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特許7662316免疫関連細胞の一次繊毛の調整方法および調整剤、試験試料の評価方法、並びに、その利用
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  • 特許-免疫関連細胞の一次繊毛の調整方法および調整剤、試験試料の評価方法、並びに、その利用 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2025-04-07
(45)【発行日】2025-04-15
(54)【発明の名称】免疫関連細胞の一次繊毛の調整方法および調整剤、試験試料の評価方法、並びに、その利用
(51)【国際特許分類】
   A61K 38/20 20060101AFI20250408BHJP
   A61P 37/02 20060101ALI20250408BHJP
   A61P 37/04 20060101ALI20250408BHJP
   A61P 37/06 20060101ALI20250408BHJP
   A61P 43/00 20060101ALI20250408BHJP
   C12Q 1/02 20060101ALI20250408BHJP
【FI】
A61K38/20
A61P37/02
A61P37/04
A61P37/06
A61P43/00 105
A61P43/00 107
C12Q1/02
【請求項の数】 6
(21)【出願番号】P 2020158397
(22)【出願日】2020-09-23
(65)【公開番号】P2021075516
(43)【公開日】2021-05-20
【審査請求日】2023-09-01
(31)【優先権主張番号】P 2019204142
(32)【優先日】2019-11-11
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】390011442
【氏名又は名称】株式会社マンダム
(73)【特許権者】
【識別番号】504176911
【氏名又は名称】国立大学法人大阪大学
(73)【特許権者】
【識別番号】505314022
【氏名又は名称】国立研究開発法人医薬基盤・健康・栄養研究所
(73)【特許権者】
【識別番号】506218664
【氏名又は名称】公立大学法人名古屋市立大学
(74)【代理人】
【識別番号】110000338
【氏名又は名称】弁理士法人 HARAKENZO WORLD PATENT & TRADEMARK
(72)【発明者】
【氏名】鳥山 真奈美
(72)【発明者】
【氏名】玉置 寛子
(72)【発明者】
【氏名】リザルディ デフリ
(72)【発明者】
【氏名】福井 瑠那
(72)【発明者】
【氏名】藤田 郁尚
(72)【発明者】
【氏名】岡田 文裕
(72)【発明者】
【氏名】石井 健
(72)【発明者】
【氏名】森田 明理
(72)【発明者】
【氏名】中村 元樹
【審査官】北村 悠美子
(56)【参考文献】
【文献】Endothelial response to cytokine stimulation is disturbed in pulmonary arterial hypertension: cilium length as a functional marker for dysregulated immunity,Pulmonary Circulation,2017年,Vol.7, No.4, pp.843
【文献】Th2サイトカイン,キーワード集 実験医学online,2024年10月22日検索 <https://www.yodosha.co.jp/jikkenigaku/keyword/index.html?id=1482>
【文献】Cellular and Molecular Life Sciences,2012年,Vol.69, pp.2967-2977
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61K 45/00-45/0838
A61K 38/00-38/58
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
免疫関連細胞を、インターロイキン-4(IL-4)、インターロイキン-13(IL-13)、インターロイキン-31(IL-31)及びインターロイキン-33(IL-33)から選択される1種類以上に接触させる接触工程を有する、免疫関連細胞の一次繊毛の調整方法であって、
前記免疫関連細胞は、HaCat細胞または表皮角化細胞である調整方法。
【請求項2】
請求項1に記載の免疫関連細胞の一次繊毛の調整方法を工程の1つとして有する、免疫関連細胞における、JNK、DSG1およびCLDN4からなる群より選択される少なくとも1種のタンパク質の発現の調整方法。
【請求項3】
インターロイキン-4(IL-4)、インターロイキン-13(IL-13)、インターロイキン-31(IL-31)及びインターロイキン-33(IL-33)から選択される1種類以上を含有する、免疫関連細胞の一次繊毛の調整剤であって、
前記免疫関連細胞は、HaCat細胞または表皮角化細胞である調整剤。
【請求項4】
請求項3に記載の免疫関連細胞の一次繊毛の調整剤を含有する、免疫関連細胞における、JNK、DSG1およびCLDN4からなる群より選択される少なくとも1種のタンパク質の発現の調整剤であって、
前記免疫関連細胞は、HaCat細胞または表皮角化細胞である調整剤
【請求項5】
免疫関連細胞を、インターロイキン-4(IL-4)、インターロイキン-13(IL-13)、インターロイキン-31(IL-31)及びインターロイキン-33(IL-33)から選択される1種類以上のシグナル制御物質に接触させた後、当該免疫関連細胞の一次繊毛を観察する、第1の観察工程と、
前記免疫関連細胞を、前記第1の観察工程に用いた前記シグナル制御物質、および、試験試料に接触させた後、当該免疫関連細胞の一次繊毛を観察する、第2の観察工程と、
前記第1の観察工程の観察結果と、前記第2の観察工程の観察結果とを比較することによって、前記試験試料が前記免疫関連細胞の一次繊毛に及ぼす影響を評価する評価工程と、を有する、試験試料の評価方法であって、
前記免疫関連細胞は、HaCat細胞または表皮角化細胞である評価方法。
【請求項6】
さらに、前記評価工程における評価結果に基づいて、前記試験試料が前記免疫関連細胞における、JNK、DSG1およびCLDN4からなる群より選択される少なくとも1種のタンパク質の発現に及ぼす影響を評価する評価工程と、を有する、請求項5に記載の試験試料の評価方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、免疫関連細胞の一次繊毛の調整方法および調整剤、試験試料の評価方法、並びに、その利用に関する。
【背景技術】
【0002】
一次繊毛は、微小管を内部骨格として有するアンテナ様の器官である。非運動性である一次繊毛は、当該一次繊毛の表面に存在する様々な受容体を介して、細胞外のシグナルを細胞内へ伝達する。略全ての細胞が一次繊毛を有することが知られているが、免疫関連細胞における一次繊毛と免疫反応との関係については、明らかにされていない部分が多い。
【0003】
