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特許7662303パーフルオロポリエーテル変性ポリシラザン、表面処理剤、硬化皮膜並びに物品
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2025-04-07
(45)【発行日】2025-04-15
(54)【発明の名称】パーフルオロポリエーテル変性ポリシラザン、表面処理剤、硬化皮膜並びに物品
(51)【国際特許分類】
   C08G 77/62 20060101AFI20250408BHJP
   C09K 3/18 20060101ALI20250408BHJP
【FI】
C08G77/62
C09K3/18 102
C09K3/18 104
【請求項の数】 8
(21)【出願番号】P 2019226428
(22)【出願日】2019-12-16
(65)【公開番号】P2021095474
(43)【公開日】2021-06-24
【審査請求日】2021-12-20
【審判番号】
【審判請求日】2023-07-06
(73)【特許権者】
【識別番号】000002060
【氏名又は名称】信越化学工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002240
【氏名又は名称】弁理士法人英明国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】朝日 智之
(72)【発明者】
【氏名】酒匂 隆介
【合議体】
【審判長】近野 光知
【審判官】北澤 健一
【審判官】小出 直也
(56)【参考文献】
【文献】特開2014-105235(JP,A)
【文献】特開2018-150508(JP,A)
【文献】特開2019-70100(JP,A)
【文献】特開2015-101624(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08G77/00-77/62
C08G65/00-67/04
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記式(1)で表されるシラザン単位のみからなるパーフルオロポリエーテル変性ポリシラザン。
【化1】
(式中、Qは炭素数3~12のアルキレン基であり、p、q、r、sは0以上の整数で、p+q+r+sは4~200の整数であり、各繰り返し単位はランダムに結合されていてよい。xは1~3の整数である。)
【請求項2】
前記の式(1)において、下記式
【化2】
で表されるパーフルオロポリエーテル部分が、下記式
【化3】
(式中、p、q、r、sは上記と同じで、各繰り返し単位はランダムに結合されていてよい。)
のいずれかで示されるものである請求項1に記載のパーフルオロポリエーテル変性ポリシラザン。
【請求項3】
前記式(1)において、Qが、炭素数3又は4のアルキレン基である請求項1又は2に記載のパーフルオロポリエーテル変性ポリシラザン。
【請求項4】
波長300~400nm、放射照度770W/m2のUV光を180時間照射した後の撥水性の低下割合がUV光照射前に比べて15%以下となる硬化物を与えるものである請求項1~3のいずれか1項に記載のパーフルオロポリエーテル変性ポリシラザン。
【請求項5】
請求項1~4のいずれか1項に記載のパーフルオロポリエーテル変性ポリシラザンを含んでなる表面処理剤。
【請求項6】
請求項1~4のいずれか1項に記載のパーフルオロポリエーテル変性ポリシラザンの硬化被膜。
【請求項7】
基体と、該基体の表面に形成された、請求項に記載のパーフルオロポリエーテル変性ポリシラザンの硬化被膜とを有してなる物品。
【請求項8】
前記基体が、タッチパネル、反射防止膜、ディスプレイ用カバーガラス、強化ガラス、輸送機用ガラス、ハードコートフイルム、ディスプレイ用カバーフイルム、石英、光学部材、サニタリー製品、ガラス製食器又は建材である請求項に記載の物品。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、新規なパーフルオロポリエーテル変性ポリシラザン、該ポリシラザンを含有する表面処理剤、硬化皮膜並びに該硬化皮膜を有する物品に関する。
【背景技術】
【0002】
ポリシラザンは、Si-N-Si結合を有する化合物で非常に反応性が高い。その反応性を利用して、表面処理剤などに用いられている。また、非常に反応性が高いゆえに取り扱いが困難であり、合成中にゲル化したり、高分子化したりすることもある。
【0003】
パーフルオロポリエーテル変性ポリシラザンは、一般に、片末端官能性のパールフオロポリエーテルを原料としてシラザン化する。両末端官能性のパーフルオロポリエーテルを用いると、反応途中でゲル化してしまうことが多いためである。[(CF2O)p(CF2CF2O)q]を主鎖構造に持つパーフルオロポリエーテルは、汚れ拭取り性に優れると推定されているが、両末端官能性のものしか市販されていない。
【0004】
特開2010-43251号公報(特許文献1)には、下記式(A)
F(CxF2xO)my2y-Q-Si(NH)1.5 (A)
(式中、Qは2価の有機基、mは1以上の整数、x及びyはそれぞれ1~3の整数である。)
に示されるパーフルオロポリエーテル変性ポリシラザンが開示されており、撥水撥油性、アルカリ耐久性などに優れていることが開示されている。
【0005】
しかしながら、上記公報の実施例にて開示されたようなパーフルオロポリエーテル変性ポリシラザンであっても、表面滑り性や汚れ拭取り性などはなお満足できる性能ではない。
【0006】
特開2014-105235号公報(特許文献2)には、下記式(B)
F(CF2O)p(CF2CF2O)q(CF2CF2CF2O)r(CF2CF2CF2CF2O)s-CxF2x-Q-Si(NH)1.5 (B)
(式中、Qは2価の有機基、p、qは1以上の整数、r、sは0以上の整数で、各繰り返し単位はランダムに結合されていてよい。xは1~3の整数である。)
に示されるパーフルオロポリエーテル変性ポリシラザンが開示されており、表面滑り性、撥水撥油性、アルカリ耐久性などに優れていることが開示されている。
【0007】
しかしながら、上記公報の実施例にて開示されたようなパーフルオロポリエーテル変性ポリシラザンであっても、耐UV性はなお満足できる性能ではなかった。特に、上記パーフルオロポリエーテル変性ポリシラザン中に含まれる-C-O-C-結合は、炭素と炭素の間に酸素原子(ヘテロ原子)を有していることから、耐UV性に劣るため、これらの特性が求められる用途には不向きであった。
【0008】
産業界では、反応性が高く、耐UV性、撥水撥油性、表面滑り性、汚れ拭取り性などに優れた表面処理剤が求められている。
