(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2025-04-07
(45)【発行日】2025-04-15
(54)【発明の名称】電解二酸化マンガン製造用陰極
(51)【国際特許分類】
C25B 11/04 20210101AFI20250408BHJP
C25B 1/21 20060101ALI20250408BHJP
C25D 7/00 20060101ALI20250408BHJP
C23C 18/38 20060101ALI20250408BHJP
H01M 4/50 20100101ALI20250408BHJP
【FI】
C25B11/04
C25B1/21
C25D7/00 G
C23C18/38
H01M4/50
(21)【出願番号】P 2020214249
(22)【出願日】2020-12-23
【審査請求日】2023-11-13
(31)【優先権主張番号】P 2019238068
(32)【優先日】2019-12-27
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(31)【優先権主張番号】P 2020142508
(32)【優先日】2020-08-26
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000003300
【氏名又は名称】東ソー株式会社
(72)【発明者】
【氏名】末次 和正
【審査官】松浦 裕介
(56)【参考文献】
【文献】特表2002-533288(JP,A)
【文献】特開昭60-211086(JP,A)
【文献】特開昭63-062893(JP,A)
【文献】特開平01-306591(JP,A)
【文献】特開2002-161386(JP,A)
【文献】韓国公開特許第10-2006-0062005(KR,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C25B 1/00 - 9/77
C25B 11/00 - 11/097
C25B 13/00 - 15/08
C23C 18/00 - 20/08
C25D 5/00 - 7/12
H01M 4/00 - 4/62
H01M 8/00 - 8/0297
H01M 8/08 - 8/2495
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
銅被膜が被覆された黒鉛板で構成されることを特徴とする電解二酸化マンガン製造用陰極。
【請求項2】
銅被膜の厚みが0.3μm以上100μm以下であることを特徴とする請求項1に記載の電解二酸化マンガン製造用陰極。
【請求項3】
銅被膜が銅を60wt%以上含む銅基金属で構成されることを特徴とする請求項1または請求項2に記載の電解二酸化マンガン製造用陰極。
【請求項4】
銅被膜が鉄またはニッケル
を含む銅基金属で構成されることを特徴とする請求項1~請求項3のいずれかの項に記載の電解二酸化マンガン製造用陰極。
【請求項5】
銅被膜がリンまたはイオウを含む銅基金属で構成されることを特徴とする請求項1~請求項4のいずれかの項に記載の電解二酸化マンガン製造用陰極。
【請求項6】
黒鉛板がパラフィンを含むことを特徴とする請求項1~請求項5のいずれかの項に記載の電解二酸化マンガン製造用陰極。
【請求項7】
黒鉛板を作用極として、銅イオンを含む電解液中で電気めっきして銅被膜を被覆することを特徴とする請求項1~請求項6のいずれかの項に記載の電解二酸化マンガン製造用陰極の製造方法。
【請求項8】
黒鉛板を作用極として、銅イオンを含む電解液中で無電解めっきして銅被膜を被覆することを特徴とする請求項1~請求項6のいずれかの項に記載の電解二酸化マンガン製造用陰極の製造方法。
【請求項9】