近年の研究によって、免疫関連細胞に一次繊毛が存在すること、一次繊毛が免疫関連疾患と関連すること、および、一次繊毛を有する免疫関連細胞の数と免疫関連疾患の発症とに相関関係があること、が示唆されている。そして、これらの知見に基づいて、一次繊毛を観察することによる免疫関連疾患の指標の検出方法が提案されている(特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】WO2019/172419号国際公開公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
免疫関連細胞の一次繊毛を調整すること(例えば、一次繊毛を有する免疫関連細胞の数および/または割合を調整すること)により、免疫系の調整、および、免疫関連疾患の治療に寄与できると考えられる。それ故に、免疫関連細胞の一次繊毛を調整する技術の開発が期待されている。
【0006】
本発明の一実施形態は、前記問題点に鑑みなされたものであり、その目的は、免疫関連細胞の一次繊毛の調整方法および調整剤、試験試料の評価方法、並びに、その利用を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者は上記課題を解決するために鋭意検討した結果、(i)免疫関連細胞にて特定のサイトカインのシグナル伝達経路の活性化状態を調整することによって、一次繊毛を有する免疫関連細胞の数および/または割合を調整することができるという新規知見、および、(ii)免疫関連細胞の一次繊毛を調整すると、特定のタンパク質の発現が変化するという新規知見を見出し、本発明を完成するに至った。すなわち、本発明は以下の構成を含む。
【0008】
<1>免疫関連細胞を、以下の(a)~(c)からなる群より選択される少なくとも1種のサイトカインのシグナル伝達経路を活性化または不活性化させるシグナル制御物質に接触させる接触工程を有する、免疫関連細胞の一次繊毛の調整方法;(a)Th2サイトカイン、(b)Th17サイトカイン、(c)Th22サイトカイン。
【0009】
<2><1>に記載の免疫関連細胞の一次繊毛の調整方法を工程の1つとして有する、JNK、DSG1およびCLDN4からなる群より選択される少なくとも1種のタンパク質の発現の調整方法。
【0010】
<3>以下の(a)~(c)からなる群より選択される少なくとも1種のサイトカインのシグナル伝達経路を活性化または不活性化させるシグナル制御物質を含有する、免疫関連細胞の一次繊毛の調整剤;(a)Th2サイトカイン、(b)Th17サイトカイン、(c)Th22サイトカイン。
【0011】
<4><3>に記載の免疫関連細胞の一次繊毛の調整剤を含有する、JNK、DSG1およびCLDN4からなる群より選択される少なくとも1種のタンパク質の発現の調整剤。
【0012】
<5>免疫関連細胞を、以下の(a)~(c)からなる群より選択される少なくとも1種のサイトカインのシグナル伝達経路を活性化または不活性させるシグナル制御物質に接触させた後、当該免疫関連細胞の一次繊毛を観察する、第1の観察工程と、前記免疫関連細胞を、前記第1の観察工程に用いた前記シグナル制御物質、および、試験試料に接触させた後、当該免疫関連細胞の一次繊毛を観察する、第2の観察工程と、前記第1の観察工程の観察結果と、前記第2の観察工程の観察結果とを比較することによって、前記試験試料が前記免疫関連細胞の一次繊毛に及ぼす影響を評価する評価工程と、を有する、試験試料の評価方法;(a)Th2サイトカイン、(b)Th17サイトカイン、(c)Th22サイトカイン。
【0013】
<6>さらに、前記評価工程における評価結果に基づいて、前記試験試料が前記免疫関連細胞における、JNK、DSG1およびCLDN4からなる群より選択される少なくとも1種のタンパク質の発現に及ぼす影響を評価する評価工程と、を有する、<5>に記載の試験試料の評価方法。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、免疫関連細胞の一次繊毛の調整方法および調整剤、並びに、試験試料の評価方法を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
図1】本発明の実施例において、HaCat細胞(ヒト表皮角化細胞株)の一次繊毛に与える、各サイトカインの影響を示すグラフである。
図2】本発明の実施例において、HaCat細胞(ヒト表皮角化細胞株)の一次繊毛に与える、各サイトカインの影響を示すグラフである。
図3】本発明の実施例において、HaCat細胞(ヒト表皮角化細胞株)の一次繊毛に与える、サイトカインの混合物の影響を示すグラフである。
図4】本発明の実施例において、初代ヒト表皮角化細胞の一次繊毛に与える、各サイトカインの影響を示すグラフである。
図5】本発明の実施例において、初代ヒト表皮角化細胞の一次繊毛に与える、各サイトカイン、および、サイトカインの混合物の影響を示すグラフである。
図6】本発明の実施例において、JNKタンパク質の発現に与える、サイトカインの影響を示すグラフである。
図7】本発明の実施例において、CLDN4タンパク質の発現に与える、サイトカインの影響を示すグラフである。
図8】本発明の実施例において、DSG1タンパク質の発現に与える、サイトカインの影響を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0016】
本発明について以下に説明するが、本発明はこれに限定されるものではない。本発明は、以下に説明する各構成に限定されるものではなく、請求の範囲に示した範囲で種々の変更が可能である。また、異なる実施形態または実施例にそれぞれ開示された技術的手段を適宜組み合わせて得られる実施形態または実施例についても、本発明の技術的範囲に含まれる。さらに、各実施形態にそれぞれ開示された技術的手段を組み合わせることにより、新しい技術的特徴を形成することができる。なお、本明細書中に記載された学術文献および特許文献の全てが、本明細書中において参考文献として援用される。本明細書において特記しない限り、数値範囲を表す「X~Y」は、「X以上Y以下」を意図する。
【0017】
〔1.免疫関連細胞の一次繊毛の調整方法〕
本発明に係る免疫関連細胞の一次繊毛の調整方法は、免疫関連細胞を、以下の(a)~(c)からなる群より選択される少なくとも1種のサイトカインのシグナル伝達経路を活性化または不活性化させるシグナル制御物質に接触させる接触工程を有する;(a)Th2サイトカイン、(b)Th17サイトカイン、(c)Th22サイトカイン。
【0018】
本発明に係る免疫関連細胞の一次繊毛の調整方法は、より具体的に、(i)一次繊毛を有する免疫関連細胞の数および/または割合を増加させる方法、(ii)一次繊毛を有する免疫関連細胞の数および/または割合が増加することを抑制する方法、(iii)一次繊毛を有する免疫関連細胞の数および/または割合を減少させる方法、または、(iv)一次繊毛を有する免疫関連細胞の数および/または割合が減少することを抑制する方法、であってもよい。
【0019】
接触工程において、免疫関連細胞をシグナル制御物質に接触させる方法は、特に限定されない。例えば、免疫関連細胞を培養している培地にシグナル制御物質を添加することによって、免疫関連細胞をシグナル制御物質に接触させてもよい。接触工程において、免疫関連細胞をシグナル制御物質に接触させる時間は、特に限定されず、例えば、0.1時間~100時間、0.1時間~75時間、0.1時間~50時間、0.1時間~25時間、0.1時間~10時間、または、0.1時間~1時間であってもよい。
【0020】
接触工程では、免疫関連細胞をシグナル制御物質に接触させた後、当該免疫関連細胞を、所望の時間、培養してもよい。なお、当該培養の間、免疫関連細胞とシグナル制御物質とは、接触していてもよいし、接触していなくてもよい。なお、培養時間は、特に限定されず、1日~3日であってもよく、1日~7日であってもよく、7日以上であってもよい。
