(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2025-04-02
(45)【発行日】2025-04-10
(54)【発明の名称】複合膜、該複合膜を備えたセンサ素子、体脂肪率測定装置、及び電気化学セル装置、並びに該センサ素子を備えたウェアラブル測定装置
(51)【国際特許分類】
A61B 5/0537 20210101AFI20250403BHJP
A61B 5/27 20210101ALI20250403BHJP
【FI】
A61B5/0537 100
A61B5/27
(21)【出願番号】P 2022542835
(86)(22)【出願日】2021-07-30
(86)【国際出願番号】 JP2021029241
(87)【国際公開番号】W WO2022034857
(87)【国際公開日】2022-02-17
【審査請求日】2024-07-25
(31)【優先権主張番号】P 2020136975
(32)【優先日】2020-08-14
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)令和2年度、国立研究開発法人科学技術振興機構研究成果展開事業大学発新産業創出プログラム(プロジェクト支援型)、「高感度標識による細菌及びウイルスの迅速検出」委託事業、産業技術力強化法第17条の適用を受ける特許出願
(73)【特許権者】
【識別番号】519135633
【氏名又は名称】公立大学法人大阪
(74)【代理人】
【識別番号】110002239
【氏名又は名称】弁理士法人G-chemical
(72)【発明者】
【氏名】椎木 弘
【審査官】上田 正樹
(56)【参考文献】
【文献】特開2018-154921(JP,A)
【文献】特表2015-525878(JP,A)
【文献】国際公開第2019/130833(WO,A1)
【文献】特開2013-249448(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2017/0103826(US,A1)
【文献】SHIIGI, Hiroshi, et al.,Smart Golden Leaves Fabricated by Integrating Au Nanoparticles and Cellulose Nanofibers,ChemNanoMat,2019年,581-585
【文献】ZHANG, Taiji, et al.,Biotemplated synthesis of gold nanoparticle-bacteria cellulose nanofiber nanocomposites and their apprication in biosensing,Advanced Functional Materials,2010年,1152-1160
【文献】KALTENBRUNNER, Martin, et al.,Ultrathin and lightweight organic solar cells with high flexibility,Nature communications,2012年,1-7
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61B 5/0537
A61B 5/27
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
導電性ナノ粒子と、ナノファイバーと、を含む複合膜であって、
前記ナノファイバー間に外部と連通する複数の空隙を有し、
前記導電性ナノ粒子は、前記ナノファイバーの表面に付着し、かつ前記複数の空隙に存在し、
前記ナノファイバーは、親水性であり、生体適合性を有し、
該複合膜は、導電性を有し、
全反射率が純金属箔の50%未満であり、かつ、親水性処理を施した、又は水分を含有する被接触体に対して
直接貼り付け、密着させて使用
し、
前記複合膜が、乾燥重量に対して、2.5倍の含水率を達成可能であり、
該複合膜は、前記複数の空隙に存在する液体の増減による抵抗値の変化が0.5Ω以下である複合膜。
【請求項2】
前記導電性ナノ粒子の量は、前記導電性ナノ粒子及び前記ナノファイバーの合計量(100vol.%)に対して、2.0~20vol.%である、請求項1に記載の複合膜。
【請求項3】
前記ナノファイバーは、セルロースを含む、請求項1または2に記載の複合膜。
【請求項4】
前記導電性ナノ粒子は、金属、金属酸化物、又は炭素を含む、請求項1~3のいずれか1項に記載の複合膜。
【請求項5】
該複合膜の引張強度は、0.5~100MPaである請求項1~4のいずれか1項に記載の複合膜。
【請求項6】
前記被接触体が皮膚又は生体内部の組織である、請求項1~5のいずれか1項に記載の複合膜。
【請求項7】
前記被接触体が金属、ガラス、プラスチック、セラミック、又は炭素を含む、請求項1~5のいずれか1項に記載の複合膜。
【請求項8】
該複合膜は、人体に貼付した場合に人体の動きに伴って変形又は伸縮する柔軟性を有し、該人体の動きによる抵抗値の変化が2.0Ω以下である、
請求項1~7のいずれか1項に記載の複合膜。
【請求項9】
請求項1~
8のいずれか1項に記載の複合膜と、
前記複数の空隙に配置された分子認識体と、
を含む、センサ素子。
【請求項10】
前記分子認識体は、酵素、抗体、アプタマーを含むDNA若しくはRNA、分子インプリントポリマーから形成した人工抗体、又はイオン選択性分子を含む、請求項
9に記載のセンサ素子。
【請求項11】
前記酵素は、オキシダーゼ、レダクターゼ、又はデヒドロゲナーゼを含む、請求項
10に記載のセンサ素子。
【請求項12】
前記オキシダーゼは、グルコースオキシダーゼ、又は乳酸オキシダーゼを含む、請求項
11に記載のセンサ素子。
【請求項13】
前記デヒドロゲナーゼは、グルコースデヒドロゲナーゼ、又は乳酸デヒドロゲナーゼを含む、請求項
11に記載のセンサ素子。
【請求項14】
請求項
9~13のいずれか1項に記載のセンサ素子を備えた、ウェアラブル測定装置。
【請求項15】
請求項1~
8のいずれか1項に記載の複合膜を備えた、体脂肪率測定装置。
【請求項16】
請求項1~
8のいずれか1項に記載の複合膜を備えた、電気化学セル装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、複合膜、該複合膜を備えたセンサ素子、体脂肪率測定装置、及び電気化学セル装置、並びに該センサ素子を備えたウェアラブル測定装置に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、バイオテクノロジーの発展にともなって、生物機能の評価や活用に関する技術開発に注目が集まっている。生物機能は、それぞれが確立された特異性を有する。そこで、電子デバイスなどの非生物素材を用いたバイオセンサの開発及び利用が進められている。迅速・簡便・低コストに分析可能なバイオセンサは非常に有用であり、ナノテクノロジー技術を用いた応用研究が盛んに行われている。
【0003】
例えば、特許文献1には、酵素体を含有した混合物の溶液をセル本体に充填した検出装置が開示されている。特許文献1の検出装置は、酵素が有する分子認識機能を利用して標的物質を検出する。このようなバイオセンサの電極は、金属薄膜である導電パターン(電極や回路)が使用される。一般的に導電パターンは、例えば、スクリーン印刷、無電解めっき、スパッタ、蒸着などの手法を用いてフレキシブル素材へ金属薄膜として形成される。
【0004】
また、特許文献2には、セルロースナノファイバーおよび金属ナノ粒子を含む材料由来の複合膜が開示されている。しかしながら、特許文献2には、生物機能の評価のために複合膜を電極として使用する具体的な使用態様は開示されていない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開2016-208883号公報
【文献】特開2018-154921号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
優れた特性を示し、ごく微量の標的物質を簡便に検出できるバイオセンサの開発には、特異性や感度の向上に加え、安定かつ容易に作製できる材料を開発することが極めて重要である。例えば、プラスチックシートなどに導電インクを印刷して得られる電極は、生体情報の取得に有用である。しかしながら、電極を生体上で使用すると、運動による電極の位置ずれ及び発汗量の変化に基づく計測エラー等が生じる。このため、電極の微細化、及び発汗による測定値のズレを補正するシステム等の開発が必要となる。例えば、汗に含まれる様々な代謝産物や電解質は血液と相関性を持っている。このため、これらの代謝産物を標的としたセンサの開発がウェアラブルデバイスの分野で大きく注目されている。また、電極が微細化されると、一つの電極が取得する情報は局所的なものとなる。このため、広い範囲で情報を取得する場合、多点計測が必要になる等、ウェアラブルデバイスの設計に更なる工夫を講じる必要が生じる。
【0007】
また、生物が生成する生体物質は、不安定である、又は限られた環境でしか生成できない場合がある。すなわち、生体物質は、生体にできるだけ近い環境で測定することが好ましい。従って、ウェアラブルデバイスとしての電極は、正確に生体からの情報を取得するために、生体の動きに追従する程に柔軟性に優れることが望ましく、生体の動きで破損しない機械的な強度も必要とされる。また、ウェアラブルデバイスとしての電極は、生体に直接触れるため、通気性や人体等への安全性が維持されることが望ましい。
【0008】
従って、本発明の目的は、水分に影響され難い安定な導電性、機械的な強度、及び柔軟性を有し、被接触体に対して密着させて使用する場合に位置ずれや剥離を防止できる複合膜、該複合膜を備えたセンサ素子、体脂肪率測定装置、及び電気化学セル装置、並びに該センサ素子を備えたウェアラブル測定装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者は、上記目的を達成するため鋭意検討した結果、導電性ナノ粒子と、親水性を有するナノファイバーと、を含む複合膜が水分量の影響を受けず、安定した導電性を有することを見出した。本発明はこれらの知見に基づいて完成させたものである。
【0010】
すなわち、本発明は、導電性ナノ粒子と、ナノファイバーと、を含む複合膜であり、上記ナノファイバー間に外部と連通する複数の空隙を有し、上記導電性ナノ粒子は、上記ナノファイバーの表面に付着し、かつ上記複数の空隙に存在し、上記ナノファイバーは、親水性であり、生体適合性を有し、該複合膜は、導電性を有し、かつ、親水性処理を施した、又は水分を含有する被接触体に対して密着させて使用する、複合膜を提供する。
【0011】
上記導電性ナノ粒子の量は、上記導電性ナノ粒子及び上記ナノファイバーの合計量(100vol.%)に対して、2.0~20vol.%であることが好ましい。
【0012】
上記ナノファイバーは、セルロースを含むことが好ましい。
【0013】
上記導電性ナノ粒子は、金属、金属酸化物、又は炭素を含むことが好ましい。