【0009】
なお本発明に関連する先行技術として、特開2015-101624号公報(特許文献3)では、下記式(C)に示すような、末端にヘテロ原子を介することなくアリル基をもつパーフルオロポリエーテルポリマーが提供されている。
CF3O-(CF2O)p(C2F4O)q-CF2CH2CH2CH=CH2 (C)
(p:q=47:53、p+q≒45)
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【文献】特開2010-43251号公報
【文献】特開2014-105235号公報
【文献】特開2015-101624号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
本発明は、上記事情に鑑みなされたもので、反応性が高く、耐UV性、撥水撥油性、表面滑り性、汚れ拭取り性などに優れた表面処理剤として有用な新規なパーフルオロポリエーテル変性ポリシラザン、該ポリシラザンを含有する表面処理剤、硬化皮膜並びに該硬化皮膜を有する物品を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明者らは、上記目的を達成するために鋭意検討を重ねた結果、下記式(1)で表されるシラザン単位のみからなるパーフルオロポリエーテル変性ポリシラザンが、反応性が高く、撥水撥油性、表面滑り性、汚れ拭取り性などに優れ、更には耐UV性に優れた表面処理剤として有用であることを見出し、本発明をなすに至った。
【化1】
(式中、Qは炭素数3~12の非置換2価炭化水素基、p、q、r、sは0以上の整数で、p+q+r+sは4~200の整数であり、各繰り返し単位はランダムに結合されていてよい。xは1~3の整数である。)
【0013】
本発明者らは、上記パーフルオロポリエーテル変性ポリシラザンを製造するに当たり、両末端カルボン酸のパーフルオロポリエーテルの末端を部分フッ素化し、片末端ポリマーと無官能ポリマーとの混合物を得た後、吸着処理により片末端ポリマーのみ抽出することができた。この片末端原料を用いて、片末端官能性パーフルオロポリエーテル変性ポリシラザンの合成に成功した。
【0014】
なお、上記特許文献1には、[(CF2O)p(CF2CF2O)q]を主鎖構造に持つパーフルオロポリエーテル変性シラザンについて具体的な開示はなく、また上記特許文献1は、主として
【化2】
で示される分岐状の繰り返し単位を有するシラザンを示し、その作用効果を示すものであるが、本発明の単位は、CF2Oの単位及びCF2CF2Oの単位、又はCF2CF2CF2O単位を必須とするものであり、さらに本発明において、CF2CF2O、CF2CF2CF2O及びCF2CF2CF2CF2Oの単位はいずれも直鎖状であり、本発明のシラザンは分岐状のパーフルオロエーテル単位、パーフルオロポリエーテル単位は含まない。
【0015】
従って、本発明は、下記に示すパーフルオロポリエーテル変性ポリシラザン、表面処理剤、硬化皮膜並びに物品を提供する。
〔1〕
下記式(1)で表されるシラザン単位のみからなるパーフルオロポリエーテル変性ポリシラザン。
【化3】
(式中、Qは炭素数3~12のアルキレン基であり、p、q、r、sは0以上の整数で、p+q+r+sは4~200の整数であり、各繰り返し単位はランダムに結合されていてよい。xは1~3の整数である。)
〔2〕
前記の式(1)において、下記式
【化4】
で表されるパーフルオロポリエーテル部分が、下記式
【化5】
(式中、p、q、r、sは上記と同じで、各繰り返し単位はランダムに結合されていてよい。)
のいずれかで示されるものである〔1〕に記載のパーフルオロポリエーテル変性ポリシラザン。
〔3〕
前記式(1)において、Qが炭素数3又は4のアルキレン基である〔1〕又は〔2〕に記載のパーフルオロポリエーテル変性ポリシラザン。
〔4〕
波長300~400nm、放射照度770W/m2のUV光を180時間照射した後の撥水性の低下割合がUV光照射前に比べて15%以下となる硬化物を与えるものである〔1〕~〔3〕のいずれかに記載のパーフルオロポリエーテル変性ポリシラザン。

〔1〕~〔4〕のいずれかに記載のパーフルオロポリエーテル変性ポリシラザンを含んでなる表面処理剤。

〔1〕~〔4〕のいずれかに記載のパーフルオロポリエーテル変性ポリシラザンの硬化被膜。

基体と、該基体の表面に形成された、〔〕に記載のパーフルオロポリエーテル変性ポリシラザンの硬化被膜とを有してなる物品。

前記基体が、タッチパネル、反射防止膜、ディスプレイ用カバーガラス、強化ガラス、輸送機用ガラス、ハードコートフイルム、ディスプレイ用カバーフイルム、石英、光学部材、サニタリー製品、ガラス製食器又は建材である〔〕に記載の物品。
【発明の効果】
【0016】
本発明のパーフルオロポリエーテル変性ポリシラザンであれば、フルオロオキシアルキレン基の作用によりポリマーの表面自由エネルギーが小さくなり、撥水撥油性、離型性、耐薬品性、潤滑性、耐久性、防汚性、指紋拭き取り性のより優れた硬化物を得ることができ、また、ポリマー末端にヘテロ原子を含まず、連結部位が炭素-炭素(C-C)結合のみで形成されているため、上記特性に加えて、さらに、耐UV性にも優れた硬化物を得ることができる。
本発明のパーフルオロポリエーテル変性ポリシラザンを含有してなる表面処理剤は、従来のシラザン系撥水撥油系処理剤と比較して、耐UV性、表面滑り性、汚れ拭取り性が優れる。また、従来の加水分解性撥水撥油処理剤と比較して、反応速度が速い。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下に、本発明の実施形態について説明する。
本発明のパーフルオロポリエーテル変性ポリシラザンは、下記式(1)で表される単位のみから構成されるものである。
【化6】
(式中、Qは炭素数3~12の非置換2価炭化水素基、p、q、r、sは0以上の整数で、p+q+r+sは4~200の整数であり、各繰り返し単位はランダムに結合されていてよい。xは1~3の整数である。)
【0018】
式(1)中、Qは炭素数3~12のアミド結合、エーテル結合、エステル結合及びジオルガノシリレン基からなる構造を含まない、非置換の2価炭化水素基である。より具体的には、例えば、-CH2CH2CH2-、-CH2CH2CH2CH2-等の炭素数3~12、好ましくは3又は4のアルキレン基である。
【0019】
pは0以上の整数、好ましくは1~80の整数、より好ましくは3~30の整数、qは0以上の整数、好ましくは1~80の整数、より好ましくは3~30の整数、rは0以上の整数、好ましくは0~20の整数、より好ましくは0~5の整数、sは0以上の整数、好ましくは0~20の整数、より好ましくは0~5の整数である。p+q+r+sは4以上200以下の整数、好ましくは5以上100以下の整数、より好ましくは8以上10以下の整数である。各繰り返し単位はランダムに結合されていてよい。
