(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2025-04-04
(45)【発行日】2025-04-14
(54)【発明の名称】薬剤揮散装置
(51)【国際特許分類】
A61L 9/14 20060101AFI20250407BHJP
A61L 9/03 20060101ALI20250407BHJP
A61L 9/12 20060101ALI20250407BHJP
【FI】
A61L9/14
A61L9/03
A61L9/12
(21)【出願番号】P 2018246431
(22)【出願日】2018-12-28
【審査請求日】2021-11-08
【審判番号】
【審判請求日】2023-10-11
(73)【特許権者】
【識別番号】000186588
【氏名又は名称】小林製薬株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000796
【氏名又は名称】弁理士法人三枝国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】福本 高大
(72)【発明者】
【氏名】白木 成知
【合議体】
【審判長】原 賢一
【審判官】三崎 仁
【審判官】金 公彦
(56)【参考文献】
【文献】特開2015-205046(JP,A)
【文献】特開2012-115739(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2016/0106875(US,A1)
【文献】特許第2586952(JP,B1)
【文献】特開2011-078923(JP,A)
【文献】特開2018-86634(JP,A)
【文献】実開平05-009552(JP,U)
【文献】実開平05-035145(JP,U)
【文献】特開平06-074482(JP,A)
【文献】特開2008-036047(JP,A)
【文献】特開2000-085864(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61L9/00-9/22, B05B7/24,B05B9/00-9/08, B05B12/00-12/36, B65D83/00, B64D85/00, F24F6/12-6/16
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
薬剤を収容する薬剤容器と、
前記薬剤容器内の薬剤を噴霧することで揮散させる揮散手段と、
前記揮散手段の動作を制御して薬剤の揮散量を調整する制御手段と、
薬剤の揮散量を設定する設定手段と、
を備え、
前記制御手段は、
単位時間当り一定の揮散量での薬剤の噴霧と、
噴霧の停止
とを、複数回にわたって繰り返し実行
し、かつ各回における前記薬剤の噴霧の時間と、前記噴霧の停止の時間との合計時間を一定とすることで
、各回に一定量の薬剤が揮散されるよう前記揮散手段の動作を制御し、
前記一定量の薬剤は、薬剤を揮散させる対象空間の大きさに応じて前記設定手段により設定され、
前記制御手段は、前記設定手段による設定に基づいて、各回の薬剤の揮散量について、
前記薬剤の
噴霧の時間を変更することで
、該各回の薬剤の揮散量が等しく変更されるように、前記揮散手段の動作を制御し、
前記制御手段は、前記設定手段による前記薬剤の揮散量が多い設定ほど、前記
噴霧の停止の時
間が短くなるように、前記揮散手段の動作を制御する、
薬剤揮散装置。
【請求項2】
前記制御手段は、
前記各回の薬剤の揮散量について、
前記単位時間あたりの薬剤の揮散量を変更することで
、該各回の薬剤の揮散量が等しく変更されるように、前記揮散手段の動作を制御する、請求項1に記載の薬剤揮散装置。
【請求項3】
前記制御手段は、経過時間を計測する計時部を有し、前記計時部によって初回の薬剤の揮散開始からの経過時間を測定し、前記経過時間が所定時間に達すると薬剤の揮散が終了するように前記揮散手段の動作を制御する、請求項1又は請求項2に記載の薬剤揮散装置。
【請求項4】
時刻を計時する時計手段をさらに備え、
前記制御手段は、前記時計手段から時刻情報を取得し、所定の開始時刻に初回の薬剤の揮散が開始するように前記揮散手段の動作を制御する、請求項1~3のいずれかに記載の薬剤揮散装置。
【請求項5】