銅イオンを含む電解液中の銅イオン濃度が0.01g/L以上30g/L以下であることを特徴とする請求項7または請求項8に記載の電解二酸化マンガン製造用陰極の製造方法。
【請求項10】
請求項1~請求項6のいずれかの項に記載の電解二酸化マンガン製造用陰極を用いることを特徴とする電解二酸化マンガンの製造方法。
【請求項11】
請求項
10に記載された電解二酸化マンガンの製造方法で製造された電解二酸化マンガンを用いて合成されたことを特徴とする電池用正極材の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電解二酸化マンガン製造用陰極に関するものであり、より詳しくは、例えば、マンガン乾電池、特にアルカリマンガン乾電池において、正極活物質として使用される電解二酸化マンガンの製造に用いる陰極に関する。
【背景技術】
【0002】
電解二酸化マンガンは、例えば、マンガン乾電池、特にアルカリマンガン乾電池の正極活物質として知られており、保存性に優れ、かつ安価であるという利点を有する。特に、電解二酸化マンガンを正極活物質として用いるアルカリマンガン乾電池は、ローレート放電からハイレート放電まで幅広い放電レートでの放電特性に優れていることから、電子機器、携帯用プレイヤー、携帯情報機器、さらにはゲーム機や玩具にまで幅広く使用され、日本だけでなく、世界でその需要が伸びてきている。
【0003】
電解二酸化マンガンは、一般的に、硫酸酸性の硫酸マンガン電解液中で、陽極と陰極の間に電流を流すことにより、陽極上に電解酸化析出させて製造される。一般的に、陽極にはチタンなどが用いられ、対極である陰極には、主に黒鉛が用いられているが、希少例として銅や鋼が用いられる(特許文献1)。
【0004】
電解二酸化マンガン製造時には、電解液の温度を93℃~98℃の高温で保つ必要があり、電解期間が1~4週間の長期に及ぶため、パラフィンなどの沸点が高い油層を電解液の上に浮かべ、電解液の蒸散を防ぐ対策がとられる。
【0005】
このパラフィンは、電解中だけでなく、電解終了後に電解二酸化マンガンが析出した陽極を電解槽から引き抜いてパラフィン油層を通過する際に、電解二酸化マンガン析出物に付着して取り込まれ、電解二酸化マンガンの製品品質に影響を与えるため、電解二酸化マンガンに取り込まれたパラフィンを熱湯洗浄で取り除いたり、あるいはパラフィンを極力取り込ませない工夫を施した電解方法が検討されている(特許文献2)。
【0006】
一方で、このように電解二酸化マンガンの析出反応が進行する陽極側に対し、水素発生反応が進行する陰極側では、製品品質に直接影響を与えることはないので、これまであまり着目されることもなく、過去に検討された例も少ない。
【0007】
しかしながら、我々の検討によると、陰極に黒鉛を用いる場合、陰極が劣化し、結果として、電解二酸化マンガンの製造効率を著しく低下させる課題があることが判明した。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【文献】WO2000/037714号公報
【文献】特開2001-247987号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明の目的は、電解二酸化マンガン製造用に改質された陰極であり、陰極表面形状に沿って銅被膜を被覆した陰極、及びその製造方法を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者は、電解二酸化マンガン製造に使用される陰極の性能発現と劣化の挙動について調査の上、陰極の改質について鋭意検討を重ねた結果、陰極表面形状に沿って銅被膜を被覆した陰極を用いることにより、陰極の劣化が抑制されるだけでなく、長期に亘って安定的に性能を維持でき、耐久性に優れることを見出して本発明を完成するに至ったものである。すなわち、本発明は、銅被膜が被覆された黒鉛板で構成される電解二酸化マンガン製造用陰極である。
