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特許7663017溶融塩組成物の組成回復方法及び化学強化ガラスの製造方法
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  • 特許-溶融塩組成物の組成回復方法及び化学強化ガラスの製造方法 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2025-04-08
(45)【発行日】2025-04-16
(54)【発明の名称】溶融塩組成物の組成回復方法及び化学強化ガラスの製造方法
(51)【国際特許分類】
   C03C 21/00 20060101AFI20250409BHJP
【FI】
C03C21/00 101
【請求項の数】 7
(21)【出願番号】P 2021078096
(22)【出願日】2021-04-30
(65)【公開番号】P2022171448
(43)【公開日】2022-11-11
【審査請求日】2024-02-09
(73)【特許権者】
【識別番号】000000044
【氏名又は名称】AGC株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002000
【氏名又は名称】弁理士法人栄光事務所
(72)【発明者】
【氏名】片岡 裕介
(72)【発明者】
【氏名】藤原 祐輔
【審査官】酒井 英夫
(56)【参考文献】
【文献】特開2021-059481(JP,A)
【文献】国際公開第2020/218253(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C03C 21/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
化学強化用ガラスの化学強化処理に用いられる溶融塩組成物の組成回復方法であって、
添加用容器に充填されたアルカリ金属イオン吸着剤を前記溶融塩組成物に投入することと、
前記投入の後に前記添加用容器を振動させることを含み、
前記添加用容器の容積に対する前記アルカリ金属イオン吸着剤の充填率は10%以上80%以下であり、
前記アルカリ金属イオン吸着剤が吸着するアルカリ金属イオンがNaイオンであり、
前記アルカリ金属イオン吸着剤の前記溶融塩組成物への投入量は、前記溶融塩組成物の全量に対して2質量%~10質量%であり、
前記振動における振動の幅L2は30mm以上である、溶融塩組成物の組成回復方法。
【請求項2】
前記振動の幅L2が100mm以上である、請求項1に記載の溶融塩組成物の組成回復方法。
【請求項3】
前記振動の方向が前記溶融塩組成物を有する溶融塩バスの深さ方向に平行であり、
前記溶融塩バスの深さL1に対する前記振動の幅L2の比L2/L1が0.1~1.0である、請求項1又は2に記載の溶融塩組成物の組成回復方法。
【請求項4】
前記振動の速度が4mm/s~50mm/sである請求項1~のいずれか1項に記載の溶融塩組成物の組成回復方法。
【請求項5】
前記添加用容器を振動させる時間が2時間以上である、請求項1~のいずれか1項に記載の溶融塩組成物の組成回復方法。
【請求項6】
前記アルカリ金属イオン吸着剤が以下の第2の組成又は第4の組成のいずれかのガラス組成を有するガラス助剤を含む、請求項1~のいずれか1項に記載の溶融塩組成物の組成回復方法
2の組成:酸化物基準の質量%表示で、SiOを52~95%、KOを5~28%含有する
4の組成:酸化物基準の質量%表示で、SiOを55~75%、KOを20~45%含有する。
【請求項7】
化学強化用ガラスを溶融塩組成物に浸漬して化学強化処理することを含む化学強化ガラスの製造方法であって、
前記溶融塩組成物の組成を回復することを含み、
前記組成の回復は、
添加用容器に充填されたアルカリ金属イオン吸着剤を前記溶融塩組成物に投入することと、
前記投入の後に前記添加用容器を振動させることを含み、
前記添加用容器の容積に対する前記アルカリ金属イオン吸着剤の充填率は10%以上80%以下であり、
前記アルカリ金属イオン吸着剤が吸着するアルカリ金属イオンがNaイオンであり、
前記アルカリ金属イオン吸着剤の前記溶融塩組成物への投入量は、前記溶融塩組成物の全量に対して2質量%~10質量%であり、
前記振動における振動の幅L2は30mm以上である、化学強化ガラスの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ガラスの化学強化用溶融塩組成物の組成回復方法及び化学強化ガラスの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、スマートフォンなどの携帯端末のディスプレイ用カバーガラスとして、落下に耐えうる強度をもったガラスが要求されている。ガラスの強度を上げる手法の一つとして、化学強化が知られており、高い表面圧縮応力値(CS)及び大きな圧縮応力層深さ(DOL)を有した化学強化ガラスの開発が盛んに行われている。
【0003】
一般的な化学強化処理においては、化学強化用ガラスを溶融塩組成物に浸漬させて、化学強化用ガラス中のイオン半径の小さいアルカリ金属イオンと溶融塩組成物中のイオン半径の大きいアルカリ金属イオンとを交換させることにより、化学強化用ガラスの表面に圧縮応力層が形成されて化学強化ガラスが得られる。この際、化学強化処理を同じ溶融塩組成物のバス(以下、「溶融塩バス」)ともいう。)中で繰り返し行うと、バス中の化学強化用ガラスから放出される小さいアルカリ金属イオンの濃度が大きくなる。溶融塩組成物中の小さいアルカリ金属イオンの濃度が大きくなると、化学強化処理においてイオン交換が十分に行われなくなったり、その速度が低下したりする。すなわち、同じ溶融塩組成物のバスで化学強化処理を実施しうる回数には制限があり、溶融塩バスの寿命(バスライフ)の延長方法が検討されている。
【0004】
バスライフの延長方法としては、アルカリ金属イオンを吸着できる吸着剤を使用して溶融塩組成物中の小さいアルカリ金属イオンの濃度を小さくする方法が検討されており、種々の吸着剤が開発されている。
【0005】
例えば、特許文献1にはガラスの化学強化用ガラスを化学強化処理する際に、ガラスとアルカリ金属イオン吸着剤とを同時に溶融塩組成物に添加することが記載されている。
また、特許文献2には溶融塩組成物中の不純物金属イオンを吸着できるモレキュラーシーブが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】米国特許出願公開第2018/0057402号明細書
【文献】米国特許第10427945号明細書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、アルカリ金属イオン吸着剤の使用方法について、これまでに詳細な条件の検討はなされておらず、より効率的に溶融塩組成物の組成を回復する方法が求められていた。
したがって、本発明はより効率的な溶融塩組成物の組成回復方法及び化学強化ガラスの製造方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の溶融塩組成物の組成回復方法は、化学強化用ガラスの化学強化処理に用いられる溶融塩組成物の組成回復方法であって、
添加用容器に充填されたアルカリ金属イオン吸着剤を前記溶融塩組成物に投入することと、
