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  • 特許-真空蒸着装置用の蒸着源 図1
  • 特許-真空蒸着装置用の蒸着源 図2
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2025-04-07
(45)【発行日】2025-04-15
(54)【発明の名称】真空蒸着装置用の蒸着源
(51)【国際特許分類】
   C23C 14/24 20060101AFI20250408BHJP
【FI】
C23C14/24 A
【請求項の数】 3
(21)【出願番号】P 2021071426
(22)【出願日】2021-04-20
(65)【公開番号】P2022165867
(43)【公開日】2022-11-01
【審査請求日】2024-01-26
(73)【特許権者】
【識別番号】000231464
【氏名又は名称】株式会社アルバック
(74)【代理人】
【識別番号】110000305
【氏名又は名称】弁理士法人青莪
(72)【発明者】
【氏名】中村 寿充
(72)【発明者】
【氏名】吉瀬 寿彦
【審査官】今井 淳一
(56)【参考文献】
【文献】特開2008-174803(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C23C 14/24
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
真空チャンバ内に配置されて、蒸着材料を気化または昇華させて被蒸着物に対して蒸着するための真空蒸着装置用の蒸着源であって、
蒸着材料が充填される箱部とこの箱部の上面開口を着脱自在に塞ぐ蓋板部とを有する容器とこの容器内の蒸着材料を加熱する加熱手段とを備え、蓋板部に、加熱により気化または昇華して容器内の空間に拡散する蒸着材料の真空チャンバ内への放出を可能とする放出通路が形成されるものにおいて、
蒸着材料側の第1空間と容器内を臨む放出通路の流入口側の第2空間とに仕切るコンダクタンス調整板が容器内に組み込まれ、コンダクタンス調整板は、上下方向と直交する方向にのびて容器に軸支される回転軸を有して、駆動機構を介して回転軸回りに回動自在であり、
コンダクタンス調整板に、板厚方向に貫通する分散孔とコンダクタンス調整板の回動位置に応じて放出通路の流入口を選択的に遮る弁部材とが設けられ、
弁部材は、前記コンダクタンス調整板の外周縁部に沿って設けたフランジで構成されることを特徴とする真空蒸着装置用の蒸着源。
【請求項2】
前記分散孔は、前記第1空間と前記第2空間とを仕切る前記コンダクタンス調整板の仕切姿勢にて、前記放出通路の孔軸上からオフセットさせて設けられることを特徴とする請求項1記載の真空蒸着装置用の蒸着源。
【請求項3】
前記回転軸の一端が、前記箱部に上下方向に貫通させて設けた格納空間内に突出し、格納空間内に、回転軸を回転駆動するリンク機構と、リンク機構に連結される操作竿とが配置され、操作竿の下端が真空チャンバの壁面から突出し、この突出した操作竿の部分に真空ベローズを介してアクチュエータが接続され、リンク機構にこれを上方に向けて付勢するコイルばねが設けられ、常時は、コイルばねによりリンク機構が付勢され、前記コンダクタンス調整板が前記第1空間と前期第2空間とを仕切る仕切姿勢となるように前記駆動機構を構成したことを特徴とする請求項1記載の真空蒸着装置用の蒸着源。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、真空チャンバ内に配置され、蒸着材料を気化または昇華させて被蒸着物に対して蒸着するための真空蒸着装置用の蒸着源に関する。
【背景技術】
【0002】
例えば、有機EL素子の製造工程においては、真空雰囲気中で基板などの被蒸着物に対して、α-NPDや2-TNATAといった固体の蒸着材料(有機材料)を気化または昇華させて被蒸着物表面に所定の薄膜を蒸着する工程があり、蒸着工程には、一般に、真空蒸着装置が利用される。このような真空蒸着装置に用いられる蒸着源として、蒸着材料が充填される容器としての坩堝と、坩堝を加熱する加熱手段とを備えるものが知られている。そして、真空雰囲気中の真空チャンバ内で坩堝を加熱し、坩堝壁面からの伝熱や輻射熱で蒸着材料を加熱して気化(「昇華」も含む)させ、この気化したものを真空チャンバ内との圧力差で坩堝に形成した放出開口から放出させることで、被蒸着物表面に所定の薄膜が蒸着(成膜)される。
【0003】
