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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2025-04-07
(45)【発行日】2025-04-15
(54)【発明の名称】信号伝送用ケーブル
(51)【国際特許分類】
   H01B 11/18 20060101AFI20250408BHJP
   H01B 11/12 20060101ALN20250408BHJP
【FI】
H01B11/18 D
H01B11/12
【請求項の数】 3
(21)【出願番号】P 2021118231
(22)【出願日】2021-07-16
(65)【公開番号】P2023013805
(43)【公開日】2023-01-26
【審査請求日】2024-02-22
(73)【特許権者】
【識別番号】000005083
【氏名又は名称】株式会社プロテリアル
(74)【代理人】
【識別番号】110002583
【氏名又は名称】弁理士法人平田国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】佐川 英之
(72)【発明者】
【氏名】黄 得天
(72)【発明者】
【氏名】杉山 剛博
(72)【発明者】
【氏名】南畝 秀樹
(72)【発明者】
【氏名】荒井 才志
(72)【発明者】
【氏名】石川 弘
(72)【発明者】
【氏名】李 ▲金▼偉龍
【審査官】遠藤 尊志
(56)【参考文献】
【文献】特開平07-272553(JP,A)
【文献】特開2019-160414(JP,A)
【文献】特開2020-119760(JP,A)
【文献】特開2021-009805(JP,A)
【文献】特開2005-149892(JP,A)
【文献】特開平06-187847(JP,A)
【文献】特開2000-138014(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01B 11/18
H01B 11/12
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
導体と、
前記導体の周囲を覆う絶縁体と、
前記絶縁体の周囲を覆うシールド層と、
前記シールド層の周囲を覆うシースと、を備えた信号伝送用ケーブルであって、
前記絶縁体と前記シールド層との間に、前記絶縁体の周囲を覆うように設けられためっき下地層を備え、
前記シールド層は、前記めっき下地層の外周面に接触するように、かつ前記めっき下地層を覆うように形成されためっき層を有し、
前記めっき層の外周面の表面粗さが、前記めっき層の内周面の表面粗さよりも小さ
前記めっき層の内周面の算術平均粗さRaが2μm以上であり、
前記めっき層の外周面の算術平均粗さRaが2μm未満である、
信号伝送用ケーブル。
【請求項2】
前記めっき下地層の厚さは、前記絶縁体の厚さよりも薄い、
請求項1に記載の信号伝送用ケーブル。
【請求項3】
前記絶縁体がフッ素樹脂からなり、
前記めっき下地層がポリエチレンまたはポリプロピレンからなる、
請求項1又は2に記載の信号伝送用ケーブル。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、信号伝送用ケーブルに関する。
【背景技術】
【0002】
自動運転等に用いられる撮像装置や、スマートフォン、タブレット端末等の電子機器の内部配線、あるいは、産業用ロボット等の工作機械の配線として高周波信号を伝送するための信号伝送用ケーブルが用いられる。この信号伝送用ケーブルとしては、例えば、同軸ケーブルが用いられている。
【0003】