【0021】
免疫関連細胞には、免疫反応を主に担当する免疫細胞と、免疫細胞に間接的に関与する免疫機能保有細胞とが包含される。免疫機能保有細胞は、例えば、免疫細胞を活性化させる機能を有している。免疫細胞としては、例えば、皮膚樹状細胞(例えば、ランゲルハンス細胞、真皮樹状細胞)、リンパ球系の免疫細胞(例えば、T細胞、NK細胞、B細胞)、および単球系の免疫細胞(例えば、通常型樹状細胞、単球系樹状細胞(例えば、形質細胞様樹状細胞))を挙げることができる。一方、免疫機能保有細胞としては、例えば、ケラチノサイト、繊維芽細胞、および上皮細胞を挙げることができる。免疫関連細胞は、生体から採取された免疫関連細胞であってもよいし、株化された免疫関連細胞(例えば、HaCaT細胞)であってもよい。
【0022】
接触工程では、免疫関連細胞にて、1種類のサイトカインのシグナル伝達経路を活性化または不活性化させてもよいし、複数種類のサイトカインのシグナル伝達経路を同時に活性化または不活性化させてもよい。活性化または不活性化させるサイトカインのシグナル伝達経としては、例えば、(a)Th2サイトカインのシグナル伝達経路、(b)Th17サイトカインのシグナル伝達経路、(c)Th22サイトカインのシグナル伝達経路、(d)Th2サイトカインのシグナル伝達経路およびTh17サイトカインのシグナル伝達経路の組み合わせ、(e)Th17サイトカインのシグナル伝達経路およびTh22サイトカインのシグナル伝達経路の組み合わせ、(f)Th2サイトカインのシグナル伝達経路およびTh22サイトカインのシグナル伝達経路の組み合わせ、および、(g)Th2サイトカインのシグナル伝達経路、Th17サイトカインのシグナル伝達経路およびTh22サイトカインのシグナル伝達経路の組み合わせ、を挙げることができる。
【0023】
接触工程では、Th2サイトカインのシグナル伝達経路、Th17サイトカインのシグナル伝達経路およびTh22サイトカインのシグナル伝達経路の各々を活性化または不活性化させる場合、各シグナル伝達経路の活性化または不活性化を、1種類のシグナル制御物質を用いて行ってもよいし、複数種類のシグナル制御物質を用いて行ってもよい。例えば、Th2サイトカイン、Th17サイトカインおよびTh22サイトカインの各々には、後述するように複数種類のサブファミリーが存在する。接触工程では、複数種類のサブファミリーの組み合わせを用いて(例えば、(i)インターロイキン-4、インターロイキン-13、およびインターロイキン-31の組み合わせ、(ii)インターロイキン-4阻害剤、インターロイキン-13阻害剤、およびインターロイキン-31阻害剤の組み合わせ)、Th2サイトカインのシグナル伝達経路、Th17サイトカインのシグナル伝達経路およびTh22サイトカインのシグナル伝達経路の各々を活性化または不活性化させてもよい。
【0024】
特定の疾患(例えば、アトピー性皮膚炎)では、細胞において、特定のシグナル制御物質(例えば、IL-4、IL-13、およびIL-31)の量、または、特定のシグナル制御物質(例えば、IL-4、IL-13、およびIL-31)の組み合わせの合計量が増加する。このことは、細胞に特定のシグナル制御物質を加えれば、特定の疾患のモデル細胞を作製し得ることを示唆している。それ故に、本発明に係る免疫関連細胞の一次繊毛の調整方法であれば、特定の疾患のモデル細胞にて一次繊毛を調整することが可能になるとともに、一次繊毛を調整することが特定の疾患に及ぼす影響を観察することが可能になる。
【0025】
Th2サイトカインとしては、特に限定されず、より具体的に、インターロイキン-4(IL-4)、インターロイキン-13(IL-13)、インターロイキン-31(IL-31)、インターロイキン-33(IL-33)、gp130 / IL-6サイトカインファミリーなどが挙げられる。
【0026】
Th17サイトカインとしては、特に限定されず、より具体的に、インターロイキン-17A(IL-17A)、インターロイキン-17B(IL-17B)、インターロイキン-17C(IL-17C)、インターロイキン-17D(IL-17D)、インターロイキン-17F(IL-17F)、インターロイキン-25(IL-25)などが挙げられる。
【0027】
Th22サイトカインとしては、特に限定されず、より具体的に、インターロイキン-22(IL-22)、インターロイキン-13(IL-13)、インターロイキン-26(IL-26)などが挙げられる。
【0028】
シグナル制御物質は、(a)Th2サイトカイン、(b)Th17サイトカイン、(c)Th22サイトカインからなる群より選択される少なくとも1種のサイトカインのシグナル経路を活性化または不活性化させ得るものであればよく、特に限定されない。
【0029】
シグナル制御物質としては、具体的に、(i)サイトカインのシグナル伝達経路を活性化する物質、(ii)サイトカインのシグナル伝達経路の活性化を抑制する物質、(iii)サイトカインのシグナル伝達経路を不活性化する物質、または、(iv)サイトカインのシグナル伝達経路の不活性化を抑制する物質、を挙げることができる。
【0030】
シグナル制御物質としては、より具体的に、(i)サイトカインレセプターを活性化する物質、(ii)サイトカインレセプターの活性化を抑制する物質、(iii)サイトカインレセプターを不活性化する物質、または、(iv)サイトカインレセプターの不活性化を抑制する物質、を挙げることができる。
【0031】
シグナル制御物質の具体例としては、サイトカイン自体、サイトカインレセプターの阻害剤、サイトカイン以外のサイトカインレセプターの活性化剤を挙げることができる。
【0032】
サイトカイン自体としては、例えば、Th2サイトカイン(例えば、IL-4、IL-13、IL-31、IL-33、IL-5、IL-6、IL-10、GM-CSF)、Th17サイトカイン(例えば、IL-17A、IL-17B、IL-17C、IL-17D、IL-17F、IL-25)、Th22サイトカイン(例えば、IL-22、IL-13、IL-26)、および、これらの組み合わせを挙げることができる。
【0033】
サイトカインレセプターの阻害剤としては、例えば、レセプターの中和抗体、抗体製剤、低分子化合物などを挙げることができる。これらのサイトカインレセプターの阻害剤としては、市販のものを用いることができる。
【0034】
本発明者は、免疫関連細胞の一次繊毛を調整すると、特定のタンパク質(具体的には、JNK、DSG1、および、CLDN4)の発現が変化することを新たに見出した。このことは、本発明の免疫関連細胞の一次繊毛の調整方法を、特定のタンパク質の発現の調整方法として利用可能であることを示している。
【0035】
本発明に係るJNK、DSG1、または、CLDN4の発現の調整方法は、本発明に係る免疫関連細胞の一次繊毛の調整方法(例えば、接触工程)を工程の1つとして有する。
【0036】
JNK(c-jun N-terminal kinase)は、アポトーシス、神経変性、細胞分化、細胞増殖、炎症、サイトカイン産生等に関係する、リン酸化タンパク質である。
【0037】
DSG1(desmoglein 1)は、細胞接着装置の1つである接着斑を構成する細胞接着分子であって、カルシウム結合性の膜貫通タンパク質である。DSG1は、皮膚において、細胞同士の接着に関与する。
【0038】
CLDN4(claudin 4)は、タイトジャンクションを構成するタンパク質の1つである。CLDN4は、皮膚において、バリア機能の維持、および、バリアの形成に大きな役割を担う。
【0039】
