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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2025-04-01
(45)【発行日】2025-04-09
(54)【発明の名称】冷凍機用のロータリーバルブ
(51)【国際特許分類】
   F16K 31/04 20060101AFI20250402BHJP
【FI】
F16K31/04 A
【請求項の数】 5
(21)【出願番号】P 2021138958
(22)【出願日】2021-08-27
(65)【公開番号】P2023032680
(43)【公開日】2023-03-09
【審査請求日】2024-05-15
(73)【特許権者】
【識別番号】000231464
【氏名又は名称】株式会社アルバック
(74)【代理人】
【識別番号】110000305
【氏名又は名称】弁理士法人青莪
(72)【発明者】
【氏名】森平 淳志
(72)【発明者】
【氏名】目黒 凌平
【審査官】山崎 孔徳
(56)【参考文献】
【文献】特表2008-544199(JP,A)
【文献】国際公開第2019/186690(WO,A1)
【文献】中国特許出願公開第111853285(CN,A)
【文献】特開2019-203644(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F16K 31/04
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
バルブハウジングと、バルブハウジング内に固定のステータと、バルブハウジング内でステータに正対配置されるロータと、ロータが当接するステータの摺動面を通る中心軸線回りにステータに対してロータを摺動回転させるモータとを備え、
ステータの摺動面にその下方から高圧の作動ガスに起因する力が作用してもステータの摺動面がロータに加える摺動面圧を安定化するように、ステータが締結ボルトによりバルブハウジングに固定されると共に、ステータに、中心軸線上に位置させて高圧ガスが流通する第1通路と、第1通路の周囲で中心軸線に沿ってのびる複数本の第2通路とが形成され、ロータに、第1通路に連通する第3通路と、第2通路がバルブハウジングの内部通路に連通した状態からロータを摺動回転させたときに第2通路に選択的に連通する第4通路とが形成され、
摺動面の摺動面圧として予圧を付与する予圧印加手段と、モータの回転軸とロータとの間に介設されて回転トルクをロータに伝達する動力伝達手段と、摺動面に予圧より高い摺動面圧が作用したときに対応する反力を吸収する吸収手段とを更に備えることを特徴とする冷凍機用のロータリーバルブ。
【請求項2】
前記ロータは、前記ステータより剛性の低い異種材料で構成されていることを特徴とする請求項1記載の冷凍機用のロータリーバルブ。
【請求項3】
前記ステータから前記ロータに向かう方向を上とし、前記ロータは、その上部に設けた凹孔内に圧入されて高圧の作動ガスが作用するシリンダヘッドを有し、シリンダヘッドの軸部が前記バルブハウジング内に設けた軸受で支承され、この軸受で前記吸収手段を構成したことを特徴とする請求項1または請求項2記載の冷凍機用のロータリーバルブ。
【請求項4】
前記動力伝達手段は、前記回転軸に連結される上下方向と直交する方向に長手の支持体と、支持体に吊設される複数のピン部材とを備え、支持体に各ピン部材の上端部が遊挿される透孔が形成され、この透孔を挿通させた状態で各ピン部材が前記支持体に着脱自在に取り付けられることで各ピン部材がロータに連結されることを特徴とする請求項1~請求項3のいずれか1項に記載の冷凍機用のロータリーバルブ。
【請求項5】
前記予圧印加手段は、前記支持体と前記ロータとの間に縮設されるコイルバネで構成されることを特徴とする請求項1~請求項のいずれか1項に記載の冷凍機用のロータリーバルブ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、冷凍機用のロータリーバルブに関する。
【背景技術】
【0002】
