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特許7659480ショットキー熱電界放出(TFE)源と一体化されたビームスプリッタ、ショットキー熱電界放出(TFE)源とビームスプリッタの一体化方法、及びマルチビーム形成方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2025-04-01
(45)【発行日】2025-04-09
(54)【発明の名称】ショットキー熱電界放出(TFE)源と一体化されたビームスプリッタ、ショットキー熱電界放出(TFE)源とビームスプリッタの一体化方法、及びマルチビーム形成方法
(51)【国際特許分類】
   H01J 37/06 20060101AFI20250402BHJP
【FI】
H01J37/06 A
【請求項の数】 20
(21)【出願番号】P 2021156836
(22)【出願日】2021-09-27
(65)【公開番号】P2022069399
(43)【公開日】2022-05-11
【審査請求日】2024-08-06
(31)【優先権主張番号】17/078,681
(32)【優先日】2020-10-23
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(73)【特許権者】
【識別番号】504162958
【氏名又は名称】株式会社ニューフレアテクノロジー
(73)【特許権者】
【識別番号】317008610
【氏名又は名称】ニューフレアテクノロジー アメリカ,インク.
【氏名又は名称原語表記】NuFlare Technology America,Inc.
【住所又は居所原語表記】1294 Hammerwood Avenue,Sunnyvale,CA 94089,U.S.A.
(74)【代理人】
【識別番号】100119035
【弁理士】
【氏名又は名称】池上 徹真
(74)【代理人】
【識別番号】100141036
【弁理士】
【氏名又は名称】須藤 章
(72)【発明者】
【氏名】ヴィクター カツァプ
【審査官】大門 清
(56)【参考文献】
【文献】米国特許出願公開第2014/0224985(US,A1)
【文献】特開2021-61096(JP,A)
【文献】特開平4-179116(JP,A)
【文献】特表2020-518990(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01J 37/06
H01J 37/09
H01J 1/304
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
エクストラクタフェースプレートを有するショットキー熱電界放出(TFE)エミッタと、
前記エクストラクタフェースプレートと一体化されるスタンドオフと、
前記スタンドオフと一体化されて前記エクストラクタフェースプレートの反対側に配置され、複数のマイクロホールを有する、マイクロホールアレイプレートと、
を備えることを特徴とするショットキー熱電界放出(TFE)源と一体化されたビームスプリッタ。
【請求項2】
前記エクストラクタフェースプレート、前記スタンドオフ、及び、前記マイクロホールアレイプレートと、が同じ材料から製造されることを特徴とする請求項1に記載のショットキー熱電界放出(TFE)源と一体化されたビームスプリッタ。
【請求項3】
前記同じ材料がチタン-ジルコニウム-モリブデン、チタン、又は、ステンレス鋼であることを特徴とする請求項2に記載のショットキー熱電界放出(TFE)源と一体化されたビームスプリッタ。
【請求項4】
前記同じ材料が機械加工可能な導電性セラミック材料であることを特徴とする請求項2に記載のショットキー熱電界放出(TFE)源と一体化されたビームスプリッタ。
【請求項5】
前記機械加工可能な導電性セラミック材料がアルミナであることを特徴とする請求項4に記載のショットキー熱電界放出(TFE)源と一体化されたビームスプリッタ。
【請求項6】
前記エクストラクタフェースプレート、前記スタンドオフ、及び、前記マイクロホールアレイプレートが同じ又は異なる材料から製造されることを特徴とする請求項1に記載のショットキー熱電界放出(TFE)源と一体化されたビームスプリッタ。
【請求項7】
前記エクストラクタフェースプレートがステンレス鋼から製造され、前記スタンドオフが抵抗性材料から製造され、及び、前記マイクロホールアレイプレートが機械加工可能なセラミック材料から製造されることを特徴とする請求項6に記載のショットキー熱電界放出(TFE)源と一体化されたビームスプリッタ。
【請求項8】
前記エクストラクタフェースプレートがステンレス鋼から製造され、前記スタンドオフ及び前記マイクロホールアレイプレートが機械加工可能な導電性のセラミック材料から製造されることを特徴とする請求項6に記載のショットキー熱電界放出(TFE)源と一体化されたビームスプリッタ。
【請求項9】
前記機械加工可能なセラミック材料がアルミナであることを特徴とする請求項8に記載のショットキー熱電界放出(TFE)源と一体化されたビームスプリッタ。
【請求項10】
前記スタンドオフの第1の端部が前記エクストラクタフェースプレートに一体化され、
前記スタンドオフの第2の端部に配置されるとともに前記スタンドオフを前記マイクロホールアレイプレートに接続するように構成される装着形態部をさらに備えることを特徴とする請求項1に記載のショットキー熱電界放出(TFE)源と一体化されたビームスプリッタ。
【請求項11】
前記スタンドオフは、前記マイクロホールアレイプレートを前記エクストラクタフェースプレートから0.5mm~2mmだけ離間させることを特徴とする請求項1に記載のショットキー熱電界放出(TFE)源と一体化されたビームスプリッタ。
【請求項12】
前記マイクロホールアレイプレートのマイクロホールアレイが3×3アレイ又は4×5アレイ又は5×5アレイであることを特徴とする請求項1に記載のショットキー熱電界放出(TFE)源と一体化されたビームスプリッタ。
【請求項13】
前記マイクロホールアレイプレートにおける前記マイクロホールのそれぞれが同じ直径を有し、前記直径が10ミクロン~120ミクロンであることを特徴とする請求項1に記載のショットキー熱電界放出(TFE)源と一体化されたビームスプリッタ。
【請求項14】
前記マイクロホールは、前記ビームスプリッタの中心から前記ビームスプリッタの外周に向かってサイズが増大することを特徴とする請求項1に記載のショットキー熱電界放出(TFE)源と一体化されたビームスプリッタ。
【請求項15】
ビームスプリッタをショットキー熱電界放出(TFE)エミッタのエクストラクタフェースプレートと一体化させるためのビームスプリッタの一体化方法であって、
スタンドオフの第1の端部を前記エクストラクタフェースプレートに一体化させる工程と、
基板にマイクロホールを形成することによりマイクロホールアレイプレートを形成する工程と、
前記マイクロホールアレイプレートを前記スタンドオフの第2の端部に取り付ける工程と、
を備え、
前記第2の端部が前記第1の端部の反対側であり、