【0011】
以下に、本発明について詳細に説明する。
【0012】
本発明の電解二酸化マンガン製造用陰極は、銅被膜が被覆された黒鉛板で構成されるものである。
【0013】
黒鉛板は、金属精錬やめっきでも使用される板形状のものが主であるが、本質的にはこの形状に限るものではない。また、前述したように、黒鉛板内部にパラフィンが含まれている場合は、熱湯洗浄処理、有機溶剤処理、アルカリ液を用いた脱脂処理を施したり、または燃焼処理することによって、大部分のパラフィンを除去することが望ましく、少なくとも後に銅被膜が被覆される表面付近にはパラフィンが存在しないことが望ましい。工業的には、主にアルカリ成分で構成される脱脂洗浄剤などが用いられる場合がある。
【0014】
銅被膜は銅基金属でありその純度について限定はないが、銅が60wt%以上含まれることが好ましく、鉄やニッケルなどの遷移金属やイオウやリンなどの非金属などとの複合被膜であっても良い。
【0015】
銅被膜は、黒鉛板上に存在してその電気的接触を保つことによって、電極触媒として作用する。銅の水素発生電極触媒活性は、基礎化学的にもグラファイトの素材であるカーボンよりも優れていることが知られており(U.R.EVANS著,THE CORROSION AND OXIDATION OF METALS)、例えば、水素過電圧として、カーボンが0.7Vなのに対して、銅が0.53Vとなり、低い水素過電圧で優れた活性を示すとされる。
【0016】
黒鉛板表面上に被覆される銅被膜の厚みは限定されるものではないが、好ましくは0.3μm以上100μm以下が、より好ましくは0.5μm以上100μm以下が、さらに好ましくは0.5μm以上50μm以下が、最も好ましくは1μm以上20μm以下が選択される。黒鉛板表面には数μm~数mm程度の凹凸が存在する場合があり、この黒鉛板表面の凹凸は、前述した厚みの銅被膜によって全面的に覆われることが望ましいが、必ずしも完全に覆われる必要はなく、少なくとも銅が電極触媒活性を発現できる被覆率、例えば40%の被覆率であっても良い。なお、黒鉛板に電流を供給する給電部など、電解液に浸漬されない黒鉛板の部分は、電極触媒反応には寄与しないので、必ずしも銅被膜に覆われる必要はない。
【0017】
本発明の電解二酸化マンガン製造用陰極は、黒鉛板を作用極として、銅イオンを含む電解液中で電気めっき又は無電解めっきして銅被膜を被覆することで製造することができる。
【0018】
黒鉛板に銅被膜を被覆する方法としては、例えば、電気めっき法、無電解めっき法等が用いられる。
【0019】
電気めっき法では、銅イオンを含む電解液に黒鉛板を浸し、黒鉛板と対極(陽極)との間に電流を所定時間流すことで銅が被覆される。
【0020】
銅イオンを含む電解液は、硫酸銅、塩酸銅、硝酸銅やピロリン酸銅などの銅塩を電解液に溶解させて調製する。電解液には、銅塩以外に、添加剤として、クエン酸イオン、酒石酸イオン、リン酸イオン、ピロリン酸イオンなどの錯化剤、またはデキストリンやラウリル硫酸イオンなどに代表される光沢剤、あるいはチオ尿素に代表されるイオウ含有物質などが含まれる場合がある。また、銅イオンを含む電解液には、他の金属イオンとして、鉄イオンやニッケルイオンなどの遷移金属イオンを混合して、銅基合金の被膜を得る場合もある。但し、マンガンイオンなど、銅イオンと直接的な相互作用がなく、黒鉛板に析出しない金属イオンが含まれていても問題ない。
【0021】
電解液のpHは、電解液中に含まれる添加剤や金属イオンの性質に応じて調整される場合があるが、本発明の場合、概ねpH0.1以上pH7以下となる。
【0022】
電解液の銅イオン濃度は特に制限されるものではないが、例えば、10mg/L以上30g/L以下が適用される。電解液温度も制限されるものではないが、例えば、40℃以上98℃以下が適用される。
