(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2025-04-07
(45)【発行日】2025-04-15
(54)【発明の名称】エポキシ樹脂、その組成物および硬化物
(51)【国際特許分類】
C08G 59/06 20060101AFI20250408BHJP
【FI】
C08G59/06
(21)【出願番号】P 2021139814
(22)【出願日】2021-08-30
【審査請求日】2024-06-10
(73)【特許権者】
【識別番号】000006644
【氏名又は名称】日鉄ケミカル&マテリアル株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100132230
【氏名又は名称】佐々木 一也
(74)【代理人】
【識別番号】100088203
【氏名又は名称】佐野 英一
(74)【代理人】
【識別番号】100100192
【氏名又は名称】原 克己
(74)【代理人】
【識別番号】100198269
【氏名又は名称】久本 秀治
(72)【発明者】
【氏名】大村 昌己
(72)【発明者】
【氏名】スレスタ ニランジャン
(72)【発明者】
【氏名】大神 浩一郎
【審査官】櫛引 智子
(56)【参考文献】
【文献】特開昭62-145054(JP,A)
【文献】特開2012-079415(JP,A)
【文献】国際公開第2021/201046(WO,A1)
【文献】特開2023-000691(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08G
CAplus/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記一般式(1)で表されるエポキシ樹脂であって、エポキシ当量が230~350g/eq、軟化点が130℃以下であることを特徴とするエポキシ樹脂。
【化1】
(但し、Xは、独立して、直接結合、酸素原子、硫黄原子、-SO
2-、-CO-、-COO-、-CONH-、-CH
2-又は-C(CH
3)
2-を示し、nは0~15の数を示す。)
【請求項2】
ゲルパーミエーションクロマトグラフィーで測定した面積%(GPC面積%)で、n=0である成分が40%以下であることを特徴とする請求項1に記載のエポキシ樹脂。
【請求項3】
請求項1または2に記載のエポキシ樹脂を必須成分とすることを特徴とするエポキシ樹脂組成物。
【請求項4】
請求項3に記載のエポキシ樹脂組成物を硬化させて得られるエポキシ樹脂硬化物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、エポキシ樹脂、エポキシ樹脂組成物、及びエポキシ樹脂硬化物に関し、詳しくは、半導体封止、積層板、放熱基板等の電気・電子部品用絶縁材料に有用な常温で固形としての取扱性、成形時の低粘度性、溶剤溶解性に優れたエポキシ樹脂、エポキシ樹脂組成物、及びそれらを硬化させて得られる耐熱性、熱分解安定性、熱伝導性、優れるエポキシ樹脂硬化物に関する。
【背景技術】
【0002】
エポキシ樹脂は工業的に幅広い用途で使用されてきているが、その要求性能は近年ますます高度化している。電子回路の高密度化、高周波化が進む電気・電子分野、パワーエレクトロニクス分野においては、電子回路からの発熱が大きくなっていることから、絶縁部に用いられるエポキシ樹脂組成物の放熱性が問題となっている。この放熱性については、従来はフィラーの熱伝導性で賄っていたが、更なる高集積化に向けて、マトリクスであるエポキシ樹脂自体の熱伝導性の向上が求められるようになってきた。
【0003】
高熱伝導性に優れたエポキシ樹脂組成物としては、メソゲン構造を有するエポキシ樹脂を用いたものが知られており、例えば、特許文献1には、ビフェノール型エポキシ樹脂と多価フェノール樹脂硬化剤を必須成分としたエポキシ樹脂組成物が示され、高温下での安定性と強度に優れ、接着、注型、封止、成型、積層等の広い分野で使用できることが開示されている。また、特許文献2には、屈曲鎖で連結された二つのメソゲン構造を分子内に有するエポキシ化合物の開示がある。さらに、特許文献3には、メソゲン基を有するエポキシ化合物を含む樹脂組成物の開示がある。
