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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2025-03-31
(45)【発行日】2025-04-08
(54)【発明の名称】酸素発生電極触媒を含む電極
(51)【国際特許分類】
   C25B 11/093 20210101AFI20250401BHJP
   B01J 23/34 20060101ALI20250401BHJP
   B01J 23/656 20060101ALI20250401BHJP
   C25B 1/04 20210101ALI20250401BHJP
   C25B 9/00 20210101ALI20250401BHJP
   C25B 11/052 20210101ALI20250401BHJP
   C25B 11/063 20210101ALI20250401BHJP
   C25B 11/079 20210101ALI20250401BHJP
   C25B 11/081 20210101ALI20250401BHJP
【FI】
C25B11/093
B01J23/34 M
B01J23/656 M
C25B1/04
C25B9/00 A
C25B11/052
C25B11/063
C25B11/079
C25B11/081
【請求項の数】 7
(21)【出願番号】P 2024563542
(86)(22)【出願日】2024-08-21
(86)【国際出願番号】 JP2024029715
【審査請求日】2024-11-06
(31)【優先権主張番号】P 2023135670
(32)【優先日】2023-08-23
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(31)【優先権主張番号】P 2024100953
(32)【優先日】2024-06-24
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)令和5年度、国立研究開発法人新エネルギー・産業技術総合開発機構「燃料電池等利用の飛躍的拡大に向けた共通課題解決型産学官連携研究開発事業/水素利用等高度化先端技術開発/水電解用酸化マンガン系酸素生成(OER)触媒の運転方法・製造方法の確立と大型化へ向けた研究開発」に係る委託業務、産業技術強化法第17条の適用を受ける特許出願
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000003300
【氏名又は名称】東ソー株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】503359821
【氏名又は名称】国立研究開発法人理化学研究所
(74)【代理人】
【識別番号】110000095
【氏名又は名称】弁理士法人T.S.パートナーズ
(74)【代理人】
【識別番号】100082887
【弁理士】
【氏名又は名称】小川 利春
(74)【代理人】
【識別番号】100181331
【弁理士】
【氏名又は名称】金 鎭文
(74)【代理人】
【識別番号】100183597
【弁理士】
【氏名又は名称】比企野 健
(72)【発明者】
【氏名】岡田 拓弥
(72)【発明者】
【氏名】中村 龍平
(72)【発明者】
【氏名】リ アイロン
(72)【発明者】
【氏名】伏見 和奈
【審査官】黒木 花菜子
(56)【参考文献】
【文献】特開昭46-003411(JP,A)
【文献】特開昭57-073192(JP,A)
【文献】国際公開第2022/264960(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C25B 11/093
C25B 11/052
C25B 1/04
C25B 9/00
C25B 11/079
C25B 11/081
B01J 23/34
B01J 23/656
C25B 11/063
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
Scopus
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
マンガン酸化物及びイリジウム-マンガン酸化物の少なくともいずれかを含む酸素発生電極触媒と、厚みが50μm以上500μm未満である導電性基材と、を含む電極であって、前記酸素発生電極触媒の含有量が、前記電極の幾何面積あたり、0.1mg/cm以上12.0mg/cm以下である電極。


【請求項2】
前記酸素発生電極触媒がイリジウム-マンガン酸化物である、請求項1に記載の電極。
【請求項3】
イリジウム含有量が、前記電極の幾何面積あたり、0.01mg/cm以上1.0mg/cm以下である、請求項2に記載の電極。
【請求項4】
マンガンに対するイリジウムのモル比が、0.001以上0.100以下である請求項2又は3に記載の電極。
【請求項5】
前記導電性基材が、チタンを含む、請求項1又は2に記載の電極。
【請求項6】
請求項1又は2に記載の電極を有する水電解装置。
【請求項7】
請求項1又は2に記載の電極を使用して水電解する水素の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、マンガン酸化物及びイリジウム-マンガン酸化物の少なくともいずれかを含む酸素発生電極触媒を含む電極に関する。
【背景技術】
【0002】
化石燃料の枯渇問題や環境汚染問題から、クリーンなエネルギーとしての水素の利用とその製造手法に注目が集まっている。高純度の水素ガスを製造する有効な手段のひとつとして、水電解法がある。