【0014】
上記複合膜の引張強度は、0.5~100MPaであることが好ましい。
【0015】
上記被接触体が皮膚又は生体内部の組織であることが好ましい。
【0016】
上記被接触体が金属、ガラス、プラスチック、セラミック、又は炭素を含むことが好ましい。
【0017】
上記複合膜は、人体に貼付した場合に人体の動きに伴って変形又は伸縮する柔軟性を有し、該人体の動きによる抵抗値の変化が2.0Ω以下であることが好ましい。
【0018】
上記複合膜は、前記複数の空隙に存在する液体の増減による抵抗値の変化が0.5Ω以下であることが好ましい。
【0019】
本発明は、上記複合膜と、上記複数の空隙に配置された分子認識体と、を含む、センサ素子を提供する。
【0020】
上記分子認識体は、酵素、抗体、アプタマーを含むDNA若しくはRNA、分子インプリントポリマーから形成した人工抗体、又はイオン選択性分子を含むことが好ましい。
【0021】
上記酵素は、オキシダーゼ、レダクターゼ、又はデヒドロゲナーゼを含むことが好ましい。
【0022】
上記オキシダーゼは、グルコースオキシダーゼ、又は乳酸オキシダーゼを含むことが好ましい。
【0023】
上記デヒドロゲナーゼは、グルコースデヒドロゲナーゼ、又は乳酸デヒドロゲナーゼを含むことが好ましい。
【0024】
本発明は、上記センサ素子を備えた、ウェアラブル測定装置を提供する。
【0025】
本発明は、上記複合膜を備えた、体脂肪率測定装置を提供する。
【0026】
本発明は、上記複合膜を備えた、電気化学セル装置を提供する。
【発明の効果】
【0027】
本発明の複合膜によれば、水分に影響され難い安定な導電性、機械的な強度、及び柔軟性を有し、かつ被接触体に対して密着させて使用する場合に位置ずれや剥離を防止できる。また、複合膜中の導電性ナノ粒子を容易に回収することができ、繰り返し使用することが可能である。
【図面の簡単な説明】
【0028】
【
図1】
図1は、本発明の一実施形態に係る体脂肪率測定装置の模式図である。
【
図2】
図2(A)は、本発明の一実施形態に係るセンサ素子の模式的な断面図であり、
図2(B)は、従来の平板へ酵素を固定したセンサ素子の模式的な断面図である。
【
図3】
図3は、実施例2に係る複合膜の電子顕微鏡写真である。
【
図4】
図4(A)は、実施例3に係る複合膜を水に浸漬した時の含水率の経時変化を示すグラフであり、
図4(B)は、複合膜を水に浸漬した時の経時時間と抵抗値との関係を示すグラフである。
【
図5】
図5(A)は、AuNP/CNF膜に含まれる金濃度と比抵抗率との関係を示すグラフであり、
図5(B)は、AuNP/CNF膜に含まれる金濃度と引張強度との関係を示すグラフである。
【
図6】
図6(A)は、実施例6に係る複合膜をK
3[Fe(CN)
6]溶液中でCV測定して得られたボルタモグラムであり、
図6(B)は、AuNP/CNF膜の金体積占有率に対してピーク電流値をプロットしたものである。
【
図7】
図7は、実施例6に係る複合膜を0.1MKCl溶液中でCV測定して得られたボルタモグラムである。
【
図8】
図8は、実施例7に係る複合膜の洗浄前後でCV測定して得られたボルタモグラムである。
【
図9】
図9(A)は実施例9に係る複合膜を用いたCV測定結果であり、
図9(B)は
図9(A)の結果から掃引速度の平方根に対してピーク電流値をプロットしたグラフである。
図9(C)は金ディスク電極を用いたCV測定結果であり、
図9(D)は
図9(C)の結果から掃引速度の平方根に対してピーク電流値をプロットしたグラフである。
【
図10】
図10(A)は参考例1の比色定量法によるグルコース溶液の吸光スペクトルであり、
図10(B)は、
図10(A)の結果を基に測定用セル中のグルコース濃度に対して505nmの吸光度をプロットしたグラフである。
【
図11】
図11(A)は、実施例11に係る一分ごとに25mMのグルコース溶液を添加した時の電流応答グラフであり、
図11(B)は、
図11(A)の結果を基に濃度に対して電流値をプロットしたグラフである。
【
図12】
図12(A)は、実施例11において低濃度のグルコースを測定した時の電流応答グラフであり、
図12(B)は、
図12(A)の結果を基に濃度に対して電流値をプロットしたグラフである。
【
図13】
図13(A)は、実施例12に係る各溶液を添加した時の電流応答グラフであり、
図13(B)は、
図13(A)の結果を基にグルコース濃度に対して電流値をプロットしたグラフである。
【
図14】
図14は、実施例13に係る二電極セルの模式図である。
【
図15】
図15(A)は、実施例13に係るグルコース溶液を添加した時の電流応答グラフであり、
図15(B)は、
図15(A)の結果を基に濃度に対するピーク電流値をプロットしたグラフである。
【
図16】
図16(A)は、実施例14に係る汗の採取のタイミングを表したグラフであり、
図16(B)は、食事前後の汗を用いてアンペロメトリーを行った結果であり、
図16(C)は、食後経過時間に対して電流値をプロットしたグラフである。
【
図17】
図17(A)は、実施例17に係る乳酸溶液を添加した時の電流応答グラフであり、
図17(B)は、
図17(A)の結果を基に濃度に対して電流値をプロットしたグラフである。
【
図18】
図18(A)は、実施例18に係る各溶液を添加した時の電流応答グラフであり、
図18(B)は、
図18(A)の結果を基に乳酸濃度に対して電流値をプロットしたグラフである。
【
図19】
図19(A)は、実施例19に係る乳酸溶液を添加した時の電流応答グラフであり、
図19(B)は、
図19(A)の結果を基に濃度に対して電流値をプロットしたグラフである。
【
図20】
図20(A)は、実施例20に係るAuNP/CNF膜を掌に貼り付けた状態の写真であり、
図20(B)は、掌を1秒毎に開閉させた時のAuNP/CNF膜の抵抗値の変化を示すグラフである。
【
図21】
図21は、本発明の複合膜を用いた二電極セルの一実施形態を示す概略図である。
【
図22】
図22は、本発明の複合膜を用いた二電極セルの他の一実施形態を示す概略図である。
【
図23】
図23は、本発明の複合膜を用いた三電極セルの一実施形態を示す概略図である。
【
図24】
図24は、本発明の複合膜を用いた三電極セルの他の一実施形態を示す概略図である。
【
図25】
図25は、実施例21においてCV測定して得られたボルタモグラムである。
【
図26】
図26は、実施例22においてCV測定して得られたボルタモグラムである。
【発明を実施するための形態】
【0029】
[複合膜]
本発明の一実施形態に係る複合膜(以下、単に複合膜とも記す。)は、導電性ナノ粒子と、ナノファイバーと、を含み、導電性を有する。複合膜において、複数のナノファイバーは、例えばランダムに積層されて層を形成している。例えば、複合膜は、ナノファイバーからなる不織布である。なお、複合膜は、不織布に限定されず、ナノファイバーを含む糸から形成した織物、編物等であってもよい。
【0030】
ナノファイバーは、複数の空隙をナノファイバー同士の間に形成する。これにより、複合膜は、外部と連通する複数の空隙を有するため、通気性に優れた構造となる。また、複合膜の空隙に水等の液体が出入り可能な構造であることにより、複合膜は内部まで洗浄することができ、繰り返し使用することができる。
【0031】
複合膜は、親水性処理を施した、又は水分を含有する被接触体に対して密着した状態で使用できる。親水性処理を施した被接触体における、親水性処理を施す前の状態の被接触体として、例えば、金属、ガラス、プラスチック、セラミック、炭素等が挙げられる。被接触体がガラスの場合、親水性処理は、例えばプラズマ処理が挙げられる。被接触体が金属の場合、親水性処理は、例えばチオール化合物を用いた処理が挙げられる。チオール化合物を用いた処理においては、チオール基を有するカルボキシ基、アミノ基、又はヒドロキシ基等の複合膜のセルロースナノファイバー等と結合を形成し得る部位と金属と結合を形成し得る部位とを有する化合物を含む溶液(水溶液等)を、金属表面に塗布して静置する。その後、金属表面を超純水で洗浄し、余分な溶液を削除してもよい。被接触体が炭素の場合、酸若しくはアルカリの水溶液における被接触体表面の電解研磨又は、界面活性剤等の添加剤による親水性処理が挙げられる。複合膜は、親水性のナノファイバーを用いているため、親水性処理を施した被接触体に対して密着させて使用する場合に位置ずれや剥離を防止できる。複合膜と他の素材を組み合わせることにより、他の素材の有する性状を兼ね備えた積層体として使用することができる。なお、複合膜の一方の面だけでなく両面を、親水性処理を施した被接触体にそれぞれ密着させて使用することも可能である。
【0032】
一方、水分を含有する被接触体として、例えば、生体、木材、植物等が挙げられる。水分を含有する被接触体は、被接触体自体から滲み出る水分によって複合膜を表面に貼り付けることができる。被接触体が生体の場合、複合膜は、複合膜を皮膚等に直接密着させることにより、皮膚の表面から滲み出る成分を空隙に吸収することができる。例えば、汗が複合膜の空隙に入り込むと、複合膜の空隙に存在する空気を追い出して、複合膜は皮膚の表面に貼り付くことができる。また、複合膜は、体内で使用することも可能である。例えば、複合膜を口腔内の口蓋に貼り付ける場合、唾液が複合膜の空隙に入り込み複合膜の空隙に存在する空気を追い出すことによって口蓋に貼り付けることができる。また、複合膜は、柔軟性を有するため、例えば、人体のような立体感のある対象物に対しても密着させることができる。これにより、複合膜は、例えば、掌等の皺等の凹凸がある個所でも密着させることができる。なお、複合膜の一方の面だけでなく両面を、水分を含有する被接触体に密着させて使用することも可能である。また、複合膜の一方の面を、親水性処理を施した被接触体に、複合膜の他方の面を、親水性処理を施した被接触体にそれぞれ密着させて使用することも可能である。
【0033】
導電性ナノ粒子は、ナノファイバーの表面に付着している。導電性ナノ粒子は、例えば、水素結合によりナノファイバーに結合している。上記ナノファイバーがセルロースである場合、水素結合は、例えば後述のバインダを介して導電性ナノ粒子とセルロースとの間で形成される。上記バインダとしては、中でも、上記水素結合がセルロースのヒドロキシ基によって形成される目的で、カルボン酸(塩)が好ましく、生体適合性により優れる観点から、クエン酸(塩)が特に好ましい。導電性ナノ粒子は、ナノファイバー間の空隙に入り込んだ状態で存在する。導電性ナノ粒子として金属ナノ粒子を用いる場合、例えば後の実施例2の
図3で示すように、金属ナノ粒子がナノファイバーの軸線方向に沿って連結するように並んで存在するのが好ましい。ナノファイバーの束に沿って、金属ナノ粒子が連結して存在すると、複合膜としての金属導電性がより十分に確保される。つまり、金属ナノ粒子が連続して並んだ状態で複合膜中に存在すると、近接する金属ナノ粒子間でスムーズに電子が移動できる。従って、均一に金属ナノ粒子を存在させるよりも遥かに少ない量の金属ナノ粒子で複合膜としての導電性が確保される。なお、金属ナノ粒子に代えて、金属酸化物や炭素粒子等の導電性ナノ粒子を用いた場合でも、上記構造(導電性ナノ粒子がナノファイバーの軸線方向に沿って連結するように並んで存在)の形成により、同様の効果が期待できる。
