(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2025-03-31
(45)【発行日】2025-04-08
(54)【発明の名称】熱可塑性樹脂組成物及び部材、並びに熱可塑性樹脂組成物からなる部材の製造方法及び機械強度の向上方法
(51)【国際特許分類】
C08L 87/00 20060101AFI20250401BHJP
C08L 101/00 20060101ALI20250401BHJP
C08K 3/04 20060101ALI20250401BHJP
C08K 7/00 20060101ALI20250401BHJP
C08J 3/20 20060101ALI20250401BHJP
C08J 5/04 20060101ALI20250401BHJP
【FI】
C08L87/00
C08L101/00
C08K3/04
C08K7/00
C08J3/20 CEZ
C08J5/04 CEZ
(21)【出願番号】P 2020119063
(22)【出願日】2020-07-10
【審査請求日】2023-05-01
(73)【特許権者】
【識別番号】390006323
【氏名又は名称】ポリプラスチックス株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100083806
【氏名又は名称】三好 秀和
(74)【代理人】
【識別番号】100101247
【氏名又は名称】高橋 俊一
(74)【代理人】
【識別番号】100095500
【氏名又は名称】伊藤 正和
(74)【代理人】
【識別番号】100098327
【氏名又は名称】高松 俊雄
(72)【発明者】
【氏名】神田 裕基
(72)【発明者】
【氏名】出井 秀和
【審査官】三宅 澄也
(56)【参考文献】
【文献】特開2007-119647(JP,A)
【文献】特開2012-140482(JP,A)
【文献】特開2011-132370(JP,A)
【文献】特許第7510504(JP,B2)
【文献】特開2007-112885(JP,A)
【文献】特開2013-221231(JP,A)
【文献】特表平08-508534(JP,A)
【文献】特表2016-504470(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08L
C08K
C08J
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
熱可塑性樹脂100質量部に対して、少なくとも、カーボンナノストラクチャー0.1~0.5質量部を溶融混練して得られ、
前記熱可塑性樹脂が、ポリアセタール樹脂、ポリアリーレンサルファイド樹脂、ポリブチレンテレフタレート樹脂、ポリエチレンテレフタレート樹脂、及びポリアミド樹脂からなる群より選択される一種であり、
溶融混練後のカーボンナノストラクチャーは、複数のカーボンナノチューブが結合した状態で含む構造体であり、前記カーボンナノチューブは分岐結合又は架橋構造で他のカーボンナノチューブと結合している、熱可塑性樹脂組成物
(但し、前記架橋構造が粒状部であるものを除く。)。
【請求項2】
請求項
1に記載の熱可塑性樹脂組成物を成形してなる部材。
【請求項3】
熱可塑性樹脂100質量部に対して、少なくとも、カーボンナノストラクチャー0.1~0.5質量部を溶融混練して得られる熱可塑性樹脂組成物を準備する工程、及び
前記熱可塑性樹脂組成物を所定の形状に成形する工程、を含み、
前記熱可塑性樹脂が、ポリアセタール樹脂、ポリアリーレンサルファイド樹脂、ポリブチレンテレフタレート樹脂、ポリエチレンテレフタレート樹脂、及びポリアミド樹脂からなる群より選択される一種であり、
溶融混練後のカーボンナノストラクチャーは、複数のカーボンナノチューブが結合した状態で含む構造体であり、前記カーボンナノチューブは分岐結合又は架橋構造で他のカーボンナノチューブと結合している、部材の製造方法
(但し、前記架橋構造が粒状部であるものを除く。)。
