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  • 特許-R-T-B系焼結磁石の製造方法 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2025-04-07
(45)【発行日】2025-04-15
(54)【発明の名称】R-T-B系焼結磁石の製造方法
(51)【国際特許分類】
   H01F 41/02 20060101AFI20250408BHJP
   H01F 1/057 20060101ALI20250408BHJP
【FI】
H01F41/02 G
H01F1/057 170
【請求項の数】 6
(21)【出願番号】P 2021137689
(22)【出願日】2021-08-26
(62)【分割の表示】P 2021532090の分割
【原出願日】2020-12-24
(65)【公開番号】P2022023024
(43)【公開日】2022-02-07
【審査請求日】2023-11-08
(31)【優先権主張番号】P 2019235578
(32)【優先日】2019-12-26
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(31)【優先権主張番号】P 2020159614
(32)【優先日】2020-09-24
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000005083
【氏名又は名称】株式会社プロテリアル
(74)【代理人】
【識別番号】100101683
【弁理士】
【氏名又は名称】奥田 誠司
(74)【代理人】
【識別番号】100155000
【弁理士】
【氏名又は名称】喜多 修市
(74)【代理人】
【識別番号】100180529
【弁理士】
【氏名又は名称】梶谷 美道
(72)【発明者】
【氏名】藤森 信彦
(72)【発明者】
【氏名】小幡 徹
(72)【発明者】
【氏名】園田 和博
(72)【発明者】
【氏名】國吉 太
(72)【発明者】
【氏名】古澤 大介
(72)【発明者】
【氏名】槙 智仁
(72)【発明者】
【氏名】三野 修嗣
(72)【発明者】
【氏名】齋藤 康太
【審査官】栗栖 正和
(56)【参考文献】
【文献】特開平10-022154(JP,A)
【文献】特開平06-140220(JP,A)
【文献】特開平04-287304(JP,A)
【文献】特開2012-158792(JP,A)
【文献】特開2011-060975(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01F 41/02
H01F 1/057
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
R-T-B系焼結磁石(Rは希土類元素であり、Nd、PrおよびCeからなる群から選択される少なくとも1つを必ず含み、Tは遷移金属の少なくとも1つでありFeを必ず含む)の製造方法であって、
平均粒度が10μm以上500μm以下のR-T-B系焼結磁石用合金の粗粉砕粉を準備する工程と、
粉砕室が不活性ガスで満たされたジェットミル装置に前記粗粉砕粉を供給して前記粗粉砕粉の粉砕を行い、平均粒度が2.0μm以上4.5μm以下の微粉末を得る工程と、
前記微粉末の焼結体を作製する工程と、を含み、
前記不活性ガスは、粉砕される前記粗粉砕粉の量に応じて加湿されており、前記粗粉砕粉の1kgあたり0.5g以上6.0g以下の水分を前記不活性ガスに与えることによって得られ、
前記R-T-B系焼結磁石の酸素の含有量が質量比で1000ppm以上3500ppm以下である、R-T-B系焼結磁石の製造方法。
【請求項2】
前記R-T-B系焼結磁石のR含有量は31質量%以下である、請求項1に記載のR-T-B系焼結磁石の製造方法。
【請求項3】
前記不活性ガスは、窒素ガスである、請求項1または2に記載のR-T-B系焼結磁石の製造方法。
【請求項4】
重希土類元素RH(RHは、Tb、Dy、Hoの少なくとも1つ)を前記焼結体の表面から内部に拡散させる拡散工程を更に含む、請求項1から3のいずれかに記載のR-T-B系焼結磁石の製造方法。
【請求項5】
前記微粉末の焼結体を作製する工程は、
磁場中湿式プレスまたは不活性ガス雰囲気中による磁場中プレスによって前記微粉末から粉末成形体を作製する工程と、
前記粉末成形体を焼結する工程と、
を含む、請求項1から4のいずれかに記載のR-T-B系焼結磁石の製造方法。
【請求項6】
前記微粉末を得る工程における前記微粉末の前記平均粒度は2.0μm以上3.5μm以下である、請求項1から5のいずれかに記載のR-T-B系焼結磁石の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本願は、R-T-B系焼結磁石の製造方法およびR-T-B系焼結磁石に関する。
【背景技術】
【0002】
R-T-B系焼結磁石(Rは希土類元素であり、Nd、PrおよびCeからなる群から選択される少なくとも1つを必ず含み、Tは遷移金属の少なくとも1つでありFeを必ず含む、Bはホウ素である)は、RFe14B型結晶構造を有する化合物の主相と、この主相の粒界部分に位置する粒界相および微量添加元素や不純物の影響により生成する化合物相とから構成されており、高い残留磁束密度B(以下、単に「B」と記載する場合がある)と高い保磁力HcJ(以下、単に「HcJ」と記載する場合がある)を示し優れた磁気特性を有することから永久磁石の中で最も高性能な磁石として知られている。このため、ハードディスクドライブのボイスコイルモータ(VCM)、電気自動車(EV、HV、PHV)用モータ、産業機器用モータなどの各種モータや家電製品など多種多様な用途に用いられている。
【0003】
このようなR-T-B系焼結磁石は、例えば、合金粉末を準備する工程、合金粉末をプレス成形して粉末成形体を作製する工程、粉末成形体を焼結する工程を経て製造される。合金粉末は、例えば、以下の方法で作製される。
【0004】
まず、インゴット法またはストリップキャスト法などの方法によって各種原料金属の溶湯から合金を製造する。得られた合金を粉砕工程に供し、所定の粒径分布を有する合金粉末を得る。この粉砕工程には、通常、粗粉砕工程と微粉砕工程とが含まれており、前者は、例えば水素脆化現象を利用して、後者は例えば気流式粉砕機(ジェットミル)を用いて行われる。
【0005】
このような粉砕工程によって得られた合金粉末は、例えばサイクロン式捕集装置により固気分離を行ってR-T-B系焼結磁石用合金粉末を回収(捕集)する。
【0006】
R-T-B系焼結磁石にはさらなる高性能化と、低コスト化が、要求されている。高性能化の手法としては、例えば、組織の微細化、含有酸素量の低減などが挙げられ、低コスト化の手法としては、例えば、粉砕効率の向上などが挙げられる。特許文献1には、粉砕効率向上の方法として露点-20℃~0℃の加湿された不活性ガス気流を用いてジェットミル粉砕を行う方法が開示されている。同様の手法は特許文献2にも記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【文献】特開平8-148317号公報
【文献】特開平6-140220号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
含有酸素量を低減させた、例えば酸素の含有量が質量比で3500ppm以下となるようなR14B相を主相とするR-T-B系焼結磁石を作製する場合は、粉砕工程における粉末粒子の酸化を防止するため、例えば、高純度の窒素ガスが不活性ガスとして使用される。
