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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2025-03-31
(45)【発行日】2025-04-08
(54)【発明の名称】研磨方法
(51)【国際特許分類】
   B24B 5/40 20060101AFI20250401BHJP
   B24D 15/04 20060101ALI20250401BHJP
【FI】
B24B5/40 E
B24D15/04 Z
【請求項の数】 1
(21)【出願番号】P 2021199249
(22)【出願日】2021-12-08
(65)【公開番号】P2023084881
(43)【公開日】2023-06-20
【審査請求日】2024-04-02
(73)【特許権者】
【識別番号】504137912
【氏名又は名称】国立大学法人 東京大学
(73)【特許権者】
【識別番号】000003207
【氏名又は名称】トヨタ自動車株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100103894
【弁理士】
【氏名又は名称】家入 健
(72)【発明者】
【氏名】長藤 圭介
(72)【発明者】
【氏名】土屋 舜太郎
(72)【発明者】
【氏名】小沢 智大
(72)【発明者】
【氏名】高坂 博宣
【審査官】小川 真
(56)【参考文献】
【文献】韓国公開特許第10-2007-0092848(KR,A)
【文献】中国特許出願公開第111993177(CN,A)
【文献】特開2019-188523(JP,A)
【文献】実開昭49-021689(JP,U)
【文献】特開平07-266206(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B24B 5/40、29/00、37/00
B24D 11/00、15/04、99/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
研磨具を用いて、管の内壁面を研磨する研磨方法であって、
前記研磨具は、
第1の挟持部と、
第2の挟持部と、
前記第1の挟持部と前記第2の挟持部との間に配置され、かつ、前記第1の挟持部と前記第2の挟持部とに挟持された研磨体と、
前記第1及び前記第2の挟持部を近接させる近接手段と、を備え、
前記研磨体は球状体であり、
前記研磨具を前記管に挿入し、前記研磨体を前記管の内壁面近傍に配置する工程と、
前記第1及び前記第2の挟持部を近接させて、前記研磨体を変形させることによって、前記研磨体と前記管の前記内壁面とを当接させる工程と、を備える、
研磨方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は研磨方法に関し、特に研磨体を用いて管の内壁面を研磨する研磨方法に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1には、研磨体を備えた研磨具が開示されている。研磨体は、合成樹脂製糸状の芯材上に吐出されて硬化されることにより芯材に離散的に固着される。研磨具を金属パイプの内側に挿入して、研磨体を金属パイプ内面の寸法および形状に合わせて変形しながら接触させる。そして、研磨体の弾力によって金属パイプ内面を加圧しながら擦ることにより金属パイプ内面を研磨する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2019-188523号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本願発明者等は、以下の課題を発見した。
このような研磨具を金属パイプの内側に挿入すると、研磨体を金属パイプ内面の寸法および形状に合わせて変形しながら接触させる。そのため、研磨体が金属パイプ内面に引っ掛かるおそれがある。研磨体が金属パイプ内面に引っ掛かると、金属パイプ内面を十分に研磨することができない。
【0005】
本発明は、上述の課題を鑑み、研磨体が管の内壁面に引っ掛かることを抑制する研磨方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明に係る研磨方法は、
研磨具を用いて、管の内壁面を研磨する研磨方法であって、
前記研磨具は、
第1の挟持部と、
第2の挟持部と、
前記第1の挟持部と前記第2の挟持部との間に配置され、かつ、前記第1の挟持部と前記第2の挟持部とに挟持された研磨体と、
前記第1及び前記第2の挟持部を近接させる近接手段(例えば、紐4、5等)と、を備え、
前記研磨具を前記管に挿入し、前記研磨体を前記管の内壁面近傍に配置する工程と、
前記第1及び前記第2の挟持部を近接させて、前記研磨体を変形させることによって、前記研磨体と前記管の前記内壁面とを当接させる工程と、を備える。
【0007】
このような構成によれば、管の内壁面近傍に配置した研磨体を変形させることによって、研磨体と管の内壁面とを当接させる。そのため、研磨具を管に挿入したとき、研磨体が管の内壁面と当接する必要が無いため、研磨体が管の内壁面に引っ掛かることを抑制することができる。
【発明の効果】
【0008】