【0004】
しかし、このようなメソゲン構造を有するエポキシ樹脂は融点が高く、混合処理を行う場合、高融点成分が溶解し難く溶け残りを生じるため、硬化性や耐熱性が低下する問題があった。また、このようなエポキシ樹脂を硬化剤と均一に混合するには、高温が必要であった。高温では、エポキシ樹脂の硬化反応が急速に進みゲル化時間が短くなるため、混合処理は厳しく制限され取り扱いが難しいという問題があった。そして、その欠点を補うために溶解性の良いの第3成分を添加すると、樹脂の融点が低下して均一混合しやすくなるが、その硬化物は熱伝導率が低下するという問題を生じた。
【0005】
溶融混合処理が可能な高熱伝導樹脂として、特許文献4においてヒドロキノンと4,4’-ジヒドロキシビフェニルの混合物をエポキシ化したエポキシ樹脂が開示されており、特許文献5においては、4,4’-ジヒドロキシジフェニルメタンと4,4’-ジヒドロキシビフェニルの混合物をエポキシ化したエポキシ樹脂が開示されている。しかしながら、これらの樹脂は溶剤溶解性に乏しく、適用用途が限定されていた。特許文献6において、ジフェニルエーテル構造を有するエポキシ樹脂の組成物が開示されているが、硬化剤が限定されており、フェノールノボラック等の汎用の硬化剤では熱伝導率および耐熱性が不十分であった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】特開平7-90052号公報
【文献】特開平9-118673号公報
【文献】特開平11-323162号公報
【文献】WO2009/110424号
【文献】特開2010-43245号公報
【文献】特開2012-17405号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
従って、本発明の目的は、上記問題を解消し、信頼性に優れた半導体封止、積層板、放熱基板等の電気・電子部品用絶縁材料に有用な常温で固形としての取扱性に優れ、かつ成形時の低粘度性、溶剤溶解性に優れたエポキシ樹脂、及びこれを用いたエポキシ樹脂組成物、並びにそれから得られる高熱伝導性に優れた硬化物を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、鋭意検討により、ベンゾニトリル構造を有する特定のエポキシ樹脂が上記の課題を解決することが期待されること、そしてその硬化物が熱伝導性、耐熱性に効果を発現することを見出した。
【0009】
すなわち、本発明は、下記一般式(1)で表されるエポキシ樹脂であって、エポキシ当量が230~350g/eq、軟化点が130℃以下であることを特徴とするエポキシ樹脂である。
【化1】
(但し、Xは、独立して、直接結合、酸素原子、硫黄原子、-SO
2-、-CO-、-COO-、-CONH-、-CH
2-又は-C(CH
3)
2-を示し、nは0~15の数を示す。)
【0010】
上記一般式(1)において、ゲルパーミエーションクロマトグラフィーで測定した面積%(GPC面積%)で、n=0である成分が40%以下であることが好ましい。
【0011】
さらに、本発明は上記のエポキシ樹脂、及び硬化剤を必須成分とすることを特徴とするエポキシ樹脂組成物であり、また、このエポキシ樹脂硬化物を硬化させたことを特徴とするエポキシ樹脂硬化物である。
【発明の効果】
【0012】
本発明のエポキシ樹脂は、100℃以下での溶融混練性が良好であり、溶剤溶解性に優れるので、積層、成形、注型、接着等の用途に使用されるエポキシ樹脂組成物及びその硬化物に適する。そして、この硬化物は耐熱性、熱分解安定性、熱伝導性にも優れたものとなるので、電気・電子部品類の封止、回路基板材料等に好適である。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【
図1】実施例1で得られたエポキシ樹脂のGPCチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明を詳細に説明する。
