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特許7661832収縮率推定装置、収縮率推定方法、プログラム、記録媒体、収縮率推定システムおよび押出成形品の製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2025-04-07
(45)【発行日】2025-04-15
(54)【発明の名称】収縮率推定装置、収縮率推定方法、プログラム、記録媒体、収縮率推定システムおよび押出成形品の製造方法
(51)【国際特許分類】
   B29C 48/92 20190101AFI20250408BHJP
【FI】
B29C48/92
【請求項の数】 12
(21)【出願番号】P 2021138265
(22)【出願日】2021-08-26
(65)【公開番号】P2023032253
(43)【公開日】2023-03-09
【審査請求日】2024-05-23
(73)【特許権者】
【識別番号】000005083
【氏名又は名称】株式会社プロテリアル
(74)【代理人】
【識別番号】110002066
【氏名又は名称】弁理士法人筒井国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】加賀 雅文
(72)【発明者】
【氏名】大賀 裕太
(72)【発明者】
【氏名】折内 卓矢
【審査官】岸 智章
(56)【参考文献】
【文献】特開2020-044695(JP,A)
【文献】特開平09-262887(JP,A)
【文献】特開2021-024123(JP,A)
【文献】特開昭61-228928(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B29C 48/92
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
押出機に備わるモータのトルク電流と前記押出機から押し出される樹脂を構成材料として含む押出成形品の収縮率とを関係付けた関係式であって、定数パラメータを含む前記関係式に基づいて、前記収縮率を推定する収縮率推定部と、
前記収縮率推定部で推定された前記収縮率が所定値よりも大きい場合、前記定数パラメータの値を前記収縮率の値が前記所定値以下となる第1値に変更する数値変更部、または前記収縮率推定部で推定された前記収縮率が所定値以上となる場合、前記定数パラメータの値を前記収縮率の値が前記所定値よりも小さくなる第1値に変更する数値変更部と、
を備える、収縮率推定装置。
【請求項2】
請求項1に記載の収縮率推定装置において、
前記数値変更部は、前記定数パラメータの値と前記収縮率の値との関係を示すデータ群に基づいて、前記定数パラメータの値が前記第1値となるように変更する、収縮率推定装置。
【請求項3】
請求項1に記載の収縮率推定装置において、
前記数値変更部は、前記関係式に基づいて、前記定数パラメータの値が前記第1値となるように変更する、収縮率推定装置。
【請求項4】
請求項1に記載の収縮率推定装置において、
前記収縮率推定部は、以下に示す数式1からなる前記関係式に基づいて、前記押出成形品の前記収縮率を推定する、収縮率推定装置。
【数9】
ここで、
t:時間
ε(t):収縮率
:定数
τ(t):トルク電流
:定数
α:温度係数
T:樹脂の温度
dγ/dt:歪み速度
n:粘度指数
C:定数
【請求項5】
請求項4に記載の収縮率推定装置において、
前記歪み速度は、以下に示す数式2で表される、収縮率推定装置。
【数10】
ここで、
dγ/dt:歪み速度
:ダイの出口での溶融樹脂の平均流速
:線速
L:ダイの出口から水槽までの距離(引落距離)
【請求項6】
請求項5に記載の収縮率推定装置において、
前記定数パラメータは、前記数式2に含まれるLである、収縮率推定装置。
【請求項7】
押出機に備わるモータのトルク電流と前記押出機から押し出される樹脂を構成材料として含む押出成形品の収縮率とを関係付けた関係式であって、定数パラメータを含む前記関係式に基づいて、前記収縮率を推定する収縮率推定工程と、
前記収縮率推定工程で推定された前記収縮率が所定値よりも大きい場合、前記定数パラメータの値を前記収縮率の値が前記所定値以下となる第1値に変更する数値変更工程、または前記収縮率推定部で推定された前記収縮率が所定値以上となる場合、前記定数パラメータの値を前記収縮率の値が前記所定値よりも小さくなる第1値に変更する数値変更工程と、
を備える、収縮率推定方法。
【請求項8】
押出機から押し出される樹脂を構成材料として含む押出成形品の収縮率を推定する処理をコンピュータに実行させるプログラムであって、
前記押出機に備わるモータのトルク電流と前記収縮率とを関係付けた関係式であって、定数パラメータを含む前記関係式に基づいて、前記収縮率を推定する収縮率推定処理と、
前記収縮率推定処理で推定された前記収縮率が所定値よりも大きい場合、前記定数パラメータの値を前記収縮率の値が前記所定値以下となる第1値に変更する数値変更処理、または前記収縮率推定部で推定された前記収縮率が所定値以上となる場合、前記定数パラメータの値を前記収縮率の値が前記所定値よりも小さくなる第1値に変更する数値変更処理と、
を備える、プログラム。
【請求項9】
請求項8に記載のプログラムを記録したコンピュータ読み取り可能な記録媒体。
【請求項10】
樹脂を押し出す押出機と、
前記押出機から押し出された前記樹脂を冷却する水槽と、
前記押出機と前記水槽との間の引落距離を調整可能な距離調整部と、
前記樹脂を構成材料として含む押出成形品の収縮率を推定する収縮率推定装置と、
を備える、収縮率推定システムであって、
前記収縮率推定装置は、
前記押出機に備わるモータのトルク電流と前記押出成形品の前記収縮率とを関係付けた関係式であって、前記距離を定数パラメータとして含む前記関係式に基づいて、前記収縮率を推定する収縮率推定部と、
前記収縮率推定部で推定された前記収縮率が所定値よりも大きい場合、前記引落距離の値を前記収縮率の値が前記所定値以下となる第1値に変更する距離値変更部、または前記収縮率推定部で推定された前記収縮率が所定値以上となる場合、前記引落距離の値を前記収縮率の値が前記所定値よりも小さくなる第1値に変更する距離値変更部と、
を有し、
前記距離調整部は、前記引落距離が前記距離値変更部で変更された前記第1値となるように前記水槽の位置を調整する、収縮率推定システム。
【請求項11】
押出機から押し出される樹脂を構成材料として含む押出成形品の製造方法であって、
前記押出機に備わるモータのトルク電流と前記押出成形品の収縮率とを関係付けた関係式であって、前記押出成形品を製造する押出成形システムの構成を規定する構成パラメータまたは前記押出機での押出条件を規定する条件パラメータの一部を定数パラメータとして含む前記関係式に基づいて、前記収縮率を推定する収縮率推定工程と、
前記収縮率推定工程で推定された前記収縮率が所定値よりも大きい場合、前記定数パラメータの値を前記収縮率の値が前記所定値以下となる第1値に変更する数値変更工程、または前記収縮率推定部で推定された前記収縮率が所定値以上となる場合、前記定数パラメータの値を前記収縮率の値が前記所定値よりも小さくなる第1値に変更する数値変更工程と、
前記定数パラメータが前記第1値に変更されたことを前記押出成形システムに反映させるために、前記構成パラメータまたは前記条件パラメータを変更する工程と、
前記構成パラメータまたは前記条件パラメータが変更された後の押出成形システムで前記樹脂を押出成形する成形工程と、
を備える、押出成形品の製造方法。
【請求項12】
請求項11に記載の押出成形品の製造方法において、
前記押出成形システムは、
前記押出機と、
前記押出機から押し出された前記樹脂を冷却する水槽と、
前記押出機と前記水槽との間の引落距離を調整可能な距離調整部と、
前記押出成形品の収縮率を推定する収縮率推定装置と、
を含み、
前記定数パラメータは、前記構成パラメータの1つである前記引落距離を含み、
前記収縮率推定工程は、前記収縮率推定装置で実施され、
前記定数値変更工程は、前記収縮率推定装置で実施され、
前記構成パラメータまたは前記条件パラメータを変更する工程は、前記距離調整部で実施される、押出成形品の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、押出成形品の収縮率を推定する収縮率推定技術に関する。
【背景技術】
【0002】
特開2020-44695号公報(特許文献1)には、ゴム押出機の回転しているスクリュに生じるトルクを検出して、この検出したトルクデータに基づいて、ゴム材料の粘度を推定する技術が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2020-44695号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