水電解法において、イリジウム系触媒は非常に高活性な酸素発生電極触媒として広く知られている(例えば、非特許文献1)。しかしながら、イリジウムは他の貴金属と比べても埋蔵量が極めて少なく、将来的に水電解技術が普及しても十分な触媒量を賄いきれない。
【0003】
そのような背景のもと、本発明者らは、従来のイリジウムの使用量が低減された酸素発生電極触媒として、マンガン酸化物(特許文献1)、及びマンガン酸化物に少量のイリジウムを導入したイリジウム-マンガン酸化物(特許文献2)を報告している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】国際公開2019/117199
【文献】国際公開2022/264960
【非特許文献】
【0005】
【文献】F.Birol,World Energy Outlook 2016,International Energy Agency (IEA),Paris,2016.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
特許文献1のマンガン酸化物、及び特許文献2のイリジウム-マンガン酸化物は高い酸素発生電極触媒活性を有するものの、近年の水電解のより高効率化の旺盛な需要に対応するため、更なる性能改善が求められている。
本開示は、マンガン酸化物及びイリジウム-マンガン酸化物(以下、「マンガン系酸化物」ともいう。)を酸素発生電極触媒とする従来の電極と比べ、高い酸素発生電極触媒活性を示す電極、これを用いた水電解法、及び当該電極を用いた水素の製造方法の少なくともいずれかを提供すること目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
特許文献1及び2のような、従来のマンガン系酸化物を酸素発生電極触媒とする電極の検討は、それらの電極を構成する導電性基材の構造については、注目されていなかった。本開示では、酸素発生電極を構成する導電性基材の構造と、触媒との関係について着目した。その結果、マンガン系酸化物を酸素発生電極触媒とする電極においては、導電性基材の厚みを制御することで、酸素発生を伴う電解反応の陽極として、マンガン系酸化物を酸素発生電極触媒とする従来の電極と比べ著しく高い酸素発生電極触媒活性を示すことを見出した。
【0008】
すなわち、本発明は特許請求の範囲のとおりであり、また、その要旨は以下のとおりである。
[1] マンガン酸化物及びイリジウム-マンガン酸化物の少なくともいずれかを含む酸素発生電極触媒と、厚みが50μm以上500μm未満である導電性基材と、を含む電極。
[2] 前記酸素発生電極触媒の含有量が、前記電極の幾何面積あたり、0.1mg/cm以上12.0mg/cm以下である、前記[1]に記載の電極。
[3] 前記酸素発生電極触媒がイリジウム-マンガン酸化物である、前記[1]又は[2]に記載の電極。
[4] イリジウム含有量が、前記電極の幾何面積あたり、0.01mg/cm以上1.0mg/cm以下である、前記[3]に記載の電極。
[5] マンガンに対するイリジウムのモル比が、0.001以上0.100以下である、前記[3]又は[4]に記載の電極。
[6] 前記導電性基材が、チタンを含む、前記[1]乃至[5]のいずれかひとつに記載の電極。
[7] 前記[1]乃至[6]のいずれかひとつに記載の電極を備える水電解装置。
[8] 前記[1]乃至[6]のいずれかひとつに記載の電極を使用して水電解する水素の製造方法。
【発明の効果】
【0009】
本開示により、マンガン系酸化物を酸素発生電極触媒とする従来の電極と比べ、高い酸素発生電極触媒活性を示す電極、これを用いた水電解法、及び当該電極を用いた水素の製造方法の少なくともいずれかを提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本開示の一実施形態について説明する。
本実施形態の電極は、マンガン酸化物及びイリジウム-マンガン酸化物の少なくともいずれかを含む酸素発生電極触媒と、厚みが50μm以上500μm未満である導電性基材と、を含む電極である。
本実施形態の電極に含まれる酸素発生電極触媒は、マンガン酸化物及びイリジウム-マンガン酸化物の少なくともいずれかを含む酸素発生電極触媒(以下、「マンガン系電極触媒」ともいう。)である。これにより本実施形態の電極が、酸素発生電極として機能する。
【0011】
マンガン系電極触媒は、マンガン酸化物を含有することが好ましく、二酸化マンガンを含有することがより好ましく、γ型、β型、ε型又はα型の結晶構造を有する二酸化マンガンを含有することが更に好ましく、β型の結晶構造を有する二酸化マンガンを含有することがより更に好ましい。マンガン系電極触媒の結晶構造は、単相であることが好ましいが、単相の結晶構造を有するマンガン系電極触媒を2種以上、または複数の結晶構造を有する混合相であってもよい。
【0012】
本実施形態において、マンガン系電極触媒の結晶構造は、その粉末X線回折(以下、「XRD」ともいう。)パターンと、ICDD(国際回折データセンター)のPDF(Powder Diffraction File)に登録されているXRDパターン(以下、「参照パターン」ともいう。)との対比によって同定することができる。γ型、β型、ε型又はα型の結晶構造を有する二酸化マンガンの参照パターンは、それぞれPDF No.14-0644(γ型)、24-0735(β型)、30-0820(ε型)又は44-0141(α型)を用いればよい。
【0013】
本実施形態において、XRDパターンは、一般的な粉末X線回折装置(例えば、装置名:Ultima IV Protectus、リガク社製)を使用し、以下の条件のXRD測定より得られるものであればよい。
加速電流・電圧 : 40mA・40kV
