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  • 特許-窒化物半導体基板の製造方法 図1
  • 特許-窒化物半導体基板の製造方法 図2
  • 特許-窒化物半導体基板の製造方法 図3
  • 特許-窒化物半導体基板の製造方法 図4
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2025-04-08
(45)【発行日】2025-04-16
(54)【発明の名称】窒化物半導体基板の製造方法
(51)【国際特許分類】
   C30B 29/38 20060101AFI20250409BHJP
   C30B 25/18 20060101ALI20250409BHJP
   C23C 16/02 20060101ALI20250409BHJP
   C23C 16/34 20060101ALI20250409BHJP
   C30B 25/10 20060101ALI20250409BHJP
   H01L 21/205 20060101ALI20250409BHJP
   H01L 21/20 20060101ALI20250409BHJP
【FI】
C30B29/38 D
C30B25/18
C23C16/02
C23C16/34
C30B25/10
H01L21/205
H01L21/20
【請求項の数】 3
(21)【出願番号】P 2021147011
(22)【出願日】2021-09-09
(65)【公開番号】P2023039743
(43)【公開日】2023-03-22
【審査請求日】2023-08-22
(73)【特許権者】
【識別番号】000190149
【氏名又は名称】信越半導体株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100102532
【弁理士】
【氏名又は名称】好宮 幹夫
(74)【代理人】
【識別番号】100194881
【弁理士】
【氏名又は名称】小林 俊弘
(74)【代理人】
【識別番号】100215142
【弁理士】
【氏名又は名称】大塚 徹
(72)【発明者】
【氏名】萩本 和徳
(72)【発明者】
【氏名】久保埜 一平
【審査官】宮崎 園子
(56)【参考文献】
【文献】特開2013-033887(JP,A)
【文献】特開2021-072441(JP,A)
【文献】特表2004-507071(JP,A)
【文献】特開平08-064913(JP,A)
【文献】特開昭62-072118(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C30B 29/38
C30B 25/18
C23C 16/02
C23C 16/34
C30B 25/10
H01L 21/205
H01L 21/20
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
成膜用基板上に窒化物半導体が形成された窒化物半導体基板の製造方法であって、
(1)単結晶シリコンからなる成膜用基板を窒素雰囲気で熱処理することで、前記成膜用基板上にシリコン窒化膜を形成する工程、
(2)前記シリコン窒化膜上にAlN膜を成長させる工程、及び
(3)前記AlN膜上にGaN膜、AlGaN膜、又はその両方を成長させる工程
を含み、かつ、
前記工程(1)において、前記熱処理はRTA炉で1100~1300℃で1~120秒の熱処理を行うことを特徴とする窒化物半導体基板の製造方法。
【請求項2】
前記シリコン窒化膜が単結晶であることを特徴とする請求項1に記載の窒化物半導体基板の製造方法。
【請求項3】
成長用基板表面のAl拡散濃度が4e15atoms/cm以下の窒化物半導体基板を製造することを特徴とする請求項1又は請求項2に記載の窒化物半導体基板の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、窒化物半導体基板の製造方法に関する。特に高周波デバイス用の窒化物半導体基板の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
GaNやAlNをはじめとする窒化物半導体は、2次元電子ガスを用いた高電子移動度トランジスタ(HEMT:High Electron Mobility Transistor)や高耐圧電子デバイスの作製に用いることができる。
【0003】