前記投入の後に前記添加用容器を振動させることを含み、
前記添加用容器の容積に対する前記アルカリ金属イオン吸着剤の充填率は80%以下であり、
前記アルカリ金属イオン吸着剤の前記溶融塩組成物への投入量は、前記溶融塩組成物の全量に対して2質量%~10質量%であり、
前記振動における振動の幅L2は30mm以上である。
本発明の溶融塩組成物の組成回復方法の一態様において、前記振動の幅L2が100mm以上であることが好ましい。
本発明の溶融塩組成物の組成回復方法の一態様において、前記アルカリ金属イオン吸着剤が吸着するアルカリ金属イオンがNaイオンであることが好ましい。
本発明の溶融塩組成物の組成回復方法の一態様において、前記溶融塩組成物を有する溶融塩バスの深さL1に対する前記振動の幅L2の比L2/L1が0.1~1.0であることが好ましい。
本発明の溶融塩組成物の組成回復方法の一態様において、前記振動の速度が4mm/s~50mm/sであることが好ましい。
本発明の溶融塩組成物の組成回復方法の一態様において、前記添加用容器を振動させる時間が2時間以上であることが好ましい。
本発明の溶融塩組成物の組成回復方法の一態様において、前記アルカリ金属イオン吸着剤が以下の第1の組成~第4の組成のいずれかのガラス組成を有するガラス助剤を含むことが好ましい。
第1の組成:酸化物基準の質量%表示で、SiOを52~95%、NaOを5~25%含有する。
第2の組成:酸化物基準の質量%表示で、SiOを52~95%、KOを5~28%含有する。
第3の組成:酸化物基準の質量%表示で、SiOを55~75%、NaOを20~45%含有する。
第4の組成:酸化物基準の質量%表示で、SiOを55~75%、KOを20~45%含有する。
【0009】
本発明の化学強化ガラスの製造方法は、化学強化用ガラスを溶融塩組成物に浸漬して化学強化処理することを含む化学強化ガラスの製造方法であって、
前記溶融塩組成物の組成を回復することを含み、
前記組成の回復は、
添加用容器に充填されたアルカリ金属イオン吸着剤を前記溶融塩組成物に投入することと、
前記投入の後に前記添加用容器を振動させることを含み、
前記添加用容器の容積に対する前記アルカリ金属イオン吸着剤の充填率は80%以下であり、
前記アルカリ金属イオン吸着剤の前記溶融塩組成物への投入量は、前記溶融塩組成物の全量に対して2質量%~10質量%であり、
前記振動における振動の幅L2は30mm以上である。
【発明の効果】
【0010】
本発明の溶融塩組成物の組成回復方法及び化学強化ガラスの製造方法によれば、吸着剤に所定の条件で振動を加えることで、特定のアルカリ金属イオンの濃度を効率よく低減できるため、より効率的に溶融塩組成物の組成を回復できる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1図1は、本実施形態に係る溶融塩組成物の組成回復方法の一例を模式的に示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明に係る溶融塩組成物の組成回復方法の実施形態について説明するが、本発明は以下の実施形態に限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲において、任意に変形して実施できる。
【0013】
本明細書において、ガラスの成分の含有量における「%」の表示は、酸化物基準の質量%を意味する。
本明細書において「~」を用いて数値範囲を示す場合は、その前後に記載される数値を下限値及び上限値として含む範囲を意味する。
本明細書において「化学強化ガラス」は、化学強化処理を施した後のガラスを指し、「化学強化用ガラス」は、化学強化処理を施す前のガラスを指す。
【0014】
ガラスの化学強化処理においては、上述の通り、化学強化用ガラス中のイオン半径の小さいアルカリ金属イオン(以下、「小さいアルカリ金属イオン」ともいう。)と溶融塩組成物中のイオン半径の大きいアルカリ金属イオン(以下、「大きいアルカリ金属イオン」ともいう。)が交換されることで、化学強化用ガラスの表面に圧縮応力層が形成されて化学強化ガラスが得られる。より具体的には、Li-Na交換、Li-K交換及びNa-K交換から選ばれる1以上のイオン交換を利用して化学強化処理が行われる。
すなわち、小さいアルカリ金属イオンとは、上記のイオン交換がLi-Na交換、及びLi-K交換の少なくとも一方である場合はLiイオンのことであり、上記のイオン交換がNa-K交換である場合はNaイオンのことである。
また、大きいアルカリ金属イオンとは、上記のイオン交換がLi-Na交換である場合はNaイオンのことであり、上記のイオン交換がLi-K交換及びNa-K交換の少なくとも一方である場合はKイオンのことである。
【0015】
本実施形態に係る溶融塩組成物の組成回復方法は、化学強化用ガラスの化学強化処理に用いられる溶融塩組成物の組成回復方法であって、以下の工程A及び工程Bを含む。
(工程A)添加用容器に充填されたアルカリ金属イオン吸着剤を前記溶融塩組成物に投入する工程。
(工程B)前記投入の後に前記添加用容器を振動させる工程。
【0016】
本実施形態に係る溶融塩組成物の組成回復方法において、前記添加用容器の容積に対する前記アルカリ金属イオン吸着剤の充填率は80%以下であり、前記アルカリ金属イオン吸着剤の前記溶融塩組成物への投入量は、前記溶融塩組成物の全量に対して2質量%~10質量%であり、前記振動における振動の幅L2は30mm以上である。
【0017】
溶融塩組成物は化学強化用ガラスの化学強化処理に用いられるものであり、例えば溶融炉等の所定の容器に入れられた状態で、溶融塩バスとして用いられる。かかる溶融塩バス中の溶融塩組成物に化学強化用ガラスを浸漬することで化学強化処理が行われる。
【0018】
溶融塩組成物は、化学強化処理を行う前には少なくとも大きいアルカリ金属イオンを含む。また、化学強化処理を行うと、上述のイオン交換により、溶融塩組成物中の小さいアルカリ金属イオンの濃度は大きくなり、大きいアルカリ金属イオンの濃度は小さくなる。
【0019】
本実施形態において、溶融塩組成物の組成の回復とは、アルカリ金属イオン吸着剤(以下、単に「吸着剤」ともいう。)により、溶融塩バス中の溶融塩組成物における小さいアルカリ金属イオンの濃度を、吸着剤の投入前よりも小さくし、大きいアルカリ金属イオンの濃度を吸着剤の投入前より大きくすることをいう。溶融塩組成物の組成を回復することで、同じ溶融塩バスで化学強化処理を実施しうる回数、すなわち溶融塩バスの寿命(バスライフ)を延長できる。
なお、吸着剤が含有する大きいアルカリ金属イオンと溶融塩組成物中の小さいアルカリ金属イオンとのイオン交換により組成の回復が行われる場合は、溶融塩組成物中の小さいアルカリ金属イオンの濃度の減少と大きいアルカリ金属イオンの濃度の増加とは同時に行われる。したがって、かかる吸着剤を用いる場合においては、小さいアルカリ金属イオンの濃度の減少または大きいアルカリ金属イオンの濃度の増加の一方を確認することで組成が回復されたと判断できる。
【0020】
(工程A)
本実施形態に係る溶融塩組成物の組成回復方法は、添加用容器に充填されたアルカリ金属イオン吸着剤を前記溶融塩組成物に投入する工程を含む。
【0021】
本実施形態においては、吸着剤は添加用容器に充填された状態で溶融塩組成物に投入される。添加用容器を用いることにより、溶融塩組成物中で吸着剤を容易に振動させられる。さらには、添加用容器を用いることで、振動の方法を適切な条件に制御しやすくなる。また、吸着剤の投入や回収が容易となり、吸着剤を粒状等の比較的表面積が大きくなる形状で効率的に使用できる。