【0015】
まず、本発明は、一般式(1)で表されるエポキシ樹脂であって、エポキシ当量が230~350g/eq、軟化点が130℃以下であることを特徴とするエポキシ樹脂である。
【化2】
Xは、独立して、直接結合、酸素原子、硫黄原子、-SO
2-、-CO-、-COO-、-CONH-、-CH
2-又は-C(CH
3)
2-を示し、nは0~15の数を示す。高熱伝導性の点で、Xは直接結合であるビフェニル構造、-SO
2-、-CO-、-COO-、-CONH-が好ましく、4,4’位のビフェニル構造が特に好ましい。一方、成型性、溶剤溶解性の点で、酸素原子、硫黄原子、-CH
2-、-C(CH
3)
2-が好ましい。その際、前記「独立して」としたように、本発明の式(1)のエポキシ樹脂は、Xが異なる構造の混合物とすることことが可能であり、高熱伝導性、成型性、溶剤溶解性を調整することが可能である。なお、当該Xに直接結合(ビフェニル構造)が含まれる場合には、高熱伝導性、成型性、溶剤溶解性などの調整の観点から、そのXの全てが直接結合ではないことが好ましい。なお、Xに直接結合が含まれる場合には、その含有量は、原料化合物の質量に基づいて、70質量%以下が好ましく、30質量%~70質量%であることがより好ましい。
【0016】
nは繰り返し数(数平均)であり、0~15の数を示す。好ましくは、nの値が異なる成分の混合物である。また、ゲルパーミエーションクロマトグラフィーで測定した面積%(GPC面積%)で、n=0のものは40%以下が好ましい。より好ましくは、30%以下である。n=0のものが40%より多く含まれている場合、結晶性が強く、融点が130℃以上となり、溶剤溶解性も低下する傾向がある。また、nが15よりも大きいものは、反応性が低く、硬化時に未反応となる成分が生じると耐熱性が低下する。
【0017】
本発明のエポキシ樹脂の軟化点は、130℃以下の範囲である。130℃よりも高いと溶融混練性が低下し、結晶性を有する場合はさらに溶剤溶解性も低下する。なお、封止材用途など、べたつきによるブロッキングが防止されることが好ましい用途・分野においては、軟化点が低すぎないことがよく、その場合の好ましい軟化点は50~120℃、より好ましくは60~110℃である。
【0018】
本発明のエポキシ樹脂のエポキシ当量は、230~350の範囲である。この範囲より大きいと反応性が低く、硬化時に未反応となる成分が生じ、耐熱性、信頼性が低下する。この範囲より小さいとベンゾニトリル構造を含まない二官能エポキシ樹脂成分が多くなることを示し、二官能の結晶性エポキシ樹脂が多い場合は溶剤溶解性、溶融混練性が低下し、二官能の液状エポキシ樹脂が多い場合は硬化物の耐熱性、熱伝導率が低下する。
【0019】
本発明のエポキシ樹脂の製法は、特に限定されるものではないが、下記式(2)のベンゾニトリル構造を持つフェノール性化合物とエピクロルヒドリンを反応させることにより製造することができる。この反応は、通常のエポキシ化反応と同様に行うことができる。
【化3】
(但し、Xは、独立して、直接結合、酸素原子、硫黄原子、-SO
2-、-CO-、-COO-、-CONH-、-CH
2-又は-C(CH
3)
2-を示し、nは0~15の数を示す。)
式(2)で表されるフェノール性化合物は、水酸基当量(g/eq)が、好ましくは1150~250、より好ましくは180~230である。また、融点が、好ましくは140℃~300℃、より好ましくは150℃~280℃である。
【0020】
ここで、この式(2)で表されるフェノール性化合物については、限定されないが、例えば、2,4-ジクロロベンゾニトリル、2,5-ジクロロベンゾニトリル、2,6-ジクロロベンゾニトリル、3,5-ジクロロベンゾニトリル、2,4-ジブロモベンゾニトリル、2,5-ジブロモベンゾニトリル、2,6-ジブロモベンゾニトリル、3,5-ジブロモベンゾニトリルなどのベンゾニトリル化合物に対して、4,4’-ジヒドロキシビフェニル、4,4’-ジヒドロキシジフェニルエーテル、4,4’-ジヒドロキシジフェニルスルフィド、4,4’-ジヒドロキシジフェニルスルホン、4,4’-ジヒドロキシベンゾフェノン、ビスフェノールA、ビスフェノールF等の、上記X基を持つジヒドロキシ化合物を塩基性触媒の存在下に反応させる方法により得ることができる。