これらの窒化物半導体を基板上に成長させた窒化物ウェーハを製作することは難しく、基板としては、サファイア基板やSiC基板が用いられている。しかし、大口径化や基板のコストを抑えるために、シリコン基板上への気相成長によるエピタキシャル成長が用いられている。シリコン基板上への気相成長によるエピタキシャル成長膜の作製は、サファイア基板やSiC基板に比べて大口径の基板が使用できるのでデバイスの生産性が高く、放熱性の点で有利である。
【0004】
単結晶シリコン基板上にAlNバッファ層を積み、緩衝層を積み、GaN-HEMT構造エピタキシャル層を積み、パワーデバイス用、RFデバイス用エピタキシャルウェーハとしている。特にRFデバイス用エピタキシャルウェーハの単結晶シリコン基板には、高抵抗基板を用いている。高抵抗単結晶シリコン基板上にAlNバッファ層を積み、その上に緩衝層である超格子構造バッファ層(SLs)、その上にHEMT構造をエピタキシャル成長させている。
【0005】
ところで高抵抗単結晶シリコン基板に直接AlNバッファ層を積み、緩衝層、HEMT構造を積んだ場合、AlNの成長レートが遅く、トータルのエピタキシャル成長時間が長くなり、AlNバッファ層のAlが高抵抗単結晶シリコン基板に拡散し、低抵抗層ができチャネルを形成することがわかっている。このAlの拡散を低減する方法として、直近では3C-SiC on Siのエピ成長技術が知られている。つまり、AlN/3C-SiC/Siとして、中間層3C-SiC層を挿入する。3C-SiC層により、より簡便に効率よくAlの拡散抑止層を導入する。
【0006】
また、特許文献1では、シリコン基板と窒化アルミニウム層の間にSiNを備える半導体構造が開示されている。SiNは、反応前に形成することができる。SiNは非晶質・単一層結晶構造・多結晶を有する。非晶質の場合、その上に成長するものは、ポリ化して、エピタキシャル成長をしない。また、CVDプロセスで形成との記載もあるが、CVD薄膜(2nm)を積んでも、多結晶化してしまう。また、単一結晶構造SiNにするにしても、窒素ソースガスとしてアンモニアガスを使用することが記載されているがアンモニアを使用した場合、エピタキシャルウェーハに曇りが発生してしまう。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【文献】特表2008-522447
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は上記課題を解決するためになされたもので、単結晶シリコン基板上にAlN層をエピタキシャル成長させ、その上にGaNやAlGaN層をエピタキシャル成長させた場合にAlが単結晶シリコン基板に拡散するのを防止することができる窒化物半導体基板の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記課題を解決するために、本発明では、
成膜用基板上に窒化物半導体が形成された窒化物半導体基板の製造方法であって、
(1)単結晶シリコンからなる成膜用基板を窒素雰囲気で熱処理することで、前記成膜用基板上にシリコン窒化膜を形成する工程、
(2)前記シリコン窒化膜上にAlN膜を成長させる工程、及び
(3)前記AlN膜上にGaN膜、AlGaN膜、又はその両方を成長させる工程
を含む窒化物半導体基板の製造方法を提供する。
【0010】
このような製造方法であれば、AlN層から単結晶シリコン基板へAlが拡散するのを防止することができるとともに曇りの発生のない窒化物半導体基板を製造することができる。
【0011】
また、前記工程(1)において、前記熱処理はRTA炉で1100~1300℃で1~120秒の熱処理を行うことが好ましい。
【0012】
このような熱処理であれば、比較的容易にシリコン窒化膜を形成することができる。
【0013】
また、前記シリコン窒化膜が単結晶であることが好ましい。
【0014】
本発明では、このようなシリコン窒化膜を形成することができる。
【0015】
また本発明では、成長用基板表面のAl拡散濃度が4e15atoms/cm以下の窒化物半導体基板を製造することが好ましい。
【0016】
このように成長用基板表面へのAl拡散が抑制された窒化物半導体基板は、高周波デバイス作製において特に有用である。
【発明の効果】
【0017】
以上のように、本発明であれば、単結晶シリコン基板、特には高抵抗単結晶シリコン基板上にAlN層をエピタキシャル成長させ、その上にGaNやAlGaN層をエピタキシャル成長させた場合に、Alが単結晶シリコン基板に拡散するのを防止することができるとともに曇りの発生のない窒化物半導体基板の製造方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
図1】本発明の窒化物半導体基板の製造方法のフローの一例を示す概略図である。