また、xは1~3の整数、特に1である。
【0020】
上記ポリシラザンとしては、特に下記式
【化7】
で表されるパーフルオロポリエーテル部分が、下記式のいずれかであることが好ましい。
【化8】
(式中、p、q、r、sは上記と同じ。各繰り返し単位はランダムに結合されていてよい。)
【0021】
前記式(1)で表される単位の具体的な例としては、下記式で表されるものが挙げられる。なお、各繰り返し単位はランダムに結合されていてよい。
F(CF2O)p'(C24O)q'-CF236-SiNH1.5
(式中、p’は3、q’は3;p’は9、q’は8;p’は8、q’は9;p’は13、q’は12;又はp’は12、q’は13である。)
F(CF2O)p'(C24O)q'-CF248-SiNH1.5
(式中、p’は3、q’は3;p’は9、q’は8;p’は8、q’は9;p’は13、q’は12;又はp’は12、q’は13である。)
F(CF2O)p'(C24O)q'-CF2510-SiNH1.5
(式中、p’は3、q’は3;p’は9、q’は8;p’は8、q’は9;p’は13、q’は12;又はp’は12、q’は13である。)
F(CF2O)p'(C24O)q'-CF2612-SiNH1.5
(式中、p’は3、q’は3;p’は9、q’は8;p’は8、q’は9;p’は13、q’は12;又はp’は12、q’は13である。)
F(CF2O)p'(C24O)q'-CF2714-SiNH1.5
(式中、p’は3、q’は3;p’は9、q’は8;p’は8、q’は9;p’は13、q’は12;又はp’は12、q’は13である。)
F(CF2O)p'(C24O)q'-CF2816-SiNH1.5
(式中、p’は3、q’は3;p’は9、q’は8;p’は8、q’は9;p’は13、q’は12;又はp’は12、q’は13である。)
F(CF2O)p'(C24O)q'-CF2918-SiNH1.5
(式中、p’は3、q’は3;p’は9、q’は8;p’は8、q’は9;p’は13、q’は12;又はp’は12、q’は13である。)
F(CF2O)p'(C24O)q'-CF21020-SiNH1.5
(式中、p’は3、q’は3;p’は9、q’は8;p’は8、q’は9;p’は13、q’は12;又はp’は12、q’は13である。)
F(CF2O)p'(C24O)q'-CF21122-SiNH1.5
(式中、p’は3、q’は3;p’は9、q’は8;p’は8、q’は9;p’は13、q’は12;又はp’は12、q’は13である。)
F(CF2O)p'(C24O)q'-CF21224-SiNH1.5
(式中、p’は3、q’は3;p’は9、q’は8;p’は8、q’は9;p’は13、q’は12;又はp’は12、q’は13である。)
F(C36O)r'-CF2CF236-SiNH1.5
(式中、r’は6、7又は8である。)
F(C36O)r'-CF2CF248-SiNH1.5
(式中、r’は6、7又は8である。)
F(C36O)r'-CF2CF2CF236-SiNH1.5
(式中、r’は6、7又は8である。)
F(C36O)r'-CF2CF2CF248-SiNH1.5
(式中、r’は6、7又は8である。)
F(CF2O)p'(C24O)q'(C48O)s'-CF248-SiNH1.5
(式中、p’は1、q’は4、s’は3である。)
F(CF2O)p'(C24O)q'(C48O)s'-CF2612-SiNH1.5
(式中、p’は1、q’は4、s’は3である。)
F(CF2O)p'(C24O)q'(C48O)s'-CF2CF2CF248-SiNH1.5
(式中、p’は1、q’は4、s’は3である。)
F(CF2O)p'(C24O)q'(C48O)s'-CF2CF2CF2612-SiNH1.5
(式中、p’は1、q’は4、s’は3である。)
なお、パーフルオロポリエーテル変性ポリシラザンの分子構造は、これら例示したものに限定されるものではない。
【0022】
また、本発明のパーフルオロポリエーテル変性ポリシラザンは、波長300~400nm、放射照度770W/m2のUV光を180時間照射した後の撥水性の低下割合がUV光照射前に比べて好ましくは15%以下(0~15%)、より好ましくは12%以下(0~12%)、特に好ましくは10%以下(0~10%)となる硬化物を与えるものであることが望ましい。
なお、ここでいう撥水性は、硬化被膜(硬化物)の水に対する接触角の大きさで示され、本発明のパーフルオロポリエーテル変性ポリシラザンを用いてガラス上に形成した硬化被膜について接触角計(例えば、DropMaster(協和界面科学社製))を用いて測定されるものである。また、撥水性の低下割合=(UV光照射前の硬化皮膜の撥水性(接触角)-UV光照射後の硬化皮膜の撥水性(接触角))/(UV光照射前の硬化皮膜の撥水性(接触角))×100(%)である。
【0023】
〔製造方法〕
本発明のパーフルオロポリエーテル変性ポリシラザンの製造方法としては、例えば下記工程を含む製造方法が挙げられる。
(1)両末端にカルボン酸基を有するパーフルオロポリエーテル化合物を部分フッ素化する工程、
(2)末端のカルボン酸基を変性し、反応性シリル基にシリル化する工程、
(3)反応性シリル基をシラザン化する工程
【0024】
(1)両末端にカルボン酸基を有するパーフルオロポリエーテル化合物を部分フッ素化する工程において、両末端にカルボン酸基を有するパーフルオロポリエーテル化合物としては、下記式で表されるものが挙げられる。なお、下記式中、各繰り返し単位はランダムに結合されていてよい。
HOOC-CF2O-(CF2O)p'-1(C24O)q'-CF2COOH
(式中、p’は3、q’は3である。)
HOOC-CF2O-(CF2O)p'-1(C24O)q'-CF2COOH
(式中、p’は9、q’は8である。)
HOOC-CF2O-(CF2O)p'-1(C24O)q'-CF2COOH
(式中、p’は8、q’は9である。)
HOOC-CF2O-(CF2O)p'-1(C24O)q'-CF2COOH
(式中、p’は12、q’は13である。)
HOOC-CF2O-(CF2O)p'-1(C24O)q'-CF2COOH
(式中、p’は13、q’は12である。)
HOOC-C36O-(C36O)r'-1-CF2CF2COOH
(式中、r’は6、7又は8である。)
HOOC-C36O-(C36O)r'-1-CF2CF2CF2COOH
(式中、r’は6、7又は8である。)
HOOC-CF2O-(C24O)q'(C48O)s'-CF2COOH
(式中、q’は4、s’は3である。)
HOOC-CF2O-(C24O)q'(C48O)s'-CF2CF2CF2COOH
(式中、q’は4、s’は3である。)