例えば、代表的な押出成形品であるケーブルは、絶縁性を確保するために導線を樹脂で被覆した構造を有しており、導線を被覆する樹脂は、例えば、押出成形技術によって形成される。その後、押出成形技術によって形成された樹脂に対して、アニール処理が行われるが、アニール処理後にケーブルが収縮することが知られている。例えば、ケーブルの長手方向に樹脂が収縮すると、ケーブルの外径が太くなる外径変動が生じたり、ケーブルの端部から導線(心線)が露出する不具合が生じるおそれがある。このことから、ケーブルの収縮率を小さくすることが望まれている。
【0005】
この点に関し、現状では、押出機から押し出される樹脂を構成材料として含む押出成形品の収縮率(アニール処理後の寸法)を押出時に把握できていない。このことから、アニール処理後に不良が発生して、製造歩留まりの低下やリードタイムの増加を招いている。したがって、押出成形品の生産性を向上する観点から、押出時に収縮率を推定することができる技術が望まれている。
【0006】
そして、例えば、押出時での収縮率の推定が可能となった場合においては、さらに、推定された収縮率に基づいて、収縮率が所定値以下となるように押出成形品の製造工程を修正することができる技術が望まれる。なぜなら、収縮率が所定値以下となるように押出成形品の製造工程を修正することができれば、収縮率が所定値よりも大きな押出成形品の作り込みが抑制される結果、品質に優れた押出成形品の生産性を向上できるからである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
一実施の形態における収縮率推定装置は、押出機に備わるモータのトルク電流と押出機から押し出される樹脂を構成材料として含む押出成形品の収縮率とを関係付けた関係式であって、定数パラメータを含む関係式に基づいて、収縮率を推定する収縮率推定部と、収縮率推定部で推定された収縮率が所定値よりも大きい場合、定数パラメータの値を収縮率の値が所定値以下となる第1値に変更する数値変更部、または収縮率推定部で推定された収縮率が所定値以上となる場合、定数パラメータの値を収縮率の値が所定値よりも小さくなる第1値に変更する数値変更部と、を備える。
【0008】
一実施の形態における収縮率推定方法は、押出機に備わるモータのトルク電流と押出機から押し出される樹脂を構成材料として含む押出成形品の収縮率とを関係付けた関係式であって、定数パラメータを含む関係式に基づいて、収縮率を推定する収縮率推定工程と、収縮率推定工程で推定された収縮率が所定値よりも大きい場合、定数パラメータの値を収縮率の値が所定値以下となる第1値に変更する数値変更工程、または収縮率推定部で推定された収縮率が所定値以上となる場合、定数パラメータの値を収縮率の値が所定値よりも小さくなる第1値に変更する数値変更工程と、を備える。
【0009】
この収縮率推定方法は、プログラムを用いて、押出成形品の収縮率を推定する処理をコンピュータに実行させることにより実現できる。例えば、このプログラムは、押出機に備わるモータのトルク電流と収縮率とを関係付けた関係式であって、定数パラメータを含む関係式に基づいて、収縮率を推定する収縮率推定処理と、収縮率推定処理で推定された収縮率が所定値よりも大きい場合、定数パラメータの値を収縮率の値が所定値以下となる第1値に変更する数値変更処理、または収縮率推定部で推定された収縮率が所定値以上となる場合、定数パラメータの値を収縮率の値が所定値よりも小さくなる第1値に変更する数値変更処理と、を備える。一実施の形態におけるプログラムは、例えば、コンピュータ読み取り可能な記録媒体に記録することができる。
【0010】
一実施の形態における収縮率推定システムは、樹脂を押し出す押出機と、押出機から押し出された樹脂を冷却する水槽と、押出機と水槽との間の引落距離を調整可能な距離調整部と、押出成形品の収縮率を推定する収縮率推定装置と、を備える。
【0011】
ここで、収縮率推定装置は、押出機に備わるモータのトルク電流と押出成形品の収縮率とを関係付けた関係式であって、距離を定数パラメータとして含む関係式に基づいて、収縮率を推定する収縮率推定部と、収縮率推定部で推定された収縮率が所定値よりも大きい場合、引落距離の値を収縮率の値が所定値以下となる第1値に変更する距離値変更部、または収縮率推定部で推定された収縮率が所定値以上となる場合、引落距離の値を収縮率の値が所定値よりも小さくなる第1値に変更する距離値変更部と、を有する。そして、距離調整部は、引落距離が距離値変更部で変更された第1値となるように水槽の位置を調整する。
【0012】
一実施の形態における押出成形品の製造方法は、押出機に備わるモータのトルク電流と押出成形品の収縮率とを関係付けた関係式であって、押出成形品を製造する押出成形システムの構成を規定する構成パラメータまたは押出機での押出条件を規定する条件パラメータの一部を定数パラメータとして含む関係式に基づいて、収縮率を推定する収縮率推定工程と、収縮率推定工程で推定された収縮率が所定値よりも大きい場合、定数パラメータの値を収縮率の値が所定値以下となる第1値に変更する数値変更工程、または収縮率推定部で推定された収縮率が所定値以上となる場合、定数パラメータの値を収縮率の値が所定値よりも小さくなる第1値に変更する数値変更工程と、定数パラメータが第1値に変更されたことを押出成形システムに反映させるために、構成パラメータまたは条件パラメータを変更する工程と、構成パラメータまたは条件パラメータが変更された後の押出成形システムで樹脂を押出成形する成形工程と、を備える。
【発明の効果】
【0013】
一実施の形態によれば、品質に優れた押出成形品を製造することができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
図1】導線の外周を樹脂で被覆する押出成形工程を説明する模式図である。
図2】ダイから押し出された樹脂で導線を被覆する様子を示す模式図である。
図3】樹脂の温度を測定した測定結果(実験データ)を示すグラフである。
図4】実験データに基づき算出された粘度の時間依存性(黒で表示)と、押出機から出力されるトルク電流の時間依存性(グレーで表示)とを合わせて示すグラフである。
図5】「トルク電流」と押出成形品の収縮率との間に相関関係が存在することの妥当性を説明する図である。
図6】「トルク電流」と収縮率との相関関係の定式化を行う手順を示す図である。
図7】「歪み速度」を説明する模式図である。
図8】実測データをプロットしたグラフである。
図9】発展思想を説明するためのフローチャートである。
図10】収縮率推定システムの構成を示す模式図である。
図11】収縮率推定装置のハードウェア構成の一例を示す図である。
図12】「引落距離」と収縮率との関係性を示すグラフである。
図13】収縮率推定装置の機能構成を示す機能ブロック図である。
図14】収縮率推定装置の動作を説明するフローチャートである。
図15】押出成形品の製造工程を示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0015】
実施の形態を説明するための全図において、同一の部材には原則として同一の符号を付し、その繰り返しの説明は省略する。なお、図面をわかりやすくするために平面図であってもハッチングを付す場合がある。
【0016】
<ケーブルの製造方法>
本実施の形態では、導線を樹脂で被覆するケーブルの製造方法の中で、押出成形技術を使用して導線の外周を樹脂で被覆する工程について説明する。
【0017】
図1は、導線の外周を樹脂で被覆する押出成形工程を説明する模式図である。
【0018】
図1において、被覆材料の原料となる原料ペレット10を押出機11に投入して混練すると、クロスヘッド12を介してダイ13から溶融した樹脂が押し出される。押し出された樹脂は、走行ラインに沿って移動する導線14の表面に被覆される。そして、導線14の表面に被覆された樹脂は、ダイ13から押し出された直後から空冷された後、水槽15で水冷される。このようにして、ダイ13から押し出された樹脂は、空冷および水冷による冷却過程で固化する。ここで、導線14は、銅の撚線などから構成される。また、原料ペレット(プラスチック材料)10は、熱可塑性ポリウレタン樹脂などから構成される。
【0019】
その後、押出成形技術によって形成された樹脂を構成材料として含む押出成形品に対して、アニール処理が行われるが、アニール処理後に押出成形品が収縮することが知られている。押出成形品の収縮は、押出成形品の品質に悪影響を及ぼすことから、押出成形品の収縮率を小さくすることが望ましい。
【0020】
この点に関し、例えば、押出成形品の押出成形時にリアルタイムで押出成形品の収縮率(アニール処理後の寸法)を把握することができれば、製造歩留まりの向上やリードタイムの低減を実現できると考えられる。すなわち、押出成形品の生産性を向上する観点から、リアルタイムに収縮率を推定できる技術が望まれている。
【0021】
<実施の形態における基本思想>