従来の同軸ケーブルとして、樹脂層上に銅箔を設けた銅テープ等のテープ部材を、絶縁体の周囲に螺旋状に巻き付けてシールド層を構成したものが知られている(例えば、特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2000-285747号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、上述の従来の同軸ケーブルでは、同軸ケーブルを曲げた際に、テープ部材の重なる部分において隙間が生じたり、テープ部材にシワが発生したりする場合がある。このような場合、曲げた部分と他の部分(曲げていないストレートの部分)との間で挿入損失(S21)や特性インピーダンスの変化が大きくなり、伝送特性が低下してしまうおそれがある。
【0006】
そこで、本発明は、曲げたときに伝送特性が低下しにくい信号伝送用ケーブルを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、上記課題を解決することを目的として、導体と、前記導体の周囲を覆う絶縁体と、前記絶縁体の周囲を覆うシールド層と、前記シールド層の周囲を覆うシースと、を備えた信号伝送用ケーブルであって、前記絶縁体と前記シールド層との間に、前記絶縁体の周囲を覆うように設けられためっき下地層を備え、前記シールド層は、前記めっき下地層の外周面に接触するように、かつ前記めっき下地層を覆うように形成されためっき層を有し、前記めっき層の外周面の表面粗さが、前記めっき層の内周面の表面粗さよりも小さ前記めっき層の内周面の算術平均粗さRaが2μm以上であり、前記めっき層の外周面の算術平均粗さRaが2μm未満である、信号伝送用ケーブルを提供する。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、曲げたときに伝送特性が低下しにくい信号伝送用ケーブルを提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1】本発明の一実施の形態に係る信号伝送用ケーブルを示す図であり、(a)はケーブル長手方向に垂直な断面を示す断面図、(b)は断面を拡大した写真である。
図2】めっき層の形成を説明する図である。
図3】ブラスト処理装置を示す図であり、(a)は斜視図、(b)は搬送方向手前から見た平面図である。
図4】ブラスト処理後のめっき下地層における外周面の表面粗さの測定結果を示すグラフ図である。
図5】挿入損失S21の測定結果を示すグラフ図であり、(a)は信号伝送用ケーブルを曲げないストレートの状態、(b)は信号伝送用ケーブルを曲げ半径1mmで曲げた状態の測定結果を示す。
図6】(a)は、曲げによる特性インピーダンスの変化の測定結果を示すグラフ図であり、(a)は、曲げ半径に対する挿入損失S21、及び曲げ部分の特性インピーダンスを示すグラフ図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
[実施の形態]
以下、本発明の実施の形態を添付図面にしたがって説明する。
【0011】
図1は、本実施の形態に係る信号伝送用ケーブルを示す図であり、(a)はケーブル長手方向に垂直な断面を示す断面図、(b)は断面を拡大した写真である。
【0012】
図1(a)に示すように、信号伝送用ケーブル1は、ケーブル中心に配置される導体2と、導体2の周囲を覆う絶縁体3と、絶縁体3の周囲を覆うシールド層4と、シールド層4の周囲を覆うシース5と、を備えている。すなわち、信号伝送用ケーブル1は、内部導体となる導体2と、外部導体となるシールド層4とを備えた同軸ケーブルである。
【0013】
信号伝送用ケーブル1は、例えば、工場等でロボットと制御機器とを接続する固定部用ケーブルとして用いられるものであり、その長さは例えば25m~100m程度である。また、信号伝送用ケーブル1は、電子機器内に配線される場合、その長さは例えば、5mm~200mm程度である。なお、「覆う」とは、他の層を介して配置される場合も含む。例えば、導体2と絶縁体3との間や、シールド層4とシース5との間に、他の層が配置されていてもよい。
【0014】
(導体2)