互いに異なる薬剤を収容する複数の前記薬剤容器を備えるとともに、それぞれの前記薬剤容器に個別に対応した複数の前記揮散手段を備えており、
前記制御手段は、前記時計手段から時刻情報を取得し、それぞれの前記薬剤容器について異なる所定の開始時刻に初回の薬剤の揮散が開始するように対応する前記揮散手段の動作を制御する、請求項4に記載の薬剤揮散装置。
【請求項6】
薬剤が芳香成分を含む、請求項1~5のいずれかに記載の薬剤揮散装置。
【請求項7】
認知機能障害の予防・改善に用いられる、請求項6に記載の薬剤揮散装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、薬剤揮散装置に関する。
【背景技術】
【0002】
薬剤揮散装置は、芳香、消臭、殺虫、殺菌など種々の目的のために従来から使用されている。薬剤揮散装置としては、薬剤が消費されるまで常時一定の薬剤を連続的に揮散する据え置き型のものが一般的に知られている。これに対して、特許文献1には、切り換えスイッチでファンへの電気のオン・オフあるいは強弱の切り換えを行うことで、必要な時に薬剤を揮散させたり、悪臭度合いに応じて薬剤の揮散の強さを調節できる薬剤揮散装置が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、特許文献1の薬剤揮散装置では、切り換えスイッチにより薬剤の揮散の強弱を設定できるものの、一旦設定されると、設定された強さで薬剤を連続して揮散し続け、途中で強さが変更されない。そのため、設定が「弱」であると、対象空間に速やかに薬剤を揮散できずに薬剤を充満させるのに時間を要し、一方で、設定が「強」であると、対象空間に所定量の薬剤が充満して対象空間の薬剤濃度が適度となった後においても薬剤が過度に対象空間に揮散されて充満し過ぎるという課題があり、その都度、手動で切り換えスイッチにより薬剤の揮散の強さを調整する必要がある。
【0005】
そこで本出願人は、揮散開始の初期段階では、対象空間の薬剤濃度が所定期間の間、所望の濃度に維持されるのに必要な所定量に達するまで多くの量の薬剤を対象空間に揮散し、薬剤の揮散量が所定量に達した後の段階では、例えば対象空間の換気により失われる程度の少量の薬剤を短時間のサイクルで対象空間に揮散することにより、対象空間の薬剤濃度を一定期間、所望の濃度に自動的に保持するようにした薬剤揮散装置を提案している(特願2017-155894号)。
【0006】
ただし、本出願人が既に提案している薬剤揮散装置においても、初期段階で多量の薬剤を揮散させると、対象空間の薬剤濃度が一気に高くなり過ぎてしまうとの課題や、初期段階の後の段階でこまめに少量の薬剤を揮散させると、夜間に使用した場合に睡眠の妨げになるおそれがあるとの課題があり、改良の余地がある。
【0007】
本発明は、上記した課題に着目してなされたもので、薬剤の揮散量を自動で調整することができる薬剤揮散装置を提供することを目的とする。また、過剰量の薬剤を揮散することがなく、対象空間の薬剤濃度を所望の濃度に保つことができる薬剤揮散装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の薬剤揮散装置は、薬剤を収容する薬剤容器と、前記薬剤容器内の薬剤を揮散させる揮散手段と、前記揮散手段の動作を制御して薬剤の揮散量を調整する制御手段と、を備え、前記制御手段は、一定量の薬剤が一定の時間間隔で複数回にわたって揮散されるよう前記揮散手段の動作を制御することを特徴としている。
【0009】
本発明の薬剤揮散装置は、薬剤の揮散量を設定する設定手段をさらに備え、前記制御手段は、前記設定手段による設定に基づいて、各回の薬剤の揮散量が等しく変更されるよう前記揮散手段の動作を制御することが好ましい。
【0010】
また、本発明の薬剤揮散装置は、好ましくは、前記制御手段は、各回の薬剤の揮散量について、薬剤の揮散時間を変更することで等しく変更されるように、前記揮散手段の動作を制御することができ、その他に好ましくは、前記制御手段は、各回の薬剤の揮散量について、単位時間あたりの薬剤の揮散量を変更することで等しく変更されるように、前記揮散手段の動作を制御することができる。
【0011】
また、本発明の薬剤揮散装置は、前記制御手段は、経過時間を計測する計時部を有し、前記計時部によって初回の薬剤の揮散開始からの経過時間を測定し、前記経過時間が所定時間に達すると薬剤の揮散が終了するように前記揮散手段の動作を制御することが好ましい。