前記スタンドオフは、前記マイクロホールアレイプレートを前記エクストラクタフェースプレートの上方に0.5mm~2mmの距離で支持する、
ことを特徴とするショットキー熱電界放出(TFE)源とビームスプリッタの一体化方法。
【請求項16】
前記スタンドオフを前記エクストラクタフェースプレートに溶接することによって前記スタンドオフの前記第1の端部を一体化させる工程、又は、
前記スタンドオフを前記エクストラクタフェースプレートに蝋付けすることによって前記スタンドオフの前記第1の端部を一体化させる工程、又は、
前記スタンドオフの前記第1の端部の内部に溝を機械加工し、前記エクストラクタフェースプレートを前記溝に挿入し、前記エクストラクタフェースプレートを前記スタンドオフに溶接することによって、前記スタンドオフの前記第1の端部を一体化させる工程、
をさらに備えたことを特徴とする請求項15に記載のショットキー熱電界放出(TFE)源とビームスプリッタの一体化方法。
【請求項17】
溶接、摩擦攪拌溶接、半田付け、クランプ、又は熱接着剤による結合によって前記マイクロホールアレイプレートを前記スタンドオフに取り付ける工程をさらに備えたことを特徴とする請求項15に記載のショットキー熱電界放出(TFE)源とビームスプリッタの一体化方法。
【請求項18】
前記マイクロホールアレイプレートを形成する工程において、前記基板に複数のマイクロホールがマイクロドリル加工により形成され、
前記マイクロホールの直径は、前記マイクロホールアレイプレートの中心から前記マイクロホールアレイプレートの外周に向かって増大することを特徴とする請求項15に記載のショットキー熱電界放出(TFE)源とビームスプリッタの一体化方法。
【請求項19】
前記マイクロホールアレイプレートを形成する工程において、前記マイクロホールアレイプレートにおける前記マイクロホールがマイクロマシニングによって形成され、
前記マイクロマシニングがマイクロドリル加工又は化学エッチングを含む、
ことを特徴とする請求項15に記載のショットキー熱電界放出(TFE)源とビームスプリッタの一体化方法。
【請求項20】
複数の電子ビームを形成するためのマルチビーム形成方法において、
ショットキー熱電界放出(TFE)エミッタに電力を供給してエクストラクタ開口で電子ビームを生成する工程と、
エクストラクタ接点に電圧を供給する工程と、
複数のマイクロホールを備えるマイクロホールアレイプレートに電子ビームを通すことによって前記電子ビームを複数の電子ビームに分割する工程であって、前記マイクロホールアレイプレートが、エクストラクタフェースプレートと一体化されるスタンドオフによって前記エクストラクタフェースプレートの0.5mm~2mm上方に支持される、工程と、
を備えたことを特徴とするマルチビーム形成方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明の実施態様は、ショットキー熱電界放出(TFE)源と一体化されたビームスプリッタ、ショットキー熱電界放出(TFE)源とビームスプリッタの一体化方法、及びマルチビーム形成方法に関する。一般に、スタンドオフによってビームスプリッタとマイクロホールアレイプレートとが一体化されるショットキー熱電界エミッタ(TFE)のエクストラクタに関し、スタンドオフは、エクストラクタの上方に及びエクストラクタに近接してビームスプリッタのマイクロホールアレイプレートを支持する。
【背景技術】
【0002】
走査型電子顕微鏡(SEM)は、ターゲット材料に衝突するべく使用される電子ビームを生成する電界放出銃(FEG)を必要とする。FEGは、電子ビーム源としてショットキーTFEエミッタを含む場合がある。
【0003】
初期のSEMは単一の電子ビームのみを備えていた。各ビームは小さなターゲット領域しか走査できなかったため、単一のターゲットのラスタ走査には多くの時間/日数を要した。
【0004】
複数のビーム又はビームレットを使用する試みがなされてきた。これまでの取り組みには、固体フォイルの複数の穴のアレイとしてスタンドアロンビームスプリッタを使用すること、及び、このスタンドアロンビームスプリッタを、FEGの内部又は鏡筒の外部などの熱電界放出源から離れた場所に配置することが含まれていた。
【0005】
これらの設計の制限としては、以下が挙げられるが、これらに限定されない。
(1)分割前の大きなビーム電流は、スプリッタに到達する前に長距離を移動する必要があり、これにより、望ましくない広範囲にわたる確率的な空間電荷効果が生じ、電子のエネルギー拡散が広がるとともに、軌道が変位し、その結果、ビームレットぼけや、ピンぼけが引き起こされる。
(2)ショットキーTFEによって放出される強く発散するビームは、ほんの僅かな数の電子が遠隔のスタンドアロンビームスプリッタの個々の穴を通過するので各分割ビーム(ビームレット)の全電流は非常に小さい。
【0006】
ショットキーTFE源は、タングステンワイヤの周囲にジルコニウムリザーバを備える非常に鋭利なチップを伴う単結晶タングステンワイヤから成る。チップはヘアピンフィラメントに取り付けられ、ヘアピンフィラメントは、チップを1750K~1850Kの温度に維持するために使用される。このアセンブリはセラミックベース上に取り付けられ、2つの電極が加えられる。
【0007】
第1の電極は、タングステンワイヤを取り囲む開口を有するサプレッサである。第2の電極は、ワイヤのチップの真上に開口を有するエクストラクタである。チップは、サプレッサの開口を通じて突出するとともに、エクストラクタと対向しており、これは、ショットキーチップ、サプレッサ、及び、エクストラクタから構成される従来の三極管銃のアノードと見なされ得る。電子は、チップにおける熱励起及び電界の両方に起因してチップから放出される。チップの半径は一般に0.3ミクロン~1.0ミクロンの範囲である。エクストラクタの中心孔は一般にチップから0.5ミクロンである。
【0008】
電子ビームがショットキーTFEエミッタから放出されると、ビームは、エクストラクタのレンズ効果、電子の熱速度、及び、ベルシュ効果に起因して広がる。ベルシュ効果とは、電子間の確率的クーロン相互作用を指し、この相互作用は、電子のエネルギー拡散を増大させて、色収差及び軌道変位の増大を引き起こす。
【0009】
FEGは、ショットキーTFEエミッタを保持するとともに、ビームを成形及び整列させるための更なる電極を有する。これらの電子の機能は、差動ポンピング開口としても知られるFEG出口開口にビームを集束させることである。FEGの内部は、真空下にあり、ショットキー動作のために必要に応じて一般に4×10-9Torr未満の圧力を伴う。
【0010】
しかしながら、単一のTFEは、単一の狭いビームのみをターゲットに送出できる。従来の解決策は、カソード電極の後で且つFEGの出口開口の前のあるポイントに位置されるビームスプリッタで電子ビームを分割することを含む。
【0011】
FEG内にビームスプリッタを含める試みがなされてきた。図1は、一実施形態の比較例におけるビームスプリッタを含むショットキーTFEエミッタを示す概略図である。また、図1は、FEG102の内側であるがショットキーTFEエミッタ104、サプレッサ106及びエクストラクタ108のフェースプレートから距離を隔てて位置されるビームスプリッタ114を示す概略図である。
