は、種々の形状に加工されて様々な用途に利用されている。希土類磁石は、優れた磁気特性を有しており、広く利用されている。その中でも、ネオジム磁石として知られているR-T-B系焼結磁石(Rは希土類元素、TはFeを必ず含む遷移金属元素)は、優れた磁気特性と他の希土類磁石(例えばサマリウムコバルト磁石)と比べて比較的材料費が安価なことから広く利用されている。
【0025】
R-T-B系焼結磁石の磁石は、以下の方法で製造される。
【0026】
まず、所望の組成を有するR-T-B系合金の粉末を用意する。合金粉末をプレス成形によって所望の形状を有する粉末成形体を作製する。粉末成形体を焼結することによって焼結体を得る。必要に応じて、焼結体は時効処理などの熱処理を受ける。焼結体は、熱処理の前または後に機械加工を受けて所望の大きさおよび形状の磁石となる。その後、磁石は、機械加工によって磁石表面に付着した研削加工粉や研削液(冷却液)を除去するために洗浄される。耐食性向上等の目的のため、種々の表面処理が施される場合もある。着磁工程を経て、焼結体は永久磁石として機能することになる。なお、本明細書では、便宜上、着磁される前の状態にある焼結体も広く「磁石」と呼ぶことにする。
【0027】
このようにして作製されるR-T-B系焼結磁石は、永久磁石型同期モータに広く利用されている。このようなモータでは、例えば、ステータのティースに巻かれた銅線(巻線)が形成する回転磁界によってトルクを発生させる。軟磁性材料から形成されたロータの鉄心(コア)には、複数のR-T-B系焼結磁石が取り付けられる。永久磁石同期モータには、表面磁石型と埋込磁石型がある。例えば、埋込磁石型のモータでは、ロータの鉄心内部に形成した複数の開口部(孔または凹部)のそれぞれに焼結磁石が埋め込まれて使用される。鉄心内部に透磁率の低い空隙が生じると、ロータの磁気抵抗が増大し、モータの特性が劣化してしまう。このため、焼結磁石の形状およびサイズと、ロータの鉄心内部に設ける開口部の形状およびサイズとを正確に整合させることが行われている。
【0028】
ロータの鉄心内部に設けられる磁石埋込用の開口部は、平面に囲まれた単純な形状以外にも、一般には、「かまぼこ型」または「弓型(アーク型)」と呼ばれるような曲面を含む形状を有していることがある。これは、モータの回転動作中にロータ内部を通る磁束の分布を精密に制御することがモータの性能を高めるために必要であり、焼結磁石の形状および配置が重要になるからである。このため、焼結磁石の加工は時間をかけて精密に行われ、削り取られた材料が全体に占める割合も増加する傾向にある。このことは、材料利用率、すなわち歩留りの低下を招く。高価な希土類元素を含む磁石材料は、削り取られた後、研削加工粉(スラッジ)などから再生利用され得るが、製造コストの増加は避けられない。
【0029】
図1は、従来の埋込磁石構造を有する永久磁石型同期モータの構成例を模式的に示す断面図である。
【0030】
図示される例において、モータ1000は、ロータ500とステータ600とを備える永久磁石型同期モータである。
【0031】
ロータ500は、回転軸の沿って延びる複数の開口部(孔または凹部)50を有する鉄心52と、複数の開口部50内にそれぞれ配置される複数の永久磁石(焼結磁石)200とを有している。
図1では、鉄心52の開口部50に埋め込まれる前の状態にある1個の永久磁石(単に「磁石」と略記する。)200が記載されている。実際には、各開口部50の内部に磁石が埋め込まれる。この例におけるロータ500は4極であり、4個の磁石200が埋め込まれる。磁石200は、ロータ500の半径方向において外側または内側に着磁されており、ロータ500の周面では円周方向に沿って方N極とS極とが交互に配列される。ロータ500の極数は4極に限られず、2極であってもよいし、6極以上であってもよい。
【0032】
ステータ600は、それぞれが巻線62を周りに有する複数のティース64を有している。巻線62には、不図示のインバータ回路から例えば3相交流電流が流れ、ティース64の先端からロータ500の鉄心52の内部を貫く磁束が生成される。巻線62が生成するステータ磁束と磁石200が作るロータ磁束の相互作用により、ロータ500が所望のトルクおよび速度で回転することが可能になる。