【0012】
また、本発明の薬剤揮散装置は、時刻を計時する時計手段をさらに備え、前記制御手段は、前記時計手段から時刻情報を取得し、所定の開始時刻に初回の薬剤の揮散が開始するように前記揮散手段の動作を制御することが好ましい。
【0013】
また、本発明の薬剤揮散装置は、互いに異なる薬剤を収容する複数の前記薬剤容器を備えるとともに、それぞれの前記薬剤容器に個別に対応した複数の前記揮散手段を備えており、前記制御手段は、前記時計手段から時刻情報を取得し、それぞれの前記薬剤容器について異なる所定の開始時刻に初回の薬剤の揮散が開始するように対応する前記揮散手段の動作を制御することが好ましい。
【0014】
また、本発明の薬剤揮散装置は、薬剤が芳香成分を含むことが好ましい。
【0015】
また、本発明の薬剤揮散装置は、認知機能障害の予防・改善に用いられることが好ましい。なお、その他、不眠症、うつ病など、芳香が改善効果をもたらすその他の症状の治療に本発明の薬剤揮散装置を使用することもできる。さらに、起床や就寝などを誘発させるためにも本発明の薬剤揮散装置を使用することができる。
【発明の効果】
【0016】
本発明の薬剤揮散装置によれば、一定量の薬剤を一定の時間間隔で自動的に揮散するので、毎回の薬剤の揮散量を、例えば対象空間の薬剤濃度を所望の濃度にするのに必要な量に加えて、前記時間間隔(次回に薬剤が揮散されるまでの間)で対象空間から喪失される薬剤の量を加味した量とすることで、対象空間の薬剤濃度を、安定して所望の濃度以上に保つことができるうえ、過剰量の薬剤を揮散しないため、対象空間(特に薬剤揮散装置近傍)の薬剤濃度が一気に高くなり過ぎてしまうことを防止できる。また、薬剤を短時間のサイクルで対象空間に揮散しないので、夜間に使用した場合でも睡眠の妨げになることを防止できる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【
図4】装置本体の内部の薬剤を揮散させる要部を拡大して示す部分破断斜視図である。
【
図5】本実施形態の薬剤揮散装置のブロック図である。
【
図6】時間経過と薬剤の揮散状態の関係を示す説明図である。
【
図7】薬剤の揮散量とポンプの動作時間との関係を示す図である。
【
図8】薬剤の揮散の強さの設定が変更された場合の時間経過と薬剤の揮散状態の関係を示す説明図である。
【
図9】時間経過と薬剤の揮散濃度の関係を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、本発明の実施形態について、添付図面を参照して説明する。
図1~
図3は、本実施形態の薬剤揮散装置1の外観構成を示しており、薬剤揮散装置1は、対象空間に薬剤を揮散させるものであり、例えば室内やトイレなどで芳香器(ディフューザー)として使用することができる。
【0019】
薬剤揮散装置1は、装置本体10と、液状の薬剤を収容する薬剤容器100と、を備えている。なお、本実施形態では、薬剤揮散装置1は薬剤容器100を1つだけ備えているが、薬剤容器100の数は複数であってもよい。
【0020】
薬剤容器100は、
図1、
図2及び
図4に示すように、上部に開口を有する口部101と、用途に応じて芳香剤、消臭剤、除菌剤などの液状の薬剤を収容可能な胴部102とで構成されている。薬剤容器100の素材については特に限定はなく、例えば、ガラスやプラスチックで形成することができる。薬剤容器100には、吸液管103が挿入されている。吸液管103は、薬剤容器100内の薬剤を吸い上げるためのものであり、例えばガラスやプラスチックで形成することができる。吸液管103の下端部は薬剤容器100の底面に当接し、吸液管103の上端部は薬剤容器100の口部101から上方に突き出ている。薬剤容器100の上部開口は、栓部材104(又は蓋)により塞がれている。栓部材104(又は蓋)は、吸液管103の差込口を有しており、吸液管103は、栓部材104(又は蓋)の差込口に差し込まれることで、薬剤容器100内に挿入されるとともに、薬剤容器100内において上下方向に起立するように保持される。
【0021】
装置本体10は、
図1、
図2及び
図4に示すように、薬剤容器100を着脱可能な筒状のカートリッジ部材2を備えている。カートリッジ部材2に薬剤容器100の口部101を下から挿入して、例えばネジによる締結で固定することで、薬剤容器100がカートリッジ部材2に装着される。