【0009】
本発明者らの検討によると、高純度の窒素ガスなどの不活性ガスを用いてジェットミル粉砕を実行した場合、低酸素にすると想定していた高性能化が達成できない場合があることがわかった。また、粉末を微細化して高性能化を図ろうとすると、微細化するには粉砕効率が犠牲になる。粉砕効率に関しては、特許文献1、2の開示の手法もあるが、特許文献1、2の開示の構成は、反応性を抑えるために、4500ppmを超えるような高酸素含有量にする技術であり、低酸素化による高性能化において適用することができない。本開示の実施形態は、このような問題を解決することが可能なR-T-B系焼結磁石の製造方法およびR-T-B系焼結磁石を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本開示のR-T-B系焼結磁石の製造方法は、非限定的で例示的な実施形態において、R-T-B系焼結磁石(Rは希土類元素であり、Nd、PrおよびCeからなる群から選択される少なくとも1つを必ず含み、Tは遷移金属の少なくとも1つでありFeを必ず含む)の製造方法であって、平均粒度が10μm以上500μm以下のR-T-B系焼結磁石用合金の粗粉砕粉を準備する工程と、粉砕室が不活性ガスで満たされたジェットミル装置に前記粗粉砕粉を供給して前記粗粉砕粉の粉砕を行い、平均粒度が2.0μm以上4.5μm以下の微粉末を得る工程と、前記微粉末の焼結体を作製する工程と、を含み、前記不活性ガスは加湿されており、前記R-T-B系焼結磁石の酸素の含有量が質量比で1000ppm以上3500ppm以下である。
【0011】
ある実施形態において、前記R-T-B系焼結磁石のR含有量は31質量%以下である。
【0012】
ある実施形態において、前記不活性ガスは、窒素ガスである。
【0013】
ある実施形態において、重希土類元素RH(RHは、Tb、Dy、Hoの少なくとも1つ)を前記焼結体の表面から内部に拡散させる拡散工程を更に含む。
【0014】
ある実施形態において、前記微粉末の焼結体を作製する工程は、磁場中湿式プレスまたは不活性ガス雰囲気中による磁場中プレスによって前記微粉末から粉末成形体を作製する工程と、前記粉末成形体を焼結する工程とを含む。
【0015】
ある実施形態において、前記微粉末を得る工程における前記微粉末の前記平均粒度は2.0μm以上3.5μm以下である。
【0016】
本開示のR-T-B系焼結磁石は、非限定的で例示的な実施形態において、R-T-B系焼結磁石であって(Rは希土類元素であり、Nd、PrおよびCeからなる群から選択される少なくとも1つを必ず含み、Tは遷移金属の少なくとも1つでありFeを必ず含む)、前記R-T-B系焼結磁石の主相であるR14B相の平均結晶粒径は、3μm以上7μm以下であり、酸素、炭素、窒素を含有し、酸素の含有量は質量比で1000ppm以上3500ppm以下であり、炭素の含有量は質量比で80ppm以上1500ppm以下であり、窒素の含有量は質量比で50ppm以上600pm以下であり、質量比で酸素の含有量を[O]、炭素の含有量を[C]、窒素の含有量を[N]とするとき、以下の式1~3を満足する。
式1:[O]>[C]>[N] 式2:[O]≧1.5×[N] 式3:[C]≧1.5×[N]
【0017】
本開示のR-T-B系焼結磁石は、非限定的で例示的な実施形態において、R14B化合物からなる主相と、前記主相の粒界部分に位置する粒界相とを含むR-T-B系焼結磁石であって(Rは希土類元素であり、Nd、PrおよびCeからなる群から選択される少なくとも1つを必ず含み、Tは遷移金属の少なくとも1つでありFeを必ず含む)、前記R-T-B系焼結磁石の主相であるR14B相の平均結晶粒径は、3μm以上7μm以下であり、前記R-T-B系焼結磁石は、酸素、炭素、窒素を含有し、酸素の含有量は質量比で1000ppm以上3500ppm以下であり、窒素の含有量は質量比で50ppm以上600pm以下であり、前記粒界相は、希土類酸化物相を有し、前記希土類酸化物相は、NaCl型結晶構造を有する希土類酸窒化物相を含み、前記希土類酸窒化物相におけるOの含有量(原子%)を{O}、前記希土類酸窒化物相におけるNの含有量(原子%)を{N}とするとき、{O}>1.8×{N}の関係を満たす。
【0018】
ある実施形態において、前記R-T-B系焼結磁石は、前記希土類酸窒化物相におけるCの含有量(原子%)を{C}とするとき、{C}>{N}×0.5の関係を満たす。
【0019】
ある実施形態において、R-T-B系焼結磁石の任意の断面において、前記希土類酸化物相の面積に占める前記希土類酸窒化物相の面積の割合が50%以上である。
【0020】
ある実施形態において、R-T-B系焼結磁石は、磁石表面から磁石内部に向かってTb濃度およびDy濃度の少なくとも一方が漸減する部分を含む。
【発明の効果】
【0021】
本開示の実施形態によれば、ジェットミル粉砕によって得られる微粉末の粒子表面を加湿された不活性ガスによって適切に改質することができる。これにより、微粉末の粉砕粒度を低下させてもジェットミル粉砕時の粉砕効率の悪化を抑止しつつ、最終的に優れた磁気特性を有するR-T-B系焼結磁石を実現することが可能になる。
【図面の簡単な説明】
【0022】
図1図1は、本実施形態におけるR-T-B系焼結磁石合金粉砕システム1000の構成例を模式的に示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0023】
本発明者らは検討の結果、含有酸素量を低減させたR-T-B系焼結磁石を製造する場合において、粉砕工程にて粉末粒子を小さくすると、粉砕効率の悪化に加えて、粉砕工程において不活性ガス(特に不活性ガスとして乾燥した窒素ガスを用いた場合)により粉末粒子が劣化(窒化)し、粉砕粒子を小さくしたことによる所望の磁気特性向上効果が得られなくなることがわかった。本発明者らはさらに検討の結果、加湿された不活性ガスを用いることで不活性ガスによる粉末粒子の劣化を低減できることを見出した。これは、粉末粒子表面に酸化膜が形成されることで粉末粒子内部への不活性ガス(特に窒素ガス)の導入を防ぐことができ、これにより不活性ガスによる粉末粒子の劣化(窒化)を抑制できるからだと考えられる。従来、粉砕工程にて粉末粒子を小さくすると、粉砕効率が悪化することや、これらの悪化を加湿された不活性ガス気流を用いることで改善できることが知られていた(例えば特許文献1や特許文献2)。しかし、当然ながら、加湿された不活性ガス気流を用いて粉砕すると粉末粒子が酸化されて磁気特性が低下する。そのため、磁気特性を向上させるために含有酸素量を低減させたR-T-B系焼結磁石を製造する場合に、粉砕粒子を小さくしようとして、積極的に加湿された不活性ガス気流を用いて粉砕することはなかった(例えば、特許文献1の微粉末の酸素含有量は質量比で4500ppmおよび4900ppmと比較的高い、特許文献2は酸素含有量の記載なし)。しかし、本発明者らは上述した不活性ガスによる粉末粒子の劣化を加湿された不活性ガスを用いることで低減させる知見を踏まえて検討を重ねた結果、意外なことに、最終的に得られるR-T-B系焼結磁石において、含有酸素量を低減させた特定の範囲となるように粉末粒子を加湿粉砕すると、粉末粒子の劣化(窒化)の抑制と加湿の酸化による磁気特性低下の抑制を両立できることが分かった。なお、通常、粉砕以降の工程でR-T-B系焼結磁石の酸素量が増加する工程は主に、微粉末を成形、焼結して焼結体を作製する工程であるが、R-T-B系焼結磁石の酸素含有量の増加は少ない(例えば、質量比で50ppm以上300ppm以下)。よって、R-T-B系焼結磁石の含有酸素量は粉砕工程によって調整することが可能である。すなわち本開示は、粉砕工程において、得られるR-T-B系焼結磁石の含有酸素量を特定範囲(1000ppm以上3500ppm以下、好ましくは1000ppm以上3200ppm以下)になるように加湿粉砕して粉末粒子を小さくする(平均粒径が2.0μm以上4.5μm以下、好ましくは平均粒径が2.0μm以上3.5μm以下)ことにより、粉砕性を改善できるとともに、粉砕工程における酸化や窒化による磁気特性の低下を低減させることで、高い磁気特性を有するR-T-B系焼結磁石が得られることを見出したものである。また、このようにして、R-T-B系焼結磁石の主相であるR14B相の平均結晶粒径は、3μm以上7μm以下であり、酸素、炭素、窒素を含有し、酸素の含有量は質量比で1000ppm以上3500ppm以下であり、炭素の含有量は質量比で80ppm以上1500ppm以下であり、窒素の含有量は質量比で50ppm以上600pm以下であり、質量比で酸素の含有量を[O]、炭素の含有量を[C]、窒素の含有量を[N]とするとき、以下の式1~3を満足する、R-T-B系焼結磁石が好適に得られる。