本実施の形態に係る信号伝送用ケーブル1では、導体2は、複数の素線2aを撚り合わせ、かつ、ケーブル長手方向に垂直な断面形状が円形状等の所定形状となるように圧縮加工された圧縮撚線導体からなる。本実施の形態では、7本の素線2aを同心撚りした撚線導体を、当該撚線導体よりも小径でかつ円形状の出口を有するダイスに通して圧縮することで、図1(a)に示すような断面形状が円形状の導体2を形成した。中心に配置される素線2aは、断面視で略六角形状となっており、周囲に配置される6本の素線2aは、断面視で略扇形状となっている。また、隣り合う素線2a同士は、各々の素線2aの間に隙間が生じないように接触(面接触)しているとよい。さらに、圧縮撚線導体の外面は、ケーブル周方向およびケーブル長手方向に平滑な面であるとよい。なお、図1に示す本実施の形態に係る信号伝送用ケーブル1では、断面形状が円形状からなる圧縮撚線導体で導体2を構成する例で示したが、断面形状が円形状以外の形状(例えば、四角形状等の多角形状)に圧縮加工された圧縮撚線導体で導体2を構成してもよい。導体2は、断面形状が円形状からなる圧縮撚線導体であることにより、信号伝送用ケーブル1をいずれの方向にも曲げやすくすることができるため、曲げて配策しやすい。
【0015】
圧縮加工されていない通常の撚線導体は、単線導体よりも柔軟性を有し曲げやすいものの、素線間に隙間が多いため、同じ外径の単線導体に比べて導体抵抗が高く、導電率は低くなる。本実施の形態のように、導体2として圧縮撚線導体を用いることで、素線2a同士が密着して素線2a間の隙間が無くなる。そのため、圧縮撚線導体を用いた導体2は、同じ外径の通常の撚線導体に比べて導体抵抗を低くすることができる。その結果、導体2として圧縮撚線導体を用いることにより、導電率が向上し良好な減衰特性が得られる。更に、高周波信号を伝送する電流(単に、電流ともいう)は、表皮効果により、導体2の外周部分を主に通過する。複数本の素線2aを撚り合わせた撚線導体で導体2を構成する場合では、撚線導体と同じ外径を有する単線導体よりも素線の曲率が小さくなるため、電流が通過する部分の断面積は、撚線導体と同じ外径を有する単線導体よりも小さくなってしまう。これに対して、本実施の形態では、導体2として撚線導体を圧縮させた圧縮撚線導体を用いることで、素線2a同士が密着し、導体2の外周が単線導体と同様の同心円形状となる。その結果、圧縮撚線導体からなる導体2では、同じ外径を有する撚線導体と比較して、電流が通過する部分の断面積が大きくなるため、良好な減衰特定が得られる。
【0016】
良好な減衰特性を得るため、導体2として用いる圧縮撚線導体の導電率は、99%IACS以上とすることが望ましい。本実施の形態では、高い導電率を実現するため、導体2の素線2aとして、銀めっきを施した純銅からなる軟銅線を用いた。なお、銀めっきを施していない軟銅線を素線2aとして用いてもよい。また、ダイスを通して圧縮することにより素線2aに歪みが付与され導電率が低下してしまうが、この後、加熱処理(アニール処理)を行うことで、歪みを除去して99%IACS以上の導電率を実現することができる。
【0017】
(絶縁体3)
絶縁体3としては、高周波信号の伝送特性を向上させる(より詳細には、例えば、10MHz~50GHzの帯域の高周波信号を伝送した際に減衰しにくくする)ために、なるべく誘電率が低いものを用いることが望ましい。本実施の形態では、絶縁体3として、フッ素樹脂からなるものを用いた。絶縁体3に用いるフッ素樹脂としては、FEP(テトラフルオロエチレン・ヘキサフルオロプロピレン共重合体)、PFA(テトラフルオロエチレン・パーフルオロアルキルビニルエーテル共重合体)等を用いるとよい。絶縁体3の厚さは、0.2mm以上2.0mm以下であるとよい。
【0018】
(シース5)
絶縁体3の周囲には、めっき下地層6、シールド層4、及びシース5が順次設けられる。めっき下地層6及びシールド層4の詳細については、後述する。
【0019】
シース5は、フッ素樹脂、PVC(ポリ塩化ビニル)、ウレタン、あるいはポリオレフィン等の絶縁性の樹脂組成物から構成される。本実施の形態では、シース5として、フッ素樹脂であるPFAからなるものを用いた。なお、シース5に用いるフッ素樹脂としては、FEPを用いてもよい。
【0020】