【0022】
装置本体10は、
図1~
図3に示すように、装置本体10の天面をなすカバー3を備えている。カバー3からは各種のスイッチやランプなどが露出している。本実施形態では、電源スイッチ11、設定スイッチ12、表示ランプ13、操作スイッチ14が装置本体10に設けられており、カバー3から貫通孔を介して露出している。
【0023】
電源スイッチ11は、例えばプッシュ式で装置本体10に設けられている。電源スイッチ11の押し操作により、装置の電源がON/OFFされる。
【0024】
設定スイッチ12は、例えばプッシュ式で装置本体10に設けられている。設定スイッチ12は、薬剤の揮散の強さ(薬剤の揮散量)を設定する設定手段を構成している。本実施形態では、装置から揮散させる薬剤の総揮散量に応じた複数種(例えば大・中・小の三段階)の設定スイッチ12A~12Cが装置本体10に設けられている。なお、プッシュ式又はダイヤル式の設定スイッチ12を1つだけ装置本体10に設け、設定スイッチ12の押し操作の回数又は設定スイッチ12の切り換え操作により、装置から揮散させる薬剤の量を複数の段階(例えば大・中・小の三段階)に変更可能としてもよい。薬剤を揮散させる対象空間の大きさに応じて、薬剤の揮散量を変えることで、対象空間の薬剤濃度を対象空間の大きさに関係なく所望の濃度に調整することができる。
【0025】
表示ランプ13は、例えば、点灯は装置により薬剤の揮散中であることを示し、点滅は装置が異常状態(エラー)であることを示し、消灯は装置による薬剤の揮散が停止中であることを示す。表示ランプ13は例えば発光ダイオード(LED)を用いることができる。本実施形態では、設定スイッチ12A~12Cごとに表示ランプ13A~13Cが設けられており、設定スイッチ12A~12Cにより設定された薬剤の揮散量に応じた表示ランプ13A~13Cが点灯するようになっている。
【0026】
操作スイッチ14は、例えばダイヤル式又はプッシュ式で装置本体10に設けられている。操作スイッチ14としては、例えば、薬剤の揮散開始後、薬剤の揮散終了までの薬剤の揮散時間を設定する操作スイッチ14A、薬剤の揮散を開始する開始時刻を設定する(例えば何時間後に電源がONされるかを設定する)操作スイッチ14Bを装置本体10に設けることができる。また、薬剤揮散装置1が薬剤容器100を複数備えている場合には、いずれの薬剤容器100の薬剤を揮散させるかを設定する操作スイッチ(図示せず)を装置本体10に設けることもできる。
【0027】
なお、上述したスイッチやランプに加え、必要に応じてその他の機能を果たすスイッチやランプを装置本体10に設けてもよい。
【0028】
カバー3には、薬剤を対象空間に揮散させるための揮散孔30が形成されている。揮散孔30は薬剤容器100の数に応じて形成され、本実施形態では、1つの揮散孔30が形成されている。揮散孔30には、カバー3の下方に配置された噴霧ノズル4(
図4に示す)の先端開口が対向しており、詳細は後述するが、薬剤容器100内の薬剤は、噴霧ノズル4からカバー3の揮散孔30を介して装置本体10の外部に揮散される。
【0029】
装置本体10は、その内部にポンプ6(
図4に示す)を備えている。ポンプ6は、薬剤容器100内の薬剤を揮散させる揮散手段を構成している。本実施形態ではベンチュリー効果を用いて薬剤容器100内の薬剤を揮散させている。具体的に、装置本体10のカートリッジ部材2の上端部には、噴霧ノズル4が取り付けられており、カートリッジ部材2の内部には、噴霧ノズル4と連続するように配置された風道部材5が設けられている。また、カートリッジ部材2の内部には、薬剤容器100に挿入された吸液管103の上端部が位置している。
【0030】
ポンプ6には、吐出管60が接続されている。吐出管60は、その先端開口がカートリッジ部材2の内部空間に連通するようにカートリッジ部材2に固定されている。風道部材5は、カートリッジ部材2の内部で回転しながら回転面に垂直な上方へ延びる螺旋状に形成されており、ポンプ6から吐出管60を通ってカートリッジ部材2の内部に供給された圧縮空気は、風道部材5によりカートリッジ部材2の内部を旋回しながら上昇して噴霧ノズル4から排出される。
【0031】