【0033】
図1の例において、磁石200は「かまぼこ型」の断面形状を有しており、ロータ500の回転軸方向に同一断面形状をもって延びている。磁石200の形状は「かまぼこ型」に限定されない。磁石200の形状およびサイズは、鉄心52の開口部50の形状およびサイズに整合している。このような磁石200を作製するためには、例えば、以下に説明する加工が行われてきた。
【0034】
図2を参照して、かまぼこ型の磁石200を作製する従来の方法を説明する。
【0035】
まず、
図2のステップS1に示すように、磁石の最終的な断面よりも大きな断面を有する磁石200を用意する。具体的には、粉末冶金技術により、磁石材料の粉末成形体を焼結して焼結磁石200を得る。この焼結磁石200は、凸状の第1主面10と、第1主面10の反対側の第2主面20と、4つの側面30とを有する。次に、ステップS2のA-A線で示される平面を基準面として露出させるように、焼結磁石200の第1主面10を加工する。この加工は「基準面加工」と呼ばれる。こうして、ステップS3に示すように、フラットな基準平面10Sを第1主面10に形成する。また、焼結磁石200の側面30を研磨することによって焼結磁石200の長さおよび幅を規定する基準面も形成する。
【0036】
「焼結磁石の長さおよび/または幅」とは、前記基準表面に平行な方向における焼結磁石のサイズを意味する。また、「焼結磁石の長さおよび/または幅を規定する面」は、典型的には、第1主面の基準表面に対して垂直である。
【0037】
この後、ステップS4では、破線で示される曲面10Rを形成するように第1主面10の全体に対して形状加工を行う。この形状加工は、曲面10Rを高い寸法精度で形成することが求められる。以下、焼結磁石200を曲面形状に加工することを「姿加工」という場合がある。こうして、ステップS5において、
図1に示されるようなロータ500の開口部50の形状およびサイズを有する焼結磁石200を得る。
【0038】
上述した従来の加工方法によれば、姿加工を行うために、ステップS1で用意する磁石200の大きさを大きくしておく(姿加工を行うための加工の取り代を確保しておく)必要がある。このため、ステップS2およびステップS4の両方において歩留り(材料利用率)が低下する。さらに、姿加工を行う加工機によって精度の高い加工を行うため、工程の時間が長くなるという問題もある。
【0039】
本発明者は、このような問題の解決を鋭意検討し、焼結磁石の加工形状とモータ性能との関係を調べたところ、焼結磁石の第1主面に対して姿加工を行わずに未加工表面を部分的に残しても、第1主面の中央部に平坦な基準面が存在すれば、モータ性能をほとんど劣化させることなくロータに適切に埋め込むことのできる焼結磁石が実現することを見出して本発明を完成するに至った。これにより、姿加工を行うための加工の取り代を確保することが不要となるため歩留り(材料利用率)を大幅に向上させることができる。更に、基準面加工時の加工の取り代も少なくなり、姿加工も不要となることから工程の時間を短縮することができる。
【0040】
以下、本開示によるモータ用焼結磁石の実施形態を説明する。
【0041】
まず、
図3および
図4を参照する。
図3の左側は、本開示によるモータ用焼結磁石の実施形態の形状例を示す斜視図であり、
図3の右側は、従来のモータ用焼結磁石の形状例を示す斜視図である。
図3には、モータ用焼結磁石100の長さLおよび幅Wを示す矢印が記入されている。
図4は、本実施形態(左側)および比較例(右側)の形状例を示す断面図である。
図4には、モータ用焼結磁石100の厚さTを示す矢印が記入されている。
【0042】
図3および
図4に示されるように、本実施形態におけるモータ用焼結磁石100は、凸状の第1主面10、第1主面10の反対側の第2主面20、および側面30を有する。第1主面10は、基準平面10Sを含み、側面30は、モータ用焼結磁石100の長さおよび/または幅を規定する面30W、30Lを有する。このように、モータ用焼結磁石100には「姿加工」が行われていない。