【0021】
式(2)のフェノール性化合物とエピクロルヒドリンとの反応は、例えば、フェノール性化合物を過剰のエピクロルヒドリンに溶解した後、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム等のアルカリ金属水酸化物の存在下に、50~150℃、好ましくは、60~100℃の範囲で1~10時間反応させる方法が挙げられる。この際の、アルカリ金属水酸化物の使用量は、ジヒドロキシ体中の水酸基1モルに対して、0.8~2.0モル、好ましくは、0.9~1.5モルの範囲である。エピクロルヒドリンは、フェノール性化合物中の水酸基に対して過剰量が用いられ、通常は、フェノール性化合物中の水酸基1モルに対して、1.5から15モルである。反応終了後、過剰のエピクロルヒドリンを留去し、残留物をトルエン、メチルイソブチルケトン等の溶剤に溶解し、濾過し、水洗して無機塩を除去し、次いで溶剤を留去することにより目的のエポキシ樹脂を得ることができる。
【0022】
本発明のエポキシ樹脂は、ベンゾニトリル構造を持つフェノール性化合物とベンゾニトリル構造を持たない他のフェノール性化合物と混合させたものを用いて合成することもできる。この場合のベンゾニトリル構造を持つフェノール性化合物の混合比率は50wt%以上である。また、他のフェノール性化合物には特に制約はなく、一分子中に水酸基を2個以上有するものの中から選択される。
【0023】
このベンゾニトリル構造を持つエポキシ樹脂の純度、特に加水分解性塩素量は、適用する電子部品の信頼性向上の観点より少ない方がよい。特に限定するものではないが、好ましくは1000ppm以下、さらに好ましくは500ppm以下である。なお、本発明でいう加水分解性塩素とは、以下の方法により測定された値をいう。すなわち、試料0.5gをジオキサン30mlに溶解後、1N-KOH、10mlを加え30分間煮沸還流した後、室温まで冷却し、さらに80%アセトン水100mlを加え、0.002N-AgNO3水溶液で電位差滴定を行い得られる値である。
【0024】
本発明のエポキシ樹脂組成物には、必須成分として使用される式(1)のベンゾニトリル構造を持つエポキシ樹脂以外に、エポキシ樹脂成分として分子中にエポキシ基を2個以上有する他のエポキシ樹脂を併用してもよい。例を挙げれば、ビスフェノールA、ビスフェノールF、3,3',5,5'-テトラメチル-4,4'-ジヒドロキシジフェニルメタン、4,4'-ジヒドロキシジフェニルスルホン、4,4'-ジヒドロキシジフェニルスルフィド、4,4'-ジヒドロキシジフェニルケトン、フルオレンビスフェノール、4,4'-ビフェノール、3,3',5,5'-テトラメチル-4,4'-ジヒドロキシビフェニル、2,2'-ビフェノール、レゾルシン、カテコール、t-ブチルカテコール、t-ブチルハイドロキノン、1,2-ジヒドロキシナフタレン、1,3-ジヒドロキシナフタレン、1,4-ジヒドロキシナフタレン、1,5-ジヒドロキシナフタレン、1,6-ジヒドロキシナフタレン、1,7-ジヒドロキシナフタレン、1,8-ジヒドロキシナフタレン、2,3-ジヒドロキシナフタレン、2,4-ジヒドロキシナフタレン、2,5-ジヒドロキシナフタレン、2,6-ジヒドロキシナフタレン、2,7-ジヒドロキシナフタレン、2,8-ジヒドロキシナフタレン、上記ジヒドロキシナフタレンのアリル化物又はポリアリル化物、アリル化ビスフェノールA、アリル化ビスフェノールF、アリル化フェノールノボラック等の2価のフェノール類、あるいは、フェノールノボラック、ビスフェノールAノボラック、o-クレゾールノボラック、m-クレゾールノボラック、p-クレゾールノボラック、キシレノールノボラック、ポリ-p-ヒドロキシスチレン、トリス-(4-ヒドロキシフェニル)メタン、1,1,2,2-テトラキス(4-ヒドロキシフェニル)エタン、フルオログリシノール、ピロガロール、t-ブチルピロガロール、アリル化ピロガロール、ポリアリル化ピロガロール、1,2,4-ベンゼントリオール、2,3,4-トリヒドロキシベンゾフェノン、フェノールアラルキル樹脂、ナフトールアラルキル樹脂、ジシクロペンタジエン系樹脂等の3価以上のフェノール類、または、テトラブロモビスフェノールA等のハロゲン化ビスフェノール類から誘導されるグリシジルエーテル化物等がある。これらのエポキシ樹脂は、1種または2種以上を混合して用いることができる。
