(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2025-04-08
(45)【発行日】2025-04-16
(54)【発明の名称】ビフィズス菌増殖促進剤
(51)【国際特許分類】
A23L 33/135 20160101AFI20250409BHJP
A61K 35/747 20150101ALI20250409BHJP
A61P 1/00 20060101ALI20250409BHJP
A23C 9/123 20060101ALI20250409BHJP
C12N 1/20 20060101ALI20250409BHJP
【FI】
A23L33/135
A61K35/747
A61P1/00
A23C9/123
C12N1/20 E
(21)【出願番号】P 2020069719
(22)【出願日】2020-04-08
【審査請求日】2023-03-29
【微生物の受託番号】NPMD NITE P-03187
【微生物の受託番号】NPMD NITE P-03188
【微生物の受託番号】NPMD NITE P-03189
【微生物の受託番号】NPMD NITE P-03190
【微生物の受託番号】NPMD NITE P-03191
【微生物の受託番号】NPMD NITE P-03192
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】711002926
【氏名又は名称】雪印メグミルク株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000774
【氏名又は名称】弁理士法人 もえぎ特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】加田 茂樹
(72)【発明者】
【氏名】塚原 拓也
(72)【発明者】
【氏名】木村 彰
【審査官】吉岡 沙織
(56)【参考文献】
【文献】特表2019-511563(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2019/0224254(US,A1)
【文献】米国特許出願公開第2019/0290706(US,A1)
【文献】米国特許出願公開第2015/0050254(US,A1)
【文献】米国特許出願公開第2019/0069586(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A23L
A23C
C12N
C12Q
A61K
A61P
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/MEDLINE/BIOSIS/EMBASE/FSTA/AGRICOLA(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ラクトバチルス・ムコサエ
(Lactobacillus mucosae)を有効成分とするヒト腸内におけるビフィズス菌割合の増加剤
(ただし、Lactobacillus plantarum、Faecalibacterium prausnitzii、Butyricicoccus pullicaecorum、Roseburia inulinivorans、Roseburia hominis、Akkermansia muciniphila、Anaerostipes caccae、Escherichia coli、Enterococcus faecium、Lactobacillus mucosae、Bifidobacterium adolescentis、Bifidobacterium longum、Bacteroides thetaiotaomicronおよびBacteroides vulgatusを全て含む前記剤を除く)。
【請求項2】
ラクトバチルス・ムコサエ
(Lactobacillus mucosae)を有効成分とするビフィズス菌増殖促進剤