本実施の形態における基本思想は、押出成形品の収縮率をリアルタイムに推定するために、収縮率自体を直接推定するのではなく、収縮率と相関関係のある物理量に着目して、この物理量を推定することによって収縮率を間接的に推定する思想である。特に、収縮率と相関関係のある物理量としてリアルタイムに把握することができる物理量を見出すことができれば、この物理量に基づいて、リアルタイムに収縮率を推定できると考えられる。
【0022】
この基本思想は、例えば、以下に示す利点を有する。
【0023】
例えば、収縮率自体を高精度に推定するには、押出条件と樹脂の材料特性の両方を考慮する必要がある。しかしながら、収縮率自体を定式化する収縮率推定技術では、押出条件と樹脂の材料特性の両方を考慮して収縮率自体を定式化することが難しいだけでなく、「結晶化度」という測定が必要なパラメータも含まれる。この結果、収縮率自体を定式化する技術では、押出成形品の製造工程においてリアルタイムに導入することが困難である。
【0024】
これに対し、基本思想によれば、収縮率自体を定式化する必要はなく、収縮率と相関関係のある物理量を定式化できれば、定式化された物理量から収縮率を間接的に推定することができる。このとき、物理量の定式化において、押出条件と樹脂の材料特性の両方を考慮することが容易であるとともに、「結晶化度」という測定が必要なパラメータを含まずに定式化できれば、収縮率を高精度に推定できるとともに、押出成形品の製造工程においてリアルタイムに導入することも可能となる。つまり、収縮率と相関関係のある物理量として、リアルタイムに把握することができるとともに、押出条件と材料特性を考慮した定式化が実現できる物理量が見出されれば、収縮率を高精度に推定できるとともに、押出成形品の製造工程においてリアルタイムに導入することも可能となる。
【0025】
そこで、本発明者は、このような物理量を見出すために鋭意検討した結果、「トルク電流」という物理量に着目したので、以下では、「トルク電流」について説明する。
【0026】
<「トルク電流」>
押出成形工程では、押出機が使用される。押出機では、被覆材料の原料となる原料ペレットを回転するスクリュで混練する。そして、混練された溶融樹脂をダイの出口から押し出すことによって、導線の外周を樹脂で被覆する。ここで、スクリュは、押出機に備わるモータによって回転される。このとき、スクリュを回転させるモータに流れる負荷電流が「トルク電流」である。本発明者は、この「トルク電流」が押出成形品の収縮率と相関関係のある物理量であることを新規に見出している。特に、「トルク電流」は、樹脂を混練するスクリュを回転させるモータに流れる電流であり、押出機においては、この「トルク電流」を常時監視することにより、スクリュの回転異常を検出できるように構成されている。このことから、「トルク電流」は、押出成形工程においてリアルタイムに把握できる物理量である。したがって、「トルク電流」が押出成形品の収縮率と相関関係があれば、「トルク電流」からリアルタイムに押出成形品の収縮率を推定することが可能となる。
【0027】
ここで、「トルク電流」と押出成形品の収縮率との間に相関関係があることは明らかではない。そこで、以下では、まず、「トルク電流」と押出成形品の収縮率との間に相関関係が存在することを定性的に説明する。
【0028】
<相関関係の定性的理解>
<<「引落応力」の説明>>
「トルク電流」と押出成形品の収縮率との間に相関関係が存在することを説明するためには、「引落応力」が重要な役割を有する。このため、「引落応力」について説明する。
【0029】
図2は、ダイから押し出された樹脂で導線を被覆する様子を示す模式図である。
【0030】
図2において、ダイ13の出口から押し出された溶融樹脂20Rは、一定の線速で移動する導線14の表面に被覆される。そして、導線14の表面に被覆された溶融樹脂20Rは、水槽15で冷却されて結晶化する。このとき、図2に示すように、ダイ13の出口から押し出された溶融樹脂20Rは、走行ラインに沿って移動する導線14に引っ張られる。この結果、ダイ13の出口から押し出されてから導線14に被覆されるまでに溶融樹脂20Rに斜め方向に加わる応力が「引落応力σ」である。
【0031】
本発明者は、この「引落応力」が押出成形品の収縮率と相関関係を有していると推測している。この点に関し、本発明者が「引落応力」と収縮率との間に相関関係があると推測するに至った理由について説明する。本発明者が「引落応力」と収縮率との間に相関関係があると推測したのは、以下に示す収縮メカニズムを把握した結果である。
【0032】
そこで、本発明者が把握した収縮メカニズムについて説明する。
【0033】
押出成形技術では、ダイから押し出された溶融樹脂を延伸させて所望の寸法の製品(押出成形品)を製造することが行われる。このとき、押し出された溶融樹脂に加わる「引落応力」により、溶融樹脂の構成材料である高分子の高分子鎖が伸長し、高分子鎖が伸長した状態で溶融樹脂が水冷される。その後、アニール処理によって再び高温状態に曝されたとき、樹脂に加わっている「引落応力」が解消される結果、樹脂に収縮が発生する。以上のようなメカニズムによって樹脂に収縮が発生する。したがって、このメカニズムによると、「引落応力」が樹脂を構成材料として含む押出成形品の収縮の一因となっていることがわかる。このことを考慮して、本発明者は、「引落応力」と収縮率との間に相関関係があると推測するに至ったのである。
【0034】
<<「引落応力」と粘度との関係>>
次に、「引落応力」は、粘度と相関関係があることを説明する。上述したメカニズムによると、押し出された溶融樹脂に加わる「引落応力」により、溶融樹脂の構成材料である高分子の高分子鎖が伸長する。したがって、「引落応力」は、樹脂の材料特性に影響を受けると考えることができる。特に、「引落応力」は、樹脂の流動性に大きく影響を受けると考えられることから、「引落応力」は、樹脂の流動性を表す粘度と相関関係があると推測される。例えば、定性的に粘度が大きくなると「引落応力」も大きくなると理解されることから、「引落応力」と粘度との間に相関関係が存在すると推測することは妥当である。
【0035】
<<粘度と「トルク電流」との関係>>
続いて、粘度は、「トルク電流」と相関関係があることを説明する。例えば、樹脂の混練は、スクリュをモータで回転させることにより行われる。このとき、樹脂の粘度が大きいと、この樹脂を混練するためにスクリュを回転させるエネルギーは大きくなる。このことは、スクリュを回転させるモータに大きな負荷がかかることを意味し、これによって、モータを回転させるための「トルク電流」は大きくなる。一方、樹脂の粘度が小さいと、この樹脂を混練するためにモータにかかる負荷は小さくなる。このことは、「トルク電流」が小さくなることを意味する。したがって、粘度と「トルク電流」との間に相関関係が存在することは妥当であると考えることができる。
【0036】
以下では、粘度と「トルク電流」との間に相関関係があることを示す実験結果について説明する。まず、粘度を算出する。具体的には、粘度は、後述する(数式I)で表すことができることから、この(数式I)に基づいて粘度を算出することができる。例えば、実験に使用した樹脂および押出機の押出条件に基づき、(数式I)に含まれる「粘度定数η」は、9.11×1011(Pa・s)であり、「温度係数α」は、8.42×10(1/℃)であり、「粘度指数n」は、0.225である。
【0037】
ここで、押出機から外部に押し出されて引き延ばされる樹脂の粘度の場合は、(数式I)に含まれる(dγ/dt)は、「歪み速度」が使用される。これに対し、押出機の内部で混練されている樹脂の粘度の場合は、(数式I)に含まれる(dγ/dt)は、「せん断速度」が使用される。
【0038】
そして、「せん断速度」は、押出機の内部では一定であると仮定して定数とみなすと、(数式I)に基づいて、樹脂の温度Tから粘度ηを算出することができる。
【0039】
そこで、押出機から押し出される樹脂の温度を測定する。具体的には、押出機の先端部に開けた穴に熱電対を挿入して樹脂の温度を測定した。図3は、樹脂の温度を測定した測定結果(実験データ)を示すグラフである。
【0040】
続いて、(数式I)に図3に示す実験データを代入することにより粘度を算出する。図4は、実験データに基づき算出された粘度の時間依存性(黒で表示)と、押出機から出力されるトルク電流の時間依存性(グレーで表示)とを合わせて示すグラフである。
【0041】
図4に示すように、丸印で囲んだピーク位置に着目すると、粘度計算値とトルク電流値との間に相関関係があることが読み取れる。以上の実験結果からも、粘度と「トルク電流」との間に相関関係が存在することは妥当であると考えられる。
【0042】