【0023】
対極(陽極)には、主に、不溶性の白金やイリジウムなどの貴金属が用いられるが、電解液中の成分濃度を制御することによって、銅などの電解溶解を伴う金属であっても使用することができる。
【0024】
電解時に印加する電流としては、黒鉛板の電流密度として20A/m2以上1000A/m2以下の範囲で選択され、所定の銅被膜厚みになる時間まで電解が継続される。
【0025】
無電解めっき法では、銅イオンを含む電解液に還元剤を添加し、前処理を施した黒鉛板を所定時間浸すことで銅被覆される。
【0026】
銅イオンを含む電解液は、硫酸銅、塩酸銅、硝酸銅やピロリン酸銅などの銅塩を電解液に溶解させて調製する。電解液には、銅塩以外に、添加剤として、クエン酸イオン、酒石酸イオン、リン酸イオン、ピロリン酸イオンなどの錯化剤、またはポリアセチレングリコール系の界面活性剤、あるいはチオ尿素に代表されるイオウ含有物質やホウ酸などが含まれる場合がある。また、銅イオンを含む電解液には、他の金属イオンとして、ニッケルイオンなどの遷移金属イオンを混合して、銅基合金の被膜を得る場合もある。
【0027】
還元剤としては、代表的に次亜リン酸ナトリウムが使用される。
【0028】
電解液のpHは、電解液中に含まれる添加剤や金属イオンの性質に応じて調整されるが、本発明の場合、概ねpH7以上pH12以下になるように調整される。
【0029】
電解液の銅イオン濃度は特に制限されるものではないが、例えば、0.5g/L以上30g/L以下が適用される。電解液温度も制限されるものではないが、例えば、20℃以上80℃以下が適用される。
【0030】
無電解めっきにおける浴負荷(電解液の容積V(m3)に対するめっき対象物の面積A(m2)のV/A比率)は、概ね5以上30以下の範囲で選択され、所定の銅被膜厚みになる時間まで浸漬が継続される。
【0031】
黒鉛板の前処理としては、黒鉛板のパラフィンを除去するために、熱湯洗浄処理、有機溶剤処理、アルカリ液を用いた脱脂処理などが行われたり、あらかじめ銅被覆の下地として他の金属をめっきするなどが行われる場合がある。工業的には、黒鉛板のパラフィンを除去するために、主にアルカリ成分で構成される脱脂洗浄剤などが用いられる場合がある。
【発明の効果】
【0032】
本発明の電解二酸化マンガン製造用陰極は、陰極の劣化を抑制し、電解電圧を低く維持できるので、効率的で安定した電解二酸化マンガンの製造効率を発現できる。
【図面の簡単な説明】
【0033】
【
図3】実施例1で得られた陰極の表面近傍の断面写真である。
【
図9】実施例1~4、実施例8、9と比較例4の、水素発生時における、電流密度の対数値と電位との変化を示すターフェルプロットである。
【
図10】比較例1、3~6の、水素発生時における、電流密度の対数値と電位との変化を示すターフェルプロットである。
【実施例】
【0034】
以下、本発明を実施例及び比較例により詳細に説明するが、本発明はこれら実施例に限定されるものではない。
【0035】
<電位性能測定用の陰極作製方法>
黒鉛などの陰極基材板を1cm角の面がとれるように切出して、測定方向が唯一の露出面となるようにして、その裏側にニッケルリード線を埋め込み電気的接触を保った状態で硬化樹脂(テクノビット#4071、マルトー製)に包埋させ、その後、露出面を#1500のサンドペーパーで研磨して、陰極(電極面積1×1cm2)を作製した。
【0036】
銅被膜を被覆した陰極を作製する場合は、陰極の露出面を銅イオンが含まれた電解液に浸し、電気めっき法または無電解めっき法にて銅被膜を被覆することによって得た。
【0037】
<電位性能測定>
陰極、または銅被膜が被覆された陰極の露出面を96℃、28g/Lの硫酸液に浸して、対極には白金板、参照極として飽和カロメル電極(S.C.E)を用い、ポテンショガルバノスタット(HA-151B、北斗電工製)に接続し、0.05~1A/dm2の電流を印加して、S.C.E参照極に対する陰極電位の数値を読み取る方法で測定した。