【0025】
両末端にカルボン酸基を有するパーフルオロポリエーテル化合物を部分フッ素化する方法は、フッ素ガスを導入することでフッ素化できる。当該反応において、供給するフッ素ガスの量を調整しフッ素化を制御することによって末端-CF3基の導入率を適宜調整することができる。末端-CF3基の導入率は、全COOH基に対して50モル%以上、より好ましくは60モル%以上、更に好ましくは70モル%以上、特に70~80モル%が好ましく、この導入率以上であると片末端にカルボン酸基を有するパーフルオロポリエーテル化合物と末端にカルボン酸基を有さないパーフルオロポリエーテル(無官能性ポリマー)との混合物となる。
【0026】
これら、混合物は、吸着処理や精留、分子蒸留で分取することができる。例えば、吸着処理としては、陰イオン交換樹脂等の酸吸着剤を使用する方法が挙げられる。該方法では、先ず、フッ素系溶剤で分散させた酸吸着剤にカルボン酸を末端に有するポリマーを吸着させる。該工程により無官能型ポリマーを取り除くことができる。その後、フッ素系溶剤と強酸で樹脂を洗い流す。該工程により強酸が陰イオン交換樹脂に吸着され、カルボン酸を末端に有するポリマーがフッ素系溶剤に溶出する。該工程において、片末端カルボン酸基含有ポリマーが溶出してくるため、片末端カルボン酸基含有ポリマーを高純度で含有する混合物を得ることができる。
【0027】
また、精留や分子蒸留では、分子末端に官能基が少ない方が温和な条件で蒸発するため、先ず無官能型ポリマーを分取し、次に片末端カルボン酸基含有ポリマーを分取することにより、片末端カルボン酸基含有ポリマーを高純度で含有する混合物を得ることができる。分子蒸留に使用する分子蒸留装置は、例えば、ポット分子蒸留装置、流下膜式分子蒸留装置、遠心式分子蒸留装置、実験遠心式分子蒸留装置等が挙げられる。処理条件は適宜選択すればよいが、好ましくは圧力10-5Pa~10-1Pa、温度は100~400℃である。吸着除去及び分子蒸留は組み合わせて行ってもよい。片末端カルボン酸基含有ポリマー及び無官能型ポリマーの混合比率は19F-NMRにより測定される-CF3基と-CF2COOH基とのモル比率により決定できる。
【0028】
(2)の工程において、上記で得られた部分フッ素化されたパーフルオロポリエーテル化合物の末端カルボン酸基を変性する。この場合、まず、該化合物のカルボン酸(-COOH)末端をヒドロキシル基とし、次いでヨウ素基とした後、末端脂肪族不飽和基を含む炭素数2~11の2価炭化水素基を導入することができる。
【0029】
該導入方法は公知の方法に従えばよい。例えば、上記非置換2価炭化水素基からなる連結基を含有するフルオロオキシアルキレン基含有ポリマーは、まず、片末端カルボン酸基含有ポリマーの混合物を、金属水素化物を用いた還元、あるいは貴金属触媒を用いた接触水素化に供することで、片末端ヒドロキシル基含有ポリマーの混合物が製造できる。次に、片末端ヒドロキシル基含有ポリマーの末端にヨウ素原子を導入し、下記式で示されるフルオロオキシメチレン基含有末端ヨージドポリマーとする。ヨウ素原子の導入は公知の方法を使用して行うことができる。
【化9】
(式中、p、q、r、s、xは上記と同じ。各繰り返し単位はランダムに結合されていてよい。)
【0030】
次に、上記式で表されるフルオロオキシメチレン基含有末端ヨージドポリマーと末端不飽和の脂肪族炭化水素基を有するトリアルキルスズ化合物とをラジカル開始剤存在下で反応させて末端脂肪族不飽和基を含む炭素数2~11の2価炭化水素基を導入することが好ましい。
【0031】
末端不飽和の脂肪族炭化水素基を有するトリアルキルスズ化合物として以下のものが使用できる。
例えば、トリブチルビニルスズ、アリルトリブチルスズ、アリルトリフェニルスズ、アリルトリメチルスズ、アリルトリエチルスズ、アリルトリプロピルスズ、アリルトリベンジルスズ、トリブチル3-ブテン-1-イルスズ、トリブチル-4-ペンテン-1-イルスズ、トリブチル-5-ヘキセン-1-イルスズ、トリブチル-6-ヘプテン-1-イルスズ、トリブチル-7-オクテン-1-イルスズ、トリブチル-8-ノネン-1-イルスズ、トリブチル-9-デセン-1-イルスズ、トリブチル-10-ウンデセン-1-イルスズなどである。
【0032】
ラジカル開始剤としては、以下のものが使用できる。
例えば、アゾビスイソブチロニトリル(AIBN)、1,1’-アゾビス(シクロヘキサンカルボニトリル)(ABCN,VAZO(登録商標))、ジ-t-ブチルペルオキシド、t-ブチルヒドロペルオキシド、過酸化ベンゾイル、メチルエチルケトンペルオキシドなどである。
【0033】
また、上記反応には溶剤を用いることができる。このとき用いる溶剤は、特に限定されないが、反応化合物がフッ素化合物である点からフッ素系溶剤を用いることが好ましい。フッ素系溶剤としては、1,3-ビストリフルオロメチルベンゼン〔ヘキサフルオロメタキシレン〕、トリフルオロメチルベンゼン、3M社から販売されているHFE系溶剤(NOVEC7100:C49OCH3、NOVEC7200:C49OC25、NOVEC7300:C25-CF(OCH3)-CF(CF32など)、同じく3M社から販売されているパーフルオロ系溶剤(PF5080、PF5070、PF5060など)などが挙げられる。
【0034】
次いで、反応性シリル基にシリル化する。上記脂肪族不飽和基末端に、公知の方法でクロロシランを作用させることで、末端にシリル基が導入される。
【0035】
最後に、(3)の工程として、片末端シリル基含有ポリマーのシリル基をシラザン化することで目的の化合物を得ることができる。公知の方法で、アンモニアガスを吹き込むこととでシラザン化することができる。
【0036】
〔表面処理剤〕
本発明においては、上記パーフルオロポリエーテル変性ポリシラザンを有効成分として表面処理剤を得ることができる。この場合、上記パーフルオロポリエーテル変性ポリシラザンの部分加水分解縮合物を用いることもできる。
【0037】
本発明の表面処理剤は、適当な溶剤で希釈して用いてもよい。このような溶剤としては、例えば、m-キシレンヘキサフロライド、ベンゾトリフロライドなどのフッ素変性芳香族炭化水素系溶剤、メチルパーフルオロブチルエーテル、エチルパーフルオロブチルエーテル、パーフルオロ(2-ブチルテトラヒドロフラン)などのフッ素変性エーテル系溶剤、パーフルオロトリブチルアミン、パーフルオロトリペンチルアミンなどのフッ素変性アルキルアミン系溶剤が挙げられる。特に、溶解性、濡れ性などの点で、m-キシレンヘキサフロライド、エチルパーフルオロブチルエーテルが好ましい。
なお、上記溶剤は、1種を単独で用いても2種以上を混合して用いてもよく、いずれにしても上記成分を均一に溶解させるものを用いることが好ましい。
【0038】