(ただし、Lactobacillus plantarum、Faecalibacterium prausnitzii、Butyricicoccus pullicaecorum、Roseburia inulinivorans、Roseburia hominis、Akkermansia muciniphila、Anaerostipes caccae、Escherichia coli、Enterococcus faecium、Lactobacillus mucosae、Bifidobacterium adolescentis、Bifidobacterium longum、Bacteroides thetaiotaomicronおよびBacteroides vulgatusを全て含む前記剤を除く)。
【請求項3】
ラクトバチルス・ムコサエ
(Lactobacillus mucosae)が、ビフィズス菌と培養したときに、無添加に比べて1.1倍以上の増殖活性を有する株である請求項1又は2に記載の剤。
【請求項4】
ラクトバチルス・ムコサエ
(Lactobacillus mucosae)が、SBT2025(NITE P-03189)、SBT2268(NITE P-03190)、SBT2269(NITE P-03191)、 SBT2867(NITE P-03192)、SBT10043(NITE P-03187)及びSBT10228(NITE P-03188)からなる群から選ばれる1以上の乳酸菌株である請求項1~3のいずれかに記載の剤。
【請求項5】
ラクトバチルス・ムコサエ
(Lactobacillus mucosae)を有効成分とするヒト腸内におけるビフィズス菌割合の増加用飲食品
(ただし、Lactobacillus plantarum、Faecalibacterium prausnitzii、Butyricicoccus pullicaecorum、Roseburia inulinivorans、Roseburia hominis、Akkermansia muciniphila、Anaerostipes caccae、Escherichia coli、Enterococcus faecium、Lactobacillus mucosae、Bifidobacterium adolescentis、Bifidobacterium longum、Bacteroides thetaiotaomicronおよびBacteroides vulgatusを全て含む前記飲食品を除く)。
【請求項6】
ラクトバチルス・ムコサエ
(Lactobacillus mucosae)を有効成分とするビフィズス菌増殖促進用飲食品
(ただし、Lactobacillus plantarum、Faecalibacterium prausnitzii、Butyricicoccus pullicaecorum、Roseburia inulinivorans、Roseburia hominis、Akkermansia muciniphila、Anaerostipes caccae、Escherichia coli、Enterococcus faecium、Lactobacillus mucosae、Bifidobacterium adolescentis、Bifidobacterium longum、Bacteroides thetaiotaomicronおよびBacteroides vulgatusを全て含む前記飲食品を除く)。
【請求項7】
ラクトバチルス・ムコサエ
(Lactobacillus mucosae)が、ビフィズス菌と培養したときに、無添加に比べて1.1倍以上の増殖活性を有する株である請求項5又は6に記載の飲食品。
【請求項8】
ラクトバチルス・ムコサエ
(Lactobacillus mucosae)が、SBT2025(NITE P-03189)、SBT2268(NITE P-03190)、SBT2269(NITE P-03191)、SBT2867(NITE P-03192)、SBT10043(NITE P-03187)及びSBT10228(NITE P-03188)からなる群から選ばれる1以上の乳酸菌株である請求項5~7のいずれかに記載の飲食品。
【請求項9】
乳を主成分とする培地中でラクトバチルス・ムコサエ
(Lactobacillus mucosae)を培養する工程を含む、発酵乳製品