核磁気共鳴診断装置や物性測定装置では、極低温の環境を形成するためにパルス管冷凍機やGM冷凍機といった各種の冷凍機が用いられている。このような冷凍機は、一般に、圧力振動させた作動ガスを流通させるためにロータリーバルブを備えている。この種の冷凍機用のロータリーバルブは、例えば特許文献1で知られている。
【0003】
このものは、バルブハウジングを備え、バルブハウジング内には、Oリングなどのシール部材を介して気密保持した状態でステータが取り付けられている。バルブハウジング内にはまた、ステータに正対させてロータが、このロータが当接するステータの摺動面を通る中心軸線回りにステータに対して摺動回転自在に配置されている。この場合、ロータは、バルブハウジング内に設けた軸受で支承されるロータホルダに第1連結ピンを介して連結され、ロータホルダは、第2連結ピンを介して、中心軸線上に位置するモータの回転軸に直接取り付けられる回転部材に連結されている。また、ロータとロータホルダとの間にはコイルバネが縮設されている。そして、モータによりロータを一方向に摺動回転させると、圧縮機で圧縮された高圧の作動ガスを、バルブハウジング内を介してパルス管などの冷凍機の構成部品に供給する高圧側通路と、構成部品内での膨張により圧力低下した低圧の作動ガスを圧縮機に回収する低圧側通路とが周期的に切り換わるようになっている。
【0004】
ここで、上記従来例のものでは、ステータの摺動面に、その下方からは低圧の作動ガスに起因する力が、また、その上方からはロータやバルブハウジング内の高圧の作動ガスに起因する力が夫々作用し、その力の差でステータの摺動面に向けてロータに一定の予圧(ステータの摺動面に加わるロータの面圧)が付与される。このとき、バルブハウジング内のステータは中心軸線方向(スラスト方向)には移動の自由度があるので、駆動モータによりロータを一方向に摺動回転させると、摺動面に作用するロータの面圧が周期的に変動する。しかも、ロータの摺動回転に伴うスラスト方向の反力がロータに作用したときにはこれをモータの回転軸が受ける構造となっているので、この場合にもステータの摺動面に加えるロータの面圧が変動してしまう。このように上記従来例のものでは、作動ガスのリークレートとロータの摩耗量との関連などから適した値として定められる面圧を一定に保つことができないばかりか、変動を考慮して面圧の平均値を上げれば、ロータは摩耗して短寿命化し、また、反力が作用することで駆動モータの故障や短寿命化を招来する虞がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開2019-203644号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、以上の点に鑑み、ステータの摺動面に作用する面圧を安定化できる構造を持つ冷凍機用のロータリーバルブを提供することを課題とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決するために、本発明の冷凍機用のロータリーバルブは、バルブハウジングと、バルブハウジング内に固定のステータと、バルブハウジング内でステータに正対配置されるステータと異種材料のロータと、ロータが当接するステータの摺動面を通る中心軸線回りにステータに対してロータを摺動回転させるモータとを備え、ステータに、中心軸線上に位置させて高圧ガスが流通する第1通路と、第1通路の周囲で中心軸線に沿ってのびる複数本の第2通路とが形成され、ロータに、第1通路に連通する第3通路と、第2通路がバルブハウジングの内部通路に連通した状態からロータを摺動回転させたときに第2通路に選択的に連通する第4通路とが形成され、摺動面の摺動面圧として予圧を付与する予圧印加手段と、モータの回転軸とロータとの間に介設されて回転トルクをロータに伝達する動力伝達手段と、摺動面に予圧より高い摺動面圧が作用したときに対応する反力を吸収する吸収手段とを更に備えることを特徴とする。
【0008】