【0034】
複合膜の膜厚は、その用途や要求される機能により適宜設定することができるが、例えば、0.05~20μmであるのが好ましい。複合膜の膜厚が0.05μm以上では、十分な機械的強度が得られ、自立性を有する。複合膜の膜厚が20μm以下であると、複合膜の十分な柔軟性が得られる。複合膜の膜厚の測定方法については、実施例4において詳述する。
【0035】
複合膜における、導電性ナノ粒子の量は、導電性ナノ粒子及びナノファイバーの合計量(100vol.%)に対して、2.0~20vol.%であることが好ましく、6.0~18vol.%であることがより好ましく、10~17vol.%であることがさらに好ましい。複合膜における導電性ナノ粒子の量が、導電性ナノ粒子及びナノファイバーの合計量に対して、2.0vol.%以上であると十分な導電性が得られる。複合膜における導電性ナノ粒子の量が、導電性ナノ粒子及びナノファイバーの合計量に対して、20vol.%以下であると十分な複合膜の柔軟性が得られる。
【0036】
複合膜の比抵抗率は、1×10-3Ωcm以下であることが好ましく、1×10-4Ωm以下であることがより好ましく、1×10-5Ωcm以下であることがさらに好ましい。複合膜の比抵抗率は、複合膜の金属含有量、すなわち導電性ナノ粒子の含有量や複合状態に依存する。導電材料として用いられる金の比抵抗率は、例えば、2.44×10-6Ωcmである。複合膜の比抵抗率が1×10-3Ωcm以下であると、導電材料として適切である。複合膜の比抵抗率の測定方法については、実施例8において詳述する。
【0037】
複合膜は、人体に貼付した場合に人体の動きに伴って変形又は伸縮する柔軟性を有することが好ましい。これにより、複合膜は、被接触体に対して密着させて使用する場合に、位置ずれや剥離が起こりにくくなる。また、複合膜は、人体の動きによる抵抗値の変化が2.0Ω以下であることが好ましく、1.5Ω以下であることがより好ましく、1.2Ω以下であることがさらに好ましい。抵抗値の変化が2.0Ω以下であることにより、例えば複合膜を電極として利用する場合、得られる電流値は、人体の動きによる影響を受けにくいため、正確な値が得らえる。なお、人体の動きとは、例えば複合膜を掌に貼り付けた場合の掌の開閉、肘などの関節に貼り付けた場合の関節の動き等の動作が挙げられる。
【0038】
複合膜は、複数の空隙に存在する液体の増減による抵抗値の変化が0.5Ω以下であることが好ましく、0.4Ω以下であることがより好ましく、0.3Ω以下であることがさらに好ましい。抵抗値の変化が0.5Ω以下であることにより、例えば複合膜を電極として利用する場合、得られる電流値は、複合膜の空隙に存在する液体の量又は湿度等の使用環境の影響を受けにくいため、正確な値が得られる。
【0039】
複合膜の引張強度は、0.5~100MPaであることが好ましく、5~80MPaであることがより好ましく、10~60MPaであることがさらに好ましい。複合膜の引張強度は、複合膜の導電性ナノ粒子の含有量や複合状態に依存する。複合膜の引張強度が0.5MPa以上であると、破損しにくく、例えば人体等に貼り付けて使用する場合にも十分な耐久性を有する。複合膜の引張強度が100MPa以下であると、柔軟性に富み、例えば人体等に貼り付けて使用する場合に、人体の動きに伴って変形又は伸縮することができるため、位置ずれや剥離を防止できる。なお、複合膜の引張強度の測定方法については、実施例4において詳述する。
【0040】
なお、複合膜の金属光沢度(反射率)は、特に必要としなくてもよい。例えば、複合膜の反射率は、純金属箔の50%未満の全反射率であってもよい。このため、複合膜は、金属光沢度を向上するためのホットプレスやメッキ工程を行う必要がなく、容易に作製できる。
【0041】
(ナノファイバー)
ナノファイバーは、親水性であり、生体適合性を有する。本明細書において、生体適合性とは、人体等の生体へ接触させた場合に害が無く、安全性が維持されるものをいう。ナノファイバーとしては、例えばセルロース、キトサン、キチン、その他の多糖類を原料とするものが挙げられる。多糖類は、分子中に多くの水酸基を有するため、水になじみやすい。さらに、これらのナノファイバーは疎水性を併せ持つ両親媒性を有することから、含水時においても十分な機械的強度を示す。ナノファイバーは、特に入手し易さ及び生体に対する安全面から、セルロースナノファイバー(以下、CNFとも記す。)が好ましい。また、セルロースナノファイバーから得られる複合膜は、機械的な強度を備え、かつ柔軟性を有する。さらに、導電性ナノ粒子が金属ナノ粒子などの無機成分である場合、セルロースナノファイバーは使用後に燃焼することにより導電性ナノ粒子と分別することができる。このため、複合膜中に含まれる導電性ナノ粒子は、使用後は容易に回収して再利用することができ、繰り返し使用できることがある。
【0042】
セルロースナノファイバーは、例えば、グルコースがβ-1,4-グリコシド結合した多糖類からなる。また、セルロースナノファイバーは、例えば、1~100nmの繊維径を有するファイバーである。本実施形態において用いられるセルロースナノファイバーは、導電性ナノ粒子との複合化が可能なものであれば特に限定されず、公知のセルロースナノファイバー、例えば、バクテリア合成により得られるセルロースナノファイバー、植物のような天然物からの抽出物およびその加工物などが挙げられる。特に、前者は合成条件を設定することにより所望の膜厚のナノファイバー膜として得られる。一方、後者の場合、製造方法において説明するように、セルロースナノファイバー含有溶液を吸引濾過などの方法により、所望の膜厚のナノファイバー膜に成形加工することができる。
【0043】
セルロースナノファイバーは、合成や入手が容易であることから、バクテリアセルロースナノファイバー膜および植物由来セルロースナノファイバーであるのが好ましい。植物由来セルロースナノファイバーとしては、実施例に記載のような市販のセルロースナノファイバー含有溶液を用いることができる。本発明においては、セルロースナノファイバーが複合膜の機械的特性に寄与する。すなわちセルロースナノファイバーの機械的特性が生かされるので、ファイバー長やファイバー径(合わせて、アスペクト比)を揃えるための微細化処理を特に要さないが、アスペクト比により複合膜の機械的特性を高精度に制御することが可能である。例えば、複合膜の機械的な強度及び柔軟性を仕様に応じて調節することができる。本実施形態においては、分散溶液にしたときに白濁するような解繊度の低いセルロースナノファイバーを好適に用いてもよい。なお、セルロースナノファイバーは、本発明の機能を害さない限りにおいて、セルロース以外のナノファイバーを含んでいてもよい。
【0044】
(導電性ナノ粒子)
本明細書において、導電性ナノ粒子とは、ナノメートルのオーダーのサイズを有し導電性を有する粒子をいうものとする。ナノメートルのオーダーとは1~数百ナノメートルの範囲を含み、典型的には粒子径が1~100nmの範囲である。
【0045】
導電性ナノ粒子の平均粒子径(メディアン径、D50)は、特に限定されないが、15~100nmが好ましく、より好ましくは15~50nmである。導電性ナノ粒子の平均粒子径が15nm以上であると、セルロースナノファイバーとの相溶性が低下し、複合膜の機械的強度が向上する。また、十分な導電性を得るための導電性ナノ粒子の使用量を所定量以下に抑えることができる。導電性ナノ粒子の平均粒子径が100nm以下であると、セルロースナノファイバーとの相溶性が向上し、導電性ナノ粒子の凝集が抑制されて均一な複合膜が形成される。また、十分な導電性を得るための導電性ナノ粒子の使用量を所定量以下に抑えることができる。導電性ナノ粒子の平均粒子径は、個数平均により求められる値であり、例えば、透過型電子顕微鏡を用いて撮影した画像から任意に100個の導電性ナノ粒子の粒径を測定し、それらの平均値から求めることができる。
【0046】
本実施形態において用いられる導電性ナノ粒子は、ナノファイバーとの複合化が可能なものであれば特に限定されず、複合膜の用途や要求される機能により適宜選択すればよい。導電性ナノ粒子を構成する成分としては、例えば、金属、金属酸化物、炭素などが挙げられる。なお、導電性ナノ粒子は、一種類の成分のみから構成されていてもよく、複数の種類の成分を含んでいてもよい。中でも、導電性ナノ粒子は、構成成分として金属を含む粒子(すなわち金属ナノ粒子)が好ましい。金属ナノ粒子は、例えば、金、銀、パラジウム、白金、ニッケル、銅、鉄、鉛、リチウム、コバルト、マンガン、アルミニウム、亜鉛、ビスマス、ケイ素、錫、カドミウム、インジウム、チタン、タングステン等の単一元素からなるナノ粒子、これら金属の複数の元素からなるナノ粒子、これら金属の酸化物若しくは塩を含むナノ粒子、又は炭素粒子などの金属以外の導電物質を含むナノ粒子であってもよい。人体に対して貼り付けて使用する場合、導電性ナノ粒子は、例えば、金、銀、パラジウムおよび白金から選択される金属のナノ粒子であることが好ましい。これら金属ナノ粒子は、比較的人体に対して影響が少なく、複合膜に導電性を付与することができる。複合膜をバッテリー又は電解槽を含む電気化学セル装置等のデバイスに用いる場合、導電性ナノ粒子は、デバイスの性能に影響がなければ、例えば、ニッケル、銅、鉄、鉛、リチウム、コバルト、マンガン、アルミニウム、亜鉛、ビスマス、ケイ素、錫、カドミウム、インジウム、チタン、タングステン等の単一元素からなるナノ粒子、これら金属の複数の元素からなるナノ粒子、これら金属の酸化物若しくは塩を含むナノ粒子、又は炭素粒子などの金属以外の導電物質を含むナノ粒子を用いても良い。
【0047】
特に、金ナノ粒子は、人体に対してアレルギー等の影響も少ないため、安全に複合膜を皮膚に密着して使用することができる。従って、複合膜は、皮膚又は生体内部の組織に対しても安全に使用できる。なお、金ナノ粒子は、公知の方法、例えば、国際公開第WO2010/095574号に記載の方法により製造することができる。
【0048】
(用途)
複合膜は導電性を有し、高強度で耐熱性や柔軟性に優れ、自立性があり、型内成形やパターン成形が容易であるので、光・電子材料をはじめ、電極材、センサ素子、ウェアラブル素材や電磁波防護材などの新しい用途にも期待できる。例えば、以下に詳述するような、体脂肪率測定装置等にも用いられる。また、生体に対して安全な素材であるため、体の表面に貼って使用するのみならず、口腔や臓器等の体内においても使用することができる。例えば、外科手術で用いる素材として使用することも可能である。また、他の素材と組み合わせることにより、電池又は電解槽を含む電気化学セル装置等にも用いられる。
【0049】