FEG102は、ショットキーTFEエミッタ104を真空内に保持する。FEG側の真空は10-9Torr程度である。チップ105は、エクストラクタ108の背後に位置される。チップ105が電子を放出すると、電子は、エクストラクタ108における電位によってエクストラクタ108に向けて引き寄せられる。非限定的な例では、エクストラクタ電圧が2kV~7kV程度になり得る。エクストラクタ108の上端面(図1では、エクストラクタ108の下面)がTFEのフェースプレートである。電子ビーム116がエクストラクタ108、及び電極110、112によって成形されて、電子ビームがビームスプリッタ114に集束される。分割ビーム118(ビームレット)は、ビームスプリッタ114から抜け出て、下方にある光学素子によってターゲット(図1に示されない)上へ集束される。ターゲットでは、単一のビームではなく、分割ビーム118(ビームレット)が、単一のビームよりも広い面積のターゲットを同時に走査できる。しかしながら、この手法では、ビームスプリッタ114を通過するビームの電流密度が小さい。これは、分割前のビームがエクストラクタ108からビームスプリッタ114へ移動する長い距離にわたって空間電荷効果に起因して分割前の電子ビーム116のエネルギー拡散及び軌道変位が高いからである。更に、高真空を維持することは難しく、そのため、多電極デバイスの製造が高価になる。
【0012】
他の従来の解決策は、FEGの外側、鏡筒内のどこかにビームスプリッタを位置させることである。図2は、一実施形態の比較例におけるショットキーTFEエミッタのエクストラクタフェースプレートの上方に支持されるビームスプリッタを示す概略図である。また、図2は、チップ205を有するショットキーTFEエミッタ204、開口プレート206、及び、エクストラクタ208を含むFEG202を示す概略図である。電子ビーム216は、それがコリメータレンズ220に到達するまで広がる。その後、コリメートされたビームは、ビームスプリッタ214を通過して分割ビーム218を形成する。コンデンサレンズ222、ブランカ開口224、ビームストッパ226、及び、投影レンズ230が、分割ビーム218(ビームレット)をターゲット234上に集束させる。ビームストッパ226は、各分割ビーム218の過剰な広がりを取り除く。これは、これらの発散ビーム228がターゲットでノイズを引き起こし得るからである。しかしながら、図2の従来の解決策におけるターゲットでの分割ビーム218は、ビームスプリッタ214における分割前のビームの直径が大きいため、低電流を有する。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
前述の構造のそれぞれは、それらの採用を妨げる1つ以上の欠点に見舞われる。したがって、以下、実施形態の1つの目的は、ビームが幅広く発散する前にショットキーTFEエミッタと一体化したビームスプリッタが電子ビームを分割し、それにより、各分割ビームの電流を高く保つとともに、ビームの発生ポイント(ショットキーチップ)に非常に近いビームを分割することにより空間電荷効果を減少させる。したがって、以下、実施形態では、分割前の高電流ビームの長距離移動を防止するための方法及びシステムを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0014】
本発明の一態様のショットキー熱電界放出(TFE)源と一体化されたビームスプリッタは、
エクストラクタフェースプレートを有するショットキーTFEエミッタと、
前記エクストラクタフェースプレートと一体化されるスタンドオフと、
前記スタンドオフと一体化されて前記エクストラクタフェースプレートの反対側に配置され、複数のマイクロホールを有する、マイクロホールアレイプレートと、
を備えることを特徴とする。
【0015】
また、エクストラクタフェースプレート、前記スタンドオフ、及び、前記マイクロホールアレイプレートと、が同じ材料から製造されると好適である。
【0016】
また、上述した同じ材料がチタン-ジルコニウム-モリブデン、チタン、又は、ステンレス鋼であると好適である。
【0017】
或いは、同じ材料が機械加工可能な導電性セラミック材料であると好適である。
【0018】
また、機械加工可能な導電性セラミック材料がアルミナであると好適である。
【0019】
或いは、エクストラクタフェースプレート、前記スタンドオフ、及び、前記マイクロホールアレイプレートが同じ又は異なる材料から製造されると好適である。
【0020】
また、エクストラクタフェースプレートがステンレス鋼から製造され、前記スタンドオフが抵抗性材料から製造され、及び、前記マイクロホールアレイプレートが機械加工可能なセラミック材料から製造されると好適である。
【0021】
或いは、エクストラクタフェースプレートがステンレス鋼から製造され、前記スタンドオフ及び前記マイクロホールアレイプレートが機械加工可能な導電性のセラミック材料から製造されると好適である。
【0022】
また、機械加工可能なセラミック材料がアルミナであると好適である。
【0023】
また、スタンドオフの第1の端部が前記エクストラクタフェースプレートに一体化され、
前記スタンドオフの第2の端部に配置されるとともに前記スタンドオフを前記マイクロホールアレイプレートに接続するように構成される装着形態部をさらに備えると好適である。
【0024】
また、スタンドオフは、前記マイクロホールアレイプレートを前記エクストラクタフェースプレートから0.5mm~2mmだけ離間させると好適である。
【0025】
また、マイクロホールアレイプレートのマイクロホールアレイが3×3アレイ又は4×5アレイ又は5×5アレイであると好適である。
【0026】
また、マイクロホールアレイプレートにおける前記マイクロホールのそれぞれが同じ直径を有し、前記直径が10ミクロン~120ミクロンであると好適である。
【0027】
また、マイクロホールは、前記ビームスプリッタの中心から前記ビームスプリッタの外周に向かってサイズが増大すると好適である。
【0028】
本発明の一態様のショットキー熱電界放出(TFE)源とビームスプリッタの一体化方法は、
ビームスプリッタをショットキーTFEエミッタのエクストラクタフェースプレートと一体化させるためのビームスプリッタの一体化方法であって、
スタンドオフの第1の端部を前記エクストラクタフェースプレートに一体化させる工程と、
基板にマイクロホールを形成することによりマイクロホールアレイプレートを形成する工程と、
前記マイクロホールアレイプレートを前記スタンドオフの第2の端部に取り付ける工程と、
を備え、
前記第2の端部が前記第1の端部の反対側であり、
前記スタンドオフは、前記マイクロホールアレイプレートを前記エクストラクタフェースプレートの上方に0.5mm~2mmの距離で支持する、
ことを特徴とする。
【0029】
また、スタンドオフを前記エクストラクタフェースプレートに溶接することによって前記スタンドオフの前記第1の端部を一体化させる工程、又は、
前記スタンドオフを前記エクストラクタフェースプレートに蝋付けすることによって前記スタンドオフの前記第1の端部を一体化させる工程、又は、