【0022】
添加用容器としては、添加用容器内の吸着剤が溶融塩組成物と接触できる構造を有していれば特に限定されないが、例えば網状構造を含む容器が好ましく、具体的には溶融塩に浸漬する全面が網状構造で囲われた容器、一部の面のみ網状構造で囲われ、その他の面は板で囲われた容器等が挙げられる。添加用容器は、吸着剤と溶融塩組成物とを効率的に接触させ、小さいアルカリ金属イオンの吸着量を大きくする観点から網状構造を含む容器が好ましい。網状構造としては、例えばステンレス製等の金属メッシュ、パンチングメタル、金網等が挙げられ、微細粒子の溶融塩バスへの漏出防止の観点から金属メッシュが好ましい。
【0023】
金属メッシュの目開きや開口率は充填される吸着剤の形状等に合わせて適宜調整できる。例えば、目開きは吸着剤と溶融塩組成物とを効率的に接触させる観点から0.005mm以上が好ましく、0.01mm以上がより好ましく、0.02mm以上がさらに好ましい。一方で、吸着剤が添加用容器外に流出することを抑制し、化学強化処理や溶融塩組成物の組成回復処理に問題が生じることを防止する観点からは、目開きは0.50mm以下が好ましく、0.10mm以下がより好ましく、0.04mm以下がさらに好ましい。
【0024】
添加用容器の形状は特に限定されず、直方体状、立方体状、円筒状、球状、三角錐状等種々の形状であってよい。より大きな体積の溶融塩を効率的に接触させる観点からは、添加用容器の形状は直方体状が好ましい。添加用容器の大きさは、溶融塩バスの大きさ、吸着剤の添加量、溶融塩組成物への添加用容器の投入個数等に応じて適宜変更すればよい。
【0025】
また、添加用容器は必要に応じ、吸着剤を充填するための蓋部、添加用容器を溶融塩バスに固定するための部材及び振動可能とするための部材等を適宜有していてもよい。
【0026】
添加用容器に充填される吸着剤の形状は特に限定されず、板状、棒状、塊状、粒状、集塊状、フレーク状、粉末状等の種々の形状のものを使用できる。ここで集塊状とは複数の吸着剤粒子が組み合わさって二次粒子を形成している状態をいい、粒状とは吸着剤粒子の一つ一つが二次粒子を形成せずばらばらに存在している状態をいい、フレーク状とは一つ一つの吸着剤粒子が扁平な小片状をしている状態をいう。吸着剤と溶融塩組成物とを効率的に接触させる観点や取り扱い性の観点から、吸着剤の形状は粒状、フレーク状、粉末状が好ましい。
【0027】
一例として、吸着剤が粒状である場合、その粒径は、吸着剤が添加用容器外に流出することを抑制する観点、取り扱い性の観点から0.125mm以上が好ましく、0.25mm以上がより好ましく、0.5mm以上がさらに好ましい。また、吸着剤の粒径は、吸着剤と溶融塩組成物とを効率的に接触させる観点から5.0mm以下が好ましく、2.0mm以下がより好ましい。なお、ここで吸着剤の粒径とは、ふるい目開きでの平均粒径のことをいい、具体的には以下の方法で測定される平均粒径をいう。
(方法)
ふるいAのふるい目開きをaとし、a~aが下記の通りであるふるいA~Aを使用する。
=0.125mm、a=0.25mm、a=0.5mm、a=1.0mm、a=2.0mm
平均粒径を下記式から算出する。下記式で「落ちる」とは粒子がふるいの目を通過して落ちることをいい、「残る」とは粒子がふるいの目を通過せずふるい上に残ることをいう。
(式) 平均粒径(mm)=(Aで落ちた粒子の質量分率)×a+(Aで残ってAで落ちた粒子の質量分率)×{(a+a)/2}+(Aで残ってAで落ちた粒子の質量分率)×{(a+a)/2}+(Aで残ってAで落ちた粒子の質量分率)×{(a+a)/2}+(Aで残ってAで落ちた粒子の質量分率)×{(a+a)/2}+(Aで残った粒子の質量分率)×a
【0028】
添加用容器の容積に対する吸着剤の充填率は80%以下である。充填率が80%以下であることで、振動時に添加用容器内で吸着剤が動きやすくなり、振動による効果を十分なものとできる。充填率は、振動によるアルカリ金属イオン吸着を促進する観点から75%以下が好ましく、70%以下がより好ましい。また、充填率は投入される吸着剤量を増加させ、アルカリ金属イオン吸着を促進する観点から10%以上が好ましく、20%以上がより好ましく、30%以上がさらに好ましい。ここで、添加用容器の容積に対する吸着剤の充填率とは、添加用容器容積に対する吸着剤の嵩の割合で求められる値(%)である。
【0029】
吸着剤の溶融塩組成物への投入量は、溶融塩組成物の全量に対して2質量%~10質量%である。投入量が2質量%以上であることで、吸着剤によるアルカリ金属イオン吸着量を十分なものとできる。投入量は3質量%以上が好ましく、4質量%以上がより好ましく、5質量%以上がさらに好ましい。また、投入量が10質量%以下であることで、投入設備の損耗を軽減することができる。投入量は9質量%以下が好ましく、8質量%以下がより好ましく、7質量%以下がさらに好ましい。なお、投入量は、上記の範囲内であれば、吸着剤の種類、形状及び粒径等、小さいアルカリ金属イオンの所望の吸着量、並びに所望の処理時間等に応じて適宜増減できる。
【0030】
吸着剤を前記溶融塩組成物に投入するタイミングは特に限定されず、例えば化学強化処理前、化学強化処理の途中及び化学強化処理後のいずれであってもよい。アルカリ金属イオン吸着を促進する観点からは、吸着剤を前記溶融塩組成物に投入するタイミングは化学強化処理後が好ましい。化学強化処理後は、溶融塩組成物中の小さいアルカリ金属イオン濃度が比較的大きい状態となる。かかる状態で吸着剤を投入することで、比較的短時間で効率的に組成を回復しやすいため好ましい。また、化学強化処理後に吸着剤を投入することで、溶融塩バスに化学強化用ガラス(化学強化ガラス)が浸漬されていない状態で添加用容器を振動させられるため、化学強化用ガラス(化学強化ガラス)が破損するリスクを低減できる。
【0031】
吸着剤は、複数の添加用容器に分けて充填して投入してもよいし、1つの添加用容器に充填して投入してもよい。複数の添加用容器に分けて充填して投入する場合においては、少なくとも1つの添加用容器において吸着剤の充填率を80%以下とすればよい。好ましくは、全ての添加用容器における充填率を80%以下とする。
【0032】
溶融塩バスにおける吸着剤を投入する位置も特に限定されず、溶融塩バスの構造や振動の方法及び方向等に合わせて適宜調整できる。溶融塩組成物中のアルカリ金属イオンの拡散距離の観点からは、吸着剤を投入する位置は溶融塩組成物の体積の中心が好ましい。なお、後述するように本実施形態に係る溶融塩組成物の組成回復方法は添加用容器を振動させる工程を含むが、添加用容器が振動により往復する2点間の中央が溶融塩組成物の体積の中心に位置することがより好ましい。
【0033】
(工程B)
本実施形態に係る溶融塩組成物の組成回復方法は、上述の工程Aの後に前記添加用容器を振動させる工程を含む。
【0034】
添加用容器を振動させる方法は特に限定されないが、例えば添加用容器に部材を取り付ける等して、添加用容器を溶融塩バスの外部から動かせるようにして振動させる方法が挙げられる。本実施形態において、添加用容器を振動させる方法の一例を図1に模式的に示す。図1において、溶融塩バス1は溶融塩組成物3を容器30中に有する。また、添加用容器20には吸着剤2が充填されている。そして、図1においては、添加用容器20よりも大きく、溶融塩組成物3と吸着剤2が接触するよう開口した他の容器40内に添加用容器20が設置されている。かかる状態で、他の容器40の溶融塩組成物3に浸漬されていない部分を溶融塩バス1の外部から振動させることで添加用容器20を振動させ得る。