【請求項4】
熱可塑性樹脂100質量部に対して、カーボンナノストラクチャー0.1~0.5質量部を溶融混練して得られ、溶融混練後のカーボンナノストラクチャーは、複数のカーボンナノチューブが結合した状態で含む構造体であり、前記カーボンナノチューブは分岐結合又は架橋構造で他のカーボンナノチューブと結合している樹脂組成物を用いる、熱可塑性樹脂組成物からなる部材の機械強度の向上方法
(但し、前記架橋構造が粒状部であるものを除く。)。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、熱可塑性樹脂組成物及びそれを成形してなる部材、並びに熱可塑性樹脂組成物からなる部材の製造方法及び機械強度の向上方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ポリアセタール樹脂、ポリアリーレンサルファイド樹脂、ポリブチレンテレフタレート樹脂、ポリエチレンテレフタレート樹脂、及びポリアミド樹脂等の熱可塑性樹脂は、種々の物理的・機械特性、耐薬品性等に優れることからエンジニアリングプラスチックとして多方面で利用されている。熱可塑性樹脂においては、一般に、機械的特性等の性能の向上を目的として種々の添加剤が添加される(特許文献1参照)。そのような添加剤としては、例えば、ガラス繊維等の繊維状充填剤や、ガラスフレークやタルク等の板状充填剤、ガラスビーズ等の球状充填剤等の各種充填剤が挙げられる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、上記のような充填剤を添加して機械強度や弾性率を向上させる場合、熱可塑性樹脂に対して一定量以上の充填剤を添加することが必要であり、そのようにすると引張破断伸びや耐衝撃性が低下する。
【0005】
本発明は、上記従来の問題点に鑑みなされたものであり、その課題は、引張破断伸びや耐衝撃性を大きく損なうことなく機械的特性の向上を図ることができる熱可塑性樹脂組成物及び部材、並びに熱可塑性樹脂組成物からなる部材の製造方法及び機械強度の向上方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、熱可塑性樹脂にカーボンナノストラクチャーを微量添加することのみで、引張破断伸びや耐衝撃性を大きく損なうことなく機械強度の向上を図ることが可能であることを見出してなされたものである。
前記課題を解決する本発明の一態様は以下の通りである。
(1)熱可塑性樹脂100質量部に対して、少なくとも、カーボンナノストラクチャーを0.1~0.5質量部を溶融混練して得られる、熱可塑性樹脂組成物。
【0007】
(2)前記熱可塑性樹脂が、ポリアセタール樹脂、ポリアリーレンサルファイド樹脂、ポリブチレンテレフタレート樹脂、ポリエチレンテレフタレート樹脂、及びポリアミド樹脂からなる群より選択される一種である、前記(1)に記載の熱可塑性樹脂組成物。
【0008】
(3)前記(1)又は(2)に記載の熱可塑性樹脂組成物を成形してなる部材。
【0009】
(4)熱可塑性樹脂100質量部に対して、少なくとも、カーボンナノストラクチャー0.1~0.5質量部を溶融混練して得られる熱可塑性樹脂組成物を準備する工程、及び
前記熱可塑性樹脂組成物を所定の形状に成形する工程、を含む、部材の製造方法。
【0010】
(5)熱可塑性樹脂100質量部に対して、カーボンナノストラクチャー0.1~0.5質量部を溶融混練して得られる溶融混練して得られる樹脂組成物を用いる、熱可塑性樹脂組成物からなる部材の機械強度の向上方法。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、引張破断伸びや耐衝撃性を大きく損なうことなく機械的特性の向上を図ることができる熱可塑性樹脂組成物及び部材、並びに熱可塑性樹脂組成物からなる部材の製造方法及び機械強度の向上方法を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0012】
