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特許7659261変性共役ジエン系重合体の製造方法、及び、変性共役ジエン系重合体
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2025-04-01
(45)【発行日】2025-04-09
(54)【発明の名称】変性共役ジエン系重合体の製造方法、及び、変性共役ジエン系重合体
(51)【国際特許分類】
   C08C 19/06 20060101AFI20250402BHJP
   C08F 36/04 20060101ALI20250402BHJP
【FI】
C08C19/06
C08F36/04
【請求項の数】 3
(21)【出願番号】P 2021023594
(22)【出願日】2021-02-17
(65)【公開番号】P2022125798
(43)【公開日】2022-08-29
【審査請求日】2024-01-16
(73)【特許権者】
【識別番号】000006714
【氏名又は名称】横浜ゴム株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】504137912
【氏名又は名称】国立大学法人 東京大学
(74)【代理人】
【識別番号】100152984
【弁理士】
【氏名又は名称】伊東 秀明
(74)【代理人】
【識別番号】100148080
【弁理士】
【氏名又は名称】三橋 史生
(74)【代理人】
【識別番号】100181179
【弁理士】
【氏名又は名称】町田 洋一郎
(74)【代理人】
【識別番号】100197295
【弁理士】
【氏名又は名称】武藤 三千代
(72)【発明者】
【氏名】上西 和也
(72)【発明者】
【氏名】網野 直也
(72)【発明者】
【氏名】吉江 尚子
【審査官】前田 直樹
(56)【参考文献】
【文献】特開2013-010872(JP,A)
【文献】特表2018-507315(JP,A)
【文献】国際公開第2014/108958(WO,A1)
【文献】特表2023-503685(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08C 19/06
C08F 36/04
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
共役ジエン系重合体と過酸化物とを反応させることで、前記共役ジエン系重合体の炭素-炭素二重結合をエポキシ化して、エポキシ化共役ジエン系重合体を得る、エポキシ化工程と、
カーボン固体酸を使用せずに前記エポキシ化共役ジエン系重合体と水とを反応させることで、前記エポキシ化共役ジエン系重合体のエポキシ環を開環して、隣り合う炭素原子に水酸基を有する共役ジエン系重合体である変性共役ジエン系重合体を得る、開環工程とを備える、変性共役ジエン系重合体の製造方法であって、
前記変性共役ジエン系重合体の重量平均分子量が、10万以上である、変性共役ジエン系重合体の製造方法
【請求項2】
前記共役ジエン系重合体が、ブタジエン系重合体、イソプレン系重合体、又は、芳香族ビニル-共役ジエン共重合体である、請求項1に記載の変性共役ジエン系重合体の製造方法。
【請求項3】
前記共役ジエン系重合体中の炭素-炭素二重結合に対する、前記変性共役ジエン系重合体中の水酸基を有する隣り合う炭素原子の割合が、1~50モル%である、請求項1又は2に記載の変性共役ジエン系重合体の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、変性共役ジエン系重合体の製造方法、及び、変性共役ジエン系重合体に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、ポリブタジエンを変性することで得られる変性ポリブタジエンが知られている(例えば、特許文献1)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2017-066222号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
昨今、様々な分野において、ポリブタジエン等の共役ジエン系重合体の材料に対して、強靭性のさらなる向上が求められている。また、材料として用いたときにエネルギーロスが小さいことも求められている。