(ただし、Lactobacillus plantarum、Faecalibacterium prausnitzii、Butyricicoccus pullicaecorum、Roseburia inulinivorans、Roseburia hominis、Akkermansia muciniphila、Anaerostipes caccae、Escherichia coli、Enterococcus faecium、Lactobacillus mucosae、Bifidobacterium adolescentis、Bifidobacterium longum、Bacteroides thetaiotaomicronおよびBacteroides vulgatusを全て含む前記発酵乳製品を除く)の製造方法であって、ラクトバチルス・ムコサエとして以下の性質を有する株を用いることを特徴とする前記製造方法。
性質; ビフィズス菌と培養したときに、無添加に比べて1.1倍以上の増殖活性を有す ることを特徴とするラクトバチルス・ムコサエ
【請求項10】
ラクトバチルス・ムコサエ
(Lactobacillus mucosae)が、SBT2025(NITE P-03189)、SBT2268(NITE P-03190)、SBT2269(NITE P-03191)、SBT2867(NITE P-03192)、SBT10043(NITE P-03187)及びSBT10228(NITE P-03188)からなる群から選ばれる1以上の乳酸菌株である請求項9に記載の製造方法。
【請求項11】
ラクトバチルス・ムコサエ
(Lactobacillus mucosae)の菌株であって、SBT2025(NITE P-03189)、SBT2269(NITE P-03191)、SBT2867(NITE P-03192)、SBT2268(NITE P-03190)、SBT10043(NITE P-03187)またはSBT10228(NITE P-03188)。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ビフィズス菌増殖促進剤に関する。特にラクトバチルス・ムコサエを有効成分とするヒト腸内におけるビフィズス菌割合の増加剤及び増加促進用飲食品に関する。また、ラクトバチルス・ムコサエを有効成分とするビフィズス菌増殖促進剤及び増殖促進用飲食品に関する。
【背景技術】
【0002】
ヒトの大腸内には100兆個の細菌が存在し、腸内細菌叢を形成している。この腸内細菌叢における細菌種のバランスは健康状態や加齢によって変化し、腸内細菌のうちビフィズス菌や乳酸菌の割合が減少することが報告されている。減少するビフィズス菌や乳酸菌を補う方法としては、それらを含む発酵乳製品を摂取することが解決策の1つとなる。
発酵乳製品に使用される乳酸菌として代表的な種類としては、ラクトバチルス属に属する乳酸菌が挙げられる。汎用される種としては、ラクトバチルス・デルブルッキー・サブスピーシズ・ブルガリクス、ラクトバチルス・カゼイ、ラクトバチルス・ガセリ、ラクトバチルス・ロイテリ、ラクトバチルス・ヘルベティカスなどが挙げられる。一方、あまり利活用されていない種としては、ラクトバチルス・ムコサエが挙げられる。
特許文献1は、乳糖不耐症の改善に有用な乳酸菌の1つとしてラクトバチルス・ムコサエが挙げられている。該特許文献におけるラクトバチルス・ムコサエは、腸管付着性及び乳糖分解能が高いことを特徴としており、ヒト大腸におけるビフィズス菌の割合に与える作用や、試験管内におけるビフィズス菌の増殖に与える作用については示されていない。
また、乳糖はビフィズス菌の増殖を促進することから、乳糖分解能が高いラクトバチルス・ムコサエの摂取では、ヒト大腸におけるビフィズス菌の割合を減少させる可能性や、ビフィズス菌の増殖を阻害する可能性も考えられる。
非特許文献1および2では、ブタ由来のラクトバチルス・ムコサエLM1について、腸管付着性が高いこと、病原性細菌の腸管への付着を抑制することを示している。しかし、いずれも、ラクトバチルス・ムコサエLM1によるビフィズス菌への作用については示されていない。