式1:[O]>[C]>[N] 式2:[O]≧1.5×[N] 式3:[C]≧1.5×[N]
【0024】
<R-T-B系焼結磁石の製造方法>
以下、本開示によるR-T-B系焼結磁石の製造方法の実施形態を説明する。
【0025】
本開示はR-T-B系焼結磁石の製造方法である。ここで、Rは希土類元素であり、Nd、PrおよびCeからなる群から選択される少なくとも1つを必ず含み、Tは遷移金属の少なくとも1つでありFeを必ず含む。
【0026】
このR-T-B系焼結磁石の製造方法は、
(1)平均粒度が10μm以上500μm以下のR-T-B系焼結磁石用合金の粗粉砕粉を準備する工程と、
(2)粉砕室が不活性ガスで満たされたジェットミル装置に前記粗粉砕粉を供給して前記粗粉砕粉の粉砕を行い、平均粒度が2.0μm以上4.5μm以下の微粉末を得る工程と、
(3)前記微粉末の焼結体を作製する工程と、
を含み、前記不活性ガスは、加湿されている。平均粒度(d50)は、気流分散式レーザー回折法によって測定され得る。
【0027】
<R-T-B系焼結磁石>
本開示のR-T-B系焼結磁石は、酸素の含有量が質量割合で1000ppm以上3500ppm以下である。酸素の含有量を1000ppm以上3500ppm以下とすることにより、上記(2)の微粉末を得る工程において、不活性ガスの加湿が弱すぎることで不活性ガスによる粉末粒子の劣化(窒化)が進むことによる磁気特性の低下や加湿による粉末粒子の酸化が進むことによる磁気特性の低下を抑制できる。より高い磁気特性を得るためには、R-T-B系焼結磁石の酸素含有量は1000ppm以上3200ppm以下が好ましく、1000ppm以上2400ppm以下がさらに好ましく、1300ppm以上2400ppm以下がさらに好ましい。また、加湿による粉砕を経て、R-T-B焼結磁石を本開示の酸素の含有量(1000ppm以上3500ppm以上)とすることにより、後述する実施例に示すように成形における圧縮性を向上させることができる。圧縮性が向上することで、より低い成形圧力で成形を行うことができる。これにより、成形体の亀裂発生を抑制することが可能となる。さらに、金型への負荷の低減による連続成形性の向上や金型補修頻度の低減が可能となるため生産効率を向上させることができる。好ましくは、R-T-B系焼結磁石の酸素の含有量は2000ppm以上である。より成形性を向上させることができる。そのため、成形性と磁気特性(BおよびHcJ)を考慮するとR-T-B系焼結磁石の酸素含有量は2000ppm以上2400ppm以下が好ましい。
【0028】
以下に好ましいR-T-B系焼結磁石の組成を示す。
【0029】
Rは希土類元素であり、Nd、PrおよびCeからなる群から選択される少なくとも1つを必ず含む。好ましくは、Nd-Dy、Nd-Tb、Nd-Dy-Tb、Nd-Pr-Dy、Nd-Pr-Tb、Nd-Pr-Dy-Tbで示される希土類元素の組合せを用いる。
【0030】
Rのうち、DyおよびTbは、特にHcJの向上に効果を発揮する。上記元素以外にはLaなど他の希土類元素を含有してもよく、ミッシュメタルやジジムを用いることもできる。また、Rは純元素でなくてもよく、工業上入手可能な範囲で、製造上不可避な不純物を含有するものでもよい。含有量は、例えば、27量%以上35質量%以下である。好ましくは、R-T-B系焼結磁石のR含有量は31質量%以下(27質量%以上31質量%以下、好ましくは、29質量%以上31質量%以下)である。R-T-B系焼結磁石のR含有量を31質量%以下でかつ、酸素の含有量が質量比で1000ppm以上3500ppm以下とすることにより、加湿粉砕時において、加湿により酸化されたRの発生が低減される。そのため、より高い磁気特性を得ることができる。
【0031】
Tは、鉄を含み(Tが実質的に鉄から成る場合も含む)、質量比でその50%以下をコバルト(Co)で置換してもよい(Tが実質的に鉄とコバルトとから成る場合を含む)。Coは温度特性の向上、耐食性の向上に有効であり、合金粉末は10質量%以下のCoを含んでよい。Tの含有量は、RとBあるいはRとBと後述するMとの残部を占めてよい。
【0032】
Bの含有量についても公知の含有量で差し支えなく、例えば、0.9質量%~1.2質量%が好ましい範囲である。0.9質量%未満では高いHcJが得られない場合があり、1.2質量%を超えるとBが低下する場合がある。なお、Bの一部はC(炭素)で置換することができる。より好ましくは、1.0質量%以下、さらに好ましくは0.96質量%以下である。
【0033】
上記元素に加え、HcJ向上のためにM元素を添加することができる。M元素は、Al、Si、Ti、V、Cr、Mn、Ni、Cu、Zn、Ga、Zr、Nb、Mo、In、Sn、Hf、TaおよびWからなる群から選択される一種以上である。M元素の添加量は5.0質量%以下が好ましい。5.0質量%を超えるとBrが低下する場合があるためである。また、不可避的不純物も許容することができる。
【0034】
R-T-B系焼結磁石におけるN(窒素)の含有量は、質量比で50ppm以上600ppm以下が好ましい。N(窒素)の含有量が質量比で50ppm以上600ppm以下となるように加湿粉砕を行ことにより粉砕性を改善しつつ、窒化による磁気特性の低下を抑制することができる。窒素の含有量は50ppm以上400ppm以下がさらに好ましく、最も好ましくは、100ppm以上300ppm以下である。より粉砕性を改善しつつ、窒化による磁気特性の低下を抑制できるからである。また、R-T-B系焼結磁石におけるC(炭素)の含有量)は、質量比で80ppm以上1500ppm以下が好ましく、80ppm以上1000ppm以下がさらに好ましい。さらに、Cの含有量の下限は500ppmとすることも可能であり、800ppm以上とすることも可能である。また、本開示のR-T-B系焼結磁石は、質量比で酸素の含有量を[O]、炭素の含有量を[C]、窒素の含有量を[N]とするとき、以下の式1~3を満足することが好ましい。
式1:[O]>[C]>[N]、式2:[O]≧1.5×[N]、式3:[C]≧1.5×[N]
【0035】
前記式1~3を満足することで、より確実に粉砕性を改善できるとともに、粉末粒子の劣化や加湿の酸化による磁気特性低下の抑制を両立するR-T-B系焼結磁石が得られる。本開示のR-T-B系焼結磁石は、上述したように加湿粉砕を行うことにより酸素量が増加するが、特に粉砕による窒化が抑えられる。その結果、得られたR-T-B系焼結磁石における酸素、炭素、窒素の含有量は、式1([O]>[C]>[N])のようにすることができる。さらに、十分に窒化が抑えられることにより、窒素の含有量が酸素や炭素の含有量に比べて少なくなり、式2([O]≧1.5×[N])および式3([C]≧1.5×[N])にすることができる。また、式2は[O]≧3×[N]がさらに好ましく、[O]≧5×[N]がさらにこのましく、[O]≧10×[N]がもっとも好ましい。また、式3は、[C]≧2×[N]がさらに好ましく、[C]≧5×[N]がもっとも好ましい。