このようななか、本発明者らが特許文献1を参考に共役ジエン系重合体を製造したところ、その物性は昨今求められている要求を必ずしも満たすものではないことが明らかになった。
【0005】
そこで、本発明は、上記実情を鑑みて、強靭性に優れ、且つ、エネルギーロスの小さい共役ジエン系重合体、及び、その製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らが上記課題について鋭意検討した結果、共役ジエン系重合体をエポキシ化・開環することで得られる変性共役ジエン系重合体によって、上記課題が解決できることを見出し、本発明に至った。
具体的には、本発明者らは、以下の構成により上記課題が解決できることを見出した。
【0007】
(1) 共役ジエン系重合体と過酸化物とを反応させることで、上記共役ジエン系重合体の炭素-炭素二重結合をエポキシ化して、エポキシ化共役ジエン系重合体を得る、エポキシ化工程と、
上記エポキシ化共役ジエン系重合体と水とを反応させることで、上記エポキシ化共役ジエン系重合体のエポキシ環を開環して、隣り合う炭素原子に水酸基を有する共役ジエン系重合体である変性共役ジエン系重合体を得る、開環工程とを備える、変性共役ジエン系重合体の製造方法。
(2) 上記変性共役ジエン系重合体の重量平均分子量が、10万以上である、上記(1)に記載の変性共役ジエン系重合体の製造方法。
(3) 上記共役ジエン系重合体が、ブタジエン系重合体、イソプレン系重合体、又は、芳香族ビニル-共役ジエン共重合体である、上記(1)又は(2)に記載の変性共役ジエン系重合体の製造方法。
(4) 上記共役ジエン系重合体中の炭素-炭素二重結合に対する、上記変性共役ジエン系重合体中の水酸基を有する隣り合う炭素原子の割合が、1~50モル%である、上記(1)~(3)のいずれかに記載の変性共役ジエン系重合体の製造方法。
(5) 共役ジエン系重合体と過酸化物とを反応させることで、上記共役ジエン系重合体の炭素-炭素二重結合をエポキシ化して、エポキシ化共役ジエン系重合体を得る、エポキシ化工程と、
上記エポキシ化共役ジエン系重合体と水とを反応させることで、上記エポキシ化共役ジエン系重合体のエポキシ環を開環して、隣り合う炭素原子に水酸基を有する共役ジエン系重合体である変性共役ジエン系重合体を得る、開環工程とを備える、変性共役ジエン系重合体の製造方法によって製造された変性共役ジエン系重合体。
【発明の効果】
【0008】
以下に示すように、本発明によれば、強靭性に優れ、且つ、エネルギーロスの小さい共役ジエン系重合体、及び、その製造方法を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、本発明の変性共役ジエン系重合体、及び、その製造方法について説明する。
なお、本明細書において「~」を用いて表される数値範囲は、「~」の前後に記載される数値を下限値および上限値として含む範囲を意味する。
また、本明細書における各成分は、1種を単独でも用いても、2種以上を併用してもよい。ここで、各成分について2種以上を併用する場合、その成分について含有量とは、特段の断りが無い限り、合計の含有量を指す。
【0010】
まず、本発明の変性共役ジエン系重合体の製造方法について説明する。
【0011】
[本発明の変性共役ジエン系重合体の製造方法]
本発明の変性共役ジエン系重合体の製造方法(以下、「本発明の方法」とも言う)は、以下の工程を備える。
(1)エポキシ化工程
共役ジエン系重合体と過酸化物とを反応させることで、上記共役ジエン系重合体の炭素-炭素二重結合をエポキシ化して、エポキシ化共役ジエン系重合体を得る工程。
(2)開環工程
エポキシ化工程で得られたエポキシ化共役ジエン系重合体と水とを反応させることで、上記エポキシ化共役ジエン系重合体のエポキシ環(オキシラン環)を開環して、隣り合う炭素原子に水酸基を有する共役ジエン系重合体である変性共役ジエン系重合体を得る工程。
【0012】
以下に、共役ジエン系重合体として1,4-cisポリブタジエン(1,4-cis BR)を用いた場合の一態様について、構造式を用いて説明する。
【0013】
まず、1,4-cisポリブタジエン(下記)と過酸化物とを反応させる。
【0014】
【化1】
【0015】
これによって、1,4-cisポリブタジエンの炭素-炭素二重結合の少なくとも一部をエポキシ化して、エポキシ化1,4-cisポリブタジエン(下記)を得る(エポキシ化工程)。
【0016】
【化2】
【0017】