【0035】
添加用容器を振動させる際の振動の幅L2は30mm以上である。ここで振動の幅L2とは、振動により添加用容器が往復する2点間の長さのことをいい、換言すれば、往復の片道の長さのことである。なお、振動の幅L2は振動の方向に平行なものである。例えば図1のように添加用容器の振動の方向が溶融塩組成物(溶融塩バス)の深さ方向に平行である場合は、振動の幅L2もこれに平行である。そして、振動の方向が溶融塩バスの深さ方向に対し傾斜するような、いわゆる斜め方向である場合も、振動の幅L2は溶融塩バスの深さ方向に平行な成分等、特定方向の成分を抽出した長さである必要はなく、振動の方向に平行な実際の長さとすればよい。振動の幅L2が30mm以上であることで、添加用容器中の吸着剤と溶融塩組成物とを効率的に接触させられるため、小さいアルカリ金属イオンの吸着量を十分なものとできる。振動の幅L2は好ましくは100mm以上である。また、振動の幅L2の上限は、溶融塩バスのスケールに応じて設定すればよく、特に限定されないが、例えば5m以下が好ましい。なお、図1においては、添加用容器20が他の容器40と同じ動きをするので、他の容器40の振動の幅L2’と添加用容器20の振動の幅L2は同じであり、L2’の値を調整することでL2の値を調整できる。振動の幅L2の調整方法は、添加用容器20を振動させる方法に合わせて適宜変更できる。
【0036】
なお、添加用容器が溶融塩バス中に複数投入される場合は、吸着剤の充填率が80%以下である少なくとも1の添加用容器を振動させ、その振動の幅L2を30mm以上とすればよい。好ましくは、複数の添加用容器全てを振動させ、その振動の幅L2をいずれも30mm以上とする。
【0037】
添加用容器の振動の方向は特に限定されず、例えば溶融塩組成物(溶融塩バス)の深さ方向に平行な方向や深さ方向に垂直な方向等が挙げられる。振動の方向は溶融塩バスの構造等に応じて適宜設定できる。投入設備の観点から、振動の方向は溶融塩組成物の深さ方向に平行な方向が好ましい。
【0038】
前記溶融塩組成物を有する溶融塩バスの深さL1に対する前記振動の幅L2の比L2/L1は0.1~1.0が好ましい。溶融塩バスの深さL1とは、図1に例示するように、溶融塩バス1における溶融塩組成物3の液面から底面までの深さL1をいう。溶融塩バスの深さL1は、一般的に溶融塩バスのスケールに伴って変化するため、L2/L1を溶融塩バスのスケールに対する振動の大きさの指標とできる。すなわち、L2/L1が0.1以上であることで、溶融塩バスのスケールに対し振動の幅が十分となりやすく、吸着剤と溶融塩組成物とをより効率的に接触させられるため好ましい。L2/L1は0.15以上がより好ましく、0.25以上がさらに好ましい。一方で、吸着剤が破砕して添加用容器から流出したり、溶融塩バスから溶融塩組成物が液漏れしたりする等の問題を防ぐ観点から、L2/L1は1.0以下が好ましく、0.8以下がより好ましく、0.6以下がさらに好ましい。
【0039】
振動の速度は4mm/s~50mm/sが好ましい。振動の速度が4mm/s以上であることで、溶融塩組成物を攪拌する作用が得られるため好ましい。振動の速度は10mm/s以上がより好ましく、20mm/s以上がさらに好ましい。また、吸着剤が破砕して添加用容器から流出したり、溶融塩バスから溶融塩組成物が液漏れしたりする等の問題を防ぐ観点から、振動の速度は50mm/s以下が好ましく、45mm/s以下がより好ましく、40mm/s以下がさらに好ましい。
【0040】
添加用容器を振動させる時間は十分にアルカリ金属イオンを吸着する観点から2時間以上が好ましく、6時間以上がより好ましく、8時間以上がさらに好ましい。また、添加用容器を振動させる時間は設備の損耗を軽減する観点から24時間以下が好ましく、12時間以下がより好ましく、10時間以下がさらに好ましい。
【0041】
なお、溶融塩組成物に投入された吸着剤は、次第に小さいアルカリ金属イオンを吸着できる量が減少し、溶融塩組成物の組成回復効果が低下する場合がある。この場合、吸着剤は溶融塩組成物から取り出されることが好ましい。すなわち、本実施形態に係る溶融塩組成物の組成回復方法は、上記工程A及び工程Bの後に吸着剤を溶融塩組成物から取り出す工程を備えることが好ましい。
【0042】
本実施形態に係る溶融塩組成物の組成回復方法は、吸着剤の添加用容器に対する充填率及び溶融塩組成物量に対する投入量が適切な範囲に調整され、かつ、添加用容器に所定の条件で振動を加える工程を含むことで、吸着剤と溶融塩組成物とを効率的に接触させられる。これにより、吸着剤による小さいアルカリ金属イオンの吸着効果を向上でき、溶融塩組成物中の小さいアルカリ金属イオンの濃度を効率よく低減できるため、例えば同じ種類の吸着剤を使用する場合と比較して、より効率的に溶融塩組成物の組成を回復できる。
【0043】
(他の実施形態)
なお、上述した本実施形態に係る溶融塩組成物の組成回復方法の他、同様に効率的に溶融塩組成物の組成を回復でき得る方法として、本実施形態に係る溶融塩組成物の組成回復方法を以下の通り変形した他の実施形態も考えられる。
【0044】
他の実施形態1:上記工程Bにおいて、添加用容器の振動に代えて溶融塩組成物を流動又は振動させる方法。
上記工程Bにおいては、添加用容器の振動により吸着剤と溶融塩組成物とを効率的に接触させることで効率的に溶融塩組成物の組成を回復できる。一方で、他の実施形態1においては、添加用容器の振動に代えて溶融塩組成物を流動又は振動させることで、工程Bを行う場合と同様に吸着剤と溶融塩組成物とを効率的に接触させられ、効率的に溶融塩組成物の組成を回復できると考えられる。溶融塩組成物を流動させる方法としては、溶融塩組成物をスクリュー等により流動させる方法や、溶融塩バスの容器を動かしてバス中の溶融塩組成物を流動させる方法等が挙げられる。また、溶融塩組成物を振動させる方法としては、超音波を用いる方法等が挙げられる。
【0045】
なお、他の実施形態1において、添加用容器の振動と、溶融塩組成物の流動又は振動とを両方行う方法としてもよいが、吸着剤が破砕して添加用容器から流出したり、溶融塩バスから溶融塩組成物が液漏れしたりする等の問題が生じないよう条件を調整することが好ましい。
【0046】
また、他の実施形態1では、上記工程Aにおいて、添加用容器を使用せずに吸着剤を溶融塩組成物に投入する場合でも吸着剤と溶融塩組成物とを効率的に接触させ得ると考えられる。ただし、添加用容器を使用しない場合は、溶融塩組成物中で吸着剤が破砕した際などに吸着剤由来の破片や微粉が溶融塩組成物中を流動し、化学強化用ガラスに接触することで化学強化処理の問題や外観欠点となる場合がある。したがって、かかる問題が生じないように吸着剤の形状や流動又は振動の条件を調整することが好ましい。また、吸着剤の形状等によっては、吸着剤の投入及び取り出しの簡便さの点で劣る場合があるため、板状又は塊状等、投入や取り出しが容易な形状の吸着剤を用いることが好ましい。
【0047】
他の実施形態2:上記工程Aにおいて、添加用容器を使用せずに塊状等の吸着剤を溶融塩組成物に投入し、工程Bにおいて、添加用容器に代えて吸着剤を振動させる方法。