【0036】
また、本開示のR-T-B系焼結磁石の主相であるR14B相の平均結晶粒径は、3.5μm以上7.0μm以下である。なお、前記平均結晶粒径はEBSD(後方散乱電子回折(Electron BackScatter Diffractiom))で評価される結晶粒(5000個以上)の円相当径の個数平均により求めることができる。
【0037】
<(1)平均粒度が10μm以上500μm以下のR-T-B系焼結磁石用合金の粗粉砕粉を準備する工程の例>
平均粒度が10μm以上500μm以下のR-T-B系焼結磁石用合金の粗粉砕粉を準備する工程は、R-T-B系焼結磁石用合金を準備する工程と、この合金を例えば水素粉砕法などによって粗く粉砕する工程とを含む。
【0038】
R-T-B系焼結磁石用合金の製造方法を例示する。上述した組成となるように事前に調整した金属または合金を溶解し、鋳型に入れるインゴット鋳造法により合金インゴットを得ることができる。また、溶湯を単ロール、双ロール、回転ディスクまたは回転円筒鋳型等に接触させて急冷し、インゴット法で作られた合金よりも薄い凝固合金を作製するストリップキャスト法または遠心鋳造法に代表される急冷法により合金フレークを製造することができる。
【0039】
本開示の実施形態においては、インゴット法と急冷法のどちらの方法により製造された材料も使用可能であるが、ストリップキャスト法などの急冷法により製造されることが好ましい。急冷法によって作製した急冷合金の厚さは、通常0.03mm~1mmの範囲にあり、フレーク形状である。合金溶湯は冷却ロールの接触した面(ロール接触面)から凝固し始め、ロール接触面から厚さ方向に結晶が柱状に成長してゆく。急冷合金は、従来のインゴット鋳造法(金型鋳造法)によって作製された合金(インゴット合金)と比較して、短時間で冷却されているため、組織が微細化され、結晶粒径が小さい。また粒界の面積が広い。Rリッチ相は粒界内に大きく広がるため、急冷法はRリッチ相の分散性に優れる。このため水素粉砕法により粒界で破断し易い。急冷合金を水素粉砕することで、水素粉砕粉(粗粉砕粉)のサイズを例えば1.0mm以下とすることができる。このようにして得た粗粉砕粉を加湿雰囲気のジェットミルで粉砕する(工程(2))。
【0040】
<(2)粉砕室が不活性ガスで満たされたジェットミル装置に粗粉砕粉を供給して粗粉砕粉の粉砕を行い、平均粒度が2.0μm以上4.5μm以下の微粉末を得る工程の例>
<粉砕システム>
まず、図1を参照しながら、本開示によるR-T-B系焼結磁石の製造方法に用いられ得る粉砕システムを説明する。図1は、本実施形態における粉砕システム1000の構成例を模式的に示す図である。この例において、R-T-B系焼結磁石合金粉砕システム1000は、ジェットミル装置100と、サイクロン捕集装置200と、バッグフィルタ装置300とを備えている。
【0041】
ジェットミル装置100は、不図示の原料タンクから原料投入パイプ34を介して被粉砕物の供給を受ける。被粉砕物は、平均粒度が10μm以上500μm以下のR-T-B系焼結磁石用合金の粗粉砕粉である。なお、本開示における平均粒度(d50)は、気流分散式レーザー回折法(JIS Z 8825:2013年改訂版に準拠する)により測定することができる。すなわち、本明細書において、平均粒度は、小粒径側からの積算粒度分布(体積基準)が50%となる粒径(メジアン径)を意味する。
【0042】
なお本開示の実施形態における平均粒度(d50)は、Sympatec社製の粒度分布測定装置「HELOS&RODOS」において、分散圧:4bar、測定レンジ:R2、計算モード:HRLD、の条件にて測定されたd50のことを示す。
【0043】
原料投入パイプ34には複数のバルブが設けられ、バルブの開閉によってジェットミル装置100の内部圧力が適切に維持される。ジェットミル装置100の内部に導入された被粉砕物は、ノズル管36からの不活性ガスの高速噴射によって被粉砕物同士の相互衝突や粉砕を効率的に進行させるために設置された衝突板との衝突によって細かく粉砕される。ノズル管36には、水分を不活性ガスに含めるための加湿用管が接続されている。
【0044】
R-T-B系焼結磁石用合金の粉末は活性であり、酸化しやすい。このため、ジェットミル装置100で使用される気体としては、発熱・発火の危険性の回避、不純物としての酸素含有量を低減させて磁石の高性能化を図るため、一般的には、露点が-60℃以下の乾燥した(高純度な)、窒素、アルゴン、ヘリウムなどの不活性ガスが用いられている。しかし、本開示の実施形態では、このような不活性ガスに意図的に水分を導入した加湿状態で粉砕を行う。この点の詳細については、後述する。
【0045】
ジェットミル装置100の内部で微粉砕された粉末粒子(微粉末)は上昇気流に乗って上部の排出口40からサイクロン捕集装置200の入口管20に導かれる。粉砕が不十分な粗い粒子は、中位径(d50)以上の粗粒子の分級するために設置された分級ロータにより分別され、ジェットミル装置100の内部に残り、更に衝突による粉砕処理工程を受けることになる。この粗粒子の分級については分級ロータを用いても良いし、旋回流による遠心分離を用いても良い。こうして、ジェットミル装置100に投入された被粉砕物(粗粉砕粉)は、平均粒度(中位径:d50)が2.0μm以上4.5μm以下の粒度分布を持つ微粉末に粉砕されてからサイクロン捕集装置200に移動することになる。
【0046】
サイクロン捕集装置200は、粉末を運ぶ気流から粉末を分離するために使用される。具体的には、R-T-B系焼結磁石用合金の粗粉砕粉が前段のジェットミルで粉砕され、粉砕によって生成された微粉末が、粉砕に利用された気体とともに入口管20を通って、サイクロン捕集装置200に供給される。不活性ガス(粉砕ガス)と粉砕された微粉末との混合物が高速な気流をなして、サイクロン捕集装置200に送られてくる。サイクロン捕集装置200は、これらの粉砕ガスと微粉末とを分離するために利用される。粉砕カスから分離された微粉末は、排出口40を介して粉末捕集器50で回収される。粉砕ガスは出口管30を介してバッグフィルタ装置300に供給される。バッグフィルタ装置300では非常に小さな微粒子が回収され、清浄な気体が排気口32から外部に放出される。なお、このような固気分離のために、サイクロン捕集装置200を用いず、バッグフィルタを用いることも可能であるが、フィルタの破損による微粉末の大気飛散などが環境面、安全面に与える影響が大きい。サイクロン捕集装置200によって分離された後の気体から、更にバッグフィルタを併用して微粒子を分離してもよい。
【0047】
本開示の特徴的な点は、R-T-B系焼結磁石の酸素含有量が質量比で1000ppm以上3500ppm以下の範囲になるように加湿粉砕を行う点にある。これにより粉砕による粉末粒子の劣化(窒化)と加湿による酸化の両方を抑制して高い磁気特性を得ることができる。上述したように、通常、粉砕以降の工程(主に前記微粉末の焼結体を作製する工程)によるR-T-B系焼結磁石の酸素含有量の増加は少ない(例えば、50ppm以上300ppm以下)。よって、粉砕工程によってR-T-B系焼結磁石の含有酸素量を調整することが可能である。
【0048】