シース5は、押出成形により形成されるが、充実成形を行うと、シース5を構成する樹脂が後述する外側シールド層42の金属素線間に入り込んでしまい、信号伝送用ケーブル1が硬く曲げにくくなってしまうおそれがある。そこで、本実施の形態では、シース5をチューブ押出により成形した。これにより、シース5を構成する樹脂が外側シールド層42の素線間に入り込むことが抑制され、シース5と外側シールド層42とが分離される。つまり、本実施の形態では、シース5と外側シールド層42とが接着されておらず、シース5内で外側シールド層42が比較的自由に動けるようになっている。これにより、信号伝送用ケーブル1がより曲げやすくなる。
【0021】
(めっき下地層6)
本実施の形態に係る信号伝送用ケーブル1では、絶縁体3とシールド層4との間に、絶縁体3の周囲を覆うように設けられためっき下地層6を備えている。めっき下地層6は、後述するめっき層41を形成する際の下地となる層であって、特に、めっき層41の内面を所定の表面粗さRaとするための層である。本実施の形態では、絶縁体3としてフッ素樹脂を用いており、フッ素樹脂にめっき層41を直接形成することは困難であるため、フッ素樹脂からなる絶縁体3を覆うように、めっき層41の下地となるめっき下地層6を設けている。
【0022】
めっき下地層6は、その外周面にめっき層41を形成することが可能な絶縁性の樹脂からなるとよい。本実施の形態では、PE(ポリエチレン)からなるめっき下地層6を用いたが、PP(ポリプロピレン)からなるめっき下地層6を用いてもよい。めっき下地層6は、伝送特性への影響を抑えるために薄く形成することが望まく、めっき下地層6の厚さは、絶縁体3の厚さよりも薄いとよい。より具体的には、めっき下地層6の厚さは、絶縁体3の厚さの0.5倍以下であるとよく、例えば、0.10mm以上0.20mm以下であるとよい。めっき下地層6の厚さが0.10mm以上であると、めっき下地層6の機械的強度が大きくなるため、曲げによるめっき下地層6の破断を抑制し易くなる。また、めっき下地層6の厚さが0.20mm以下であると、信号伝送用ケーブル1を曲げた際等にめっき層41にかかる応力(めっき下地層6が信号伝送用ケーブル1の曲げに追従して曲がることによりめっき層41にかかる応力)が小さくなるため、めっき層41にクラックが入ってしまうことを抑制し易くなる。
【0023】
めっき下地層6と絶縁体3との間に隙間があると伝送特性に悪影響を及ぼしてしまうため、めっき下地層6は、絶縁体3の外面との間に隙間が生じない状態で接触して設けられているとよい。なお、めっき下地層6が絶縁体3の外面との間に隙間なく接触していることは、例えば、光学顕微鏡あるいは電子顕微鏡を用いて観察することができる。
【0024】
また、めっき下地層6は、信号伝送用ケーブル1を曲げたときに、絶縁体3の曲げに対してケーブル長手方向に相対移動できる(絶縁体3に対してケーブル長手方向にスライドできる)ように設けられていることがより望ましい。これにより、信号伝送用ケーブル1を曲げたときに、めっき下地層6が絶縁体3の曲げに対してケーブル長手方向に相対移動しながら曲がることにより、めっき層41にクラックが生じることを抑制可能になる。なお、ここでいう「クラック」とは、めっき層41の外面からめっき層41の内面(絶縁体3と接触する面)までの範囲で生じるめっき層41の亀裂である。
【0025】
なお、めっき層41にクラックが発生すると、共割れと呼ばれる現象が発生する場合があるが、本実施の形態では、絶縁体3とは別の部材であるめっき下地層6を介してめっき層41を形成しているため、めっき層41にクラックが入ってしまった場合であっても、絶縁体3に共割れが生じるおそれがなく、絶縁不良等の不具合を抑制することが可能である。
【0026】
また、めっき下地層6は、絶縁体3に対して接合されておらず、絶縁体3からはく離可能な状態で設けられているとよい。これにより、信号伝送用ケーブル1の端末加工時に、絶縁体3からめっき層41を容易に剥離して、絶縁体3を露出させることが可能になり、端末加工の作業性を向上できる。
【0027】
めっき下地層6の外面には、めっき層41を形成するために所定の処理が施される。この処理の詳細については、後述する。