本発明に係るJNK、DSG1およびCLDN4からなる群より選択される少なくとも1種のタンパク質の発現の調整方法は、より具体的に、(i)一次繊毛を増加させることで特定のタンパク質(例えば、JNK)の発現量を増加させる方法、(ii)一次繊毛を増加させることで特定のタンパク質(例えば、DSG1およびCLDN4)の発現量を減少させる方法、(iii)一次繊毛を減少させることで特定のタンパク質(例えば、DSG1およびCLDN4)の発現量を増加させる方法、(iv)一次繊毛を減少させることで特定のタンパク質(例えば、JNK)の発現量を減少させる方法であってもよい。なお、一次繊毛を増加あるいは減少させる方法については、上記の通りである。
【0040】
本発明に係る免疫関連細胞の一次繊毛の調整方法であれば、免疫関連細胞の一次繊毛を調整できるだけでなく、免疫関連細胞の一次繊毛に関連するタンパク質の発現量を調整することができるとともに、前記タンパク質の発現量が細胞に与える影響を観察することができる。
【0041】
〔2.免疫関連細胞の一次繊毛の調整剤〕
本発明に係る免疫関連細胞の一次繊毛の調整剤は、以下の(a)~(c)からなる群より選択される少なくとも1種のサイトカインのシグナル伝達経路を活性化または不活性化させるシグナル制御物質を含有する;(a)Th2サイトカイン、(b)Th17サイトカイン、(c)Th22サイトカイン。
【0042】
本発明に係る免疫関連細胞の一次繊毛の調整剤は、より具体的に、(i)一次繊毛を有する免疫関連細胞の数および/または割合を増加させるもの、(ii)一次繊毛を有する免疫関連細胞の数および/または割合が増加することを抑制するもの、(iii)一次繊毛を有する免疫関連細胞の数および/または割合を減少させるもの、または、(iv)一次繊毛を有する免疫関連細胞の数および/または割合が減少することを抑制するもの、であってもよい。
【0043】
シグナル制御物質に関しては、上記〔1.免疫関連細胞の一次繊毛の調整方法〕にて説明したので、ここでは、その詳細な説明を省略する。
【0044】
本発明に係る免疫関連細胞の一次繊毛の調整剤は、シグナル制御物質以外の成分を含有していてもよい。当該シグナル制御物質以外の成分としては、特に限定されず、緩衝剤、pH調整剤、等張化剤、防腐剤、抗酸化剤、高分子量重合体、賦形剤、担体、希釈剤、溶媒、可溶化剤、安定剤、充填剤、結合剤、界面活性剤、安定化剤等が挙げられる。
【0045】
本発明に係る免疫関連細胞の一次繊毛の調整剤に含有されているシグナル制御物質の量は、特に限定されず、例えば、調整剤を100質量%とした場合に、0.001質量%~100質量%であってもよく、0.01質量%~100質量%であってもよく、0.1質量%~100質量%であってもよく、0.1質量%~95質量%であってもよく、0.1質量%~90質量%であってもよく、0.1質量%~80質量%であってもよく、0.1質量%~70質量%であってもよく、0.1質量%~60質量%であってもよく、0.1質量%~50質量%であってもよく、0.1質量%~40質量%であってもよく、0.1質量%~30質量%であってもよく、0.1質量%~20質量%であってもよく、0.1質量%~10質量%であってもよい。
【0046】
本発明に係る免疫関連細胞の一次繊毛の調整剤に含有されているシグナル制御物質以外の量は、特に限定されず、例えば、調整剤を100質量%とした場合に、0質量%~99.999質量%であってもよく、0質量%~99.99質量%であってもよく、0質量%~99.9質量%であってもよく、5質量%~99.9質量%であってもよく、10質量%~99.9質量%であってもよく、20質量%~99.9質量%であってもよく、30質量%~99.9質量%であってもよく、40質量%~99.9質量%であってもよく、50質量%~99.9質量%であってもよく、60質量%~99.9質量%であってもよく、70質量%~99.9質量%であってもよく、80質量%~99.9質量%であってもよく、90質量%~99.9質量%であってもよい。
【0047】
本発明に係る免疫関連細胞の一次繊毛の調整剤に含有されているシグナル制御物質の量は、特に限定されず、例えば、免疫関連細胞とシグナル制御物質とを接触させる溶液(例えば、培地)中に含まれるシグナル制御物質の量が、0.01ng/mL~10mg/mL、0.01ng/mL~1mg/mL、0.01ng/mL~100μg/mL、0.01ng/mL~10μg/mL、0.01ng/mL~1μg/mL、0.01ng/mL~100ng/mL、または、0.01ng/mL~10ng/mLになるように、調節されていてもよい。
【0048】
本発明者は、免疫関連細胞の一次繊毛を調整すると、特定のタンパク質(具体的には、JNK、DSG1、および、CLDN4)の発現が変化することを新たに見出した。このことは、本発明の免疫関連細胞の一次繊毛の調整剤を、特定のタンパク質の発現の調整剤として利用可能であることを示している。
【0049】
本発明に係るJNK、DSG1、または、CLDN4の発現の調整剤は、本発明に係る免疫関連細胞の一次繊毛の調整剤を含有する。本発明に係るJNK、DSG1、または、CLDN4の発現の調整剤は、本発明に係る免疫関連細胞の一次繊毛の調整剤からなるものであってもよい。
【0050】
本発明に係るJNK、DSG1およびCLDN4からなる群より選択される少なくとも1種のタンパク質の発現の調整剤は、より具体的に、(i)一次繊毛を増加させることで特定のタンパク質(例えば、JNK)の発現量を増加させるもの、(ii)一次繊毛を増加させることで特定のタンパク質(例えば、DSG1およびCLDN4)の発現量を減少させるもの、(iii)一次繊毛を減少させることで特定のタンパク質(例えば、DSG1およびCLDN4)の発現量を増加させるもの、(iv)一次繊毛を減少させることで特定のタンパク質(例えば、JNK)の発現量を減少させるものであってもよい。なお、一次繊毛を増加あるいは減少させる調整剤については、上記の通りである。
【0051】
本発明に係るJNK、DSG1、または、CLDN4の発現の調整剤が、本発明に係る免疫関連細胞の一次繊毛の調整剤(以下、有効成分と呼ぶ)を含有するものである場合、本発明に係るJNK、DSG1、または、CLDN4の発現の調整剤は、有効成分以外の成分を含有していてもよい。当該有効成分以外の成分(以下、副成分と呼ぶ)としては、緩衝剤、pH調整剤、等張化剤、防腐剤、抗酸化剤、高分子量重合体、賦形剤、担体、希釈剤、溶媒、可溶化剤、安定剤、充填剤、結合剤、界面活性剤、安定化剤等が挙げられる。
【0052】
本発明に係るJNK、DSG1、または、CLDN4の発現の調整剤に含有されている有効成分の量は、特に限定されず、例えば、調整剤を100質量%とした場合に、0.001質量%~100質量%であってもよく、0.01質量%~100質量%であってもよく、0.1質量%~100質量%であってもよく、0.1質量%~95質量%であってもよく、0.1質量%~90質量%であってもよく、0.1質量%~80質量%であってもよく、0.1質量%~70質量%であってもよく、0.1質量%~60質量%であってもよく、0.1質量%~50質量%であってもよく、0.1質量%~40質量%であってもよく、0.1質量%~30質量%であってもよく、0.1質量%~20質量%であってもよく、0.1質量%~10質量%であってもよい。
【0053】