ここで、被蒸着物表面に蒸着するときの蒸着レートは、主として加熱手段により坩堝に加える単位時間当たりの熱量で調節されるが、坩堝の熱容量や坩堝壁面から蒸着材料への熱伝達速度により応答性よく蒸着レートを調節することが難しい。そこで、蒸着材料が充填されると共に加熱手段を有する気化容器と、気化した蒸着材料を内部で拡散させると共にこの拡散されたものを放出する放出通路が形成された拡散容器とを備え、流量調整弁を介設した連通管で気化容器と拡散容器とを連結した蒸着源が例えば特許文献1で知られている。このものでは、通常、蒸着材料の気化量が安定しない加熱開始当初、流量調整弁を閉弁しておき、気化量が安定すると、流量調整弁を所定の開度で開弁する。これにより、気化容器内で気化した蒸着材料が気化容器と拡散容器との圧力差で連通管を通って拡散容器に導入されて拡散し、この拡散されたものが真空チャンバ内との圧力差で放出通路から放出される。そして、成膜中には、流量調整弁の開度を制御すれば、蒸着レートを調整することができる。
【0004】
然しながら、上記従来例のものでは、気化容器、拡散容器、流量調整弁を介設した連通管といった複数の構成部品が必要であるため、蒸着源が大型化し、ひいては、真空蒸着装置の大型化を招来するという問題がある。しかも、構成部品毎に加熱手段も必要になり、気化容器を安定して温度調整しようとすると、気化容器以外の構成部品からの伝熱等を考慮する必要があり、これでは、各加熱手段の制御が複雑になる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特許第6207319号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、以上の点に鑑み、装置の大型化や制御の複雑化を回避しながら、応答性よく蒸着レートを調節できるという機能を損なうことがない真空蒸着装置用の蒸着源を提供することをその課題とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決するために、真空チャンバ内に配置されて、蒸着材料を気化または昇華させて被蒸着物に対して蒸着するための本発明の真空蒸着装置用の蒸着源は、蒸着材料が充填される容器とこの容器内の蒸着材料を加熱する加熱手段とを備え、容器にこの容器内を臨む流入口を有して加熱により気化または昇華した蒸着材料の真空チャンバ内への放出を可能とする放出通路を備え、容器内に、その内部を蒸着材料側の第1空間と流入口側の第2空間とに仕切るコンダクタンス調整板が回動自在に組み込まれ、コンダクタンス調整板に、板厚方向に貫通する分散孔とコンダクタンス調整板の回動位置に応じて放出通路の流入口を選択的に遮る弁部材とが設けられることを特徴とする。
【0008】
本発明によれば、容器内の第1空間に例えば粉末状の蒸着材料を所定の充填率で充填し、回動が阻害されない最小の隙間を持って容器内に組み込まれたコンダクタンス調整板を回動させてその弁部材が放出通路の流入口を遮る遮蔽姿勢にする。そして、真空雰囲気中の真空チャンバ内で容器を加熱手段により加熱すると、容器壁面からの伝熱や輻射熱で蒸着材料が加熱されて気化(「昇華」も含む)を開始する。このとき、コンダクタンス調整板も輻射熱で加熱されるため、コンダクタンス調整板用の加熱手段は特段必要としない。蒸着材料の気化開始後、コンダクタンス調整板を回動させて仕切姿勢にする。これにより、蒸着材料が順次気化している第1空間と第2空間との間に圧力差が生じて、第1空間内で気化した蒸着材料が分散孔を通って第2空間に導入され、この導入された蒸着材料が第2空間との圧力差で放出通路を通って真空チャンバに放出されて被蒸着物表面に、容器に加える単位時間当たりの熱量を一定とした場合における最小の蒸着レートで蒸着(成膜)される。なお、分散孔の数、面積や配置は、例えば、容器に複数個の放出通路が形成されているような場合、各放出通路に略均等に気化した蒸着材料が導入されるように適宜設定される。蒸着レートを速める場合には、コンダクタンス調整板が仕切姿勢と遮蔽姿勢との間で適宜回動される。これにより、コンダクタンス調整板の外周縁部と容器の内壁面との間にも第1空間と第2空間とを連通する連通路が形成され、第1空間内で気化した蒸着材料が分散孔に加えて連通路を通って第2空間に導入されることで、蒸着レートを速めることができる。この場合、コンダクタンス調整板の傾きに応じて連通路の通路面積が増減するため、蒸着レートを適宜調整することが可能になる。
【0009】