以上のことをまとめると、図5に示すようになる。図5は、「トルク電流」と押出成形品の収縮率との間に相関関係が存在することの妥当性を説明する図である。図5において、上述した定性的な説明より、まず、「引落応力」と収縮率との間には、相関関係(第1相関関係)があることが推測される。そして、「引落応力」と粘度との間にも相関関係(第2相関関係)が存在することが推測されるとともに、粘度と「トルク電流」との間にも相関関係(第3相関関係)が存在することが推測される。したがって、これらの第1相関関係と第2相関関係と第3相関関係とを総合的に考慮すると、「トルク電流」と押出成形品の収縮率との間には、相関関係が存在することが推測される。すなわち、第1相関関係、第2相関関係および第3相関関係を考慮すると、「トルク電流」と収縮率とは、粘度および「引落応力」を通じて、互いに相関関係を有していると推測することができる。このようにして、「トルク電流」と押出成形品の収縮率との間には相関関係が存在することが定性的に理解される。
【0043】
<相関関係の定式化>
さらに、本発明者は、「トルク電流」と押出成形品の収縮率と相関関係についての定性的理解から一歩進んで相関関係の定式化を試みているので、この点について説明する。
【0044】
図6は、「トルク電流」と収縮率との相関関係の定式化を行う手順を示す図である。
【0045】
図6に示すように、まず、第1段階として、粘度と「トルク電流」との相関関係の定式化を行う。そして、第2段階として、「引落応力」と「トルク電流」との相関関係の定式化を行った後、第3段階として、収縮率と「トルク電流」との相関関係の定式化を行う。
【0046】
以下では、図6に示す手順にしたがって、最終的に、収縮率と「トルク電流」との相関関係を定式化できることについて説明する。
【0047】
<<第1段階:粘度と「トルク電流」との相関関係の定式化>>
一般的に、粘度は、以下に示す(数式I)で表される。
【0048】
【数1】
【0049】
ここで、
t:時間
η:粘度
η:粘度定数
α:温度係数
T:樹脂の温度
dγ/dt:歪み速度
n:粘度指数
【0050】
<<<歪み速度の説明>>>
ここで、(数式I)に含まれる「歪み速度」について説明する。
【0051】
図7は、「歪み速度」を説明する模式図である。
【0052】
図7において、ダイ13の出口の断面積が「S」で示されている。このダイ13の出口から溶融樹脂20Rが押し出される。このとき、ダイ13の出口から押し出される溶融樹脂20Rの平均流速が「v」である。ダイ13の出口から平均流速「v」で押し出された溶融樹脂20Rは、線速「v」が加わることによって引き延ばされる。ここで、図7に示される「S」は、溶融樹脂20Rで被覆された導線からなる成形物の断面積である。また、図7に示す「L」は、ダイ13の出口から水槽15までの距離(引落距離)である。
【0053】
このような構成において、「歪み速度」は、以下に示す(数式II)で表される。
【0054】
【数2】
【0055】
ここで、
dγ/dt:歪み速度
:ダイの出口での溶融樹脂の平均流速
:線速
L:ダイの出口から水槽までの距離(引落距離)
【0056】
すなわち、「歪み速度」は、平均流速「v」と線速「v」との差分をダイ13の出口から水槽15までの距離「L」で割った物理量として定義される。このように定義される「歪み速度」は、例えば、平均流速「v」と線速「v」とが等しければゼロとなる。つまり、平均流速「v」と線速「v」とが等しいということは、定性的に溶融樹脂20Rに歪みが加わらないと考えることができることから、溶融樹脂20Rの歪みに関する物理量である「歪み速度」がゼロとなることは理解できる。また、平均流速「v」と線速「v」との差分が大きくなればなるほど溶融樹脂に加わる歪みは大きくなると考えることができることから、「歪み速度」が(数式II)で表されることは妥当である。
【0057】
<<<線形性の仮定>>>
次に、上述した(数式I)で表される粘度と「トルク電流」との相関関係の定式化を行うにあたって、粘度と「トルク電流」との線形性を仮定する。この仮定は、例えば、粘度が大きくなれば、「トルク電流」も増加するという定性的理解に合致することから妥当といえる。この仮定に基づくと、粘度は、以下に示す(数式III)で表される。
【0058】
【数3】
【0059】
ここで、
t:時間
η:粘度
a:定数
τ:トルク電流
b:定数
【0060】
本発明者の検討によると、「トルク電流」を変化させたとき、ダイの出口での溶融樹脂の平均流速(v)、線速(v)、ダイの出口から水槽までの引落距離(L)、樹脂の温度(T)、温度係数(α)、粘度指数(n)は、ほぼ一定である一方、樹脂の粘度定数(η)が主に変化することを新規な知見として見出している。
【0061】
この知見に基づくと、粘度と「トルク電流」との(数式III)で表される線形性は、粘度定数(η)を以下に示す(数式IV)で表すこととほぼ等価となる。
【0062】
【数4】
【0063】
ここで、
t:時間
η:粘度定数
:定数
τ:トルク電流
:定数
【0064】
以上のようにして、粘度と「トルク電流」との相関関係を定式化できる。
【0065】
<<第2段階:「引落応力」と「トルク電流」との相関関係の定式化>>
続いて、「引落応力」と「トルク電流」との相関関係の定式化について説明する。
【0066】
「引落応力」と粘度との相関関係は、以下の(数式V)で表される。
【0067】
【数5】
【0068】
ここで、
t:時間
σ:引落応力
η:粘度
dγ/dt:歪み速度
η:粘度定数
α:温度係数
T:樹脂の温度
n:粘度指数
【0069】
例えば、「引落応力σ」を定式化した(数式V)には、「粘度η」が含まれており、「引落応力σ」∝「粘度η」の関係を表している。このように、「引落応力」を定式化した(数式V)は、樹脂の粘度という材料特性と温度と歪み速度を含む押出条件とが考慮されており、定性的に粘度が大きくなると「引落応力」も大きくなると考えられることから、(数式V)による定式化は定性的理解に合致しているといえる。
【0070】
「引落応力」を定式化した(数式V)は、以下に示す有用性を有する。
【0071】
(1)(数式V)は、樹脂の粘度という材料特性と、樹脂の温度および歪み速度という押出条件の両方を考慮した関係式となっている。これにより、材料特性だけを考慮した定式化や押出条件だけを考慮した定式化と比較して、高精度に「引落応力」を推定することができる。そして、このことは、「引落応力」と押出成形品の「収縮率」とが高い相関関係にあれば、材料特性と押出条件の両方を考慮して高精度に「収縮率」を推定できることを意味する。このことから、(数式V)による定式化の意義は大きい。
【0072】
(2)次に、「引落応力」を定式化した(数式V)には、「結晶化度」が含まれていない。なぜなら、図2に示すように、ダイ13から押し出される樹脂(例えば、樹脂の温度は、180℃~200℃)は、溶融樹脂20Rであり、この溶融樹脂20Rは、水槽15で冷却されて結晶化する。したがって、水槽15に到達する前段階では、樹脂は溶融状態にあり「結晶化度」を考慮する必要はない。すなわち、「引落応力」は、パラメータとして「結晶化度」が含まれない点で大きな意義を有する。すなわち、「引落応力」に着目して、この「引落応力」を定式化した(数式V)には、「結晶化度」という測定が必要なパラメータが含まれないことから、押出成形品の製造工程においてリアルタイムに容易に導入することが可能となる点で大きな意義を有しているといえる。
【0073】
次に、「引落応力」を表す(数式V)に含まれる粘度定数(η)に対して、(数式IV)の関係を代入すると、以下に示す(数式VI)が得られる。
【0074】
【数6】
【0075】
ここで、
t:時間
σ:引落応力
:定数
τ:トルク電流
:定数
α:温度係数
T:樹脂の温度
dγ/dt:歪み速度
n:粘度指数
【0076】
以上のようにして、「引落応力」と「トルク電流」との相関関係を定式化できる。
【0077】
<<第3段階:収縮率と「トルク電流」との相関関係の定式化>>
次に、収縮率と「トルク電流」との相関関係の定式化について説明する。
【0078】
上述したように、収縮率は、「引落応力」と相関関係があると推定される。そこで、本発明者は、収縮率と「引落応力」との相関関係に線形性を仮定することを提案する。例えば、収縮メカニズムによると、「引落応力」によって、溶融樹脂の構成材料である高分子の高分子鎖が伸長する。この伸長の度合いは、「引落応力」が大きくなると大きくなると考えられる。そして、アニール処理によって樹脂が高温状態に曝されたとき、樹脂に加わっている「引落応力」が解消される結果、樹脂に収縮が発生することを考慮すると、伸長の度合いが大きくなるほど収縮率が大きくなると理解される。つまり、「引落応力」が大きいほど樹脂を構成材料として含む押出成形品の収縮率が大きくなると考えられることから、「引落応力」と押出成形品の収縮率の間に線形性を仮定することは理にかなっているといえる。
【0079】
そこで、この線形性を仮定すると、「引落応力」と収縮率との相関関係は、以下に示す(数式VII)で表されることになる。
【0080】
【数7】
【0081】
ここで、
t:時間
ε:収縮率
A:定数
σ:引落応力
C:定数
【0082】