前記スタンドオフの前記第1の端部の内部に溝を機械加工し、前記エクストラクタフェースプレートを前記溝に挿入し、前記エクストラクタフェースプレートを前記スタンドオフに溶接することによって、前記スタンドオフの前記第1の端部を一体化させる工程、
をさらに備えると好適である。
【0030】
また、溶接、摩擦攪拌溶接、半田付け、クランプ、又は熱接着剤による結合によって前記マイクロホールアレイプレートを前記スタンドオフに取り付ける工程をさらに備えると好適である。
【0031】
また、マイクロホールアレイプレートを形成する工程において、基板に複数のマイクロホールがマイクロドリル加工により形成され、
前記マイクロホールの直径は、前記マイクロホールアレイプレートの中心から前記マイクロホールアレイプレートの外周に向かって増大すると好適である。
【0032】
また、マイクロホールアレイプレートを形成する工程において、マイクロホールアレイプレートにおける前記マイクロホールがマイクロマシニングによって形成され、
前記マイクロマシニングがマイクロドリル加工又は化学エッチングを含む、と好適である。
【0033】
本発明の一態様のマルチビーム形成方法は、
複数の電子ビームを形成するためのマルチビーム形成方法において、
ショットキー熱電界放出(TFE)エミッタに電力を供給してエクストラクタ開口で電子ビームを生成する工程と、
エクストラクタ接点に電圧を供給する工程と、
複数のマイクロホールを備えるマイクロホールアレイプレートに電子ビームを通すことによって前記電子ビームを複数の電子ビームに分割する工程であって、前記マイクロホールアレイプレートが、エクストラクタフェースプレートと一体化されるスタンドオフによって前記エクストラクタフェースプレートの0.5mm~2mm上方に支持される、工程と、
を備えたことを特徴とする。
【発明の効果】
【0034】
本発明の一態様によれば、分割前の高電流ビームの長距離移動を防止できる。よって、ビームが幅広く発散する前にショットキーTFEエミッタと一体化したビームスプリッタが電子ビームを分割できる。それにより、各分割ビームの電流を高く保つとともに、ビームの発生ポイント(ショットキーチップ)に非常に近いビームを分割することにより空間電荷効果を減少させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0035】
図1】一実施形態の比較例におけるビームスプリッタを含むショットキーTFEエミッタを示す概略図である。
図2】一実施形態の比較例におけるショットキーTFEエミッタのエクストラクタフェースプレートの上方に支持されるビームスプリッタを示す概略図である。
図3】一実施形態におけるショットキーTFEエミッタのエクストラクタのフェースプレートと一体化されたビームスプリッタを示す概略図である。
図4A】一実施形態における長方形のビームスプリッタのマイクロホールのアレイを示す概略図である。
図4B】一実施形態の変形例における等間隔のマイクロホールのアレイを有する円形ビームスプリッタの概略図である。
図4C】一実施形態におけるビームスプリッタの中心から外周に向かって直径が増大するマイクロホールの長方形の5×5アレイを有する円形ビームスプリッタの概略図である。
図5】一実施形態における一体型のビームスプリッタ及びエクストラクタを伴うショットキーTFEエミッタを示す概略図である。
図6A】一実施形態におけるショットキーTFEエミッタとスタンドオフ609との一体化を示す概略図である。
図6B】一実施形態におけるビームスプリッタアレイをスタンドオフと一体化するための装着形態部を示す概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0036】
以下、実施形態は、ショットキー熱電界放出(TFE)とマイクロホールのアレイを有するビームスプリッタとの一体化について記載する。ビームスプリッタは、エクストラクタフェースプレートと一体化されるスタンドオフによってショットキーTFEエミッタのエクストラクタフェースプレートの上方にエクストラクタフェースプレートに近接して支持される。
【0037】
第1の実施の形態は、熱電界放出(TFE)源と一体化されたビームスプリッタであって、エクストラクタフェースプレートを有するショットキーTFEエミッタと、エクストラクタフェースプレートと一体化されるスタンドオフと、スタンドオフと一体化されてエクストラクタフェースプレートの反対側に配置されるマイクロホールアレイプレートであり、マイクロホールアレイプレートには複数のマイクロホールが形成される、とを備えるビームスプリッタについて記載する。
【0038】
第2の実施形態は、ビームスプリッタをショットキーTFEエミッタのエクストラクタフェースプレートと一体化させるための方法であって、スタンドオフの第1の端部をエクストラクタフェースプレートに一体化させるステップと、マイクロホールアレイプレートに穴を形成するステップと、マイクロホールアレイプレートをスタンドオフの第2の端部に取り付けるステップとを含み、第2の端部が第1の端部の反対側であり、スタンドオフが、マイクロホールアレイプレートをエクストラクタフェースプレートの上方に0.5mm~2mmの範囲の距離で支持する、方法について記載する。
【0039】
第3の実施形態は、複数の電子ビームを形成するための方法において、ショットキーTFEエミッタに電力を供給してエクストラクタ開口で電子ビームを生成するステップと、エクストラクタ接点に電圧を供給するステップと、複数のマイクロホールを備えるマイクロホールアレイプレートに電子ビームを通すことによって電子ビームを複数の電子ビームに分割するステップであって、マイクロホールアレイプレートが、エクストラクタ開口と一体化されるスタンドオフによってエクストラクタ開口の0.5mm~2mm上方に支持される、ステップと、を含む方法について記載する。
【0040】
例示的な実施形態の前述の一般的な説明及びその以下の詳細な説明は、この開示の単なる典型的な教示態様にすぎず、限定的ではない。
【0041】
本開示のより完全な理解及び本開示の付随する利点の多くは、それらが添付図面に関連して考慮される際に以下の詳細な説明を参照することによってより良く理解されるようになるため、容易に得られる。
【0042】
ここで、同様の参照数字が幾つかの図の全体にわたって同一又は対応する部分を示す図面を参照する。
【0043】
本開示のデバイス、方法、及び、システムは、ビームスプリッタのマイクロホールアレイプレートとショットキーTFEエミッタのエクストラクタ電極との一体化について説明する。
【0044】
本開示の態様は、スタンドオフによってショットキーTFEエミッタのエクストラクタフェースプレートの上端から離間して保持されるビームスプリッタを含む、一体型ビームスプリッタを伴うショットキーTFEエミッタ(IBS_TFE)について説明する。IBS_TFEを使用する電子顕微鏡は、解像度、画像取得速度、及び、スループット(単位時間に走査されて撮像される面積)の向上の観点からメリットがある。IBS_TFEは、マルチビーム走査型電子顕微鏡及び同様の検査ツールのためのマルチビーム源を生成するために使用され得る。
【0045】