ここで、ポンプ6からの圧縮空気がカートリッジ部材2の内部に送り込まれると、吸液管103の内部が負圧となるため、吸液管103により薬剤容器100内の薬剤が吸い上げられる。吸液管103によりカートリッジ部材2の内部空間まで吸い上げられた薬剤はポンプ6からの圧縮空気によって霧化される。この霧化された薬剤は、圧縮空気とともに風道部材5を通過することでカートリッジ部材2の内部を旋回しながら上昇して噴霧ノズル4から噴霧されるが、このとき、径の粗い薬剤粒子は風道部材5を通過する際に取り除かれて、径の細かい薬剤粒子が主に風道部材5を通過して噴霧ノズル4から噴霧される。また、風道部材5が設けられていることで、噴霧音を抑制でき、夜間に使用した場合に睡眠の妨げを防ぐことができる。
【0032】
なお、薬剤揮散装置1が薬剤容器100を複数備える場合には、薬剤容器100の数に応じた揮散孔30がカバー3に形成され、薬剤容器100の数に応じたポンプ6やカートリッジ部材2(噴霧ノズル4、風道部材5を含む)が装置本体10に設けられる。
【0033】
装置本体10の底部からは、
図1及び
図3に示すように、先端に電源プラグ70が設けられたコード7が延びている。家庭やオフィスなどの壁面に設置されたコンセントに電源プラグ70を差し込むことにより、装置に通電可能となる。なお、装置本体10の底部に電源ジャックを設けるとともに、コード7の他端に接続プラグを設け、電源ジャックに接続プラグを挿入してコード7を装置に電気接続してもよい。また、電源プラグや電源ジャックは必ずしも装置本体10の底部に設ける必要はなく、装置に通電可能であれば装置本体10のどの部分に設けてもよい。
【0034】
薬剤揮散装置1は、図示は省略するが、その内部に、装置全体の動作を制御する制御手段80が実装されたメイン基板8(
図5に示す)、電源回路が搭載された電源基板9(
図5に示す。)、時計手段15(
図5に示す)、ジャイロセンサ16(
図5に示す)などを備えている。
【0035】
図5は、薬剤揮散装置1の電気的な構成を示している。制御手段80は、マイクロコンピュータで構成され、マイクロコンピュータは、制御の主体であるプロセッサ(CPU)81、プログラムが記憶される読み出し専用メモリ(ROM)82、データの読み書きに用いられる読み出し及び書き込み可能メモリ(RAM)83、装置による薬剤の揮散を開始したときに計時を開始し、薬剤を揮散している間の経過時間を計測する計時部(タイマー)84などを含んでいる。
【0036】
制御手段80には、電源基板9、電源スイッチ11、設定スイッチ12A~12C、表示ランプ13A~13C、操作スイッチ14A,14B、時計手段15、ジャイロセンサ16、ポンプ駆動回路17などが接続されている。ポンプ駆動回路17には、ポンプ6が接続されている。
【0037】
設定スイッチ12A~12Cは、装置による薬剤の揮散の強さ(薬剤の揮散量)を設定するものであり、押し操作などされると設定信号を制御手段80に出力する。制御手段80は、受け付けた設定信号に基づいて、薬剤の揮散の強さを設定し、ポンプ駆動回路17などを制御して、設定された強さで薬剤を揮散する。また、制御手段80は、薬剤の揮散の強さに応じた表示ランプ13A~13Cを点灯させる。
【0038】
操作スイッチ14A,14Bは、装置により薬剤の揮散を開始する開始時刻、薬剤の揮散時間、薬剤容器100が複数ある場合に揮散させる薬剤の種類を設定するものであり、切り換え操作などされると操作信号を制御手段80に出力する。制御手段80は、受け付けた操作信号に基づいて、薬剤を揮散する開始時刻、薬剤の揮散時間などを設定し、ポンプ駆動回路17などを制御して、所定の条件で薬剤を揮散する。
【0039】
電源基板9は、電源プラグ70より入力される交流電源電圧を直流電圧に変換して制御手段80に供給する。電源スイッチ11がONに選択されると、制御手段80に対して電力供給が行われ、装置の電源がONの状態になる。一方、電源スイッチ11がOFFに選択されると、制御手段80に対する電力供給が停止され、装置の電源がOFFの状態になる。なお、電源基板9は、ポンプ駆動回路17などにも接続されて電力を供給する。
【0040】