電気化学セル装置を電池又は電解槽として用いる場合、複合膜は集電体、又は電極として機能する。複合膜は、親水処理を施した電池又は電解セルの内部に直接貼り付けることができる。これにより、電池又は電解槽を軽量化及び薄膜化することができる。また、複合膜を電池又は電解セルに直接貼り付けるため、複合膜の配置が容易にでき、製造工程が簡易となる。また、複合膜は空隙を備えるため表面積が金属薄膜と比べて広い。一般的に、電気化学セル装置においては、電極の表面積が広くなるにつれ、電子が移動できる反応領域が広くなる。このため、電気化学セル装置を電池又は電解槽として用いる場合、複合膜は表面積を広く確保できるため、電池の容量及び反応効率を向上できる。
【0050】
上記複合膜を用いた電池又は電解槽としては、二電極セルや三電極セルが挙げられる。上記二電極セル及び上記三電極セルの一実施形態を
図21~
図24に示す。
図21及び
図22に示す二電極セルは、基材31と、基材31上に設置された作用極32および対極33とを備える。
図21及び
図22に示す二電極セルにおいて、作用極32は上記複合膜からなる電極であり、図示しない液状の電解質を例えば基材31や作用極32に含浸させて使用する。
図22に示す二電極セルは、作用極32及び対極33を電気的に接続する固体電解質35を備える。
図22において、固体電解質35は、作用極32及び対極33のそれぞれの一部を覆っているが、基材31の全体を覆っていてもよく、皮膚への貼付部分を除いて覆っていることが好ましい。固体電解質35は高分子電解質膜やセルロースナノファイバー膜に電解質を含侵させた電解質膜として形成されている。上記電解質膜を電解質として用いることにより、二電極セルを皮膚に貼付して使用する際、発汗しない場合であっても空気中の水分により固体電解質35が電解質として機能し、作用極32と対極33とを導通することができる。
【0051】
図23及び
図24に示す三電極セルは、基材31と、基材31上に設置された作用極32、対極33、参照極36とを備える。
図23及び
図24に示す三電極セルにおいて、作用極32は上記複合膜からなる電極である。また、
図23及び
図24に示す三電極セルにおいて、作用極32、対極33、及び参照極36を電気的に接続する固体電解質35を備えていてもよい。固体電解質35を使用しない場合、液状の電解質を例えば基材31や作用極32に含浸させて使用する。固体電解質35は、作用極32、対極33、及び参照極36のそれぞれの一部を覆っていることが好ましいが、基材31の全体を覆っていてもよく、皮膚への貼付部分を除いて覆っていることがより好ましい。固体電解質35は上記電解質膜から形成されている。上記電解質膜を電解質として用いることにより、三電極セルを皮膚に貼付して使用する際、発汗しない場合であっても空気中の水分により固体電解質35が電解質として機能し、作用極32と対極33とを導通することができる。
【0052】
また、他の電気化学セル装置としては、例えばバイオ燃料電池が挙げられる。バイオ燃料電池では、複合膜は、例えば金属膜等の集電体に貼り付けて使用する。複合膜は、空隙を備えるため、例えば分子認識体を固定化することができる。本実施形態において分子認識体は、例えば、水素結合、疎水性結合、ファンデルワールス力等の分子間相互作用によって、特定の分子又は一部に特定の分子構造を有する分子に対して親和性や選択性等を示すものをいう。分子認識体としては、例えば酵素又は微生物等が挙げられる。複合膜に固定化された酵素又は微生物は、複合膜の空隙に吸収された液体中の物質と反応する。例えば、酵素又は微生物によって液体中の物質が酸化又は還元される場合、複合膜中で電子が発生する。これにより、バイオ燃料電池は、電流を発生させることができる。また、複合膜は表面積が広いため、酵素又は微生物と液体中の物質との反応領域が広く、効率よく電流を発生させることができる。さらに、複合膜は、柔軟性を有し、被接触体に対して密着させて使用することができるため、バイオ燃料電池は、生体の皮膚に貼り付けて使用することができる。複合膜を生体の皮膚に貼り付けると、生体の皮膚から滲み出た汗等は、複合膜の空隙に吸収される。バイオ燃料電池は、汗中に含まれる基質を用いて酵素反応を生じ、電流を発生させることができる。例えば、複合膜に乳酸デヒドロゲナーゼを固定化していると、汗中の乳酸は、複合膜中の乳酸デヒドロゲナーゼと反応し、電子が生成する。これにより、複合膜中で電子の移動が発生し、バイオ燃料電池は、電流を発生させることができる。なお、酵素に代わり、抗体、アプタマーを含むDNA若しくはRNA、分子インプリントポリマーから形成した人工抗体、又はイオン選択性分子等のような標的の物質に応じた分子認識体を用いることができる。標的の物質が酸化還元体である場合、複合膜における電流応答から分子認識体に結合した標的の濃度を定量することができる。また、分子認識体と結合した標的物質が酸化還元しない場合、複合膜における電位差やインピーダンスの変化によって標的の濃度を電気化学的に定量することができる。一方、これらの機構を用いれば、上記標的物質が一定量存在する場合、複合膜に吸着した酵素や微生物、抗体、アプタマーを含むDNA若しくはRNAを電気化学的に定量することができる。
【0053】
(複合膜の製造方法)
複合膜は、例えば、以下の方法で得られる。導電性ナノ粒子として金ナノ粒子を用いる場合、初めに、金ナノ粒子の分散液とセルロースナノファイバーの分散液とを混合し、金ナノ粒子及びセルロースナノファイバーの混合分散液を得る。セルロースナノファイバーは水によく分散する。このため、水を媒体として金ナノ粒子に容易に混合される。この混合分散液において、金ナノ粒子とセルロースナノファイバーとが水素結合により自発的に結合する。得られた混合分散液を吸引濾過などの方法により成形加工し、乾燥させることにより複合膜を製造することができる。乾燥は、公知の装置を用いることができ、その条件は、複合膜が変質せずに形成される条件であれば特に限定されず、通常、大気下、温度5~40℃である。なお、金ナノ粒子以外の導電性ナノ粒子を用いる場合についても同様にして複合膜を製造することができる。
【0054】
なお、導電性ナノ粒子の分散液にセルロースナノファイバー膜またはセルロースナノファイバー膜が表面に形成された固体材料を浸漬し、該セルロースナノファイバー膜に導電性ナノ粒子を付加して複合膜を得てもよい。この場合、セルロースナノファイバー膜としては、シート状セルロースナノファイバー膜、セルロースファイバー構造物が挙げられる。シート状セルロースナノファイバー膜は、例えば、バクテリア合成により得られるセルロースナノファイバー膜やセルロースナノファイバー含有溶液を吸引濾過などの方法により成形加工することにより製造することができる。浸漬条件は、得られる複合面状体の用途や要求される機能により適宜設定すればよいが、通常、液温5~40℃の分散液に0.5~120時間である。また、分散液を撹拌することにより、導電性ナノ粒子をセルロースナノファイバー膜中で分散した状態で存在するように付加(析出)させることができるので好ましい。これにより、導電性ナノ粒子は、導電性や物理的な強度を向上させる等の効果をセルロースナノファイバー膜に付加できる。
【0055】
金ナノ粒子の分散液は、金を含む金属化合物、任意にバインダを含む水性溶液として調製することができる。金属化合物としては、テトラクロロ金(III)酸四水和物、塩化金酸(I)、塩化金(III)などが挙げられる。バインダとしては、クエン酸、クエン酸ナトリウム、アスコルビン酸、アスコルビン酸ナトリウム、炭酸カリウム、アンモニア、メタノール、エタノール、あるいはアニリン、ピロール、チオフェンの誘導体及びその重合体、アルキル鎖やベンゼン環を有する分子およびその末端あるいは両末端にチオール基、ジスルフィド基、アミノ基、イミノ基、カルボキシ基、カルボニル基などを有する分子などが挙げられる。バインダは得られる複合膜の用途や要求される機能により適宜設定すればよいが、硫黄化合物をバインダとして加える場合には、複合膜1g当たりの硫黄化合物の含有量を100μg以下、さらには10μg以下に調整できるので好ましい。また、バインダを用いない場合および硫黄を含まないバインダを用いる場合には、硫黄フリーの複合膜を得ることができる。
【0056】
分散液中の金属化合物の濃度は、金属換算で1×10-5~1×10-1質量%程度である。また、セルロースナノファイバーと金属化合物中の金属との質量割合は、1:0.1~3程度である。
【0057】
複合膜の製造方法は、複合膜をホットプレスする工程をさらに含んでいてもよい。ホットプレスは、公知の装置を用いて行うことができ、その設定温度、圧力および時間は、その用途や要求される機能により適宜設定することができる。具体的には、セルロースナノファイバーの耐熱温度が350℃程度であることから、導電性ナノ粒子/セルロースナノファイバーのシート状複合膜を100℃~350℃、10MPa~40MPaでホットプレスする。また、処理時間は1~10分間程度である。導電性ナノ粒子が金属ナノ粒子の場合、ホットプレスにより、複合膜の表面が平滑になり、金属光沢度(反射率)が向上すると共に、金属ナノ粒子の充填率や接触率が増加し、複数の金属ナノ粒子が繋がってなる導電経路が面状に広がったネットワークが形成されるので、金属含有量にも因るが、導電率が金属ナノ粒子の純金属の比抵抗率に等価になる。例えば、従来の金箔の金の使用量を体積占有率20%以下に低減しても、高導電性の複合膜を形成することができる。
【0058】
複合膜の製造方法は、導電性ナノ粒子が金属ナノ粒子の場合、複合膜中の金属ナノ粒子をさらに成長させる工程をさらに含んでいてもよい。金属ナノ粒子が固定された複合膜を、金属ナノ粒子を含む分散液に投入して撹拌することで行うことができる。これにより、分散液中の金属ナノ粒子が複合膜内の金属ナノ粒子の表面に付着することで金属ナノ粒子を成長させることができる。または、金属ナノ粒子を含む上記分散液中の金属塩または金属錯体が複合膜の金属ナノ粒子を核として還元されて析出することで、金属ナノ粒子を成長させることができる。
【0059】
複合膜の製造方法は、複合膜の形成の後に、超純水で複合膜の内部を洗浄する工程(洗浄工程)を備えていてもよい。これにより、製造中など複合膜におけるナノファイバー間の空隙に入り込んだ余分な塩などを排除できる。なお、複合膜の製造方法については、実施例1において詳述する。以下、複合膜を用いた体脂肪率測定装置及びセンサ素子について説明する。
【0060】
[体脂肪率測定装置]
図1は、本発明の一実施形態に係る体脂肪率測定装置の模式図である。
図1に示す様に、体脂肪率測定装置10は、複合膜11、交流電源装置12、及びインピーダンス測定部13を備える。インピーダンス測定部13は、交流電源装置12の内部に内蔵されている。なお、インピーダンス測定部13は、交流電源装置12と独立した構成であってもよい。複合膜11は、交流電源装置12及びインピーダンス測定部13にそれぞれ接続されている。交流電源装置12は、複合膜11に周波数50kHz、電流値1.0mAの正弦波電流を印加する。インピーダンス測定部13は、複合膜11におけるインピーダンスを検出する。
【0061】