【0043】
図示されている実施形態において、第1主面10は、研削されていない表面10Nを含む。研削されていない表面10Nは、基準平面10Sの両側において曲面形状を有する。このような曲面形状は、前述した姿加工によって形成されたものではなく、プレスによって形状が整えられた粉末成形体を焼結することによって形成された形状である。研削されていない表面10Nは、典型的には、「未加工表面」である。そのため、表面10Nは、焼結工程によって形成された黒皮状態に維持されている。なお、本開示において、「研削」の用語は、砥石などを利用して焼結磁石の表面から磁石材料を物理的に除去して「形状」を形成することであり、広く「研磨」を含むものとする。研削されていない表面10Nの一部または全部が、なんらかの「表面処理」を受けていてもよい。この表面処理には、耐候性向上のための化学的または物理的な処理、メッキなどの金属層の堆積、樹脂の塗布などを含む。また、研削されていない表面10Nの一部に意図せずに生じた突起部、または、付着した不要物の除去は、「研削」に含まれず、必要に応じて行われていてもよい。更に、メッキまたは樹脂塗装などの表面処理を行う際に、密着性を向上させるための加工(例えば、ショットブラストやバレル研磨等)も、「研削」に含まれず、必要に応じて行われ得る。
【0044】
好ましい実施形態において、第1主面10における基準平面10Sの面積は、第1主面10の面積の50%以下であり、更に好ましくは、40%以下である。基準平面10Sの幅は、例えば、約1mm以上約5mm以下である。基準平面10Sの幅がこれよりも小さいと、基準面としての機能を十分に果たさなくなり、これよりも大きいと材料および研削時間が無駄になる。
【0045】
なお、
図3および
図4に示されるモータ用焼結磁石100には、焼結磁石200の長さLを規定する基準面30Lと、焼結磁石200の幅Wを規定する基準面30Wが形成されている。
【0046】
次に、
図5を参照しながら、本開示の実施形態におけるモータ用焼結磁石の製造方法を説明する。
図5は、本開示によるモータ用焼結磁石の製造方法の実施形態を説明するための工程断面図である。
【0047】
まず、工程aにおいて、凸状の第1主面10、第1主面10の反対側の第2主面20、および側面30を有する焼結磁石100を用意する。この例において、第2主面20は実質的に平坦面である。本開示によれば、上述した従来の方法と比べて、磁石の最終的な断面よりも大きな断面を用意する必要がない。すなわち、最終的な磁石の大きさが同じの場合、従来の方法(磁石200)に比べて、用意する焼結磁石100の大きさを小さくすることができる。これにより、歩留り(材料利用率)を向上させることができる。例えば、R-T-B系焼結磁石の場合、姿加工を無くすことにより、5%以上、典型的には10%以上の歩留り(材料利用率)向上を実現することが可能になる。
【0048】
工程bにおいて、焼結磁石100の第1主面10の頂上部を部分的に研削することによって第1主面10の一部に基準平面10Sを形成する。この例では、
図5のB-B破線で示される面が露出するまで研削加工が行われる。本開示の実施形態によれば、従来の方法におけるステップS2と比べて、姿加工の取り代を確保することが不要になることで、工程bにおける加工の取り代も少なくなり工程の時間を短くすることができる。こうして、焼結磁石100の厚さTが設計値に達することになる。なお、第1主面10の頂上部を部分的に研削するとき、第2主面20が同時に研削されてもよい。第2主面20を研削することにより、基準平面10Sに平行な他の基準平面が第2主面に形成される(工程d)。これにより、焼結磁石100の厚さTおよび次工程の工程cにおける長さおよび/または幅の寸法をより高い精度で規定することができる。
【0049】
次に、工程cでは、焼結磁石100の側面30の少なくとも一部を研削することによって焼結磁石200の長さLおよび/または幅Wを規定する面を形成する。この例では、