次に、エポキシ化工程で得られたエポキシ化1,4-cisポリブタジエンと水とを反応させる。これによって、上記エポキシ化1,4-cisポリブタジエンのエポキシ環の少なくとも一部を開環して、隣り合う炭素原子に水酸基を有する1,4-cisポリブタジエン(変性1,4-cisポリブタジエン)(下記)を得る(開環工程)。
【0018】
【化3】
【0019】
本発明の方法によって得られる変性共役ジエン系重合体は、このように隣り合う炭素原子に水酸基を有するため、隣り合う水酸基同士が相互作用するとともに、重合体間でも水酸基同士が相互作用して、極めて強い相互作用が形成されているものと考えられる。結果として、得られる変性共役ジエン系重合体は優れた強靭性を示すものと考えらえる。また、上述のとおり強い相互作用が形成されることによって運動性が抑えられ、結果として、エネルギーロスも抑えられるものと考えられる。
【0020】
以下、各工程について詳述する。
【0021】
〔エポキシ化工程〕
エポキシ化工程は、共役ジエン系重合体と過酸化物とを反応させることで、上記共役ジエン系重合体の炭素-炭素二重結合をエポキシ化して、エポキシ化共役ジエン系重合体を得る工程である。
エポキシ化共役ジエン系重合体は、共役ジエン系重合体中の共役ジエンに由来する単位(以下、「共役ジエン単位」とも言う)の炭素-炭素二重結合(C=C)の少なくとも一部がエポキシ化された(エポキシ環になった)ものである。
【0022】
<共役ジエン系重合体>
エポキシ化工程で用いられる共役ジエン系重合体は、共役ジエンを単量体として用いて得られた重合体であれば特に限定されない。ただし、共役ジエン系重合体は、共役ジエンを単量体として用いて得られた重合体と同じ構造を有すれば、実際に共役ジエンを用いて得られた重合体でなくても構わない。例えば、天然ゴムは、イソプレンを単量体として用いて得られた重合体と同じ構造を有するため、共役ジエン系重合体に該当する。
【0023】
(共役ジエン)
上記共役ジエンは特に限定されないが、本発明の効果がより優れる理由から、ブタジエン(特に、1,3-ブタジエン)、又は、イソプレンであることが好ましい。
すなわち、上記共役ジエンは、本発明の効果がより優れる理由から、ブタジエン系重合体、又は、イソプレン系重合体であることが好ましい。
【0024】
(具体例)
上記共役ジエン系重合体の具体例としては、ポリブタジエン(ブタジエンゴム)(BR)、ポリイソプレン(イソプレンゴム)(IR)、天然ゴム(NR)、芳香族ビニル-共役ジエン共重合体、アクリロニトリル-ブタジエン共重合体(ニトリルゴム)(NBR)、ブチルゴム(IIR)、ハロゲン化ブチルゴム(Br-IIR、Cl-IIR)、クロロプレンゴム(CR)等が挙げられる。上記芳香族ビニル-共役ジエン共重合体としては、スチレン-ブタジエン共重合体(スチレンブタジエンゴム)(SBR)、スチレン-イソプレン共重合体(スチレンイソプレン共重合体ゴム)などが挙げられる。
【0025】
(好適な態様)
上記共役ジエン系重合体は、本発明の効果がより優れる理由から、ブタジエン系重合体(特に、ポリブタジエン)、イソプレン系重合体(特に、ポリイソプレン、天然ゴム)、又は、芳香族ビニル-共役ジエン共重合体(特に、スチレン-ブタジエン共重合体)であることが好ましい。
【0026】
上記共役ジエン系重合体の共役ジエン含有量は特に限定されないが、本発明の効果がより優れる理由から、10モル%以上であることが好ましく、30モル%以上であることがより好ましく、50モル%以上であることがさらに好ましく、70モル%以上であることが特に好ましく、90モル%以上であることが最も好ましい。上限は特に限定されず、100モル%である。
なお、共役ジエン含有量とは、共役ジエン系重合体を構成する全ての単量体単位のうち共役ジエンに由来する単位が占める割合である。
【0027】
(分子量)
上記共役ジエン系重合体の数平均分子量(Mn)は特に限定されないが、本発明の効果がより優れる理由から、5,000~5,000,000であることが好ましく、50,000~2,000,000であることがより好ましく、100,000~1,000,000であることがさらに好ましい。
【0028】
上記共役ジエン系重合体の重量平均分子量(Mw)は特に限定されないが、本発明の効果がより優れる理由から、10,000~10,000,000であることが好ましく、100,000~4,000,000であることがより好ましく、200,000~2,000,000であることがさらに好ましい。