他の実施形態2においては、溶融塩組成物に投入した吸着剤そのものを振動させるため、板状、棒状、塊状等、溶融塩組成物に投入後に振動させることが可能(振動の幅の制御が可能)な形状を有する吸着剤を用いることが好ましい。
他の実施形態2においては、同量の粒状等の吸着剤を用いる場合に比べて吸着剤の表面積が小さくなりやすい点や、添加用容器内での吸着剤の流動は生じない点で添加用容器を用いる場合と相違する。一方で、他の実施形態2においても、所定の条件で吸着剤を振動させることで、かかる振動を行わない場合に比べて吸着剤の組成回復効果は大きくなり、その効率は向上すると考えられる。ただし、他の実施形態2においては、溶融塩組成物中で吸着剤が破砕した際に吸着剤由来の破片や微粉が溶融塩組成物中を流動し、化学強化処理の問題となる場合があるため、かかる問題が生じないように吸着剤の形状や振動の条件を調整することが好ましい。
【0048】
(アルカリ金属イオン吸着剤)
本実施形態で用いられるアルカリ金属イオン吸着剤としては、物理的又は化学的にアルカリ金属イオンを吸着できる種々の物質を使用できる。アルカリ金属イオン吸着剤で吸着するアルカリ金属イオンとしては、小さいアルカリ金属イオン、すなわちLiイオン及びNaイオンの少なくとも一方が好ましい。吸着するアルカリ金属イオンは、小さいアルカリ金属イオンがLiイオンである場合はLiイオンが好ましく、小さいアルカリ金属イオンがNaイオンである場合はNaイオンが好ましい。
【0049】
吸着剤の具体例としては、例えばアルカリ金属イオンを吸着可能なモレキュラーシーブやイオン交換反応によりアルカリ金属イオンを吸着できる物質等が挙げられる。イオン交換反応によりアルカリ金属イオンを吸着できる物質としては、例えば大きいアルカリ金属イオンを含む無機化合物等が挙げられ、具体的にはガラス助剤、結晶性材料等が挙げられる。イオン交換性の観点から、アルカリ金属イオン吸着剤はガラス助剤が好ましい。
【0050】
ガラス助剤としては、例えば上述した大きいアルカリ金属イオンを含むガラスを使用できる。かかるガラス助剤が小さいアルカリ金属イオンを含む溶融塩組成物に添加されると、ガラス助剤中の大きいアルカリ金属イオンと溶融塩組成物中の小さいアルカリ金属イオンが交換される。ガラス助剤はかかるイオン交換反応により溶融塩組成物中の小さいアルカリ金属イオンを吸着できる。またかかるイオン交換反応を用いたガラス助剤は、ガラス助剤中の小さいアルカリ金属イオンを吸着すると同時に大きいアルカリ金属イオンを溶融塩組成物中に放出できるため、バスライフの延長により大きく寄与できる点で好ましい。
【0051】
ガラス助剤におけるガラス組成は、吸着の対象とする小さいアルカリ金属イオンの種類に応じて適宜選択できる。具体的に、ガラス助剤の最適な組成としては、使用方法によって、大きく二つに分類できる。一つは、小さいアルカリ金属イオンの吸収量及び大きいアルカリ金属イオンの放出量、即ち、イオン交換量よりも化学的耐久性を優先した組成である。一方、化学的耐久性よりもイオン交換量を優先した組成もある。また、その中間の組成も使用できる。そして、イオン交換の対象となる小さいアルカリ金属イオンがLi又はNaのいずれであるかによってもガラス助剤の最適な組成は異なる。
すなわちガラス助剤は、小さいアルカリ金属イオンの種類等に応じて、以下の第1の組成~第4の組成のいずれかのガラス組成を有することが好ましい。
第1の組成:酸化物基準の質量%表示で、SiOを52~95%、NaOを5~25%含有する。
第2の組成:酸化物基準の質量%表示で、SiOを52~95%、KOを5~28%含有する。
第3の組成:酸化物基準の質量%表示で、SiOを55~75%、NaOを20~45%含有する。
第4の組成:酸化物基準の質量%表示で、SiOを55~75%、KOを20~45%含有する。
以下、これらの組成について具体的に説明する。
【0052】
(第1の組成)
まず、小さいアルカリ金属イオンがLiである場合の、化学的耐久性を優先したガラス助剤の組成(以下において「第1の組成」ともいう)の好ましい範囲を記述する。
【0053】
SiOは、ガラス助剤の骨格を構成する成分である。
ガラス助剤の安定性を向上させるためには、第1の組成のガラス助剤のSiOの含有量は好ましくは52%以上、より好ましくは54%以上、さらに好ましくは57%以上である。
一方、ガラス助剤の溶融性を向上させるためには、第1の組成のガラス助剤のSiOの含有量は好ましくは95%以下、より好ましくは92%以下、さらに好ましくは90%以下である。
【0054】
NaOは、Li-Naイオン交換のために必須の成分である。
イオン交換量を増加させるためには、第1の組成のガラス助剤のNaOの含有量は好ましくは5%以上、より好ましくは9%以上、さらに好ましくは11%以上である。
一方、NaOの含有量が過剰な場合、化学的耐久性が悪化しやすい。化学的耐久性を優先する第1の組成のガラス助剤のNaOの含有量は好ましくは25%以下、より好ましくは22%以下、さらに好ましくは20%以下である。
【0055】
Alはアルカリ金属イオンのイオン交換を阻害する成分であるが、化学的耐久性を向上させる成分でもある。第1の組成のガラス助剤のAlの含有量は0%でもよいがガラス助剤としての効果を奏する範囲であれば第1の組成のガラス助剤はAlを含有してもよい。
第1の組成のガラス助剤がAlを含有する場合は、NaOの含有量に対するAlの含有量の割合(Al/NaO)が小さいことが好ましく、例えば2.0以下が好ましく、1.5がより好ましく、1.1以下がさらに好ましい。Alの含有量としては、40%以下が好ましく、30%以下がより好ましく、20%以下がさらに好ましい。
【0056】
十分な化学的耐久性を得るために、SiOとAlの合計量は、65%以上であることが好ましく、より好ましくは70%以上、さらに好ましくは75%以上である。一方イオン交換量を増加させるためには、SiOとAlの合計量は95%以下が好ましく、より好ましくは92%以下、さらに好ましくは90%以下である。
【0057】
第1の組成を有するガラス助剤は必要に応じて、酸化物基準の質量%表示で、SiOを52~95%、NaOを5~25%、Alを0~40%、MgOを0~15%、KOを0~15%、Pを0~10%、Bを0~10%、LiOを0~3%含有してもよい。
【0058】
(第2の組成)
次に、小さいアルカリ金属イオンがNaである場合の、化学的耐久性を優先したガラス助剤の組成(以下において「第2の組成」ともいう)の好ましい範囲を記述する。なお、第2の組成を有するガラス助剤は、小さいアルカリ金属イオンをNaとしたイオン交換だけでなく、小さいアルカリ金属イオンをLiとしたイオン交換も生じ得る。
SiOについては第1の組成と同様なので省略する。
【0059】
Oは、Na-Kイオン交換のために必須の成分であり、更にK-Liイオン交換にも寄与することが分かっている。
イオン交換量を増加させるためには、第2の組成のガラス助剤のKOの含有量は好ましくは5%以上、より好ましくは9%以上、さらに好ましくは11%以上である。
一方、KOの含有量が過剰な場合、化学的耐久性が悪化しやすい。化学的耐久性を優先する第2の組成のガラス助剤のKOの含有量は好ましくは28%以下、より好ましくは20%以下、さらに好ましくは16%以下である。
【0060】
