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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2025-03-31
(45)【発行日】2025-04-08
(54)【発明の名称】コーティング方法
(51)【国際特許分類】
   B05D 1/40 20060101AFI20250401BHJP
   B05D 7/00 20060101ALI20250401BHJP
   B05D 3/12 20060101ALI20250401BHJP
   C09D 201/00 20060101ALI20250401BHJP
   C09D 4/00 20060101ALI20250401BHJP
   C09D 5/00 20060101ALI20250401BHJP
   C09D 175/04 20060101ALI20250401BHJP
   C09D 7/63 20180101ALI20250401BHJP
   G02C 7/00 20060101ALI20250401BHJP
   G02C 7/10 20060101ALI20250401BHJP
【FI】
B05D1/40 A
B05D7/00 K
B05D3/12 Z
C09D201/00
C09D4/00
C09D5/00 D
C09D175/04
C09D7/63
G02C7/00
G02C7/10
【請求項の数】 16
(21)【出願番号】P 2021534007
(86)(22)【出願日】2020-07-17
(86)【国際出願番号】 JP2020027935
(87)【国際公開番号】W WO2021015138
(87)【国際公開日】2021-01-28
【審査請求日】2023-07-07
(31)【優先権主張番号】P 2019133972
(32)【優先日】2019-07-19
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(31)【優先権主張番号】P 2020047016
(32)【優先日】2020-03-17
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000003182
【氏名又は名称】株式会社トクヤマ
(74)【代理人】
【識別番号】100207756
【弁理士】
【氏名又は名称】田口 昌浩
(74)【代理人】
【識別番号】100129746
【弁理士】
【氏名又は名称】虎山 滋郎
(74)【代理人】
【識別番号】100165021
【弁理士】
【氏名又は名称】千々松 宏
(72)【発明者】
【氏名】平連 利光
(72)【発明者】
【氏名】浅原 義広
(72)【発明者】
【氏名】田向 孝
【審査官】伊藤 寿美
(56)【参考文献】
【文献】特開2008-168282(JP,A)
【文献】特開2016-074868(JP,A)
【文献】国際公開第2008/001875(WO,A1)
【文献】特開2016-180806(JP,A)
【文献】国際公開第2007/102330(WO,A1)
【文献】国際公開第2008/093613(WO,A1)
【文献】特開2005-246268(JP,A)
【文献】特開2002-287385(JP,A)
【文献】特開2002-278104(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2015/0210056(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B05D 1/00- 7/26
C09D 1/00- 10/00,
101/00-201/10
G02B 1/10- 1/18,
5/00- 5/28
G02C 1/00ー 13/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
レンズ基材と、前記レンズ基材の表面上に設けられたコート層とを有するコートレンズの製造方法であって、
前記レンズ基材の前記表面にコーティング剤を供給することと、
前記表面に供給された前記コーティング剤を、前記レンズ基材の回転により延展することと、
前記コーティング剤の延展後に前記レンズ基材の周縁部及び側面部の少なくとも一方に生じる前記コーティング剤の液溜まりの少なくとも一部を、前記レンズ基材の回転により除去することと、
吸着部材を、30~200rpmの速度で回転する前記レンズ基材の少なくとも側面に接触させて、前記レンズ基材の周縁部及び側面部の少なくとも一方に残存する前記液溜まりを除去することと、を含み、
前記レンズ基材の回転による前記コーティング剤の延展における前記レンズ基材の回転数は10~500rpmであり、前記レンズ基材の回転による前記液溜まりの除去における前記レンズ基材の回転数は500rpmを超え3000rpm以下である、コートレンズの製造方法。
【請求項2】
前記吸着部材は有機溶媒を含む、請求項1に記載のコートレンズの製造方法。
【請求項3】
前記吸着部材1cm当たりの前記有機溶媒の含有量は0.1~2gである、請求項2に記載のコートレンズの製造方法。
【請求項4】
前記有機溶媒はケトン系溶媒を含む、請求項2又は3に記載のコートレンズの製造方法。
【請求項5】
前記吸着部材の密度は5~20kg/mである、請求項1~4の何れか1項に記載のコートレンズの製造方法。
【請求項6】
前記吸着部材のJIS K6400-2(A法)に準ずる硬度は、100N~500Nである、請求項1~5の何れか1項に記載のコートレンズの製造方法。
【請求項7】
前記吸着部材は発泡樹脂を含む、請求項1~6の何れか1項に記載のコートレンズの製造方法。
【請求項8】
前記吸着部材はメラミン樹脂及びポリウレタンの少なくとも一方を含む、請求項1~7の何れか1項に記載のコートレンズの製造方法。
【請求項9】
前記レンズ基材の回転による前記液溜まりの除去における前記レンズ基材の回転数は500rpmを超え2000rpm以下である、請求項1~の何れか1項に記載のコートレンズの製造方法。
【請求項10】
前記吸着部材の前記レンズ基材への押し当て荷重は、5~200gである請求項1~の何れか1項に記載のコートレンズの製造方法。
【請求項11】
前記コーティング剤の液溜まりを前記レンズ基材の回転により除去した後、前記吸着部材を、30~200rpmの速度で回転する前記レンズ基材の少なくとも側面に接触させて、前記レンズ基材の周縁部及び側面部の少なくとも一方に残存する前記液溜まりを除去する前に、ヘラを前記レンズ基材の少なくとも側面に接触させることを更に含む請求項1~10の何れか1項に記載のコートレンズの製造方法。
【請求項12】
前記コーティング剤は、フォトクロミック化合物、および重合性単量体を含むフォトクロミック硬化性組成物である、請求項1~11の何れか1項に記載のコートレンズの製造方法。
【請求項13】
前記コーティング剤は、ポリウレタン、および有機溶媒を含むプライマー組成物であるか、湿気硬化型ウレタンを含むプライマー組成物である、請求項1~12の何れか1項に記載のコートレンズの製造方法。
【請求項14】
前記コーティング剤として、ポリウレタン、および有機溶媒を含むプライマー組成物であるか、湿気硬化型ウレタンを含むプライマー組成物を用いて、請求項1~13の何れか1項に記載の方法により前記液溜まりが取り除かれた第1塗膜を形成することと、
前記第1塗膜上に、前記コーティング剤として、フォトクロミック化合物、および重合性単量体を含むフォトクロミック硬化性組成物を用いて、請求項1~13の何れか1項に記載の方法により前記液溜まりが取り除かれた第2塗膜を形成することと、
を含む請求項1~13の何れか1項に記載のコートレンズの製造方法。
【請求項15】
前記コート層の膜厚が1~100μmである請求項1~14の何れか1項に記載のコートレンズの製造方法。
【請求項16】
レンズ基材の表面にコーティング剤を供給することと、
前記表面に供給された前記コーティング剤を、前記レンズ基材の回転により延展することと、
前記延展後に前記レンズ基材の周縁部及び側面部の少なくとも一方に生じる前記コーティング剤の液溜まりの少なくとも一部を、前記レンズ基材の回転により除去することと、
吸着部材を、30~200rpmの速度で回転する前記レンズ基材の少なくとも側面に接触させて、前記レンズ基材の周縁部及び側面部の少なくとも一方に残存する前記液溜まりを除去することと、
を含み、
前記レンズ基材の回転による前記コーティング剤の延展における前記レンズ基材の回転数は10~500rpmであり、前記レンズ基材の回転による前記液溜まりの除去における前記レンズ基材の回転数は500rpmを超え3000rpm以下であるコーティング方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、レンズ基材の表面にコーティング層を形成するコーティング方法に関する。
【背景技術】
【0002】
レンズ基材のような基材の表面にコーティング層を形成する方法として、コーティング剤をレンズ基材上に供給し、レンズ基材を回転させることでコーティング剤をレンズ基材表面に延展させコーティング層を設ける、スピンコートと呼ばれる方法が知られている。スピンコートでは、基材の表面に比較的薄く均質なコーティング層を形成することが可能であり、各種の産業分野で応用されている。
【0003】
しかしながら、レンズ基材を回転させることでレンズ基材表面にコーティング剤を延展させるコーティング方法では、コーティング剤を延展させる際、レンズ基材表面における周縁部および/または側面部にコーティング剤の液溜まりが生じる問題が発生する場合がある。延展の際に液溜まりが生じると、周縁部に形成されるコーティング層の厚みが他の部分に比べて厚くなり、形成されるコーティング層の厚みを表面全体で均一にできないという問題が生じる。また、側面部に液だまりが形成されることにより、レンズの外観が悪くなるという問題が生じる。レンズ基材にコーティング層を形成するような場合、形成されたコーティング層の厚みが不均一である部分はレンズとして使用することができず、コーティング層の形成後にレンズとして使用できる有効面積が減少するという問題が生じる。
【0004】
周縁部および/または側面部に形成されるコーティング層の厚みが厚くなる問題に対処した従来技術として、コーティング層形成後に除去するフランジ部を有するレンズ基材を使用するものがある(特許文献1参照)。しかし、このような技術では、コーティングに使用するレンズ基材の形状が複雑になり、また、コーティング層形成後にフランジ部を除去する工程が必要となるなど、製造に手間がかかるという課題を有している。
【0005】
また、同様の問題に対応した従来技術として、コーティング剤を延展した際に基材周縁部および/または側面部に形成される液溜まりを、ヘラやリングを使って除去する技術が提案されている(特許文献2参照)。しかし、このような技術では、ヘラ等の液溜まりへの接触状態や、ヘラの先端と基材周縁部との間に形成される微小なギャップの形状が僅かに変化すると、適切に液溜まりを除去することができなくなる。そのため、レンズ基材の形状の変化に伴うヘラの交換やヘラの配置調整が必要となり製造設備の調整に手間がかかるという課題や、回転するレンズ基材の保持姿勢のばらつきの影響を受けて液溜まりの除去状態が不安定になりやすいという課題を有している。
【0006】
また、同様の問題に対応した従来技術として、コーティング剤を延展した際に基材周縁部および/または側面部に形成される液溜まりを、吸引することで除去する技術が提案されている(特許文献3参照)。しかし、このような技術では、使用するレンズ基材の形状の違いによって、液溜まりの除去状態が安定しない場合があり、吸引の圧力によって、レンズ基材表面のコーティング液の均一性に悪影響を及ぼす場合があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【文献】特開2013-054096号公報
【文献】特開2004-050108号公報
【文献】特開2016-180806号公報
【文献】特開2005-246267号公報
【文献】国際公開第WO2008-093613号パンフレット
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
この他、液溜まりをスポンジのような吸着部材で除去することも検討されている(特許文献4、5参照)。特許文献4には、ヘラを用いてレン基材の側面(コバ面)に誘導したコーティング剤をスポンジで除去しながら、平滑にする方法が記載されている。さらに、特許文献4、および5には、コーティング剤をレンズ基材の回転により飛散させることも記載されている。
【0009】
しかしながら、特許文献4、および5には、どのような状態のレンズ基材にスポンジを当接させて液溜まりを除去しているかが明記されていない。特に、特許文献5では、スポンジを使用する態様は、特許文献5の従来技術に該当する特許文献4の態様であり、特許文献5自体の発明は、スポンジにより液溜まりを除去する方法ではない。