本発明に係るJNK、DSG1、または、CLDN4の発現の調整剤に含有されている副成分の量は、特に限定されず、例えば、調整剤を100質量%とした場合に、0質量%~99.999質量%であってもよく、0質量%~99.99質量%であってもよく、0質量%~99.9質量%であってもよく、5質量%~99.9質量%であってもよく、10質量%~99.9質量%であってもよく、20質量%~99.9質量%であってもよく、30質量%~99.9質量%であってもよく、40質量%~99.9質量%であってもよく、50質量%~99.9質量%であってもよく、60質量%~99.9質量%であってもよく、70質量%~99.9質量%であってもよく、80質量%~99.9質量%であってもよく、90質量%~99.9質量%であってもよい。
【0054】
〔3.試験試料の評価方法〕
本発明に係る試験試料の評価方法は、免疫関連細胞を、以下の(a)~(c)からなる群より選択される少なくとも1種のサイトカインのシグナル伝達経路を活性化または不活性化させるシグナル制御物質に接触させた後、当該免疫関連細胞の一次繊毛を観察する、第1の観察工程と、前記免疫関連細胞を、前記第1の観察工程に用いた前記シグナル制御物質、および、試験試料に接触させた後、当該免疫関連細胞の一次繊毛を観察する、第2の観察工程と、前記第1の観察工程の観察結果と、前記第2の観察工程の観察結果とを比較することによって、前記試験試料が前記免疫関連細胞の一次繊毛に及ぼす影響を評価する評価工程と、を有する;(a)Th2サイトカイン、(a)Th17サイトカイン、(c)Th22サイトカイン。
【0055】
シグナル制御物質は、特定のサイトカインのシグナル伝達経路を活性化または不活性化させるものである。第1の観察工程では、シグナル制御物質を用いることによって、当該シグナル制御物質が免疫関連細胞の一次繊毛に与える影響を観察する(対照試験に相当)。一方、第2の観察工程では、シグナル制御物質および試験試料を用いることによって、シグナル制御物質が免疫関連細胞の一次繊毛に与える影響に対して、更に、試験試料が如何なる影響を与えるか観察する。そして、両方の観察結果を比較すれば、試験試料がシグナル制御物質に与える影響(換言すれば、試験試料が免疫関連細胞の一次繊毛に及ぼす影響)を評価することができる。
【0056】
以下では、本発明に係る試験試料の評価方法が有する各工程について説明する。なお、上記〔1.免疫関連細胞の一次繊毛の調整方法〕、および、上記〔2.免疫関連細胞の一次繊毛の調整剤〕にて説明した構成については、以下では、その説明を省略する。
【0057】
<第1の観察工程>
第1の観察工程では、免疫関連細胞を、以下の(a)~(c)からなる群より選択される少なくとも1種のサイトカインのシグナル伝達経路を活性化または不活性化させるシグナル制御物質に接触させた後、当該免疫関連細胞の一次繊毛を観察する;(a)Th2サイトカイン、(b)Th17サイトカイン、(c)Th22サイトカイン。
【0058】
第1の観察工程において、免疫関連細胞をシグナル制御物質に接触させる方法は、特に限定されない。例えば、免疫関連細胞を培養している培地にシグナル制御物質を添加することによって、免疫関連細胞をシグナル制御物質に接触させてもよい。免疫関連細胞をシグナル制御物質に接触させる時間は、特に限定されず、例えば、0.1時間~100時間、0.1時間~75時間、0.1時間~50時間、0.1時間~25時間、0.1時間~10時間、または、0.1時間~1時間であってもよい。
【0059】
第1の観察工程では、免疫関連細胞をシグナル制御物質に接触させた後、当該免疫関連細胞を、所望の時間、培養してもよい。なお、当該培養の間、免疫関連細胞とシグナル制御物質とは、接触していてもよいし、接触していなくてもよい。なお、培養時間は、特に限定されず、1日~3日であってもよく、1日~7日であってもよく、7日以上であってもよい。
【0060】
第1の観察工程では、顕微鏡等を用いて免疫関連細胞の一次繊毛を観察し、免疫関連細胞の一次繊毛の形成率を算出する。以下に、一次繊毛の形成率の算出方法、および、一次繊毛の観察方法の一例について説明する。
【0061】
第1の観察工程では、指標の1つとして、免疫関連細胞における一次繊毛を観察して、一次繊毛数を算出することができる。一次繊毛数を算出する場合、例えば、(a)免疫関連細胞1個あたりの一次繊毛の数を算出してもよいし、(b)所定の数の免疫関連細胞あたりの、一次繊毛を有する免疫関連細胞の割合を算出してもよいし、(c)前記(a)及び(b)の両方の算出を行ってもよい。また、検体に含まれる免疫関連細胞の全数は、検体中の核の全数として算出してもよい。
【0062】
例えば、上述した(a)の場合、下記の式(I)にしたがって、[免疫関連細胞の一次繊毛の形成率]として、一次繊毛数を算出することができる;
[免疫関連細胞の一次繊毛の形成率]=〔[検体に含まれる免疫関連細胞が有する一次繊毛の全数]/[検体に含まれる免疫関連細胞の全数]〕×100 ・・・式(I)。
【0063】
例えば、上述した(b)の場合、下記の式(II)にしたがって、[免疫関連細胞の一次繊毛の形成率]として、一次繊毛数を算出することができる;
[免疫関連細胞の一次繊毛の形成率]=〔[検体に含まれる一次繊毛を有する免疫関連細胞の全数]/[検体に含まれる免疫関連細胞の全数]〕×100 ・・・式(II)。
【0064】
一次繊毛の観察は、例えば、公知の免疫組織化学染色法によって行うことができる。具体的に、一次繊毛の観察は、被験検体含有試料(例えば、細胞をパラホルムアルデヒド等の固定化剤によって固定化したもの、被験検体をパラフィン包埋切片化したもの)と、一次繊毛に対する特異的結合物質(以下、「第1の特異的結合物質」と呼ぶ)とを接触させて、第1の特異的結合物質を被験検体含有試料に含まれる一次繊毛に結合させ、当該第1の特異的結合物質に結合した標識物質を検出することによって行うことができる。なお、被験検体含有試料の作製方法は、限定されず、公知の方法を用いることができる。
【0065】
第1の特異的結合物質としては、一次繊毛のマーカーとなる物質に特異的に結合する物質(例えば、抗体(一次抗体))を挙げることができる。一次繊毛のマーカーとなる物質としては、例えば、ADPリボシル化因子様タンパク質(Arl13B)、アセチル化チューブリン、アデニル酸シクラーゼIII、ネフロシスチン3(NPHP3)、鞭毛内輸送タンパク質(IFT88)、ソマトスタチンレセプター3(sstr3)、ポリシステン-1(TRPC1)、一過性受容体電位バニロイド4(TRPV4)、血小板由来成長因子レセプターα(PDGFRα)、及びスムーズンド(Smo)を挙げることができる。
【0066】
上述したように、第1の特異的結合物質としては、例えば、一次繊毛のマーカーとなる物質に特異的に結合する抗体を挙げることができる。当該抗体としては、例えば、モノクローナル抗体、ポリクローナル抗体、及びこれら抗体の断片(例えば、Fabフラグメント、F(ab’)2フラグメント、及び単鎖抗体)を挙げることができる。
【0067】
モノクローナル抗体は、例えば、免疫関連細胞の一次繊毛のマーカーに対するモノクローナル抗体を生産するハイブリドーマを所望の培地中にて培養して培養上清を得、必要に応じて当該培養上清を精製することによって得ることができる。ハイブリドーマは、免疫関連細胞の一次繊毛のマーカーを動物(例えば、マウス、ラット)の静脈内、皮下、又は腹腔内に投与した後、当該動物から抗体産生細胞を得、当該抗体産生細胞とミエローマ細胞とを細胞融合させることによって得ることができる。
【0068】
ポリクローナル抗体は、例えば、免疫関連細胞の一次繊毛のマーカーを動物(例えば、ウサギ)の静脈内、皮下、又は腹腔内に投与した後、当該動物から血清を得、必要に応じて当該血清を精製することによって得ることができる。
【0069】