また、非特許文献1では、腸管への付着性を試験管内で解析した例であり、ヒトにおける効果を示していない。非特許文献2では、マウスを使用して腸管への病原性細菌の付着抑制を解析しており、ヒトにおける効果を示していない。
以上のように、ラクトバチルス・ムコサエのビフィズス菌増殖促進作用や、ヒト大腸におけるビフィズス菌の割合の増加作用についてはこれまで示されておらず、その方法についても不明であった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【非特許文献】
【0004】
【文献】J.Appl Microbiol.2014年117号2巻485-497頁
【文献】Microb.Pathog.2019年137号103760
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明の課題は、新たなプロバイオティクスの提供である。特に、ラクトバチルス・ムコサエを有効成分とするヒト腸内におけるビフィズス菌割合の増加剤及び増加用飲食品を提供することである。また、ラクトバチルス・ムコサエを有効成分とするビフィズス菌増殖促進剤及び増殖促進用飲食品を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは、ラクトバチルス・ムコサエにビフィズス菌の増殖促進作用があることを初めて見出し、ビフィズス菌増殖促進剤及び増殖促進用飲食品としての用途及びヒト腸内におけるビフィズス菌割合の増加剤及び増加用飲食品に適用することが可能であることを確認し、新たなプロバイオティクスとして本発明を完成するに至った。すなわち本発明には以下の構成が含まれる。
<1>
ラクトバチルス・ムコサエを有効成分とするヒト腸内におけるビフィズス菌割合の増加剤。
<2>
ラクトバチルス・ムコサエを有効成分とするビフィズス菌増殖促進剤。
<3>
ラクトバチルス・ムコサエが、ビフィズス菌と培養したときに、無添加に比べて1.1倍以上の増殖活性を有する株である<1>又は<2>に記載の剤。
<4>
ラクトバチルス・ムコサエが、SBT2025(NITE P-03189)、SBT2268(NITE P-03190)、SBT2269(NITE P-03191)、SBT2867(NITE P-03192)、SBT10043(NITE P-03187)及びSBT10228(NITE P-03188)からなる群から選ばれる1以上の乳酸菌株である<1>~<3>のいずれかに記載の剤。
<5>
ラクトバチルス・ムコサエを有効成分とするヒト腸内におけるビフィズス菌割合の増加用飲食品。
<6>
ラクトバチルス・ムコサエを有効成分とするビフィズス菌増殖促進用飲食品。
<7>
ラクトバチルス・ムコサエが、ビフィズス菌と培養したときに、無添加に比べて1.1倍以上の増殖活性を有する株である<5>又は<6>に記載の飲食品。
<8>
ラクトバチルス・ムコサエが、SBT2025(NITE P-03189)、SBT2268(NITE P-03190)、SBT2269(NITE P-03191)、SBT2867(NITE P-03192)、SBT10043(NITE P-03187)及びSBT10228(NITE P-03188)からなる群から選ばれる1以上の乳酸菌株である<5>~<7>のいずれかに記載の飲食品。
<9>
乳を主成分とする培地中でラクトバチルス・ムコサエを培養する工程を含む、発酵乳製品の製造方法であって、ラクトバチルス・ムコサエとして以下の性質を有する株を用いることを特徴とする前記製造方法。
性質; ビフィズス菌と培養したときに、無添加に比べて1.1倍以上の増殖活性を有することを特徴とするラクトバチルス・ムコサエ。
<10>
ラクトバチルス・ムコサエが、SBT2025(NITE P-03189)、SBT2268(NITE P-03190)、SBT2269(NITE P-03191)、SBT2867(NITE P-03192)、SBT10043(NITE P-03187)及びSBT10228(NITE P-03188)からなる群から選ばれる1以上の乳酸菌株である<9>に記載の製造方法。
<11>