【0010】
したがって、コーティング剤をスピンコート法でレンズ基材に塗布して、コート層を有するレンズ(以下、単に「コートレンズ」とする場合もある。)を製造する方法において、より簡単な方法で、特にレンズ基材の周縁部の厚み、外観を高度に調整できる方法の開発が望まれていた。
【0011】
本発明は、このような課題に鑑みてなされたものであり、コーティング剤を延展した際に基材周縁部および/または側面部に形成される液溜まりを好適に除去できるコーティング方法を提供する。さらには、このコーティング方法を利用したフォトクロミックレンズの製造方法を提供する
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明者等は、上記課題を解決するため、鋭意検討を行った。そして、比較的安定してレンズ基材の周縁部および/または周辺部から液溜まりを除去できる方法として、吸着部材を使用することを中心に検討を重ねた。その結果、吸着部材を当接する前に、なるべく、液溜まりが大きくならないようにすることが重要であることが分かった。そして、液溜まりを簡単に除去しつつ、吸着部材をさらに用いて高品質なコートレンズを製造するためには、以下の方法により達成できることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0013】
すなわち、第一の本発明は、
レンズ基材の表面にコーティング剤を供給する工程、
前記表面に供給された前記コーティング剤を、前記レンズ基材の回転により延展する延展工程、
前記延展工程後に、前記レンズ基材周縁部および/または側面部に生じる前記コーティング剤の液溜まりの少なくとも一部を、前記レンズ基材の回転により除去する第一除去工程、および
前記第一除去工程後に、吸着部材を前記レンズ基材の少なくとも側面に接触させて、前記レンズ基材周縁部および/または側面部に残存する前記液溜まりを取り除く第二除去工程、
を有することを特徴とするコーティング方法である。
【0014】
第一の本発明において、より高品質なコートレンズを製造するためには、前記吸着部材が有機溶媒を含むことが好ましい。吸着部材が有機溶媒を含むことにより、より一層、液溜まりを小さくできることができ、高品質なコートレンズを製造できる。この吸着部材は、レンズ基材の側面に当接させることが好ましい。側面に当接させることにより、レンズ基材周縁部および/または側面部の液溜まりを容易に除去できる。
【0015】
第二の本発明は、第一の本発明を利用した、コートレンズの製造方法に関するものである。
【発明の効果】
【0016】
本発明は、スピンコート法で発生するレンズ基材周縁部および/または側面部における液溜まりの問題を、レンズ基材自体の回転により除去する第一除去工程と、その後、さらに残存する液溜まりを吸着部材により除去する第二除去工程とで解決するものである。そのため、簡易的な方法で高品質なコートレンズを製造できる。
【0017】
吸着部材としてスポンジを使用すれば、スポンジ自体が柔軟であるため、容易に変形することができる。そのため、レンズ基材の周縁部、特に、側面に容易に当接することができ、液溜まりを除去することができる。加えて、発泡樹脂、中でもスポンジである場合、有機溶媒を吸収させることが容易となる。有機溶媒を含む吸着部材を使用することにより、第一除去工程と合わせると、より一層高度に液溜まりを除去することができ、高品質なコートレンズを製造することができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
図1】本発明における吸着部材を用いた代表的な態様を示す図である。
図2】本発明における吸着部材を用いた他の例を示す図である。
図3】プライマー組成物を使用した場合の吸着部材の当接方法を示した概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
本発明のコーティング方法は、
レンズ基材の表面にコーティング剤を供給する工程、
前記表面に供給された前記コーティング剤を、前記レンズ基材の回転により延展する延展工程、
前記延展工程後に、前記レンズ基材周縁部および/または側面部に生じる前記コーティング剤の液溜まりの少なくとも一部を、前記レンズ基材の回転により除去する第一除去工程、および
前記第一除去工程後に、吸着部材を前記レンズ基材の少なくとも側面に接触させて、前記レンズ基材周縁部および/または側面部に残存する前記液溜まりを取り除く第二除去工程、
を有するものである。
【0020】
なお、液溜まりは、レンズ基材の周縁部のみ、レンズ基材の側面部のみ、又はレンズ基材の周縁部およびレンズ基材の側面部の両方に生じる。本発明の方法によれば、何れの場合においても、液溜まりを除去することでき、高品質なコートレンズを製造できる。
【0021】
以下、本発明について、具体的な実施形態を示して詳細に説明する。
【0022】
(レンズ基材)
本発明におけるレンズ基材は特に制限されず、様々な形状のレンズ基材を使用することができる。例えば、光学的な度数が形成されたフィニッシュレンズであってもよく、フィニッシュレンズ以外のセミフィニッシュレンズであってもよい。
【0023】
中でも、本発明の方法は、フィニッシュレンズに好適に適用できる。眼鏡レンズに使用されるセミフィニッシュレンズは、その後の加工工程において、レンズ裏面を研磨し度数加工するため、裏面のコーティング欠陥は無視できる場合がある。一方、フィニッシュレンズを使用した場合には、コート層を形成した後、そのままハードコート、反射防止コート加工に入る。そのため、コート層を形成した時点での外観が特に重要となる。そして、特に、これらレンズ基材を使用した場合には、コート層を形成した時点で、周縁部の厚みの差が少なく、側面部を含めた外観がより良好なものであることが望まれている。なお、通常の眼鏡レンズに使用する場合であれば、直径が30~200mm、好ましくは50~100mmmの円形であり、中心の厚みが0.5~30mm、好ましくは0.5~20mmであり、レンズ基材の側面(コバ面)の厚み(幅)が0.5~30mm、好ましくは0.5~20mmである。また、レンズ基材の表面のベースカーブが、20以下であることが好ましく、さらには15以下であることが好ましい。該曲率の下限値は、特に制限されるものではないが、0.5である。
【0024】
また、レンズ基材の材質も特に限定されず、ガラスレンズでもプラスチックレンズであってもよい。プラスチックレンズとしては、例えば、(メタ)アクリル系樹脂、ポリカーボネート系樹脂、アリル系樹脂、チオウレタン系樹脂、ウレタン系樹脂およびチオエポキシ樹脂等を用いて作製されたレンズが挙げられる。プラスチックレンズは、得られるコーティング層の密着性向上のために、アルカリ溶液、酸溶液などによる化学的処理、コロナ放電、プラズマ放電、研磨などによる物理的処理を施用したものであってもよい。
【0025】
また、レンズ基材は、その表面に何らかのコート層をあらかじめ有しても、有していなくともよい。プライマーコート層、保護層、又はハードコート層をその表面に有するレンズ基材を、本発明では使用することもできる。該プライマーコート層、又は保護層は、レンズ基材とその他のコーティング層との密着性を高める接着層として形成するものである。また、その他の目的として、プライマーコート層、保護層、又はハードコート層は、その上に形成されるコーティング層からレンズ基材を保護する保護層として形成するものである。前記プライマーコート層、保護層、又はハードコート層を形成する方法としては、スピンコート法、ディップ法等の公知の方法が採用される。用いられるコーティング材料(プライマーコート層、保護層、又はハードコート層を形成する材料)としては、特に限定されないが、ウレタン系樹脂、エポキシ系樹脂、アクリル系樹脂、ゾルゲル法で形成されるシリカなどの金属酸化物粒子を分散させたシリコーン系樹脂を挙げることができる。
【0026】
本発明の方法は、レンズ基材の表面にコーティング剤を供給して、該レンズ基材表面にコート層を形成してコートレンズを製造する方法であれば、その使用するコーティング剤は特に制限されるものではない。そのため、本発明の方法は、前述のレンズ基材が予め有するコーティング層を、スピンコート法によりレンズ基材表面に形成する場合においても、好適に採用できる。すなわち、レンズ基材表面に、プライマーコート層を形成するプライマー組成物を、前記レンズ基材の回転により延展する方法(スピンコート法)を採用した場合にも、本発明は、好適に採用できる。
【0027】
本発明は、前記コーティング層、およびその他の機能的なコート層を、スピンコート法(コーティング剤をレンズ基材の回転で延展させる方法)で形成する場合に、採用することができる。次に、これらのコーティング層を形成する場合の具体的な例について説明する。
【0028】
(コーティング剤を供給する工程)
本発明おいては、レンズ基材回転手段、コーティング剤供給手段、吸着部材による吸着手段を備えたスピンコート装置を用い、まず、レンズ基材をスピンコート装置に設置し、その後、レンズ基材の表面にコーティング剤を供給する。次いで、レンズ基材を所定の回転数で回転させることにより、レンズ基材上に供給されたコーティング剤を延展する。その際、レンズ基材周縁部および/または側面部に、コーティング剤の液溜まりが形成される。
【0029】
(延展工程、第一除去工程、および第二除去工程;プライマー組成物からなるコーティング剤を使用する場合)
(プライマー組成物の組成等)
プライマー組成物をコーティング剤として使用した場合には、特に制限されるものではないが、以下のような組成物を使用して、以下のような厚みとすることが好ましい。具体的には、1~10ミクロンの厚み範囲で、均一な厚さのプライマーコート層を得易いという理由から、以下の範囲の組成、粘度を満足することが好ましい。具体的には、プライマー組成物の固形分濃度は、10~50質量%あることが好ましい。25℃における粘度は、1~20mPa・sの範囲に調整することが好ましく、さらに4~10mPa・sの範囲に調整することが好ましく、特に4~7mPa・sの範囲に調整することが好ましい。
【0030】
粘度の調整は、分散媒の種類や量を変えることにより行うことができる。具体的には、WO2011/096304、特開2011-219619、WO2004/078476、WO2017/039019等に記載のプライマー組成物が好適に用いられる。プライマー組成物は、特に制限されるものではないが、優れた密着性を確保するためには、ポリウレタン、および有機溶媒を含むプライマー組成物であるか、湿気硬化型ウレタンを含むプライマー組成物を使用することが好ましい。中でも、特に、湿気硬化型ウレタンを含むプライマー組成物は、レンズ基材表面上に延展させる際にも、一部硬化するものと考えられ、本発明の方法が好適に適用できる。
【0031】
なお、湿気硬化型ウレタンとは、大気中の水分(湿気)で硬化するポリウレタン樹脂である。該ポリウレタン樹脂は、ポリウレタン分子中にイソシアネート基が残存するように設定されており、分子中に複数存在するイソシアネート基の一部が例えば大気中の水分と反応してカルバミン酸を生じた後に脱炭酸してアミンを生成し、該アミンと残存イソシアネート基が反応して尿素結合を生じることにより架橋硬化する化合物である。
【0032】
(延展する工程、および第一除去工程;プライマー組成物を使用した場合)
本発明のコーティング方法において、コーティング剤をレンズ基材表面に供給する工程を行った後、表面に供給された前記コーティング剤を、前記レンズ基材の回転により延展する延展工程を行う。
本発明において、コーティング剤としてプライマー組成物を使用した場合には、特に制限されるものではないが、レンズ基材を10~500rpmで回転させてコーティング剤を延展させることが好ましい。前記の通り、プライマー組成物(コーティング剤)は、比較的粘度が低い。そのため、より安定して、より平滑なプライマーコート層を形成するためには、レンズ基材を30~300rpmで回転させることがより好ましい。レンズ基材を回転させてコーティング剤を延展させる時間は、プライマー組成物の構成、粘度、レンズ基材の大きさ等によって適宜決定すればよいが、通常、1~60秒(sec.)であることが好ましい。
【0033】
前記延展工程後に、前記レンズ基材周縁部および/または側面部に生じる前記コーティング剤の液溜まりの少なくとも一部を、前記レンズ基材の回転により除去する第一除去工程を行う。
プライマー組成物を使用した場合には、レンズ基材を500~3000rpmで回転させることにより、レンズ基材周縁部および/または側面部に生じる液溜まりの少なくとも一部を除去することが好ましい(第一除去工程)。第一除去工程では、レンズ基材の回転数を上記した延展工程におけるレンズ基材の回転数よりも高くすることが好ましく、このような観点から、第一除去工程におけるレンズ基材の回転数は500rpm超3000rpm以下であることがより好ましい。上記範囲でレンズ基材を回転させることにより、平滑なプライマーコート層を形成しつつ、効率よく、少なくとも一部の液溜まりを除去することができる。この効果をより一層高めるためには、レンズ基材を800~2000rpmで回転させることがより好ましい。特に、この条件でレンズ基材を回転させて液溜まりを除去することにより、より安定した製造を行うことができ、歩留りをより一層、向上できる。レンズ基材を回転させて液溜まりの少なくとも一部を除去する際の時間は、プライマー組成物の構成、粘度、所望とするプライマーコート層の厚み、レンズ基材の大きさ等によって適宜決定すればよいが、通常、1~60秒(sec.)であることが好ましく、1~30秒(sec.)であることが好ましく、1~10秒(sec.)であることがさらに好ましい。