体脂肪率測定装置10において、複合膜11は電極として使用されている。複合膜11は皮膚に貼り付けて密着した状態で使用される。本明細書において、密着とは、少なくとも被接触体の一部において密着している状態であればよく、必ずしも複合膜11の全体が被接触体に密着している必要はない。被験者は、例えば複合膜11を両足踵に貼り付け、地面に直立した姿勢で体脂肪率を測定する。なお、複合膜11を貼り付ける場所は両足踵には限定されず、例えば掌等に貼り付けて使用してもよい。
【0062】
体脂肪率は、簡便さ及び迅速さから生体インピーダンス法で算出することが好ましい。生体インピーダンス法は、体に微弱な電流を流し、その際の抵抗値を計測することで体組成を推定する方法である。生体内において筋肉のように水などの電解質を多く含む組織は電気をよく流し、反対に脂肪分は電気を流しにくいという性質がある。このため生体内の脂肪分が増加するにつれて体の抵抗値は高くなる。生体インピーダンス法は、この性質を利用し、体脂肪率を算出する。
【0063】
はじめに、以下の式(1)を用いて被験者の身長(Ht)、体重(W)、得られたインピーダンス(BI)から体密度(BD)を算出する。次に、得られた体密度(BD)をBrozekの式(式(2))に代入し体脂肪率を求める。
BD[g・cm-3]=1.1278-0.115×W×BI/Ht2+0.000095・BI・・・式(1)
体脂肪率[%]=(4.971/BD-4.519)×100・・・式(2)
(W:体重[kg],BI:インピーダンス[Ω],Ht:身長[cm])
【0064】
体脂肪率測定装置10は、複合膜11を有する。複合膜11は、被験者の身体に密着することができる。また、実施例で説明するように、複合膜11は、含水率及び形状の変改によって誘電率が変化しない。このため、体脂肪率測定装置10は、従来の製品と比べて正確な体脂肪率を測定できるものと推定される。
【0065】
[センサ素子]
図2(A)は、本発明の一実施形態に係るセンサ素子(以下、センサ素子20とも記す。)の模式的な断面図である。センサ素子20は、複合膜11にさらに分子認識体22を備える。なお、分子認識体22は、補酵素を含むホロ酵素であってもよい。分子認識体22は、概ね5~30nmのサイズである。
図2(A)に示す様に、分子認識体22は複合膜11の複数の空隙23、すなわちセルロースナノファイバー間に配置されている。図示はしていないが、導電性ナノ粒子は、複合膜11の空隙23を含めた表面に存在している。導電性ナノ粒子は、導電性又は物理的な強度を向上させる等の効果を複合膜11に付加している。さらに、分子認識体22は、導電性ナノ粒子の間に点在している。
【0066】
分子認識体22が酵素である場合、特定の物質(以下、基質24とも記す。)に対して特異的な酵素活性を示す。センサ素子20は、酵素である分子認識体22が触媒することによって生じる化学反応を利用する。例えば、分子認識体22によって、基質24が酸化反応又は還元反応すると、不図示の補酵素を介して直接的に、あるいは不図示の電子メディエータを介して間接的に電子が基質24と複合膜11の導電性ナノ粒子との間を移動する。化学反応が生じる分だけ複合膜11中の分子認識体22及び導電性ナノ粒子を介した電子の移動が生じる。このため、複合膜11を介して電子の移動量に応じた電流が発生する。すなわち、分子認識体22と基質24の反応によって生じた生成物の電気化学反応に基づいて電流が発生する。これにより、センサ素子20を用いた酵素センサは、センサ素子20に接触する試料中に含まれる基質24の量を測定することができる。
【0067】
分子認識体22は、例えば、オキシダーゼ、レダクターゼ、デヒドロゲナーゼ、又は補酵素を含むホロ酵素であることが好ましい。分子認識体22がホロ酵素である場合、補酵素は、フラビンアデニンジヌクレオチド又はニコチンアデニンジヌクレオチド、あるいはピロロキノリンキノンであることが好ましい。分子認識体22がオキシダーゼであると、基質24を酸化させることにより、センサ素子20を用いた酵素センサは、試料中に含まれる基質24の量を測定することができる。分子認識体22がレダクターゼであると、基質24を還元させることにより、センサ素子20を用いた酵素センサは、試料中に含まれる基質24の量を測定することができる。
【0068】
オキシダーゼは、グルコースオキシダーゼ、又は乳酸オキシダーゼであることが好ましい。これにより、センサ素子20を用いた酵素センサは、例えば人の汗中に含まれるグルコース又は乳酸の濃度を測定することができる。例えば、グルコースオキシダーゼは、基質のグルコースと溶存酸素とが酵素反応させて、グルコノラクトンと過酸化水素を生成する。乳酸オキシダーゼは、基質の乳酸と溶存酸素とが酵素反応させて、ピルビン酸と過酸化水素を生成する。過酸化水素は、+0.6VでAg|AgCl電極を用いて電気化学的に検出できる。このため、過酸化水素の発生に伴う電流応答からグルコース又は乳酸の濃度を定量することができる。
【0069】
なお、分子認識体22として、適時、酵素と補酵素の複合体であるいわゆるホロ酵素を用いても良い。また、電子メディエータ分子を複合膜11に添加しても良く、電子メディエータ分子はセルロースナノファイバー又は導電性ナノ粒子の表面に共有結合やチオールを介した結合を用いて固定しても良い。補酵素又は電子メディエータ分子は、分子自身が繰り返し酸化還元反応することで、電子を輸送する機能を有する。一般的に、補酵素としては、フラビンアデニンジヌクレオチド又はニコチンアデニンジヌクレオチド、あるいはピロロキノリンキノンが用いられる。電子メディエータとしては、ヘキサシアノ鉄(III)イオン、ヘキサシアノ鉄(II)イオン、フェロセン誘導体、又はキノン化合物などの可逆的な酸化還元特性を有する物質が用いることができる。補酵素又は電子メディエータのはたらきによって、溶存酸素の影響なく、測定の応答性や迅速性の向上が可能である。
【0070】
なお、分子認識体22として、酵素を用いる場合について説明したが、分子認識体22は酵素に限定されない。分子認識体22は、例えば、標的の物質と選択的に結合する抗体、アプタマーを含むDNA若しくはRNA、分子インプリントポリマーから形成した人工抗体、又はイオン選択性分子等であってもよい。標的の物質が酸化還元体である場合、複合膜11における電流応答から分子認識体22に結合した標的の濃度を定量することができる。また、分子認識体22と結合した標的物質が酸化還元しない場合、複合膜11における電位差やインピーダンスの変化によって標的の濃度を電気化学的に定量することができる。
【0071】
図2(B)は、従来の平板電極51へ分子認識体22を固定したセンサ素子50の模式的な断面図である。分子認識体22が酵素である場合、
図2(B)に示す様に、平板電極51へ酵素である分子認識体22を固定すると、分子認識体22は平板電極51上で様々な方向を向いて固定される。酵素は、基質を認識する認識部21を有する。
図2(B)に示す分子認識体221のように、認識部21側が平板電極51に覆われることなく、比較的平板電極51に近い位置となるように固定されると、認識部21で電子の移動が生じた場合、電子はスムーズに平板電極51へと伝達する。しかしながら、
図2(B)に示す分子認識体222のように、認識部21側が平板電極51で覆われるように固定されていると、認識部21側は標的の物質を認識することができない。また、
図2(B)に示す分子認識体223のように、認識部21側が平板電極51と逆側を向いた状態で固定されていると、認識部21側と平板電極51との距離が長くなる。このため、認識部21で電子の移動が生じても、平板電極51に伝達しない場合が生じる。従って、平板電極51に分子認識体22を固定したセンサ素子50においては、分子認識体22の配向によって、十分に分子認識体22が活用できない又は電子の移動が検出されないおそれがある。
【0072】
これに対して、複合膜11は外部と連通する様々な空隙23を有する。分子認識体22は空隙23に配置されている。空隙23を形成する複合膜11の壁面は平面と比べて複雑な形状である。このため、分子認識体22は複合膜11に対して様々な配向であったとしても、
図2(A)に示す様に、認識部21側が複合膜11に覆われることなく、比較的複合膜11に近い位置となるように固定されることが多くなる。従って、センサ素子20は、分子認識体22の配向によらず、十分に分子認識体22が活用でき、かつ電子の移動がスムーズに検出できる。このため、試料中に含まれる基質の量が微量であっても、センサ素子20を用いた酵素センサは、平板電極51を用いた酵素センサと比べて高効率で反応が生じるため、高い精度で測定することができるものと推定される。例えば、センサ素子20を用いた酵素センサをウェアラブル測定装置として使用し、生体に密着して使用する場合であっても、人の汗中に含まれる微量のグルコース又は乳酸の濃度等を測定することができる。また、複合膜11が多数の空隙23を有する構造であるため、汗が空隙23に染み込む。このため、複合膜11は、溶液中の微量のグルコース又は乳酸を効率的に測定することができる。
【0073】
センサ素子20は、分子認識体22を公知の手法により複合膜11に固定することによって得られる。例えば、分子認識体22は共有結合、チオールを介した結合又は静電的な相互作用により複合膜11中のセルロースナノファイバーに固定される。なお、センサ素子20は、単一の分子認識体22を備えていてもよく、複数種の分子認識体22を備えていてもよい。また、センサ素子の製造方法については、実施例10及び実施例16において詳述する。
【実施例】
【0074】
以下、実施例により本発明をより具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例により限定されるものではなく、本発明の目的を達成できる範囲での変形や改良は、本発明に含まれるものである。なお、本実施例で使用した超純水は、ろ過を行った後、pH調整、逆浸透膜、イオン交換膜を通し、紫外殺菌処理を行ったものを用いた。本実施例で用いた試薬はすべて特級であり、特に述べない限り富士フイルム和光純薬株式会社の試薬を使用した。
【0075】
調製例1
〈金ナノ粒子分散液の調製〉
超純水400mLに1wt%の塩化金(III)酸四塩化物水溶液12mLと、2wt%クエン酸ナトリウム水溶液9mLを加え、80℃で20分間スターラーを用いて攪拌して、金ナノ粒子分散液(平均粒径30nm、0.0136wt%)を得た。
【0076】
実施例1
〈複合膜の調製〉
2質量%セルロース溶液(バイオマスナノファイバー ビンフィスIMa-10002、株式会社スギノマシン製)0.5gに、上記金ナノ粒子分散液250mLを加え、室温にてスターラーを用いて1分間撹拌し、金ナノ粒子/セルロースナノファイバー(以下、金ナノ粒子/セルロースナノファイバーをAuNP/CNFとも表記する。)混合分散液を得た。AuNP/CNF混合分散液を、PTFE製メンブレンフィルター(オムニポアメンブレンフィルター、孔径1μm、メルクミリポア株式会社製)をセットした吸引ろ過装置(メルクミリポア株式会社製)で5分間吸引ろ過を行い、メンブレンフィルター上にAuNP/CNF混合物を析出させた。メンブレンフィルターごとAuNP/CNF混合物を取り出し、ホットプレート(C-MAG HP10、IKA社製)上に配置し、130℃で2分間加熱して乾燥させた後、複合膜(以下、AuNP/CNF膜とも記す。)をメンブレンフィルターから剥離し、AuNP/CNF膜(金:13vol.%)を得た。得られたAuNP/CNF膜は、自立性及び柔軟性を有した。なお、ろ過で得られたろ液が無色透明であることから、金ナノ粒子分散液中の金ナノ粒子は全てメンブレンフィルター上のAuNP/CNF混合物に残っているものと推定される。