【0025】
本発明のエポキシ樹脂組成物に用いる式(1)のベンゾニトリル構造を持つエポキシ樹脂の配合割合は、全エポキシ樹脂の50wt%以上であり、好ましくは70wt%以上、より好ましくは90wt%以上である。さらには、二官能性エポキシ樹脂の合計量が90wt%以上、好ましくは95wt%以上であることが望ましい。これより少ないと硬化物とした際の熱伝導率等の物性向上効果が小さくなるおそれがある。これは、ベンゾニトリル構造を持つエポキシ樹脂の含有率が高く、かつ二官能性エポキシ樹脂の含有率が高いものほど、成形物としての配向度が高くなるためである。
【0026】
本発明のエポキシ樹脂組成物に用いる硬化剤としては、一般にエポキシ樹脂の硬化剤として知られているものはすべて使用でき、ジシアンジアミド、酸無水物類、多価フェノール類、芳香族及び脂肪族アミン類等がある。これらの中でも、半導体封止材等の高い電気絶縁性が要求される分野においては、多価フェノール類を硬化剤として用いることが好ましい。以下に、硬化剤の具体例を示す。
【0027】
多価フェノール類としては、例えば、ビスフェノールA、ビスフェノールF、ビスフェノールS、フルオレンビスフェノール、4,4’-ビフェノール、2,2’-ビフェノール、ハイドロキノン、レゾルシン、ナフタレンジオール等の2価のフェノール類、あるいは、トリス-(4-ヒドロキシフェニル)メタン、1,1,2,2-テトラキス(4-ヒドロキシフェニル)エタン、フェノールノボラック、o-クレゾールノボラック、ナフトールノボラック、ポリビニルフェノール等に代表される3価以上のフェノール類がある。更には、フェノール類、ナフトール類、ビスフェノールA、ビスフェノールF、ビスフェノールS、フルオレンビスフェノール、4,4’-ビフェノール、2,2’-ビフェノール、ハイドロキノン、レゾルシン、ナフタレンジオール等の2価のフェノール類と、ホルムアルデヒド、アセトアルデヒド、ベンズアルデヒド、p-ヒドロキシベンズアルデヒド、p-キシリレングリコール等の縮合剤により合成される多価フェノール性化合物等がある。
【0028】
酸無水物硬化剤としては、例えば、無水フタル酸、テトラヒドロ無水フタル酸、メチルテトラヒドロ無水フタル酸、ヘキサヒドロ無水フタル酸、メチルヘキサヒドロ無水フタル酸、メチル無水ハイミック酸、無水ドデシニルコハク酸、無水ナジック酸、無水トリメリット酸等がある。
【0029】
アミン系硬化剤としては、4,4’-ジアミノジフェニルメタン、4,4’-ジアミノジフェニルプロパン、4,4’-ジアミノジフェニルスルホン、m-フェニレンジアミン、p-キシリレンジアミン等の芳香族アミン類、エチレンジアミン、ヘキサメチレンジアミン、ジエチレントリアミン、トリエチレンテトラミン等の脂肪族アミン類がある。
【0030】
上記エポキシ樹脂組成物には、これら硬化剤の1種又は2種以上を混合して用いることができる。
【0031】
エポキシ樹脂と硬化剤の配合比率は、エポキシ基と硬化剤中の官能基が当量比で0.8~1.5の範囲であることが好ましい。この範囲外では硬化後も未反応のエポキシ基、又は硬化剤中の官能基が残留し、封止機能に関しての信頼性が低下する場合がある。
【0032】
本発明のエポキシ樹脂組成物中には、ポリエステル、ポリアミド、ポリイミド、ポリエーテル、ポリウレタン、石油樹脂、インデン樹脂、インデン・クマロン樹脂、フェノキシ樹脂等のオリゴマー又は高分子化合物を他の改質剤等として適宜配合してもよい。添加量は、通常、樹脂成分の合計100重量部に対して、1~30重量部の範囲である。
【0033】