<熱可塑性樹脂組成物>
本実施形態の熱可塑性樹脂組成物は、熱可塑性樹脂100質量部に対して、少なくとも、カーボンナノストラクチャー(以下、「CNS」とも呼ぶ。)を0.1~0.5質量部を溶融混練して得られることを特徴としている。
以下、本実施形態の熱可塑性樹脂組成物の各成分について説明する。
【0013】
[熱可塑性樹脂]
本実施形態において、熱可塑性樹脂としては結晶性熱可塑性樹脂、例えば、ポリアセタール樹脂(以下、「POM樹脂」とも呼ぶ。)、ポリアリーレンサルファイド樹脂(以下、「PAS樹脂」とも呼ぶ。)、ポリブチレンテレフタレート樹脂(以下、「PBT樹脂」とも呼ぶ。)、ポリエチレンテレフタレート樹脂、ポリアミド樹脂、等が挙げられる。中でも、熱可塑性樹脂としては、ポリアセタール樹脂、ポリアリーレンサルファイド樹脂、ポリブチレンテレフタレート樹脂、ポリエチレンテレフタレート樹脂、及びポリアミド樹脂からなる群より選択される一種であることが好ましい。以下に、熱可塑性樹脂として、POM樹脂、PAS樹脂、及びPBT樹脂を挙げて説明するが、本実施形態においてはそれに限定されるものではない。
【0014】
(ポリアセタール樹脂(POM樹脂))
POM樹脂は、オキシメチレン基(-CH2O-)を主たる構成単位とする高分子化合物であり、ポリアセタールホモポリマー、ポリアセタールコポリマーがあり、これらのいずれでもよい。ポリアセタールコポリマーはオキシメチレン基を主たる繰り返し単位とし、これ以外に他の構成単位、例えばエチレンオキサイド、1,3-ジオキソラン、1,4-ブタンジオールホルマール等のコモノマー単位を少量含有する。また、これ以外のポリマーとしてターポリマー、ブロックポリマーも存在するが、これらのいずれでもよい。また、POM樹脂は、分子が線状のみならず分岐、架橋構造を有するものであってもよく、他の有機基を導入した公知の変性ポリアセタール樹脂であってもよい。また、POM樹脂は、その重合度に関しても特に制限はなく、溶融成形加工性を有するもの(例えば、ISO1133に準拠し、190℃、荷重2160gで測定したメルトフローレート(MFR)が1.0g/10min以上100g/10min以下)であればよい。
POM樹脂は公知の製造方法によって製造される。
【0015】
(ポリブチレンテレフタレート樹脂(PBT樹脂))
PBT樹脂は、少なくともテレフタル酸又はそのエステル形成性誘導体(C1-6のアルキルエステルや酸ハロゲン化物等)を含むジカルボン酸成分と、少なくとも炭素原子数4のアルキレングリコール(1,4-ブタンジオール)又はそのエステル形成性誘導体(アセチル化物等)を含むグリコール成分とを重縮合して得られる樹脂である。PBT樹脂は、ホモポリブチレンテレフタレートに限らず、ブチレンテレフタレート単位を60モル%以上(特に75モル%以上95モル%以下)含有する共重合体であってもよい。
【0016】
PBT樹脂の末端カルボキシル基量は、本実施形態の熱可塑性樹脂の効果を阻害しない限り特に限定されない。PBT樹脂の末端カルボキシル基量は、30meq/kg以下が好ましく、25meq/kg以下がより好ましい。
【0017】
PBT樹脂の固有粘度(IV)は、0.65~1.20dL/gであることが好ましい。かかる範囲の固有粘度のPBT樹脂を用いる場合には、得られる樹脂組成物が特に機械特性と流動性に優れたものとなる。逆に固有粘度0.65dL/g未満では優れた機械特性が得られず、1.20dL/gを超えると優れた流動性が得られないことがある。
また、固有粘度が上記範囲のPBT樹脂は、異なる固有粘度を有するPBT樹脂をブレンドして、固有粘度を調整することもできる。例えば、固有粘度0.9dL/gのPBT樹脂と固有粘度0.7dL/gのPBT樹脂とをブレンドすることにより、固有粘度0.8dL/gのPBT樹脂を調製することができる。PBT樹脂の固有粘度(IV)は、例えば、o-クロロフェノール中で温度35℃の条件で測定することができる。
【0018】