そして、(数式VI)で表される「引落応力」を(数式VII)に代入すると、以下に示す(数式VIII)が得られる。
【0083】
【数8】
【0084】
ここで、
t:時間
ε:収縮率
=Aa:定数
τ:トルク電流
=Ab:定数
α:温度係数
T:樹脂の温度
dγ/dt:歪み速度
n:粘度指数
C:定数
【0085】
以上のようにして、収縮率と「トルク電流」との相関関係を定式化できる。このように定式化された(数式VIII)によれば、定数A、定数B、定数C、温度係数αおよび粘度指数nがわかっていれば、樹脂の温度(T)と歪み速度(dγ/dt)からなる押出条件と「トルク電流」に基づいて、押出成形品の収縮率(ε)を推定することができる。
【0086】
<相関関係の検証結果>
以下では、押出成形品の収縮率と「トルク電流」とが相関関係を有するという本発明者の洞察が正しいことを裏付ける検証結果について説明する。つまり、収縮率と「トルク電流」との間には、高い相関関係が存在することを裏付ける検証結果について説明する。
【0087】
収縮率と「トルク電流」との相関関係を検証するため、例えば、図1に示す構成を有する押出成形システムを使用して押出実験を実施する。具体的に、押出実験では、熱可塑性ポリウレタン樹脂を使用し、押出条件として樹脂の温度と歪み速度を採用する。
【0088】
具体的に、スクリュ外径が40mmのフルフライトスクリュを備える押出機にクロスヘッドを取り付けるとともに、穴径が2.25mmのダイを使用して、外径が1.5mmの押出成形物(ケーブル)からなるひも状サンプルを線速20m/minで製作した。このとき、クロスヘッドとダイの温度(樹脂の温度に相当)を185℃、190℃、195℃に変化させて、押出時の「トルク電流」をデータロガーで1秒ごとに記録した。これにより、樹脂の温度を変化させることにより粘度を変化させたひも状サンプルのデータを得ることができる。このようにして得られたひも状サンプルを使用して収縮率を実測した。
【0089】
具体的には、押出時にひも状サンプルを600秒ごとに採取し、それを約500mmにカットした。そして、カットされたひも状サンプルに対して、130℃で3時間のアニール処理を施した前後の長さを測定し、「{(アニール処理前の長さ)-(アニール処理後の長さ)}/(アニール処理前の長さ)×100」という計算式に基づいて収縮率を測定した。これにより、収縮率と「トルク電流」との関係を示す実測データを得ることができる。
【0090】
図8は、実測データをプロットしたグラフである。
【0091】
図8において、横軸は「トルク電流」(A)を示している一方、縦軸は収縮率(%)を示している。図8に示される〇印は樹脂の温度が185℃のデータであり、菱形印は樹脂の温度が190℃のデータであり、×印は樹脂の温度が195℃のデータである。
【0092】
図8に示すように、「トルク電流」と収縮率の相関係数(R)は、「0.89」であり、相関係数が1に近いほど相関関係が高くなることを考慮すると、「トルク電流」と収縮率の間には、高い相関関係が存在することがわかる。特に、実測データは、概ね破線で示される線形関係を有していることがわかることから、(数式VIII)による収縮率と「トルク電流」との相関関係の定式化は妥当であることがわかる。
【0093】
上述した実験結果から、「トルク電流」と収縮率との間には、高い相関関係が存在することが裏付けられており、「トルク電流」と収縮率との間に高い相関関係が存在するであろうという本発明者の推測が正しいことが確認されたことになる。したがって、(数式VIII)で定式化された「トルク電流」に基づいて、押出成形品の収縮率を推定する技術的思想は、材料特性と押出条件の両方を考慮している点と、押出成形品の製造工程においてリアルタイムに導入することが可能となる点で非常に有用であることがわかる。
【0094】
なお、例えば、押出成形品として導線を被覆する絶縁樹脂を例に挙げると、絶縁樹脂の収縮率をリアルタイムに推定できるということは、押出機から押し出される絶縁樹脂の長手方向における収縮率を逐次把握できることを意味する。
【0095】
<さらなる検討>
上述した本実施の形態における基本思想によれば、例えば、数式(VIII)に基づいて、押出成形品の製造工程においてリアルタイムに押出成形品の収縮率を推定することができる。ただし、上述した基本思想では、推定された収縮率が所定値よりも大きい場合、押出成形品の製造工程で製造される押出成形品の品質が良くないことを把握できる一方、品質の良くない押出成形品の作り込みを抑制することまでは考慮されていない。
【0096】
そこで、本発明者は、基本思想から一歩進んで、推定された収縮率が所定値よりも大きい場合であっても、品質の良くない押出成形品の作り込みを抑制して、押出成形品の製造工程で製造される押出成形品の品質を確保できる工夫を施している。
【0097】
以下では、この工夫を施した本実施の形態における発展思想について説明する。
【0098】
<実施の形態における発展思想>
本実施の形態における発展思想は、押出機に備わるモータのトルク電流と押出機から押し出される樹脂を構成材料として含む押出成形品の収縮率とを関係付けた関係式であって、定数パラメータを含む関係式に基づいて、収縮率を推定することを前提とする。そして、発展思想は、推定された収縮率が所定値(例えば、5%)よりも大きい場合、定数パラメータの値を収縮率の値が所定値以下となる第1値に変更した後、定数パラメータが第1値に変更されたことを反映した押出成形システムによって、押出成形品の製造を継続する思想である。
【0099】
これにより、発展思想によれば、推定された収縮率が所定値よりも大きい場合であっても、収縮率が所定値以下となるように押出成形システムを変更することによって、収縮率が所定値よりも大きな品質の良くない押出成形品の作り込みを抑制できる。つまり、発展思想によれば、推定された収縮率に基づいて、押出成形システムをフィードバック制御することによって、製造される押出成形品の品質を確保することができる。
【0100】
例えば、上述した関係式として、(数式VIII)を用いることができる。(数式VIII)は、変数である「トルク電流τ(t)」と「収縮率ε(t)」とを関係付けた式であるが、(数式VIII)には、「定数」と「定数パラメータ」とが含まれている。
【0101】
本明細書では、「定数」と「定数パラメータ」とを区別しているので、この点について説明する。(数式VIII)に含まれている「定数」とは、「定数A」、「定数B」、「定数C」、「温度係数α」および「粘度指数n」を意味する。一方、(数式VIII)に含まれている「定数パラメータ」とは、「樹脂の温度T」および「歪み速度dγ/dt」を意味する。さらに、「歪み速度dγ/dt」が(数式II)で表されることを考慮すると、「定数パラメータ」とは、「樹脂の温度T」、「ダイの出口での溶融樹脂の平均流速v」、「線速v」および「引落距離L」を意味している。したがって、「定数パラメータ」とは、押出成形品を製造する押出成形システムの構成を規定する構成パラメータ(例えば、「引落距離L」)または押出機での押出条件を規定する条件パラメータ(例えば、「樹脂の温度T」、「ダイの出口での溶融樹脂の平均流速v」、「線速v」)に含まれるものと考えることができる。
【0102】
以下では、本実施の形態における発展思想をフローチャートで説明する。
【0103】
図9は、発展思想を説明するためのフローチャートである。
【0104】
図9において、まず、例えば、関係式として(数式VIII)を使用することにより収縮率を推定する(S101)。具体的には、押出機に備わるモータから出力されるトルク電流をリアルタイムに入力して(数式VIII)に代入することにより、リアルタイムの収縮率を推定することができる。そして、推定された収縮率が所定値よりも大きいか否かを判断する(S102)。このとき、推定された収縮率が所定値(しきい値)よりも大きい場合、このまま押出成形品の製造を継続すると、収縮率がしきい値よりも大きい品質の良くない押出成形品が作り込まれてしまう可能性が高い。このことから、発展思想では、(数式VIII)に含まれる「定数パラメータ」の値を変更する。すなわち、発展思想では、収縮率の値が所定値以下となる「定数パラメータ」の値(第1値)を見出した後、推定に使用した(数式VIII)における「定数パラメータ」の値を推定に使用した元の値から「第1値」に変更する(S103)。
【0105】
その後、「定数パラメータ」を「第1値」に変更したことを押出成形システムに反映する(S104)。ここで、「定数パラメータ」を「第1値」に変更したことを押出成形システムに反映することは、「定数パラメータ」が押出成形システムの構成を規定する構成パラメータまたは押出機での押出条件を規定する条件パラメータに属するパラメータであることから可能である。続いて、反映後の押出成形システムで樹脂の押出成形が行われる(S105)。このことは、収縮率が所定値以下となるように変更された押出成形システムで樹脂の押出成形が行われることを意味することから、収縮率が所定値よりも大きな品質の良くない押出成形品の作り込みが抑制される。