線源 : CuKα線(λ=1.5405Å)
測定モード : 連続スキャン
スキャン条件 : 4°/分
測定範囲 : 2θ=10°から80°
発散縦制限スリット: 10mm
発散/入射スリット: 1°
受光スリット : open
検出器 : D/teX Ultra
Niフィルター使用
【0014】
XRDピークは、一般的な解析ソフト(例えば、IGOR Pro 8、WaveMetrics社製や、SmartLab StudioII、リガク社製)を使用したXRDパターンの解析において、ピークトップの2θが検出されるピークである。
本実施形態の電極の幾何面積あたりの酸素発生電極触媒の含有量(以下、「触媒含有量」ともいう。)は、0.1mg/cm以上12.0mg/cm以下であることが好ましく、0.5mg/cm以上11.0mg/cm以下がより好ましく、0.8mg/cm以上10.0mg/cm以下が更に好ましい。
【0015】
「幾何面積」とは、表面上の凹凸や空隙は考慮せず、投影面積に相当する面積であり、膜-電極接合体(以下、「MEA」ともいう。)を構成するときに電解質膜と対向する面(幾何面)の投影面積である。「電極の幾何面積」とは、電極の投影面積であり、電極の形状を縦×横×幅で規定した場合の縦×横から求まる平面の面積である。
【0016】
酸素発生電極触媒としての活性が高くなりやすいことから、マンガン系電極触媒は、マンガン酸化物とイリジウムとを含有する触媒(イリジウム-マンガン酸化物)であることが好ましい。イリジウム-マンガン酸化物は、例えば、マンガン酸化物上にイリジウムが担持されたものや、マンガン酸化物表面にイリジウムが分散配置されたものが挙げられる。イリジウムの平均金属原子価は、3.1以上3.8以下であることが好ましい。
【0017】
イリジウム-マンガン酸化物を酸素発生電極とする電極において、電極の幾何面積あたりのイリジウムの含有量(以下、「イリジウム含有量」ともいう。)が、0.001mg/cm以上であることが好ましく、0.005mg/cm以上であることがより好ましく、0.01mg/cm以上であることが更に好ましく、0.02mg/cm以上であることが特に好ましく、また、イリジウム含有量が1.0mg/cm以下であることが好ましく、0.75mg/cm以下であることがより好ましく、0.5mg/cm以下であることが更に好ましい。イリジウム含有量の上限値または下限値がこの値となることで、後述する導電性基材と組み合わせたときに、高い酸素発生電極触媒活性を奏しやすい。イリジウム含有量は、0.001mg/cm以上1.0mg/cm以下、0.005mg/cm以上0.75mg/cm以下、又は、0.01mg/cm以上0.5mg/cm以下が好ましい。
【0018】
イリジウム-マンガン酸化物において、マンガンに対するイリジウムのモル比(以下、「Ir/Mnモル比」ともいう。)が、0.001以上であることが好ましく、0.002以上であることがより好ましく、0.010以上であることが更に好ましい。また、Ir/Mnモル比が、0.100以下であることが好ましく、0.075以下であることがより好ましく、0.050以下であることが更に好ましい。Ir/Mnモル比の上限値または下限値がこの値となることで、後述する導電性基材と組み合わせたときに、高い酸素発生電極触媒活性を奏しやすい。Ir/Mnモル比は0.001以上0.100以下、0.002以上0.075以下、又は、0.010以上0.050以下が好ましい。
【0019】
本実施形態の電極は、厚みが50μm以上500μm未満である導電性基材を含む。一般的に、導電性基材の厚みが酸素発生電極触媒活性に及ぼす影響はわずかであり、導電性基材が薄くなると電流効率が若干改善する(例えば、S.Toghyani et al., Energy,2018,152,237-246.)。これに対し、本実施形態の電極において、導電性基材の厚みが500μm未満であることで、マンガン系電極触媒の酸素発生電極触媒活性が飛躍的に向上する顕著な効果を奏する。
【0020】
導電性基材の厚みが50μmを下回ると、導電性基材の機械強度が低下し、電極が損傷し易くなる。一方、導電性基材の厚みが500μm以上の場合、導電性基材の電気抵抗が増加し、結果として酸素発生電極触媒活性が低下する。より優れた酸素発生電極触媒活性を発現するために、導電性基材の厚みは75μm以上であることが好ましく、100μm以上であることがより好ましい。また、導電性基材の厚みは、450μm以下であることが好ましく、300μm以下であることがより好ましく、300μm未満であることがさらに好ましく、250μm以下であることが特に好ましい。導電性基材の厚みの範囲としては50μm以上450μm以下であることが好ましく、75μm以上300μm以下であることがより好ましく、100μm以上250μm以下であることが更に好ましい。
【0021】
「厚み」とは、幾何面に対する垂直方向の長さに相当する長さである。「導電性基材の厚み」とは、導電性基材の幾何面に対する垂直方向の長さに相当する長さであり、電極の形状を縦×横×幅で規定した場合の幅に相当する長さである。
【0022】
導電性基材は導電性材料からなる基材であればよく、チタンを含む基材であることが好ましい。
導電性基材の形状は、網状、布状及び板状の群から選ばれる1以上が例示でき、酸素発生電極触媒活性が高くなりやすいため、網状であることが好ましい。具体的な導電性基材として、繊維状又は粉末状の導電性金属チタンで構成されるチタン網、これを熱処理した焼結チタン網が例示できる。高い酸素発生電極触媒活性を奏しやすい点から、これらの導電性基材は、その表面が白金で被覆されていることが好ましく、導電性基材は白金被覆されたチタン網、更には、白金被覆された焼結チタン網がより好ましい。
【0023】