【0077】
実施例2
〈AuNP/CNF膜の表面観察〉
AuNP/CNF膜(金:13vol.%)の表面を走査型電子顕微鏡(SEM、Miniscope(登録商標)、TM3030、株式会社日立ハイテクノロジーズ製)を用いて表面観察を行った。上面写真を
図3に示す。
【0078】
図3から、AuNP/CNF膜は、多数の空隙を有することが確認された。また、
図3に示す直径が約30nmの白い粒子が金ナノ粒子であり、直径約100nmの糸状のものがセルロースナノファイバーである。金ナノ粒子の保護基であるクエン酸のカルボキシ基とセルロースのヒドロキシ基による水素結合が形成されて、金ナノ粒子がセルロースナノファイバーに付着していると考えられる。
【0079】
実施例3
〈AuNP/CNF膜の含水率と抵抗値測定〉
AuNP/CNF膜(金:13vol.%)を所定時間、超純水に浸漬させた。浸漬前後のAuNP/CNF膜の重さを量り、抵抗値をデジタルマルチメーター(34410A、アジレント・テクノロジー株式会社製、印加電流:1mA)で測定した。結果は、
図4(A)及び
図4(B)に示す。
図4(A)は、AuNP/CNF膜を水に浸漬した時の含水率の経時変化を示すグラフであり、(B)は、AuNP/CNF膜を水に浸漬した時の経時時間と抵抗値との関係を示すグラフである。
【0080】
図4(A)に示す様に、AuNP/CNF膜を超純水に浸漬後120分で重量は浸漬直後に対して2.5倍となり、その後大きな変化は見られなかった。また、
図4(B)に示す様に、各時間におけるサンプルの抵抗値は、含水量に関係なく1Ω以下という低い値を示し、測定値のバラツキも0.5Ω以下であった。すなわち、AuNP/CNF膜(金:13vol.%)において、複数の空隙に存在する液体の増減による抵抗値の変化は0.5Ω以下である。さらに、この評価実験後にAuNP/CNF膜を十分に乾燥させて再度抵抗値を測定すると、抵抗値は、0.76Ωを示していた。これから、AuNP/CNF膜は含水しても抵抗値に影響がなく、溶液中でも高い導電性を保っており、電極としての利用が可能であることが確認できた。
【0081】
実施例4
〈AuNP/CNF膜に含まれる金濃度に対する抵抗値及び引張強度〉
金ナノ粒子分散液の調製例において、金濃度のみを変化させて実施例1と同様に金濃度の異なるAuNP/CNF膜を複数調製した。AuNP/CNF膜の比抵抗値をデジタルマルチメーター(34410A、アジレント・テクノロジー株式会社製、印加電流:1mA)及び超高抵抗/微小電流計(8340A、株式会社エーディーシー製)で測定した。結果は、
図5(A)に示す。また、AuNP/CNF膜(6.6vol.%、11.0vol.%、13.0vol.%、17.0vol.%)、CNF膜、及び金箔の引張強度について測定した。結果は、
図5(B)に示す。なお、AuNP/CNF膜及びCNF膜の引張強度は、各膜を2×2cmにカットし、デジタルフォースゲージ(FJGN-50、日本電産シンポ株式会社製)を用いて、25℃で測定した。金箔(99.95%、AU-173174、株式会社ニラコ製)についても同様に測定したAuNP/CNF膜の膜厚は、走査型電子顕微鏡(SEM、TM3030、株式会社日立ハイテクノロジーズ製)を用いて測定した。
【0082】
図5(A)に示す様に、AuNP/CNF膜の比抵抗率は、膜中の金量増加とともに緩やかに減少し、金量が6vol%の時に急激に減少した。また、AuNP/CNF膜の比抵抗率は金量が13vol%になると、金板と同等の比抵抗率(2.9×10
-6Ωcm)を示し、金使用量の大幅な低減化を達成していることを示した。また、AuNP/CNF膜の膜厚は5~10μmであり、柔軟でありながら、
図5(B)に示す様に、金板の5倍以上高い引張強度を示した。
【0083】
実施例5
〈AuNP/CNF膜を用いた電極の作製〉
AuNP/CNF膜(金量が2.5vol.%~17.0vol.%(2.5vol.%、3.8vol.%、5.7vol.%、6.4vol.%、6.6vol.%、11.0vol.%、13.0vol.%、17.0vol.%)のAuNP/CNF膜を上記複合膜の調製と同様に作製した。)を直径1cmの円形に切り取り、一部を直径6mmの円形に切り取ったテフロン(登録商標)テープで挟んだ。金線をリード線としてAuNP/CNF膜に接続して、AuNP/CNF膜電極を得た。
【0084】
実施例6
〈サイクリックボルタンメトリー(CV)測定〉
0.1MのKCl水溶液と、0.1MのKCl水溶液で調製した5mMのK
3[Fe(CN)
6]溶液とを電解液として準備した。AuNP/CNF膜電極(金:3.8vol.%、5.7vol.%、6.4vol.%、6.6vol.%、11.0vol.%、13.0vol.%、17.0vol.%)を作用極、Ag|AgCl電極を参照極、Ptコイル電極を対極として、それぞれ電解液に浸漬した。サイクリックボルタンメトリー(ALS842B、ビー・エー・エス株式会社製)を用いて、50mVs
-1の掃引速でCV測定を行った。5mMのK
3[Fe(CN)
6]溶液中でCV測定した結果は、
図6(A)に示す。
図6(B)は、AuNP/CNF膜の金体積占有率に対してピーク電流値をプロットしたものである。なお、
図6(A)においては、金濃度が3.8vol.%のAuNP/CNF膜電極の測定値については記載していない。
【0085】
図6(A)に示すボルタモグラムより、AuNP/CNF膜中の金量が6.4vol.%以上の時、フェリシアニドの酸化還元に基づく典型的な応答が見られた。
図6(B)から、AuNP/CNF膜中の金量が11vol.%以上のとき、ピーク電流値に変化が見られなくなった。また、0.1MKCl溶液中でCV測定を行った結果を
図7に示す。
図7から、AuNP/CNF膜中の金の増加に伴い、バックグラウンドが大きくなることが確認された。
【0086】
実施例7
〈AuNP/CNF膜の洗浄操作の影響〉
潜在的な表面汚染物質を除去するために、以下の操作を行い、操作前後のCV測定を行った。0.1MのH
2SO
4水溶液を電解液として準備した。AuNP/CNF膜電極(金:13vol.%)を作用極、Ag|AgCl電極を参照極、Ptコイル電極を対極として、それぞれ電解液に浸漬した。洗浄操作としてサイクリックボルタンメトリー(ALS842B、ビー・エー・エス株式会社製)を用いて、200mVs
-1の掃引速度で100周CV測定を行った。100周のCV測定の処理前後で、0.1MのH
2SO
4水溶液で溶解した5mMFeCl
3水溶液中でCVを行った。掃引速度は50mVs
-1である。結果は、
図8に示す。
【0087】
図8に示すように、洗浄前と洗浄後のボルタモグラムを比較すると、充電電流の大きさは、ほぼ変化がみられなかった。このため、充電電流の変化は、AuNP/CNF膜の汚れに起因するものではなく、AuNP/CNF膜の構造自体が充電電流を発生させる要因であると推測される。
【0088】
実施例8
〈AuNP/CNF膜の耐薬品性評価〉
AuNP/CNF膜の耐薬品性を評価するために以下の操作を行った。AuNP/CNF膜を各種処理溶液で満たしたファルコンチューブに入れ浸漬した。各種処理溶液をしては、HCl(1M)、NaOH(1M)、エタノール、トルエン、5%中性洗剤を使用した。浸漬したAuNP/CNF膜を、30分間、超音波(45kHz)で処理した。AuNP/CNF膜の比抵抗率をデジタルマルチメーター(34410A、アジレント・テクノロジー株式会社製、印加電流:1mA)で測定した。を用いて、3mmのギャップを有する一対の電極(0.3mm)に膜を配置し、25℃で3回測定した電気抵抗より、それらの平均値として比抵抗率を算出した。ここで膜厚は50nmとした。処理前後の溶液の吸光スペクトルを測定し、比較した。処理前後の溶液各3mLを吸光スペクトル測定用セルに入れ、紫外可視分光光度計(V-750、JASCO)を用いて吸光スペクトルを測定した。
【0089】
処理前後において、AuNP/CNF膜の比抵抗率、及び溶液の吸光スペクトルに変化は見られなかった。従って、各薬品に対する金ナノ粒子の流出はなく、金ナノ粒子は、化学的に付着されているだけでなく、セルロースナノファイバーによって取り囲まれ、物理的にも放出されにくい状態であるものと推定される。
【0090】
実施例9
〈AuNP/CNF膜の電気化学的特性評価〉
0.1MのKCl水溶液で調製した5mMのK
3[Fe(CN)
6]溶液を電解液として準備した。AuNP/CNF膜電極(金:13vol.%)又は金ディスク電極を作用極、Ag|AgCl電極を参照極、Ptコイル電極を対極として、それぞれ電解液に浸漬した。サイクリックボルタンメトリー(ALS842B、ビー・エー・エス株式会社製)を用いて、5~50mVs
-1の掃引速度でCV測定を行った。結果は、
図9(A)及び
図9(B)に示す。
図9(A)はAuNP/CNF膜電極を用いたCV測定結果であり、
図9(B)は
図9(A)の結果から掃引速度の平方根に対してピーク電流値をプロットしたグラフである。
図9(C)は金ディスク電極を用いたCV測定結果であり、
図9(D)は
図9(C)の結果から掃引速度の平方根に対してピーク電流値をプロットしたグラフである。
【0091】
図9(A)及び
図9(C)から、AuNP/CNF膜電極は、金ディスク電極と同様の酸化還元ピークを示した。また、掃引速度の上昇とともにピーク電流値の上昇がみられた。この時、各電極のピークセパレーションを求めると、AuNP/CNF膜電極では73mVであり、金ディスク電極では64mVであった。それぞれ、一電子授受反応の理論値である57mVに近い値を示しており、一般的な可逆系の反応であったことが確認された。また、掃引速度の平方根に対してピーク電流値をプロットしたところ、
図9(B)及び
図9(D)に示す様に、ピーク電流の理論式(下記式(3))に基づく直線を描いており、この系では拡散支配の可逆過程であることが確認された。
【0092】
また、金ディスク電極を作用極としたときに得られたボルタモグラムより、拡散係数Dを算出すると、3.9×10-6cm2/Sであった。この値を下記式(3)に代入して、AuNP/CNF膜電極の面積を求めると0.36cm2と算出された。これは、AuNP/CNF膜電極の幾何面積(0.28cm2)の約1.3倍の大きさであった。従って、AuNP/CNF膜表面に存在する多数の金ナノ粒子の粒子性によって表面積が増大していると考えられる。
Ip(ピーク電流)=269n3/2AD1/2Cv1/2・・・(3)
(式中、n:反応量子数、A:電極面積cm2、D:拡散係数cm2/S、C:濃度mol/L、v:掃引速度(V/s)である。)
【0093】
参考例1
(比色法によるグルコース濃度の定量)