時計手段15は、現在の時刻を計時する。時計手段15は、例えばリアルタイムクロック(RTC)と呼ばれる計時専用のICチップにより構成される。RTCは、内蔵電池を有しており、薬剤揮散装置1に電力が供給されない状態でも、時刻を計時し続けることができる。時計手段15は、本実施形態では、「年」「月」「日」「時」「分」「秒」を時刻情報として制御手段80に出力する。なお、時計手段15は、電源基板9及び内蔵電池の両方に電気的に接続され、装置の電源がONの状態では電源基板9から供給される外部電力によって動作し、装置の電源がOFFの状態では、内蔵電池からの電力によって動作するよう構成してもよい。時計手段15は、制御手段80に接続されているが、制御手段80が内蔵していてもよい。
【0041】
ジャイロセンサ16は、薬剤揮散装置1の傾きを検出して制御手段に出力する。検出された傾きに基づき、薬剤揮散装置1が倒れるなどしてその傾きが所定の閾値以上になると、制御手段80は、ポンプ駆動回路17などを制御して、薬剤の揮散を停止する。
【0042】
ポンプ駆動回路17は、制御手段80からの制御信号に従ってポンプ6を動作させる。
【0043】
次に、薬剤揮散装置1の動作の第1実施例について説明する。制御手段80のCPU81がROM82に記憶されたプログラムに従って動作することにより、当該薬剤揮散装置1の当該動作を実現できるように構成されている。
【0044】
この第1実施例では、薬剤揮散装置1は、電源がONされると、薬剤容器100の薬剤の揮散を開始し、
図6に示すように、所定の揮散時間(例えば2時間)の間、一定量の薬剤を、一定の時間間隔をあけて複数回(例えば4回)にわたり揮散して、薬剤の揮散を終了する。薬剤の揮散時間は、操作スイッチ14Aにより事前に設定される。
【0045】
まず、制御手段80は、薬剤揮散装置1の電源がONであると、内蔵したタイマー84により揮散開始からの時間を計時するとともに、ポンプ駆動回路17に制御信号を出力して、薬剤を揮散させる薬剤容器100に対応したポンプ6を動作させ、薬剤の揮散を開始する。なお、本実施形態では薬剤容器100が1つであるため、薬剤を揮散させる薬剤容器100の選択の必要はないが、薬剤容器100が複数ある場合には、揮散させる薬剤の種類が操作スイッチ(図示せず)により事前に設定される。
【0046】
この第1実施例では、薬剤揮散装置1から揮散される各回の薬剤の揮散量を、例えば対象空間の薬剤濃度を所望の濃度M(
図9に示す)にするのに必要な量に加えて、次回に薬剤が揮散されるまでの間(前記時間間隔)で対象空間から喪失される薬剤の量を加味した量とすることで、対象空間の薬剤濃度を、安定して所望の濃度以上に保つことができる。
【0047】
ポンプ6は、間欠的に動作するよう制御手段80により制御される。具体的には、ポンプ6は、所定の第1時間t1(例えば3分)だけ動作した後、所定の第2時間T1(例えば27分)は停止するといった所定時間t1+T1(例えば30分)のサイクルが複数回(例えば4回)繰り返される。各回の薬剤の揮散において、ポンプ6が所定の第1時間t1だけ動作することにより一定量の薬剤が揮散され、その後、所定の第2時間T1だけ停止することにより次回の薬剤の揮散まで一定の時間間隔があけられる。
【0048】
薬剤揮散装置1から揮散される各回の薬剤の揮散量は、単位時間あたりに揮散される薬剤の量mはそのままにして、各回においてポンプ6が動作する第1時間t1を変えることで変更することができる。
【0049】
すなわち、
図7に示すように、ポンプ6が第1時間だけ動作した後に第2時間は停止するといった所定時間(例えば30分)のサイクルにおいて、ポンプ6が動作する第1時間をt1(例えば3分)からt2(例えば5分)に長くし(t1<t2)、これに伴いポンプ6が停止する第2時間をT1(例えば27分)からT2(例えば25分)に短くする(T1>T2)ことで、各回の薬剤の揮散量をポンプ6の動作時間が長くなった分だけ大きくすることができる。なお、この場合、次回の薬剤の揮散までの時間間隔は短くなる。
【0050】
一方で、このサイクルにおけるポンプ6が動作する第1時間をt1(例えば3分)からt3(例えば1分)に短くし(t1>t3)、これに伴いポンプ6が停止する第2時間をT1(例えば27分)からT3(例えば29分)に長くする(T1<T3)ことで、各回の薬剤の揮散量をポンプ6の動作時間が短くなった分だけ小さくすることができる。なお、この場合、次回の薬剤の揮散までの時間間隔は長くなる。
【0051】