Alはアルカリ金属イオンのイオン交換を阻害する成分であるが、化学的耐久性を向上させる成分でもある。第2の組成のガラス助剤のAlの含有量は0%でもよいが、ガラス助剤としての効果を奏する範囲であれば第2の組成のガラス助剤はAlを含有してもよい。
第2の組成のガラス助剤がAlを含有する場合は、KOの含有量に対するAlの含有量の割合(Al/KO)が小さいことが好ましく、例えば2.0以下が好ましく、1.5がより好ましく、1.1以下がさらに好ましい。Alの含有量としては、40%以下が好ましく、30%以下がより好ましく、20%以下がさらに好ましい。
【0061】
十分な化学的耐久性を得るために、SiOとAlの合計量は、65%以上であることが好ましく、より好ましくは70%以上、さらに好ましくは75%以上である。一方イオン交換量を増加させるためには、SiOとAlの合計量は95%以下が好ましく、より好ましくは92%以下、さらに好ましくは90%以下である。
【0062】
第2の組成を有するガラス助剤は必要に応じて、酸化物基準の質量%表示で、SiOを52~95%、KOを5~28%、Alを0~40%、MgOを0~15%、Pを0~10%、Bを0~10%、LiOを0~3%、NaOを0~30%含有してもよい。
【0063】
(第3の組成)
次に、小さいアルカリ金属イオンがLiである場合の、イオン交換量を優先したガラス助剤の組成(以下において「第3の組成」ともいう)の好ましい範囲を記述する。
【0064】
SiOは、ガラス助剤の骨格を構成する成分である。
ガラスの安定性を向上させるためには、第3の組成のガラス助剤のSiOの含有量は好ましくは55%以上、より好ましくは60%以上、さらに好ましくは65%以上である。
一方、ガラスの溶融性を向上させるためには、第3の組成のガラス助剤のSiOの含有量は好ましくは75%以下、より好ましくは73%以下、さらに好ましくは69%以下である。
【0065】
NaOは、Li-Naイオン交換のために必須の成分である。
イオン交換量を増加させるためには、第3の組成のガラス助剤のNaOの含有量は好ましくは20%以上、より好ましくは25%以上、さらに好ましくは30%以上である。
一方、NaOの含有量が過剰な場合、化学的耐久性が悪化しやすい。第3の組成のガラス助剤のNaOの含有量は好ましくは45%以下、より好ましくは40%以下、さらに好ましくは35%以下である。
【0066】
Alはアルカリ金属イオンのイオン交換を阻害する成分であるが、化学的耐久性を改善させる成分でもある。第3の組成のガラス助剤のAlの含有量は0%が好ましいが、ガラス助剤としての効果を奏する範囲であれば第3の組成のガラス助剤はAlを含有してもよい。
第3の組成のガラス助剤がAlを含有する場合は、NaOの含有量に対するAlの含有量の割合(Al/NaO)が小さいことが好ましく、例えば0.3以下が好ましく、0.2がより好ましく、0.1以下がさらに好ましい。
【0067】
十分な化学的耐久性を得るために、SiOとAlの合計量は、60%以上であることが好ましく、より好ましくは65%以上である。一方イオン交換量を増加させるためには、SiOとAlの合計量は80%以下が好ましく、より好ましくは75%以下、さらに好ましくは70%以下である。
【0068】
第3の組成を有するガラス助剤は必要に応じて、酸化物基準の質量%表示で、SiOを55~75%、NaOを20~45%、Alを0~40%、MgOを0~10%、KOを0~10%、Pを0~10%、Bを0~10%、LiOを0~3%含有してもよい。
【0069】
(第4の組成)
次に、小さいアルカリ金属イオンがNaである場合の、イオン交換量を優先したガラス助剤の組成(以下において「第4の組成」ともいう)の好ましい範囲を記述する。なお、第4の組成を有するガラス助剤は、小さいアルカリ金属イオンをNaとしたイオン交換だけでなく、小さいアルカリ金属イオンをLiとしたイオン交換も生じ得る。
SiOについては第3の組成と同様なので省略する。
【0070】
Oは、Na-Kイオン交換のために必須の成分であり、更にK-Liイオン交換にも寄与することが分かっている。
Na吸収量を増加させるためには、第4の組成のガラス助剤のKOの含有量は好ましくは20%以上、より好ましくは25%以上、さらに好ましくは30%以上である。
一方、KOの含有量が過剰な場合、化学的耐久性が悪化しやすい。第4の組成のガラス助剤のKOの含有量は好ましくは45%以下、より好ましくは40%以下、さらに好ましくは35%以下である。
【0071】
Alはアルカリ金属イオンのイオン交換を阻害する成分であるが、化学的耐久性を向上させる成分でもある。第4の組成のガラス助剤のAlの含有量は0%でもよいが、ガラス助剤としての効果を奏する範囲であれば第4の組成のガラス助剤はAlを含有してもよい。
第4の組成のガラス助剤がAlを含有する場合は、KOの含有量に対するAlの含有量の割合(Al/KO)が小さいことが好ましく、例えば0.3以下が好ましく、0.2がより好ましく、0.1以下がさらに好ましい。
【0072】
十分な化学的耐久性を得るために、SiOとAlの合計量は、60%以上であることが好ましく、より好ましくは65%以上である。一方イオン交換量を増加させるためには、SiOとAlの合計量は80%以下が好ましく、より好ましくは75%以下、さらに好ましくは70%以下である。
【0073】
第4の組成を有するガラス助剤は必要に応じて、酸化物基準の質量%表示で、SiOを55~75%、KOを20~45%、Alを0~40%、MgOを0~10%、Pを0~10%、Bを0~10%、LiOを0~3%、NaOを0~30%含有してもよい。
【0074】
また、第1の組成~第4の組成に共通するガラス助剤のより好ましい態様は以下の通りである。
【0075】
ガラス助剤は、本発明の効果を奏する範囲において、他の成分を含有してもよい。例えばガラス助剤は、N、F、S、Cl等を含有してもよい。
【0076】
ガラス助剤は、SiOとAlの合計量が60%以上であることが好ましい。ガラス状態でありSiOとAlの合計量が60%以上と比較的多いことで、溶融塩組成物中の水との反応が少なくなる。これにより、ガラス助剤の投入による溶融塩組成物のpHの上昇を抑制できる。溶融塩組成物のpHが上昇すると、かかる溶融塩組成物を用いて得られる化学強化ガラスの外観に問題が生じる場合がある。ガラス助剤のSiOとAlの合計量は、好ましくは65%以上である。
【0077】
また、ガラス助剤は、原子番号20未満の元素からなる酸化物を主成分とするガラス、より詳細には、SiO、Al、NaO、P、B、MgO及びKOを主成分とするガラスであることが好ましい。具体的にはガラス組成においてSiO、Al、NaO、P、B、MgO及びKOの含有量の合計が95%以上であることが好ましい。かかる組成を有することで、以下に説明するように、溶融塩組成物の組成を回復する効果が特に高くなるため好ましい。また、化学強化を阻害するイオンの溶出が特に少なくなり、バスライフの延長に大きく寄与できるため好ましい。
【0078】
まず、3価あるいは5価のイオンは、ガラス助剤のネットワークモディファイヤーとして機能するが、原子番号が20を超えるサイズの大きいイオンは、Si骨格中で移動しにくく、このような元素が存在するとガラス助剤中でのアルカリ金属イオンの移動が阻害される。すなわち、原子番号が20を超えるサイズの大きいイオンを含むとガラス助剤のイオン交換量が減少し、溶融塩組成物の組成の回復効果が小さくなる。