【0106】
そして、押出成形を継続する場合は、ステップS101に戻る一方(S106)、押出成形を終了する場合は、押出成形を終了する。ここで、戻ったステップS101においては、(数式VIII)の「定数パラメータ」として、変更後の「第1値」を使用することにより、収縮率の推定が行われる。
【0107】
なお、ステップS102で、推定された収縮率が所定値(しきい値)以下である場合、このままの押出成形システムで樹脂の押出成形を行っても、収縮率が所定値よりも大きな品質の良くない押出成形品が作り込まれる可能性は低いので、現状の押出成形システムで樹脂の押出成形が行われる(S105)。そして、押出成形を継続する場合は、ステップS101に戻る一方(S106)、押出成形を終了する場合は、押出成形を終了する。
【0108】
以上のようにして、本実施の形態における発展思想によれば、推定された収縮率が所定値よりも大きい場合であっても、収縮率が所定値以下となるように押出成形システムを変更することによって、収縮率が所定値よりも大きな品質の良くない押出成形品の作り込みを抑制できる。すなわち、発展思想によれば、推定された収縮率に基づいて、押出成形システムを変更することによって、製造される押出成形品の品質を確保できる。
【0109】
<「定数パラメータ」の選択>
上述した発展思想を実現するための「定数パラメータ」としては、押出成形品を製造する押出成形システムの構成を規定する構成パラメータ(例えば、「引落距離L」)または押出機での押出条件を規定する条件パラメータ(例えば、「樹脂の温度T」、「ダイの出口での溶融樹脂の平均流速v」、「線速v」)を使用することができる。
【0110】
ただし、本発明者の検討によると、発展思想の実現を容易とする「定数パラメータ」としては、「引落距離L」が望ましい。以下では、この理由について説明する。
【0111】
例えば、「定数パラメータ」として、「樹脂の温度T」を採用した場合、推定された収縮率が所定値(しきい値)よりも大きい場合、例えば、予め取得した「樹脂の温度T」の値と「収縮率」の値との関係を示すデータ群に基づいて、収縮率の値が所定値以下となる「樹脂の温度T」の値(T1とする)を見出した後、推定に使用した(数式VIII)における「樹脂の温度T」の値を推定に使用した元の値から「T1」に変更する。そして、「樹脂の温度T」を「T1」に変更したことを押出成形システムに反映することになる。このことは、具体的には、押出機に注入されている樹脂の温度を制御することを意味する。
【0112】
しかしながら、「樹脂の温度T」の値を「T1」に変更するために、押出機に注入されている樹脂の温度を制御することは困難である。例えば、押出機に注入されている樹脂の温度の値を「T1」に設定しようとしても、設定してから実際に「樹脂の温度T」の値が「T1」に安定するまで時間を要する。この結果、樹脂の温度の値を「T1」に設定してから、実際に樹脂の温度の値が「T1」になるまでタイムラグが生じる。したがって、リアルタイムに「樹脂の温度T」を「T1」に変更したことを押出成形システムに反映することが困難となるのである。このことから、「定数パラメータ」として、「樹脂の温度T」を選択した場合、上述した発展思想を容易に具現化することが難しいのである。
【0113】
また、「定数パラメータ」として、「ダイの出口での溶融樹脂の平均流速v」を採用する場合、例えば、図7に示すダイの出口での断面積「S」は固定されていることから、「ダイの出口での溶融樹脂の平均流速v」の変更を押出成形システムに反映することは難しい。さらに、「定数パラメータ」として、「線速v」を採用する場合も、「線速v」をリアルタイムに時間変化させることは困難であると考えられる。
【0114】
一方、「定数パラメータ」として、「引落距離L」を採用する場合、「引落距離L」を変化させるためには、水槽の位置を変化させれば容易に実現することができる。
【0115】
したがって、本実施の形態における発展思想は、「定数パラメータ」として、押出成形品を製造する押出成形システムの構成を規定する構成パラメータ(例えば、「引落距離L」)または押出機での押出条件を規定する条件パラメータ(例えば、「樹脂の温度T」、「ダイの出口での溶融樹脂の平均流速v」、「線速v」)を使用することができるが、実際に発展思想を容易に具現化する観点からは、「定数パラメータ」として、「引落距離L」を採用することが望ましいことがわかる。そこで、以下では、「定数パラメータ」として「引落距離L」を採用して発展思想を具現化する収縮率推定システムについて説明する。
【0116】
<収縮率推定システムの構成>
図10は、収縮率推定システム500の構成を示す模式図である。
【0117】
図10において、収縮率推定システム500は、樹脂を押し出す押出機11と、押出機11に取り付けられたクロスヘッド12と、クロスヘッド12に取り付けられたダイ13と、走行ラインに沿って移動する導線14と、樹脂を水冷するための水槽15を有している。さらに、収縮率推定システム500は、押出機11から出力されるトルク電流を入力して収縮率を推定する収縮率推定装置100と、収縮率推定装置100からの出力に基づいて、水槽15の位置を調整する距離調整部20と、水槽15に取り付けられた駆動部30を有している。このようにして、収縮率推定システム500が構成されている。
【0118】
<収縮率推定システムの動作>
続いて、収縮率推定システム500の動作について簡単に説明する。
【0119】
図10において、被覆材料の原料となる原料ペレットを押出機11に投入して混練すると、クロスヘッド12を介してダイ13から溶融した樹脂が押し出される。押し出された樹脂は、走行ラインに沿って移動する導線14の表面に被覆される。そして、導線14の表面に被覆された樹脂は、ダイ13から押し出された直後から空冷された後、水槽15で水冷される。このとき、ダイ13の出口から水槽15までの距離が「引落距離L」である。
【0120】
ここで、押出機11からは、トルク電流の値が収縮率推定装置100に出力される。収縮率推定装置100では、押出機11から入力したトルク電流の値と(数式VIII)に示される関係式に基づいて、収縮率を推定する。そして、推定された収縮率が所定値(しきい値)よりも大きいと判断した場合、「引落距離L」を変更して、距離調整部20に出力する。距離調整部20は、変更された「引落距離L」を収縮率推定装置100から入力すると、水槽15に取り付けられた駆動部30を制御することにより、「引落距離L」が収縮率推定装置100で変更された値となるように水槽15の位置を調整する。その後、調整された水槽15の位置で押出成形品の製造が行われる。
【0121】
このようにして、本実施の形態における収縮率推定システム500が動作することによって、収縮率が所定値以下の品質に優れた押出成形品を製造することができる。
【0122】
<収縮率推定装置の構成>
次に、上述した収縮率推定システム500の構成要素である収縮率推定装置100の構成について、図面を参照しながら説明する。
【0123】
<<ハードウェア構成>>
まず、本実施の形態おける収縮率推定装置のハードウェア構成について説明する。
【0124】
図11は、本実施の形態における収縮率推定装置100のハードウェア構成の一例を示す図である。なお、図11に示す構成は、あくまでも収縮率推定装置100のハードウェア構成の一例を示すものであり、収縮率推定装置100のハードウェア構成は、図11に記載されている構成に限らず、他の構成であってもよい。
【0125】
図11において、収縮率推定装置100は、プログラムを実行するCPU(Central Processing Unit)101を備えている。このCPU101は、バス113を介して、例えば、ROM(Read Only Memory)102、RAM(Random Access Memory)103、および、ハードディスク装置112と電気的に接続されており、これらのハードウェアデバイスを制御するように構成されている。
【0126】
また、CPU101は、バス113を介して入力装置や出力装置とも接続されている。入力装置の一例としては、キーボード105、マウス106、通信ボード107、および、スキャナ111などを挙げることができる。一方、出力装置の一例としては、ディスプレイ104、通信ボード107、および、プリンタ110などを挙げることができる。さらに、CPU101は、例えば、リムーバルディスク装置108やCD/DVD-ROM装置109と接続されていてもよい。
【0127】
収縮率推定装置100は、例えば、ネットワークと接続されていてもよい。例えば、収縮率推定装置100がネットワークを介して他の外部機器と接続されている場合、収縮率推定装置100の一部を構成する通信ボード107は、LAN(ローカルエリアネットワーク)、WAN(ワイドエリアネットワーク)やインターネットに接続されている。
【0128】