以下、参考例としてグルコースオキシダーゼ/ペルオキシターゼ(GOD/POD)法によるグルコース溶液の比色定量法について説明する。
【0094】
ラボアッセイ(登録商標)グルコースを用いて染色試薬を調製した。染色試薬は、4-アミノアンチピリンとフェノールを用いた。染色試薬3mLに所定濃度のグルコース(2.8mM~0.3M)20μLを混合し、恒温槽中(37℃)5分間反応させた。グルコースオキシダーゼは、グルコースと溶存酸素とを酵素反応させて、グルコノラクトンと過酸化水素を生成する。アミノアンチピリン及びフェノールは、ペルオキシターゼ及び過酸化水素の存在下、酸化的に縮合反応されて、赤色のキノン色素を生成する。反応後の各溶液3mLを吸光スペクトル測定用セルに入れ、紫外可視分光光度計(V-750、JASCO製)を用いて吸光スペクトルを測定した。この時、発色試薬を対照とし、測定範囲は300~800nmと設定した。結果は、
図10(A)に示す。
図10(B)は、
図10(A)の結果を基に測定用セル中のグルコース濃度に対して505nmの吸光度をプロットしたグラフである。
図10(B)の中の図は、滴下したグルコース濃度に対して505nmの吸光度をプロットしたグラフである。
【0095】
この赤色色素の505nmの吸光度は、過酸化水素の濃度に比例する。このため、吸光度の大きさにより、グルコース濃度を定量する。
図10(A)に示すように、グルコース濃度が上昇するにつれて505nmの吸光度におけるピークが大きくなる様子が確認できた。
図10(B)に示すように、グルコース濃度が0.002mM~0.5mMの濃度範囲で定量できることがわかる。
図10(C)に示すように、グルコース濃度が0.3mM~75mMの濃度範囲で定量できることがわかる。なお、高濃度のグルコースの定量は、
図10(C)のグラフから得られる検量線を用いて得られるが、サンプルを希釈する必要がある。
【0096】
実施例10
〈グルコースセンサの作製〉
アスペルギルスニガー由来のグルコースオキシダーゼ(以下、GODとも記す。)240U/mgをグルタルアルデヒド架橋法によりAuNP/CNF膜電極に固定した。固定に伴い、GOD、牛血清由来アルブミン(以下、BSAとも記す。)、グルタルアルデヒド(以下、GAとも記す。)の混合液を作製した。混合液の作製方法は以下のとおりである。
(1)GODを約5mg量り取り、12UμL-1になるように0.2Mリン酸緩衝液(pH7.0)に溶かし、GOD溶液を調製した。
(2)BSAを約11mg量り取り、110mgmL-1になるように0.2Mリン酸緩衝液(pH7.0)に溶かし、BSA溶液を調製した。
(3)25%GA液を7%になるように0.2Mリン酸緩衝液(pH7.0)に溶かし、GA溶液を調製した。
(4)(1)のGOD溶液を3μL、(2)のBSA溶液を29μL、(3)のGA溶液を4μL混合し、全量36μLの混合液を得た。AuNP/CNF膜電極上(金:13vol.%)に混合液を6μL(6U)滴下した。暗下で24時間静置し、グルコースセンサを得た。その後、作製したグルコースセンサは0.2Mリン酸緩衝液(pH7.0)中で保管した。
【0097】
実施例11
〈バルク中におけるAuNP/CNF膜電極を用いたグルコースセンシング〉
上記グルコースセンサを作用極、対極および参照極にはそれぞれ白金メッシュ電極、Ag|AgCl電極を使用し、0.2Mのリン酸緩衝液(pH7.0)10mL中でアンペロメトリー(+0.6V)を行った。セルにはスターラーピースを入れ、500rpmで攪拌した。電流が安定したのち、一分ごとに25mMのグルコース溶液を添加して電流の変化を測定した。結果は、
図11(A)及び
図11(B)に示す。
図11(A)は、グルコース溶液を添加した時の電流応答グラフであり、
図11(A)の中の図は、
図11(A)の一部を拡大したグラフである。また、
図11(B)は、
図11(A)の結果を基に濃度に対して電流値をプロットしたグラフであり、
図11(B)の中の図は、Lineweaver-Burk二重逆数プロットである。
【0098】
図11(A)に示すように、グルコース溶液を添加すると、素早く電流が上昇し、安定した電流応答を示した。これは、酵素反応により生成した過酸化水素が電流応答として観測できたものと考えられる。また、
図11(B)に示すように、グルコース濃度の上昇に伴い、電流値は上昇し、0.2mM~10mMのグルコース濃度領域で電流応答が良好な濃度依存性を示した。
【0099】
AuNP/CNF膜電極を用いたグルコースセンサでさらに低濃度(0.001mM~0.1mM)のグルコース濃度の測定を行い、検出限界を調べた。
図12(A)は、グルコース溶液を添加した時の電流応答グラフであり、
図12(B)は、
図12(A)の結果を基に濃度に対して電流値をプロットしたグラフである。
図12(A)及び
図12(B)に示すように、AuNP/CNF膜電極を用いたグルコースセンサでの測定では、下限が0.01mMの濃度まで測定可能であることが確認された。すなわち、AuNP/CNF膜電極を用いたグルコースセンサによる測定法では、比色法の10倍広い濃度範囲を定量可能であることが確認された。このことから、AuNP/CNF膜電極を用いたグルコースセンサを用いることでサンプルを希釈することなく広い濃度範囲を定量可能であり、様々な場面でのグルコースセンシングへの応用が期待できる。
【0100】
また、AuNP/CNF膜電極を用いたグルコースセンサが示す濃度に対する電流応答は、
図11(B)に示すように、下記式(4)に示す酵素反応速度論を示すミカエリスメンテンの式に基づく曲線を描いた。直線プロットによる解析から、酵素と基質の親和性を表すミカエリスメンテン定数Kmを求めると5.6mMと算出された。ミカエリスメンテン定数Kmは、酵素と基質の親和性を表すものであり、低いと親和性が高いとみなせる。今回算出した値は、他のグルコースセンサ(参照:Z.Cao,Y.Zou,C.Xiang,Li-Xian Sun,and F.Xu,Anal.Letters,2007,40,2116等)を用いて算出した定数より低く、親和性の高いセンサとして機能することが確認された。また、AuNP/CNF膜電極の多孔質構造は、大きな電気化学的活性表面及び強い酵素固定化を可能にする。AuNP/CNF膜は、多数の空隙や粒子性を有することによって、多孔質電極として機能し、高い酵素活性を示したと推定される。
v=Vmax[S]/(Km+[S])・・・式(4)
(式中、v:反応速度、Vmax:最大反応速度、[S]:基質濃度を示す。)
【0101】
実施例12
〈グルコースセンサの選択性評価〉
上記グルコースセンサを作用極、対極および参照極にはそれぞれ白金メッシュ電極、Ag|AgCl電極を使用し、0.2Mのリン酸緩衝液(pH7.0)10mL中でアンペロメトリー(+0.6V)を行った。セルにはスターラーピースを入れ、500rpmで攪拌した。電流が安定したのち、一分ごとに25mMのグルコース溶液、20mMのスクロース溶液、20mMの酢酸溶液、20mMの塩化ナトリウム溶液、20mMのアスコルビン酸溶液、20mMの尿素溶液、20mMの乳酸溶液、100mMのグルコース溶液をそれぞれ100μL添加して電流の変化を測定した。結果は、
図13(A)及び
図13(B)に示す。
図13(A)は、各溶液を添加した時の電流応答グラフであり、
図13(B)は、
図13(A)の結果を基にグルコース濃度に対して電流値をプロットしたグラフである。
【0102】
図13(A)及び
図13(B)に示すように、グルコース以外の干渉物質を添加した際には電流応答に変化が見られず、グルコースにのみ応答した。GODを固定したAuNP/CNF膜電極は、グルコースに対する高い選択性を示すことが確認できた。汗は、グルコース以外に、乳酸、コルチゾール、ナトリウムイオン、塩化物イオンなどの干渉物質を含む。このため、AuNP/CNF膜電極を用いたグルコースセンサは、汗に含まれる干渉物質に阻害されることなく、グルコース濃度を測定することができる。
【0103】
実施例13
〈汗中のグルコースセンシング〉
AuNP/CNF膜(金:13vol.%)を切り取り、
図14に示すような二電極セル30を作製した。
図14に示すように、基材31の上に、作用極32(AuNP/CNF膜電極)及び対極33を所定の間隔を隔てて設けた。続いて、作用極32に上記グルコースセンサの作製と同様の方法でGODを固定した。リン酸緩衝液(pH7.0)50μLを、作用極32及び対極33の両電極を覆うように滴下し、カバーガラス34で覆った。+0.6Vの定電位でアンペロメトリーを行い、電流が安定したところでグルコース溶液を添加した。結果は、
図15(A)及び
図15(B)に示す。
図15(A)は、グルコース溶液を添加した時の電流応答グラフであり、
図15(B)は、
図15(A)の結果を基に濃度に対するピーク電流値をプロットしたグラフである。
【0104】
図15(A)に示すように、グルコース濃度の上昇に伴い、電流値の上昇が確認された。また、
図15(B)に示すように、グルコースが0.01~20mMの濃度領域で電流応答が良好な濃度依存性を示すミカエリスメンテンの式に基づいた曲線を描いていた。グルコースが0.001~0.007mMの濃度領域では濃度に応じた電流応答が見られず、このグルコースセンサの検出限界は0.01mMであった。また、四回同様に作製したAuNP/CNF膜を用いたグルコースセンサのミカエリスメンテン定数は、すべて5.0~5.6mMであった。これから、AuNP/CNF膜を用いた二電極セルのグルコースセンサは、酵素と基質の親和性の高いグルコースセンサとして機能しており、高い再現性を有していることがわかった。また、グルコース選択性評価を行った際、グルコースの濃度に対してプロットしたところ、バルク中での測定結果(上記バルク中におけるAuNP/CNF膜電極を用いたグルコースセンシング)と同じ値を示しており、同様に再現性があることが確認できた。
【0105】
実施例14
〈食事による汗中のグルコース濃度評価〉
通常時の汗、及び食後(0~120分)の汗を採取した。汗の採取のタイミングは、
図16(A)に示す。なお、血糖値は運動強度に依存し、汗を採取するために運動するとグルコースレベルが減少するため、被験者が足湯をすることで発汗を促し、汗を採取した。上記グルコースセンサを用いて、+0.6Vの定電位でアンペロメトリーを行った。電流が安定したところで、採取した汗を添加した。食事前後の汗を用いてアンペロメトリーを行った結果を、
図16(B)に示す。また、
図16(C)に示すaの折れ線は、食事前に採取した汗の電流レベルを点線で示し、食後経過時間に対して電流値をプロットしたグラフである。
【0106】
実施例15
〈運動強度に基づく汗のグルコース濃度評価〉
血糖値が最も高くなる食後30分後にウォーキングし、食後45分の汗として採取した。上記食事による汗中のグルコース濃度評価と同様の操作で、グルコース濃度を評価した。結果は、
図16(C)におけるbの折れ線グラフとして示す。
【0107】
図16(B)及び