本発明によれば、モータの回転軸を一方向に回転させると、その回転トルクが動力伝達手段を介してロータに伝達され、ステータの摺動面上でロータが摺動回転する。即ち、摺動面に高い摺動面圧が付与されることで各通路間での気密が保持されることにより、第1通路から第2通路を介して、圧縮機で圧縮された高圧の作動ガスをパルス管などの冷凍機の構成部品に流出させる高圧側通路と、構成部品内での膨張により圧力低下した低圧の作動ガスを第2通路からバルブハウジングの内部通路を介して圧縮機に回収できる低圧側通路とが周期的に切り換わる。このとき、バルブハウジング内にステータを固定する(即ち、例えば、締結ボルトによりバルブハウジングにステータが固定されていれば、ステータの摺動面にその下方から高圧の作動ガスに起因する力が作用しても、締結ボルトによりステータの摺動面がロータに加える摺動面圧を常時安定化されることができる)と共に、吸収手段を備えて摺動回転に伴ってロータに作用するスラスト方向の反力を吸収し、モータの回転軸に伝達されない構成を採用したことで、作動ガスのリークレートとロータの摩耗量との関連などから適した値として定められる面圧、即ち、予圧より高い摺動面圧の安定化を図ることができ、しかも、モータの故障や短寿命化を招来することもない。
【0009】
本発明においては、前記ロータは、前記ステータより剛性の低い異種材料で構成されることが好ましい。これにより、ロータが優先的に摩耗することで、ステータの摺動面に作用する面圧が不安定になったとき、ロータのみを交換すれば済む。
【0010】
また、本発明においては、前記ステータから前記ロータに向かう方向を上とし、前記ロータは、その上部に設けた凹孔内に圧入されて高圧の作動ガスが作用するシリンダヘッドを有し、シリンダヘッドの軸部が前記バルブハウジング内に設けた軸受で支承され、この軸受で前記吸収手段を構成すればよい。更に、前記動力伝達手段は、前記回転軸に連結される上下方向と直交する方向に長手の支持体と、支持体に吊設される複数のピン部材とを備え、各ピン部材がロータに連結される構成とすればよい。また、前記予圧印加手段は、例えば、前記支持体と前記ロータとの間に縮設されるコイルバネで構成すればよい。これらの構成を採用すれば、ロータリーバルブの組付けまたは分解に際し、一方向から、吸収手段、動力伝達手段及び予圧印加手段を特段の手工具なしに順次取り付けまたは取り外しができる構造となり、有利である。
【0011】
ところで、ステータの摺動面をロータが一方向に摺動回転したとき、何等かの原因でロータの当接面に偏摩耗が生じ、これに起因してロータの中心軸線がモータの回転軸に対して傾いたとすれば、摺動面に付与される面圧に偏りがある、即ち、面圧が安定化されていないことを示すと共にモータの回転軸に負荷がかかる虞がある。ここで、上記構成では、平面で動作が規制されているので1自由度は既に減じられ、ここから平面からの逸脱をさせない(回転中心から動かさない)とすると、2自由度を減じる必要がある。そこで、上記動力伝達手段は、前記ロータへの連結時に3以上5以下の自由度を許容する構成であればよい。そして、動力伝達手段が支持体とピン部材とを備えてピン部材がロータに連結される構成の場合、前記支持体に各ピン部材の上端部が遊挿される透孔が形成され、この透孔を挿通させた状態で各ピン部材が前記支持体に着脱自在に取り付けられる構成を採用することができる。これによれば、各ピン部材の支持体の長手方向への移動が許容されることで、モータの回転軸に負荷がかかることを回避でき、有利である。なお、透孔が一方向に長手の長孔で構成されているような場合、1自由度が追加されることになるが、事実上、回転中心がずれても良い程度の許容範囲の長孔になっていればよい。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1】本実施形態の冷凍機用のロータリーバルブを適用した冷凍機の構成を示す模式断面図。
図2】(a)及び(b)は、本実施形態のロータリーバルブを作動ガスが流れる通路を切り換えた状態を示す模式断面図。
図3】ロータリーバルブの要部の分解斜視図。
図4】冷凍機用のロータリーバルブの変形例を示す模式断面図。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、図面を参照して、冷凍機を一段式のパルス管冷凍機とし、パルス管冷凍機のパルス管に圧力振動させた作動ガスを流通させるための本発明の冷凍機用のロータリーバルブの実施形態を説明する。