PBT樹脂において、テレフタル酸及びそのエステル形成性誘導体以外のジカルボン酸成分(コモノマー成分)としては、例えば、イソフタル酸、フタル酸、2,6-ナフタレンジカルボン酸、4,4’-ジカルボキシジフェニルエーテル等のC8-14の芳香族ジカルボン酸;コハク酸、アジピン酸、アゼライン酸、セバシン酸等のC4-16のアルカンジカルボン酸;シクロヘキサンジカルボン酸等のC5-10のシクロアルカンジカルボン酸;これらのジカルボン酸成分のエステル形成性誘導体(C1-6のアルキルエステル誘導体や酸ハロゲン化物等)が挙げられる。これらのジカルボン酸成分は、単独で又は2種以上を組み合わせて使用できる。
【0019】
これらのジカルボン酸成分の中では、イソフタル酸等のC8-12の芳香族ジカルボン酸、及び、アジピン酸、アゼライン酸、セバシン酸等のC6-12のアルカンジカルボン酸がより好ましい。
【0020】
PBT樹脂において、1,4-ブタンジオール以外のグリコール成分(コモノマー成分)としては、例えば、エチレングリコール、プロピレングリコール、トリメチレングリコール、1,3-ブチレングリコール、ヘキサメチレングリコール、ネオペンチルグリコール、1,3-オクタンジオール等のC2-10のアルキレングリコール;ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、ジプロピレングリコール等のポリオキシアルキレングリコール;シクロヘキサンジメタノール、水素化ビスフェノールA等の脂環式ジオール;ビスフェノールA、4,4’-ジヒドロキシビフェニル等の芳香族ジオール;ビスフェノールAのエチレンオキサイド2モル付加体、ビスフェノールAのプロピレンオキサイド3モル付加体等の、ビスフェノールAのC2-4のアルキレンオキサイド付加体;又はこれらのグリコールのエステル形成性誘導体(アセチル化物等)が挙げられる。これらのグリコール成分は、単独で又は2種以上を組み合わせて使用できる。
【0021】
これらのグリコール成分の中では、エチレングリコール、トリメチレングリコール等のC2-6のアルキレングリコール、ジエチレングリコール等のポリオキシアルキレングリコール、又は、シクロヘキサンジメタノール等の脂環式ジオール等がより好ましい。
【0022】
ジカルボン酸成分及びグリコール成分の他に使用できるコモノマー成分としては、例えば、4-ヒドロキシ安息香酸、3-ヒドロキシ安息香酸、6-ヒドロキシ-2-ナフトエ酸、4-カルボキシ-4’-ヒドロキシビフェニル等の芳香族ヒドロキシカルボン酸;グリコール酸、ヒドロキシカプロン酸等の脂肪族ヒドロキシカルボン酸;プロピオラクトン、ブチロラクトン、バレロラクトン、カプロラクトン(ε-カプロラクトン等)等のC3-12ラクトン;これらのコモノマー成分のエステル形成性誘導体(C1-6のアルキルエステル誘導体、酸ハロゲン化物、アセチル化物等)が挙げられる。
【0023】
(ポリアリーレンサルファイド樹脂(PAS樹脂))
PAS樹脂は、機械的性質、電気的性質、耐熱性その他物理的・化学的特性に優れ、且つ加工性が良好であるという特徴を有する。
PAS樹脂は、主として、繰返し単位として-(Ar-S)-(但しArはアリーレン基)で構成された高分子化合物であり、本実施形態では一般的に知られている分子構造のPAS樹脂を使用することができる。
【0024】
上記アリーレン基としては、例えば、p-フェニレン基、m-フェニレン基、o-フェニレン基、置換フェニレン基、p,p’-ジフェニレンスルフォン基、p,p’-ビフェニレン基、p,p’-ジフェニレンエーテル基、p,p’-ジフェニレンカルボニル基、ナフタレン基等が挙げられる。PAS樹脂は、上記繰返し単位のみからなるホモポリマーでもよいし、下記の異種繰返し単位を含んだコポリマーが加工性等の点から好ましい場合もある。
【0025】