導電性基材の空隙率は30%以上80%以下、更には40%以上70%以下が好ましい。ここで空隙率は、導電性基材の体積中に占める導電性基材などがない空間部分の体積で定義され、空隙率の測定方法としては、例えば水銀圧力法が挙げられる。空隙率を上記範囲内であると、電極の機械強度が高まり、かつ酸素発生の反応気質である水の供給を円滑に行えるという点で優れた効果が得られる。
【0024】
本実施形態の電極は、マンガン系電極触媒と、導電性基材と、を含んでいればよく、導電性基材の少なくとも一部をマンガン系電極触媒が被覆したもの(以下、「複合電極材料」ともいう。)によって構成されることが好ましい。マンガン酸化物複合電極材料は、導電性基材の少なくとも一部を上述のマンガン酸化物が被覆したものであり、イリジウム-マンガン酸化物複合電極材料は、導電性基材の少なくとも一部を上述のイリジウム-マンガン酸化物が被覆したものである。
【0025】
本実施形態の電極の構造として、導電性基材の表面にマンガン酸化物が担持された構造を有する電極、導電性基材の表面にマンガン酸化物及びイリジウムが担持された構造を有する電極、導電性基材の表面にマンガン酸化物が担持され、なおかつ、マンガン酸化物上にイリジウムが担持された構造を有する電極、などが挙げられる。
【0026】
本実施形態の電極は、酸素発生電極として用いることができ、更には水電解装置における酸素発生電極として用いることが好ましい。
本実施形態の電極は、これを使用して水電解する水素の製造方法に用いることができる。
【0027】
以下、本実施形態の電極の製造方法について説明する。
本実施形態の電極の製造方法は、上記の構成を有する電極が得られるものであれば特に限定されないが、好ましい製造方法として、導電性基材にマンガン酸化物を電解析出し、マンガン酸化物含有基材を得る電解工程、及び、マンガン酸化物含有基材を熱処理する熱処理工程、を含む製造方法、が挙げられる。
【0028】
電解工程では、導電性基材にマンガン酸化物を電解析出する。これにより、マンガン酸化物含有基材が得られる。
マンガン酸化物が導電性基材の表面に電解析出すれば電解析出の方法は任意であり、電解液に導電性基材を浸漬し、これを電気分解する方法であればよい。
【0029】
電解液は、マンガンを含む溶液であればよい。電解液のマンガン濃度は、5g/L以上50g/L以下であることが好ましい。
電解液は、硫酸マンガンを含む溶液、さらには硫酸マンガン水溶液であることが好ましい。この場合、硫酸濃度は5g/L以上65g/L以下であり、また、マンガン濃度は5g/L以上50g/L以下であることが好ましい。
【0030】
電解工程に供する導電性基材は上述の導電性基材であればよく、厚さが500μm未満であればよく、300μm以下の導電性基材であることが好ましく、また、白金被覆されたチタン網、更には白金被覆された焼結チタン網であることが好ましい。
【0031】
電気分解おいて、電解液に導電性基材を浸漬し、これを電気分解すればよい。電気分解の条件は、マンガン酸化物が電解析出する条件であればよく、電流密度が導電性基材の幾何面積当たり0.3mA/cm以上20mA/cm以下であり、電解温度が93℃以上98℃以下であることが挙げられる。
【0032】
熱処理工程では、マンガン酸化物含有基材を熱処理する。これにより、マンガン酸化物と導電性基材との密着性が高くなる。熱処理工程における熱処理は、マンガン酸化物含有基材におけるマンガン酸化物が上述の結晶構造を保てる条件であればよく、熱処理雰囲気は大気雰囲気又は不活性雰囲気、更には大気雰囲気であることが挙げられ、熱処理温度は100℃以上600℃以下であることが挙げられる。熱処理時間は、熱処理に供する導電性基材のサイズに応じて適宜調整すればよいが、例えば、10分以上24時間以下が挙げられる。
【0033】
マンガン系電極触媒がイリジウム-マンガン酸化物である電極を製造する場合、熱処理工程に先立ち、マンガン酸化物含有基材と、イリジウム塩溶液とを接触させる接触工程を有することが好ましい。これにより、イリジウム-マンガン酸化物含有基材が得られ、熱処理工程にはマンガン酸化物含有基材に代わり、イリジウム-マンガン酸化物含有基材を供すればよい。
【0034】
接触工程に供するイリジウム塩溶液はイリジウム塩を含む溶液であればよく、イリジウム塩及び硫酸を含む溶液、更にはイリジウム塩及び硫酸を含む水溶液が好ましい。イリジウム塩としては、ヘキサクロロイリジウム酸カリウム(KIrCl)及びヘキサクロロイリジウム酸(HIrCl)の少なくともいずれか、が例示できる。
イリジウム塩溶液のイリジウム濃度は、0.001g/L以上10g/L以下が好ましい。
【0035】
マンガン酸化物含有基材と、イリジウム塩溶液との接触は、マンガン酸化物含有基材をイリジウム塩溶液に浸漬すればよい。接触は、マンガン酸化物含有基材の表面にイリジウムが含浸する条件であれば特に限定されないが、接触温度として20℃以上100℃以下が挙げられる。接触時間は、マンガン酸化物含有基材のサイズにより適宜調整すればよいが、例えば、30分以上24時間以下が挙げられる。
【実施例
【0036】
以下、本開示を実施例及び比較例により詳細に説明するが、本開示はこれら実施例に限定されるものではない。
<電極の金属量分析>
【0037】
塩酸-硝酸の混合溶液10mLに、縦10mm×横10mmの試料電極を浸漬し、電極に含まれる酸素発生電極触媒を溶解し、試料溶液を得た。一般的なICP装置(装置名:Optima 830、PerkinElmer社製)を使用して、誘導結合プラズマ発光分光分析(ICP-AES)により、試料溶液の組成を測定した。
<結晶構造の同定>
【0038】
一般的な粉末X線回折装置(装置名:Ultima IV Protectus、リガク社製)を使用し、以下の条件によりXRDパターンを得た。