このように、制御手段80は、ポンプ6を間欠的に動作させ、設定スイッチ12A~12Cによる設定(薬剤の揮散の強さ)に基づいた揮散量の薬剤が各回で揮散されるように、ポンプ6の動作を制御することで、各回の薬剤の揮散量を等しく変更するように構成されている。これにより、対象空間の薬剤濃度を対象空間の大きさに関係なく、所望の濃度に調整することができる。なお、各回のポンプ6の動作時間は連続していてもよいし、断続していてもよい。つまり、ポンプ6を、各回において、所定時間、連続的に動作させてもよいし、断続的に動作させて各動作の総時間が所定の動作時間としてもよい。
【0052】
そして、制御手段80は、タイマー84により計時した薬剤の揮散を開始してからの揮散時間が所定時間(例えば2時間)に達したかどうかを判定し、薬剤の揮散時間が所定時間(例えば2時間)に達すると、ポンプ6を停止させて薬剤の揮散を終了する。
【0053】
この第1実施例においては、薬剤の揮散開始後、所定時間にわたり薬剤を揮散させることができるので、例えば、睡眠前に薬剤を揮散させることで、薬剤の効果により睡眠を誘発させることができ、睡眠後は、電源スイッチ11を操作することなく自動的に薬剤の揮散を終了させることができる。
【0054】
なお、第1実施例において、薬剤の揮散を開始した後に、設定スイッチ12A~12Cが操作されて、薬剤の揮散の強さ(薬剤の揮散量)が変更された場合には、薬剤の揮散の強さの設定が変更された時点で、新しく設定された薬剤の揮散の強さで再び薬剤の揮散を開始する。例えば、
図8に示すように、薬剤の揮散の強さが「中」の設定で薬剤が揮散されている状態で、2回目の薬剤の揮散後の停止中に薬剤の揮散の強さが「小」に変更された場合、設定が変更された時点から、
図7に示す揮散量「小」の設定による薬剤の揮散が行われる。具体的には、単位時間あたりの薬剤の揮散量mはそのままで、ポンプ6を動作させる第1時間をt3(例えば1分)に変更して一定量の薬剤を揮散させた後、第2時間T3(例えば29分)はポンプ6を停止させるといった所定時間t3+T3(例えば30分)のサイクルが所定回数(例えば4回)繰り返して行われる。
【0055】
次に、薬剤揮散装置1の動作の第2実施例について説明する。制御手段80のCPU81がROM82に記憶されたプログラムに従って動作することにより、当該薬剤揮散装置1の当該動作を実現できるように構成されている。
【0056】
この第2実施例では、薬剤揮散装置1は、所定の開始時刻になると、電源が自動的にONとなって薬剤容器100の薬剤の揮散を開始し、所定の揮散時間(例えば2時間)の間、一定量の薬剤を、一定の時間間隔をあけて複数回(例えば4回)にわたり揮散して、薬剤の揮散を終了する。薬剤を揮散する開始時刻や、薬剤の揮散時間は、操作スイッチ14A,14Bにより事前に設定される。また、本実施形態では薬剤容器100が1つであるため、薬剤を揮散させる薬剤容器100の選択の必要はないが、薬剤容器100が複数ある場合には、揮散させる薬剤の種類が操作スイッチ(図示せず)により事前に設定される。
【0057】
この第2実施例では、制御手段80は、時計手段15から取得する時刻情報に基づいて、現在の時刻が開始時刻よりも所定時間であるか否かを判定する。そして、開始時刻になると、制御手段80は、内蔵したタイマー84により揮散時間を計時するとともに、ポンプ駆動回路17に制御信号を出力して、薬剤を揮散させる薬剤容器100に対応したポンプ6を動作させ、薬剤の揮散を開始する。その後の動作については、上述した第1実施例と同様であるため、ここでは詳細な説明は省略する。
【0058】
この第2実施例においては、時計手段15を備えており、決められた時刻に薬剤容器100の薬剤の揮散を開始させることができ、決められた時刻に薬剤の揮散を終了させることができるので、例えば、起床の所定時間前(例えば2時間前)に薬剤が揮散されるようにすることで、薬剤の効果により起床を誘発させることができる。
【0059】
また、薬剤揮散装置1が複数の薬剤容器100を備えている場合には、異なる開始時刻に、異なる薬剤容器100の薬剤を揮散させることができる。例えば、朝(又は昼)の所定時刻に一の薬剤容器100の薬剤を所定時間揮散させ、夜の所定時刻に他の薬剤容器100の薬剤を所定時間揮散させることができる。近年、芳香の生理的機能性が徐々に解明されつつあり、朝夜に所定の異なる芳香を嗅ぐことで認知機能障害を予防、改善できるとした研究が発表されている。しかし、毎日、朝夜に、異なる芳香を嗅ぐために複数のアロマディフューザーをセットするのは、認知機能障害者や軽度認知障害者などにとっては忘れてしまうなどするため、難しい作業であり、効果が不十分となるおそれがあるが、第2実施例によれば、自動で朝夜に異なる芳香を揮散させることができるので、認知機能障害の予防、改善に好適に用いることができる。また、認知機能障害の予防、改善の他、不眠症、うつ病など、芳香が改善効果をもたらすその他の症状の治療に用いることもできる。