ホモポリマーとしては、アリーレン基としてp-フェニレン基を用いた、p-フェニレンサルファイド基を繰返し単位とするポリフェニレンサルファイド樹脂(以下、「PPS樹脂」とも呼ぶ。 )が好ましく用いられる。また、コポリマーとしては、前記のアリーレン基からなるアリーレンサルファイド基の中で、相異なる2種以上の組み合わせが使用できるが、中でもp-フェニレンサルファイド基とm-フェニレンサルファイド基を含む組み合わせが特に好ましく用いられる。この中で、p-フェニレンサルファイド基を70モル%以上、好ましくは80モル%以上含むものが、耐熱性、成形性、機械特性等の物性上の点から適当である。また、これらのPAS樹脂の中で、2官能性ハロゲン芳香族化合物を主体とするモノマーから縮重合によって得られる実質的に直鎖状構造の高分子量ポリマーが、特に好ましく使用できる。尚、本実施形態に用いるPAS樹脂は、異なる2種類以上の分子量のPAS樹脂を混合して用いてもよい。
【0026】
尚、直鎖状構造のPAS樹脂以外にも、縮重合させるときに、3個以上のハロゲン置換基を有するポリハロ芳香族化合物等のモノマーを少量用いて、部分的に分岐構造または架橋構造を形成させたポリマーや、低分子量の直鎖状構造ポリマーを酸素等の存在下、高温で加熱して酸化架橋または熱架橋により溶融粘度を上昇させ、成形加工性を改良したポリマーも挙げられる。
【0027】
本実施形態に使用する基体樹脂としてのPAS樹脂の溶融粘度(310℃・せん断速度1200sec-1)は、上記混合系の場合も含め5~500Pa・sのものを用いることが好ましい。
【0028】
[カーボンナノストラクチャー(CNS)」
本実施形態の熱可塑性樹脂組成物においては、熱可塑性樹脂に対して所定量のCNSを添加し、当該CNSの核剤効果により機械的特性の向上を図っている。より具体的には、熱可塑性樹脂に対して所定量のCNSを添加することで、CNSが核剤として機能し、その核剤効果により機械的特性の向上を図ることができると考えられる。しかも、微量のCNSで核剤効果を発揮するため、上記のような微量のCNSにより機械強度の向上を図ることができる。なお、本実施形態において、「核剤」は、「結晶核剤」、「造核剤」等と同義である。
【0029】
本実施形態で使用するCNSは、複数のカーボンナノチューブが結合した状態で含む構造体であり、カーボンナノチューブは分岐結合や架橋構造で他のカーボンナノチューブと結合している。このようなCNSの詳細は、米国特許出願公開第2013-0071565号明細書、米国特許第9,113,031号明細書、同第9,447,259号明細書、同第9,111,658号明細書に記載されている。
【0030】
本実施形態において使用するCNSは市販品としてもよい。例えば、CABOT社製のATHLOS 200、ATHLOS 100等を使用することができる。
【0031】
本実施形態の熱可塑性樹脂組成物において、熱可塑性樹脂にCNSを添加する方法としては特に限定はなく従来公知の方法によって行うことができる。
【0032】
本実施形態の熱可塑性樹脂組成物において、CNSは熱可塑性樹脂100質量部に対して0.1~0.5質量部含有する。当該CNSの含有量が0.1質量部未満であると機械強度に劣り、0.5質量部を超えると引張破断伸びが大きく低下する。当該CNSの含有量は、0.1~0.4質量部が好ましく、0.1~0.3質量部がより好ましい。
【0033】
本実施形態においては、その効果を阻害しない限り、核剤を併用してもよい。核剤としては、カーボンブラック、炭酸カルシウム、マイカ、タルク、カオリン、酸化チタン、アルミナ、ケイ酸カルシウム、窒化ホウ素、塩化アンモニウム等が挙げられる。
【0034】
[他の成分]
本実施形態の熱可塑性樹脂組成物には、必要に応じて選択される各種安定剤を配合してもよい。ここで用いられる安定剤としては、ヒンダードフェノール系化合物、窒素含有化合物、アルカリ又はアルカリ土類金属の水酸化物、無機塩、カルボン酸塩等のいずれか1種又は2種以上を挙げることができる。更に、上述の効果を阻害しない限り、必要に応じて、熱可塑性樹脂に対する一般的な添加剤、例えば、染料、顔料等の着色剤、滑剤、離型剤、帯電防止剤、界面活性剤、難燃剤、又は、有機高分子材料、無機若しくは有機の繊維状、粉体状、板状の充填剤等を1種又は2種以上添加することができる。