このように本発明では、弁部材で放出通路の流入口が遮られることで、気化した蒸着材料の真空チャンバへの放出を防止するという閉止機能を持ちながら蒸着レートの調節が可能なコンダクタンス調整板を容器内に組み込んだため、上記従来例のように蒸着源が大型化するといった問題は生じず、また、容器に加える熱量のみを調整すればよいため、加熱手段の制御が簡単で済む。しかも、回動するコンダクタンス調整板の傾きを調整すれば蒸着レートを変化させることができるため、応答性よく蒸着レートを調節できるという機能は損なわれない。
【0010】
ここで、上記従来例のものでは、例えば、複数の被蒸着物への成膜が完了し、蒸着を停止する場合、連通路の流量調整弁を閉弁し、加熱手段を停止することになるが、このとき、拡散容器内には、その容積に応じて蒸着材料が残留しており、この残留した蒸着材料が無駄になる。それに対して、本願発明では、蒸着を停止する場合、コンダクタンス調整板を回動して遮蔽姿勢にした状態で加熱手段が停止される。このとき、蒸着材料は放出通路にしか残留しないため、無駄になる蒸着材料を少なくすることができ、有利である。
【0011】
また、加熱手段により容器内の蒸着材料を加熱して気化させたとき(特に、蒸着材料の加熱が未だ安定しない成膜開始当初に)、蒸着材料の気化部分で所謂スプラッシュが発生して塊状の蒸着材料が放出通路から放出される場合があり、これでは、良好な成膜が阻害される虞がある。本発明においては、前記分散孔は、前記第1空間と前記第2空間とを仕切る前記コンダクタンス調整板の仕切姿勢にて、前記放出通路の孔軸上からオフセットさせて設けられることが好ましい。これにより、塊状の蒸着材料が被蒸着物表面に付着するといった不具合を回避することができ、有利である。
【0012】
本発明においては、前記弁部材は、前記コンダクタンス調整板の外周縁部に沿って設けたフランジで構成しておけば、少ない部品点数で放出通路の流入口を選択的に遮る構成が実現でき、有利である。
【図面の簡単な説明】
【0013】
図1】本発明の実施形態の蒸着源を備える真空蒸着装置を模式的に示す断面図。
図2】本実施形態の蒸着源の拡大断面図であり、(a)は、コンダクタンス調整板の仕切姿勢、(b)は、コンダクタンス調整板の遮蔽姿勢で示す。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、図面を参照して、被蒸着物を矩形の輪郭を持つ所定厚さのガラス基板(以下、「基板Sw」という)、蒸着材料を加熱により固体の有機材料Msとし、基板Swの一方の面に所定の有機膜を蒸着する場合を例に本発明の真空蒸着装置用の蒸着源の実施形態を説明する。以下において、「上」、「下」といった方向を示す用語は、真空蒸着装置の設置姿勢で示す図1を基準にする。
【0015】
図1を参照して、本実施形態の蒸着源DSを備える真空蒸着装置Dmは、真空チャンバ1を備え、真空チャンバ1には、特に図示して説明しないが、排気管を介して真空ポンプが接続され、所定圧力(真空度)に真空排気して真空雰囲気を形成することができる。また、真空チャンバ1の上部には基板搬送装置2が設けられている。基板搬送装置2は、成膜面としての下面を開放した状態で基板Swを保持するキャリア21を有し、図外の駆動装置によってキャリア21、ひいては基板Swを真空チャンバ1内の一方向に所定速度で搬送することができる。基板搬送装置2としては公知のものが利用できるため、これ以上の説明は省略する。
【0016】
基板搬送装置2によって搬送される基板Swと蒸着源DSとの間には、板状のマスクプレート3が設けられている。本実施形態では、マスクプレート3は、基板Swと一体に取り付けられて基板Swと共に基板搬送装置2によって搬送される。なお、マスクプレート3は、真空チャンバ1に予め固定配置しておくこともできる。マスクプレート3には、板厚方向に貫通する複数の開口31が形成され、これら開口31がない位置にて、気化した有機材料Msの基板Swに対する蒸着範囲が制限されることで所定のパターンで基板Swに成膜(蒸着)されるようになっている。マスクプレート3としては、インバー、アルミ、アルミナやステンレス等の金属製の他、ポリイミド等の樹脂製のものが用いられる。そして、真空チャンバ1の底面には、基板Swに対向させて本実施形態の蒸着源DSが設けられている。
【0017】