具体的には、工程(2)における加湿された不活性ガスは、例えば、粗粉砕粉の1kgあたり0.5g以上6.0g以下の水分を不活性ガスに与えることによって得られる。0.5g未満であると、粉砕による粉末粒子の劣化(窒化)を抑制できず磁気特性が低下する可能性がある。一方、6.0gを超えると、加湿が強すぎるために粉末粒子の酸化が進み磁気特性が低下する可能性がある。
【0049】
粉砕室内の露点や粗粉砕粉をジェットミル装置に供給する量は、粉砕時間やジェットミル装置の大きさにも依存するが、ある好ましい実施形態において、前記不活性ガスは、粉砕時における露点が-55℃以上-30℃以下になるように加湿されている。さらにある好ましい実施形態において、粗粉砕粉をジェットミル装置に供給するレートは、35kg/時間以上180kg/時間以下である。
【0050】
不活性ガスの例は、窒素、アルゴン、ヘリウムである。なかでも、窒素は純度の高いガスが低コストで入手できるため、最も好ましい。したがって、好ましい実施形態において、不活性ガスは窒素ガスである。しかしながら、本発明者らは検討の結果、従来からの方法で窒素からなる不活性ガスを用いてジェットミル粉砕を行う場合、得られる微粉末の平均粒度が4.5μm以下になると、窒化により磁気特性の低下し始めることがわかった。特に、平均粒度が3.5μm以下になると窒化による磁気特性の低下が著しくなる場合があることが分かった。しかし、本開示の実施形態によれば、適切に調整した加湿雰囲気で粉砕を行うため、窒素ガスを不活性ガスに用いても、窒化の抑制および酸化の抑制を両立することができる。これは、粉砕室内の不活性ガスが窒素主体であっても、特定の調整された量の水分を含有するように加湿させることで、微粉砕によって現れた粒子の活性な表面を窒化されるよりも先に薄く酸化させることができるからだと考えられる。なお、微粉砕以降の工程(主に前記微粉末の焼結体を作製する工程)によるR-T-B系焼結磁石の酸素含有量の増加は質量比で50ppm以上300ppm以下であることが好ましく、さらに好ましくは、50ppm以上200ppm以下である。これらを達成するには、後述するように磁場中湿式プレスまたは不活性ガス雰囲気中による磁場中プレスを行い、得られた成形体を焼結する。微粉末を得る工程における微粉末の平均粒度は、2.0μm以上4.5μm以下である。2.0μm未満であると、微粉末の粉砕粒度が小さすぎてジェットミル粉砕時の粉砕効率の悪化を抑止できない可能性があり、4.5μmを超えると高い磁気特性を得られない可能性がある。微粉末の粉砕粒度は2.0μm以上3.5m以下であることがより好ましい。平均粒度を小さくすることにより、磁石特性を向上させることが可能になる。
【0051】
<(3)微粉末の焼結体を作製する工程の例>
好ましい実施形態において、微粉末の焼結体を作製する工程は、磁場中プレスによって前記微粉末から粉末成形体を作製する工程と、この粉末成形体を焼結する工程とを含む。磁場中プレスでは酸化抑制の観点から不活性ガス雰囲気中によるプレスまたは湿式プレスによって粉末成形体を形成する方が好ましい。特に湿式プレスは粉末成形体を構成する粒子の表面が油剤などの分散剤によって被覆され、大気中の酸素や水蒸気との接触が抑制される。このため、プレス工程の前後あるいはプレス工程中に粒子が大気によって酸化されることを防止または抑制することができる。
【0052】
磁場中湿式プレスを行う場合、微粉末に分散媒を混ぜたスラリーを用意し、湿式プレス装置の金型におけるキャビティに供給して磁場中でプレス成形する。
【0053】
・分散媒
分散媒は、その内部に合金粉末を分散させることによりスラリーを得ることができる液体である。
【0054】
本開示に用いる好ましい分散媒として鉱物油または合成油を挙げることができる。鉱物油または合成油はその種類が特定されるものではないが、常温での動粘度が10cStを超えると粘性の増大によって合金粉末相互の結合力が強まり磁場中湿式成形時の合金粉末の配向性に悪影響を与える場合がある。このため、鉱物油または合成油の常温での動粘度は10cSt以下が好ましい。また鉱物油または合成油の分留点が400℃を超えると成形体を得た後の脱油が困難となり、焼結体内の残留炭素量が多くなって磁気特性が低下する場合がある。したがって、鉱物油または合成油の分留点は400℃以下が好ましい。また、分散媒として植物油を用いてもよい。植物油は植物より抽出される油を指し、植物の種類も特定の植物に限定されるものではない。
【0055】
・スラリーの作製
得られた合金粉末と分散媒とを混合することでスラリーを得ることができる。
【0056】
合金粉末と分散媒との混合率は特に限定されないが、スラリー中の合金粉末の濃度は、質量比で、好ましくは70%以上(すなわち、70質量%以上)である。20~600cm/秒の流量において、キャビティ内部に効率的に合金粉末を供給できると共に、優れた磁気特性が得られるからである。スラリー中の合金粉末の濃度は、質量比で、好ましくは90%以下である。合金粉末と分散媒との混合方法は特に限定されない。合金粉末と分散媒とを別々に用意し、両者を所定量秤量して混ぜ合わせることによって製造してよい。また、粗粉砕粉をジェットミル等で乾式粉砕して合金粉末を得る際にジェットミル等の粉砕装置の合金粉末排出口に分散媒を入れた容器を配置し、粉砕して得られた合金粉末を容器内の分散媒中に直接回収しスラリーを得てもよい。この場合、容器内も窒素ガスおよび/またはアルゴンガスからなる雰囲気とし、得られた合金粉末を大気に触れさせることなく直接分散媒中に回収して、スラリーとすることが好ましい。さらには、粗粉砕粉を分散媒中に保持した状態で振動ミル、ボールミルまたはアトライター等を用いて湿式粉砕し、合金粉末と分散媒とから成るスラリーを得ることも可能である。
【0057】
こうして得たスラリーを公知の湿式プレス装置で成形することにより、所定の大きさおよび形状を有する成形体を得ることができる。この成形体を焼結して焼結体を得る。
【0058】
・焼結工程
次に、成形体を焼結して希土類焼結磁石体(焼結体)を得る。
【0059】
成形体の焼結は、好ましくは、0.13Pa(10-3Torr)以下、より好ましくは0.07Pa(5.0×10-4Torr)以下の圧力下で、温度1000℃~1150℃の範囲で行なう。焼結による酸化を防止するために、雰囲気の残留ガスは、ヘリウム、アルゴンなどの不活性ガスにより置換され得る。得られた、焼結体に対しては、熱処理を行うことが好ましい。熱処理により、磁気特性を向上させることができる。熱処理温度、熱処理時間などの熱処理条件は、公知の条件を採用することができる。こうして得た希土類焼結磁石体に対しては、必要に応じて、研削・研磨工程、表面処理工程、および着磁工程が施され、最終的な希土類焼結磁石が完成する。
【0060】
ある好ましい実施形態では、本開示のR-T-B系焼結磁石の製造方法は、重希土類元素RH(RHは、Tb、Dy、Hoの少なくとも1つ)を焼結体の表面から内部に拡散する拡散工程を更に含む。重希土類元素RHを焼結体の表面から内部に拡散すると、保磁力を効率的に高めることができる。後述する実施例に示すように、本開示の加湿粉砕を行った焼結体に対して拡散工程を行うと、加湿粉砕を行わない焼結体に拡散工程を行う場合とくらべて高いHcJが得られることがわかった。拡散工程の方法は特に問わない。公知の方法を採用することができる。重希土類元素RHとしては、TbやDyが好ましい。これらを拡散したR-T-B系焼結磁は、磁石表面から磁石内部に向かってTb濃度およびDy濃度の少なくとも一方が漸減する部分を含む。すなわち、磁石表面から磁石内部にTb濃度およびDy濃度の少なくとも一方が漸減する部分をR-T-B系焼結磁石が含むということは、TbおよびDyの少なくとも一方が磁石表面から磁石内部に拡散された状態にあることを意味している。この状態は、例えば、R-T-B系焼結磁石の任意の断面における磁石表面から磁石中央付近までをエネルギー分散型X線分光方法(EDX)により線分析(ライン分析)することにより確認することができる。