【0035】
本実施形態の熱可塑性樹脂組成物を用いて成形品を作製する方法としては特に限定はなく、公知の方法を採用することができる。例えば、本実施形態の熱可塑性樹脂組成物を押出機に投入して溶融混練してペレット化し、このペレットを所定の金型を装備した射出成形機に投入し、射出成形することで作製することができる。
【0036】
<部材>
本実施形態の部材は、上述の本実施形態の熱可塑性樹脂組成物を成形してなる。従って、本実施形態の部材は、本実施形態の熱可塑性樹脂組成物と同様に高い機械強度を有する。
【0037】
本実施形態の部材は、熱可塑性樹脂組成物が使用される用途に対して広く適用することができる。例えば、燃料配管部品等の自動車部品やプリンター部品等の電気電子部品に好適に使用することができるが、あくまでも一例でありそれらに限定されることはない。
【0038】
<部材の製造方法>
本実施形態の部材の製造方法は、熱可塑性樹脂100質量部に対して、少なくとも、カーボンナノストラクチャー0.1~0.5質量部を溶融混練して得られる熱可塑性樹脂組成物を準備する工程(以下、「工程A」と呼ぶ。)、及び熱可塑性樹脂組成物を所定の形状に成形する工程(以下、「工程B」と呼ぶ。)、を含むことを特徴としている。
以下に、各工程について説明する。
【0039】
[工程A]
工程Aにおいては、熱可塑性樹脂100質量部に対して、少なくとも、カーボンナノストラクチャー0.1~0.5質量部を溶融混練して得られる熱可塑性樹脂組成物を準備する。当該熱可塑性樹脂組成物中の各成分の好ましいものと、その好ましい含有量、及び他の成分は上述の通りである。当該熱可塑性樹脂組成物は、定法に従い、上記各成分と、必要に応じて他の成分とを溶融混練することにより得られる。例えば、本実施形態の熱可塑性樹脂組成物を押出機に投入して溶融混練してペレット化することにより得ることができる。CNSは予めマスターバッチとしておき、CNSを添加する場合、このマスターバッチを用いてもよい。なお、マスターバッチとは、事前に作製しておく、CNSを高濃度で含む熱可塑性樹脂組成物のことをいう。
【0040】
[工程B]
工程Bにおいては、熱可塑性樹脂組成物を所定の形状に成形する。例えば、上記のようにして得たペレットを所定の金型を装備した射出成形機に投入して射出成形する。
【0041】
以上の本実施形態の製造方法により、上述の通り、十分な機械強度を有する部材を製造することができる。
【0042】
<熱可塑性樹脂組成物からなる部材の機械強度の向上方法>
本実施形態の熱可塑性樹脂組成物からなる部材の機械強度の向上方法は、熱可塑性樹脂100質量部に対して、カーボンナノストラクチャー0.1~0.5質量部を溶融混練して得られる樹脂組成物を用いることを特徴としている。
上述の通り、本実施形態の熱可塑性樹脂組成物は、CNSを所定量添加することで、核剤効果が発現し、機械強度の向上を図ることができる。つまり、本実施形態の熱可塑性樹脂組成物を部材として用いることにより、当該部材の機械強度の向上を図ることができる。本実施形態の熱可塑性樹脂組成物からなる部材の機械強度の向上方法において、熱可塑性樹脂、CNSの好ましい含有量、及び他の成分は上述の本実施形態の熱可塑性樹脂組成物で説明した通りである。
【実施例】
【0043】
以下に、実施例により本実施形態をさらに具体的に説明するが、本実施形態は以下の実施例に限定されるものではない。
【0044】
[実施例1~5、比較例1~8]
各実施例・比較例において、表1及び表2に示す各原料成分(ガラス繊維を除く)をドライブレンドした後、二軸押出機に投入して(ガラス繊維はサイドフィードにて添加)、溶融混練し、ペレット化した。なお、二軸押出機のシリンダー温度は、POM樹脂は200℃、PPS樹脂は320℃、PBT樹脂は260℃とした。また、表1、表2において、各成分の数値は質量部を示す。
また、使用した各原料成分の詳細を以下に示す。
(1)熱可塑性樹脂
・ポリアセタール樹脂