ラクトバチルス・ムコサエの菌株であって、SBT2025(NITE P-03189)、SBT2269(NITE P-03191)、SBT2867(NITE P-03192)、SBT2268(NITE P-03190)、SBT10043(NITE P-03187)またはSBT10228(NITE P-03188)。
【発明の効果】
【0007】
本発明は、ビフィズス菌の増殖促進活性を有するラクトバチルス・ムコサエを有効成分として含む発酵乳製品を提供するものである。そして、該ラクトバチルス・ムコサエの発酵乳製品等を摂取することにより、ヒト腸内におけるビフィズス菌の割合を増加させることができる。したがって、本発明によれば新たなプロバイオティクスの提供が可能となった。
【発明を実施するための形態】
【0008】
(ラクトバチルス・ムコサエ)
本明細書のヒト腸内におけるビフィズス菌割合の増加剤及びビフィズス菌増殖促進剤の有効成分である「ラクトバチルス・ムコサエ」とは、ラクトバチルス・ムコサエに属する細菌を意味する。すなわち、ラクトバチルス・ムコサエ基準株JCM12515と、16SリボゾームRNA遺伝子の塩基配列の相同性が97%以上、より好ましくは98%以上、さらに好ましくは99%以上である菌株を指す。分離源としては、いずれでもよく、より好ましくはヒト由来である。
本発明の有効成分とするラクトバチルス・ムコサエの菌株としては、ビフィズス菌増殖促進活性を有する菌株であればよく、例えば後述する実施例にて活性が示されているSBT2025、SBT2268、SBT2269、SBT2867、SBT10043、SBT10228などが挙げられる。
本明細書のビフィズス菌割合の増加剤及びビフィズス菌増殖促進剤の有効成分であるラクトバチルス・ムコサエはビフィズス菌割合を増加させ、又はビフィズス菌を増殖促進する活性を有する状態であるものであればよく、生菌体そのものでも生菌体を含む菌体培養物でもよい。生菌体そのものとして、菌体を培養し集菌した菌体濃縮物や、菌体の乾燥物が挙げられ、菌体培養物としては、後述するラクトバチルス・ムコサエの発酵乳製品などが挙げられる。
ラクトバチルス・ムコサエは、常法に従って培養することができる。培地には、乳培地又は乳成分を含む培地、これを含まない半合成培地など種々の培地を用いることができる。このような培地としては、還元脱脂乳培地などを例示することができる。
得られた培養物から遠心分離などの集菌手段によって分離された菌体をそのまま本発明の有効成分として用いることができる。濃縮、乾燥、凍結乾燥などした菌体を用いることもできる。
菌体として純粋に分離されたものだけでなく、培養物、懸濁物、その他の菌体含有物も用いることができる。
培養物などの形態としては、一般的に乳酸菌の培養に用いられる培地を用いた培養物だけでなく、チーズ、発酵乳、乳製品乳酸菌飲料などの乳製品などを例示することができるが特に限定されるものではない。
【0009】
(ビフィズス菌)
本明細書において、「ビフィズス菌」とは、ビフィドバクテリウム属に属する菌を意味する。ビフィズス菌は、ビフィドバクテリウム属に属する細菌であれば特に限定されないが、ビフィドバクテリウム・ロンガム、ビフィドバクテリウム・シュードカテヌラタム、ビフィドバクテリウム・アドレセンティス、ビフィドバクテリウム・ビフィダム、ビフィドバクテリウム・ブレーベ、ビフィドバクテリウム・デンティウムなどが挙げられる。このうち、好ましい例として、ビフィドバクテリウム・ロンガムが挙げられる。また、菌株としては、ビフィドバクテリウム・ロンガム基準株JCM1217、またはビフィドバク
テリウム・ロンガムSBT2928株(受託番号:FERM P-10657,寄託日:1989年4月13日,独立行政法人 産業技術総合研究所 特許生物寄託センター)を例示できる。
【0010】
(発酵乳製品)
本明細書において、発酵乳製品とは、乳またはこれと同等以上の無脂肪乳固形分を含む液体または糊状体中で、ラクトバチルス・ムコサエを培養したものを指す。乳は、生乳、牛乳、生山羊乳、生めん羊乳などであればよく、脱脂粉乳を水で還元して使用してもよい。脱脂粉乳を使用する場合の濃度に関しては、無脂肪固形分が乳と同等以上で、ラクトバチルス・ムコサエが培養できる濃度であればその濃度は限定されないが、8%(w/w)以上、好ましくは9%(w/w)以上、より好ましくは10%(w/w)以上であることが望ましい。