【0034】
(第二除去工程;プライマー組成物を使用した場合)
本発明において、プライマー組成物をコーティング剤として使用した場合には、前記に記載した第一除去工程により、液溜まりの少なくとも一部を除去することが好ましい。本発明においては、第一除去工程を実施した後、次いで、第二除去工程、すなわち、吸着部材を前記レンズ基材の少なくとも側面に接触させて、前記レンズ基材周縁部および/または側面部に残存する前記液溜まりを取り除く第二除去工程を実施する。
【0035】
(第二除去工程;吸着部材/プライマー組成物を使用した場合)
第二除去工程で使用する吸着部材は、レンズ基材周縁部および/または側面部に残存する液溜まりをさらに除去するものである。前記吸着部材の材質については、コーティング剤を吸着できる性質の材質であれば、特に制限なく使用可能である。その中でも、下記に詳述する溶媒に対して、膨潤しない(膨潤し難い)材質を使用することが好ましい。例えば、ポリウレタン、ポリビニルアルコール、ポリオレフィン、フッ素樹脂、メラミン樹脂、ポリアミド樹脂等が挙げられる。そして、コーティング液の吸着能力、吸着除去の繰り返し耐久性、入手のし易さ、加工のし易さの観点から、発泡樹脂からなる吸着部材であることが好ましい。そのため、特にポリウレタン、メラミン樹脂、ポリオレフィン樹脂、ポリアミド樹脂からなる発泡樹脂を使用することが好ましい。この中でも、下記に詳述するが、該吸着部材は、有機溶媒を含むことが好ましく、この場合、耐溶剤性の観点から、メラミン樹脂、ポリオレフィン樹脂、ポリアミド樹脂からなる吸着部材を使用することが特に好ましい。中でもメラミン樹脂からなる吸着部材を使用することにより、耐摩耗性がよく、該吸着部材が有機溶媒を含んだとしても、膨潤による形状変化を起こすことがなく、安定して使用できる。
【0036】
また、吸着部材は、100N~500Nの硬度を有する材料を使用することが好ましい。100N未満の硬度では、コーティング剤の吸着能力には優れるものの、レンズ基材と接触した際の接触面積が大きくなりすぎる場合があるため、コーティング液を過剰に吸着してしまい、コーティング面の均一性が低下してしまう傾向にある(後述の周縁部の液だまりにおける皺不良が発生し易い傾向にある。)。また、500Nを超える硬度では、レンズ基材と十分に密接できない場合があり、コーティング剤が十分に吸着できないおそれがある。このような理由から、使用する吸着部材の硬度としては、好ましくは150N~400N、より好ましくは、200N~350Nである。吸着部材の硬度は、JIS K6400-2(A法)に準じて測定した値である。
【0037】
また、吸着部材を形成する材質は発泡樹脂であることが好ましく、中でも連続気泡の発泡樹脂(発泡材料)であることが好ましい。独立気泡の発泡材料は、連続気泡と比較して、吸着能力が低く十分に吸着除去できない場合がある。そのため、吸着部材として典型的な連続気泡を有する発泡樹脂として、所謂、スポンジを使用することが好ましい。また、下記に詳述するが、スポンジを使用することにより、有機溶媒をより使用し易くなる。
【0038】
吸着部材の密度は5~20kg/mであることが好ましくより効率よく液溜まりを除去し、有機溶媒を含侵させるためには、密度が5~15kg/mであるものが好ましい。このような密度範囲の吸着部材として、スポンジを使用することが好ましい。密度は、スポンジの材質、スポンジが備える孔の孔径などにより調整できる。
また、スポンジの孔径は、特に制限されるものではないが、特に優れた効果を発揮させるためには、以下の範囲であることが好ましい。具体的には、光学顕微鏡で確認した際に、最大径が1~1000μmの範囲にあるもの、さらには最大径が10~800μmの範囲にあるものが好ましい。このようなスポンジは、市販のものを使用することができる。例えば、(株)イノアックコーポレーションが販売している「バソテクト」(登録商標)シリーズが挙げられる。
【0039】
(第二除去工程;有機溶媒を含む吸着部材/プライマー組成物を使用した場合)
本発明においては、前記吸着部材を使用することにより、液溜まりを容易に、安定して除去することができる。中でも、より一層、製品の安定的な生産(歩留り向上)を考慮すると、前記吸着部材、特に、スポンジに有機溶媒を含有させたものを使用することが好ましい。
【0040】
有機溶媒を使用する場合には、プライマー組成物が硬化する前の材料と混合できるものであることが好ましい。例えば、湿気硬化型ウレタンを含むプライマー組成物であれば、硬化前のウレタンモノマー(オリゴマー)と混合、又は該ウレタンモノマー(オリゴマー)を分散できるものであることが好ましい。具体的には、アルコール溶媒、ケトン系溶媒、芳香族系溶媒、ハロゲン系溶媒、エステル系溶媒等が挙げられる。中でも、取り扱い易さ、人体への影響、液溜まりの除去効果等を考慮すると、ケトン系溶媒を使用することが好ましく、中でもアセトン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトンを使用することが最も好ましい。
特に、有機溶媒がケトン系溶媒であり、前記吸着部材を形成する材質が発泡樹脂である場合や、有機溶媒がケトン系溶媒であり、前記吸着部材を形成する材質がメラミン樹脂である場合は、液溜まりの除去効果がより向上し、好ましい。
【0041】
吸着部材に有機溶媒を含有させる場合、特に制限されるものではないが、吸着部材に含有させる有機溶媒の量は、吸着部材1cm体積当たり、0.1~2gの有機溶媒が含まれるように調整することが好ましい。この範囲の有機溶媒を含むことにより、効率よく、安定して液溜まりを除去することができ、高品質のコートレンズを得ることができる。特に、湿気硬化型ウレタン樹脂を含むプライマー組成物を使用する場合には、液溜まりの除去の他、一部、ポリマーらしき付着物がレンズ基材の周縁部・側面に付着する場合がある。前記範囲の有機溶媒量とすることにより、これらの付着物をも除去して、高品質なコートレンズを歩留りよく製造できる。一方で、スポンジが含む有機溶媒量が過剰に含まれる場合(例えば、1cm体積当たり2gを超える場合)は、その有機溶媒がコーティング層に浸み込み、過剰に液だまりを除去して浸食を受ける傾向にあり、皺不良となる可能性が高くなる。
【0042】
(第二除去工程/吸着部材の形状、液溜まり除去条件;プライマー組成物を使用した場合)
本発明において、吸着部材の形状は、特に制限されるものではない。特に、吸着部材による液溜まりの除去は、レンズ基材を回転させながら、該吸着部材を少なくともレンズ基材の側面に、吸着部材を接触させることが好ましい。側面に接触させることにより、レンズ基材周縁部の液溜まりを容易に除去できる。
【0043】
(吸着部材の好適な配置;プライマー組成物を使用した場合)
レンズ基材表面に形成するプライマーコート層は、他の機能性層と比較して、比較的、薄膜である場合が多い。そのため、他の機能性層と比較して、レンズ基材周縁部の厚みムラ、外観の問題は、第一除去工程を実施することにより、調整がし易い。ただし、有機溶媒を含むプライマー組成物は、薄膜を形成する際(スピンコートする際)、有機溶媒の揮発に伴い(乾燥に伴い)粘度が上昇し、その流動性が低下し易いということがある。そして、下記に詳述する硬化させる工程(塗布したプライマー組成物をプライマーコート層とする工程)とする前にも、一部、プライマー組成物が乾燥・硬化する傾向にある。そのため、プライマー組成物を使用した場合には、この第二除去工程で液溜まりを除去することと、一部、側面に形成される硬化物を除去することが好ましい。特に、プライマー組成物として、有機溶媒を含むポリウレタン、特に有機溶媒を含む湿気硬化型ウレタンを含む組成物を使用した場合には、側面の硬化物が生成し易くなるため、以下の方法を使用することが好ましい。
【0044】
すなわち、レンズ基材側面の上端縁から側面の長さ(k)の3~30%下の位置に、吸着部材の最上位が位置するように吸着部材を配置する。そして、吸着部材の最上位と同じ位置からそれより下の側面には、吸着部材が必ず接していることが好ましい。吸着部材の最上位の位置を上記範囲とすることにより、液溜まりの除去だけではなく、効率よく、硬化物の除去ができる。液溜まりの除去、および硬化物の除去を考慮すると、吸着部材の最上位の位置は、レンズ基材側面の上端縁から側面の長さ(k)の5~20%下の位置に配置することが好ましい。
【0045】
なお、吸着部材の最上位が、レンズ基材側面の上端縁から側面の長さ(k)の3%未満の上に設置された場合、以下のような不良が生じる傾向にある。具体的には、あまりに高い位置に配置すると、特に、吸着部材が有機溶媒を含む場合には、該有機溶媒がレンズ基材周縁部からレンズ基材表面のコーティング層(塗膜)に浸み込む可能性がある。または、あまりに高い位置に配置すると、レンズ基材の周縁部表面において、吸着部材自身が折れ曲がって覆いかぶさり、レンズ表面に塗布されたプライマー組成物を過剰に取り除く危険がある。以上のことから、吸着部材を上端縁から側面の長さ(k)の3%以上となる下の位置に、吸着部材の最上位が位置するように吸着部材を配置することが好ましい。過剰にプライマー組成物が取り除かれた場合、後述の周縁部の皺不良を発生し易くなる。
【0046】
一方、kの長さの30%を超えた下の位置に、吸着部材の最上位が位置するようにした場合には、液溜まり、および硬化物の除去効果が低下する傾向にある。
【0047】
(吸着部材の好適な形状・当接条件;プライマー組成物を使用した場合)
吸着部材は、レンズ基材の前記位置の側面に当接させることが好ましいが、この場合、レンズ基材を回転させながら該吸着部材を側面に当接させることが好ましい。加えて、レンズ基材の回転に合わせて、当接させた吸着部材がそれとは反対向きに回転するような構造とすることが好ましい。そのため、当接させる吸着部材は、円柱状であることが好ましく、該円柱状の側壁面が当接部となることが好ましい。中でも、円柱状の心軸(円柱の中心軸)で回転自在となるような構造とすることが好ましい。操作性を向上させるためには、回転する回転軸の周囲に吸着部材が被覆されたローラー(中空状となった吸着部材の該中空部に回転軸が設置されたローラー)とすることが好ましい。この場合、回転軸は、直径10~50mmであることが好ましく、吸着部材は、厚みが2~50mm(回転軸を被覆している部分の吸着部材の厚み)であることが好ましく、2~45mmであることがより好ましく、5~30mmであることが特に好ましい。また、この場合、吸着部材の高さは、前記最上位のから側面の最下縁までの長さがあれば十分であるが、具体的には、5~50mmであることが好ましく、10~40mmであることがより好ましい。
【0048】
なお、この形状の吸着部材であれば、複数枚のレンズ基材の液溜まり除去に使用できる。得られるコートレンズの品質を維持できる範囲で、複数回、繰り返し使用することができる。ただし、安定して高品質なコートレンズを得るためには、毎回、同じ状態の吸着部材となるように調整することが好ましい。同じ状態とは、吸着部材の寸法、形状に変化がなく、特にレンズ基材側面と接する吸着部材の表面に汚れがない状態を意味する。そのための吸着部材を洗浄する洗浄方法としては、以下の方法が挙げられる。具体的には、プライマー組成物等を含んだ吸着部材を定期的に前記の有機溶媒に浸し、その後、吸着部材に含まれた有機溶媒を、吸引、又は絞り出しすることにより、洗浄することができる。その中でも、吸引による溶媒除去は、吸着部材の形状変化を起こし難いため、好適は方法である。
【0049】
(吸着部材の好適な態様;プライマー組成物を使用した場合)
使用する吸着部材は、特に制限されるものではなく、前記材質からなる、前記特性を有する吸着部材を使用できる。中でも、前記のスポンジを使用することが好ましく、さらには、該スポンジが有機溶媒を含むことが好ましい。特に、湿気硬化型ウレタン樹脂を含むプライマー組成物を使用した場合には、有機溶媒を含むスポンジを使用することが好ましい。中でも、有機溶媒を使用する場合には、ケトン系溶媒を使用することが好ましく、その量は、前記の通り、スポンジ1cm当たり、0.1~2gであることが好ましい。中でも、湿気硬化型ウレタン樹脂を含むプライマー組成物を使用した場合には、特に好ましくは、スポンジ1cm当たり、有機溶媒量を0.2~1.5gとすることが好ましく、0.3~1gとすることがより好ましい。
【0050】