【0038】
このうち、0.5A/dm2の電流を印加した際の陰極電位を各陰極の陰極電位の代表値として示した。また、各陰極の他の性能指標として、0.05~1A/dm2間の電位変化度合いをターフェル勾配(電極触媒材料の電気化学的な水素発生機構の指標として扱われる)として示した。
【0039】
<電解試験方法>
電解液として硫酸-硫酸マンガン混合溶液を用い、マンガンイオン濃度46g/Lの補給硫酸マンガン液を電解槽内に連続的に供給しながら、陰極、または銅被膜が被覆された陰極とチタン陽極の間に電流を印加し、チタン陽極上に電解二酸化マンガンを析出させる電解試験を行った。この際、電解電流密度を0.68A/dm2、電解温度を96℃とし、電解槽内の硫酸濃度が34g/Lとなるよう調整しながら18日間電解した。電解中には、参照極として水銀/硫酸水銀電極を用い、陰極電位を測定した。
【0040】
比較例1
パラフィンが24mg/g浸透した黒鉛板(PSG322、SEC製)を用いて、陰極を作製し、電位測定を行った。陰極電位は-1.02V vs.S.C.Eで、ターフェル勾配は、-0.080V/decであった。
【0041】
比較例2
比較例1の黒鉛板を用いて、ヘキサンによるパラフィン抽出除去処理を行ったところ、パラフィン残存量は<0.5mg/gとなった。このパラフィン除去処理を行った黒鉛板で陰極を作製し、電位測定を行った。陰極電位は-0.70V vs.S.C.Eであった。
【0042】
比較例3
比較例1の黒鉛板を用いて、燃焼によるパラフィン除去処理を行ったところ、パラフィン残存量は<0.5mg/gとなった。このパラフィン除去処理を行った黒鉛板で陰極を作製し、電位測定を行った。陰極電位は-0.62V vs.S.C.Eで、ターフェル勾配は、-0.083V/decであった。得られた陰極の外観写真を
図1に示す。
【0043】
実施例1
比較例3のパラフィン除去処理を行った黒鉛板で作製した陰極を、銅(Cu
2+)イオン10g/L、硫酸濃度35g/Lの電解液に浸し、対極を白金板とし、温度70℃に保ちながら、電流密度0.05A/dm
2で50分間電気めっきを行い、陰極を得た。電気めっき後の陰極の陰極電位は-0.39V vs.S.C.Eで、ターフェル勾配は、-0.060V/decであった。得られた陰極の外観写真を
図2に示し、表面近傍の断面写真を
図3に示す。
【0044】
実施例2~4
実施例1において、電流密度と時間の電気めっき条件を変えた以外は、実施例1と同様にして電気めっきを行い、陰極を得た。これらの電気めっき条件と電気めっき後の陰極の陰極電位、ターフェル勾配の値を表1に示した。
【0045】
【0046】
実施例3で得られた陰極の外観写真を
図4に示し、実施例4で得られた陰極の外観写真を
図5に示す。
【0047】
実施例5
比較例3のパラフィン除去処理を行った黒鉛板で作製した陰極を用いて、マンガンイオン濃度27g/L、硫酸濃度36g/Lの水溶液に、銅(Cu2+)イオンを10mg/Lになるように添加して調製した電解液に浸し、対極を白金板とし、電流密度0.57A/dm2、温度96℃に保ちながら、60分間通電し、電気めっきを行い、陰極を得た。電気めっき中に陰極の露出面から水素ガスの気泡発生が確認されたが、電気めっき後には陰極の露出面は銅色に変わり、銅被膜が被覆されていることが目視された。電気めっき後の陰極の陰極電位は-0.47V vs.S.C.Eであった。
【0048】
実施例6~7
実施例5において、水溶液に添加する銅(Cu
2+)イオンの濃度を100mg/Lおよび1000mg/Lとする以外は、実施例5と同様にして電気めっきを行い、陰極を得た。いずれも、電気めっき中に陰極の露出面から水素ガスの気泡発生が確認されたが、電気めっき後には陰極の露出面は銅色に変わり、銅被膜が被覆されていることが目視された。これらの電気めっき条件と電気めっき後の陰極の陰極電位の値を表1に示した。実施例7で得られた陰極の外観写真を