図5のC1-C1破線で示される面およびC2-C2破線で示される面が露出するまで研削加工が行われる。
図5には、焼結磁石100の幅Wを規定する面30Wが記載されているが、焼結磁石100の長さLを規定する面も形成され得る。このように本開示の実施形態におけるモータ用焼結磁石の製造方法は、モータ用焼結磁石として第1主面が基準平面を含む焼結磁石を作製する。すなわち、曲面形状に加工する(姿加工)工程(前記ステップS4)は行わない。
【0050】
図6は、工程bの研削加工に使用され得る加工機700の構成例を模式的に示している。この加工機700は、回転する一対の研削ホイール70を備えている。研削ホイール70は、互いに平行に対向している。各研削ホイール70は、平面上の砥石層を有している。このような研削ホイール70は、ダイヤモンド砥粒(粒径100μm~200μm)を電着することにより作製され得る。高い加工精度を得るためには、適宜、研削ホイール70は、新しい部品と交換する必要がある。
【0051】
このような加工機700によれば、研削ホイール70によって焼結磁石100に接する両面を研削して焼結磁石100の厚さTを調整することができる。一方、
図7は、工程cの研削加工の様子を模式的に示している。この研削工程は、
図6の加工機700と同様の構成を備える加工機800によって実行可能である。加工機800は、回転する一対の研削ホイール80が焼結磁石100の側面を研削して焼結磁石100の幅Wを調整することができる。加工機700の研削ホイール70の間隔を変更することにより、同一の加工機700を用いて焼結磁石100の幅Wを調整してもよい。
【0052】
これらの研削加工は、これらの装置に限定されず、他の構成の研削装置を用いて行ってもよい。なお、焼結磁石100の長さLの研削も公知の加工機を用いて行うことができる。これらの平坦な加工面を形成する研削は、曲面形状を得るための「姿加工」に比べて容易である。
図6および
図7に例示される加工機では、焼結磁石100の両面を同時に研削し得るが、研削加工は片面ずつ行ってもよい。研削加工時には研削部分に研削液が供給される。
【0053】
こうして、第1主面10が基準平面10Sを含む焼結磁石100が得られる。
図5の最下段に示されるように、第1主面10は、研削されていない表面10Nを含む。研削されていない表面10Nは、基準平面10Sの両側において曲面形状を有する。この曲面は、典型的には未加工表面であり、焼結工程によって形成された黒皮状態に維持されている。本実施形態にける基準平面10Sは、最終的にモータに埋め込まれて使用されている状態でも平面形状を保持している点で、従来の製造途中における基準平面とは異なる。
【0054】
このようにして製造された磁石は、着磁された後、永久磁石同期モータの製造に使用される。以下、ロータへの埋め込みについて説明する。
【0055】
図8は、本実施形態におけるロータ500の鉄心52の構成例を模式的に示す断面図である。
図9は、
図8の鉄心に磁石100が埋め込まれた状態を模式的に示す断面図である。
【0056】
図8の鉄心52は、複数の開口部520を有している。各開口部520は、焼結磁石100の第1主面10における基準平面10Sに対向する平面部10Fと、焼結磁石100の第2主面20に対向する平面部20Fと、焼結磁石100の側面30Wに対向する平面部30Fとを有している。
【0057】
図9に示されるように、焼結磁石100の研削されていない表面10Nと鉄心52との間には、隙間Gが形成され得る。この隙間Gは、焼結磁石100ごとに表面10Nの形状または寸法に「ばらつき」が生じても、それを吸収して表面10Nと鉄心52とが物理的に干渉することが無いように設計される。焼結磁石100の研削されていない表面10Nは、典型的には未加工表面であるため、表面粗度が高く、焼結の状態に応じて形状および寸法に「ばらつき」が生じやすい。
【0058】