また、CaOやSrO等の2価のイオンは、ガラス助剤のイオン交換量を顕著には低下させないが、溶融塩組成物中に溶出すると、これらが化学強化されるガラスの表面に滞在し、化学強化処理を阻害する。この場合、イオン交換により溶融塩組成物の組成を回復できたとしても、かかる溶融塩組成物を用いた化学強化処理に影響が生じるため、バスライフの延長効果としては小さくなる。
【0079】
したがって、ガラス助剤においては優れたバスライフの延長効果を確保するために、原子量が20未満の元素からなる成分であるSiO、Al、NaO、P、B、MgO及びKOの含有量の合計を95%以上とすることが好ましい。また、ガラス助剤のSiO、Al、NaO、P、B、MgO及びKOの含有量の合計は、より好ましくは96%以上、さらに好ましくは98%以上であり、上限は特に限定されず、100%であってもよい。
【0080】
また、先に記載した通りガラス助剤の原子量20以上の元素の合計の含有量は少ないことが好ましく、好ましくは5%以下、より好ましくは3%以下、さらに好ましくは1%以下である。原子量20以上の元素の例としては、例えば、Ti、Cr、Mn、Fe、Co、Ni、Cu、Zn、Y、La、Gd、Ca、Sr、Ba、Zr、Ta、W等がある。
【0081】
ガラス助剤のさらに具体的な好ましい組成としては、例えば、以下の組成(A)、(B)が挙げられる。
【0082】
組成(A)
酸化物基準の質量%表示で、
SiOを52~90%、
Alを0~40%、
MgOを15%以下、
Oを15%以下、
LiOを3%以下、
NaOを5~25%、
を10%以下、
を10%以下含有し、
上記酸化物の含有量の合計が95%以上、SiOとAlの含有量の合計が65%~95%であるガラス助剤。
【0083】
組成(B)
酸化物基準の質量%表示で、
SiOを55~75%、
NaOを20~45%、
Al/NaOが0.3以下、
MgOを10%以下、
Oを10%以下、
LiOを3%以下、
を10%以下、
を10%以下含有し、
SiOとNaOの含有量の合計が95%以上、SiOとAlの含有量の合計が60~80%であるガラス助剤。
【0084】
(溶融塩組成物)
本実施形態における溶融塩組成物の温度は、吸着剤による組成の回復を行える温度範囲であればよく、特に限定されない。例えば吸着剤が上述のガラス助剤である場合、溶融塩組成物の温度はイオン交換促進の観点から、350℃以上が好ましく、400℃以上がより好ましく、420℃以上がさらに好ましい。また、溶融塩の分解を鑑みると溶融塩組成物の温度は500℃以下が好ましく、475℃以下がより好ましく、460℃以下がさらに好ましい。
【0085】
溶融塩組成物は上述の通り、少なくとも大きいアルカリ金属イオン、すなわちNaイオン及びKイオンの少なくとも一方を含有すればよく、その種類は特に限定されない。溶融塩組成物は一般的には硝酸塩、例えば硝酸ナトリウム及び硝酸カリウムの少なくとも一方を含有する。
【0086】
(化学強化用ガラス)
本実施形態における溶融塩組成物により化学強化される化学強化用ガラスについて説明する。
化学強化用ガラスはLiO及びNaOの少なくとも一方を含有すればよく、成形、化学強化処理による強化が可能な組成を有するガラスであれば種々のガラスを使用できる。化学強化用ガラスとしては、例えば、アルミノシリケートガラス、ソーダライムガラス、ホウ珪酸ガラス、鉛ガラス、アルカリバリウムガラス、アルミノホウ珪酸ガラス等が挙げられる。具体的には例えば、酸化物基準のモル百分率表示で、SiOを50~80%、Alを2~25%、LiOを0~20%、NaOを0.1~18%、KOを0~10%、MgOを0~15%、CaOを0~5%、Pを0~5%、Bを0~5%、Yを0~5%およびZrOを0~5%含むガラスを化学強化用ガラスとして使用できる。
【0087】
化学強化処理により、高いCSや大きなDOLを有し、特に強度の高い化学強化ガラスを得るためには、小さいアルカリ金属を多く含む化学強化用ガラスを用いて、化学強化の際のイオン交換量を多くすることが好ましい。化学強化用ガラスの小さいアルカリ金属、すなわちLiO及びNaOの少なくとも一方の含有量は、例えば1%以上であってもよく、3%以上であってもよく、5%以上であってもよい。
【0088】
化学強化用ガラスの厚みや形状も特に限定されない。化学強化用ガラスは、例えば、均一な板厚を有する平板形状、表面と裏面のうち少なくとも一方に曲面を有する形状、および、屈曲部等を有する立体的な形状等の様々な形状であってよく、また、用途に応じた形状加工、例えば、切断、端面加工および穴あけ加工などの機械的加工が行われていてもよい。化学強化用ガラスの具体的な形状としても特に限定されないが、例えば厚さは0.2mm以上が好ましく、0.7mm以上が好ましい。また、化学強化用ガラスの厚さは、5mm以下が好ましく、3mm以下がより好ましく、2mm以下がさらに好ましい。
【0089】
(化学強化ガラスの製造方法)
本発明は、化学強化ガラスの製造方法にも関する。本実施形態に係る化学強化ガラスの製造方法は、化学強化用ガラスを溶融塩組成物に浸漬して化学強化処理すること(化学強化処理工程)を含む化学強化ガラスの製造方法であって、前記溶融塩組成物の組成を回復すること(組成回復工程)を含む。
本実施形態に係る化学強化ガラスの製造方法において、前記組成の回復は、添加用容器に充填されたアルカリ金属イオン吸着剤を前記溶融塩組成物に投入することと、前記投入の後に前記添加用容器を振動させることを含み、前記添加用容器の容積に対する前記アルカリ金属イオン吸着剤の充填率は80%以下であり、前記アルカリ金属イオン吸着剤の前記溶融塩組成物への投入量は、前記溶融塩組成物の全量に対して2質量%~10質量%であり、前記振動における振動の幅L2は30mm以上である。
【0090】
化学強化処理工程において、化学強化用ガラスを溶融塩組成物に浸漬して化学強化処理を行う。化学強化用ガラスの好ましい態様は上述と同様である。また、溶融塩組成物としても上述の通り、少なくとも大きいアルカリ金属イオン、すなわちNaイオン及びKイオンの少なくとも一方を含有する溶融塩組成物を用いればよい。溶融塩組成物は一般的には硝酸塩、例えば硝酸ナトリウム及び硝酸カリウムの少なくとも一方を含有する。
【0091】
化学強化処理において、処理時間及び溶融塩組成物の温度等は所望の応力プロファイルに応じて適宜調節できる。例えば処理時間は0.5~6時間が好ましく、溶融塩組成物の温度は400~500℃が好ましい。
【0092】
本実施形態に係る化学強化ガラスの製造方法は組成回復工程を含む。組成回復工程においては、化学強化処理工程において使用される又は使用された溶融塩組成物の組成を回復する。組成回復工程において組成を回復する方法は、上述した本実施形態に係る溶融塩組成物の組成回復方法と同様であり、好ましい態様も同様である。
【0093】
本実施形態に係る化学強化ガラスの製造方法において、化学強化処理工程の前に組成回復工程が行われてもよく、化学強化処理工程と同時に組成回復工程が行われてもよく、化学強化処理工程の後に組成回復工程が行われてもよい。化学強化用ガラスの損傷等を抑制する観点や、組成回復工程を効率的に行う観点からは、化学強化処理工程の後に組成回復工程が行われることが好ましい。
また、同様の観点から、化学強化処理工程において、化学強化用ガラス(化学強化ガラス)を取り出す工程を含むことが好ましく、取り出すタイミングは組成回復工程の前であることがより好ましい。