加速電流・電圧 : 40mA・40kV
線源 : CuKα線(λ=1.5405Å)
測定モード : 連続スキャン
スキャン条件 : 4°/分
測定範囲 : 2θ=10°から80°
発散縦制限スリット: 10mm
発散/入射スリット: 1°
受光スリット : open
検出器 : D/teX Ultra
Niフィルター使用
【0039】
得られたXRDパターンと、ICDD(国際回折データセンター)のPDF(Powder Diffraction File)に登録されているXRDパターン(以下、「参照パターン」ともいう。)との対比によって試料の結晶相を同定した。γ型、β型、ε型又はα型の結晶構造を有する二酸化マンガンの参照パターンは、それぞれPDF No.14-0644(γ型)、24-0735(β型)、30-0820(ε型)又は44-0141(α型)を用いた
<酸素発生電極触媒活性の測定>
【0040】
実施例及び比較例の電極を作用極(陽極)とするPEM型水電解槽を使用し、以下の条件による、二電極系のリニアスイープボルタンメトリー(LSV)によって、酸素発生電極触媒活性を評価した。
【0041】
電圧増加速度 : 10mV/秒
水温 : 80℃
水供給速度 : 2mL/分
当該評価から、電圧2Vにおける電流密度(以下、単に「電流密度」ともいう。)を求めた。また導電性基材の厚みが500μmの電極の電流密度に対する、実施例及び比較例の電極の電流密度の比(以下、「相対電流密度」ともいう。)を求めた。
【0042】
<マンガン酸化物>
実施例1
電解槽内に硫酸濃度35g/L及び硫酸マンガン濃度31g/Lの硫酸-硫酸マンガン混合溶液を充填し、これにPt被覆Ti繊維(商品名:チタン繊維焼結体2GDL08N-020 BS05PT 白金メッキ品、ベカルト社製、厚み200μm、Pt厚み0.5μm、空隙率56%)からなる導電性基材を浸漬した。導電性基材に、電流密度7mA/cmで、10分間電流を印加し、該導電性基材上にマンガン酸化物を電気化学析出させた。
【0043】
得られたマンガン酸化物が電気化学析出した導電性基材について、大気雰囲気、450℃で5時間のアニール処理を行い、マンガン酸化物複合電極材料を得、本実施例の電極とした。
本実施例の電極は、厚みが200μmかつPt被覆Ti繊維からなる導電性基材上に、β型の結晶構造を有する二酸化マンガン(マンガン酸化物)からなる酸素発生電極触媒を有する電極であり、マンガン含有量が1.2mg/cmであった(イリジウム含有量が0g/cm、Ir/Mnモル比が0)。
【0044】
[酸素発生電極触媒活性]
本実施例の電極を作用極(陽極)とし、以下の方法で作製した膜-電極接合体(以下、「MEA」ともいう。)を備えたPEM型水電解槽を作製した。水、エタノール及びアイオノマー(製品名:ナフィオン分散溶液,Sigma-Aldrich社製)を含む溶液に20質量%白金担持カーボン触媒(製品名:20% Platinum on Vulcan XC-72,Sigma-Aldrich社製)を混合することで導電性触媒インクを作製した。これをカーボンペーパー(製品名:TGP-H-060,東レ製)へ塗布し、風乾させ、対極とした。
【0045】
次いで、ナフィオン膜(製品名:ナフィオン115,Sigma-Aldrich社製)を、3質量%過酸化水素水で1時間、純水で1時間、1M硫酸水溶液で1時間、及び純水中で1時間、の順で煮沸することで洗浄及びプロトン化して、これを電解質膜とした。
【0046】
作用極(陽極)として、試料電極を用い、作用極(陽極)及び対極の触媒面で電解質膜を挟み、ホットプレス機(製品名:SA-302,テスター産業社製)を用いて135℃、型締力400kg/cmで3分間ホットプレスすることでMEAを得た。得られたMEAを、PEM型水電解槽の筐体(製品名:WE-4S-RICW,エフシー開発社製)に取り付け、PEM型水電解槽を作製した。
【0047】
得られたPEM型水電解槽を使用して酸素発生電極触媒活性を評価した。
【0048】
実施例2
導電性基材として、厚み300μm、Pt厚み0.5μm、空隙率56%のPt被覆したTi繊維(製品名:PtめっきTi繊維焼結体,田中貴金属工業社製)を使用したこと以外は、実施例1と同様の方法で本実施例の電極を得た。
本実施例の電極は、厚みが300μmかつPt被覆Ti繊維からなる導電性基材上に、β型の結晶構造を有する二酸化マンガン(マンガン酸化物)からなる酸素発生電極触媒を有する電極であり、マンガン含有量が1.2mg/cmであった(イリジウム含有量が0g/cm、Ir/Mnモル比が0)。
【0049】
本実施例の電極を作用極(陽極)としたこと以外は実施例1と同様な方法で、酸素発生電極触媒活性を評価した。
【0050】
比較例1
導電性基材として、厚み500μm、Pt厚み0.5μm、空隙率56%のPt被覆したTi繊維(製品名:PtめっきTi繊維焼結体,田中貴金属工業社製)を使用したこと以外は、実施例1と同様の方法で本比較例の電極を得た。
本比較例の電極は、厚みが500μmかつPt被覆Ti繊維からなる導電性基材上に、β型の結晶構造を有する二酸化マンガン(マンガン酸化物)からなる酸素発生電極触媒を有する電極であり、マンガン含有量が1.2mg/cmであった(イリジウム含有量が0g/cm、Ir/Mnモル比が0)。
本比較例の電極を作用極(陽極)としたこと以外は実施例1と同様な方法で、酸素発生電極触媒活性を評価した。
【0051】
実施例1、2及び比較例1の評価結果を下表に示す。なお、下表における電流密度は、電圧2Vにおける値である。
【0052】
【表1】
【0053】
実施例3
導電性基材として、厚み200μm、Pt厚み0.5μm、空隙率56%のPt被覆したTi繊維(製品名:PtめっきTi繊維焼結体,田中貴金属工業社製)を使用し、なおかつ電流の印加時間を20分としたこと以外は、実施例1と同様の方法で本実施例の電極を得た。