なお、有機溶媒を含む吸着部材を使用する場合には、前記範囲の有機溶媒量であれば、複数枚のレンズ基材を処理することもできるが、より高品質なコートレンズを得るためには、毎回、上記範囲(スポンジ1cm当たり、有機溶媒量が0.1~2gであり、0.2~1.5gとすることが好ましく、0.3~1gとすることがより好ましい。)の有機溶媒量を含むように調整することが好ましい。なお、有機溶媒が好適な含有量範囲となるよう、有機溶媒を自動的に供給し、その含有量を調整することが好ましい。
【0051】
(吸着部材の好適な当接条件;プライマー組成物を使用した場合)
前記の通り、吸着部材は、回転した状態でレンズ基材の側面に接することが好ましい。中でも、プライマー組成物を使用した場合には、以下の条件で該側面に吸着部材を当接させることが好ましい。具体的には、安定して、液溜まり、硬化物を除去するためには、押し当て荷重(以下、当接力 とする場合もある)が20~200gであることが好ましく、さらには、30~150gとすることが好ましい。この荷重を調整する方法としては、レンズ基材の側面に吸着部材を押し付ける手段として、ばねを有する手段で押し付ける方法を採用できる。具体的には、吸着部材(例えば、円柱状のスポンジ)の根本部分(図2中)に取り付けた「ばね」の係数を適宜調整する方法を採用できる。
【0052】
また、当接した際のレンズ基材の回転速度は、30~200rpmであることが好ましく、より安定して液溜まり、硬化物を除去するためには、50~100rpmとすることが好ましい。当接する時間は、適宜決定すればよいが、通常であれば1~60秒(sec.)であることが好ましく、1~30秒(sec.)であることがより好ましく、1~20秒(sec.)であることがさらに好ましい。
【0053】
以上のような方法により、プライマー組成物を使用した場合には、処理をすることが好ましい。次いで、プライマー組成物を使用した場合に、レンズ基材表面に塗布したコーティング剤の硬化方法について説明する。
【0054】
(コート層、コート層の形成方法:プライマー組成物を使用した場合)
前記方法で液溜まりを除去した後、コーティング剤が塗布されたレンズ基材は、公知の方法で処理することにより、プライマーコート層をレンズ基材表面に形成することができる。つまり、プライマー組成物に含まれる材質によって、それぞれに適した硬化方法を採用すればよい。
【0055】
例えば、重合性単量体(オリゴマーを含む)と熱重合開始剤、および/又は光重合開始剤を含むような場合には、該重合性単量体が熱重合、および/又は光重合する条件で硬化させればよい。また、ポリマー及び有機溶媒を含むプライマー組成物である場合には、有機溶媒を乾燥する条件で硬化させればよい。湿気硬化型ウレタンを含むプライマー組成物を使用した場合には、湿度化、必要に応じて加熱して硬化させることが好ましい。具体的には、湿度10~80%、温度20~120℃の条件で湿気硬化型ウレタンを含むプライマー組成物を硬化させることが好ましい。
【0056】
得られるコートレンズにおいて、プライマーコート層の膜厚は、特に制限されるものではないが、好ましくは0.1~10μm、より好ましくは1~10μmである。
【0057】
このような膜厚のプライマーコート層の場合には、下記に詳述する(液溜まりの幅の評価)、(液溜まりの皺の評価)では差が見分けにくい場合がある。液溜まりの皺は吸着部材に含まれる有機溶媒がコーティング層に浸み込むこと、あるいは吸着部材がレンズ基材表面にまで押し込まれることにより、該周縁部のコーティング膜(塗膜)が余分に取り除かれる(浸食を受ける)ことにより発生する不良と考えられる。また、プライマーコート層を形成する場合においては、側面に硬化物が付着する場合がある。特に、湿気硬化型ウレタンを含むプライマー組成物を使用した場合には、このような硬化物の付着が問題となる可能性があった。特に、直ちに、そのまま次工程へと進むフィニッシュレンズの場合には、外観上大きな問題となる。この硬化物は、側面を処理(例えば、研磨等)すれば除去できるが、工程が増えるため好ましい操作ではない。本発明においては、下記に詳述するが、20枚のレンズ基材に、プライマーコート層を積層した場合に歩留りの結果で評価を行った。
【0058】
本発明においては、以上のような方法により、プライマーコート層を表面に有するレンズ基材(以下、単に「プライマーコートレンズ基材」とする場合もある。)を製造できる。本発明においては、このプライマーコートレンズを、レンズ基材として、さらに機能層をその上にコーティングすることができる。機能層は、特に制限されるものではないが、様々な色素、紫外線吸収剤を含む層であってもよい。中でも、フォトクロミック化合物、および重合性単量体を含むフォトクロミック硬化性組成物からなるコーティング剤を使用する場合に、本発明の方法は、好適に採用できる。
【0059】
すなわち、本発明において、レンズ基材の表面に対して複数回コーティング層を形成することが可能であり、上記のようにレンズ基材上にプライマー組成物をコーティングしてプライマーコート層を形成させた後、該プライマー層上に、フォトクロミック硬化性組成物をコーティングしてフォトクロミックコート層を形成できる。
【0060】
言い換えると、上記したコーティング剤を供給する工程、延展工程、第一除去工程、第二除去工程をこの順に繰り返し行うことができる。例えば、レンズ基材上に、プライマー組成物からなるコーティング剤を供給して、延展工程、第一除去工程、第二除去工程を行い、プライマーコート層を形成させた後、該プライマーコート層上に、後述するフォトクロミック硬化性組成物を供給して、延展工程、第一除去工程、第二除去工程を行い、フォトクロミックコート層を形成することができる。このようにすると、レンズ基材上にプライマーコート層、およびフォトクロミックコート層を形成してフォトクロミックレンズを製造することができる。
【0061】
次に、該フォトクロミック硬化性組成物からなるコーティング剤を使用する場合について、説明する。
【0062】
(レンズ基材;機能層を形成する場合)
本発明においては、フォトクロミック化合物を含む機能性層を形成する場合であっても、上記(レンズ基材)で説明したものと同じレンズ基材が使用できる。
【0063】
中でも、前記に記載したプライマーコートレンズ基材を好適に使用できる。その中でも、プライマーコートレンズ基材において、プライマーコート層の厚みが1~10μm、より好ましくは3~10μmである場合に、本発明の方法は、好適に採用できる。前記の通り、プライマーコート層の厚みが10μm程度であれば、比較的薄膜であるため、プライマーコートレンズ基材そのものは周縁部の厚み、および皺はあまり大きな問題とならない場合がある。しかしながら、プライマーコート層が存在し、さらに層の上に機能層を形成する場合には、周縁部の厚み、皺の問題が重要視される。本発明は、このようなプライマーコートレンズ基材の、該プライマーコート層上に、機能層を形成する場合に、厚み、皺の問題を効率よく解決できる。特に、フィニッシュレンズ上にプライマーコート層を有するプライマーコートレンズ基材を使用する場合に、本発明の方法は、好適に採用できる。
【0064】
(コーティング剤を供給する工程)
本発明おいて、前記の通り、レンズ基材回転手段、コーティング剤供給手段、吸着部材による吸着手段を備えたスピンコート装置を用いて機能層を積層することができる。コーティング剤を供給するのは、公知の方法が採用できる。液溜まりができるのは、前記で説明した通りである。
【0065】
(延展工程、第一除去工程、および第二除去工程;機能層となるコーティング剤を使用する場合)
(機能層を形成するコーティング剤の組成等について)
機能層を形成する場合には、比較的粘度の高いコーティング剤を使用して厚膜のコート層を形成する場合が多い。そのため、特に、フィニッシュレンズのコーティングにおいては、周縁部の厚み、皺が問題となる。
【0066】
機能層を形成するコーティング剤としては、特に制限されるものではない。中でも、機能層のコーティング膜厚10~100ミクロンを与える場合には、粘度(25℃)は、20~5000mPa・sであることが好ましく、50~1000mPa・sであることがより好ましく、70~500mPa・s以下であることがさらに好ましく、100~300mPa・sであることが特に好ましい。特に、フォトクロミック化合物、および重合性単量体を含むフォトクロミック硬化性組成物からなるコーティング剤を使用する場合には、前記粘度を満足することが好ましい。コーティング剤がフォトクロミック化合物を含む場合、特に、上記粘度範囲を満足することにより、比較的コート層の厚みを厚くすることができる。厚い膜となるため、本発明の方法が好適に採用できる。次に、このフォトクロミック硬化性組成物について説明する。
【0067】
(フォトクロミック硬化性組成物からなるコーティング剤の組成等について)
フォトクロミック硬化性組成物(以下、単に「フォトクロミック液」とする場合もある。)は、フォトクロミック化合物、および重合性単量体を含み、好ましくは、(a)フォトクロミック化合物、(b)重合性単量体、(c)光重合開始剤、を構成成分として含む。
【0068】
(フォトクロミック化合物)
前記(a)フォトクロミック化合物としては、公知のフォトクロミック化合物を何ら制限なく使用することができる。例えば、フルギミド化合物、スピロオキサジン化合物、クロメン化合物等のフォトクロミック化合物を用いることができる。
【0069】
これらフォトクロミック化合物の中でも、クロメン系フォトクロミック化合物は、フォトクロミック特性の耐久性が他のフォトクロミック化合物に比べて高く、フォトクロミック特性の発色濃度および退色速度の点で他のフォトクロミック化合物に比べて特に優れるため、特に好適に使用することができる。
【0070】
本発明で好適に使用できるクロメン系フォトクロミック化合物を具体的に例示すれば、次のような化合物を挙げることができる。
【0071】
【化1】
【0072】
【化2】
【0073】
【化3】
【0074】
前記(a)フォトクロミック化合物は、目的とする発色色調を得るために、複数の種類のものを適宜混合して使用しても構わない。
【0075】
前記(a)フォトクロミック化合物の配合量は、フォトクロミック液に配合される(b)重合性単量体100質量部に対して0.01~20質量部であるのが好ましく、0.05~15質量部であるのがより好ましく、0.1~10質量部の範囲であるのが最も好ましい。この範囲とすることにより十分な発色濃度を得つつ、かつフォトクロミック化合物を重合性単量体に均一に溶解させることが容易となり、よって発色濃度も十分かつ均一なものとすることが容易となる。
【0076】
(重合性単量体)
前記(b)重合性単量体としては、表面硬度の向上、耐衝撃性の向上、さらに外層に設けるハードコート層または反射防止層などとの密着性の向上などの目的に応じて、公知のラジカル重合性単量体が何ら制限なく使用できる。
【0077】
(ラジカル重合性単量体)
このようなラジカル重合性単量体を具体的に例示すると、トリメチロールプロパントリメタクリレート、トリメチロールプロパントリアクリレート、テトラメチロールメタントリメタクリレート、テトラメチロールメタントリアクリレート、テトラメチロールメタンテトラメタクリレート、テトラメチロールメタンテトラアクリレート、トリメチロールプロパントリエチレングリコールトリメタクリレート、トリメチロールプロパントリエチレングリコールトリアクリレート、ジトリメチロールプロパンテトラメタクリレート、ジトリメチロールプロパンテトラアクリレート、ジペンタエリスリトールヘキサアクリレート、ビスフェノールAジメタクリレート、2,2-ビス(4-メタクリロイルオキシエトキシフェニル)プロパン、平均分子量628の2,2-ビス(4-メタクリロイルオキシポリエチレングリコールフェニル)プロパン、平均分子量804の2,2-ビス(4-メタクリロイルオキシポリエチレングリコールフェニル)プロパン、平均分子量776の2,2-ビス(4-アクリロイルオキシポリエチレングリコールフェニル)プロパン、平均分子量468のメトキシポリエチレングリコールメタクリレート、ジエチレングリコールジメタクリレート、トリエチレングリコールジメタクリレート、テトラエチレングリコールジメタクリレート、ペンタエチレングリコールジメタクリレート、ペンタプロピレングリコールジメタクリレート、ジエチレングリコールジアクリレート、トリエチレングリコールジアクリレート、テトラエチレングリコールジアクリレート、ペンタエチレングリコールジアクリレート、トリプロピレングリコールジアクリレート、テトラプロピレングリコールジアクリレート、ペンタプロピレングリコールジアクリレート、平均分子量330のポリエチレングリコールジメタクリレート、平均分子量536のポリエチレングリコールジメタクリレート、平均分子量736のポリテトラメチレングリコールジメタクリレート、トリプロピレングリコールジメタクリレート、テトラプロピレングリコールジメタクリレート、平均分子量536のポリプロピレングリコールジメタクリレート、平均分子量258のポリエチレングリコールジアクリレート、平均分子量308のポリエチレングリコールジアクリレート、平均分子量508のポリエチレングリコールジアクリレート、平均分子量708のポリエチレングリコールジアクリレート、ポリカーボネートジオールと(メタ)アクリル酸との反応生成物であるポリカーボネートジ(メタ)アクリレート、ウレタンオリゴマーテトラアクリレート、ウレタンオリゴマーヘキサメタクリレート、ウレタンオリゴマーヘキサアクリレート等の多官能性ウレタン(メタ)アクリレート、ポリエステルオリゴマーヘキサアクリレート等の多官能ポリエステル(メタ)アクリレート、(メタ)アクリル基を有し、かつケージ状、ハシゴ状、ランダムといった種々の構造を有するシルセスキオキサンモノマー、2-イソシアナトエチルメタクリレートなどを挙げることができる。