溶剤の使用量は特に制限されるものではなく、処理方法により最適濃度は異なるが、表面処理剤中の上記固形分(即ち、パーフルオロポリエーテル変性ポリシラザン)量が0.001~10質量%、特に0.01~5質量%となる量が好ましい。
【0039】
〔硬化被膜〕
このようにして得られた表面処理剤で基材や基体を表面処理する方法としては、該表面処理剤を基材や基体に刷毛塗り、ディッピング、スプレー、蒸着処理など公知の方法で塗布する方法を利用することができる。こうして得られた塗膜は室温(23±10℃、以下同じ。)で硬化して各種基材や基体の表面によく接着した硬化被膜を形成させることができる。この硬化被膜が各種基材や基体の表面によく接着するのは、シラザン結合が加水分解するときに生成するシラノール基が活性に富むものであり、これによって接着性が著しく高められるためと考えられる。
【0040】
なお、各種基材や基体に塗布された塗膜は、上記したように室温で硬化するが、塗布後に熱風処理、赤外線照射などによって加熱すれば硬化をより促進することができる。
【0041】
この場合、シラノール縮合触媒として知られている有機錫化合物(ジブチル錫ジメトキシド、ジラウリン酸ジブチル錫など)、有機チタン化合物(テトラn-ブチルチタネートなど)、有機酸(酢酸、メタンスルホン酸など)、無機酸(塩酸、硫酸など)を加えることができる。特に酢酸、テトラn-ブチルチタネート、ジラウリン酸ジブチル錫などを該表面処理剤に添加しておけば、この硬化を更に促進させることができる。
なお、縮合触媒の添加量は触媒量であり、パーフルオロポリエーテル変性ポリシラザン100質量部に対して0.001~5質量部、特に0.01~1質量部であることが好ましい。
【0042】
上記表面処理剤で処理される基材は特に制限されないが、基材としては、紙、布、金属及びその酸化物、ガラス、プラスチック、陶磁器、セラミックなど各種材質のものを用いることができる。具体的には、次のようなものが挙げられる。
・撥水撥油剤として・・・紙、布、金属、ガラス、プラスチック、セラミックなど。
・離型剤として・・・粘着テープ用、樹脂成形用金型、ロール用など。
・防汚加工剤として・・・紙、布、金属、ガラス、プラスチック、セラミックなど。
・その他:塗料添加剤、樹脂改質剤、無機質充填剤の流動性、分散性を改質のため、テープ、フイルムなどの潤滑性の向上など。
【0043】
上記各種基材あるいは物品表面に形成される硬化被膜の膜厚は、基材の種類により適宜選定される。
【0044】
〔物品〕
本発明の表面処理剤は、例えば各種物品の表面処理剤として利用することができる。即ち、本発明は、基体(即ち、物品を構成する基体)と、該基体の表面に形成された、上記パーフルオロポリエーテル変性ポリシラザンの硬化被膜とを有してなる物品を提供する。
【0045】
具体的には、下記のような物品にそれぞれの目的で表面に硬化被膜を形成することができる。例えば、スマートフォン、タブレットPC、スマートテレビ、ポータブルメディアプレイヤー、ディスプレイ広告などのタッチパネルやタッチパネル表面を覆っている反射防止膜、ディスプレイ用カバーガラス、強化ガラス、ハードコートフイルム、樹脂基板等の耐指紋コーティング、車、航空機、電車などの輸送機用窓ガラス、塗装、内装の耐指紋、撥水撥油性コーティング、石英などの光学部材の汚染防止、軽剥離コーティング、浴槽、洗面台などのサニタリー製品の撥水ないし防汚コーティング、一般産業用ガラス及びガラス製食器の汚染防止コーティング、外壁用建材などの建材の撥水、防汚コーティング、台所用建材などの建材の油汚れ防止用コーティング、自動車、電車、航空機など輸送機用のガラス(例、窓ガラス、ヘッドランプカバー等)の防汚コーティング、電話ボックスの撥水・撥油、耐候、防汚及び貼り紙防止コーティング、美術品などの撥水・撥油性、及び指紋付着防止付与のコーティング等が例示できる。これらの中でもタッチパネル、反射防止膜、ディスプレイ用カバーガラス、強化ガラス、輸送機用ガラス、ハードコートフイルム、ディスプレイ用カバーフイルム、石英、光学部材、サニタリー製品、ガラス製食器、建材に用いることが好ましい。
【実施例
【0046】
以下、実施例及び比較例を示し、本発明をより詳細に説明するが、本発明は下記実施例によって限定されるものではない。
【0047】
[実施例1]
下記式(11a)及び(11b)で示される化合物((11a)45モル%及び(11b)55モル%)からなる混合物を以下の実施例にて使用した。当該混合物は、両末端にカルボン酸基を有するパーフルオロオキシ化合物を、フッ素ガスを用いて部分フッ素化することにより製造されたものであり、フッ素化を進行させることで、両末端にカルボン酸基を有するパーフルオロオキシ化合物の末端がフッ素基に変換される。各ポリマーの含有比率(モル%)は、カルボン酸を有するポリマーを酸吸着剤に吸着させることで分取し、19F-NMRにより決定されたものである。
【0048】
【化10】
(p’=9、q’=8、q’/p’=0.89、p’+q’≒17)
【0049】
(i)反応容器に、上記式(11a)45モル%及び式(11b)55モル%よりなる混合物400gをフッ素系溶剤(PF5060 3M社製)4.0kgに溶解させた。次いで、陰イオン交換樹脂B20-HG(オルガノ社製)3.2kgを加え、20℃で3時間攪拌し、式(11a)の化合物を陰イオン交換樹脂に吸着させた。その後、PF5060で、陰イオン交換樹脂を洗浄後、PF5060 6kgと樹脂とを混合し、塩酸を適量加え、20℃で3時間攪拌した。攪拌後、30分静置したところ、2層に分かれ、下層はフッ素層、上層は塩酸と樹脂との混合層となった。フッ素層を取り出し、PF5060を留去し、生成物130gを得た。得られた生成物を19F-NMRにより測定したところ、上記式(11a)95モル%及び式(11b)5モル%よりなる混合物であった。
【0050】
(ii)前記反応で得られた混合物50gを、m-キシレンヘキサフロライド100gとテトラヒドロフラン20gの混合溶媒に溶解し、水素化ビス(2-メトキシエトキシ)アルミニウムナトリウムの40質量%トルエン溶液100gを滴下した。室温で3時間攪拌後、適量の塩酸を加え、十分に攪拌し水洗した。更に、下層を取り出し、溶剤を留去したところ、液状の生成物45gを得た。19F-NMR及び1H-NMRにより、得られた生成物は下記式(12a)95モル%及び式(12b)5モル%よりなる混合物であることを確認した。
【0051】
【化11】
(p’=9、q’=8、q’/p’=0.89、p’+q’≒17)
【0052】
(iii)反応容器に、上記工程(ii)で得られた混合物40g、ヨウ素3.4g、トリフェニルホスフィン7.1g、イミダゾール1.8gを入れて80℃で20時間攪拌した。その後、チオ硫酸ナトリウム飽和水溶液、アセトンを適量加え洗浄した。更に、下層を取り出し、溶剤を留去したところ、液状の生成物39gを得た。19F-NMR及び1H-NMRにより、得られた生成物は下記式(13a)95モル%及び式(13b)5モル%よりなる混合物であることを確認した。