IBS_TFEは、低いエネルギー拡散及び軌道変位と共に、複数のビームにおいて高い全ビーム電流を有する電子のマルチビーム源を生成する。
【0046】
図3は、一実施形態におけるショットキーTFEエミッタのエクストラクタのフェースプレートと一体化されたビームスプリッタを示す概略図である。また、図3は、IBS_TFE300(ショットキー熱電界放出(TFE)源と一体化されたビームスプリッタ)の物理的構造を示す概略図である。
ショットキーTFEエミッタ304は、チップ305、サプレッサ307、フェースプレート308を有するエクストラクタ306を含む。サプレッサ307は、ショットキーTFEエミッタ304内部の電極であり、漂遊熱電子放出がエクストラクタ孔を通過して鏡筒を下るのを防止する。チップ305はサプレッサ307の中心にある。電子ビーム316がチップ305で生成される。エクストラクタ306のフェースプレート308には、マイクロホール415のアレイ(図4に示される)が形成されるビームスプリッタ314及びそのスタンドオフ309(支持部材)が取り付けられる。ビームスプリッタ314は、マイクロホールアレイプレート315を有する。マイクロホールアレイプレート315には、複数のマイクロホール415(図4に示す)で構成されるマイクロホールアレイが形成される。ビームスプリッタ314は、電子ビーム316を複数の分割ビーム318に分割する。具体的には、電子ビーム316のうちマイクロホールアレイプレート315に形成された複数のマイクロホール415を通過した複数の部分ビームが複数の分割ビーム318になる。ビームスプリッタ314及びスタンドオフ309は、TFEエクストラクタ306の孔と軸方向で位置合わせされる。コンデンサレンズ322が、分割ビーム318をそれらがビームスプリッタ314を離れるにつれて集束させる。図3では、明確にするために、分割ビーム318がビームスプリッタ314(ビームスプリッタアレイ)のマイクロホール415を通過した後に分割ビーム318をターゲットへと案内する電子機器及びレンズが示されない。
【0047】
非限定的な例では、エクストラクタ306のフェースプレート308とビームスプリッタ314との間の電位差が約-100ボルトであってもよく、これにより、僅かな量のフォーカス場が分割ビーム318に付加される。IBS_TFEは、ショットキーTFEエミッタ製造中にユニットとして一体化される。ビームスプリッタを構成するマイクロホールアレイプレートには、電圧を変化させて最も高いビームレット電流を得るための電圧接点が設けられる。
【0048】
非限定的な例において、スタンドオフ309は、ビームスプリッタ314を、エクストラクタ306の上方0.5mm~2mmの高さHに保持することができる。スタンドオフ309は、エクストラクタ306の直径以下の直径を有する円筒状又はリング状の幾何学的形状を有してもよい。典型的な市販のエクストラクタ306のフェースプレート308は、外径が約12.5mmであり、中心孔の直径が0.4mmであり、厚さが約1mmである。スタンドオフ309は、エクストラクタ孔の中心点と位置合わせされるリング状の金属部品である。非限定的な例において、リングは、外径が約8mmであり、約1mmの(径方向でリングの内面から外面までの)幅を有するとともに、約0.3mm~0.5mmの高さを有する。
【0049】
実施形態では、スタンドオフ309が導電性材料から形成されてもよい。導電性材料の非限定的な例は、金属合金、例えば、チタン-ジルコニウム-モリブデン(TZM)である。TZMは、純粋な非合金モリブデンよりも高い再結晶温度、高いクリープ強度、及び、高い引張強度を有する。TZMは、熱伝導率が低く(0.48)、したがって、エクストラクタフェースプレートからビームスプリッタへ熱を伝導しない。ビームスプリッタにおける過度の熱は、分割ビームの軌道を歪ませながら、ビームスプリッタを撓ませる。更に、過度の熱により、分割ビームは、ビームスプリッタから抜け出た後に広がる及び/又は互いに干渉する可能性があり、それにより、ターゲットに到達する分割ビームのエネルギー量が減少する。
【0050】
本開示の一態様において、スタンドオフ309は、導電性の高抵抗材料、例えば、抵抗性セラミックから形成されてもよい。非限定的な例において、抵抗性セラミックは、アルミナであるとともに、米国のカリフォルニア州、フリーモント、49070ミルモントドライブにある京セラインターナショナルから入手可能なKyocera AH100Aに類似し得る。抵抗性セラミックは、100%活性で非誘導性の抵抗器をもたらすべく、導電性粒子がマトリックスの全体にわたって分布するセラミック材料の焼結体から製造される。抵抗性セラミックは化学的に不活性である。抵抗性セラミックは、1800K程度の温度を有する、TFEチップ305付近のスタンドオフ309にとって望ましい高い温度で、高エネルギー及び高電圧に耐えることができる。高抵抗セラミックを使用すると、エクストラクタ306とビームスプリッタ314(ビームスプリッタアレイ)との間に電位差が設定され、それにより、ビームスプリッタ314によって遮られた入射電子がビームスプリッタ314をエクストラクタ306の電位に対して負にする。これは、ビームスプリッタ314の穴が正の静電マイクロレンズになり、それにより、入射電子を穴に集束させ、したがって、穴を通る電流を更に増大させるため、IBS_TFEにメリットをもたらす。
【0051】
図4Aは、一実施形態における長方形のビームスプリッタのマイクロホールのアレイを示す概略図である。また、図4Aは、IBS_TFEのビームスプリッタ414の1つの形態を示す概略図である。図4Aでは、図3のビームスプリッタ314の一例として、長方形のビームスプリッタ414を示している。
ビームスプリッタ414のマイクロホールアレイプレート315には、マイクロホール415の3×3アレイが形成される。マイクロホール415は、非常に正確に形成され、座屈又は損傷を伴うことなく高温に耐えることができる材料から製造される。非限定的な例では、マイクロホール415の直径が10ミクロン~120ミクロンの範囲である。マイクロホールアレイプレート315を有するビームスプリッタ414の材料は、スタンドオフ309と同じ材料又は異なる材料であってもよい。マイクロホールをTZM合金シートに10ミクロン程度の小さい直径で機械加工することができ、それにより、アレイから抜け出る分割ビームの数が増大し得るとともに、最終的な集束ビームレットスポットサイズ、すなわち、SEM分解能が低下し得る。マイクロホール415のサイズは、各ビームレットがターゲットに当たるときに必要な電流によって決まる。
【0052】
図4Bは、一実施形態の変形例における等間隔のマイクロホールのアレイを有する円形ビームスプリッタの概略図である。図4Bでは、図3のビームスプリッタ314の一例として、円形のビームスプリッタ414を示している。各マイクロホール415の直径は、その中心からの距離が増大するにつれて増大する。また、図4Bは、ビームスプリッタ414の第2の形態(変形例)を示す概略図であり、ビームスプリッタ414のマイクロホールアレイプレート315には、中心の小さな穴からサイズ増大を経て外周の大きな穴にまで及ぶ複数のマイクロホール415を有する円形ビームスプリッタアレイが形成される場合を示している。