【0028】
(シールド層4)
シールド層4は、めっき下地層6を覆うように形成されためっき層(内側シールド層)41と、めっき層41を覆うように設けられた外側シールド層42と、を有している。なお、外側シールド層42は、設けられていなくてもよい。
【0029】
外側シールド層42は、金属素線により構成されており、金属素線を編組あるいは横巻きして構成されている。本実施の形態では、外側シールド層42を、金属素線を編組した編組シールドにより構成した。金属素線としては、例えば、銅又は銅合金からなる軟銅線、硬銅線がある。また、アルミニウム又はアルミニウム合金からなる金属素線であってもよい。金属素線は、その外面にめっきが施されていてもよい。本実施の形態では、外側シールド層42を1層構成としたが、外側シールド層42を複数層で構成してもよい。また、外側シールド層42を構成する金属素線は、その表面に潤滑性を有してもよい。例えば、金属素線の表面にタルク粉体等の潤滑剤を塗布することで、潤滑性を付与してもよい。
【0030】
外側シールド層42を備えることで、何らかの想定外のダメージによってめっき層41が破損した場合であっても、シールド層4が電気的に絶縁しないようにすることができる。また、外側シールド層42を備えることで、めっき層41が薄くても、外側シールド層42の厚みで低周波信号の損失をより低減することができる。
【0031】
めっき層41は、外側シールド層42と共に外部導体を構成するものであり、めっき下地層6の外周面に直接接触するよう形成されている。上述のように、外側シールド層42は、金属素線を編組あるいは横巻きすることにより構成されるが、外側シールド層42のみでは、内部の信号が金属素線間の隙間から外部へと放射されてしまい、減衰量が大きくなるおそれがある。めっき層41を備えることにより、外側シールド層42の金属素線間の隙間が埋められることになり、減衰量がより低減される。なお、めっき層41と外側シールド層42とは接触しており、電気的に接続されている。
【0032】
めっき層41としては、導電率99%以上(99%IACS以上)の金属からなるものを用いるとよく、例えば、銅や銀からなる金属を用いることができる。
【0033】
めっき層41の厚さは、2μm以上5μm以下であるとよい。めっき層41の厚さが2μm以上であると、曲げが加わったときなどに外側シールド層42とめっき層41が接触しても、めっき層41にクラックが生じにくい。また、めっき層41の厚さが5μm以下であると、めっき層41が硬くなることによって信号伝送用ケーブル1が曲がりにくくなることを抑制できる。
【0034】
図1(b)に示すように、本実施の形態に係る信号伝送用ケーブル1では、めっき層41の外周面の表面粗さが、めっき層41の内周面の表面粗さよりも小さい。なお、めっき層41の外周面とは、めっき層41の径方向外側に位置する面であり、外側シールド層42に接触する面である。また、めっき層41の内周面とは、めっき層41の径方向内側に位置する面であり、めっき下地層6と接触する面である。図1(b)に示されるように、めっき層41はめっき下地層6と隙間なく接触しているため、めっき層41の内周面の表面粗さとは、めっき下地層6の外周面の表面粗さと同意となる。なお、図1(b)は、試作した信号伝送用ケーブル1の断面を拡大した写真である。
【0035】
めっき層41の内周面の表面粗さを大きくすることにより、アンカー効果によりめっき層41がめっき下地層6から剥離しにくくなる。本実施の形態では、意図的にめっき下地層6を粗化する処理を行うことにより、めっき層41の内周面の表面粗さ(すなわちめっき下地層6の外周面の表面粗さ)を大きくしている。めっき層41のめっき下地層6からの剥離を抑制するため、めっき層41の内表面の算術平均粗さRaは、2μm以上であるとよい。
【0036】