【0011】
(脱脂紛乳以外の成分)
また、前記発酵乳製品は、脱脂粉乳以外の栄養素を含んでいてもよく、酵母エキスを添加する場合には0.1%(w/w)以上、好ましくは0.2%(w/w)以上、より好ましくは0.5%(w/w)以上であることが望ましい。そのほかの栄養素としては、糖類、アミノ酸、ミネラル、ビタミンなどが挙げられる。本発明の発酵乳製品には、ラクトバチルス・ムコサエ以外の細菌を含んでいてもよい。例えば、発酵乳の発酵スターターとして、汎用される乳酸菌、例えばラクトバチルス・デルブルッキー・サブスピーシズ・ブルガリクス及びストレプトコッカス・サーモフィルスを含むこともできる。また、本発明のラクトバチルス・ムコサエは、ビフィズス菌と混合培養し、増殖が促進されたビフィズス菌との混合培養物(例えば、発酵乳製品)として提供することもできる。
【0012】
(発酵乳製品のラクトバチルス・ムコサエ生菌数)
発酵乳製品のラクトバチルス・ムコサエについては、生菌として含まれていることが望ましい。本明細書において、生菌とは寒天等の支持体に栄養素を含ませた固体培地にコロニーが形成されること(colony forming)を指し、生菌数とはコロニー形成単位cfu(colony forming unit)で表現される。ラクトバチルス・ムコサエの生菌数を測定する固体培地としては、乳酸菌用培地であるMRS寒天培地、乳酸桿菌用培地であるLBS寒天培地などが挙げられる。発酵乳製品中のラクトバチルス・ムコサエの生菌数は、1.0E+06cfu/mL以上であることが好ましく、さらに好ましくは1.0E+07cfu/mL以上、最も好ましくは1.0E+08cfu/mL以上である。
【0013】
(ビフィズス菌の増殖促進)
本明細書において、「ビフィズス菌の増殖促進」とは、ビフィズス菌の生菌数が増加することを指す。ビフィズス菌の増殖促進活性は、ビフィズス菌の生菌数の増加が、ラクトバチルス・ムコサエを添加した場合と添加しなかった場合とで、添加した場合の方が大きい場合に当該活性があるという。例えば、試験管内においてビフィズス菌を、ラクトバチルス・ムコサエを添加せずに培養した場合に得られるビフィズス菌の生菌数を1.0倍としたときに、ラクトバチルス・ムコサエを添加した場合に得られるビフィズス菌の生菌数が1.0倍より大きい場合に、活性があるという。当該活性を有する剤を本発明ではビフィズス菌増殖促進剤という。本発明のビフィズス菌増殖促進剤の有効成分とするラクトバチルス・ムコサエは、ラクトバチルス・ムコサエを添加せずに培養した場合に得られるビフィズス菌の生菌数を1.0倍としたときに、ラクトバチルス・ムコサエを添加した場合に得られるビフィズス菌の生菌数が1.1倍以上を示す菌株が好ましく、より好ましくは1.5倍以上、よりいっそう好ましくは2.0倍以上を示す菌株である。
【0014】
(ビフィズス菌の生菌数)
ビフィズス菌の生菌数とは、ビフィズス菌が生育可能な嫌気性細菌用培地であるGAM培地、ビフィズス菌用培地であるTOSプロピオン酸寒天培地等において観測されるコロニー形成数を指す。
【0015】
(ヒト腸内におけるビフィズス菌割合の増加)
本明細書において、「ヒト腸内におけるビフィズス菌割合の増加」とは、ヒト腸内細菌群におけるビフィズス菌の割合が増加されることをいう。例えば、ビフィズス菌の腸内細菌における割合がラクトバチルス・ムコサエを摂取する前に比べて、摂取後の割合が1.0倍より大きい場合に活性があるという。当該活性を有する剤を本発明では腸内におけるビフィズス菌割合の増加剤という。本発明の腸内におけるビフィズス菌割合の増加剤の有効成分とするラクトバチルス・ムコサエは、摂取する前に比べて摂取後の割合が1.1倍以上を示す菌株が好ましく、より好ましくは1.3倍以上、よりいっそう好ましくは2.0倍以上、さらに好ましくは3.0倍以上を示す菌株である。このような菌株のスクリーニング方法としては、まず、腸内環境を模倣した培養条件下、試験管内においてラクトバチルス・ムコサエを添加せずにビフィズス菌を培養した場合に得られるビフィズス菌の生菌数を1.0倍としたときに、ラクトバチルス・ムコサエを添加した場合に得られるビフィズス菌の生菌数が1.1倍以上を示す菌株をスクリーニングする方法が挙げられる。