図2】実施例、及び比較例1、2において製造した窒化物半導体基板の写真である。
図3】実施例及び比較例3で製造した窒化物半導体基板のバックサイドSIMSの測定結果である。
図4】実施例1で製造した窒化物半導体基板の断面写真である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
上述したように高抵抗単結晶シリコン基板上にAlNバッファ層、緩衝層、GaN-HEMT構造からなる窒化物半導体のエピタキシャル成長を行なった時にAlが高抵抗単結晶シリコン基板に拡散するのを防止する窒化物半導体基板の製造方法の開発が望まれていた。
【0020】
本発明者らが鋭意検討を重ねたところ、単結晶シリコンからなる成膜用基板に窒素雰囲気で熱処理することでシリコン窒化膜を形成する工程、シリコン窒化膜上にAlN膜を成長させる工程、AlN膜上にGaN膜、AlGaN膜、又はその両方を成長させる工程を含む窒化物半導体基板の製造方法であれば、Alが高抵抗単結晶シリコン基板に拡散するのを防止でき、かつ、曇りの発生のない窒化物半導体基板を製造できることが判り、本発明を完成させた。
【0021】
即ち、本発明は、成膜用基板上に窒化物半導体が形成された窒化物半導体基板の製造方法であって、(1)単結晶シリコンからなる成膜用基板を窒素雰囲気で熱処理することで、前記成膜用基板上にシリコン窒化膜を形成する工程、(2)前記シリコン窒化膜上にAlN膜を成長させる工程、及び(3)前記AlN膜上にGaN膜、AlGaN膜、又はその両方を成長させる工程を含む窒化物半導体基板の製造方法である。
【0022】
以下、本発明について詳細に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0023】
[窒化物半導体基板の製造方法]
本発明の窒化物半導体基板の製造方法は、下記工程(1)~(3)を含む。以下、図1の本発明の窒化物半導体の製造方法のフローを参照しながら、各工程について詳細に説明する。
【0024】
<工程(1)>
工程(1)は、単結晶シリコンからなる成膜用基板を窒素雰囲気で熱処理することで、成膜用基板上にシリコン窒化膜を形成する工程である。
【0025】
最初に図1(a)に示すように、単結晶シリコンからなる成膜用基板(シリコン基板)1を、RTA(Rapid Thermal Annealing)炉に入れ、窒素雰囲気下で例えば1100~1300℃で1~120秒、好ましくは1150~1250℃で2~20秒、特には1200℃10秒の熱処理を行い、表面に例えば厚さ0.2~20nm、好ましくは1~4nm、特には2nm程度のシリコン窒化膜(SiN膜)2を形成する。シリコン窒化膜2は、成膜用基板の表面側にだけ形成してもよいが、表面と裏面とを有する成膜用基板1の全体に形成することもできる。
【0026】
本発明では、特に、窒素雰囲気下でシリコン窒化膜を形成することを特徴とする。ここで窒素雰囲気とは100%窒素ガス雰囲気、又は、窒素ガスと不活性ガスの混合雰囲気のことを言う。シリコン窒化膜を形成すれば、後述のAlNバッファ層からAlが高抵抗単結晶シリコン成長用基板の表面に拡散し、低抵抗層ができるのを防止することができるが、さらに窒素雰囲気下での熱処理で形成すれば、次工程以降で、シリコン窒化膜上に曇りのない窒化物半導体のエピタキシャル層を成長させることができる。窒素雰囲気下ではなくCVDプロセスやアンモニアガス雰囲気下での熱処理によってシリコン窒化膜を形成した場合には、次工程以降で窒化物半導体を成長させる際に、シリコン窒化膜上に多結晶層が形成されたり、成長させたエピタキシャル層に曇りが発生したりする場合がある。
【0027】
単結晶シリコンからなる成膜用基板としても特に限定はされず、CZ単結晶シリコンであってもFZ単結晶シリコンであってもよいし、ドーパントの有無や種類、及び濃度についても特に制限はない。また成膜用基板は高抵抗単結晶シリコン基板であることが好ましい。抵抗率としては特に限定はされないが、下限は例えば1Ωcm以上、好ましくは10Ωcm以上、より好ましくは100Ωcm以上であり、上限は例えば3000Ωcm以下、好ましくは1000Ωcm以下、より好ましくは500Ωcm以下である。
【0028】
<工程(2)>
工程(2)は、シリコン窒化膜上にAlN膜を成長させる工程である。
【0029】
図1(b)に示すように、シリコン窒化膜2上にMOVPE法によりAlN膜(AlNバッファ層)3を例えば厚さ20~500nm、好ましくは50~300nm、より好ましくは100~200nm、特には160nmで成長させる。
【0030】
<工程(3)>
工程(3)は、AlN膜上にGaN膜、AlGaN膜、又はその両方を成長させる工程である。