化学強化処理工程の前に組成回復工程が行われる場合や、化学強化処理工程及び組成回復工程の後にさらに化学強化処理工程が行われる場合等は、化学強化用ガラスの損傷等を抑制する観点から、組成回復工程は添加用容器を取り出す工程を含むことが好ましい。
【0094】
本実施形態に係る化学強化ガラスの製造方法は化学強化処理工程及び組成回復工程を少なくとも1回ずつ含むが、各工程を複数回含んでもよい。またその場合、各工程を連続で含んでもよいし、交互に含んでもよい。また、本発明の効果を阻害しない範囲において、一般的に化学強化ガラスの製造等において行われる公知の工程をさらに含んでもよい。
【0095】
本実施形態に係る化学強化ガラスの製造方法によれば、組成回復工程を含むことにより溶融塩バスの寿命が延長されるので、同じ溶融塩バスで化学強化処理可能な回数を増やすことができ、効率的に化学強化ガラスを製造できる。
【0096】
本実施形態に係る化学強化ガラスの製造方法で製造される化学強化ガラスは、自動車や飛行機等の内装等や、タッチパネル機能が搭載された液晶表示装置、例えば、スマートフォンを代表とする携帯液晶端末、車両等に備えられた液晶表示装置、パーソナルコンピュータの液晶表示装置等のカバーガラスとして有用である。
【実施例
【0097】
以下に本発明の実施例について具体的に説明するが、本発明はこれらに限定されない。実施例において、「ppm」は「質量ppm」を表す。また、例1~6は実施例であり、例7~10は比較例である。
【0098】
(溶融塩組成物の調製)
小さいアルカリ金属イオンがNaであり、大きいアルカリ金属イオンがKである化学強化処理を想定し、化学強化処理後の溶融塩組成物の状態を模擬的に再現した溶融塩組成物(1)及び(2)をそれぞれ以下の条件で調製した。
溶融塩組成物(1):
KNO(大塚化学株式会社製)36.0kg
CO(関東化学株式会社製)3.2kg
NaNO(関東化学株式会社製)0.7kg
上記を円筒形容器(材質SUS304、寸法 直径380mm×高さ360mm)に入れ、435℃の条件で均一な状態にした。Na濃度は5000ppmであった。
溶融塩組成物(2):
KNO(大塚化学株式会社製)268.0kg
CO(関東化学株式会社製)24.2kg
NaNO(関東化学株式会社製)7.8kg
上記を箱型容器(材質SUS304、寸法 縦500mm×横600mm×高さ760mm)に入れ、435℃の条件で均一な状態にした。Na濃度は7000ppmであった。
【0099】
[測定方法]
<イオン濃度減少率の評価>
吸着剤使用前の溶融塩組成物と吸着剤使用後の溶融塩組成物とをそれぞれ約5g取り出し、純水で10倍に希釈し、原子吸光分析により以下の条件でNaイオンの濃度を測定した。
測定値から、吸着剤使用前に対する吸着剤使用後のNaイオン濃度の割合=(吸着剤使用後のNaイオン濃度/吸着剤使用前のNaイオン濃度)×100(%)を算出した。
ここで吸着剤使用前とは、溶融塩組成物に吸着剤を投入する前の状態をいう。吸着剤使用後とは、溶融塩組成物に吸着剤を投入し、添加用容器を後述の条件で振動させた後の状態をいう。
装置:日立ハイテクノロジーズ社製ZA3300
(測定条件)
ランプ電流値:10mA
波長:589.0nm
スリット:0.4nm
バーナヘッド:標準バーナ
バーナ高さ:7.5mm
フレーム:空気-アセチレン
助燃ガス圧力:160kPa
燃焼ガス流量:2.0L/min
定量方法:検量線法
【0100】
溶融塩組成物(1)又は(2)に対し、以下に示す例1~例10の方法でアルカリ金属イオン吸着剤を使用し、上記方法によりイオン濃度減少率について評価した。
【0101】
[例1]
円筒形容器(材質SUS304、寸法 直径380mm×高さ360mm)の溶融炉に前記溶融塩組成物(1)40kgを入れて、435℃で均一な状態にし、溶融塩バスを用意した。
溶融塩バス中の溶融塩組成物の底面から液面までの高さ(溶融塩バスの深さL1)は210mmであった。
次に、SUS316製のメッシュ(アズワン株式会社製ステンレスメッシュ、メッシュ300)を使用したかご(縦25cm 横25cm 高さ25cm)を添加用容器とし、吸着剤としてNaイオン吸着剤2kg(溶融塩組成物に対して濃度5質量%)を入れた。これを溶融炉の溶融塩体積における中心付近に設置することで、溶融塩組成物中に投入した。
Naイオン吸着剤としては以下の表1に示すものを使用した。なお、表1に示すNaイオン吸着剤は上述したガラス助剤に相当する。
【0102】
【表1】
【0103】
なお、上記のNaイオン吸着剤を株式会社前川工業所製ジョークラッシャーで粉砕したものを添加用容器に充填した。粉砕後のNaイオン吸着剤について、次の方法で粒径分布及び平均粒径を測定した。
(方法)
ふるいAのふるい目開きをaとし、a~aが下記の通りであるふるいA~Aを使用した。
=0.125mm、a=0.25mm、a=0.5mm、a=1.0mm、a=2.0mm
ふるいA~Aを使用して求めたNaイオン吸着剤の粒径分布を表2に示す。表2において、「a~a」の行に示される数値(質量%)は、「Aで残ってAで落ちた粒子の質量百分率」を表す。
得られた粒径分布をもとに下記式から平均粒径を算出した結果、Naイオン吸着剤の平均粒径は1.5mmであった。
(式) 平均粒径(mm)=(Aで落ちた粒子の質量分率)×a+(Aで残ってAで落ちた粒子の質量分率)×{(a+a)/2}+(Aで残ってAで落ちた粒子の質量分率)×{(a+a)/2}+(Aで残ってAで落ちた粒子の質量分率)×{(a+a)/2}+(Aで残ってAで落ちた粒子の質量分率)×{(a+a)/2}+(Aで残った粒子の質量分率)×a
【0104】
【表2】
【0105】
図1に示す通り、添加用容器の投入は、添加用容器よりも大きく、溶融塩組成物と吸着剤が接触するよう開口した他の容器内に添加用容器を設置し、添加用容器が溶融塩組成物に浸漬するように他の容器を溶融塩バスに投入する方法で行った。そして他の容器の溶融塩組成物に浸漬されていない部分を溶融塩バスの外部から動かすことで、添加用容器を以下の条件で振動させた。
溶融塩組成物の温度:435℃
振動方法:(振動の幅L2:100mm(上下50mmずつ)、振動の速度:20mm/s、振動の方向:溶融塩バスの深さ方向に平行な方向)
振動の時間:8時間
【0106】
[例2~10]
例2~10では、条件を表3に記載の内容に変更し、さらに以下に記載する点を変更した以外は例1と同様に操作を行った。
例6では、溶融炉の大きさを箱型容器(材質SUS304、寸法 縦500mm×横600mm×高さ760mm)の溶融炉に変更し、溶融塩組成物(2)を使用した。
例7では、添加用容器を振動させずに添加用容器を投入した状態で8時間保持した。
例10では、添加用容器を吸着剤の充填率が100%になる大きさのかごに変更した。
【0107】
【表3】
【0108】
実施例である例1~例6においては、適切な条件でアルカリ金属イオン吸着剤を使用したことで、効率的に溶融塩組成物の組成を回復できた。一方で、比較例である例7~10においては、実施例と同じアルカリ金属イオン吸着剤を使用したにもかかわらず、使用条件が適当でなかったことから吸着剤使用前に対する吸着剤使用後のNaイオン濃度の割合が実施例に比べて大きくなり、組成回復の効率に劣る結果となった。
【符号の説明】
【0109】
1 溶融塩バス
2 アルカリ金属イオン吸着剤(吸着剤)
20 添加用容器
3 溶融塩組成物
30 容器
40 他の容器
L1 溶融塩バスの深さ
L2 振動の幅
図1