【0016】
(ビフィズス菌の割合増加)
ヒト腸内におけるビフィズス菌の割合とは、糞便中におけるDNA中のビフィズス菌の割合を意味する。糞便中から得られたDNAについて、16SrRNA遺伝子をPCRにより増幅し、PCR産物全体に含まれるビフィズス菌由来のDNAの割合を算出することができる。割合の算出については、次世代シーケンサーによるメタ16S解析法や、T-RFLP(Terminal Restriction Fragment Length Polymorphism)法等の菌叢解析手法が使用できる。
【0017】
(ヒト腸内におけるビフィズス菌割合の増加剤及びビフィズス菌増殖促進剤)
本発明のヒト腸内におけるビフィズス菌割合の増加剤及びビフィズス菌増殖促進剤は、ラクトバチルス・ムコサエの発酵培養物そのものや菌体そのものを利用することができる。食品として利用される発酵培養物としては上述の発酵乳製品が挙げられる。
さらに製剤化して利用することもできる。製剤化に際しては製剤上許可されている賦型剤、安定剤、矯味剤などを適宜混合して濃縮、凍結乾燥するほか、加熱乾燥して死菌体にしてもよい。これらの乾燥物、濃縮物、ペースト状物も含有される。
また、ビフィズス菌増殖促進活性を妨げない範囲で、賦型剤、結合剤、崩壊剤、滑沢剤、矯味矯臭剤、懸濁剤、コーティング剤、その他の任意の薬剤を混合して製剤化することもできる。剤形としては、錠剤、カプセル剤、顆粒剤、散剤、粉剤、シロップ剤などが可能であり、これらを経口的に投与することが望ましい。
【0018】
(ヒト腸内におけるビフィズス菌割合の増加用飲食品及びビフィズス菌増殖促進用飲食品)
本発明のヒト腸内のビフィズス菌割合の増加用飲食品及びビフィズス菌増殖促進用飲食品は、ラクトバチルス・ムコサエの発酵培養物そのものを利用することができる。食品として利用される発酵培養物としては上述の発酵乳製品が挙げられる。
また、これらの飲食品は、前記ヒト腸内のビフィズス菌割合の増加剤及びビフィズス菌増殖促進剤を適当な飲食品に配合したものを利用することもできる。これらの配合は、飲食品の製造工程中に原料に添加しても良く、素材に配合させてもよく、最終製品である飲食品に配合することもできる。
飲食品の例としては、チーズ、発酵乳、乳製品乳酸菌飲料、乳酸菌飲料、バター、マーガリンなどの乳製品、乳飲料、果汁飲料、清涼飲料などの飲料、ゼリー、キャンディー、プリン、マヨネーズなどの卵加工品、バターケーキなどの菓子・パン類、さらには、各種粉乳の他、乳幼児食品、栄養組成物などを挙げることができるが特に限定されるものではない。
また、本発明のヒト腸内のビフィズス菌割合の増加用飲食品及びビフィズス菌増殖促進用飲食品は、機能性表示食品、特定保健用食品、栄養機能食品、美容用食品として使用することも可能である。
【0019】
ラクトバチルス・ムコサエの菌体及び/又は培養物を配合して、ヒト腸内におけるビフィズス菌割合の増加剤、ビフィズス菌増殖促進剤、ヒト腸内におけるビフィズス菌割合の増加用飲食品、ビフィズス菌増殖促進用飲食品、ヒト腸内におけるビフィズス菌割合の増加用栄養組成物、ビフィズス菌増殖促進剤栄養組成物を製造する場合、配合割合は特に限定されず、製造の容易性や好ましい一日投与量にあわせて適宜調節すればよい。投与対象者の症状、年齢などを考慮してそれぞれ個別に決定されるが、通常成人の場合、ラクトバチルス・ムコサエの菌体培養物を10~200g、あるいは菌体自体を0.1~100mg摂取できるように配合量などを調整すればよい。
以下、本発明の実施例を詳細に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【実施例】
【0020】
〔実施例1〕ビフィズス菌の増殖促進
(1)菌株
ラクトバチルス・ムコサエとしては、表1のヒトを分離源とする菌株を使用した。また、ビフィズス菌については、日本人の乳幼児から高齢者まで広く分布することが知られているビフィドバクテリウム・ロンガムと同種の基準株JCM1217を使用した。
【0021】