図6に示す。
【0049】
実施例8
比較例3のパラフィン除去処理を行った黒鉛板で作製した陰極を、銅(Cu
2+)イオン2g/L、ニッケル(Ni
2+)イオン0.14g/L、クエン酸ナトリウム13.5g/L、次亜リン酸ナトリウム・1水和物29g/L、ホウ酸31g/L、でんぷん0.4g/Lの電解液に、浴負荷(V/A)10の条件で浸し、pH9.0として、温度60℃に保ちながら、30分間無電解めっきを行い、陰極を得た。無電解めっき後には、陰極の浸漬部全体が銅色に変わり、銅被膜が被覆されていることが目視された。陰極の露出面のみを残して他の銅被膜部分をサンドペーパーで除去した後に測定した陰極の陰極電位は-0.46V vs.S.C.Eで、ターフェル勾配は-0.052V/decであった。得られた陰極の外観写真を
図7に示す。
【0050】
実施例9
電解液のpHを10.5とした以外は実施例8と同様にして無電解めっきを行い、陰極を得た。実施例8と同じく、無電解めっき後には、陰極の浸漬部全体が銅色に変わり、銅被膜が被覆されていることが目視された。陰極の露出面のみを残して他の銅被膜部分をサンドペーパーで除去した後に測定した陰極の陰極電位は-0.47V vs.S.C.Eで、ターフェル勾配は-0.059V/decであった。得られた陰極の外観写真を
図8に示す。
【0051】
比較例4
比較例1の黒鉛板に代えて、銅板を用いて陰極を作製し、電位測定を行った。陰極電位は-0.49V vs.S.C.Eで、ターフェル勾配は、-0.062V/decであった。
【0052】
比較例5
比較例1の黒鉛板に代えて、ニッケル板を用いて陰極を作製し、電位測定を行った。陰極電位は-0.59V vs.S.C.Eで、ターフェル勾配は、-0.077V/decであった。
【0053】
比較例6
比較例1の黒鉛板に代えて、白金板を用いて陰極を作製し、電位測定を行った。陰極電位は-0.35V vs.S.C.Eで、ターフェル勾配は、-0.034V/decであった。
【0054】
実施例1~4、実施例8、9と比較例4の、水素発生時における、電流密度の対数値と電位との変化を示すターフェルプロットを
図9に示し、比較例1、3~6の、水素発生時における、電流密度の対数値と電位との変化を示すターフェルプロットを
図10に示す。
【0055】
以上のように、パラフィンを除去した黒鉛板に銅薄膜を被覆することにより、陰極電位が改善された。その特性レベルは、銅金属よりも優れ、白金貴金属に近いものであった。
【0056】
実施例10
無電解めっきを60分間行った以外は実施例8と同様にして、陰極を得た。得られた陰極について、<電解試験方法>に従って電解試験を行った。得られた陰極のパラフィン含有量は<0.5mg/gであり、銅含有量は1.88mg/cm2で、銅被膜厚みは2.10μmであった。また、この陰極の硫酸/硫酸水銀参照極に対する陰極電位は、-0.91V vs.Hg2SO4であった。これらの数値を表2に示した。
【0057】
【0058】
実施例11~14
無電解めっきの時間と銅含有量と銅被膜厚みを変更した以外は実施例10と同様にして、陰極を得た。得られた陰極について、<電解試験方法>に従って電解試験を行った。これらの数値を表2にまとめて示した。なお、実施例13、14では、陰極からパラフィンが検出され、電解中にパラフィンがグラファイト基材へ再浸透したものと推定された。
【0059】
比較例7
比較例3のパラフィン除去処理を行った黒鉛板を陰極として、<電解試験方法>に従って電解試験を行った。この陰極のパラフィン含有量は<0.5mg/gであった。また、この陰極の硫酸/硫酸水銀参照極に対する陰極電位は、-1.35V vs.Hg2SO4であった。