図16(C)に示すように、電流レベルは、食後25分まで増加を示しており、100分後には元のグルコースレベルまで減少していた。また、食後30分から45分の間に運動(ウォーキング)した時には、運動していない時と比較すると電流値が大きく減少していた。これらの電流応答変化は、健康な人間に期待される血液中のグルコースレベルと一致していた。従って、AuNP/CNF膜電極を用いたグルコースセンサは、汗に含まれるグルコース濃度を正確に測定することができることが確認された。
【0108】
実施例16
〈乳酸センサの作製〉
アエロコッカス由来の乳酸オキシダーゼ(以下、LODとも記す。)をグルタルアルデヒド架橋法によりAuNP/CNF膜電極に固定した。固定に伴い、GOD、牛血清由来アルブミン(以下、BSAとも記す。)、グルタルアルデヒド(以下、GAとも記す。)の混合液を作製した。混合液の作製方法は以下のとおりである。
(1)LODを所定濃度(14UμL-1)になるようにそれぞれ量り取り、0.2Mリン酸緩衝液(pH7.0)に溶かして、LOD溶液を調製した。
(2)BSAを約11mg量り取り、110mgmL-1になるように0.2Mリン酸緩衝液(pH7.0)に溶かし、BSA溶液を調製した。
(3)25%GA液を7%になるように0.2Mリン酸緩衝液(pH7.0)に溶かし、GA溶液を調製した。
(4)(1)のLOD溶液を3μL、(2)のBSA溶液を29μL、(3)のGA溶液を4μL混合し、全量36μLの混合液を得た。AuNP/CNF膜電極上(金:13vol.%)に混合液を6μL(7U)滴下した。暗下で24時間静置し、乳酸センサを得た。その後、作製した乳酸センサは0.2Mリン酸緩衝液(pH7.0)中で保管した。
【0109】
実施例17
〈バルク中におけるAuNP/CNF膜電極を用いた乳酸センシング〉
上記乳酸センサを作用極、対極および参照極にはそれぞれ白金メッシュ電極、Ag|AgCl電極を使用し、0.2Mのリン酸緩衝液(pH7.0)10mL中でアンペロメトリー(+0.6V)を行った。セルにはスターラーピースを入れ、500rpmで攪拌した。電流が安定したのち、一分ごとに25mMの乳酸溶液を添加して電流の変化を測定した。結果は、
図17(A)及び
図17(B)に示す。
図17(A)は、乳酸溶液を添加した時の電流応答グラフであり、
図17(A)の中の図は、
図17(A)の一部を拡大したグラフである。また、
図17(B)は、
図17(A)の結果を基に濃度に対して電流値をプロットしたグラフであり、
図17(B)の中の図は、Lineweaver-Burk二重逆数プロットである。
【0110】
図17(A)に示すように、乳酸溶液を添加すると、素早く電流が上昇し、安定した電流応答を示した。これは、酵素反応により生成した過酸化水素が電流応答として観測できたものと考えられる。乳酸オキシダーゼは、乳酸と溶存酸素とを酵素反応させて、ピルビン酸と過酸化水素を生成する。また、
図17(B)に示すように、乳酸濃度の上昇に伴い、電流値は上昇し、0.1mM~10mMの乳酸濃度領域で電流応答が良好な濃度依存性を示した。直線プロットによる解析から、ミカエリスメンテン定数Kmを求めると1.1mMと算出され、親和性の高いセンサとして機能することが確認された。
【0111】
実施例18
〈乳酸センサの選択性評価〉
上記乳酸センサを作用極、対極および参照極にはそれぞれ白金メッシュ電極、Ag|AgCl電極を使用し、0.2Mのリン酸緩衝液(pH7.0)10mL中でアンペロメトリー(+0.6V)を行った。セルにはスターラーピースを入れ、500rpmで攪拌した。電流が安定したのち、一分ごとに25mMの乳酸溶液、20mMのスクロース溶液、20mMの酢酸溶液、20mMの塩化ナトリウム溶液、20mMのアスコルビン酸溶液、20mMの尿素溶液、20mMのグルコース溶液、100mMの乳酸溶液をそれぞれ100μL添加して電流の変化を測定した。結果は、
図18(A)及び
図18(B)に示す。
図18(A)は、各溶液を添加した時の電流応答グラフであり、
図18(B)は、
図18(A)の結果を基に乳酸濃度に対して電流値をプロットしたグラフである。
【0112】
図18(A)及び
図18(B)に示すように、乳酸以外の干渉物質を添加した際には電流応答に変化が見られず、乳酸にのみ応答した。LODを固定したAuNP/CNF膜電極は、乳酸に対する高い選択性を示すことが確認できた。このため、AuNP/CNF膜電極を用いた乳酸センサは、汗に含まれる干渉物質に阻害されることなく、乳酸濃度を測定することができる。
【0113】
実施例19
〈運動時におけるAuNP/CNF膜電極を用いた乳酸センシング〉
汗中の乳酸濃度は、血液中の乳酸濃度の10倍以上である。また、乳酸濃度は、運動強度の上昇に基づいて上昇すると言われており、健康な人の汗中の乳酸含有量は、安静時の4~25mMから50~80mMに増加する。このため、汗を希釈せずに汗中の乳酸濃度を測定するためには、最低でも50mMの濃度のサンプルを測定できることが求められる。そのため、この乳酸センサの測定可能な濃度範囲を高濃度まで広げる必要がある。そこで、AuNP/CNF膜電極に固定するLODのユニット数を増やし、乳酸添加に伴う電流応答を評価した。すなわち、上記乳酸センサの作製において、三種類の濃度(14UμL
-1、28UμL
-1、又は42UμL
-1)のLOD溶液を調製した。AuNP/CN膜電極に固定するLODのユニット数は、それぞれ7U、14U、又は21Uである。測定は、上記バルク中におけるAuNP/CNF膜電極を用いた乳酸センシングと同様に行った。結果は、
図19(A)及び
図19(B)に示す。
図19(A)は、乳酸溶液を添加した時の電流応答グラフである。また、
図19(B)は、
図19(A)の結果を基に濃度に対して電流値をプロットしたグラフである。
【0114】
図19(A)及び
図19(B)に示すように、AuNP/CNF膜電極に固定するLODのユニット数の増加に伴い、乳酸濃度に対する電流値は大きくなった。これにより、AuNP/CNF膜電極に固定するLODのユニット数を増加させることにより、測定可能な濃度範囲の上限を広げることができることが確認された。従って、AuNP/CNF膜電極を用いた乳酸センサは、汗中の乳酸レベルのモニタリングに使用できる。
【0115】
実施例20
〈人体の動きによる抵抗値の変化〉
AuNP/CNF膜(金:13vol.%)を掌に少量の水で湿らせて貼り付けた。
図20(A)は、AuNP/CNF膜を掌に貼り付けた状態の写真である。金線をリード線としてAuNP/CNF膜に接続した。人体の動きとして掌を1秒毎に開閉させた時のAuNP/CNF膜の抵抗値をデジタルマルチメーター(34410A、アジレント・テクノロジー株式会社製、印加電流:1mA)で測定した。結果は、
図20(B)に示す。
【0116】
図20(A)に示すように、AuNP/CNF膜は、掌に押し当てると皮膚に貼り付くことが確認された。さらに、AuNP/CNF膜は、皮膚上の凹凸に沿って密着することが確認され、掌の動きによって剥がれることはなく、掌に貼り付いた状態が維持された。また、
図20(B)に示すように、手の開閉に伴う抵抗値の変化は、ほぼ確認されず測定値の誤差の範囲内(2.0Ω以下)であり、安定した導電性が維持された。これらのことから、AuNP/CNF膜は、人体の動きに柔軟に対応することができ、また状態変化に対する導電性も人体の動きに影響されず十分に安定していることが確認された。
【0117】
実施例21
〈AuNP/CNF膜を用いた体脂肪率測定〉
AuNP/CNF膜(金:13vol.%)を被験者の両足踵に貼り付け、被験者(1~3)が地面に直立した状態とした。AuNP/CNF膜を交流電源装置(IM6、ZAHNER-Elektrik社製)に繋ぎ、周波数50kHz、電流値1.0mAの正弦波電流を印加し、インピーダンスを測定した。得られたインピーダンスと被験者の身長及び体重をもとに以下の計算方法に従って体脂肪率を算出した。
式(5)を用いて被験者の身長(Ht)、体重(W)、得られたインピーダンス(BI)から体密度(BD)を算出した。次に、得られた体密度(BD)をBrozekの式(式(6))に代入し体脂肪率を求めた。
BD[g・cm-3]=1.1278-0.115×W×BI/Ht2+0.000095・BI・・・式(5)
体脂肪率[%]=(4.971/BD-4.519)×100・・・式(6)
(式中、W:体重[kg],BI:インピーダンス[Ω],Ht:身長[cm]を示す。)
なお、市販の体組成計(HBF-361、オムロン株式会社製)を用いて体脂肪率を測定し、AuNP/CNF膜を用いて得られた結果と比較した。結果は、表1に示す。表1に示す体脂肪率(%)中、Aは本発明のAuNP/CNF膜を用いた体脂肪率の測定結果であり、Bは、市販の体組成計で測定した体脂肪率の測定結果である。
【0118】
【0119】
表1に示す様に、AuNP/CNF膜を用いた体脂肪率の測定結果と、市販の体組成計で測定した体脂肪率の測定結果を比較すると、ともに同様の傾向が見られることが確認できた。
【0120】
実施例22
〈三電極セルの作製〉
図24に示すように、AuNP/CNF膜電極(金:13vol.%)を作用極、AgNP/CNF膜電極(銀:20vol.%)を参照極、AuNP/CNF膜電極(金:13vol.%)を対極として、三電極セルを作製し、50mVs
-1の掃引速度でサイクリックボルタンメトリー(CV)測定を行った。上記三電極セルは、電解液を添加しない乾燥した状態では電解セルとして動作せず、測定不能であった。上記三電極セルにおいて、CNF膜を5wt%Nafion(Chemourus社製)溶液に浸漬させ、
図22のように作用極と対極の一部と参照極とを覆うように配置し、60℃で30分間乾燥させ、固体電解質膜を形成した。電解液を添加しない乾燥した状態でも、Nafion膜が雰囲気の湿度との平衡水分を含みNafionの極性基が電離して電解質としてはたらくため、電圧に対して電流応答がみられた。上記CV測定の結果を
図25に示す。
【0121】
実施例23
〈三電極セルの作製〉
10mMのK
3[Fe(CN)
6]を含む0.1MのKCl水溶液を電解液として準備した。
図24に示すように、AuNP/CNF膜電極(金:13vol.%)を作用極、AgNP/CNF膜電極(銀:20vol.%)を参照極、AuNP/CNF膜電極(金:13vol.%)を対極とした三電極セルを覆うように電解液200μLを滴下し、50mVs
-1の掃引速度でCV測定を行った。また、CNF膜を5wt%Nafion(Chemourus社製)溶液に浸漬させ、作用極と対極の一部と参照極が覆うように配置し、60℃で30分間乾燥させ、固体電解質膜を形成した。上記と同様に電解液200μLを滴下し、50mVs
-1の掃引速度でCV測定を行った。いずれの場合も、[Fe(CN)
6]
3-の酸化還元に伴う電流応答が観察され、電極セルとして動作した。上記CV測定の結果を
図26に示す。
【符号の説明】
【0122】
10 体脂肪率測定装置
11 複合膜
12 交流電源装置
13 インピーダンス測定部
20,50 センサ素子
22,221,222,223 分子認識体
23 空隙
24 基質
30 二電極セル
31 基材
32 作用極
33 対極
34 カバーガラス
51 平板電極