RAM103は、揮発性メモリの一例であり、ROM102、リムーバルディスク装置108、CD/DVD-ROM装置109、ハードディスク装置112の記録媒体は、不揮発性メモリの一例である。これらの揮発性メモリや不揮発性メモリによって、収縮率推定装置100の記憶装置が構成される。
【0129】
ハードディスク装置112には、例えば、オペレーティングシステム(OS)201、プログラム群202、および、ファイル群203が記憶されている。プログラム群202に含まれるプログラムは、CPU101がオペレーティングシステム201を利用しながら実行する。また、RAM103には、CPU101に実行させるオペレーティングシステム201のプログラムやアプリケーションプログラムの少なくとも一部が一次的に格納されるとともに、CPU101による処理に必要な各種データが格納される。
【0130】
ROM102には、BIOS(Basic Input Output System)プログラムが記憶され、ハードディスク装置112には、ブートプログラムが記憶されている。収縮率推定装置100の起動時には、ROM102に記憶されているBIOSプログラムおよびハードディスク装置112に記憶されているブートプログラムが実行され、BIOSプログラムおよびブートプログラムにより、オペレーティングシステム201が起動される。
【0131】
プログラム群202には、収縮率推定装置100の機能を実現するプログラムが記憶されており、このプログラムは、CPU101により読み出されて実行される。また、ファイル群203には、CPU101による処理の結果を示す情報、データ、信号値、変数値やパラメータがファイルの各項目として記憶されている。
【0132】
ファイルは、ハードディスク装置112やメモリなどの記録媒体に記録される。ハードディスク装置112やメモリなどの記録媒体に記録された情報、データ、信号値、変数値やパラメータは、CPU101によりメインメモリやキャッシュメモリに読み出され、抽出・検索・参照・比較・演算・処理・編集・出力・印刷・表示に代表されるCPU101の動作に使用される。例えば、上述したCPU101の動作の間、情報、データ、信号値、変数値やパラメータは、メインメモリ、レジスタ、キャッシュメモリ、バッファメモリなどに一次的に記憶される。
【0133】
収縮率推定装置100の機能は、ROM102に記憶されたファームウェアで実現されていてもよいし、あるいは、ソフトウェアのみ、素子・デバイス・基板・配線に代表されるハードウェアのみ、ソフトウェアとハードウェアとの組み合わせ、さらには、ファームウェアとの組み合わせで実現されていてもよい。ファームウェアとソフトウェアは、プログラムとして、ハードディスク装置112、リムーバルディスク、CD-ROM、DVD-ROMなどに代表される記録媒体に記録される。プログラムは、CPU101により読み出されて実行される。すなわち、プログラムは、コンピュータを収縮率推定装置100として機能させるものである。
【0134】
このように、収縮率推定装置100は、処理装置であるCPU101、記憶装置であるハードディスク装置112やメモリ、入力装置であるキーボード105、マウス106、通信ボード107、出力装置であるディスプレイ104、プリンタ110、通信ボード107を備えるコンピュータである。そして、収縮率推定装置100の機能は、処理装置、記憶装置、入力装置、および、出力装置を利用して実現される。
【0135】
<<前提事項>>
次に、収縮率推定装置100の機能ブロック構成について説明するが、その前に前提事項について説明する。収縮率推定装置100では、押出機から入力したトルク電流の値を(数式VIII)に代入することにより収縮率を推定する。
【0136】
ここで、(数式VIII)には、「定数A」、「定数B」、「定数C」、「温度係数α」および「粘度指数n」という「定数」が含まれている。これらの5つの「定数」は、例えば、本発明者の先願(特願2020-216933号)に記載される方法によって決定されているものとする。また、(数式VIII)には、「樹脂の温度T」および「歪み速度dγ/dt」が含まれており、「歪み速度dγ/dt」が(数式II)で表されることを考慮すると、「定数パラメータ」には、「樹脂の温度T」、「ダイの出口での溶融樹脂の平均流速v」、「線速v」および「引落距離L」が含まれている。
【0137】
本実施の形態において、これらの「定数パラメータ」は、一定値が採用されている。すなわち、(数式VIII)は、トルク電流を変数として収縮率を推定する式であり、(数式VIII)に含まれる「定数パラメータ」は、一定値としている。
【0138】
ただし、「定数パラメータ」とは、押出成形品を製造する押出成形システムの構成を規定する構成パラメータまたは押出機での押出条件を規定する条件パラメータに属するパラメータである。このことを考慮すると、(数式VIII)において、「定数パラメータ」の値を変化させると、収縮率の値が変化すると考えられる。
【0139】
そこで、本実施の形態における発展思想では、「定数パラメータ」の値と収縮率の値との関係性を予め取得しておく。例えば、予め「定数パラメータ」の値と収縮率の値との関係を示すデータ群を取得して、これらのデータ群をデータベースとして保存しておく。
【0140】
具体的に、本実施の形態では、「引落距離L」の値と収縮率の値との関係性を示すデータ群が予め取得されている。例えば、図12は、「引落距離L」と収縮率との関係性を示すグラフである。本実施の形態では、この図12に示すグラフに相当するデータ群が取得されており、例えば、これらのデータ群はデータベースとして保存されているものとする。
【0141】
<<機能ブロック構成>>
図13は、収縮率推定装置100の機能構成を示す機能ブロック図である。
【0142】
収縮率推定装置100は、入力部301と、収縮率推定部302と、判定部303と、距離値変更部304と、出力部305と、データ記憶部306とを有している。
【0143】
まず、データ記憶部306には、上述した前提事項で説明したように、「定数」および「定数パラメータ」が決定された(数式VIII)が記憶されている。
【0144】
また、データ記憶部306には、例えば、図12に示すグラフに対応する「収縮率-引落距離関連データ群」も記憶されている。
【0145】
入力部301は、各種データを入力する機能を有しており、例えば、押出機から出力されるトルク電流の値を入力するように構成されている。
【0146】
収縮率推定部302は、データ記憶部306に記憶されている(数式VIII)を取得した後、入力部301に入力されたトルク電流の値を(数式VIII)に代入することにより、収縮率を推定するように構成されている。
【0147】
判定部303は、収縮率推定部302で推定された収縮率が所定値(しきい値)よりも大きいか否かを判定するように構成されている。
【0148】
距離値変更部304は、判定部303の判定結果に基づいて、(数式VIII)に含まれる「引落距離L」の値を変更するように構成されている。
【0149】
具体的に、距離値変更部304は、判定部303において、収縮率推定部302で推定された収縮率が所定値(しきい値)よりも大きいと判定された場合、データ記憶部306に記憶されている「収縮率-引落距離関連データ群」に基づいて、(数式VIII)の「引落距離L」の値を推定に使用した元の値から収縮率の値が所定値以下となる値に変更するように構成されている。
【0150】
ただし、距離値変更部304は、「収縮率-引落距離関連データ群」に基づいて、「引落距離L」を変更するように構成されるものに限定されず、例えば、(数式VIII)を使用して、「引落距離L」を変更するように構成されていてもよい。
【0151】
具体的に、距離値変更部304は、推定に使用した元の「引落距離L」の値から、(数式VIII)に対して入力部301に入力されたトルク電流の値と所定値以下の収縮率の値とを代入した結果として算出される「引落距離L」の値に変更するように構成することもできる。
【0152】
出力部305は、距離値変更部304で変更した「引落距離L」の値(「第1値」)を出力するように構成されている。
【0153】
<収縮率推定装置の動作>
本実施の形態における収縮率推定装置100は、上記のように構成されており、以下に、収縮率推定装置100の動作について、図14を参照しながら説明する。
【0154】
図14は、収縮率推定装置100の動作を説明するフローチャートである。
【0155】
図14において、入力部301は、例えば、押出機から出力されるトルク電流の値を入力する(S201)。すると、収縮率推定部302は、入力部301に入力されたトルク電流の値を(数式VIII)に代入することにより、収縮率を推定する(S202)。
【0156】
次に、判定部303は、収縮率推定部302で推定された収縮率の値が所定値よりも大きいか否かを判定する(S203)。
【0157】