【化12】
(p’=9、q’=8、q’/p’=0.89、p’+q’≒17)
【0053】
(iv)反応容器に、上記工程(iii)で得られた混合物20gとアリルトリブチルスズ1.2g、ヘキサフルオロメタキシレン20gを混合し、窒素を通気した。続いて、AIBN(アゾイソブチロニトリル)0.050gを添加し、90℃で16時間撹拌した。その後、反応生成物を室温まで冷やし、分液操作で下層を分取した。得られた下層をヘキサン20gで洗浄し、続いてアセトン20gで洗浄した。溶剤を減圧留去し、下記式(14a)で表される片末端に3-ブテニル基を有する末端不飽和の脂肪族炭化水素基変性フルオロオキシアルキレン基含有ポリマー17.5g(式(14a)の化合物と式(14b)の化合物からなる混合物)を得た。
【化13】
(p’=9、q’=8、q’/p’=0.89、p’+q’≒17)
【0054】
(v)反応容器に、上記工程(iv)を数回繰り返して得られた混合物35g、トリクロロシラン4g、塩化白金酸/ビニルシロキサン錯体のトルエン溶液0.1g(Pt単体として2.5×10-8モルを含有)を混合し、110℃で12時間熟成し、未反応物を減圧留去し、液状のシリル生成物31gを得た。
【0055】
(vi)反応容器に、上記工程(v)で得られたシリル生成物30gを入れ、m-キシレンヘキサフロライド30gに溶解させ、乾燥したアンモニアガスを導入したところ、アンモニアガスの吹込みと共に液温は上昇し、塩化アンモニウムが生成し白濁状態となった。このようにしてアンモニアガスが還流状態となるまで吹込んだのちにアンモニアガスの導入を停止し、還流下2時間攪拌を継続した。ついで窒素ガスを導入させながら3時間加熱攪拌を行い、過剰のアンモニアガスを溜去、析出した塩化アンモニウムをろ別し、ろ液からm-キシレンヘキサフロライドを減圧溜去して無色透明の液体を30g得た。19F-NMR及び1H-NMRにより、得られた液体は下記式(15a)95モル%及び式(15b)5モル%よりなる混合物(組成物1)であることを確認した。
【化14】
(p’=9、q’=8、q’/p’=0.89、p’+q’≒17)
【0056】
[実施例2]
下記式(21a)及び(21b)で示される化合物((21a)45モル%及び(21b)55モル%)からなる混合物を使用した。
【0057】
【化15】
(p’=13、q’=12、q’/p’=0.92、p’+q’≒25)
【0058】
(i)反応容器に、上記式(21a)45モル%及び式(21b)55モル%よりなる混合物400gをフッ素系溶剤(PF5060 3M社製)4.0kgに溶解させた。次いで、陰イオン交換樹脂B20-HG(オルガノ社製)3.2kgを加え、20℃で3時間攪拌し、式(21a)の化合物を陰イオン交換樹脂に吸着させた。その後、PF5060で、陰イオン交換樹脂を洗浄後、PF5060 6kgと樹脂とを混合し、塩酸を適量加え、20℃で3時間攪拌した。攪拌後、30分静置したところ、2層に分かれ、下層はフッ素層、上層は塩酸と樹脂との混合層となった。フッ素層を取り出し、PF5060を留去し、生成物128gを得た。得られた生成物を19F-NMRにより測定したところ、上記式(21a)95モル%及び式(21b)5モル%よりなる混合物であった。
【0059】
(ii)前記反応で得られた混合物50gを、m-キシレンヘキサフロライド100gとテトラヒドロフラン20gの混合溶媒に溶解し、水素化ビス(2-メトキシエトキシ)アルミニウムナトリウムの40質量%トルエン溶液100gを滴下した。室温で3時間攪拌後、適量の塩酸を加え、十分に攪拌し水洗した。更に、下層を取り出し、溶剤を留去したところ、液状の生成物44gを得た。19F-NMR及び1H-NMRにより、得られた生成物は下記式(22a)95モル%及び式(22b)5モル%よりなる混合物であることを確認した。
【0060】
【化16】
(p’=13、q’=12、q’/p’=0.92、p’+q’≒25)
【0061】
(iii)反応容器に、上記工程(ii)で得られた混合物40g、ヨウ素2.3g、トリフェニルホスフィン4.8g、イミダゾール1.2gを入れて80℃で20時間攪拌した。その後、チオ硫酸ナトリウム飽和水溶液、アセトンを適量加え洗浄した。更に、下層を取り出し、溶剤を留去したところ、液状の生成物39gを得た。19F-NMR及び1H-NMRにより、得られた生成物は下記式(23a)95モル%及び式(23b)5モル%よりなる混合物であることを確認した。
【化17】
(p’=13、q’=12、q’/p’=0.92、p’+q’≒25)
【0062】
(iv)反応容器に、上記工程(iii)で得られた混合物20gとアリルトリブチルスズ0.8g、ヘキサフルオロメタキシレン20gを混合し、窒素を通気した。続いて、AIBN0.03gを添加し、90℃で16時間撹拌した。その後、反応生成物を室温まで冷やし、分液操作で下層を分取した。得られた下層をヘキサン20gで洗浄し、続いてアセトン20gで洗浄した。溶剤を減圧留去し、下記式(24a)で表される片末端に3-ブテニル基を有する末端不飽和の脂肪族炭化水素基変性フルオロオキシアルキレン基含有ポリマーを18g得た。
【化18】
(p’=13、q’=12、q’/p’=0.92、p’+q’≒25)
【0063】
(v)反応容器に、上記工程(iv)で得られた混合物35g、トリクロロシラン2.7g、塩化白金酸/ビニルシロキサン錯体のトルエン溶液0.07g(Pt単体として1.8×10-8モルを含有)を混合し、110℃で12時間熟成し、未反応物を減圧留去し、液状のシリル生成物30gを得た。
【0064】
(vi)反応容器に、上記工程(v)で得られたシリル生成物25gを入れ、m-キシレンヘキサフロライド25gに溶解させ、乾燥したアンモニアガスを導入したところ、アンモニアガスの吹込みと共に液温は上昇し、塩化アンモニウムが生成し白濁状態となった。このようにしてアンモニアガスが還流状態となるまで吹込んだのちにアンモニアガスの導入を停止し、還流下2時間攪拌を継続した。ついで窒素ガスを導入させながら3時間加熱攪拌を行い、過剰のアンモニアガスを溜去、析出した塩化アンモニウムをろ別し、ろ液からm-キシレンヘキサフロライドを減圧溜去して無色透明の液体を24.7g得た。19F-NMR及び1H-NMRにより、得られた液体は下記式(25a)95モル%及び式(25b)5モル%よりなる混合物(組成物2)であることを確認した。
【化19】
(p’=13、q’=12、q’/p’=0.92、p’+q’≒25)
【0065】
[実施例3]
下記式(31a)及び(31b)で示される化合物((31a)45モル%及び(31b)55モル%)からなる混合物を使用した。