本発明のエポキシ樹脂組成物には、無機充填剤、顔料、難然剤、揺変性付与剤、カップリング剤、流動性向上剤等の添加剤を配合できる。無機充填剤としては、例えば、球状あるいは、破砕状の溶融シリカ、結晶シリカ等のシリカ粉末、アルミナ粉末、ガラス粉末、又はマイカ、タルク、炭酸カルシウム、アルミナ、水和アルミナ等が挙げられ、半導体封止材に用いる場合の好ましい配合量は70重量%以上であり、更に好ましくは80重量%以上である。
【0034】
顔料としては、有機系又は無機系の体質顔料、鱗片状顔料等がある。揺変性付与剤としては、シリコン系、ヒマシ油系、脂肪族アマイドワックス、酸化ポリエチレンワックス、有機ベントナイト系等を挙げることができる。
【0035】
本発明のエポキシ樹脂組成物には必要に応じて硬化促進剤を用いることができる。例を挙げれば、アミン類、イミダゾール類、有機ホスフィン類、ルイス酸等があり、具体的には、1,8-ジアザビシクロ(5,4,0)ウンデセン-7、トリエチレンジアミン、ベンジルジメチルアミン、トリエタノールアミン、ジメチルアミノエタノール、トリス(ジメチルアミノメチル)フェノールなどの三級アミン、2-メチルイミダゾール、2-フェニルイミダゾール、2-エチル-4-メチルイミダゾール、2-フェニル-4-メチルイミダゾール、2-へプタデシルイミダゾールなどのイミダゾール類、トリブチルホスフィン、メチルジフェニルホスフイン、トリフェニルホスフィン、ジフェニルホスフィン、フェニルホスフィンなどの有機ホスフィン類、テトラフェニルホスホニウム・テトラフェニルボレート、テトラフェニルホスホニウム・エチルトリフェニルボレート、テトラブチルホスホニウム・テトラブチルボレートなどのテトラ置換ホスホニウム・テトラ置換ボレート、2-エチル-4-メチルイミダゾール・テトラフェニルボレート、N-メチルモルホリン・テトラフェニルボレートなどのテトラフェニルボロン塩などがある。添加量としては、通常、樹脂成分の合計100重量部に対して、0.01から5重量部の範囲である。
【0036】
更に必要に応じて、本発明のエポキシ樹脂組成物には、カルナバワックス、OPワックス等の離型剤、γ-グリシドキシプロピルトリメトキシシラン等のカップリング剤、カーボンブラック等の着色剤、三酸化アンチモン等の難燃剤、シリコンオイル等の低応力化剤、ステアリン酸カルシウム等の滑剤等を使用できる。
【0037】
本発明のエポキシ樹脂組成物は、有機溶剤を溶解させたワニス状態とした後に、ガラスクロス、アラミド不織布、液晶ポリマー等のポリエステル不織布等の繊維状物に含浸させた後に溶剤除去を行い、プリプレグとすることができる。また、場合により銅箔、ステンレス箔、ポリイミドフィルム、ポリエステルフィルム等のシート状物上に塗布することにより積層物とすることができる。
【0038】
本発明のエポキシ樹脂組成物を加熱硬化させれば、本発明の樹脂硬化物とすることができる。この硬化物は、エポキシ樹脂組成物を注型、圧縮成形、トランスファー成形等の方法により、成形加工して得ることができる。この際の温度は通常、120~220℃の範囲である。
【実施例】
【0039】
以下、実施例及び比較例を挙げて本発明を具体的に説明する。ただし、本発明はこれらに限定されるものではない。特に断りがない限り、「部」は重量部を表し、「%」は重量%を表す。また、測定方法はそれぞれ以下の方法により測定した。
【0040】
1)エポキシ当量
電位差滴定装置を用い、溶媒としてメチルエチルケトンを使用し、臭素化テトラエチルアンモニウム酢酸溶液を加え、電位差滴定装置にて0.1mol/L過塩素酸-酢酸溶液を用いて測定した。
【0041】
2)OH当量
電位差滴定装置を用い、1,4-ジオキサンを溶媒に用い、1.5mol/L塩化アセチルでアセチル化を行い、過剰の塩化アセチルを水で分解して0.5mol/L-水酸化カリウムを使用して滴定した。
【0042】
3)融点
示差走査熱量分析装置(エスアイアイ・ナノテクノロジー株式会社製 EXSTAR6000 DSC/6200)により、昇温速度5℃/分の条件で、DSCピーク温度を求めた。すなわち、このDSCピーク温度を樹脂の融点とした。
【0043】
4)溶融粘度
BROOKFIELD製、CAP2000H型回転粘度計を用いて、150℃にて測定した。