【0014】
図1を参照して、本実施形態のロータリーバルブRVを備えるパルス管冷凍機Prは、ヘリウムガスなどの作動ガスに対し圧力振動を発生させる圧力振動発生手段1と、圧力振動させた作動ガスが流入するパルス管2と、圧力振動発生手段1とパルス管2との間に設けられてパルス管2に流入する作動ガスを予冷する蓄冷器3とを備え、パルス管2の低温端2aと蓄冷器3の低温端3aとがガス通路41を有する冷却ステージ4を介して接続されている。なお、パルス管2、蓄冷器3及び冷却ステージ4といった部品は、公知のものを利用できるため、これ以上の説明を省略する。
【0015】
圧力振動発生手段1は、作動ガスを圧縮する圧縮機11を備える。圧縮機11には、高圧に圧縮された作動ガスが流れる高圧ガスライン51が接続され、高圧ガスライン51は分岐され、この分岐された各高圧ガスライン51a,51bが第1及び第2の各バルブV1,V2を介して、パルス管2及び蓄冷器3の各高温端2b,3bに夫々通じている。圧縮機11にはまた、膨張により圧力低下した低圧の作動ガスが流れる低圧ガスライン52が接続され、低圧ガスライン52は分岐され、この分岐された各低圧ガスライン52a,52bが第3及び第4の各バルブV3,V4を介して、パルス管2及び蓄冷器3の各高温端2b,3bに夫々通じている。これにより、第1及び第2の各バルブV1,V2を開弁、第3及び第4の各バルブV3,V4を閉弁すると、圧縮機11からパルス管2及び蓄冷器3へと高圧の作動ガスが供給される高圧側通路が形成される一方で、第1及び第2の各バルブV1,V2を閉弁、第3及び第4の各バルブV3,V4を開弁すると、低圧の作動ガスが圧縮機11のガス回収側(低圧側)に回収される低圧側通路が形成される。そして、作動ガスの圧力振動の位相を制御してパルス管2の低温端2aにて作動ガスの膨張に伴う寒冷を発生させる。この場合、特に図示して説明しないが、バッファタンクを設けて作動ガスの圧力振動の位相を制御するようにしてもよい。このような第1~第4のバルブV1~V4の切換操作を単一の部品で実現するために本実施形態のロータリーバルブRVが使用される。
【0016】
図2及び図3を参照して、本実施形態のロータリーバルブRVは、バルブハウジング6と、バルブハウジング6に固定されるステータ7と、ステータ7に正対配置されるロータ8と、ロータ8と正対するステータ7の摺動面7aを通る中心軸線Cl回りにロータ8を摺動回転させるモータMtとを備える。以下において、上、下といった方向を示す用語は、図2の姿勢を基準とする。ステンレスなどの金属製のバルブハウジング6は、上面にステータ7が格納される格納部が凹設された下ハウジング61と、下ハウジング61に取り付けたときに、内部にロータ8などの構成部品を収容する収容空間62aが形成される上ハウジング62とを備える。上ハウジング62の側壁には、収容空間62aから、低圧ガスライン52に連通する開口62bが設けられ、収容空間62aが低圧の作動ガスが流通する低圧領域となる。この場合、収容空間62aがバルブハウジング6の内部通路を構成する。格納部には、Oリングなどのシール材Sm1を介してステータ7が圧入され、ステータ7の上面7aが後述のロータ8の摺動面となる。
【0017】
ステータ7は、略円柱状の輪郭を有し、比較的剛性のある例えばステンレスなどの金属製である。そして、締結ボルトBt1により下ハウジング61に固定されている。これにより、ステータ7の摺動面7aにその下方から高圧の作動ガスに起因する力が作用しても、締結ボルトBt1によりステータ7の上下動が防止されて、ステータ7の摺動面7aがロータ8に加える摺動面圧を常時安定化されることができる。ステータ7にはまた、夫々がステータ7の摺動面7aに達する、中心軸線Cl上に位置させて、第1のバルブV1または第2のバルブV2に接続され、かつ、高圧ガスライン51に連通する(圧縮機11で圧縮された高圧の作動ガスが流通する)第1通路L11と、2本の第2通路L21,L22と、2本の小通路L23,L24とが設けられている。この場合、図3に示すように、各第2通路L21,L22の摺動面7aへの開口端L21a,L22aは、第1通路L11の摺動面7aへの開口端L11aの両側にロータ8の摺動回転方向に間隔を置いて形成されている。各小通路L23,L24の摺動面7aへの開口端L23a,L24aは、開口端L21a,L22aより小面積であり、ロータ7の摺動回転方向前方で開口端L21a,L22aに近接させて設けられ、作動ガスに対し圧力振動を発生させる役割を果たす。