【0061】
TbおよびDyの濃度は、測定部位のサイズが例えばサブミクロン程度である場合、測定部位が主相結晶粒(R14B化合物粒子)および粒界のいずれに位置するかによって異なり得る。また、測定部位が粒界に位置している場合、粒界に形成され得るTbまたはDyを含む化合物の種類および分布に応じて、TbまたはDyの濃度は局所的または微視的に変化し得る。しかし、TbおよびDyが磁石表面から磁石内部に拡散された場合、これらの元素の、磁石表面からの深さが等しい位置における濃度平均値は、磁石表面から磁石内部に向かって徐々に低下していくことは明らかである。本開示では、少なくともR-T-B系焼結磁石の磁石表面から200μmの深さまでの領域において、深さをパラメータとする関数として測定されるTbおよびDyの濃度平均値の少なくとも一方が深さの増加とともに低下していれば、このR-T-B系焼結磁石は、Tb濃度およびDy濃度の少なくとも一方が漸減する部分を含むと定義する。
【0062】
重希土類元素RHを焼結体の表面から内部に拡散する拡散工程を行った後の最終的に得られるR-T-B系焼結磁石のR含有量は32質量%以下(27質量%以上32質量%以下)が好ましい。R-T-B系焼結磁石のR含有量を32質量%以下でかつ、酸素の含有量が質量比で1000ppm以上3500ppm以下(好ましくは1000ppm以上3200ppm以下、さらに好ましくは1000ppm以上2400ppm以下、さらに好ましくは2000ppm以上2400ppm以下)とすることにより、より高い磁気特性を得ることができる。
【0063】
拡散工程を行った後の最終的に得られるR-T-B系焼結磁石におけるN(窒素)の含有量は、質量比で50ppm以上600ppm以下が好ましく、50ppm以上400ppm以下がさらに好ましく、最も好ましくは、100ppm以上300ppm以下である。また、R-T-B系焼結磁石におけるC(炭素)の含有量は、質量比で80ppm以上1500ppm以下が好ましく、80ppm以上1000ppm以下がさらに好ましい。また、拡散工程を行った後の最終的に得られるR-T-B系焼結磁石における酸酸素の含有量を[O]、炭素の含有量を[C]、窒素の含有量を[N]とするとき、以下の式1~3を満足することが好ましい。
式1:[O]>[C]>[N]、式2:[O]≧1.5×[N]、式3:[C]≧1.5×[N]
【0064】
さらに、本発明者らは上述した本開示の加湿粉砕により得られたR-T-B系焼結磁石の組織を詳細に調べた結果、R-T-B系焼結磁石における粒界相は希土類酸化物相を有し、前記希土類酸化物相は、希土類酸窒化物相を有することがわかった。そして、前記希土類酸窒化物相が特定の結晶構造を有し、かつ、酸素{O}と窒素{N}の含有量(原子%)が特定の関係を満たすことにより、高い磁気特性を得ることが出来ることがわかった。また、特に重希土類元素RHを焼結体の表面から内部に拡散する拡散工程を行う場合に効果が顕著である(拡散によるHcJ向上効果が高い)ことがわかった。なお、このような組織は、本開示の加湿粉砕によって好適に得ることができるが、必ずしもこれに限定されない。例えば、ジェットミル粉砕中における酸素や窒素の導入量を調整することにより以下に説明するR-T-B系焼結磁石を得ることが出来る。
【0065】
本開示のR-T-B系焼結磁石は、R14B化合物からなる主相と、前記主相の粒界部分に位置する粒界相とを含むR-T-B系焼結磁石であって(Rは希土類元素であり、Nd、PrおよびCeからなる群から選択される少なくとも1つを必ず含み、Tは遷移金属の少なくとも1つでありFeを必ず含む)、前記R-T-B系焼結磁石の主相であるR14B相の平均結晶粒径は、3μm以上7μm以下であり、前記R-T-B系焼結磁石は、酸素、炭素、窒素を含有し、酸素の含有量は質量比で1000ppm以上3500ppm以下であり、窒素の含有量は質量比で50ppm以上600pm以下であり、前記粒界相は、希土類酸化物相を有し、前記希土類酸化物相は、NaCl型結晶構造を有する希土類酸窒化物相を含み、前記希土類酸窒化物相におけるOの含有量(原子%)を{O}、前記希土類酸窒化物相におけるNの含有量(原子%)を{N}とするとき、{O}>1.8×{N}の関係を満たす。好ましくは、前記R-T-B系焼結磁石は、前記希土類酸窒化物相におけるCの含有量(原子%)を{C}とするとき、{C}>{N}×0.5の関係をさらに満たす。
【0066】
前記希土類酸化物相の面積に占める前記希土類酸窒化物相の面積の割合は好ましくは50%以上である。
【0067】
R-T-B系焼結磁石の主相であるR14B相の平均結晶粒径は、3μm以上7μm以下(好ましくは3μm以上5μm以下)であり、前記R-T-B系焼結磁石は、酸素、炭素、窒素を含有し、酸素の含有量は質量比で1000ppm以上3500ppm以下(好ましくは1000ppm以上2500ppm以下)であり、窒素の含有量は質量比で50ppm以上600pm以下である。これにより高い磁気特性を得ることができる。そして、前記R-T-B系焼結磁石における粒界相は希土類酸化物相を有し、前記希土類酸化物相は、NaCl型結晶構造を有する希土類酸窒化物相を含む。本発明者らは検討の結果、NaCl型結晶構造を有する希土類酸窒化物相は炭素(C)と結びつきやすいことがわかった。そのため、NaCl型結晶構造を有する希土類酸窒化物相を有することにより、主相のC量を低下させることができ、これにより高い磁気特性が得られることがわかった。また、NaCl型結晶構造を有する希土類酸窒化物相は重希土類元素(例えばTbやDy)と酸化物を作りにくいことがわかった。そのため、R-T-B系焼結磁石にTbやDyを含有する場合、粒界にNaCl型結晶構造を有する希土類酸窒化物相を有することで、より主相にTbやDyを含有させることができ、高い磁気特性を得ることができる。後述する実施例に示すように、特に重希土類元素RHを焼結体の表面から内部に拡散する拡散工程を行う場合に効果が顕著である。さらに、前記希土類酸窒化物相は、前記希土類酸窒化物相におけるOの含有量(原子%)を{O}、前記希土類酸窒化物相におけるNの含有量(原子%)を{N}とするとき、{O}>1.8×{N}の関係を満たす。このような関係を満たすことにより、R-T-B系焼結磁石における窒化が抑制されて高い磁気特性を得ることができる。また、NaCl型の希土類酸窒化物は重希土類元素と窒化物を作る。そのため、R-T-B系焼結磁石にTbやDyを含有する場合、粒界におけるNaCl型結晶構造を有する希土類酸窒化物相のOおよびNの含有量が{O}>1.8×{N}の関係を満たすことにより、重希土類元素との窒化物生成を抑制し、より主相にTbやDyを含有させることができるため高い磁気特性を得ることができる。後述する実施例に示すように、特に重希土類元素RHを焼結体の表面から内部に拡散する拡散工程を行う場合に効果が顕著である。
【0068】
また、好ましくは、前記希土類酸窒化物相におけるCの含有量(原子%)を{C}とするとき、{C}>{N}×0.5の関係や満たすことにより、主相のC量を低下させることができ、より高い磁気特性を得ることが出来る。
【0069】
また、前記希土類酸化物相の面積に占める前記希土類酸窒化物相の面積の割合は50%以上が好ましい。希土類酸化物相に占める希土類酸窒化物相が面積比率で50%以上であることにより、より磁気特性を向上させることができる。好ましくは、前記希土類酸化物相の面積に占める前記希土類酸窒化物相の面積の割合は70%以上であり、さらに好ましくは90%以上である。