Fabフラグメントは、例えば、免疫関連細胞の一次繊毛のマーカーに対するモノクローナル抗体をパパインによって消化し、必要に応じて当該消化産物を精製することによって得ることができる。
【0070】
F(ab’)フラグメントは、例えば、免疫関連細胞の一次繊毛のマーカーに対するモノクローナル抗体をペプシンによって消化し、必要に応じて当該消化産物を精製することによって得ることができる。
【0071】
単鎖抗体は、例えば、免疫関連細胞の一次繊毛のマーカーに対するモノクローナル抗体の軽鎖の可変領域をコードする核酸と、リンカーをコードする核酸と、当該モノクローナル抗体の重鎖の可変領域をコードする核酸とを連結させた核酸構築物を含有するファージミドベクターを宿主細胞に導入し、当該宿主細胞内にて核酸構築物にコードされるポリペプチドを発現させ、必要に応じて当該ポリペプチドを精製することによって得ることができる。
【0072】
前記標識物質は、蛍光、又は色などの検出可能なシグナルを生成できる物質(例えば、蛍光色素、酵素)であればよい。なお、当該標識物質は、第1の特異的結合物質と直接結合していてもよいし、第1の特異的結合物質に対する特異的結合物質(以下、「第2の特異的結合物質」と呼ぶ)と直接結合していてもよい。第2の特異的結合物質としては、例えば、第1の特異的結合物質に特異的に結合する物質(例えば、抗体(二次抗体))を挙げることができる。
【0073】
標識物質としては、例えば、フルオレセインイソチオシアネート;2-(3-イミニオ-4,5-ジスルホナト-6-アミノ-3H-キサンテン-9-イル)-5-[[5-(2,5-ジオキソ-3-ピロリン-1-イル)ペンチル]カルバモイル]安息香酸(例えば、Invitrogen社製のAlexa Fluor 488);6-(2-カルボキシラト-4-カルボキシフェニル)-1,2,10,11-テトラヒドロ-1,2,2,10,10,11-ヘキサメチル-4,8-ビス-(スルホメチル)-1,11-ジアザ-13-オキソニアペンタセン(例えば、Invitrogen社製のAlexa Fluor 594);ペルオキシダーゼ;アルカリホスファターゼを挙げることができる。
【0074】
第1の特異的結合物質に結合した標識物質の検出は、例えば、光学顕微鏡(例えば、蛍光顕微鏡、及び共焦点レーザー顕微鏡)、画像解析装置(例えば、蛍光イメージングアナライザー)、又はフローサイトメトリー装置(蛍光フローサイトメーター、及びイメージングフローサイトメーター)を用いて目視による検出や、蛍光強度などの数値による検出として行うことができる。
【0075】
<第2の観察工程>
第2の観察工程では、免疫関連細胞を、第1の観察工程に用いたシグナル制御物質、および、試験試料に接触させた後、当該免疫関連細胞の一次繊毛を観察する。
【0076】
第2の観察工程において、免疫関連細胞をシグナル制御物質および試験試料に接触させる方法は、特に限定されず、第1の観察工程と同じ方法を採用すればよい。免疫関連細胞をシグナル制御物質および試験試料に接触させる時間は、特に限定されず、第1の観察工程と同じ時間を採用すればよい。第2の観察工程では、第1の観察工程と同様に、免疫関連細胞をシグナル制御物質および試験試料に接触させた後、当該免疫関連細胞を、所望の時間、培養することが可能である。なお、第2の観察工程では、免疫関連細胞をシグナル制御物質および試験試料に、同時に接触させてもよいし、異なる時に接触させてもよい。
【0077】
第2の観察工程で用いられる試験試料は、特に限定されず、例えば、無機化合物、有機化合物、植物抽出物、微生物抽出物、および各種細胞の培養上清を挙げることができる。被験試料は、そのままの状態にて用いられてもよく、溶媒に溶解された状態にて用いられてもよい。当該溶媒としては、例えば、生理食塩水、リン酸緩衝生理食塩水、および水を挙げることができる。
【0078】
第2の観察工程では、顕微鏡等を用いて免疫関連細胞の一次繊毛を観察し、免疫関連細胞の一次繊毛の形成率を算出する。一次繊毛を観察方法、および、一次繊毛の形成率の算出方法は、第1の観察工程と同じ方法にしたがえばよい。
【0079】
<評価工程(1)>
評価工程では、第1の観察工程の観察結果と、第2の観察工程の観察結果とを比較することによって、試験試料が免疫関連細胞の一次繊毛に及ぼす影響を評価する。
【0080】
例えば、第1の観察工程において、一次繊毛の形成率が上昇するという結果が得られ、第2の観察工程において、一次繊毛の形成率が第1の観察工程の観察結果よりも上昇するという結果が得られたとする。この場合、試験試料は免疫関連細胞の一次繊毛を増加させる効果を有すると評価することができる。
【0081】
第1の観察工程において、一次繊毛の形成率が下降するという結果が得られ、第2の観察工程において、一次繊毛の形成率が第1の観察工程の観察結果よりも上昇するという結果が得られたとする。この場合、試験試料は免疫関連細胞の一次繊毛を増加させる効果を有すると評価することができる。
【0082】
例えば、第1の観察工程において、一次繊毛の形成率が上昇するという結果が得られ、第2の観察工程において、一次繊毛の形成率が第1の観察工程の観察結果よりも下降するという結果が得られたとする。この場合、試験試料は免疫関連細胞の一次繊毛を減少させる効果を有すると評価することができる。
【0083】
第1の観察工程において、一次繊毛の形成率が下降するという結果が得られ、第2の観察工程において、一次繊毛の形成率が第1の観察工程の観察結果よりも下降するという結果が得られたとする。この場合、試験試料は免疫関連細胞の一次繊毛を減少させる効果を有すると評価することができる。
【0084】
例えば、第1の観察工程において、一次繊毛の形成率が上昇するという結果が得られ、第2の観察工程において、一次繊毛の形成率が第1の観察工程の観察結果と略同じという結果が得られたとする。この場合、試験試料は免疫関連細胞の一次繊毛を増減させる効果を有していない、または、シグナル制御物質は一次繊毛を有する免疫関連細胞の数および/または割合が変化(増加または減少)することを抑制するものである、と評価することができる。
【0085】
第1の観察工程において、一次繊毛の形成率が変化しないという結果が得られ、第2の観察工程において、一次繊毛の形成率が第1の観察工程の観察結果と略同じという結果が得られたとする。この場合、試験試料は免疫関連細胞の一次繊毛を増減させる効果を有していない、または、シグナル制御物質は一次繊毛を有する免疫関連細胞の数および/または割合が変化(増加または減少)することを抑制するものである、と評価することができる。
【0086】
第1の観察工程において、一次繊毛の形成率が下降するという結果が得られ、第2の観察工程において、一次繊毛の形成率が第1の観察工程の観察結果と略同じという結果が得られたとする。この場合、試験試料は免疫関連細胞の一次繊毛を増減させる効果を有していない、または、シグナル制御物質は一次繊毛を有する免疫関連細胞の数および/または割合が変化(増加または減少)することを抑制するものである、と評価することができる。
【0087】
<評価工程(2)>
さらに、前記評価工程における評価結果に基づいて、前記試験試料が前記免疫関連細胞における、JNK、DSG1およびCLDN4からなる群より選択される少なくとも1種のタンパク質の発現に及ぼす影響を評価する評価工程、を有していてもよい。すなわち、本評価工程では、前記試験試料が前記免疫関連細胞の一次繊毛に及ぼす影響に関する評価結果に基づいて、JNK、DSG1およびCLDN4からなる群より選択される少なくとも1種のタンパク質の発現に及ぼす影響を評価することになる。
【0088】