【0044】
5)軟化点
JIS-K-2207に従い環球法にて測定した。
【0045】
6)GPC測定
本体(東ソー株式会社製、HLC-8220GPC)にカラム(東ソー株式会社製、TSKgelG4000HXL、TSKgelG3000HXL、TSKgelG2000HXL)を直列に備えたものを使用し、カラム温度は40℃にした。また、溶離液にはテトラヒドロフラン(THF)を使用し、1mL/分の流速とし、検出器は示差屈折率検出器を使用した。測定試料はサンプル0.1gを10mLのTHFに溶解し、マイクロフィルターで濾過したものを50μL使用した。データ処理は、東ソー株式会社製GPC-8020モデルIIバージョン6.00を使用した。
【0046】
7)ガラス転移点(Tg)
熱機械測定装置(エスアイアイ・ナノテクノロジー株式会社製 EXSTAR6000TMA/6100)により、昇温速度10℃/分の条件でTgを求めた。
【0047】
8)5%重量減少温度(Td5)、残炭率
熱重量/示差熱分析装置(エスアイアイ・ナノテクノロジー製 EXSTAR6000TG/DTA6200、)を用いて、窒素雰囲気下、昇温速度10℃/分の条件において、5%重量減少温度(Td5)を測定した。また、700℃における重量減少を測定し、残炭率として算出した。
【0048】
9)熱伝導率
熱伝導率は、NETZSCH製LFA447型熱伝導率計を用いて非定常熱線法により測定した。
【0049】
10)溶融混練性
100℃における溶融混練性を確認。〇は混練可能、△は混練困難、×は未溶融成分あり、である。
【0050】
11)溶剤溶解性
サンプル瓶に樹脂組成物2g、メチルエチルケトン2gを秤量し、加熱溶解させた後、恒温槽内にて徐々に温度を低下させ、樹脂が析出した槽内の温度を測定した。
析出温度が25℃以下を○、26℃以上60℃未満を△、60℃以上を×とした。
【0051】
実施例1
2Lの4口セパラブルフラスコに4,4’-ジヒドロキシビフェニル54.6g、4,4’-ジヒドロキシジフェニルエーテル29.6gをN-メチル-2-ピロリドン250gに溶解した後、炭酸カリウム24.1gを加え、窒素気流下、攪拌しながら120℃に昇温した。その後、2,6-ジクロロベンゾニトリル25.2gを加え、145℃に昇温し6時間反応させた。反応液に酢酸20.9gを加えて中和した後、減圧下、N-メチル-2-ピロリドンを留去した。反応液にメチルイソブチルケトン250mLを加えて生成物を溶解した後、水洗により生成塩を除去した。その後、メチルイソブチルケトンを減圧蒸留により除いて、ヒドロキシ樹脂84gを得た。得られたヒドロキシ樹脂の水酸基当量は195g/eq.、融点は235℃、Mnは500であった。
次に、得られたヒドロキシ樹脂84gに、エピクロルヒドリン800g、ジエチレングリコールジメチルエーテル160gを仕込み、減圧下(約130Torr)、65℃にて48%水酸化ナトリウム水溶液37.5gを3時間かけて滴下した。この間、生成する水はエピクロルヒドリンとの共沸により系外に除き、留出したエピクロルヒドリンは系内に戻した。滴下終了後、さらに1時間反応を継続し脱水した。その後、エピクロルヒドリンを減圧留去し、メチルイソブチルケトンを加えた後、水洗により塩を除いた後、濾過、水洗を行い、メチルイソブチルケトンを減圧留去し、常温固形のエポキシ樹脂105gを得た(エポキシ樹脂A)。得られたエポキシ樹脂Aの軟化点は113℃、エポキシ当量は251g/eq.、溶融粘度は0.06Pa・s、GPCにて測定したn=0体は30%、Mnは460であった。
【0052】
実施例2
4,4’-ジヒドロキシビフェニルの使用量を40.9g、4,4’-ジヒドロキシジフェニルエーテルの使用量を44.4gとした他は、実施例1と同様にして反応を行い、エポキシ樹脂112gを得た(エポキシ樹脂B)。得られたエポキシ樹脂Bの軟化点は104℃、エポキシ当量は241g/eq.、溶融粘度は0.04Pa・s、GPCにて測定したn=0体は23%、Mnは590であった。なお、中間体のヒドロキシ樹脂の水酸基当量は、184g/eq.、融点は221℃、Mnは670であった。