【0029】
上記共役ジエン系重合体の分子量分布(PDI)は特に限定されないが、本発明の効果がより優れる理由から、10以下であることが好ましく、5以下であることがより好ましく、3以下であることがさらに好ましい。分子量分布の下限は特に限定されないが、通常、1.0以上である。
【0030】
なお、上記Mn及びMwは、以下の条件のゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)測定により得られる標準ポリスチレン換算値とする。
・溶媒:テトラヒドロフラン
・検出器:RI検出器
【0031】
<過酸化物>
エポキシ化工程で用いられる過酸化物は特に限定されない。
【0032】
(具体例)
上記過酸化物としては、無機過酸化物及び有機過酸化物が挙げられる。
上記無機過酸化物としては、例えば、過酸化水素水;過硫酸、過硫酸水素ナトリウム、過硫酸水素カリウム等の過硫酸化合物等が挙げられる。
上記有機過酸化物としては、例えば、t-ブチルハイドロペルオキシド、m-クロロ過安息香酸(mCPBA)、過ギ酸、過酢酸、過プロピオン酸等が挙げられる。
【0033】
(好適な態様)
上記過酸化物は、本発明の効果がより優れる理由から、有機過酸化物であることが好ましく、m-クロロ過安息香酸(mCPBA)であることがより好ましい。
【0034】
(使用量)
上記過酸化物の使用量は特に限定されないが、本発明の効果がより優れる理由から、上述した共役ジエン系重合体の使用量に対して、10~200質量%であることが好ましく、50~100質量%であることがより好ましい。
【0035】
<エポキシ化工程の手順>
エポキシ化工程の手順は特に限定されず、例えば、共役ジエン系重合体と過酸化物とを混合・攪拌してから反応物を回収する方法等が挙げられる。
【0036】
<エポキシ化共役ジエン系重合体>
エポキシ化工程で得られるエポキシ化共役ジエン系重合体は、共役ジエン系重合体中の共役ジエンに由来する単位(以下、「共役ジエン単位」とも言う)の炭素-炭素二重結合(C=C)の少なくとも一部がエポキシ化された(エポキシ環になった)ものである。
エポキシ化共役ジエン系重合体の共役ジエン系重合体部分の具体例及び好適な態様は上述したエポキシ化工程における共役ジエン系重合体と同じである。
【0037】
(エポキシ化率)
上記エポキシ化共役ジエン系重合体のエポキシ化率は特に限定されないが、本発明の効果がより優れる理由から、1~99モル%であることが好ましく、2~50モル%であることがより好ましく、3~40モル%であることがさらに好ましく、5~20モル%であることが特に好ましい。
ここで、エポキシ化率とは、エポキシ工程で使用された共役ジエン系重合体中の共役ジエン単位(例えば、ブタジエン単位)の炭素-炭素二重結合のうち、エポキシ化された(エポキシ環になった)割合である。例えば、エポキシ化工程で使用された共役ジエン系重合体中に共役ジエン単位の炭素-炭素二重結合が100個存在して、そのうち10個がエポキシ化された場合、エポキシ化共役ジエン系重合体のエポキシ化率は10モル%である。
【0038】
(分子量)
上記エポキシ化共役ジエン系重合体の分子量は特に制限されないが、そのMn、Mw及びPDIの好適な範囲及び好適な理由は、上述した共役ジエン系重合体と同じである。
【0039】
〔開環工程〕
開環工程は、上述したエポキシ化工程で得られたエポキシ化共役ジエン系重合体と水とを反応させることで、上記エポキシ化共役ジエン系重合体のエポキシ環を開環して、隣り合う炭素原子に水酸基を有する共役ジエン系重合体である変性共役ジエン系重合体を得る工程である。
エポキシ環を開環することで、エポキシ環を構成していた2つの炭素原子(隣り合う炭素原子)に水酸基が導入される。
すなわち、開環工程で得られる変性共役ジエン系重合体は、エポキシ化共役ジエン系重合体中のエポキシ環の少なくとも一部が開環して、開環されたエポキシ環を構成していた2つの炭素原子(隣り合う炭素原子)に水酸基が導入されたものである。
なお、開環されたエポキシ環を構成していた2つの炭素原子(隣り合う炭素原子)の一部に水酸基以外の基(例えばアルコキシ基)が導入される場合がある。
【0040】
開環工程では、本発明の効果がより優れる理由から、エポキシ環を活性化するための触媒を用いるのが好ましい。
【0041】
<エポキシ化共役ジエン系重合体>