【0018】
ロータ8は、円柱状の基部81と、基部81の下面に形成された基部81より小径の摺動部82とで構成される。摺動部82は、円柱状部材の外周から互いに対称な扇状領域を切り欠いた輪郭を有し、摺動部82の下面がステータ7への摺動面に当接する当接面(反力が作用する受圧面)8aとなる。この場合、摺動部82の扇状に切り欠いた部分が開口端L21a,L22a及びL23a,L24a上に位置する場合には、各第2通路L21,L22がバルブハウジング6内の収容空間62aを介して低圧ガスライン52に連通した状態になる(図2(b)参照)。また、ロータ8は、ステータ7より比較的剛性の低い樹脂製であり、ここで使用される樹脂としては、例えばBEAREE(登録商標)のようなフッ素樹脂が挙げられる。その他、ロータとステータとを比べた際にロータ側は、縦弾性係数が低い材料を用いることができる。このようにロータ8とステータ7とを異種の材料としておけば、ロータ8が優先的に摩耗することで、ステータ7の摺動面7aに作用する面圧が不安定になったとき、ロータ8のみを交換すれば済む。ロータ8にはまた、上下方向に貫通して第1通路L11に常時連通する第3通路L3と、各第2通路L21,L22がバルブハウジング6内の収容空間62aに連通した状態からロータ8を摺動回転させたときに、開口端L21a,L22aに、または、開口端L21a,L23a及び開口端L22a,L24aに選択的に合致する開口端L41a,L42aを持つ2本の第4通路L41,L42がロータ8の摺動回転方向に間隔を置いて形成されている。
【0019】
ロータ8の基部81上面には、格納部81aとしての凹孔が凹設され、格納部81aには、OリングOr1を介して、シリンダヘッド83が中心軸線方向(スラスト方向)に移動の自由度を持って圧入されている。そして、第1通路L11及び第3通路L3から高圧の作動ガスが作用すると、シリンダヘッド83の下方に位置する格納部81a内の空間に連通空間84を画成されるようにしている。この場合、シリンダヘッド83下面の面積等は、高圧ガスが流通するときに圧力損失が生じない大きさの隙間dとなるように適宜設計される。シリンダヘッド83には、後述の支持体が嵌合する凹溝83aを有する円筒状の軸部83bが一体に形成され、軸部83bを介して上ハウジング62の収容空間62aに設けた軸受Brで支承され、軸受Brが本実施形態の吸収手段を構成する。なお、軸受Brは、上ハウジング62の上壁内面に形成した段差部に設けているが、これに限定されるものではない。なお、シリンダヘッド83下面の面積に対して高圧ガスライン51と低圧ガスライン52との差圧が作用するので、差圧によってシリンダヘッド83が受けた力が摺動面に対して予圧より高い摺動面圧となる。つまり、シリンダヘッド83とロータ8で実質的に画成されている連通空間84の内部圧力は摺動面に対して予圧より高い摺動面圧となると共に、次のような構成を持つことで摺動面圧の変動を抑止している。即ち、シリンダヘッド83が受ける反力(摺動面圧に対応する反力)を支承されている軸受Brに伝え、これを図示しない締結ボルトを含めて結合されている上ハウジング62、下ハウジング61、ステータ7へと順に伝え、ロータ8とステータ7との間の摺動面にて拮抗する構成である。このように予圧より高い摺動面圧を生じさせるのにあたっては他の構成要素からの影響を排除する特徴を持つ。この際、モータMtはこの力の伝播経路に含まれないため、予圧より高い摺動面圧からは影響を受けず、且つ、摺動面の面圧に対してその回転トルクが影響を与えないように各ピン部材93が2本配置され、モーメント起因の変動の低減が図られている。
【0020】