本発明は、研磨体が管の内壁面に引っ掛かることを抑制することができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1】実施の形態1に係る研磨方法の一例の一工程を示す模式図である。
図2】実施の形態1に係る研磨方法の一例の一工程を示す模式図である。
図3】実施の形態1に係る研磨方法の研磨対象物の管の一例を示す断面図である。
図4】研磨時間に対する面粗さSaを示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本発明を適用した具体的な実施形態について、図面を参照しながら詳細に説明する。ただし、本発明が以下の実施形態に限定される訳ではない。また、説明を明確にするため、以下の記載及び図面は、適宜、簡略化されている。
【0011】
(実施の形態1)
図1及び図2を参照して実施の形態1について説明する。図1及び図2は、実施の形態1に係る研磨方法の一例の一工程を示す模式図である。
【0012】
なお、当然のことながら、図1及びその他の図面に示した右手系xyz座標は、構成要素の位置関係を説明するための便宜的なものである。通常、z軸プラス向きが鉛直上向き、xy平面が水平面であり、図面間で共通である。
【0013】
図1に示すように、実施の形態1に係る研磨方法の一例は、研磨具10を用いて、研磨対象物である管W1の内壁面W1aを研磨する。
【0014】
研磨具10は、第1の挟持部1と、第2の挟持部2と、研磨体3と、紐4、5とを備える。
【0015】
第1の挟持部1及び第2の挟持部2は、研磨体3を挟持する。第1の挟持部1及び第2の挟持部2は、研磨体3を挟持するのに必要なサイズや機械的強度を有するとよい。第1の挟持部1及び第2の挟持部2は、多様な形状を採り得る。図1に示す第1の挟持部1及び第2の挟持部2の一例は、2枚の板状体である。第1の挟持部1は、紐4が通過可能な孔1aを有するとよい。第2の挟持部2は、紐5が通過可能な孔2aを有するとよい。
【0016】
研磨体3は、第1の挟持部1と第2の挟持部2との間に配置されている。研磨体3は、第1の挟持部1と第2の挟持部2とに挟持されている。研磨体3は、管W1を通過可能な大きさを有するとよい。具体的には、研磨体3の径D3は、管W1の内径D1よりも小さいとよい。研磨体3は、所定の圧縮応力を受けると、当該圧縮応力に関して垂直方向に張り出るように変形する。研磨体3は、変形能を有する材料からなる。研磨体3は、研磨対象物を研磨するために必要な機械的強度や硬度を有する材料からなるとよい。このような材料として、例えば、ゴムなどの弾性材料が挙げられる。このような弾性材料には、研磨剤が添加されていてもよい。管W1が金属材料からなる場合、研磨体3がゴムなどの弾性材料からなるとよい。
【0017】
研磨体3は孔3aを有し、孔3aは研磨体3を貫通する。孔3aは、紐4、5が同時に通過可能な大きさの断面積を有するとよい。研磨体3は、1つ又は複数でもよい。図1及び図2に示す研磨体3の一例は、3つである。研磨体3は、多様な形状を採り得る。図1及び図2に示す研磨体3の一例は、球状である。図1及び図2に示す研磨体3は、第1の挟持部1及び第2の挟持部2の間において、一列に並んで配置されている。
【0018】
紐4の全長は、管W1の長さL1よりも長いとよい。紐4の一端4aは、第2の挟持部2に取り付けられている。紐4は、研磨体3の孔3aを通過する。図1及び図2に示す紐4の一例は、研磨体3の一例である3つの球状体の全ての孔3aを通過する。第1の挟持部1が孔1aを有する場合、紐4は、孔1aを通過してもよい。紐4の一端4a及び他端4bの間には、第1の挟持部1が配置される。紐4の他端4bを研磨体3から離隔するように引っ張ると、紐4の一端4aが第2の挟持部2を研磨体3側に引っ張る。これによって、第2の挟持部2を第1の挟持部1側に接近させる。
【0019】
紐5の全長は、管W1の長さL1よりも長いとよい。紐5の一端5aは、第1の挟持部1に取り付けられている。紐5は、研磨体3の孔3aを通過する。図1及び図2に示す紐5の一例は、研磨体3の一例である3つの球状体の全ての孔3aを通過する。第2の挟持部2が孔2aを有する場合、紐5は、孔2aを通過してもよい。紐5の一端5a及び他端5bの間には、第2の挟持部2が配置される。紐5の他端5bを研磨体3から離隔するように引っ張ると、紐5の一端5aが第1の挟持部1を研磨体3側に引っ張る。これによって、第1の挟持部1を第2の挟持部2側に接近させる。
【0020】
紐4、及び紐5は、第1の挟持部1及び第2の挟持部2を近接させる技術的な近接手段として機能する。
【0021】
(研磨方法)
次に、図1及び図2を参照して、研磨具10を用いて研磨対象物の管W1の内壁面W1aを研磨する研磨方法について説明する。
【0022】
図1に示すように、研磨具10を管W1に挿入し、研磨体3を管W1の内壁面W1a近傍に配置する(工程ST1)。研磨具10を管W1の軸方向(ここでは、X軸方向)に延ばしつつ、研磨体3を管W1の内壁面W1aから離隔したまま、研磨具10を管W1に挿入するとよい。具体的には、紐4、及び紐5の一方を管W1の外側に配置したまま、研磨具10を管W1に挿入する。流体を流すことによって、紐4、及び紐5の他方を管W1における下流側の開口部を通過させて、管W1の外側に出す。流体として、例えば、水を利用することができる。