【0078】
前記ラジカル重合性単量体は、コーティング剤の硬化後の耐溶剤性や硬度、耐熱性等の硬化体特性等を考慮して、2種類以上を適宜混合して用いることもできる。
【0079】
また、前記ラジカル重合性単量体は、前記したものとは別に、分子中に少なくとも一つのエポキシ基と少なくとも一つのラジカル重合性基を有するラジカル重合性単量体(以下、単にエポキシ系モノマーと称す場合がある)を含んでいてもよい。
【0080】
エポキシ系モノマーをラジカル重合性単量体の成分として使用することにより、コーティング層とレンズ基材との密着性が向上する。
【0081】
このようなエポキシ系モノマーは公知の化合物を何ら制限なく使用できるが、好ましくは、ラジカル重合性基として(メタ)アクリロイルオキシ基を有する化合物が好ましい。
【0082】
上記のエポキシ系モノマーを具体的に例示すると、グリシジルアクリレート、グリシジルメタクリレート、β-メチルグリシジルメタクリレート、ビスフェノールA-モノグリシジルエーテル-メタクリレート、4-グリシジルオキシメタクリレート、3-(グリシジル-2-オキシエトキシ)-2-ヒドロキシプロピルメタクリレート、3-(グリシジルオキシ-1-イソプロピルオキシ)-2-ヒドロキシプロピルアクリレート、3-(グリシジルオキシ-2-ヒドロキシプロピルオキシ)-2-ヒドロキシプロピルアクリレート、平均分子量540(分子量390~660の範囲が主成分)のグリシジルオキシポリエチレングリコールメタアクリレート等が挙げられる。これらの中でもグリシジルアクリレート、グリシジルメタクリレートおよび平均分子量540(分子量390~660の範囲が主成分)のグリシジルオキシポリエチレングリコールメタアクリレートが特に好ましい。
【0083】
これらエポキシ系モノマーを含ませる場合の配合割合は、ラジカル重合性単量体中、0.01~30質量%、特に0.1~20質量%であるのが好適である。
【0084】
また、前記ラジカル重合性単量体は、前記したものとは別に、シラノール基(≡Si-OH)または加水分解によりシラノール基を生じる基を有するラジカル重合性単量体(以下、シリルモノマーと称す場合がある)やイソシアネート基を有するラジカル重合性単量体(以下、イソシアネートモノマーと称す場合がある)を含んでいてもよい。シリルモノマーやイソシアネートモノマーをラジカル重合性単量体の成分として使用することにより、特にレンズ基材がプラスチックレンズである場合、コーティング層とレンズ基材との密着性をより高めることが可能であり、外層にハードコート層を設けた場合の該ハードコート層との密着性も高めることが可能である。
【0085】
ここで、シリルモノマーを具体的に例示すると、γ-メタクリロイルオキシプロピルトリメトキシシラン、γ-メタクリロイルオキシプロピルトリエトキシシラン、γ-メタクリロイルオキシプロピルメチルジメトキシシラン、(3-アクリロキシプロピル)ジメチルメトキシシラン、(3-アクリロキシプロピル)メチルジメトキシシラン、(3-アクリロキシプロピル)トリメトキシシラン、3-(N-アリルアミノ)プロピルトリメトキシシラン、アリルジメトキシシラン、アリルトリエトキシシラン、アリルトリメトキシシラン、3-アミノフェノキシジメチルビニルシラン、4-アミノフェノキシジメチルビニルシラン、3-(3-アミノプロポキシ)-3,3-ジメチル-1-プロペニルトリメトキシシラン、ブテニルトリエトキシシラン、2-(クロロメチル)アリルトリメトキシシラン、ジエトキシビニルシラン、1,3-ジビニルテトラエトキシジシロキサン、ドコセニルトリエトキシシラン、O-(メタクリロキシエチル)-N-(トリエトキシシリルプロピル)ウレタン、N-(3-メタクリロキシ-2-ヒドロキシプロピル)-3-アミノプロピルトリエトキシシラン、メタクリロキシエトキシトリメチルシラン、(メタクリロキシメチル)ジメチルエトキシシラン、メタクリロキシメチルトリエトキシシラン、メタクリロキシメチルトリメトキシシラン、メタクリロキシプロピルジメチルエトキシシラン、メタクリロキシプロピルジメチルメトキシシラン、メタクリロキシプロピルトリス(メトキシエトキシ)シラン、7-オクテニルトリメトキシシラン、1,3―ビス(メタクリロキシ)-2-トリメチルシロキシプロパン、テトラキス(2-メタクリロキシエトキシ)シラン、トリビニルエトキシシラン、トリビニルメトキシシラン、ビニルジメチルエトキシシラン、ビニルジフェニルエトキシシラン、ビニルメチルジアセトキシシラン、ビニルメチルジエトキシシラン、ビニルメチルジメトキシシラン、O-(ビニロキシエチル)-N-(トリエトキシシリルプロピル)ウレタン、ビニロキシトリメチルシラン、ビニルフェニルジエトキシシラン、ビニルフェニルメチルメトキシシラン、ビニルトリアセトキシシラン、ビニルトリ-t-ブトキシシラン、ビニルトリエトキシシラン、ビニルトリイソプロペノキシシラン、ビニルトリイソプロポキシシラン、ビニルトリメトキシシランビニルトリフェノキシシラン、ビニルトリス(2-メトキシエトキシ)シラン等を挙げることができる。
【0086】
これらの中でも、γ-メタクリロイルオキシプロピルトリメトキシシラン、γ-メタクリロイルオキシプロピルトリエトキシシラン、γ-メタクリロイルオキシプロピルメチルジメトキシシラン、(3-アクリロキシプロピル)ジメチルメトキシシラン、(3-アクリロキシプロピル)メチルジメトキシシラン、(3-アクリロキシプロピル)トリメトキシシラン、(メタクリロキシメチル)ジメチルエトキシシラン、メタクリロキシメチルトリエトキシシラン、メタクリロキシメチルトリメトキシシラン、メタクリロキシプロピルジメチルエトキシシラン、メタクリロキシプロピルジメチルメトキシシランが特に好適に使用できる。
【0087】
好適に使用できるイソシアネートモノマーを具体的に例示すると、2-イソシアナトエトキシメタアクリレート、4-(2-イソシアナトイソプロピル)スチレン等を挙げることができる。
【0088】
前記フォトクロミック液において、シリルモノマー又はイソシアネートモノマーを含ませる場合の配合量は特に制限されるものではないが、レンズ基材やハードコート層との密着性を良好なものとし、また、ハードコート層を設けた際の耐擦傷性を良好なものとするために、ラジカル重合性単量体中に占める割合で0.5~20質量%であることが好ましく、1~10質量%であることがより好ましい。
【0089】
また、これらシリルモノマー又はイソシアネートモノマーは単独あるいは数種混合して使用することができ、シリルモノマーとイソシアネートモノマーとを混合して使用することも可能である。
【0090】
(その他の配合成分;アミン化合物)
前記フォトクロミック液は、ラジカル重合性単量体に加えて、別途アミン化合物を含むことができる。アミン化合物を含むフォトクロミック液を用いることにより、硬化して形成されるコーティング層とレンズ基材との密着性を向上させることができる。
【0091】
このようなアミン化合物としては、アミノ基を有する化合物が何ら制限なく使用できる。好適に使用できるアミン化合物を具体的に例示すると、トリエタノールアミン、N-メチルジエタノールアミン、トリイソプロパノールアミン、4,4-ジメチルアミノベンゾフェノン、ジアザビシクロオクタン等の非重合性低分子系アミン化合物;N,N―ジメチルアミノエチルメタアクリレート、N,N―ジエチルアミノエチルメタアクリレート等の重合性基を有するアミン化合物;n-(ヒドロキシエチル)-N-メチルアミノプロピルトリメトキシシラン、ジメトキシフェニル-2-ピペリジノエトキシシラン、N,N-ジエチルアミノメチルトリメチルシラン、(N,N-ジエチル-3-アミノプロピル)トリメトキシシラン等のシリル基を有するアミン化合物が挙げられる。
【0092】
これらアミン化合物は単独もしくは数種混合して使用することができる。これらアミン化合物を含ませる場合の配合量としては、フォトクロミック液に含まれるラジカル重合性単量体100質量部に対して0.1~20質量部であることが好ましく、0.5~10質量部、さらに1~10質量部の範囲であることが好ましい。この範囲にすることにより高い密着性を得ることができる。
【0093】
(重合開始剤)
前記(c)光重合開始剤は、照射される光等によって分解し、(b)重合性単量体を硬化することができれば、何ら制限なく使用できる。
【0094】
光重合性開始剤を具体的に例示すれば、2,6-ジメチルベンゾイルジフェニルフォスフィンオキシド、2,4,6-トリメチルベンゾイルジフェニルフォスフィンオキシド、2,6-ジクロルベンゾイルジフェニルフォスフィンオキシド、2,6-ジメトキシベンゾイルジフェニルフォスフィンオキシド等のモノアシルフォスフィンオキシド系化合物;ビス(2,6-ジメトキシベンゾイル)-2,4,4-トリメチルペンチルフォスフィンオキシド、ビス(2,6-ジメチルベンゾイル)-2,4,4-トリメチルペンチルフォスフィンオキシド、ビス(2,4,6-トリメチルベンゾイル)-2,4,4-トリメチルペンチルフォスフィンオキシド、ビス(2,6-ジクロルベンゾイル)-2,4,4-トリメチルペンチルフォスフィンオキシド、ビス(2,4,6-トリメチルベンゾイル)-フェニルフォスフィンオキサイド、ビス(2,4,6-トリメトキシベンゾイル)-フェニルフォスフィンオキサイド等のビスアシルフォスフィンオキシド系化合物;ベンゾフェノール、アセトフェノン、4,4’-ジクロロベンゾフェノン、メチルフェニルグリオキシレート、チオキサントン、2,4-ジメチルチオキサントン、2-メチルチオキサントン、2-クロルチオキサントン、ジイソプロピルチオキサントン、2,4-ジエチルチオキサントン、2,4-ジクロロチオキサントン、2-イソプロピルチオキサントン、3,3’,4,4’-テトラ(t-ブチルパーオキシカルボニル)ベンゾフェノン、カンファーキノン、ジベンゾスベロン、2-エチルアンスラキノン、4’,4”-ジエチルイソフタロフェノン、9,10-フェナンスレンキノン、1-フェニル-1,2-プロパンジオン-2(O-エトキシカルボニル)オキシム、ベンゾフェノン、オルソベンゾイル安息香酸メチル、オルソベンゾイル安息香酸、4-ベンゾイル-4’-メチルジフェニルサルファイド、2,2-ジメトキシ-1,2-ジフェニルエタン-1-オン、2-ベンジル-2-ジメチルアミノ-1-(4-モルホリノフェニル)-ブタノン-1、2-メチル-1-[4-(メチルチオ)フェニル]-2-モルホリノプロパン-1-オン、1-ヒドロキシ-シクロヘキシル-フェニル-ケトン、1-[4-(2-ヒドロキシエトキシ)-フェニル]-2-ヒドロキシ-2-メチル-1-プロパン-1-オン、2-ヒドロキシ-2-メチル-1-フェニル-プロパン-1-オン、4-フェニルベンゾフェノン、ヒドロキシベンゾフェノン、3,3’-ジメチル-4-メトキシベンゾフェノン、ベンゾイン、ベンゾインメチルエーテル、ベンゾインエチルエーテル、ベンゾインイソプロピルエーテル、ベンゾインイソブチルエーテル、4-フェノキシジクロロアセトフェノン、4-t-ブチル-ジクロロアセトフェノン、4-t-ブチル-トリクロロアセトフェノン、ジエトキシアセトフェノン、1-(4-イソプロピルフェニル)-2-ヒドロキシ-2-メチルプロパン1-オン、1-(4-ドデシルフェニル)-2-ヒドロキシ-2-メチルプロパン-1-オン、4-(2-ヒドロキシエトキシ)-フェニル(2-ヒドロキシ-2-プロピル)ケトン等を挙げることができる。
【0095】
これら光重合開始剤は、(b)ラジカル重合性単量体100質量部に対して0.001~5質量部の範囲で用いるのが一般的である。上記光重合開始剤は単独で用いてもよいし、2種類以上を組合せて用いることもできる。
【0096】
前記フォトクロミック液は、光重合開始剤の他に熱重合開始剤を含んでいてもよく、これにより、光等の照射後、又は同時に加熱して硬化させることができる。
【0097】
熱重合開始剤としては、特に限定されず、公知のものが使用できるが、代表的なものを例示すると、ベンゾイルパーオキサイド、p-クロロベンゾイルパーオキサイド、デカノイルパーオキサイド、ラウロイルパーオキサイド、アセチルパーオキサイド等のジアシルパーオキサイド;t-ブチルパーオキシ-2-エチルヘキサノエート、t-ブチルパーオキシジカーボネート、クミルパーオキシネオデカネート、t-ブチルパーオキシベンゾエート等のパーオキシエステル;ジイソプロピルパーオキシジカーボネート、ジ-2-エチルヘキシルパーオキシジカーボネート、ジ-sec-ブチルオキシカーボネート等のパーカーボネート類;2,2’-アゾビスイソブチロニトリル、2,2’-アゾビス(4-ジメチルバレロニトリル)、2,2’-アゾビス(2-メチルブチロニトリル)、1,1’-アゾビス(シクロヘキサン-1-カーボニトリル)等のアゾ化合物等を挙げることができる。