図示しないが、代替案では、複数のマイクロホール415が、中心の大きな穴からサイズ減少を経て外周の小さな穴にまで及んでもよい。
【0053】
図4Cは、一実施形態の他の変形例におけるビームスプリッタの中心から外周に向かって直径が増大するマイクロホールの長方形の5×5アレイを有する円形ビームスプリッタの概略図である。図4Cでは、図3のビームスプリッタ314の一例として、円形のビームスプリッタ414の変形例を示している。また、図4Cは、ビームスプリッタ414の第3の形態を示す概略図であり、この場合、ビームスプリッタ414のマイクロホールアレイプレート315は円形であるが、マイクロホールアレイが形成される領域は長方形であり、マイクロホール415の穴のサイズが次第に大きくなっている。穴は、10ミクロン~120ミクロンの範囲であってもよく、用途に固有のものである。図示の長方形のアレイは5×5アレイである。
【0054】
非限定的な例では、ビームスプリッタ314(ビームスプリッタアレイ)の材料がステンレス鋼であってもよい。他の非限定的な例では、材料がTZM合金であってもよい。更なる非限定的な例では、材料が機械加工可能な導電性セラミック材料であってもよい。
【0055】
図4Aでは、マイクロホール415の3×3アレイを示し、図4Bでは、放射状に形成される複数のマイクロホール415を示し、また、図4Cでは、マイクロホール415の5×5アレイを示すが、マイクロホール415の数、それらの直径、及び、アレイパターンは限定されない。例えば、鏡筒の制約に応じて、4×4アレイ、4×5、5×5、又は、それ以上のアレイが使用されてもよい。アレイは、長方形ではない用途固有のレイアウトであってもよい。
【0056】
マイクロホールアレイから抜け出る分割ビーム318(図3)は、ターゲット(図示せず)に当たるべく下流側の光学素子及び電極によってビーム形成される。多数の同時に走査する分割ビーム318が、SEMの取得速度、すなわち、スループットを増大させる。しかしながら、ビームレットのサイズには制限があることから、ビームレットが小さすぎる場合には、所定のノイズレベルで検出可能なSEM信号をもたらすのに十分な電流がビームレットにない場合がある。
【0057】
マイクロホールアレイから抜け出るビームレット318(分割ビーム)は、マイクロホールアレイの穴の数に比例する分(アレイ透過性)だけ、ショットキーTFEエミッタから抜け出る一次ビームよりも低い電流を運ぶ。ビームレットの分離は、個々のビームレットにおけるベルシュ効果を低下させ、それにより、各ビームレットにおけるエネルギー拡散をより少なくすることができ、したがって、色収差が低下する。
【0058】
図5は、一実施形態における一体型のビームスプリッタ及びエクストラクタを伴うショットキーTFEエミッタを示す概略図である。また、図5は、ショットキーTFEエミッタ504と本開示のIBS_TFE用セット513との一体化を示す概略図である。ビームスプリッタ514のマイクロホールアレイプレートには複数のマイクロホール515のマイクロホールアレイが形成される。
IBS_TFE用セット513は、ショットキーTFEエミッタ504のエクストラクタフェースプレート508(エクストラクタ表面)と一体化される。一実施形態において、IBS_TFE用セット513のスタンドオフ509は、溶接又は蝋付けによってエクストラクタフェースプレート508に結合されてもよい。この実施形態において、スタンドオフ509は、エクストラクタフェースプレート508とビームスプリッタ514のマイクロホールアレイプレートとの間に電位差をもたらす抵抗性セラミックであってもよい。他の実施形態において、エクストラクタフェースプレート508及びスタンドオフ509は、同じ材料から機械加工されるが、別個の部品として後に接合される。エクストラクタ及び/又はスタンドオフは、TZM合金、チタン、又は、ステンレス鋼から製造されてもよい。他の実施形態において、スタンドオフ及びビームスプリッタは、TZN合金又はチタンなどの同じ材料片から一体部品として製造されてもよい。
【0059】
本開示のIBS_TFE用セット513は、最大電流がマイクロホールのアレイを通過するように、ショットキーTFEエミッタの放出をショットキーエクストラクタ電極に近接して配置する。
【0060】
図6Aは、一実施形態におけるショットキーTFEエミッタとスタンドオフ609との一体化を示す概略図である。また、図6Aは、エクストラクタフェースプレート、スタンドオフ、及び、ビームスプリッタアレイの円筒状形態を成す一体化を示す概略図である。
図6Aでは、スタンドオフ609が中空シリンダの断面として示される。スタンドオフ609は、ショットキーTFEエミッタのエクストラクタフェースプレート608と一体化されて示される。608’は、エクストラクタ608の中心にあるビーム開口を表わす。スタンドオフ609及びエクストラクタフェースプレート608は、溶接又は蝋付けによって一体化されてもよい。ビームスプリッタ614のマイクロホールアレイプレートに形成されたマイクロホールアレイは、マイクロホール615のアレイを含むとともに、軸Aに沿ってスタンドオフ609の上端と一体化される。ビームスプリッタ614となるマイクロホールアレイプレートは、スタンドオフ609の上端に蝋付け又は溶接によって溶着又は取り付けられてもよく、或いは、スタンドオフ609を伴う単一のユニットとして形成されてもよい。
【0061】
図6Bは、一実施形態におけるビームスプリッタアレイをスタンドオフと一体化するための装着形態部を示す概略図である。また、図6Bは、インデント加工されたシェルフ(棚)619を形成するべくスタンドオフ609の上端部に機械加工された装着形態部を示す概略図である。
ビームスプリッタ614を構成するマイクロホールアレイプレート616は、インデント加工されたシェルフ619に当接し、溶接、摩擦攪拌溶接、クランプ、蝋付け、高温半田による半田付けなどによって固定され得る。
【0062】
スタンドオフ609は、エクストラクタフェースプレート608と同じ又は異なる材料であってもよい。スタンドオフ609は、金属合金、例えばTZMであってもよい。エクストラクタ(エクストラクタフェースプレート608)が第1の材料、例えばステンレス鋼であり、スタンドオフ609が第2の高抵抗材料、例えば抵抗性セラミックAH100Aである場合、エクストラクタの電位は、スタンドオフ609全体にわたる電位の降下に起因してビームスプリッタ614における電位よりも高い。この電位は、ビームレットに対するレンズ効果をもたらす場合がある(静電集束)。
【0063】
動作時、入射電子ビームがショットキーTFEエミッタによって放出され、このビームは、TFEエクストラクタ電極の孔608’(図6A)を通過して、エクストラクタ電極に近接して位置されるマイクロホール615のアレイに直ちに衝突する。マイクロホールアレイプレート616を有するビームスプリッタ614はスタンドオフ609によって支持され、スタンドオフ609は、マイクロホールアレイプレート616とエクストラクタ電極との間の電気的及び熱的な接触をもたらす。スタンドオフ609は、ビームスプリッタ614とエクストラクタ(エクストラクタフェースプレート608)との間に電圧バイアスをもたらす組み込み抵抗器としての機能を果たし得る。この電圧バイアスにより、ビームスプリッタ614のマイクロホール615が正の静電マイクロレンズにされ、それにより、入射電子がホールに集束し、ホールを通過する電流が更に増大する。