判定部303において、収縮率推定部302で推定された収縮率の値が所定値よりも大きいと判定されると、距離値変更部304は、「引落距離L」の値を変更する(S204)。
【0158】
具体的な一例として、距離値変更部304は、データ記憶部306に記憶されている「収縮率-引落距離関連データ群」に基づいて、(数式VIII)の「引落距離L」の値を推定に使用した元の値から収縮率の値が所定値以下となる値(所定値よりも小さい値または所定値と等しい値)に変更する。
【0159】
具体的な他の一例として、距離値変更部304は、推定に使用した元の「引落距離L」の値から、(数式VIII)に対して入力部301に入力されたトルク電流の値と所定値以下の任意の収縮率の値とを代入した結果として算出される「引落距離L」の値に変更する。
【0160】
その後、出力部305は、変更された「引落距離L」の値を出力する(S205)。
【0161】
一方、判定部303において、収縮率推定部302で推定された収縮率の値が所定値以下であると判定されると、ステップS204およびステップS205の処理は行わない。
【0162】
続いて、収縮率推定装置100の動作を継続する場合(S206)、ステップS201の処理に戻る。一方、収縮率推定装置100の動作を終了する場合(S206)、収縮率推定装置100での処理を終了する。
【0163】
なお、図14中のS203を、「収縮率≧所定値?」に変更してもよい。すなわち、判定部303において、収縮率推定部302で推定された収縮率の値が所定値以上(所定値よりも大きい値または所定値と等しい値)か否かを判定するように変更してもよい。判定部303において、収縮率推定部302で推定された収縮率の値が所定値以上と判定されると、距離値変更部304は、収縮率の値が所定値よりも小さくなるように「引落距離L」の値を変更する。収縮率推定部302で推定された収縮率の値が所定値よりも小さいと判定されると、ステップS204およびステップS205の処理は行わない。
【0164】
以上のようにして、収縮率推定装置100を動作させることにより、本実施の形態における収縮率推定方法が実現される。
【0165】
<収縮率推定プログラム>
上述した収縮率推定装置100で実施される収縮率推定方法は、収縮率推定処理をコンピュータに実行させる収縮率推定プログラムにより実現することができる。
【0166】
例えば、図11に示すコンピュータからなる収縮率推定装置100において、ハードディスク装置112に記憶されているプログラム群202の1つとして、本実施の形態における収縮率推定プログラムを導入することができる。そして、この収縮率推定プログラムを収縮率推定装置100であるコンピュータに実行させることにより、本実施の形態における収縮率推定方法を実現することができる。
【0167】
収縮率推定処理に関するデータを作成するための各処理をコンピュータに実行させる収縮率推定プログラムは、コンピュータで読み取り可能な記録媒体に記録して頒布することができる。記録媒体には、例えば、ハードディスクやフレキシブルディスクに代表される磁気記憶媒体、CD-ROMやDVD-ROMに代表される光学記憶媒体、ROMやEEPROMなどの不揮発性メモリに代表されるハードウェアデバイスなどが含まれる。
【0168】
<押出成形品の製造方法>
例えば、これまでは、押出成形品の製造工程においてリアルタイムに導入可能な収縮率推定技術が存在しなかったことから、作業員の経験に基づいて押出条件を調整することにより収縮率を低減することが行われていた。この点に関し、本実施の形態における技術的思想によれば、作業員の経験に頼ることなく、客観的に正確な収縮率推定技術を押出成形品の製造工程(製造ライン)に導入することができる。
【0169】
さらに、本実施の形態における技術的思想によれば、推定された収縮率が所定値よりも大きい場合であっても、収縮率が所定値以下となるように押出成形システムを変更することによって、収縮率が所定値よりも大きな品質の良くない押出成形品の作り込みを抑制できる。この結果、本実施の形態によれば、樹脂材料や押出成形品(例えば、ケーブル)の廃棄量の削減および生産効率の向上を図ることができる。つまり、本実施の形態における技術的思想は、収縮率推定技術を押出成形品の製造ラインにリアルタイムに導入するとともに、推定された収縮率に基づいて押出成形システムを変更可能とする結果、押出成形品の製造歩留まりの向上できるという顕著な効果を得ることができる。
【0170】
そこで、以下では、図10に示す収縮率推定システム500(押出成形システム)を利用した押出成形品の製造工程について説明することにする。
【0171】
図15は、押出成形品の製造工程を示すフローチャートである。
【0172】
図15に示すように、まず、押出機11を動作させると、押出機11からは、押出機11に備わるモータのトルク電流の値が収縮率推定装置100に出力される(S301)。
【0173】
次に、収縮率推定装置100は、押出機11から出力されたトルク電流の値を入力すると(S401)、トルク電流の値を(数式VIII)に代入することにより、収縮率を推定する(S402)。その後、収縮率推定装置100は、推定した収縮率の値が所定値よりも大きい場合、所定値以下の収縮率が実現されるように、「引落距離L」の値が変更される(S403)。そして、収縮率推定装置100から距離調整部20に対して、変更された「引落距離L」の値が出力される(S404)。
【0174】
続いて、距離調整部20は、収縮率推定装置100から出力された「引落距離L」の値を入力すると(S501)、入力した「引落距離L」の値が実現されるように、水槽15に取り付けられた駆動部30を制御して、水槽15の位置を調整する。その後、距離調整部20で調整された水槽15の位置で押出成形品の製造が行われる。
【0175】
このようにして、本実施の形態における押出成形品の製造方法によれば、収縮率が所定値以下の品質に優れた押出成形品を製造することができる。
【0176】
なお、図15中のS403において、収縮率推定装置100は、推定した収縮率の値が所定値以上(所定値よりも大きい値または所定値と等しい値)となる場合、所定値よりも小さい収縮率が実現されるように、「引落距離L」の値を変更するようにしてもよい。この場合も同様に、収縮率推定装置100から距離調整部20に対して、変更された「引落距離L」の値が出力される。
【0177】
<実施の形態における効果>
本実施の形態における技術的思想によれば、推定された収縮率が所定値よりも大きい場合であっても、収縮率が所定値以下となるように押出成形システムを変更することによって、収縮率が所定値よりも大きな品質の良くない押出成形品の作り込みを抑制できる。すなわち、発展思想によれば、推定された収縮率に基づいて、押出成形システムを変更することによって、製造される押出成形品の品質を確保できる点で大きな技術的意義を有する。
【0178】
以上、本発明者によってなされた発明をその実施の形態に基づき具体的に説明したが、本発明は前記実施の形態に限定されるものではなく、その要旨を逸脱しない範囲で種々変更可能であることは言うまでもない。
【0179】
例えば、押出機に備わるモータの「トルク電流」は、モータの種類やスクリュの形状によって異なるが、基準となる押出条件(成形条件)における値を決めておけば、その相対値から押出成形品の収縮率の増減を把握することが可能である。このことから、押出機の基準条件さえ把握していれば、どのような種類の押出機にも前記実施の形態における技術的思想を適用することが可能である。ただし、フルフライトスクリュでは、スクリュの構造が単純であることから、前記実施の形態における技術的思想の適用が容易である。
【0180】
前記実施の形態における技術的思想は、プラスチックやゴムを含む幅広い種類の樹脂に適用可能であり、例えば、熱可塑性ポリウレタン樹脂に限定されるものではない。また、前記実施の形態における技術的思想は、チューブ押出や電線押出あるいはダイ形状に関わらず幅広い押出形態に適用可能である。さらには、前記実施の形態における技術的思想を適用した押出成形品の製造方法で製造される押出成形品(製品)は、シート状、異形、ケーブル(電線)などの形状や種類を問わない。
【符号の説明】
【0181】
10 原料ペレット
11 押出機
12 クロスヘッド
13 ダイ
14 導線
15 水槽
20 距離調整部
20R 溶融樹脂
30 駆動部
100 収縮率推定装置
101 CPU
102 ROM
103 RAM
104 ディスプレイ
105 キーボード
106 マウス
107 通信ボード
108 リムーバルディスク装置
109 CD/DVD-ROM装置
110 プリンタ
111 スキャナ
112 ハードディスク装置
201 オペレーティングシステム
202 プログラム群
203 ファイル群
301 入力部
302 収縮率推定部
303 判定部
304 距離値変更部
305 出力部
306 データ記憶部
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14
図15