上述のとおり、免疫関連細胞の一次繊毛と、JNK、DSG1およびCLDN4の発現とは相関するため、前記試験試料がこれらタンパク質の発現について及ぼす影響も評価することができる。
【0089】
より具体的には、例えば、(i)前記試験試料が一次繊毛を増加させるとの評価結果が得られた場合、前記試験試料が特定のタンパク質(例えば、JNK)の発現量を増加させ得ると評価、(ii)前記試験試料が一次繊毛を増加させるとの評価結果が得られた場合、特定のタンパク質(例えば、DSG1およびCLDN4)の発現量を減少させ得ると評価、(iii)前記試験試料が一次繊毛を減少させるとの評価結果が得られた場合、前記試験試料が特定のタンパク質(例えば、DSG1およびCLDN4)の発現量を増加させ得ると評価、(iv)前記試験試料が一次繊毛を減少させるとの評価結果が得られた場合、前記試験試料が特定のタンパク質(例えば、JNK)の発現量を減少させ得ると評価、する方法であってもよい。
【0090】
本評価工程によれば、前記試験試料の免疫関連細胞における一次繊毛へ及ぼす影響を評価できるだけでなく、免疫関連細胞の一次繊毛に関連するタンパク質の発現量に及ぼす影響についても評価することができる。
【実施例
【0091】
本発明の実施例について、以下に説明する。
【0092】
<1.HaCat細胞の一次繊毛に与える各サイトカインの影響>
HaCat細胞(ヒト表皮角化細胞株)を培養している培地に、Th1サイトカイン(IL-1β、TNFα、IFNγ)、Th17サイトカイン(IL-17A)、Th22サイトカイン(IL-22)、または、Th2サイトカイン(IL-4、IL-13、IL-31、IL-33)を加えた。なお、培地中の各サイトカインの濃度は、図1に示す濃度に調節した。なお、図1中の「ctrl」は、培地にサイトカインを加えていない試験に対応している。培地に各サイトカインを加えた後、サイトカイン存在下にて、HaCat細胞を48時間培養した。
【0093】
48時間の培養の後、HaCat細胞を、一次繊毛のマーカー蛋白質であるArl13Bを認識する抗体を用いて染色した。
【0094】
具体的に、HaCat細胞をPBS(phosphate buffered saline)溶液にて洗浄した後、当該HaCat細胞を、4%パラホルムアルデヒドを含有するPBS溶液中に浸して固定化処理を行った。次いで、当該HaCat細胞を、界面活性剤含有PBS溶液中に浸して透過処理を行った。
【0095】
洗浄後のHaCat細胞と、抗Arl13B抗体〔proteintech社製、商品名:Arl13B Polyclonal Antibody、品番:17711-1-AP〕とを、一晩4℃にて反応させた。
【0096】
反応後のHaCat細胞を、界面活性剤含有PBS溶液を用いて洗浄した。洗浄後のHaCat細胞と、蛍光色素にて標識された抗ラビットIgG抗体〔サーモフィッシャー社製、商品名:Donkey Anti-Rabbit IgG H&L(蛍光色素:Alexa Fluor(登録商標)594、カタログナンバー:A-21207)〕と、核染色剤Hoechst 33342〔サーモフィッシャー社製、商品名:Hoechst 33342,
Trihydrochloride, Trihydrate - 10 mg/mL Solution in Water、品番:H3570〕とを、室温(25℃)にて1時間反応させることによって、HaCat細胞を染色した。染色後のサンプルを、界面活性剤含有PBS溶液を用いて洗浄した。
【0097】
洗浄後のHaCat細胞を、共焦点顕微鏡〔オリンパス(株)製、品番:FV1200〕を用いて観察し、5カ所の観察視野の画像を取得した。画像中に含まれる細胞核の数と、一次繊毛の数と、をそれぞれ測定した。その後、式(Ia)にしたがって、HaCat細胞の一次繊毛の形成率を算出し、算出した値から平均値を計算した;
[一次繊毛の形成率]=[画像中の一次繊毛の数]/[画像中の全細胞核数]×100
・・・・・(Ia)。
【0098】
図1に、試験結果を示す。図1から明らかなように、Th2サイトカイン、Th17サイトカイン、およびTh22サイトカインは、一次繊毛の形成率を著しく上昇させた。
【0099】
<2.HaCat細胞の一次繊毛に与える各サイトカインの影響>
HaCat細胞(ヒト表皮角化細胞株)を培養している培地に、Th2サイトカイン(IL-4、IL-13)、または、TNFαを加えた。なお、培地中の各サイトカインの濃度は、図2に示すように、10ng/mL、20ng/mL、100ng/mL、または、200ng/mLに調節した。なお、図2中の「ctrl」は、培地にサイトカインを加えていない試験に対応している。培地に各サイトカインを加えた後、サイトカイン存在下にて、HaCat細胞を48時間培養した。
【0100】
以降の試験は、上述した<1>と同様の試験方法に従って行い、HaCat細胞を染色した後、一次繊毛の形成率を計算した。
【0101】
図2に、試験結果を示す。図2から明らかなように、IL-4、IL-13、および、IL-31は、一次繊毛の形成率を著しく上昇させた。特に、IL-13、および、IL-31は、サイトカインの濃度に依存して、一次繊毛の形成率を上昇させた。一方、TNFαは、一次繊毛の形成率を上昇させなかった。
【0102】
また、IL-4、IL-13、IL-31、および、TNFαの各々は、アトピー性皮膚炎にて発現が上昇するサイトカインである。このことは、アトピー性皮膚炎と、特定のサイトカインの発現量と、一次繊毛の形成率とが、関連性を有していることを示唆している。
【0103】
<3.HaCat細胞の一次繊毛に与えるサイトカインの混合物の影響>
HaCat細胞(ヒト表皮角化細胞株)を培養している培地に、IL-4、IL-13、およびTNFαの混合物を加えた。なお、培地中の各サイトカインの濃度は、図3に示すように、1ng/mL、または、2ng/mLに調節した。なお、図3中の「ctrl」は、培地にサイトカインを加えていない試験に対応している。培地にサイトカインの混合物を加えた後、サイトカイン存在下にて、HaCat細胞を48時間培養した。
【0104】
以降の試験は、上述した<1>と同様の試験方法に従って行い、HaCat細胞を染色した後、一次繊毛の形成率を計算した。
【0105】
図3に、試験結果を示す。図3から明らかなように、IL-4、IL-13、およびTNFαの混合物は、サイトカインの濃度が低濃度であっても、一次繊毛の形成率が著しく上昇した。このことは、各サイトカインの相乗効果によって、一次繊毛の形成率が著しく上昇したことを示唆している。
【0106】
<4.初代ヒト表皮角化細胞の一次繊毛に与える各サイトカインの影響>
初代ヒト表皮角化細胞を培養している培地に、Th1サイトカイン(IL-1β、TNFα、IFNγ)、Th17サイトカイン(IL-17A)、Th22サイトカイン(IL-22)、または、Th2サイトカイン(IL-4、IL-13、IL-31、IL-33)を加えた。なお、培地中の各サイトカインの濃度は、図4に示す濃度に調節した。なお、図4中の「ctrl」は、培地にサイトカインを加えていない試験に対応している。培地に各サイトカインを加えた後、サイトカイン存在下にて、初代ヒト表皮角化細胞を48時間培養した。
【0107】
以降の試験は、上述した<1>と同様の試験方法に従って行い、初代ヒト表皮角化細胞を染色した後、一次繊毛の形成率を計算した。
【0108】
図4に試験結果を示す。図4から明らかなように、Th2サイトカイン、Th17サイトカイン、およびTh22サイトカインは、一次繊毛の形成率を著しく上昇させた。
【0109】
<5.初代ヒト表皮角化細胞の一次繊毛に与える各サイトカイン、および、サイトカインの混合物の影響>