【0053】
実施例3
4,4’-ジヒドロキシビフェニルの使用量を54.5g、4,4’-ジヒドロキシジフェニルエーテルの代わりにジヒドロキシジフェニルメタン(4,4’-ジヒドロキシジフェニルメタン:36.2%、2,4’-ジヒドロキシジフェニルメタン:46.6%、2,2’―ジヒドロキシジフェニルメタン:17.2% )を29.0g使用した他は、実施例1と同様にして反応を行い、エポキシ樹脂96gを得た。(エポキシ樹脂C)。得られたエポキシ樹脂Cの軟化点は120℃、エポキシ当量は264g/eq.、溶融粘度は0.06Pa・s、GPCにて測定したn=0体は28%、Mnは480であった。なお、中間体のヒドロキシ樹脂の水酸基当量は、193g/eq.、融点は276℃、Mnは540であった。
【0054】
実施例4
4,4’-ジヒドロキシビフェニルの使用量を40.9g、4,4’-ジヒドロキシジフェニルエーテルの代わりにジヒドロキシジフェニルメタン(4,4’-ジヒドロキシジフェニルメタン:36.2%、2,4’-ジヒドロキシジフェニルメタン:46.6%、2,2’―ジヒドロキシジフェニルメタン:17.2% )を43.6gとした他は、実施例1と同様にして反応を行い、エポキシ樹脂98gを得た。(エポキシ樹脂D)。得られたエポキシ樹脂Dの軟化点は109℃、エポキシ当量は250g/eq.、溶融粘度は0.05Pa・s、GPCにて測定したn=0体は29%、Mnは630であった。なお、中間体のヒドロキシ樹脂の水酸基当量は、205g/eq.、融点は255℃、Mnは540であった。
【0055】
実施例5
4,4’-ジヒドロキシビフェニルを使用せず、4,4’-ジヒドロキシジフェニルエーテルの使用量を88.8gとした以外は実施例1と同様にして反応を行い、エポキシ樹脂107gを得た。(エポキシ樹脂E)。得られたエポキシ樹脂Eの軟化点は50℃、エポキシ当量は258g/eq.、溶融粘度は0.03Pa・s、GPCにて測定したn=0体は28%、Mnは540であった。なお、中間体のヒドロキシ樹脂の水酸基当量は、202g/eq.、融点は157℃、Mnは600であった。
【0056】
比較例1
4,4’-ジヒドロキシビフェニルの使用量を81.8gとし、4,4’-ジヒドロキシジフェニルエーテルを使用せず、N-メチル-2-ピロリドンの使用量を500gとした以外は実施例1と同様にして反応を行い、エポキシ樹脂78gを得た。(エポキシ樹脂F)。得られたエポキシ樹脂Fは結晶性を有し、その融点は139℃、エポキシ当量は226g/eq.、溶融粘度は0.10Pa・s、GPCにて測定したn=0体は34%、Mnは400であった。なお、中間体のヒドロキシ樹脂の水酸基当量は、220g/eq.、融点は272℃、Mnは500であった。
【0057】
実施例6~10および比較例2~4
エポキシ樹脂成分として、実施例1で得たエポキシ樹脂A、実施例2で得たエポキシ樹脂B、実施例3で得たエポキシ樹脂C、実施例4で得たエポキシ樹脂D、実施例5で得たエポキシ樹脂E、比較例1で得たエポキシ樹脂F、エポキシ樹脂G(4,4’-ジヒドロキシジフェニルエーテル型エポキシ樹脂、エポキシ当量163g/eq.;YSLV-80XY、日鉄ケミカル&マテリアル製)およびエポキシ樹脂H(ビフェニル型エポキシ樹脂、エポキシ当量195g/eq.;YX-4000H、三菱ケミカル製)を用い、硬化剤として、フェノールノボラック樹脂(OH当量105、軟化点83℃、;BRG-557、アイカ工業製)を用い、硬化促進剤としてトリフェニルホスフィンを用い、表1に示す配合でエポキシ樹脂組成物を得た。エポキシ樹脂組成物の溶融混練性と溶剤溶解性の結果を表1に示す。表中の数値は配合における重量部を示す。
このエポキシ樹脂組成物を用いて175℃にて成形し、175℃にて5時間ポストキュアを行い、硬化物試験片を得た後、Tg、Td5、残炭率、熱伝導率の各種物性測定に供した。
【0058】
【0059】
これらの結果から明らかなとおり、実施例で得られるエポキシ樹脂は溶融混練性、溶剤溶解性に優れ、その硬化物は熱安定性、熱伝導率が良好であることからパワーデバイス、および車載用途に適する。