【0060】
比較例8
パラフィンが54mg/g浸透した黒鉛板(PSG322、SEC製)を陰極として、<電解試験方法>に従って電解試験を行った。この陰極の硫酸/硫酸水銀参照極に対する陰極電位は、-1.52V vs.Hg2SO4であった。
【0061】
比較例9
銅板を陰極として、<電解試験方法>に従って電解試験を行った。この陰極の硫酸/硫酸水銀参照極に対する陰極電位は、-1.08V vs.Hg2SO4であった。
【0062】
以上のように、燃焼法によりパラフィンを除去した黒鉛板に無電解銅めっき法で銅薄膜を被覆することにより、硫酸-硫酸マンガン電解液を用いた電解二酸化マンガン析出の電解においても、陰極電位が改善された。その特性レベルは、銅金属よりも優れ、電解中にグラファイト基材へパラフィンが再浸透しても良好な性能を発現した。
【0063】
実施例15
パラフィンが54mg/g浸透した黒鉛板(PSG322、SEC製)を用いて、55℃の脱脂洗浄剤(SC-60、旭油脂化学製)に15分間浸漬し、水洗した後に、無電解めっきを60分間行った以外は実施例8と同様にして、陰極を得た。得られた陰極について、<電解試験方法>に従って電解試験を行った。得られた陰極のパラフィン含有量は<0.5mg/gであり、銅被膜厚みは1.8μmであった。また、この陰極の硫酸/硫酸水銀参照極に対する陰極電位は、-0.97V vs.Hg2SO4であった。これらの数値を表3に示した。
【0064】
【0065】
実施例16
パラフィンが54mg/g浸透した黒鉛板(PSG322、SEC製)を用いて、燃焼によりパラフィン除去した後に、実施例1と同様に電気めっきを行い、陰極を得た。得られた陰極について、<電解試験方法>に従って電解試験を行った。得られた陰極のパラフィン含有量は<0.5mg/gであり、銅被膜厚みは2.4μmであった。また、この陰極の硫酸/硫酸水銀参照極に対する陰極電位は、-1.06V vs.Hg2SO4であった。これらの数値を表3に示した。
【0066】
実施例17
パラフィンが54mg/g浸透した黒鉛板(PSG322、SEC製)を用いて、55℃の脱脂洗浄剤(SC-60、旭油脂化学製)に15分間浸漬し、水洗した後に、実施例16と同様に電気めっきを行い、陰極を得た。得られた陰極について、<電解試験方法>に従って電解試験を行った。得られた陰極のパラフィン含有量は<0.5mg/gであり、銅被膜厚みは2.6μmであった。また、この陰極の硫酸/硫酸水銀参照極に対する陰極電位は、-1.03V vs.Hg2SO4であった。これらの数値を表3に示した。
【0067】
実施例18
パラフィンが54mg/g浸透した黒鉛板(PSG322、SEC製)を用いて、40℃の脱脂洗浄剤(SC-60、旭油脂化学製)で15分間電解脱脂処理を行い、水洗した後に、実施例16と同様に電気めっきを行い、陰極を得た。得られた陰極について、<電解試験方法>に従って電解試験を行った。得られた陰極のパラフィン含有量は<0.5mg/gであり、銅被膜厚みは3.0μmであった。また、この陰極の硫酸/硫酸水銀参照極に対する陰極電位は、-1.07V vs.Hg2SO4であった。これらの数値を表3に示した。
【0068】
以上のように、パラフィンの一部を市販の脱脂洗浄剤を用いて除去した黒鉛板に、無電解めっき、電気めっきのいずれかの方法で銅薄膜を被覆することにより、硫酸-硫酸マンガン電解液を用いた電解二酸化マンガン析出の電解において、陰極電位が改善された。その特性レベルは、銅金属と同等以上の優れたものであった。
【産業上の利用可能性】
【0069】
本発明は、陰極の水素発生電極触媒反応の活性に優れ、長期に亘って低い電解電圧を維持できるため、低い電力原単位で安定して電解二酸化マンガンを製造できる。
【符号の説明】
【0070】
1 黒鉛露出面
2 包埋樹脂部
3 銅被膜が被覆された黒鉛露出面
4 包埋樹脂
5 銅被膜
6 黒鉛