開環工程で用いられるエポキシ化共役ジエン系重合体は、上述したエポキシ化工程で得られたエポキシ化共役ジエン系重合体である。エポキシ化共役ジエン系重合体については上述のとおりである。
【0042】
<触媒>
上述のとおり、開環工程では、本発明の効果がより優れる理由から、エポキシ環を活性化するための触媒を用いるのが好ましい。
【0043】
(具体例)
上記触媒の具体例としては、プロトン酸(塩酸や硫酸)、ルイス酸(塩化アルミ等)等が挙げられる。上記触媒に併せて、水酸化物など塩基を加えるのが好ましい。
【0044】
(好適な態様)
上記触媒は、本発明の効果がより優れる理由から、ヒドラジニウムであることが好ましく、硫酸ヒドラジニウムであることがより好ましい。
【0045】
(使用量)
上記触媒の使用量は特に限定されないが、本発明の効果がより優れる理由から、上述したエポキシ化共役ジエン系重合体の使用量に対して、1~100質量%であることが好ましく、10~50質量%であることがより好ましい。
【0046】
<開環工程の手順>
開環工程の手順は特に限定されず、例えば、エポキシ化共役ジエン系重合体と水と触媒等とを混合・攪拌してから反応物を回収する方法等が挙げられる。
【0047】
<変性共役ジエン系重合体>
開環工程で得られる変性共役ジエン系重合体は、エポキシ化共役ジエン系重合体中のエポキシ環の少なくとも一部が開環して、開環されたエポキシ環を構成していた2つの炭素原子(隣り合う炭素原子)に水酸基が導入されたものである。
変性共役ジエン系重合体の共役ジエン系重合体部分の具体例及び好適な態様は上述したエポキシ化工程における共役ジエン系重合体と同じである。
【0048】
(開環率)
上記変性共役ジエン系重合体の開環率は特に制限されないが、本発明の効果がより優れる理由から、10モル%以上であることが好ましく、30モル%以上であることがより好ましく、50モル%以上であることがさらに好ましく、60モル%以上であることがよりさらに好ましく、70モル%以上であることが特に好ましく、90モル%以上であることが最も好ましい。開環率の上限は特に制限されず、100モル%である。
ここで、開環率とは、開環工程で使用されたエポキシ化共役ジエン系重合体中のエポキシ環のうち、開環した割合である。例えば、開環工程で使用されたエポキシ化共役ジエン系重合体中にエポキシ環が10個存在して、全てが開環した場合、変性共役ジエン系重合体の開環率は100モル%である。
【0049】
(エポキシ環残存率)
上記変性共役ジエン系重合体のエポキシ環残存率は特に制限されないが、本発明の効果がより優れる理由から、90モル%以下であることが好ましく、70モル%以下であることがより好ましく、50モル%以下であることがさらに好ましく、40モル%以下であることがよりさらに好ましく、30モル%以下であることが特に好ましく、10モル%以下であることが最も好ましい。エポキシ環残存率の下限は特に制限されず、0%である。
ここで、エポキシ環残存率とは、開環工程で使用されたエポキシ化共役ジエン系重合体中のエポキシ環のうち、開環しなかった割合である。例えば、開環工程で使用されたエポキシ化共役ジエン系重合体中にエポキシ環が10個存在して、全てが開環した場合、変性共役ジエン系重合体のエポキシ環残存率は0モル%である。
【0050】
(ジオール化率)
上記変性共役ジエン系重合体のジオール化率は特に制限されないが、本発明の効果がより優れる理由から、1モル%以上であることが好ましく、10モル%以上であることがより好ましく、30モル%以上であることがさらに好ましく、60モル%以上であることが特に好ましく、70モル%以上であることが最も好ましい。ジオール化率の上限は特に制限されず、100モル%である。
ここで、ジオール化率とは、開環工程で使用されたエポキシ化共役ジエン系重合体の開環したエポキシ環のうち、開環されたエポキシ環を構成していた2つの炭素原子(隣り合う炭素原子)に水酸基が導入された割合である。例えば、開環工程で使用されたエポキシ化共役ジエン系重合体中にエポキシ環が10個存在して、全てが開環し、そのうち6個のエポキシ環を構成していた隣り合う炭素原子(合計12個の炭素原子)に水酸基が導入された場合、ジオール化率は60%である。
【0051】
(変性率)
上記変性共役ジエン系重合体の変性率は特に制限されないが、本発明の効果がより優れる理由から、本発明の効果がより優れる理由から、1~99モル%であることが好ましく、2~50モル%であることがより好ましく、3~50モル%であることがさらに好ましく、5~20モル%であることが特に好ましい。