ポリアセタール樹脂;トリオキサン96.7質量%と1,3-ジオキソラン3.3質量%とを共重合させてなるポリアセタール共重合体(メルトフローレート(MFR)(ISO1133に準拠し、190℃、荷重2160gで測定):9.0g/10min)
・ポリフェニレンサルファイド樹脂
(株)クレハ製、フォートロンKPS(溶融粘度:130Pa・s(せん断速度:1200sec-1、310℃))
(PPS樹脂の溶融粘度の測定)
上記PPS樹脂の溶融粘度は以下のようにして測定した。
(株)東洋精機製作所製キャピログラフを用い、キャピラリーとして口径:1mm、長さ:20mmのフラットダイを使用し、バレル温度310℃、せん断速度1200sec-1での溶融粘度を測定した。
・ポリブチレンテレフタレート樹脂
ポリプラスチックス(株)製のポリブチレンテレフタレート樹脂(固有粘度(o-クロロフェノール中で温度35℃で測定):1.0dL/g)
【0045】
(2)カーボンナノストラクチャー(CNS)
CABOT社製、ATHLOS 200
(3)核剤
・窒化ホウ素
デンカ(株)製、デンカボロンナイトライドGP
【0046】
(4)充填剤
・タルク
松村産業(株)製、クラウンタルクPP
・ガラスビーズ
ポッターズバロティーニ(株)製、EGB731
・ガラス繊維1
日本電気硝子(株)製、ECS03T-651G
・ガラス繊維2
オーウェンス コーニング ジャパン合同会社製、チョップドストランド
繊維径:10.5μm、長さ3mm
【0047】
【0048】
【0049】
[評価]
ISO294-1に記載の多目的試験片及び短冊型試験片を、以下の条件で射出成形にて成形を行い、以下の評価に用いた。
・POM樹脂組成物
成形機:東芝機械(株) EC40
ISO9988-1,2に準じて成形を行った。
・PBT樹脂組成物
成形機:東芝機械(株) EC40
シリンダー温度:260℃
金型温度:80℃
・PPS樹脂組成物
成形機:(株)日本製鋼所製、日鋼J55AD-60H-USM
シリンダー温度:320℃
金型温度:150℃
【0050】
(1)引張強度
上記のようにして得た試験片を用い、ISO527-1,2に準拠して引張強度を測定した。測定結果を表1及び表2に示す。
【0051】
(2)引張破断伸び
上記のようにして得た試験片を用い、ISO527-1,2に準拠して引張破断伸びを測定した。測定結果を表1及び表2に示す。
【0052】
(3)曲げ弾性率
上記のようにして得た試験片を用い、ISO179に準じて曲げ弾性率を測定した。測定結果を表1及び表2に示す。
【0053】
(4)耐衝撃性(シャルピー衝撃強さ)
上記のようにして得た試験片を用い、ISO179/1eAに準じてシャルピー衝撃強さ(ノッチ付き)を測定した。測定結果を表1及び表2に示す。
【0054】
表1より、実施例1~5においては、いずれの評価も良好な結果であったことが分かる。すなわち、実施例1~5は、引張破断伸びや耐衝撃性を大きく損なうことなく機械的特性の向上を図ることができた。より詳細には次の通りである。すなわち、POM樹脂を用いた実施例1~3と比較例1~5とを比較すると、CNSを含まない比較例1は、引張強度及び曲げ弾性率において実施例1~3よりも劣っていた。また、熱可塑性樹脂100質量部に対するCNSの含有量が1質量部である比較例2は、引張破断伸びにおいて実施例1~3よりも劣っていた。特に、比較例2は、CNSを含まない比較例1よりも、実施例1~3と比較しての引張破断伸びの低下が顕著である。一方、CNSを含まず、一般的な充填剤を添加した比較例3~5は耐衝撃性に劣っていた。
PPS樹脂を用いた実施例4と比較例6とを比較すると、実施例4は引張破断伸びをほとんど低下させずに、引張強度、曲げ弾性率が向上している。
PBT樹脂を用いた実施例5とCNSを含まない比較例7とを比較すると、実施例5は耐衝撃性を低下させることなく引張強度、曲げ弾性率が向上している。同様に、実施例5と核剤を用いた比較例8とを比較すると、比較例8は実施例5と比べて耐衝撃性に劣る。