図2(a)及び(b)も参照して、蒸着源DSは、有機材料Msが所定の充填率で充填される箱部4と、箱部4の上面開口を着脱自在に塞ぐ蓋板部5とで構成される、略楕円形状の輪郭を持つ容器Mbを備え、容器Mbの周囲には加熱手段Htが配置されている。加熱手段Htとしては、シースヒータやランプヒータ等の公知のものが利用でき、また、誘導加熱式で容器Mbを加熱する誘導加熱コイルで構成することができる。容器Mbは、ステンレス鋼(SUS304等)、チタン、タンタル、タングステン、モリブデンやカーボンといった熱伝導が良く、高融点の材料(耐熱性を有する)から形成されている。蓋板部5の下面は、最小の隙間を持って後述のコンダクタンス調整板の回動を許容するように湾曲面として形成されている。そして、蓋板部5には、その長軸線上に位置させて所定間隔で蓋板部5の下面から上面に達する複数の放出通路51が形成され、箱部4への蓋板部5の装着状態で蓋板部5の下面に開口する放出通路51の流入口51aが容器Mb内を臨むようになっている。放出通路51の通路断面積、数や配置は、基板Swに成膜したときの膜厚分布などを考慮して適宜設定され、本実施形態では、長軸方向一端に位置する放出通路51は、上下方向に対して所定角度で傾けている。
【0018】
容器Mb内には、この容器Mbに対応する略楕円形状の輪郭を持つ(即ち、容器Mb内側面から最小の隙間を存して)コンダクタンス調整板6が組み込まれ、コンダクタンス調整板6により容器Mb内部が蒸着材料Ms側の第1空間4aと流入口51a側の第2空間5aとに仕切ることができるようにしている。コンダクタンス調整板6には、長軸線上に位置させて回転軸61,61が夫々突出され、回転軸61,61が箱部4の上端面で軸支されている。この場合、長軸方向他端に位置する回転軸61は、箱部4に上下方向に貫通させて設けた格納空間62内に突出している。
【0019】
格納空間62内には、回転軸61を回転駆動するリンク機構63と、リンク機構63に連結される操作竿64とが配置されている。操作竿64の下端は、格納空間62に連通して真空チャンバ1の壁面に形成した透孔11を通って真空チャンバ1外までのび、真空チャンバ1の壁面から突出する操作竿64の部分には、真空ベローズ65を介してエアシリンダなどのアクチュエータ66に接続されている。リンク機構63にはまた、これを上方に向けて付勢するコイルばね67が設けられている。常時は、コイルばね67によりリンク機構63が付勢され、コンダクタンス調整板6が第1空間4aと第2空間5aとを仕切る仕切姿勢(水平な姿勢)となる(図2(a)参照)。そして、アクチュエータ66によりコイルばね67の付勢力に抗して操作竿64を下方に移動させると、リンク機構63を介してコンダクタンス調整板6が回転軸61,61回りに回動される。
【0020】
コンダクタンス調整板6には、板厚方向に貫通して第1空間4aと第2空間5aとを連通する複数個の分散孔6aが形成されている。分散孔6aの数、開口面積や配置などは、各放出通路51の流入口51aに略均等に気化した有機材料Msが供給されると共に、有機材料Msを成膜するときに必要となる最小の蒸着レートを考慮して適宜設定される。また、各分散孔6aは、コンダクタンス調整板6の仕切姿勢にて、放出通路51の孔軸51b上からオフセットさせて形成される。コンダクタンス調整板6の外周縁部には、弁部材としてのフランジ6bが設けられている。本実施形態では、フランジ6bが、コンダクタンス調整板6の板厚方向両側に延出させて形成され、コンダクタンス調整板6を回転軸61,61回りに所定角だけ回動させると、フランジ6bで各放出通路51の各流入口51aを一斉に遮ることができるように、コンダクタンス調整板6の略半分の円弧部分に亘って一体に形成されている。これにより、操作竿64を下方に移動させてコンダクタンス調整板6を回転軸61,61回りに略90度回動させると、コンダクタンス調整板6が、フランジ6bで各放出通路51の各流入口51aを一斉に遮る遮蔽姿勢になる(図2(b)参照)。
【0021】
以上の蒸着源DSを備えて真空蒸着装置Dmにより基板Swにマスクプレート3越しに成膜する場合、コンダクタンス調整板6を例えば手動で適宜回動させて、容器Mbの箱部4内に粉末状の有機材料Msを所定の充填率で充填する。有機材料Msを充填した後、コンダクタンス調整板6は、コイルばね67の付勢力で仕切姿勢に戻る。そして、容器Mb内を含む真空チャンバ1を真空排気すると共に、コンダクタンス調整板6を遮蔽姿勢にした状態で加熱手段Htにより容器Mb内の有機材料Msを加熱する。すると、容器Mb壁面からの伝熱や輻射熱で有機材料Msが加熱されて気化(「昇華」も含む)を開始する。このとき、コンダクタンス調整板6もまた輻射熱で加熱されるため、コンダクタンス調整板6用の加熱手段は特段必要としない。また、コンダクタンス調整板6が遮蔽姿勢であるため、気化した有機材料Msが真空雰囲気の真空チャンバ1内に放出されることはない。