また、めっき層41の外周面の表面粗さを小さくすることにより、信号伝送用ケーブル1を曲げた場合など、めっき層41に対して外側シールド層42が擦れた際に、めっき層41や外側シールド層42に摩耗が生じることが抑制され、めっき層41の摩耗による損傷(割れ)を抑制できる。めっき層41の外周面の算術平均粗さRaは、めっき層41の内表面の算術平均粗さRaよりも小さいとよく、2μm未満であるとよい。
【0037】
このように、めっき層41の外周面の表面粗さを、めっき層41の内周面の表面粗さよりも小さくすることで、外側シールド層42との摩耗によりめっき層41の割れが発生してしまうことを抑制でき、たとえめっき層41に割れが生じたとしてもめっき層41がめっき下地層6から剥がれにくくなり、信号伝送用ケーブル1を曲げたときに伝送特性が低下しにくくなる。
【0038】
さらに、本実施の形態では、樹脂からなるめっき下地層6にめっき層41を形成しているため、信号伝送用ケーブル1を配策レイアウトに応じて適宜曲げた場合であっても、めっき下地層6が絶縁体3の外面と隙間なく接触した状態を維持しながら、絶縁体3に対してスライドでき、導体2とめっき層41間の距離(内部導体と外部導体の距離)を略一定に保つことが可能になる。例えば、めっき層41及びめっき下地層6に替えて、樹脂層の一方の面に金属層を形成した金属テープを縦添え巻きした場合、曲げにより金属テープに皺や折れが発生し、絶縁体と金属テープ間に隙間が生じる等して、特性インピーダンスが局所的に変化してしまい、特性インピーダンスの不整合によるリターンロスが大きくなってしまう場合がある。これに対して、本実施の形態に係る信号伝送用ケーブル1では、曲げに応じてめっき下地層6が柔軟に変形するために、導体2とめっき層41間の距離を略一定に保ち、信号伝送用ケーブル1のケーブル長手方向において特性インピーダンスを略一定に保つことが可能になり、リターンロスを抑制して良好な減衰特性を得ることが可能になる。
【0039】
(めっき層41を形成する方法)
図2は、めっき層41の形成を説明する図である。めっき層41を形成する際には、まず、送出ドラム10aから、第1ケーブル基体1aを送り出し、表面改質処理を行う。第1ケーブル基体1aは、導体2の周囲に、絶縁体3とめっき下地層6とを順次形成したものである。
【0040】
表面改質処理では、ブラスト処理装置11により、めっき下地層6の外周面に粉体を吹き付けて、めっき下地層6の外周面を所定の表面粗さに粗面化させるブラスト処理を行い、その後、コロナ放電装置12によりコロナ放電処理を行い、めっき下地層6の表面を改質(親水化)する。
【0041】
図3(a),(b)に示すように、ブラスト処理装置11は、複数(ここでは4つ)のノズル11a~11dを有しており、これら複数のノズル11a~11dを用いて、第1ケーブル基体1aの周方向における異なる方向から粉体をそれぞれ吹き付けることで、めっき下地層6の外周面を均一な表面粗さとするように構成されている。ここでは、4つのノズル11a~11dを、周方向において90°ずつ異なる方向から第1ケーブル基体1aに粉体を吹き出すように構成したが、第1ケーブル基体1aの周方向の全周にわたって、後述する表面粗さを有し、かつ絶縁体3とめっき下地層6との間に隙間が生じないようにブラスト処理ができれば、複数のノズル11a~11dの数や配置はこれに限定されない。例えば、第1ケーブル基体1aの周方向においてN個のノズルを配置させる場合には、N個のノズルのそれぞれを、周方向に沿って均等な角度(360°/N個)ずつずらすように配置させる。また、複数のノズルのそれぞれから吹き出す粉体の量や吹き出すときのエア圧は、第1ケーブル基体1aの形状に応じて変更するとよい。例えば、第1ケーブル基体1aの形状が円形状である場合は、複数のノズルのそれぞれから吹き付けられる粉体の量やエア圧を同じにするとよい。これにより、第1ケーブル基体1aは、絶縁体3とめっき下地層6との間に隙間が生じることなく、めっき下地層6の表面が所定の表面粗さRa(例えば、表面粗さRaが2.0μm以上)で粗化されるようになる。めっき下地層6の表面が所定の表面粗さRaであることにより、後述する前処理等を経て形成されためっき層41の内周面を、めっき下地層6の表面の表面粗さと等しい表面粗さにすることができる。