図9に示される例において、焼結磁石100の研削されていない表面10Nの位置は、隣接する他の焼結磁石100に近い。表面10Nには、焼結工程またはその後の熱処理などによって酸化されている可能性があり、表面領域の磁石特性は焼結磁石100の内部における磁石特性に比べて劣化している可能性がある。このため、従来は、磁石特性が劣化した黒皮部分を研削によって除去することが必要と考えられていた。本発明者は、そのような技術常識にとらわれることなく、焼結磁石100の第1主面10の50%以上のエリアに黒皮を残しても、モータ性能の低下が避けられることを見出した。
【0059】
本開示の実施形態における焼結磁石100の形状は、「かまぼこ型」に限定されず、「弓型」であってもよい。
【0060】
図10を参照して、弓型の焼結磁石を得る実施形態を簡単に説明する。
図10は、本開示によるモータ用焼結磁石の製造方法の実施形態を説明するための工程断面図である。
【0061】
まず、工程aにおいて、凸状の第1主面10、第1主面10の反対側の第2主面20、および側面30を有する焼結磁石100を用意する。この焼結磁石100の断面において、第1主面10は凸状であり、第2主面20は凹状である。
【0062】
工程bにおいて、焼結磁石100の第1主面10の頂上部を部分的に研削することによって第1主面10の一部に基準平面10Sを形成する。この例では、
図5のB-B破線で示される面が露出するまで研削加工が行われる。こうして、焼結磁石100の厚さTが設計値に達することになる。なお、第1主面10の頂上部を部分的に研削するとき、第2主面20を同時または別々に研削することにより、基準平面10Sに平行な他の基準平面を第2主面に形成してもよい(工程d)。
【0063】
工程cでは、焼結磁石100の側面30の少なくとも一部を研削することによって焼結磁石200の長さLおよび/または幅Wを規定する面を形成する。
図10のC1-C1破線で示される面およびC2-C2破線で示される面が露出するまで研削加工が行われる。その結果、焼結磁石100の幅Wを規定する面(基準平面)30Wが形成される。なお、他の側面30を研削することにより、焼結磁石100の長さLを規定する面(基準平面)も形成され得る。
【0064】
次に、工程eにおいて、第2主面20に対して姿加工を行い、第2主面20から黒皮を除去して曲面20Rを形成(凹状曲面に加工)する。
【0065】
こうして、第1主面10は、研削されていない表面10Nを含み、第2主面20の全体は研削されたモータ用焼結磁石が得られる。研削されていない表面10Nは、基準平面10Sの両側において曲面形状を有しており、焼結磁石100の断面は全体として弓型である。なお、第2主面20に対する姿加工(工程e)は省略してもよい。
【0066】
本発明は、様々な組成の希土類焼結磁石に適用して効果がある。特に、研削が難しい硬い磁石材料の場合、効果は顕著である。また、研削加工を行わずに焼結表面を未加工のまま残しておくことの悪い影響は、もともとの磁石性能が高い場合に相対的に無視できるようになる。このため、本発明は、DyまたはTbを含有する高性能希土類磁石に適用して優れた効果を発現する。
【0067】
図11は、本開示の実施形態による永久磁石型同期モータの構成例を模式的に示す断面図である。この例における永久磁石同期モータ1100は、ロータ500とステータ600とを備え、ステータ600の構成は、基本的には、
図1のモータ1000と同様の構成を有している。ただし、本実施形態におけるモータ1100は、上記の実施形態における焼結磁石200がロータ500の鉄心52に表面に固定された表面実装型である。本開示による焼結磁石200は、埋込型および表面実装型のいずれのモータに用いることもできる。
【産業上の利用可能性】
【0068】
本開示のモータ用焼結磁石およびその製造方法、ならびに永久磁石型同期モータは、例えば電気自動車、ハイブリッド自動車などに広く使用することができる。また、発電機にも利用され得る。
【符号の説明】
【0069】
10・・・第1主面、10S・・・基準平面、20・・・第2主面、30・・・側面、50・・・開口部、52・・・鉄心、62・・・巻線、64・・・ティース、100・・・焼結磁石、200・・・焼結磁石、500・・・ロータ、600・・・ステータ、1000・・・永久磁石型同期モータ