本実施例の電極は、厚みが200μmかつPt被覆Ti繊維からなる導電性基材上に、β型の結晶構造を有する二酸化マンガン(マンガン酸化物)からなる酸素発生電極触媒を有する電極であり、マンガン含有量が2.4mg/cmであった(イリジウム含有量が0g/cm、Ir/Mnモル比が0)。
本実施例の電極を作用極(陽極)としたこと以外は実施例1と同様な方法で、酸素発生電極触媒活性を評価した。
【0054】
比較例2
導電性基材として、厚み500μm、Pt厚み0.5μm、空隙率56%のPt被覆したTi繊維(製品名:PtめっきTi繊維焼結体,田中貴金属工業社製)を使用したこと以外は、実施例3と同様の方法で本比較例の電極を得た。
本比較例の電極は、厚みが500μmかつPt被覆Ti繊維からなる導電性基材上に、β型の結晶構造を有する二酸化マンガン(マンガン酸化物)からなる酸素発生電極触媒を有する電極であり、マンガン含有量が2.4mg/cmであった(イリジウム含有量が0g/cm、Ir/Mnモル比が0)。
本比較例の電極を作用極(陽極)としたこと以外は実施例1と同様な方法で、酸素発生電極触媒活性を評価した。
【0055】
実施例3及び比較例2の評価結果を下表に示す。なお、下表における電流密度は、電圧2Vにおける値である。
【0056】
【表2】
【0057】
実施例4
電流の印加時間を5分としたこと以外は、実施例3と同様の方法で本実施例の電極を得た。
本実施例の電極は、厚みが200μmかつPt被覆Ti繊維からなる導電性基材上に、β型の結晶構造を有する二酸化マンガン(マンガン酸化物)からなる酸素発生電極触媒を有する電極であり、マンガン含有量が0.6mg/cmであった(イリジウム含有量が0g/cm、Ir/Mnモル比が0)。
本実施例の電極を作用極(陽極)としたこと以外は実施例1と同様な方法で、酸素発生電極触媒活性を評価した。
【0058】
比較例3
導電性基材として、厚み500μm、Pt厚み0.5μm、空隙率56%のPt被覆したTi繊維(製品名:PtめっきTi繊維焼結体,田中貴金属工業社製)を使用したこと以外は、実施例4と同様の方法で本比較例の電極を得た。
本比較例の電極は、厚みが500μmかつPt被覆Ti繊維からなる導電性基材上に、β型の結晶構造を有する二酸化マンガン(マンガン酸化物)からなる酸素発生電極触媒を有する電極であり、マンガン含有量が0.6mg/cmであった(イリジウム含有量が0g/cm、Ir/Mnモル比が0)。
本比較例の電極を作用極(陽極)としたこと以外は実施例1と同様な方法で、酸素発生電極触媒活性を評価した。
【0059】
実施例4及び比較例3の評価結果を下表に示す。なお、下表における電流密度は、電圧2Vにおける値である。
【0060】
【表3】
【0061】
マンガン酸化物を酸素発生電極触媒とする電極は、導電性基材の厚みが低減することにより、マンガン酸化物を酸素発生電極触媒とする従来の(導電性基材の厚みが500μmの)電極に対し、酸素発生電極触媒活性が著しく向上することが確認できた。
【0062】
<イリジウム-マンガン酸化物>
実施例5
導電性基材として、厚み200μm、Pt厚み0.5μm、空隙率56%のPt被覆したTi繊維(製品名:PtめっきTi繊維焼結体,田中貴金属工業社製)を使用した以外は、実施例1と同様の方法でマンガン酸化物複合電極材料を得た。次に、ヘキサクロロイリジウム酸カリウム(KIrCl)0.05g/L及び硫酸0.5g/Lのイリジウム塩溶液に、該マンガン酸化物複合電極材料を95℃で168時間浸漬したのち、大気雰囲気、450℃、5時間のアニール処理を行い、イリジウム-マンガン酸化物複合電極材料を得、本実施例の電極とした。
本実施例の電極は、厚みが200μmかつPt被覆Ti繊維からなる導電性基材上に、β型の結晶構造を有し、なおかつイリジウムが表面上に担持した二酸化マンガン(イリジウム-マンガン酸化物)からなる酸素発生電極触媒を有する電極であり、マンガン含有量が1.2mg/cm及びイリジウム含有量が0.20mg/cmであった(Ir/Mnモル比が0.048)。
本実施例の電極を作用極(陽極)としたこと以外は実施例1と同様な方法で、酸素発生電極触媒活性を評価した。
【0063】
比較例4
導電性基材として、厚み500μm、Pt厚み0.5μm、空隙率56%のPt被覆したTi繊維(製品名:PtめっきTi繊維焼結体,田中貴金属工業社製)を使用したこと以外は、実施例5と同様の方法で本比較例の電極を得た。
本比較例の電極は、厚みが500μmかつPt被覆Ti繊維からなる導電性基材上に、β型の結晶構造を有し、なおかつイリジウムが表面上に担持した二酸化マンガン(イリジウム-マンガン酸化物)からなる酸素発生電極触媒を有する電極であり、マンガン含有量が1.2mg/cm及びイリジウム含有量が0.20mg/cmであった(Ir/Mnモル比が0.048)。
本比較例の電極を作用極(陽極)としたこと以外は実施例1と同様な方法で、酸素発生電極触媒活性を評価した。
【0064】
実施例5及び比較例4の評価結果を下表に示す。なお、下表における電流密度は、電圧2Vにおける値である。
【0065】
【表4】
【0066】
実施例6
導電性基材として、厚み100μm、Pt厚み0.5μm、空隙率56%のPt被覆したTi繊維(製品名:PtめっきTi繊維焼結体,田中貴金属工業社製)を使用したこと以外は、実施例1と同様の方法でマンガン酸化物複合電極材料を得た。次に、イリジウム塩溶液におけるKIrCl濃度を0.02g/Lとし、なおかつマンガン酸化物複合電極材料をイリジウム塩溶液に24時間浸漬したこと以外は、実施例5と同様の方法で本実施例の電極を得た。
【0067】