【0064】
本開示のIBS_TFEは、ビームスプリッタをショットキーエミッタチップに近接させ、ビームスプリッタをショットキーTFEエミッタに組み込む。利点は、複数の個別のビームレット(分割ビーム)のエネルギー拡散が減少し、軌道変位が最小になり、電流が増大するという点である。
【0065】
既存の技術に優る本開示のIBS_TFEの利点は、最大電流がそれぞれの個々のビームレットに与えられるとともに、複数のビームレットにおける想定し得るエネルギー拡散及び軌道変位が最も低くなり、これが電子ビームシステムの集束品質及び分解能に資するという点である。更に、ビーム拡散が最小であるため、集束電極(例えば、110、112、図1)を排除することができる。
【0066】
本開示の一実施形態は、ショットキーTFEエミッタのエクストラクタフェースプレートと一体化されたビームスプリッタについて記載する。
【0067】
本開示の一実施形態は、スタンドオフによってショットキーTFEエミッタのエクストラクタフェースプレートから離間されるビームスプリッタについて記載する。
【0068】
本開示の一実施形態は、スタンドオフによってショットキーTFEエミッタのエクストラクタフェースプレートから離間されるビームスプリッタについて記載し、この場合、スタンドオフは、ビームスプリッタをエクストラクタの上方に0.5mm~2mmの距離で支持する。
【0069】
本開示の一実施形態は、スタンドオフによってショットキーTFEエミッタのエクストラクタフェースプレートから離間されるビームスプリッタについて記載し、この場合、スタンドオフは中空の円筒状の幾何学的形状を有する。
【0070】
本開示の一実施形態は、マイクロホールのアレイを有するビームスプリッタについて記載する。
【0071】
本開示の一実施形態は、マイクロホールの3×3アレイを有するビームスプリッタについて記載する。
【0072】
本開示の一実施形態は、マイクロホールの4×4アレイを有するビームスプリッタについて記載する。
【0073】
本開示の一実施形態は、マイクロホールの5×5アレイを有するビームスプリッタについて記載する。
【0074】
本開示の一実施形態は、マイクロホールのアレイを含むビームスプリッタについて記載し、この場合、各マイクロホールの直径は10ミクロン~120ミクロンの範囲である。
【0075】
本開示の一実施形態は、マイクロホールの直径がアレイの中心からアレイの外周に向かって増大するように構成される、マイクロホールのアレイを含むビームスプリッタについて記載する。
【0076】
本開示の一実施形態は、マイクロホールの直径がアレイの中心からアレイの外周に向かって減少するように構成される、マイクロホールのアレイを含むビームスプリッタについて記載する。
【0077】
本開示の一実施形態は、マイクロホールのアレイを含むビームスプリッタについて記載し、この場合、マイクロホールの直径は、直径がアレイの中心に向かって小さく且つアレイの外周付近で大きくなるパターンを成して、10ミクロンから120ミクロンまで変化する。
【0078】
本開示の一実施形態は、長方形又は円形又は六角形を有するビームスプリッタアレイプレートについて記載する。
【0079】
本開示の一実施形態は、長方形に成形されるビームスプリッタアレイについて記載する。
【0080】
本開示の一実施形態は、円形に成形されるビームスプリッタアレイについて記載する。
【0081】
本開示の一実施形態は、六角形に成形されるビームスプリッタアレイについて記載する。
【0082】
本開示の一実施形態は、八角形に成形されるビームスプリッタアレイについて記載する。
【0083】
本開示の一実施形態は、マイクロホールのアレイを含むビームスプリッタについて記載し、この場合、各マイクロホールの直径は10ミクロン~120ミクロンの範囲である。
【0084】
本開示の一実施形態は、マイクロホールのアレイを含むビームスプリッタについて記載し、この場合、マイクロホールはマイクロドリル加工によって形成される。
【0085】
本開示の一実施形態は、マイクロホールのアレイを含むビームスプリッタについて記載し、この場合、ビームスプリッタが抵抗性の機械加工可能なセラミック材料から製造され、マイクロホールが化学エッチングによって形成される。
【0086】
本開示の一実施形態は、ショットキーTFEエミッタのスタンドオフ及びエクストラクタフェースプレートと一体化されたビームスプリッタについて記載する。
【0087】
本開示の一実施形態は、ショットキーTFEエミッタのスタンドオフ及びエクストラクタフェースプレートと一体化されたビームスプリッタについて記載し、この場合、ビームスプリッタ、スタンドオフ、及び、エクストラクタフェースプレートは、ステンレス鋼から製造される。
【0088】
本開示の一実施形態は、ショットキーTFEエミッタのスタンドオフ及びエクストラクタフェースプレートと一体化されたビームスプリッタについて記載し、この場合、ビームスプリッタ、スタンドオフ、及び、エクストラクタフェースプレートは、導電性セラミック材料から製造される。
【0089】
本開示の一実施形態は、ショットキーTFEエミッタのスタンドオフ及びエクストラクタフェースプレートと一体化されたビームスプリッタについて記載し、この場合、ビームスプリッタ、スタンドオフ、及び、エクストラクタフェースプレートは、窒化アルミニウム又はアルミナから製造される。
【0090】
本開示の一実施形態は、ショットキーTFEエミッタのスタンドオフ及びエクストラクタフェースプレートと一体化されたビームスプリッタについて記載し、この場合、スタンドオフは、高抵抗率の金属から製造される。
【0091】
本開示の一実施形態は、ショットキーTFEエミッタのスタンドオフ及びエクストラクタフェースプレートと一体化されたビームスプリッタについて記載し、この場合、ビームスプリッタ、スタンドオフ、及び、エクストラクタフェースプレートは、炭化タングステンから製造される。
【0092】
また、本開示の実施形態は、以下の括弧書きの説明に記載されるようにもなり得る。
【0093】
(1)熱電界放出(TFE)源と一体化されたビームスプリッタであって、エクストラクタフェースプレートを有するショットキーTFEエミッタ、エクストラクタフェースプレートと一体化されるスタンドオフ、及び、スタンドオフと一体化されてエクストラクタフェースプレートの反対側に配置されるマイクロホールアレイプレートを備え、マイクロホールアレイプレートには複数のマイクロホールが形成される、ビームスプリッタ。
【0094】
(2)エクストラクタフェースプレート、スタンドオフ、及び、マイクロホールアレイプレートが同じ材料から製造される、(1)のビームスプリッタ。
【0095】
(3)同じ材料がチタン-ジルコニウム-モリブデン、チタン、又は、ステンレス鋼である、(1)又は(2)のいずれか1つのビームスプリッタ。