【0066】
【化20】
(r’≒7)
【0067】
(i)反応容器に、上記式(31a)45モル%及び式(31b)55モル%よりなる混合物400gをフッ素系溶剤(PF5060 3M社製)4.0kgに溶解させた。次いで、陰イオン交換樹脂B20-HG(オルガノ社製)3.2kgを加え、20℃で3時間攪拌し、式(31a)の化合物を陰イオン交換樹脂に吸着させた。その後、PF5060で、陰イオン交換樹脂を洗浄後、PF5060 6kgと樹脂とを混合し、塩酸を適量加え、20℃で3時間攪拌した。攪拌後、30分静置したところ、2層に分かれ、下層はフッ素層、上層は塩酸と樹脂との混合層となった。フッ素層を取り出し、PF5060を留去し、生成物129gを得た。得られた生成物を19F-NMRにより測定したところ、上記式(31a)95モル%及び式(31b)5モル%よりなる混合物であった。
【0068】
(ii)前記反応で得られた混合物50gを、m-キシレンヘキサフロライド100gとテトラヒドロフラン20gの混合溶媒に溶解し、水素化ビス(2-メトキシエトキシ)アルミニウムナトリウムの40質量%トルエン溶液20gを滴下した。室温で3時間攪拌後、適量の塩酸を加え、十分に攪拌し水洗した。更に、下層を取り出し、溶剤を留去したところ、液状の生成物46gを得た。19F-NMR及び1H-NMRにより、得られた生成物は下記式(32a)95モル%及び式(32b)5モル%よりなる混合物であることを確認した。
【0069】
【化21】
(r’≒7)
【0070】
(iii)反応容器に、上記工程(ii)で得られた混合物40g、ヨウ素4.3g、トリフェニルホスフィン8.9g、イミダゾール2.3gを入れて80℃で20時間攪拌した。その後、チオ硫酸ナトリウム飽和水溶液、アセトンを適量加え洗浄した。更に、下層を取り出し、溶剤を留去したところ、液状の生成物38gを得た。19F-NMR及び1H-NMRにより、得られた生成物は下記式(33a)95モル%及び式(33b)5モル%よりなる混合物であることを確認した。
【化22】
(r’≒7)
【0071】
(iv)反応容器に、上記工程(iii)で得られた混合物20gとアリルトリブチルスズ1.5g、ヘキサフルオロメタキシレンVを混合し、窒素を通気した。続いて、AIBN0.06gを添加し、90℃で16時間撹拌した。その後、反応生成物を室温まで冷やし、分液操作で下層を分取した。得られた下層をヘキサン20gで洗浄し、続いてアセトン20gで洗浄した。溶剤を減圧留去し、下記式(34a)で表される片末端に3-ブテニル基を有する末端不飽和の脂肪族炭化水素基変性フルオロオキシアルキレン基含有ポリマーを18.3g得た。
【化23】
(r’≒7)
【0072】
(v)反応容器に、上記工程(iv)で得られた混合物35g、トリクロロシラン5.0g、塩化白金酸/ビニルシロキサン錯体のトルエン溶液0.13g(Pt単体として3.13×10-8モルを含有)を混合し、110℃で12時間熟成し、未反応物を減圧留去し、液状のシリル生成物32.4gを得た。
【0073】
(vi)反応容器に、上記工程(v)で得られたシリル生成物30gを入れ、m-キシレンヘキサフロライド30gに溶解させ、乾燥したアンモニアガスを導入したところ、アンモニアガスの吹込みと共に液温は上昇し、塩化アンモニウムが生成し白濁状態となった。このようにしてアンモニアガスが還流状態となるまで吹込んだのちにアンモニアガスの導入を停止し、還流下2時間攪拌を継続した。ついで窒素ガスを導入させながら3時間加熱攪拌を行い、過剰のアンモニアガスを溜去、析出した塩化アンモニウムをろ別し、ろ液からm-キシレンヘキサフロライドを減圧溜去して無色透明の液体を29g得た。19F-NMR及び1H-NMRにより、得られた液体は下記式(35a)95モル%及び式(35b)5モル%よりなる混合物(組成物3)であることを確認した。
【化24】
(r’≒7)
【0074】
[実施例4]
下記式(41a)及び(41b)で示される化合物((41a)45モル%及び(41b)55モル%)からなる混合物を使用した。
【0075】
【化25】
(t’≒3)
【0076】
(i)反応容器に、上記式(41a)45モル%及び式(41b)55モル%よりなる混合物400gをフッ素系溶剤(PF5060 3M社製)4.0kgに溶解させた。次いで、陰イオン交換樹脂B20-HG(オルガノ社製)3.2kgを加え、20℃で3時間攪拌し、式(41a)の化合物を陰イオン交換樹脂に吸着させた。その後、PF5060で、陰イオン交換樹脂を洗浄後、PF5060 6kgと樹脂とを混合し、塩酸を適量加え、20℃で3時間攪拌した。攪拌後、30分静置したところ、2層に分かれ、下層はフッ素層、上層は塩酸と樹脂との混合層となった。フッ素層を取り出し、PF5060を留去し、生成物133gを得た。得られた生成物を19F-NMRにより測定したところ、上記式(41a)95モル%及び式(41b)5モル%よりなる混合物であった。
【0077】
(ii)前記反応で得られた混合物50gを、m-キシレンヘキサフロライド100gとテトラヒドロフラン20gの混合溶媒に溶解し、水素化ビス(2-メトキシエトキシ)アルミニウムナトリウムの40質量%トルエン溶液100gを滴下した。室温で3時間攪拌後、適量の塩酸を加え、十分に攪拌し水洗した。更に、下層を取り出し、溶剤を留去したところ、液状の生成物47gを得た。19F-NMR及び1H-NMRにより、得られた生成物は下記式(42a)95モル%及び式(42b)5モル%よりなる混合物であることを確認した。
【0078】
【化26】
(t’≒3)
【0079】
(iii)反応容器に、上記工程(ii)で得られた混合物40g、ヨウ素4.4g、トリフェニルホスフィン9.0g、イミダゾール2.4gを入れて80℃で20時間攪拌した。その後、チオ硫酸ナトリウム飽和水溶液、アセトンを適量加え洗浄した。更に、下層を取り出し、溶剤を留去したところ、液状の生成物37gを得た。19F-NMR及び1H-NMRにより、得られた生成物は下記式(43a)95モル%及び式(43b)5モル%よりなる混合物であることを確認した。
【化27】
(t’≒3)
【0080】
(iv)反応容器に、上記工程(iii)で得られた混合物20gとCH2=CH(CH23-を有するトリブチルスズ化合物1.7g、ヘキサフルオロメタキシレン20gを混合し、窒素を通気した。続いて、AIBN0.07gを添加し、90℃で16時間撹拌した。その後、反応生成物を室温まで冷やし、分液操作で下層を分取した。得られた下層をヘキサン20gで洗浄し、続いてアセトン20gで洗浄した。溶剤を減圧留去し、下記式(44a)で表される片末端に5-ヘキセニル基を有する末端不飽和の脂肪族炭化水素基変性フルオロオキシアルキレン基含有ポリマーを18.5g得た。
【化28】