支持体9は、スラスト方向にのびる角柱状部91と、角柱状部91の下端でスラスト方向と直交する方向(図2(b)中、左右方向)にのびる板状部92とで構成され、板状部92の長手方向両端部分に、2本のピン部材93が吊設されている。この場合、板状部92には、その長手方向に沿う長孔(透孔)92aが夫々形成されている。そして、各長孔92aに各ピン部材93の上部が夫々遊挿され、各長孔92aから上方に突出する各ピン部材93の上端部分に形成した溝93aにE型止め輪(Eリング)Erを取り付けることで、各ピン部材93が吊設される。この場合、支持体9や各ピン部材93といった部品が本実施形態の動力伝達手段を構成する。各ピン部材93の下端は、ロータ8の上面に形成されたピン穴85にOリングなどを介して夫々係止されている。一方、角柱状部91には、上ハウジング62の上面に設けたモータMtの回転軸Arが隙間を持って挿設される角穴91aが形成されている。なお、回転軸Arは角穴91aに倣う角柱状とする。
【0021】
上ハウジング62には、モータMtを囲うようにしてカバー体63が設けられている。カバー体63は上ハウジング62に締結ボルトBt2で固定され、カバー体63の下面にはOリングなどのシール部材Sm2が設けられている。低圧領域としての収容空間62aに連通するカバー体63の内部空間63aには、モータMtが取り付けられている。そして、中心軸線Cl上に位置するモータMtの回転軸Arが上ハウジング62に設けた透孔62cを通って収容空間62a内に突出し、OリングOr2を介在させて回転軸Arが挿設されている。これにより、回転軸Arは角穴91aに倣う角柱状であるので、角穴91a内面部にて相互が2線あるいは3点接触することによりトルクの伝達が可能となり、よって、回転軸Arと共に支持体9が回転され、このときの隙間の存在により、支持体9が何等かの原因で傾動しても回転軸Arに負荷がかからないようになっている。なお、隙間に存するOリングOr2は、その接触面に垂直抗力を与えるように配置されているため、回転軸Arと支持体9がOリングOr2の静止摩擦力で結合されている。また、支持体9とロータ8との間にはピン部材93に外挿されたコイルバネCsが縮設され、コイルバネCsの付勢力により、ステータ7の摺動面7aに所定の予圧(面圧)が付与され、コイルバネCsが本実施形態の予圧印加手段を構成する。
【0022】
以上によれば、図2(a)に示すロータリーバルブRVを起点状態とし、この起点状態では、ロータ8の摺動部82における開口端L41a,L42aが、ステータ7の摺動面7aにおける開口端L21a,L23a及び開口端L22a,L24aに上下方向で合致する。つまり、図1でいうところの第1及び第2の各バルブV1,V2が開弁、第3及び第4の各バルブV3,V4が閉弁した状態となり、高圧ガス通路が形成されて、圧縮機11で圧縮されて第1通路L11に流入した高圧の作動ガスが高圧ガスライン51a,51bを介してパルス管2及び蓄冷器3へと供給される。この状態からモータMtの回転軸Arを一方向に回転駆動させると、回転トルクが支持体9と各ピン部材93とを介してロータ8に伝達され、ステータ7の摺動面7aをロータ8が一方向に摺動回転する。このとき、開口端L41a,L42aのない摺動部82の当接面8aの部分でステータ7の摺動面7aにおける開口端L21a,L23aと開口端L22a,L24aとが順次閉塞され、その後、摺動面7aのないステータ7の部分(扇形に切り欠いた部分)を介して、各第2通路L21,L22がバルブハウジング6内の収容空間62aに連通した状態となり、図2(b)に示すように、ロータ8が所定の回転角で摺動回転した位置で完全に開放される。つまり、図1でいうところの第1及び第2の各バルブV1,V2が閉弁、第3及び第4の各バルブV3,V4が開弁した状態となり、低圧側通路が形成されて、膨張により圧力低下した低圧の作動ガスが低圧ガスライン52a,52bを介して圧縮機11のガス回収側に回収される。
【0023】