【0023】
続いて、第1の挟持部1、及び第2の挟持部2を近接させて、研磨体3を変形させることによって、研磨体3と管W1の内壁面W1aとを当接させる(工程ST2)。具体的には、紐4の他端4bを研磨体3から離隔するように引っ張り、紐5の他端5bを研磨体3から離隔するように引っ張る。これらによって、第1の挟持部1、及び第2の挟持部2を相互に近接させる。第1の挟持部1、及び第2の挟持部2が研磨体3に圧縮応力を付与し、研磨体3は、圧縮応力に関して垂直な方向に張り出るように変形する。つまり、研磨体3の径D3が増加する。研磨体3の径D3が、管W1の内径D1と同じ大きさになるまで、増加すると、研磨体3と管W1の内壁面W1aとが当接する。なお、紐4の他端4b及び紐5の他端5bをさらに引っ張り、研磨体3を管W1の内壁面W1aに押し当ててもよい。さらに、研磨具10を管W1において移動させることによって、管W1の内壁面W1aを研磨することができる。
【0024】
以上より、管W1の内壁面W1a近傍に配置した研磨体3を変形させることによって、研磨体3と管W1の内壁面W1aとを当接させる。そのため、工程ST1において、研磨具10を管W1に挿入したとき、研磨体3が管W1の内壁面W1aと当接する必要が無いことから、研磨体3が管W1の内壁面W1aに引っ掛かることを抑制することができる。言い換えると、研磨体3を管W1の内壁面W1aの殆どの領域へ移動させることができる。さらに、その移動後において研磨体3を管W1の内壁面W1aに当接させつつ移動させることによって、管W1の内壁面W1aの殆どの領域を研磨することができる。
【0025】
また、工程ST1において、研磨体3と管W1の内壁面W1aとを離隔させたまま、研磨具10を管W1に挿入する場合がある。このような場合、研磨具10を管W1に挿入しても、研磨体3は、管W1の内壁面W1aと全く当接しない。よって、研磨体3が管W1の内壁面W1aに引っ掛かることをさらに抑制することができる。
【0026】
(適用例)
図1及び図2に示す管W1の一例は、直線上に延びているが、管W1は、三次元空間において仮想曲線上に延びてもよい。当該仮想曲線は、屈曲部を複数備えてもよい。管W1は、例えば、冷却回路やオイル通路等である。三次元空間において仮想曲線上に延びた管W1を有する構造物は、金属積層造形(AM:Additive Manufacturing))を用いて製造することができる。
【0027】
図1及び図2に示す研磨方法を適用すると、研磨体3が管W1の内壁面W1aと当接する必要が無いことから、管W1が三次元空間において仮想曲線上に延びても、研磨体3が管W1の内壁面W1aに引っ掛かることを抑制することができる。研磨体3を管W1の内壁面W1aの殆どの領域へ移動させることができる。さらに、その移動後において研磨体3を管W1の内壁面W1aに当接させつつ移動させることによって、管W1の内壁面W1aの殆どの領域を研磨することができる。よって、図1及び図2に示す研磨方法は、特に、三次元空間において仮想曲線上に延びる管W1について好適である。
【0028】
一方、三次元空間において仮想曲線上に延びた管W1を有する構造物を金属積層造形を用いて製造した場合、メルトダウンが生じて、面荒れが管W1上部に発生することがある。図3に示す管W2は、管W1の一例である。図3は、実施の形態1に係る研磨方法の研磨対象物の管の一例を示す断面図である。管W2の内壁面W2aには、面荒れW2bが生じている。面荒れW2bは、応力集中を引き起こし、故障の原因となっている。図1及び図2に示す研磨方法を用いて管W2の内壁面W2aを研磨すると、内壁面W2aを平滑化して、面荒れW2bを解消することができる。
【0029】
(実験)
次に、図4を参照して、上記した実施の形態1に係る研磨方法の一例を用いて管の内壁面を研磨した実験について説明する。図4は、研磨時間に対する算術平均高さSaの変化を示すグラフである。
【0030】
上記した実施の形態1に係る研磨方法の一例を用いて管の内壁面を研磨した。研磨時間Tは、0~10[min]とした。各実施例に係る管の内壁面の算術平均高さSaを計測した。また、図4は、管W1の一例である管W3、研磨体3の実施例である研磨体13、研磨体13a、研磨体13b、研磨体13cを合わせて示す。
【0031】
図4に示すように、研磨時間Tが増加すると、算術平均高さSaが減じる傾向にある。研磨を行うと、算術平均高さSaは、例えば、8.9%減少した。算術平均高さSaが減じたことから、管W3の内壁面が平滑化されており、面荒れも減少したと推測される。研磨体13、研磨体13a、研磨体13b、及び研磨体13cのうち、研磨体13cが最も変形している。研磨体13cの研磨時間Tが最も長いから、研磨体13cが最も変形したと推測される。
【0032】
なお、本発明は上記実施の形態に限られたものではなく、趣旨を逸脱しない範囲で適宜変更することが可能である。また、本発明は、上記実施の形態やその一例を適宜組み合わせて実施してもよい。
【符号の説明】
【0033】
10 研磨具
1 第1の挟持部 1a 孔
2 第2の挟持部 2a 孔
3、13、13a、13b、13c 研磨体 3a 孔
4、5 紐
4a、5a 一端 4b、5b 他端
ST1、ST2 工程
W1、W2、W3 管 W1a、W2a 内壁面
W2b 面荒れ
図1
図2
図3
図4