本実施例の電極は、厚みが100μmかつPt被覆Ti繊維からなる導電性基材上に、β型の結晶構造を有し、なおかつイリジウムが表面上に担持した二酸化マンガン(イリジウム-マンガン酸化物)からなる酸素発生電極触媒を有する電極であり、マンガン含有量が1.2mg/cm及びイリジウム含有量が0.10mg/cmであった(Ir/Mnモル比が0.024)。
本実施例の電極を作用極(陽極)としたこと以外は実施例1と同様な方法で、酸素発生電極触媒活性を評価した。
【0068】
実施例7
導電性基材として、Pt被覆Ti繊維(商品名:チタン繊維焼結体2GDL08N-020 BS05PT 白金メッキ品、ベカルト社製、厚み200μm、Pt厚み0.5μm、空隙率56%)を使用したこと以外は、実施例6と同様の方法で本実施例の電極を得た。
【0069】
本実施例の電極は、厚みが200μmかつPt被覆Ti繊維からなる導電性基材上に、β型の結晶構造を有し、なおかつイリジウムが表面上に担持した二酸化マンガン(イリジウム-マンガン酸化物)からなる酸素発生電極触媒を有する電極であり、マンガン含有量が1.2mg/cm及びイリジウム含有量が0.10mg/cmであった(Ir/Mnモル比が0.024)。
本実施例の電極を作用極(陽極)としたこと以外は実施例1と同様な方法で、酸素発生電極触媒活性を評価した。
【0070】
実施例8
導電性基材として、厚み300μm、Pt厚み0.5μm、空隙率56%のPt被覆したTi繊維(製品名:PtめっきTi繊維焼結体,田中貴金属工業社製)を使用したこと以外は、実施例6と同様の方法で本実施例の電極を得た。
【0071】
本実施例の電極は、厚みが300μmかつPt被覆Ti繊維からなる導電性基材上に、β型の結晶構造を有し、なおかつイリジウムが表面上に担持した二酸化マンガン(イリジウム-マンガン酸化物)からなる酸素発生電極触媒を有する電極であり、マンガン含有量が1.2mg/cm及びイリジウム含有量が0.10mg/cmであった(Ir/Mnモル比が0.024)。
本実施例の電極を作用極(陽極)としたこと以外は実施例1と同様な方法で、酸素発生電極触媒活性を評価した。
【0072】
比較例5
導電性基材として、厚み500μm、Pt厚み0.5μm、空隙率56%のPt被覆したTi繊維(製品名:PtめっきTi繊維焼結体,田中貴金属工業社製)を使用したこと以外は、実施例6と同様の方法で本比較例の電極を得た。
本比較例の電極は、厚みが500μmかつPt被覆Ti繊維からなる導電性基材上に、β型の結晶構造を有し、なおかつイリジウムが表面上に担持した二酸化マンガン(イリジウム-マンガン酸化物)からなる酸素発生電極触媒を有する電極であり、マンガン含有量が1.2mg/cm及びイリジウム含有量が0.10mg/cmであった(Ir/Mnモル比が0.024)。
本比較例の電極を作用極(陽極)としたこと以外は実施例1と同様な方法で、酸素発生電極触媒活性を評価した。
【0073】
実施例6乃至8及び比較例5の評価結果を下表に示す。なお、下表における電流密度は、電圧2Vにおける値である。
【0074】
【表5】
【0075】
実施例9
イリジウム塩溶液におけるKIrCl濃度を0.01g/Lとした以外は、実施例7と同様の方法で本実施例の電極を得た。
本実施例の電極は、厚みが200μmかつPt被覆Ti繊維からなる導電性基材上に、β型の結晶構造を有し、なおかつイリジウムが表面上に担持した二酸化マンガン(イリジウム-マンガン酸化物)からなる酸素発生電極触媒を有する電極であり、マンガン含有量が1.2mg/cm及びイリジウム含有量が0.01mg/cmであった(Ir/Mnモル比が0.002)。
本実施例の電極を作用極(陽極)としたこと以外は実施例1と同様な方法で、酸素発生電極触媒活性を評価した。
【0076】
比較例6
導電性基材として、厚み500μm、Pt厚み0.5μm、空隙率56%のPt被覆したTi繊維(製品名:PtめっきTi繊維焼結体,田中貴金属工業社製)を使用したこと以外は、実施例9と同様の方法で本比較例の電極を得た。
本比較例の電極は、厚みが500μmかつPt被覆Ti繊維からなる導電性基材上に、β型の結晶構造を有し、なおかつイリジウムが表面上に担持した二酸化マンガン(イリジウム-マンガン酸化物)からなる酸素発生電極触媒を有する電極であり、マンガン含有量が1.2mg/cm及びイリジウム含有量が0.01mg/cmであった(Ir/Mnモル比が0.002)。
本比較例の電極を作用極(陽極)としたこと以外は実施例1と同様な方法で、酸素発生電極触媒活性を評価した。
実施例9及び比較例6の評価結果を下表に示す。なお、下表における電流密度は、電圧2Vにおける値である。
【0077】
【表6】
【0078】
実施例10
実施例3と同様の方法でマンガン酸化物複合電極材料を得た。次に、該マンガン酸化物複合電極材料を用いる以外は実施例7と同様の方法で本実施例の電極を得た。
本実施例の電極は、厚みが200μmかつPt被覆Ti繊維からなる導電性基材上に、β型の結晶構造を有し、なおかつイリジウムが表面上に担持した二酸化マンガン(イリジウム-マンガン酸化物)からなる酸素発生電極触媒を有する電極であり、マンガン含有量が2.4mg/cm及びイリジウム含有量が0.10mg/cmであった(Ir/Mnモル比が0.012)。
本実施例の電極を作用極(陽極)としたこと以外は実施例1と同様な方法で、酸素発生電極触媒活性を評価した。
【0079】
比較例7
導電性基材として、厚み500μm、Pt厚み0.5μm、空隙率56%のPt被覆したTi繊維(製品名:PtめっきTi繊維焼結体,田中貴金属工業社製)を使用したこと以外は、実施例10と同様の方法で本比較例の電極を得た。