【0098】
これら熱重合開始剤の使用量は、硬化条件や開始剤の種類、ラジカル重合性単量体の種類や組成によって異なり、一概に限定できないが、一般には、(b)ラジカル重合性単量体100質量部に対して0.01~10質量部の範囲で用いるのが好適である。上記の熱重合開始剤は一種または二種以上を混合して用いてもよい。
【0099】
(その他の添加成分)
前記フォトクロミック液には、コーティング層(コート層)の黄変防止や成形性の向上、さらには添加時におけるフォトクロミック化合物の耐久性の向上、発色速度の向上、退色速度の向上等のために、本発明の効果を損なわない範囲で、界面活性剤、酸化防止剤、ラジカル補足剤、紫外線安定剤、紫外線吸収剤、離型剤、着色防止剤、帯電防止剤、蛍光染料、染料、顔料、香料、可塑剤等の添加剤を添加してもよい。
【0100】
例えば、界面活性剤としては、ノニオン系、アニオン系、カチオン系の何れも使用できるが、ラジカル重合性単量体への溶解性からノニオン系界面活性剤を用いるのが好ましい。好適に使用できるノニオン系界面活性剤を具体的に挙げると、ソルビタン脂肪酸エステル、グリセリン脂肪酸エステル、デカグリセリン脂肪酸エステル、プロピレングリコール・ペンタエリスリトール脂肪酸エステル、ポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸エステル、ポリオキシエチレンソルビット脂肪酸エステル、ポリオキシエチレングリセリン脂肪酸エステル、ポリエチレングリコール脂肪酸エステル、ポリオキシエチレンアルキルエーテル、ポリオキシエチレンフィトステロール・フィトスタノール、ポリオキシエチレンポリオキシプロピレンアルキルエーテル、ポリオキシエチレンアルキルフェニルエーテル、ポリオキシエチレンヒマシ油・硬化ヒマシ油、ポリオキシエチレンラノリン・ラノリンアルコール・ミツロウ誘導体、ポリオキシエチレンアルキルアミン・脂肪酸アミド、ポリオキシエチレンアルキルフェニルホルムアルデヒド縮合物、単一鎖ポリオキシエチレンアルキルエーテル等を挙げることができる。界面活性剤の使用に当たっては、2種以上を混合して使用してもよい。界面活性剤の添加量は、(b)ラジカル重合性単量体100質量部に対し、0.1~20質量部の範囲が好ましい。
【0101】
また、酸化防止剤、ラジカル補足剤、紫外線安定剤、紫外線吸収剤としては、ヒンダードアミン光安定剤、ヒンダードフェーノール酸化防止剤、フェノール系ラジカル補足剤、イオウ系酸化防止剤、ベンゾトリアゾール系化合物、ベンゾフェノン系化合物等を好適に使用できる。これら酸化防止剤、ラジカル補足剤、紫外線安定剤、紫外線吸収剤は、2種以上を混合して使用しても良い。さらにこれらの非重合性化合物の使用に当たっては、界面活性剤と酸化防止剤、ラジカル補足剤、紫外線安定剤、紫外線吸収剤を併用して使用しても良い。これら酸化防止剤、ラジカル補足剤、紫外線安定剤、紫外線吸収剤の添加量は、(b)重合性単量体100質量部に対しそれぞれ0.001~20質量部の範囲が好ましい。
【0102】
本発明において、フォトクロミック硬化性組成物は、前記に例示した成分を配合・混合して、粘度(25℃)を、20~5000mPa・sに調整することが好ましく、50~1000mPa・sに調整することがより好ましく、70~500mPa・s以下に調整することがさらに好ましく、100~300mPa・sに調整することが特に好ましい。
【0103】
(延展する工程、および第一除去工程;機能層となるコーティング剤を使用した場合)
本発明においては、機能層を構成するコーティング剤をレンズ基材表面に供給し、公知の方法で延展、すなわち、スピンコート法を使用して延展してやればよい、中でも、フォトクロミック硬化性組成物からなるコーティング剤を使用した場合には、以下の方法を採用することができる。
【0104】
先ず、プライマーコートレンズ基材のプライマーコート層上の中心部にフォトクロミック硬化性組成物を供給し、10~500rpmの回転数、より好ましくは30~300rpmの回転数、さらに好ましくは50~200rpmの回転数で該レンズ基材を回転させる。この時、フォトクロミック硬化性組成物を、ポリプロピレン、又はポリエチレンテレフタレート等の樹脂製フィルムからなるコート液延展補助機構を用いて延展することもできる。延展に係る時間は、該レンズ基材の回転数、レンズ基材の大きさ等を考慮して適宜決定すればよい。中でも、操作性、得られるフォトクロミック層の厚み等を考慮すると、延展に係る時間は、5~120秒(sec.)であることが好ましく、10~60秒(sec.)であることがより好ましい。
【0105】
次いで、第一除去工程(延展で生じた液溜まりの少なくとも一部を該レンズ基材の回転により除去する工程)を実施することが好ましい。第一除去工程としては、該レンズ基材の回転数を、500rpmを超え2000rpm以下として、液溜まりの少なくとも一部を除去することが好ましい。操作性、液溜まり除去の効率を考慮すると、該レンズ基材の回転数を500rpm超1500rpm以下として第一除去工程を実施することが好ましく、さらには該レンズ基材の回転数を600~1300rpmとして第一除去工程を実施することが好ましい。第一除去工程を実施する時間は、特に制限されるものではないが、効率よく液溜まりを除去するためには、1~60秒(sec.)であることが好ましく、1~30秒(sec.)であることが好ましく、1~10秒(sec.)であることがさらに好ましい。
【0106】
機能層を形成するためのコーティング剤を使用した場合、前記第一除去工程を実施した後、次いで、第二除去工程を実施することができる。また、第一除去工程後、ヘラをレンズ基材の側面に当接させて、余分な液溜まりをさらに除去した後、第二除去工程を実施することもできる。ヘラを当接する工程を設けることにより、機能層を形成する場合において、高品質なコート層を形成することが難しい、ベースカーブが大きいレンズ基材上にコート層を形成する(コートレンズを製造する)ことが容易となる。特に、レンズ基材の表面のベースカーブが4以上のもののコート層を形成する場合に、ヘラを当接する工程を設けることが好ましい。第一除去工程後のヘラを当接する工程(ヘラ当接工程)について、説明する。
【0107】
<ヘラ当接工程;特に機能層を形成する場合>
前記の通り、機能層を形成させる場合には、第一除去工程の後半、又は第一除去工程後(好ましくは、第一除去工程後)、ヘラをレンズ基材の側面に当接させて、さらに余分な液溜まりを除去することもできる。このヘラ当接工程は、必須ではないが、特に、レンズ基材の表面のベースカーブが4以上のもの、好ましくは5以上、より好ましくは5~15のコート層形成時に好適に採用できる。即ち、吸着部材の当接処理を行う前に、ヘラによる余剰コーティング液の除去を行うことが望ましい。
【0108】
使用するヘラの材質、形状は特に制限されるものではないが、例えば、金属製、ポリエチレンテレフタレート(PTFE)等のプラスチック製、シリコン等のゴム製のヘラを使用できる。形状はレンズ基材の側面に密接できればよく、好ましくは、レンズ基材の側面に接する部分が直線状になっている形状が挙げられる。なお、当然のことであるが、ヘラ当接工程の実施は、ベースカーブが4未満のものに適用したとしても、高品質なコートレンズを製造できる。
【0109】
レンズ基材の側面に接触するヘラの厚み(ヘラ先端の厚み)が厚い場合(接触面積が大きい場合)、周辺部の液だまりの形状が大きくなる場合がある。特に高カーブで側面の厚みの薄いレンズ基材の場合において液溜まりが大きくなる傾向が高い。特に、この傾向はレンズ基材の表面のベースカーブが5以上となる場合に、この傾向が高くなる。効率的に余剰コーティング液を除去し、且つ周辺部の液だまりを少なくするためには、レンズ基材の側面に当接するヘラ先端部の厚みは、以下の範囲となることが好ましい。すなわち、レンズ基材の側面と当接するヘラの先端の厚みが0.05~2mmであることが好ましく、さらには、0.1~1mmであることが好ましい。
【0110】
加えて、ヘラ先端は、直線状となっていることが好ましいが、ヘラ先端部の形状は鋭角となっていることが好ましい。すなわち、レンズ基材の側面に対して垂直となる面でヘラ見た場合、ヘラの先端を頂点として、ヘラの両側面がなす角(頂角;以下、「刃先角度」とする場合もある)が5°以上90°未満となることが好ましい。ヘラ先端の厚みが上記範囲であって、かつ、刃先角度がこの範囲を満足することにより、特に優れた効果を発揮する。より高品質なコート層を形成するためには、刃先角度は、10°以上45°以下が好ましく、10°以上30°以下がより好ましく、10°以上25°以下とすることがさらに好ましい。
【0111】
なお、本発明で使用するヘラは、先端の厚みが前記範囲を満足し、刃先角度が前記範囲を満足することが好ましいが、鋭角とならない部分(先端部ではない部分)において、ヘラ側面が対向(平行)となる部分を有することが好ましい。このヘラ側面同士が平行となる部分の厚みは、特に制限されるものではないが、ヘラ先端の加工性、ヘラの強度等を考慮すると、2mm以上5mm以下程度であることが好ましい。
【0112】
以上のような形状、特に先端部を有するヘラを使用することが好ましい。そして、レンズ基材の側面全面に、該ヘラの先端が接触するように配置することが好ましい。
【0113】
ヘラを当接する場合、回転した状態でレンズ基材の側面にヘラを当接することが好ましい。中でも、機能層を形成する場合、特に、フォトクロミック硬化性組成物を使用した場合には、以下の条件で該側面にヘラの先端を当接させることが好ましい。具体的には、安定して、液溜まりを除去するためには、押し当て荷重(当接力)が5~200gであることが好ましく、さらには、30~150gとすることが好ましい。この範囲の当接力とすることにより、ヘラにより液溜まりを効率よく除去できる。ヘラを当接する場合には、(吸着部材の好適な当接条件;プライマー組成物を使用した場合)で説明したのと同じく、ばねの力を利用してやればよい。
【0114】
また、ヘラを当接した際のレンズ基材の回転速度は、5rpm~500rpmであることが好ましい。5rpm以上とすることにより、製造効率が低下しない。また、500rpm以下とすることにより、レンズ基材周縁部からのコーティング剤の除去効率が安定し、均一なコーティング膜が得られる。このような効果をより一層高めるためには、該回転速度は、10~100rpmであることが好ましく、より安定して液溜まりを除去するためには、20~70rpmとすることが好ましい。ヘラを当接する時間は、0.5~30secであることが好ましく、1~10secであることがさらに好ましい。ヘラの当接時間が短すぎる場合、液溜まりを十分に取り除くことができないおそれがあり、また、ヘラの当接時間が長すぎる場合、吸着中に新たな液溜まりが形成されるおそれがあり、製造効率も低下する。
次いで、第二除去工程を実施する。
【0115】
(第二除去工程;機能層を形成するためのコーティング剤を使用した場合)
本発明においては、機能層を形成する場合においても、前記第一除去工程に続いて、第二除去工程を実施する。基本的には、前記の(第二除去工程;プライマー組成物を使用した場合)で説明した内容と同等の操作を行えばよい。ただし、好適な条件が異なる場合があり、そのことを中心に説明する。
【0116】
(第二除去工程;吸着部材/機能層を形成するためのコーティング剤を使用した場合) 本発明において、機能層を形成する場合であっても、前記(第二除去工程;吸着部材/プライマー組成物を使用した場合)で説明した吸着部材が何ら制限なく使用できる。すなわち、前記で説明したものと同じ、材質、特性(硬度)を有するものを使用することができる。中でも、プライマーコート層を形成する場合と同じく、スポンジを使用することが好ましい。そのスポンジの特性も、前記と同じ範囲の密度、孔径であるものを使用することが好ましい。そのため、このようなスポンジは、例えば、(株)イノアックコーポレーションが販売している「バソテクト」(登録商標)シリーズが挙げられる。
【0117】
そして、機能層を形成する場合、特に、フォトクロミック硬化性組成物からなるコーティング剤を使用する場合、有機溶媒を含むスポンジを使用することが好ましい。次に、この有機溶媒をすくむ吸着部材(スポンジ)について説明する。
【0118】
(第二除去工程;有機溶媒を含む吸着部材/機能層を形成するためのコーティング剤を使用した場合)
本発明においては、機能層を形成する場合、特に、フォトクロミック硬化性組成物からなるコーティング剤を使用する場合において、前記吸着部材、特に、スポンジに有機溶媒を含有させたものを使用することが好ましい。
【0119】