(t’≒3)
【0081】
(v)反応容器に、上記工程(iv)で得られた混合物35g、トリクロロシラン5.0g、塩化白金酸/ビニルシロキサン錯体のトルエン溶液0.13g(Pt単体として3.13×10-8モルを含有)を混合し、110℃で12時間熟成し、未反応物を減圧留去し、液状のシリル生成物33.9gを得た。
【0082】
(vi)反応容器に、上記工程(v)で得られたシリル生成物30gを入れ、m-キシレンヘキサフロライド30gに溶解させ、乾燥したアンモニアガスを導入したところ、アンモニアガスの吹込みと共に液温は上昇し、塩化アンモニウムが生成し白濁状態となった。このようにしてアンモニアガスが還流状態となるまで吹込んだのちにアンモニアガスの導入を停止し、還流下2時間攪拌を継続した。ついで窒素ガスを導入させながら3時間加熱攪拌を行い、過剰のアンモニアガスを溜去、析出した塩化アンモニウムをろ別し、ろ液からm-キシレンヘキサフロライドを減圧溜去して無色透明の液体を27.8g得た。19F-NMR及び1H-NMRにより、得られた液体は下記式(45a)95モル%及び式(45b)5モル%よりなる混合物(組成物4)であることを確認した。
【化29】
(t’≒3)
【0083】
表面処理剤の調製及び硬化被膜の形成
上記組成物1~4を、濃度0.1質量%になるようにNovec 7200(3M社製、エチルパーフルオロブチルエーテル)に溶解させて処理浴を調製した。化学強化ガラス(50mm×100mm、コーニング社製、Gorilla)を、処理浴に30秒浸漬後、150mm/分の速度で引上げ、室温で1時間硬化させて厚さ約5nmの硬化被膜を形成した。
【0084】
[比較例1]
上記組成物1~4に代えて、下記に示す組成物5を調製し、これを用いて、実施例1~4と同様にして硬化被膜を形成した。
実施例1において、上記工程(i)、(ii)までは実施例1と同様にして混合物を調製し、それ以降は以下のようにして調製した。
(iii)反応容器に、上記工程(ii)で得られた混合物40g、臭化アリル15g、硫酸水素テトラブチルアンモニウム0.5gを入れて50℃で3時間攪拌した後、得られた混合物に、30%水酸化ナトリウム水溶液10.5gを滴下して55℃で12時間熟成した。その後、PF5060と塩酸を適量加え攪拌した後、十分に水洗した。更に、下層を取り出し、溶剤を留去したところ、液状の生成物35gを得た。19F-NMR及び1H-NMRにより、得られた生成物は下記式(53a)95モル%及び式(53b)5モル%よりなる混合物であることを確認した。
【化30】
(p’=9、q’=8、q’/p’=0.89、p’+q’≒17)
【0085】
(iv)反応容器に、上記工程(iii)で得られた混合物35g、トリクロロシラン4g、塩化白金酸/ビニルシロキサン錯体のトルエン溶液0.1g(Pt単体として2.5×10-8モルを含有)を混合し、110℃で12時間熟成し、未反応物を減圧留去し、液状のシリル生成物31gを得た。
【0086】
(v)反応容器に、上記工程(iv)で得られたシリル生成物30gを入れ、m-キシレンヘキサフロライド30gに溶解させ、乾燥したアンモニアガスを導入したところ、アンモニアガスの吹込みと共に液温は上昇し、塩化アンモニウムが生成し白濁状態となった。このようにしてアンモニアガスが還流状態となるまで吹込んだのちにアンモニアガスの導入を停止し、還流下2時間攪拌を継続した。ついで窒素ガスを導入させながら3時間加熱攪拌を行い、過剰のアンモニアガスを溜去、析出した塩化アンモニウムをろ別し、ろ液からm-キシレンヘキサフロライドを減圧溜去して無色透明の液体30gを得た。19F-NMR及び1H-NMRにより、得られた液体は下記式(54a)95モル%及び式(54b)5モル%よりなる混合物[組成物5]であることを確認した。
【化31】
(p’=9、q’=8、q’/p’=0.89、p’+q’≒17)
【0087】
得られた硬化被膜を下記の方法により評価した。結果を表1に示す。
【0088】
[撥水撥油性の評価]
上記にて作製した硬化被膜を形成したガラスを用い、接触角計DropMaster(協和界面科学社製)を用いて、硬化被膜の水に対する接触角(撥水性)及びオレイン酸に対する接触角(撥油性)を測定した。
【0089】
[指紋拭取り性の評価]
上記にて作製した硬化被膜を形成したガラス表面に指紋を付着させ、ベンコット(旭化成社製)で表面を拭いた際の指紋拭取り性を、7人のパネラーにより、下記評価基準で分類した。
A :3回以内に完全に拭取れる。
B :10回以内に完全に拭取れる。
C :拭取れない。
【0090】
[滑り性の評価]
上記にて作製した硬化被膜を形成したガラス表面をベンコット(旭化成社製)で擦った際の滑り性を、7人のパネラーにより、下記評価基準により分類した。
A :感触が特に優れている。
B :感触がよい。
C :感触が悪い。
【0091】
[耐摩耗性の評価]
上記にて作製した硬化被膜を形成したガラス表面を、ラビングテスターを用いて以下の条件で擦った後、上記と同様に水接触角を測定した。
評価環境条件:25℃、湿度40%
擦り材:試料と接触するテスターの先端部(10mm×10mm)にベンコット(旭化成社製)を8枚重ねて包み、輪ゴムで固定した。
荷重:500g
擦り距(片道):40mm
擦り速度:1,800mm/分
回数:5,000往復
【0092】
【表1】
【0093】
次に、実施例1及び比較例1で得られた硬化被膜を下記の方法により評価した。結果を表2に示す。
【0094】
[耐UV性の評価(UV試験)]
上記実施例1及び比較例1にて作製した硬化被膜を形成したガラスに、メタルハライドランプを使用して放射照度770W/m2(波長範囲300~400nm)でUV光を照射し、180時間照射した後、表面の水に対する接触角(撥水性)を上記と同様にして測定した。
また、撥水性の低下割合を(UV光照射前の硬化皮膜の撥水性(接触角)-UV光照射後の硬化皮膜の撥水性(接触角))/(UV光照射前の硬化皮膜の撥水性(接触角))×100(%)として求めた。
【0095】
【表2】
【0096】
連結基にエーテル結合を有する比較例1は、UV光照射前の撥水性については実施例1と同等であるが、UV光照射後の撥水性(耐UV性)については、実施例1よりも接触角の低下が認められ、耐UV性に劣ることがわかる。
【産業上の利用可能性】
【0097】
本発明のパーフルオロポリエーテル変性ポリシラザンは、反応性基がシラザンであるため、SiO2等のプライマーを用いないでも、基材との反応性が高く、室温硬化が可能である。また、従来のシラザン化合物と比較して、耐UV性に優れ、滑り性、指紋拭取り性、滑り性の感触、耐摩耗性は同程度である。このため、タッチパネルディスプレイ、反射防止フイルムなど光学物品やサニタリー製品、衛生陶器等の撥水撥油層として有用である。