【0070】
「R-T-B系焼結磁石における粒界相は希土類酸化物相を有し、前記希土類酸化物相は、NaCl型結晶構造を有する希土類酸窒化物相を含む」かどうかは、例えば、X線や中性子、電子線などの回折測定によってNaCl型結晶構造特有の回折ピークやパターンを観測することで確認できる。
【0071】
「前記希土類酸窒化物相は、前記希土類酸窒化物相におけるOの含有量(原子%)を{O}、前記希土類酸窒化物相におけるNの含有量(原子%){N}とするとき、{O}>1.8×{N}の関係を満たす」かどうかは、例えば、EDX(エネルギー分散型X線分析)やWDX(波長分散型X線分析)によって酸化物相の点、線あるいは面分析をおこなうことで確認できる。
【0072】
「前記希土類酸化物相の面積に占める前記希土類酸窒化物相の面積の割合は50%以上」かどうかは、例えば、ある視野でEDXやWDXのマッピングをおこない、市販のソフトウェアで前記希土類酸化物相を色分けした上で、さらにその中で前記希土類酸窒化物相を色分けし、各々の相の色のピクセル数をカウントすることで確認できる。
【実施例
【0073】
本開示を実施例によりさらに詳細に説明するが、本開示はそれらに限定されるものではない。
【0074】
・実施例1
およそ表1の試料No.1~13に示すR-T-B系焼結磁石の組成となるように(O、C、Nは除く)ストリップキャスト法によりR-T-B系焼結磁石用合金を作製した。得られた各合金を水素粉砕法により粗粉砕し粗粉砕粉を得た。粗粉砕粉の平均粒度を測定した。平均粒度は200μm~400μmの範囲であった。本開示において平均粒度は、小粒径側からの積算粒度分布(体積基準)が50%となる粒径(メジアン径)を意味する。平均粒度(d50)は、Sympatec社製の粒度分布測定装置「HELOS&RODOS」において、分散圧:4bar、測定レンジ:R2、計算モード:HRLD、の条件にて測定した。
【0075】
前記粗粉砕粉を図1のジェットミル装置100に投入して前記粗粉砕粉を粉砕して微粉末を得た。粉砕条件を表2に示す。表2のNo.2は、粗粉砕粉の1kgあたり1.5gの水分を不活性ガスに与えて加湿粉砕したものであり、粗粉砕粉をジェットミル装置に供給する量は、64.0kg/hである。No.1およびNo.3~13も同様に記載している(No.1は加湿せず粉砕している)。なお、本実施例では、不活性ガスとして窒素ガスを用いた。得られた微粉末の平均粒度を表2に示す。前記微粉末を窒素雰囲気中で分留点が250℃、室温での動粘度が2cStの鉱物油に浸漬してスラリーを準備した。スラリー濃度は、85質量%であった。得られたスラリーを磁界中で成形(湿式成形)し、成形体を得た。なお、成形装置には、磁界印加方向と加圧方向とが直交する、いわゆる直角磁界成形装置(横磁界成形装置)を用いた。得られた成形体を、真空中1040℃(焼結による緻密化が十分に起こる温度を選定)で4時間焼結し、焼結体を得た。焼結体の密度は7.5Mg/m以上であった。さらに焼結体に対し、800℃で2時間保持した後室温まで冷却し、次いで500℃で2時間保持した後室温まで冷却する熱処理を施して焼結体(R-T-B系焼結磁石)を得た。得られた焼結磁石の成分を求めた。Nd、Pr、B、Co、Al、Cu、Ga、Zrの含有量をICP発光分光分析法により測定した。さらに、O(酸素量)はガス融解-赤外線吸収法、N(窒素量)はガス融解-熱伝導法、C(炭素量)は燃焼-赤外線吸収法、によるガス分析装置を使用して測定した。なお、O、C、Nの含有量は質量ppmである。結果を表1に示す。焼結磁石に機械加工を施し、縦7mm、横7mm、厚み7mmの試料を作製し、B-Hトレーサによって各試料のBおよびHcJを測定した。測定結果を表3に示す。表1に示す通り、本発明例は、いずれも本開示の式1~3を満足している。また、各サンプルについて平均結晶粒径を、EBSDを用いて測定(粒子を5700~5800個程度それぞれ評価した結晶粒の円相当径の平均値)した所、4.1~4.3μmの間であった。
【0076】
【表1】
【0077】
【表2】
【0078】
【表3】
【0079】
表1および表2に示すようにNo.1~5は、C、O、N以外はほぼ同じ組成であり、ジェットミル粉砕による微粉末の平均粒度もほぼ同じである。表3に示すように、本発明例(No.2~4)はいずれも加湿粉砕していないNo.1とくらべて高い磁気特性が得られている。従来、ほぼ同じ組成、粒度であれば、酸素量が増加すると磁気特性が低下すると考えられてきた。しかし、No.1とNo.2~4に示すように、本開示のR-T-B系焼結磁石の酸素含有量の範囲であれば、逆に磁気特性が向上(HcJが向上)している。また、加湿粉砕しても本開示のR-T-B系焼結磁石の酸素の含有量の範囲からはずれるとNo.5に示すように磁気特性が低下している。また、表2に示すように平均粒径3.3μm程度に合わせて粉砕する場合、本発明例の方が加湿していない比較例(No.1)とくらべて供給レートを上げることができる、すなわち粉砕性が良い。また、表2および表3の結果から、より高い粉砕性を得るためにはR-T-B系焼結磁石の酸素含有量は1700ppm以上が好ましいことがわかる。また、表3に示すように、本発明例はいずれもBr≧1.33TかつHcJ≧1200kA/mの高い磁気特性が得られている。
【0080】
・実施例2
実施例1のNo.1~3の焼結体を準備した。前記焼結体に対して、重希土類元素RHを焼結体の表面から内部に拡散する拡散工程をおこなった。具体的には、質量比でPr80Tb10Ga7Cu3の組成となるように各元素の原料を秤量しそれらの原料を溶解して、単ロール超急冷法(メルトスピニング法)によりリボンまたはフレーク状の合金を得た。得られた合金を、アルゴン雰囲気中で粉砕した後、目開き425μmの篩を通過させて拡散合金粉末を準備した。表1のNo.1~3の焼結体を切断、研削加工し、7.2mm×7.2mm×7.2mmの立方体とした。次に、No.1~3の焼結体の全面にR-T-B系焼結磁石の100質量%に対して前記拡散合金を2.5質量%散布した。その後、50Paに制御した減圧アルゴン中で、温度で900℃、10時間の熱処理を行った後室温まで冷却を行い、さらに、50Paに制御した減圧アルゴン中で、500℃3時間の熱処理を行い拡散後のR-T-B系焼結磁石(No.20~23)を作製した。
【0081】
得られた拡散工程後のR-T-B系焼結磁石の磁気特性を実施例1と同様にして測定した。結果を表4に示す。また、拡散によるHcJの向上値を表4の△HcJに示す。表4のNo.6は、拡散後のHcJの値(1826kA/m)から拡散前の磁石No.1のHcJの値(1139kA/m)を差し引いた値である。他も同様に記載している。なお、R-T-B系焼結磁石の断面における磁石表面から磁石中央付近までをエネルギー分散型X線分光方法(EDX)により線分析(ライン分析)した所、磁石表面から磁石内部に向かってTb濃度が漸減する部分を含んでいることを確認した。
【0082】
【表4】
【0083】
表4に示すように、本開示の加湿粉砕を行った焼結体に対して拡散工程を行った本発明例(No.21およびNo.22)は、加湿粉砕を行わない焼結体に拡散工程を行った比較例(No.20)とくらべてより高い△HcJが得られている。
【0084】
表1のNo.1~4およびNo.6、7の条件で準備した微粉末について成形性を確認した。結果を表5に示す。表5に示す成形圧とは、成形体の密度が4.1g/cmに達した(ρg=4.1g/cm)時の成形圧力である。そのため、成形圧が低いほど圧縮性が良く、成形性が良いことを示している。
【0085】
【表5】
【0086】