【0060】
以上の通り、本実施形態の薬剤揮散装置1によれば、
図9に示すグラフにおいて実線で示すように、一定量の薬剤を一定の時間間隔で自動的に揮散するので、毎回の薬剤の揮散量を、例えば対象空間の薬剤濃度を所望の濃度Mにするのに必要な量に加えて、前記時間間隔(次回に薬剤が揮散されるまでの間)で対象空間から喪失される薬剤の量を加味した量とすることで、対象空間の薬剤濃度を、安定して所望の濃度M以上に保つことができる。また、
図9のグラフにおいて実線で示すように、徐々に対象空間の薬剤濃度を上昇させることができるので、香りの鼻慣れを防ぐことができる。
【0061】
そのうえ、
図9に示すグラフにおいて破線で示すように、揮散開始の初期段階において、対象空間の薬剤濃度が所定期間(例えば2時間)の間、所望の濃度Mに維持されるのに必要な所定量に達するまで多量の薬剤を対象空間に揮散し、薬剤の揮散量が所定量に達した後の段階では、例えば対象空間の換気により失われる程度の少量の薬剤を短時間のサイクルで対象空間に揮散すると、対象空間の薬剤濃度が一気に高くなり過ぎてしまう。また、換気などの環境影響を受けやすくなってしまい、所望の濃度Mを下回ってしまうおそれがある。しかし、本実施形態の薬剤揮散装置1によれば、過剰量の薬剤を揮散しないため、対象空間(特に薬剤揮散装置近傍)の薬剤濃度が一気に高くなり過ぎてしまうことを防止できる。また、換気などの外部影響を最小限にすることができる。さらに、薬剤を短時間のサイクルで対象空間に揮散しないので、夜間に使用した場合でも睡眠の妨げになることを防止できる。
【0062】
以上、本発明の実施形態について説明したが、本発明は上記実施形態に限定されるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない限りにおいて種々の変更が可能である。
【0063】
例えば上記実施形態において、制御手段80は、各回の薬剤の揮散量を変更するにあたり、薬剤の揮散時間、すなわち、ポンプ6(揮散手段)の動作時間(第1時間)を変更するようにポンプ6(揮散手段)の動作を制御している。しかし、制御手段80は、これに限らず、各回の薬剤の揮散量を変更するにあたって、単位時間あたりの薬剤の揮散量mを変更する、すなわち、各回のポンプ6の動作時間(第1時間)は変更せずにこの動作時間(第1時間)内で揮散される薬剤の量をポンプ6(揮散手段)の動力を増減させて変更するようにポンプ6(揮散手段)の動作を制御してもよい。
【0064】
ただし、各回の薬剤の揮散量を変更する際に、単位時間あたりの薬剤の揮散量mを変更すると、薬剤揮散装置1の近傍の薬剤濃度が上がりやすくなる。そのため、単位時間あたりの薬剤の揮散量mはそのままで薬剤の揮散時間(各回のポンプ6の動作時間(第1時間))を変更することで各回の薬剤の揮散量を変更する方が好ましい。
【0065】
また、上記実施形態の薬剤揮散装置1において、薬剤容器100を複数備えている場合に、いずれか1つの薬剤容器100の薬剤を揮散させているが、複数の薬剤容器100の薬剤を同時に揮散させてもよい。複数の薬剤を同時に揮散することにより、例えば、薬剤により発揮される効能を相乗作用により増強できる、複数種の薬剤の効能を同時に発揮できる、好みの芳香を楽しむことができる、といった有用な効果を得ることができる。
【0066】
また、上記実施形態の薬剤揮散装置100では、揮散手段としてポンプ6を用い、ベンチュリー効果により薬剤容器100内の薬剤を揮散させているが、揮散手段としては薬剤を揮散できるものであれば特に限定されない。例えば、薬剤容器100に薬剤を毛細管現象により吸い上げる吸液芯材を挿入し、吸液芯材に吸い上げられた薬剤を超音波振動させることで薬剤を揮散させてもよいし、加熱体により吸液芯材に吸い上げられた薬液を加熱することで薬剤を揮散させてもよい。
【符号の説明】
【0067】
1 薬剤揮散装置
6 ポンプ(揮散手段)
12 設定スイッチ(設定手段)
15 時計手段
80 制御手段
84 タイマー(計時部)
100 薬剤容器