使用する有機溶媒の種類は、コーティング剤と混合できるものであることが好ましい。具体的には、前記と同じものを使用することが好ましく、アルコール溶媒、ケトン系溶媒、芳香族系溶媒、ハロゲン系溶媒、エステル系溶媒等が挙げられる。中でも、取り扱い易さ、人体への影響、液溜まりの除去効果等を考慮すると、ケトン系溶媒を使用することが好ましく、アセトン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトンを使用することが最も好ましい。
【0120】
機能層を形成する場合、プライマー組成物とは硬化方法が異なる場合が多く、また粘度が異なるため、有機溶媒を使用する場合には、その量を以下の範囲とすることが好ましい。具体的には、スポンジに含有させる有機溶媒の量は、スポンジ1cm体積当たり、0.1~2gの有機溶媒が含まれるように調整することが好ましい。この範囲の有機溶媒を含むことにより、効率よく、安定して液溜まりを除去することができる。
【0121】
機能層を形成する場合であっても、吸着部材の形状は、特に制限されるものではなく、吸着部材による液溜まりの除去は、レンズ基材を回転させながら、該吸着部材を少なくともレンズ基材の側面(コバ面)に、吸着部材を接触させることが好ましい。該側面に接触させることにより、レンズ基材周縁部の液溜まりを容易に除去できる。
【0122】
(吸着部材の好適な配置;機能層を形成するためのコーティング剤を使用した場合)
機能層を形成する場合には、前記プライマーコート層よりも厚みが厚くなる場合が多い。そのため、以下の位置に吸着部材を配置して、液溜まりを除去することが好ましい。特に、コーティング剤として、フォトクロミック硬化性組成物を使用した場合には、以下の位置に吸着部材を配置することが好ましい。
【0123】
具体的には、レンズ基材側面の全面に吸着部材(スポンジ)が接触するように、吸着部材を配置することが好ましい。そして、レンズ基材側面の長さよりも、吸着部材(スポンジ)の接する面の長さが上下に長い方が好ましい。機能層、特に、フォトクロミックコート層を形成する場合においては、液溜まりを効率よく除去するため、レンズ基材側面よりも上下に大きいスポンジを当接することにより、効率よく、液溜まりを除去することができる。
【0124】
(吸着部材の好適な形状・当接条件;機能層を形成するためのコーティング剤を使用した場合)
機能層を形成する場合であっても、吸着部材は、レンズ基材を回転させながら該吸着部材を側面に当接させることが好ましく、すなわち、円柱状であることが好ましく、該円柱状の側壁面が当接部となることが好ましい。この好適な吸着部材の形状は、レンズ基材の大きさがプライマーコート層を形成する場合と変わらないため、同じ形状等であることが好ましい。具体的には、円柱状の心軸(円柱の中心軸)で回転自在となるような構造とすること、回転する回転軸の周囲に吸着部材が被覆されたローラー(中空状となった吸着部材の該中空部に回転軸が設置されたローラー)とすることが好ましい。さらには、この場合、回転軸は、直径10~50mmであることが好ましく、吸着部材は、厚みが2~50mm(回転軸を被覆している部分の吸着部材の厚み)であることが好ましく、2~45mmであることがより好ましく、5~30mmであることが特に好ましい。また、この場合、吸着部材の高さは、具体的には、5~50mmであることが好ましく、10~40mmであることがより好ましく、レンズ基材の側面の上下に吸着部材が存在することが好ましい。
【0125】
なお、この形状の吸着部材であれば、複数枚のレンズ基材の液溜まり除去に使用できる。得られるコートレンズの品質を維持できる範囲で、複数回、繰り返し使用することができる。ただし、安定して高品質なコートレンズを得るためには、毎回、同じ状態の吸着部材となるように調整することが好ましい。調整方法としては、(吸着部材の好適な態様;プライマー組成物を使用した場合)で説明した前述と同じ方法を採用できる。
【0126】
(吸着部材の好適な態様;機能層を形成するためのコーティング剤を使用した場合)
機能層を形成する場合であっても、中でも、前記のスポンジを使用することが好ましく、さらには、該スポンジが有機溶媒を含むことが好ましい。特に、フォトクロミック硬化性組成物からなるコーティング剤を使用した場合には、有機溶媒を含むスポンジを使用することが好ましい。中でも、有機溶媒を使用する場合には、ケトン系溶媒を使用することが好ましく、その量は、前記の通り、スポンジ1cm当たり、0.1~2gであることが好ましく、0.1~1gとすることが好ましく、0.2~0.7gとすることがより好ましい。
【0127】
なお、機能層を形成する場合であっても、前記範囲の有機溶媒量であれば、複数枚のレンズ基材を処理することもできるが、より高品質なコートレンズを得るためには、毎回、上記範囲の有機溶媒量を含むように調整することが好ましい。
【0128】
(吸着部材の好適な当接条件;機能層を形成するためのコーティング剤を使用した場合)
前記の通り、吸着部材は、回転した状態でレンズ基材の側面に接することが好ましい。中でも、機能層を形成する場合、特に、フォトクロミック硬化性組成物を使用した場合には、以下の条件で該側面に吸着部材を当接させることが好ましい。具体的には、安定して、液溜まりを除去するためには、押し当て荷重(当接力)が5~200gであることが好ましく、さらには、5~100gとすることが好ましい。この範囲の当接力とすることにより、スポンジが該側面に密接し、かつ側面の上下にスポンジが存在することにより、レンズ基材周縁部の液溜まりを効率よく除去できるものと推定できる。
【0129】
また、当接した際のレンズ基材の回転速度は、5rpm~500rpmであることが好ましい。5rpm以上とすることにより、吸着除去に時間を有することなく、製造効率も低下しない。また、500rpm以下とすることにより、レンズ基材周縁部からのコーティング剤の除去効率が安定し、均一なコーティング膜が得られる。このような効果をより一層高めるためには、該回転速度は、10~100rpmであることが好ましく、より安定して液溜まりを除去するためには、20~70rpmとすることが好ましい。当接する時間は、0.5~30secであることが好ましく、1~10secであることがさらに好ましい。吸着時間が短すぎる場合、液溜まりを十分に取り除くことができないおそれがあり、また、吸着時間が長すぎる場合、吸着中に新たな液溜まりが形成されるおそれがあり、製造効率も低下する。
【0130】
なお、吸着部材をレンズ基材の側面に当接する際に、前記ヘラを同時に当接することもできる。ただし、より安定して高品質なコート層を形成するためには、吸着部材のみを当接することが好ましい。そのため、第一除去工程、およびヘラを当接しない第二除去工程を実施することが好ましい。さらには、高品質なコート層の形成が難しい、レンズ基材のベースカーブが大きいもの、例えば、ベースカーブが4以上となるレンズ基材上にコート層を形成する場合には、第一除去工程、前記条件でのヘラの当接、および第二除去工程(ヘラの当接なし)の順で、液溜まりの除去を行うことが好ましい。
【0131】
(コート層、コート層の形成方法:機能層を形成するコーティング剤を使用した場合)
本発明において、機能層を形成する場合、特に、フォトクロミック硬化性組成物を使用した場合には、以下の方法でフォトクロミックコート層を形成することが好ましい。つまり、上記工程を経た後に、レンズ基材周縁部の液溜まりが除去されたレンズ基材は、通常、窒素雰囲気下で所定時間、紫外線のような光等を照射及び/または加熱し、延展されたコーティング剤を硬化させることにより、コーティング層が形成される。
【0132】
コーティング剤、例えば、フォトクロミック硬化性組成物にラジカル重合開始剤として光重合開始剤が配合されている場合には、紫外線、α線、β線、γ線等の照射あるいは前記照射と加熱の併用等により硬化を行うことができる。紫外線照射により硬化を行う場合、光源としては、超高圧水銀灯、高圧水銀灯、低圧水銀灯、キセノンランプ、カーボンアーク、殺菌灯、メタルハライドランプ、無電極ランプ、LEDランプ等を用いることが出来る。中でも、LEDランプを使用した場合には、重合性単量体を含む場合には、余分な発熱が乗じることが少ないため、硬化中の粘度があまり高くなり過ぎず、余計に液溜まりの生成が顕著となる場合がある。本発明は、このようなLEDランプを使用した場合にも、好適に適用できる。
【0133】
このように、本発明のコーティング方法によれば、上記したコーティング剤を供給する工程、延展工程、第一除去工程、第二除去工程を有することにより、延展の際にレンズ基材周縁部および/または側面部に形成される液溜まりを好適に除去できる。
【実施例
【0134】
以下、実施例を挙げて本発明をさらに詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。なお、図1図2、および図3には、本発明の方法に使用できる装置の概略図を示しているが、これらのスケール(縮尺)は、必ずしも実物と一致していない。あくまでも、図1図2、および図3は、本発明を説明するための概略図であり、大きさまでを忠実に再現しているものではない。
【0135】
(液溜まりの幅の評価)
プライマー組成物、およびフォトクロミック硬化性組成物からなるコーティング剤を使用した何れの場合においても、以下の評価を行った。得られたレンズを、ダイヤモンドカッターを用いてレンズ表面の中心を通り、且つレンズ表面と直交する平面で切断し、プライマーコート層またはフォトクロミックコート層の断面をビデオマイクロスコープで観察した。観察像よりレンズの中央付近におけるプライマーコート層またはフォトクロミックコート層の厚みを計測し、一方、レンズ周縁部のプライマーコート層またはフォトクロミックコート層の厚みも同様にして計測して、レンズ中央部の厚みに対するレンズ周縁部の厚みの差が10%以上となる境界部からレンズ端部までの距離を、厚みが不均一である液溜まり残留部の幅とした。残留部の幅が2mm以下であれば良好であり、3mm以上のものが不良とした。
【0136】
(液溜まりの皺の評価)
プライマー組成物、およびフォトクロミック硬化性組成物からなるコーティング剤を使用した何れの場合においても、以下の評価を行った。得られたレンズ(コーティング層を有するレンズ)を、ブラックボックス内で蛍光灯の光を透過し、レンズ周縁部の収縮ムラによる皺の発生を目視確認した。収縮ムラが発生した場合は、周縁部に皺状の不良が発生する。皺が発生しないものが良好であり、皺が発生したものを不良とした。
【0137】
(歩留りの確認)
プライマー組成物、およびフォトクロミック硬化性組成物からなるコーティング剤を使用した何れの場合においても、以下の評価も行った。20枚のレンズをコーティングした。得られたレンズの側面を確認し、側面付近に硬化物が存在するかどうか確認し、硬化物が存在しないものの歩留りを求めた。
【0138】
(機能層を形成するコーティング剤(以下、フォトクロミック液ともいう)各成分)
(a)フォトクロミック化合物
・フォトクロミック化合物PC1:2質量部
【0139】
【化4】
【0140】
(b)重合性単量体(ラジカル重合性単量体)
・トリメチロールプロパントリメタクリレート:30質量部
・2,2-ビス[4-(メタクリロキシ・ポリエトキシ)フェニル]プロパン(エチレグリコール鎖の平均鎖長が10であり、平均分子量が804):45質量部
・ポリエチレングリコールジアクリレート(エチレングリコール鎖の平均鎖長が9であり、平均分子量が508、(メタ)アクリル当量 254):18質量部
・ポリエチレングリコールジメタクリレート(エチレングリコール鎖の平均鎖長が14であり、平均分子量が736):5質量部
・グリシジルメタアクリレート:1質量部
(c)光重合開始剤
・フェニルビス(2,4,6-トリメチルベンゾイル)-ホスフィンオキシド(商品名:Irgacure819、BASF社製):0.3質量部、
(d)その他成分
安定剤
・ビス(1,2,2,6,6-ペンタメチル-4-ピペリジル)セバケート(分子量508):5質量部
・エチレンビス(オキシエチレン)ビス[3-(5-tert-ブチル-4-ヒドロキシ-m-トリル)プロピオネート](チバ・スペシャルティ・ケミカルズ社製、Irganox245):3質量部
シランカップリング剤
・3-トリメトキシシリルプロピルメタクリレート:6質量部
レベリング剤
・東レ・ダウコーニング株式会社製L7001:0.1質量部
(フォトクロミック液の調整)
上記各成分を70℃で30分間撹拌混合し、フォトクロミック液を得た。なお、このフォトクロミック液の動粘度を、キャノン-フェンスケ粘度計を用いて測定した。なお、動粘度の測定はJISK2283に準拠し、25℃で行った。得られた動粘度とあらかじめ測定した試料の比重より、式〔粘度(mPa・s)=動粘度(cSt)×比重(g/cm3)〕を用いて試料の粘度を算出したところ110mPa・sであった。
【0141】
プライマー組成物からなるコーティング剤
・湿気硬化型プライマー組成物1(製品名:TR-SC-P、(株)トクヤマ製);湿気硬化型ウレタンを含むプライマー組成物。
・湿気硬化型プライマー組成物2;湿気硬化型ウレタンを25質量%(固形分)、酢酸エチルを75質量%含むプライマー組成物。