初代ヒト表皮角化細胞を培養している培地に、IL-4、IL-13、IL-31、または、これらの混合物を加えた。なお、培地中の各サイトカインの濃度は、図5に示す濃度に調節した。なお、図5中の「ctrl」は、培地にサイトカインを加えていない試験に対応している。培地に各サイトカインを加えた後、サイトカイン存在下にて、初代ヒト表皮角化細胞を48時間培養した。
【0110】
以降の試験は、上述した<1>と同様の試験方法に従って行い、初代ヒト表皮角化細胞を染色した後、一次繊毛の形成率を計算した。
【0111】
図5に、試験結果を示す。図5から明らかなように、IL-4、IL-13、および、IL-31は、一次繊毛の形成率を著しく上昇させた。
【0112】
また、IL-4、IL-13、および、IL-31の各々は、アトピー性皮膚炎にて発現が上昇するサイトカインである。このことは、アトピー性皮膚炎と、特定のサイトカインの発現量と、一次繊毛の形成率とが、関連性を有していることを示唆している。
【0113】
<6.一次繊毛の調整が、JNK、DSG1、CLDN4の発現に与える影響>
本試験では、IL-13を用いて、一次繊毛の形成を誘導した。一方、本試験では、IFT88(intraflagellar transport protein 88)のmRNAの発現を阻害するsiRNAであるsiIFT88(Thermo Fisher Scientific社製)を用いて、一次繊毛の形成を阻害した。siIFT88のコントロールとしては、特定の遺伝子の発現を阻害することのないsiCTRL(SilencerTM No.2、Thermo Fisher Scientific社製)を用いた。
【0114】
正常ヒト表皮角化細胞(NHEK:Normal Human Epidermal Keratinocyte)を、ウェルプレート上に、ウェルプレート表面の面積の約50~60%を覆う密度にて播種した。
【0115】
NHEKを播種してから16~18時間後に、NHEKを培養する培地を、Lipofectamine(Thermo Fisher Scientific社製)およびsiIFT88(最終濃度30nM)を含む培地に交換し、当該培地中でNHEKを6時間培養した。6時間の培養の後、培地を、LipofectamineおよびsiIFT88を含まない培地に交換した。当該処理によって、IFT88がノックダウンされたNHEKを得た。また、コントロールとして、siIFT88の代わりにsiCTRLを用いた試験を行った。
【0116】
ノックダウンの1日後、NHEKを培養する培地を、IL-13を50ng/mLの濃度にて含む培地、IL-13を100ng/mLの濃度にて含む培地、または、IL-13を含まない培地に交換した。
【0117】
培地を交換してから6、12、24、48時間後に、それぞれ細胞を回収した。回収した細胞を、冷やしたDPBS(Dulbecco’s Phosphate Buffered Saline)を用いて洗浄した後、当該細胞を、プロテアーゼ阻害剤およびホスファターゼ阻害剤を含むRIPAバッファー中に溶解させて、細胞溶解液を得た。
【0118】
当量のタンパク質を含む各細胞溶解液を、10%ポリアクリルアミドゲル内に充填し、電気泳動させた後、ポリアクリルアミドゲル内で分離されたタンパク質をPVDF膜上に転写した。
【0119】
当該PVDF膜上に転写されたJNK、DSG1、および、CLDN4をウエスタンブロット法にて検出し、検出結果に基づいて、JNK、DSG1、および、CLDN4を定量した。
【0120】
1次抗体として、抗リン酸化JNK抗体を用いた。また、タンパク質を定量化するための基準となるGAPDHを検出するために、抗GAPDH抗体を用いた。目的のタンパク質が転写されたPVDF膜と、各抗体とを4℃で一晩接触させた後、当該PVDF膜をTBSTで洗浄した。
【0121】
2次抗体として、HRPが結合した2次抗体を用いた。TBSTで洗浄したPVDF膜と、2次抗体とを接触させた後、当該PVDF膜をTBSTで洗浄した。
【0122】
TBSTで洗浄したPVDF膜と、HRPの基質とを接触させることによって、PVDF膜に転写された目的のタンパク質をバンドとして画像化した。バンドの強度を数値化し、統計的に分析した。
【0123】
また、1次抗体として抗DSG1抗体または抗CLDN4抗体を用いた試験を同様に行った。このとき、タンパク質を定量化するための基準となるアクチンを検出するために、抗アクチン抗体を用いた。このとき用いたNHEKは、IL-13を100ng/mL含む培地による刺激を48時間行ったNHEKである。
【0124】
図6は、1次抗体として抗リン酸化JNK抗体を用いた試験の結果である。図7は、1次抗体として抗CLDN4抗体を用いた試験の結果である。図8は、1次抗体として抗DSG1抗体を用いた試験の結果である。
【0125】
図6の「siCTRL」、「siCTRL+IL-13 50ng/ml」および「siCTRL+IL-13 100ng/ml」の試験結果の比較から明らかなように、一次繊毛を増加させると、JNKの発現量が増加した。
【0126】
図6の「siCTRL+IL-13 50ng/ml」および「siIFT88+IL-13 50ng/ml」の試験結果の比較、並びに、「siCTRL+IL-13 100ng/ml」および「siIFT88+IL-13 100ng/ml」の試験結果の比較から明らかなように、一次繊毛を減少させると、JNKの発現量が減少した。
【0127】
図7および図8の「siCTRL」および「siCTRL+IL-13」の試験結果の比較から明らかなように、一次繊毛を増加させると、DSG1およびCLDN4の発現量が減少した。
【0128】
図7および図8の「siCTRL」および「siIFT88」の試験結果の比較から明らかなように、一次繊毛を減少させると、DSG1およびCLDN4の発現量が増加した。
【0129】
なお、図7および図8では、細胞をsiIFT88およびIL-13の両方で刺激すると、DSG1およびCLDN4の発現量は、細胞をsiIFT88およびIL-13で刺激していない場合の発現量と略同じになった(「siCTRL」および「siIFT88+IL-13」の試験結果の比較)。
【0130】
したがって、一次繊毛の調整によって、免疫関連細胞の一次繊毛だけでなく、免疫関連細胞の一次繊毛に関連するタンパク質の発現量も調整可能であることが示された。
【産業上の利用可能性】
【0131】
本発明は、免疫関連細胞の一次繊毛の調整方法および調整剤、並びに、試験試料の評価方法として好適に利用することができる。特許文献1に記載のとおり、免疫関連細胞の一次繊毛と免疫関連疾患とが相関していることから、免疫関連細胞の一次繊毛を調整する本発明によれば、例えば、免疫関連疾患の指標の検出、免疫関連疾患の罹患の有無の診断の補助または免疫関連疾患の予後の診断の補助、免疫関連疾患の治療または免疫関連疾患抑制剤による免疫関連疾患に対する抑制効果の評価ならびに被験試料が免疫機能制御作用を有する物質であるかどうかの評価を行なうことができる。また、免疫関連細胞の一次繊毛は、免疫関連細胞の増殖および免疫関連疾患に関与していることから、免疫関連細胞の一次繊毛の形成を制御することにより、免疫機能の制御を行なうこともできる。したがって、本発明は、免疫関連疾患の検査、免疫関連疾患の罹患の有無の診断の補助または免疫関連疾患の予後の診断の補助、免疫関連疾患の治療薬の開発、免疫関連疾患を抑制するための医薬部外品または化粧料成分の開発などに用いられることが期待されるものである。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8