ロータ8を一方向に更に摺動回転させると、摺動部82の開口端L41a,L42aがステータ7の摺動面7aにおける開口端L23a,L24aと先ず合致して図1でいうところの第2のバルブV2が開弁、第1,第3及び第4の各バルブV1,V3,V4が閉弁した状態となり、高圧の作動ガスが高圧ガスライン51bを介してパルス管2へと先ず供給される。次に、摺動部82の開口端L41a,L42aがステータ7の摺動面7aにおける開口端L21a,L22aにも合致して高圧の作動ガスが高圧ガスライン51aを介して蓄冷器3にも供給される(高圧側通路が完全に形成された状態となる)。これら操作が繰り返され、作動ガスに対し圧力振動を発生させながら高圧側通路と低圧側通路とが周期的に切り換わる。なお、圧力振動に伴う進行波によって定常的に高温部と低温部が形成されていればよく、図3に示すロータ8の摺動回転方向や開口端L41a,L42a、開口端L21a,L22a,L23a,L24aの形状は上記に限定されない。
【0024】
このように本実施形態によれば、バルブハウジング6内にステータ7を締結ボルトBt1で固定すると共に、軸受Brを備えて摺動回転に伴ってロータ8に作用するスラスト方向の反力を吸収し、モータMtの回転軸Arに伝達されない構成を採用したことで、作動ガスのリークレートとロータ8の摩耗量との関連などから適した値として定められる面圧の安定化を図ることができ、しかも、モータMtの故障や短寿命化を招来することもない。加えて、面圧の安定化は平均面圧値を要求されるリークレートへと漸近させることができ(つまり、従来構成より平均面圧値を減少させることができ)、これにより、ロータ8の摩耗量を減少させた(寿命を改善した)構成とすることができる。また、EリングErを用いて支持体9とピン部材93とを係止すると共に、OリングOr1を用いてピン部材93とロータ8とを係止することで、ロータリーバルブRVの組付けまたは分解に際し、一方向から、軸受Br、支持体9、ピン部材93及びコイルバネCsをドライバなどの特段の手工具なしに順次取り付けまたは取り外しができる構造となり、有利である。
【0025】
ここで、ステータ7の摺動面7aをロータ8が一方向に摺動回転したとき、何等かの原因でロータ8の当接面8aに偏摩耗が生じ、これに起因してロータ8の中心軸線がモータMtの回転軸Arに対して傾いたのでは、モータMtの回転軸Arに負荷がかかる虞がある。それに対して、本実施形態では、支持体9に各ピン部材93の上端部が遊挿される透孔92aが形成され、この透孔92aを挿通させた状態で各ピン部材93が支持体9に着脱自在に取り付けているため、各ピン部材93の支持体9の長手方向への移動が許容されることで、モータMtの回転軸Arに負荷がかかることを回避でき、有利である。なお、長手の支持体9と支持体9に吊設される複数のピン部材93とを有するものを例に動力伝達手段を説明したが、平面で動作が規制されているので1自由度は既に減じられ、ここから平面からの逸脱をさせない(回転中心から動かさない)とすると、2自由度を減じる必要がある。そこで、動力伝達手段としては、ロータ8への連結時に3以上5以下の自由度を許容する構成であればよい。また、透孔92aが一方向に長手の長孔で構成されているような場合、1自由度が追加されることになるが、事実上、回転中心がずれても良い程度の許容範囲の長孔になっていればよい。
【0026】
以上、本発明の実施形態について説明したが、本発明の技術思想の範囲を逸脱しない限り、種々の変形が可能である。上記実施形態では、パルス管冷凍機Prに適用されるロータリーバルブRVを例に説明したが、これに限定されず、GM冷凍機など他の冷凍機にも適用することができる。また、上記実施形態では、予圧付与手段としてコイルバネCsを用いる場合を例に説明したが、これに限定されるものではない。例えば、同一の要素または部材に同一の符号を付した図4を参照して、変形例に係るロータリーバルブRVでは、コイルバネCsに代えて、取付ナット95で締結されるダイヤフラムDpが用いられる。ダイヤフラムDp上面には、金属製の板材Pmが密着配置されている。板材Pmの上面中央には、上記実施形態の角柱状部91に対応する角柱状体96が取り付けられている。このように予圧付与手段は、図2または図4の組立状態を起因とする弾性変形が予圧となる構成とすればよい。弾性変形を利用することでロータリーバルブの姿勢(重力加速度方向)に依らず、摺動面に安定した予圧を与えることできる。なお、本変形例での予圧より高い摺動面圧は、ダイヤフラムDpとロータ8で実質的に画成されている連通空間84同様の内部圧力によってもたらされ、また、差圧を受ける面積であるシリンダヘッド83下面の面積は、少なくともダイヤフラムDp上面の金属製の板材Pmの面積に相当し、これが予圧より高い摺動面圧となる。