【0031】
図1(c)に示すように、例えば、AlN層やGaN層からなる多層膜からなる緩衝層4、さらにGaN-HEMT層5からなる窒化物半導体をトータルで0.1~20μm、好ましくは0.5~10μm、より好ましくは1~5μm、特には2.7μm程度エピタキシャル成長させる。
【0032】
以上のようにして、シリコン窒化膜によってAlNバッファ層からAlが高抵抗単結晶シリコン成長用基板の表面に拡散し低抵抗層ができるのを防止することができ、かつ、AlNバッファ層上に成長したエピタキシャル層も曇りのない窒化物半導体基板を製造することができる。
【0033】
また本発明では、成長用基板表面のAl拡散濃度が4e15atoms/cm以下、好ましくは3e15atoms/cm以下、より好ましくは2e15atoms/cm以下の窒化物半導体基板を製造することができる。Al拡散濃度の下限値としては特に限定されないが、例えば、0atoms/cm以上、もしくは1e13atoms/cm以上とすることができる。
【0034】
成長用基板表面のAl拡散濃度の測定方法としては、例えば、二次イオン質量分析(SIMS)を用いることができる。
【実施例
【0035】
以下、実施例及び比較例を用いて本発明を具体的に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0036】
(実施例)
直径150mm、面方位(111)、抵抗率100Ωcmの単結晶シリコン基板表面に厚さ2nmのSiN膜(RTA炉に入れ、N雰囲気1200℃10秒で表面をSiN化)を付け、その上にAlNバッファ層、緩衝層、GaN-HEMT構造をエピタキシャル成長させた。エピタキシャル成長後、ウェーハ断面を観察した様子を図4に示す。図4から判るように、シリコン基板とAlN膜の間にフラットな単一結晶SiN層が形成されていることが確認できる。電子線回折の結果、AlN層は単結晶であった。
【0037】
また、図2(a)に示すように、エピタキシャル層が鏡面成長しているのが判る。また、図3に単結晶シリコン基板の裏面側からSiN膜までのAl濃度についてバックサイドSIMSで調査した結果を示す。図3中、窒素(N)濃度が急上昇しているところが単結晶シリコン基板とその上のAlN膜との界面(シリコン窒化膜は厚さが2nmしかない)を表しており、界面直下(グラフ横軸のSIMS深さ2.3~2.7μmの辺り)では後述するSiN膜のない比較例3に比べてAl濃度が低いことが判る。
【0038】
(比較例1)
直径150mm、面方位(111)、抵抗率100Ωcmの単結晶シリコン基板表面に厚さ2nmのSiN膜(RTA炉に入れ、NH+Ar雰囲気中1175℃10秒で表面をSiN化)を付けたSi基板上にAlNバッファ層、緩衝層、GaN-HEMT構造をエピタキシャル成長させた。図2(b)に示すようにエピタキシャル層が曇り成長しているのが判る。
【0039】
(比較例2)
直径150mm、面方位(111)、抵抗率100Ωcmの単結晶シリコン基板表面に厚さ2nmのSiN膜(PE-CVD炉に入れ、SiH+NH+N雰囲気中300℃3秒で表面をSiN化)を付けたSi基板上にAlNバッファ層、緩衝層、GaN-HEMT構造をエピタキシャル成長させた。図2(c)に示すようにエピタキシャル層が曇り成長しているのが判る。
【0040】
(比較例3)
Si基板表面にSiN膜を設けることなく、Si基板表面上に直接AlNバッファ層、緩衝層、GaN-HEMT構造をエピタキシャル成長させた。図3に示すように、比較例3の窒化物半導体基板は実施例と比べてシリコン基板表面のAl濃度が高いのが判る。
【0041】
以上のように、本発明の窒化物半導体基板の製造方法であれば、単結晶シリコン基板とAlN膜の間の窒化シリコン膜を窒素雰囲気下の熱処理で形成することによって、Alが高抵抗単結晶シリコン基板に拡散するのを防止することができるとともに曇りの発生のない窒化物半導体基板を製造できることがわかる。一方、窒化シリコン膜を窒素雰囲気以外の条件を用いて形成した比較例1と比較例2ではエピタキシャル層に曇りが発生し、窒化シリコン膜を形成しない比較例3ではAlが高抵抗単結晶シリコン基板に拡散するのを防止できない。
【0042】
なお、本発明は、上記実施形態に限定されるものではない。上記実施形態は例示であり、本発明の特許請求の範囲に記載された技術的思想と実質的に同一な構成を有し、同様な作用効果を奏するものは、いかなるものであっても本発明の技術的範囲に包含される。
【符号の説明】
【0043】
1…単結晶シリコンからなる成膜用基板、 2…シリコン窒化膜、 3…AlN膜、
4…緩衝層、 5…GaN-HEMT層。
図1
図2
図3
図4