【0096】
(4)同じ材料が機械加工可能な導電性セラミック材料である、(1)から(3)のいずれか1つのビームスプリッタ。
【0097】
(5)機械加工可能な導電性セラミック材料がアルミナである、(1)から(4)のいずれか1つのビームスプリッタ。
【0098】
(6)エクストラクタフェースプレート、スタンドオフ、及び、マイクロホールアレイプレートが同じ又は異なる材料から製造される、(1)のビームスプリッタ。
【0099】
(7)エクストラクタフェースプレートがステンレス鋼から製造され、スタンドオフが高抵抗材料から製造され、及び、マイクロホールアレイプレートが機械加工可能なセラミック材料から製造される、(1)又は(6)のいずれか1つのビームスプリッタ。
【0100】
(8)エクストラクタフェースプレートがステンレス鋼から製造され、スタンドオフ及びマイクロホールアレイプレートが機械加工可能な導電性のセラミック材料から製造される、(1)及び(4)から(6)のいずれか1つのビームスプリッタ。
【0101】
(9)機械加工可能なセラミック材料がアルミナである、(1)及び(4)から(7)のいずれか1つのビームスプリッタ。
【0102】
(10)スタンドオフの第2の端部に位置される装着形態部を更に備え、装着形態部がスタンドオフをマイクロホールアレイプレートに接続するように構成される、(1)のビームスプリッタ。
【0103】
(11)スタンドオフは、マイクロホールアレイプレートをエクストラクタフェースプレートから0.5mm~2mmの範囲の距離だけ離間させる、(1)のビームスプリッタ。
【0104】
(12)マイクロホールアレイが3×3アレイ、4×5アレイ、又は、5×5アレイである、(1)のビームスプリッタ。
【0105】
(13)マイクロホールのそれぞれが同じ直径を有し、直径が10ミクロン~120ミクロンである、(1)のビームスプリッタ。
【0106】
(14)マイクロホールは、ビームスプリッタの中心からビームスプリッタの外周に向かってサイズが増大する、(1)のビームスプリッタ。
【0107】
(15)ビームスプリッタをショットキーTFEエミッタのエクストラクタフェースプレートと一体化させるためのビームスプリッタの一体化方法であって、スタンドオフの第1の端部をエクストラクタフェースプレートに一体化させるステップと、基板にマイクロホールを形成することによりマイクロホールアレイプレートを形成するステップと、マイクロホールアレイプレートをスタンドオフの第2の端部に取り付けるステップとを含み、第2の端部が第1の端部の反対側であり、スタンドオフは、マイクロホールアレイプレートをエクストラクタフェースプレートの上方に0.5mm~2mmの距離で支持する、ビームスプリッタの一体化方法。なお、スタンドオフの第1の端部を前記エクストラクタフェースプレートに一体化させるステップと、マイクロホールアレイプレートにマイクロホールを形成するステップとの順番が逆であってもよい。
【0108】
(16)スタンドオフをエクストラクタフェースプレートに溶接することによってスタンドオフの第1の端部を一体化させるステップ、又は、スタンドオフをエクストラクタフェースプレートに蝋付けすることによってスタンドオフの第1の端部を一体化させるステップ、又は、スタンドオフの第1の端部の内部に溝を機械加工し、エクストラクタフェースプレートを溝に挿入し、エクストラクタフェースプレートをスタンドオフに溶接することによってスタンドオフの第1の端部を一体化させるステップを更に含む、(15)のビームスプリッタの一体化方法。
【0109】
(17)溶接又は摩擦攪拌溶接又は半田付け又はクランプ又は熱接着剤による結合によってマイクロホールアレイプレートをスタンドオフに取り付けるステップを更に含む、(15)のビームスプリッタの一体化方法。
【0110】
(18)マイクロホールアレイプレートを形成する工程において、前記基板に複数のマイクロホールがマイクロドリル加工により形成され、マイクロホールの直径は、マイクロホールアレイプレートの中心からマイクロホールアレイプレートの外周に向かって増大する、(15)のビームスプリッタの一体化方法。
【0111】
或いは(19)上述したマイクロホールアレイプレートを形成する工程において、マイクロホールアレイプレートにおけるマイクロホールがマイクロマシニングによって形成され、マイクロマシニングがマイクロドリル加工又は化学エッチングを含む、(15)のビームスプリッタの一体化方法。
【0112】
(20)複数の電子ビームを形成するためのマルチビーム形成方法において、ショットキー熱電界放出(TFE)に電力を供給してエクストラクタ開口で電子ビームを生成するステップと、エクストラクタ接点に電圧を供給するステップと、複数のマイクロホールを備えるマイクロホールアレイプレートに電子ビームを通すことによって電子ビームを複数の電子ビームに分割するステップであって、マイクロホールアレイプレートがエクストラクタ開口と一体化されるスタンドオフによってエクストラクタ開口の0.5mm~2mm上方に支持される、ステップと、を含むマルチビーム形成方法。
【0113】
上記の教示内容に照らして、本発明の多数の修正及び変形が可能である。したがって、添付の特許請求の範囲内で、本発明が本明細書中に具体的に記載される以外の方法で実施されてもよいことが理解されるべきである。
【0114】
また、装置構成や制御手法等、本発明の説明に直接必要しない部分等については記載を省略したが、必要とされる装置構成や制御手法を適宜選択して用いることができる。
【0115】
その他、本発明の要素を具備し、当業者が適宜設計変更しうる全ての熱電界エミッタ、マルチビーム形成装置、及び電子ビームツール用のマルチビーム生成方法は、本発明の範囲に包含される。
【符号の説明】
【0116】
102 FEG
104 ショットキーTFEエミッタ
106 サプレッサ
108 エクストラクタ
105 チップ
110,112 電極
114 ビームスプリッタ
116 電子ビーム
118 分割ビーム
202 FEG
204 ショットキーTFEエミッタ
205 チップ
206 開口プレート
208 エクストラクタ
214 ビームスプリッタ
216 電子ビーム
218 分割ビーム
220 コリメータレンズ
222 コンデンサレンズ
224 ブランカ開口
226 ビームストッパ
228 発散ビーム
230 投影レンズ
234 ターゲット
300 IBS_TFE
304 ショットキーTFEエミッタ
305 チップ
306 エクストラクタ
307 サプレッサ
308 フェースプレート
309 スタンドオフ
318 分割ビーム
314,414 ビームスプリッタ
315 マイクロホールアレイプレート
316 電子ビーム
322 コンデンサレンズ
415 マイクロホール
504 ショットキーTFEエミッタ
508 エクストラクタフェースプレート
509 スタンドオフ
513 IBS_TFE用セット
608 エクストラクタフェースプレート
608’ 開口
609 スタンドオフ
614 ビームスプリッタ
615 マイクロホール
616 マイクロホールアレイプレート
619 シェルフ
図1
図2
図3
図4A
図4B
図4C
図5
図6A
図6B