【0022】
次に、有機材料Msの気化が安定し、また、真空チャンバ1が所定圧力まで真空排気されたことが確認されると、コンダクタンス調整板6を回動して仕切姿勢にする。また、基板搬送手段2により基板Swが蒸着源DSに対向する所定位置に搬送される。すると、有機材料Msが順次気化している第1空間4aと第2空間5aとの間に圧力差が生じて、第1空間4a内で気化した有機材料Msが各分散孔6aを通って第2空間5aに導入されて拡散される。この拡散された有機材料Msが真空チャンバ1内と第2空間5aとの圧力差で各放出通路51を通って真空チャンバ1に放出される。これにより、基板Swの下面に、容器Mbに加える単位時間当たりの熱量を一定とした場合における最小の蒸着レートで有機膜が成膜(成膜)される。蒸着レートを速める場合には、コンダクタンス調整板6が仕切姿勢と遮蔽姿勢の間で適宜回動される。これにより、コンダクタンス調整板6の外周縁部と容器4の内壁面との間にも第1空間4aと第2空間5aとを連通する連通路(図示せず)が形成され、第1空間4a内で気化した有機材料Msが各分散孔6aに加えて連通路を通って第2空間5aに導入されることで、蒸着レートを速めることができる。この場合、コンダクタンス調整板6の傾きに応じて連通路の通路面積が増減するため、蒸着レートを適宜調整することが可能になる。
【0023】
以上によれば、弁部材としてのフランジ6bで放出通路51の流入口51aを一斉に遮ることで、気化した有機材料Msの真空チャンバ1への放出を防止するという閉止機能を持ちながら蒸着レートの調節が可能なコンダクタンス調整板6を容器Mb内に組み込んだため、上記従来例のように蒸着源が大型化するといった問題は生じず、また、加熱手段Htにより容器Mbに加える熱量のみを調整すればよいため、加熱手段Htの制御が複雑化するといった不具合は生じない。しかも、回動するコンダクタンス調整板6の傾きを調整すれば蒸着レートを変化させることができるため、応答性よく蒸着レートを調節できるという機能は損なわれない。
【0024】
また、複数枚の基板Swの成膜が完了して蒸着を停止する場合には、コンダクタンス調整板6を再度回動して遮蔽姿勢にし、加熱手段Htの作動を停止する。このとき、有機材料Msは、放出通路51にしか残留しないため、無駄になる有機材料Msを少なくすることができる。また、基板Swへの成膜当初には、有機材料Msの気化部分で所謂スプラッシュが発生して塊状の有機材料Msが各放出通路51から放出される場合があるが、コンダクタンス調整板6の仕切姿勢にて各分散孔6aが、放出通路51の孔軸51b上からオフセットさせて設けられるため、塊状の有機材料Msが基板Swに付着するといった不具合を回避することができる。
【0025】
以上、本発明の実施形態について説明したが、本発明の技術思想の範囲を逸脱しない限り、種々の変形が可能である。上記実施形態では、容器Mbが楕円形状の輪郭を持つものを例に説明したが、これに限定されるものはなく、矩形や円形の輪郭を持つものにも本発明は適用できる。また、上記実施形態では、仕切姿勢にて第1空間4aと第2空間5aとが雰囲気分離されるように(即ち、コンダクタンス値が所定値になることで、隙間を通して第1空間4aで気化した有機材料Msの第2空間5aへの流入が可及的に抑制されるように)コンダクタンス調整板6を形成し、容器Mbの内側面との間に最小の隙間を持って配置したものを例に説明したが、これに限定されるものではなく、例えば、所定の流量で気化した有機材料Msが第2空間5aに流入するように、コンダクタンス調整板6の外周面と、容器Mbの内側面との間に予め所定の大きさの隙間を設けるようにしてもよい。
【0026】
また、上記実施形態では、コンダクタンス調整板6の外周縁部にフランジ6bを設け、これを弁部材として機能させるものを例に説明したが、これに限定されるものではなく、弁部材は、コンダクタンス調整板6の別部品として別途設けることもできる。また、コンダクタンス調整板6を回動させる駆動機構も上記のものに限定されるものではなく、公知のものから適宜構成することができる。
【符号の説明】
【0027】
DS…真空蒸着装置用の蒸着源、Dm…真空蒸着装置、Ht…加熱手段、Mb…容器、Ms…有機材料(蒸着材料)、Sw…基板(被蒸着物)、1…真空チャンバ、51…放出通路、51a…流入口、51b…放出通路の孔軸、4a…第1空間、5a…第2空間、6…コンダクタンス調整板、6a…分散孔、6b…フランジ(弁部材)。
図1
図2