【0042】
ここでは、ブラスト処理装置11で使用する粉体として、ドライアイスを用いた。ただし、これに限らず、例えば、金属粒子、カーボン粒子、酸化物粒子、炭化物粒子、窒化物粒子等から成る粉体を用いることもできる。
【0043】
図2に戻り、表面改質処理を行った後、無電解めっき前処理が行われる。無電解めっき前処理は、無電解めっきによる製膜の前処理であり、ここでは、前処理装置13により、めっき下地層6の外周面にパラジウム(Pd)-すず(Sn)コロイドを吸着させるPd-Sn触媒処理、吸着させたPd-SnコロイドからSnを除去するPd活性化処理、Pd吸着量を強化するPdイオン液浸漬処理を順次行う。なお、本実施の形態では、無電解めっき前処理にて、めっき下地層6の外周面にPdを吸着させたが、吸着させる金属はPdに限らず、例えば、PtやAuを用いることもできる。
【0044】
その後、無電解めっき装置14により、無電解めっきを行う。無電解めっきでは、前処理により吸着させたPdを種として銅の製膜が行われる。その後、電解めっき装置15により、電解めっきが行われる。電解めっきでは、無電解めっきにより形成された銅の膜の厚膜化が行われる。これにより、めっき層41が形成される。めっき層41を形成した第2ケーブル基体1bは、巻き取りドラム10bに巻き取られる。その後、めっき層41の周囲に外側シールド層42、シース5を順次設けることで、信号伝送用ケーブル1が製造される。
【0045】
ブラスト処理後のめっき下地層6の外周面の表面粗さの測定結果を図4に示す。表面粗さの測定は、レーザ顕微鏡(VK8510、キーエンス社製)を使用し、測定エリアを200μm×100μmとして、ケーブル長手方向に10mm間隔の5か所において算術平均粗さRaの測定を行い、5か所の測定値の平均値を求めた。図4では、平均値を●で示すと共に、5か所の測定値のばらつきをI字状のバーにより示している。図4に示すように、めっき下地層6の外周面の算術平均粗さRaは、周方向のいずれの位置においても2μm以上となっており、その平均値は3μm以上となっていることが分かる。めっき下地層6の外周面上にめっき層41が形成されるため、めっき下地層6の外周面の表面粗さは、めっき層41の内周面の表面粗さと等しくなる。
【0046】
なお、ブラスト処理時の条件によっては、ブラスト処理によって絶縁体3とめっき下地層6との間に隙間が生じてしまう場合がある。そのため、絶縁体3とめっき下地層6との間に隙間が生じない条件で、ブラスト処理を行うとよい。本発明者らが検討したところ、第1ケーブル基体1aの線速(搬送速度)を2m/minとした場合、ブラスト処理のエア圧を0.5MPaとした場合に絶縁体3とめっき下地層6との間に隙間が生じず、エア圧を0.6MPaとした場合には絶縁体3とめっき下地層6との間に隙間が生じた。よって、この場合、ブラスト処理のエア圧は0.6MPa未満、より好ましくは0.5MPa以下とすることが望ましいといえる。
【0047】
(信号伝送用ケーブル1の伝送特性)
図1の信号伝送用ケーブル1において、外側シールド層42およびシース5が設けられていない状態のサンプルを試作し、伝送特性の測定を行った。まず、伝送損失(挿入損失)S21の測定を行った。S21の測定は、信号伝送用ケーブル1を曲げないストレートの状態(曲げなし)と、信号伝送用ケーブル1を曲げ半径R=1mmで曲げた場合について行った。測定結果をそれぞれ図5(a),(b)に示す。
【0048】
図5(a),(b)に示すように、試作した上記サンプルを曲げ半径R=1mmで曲げた場合のS21は、ストレートの状態とほぼ同等となっていることが分かる。より詳細には、ストレートの状態のS21に対する曲げ半径R=1mmで曲げた状態のS21の変化は、周波数28GHzにおいて0.4dB以下と微小であった。なお、図示していないが、曲げ半径Rを40mmから1mmまで変化させてS21の測定を行ったが、曲げ半径R=1mm以外で曲げた状態のS21の変化(ストレートの状態のS21に対する変化)は微小であり、曲げ半径R=1mmで曲げた状態のS21の変化と殆ど変わらなかった。