表5に示すように、本発明例はいずれも比較例と比べて成形圧が低く、圧縮性がよく、0.20kgf/cm以下の成形圧で成形が可能であった。特に、No.4~7は、成形圧が比較例の半分以下と大幅に圧縮性が向上し、0.15kgf/cm以下の成形圧で成形が可能であった。そのため、R-T-B系焼結磁石の酸素含有量は質量比で2000ppm以上が好ましく、表3の磁気特性(BおよびHcJ)も考慮するとR-T-B系焼結磁石の酸素含有量は質量比で2000ppm以上2400ppm以下が好ましい。
【0087】
・実施例3
実施例1と同様にして、表6の試料No.23~26に示すR-T-B系焼結磁石の組成となるようにR-T-B系焼結磁石用合金を作製した。得られたR-T-B系焼結磁石用合金を実施例1と同様にして粗粉砕し、粗粉砕紛を得た。得られた粗粉砕紛を実施例1と同様にして粉砕し、微粉末を得た。粉砕条件を表7に示す。得られた微粉砕を実施例1と同様にして、成形、焼結、熱処理を行い、R-T-B系焼結磁石を得た。得られた焼結磁石の成分を実施例1と同様にして求めた。なお、O、C、Nの含有量は、質量ppmである。結果を表6に示す。表6に示すように、試料No.23と24は、O、C、N以外ほぼ同じ組成である。同様に試料No.25と26もO、C、N以外はほぼ同じ組成である。
【0088】
得られたR-T-B系焼結磁石の磁気特性測定結果を表8に示す。表8における「23℃ BcJ」は、室温(23℃)におけるBおよびHcJの値であり、「140℃ HcJ」は140℃におけるHcJの値である。これらB、HcJの値は、熱処理後のR-T-B系焼結磁石に機械加工を施し、サンプルを7mm×7mm×7mmに加工し、BHトレーサにより測定した。さらに、温度係数(β:23~140℃)を以下のようにして求めた。140℃でのHcjをHcj140と、23℃でのHcjをHcj23とするとき、温度係数=(Hcj140-Hcj23)/Hcj23/(140℃-23℃)×100%
温度係数の絶対値が小さいほど温度係数が改善されていることを示している。
【0089】
表8に示すように、本発明例は以上の1.391T以上のBと、1190KA/m以上のHcjと-0.578以下のβが得られており、ほぼ同じ組成である、No.23、24やNo.25、26をそれぞれくらべると、いずれも本発明例は温度係数が改善されている。
【0090】
【表6】
【0091】
【表7】
【0092】
【表8】
【0093】
・実施例4
実施例1と同様にして、表9の試料No.27および28に示すR-T-B系焼結磁石の組成となるようにR-T-B系焼結磁石用合金を作製した。得られたR-T-B系焼結磁石用合金を実施例1と同様にして粗粉砕し、粗粉砕紛を得た。得られた粗粉砕紛を実施例1と同様にして粉砕し、微粉末を得た。粉砕条件を表10に示す。得られた微粉砕を実施例1と同様にして、成形、焼結、熱処理を行い、R-T-B系焼結磁石を得た。得られた焼結磁石の成分を実施例1と同様にして求めた。結果を表9に示す。
【0094】
表9に示すように、試料No.27および28は、O、C、N以外ほぼ同じ組成である。なお、O、C、Nの含有量は質量ppmである。また、得られたR-T-B系焼結磁石の磁気特性測定結果を表11に示す。表11に示すように、ほぼ同じ組成である、No.27および28をくらべると、本発明例(No.28)の方が高い磁気特性を有している。
【0095】
【表9】
【0096】
【表10】
【0097】
【表11】
【0098】
No.27および28のR-T-B系焼結磁石の粒界相を観察した。
【0099】
具体的には、まず、電子線回折をおこなうことで酸化物相の結晶構造を同定した。その結果、No.27および28はいずれも結晶構造がNaCl型の酸化物相を有していることがわかった。次に、EDXおよびWDXによる点分析およびマッピングをおこなった。FeおよびNdについてはEDX、Pr、C、NおよびOについてはWDXによる分析をおこなった。酸化物相について各3点ずつ点分析をおこない、平均したものを表12に示す。表12の(A)は、希土類酸窒化物相におけるOの含有量(原子%)を{O}、希土類酸窒化物相におけるNの含有量(原子%)を{N}とするとき、{O}>1.8×{N}の関係を満たす場合は「〇 丸」と、満たさない場合は「×」と記載している。同様に(B)は、{C}>{N}×0.5を満たす場合は「〇」と、満たさない場合は「×」とそれぞれ記載している。
【0100】
また、マッピング結果をもとに本開示の希土類酸窒化物相が占める割合を算出した。まず、日本電子(株)製のソフトウェア「NMap」を用いて点分析結果に合うように各元素のマッピング強度を濃度に換算した。次に、日本電子(株)製のソフトウェア「Phase Map Maker」を用いて散布図解析をおこなった。具体的には、{O}≧10原子%の領域を酸化物相の領域として色分けし、さらにその後、式(A)、(B)を満たす領域を色分けすることで、本開示の希土類酸窒化物相とその他の酸化物相を分離した。そして、得られた画像の各色のピクセル数をカウントすることで、希土類酸化物相に占める本開示の希土類酸窒化物相の断面積を計算した。
【0101】
表12に示すように本発明例(No.28)は希土類酸化物相の面積に占める本開示の希土類酸窒化物相の面積の割合が70%であり、かつ、(A)、(B)を満足している。これに対し、比較例は、本開示の希土類酸窒化物相の面積の割合が14%であり、(A)、(B)を満足していなかった。
【0102】
【表12】
【0103】
・実施例5
さらに、試料No.27および28の焼結体に対して、重希土類元素RHを焼結体の表面から内部に拡散する拡散工程をおこなった。具体的には、質量比でNd31Pr50Tb9Ga5Cu5の組成となるように各元素の原料を秤量しそれらの原料を溶解して、アトマイズ法により拡散合金粉末を準備した。表1のNo.27および28の焼結体を切断、研削加工し、7.2mm×7.2mm×4.7mm(4.7mmの方向が成形時の磁界印加方向)の直方体とした。次に、No.27および28の焼結体の片面(7.2mm×7.2mmの面)にR-T-B系焼結磁石の100質量%に対して前記拡散合金を2質量%散布した。その後、50Paに制御した減圧アルゴン中で、温度で920℃、10時間の熱処理を行った後室温まで冷却を行い、さらに、50Paに制御した減圧アルゴン中で、450℃で3時間の熱処理を行い拡散後のR-T-B系焼結磁石(No.29および30)を作製した。なお、実施例2と同様にして、拡散後のR-T-B系焼結磁石は、磁石表面から磁石内部に向かってTb濃度が漸減する部分を含んでいることを確認した。
【0104】
得られた拡散工程後のR-T-B系焼結磁石(No.29および30)の磁気特性を実施例1と同様にして測定した。結果を表13に示す。また、拡散によるHcJの向上値を表13の△HcJに示す。
【0105】
【表13】
【0106】
表13に示すように、拡散工程を行った本発明例(No.30)は、比較例(No.29)とくらべてより高い△HcJが得られている。また、実施例4と同様にして、拡散後のR-T-B系焼結磁石の粒界相に本開示の希土類酸窒化物相を含有しているかどうか観察した所、表12(拡散前のR-T-B系焼結磁石)とほぼ同等の組成およびNaCl型の希土類酸窒化物相の面積の割合であることを確認した。
【産業上の利用可能性】
【0107】
本開示のR-T-B系焼結磁石の製造方法は、ハードディスクドライブのボイスコイルモータ(VCM)、電気自動車(EV、HV、PHV)用モータ、産業機器用モータなどの各種モータや家電製品など多種多様な用途で使用される永久磁石として利用可能である。
【符号の説明】
【0108】
100・・・ジェットミル装置、200・・・サイクロン捕集装置、300・・・バッグフィルタ装置
図1