ここで、変性率とは、エポキシ化工程で使用された共役ジエン系重合体中の共役ジエン単位(例えば、ブタジエン単位)の炭素-炭素二重結合のうち、エポキシ化されて開環し、水酸基が導入された割合である。例えば、エポキシ化工程で使用された共役ジエン系重合体中に共役ジエン単位の炭素-炭素二重結合が100個存在して、そのうち10個がエポキシ化されて(結果としてエポキシ環が10個存在し)、全てが開環し、そのうち6個のエポキシ環を構成していた隣り合う炭素原子(合計12個の炭素原子)に水酸基が導入された場合、変性共役ジエン系重合体の変性率は6モル%である。
【0052】
(好適な態様)
上記変性共役ジエン系重合体は、本発明の効果がより優れる理由から、下記式(A1)~(A3)、(B1)~(B3)、(C)で表される単位を有する変性共役ジエン系重合体(以下、「特定変性共役ジエン系重合体」とも言う)であることが好ましい。
ここで、式(A1)で表される単位は共役ジエン単位(シス型又はトランス型)であり、式(A2)で表される単位は式(A1)がエポキシ化したものであり、式(A3)で表される単位は式(A2)が開環したものである。また、式(B1)で表される単位は共役ジエン単位(ビニル型)であり、式(B2)で表される単位は式(B1)がエポキシ化したものであり、式(B3)で表される単位は式(B2)が開環したものである。また、式(C)で表される単位は芳香族ビニル単位である。
【0053】
【化4】
【0054】
式(A1)~(A3)、(B1)~(B3)、(C)中、Rは、水素原子、又は、脂肪族炭化水素基を表す。複数存在するRは同一であっても異なってもよい。式(C)中、Arは芳香族炭化水素基を表す。
上記脂肪族炭化水素基は、直鎖状、分岐状、環状のいずれであってもよい。上記脂肪族炭化水素基の具体例としては、直鎖状または分岐状のアルキル基(特に、炭素数1~30)、直鎖状または分岐状のアルケニル基(特に、炭素数2~30)、直鎖状または分岐状のアルキニル基(特に、炭素数2~30)などが挙げられる。
上記芳香族炭化水素基としては、例えば、フェニル基、トリル基、キシリル基、ナフチル基などの炭素数6~18の芳香族炭化水素基などが挙げられる。
【0055】
式(A1)~(A3)、(B1)~(B3)、(C)中、a1~a3、b1~b3、cは、各単位の割合(モル%)を表す。
a1は、本発明の効果がより優れる理由から、1~99モル%であることが好ましく、50~95モル%であることがより好ましく、70~90モル%であることがさらに好ましい。
b1は、本発明の効果がより優れる理由から、1~99モル%であることが好ましく、50~95モル%であることがより好ましく、70~90モル%であることがさらに好ましい。
a1+b1は、本発明の効果がより優れる理由から、1~99モル%であることが好ましく、50~95モル%であることがより好ましく、70~90モル%であることがさらに好ましい。
a2は、本発明の効果がより優れる理由から、0~99モル%であることが好ましく、0~50モル%であることがより好ましく、0~30モル%であることがさらに好ましく、0~10モル%であることが特に好ましい。
b2は、本発明の効果がより優れる理由から、0~99モル%であることが好ましく、0~50モル%であることがより好ましく、0~30モル%であることがさらに好ましく、0~10モル%であることが特に好ましい。
a1+b2は、本発明の効果がより優れる理由から、0~99モル%であることが好ましく、0~50モル%であることがより好ましく、0~30モル%であることがさらに好ましく、0~10モル%であることが特に好ましい。
a3は、本発明の効果がより優れる理由から、0.1~99モル%であることが好ましく、0.5~50モル%であることがより好ましく、0.8~40モル%であることがさらに好ましく、1~20モル%であることが特に好ましい。
b3は、本発明の効果がより優れる理由から、0.1~99モル%であることが好ましく、0.5~50モル%であることがより好ましく、0.8~40モル%であることがさらに好ましく、1~20モル%であることが特に好ましい。
a3+b3は、本発明の効果がより優れる理由から、0.1~99モル%であることが好ましく、0.5~50モル%であることがより好ましく、0.8~40モル%であることがさらに好ましく、1~20モル%であることが特に好ましい。