本比較例の電極は、厚みが500μmかつPt被覆Ti繊維からなる導電性基材上に、β型の結晶構造を有し、なおかつイリジウムが表面上に担持した二酸化マンガン(イリジウム-マンガン酸化物)からなる酸素発生電極触媒を有する電極であり、マンガン含有量が2.4mg/cm及びイリジウム含有量が0.10mg/cmであった(Ir/Mnモル比が0.012)。
本比較例の電極を作用極(陽極)としたこと以外は実施例1と同様な方法で、酸素発生電極触媒活性を評価した。
【0080】
実施例10及び比較例7の評価結果を下表に示す。なお、下表における電流密度は、電圧2Vにおける値である。
【0081】
【表7】
【0082】
実施例11
実施例4と同様の方法でマンガン酸化物複合電極材料を得た。次に、該マンガン酸化物複合電極材料を用いる以外は実施例7と同様の方法で本実施例の電極を得た。
本実施例の電極は、厚みが200μmかつPt被覆Ti繊維からなる導電性基材上に、β型の結晶構造を有し、なおかつイリジウムが表面上に担持した二酸化マンガン(イリジウム-マンガン酸化物)からなる酸素発生電極触媒を有する電極であり、マンガン含有量が0.6mg/cm及びイリジウム含有量が0.05mg/cmであった(Ir/Mnモル比が0.024)。
本実施例の電極を作用極(陽極)としたこと以外は実施例1と同様な方法で、酸素発生電極触媒活性を評価した。
【0083】
比較例8
導電性基材として、厚み500μm、Pt厚み0.5μm、空隙率56%のPt被覆したTi繊維(製品名:PtめっきTi繊維焼結体,田中貴金属工業社製)を使用したこと以外は、実施例11と同様の方法で本比較例の電極を得た。
本比較例の電極は、厚みが500μmかつPt被覆Ti繊維からなる導電性基材上に、β型の結晶構造を有し、なおかつイリジウムが表面上に担持した二酸化マンガン(イリジウム-マンガン酸化物)からなる酸素発生電極触媒を有する電極であり、マンガン含有量が0.6mg/cm及びイリジウム含有量が0.05mg/cmであった(Ir/Mnモル比が0.024)。
本比較例の電極を作用極(陽極)としたこと以外は実施例1と同様な方法で、酸素発生電極触媒活性を評価した。
【0084】
実施例11及び比較例8の評価結果を下表に示す。なお、下表における電流密度は、電圧2Vにおける値である。
【0085】
【表8】
【0086】
イリジウム-マンガン酸化物を酸素発生電極触媒とする電極は、導電性基材の厚みが低減することにより、イリジウム-マンガン酸化物を酸素発生電極触媒とする従来の(導電性基材の厚みが500μmの)電極に対し、酸素発生電極触媒活性が著しく向上することが確認できた。
【0087】
<イリジウム酸化物>
比較例9
市販の酸化イリジウム粉末(田中貴金属工業社製)と純水を混合することで、酸化イリジウムを4.7g/L含む導電性触媒インクを作製し、これをPt被覆Ti繊維(商品名:チタン繊維焼結体2GDL08N-020 BS05PT 白金メッキ品、ベカルト社製、厚み200μm、Pt厚み0.5μm、空隙率56%)からなる導電性基材に塗布し、風乾した。
得られた酸化イリジウムを含む導電性基材を、大気雰囲気、450℃で5時間のアニール処理を行い、酸化イリジウム複合電極材料を得、本比較例の電極とした。
【0088】
本比較例の電極は、厚みが200μmかつPt被覆Ti繊維からなる導電性基材上に、酸化イリジウムからなる酸素発生電極触媒を有する電極であり、イリジウム含有量が0.1mg/cmであった(マンガン含有量が0g/cm、Ir/Mnモル比が∞)。
本比較例の電極を作用極(陽極)としたこと以外は実施例1と同様な方法で、酸素発生電極触媒活性を評価した。
【0089】
比較例10
導電性基材として、厚み300μm、Pt厚み0.5μm、空隙率56%のPt被覆したTi繊維(製品名:PtめっきTi繊維焼結体,田中貴金属工業社製)を使用したこと以外は、比較例9と同様の方法で本比較例の電極を得た。
本比較例の電極は、厚みが300μmかつPt被覆Ti繊維からなる導電性基材上に、酸化イリジウムからなる酸素発生電極触媒を有する電極であり、イリジウム含有量が0.1mg/cmであった(マンガン含有量が0g/cm、Ir/Mnモル比が∞)。
【0090】
本比較例の電極を作用極(陽極)としたこと以外は実施例1と同様な方法で、酸素発生電極触媒活性を評価した。
【0091】
比較例11
導電性基材として、厚み500μm、Pt厚み0.5μm、空隙率56%のPt被覆したTi繊維(製品名:PtめっきTi繊維焼結体,田中貴金属工業社製)を使用したこと以外は、比較例9と同様の方法で本比較例の電極を得た。
本比較例の電極は、厚みが500μmかつPt被覆Ti繊維からなる導電性基材上に、酸化イリジウムからなる酸素発生電極触媒を有する電極であり、イリジウム含有量が0.1mg/cmであった(マンガン含有量が0g/cm、Ir/Mnモル比が∞)。
本比較例の電極を作用極(陽極)としたこと以外は実施例1と同様な方法で、酸素発生電極触媒活性を評価した。
【0092】
比較例9乃至11の評価結果を下表に示す。なお、下表における電流密度は、電圧2Vにおける値である。
【0093】
【表9】
【0094】
イリジウム酸化物を酸素発生電極触媒とする電極は、導電性基材の厚みが低減しても、酸素発生電極触媒活性の変化は僅かであった。
【0095】
以上の結果から、導電性基材の厚み低減による酸素発生電極触媒活性の著しい向上は、マンガン酸化物及びイリジウム-マンガン酸化物に特有の挙動であることが確認できた。
令和5年8月23日に出願された日本国特許出願2023-135670号の明細書、特許請求の範囲及び要約書の全内容、並びに令和6年6月24日に出願された日本国特許出願2024-100953号の明細書、特許請求の範囲及び要約書の全内容をここに引用し、本開示の明細書の開示として、取り入れる。
【要約】
従来のマンガン系酸化物を酸素発生電極触媒とする電極と比べ、高い酸素発生電極触媒活性を示す電極を提供する。