【0142】
(実施例1)
屈折率が1.60のチオウレタン系プラスチックレンズ(直径70mm、表面のベースカーブ:5.00)の表面に、湿気硬化型プライマー組成物1をスピンコートにより、回転数250rpmで6sec、続いて1500rpmで5secコートし、室温で10分間乾燥させプライマーコート層を有するレンズ基材を得た。得られるプライマーコート層の厚みは、6.5~7.5μmとなるように調整した。なお、次の工程に使用したものは、レンズ基材の側面に硬化物が付着していないものを選んだ。
【0143】
次に、プライマーコート層が形成されたレンズ基材上に前記で得られたフォトクロミック液2gを供給し、回転数100rpmで30sec回転保持してフォトクロミック液を延展した。続いて、レンズ基材の回転数を900rpmとして6sec回転・保持し、余分なフォトクロミック液を振り落とした。
【0144】
次いで、回転数を50rpmへ落とし、回転を保持しながら、直径3cm、長さ7cmの円柱状の吸着部材をレンズ基材の周縁部に密接させ、5secの間、フォトクロミック液の吸着除去を行った。この際、使用した吸着部材の材質は、連続気泡型の発泡ポリウレタンで、硬度は320Nであった。なお、フォトクロミック液のスピンコート時及び吸着除去時の雰囲気温度は約22℃であった。
【0145】
このようにしてフォトクロミック液を表面に延展したレンズ基材を、窒素雰囲気下、出力200mW/cmのメタルハライドランプを用いて90sec光を照射し、フォトクロミック液を硬化させた。その後さらに90℃で1時間加熱して、コーティング層を有するレンズを得た。得られたレンズの液溜まり残留部の幅は、1.5mmであって良好で、硬化による収縮ムラによる皺の発生も無かった。
【0146】
(実施例2)
光硬化の光源として出力400mW/cmのLEDランプ(ピーク波長385nm、発光ピーク半値幅10nm)を用い、40sec光を照射した以外は、実施例1と同様に処理をおこない、コーティング層を有するレンズを作成した。得られたレンズの液溜まり残留部の幅は、1.5mmであって良好で、硬化による収縮ムラによるシワの発生は無かった。
【0147】
(比較例1)
フォトクロミック液をスピンコートした後に吸着部材よる吸着除去を実施しなかった以外は、実施例1と同様に処理をおこない、コーティング層を有するレンズを作製した。得られたレンズの液溜まり残留部の幅は、3.5mmであって不良であったが、硬化による収縮ムラによるシワの発生は無かった。
【0148】
(比較例2)
フォトクロミック液をスピンコートした後に吸着部材よる吸着除去を実施しなかった以外は、実施例2と同様に処理をおこない、コーティング層を有するレンズを作製した。得られたレンズの液溜まり残留部の幅は、3.5mmであって不良であり、周縁部にシワの不良が発生した。
【0149】
このように、実施例では、レンズ周縁部に形成される厚みが不均一な領域が狭くなっており、吸着部材による吸着除去を実施するコーティング方法によって、より均一なコーティング層を有するレンズの形成が可能であることが確認された。
【0150】
実施例3
屈折率が1.60のチオウレタン系プラスチックレンズ基材(直径70mm、表面のベースカーブ:1.0、側面の幅(側面の厚み)8.9mm、であるフィニッシュレンズ)の表面に、湿気硬化型プライマー組成物2を塗布した後、スピンコートにより、回転数250rpmで6sec、該湿気硬化型プライマー組成物2を延展させた。
【0151】
(第一除去工程)
続いて1500rpmで5secコートし、少なくとも1部の液溜まりを除去した。
【0152】
(第二除去工程)
メラミン樹脂からなる、密度9.2kg/m、孔径50~400μmであるスポンジ(吸着部材)を準備した。具体的には、回転自在な回転軸の周りに、厚さ20mm、高さ30mmを被覆したローラーを準備した(円柱状の中心部が回転軸となる中空形状のスポンジを準備した。中空状のスポンジの体積は38cmであった。このスポンジの硬度は320Nであった。)。このスポンジに、スポンジ1cm当たり、0.7gとなるようにアセトンを含侵させた。
【0153】
第一除去工程を経て得られたレンズ基材の側面の最上位から1.5mm下の位置に、該スポンジの最上位が接触するように、スポンジを配置した(スポンジの最上位が当接している位置から下の側面の全面に、スポンジが当接している状態とした。図3参照。)。なお、図2に、プライマーコート層を形成する際の第二除去工程における概略図を示した。
【0154】
アセトンを含むスポンジを前記状態で該側面に、当接力60gで当接させながら、プライマー組成物が塗布されたレンズ基材を80rpmで5sec.回転させることにより、液溜まり、硬化物の除去を行った。
【0155】
なお、湿気硬化型プライマー組成物2の延展、第一除去工程、および第二除去工程は、湿度60%RH、温度23℃の状態でその操作を行った。
【0156】
(プライマーコート層の形成・硬化)
第二除去工程を経て得られたレンズ基材を、室温で10分間乾燥させプライマーコート層を有するレンズ基材を得た。得られるプライマーコート層の厚みは、6.5~7.5μmとなるように調整した。
【0157】
以上のような工程を同じ条件となるように実施して、20枚のプライマーコート層を有するレンズ基材を準備し、歩留りの確認を行った。また、レンズ基材周縁部の状態も(液溜まりの幅の評価)、(液溜まり皺の評価)に従い実施した。条件を表1にまとめ、評価結果を表2にまとめた。
【0158】
実施例4~21
表1に示すレンズ基材の種類、第二除去工程の条件を採用した以外は、実施例3と同様の方法を用いて、プライマーコート層を有するレンズ基材を作製し、条件を表1にまとめ、評価結果を表2にまとめた。
【0159】
比較例3
第二除去工程を実施しなかったこと以外は、実施例3と同様の方法で、プライマーコート層を有するレンズ基材を作製した。条件を表1にまとめ、評価結果を表2にまとめた。
【0160】
【表1】
【0161】
【表2】
【0162】
実施例22(フォトクロミックコート層の形成)
実施例3で得られた、プライマーコート層をその表面に有するレンズ基材を使用した。前記で得られたフォトクロミック液2gを、該レンズ基材のプライマーコート層上に供給し、回転数100rpmで30sec回転保持してフォトクロミック液を延展した。
【0163】
(第一除去工程)
続いて、該レンズ基材の回転数を900rpmとして6sec回転・保持し、余分なフォトクロミック液の少なくとも1部を振り落とした。
【0164】
(第二除去工程)
メラミン樹脂からなる、密度9.2kg/m、孔径50~400μmであるスポンジ(吸着部材)を準備した。具体的には、回転自在な回転軸の周りに、厚さ20mm、高さ30mmを被覆したローラーを準備した(円柱状の中心部が回転軸となる中空形状のスポンジを準備した。中空状のスポンジの体積は38cmであった。このスポンジの硬度は320Nであった。)。このスポンジに、スポンジ1cm当たり、0.4gとなるようにアセトンを含侵させた。
【0165】
第一除去工程を経て得られたレンズ基材の側面の全面に該スポンジが接触するように、スポンジを配置した(スポンジの最上位がレンズ基材側面の最上位から0.5mm上に存在し、スポンジの最下位が該側面の最下位から1.6mm下に存在する状態とした。)。
【0166】
アセトンを含むスポンジを前記状態で該側面に、当接力25gで当接させながら、フォトクロミック液が塗布されたレンズ基材を30rpmで2sec.回転させることにより、液溜まりの除去を行った。
【0167】
なお、フォトクロミック液の延展、第一除去工程、および第二除去工程は、湿度60%RHの雰囲気下、23℃の温度雰囲気下で操作を実施した。
【0168】
(フォトクロミックコート層の形成・硬化)
光硬化の光源として出力400mW/cmのLEDランプ(ピーク波長385nm、発光ピーク半値幅10nm)を用い、40sec光を照射した以外は、実施例1と同様に処理をおこない、コーティング層を有するレンズを作製した。フォトクロミックコート層の厚みは40μmであった。
【0169】
得られたレンズの液溜まり残留部の幅は、1mm未満であって良好で、硬化による収縮ムラによるシワの発生は無かった。また、側面に硬化物の付着もなかった。
【0170】
以上のような工程を同じ条件となるように実施して、20枚のフォトクロミックコート層を有するレンズを作製した。液溜まり残留部の幅については、20枚の平均値を表4に示した。シワの発生枚数を表4に示した。側面の付着の硬化物は、20枚とも存在しなかった。
【0171】
以上の条件を表3にまとめ、結果を表4にまとめた。
【0172】
実施例23~36
表3に示すプライマーコート層を表面に有するレンズ基材の種類、第二除去工程の条件を採用した以外は、実施例22と同様の方法を用いて、フォトクロミックコート層を有するレンズ基材を作製し、結果を表4にまとめた。
なお、実施例36の液溜まりシワ(皺)の評価にて、一部不良とあるが、9割(18枚)のレンズが良品であり、1割(2枚)に若干の不良が確認された。なお、液溜まり幅は、良品の18枚の平均値である。
【0173】
比較例4、5
表3に示すプライマーコート層を表面に有するレンズ基材を用いた(比較例5においては、側面が良品であるレンズ基材のみを用いた。)。そして、実施例22において、第二除去工程を実施しなかったこと以外は、実施例22と同様の方法を用いて、フォトクロミックコート層を有するレンズ基材を作製し、結果を表4にまとめた。
【0174】
【表3】
【0175】
【表4】
【0176】
実施例37(ヘラ当接工程を含む場合)
実施例3で得られた、プライマーコート層をその表面に有するレンズ基材を使用した。前記で得られたフォトクロミック液2gを、該レンズ基材のプライマーコート層上に供給し、回転数100rpmで30sec回転保持してフォトクロミック液を延展した。
【0177】
(第一除去工程)
続いて、該レンズ基材の回転数を900rpmとして6sec回転・保持し、余分なフォトクロミック液の少なくとも1部を振り落とした。
【0178】
<ヘラ当接工程>
次いで、刃先角度15°、刃先厚み(レンズ基材の側面に接触するヘラの先端の厚み)0.2mmのステンレス製金属ヘラを準備し、得られたレンズ基材の側面の全面に該金属ヘラの先端が接触するように、金属ヘラを配置した。金属ヘラを該側面に、当接力70gで当接させながら、フォトクロミック液が塗布されたレンズ基材を30rpmで2sec.回転させ、レンズ側面の余剰なフォトクロミック液を除去した。
【0179】
(第二除去工程)
次いで、メラミン樹脂からなる、密度9.2kg/m、孔径50~400μmであるスポンジ(吸着部材)を準備した。具体的には、回転自在な回転軸の周りに、厚さ20mm、高さ30mmを被覆したローラーを準備した(円柱状の中心部が回転軸となる中空形状のスポンジを準備した。中空状のスポンジの体積は38cmであった。このスポンジの硬度は320Nであった。)。このスポンジに、スポンジ1cm当たり、0.4gとなるようにアセトンを含侵させた。
【0180】
第一除去工程を経て得られたレンズ基材の側面の全面に該スポンジが接触するように、スポンジを配置した(スポンジの最上位が該側面の最上位から0.5mm上に存在し、スポンジの最下位が該側面の最下位から1.6mm下に存在する状態とした。)。
【0181】
アセトンを含むスポンジを前記状態で該側面に、当接力25gで当接させながら、フォトクロミック液が塗布されたレンズ基材を30rpmで2sec.回転させることにより、液溜まりの除去を行った。 なお、フォトクロミック液の延展、第一除去工程、および第二除去工程は、湿度60%RHの雰囲気下、23℃の温度雰囲気下で操作を実施した。
【0182】
(フォトクロミックコート層の形成・硬化)
光硬化の光源として出力400mW/cmのLEDランプ(ピーク波長385nm、発光ピーク半値幅10nm)を用い、40sec光を照射した以外は、実施例1と同様に処理をおこない、コーティング層を有するレンズを作製した。フォトクロミックコート層の厚みは40μmであった。
【0183】
得られたレンズの液溜まり残留部の幅は、1mm未満であって良好で、硬化による収縮ムラによるシワの発生は無かった。また、側面に硬化物の付着もなかった。
【0184】
以上のような工程を同じ条件となるように実施して、20枚のフォトクロミックコート層を有するレンズを作製した。液溜まり残留部の幅については、20枚の平均値を表7に示した。シワの発生枚数を表7に示した。側面付着の硬化物は、20枚とも存在しなかった。
【0185】
使用したレンズ基材を表5にまとめ、以上の条件を表6にまとめ、結果を表7にまとめた。
実施例38~44
表5に示すプライマーコート層を表面に有するレンズ基材の種類、表6に示すヘラ当接工程、および第二除去工程の条件を採用した以外は、実施例37と同様の方法を用いて、フォトクロミックコート層を有するレンズ基材を作製し、結果を表7にまとめた。
【0186】
【表5】
【0187】
【表6】
【0188】
【表7】



図1
図2
図3