【0049】
次に、ストレートの状態、及び曲げ半径Rを40mmから1mmまで変化されたそれぞれの場合について、特性インピーダンスの変化を測定した。結果を図6(a)にまとめて示す。図6(a)に示すように、曲げ半径Rが2.5mm以下となると、曲げ部分で特性インピーダンスがわずかに変化していることがわかる。
【0050】
28GHzでのS21(S21@28GHz)と、曲げ部分の特性インピーダンスをまとめて図6(b)に示す。図6(b)に示すように、曲げ半径Rが2.5mm以下と小さくなると、S21や特性インピーダンスにわずかな変化が生じるものの、その変化はわずかであることが分かる。また、曲げ半径Rが5mm以上である場合、S21や特性インピーダンスはストレートの状態とほぼ変化がないことが分かる。以上により、曲げたときに伝送特性が低下しにくい信号伝送用ケーブル1が実現できていることが確認できた。
【0051】
(実施の形態の作用及び効果)
以上説明したように、本実施の形態に係る信号伝送用ケーブル1では、絶縁体3とシールド層4との間に、絶縁体3の周囲を覆うように設けられためっき下地層6を備え、シールド層4は、めっき下地層6の外周面に接触するように、かつめっき下地層6を覆うように形成されためっき層41を有し、めっき層41の外周面の表面粗さが、めっき層41の内周面の表面粗さよりも小さい。
【0052】
このように構成することで、従来技術のようにシールド層にテープ部材を用いた場合のように屈曲時にシールド層にシワが発生してしまうことが抑制され、曲げたときに伝送特性が低下しにくくなる。さらに、外側シールド層42を備えた場合であっても、外側シールド層42との摩耗によりめっき層41の割れが発生してしまうことを抑制でき、また、たとえめっき層41に割れが生じたとしてもめっき層41がめっき下地層6から剥がれにくくなる。その結果、曲げたときに伝送特性が低下しにくい信号伝送用ケーブル1を実現できる。
【0053】
(実施の形態のまとめ)
次に、以上説明した実施の形態から把握される技術思想について、実施の形態における符号等を援用して記載する。ただし、以下の記載における各符号等は、特許請求の範囲における構成要素を実施の形態に具体的に示した部材等に限定するものではない。
【0054】
[1]導体(2)と、前記導体(2)の周囲を覆う絶縁体(3)と、前記絶縁体(3)の周囲を覆うシールド層(4)と、前記シールド層(4)の周囲を覆うシース(5)と、を備えた信号伝送用ケーブル(1)であって、前記絶縁体(3)と前記シールド層(4)との間に、前記絶縁体(3)の周囲を覆うように設けられためっき下地層(6)を備え、前記シールド層(4)は、前記めっき下地層(6)の外周面に接触するように、かつ前記めっき下地層(6)を覆うように形成されためっき層(41)を有し、前記めっき層(41)の外周面の表面粗さが、前記めっき層(41)の内周面の表面粗さよりも小さい、信号伝送用ケーブル(1)。
【0055】
[2]前記めっき下地層(6)の厚さは、前記絶縁体(3)の厚さよりも薄い、[1]に記載の信号伝送用ケーブル(1)。
【0056】
[3]前記めっき層(41)の内周面の算術平均粗さRaが2μm以上である、[1]または[2]に記載の信号伝送用ケーブル(1)。
【0057】
[4]前記絶縁体(3)がフッ素樹脂からなり、前記めっき下地層(6)がポリエチレンまたはポリプロピレンからなる、[1]乃至[3]の何れか1項に記載の信号伝送用ケーブル(1)。
【0058】
以上、本発明の実施の形態を説明したが、上記に記載した実施の形態は特許請求の範囲に係る発明を限定するものではない。また、実施の形態の中で説明した特徴の組合せの全てが発明の課題を解決するための手段に必須であるとは限らない点に留意すべきである。また、本発明は、その趣旨を逸脱しない範囲で適宜変形して実施することが可能である。
【符号の説明】
【0059】
1…信号伝送用ケーブル
2…導体
3…絶縁体
4…シールド層
41…めっき層
42…外側シールド層
5…シース
6…めっき下地層
図1
図2
図3
図4
図5
図6