【0027】
角柱状体96の周囲に位置させて板材Pmの上面には周方向に等間隔で3個のプランジャタイプのボールローラ97が設けられ、ボールローラ97の上端に転動自在に設けたボール97aが上ハウジング62の上壁内面に当接させている。これにより、本変形例の吸収手段としてロータ8に作用するスラスト方向の反力を吸収することが可能になる。この場合、角柱状体96には回転軸Arが隙間を存して挿入される角穴96aが形成され、回転軸Arに各柱状体96が係止され、モータMtの回転軸Arの回転トルクがピン98のせん断応力を介してロータ8に伝達される。ピン98は、割りピンまたは針金で構成することができ、組立や分解時に手工具を用いることなく着脱可能となる。なお、ピン98の代わりに、上記実施形態の如く、回転軸Arの軸形状を角柱としてOリングを用いて係止することもできる。また、上記変形例の如く、単一のダイヤフラムDpを用いると、その下面(押圧面)中央からずれた位置に力が加わると、モーメントが発生するので、回転軸Arの回転軸線に対して周方向に等間隔で複数(例えば120°間隔で3つ)のダイヤフラムを配置して、各ダイヤフラムの押圧面に働くモーメントの和をゼロにするようにしてもよい。好ましくは、可能な範囲で回転軸線から遠方に配置する構成とする。このように構成することで摺動面に付与される面圧について均等を維持するのと同時に偏摩耗の進行を防止することができる。
【0028】
また、上記実施形態では、各ピン部材93が長孔92aに遊挿することで、各ピン部材93ひいてはロータ8の支持体9の長手方向への移動を許容しているが、3以上5以下の自由度を許容する構成であればこれに限定されるものではない。例えば、支持体9とロータ8とをフレキシブルジョイントで連結することもできる。この場合も、ロータ8の支持体9の長手方向への移動が許容されるため、モータMtの回転軸Arに負荷がかかることを回避できる。フレキシブルジョイントとしては、例えば等速ジョイントやオルダム継手などの公知のものを利用できるため、これ以上の説明を省略する。なお、自由度の数を3以上の4または5とした場合は、増加した自由度について規制要素が設けられることが好ましい。上記実施形態では長孔92aの長手方向の寸法からピン部材93上部の遊挿部位の寸法を差し引いた距離が、この規制要素の典型例となる。この規制要素は、例えば摺動面の気密すなわち各通路間での気密が保持され、かつ連通空間84同様の内部圧力からもたらされる摺動面圧の変動が1%以下となるように設けられる。このように構成することで、安定した摺動面圧が保たれる。
【0029】
また、シリンダヘッド83とロータ8との間である格納部81aについて、例えば「JIS B 0401-1:2016」に示されるすきまばめを適用すれば、実質的にロータ8の自由動を回転軸Arの回転軸線の回転および軸方向のみの2自由度に制限することができ、摺動面圧の偏りを防止すると共に、その面圧を安定化することができる。ダイヤフラムDpを用いる変形例の場合は、シリンダヘッド83とロータ8との構成と同様の効果を奏するリニアガイドを付加すればよい。このようにロータ8の自由度が制限されるように構成されている場合は、動力伝達手段の自由度は4自由度以上であっても制限される。つまり、増加した自由度について規制要素を設ける必要はない。
【符号の説明】
【0030】
RV,RV…ロータリーバルブ、Pr…パルス管冷凍機(冷凍機)、6…バルブハウジング、62a…収容空間(内部通路)、7…ステータ、8…ロータ、81a…格納部(凹孔)、83…シリンダヘッド、83b…軸部、Mt…モータ、L1…第1通路、L21,L22…第2通路、L3…第3通路、L4…第4通路、Br…ベアリング(吸収手段)、9…支持体(動力伝達手段)、92a…長孔(透孔)、93…ピン部材(動力伝達手段)、Cs…コイルバネ(予圧印加手段)。
図1
図2
図3
図4