cは、本発明の効果がより優れる理由から、0~90モル%であることが好ましく、0~50モル%であることがより好ましく、0~30モル%であることがさらに好ましく、0~25モル%であることが特に好ましい。
【0056】
(分子量)
上記変性共役ジエン系重合体の分子量は特に制限されないが、そのMn、Mw及びPDIの好適な範囲及び好適な理由は、上述した共役ジエン系重合体と同じである。
【0057】
[変性共役ジエン系重合体]
本発明の変性共役ジエン系重合体(以下、「本発明の重合体」とも言う)は、上述した本発明の方法によって製造された変性共役ジエン系重合体である。変性共役ジエン系重合体については上述のとおりである。
【0058】
[用途]
本発明の重合体は、ゴム組成物(例えば、タイヤ、コンベアベルト、ホース、防振材、ゴムロール、鉄道車両の外幌等に用いられるゴム組成物)に好適に用いられる。
【実施例
【0059】
以下、実施例により、本発明についてさらに詳細に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0060】
〔製造例〕
以下のとおり、変性ポリブタジエンを製造した。
【0061】
<エポキシ化工程>
ポリブタジエン(1,4-cis BR、Mn=199,000、Mw=490,000、PDI=2.5、10.2g)の塩化メチレン(関東化学製、150mL)溶液に、m-クロロ過安息香酸(mCPBA)(関東化学製、25%水分含有、7.0g)の塩化メチレン溶液(100mL)を室温で滴下し、室温で24時間攪拌した。得られた溶液をメタノール(関東化学製、1.5L)中に滴下し、固体成分を取り分けた。その固体成分をテトラヒドロフラン(THF)(関東化学製、200mL)に溶解させ、メタノールに滴下する再沈殿精製操作を行い、白色固体(10.4g)を得た。
得られた白色固体についてH-NMR測定(CDCl)を行ったところ、2.9ppmにエポキシ環由来のHシグナルが観測され、ポリブタジエンの炭素-炭素二重結合がエポキシ化することで、エポキシ化率16モル%のエポキシ化ポリブタジエン(Mn=205,000、Mw=495,000、PDI=2.4)が得られたことが分かった。
【0062】
<開環工程>
上述したエポキシ化工程で得られたエポキシ化ポリブタジエン(10.3g)をトルエン(関東化学製、150mL)に溶解した。得られた溶液に硫酸ヒドラジニウム(関東化学製、5.2g)の水(80mL)溶液を加え、還流条件で48時間攪拌した。その後、得られた溶液の不溶成分を取り出し、その不溶成分に水(100mL)を加え、室温で攪拌し、無機成分を取り除いた。この作業を2回繰り返した。その不溶成分を乾燥し、THFに不溶の淡黄色固体成分(10.3g)を得た。
得られた淡黄色固体成分について固体13C-NMR(CPMAS)測定を行ったところ、60ppm近辺のエポキシ環由来の13Cシグナルが消失し、73ppmに水酸基を有する隣り合う炭素原子に由来する13Cシグナルが観測され(70ppm近辺の水酸基を有する単独の炭素原子(隣り合わない炭素原子)に由来する13Cシグナルは観測されなかった)、エポキシ化ポリブタジエンの全てのエポキシ環が開環することで、隣り合う炭素原子に水酸基を有するポリブタジエンである変性ポリブタジエン(開環率:100モル%、ジオール化率:50モル%以上、変性率:8~16モル%)(Mn=205,000、Mw=495,000、PDI=2.4)が得られたことが分かった。得られた変性ポリブタジエンは上述した特定変性共役ジエン系重合体に該当する。ここで、式(A1)及び式(A3)中のRは全て水素であり、a1は84モル%であり、a3は8~16モル%である。
【0063】
〔評価〕
得られた変性ポリブタジエン(実施例)、及び、変性前のポリブタジエン(1,4-cis BR、Mn=199,000、Mw=490,000、PDI=2.5)(比較例)について動的粘弾性測定(周波数:6cpm(cycles per minute)、動ひずみ:2%、温度範囲:30~150℃)を行い、せん断弾性率及びtanδ(損失正接)を測定した。
結果を表1に示す。なお、せん断弾性率については、比較例を100とする指数で表した。
せん断弾性率が大きい程、強靭性に優れることを意味する。また、tanδが小さい程、エネルギーロスが小さいことを意味する。
【0064】
【表1】
【0065】
表1から分かるように、本発明の方法で製造された変性ポリブタジエン(実施例)は、変性前のポリブタジエン(比較例)と比較して、優れた強靭性、及び、小さいエネルギーロスを示した。