【0022】
(2)ラクトバチルス・ムコサエ濃縮菌体の調製
乳酸菌用培地であるMRS液体培地を調製し、121℃、15分間の加熱処理にて培地の滅菌を実施した。そこへ、表1に記載のラクトバチルス・ムコサエSBT2025、ラクトバチルス・ムコサエSBT2268、ラクトバチルス・ムコサエSBT2269、ラクトバチルス・ムコサエSBT2867、ラクトバチルス・ムコサエSBT10043、及びラクトバチルス・ムコサエSBT10228を植菌し、嫌気培養システム(商品名:アネロパック,三菱ガス化学株式会社)を用いて37℃、16時間嫌気培養した。得られた培養物を遠心操作により濃縮し、10%(v/v)となるようにグリセロールを添加し
て濃縮菌体を取得した。これら濃縮菌体を-80℃にて凍結、その後融解を実施した後、段階希釈を行い、MRS寒天培地に塗沫して生菌数を測定し、いずれの菌株についても2.0E+09cfu/mL以上の生菌数が含まれていることを確認した。
上記菌株は、2020年3月27日に独立行政法人 製品評価技術基盤機構 特許微生物寄託センター(千葉県木更津市かずさ鎌足2-5-8(郵便番号292-0818))に寄託している。受託番号は次のとおりである。
SBT2025:受託番号NITE P-03189
SBT2268:受託番号NITE P-03190
SBT2269:受託番号NITE P-03191
SBT2867:受託番号NITE P-03192
SBT10043:受託番号NITE P-03187
SBT10228:受託番号NITE P-03188
【0023】
(3)ラクトバチルス・ムコサエ発酵乳製品の調製
0.5%(w/w)酵母エキス、2.5%(w/w)ぶどう糖を含む10%(w/w)脱脂粉乳を調製し、115℃、20分間の加熱処理にて殺菌を実施した。そこへ、上記のように調製した各濃縮菌体を0.1%(v/w)となるように添加して、嫌気培養システムを用いて37℃、16時間嫌気培養した。得られた発酵乳製品について容量として段階希釈を行い、0.132%(v/v)酢酸を含む乳酸桿菌用LBS寒天培地に塗沫して生菌数を測定し、いずれの菌株についても1.0E+06cfu/mL以上の生菌数が含まれていることを確認した。これらをビフィドバクテリウム・ロンガムJCM1217との
混合培養に使用した。
【0024】
(4)ビフィドバクテリウム・ロンガムJCM1217濃縮菌体の調製
嫌気性細菌用培地であるGAM液体培地(GAMブイヨン、製品コード05422、日水製薬株式会社製)を調製し、115℃、15分間の加熱処理にて培地の殺菌を実施した。そこへ、ビフィドバクテリウム・ロンガムJCM1217を植菌し、嫌気培養システムを用いて37℃、16時間嫌気培養した。得られた培養物を遠心操作により濃縮し、10%(v/v)となるようにグリセロールを添加して濃縮菌体を取得した。これら濃縮菌体を-80℃にて凍結、その後融解を実施した後、段階希釈を行い、ビフィズス菌用TOSプロピオン酸寒天培地に塗沫して生菌数を測定し、1.0E+09cfu/mLの生菌数
が含まれていることを確認した。これをラクトバチルス・ムコサエとの混合培養に使用した。
【0025】
(5)ラクトバチルス・ムコサエ発酵乳製品とビフィドバクテリウム・ロンガムJCM1217との混合培養
嫌気性細菌用培地であるGAM液体培地(GAMブイヨン、製品コード05422、日水製薬株式会社製)を調製し、115℃、15分間の加熱処理にて培地の殺菌を実施した。そこへ、1%(v/v)ラクトバチルス・ムコサエ発酵乳製品(1.0E+06cfu/mL以上)と、10%(v/v)ビフィドバクテリウム・ロンガムJCM1217濃縮菌体(1.0E+09cfu/mL)を添加混合し、嫌気培養システムを用いて37℃、16時間培養した。対照区として、ラクトバチルス・ムコサエ発酵乳製品を添加しなかった試験区を設けた。なお、GAM液体培地は腸内環境のモデル培地として使用されている
培地である(PLOS ONE DOI:10.1371/JOURNAL.PONE.0160533 August2,2016)。
【0026】
(6)混合培養後のビフィズス生菌数と増殖促進
上記混合培養物を容量で10倍となるように段階希釈し、ビフィズス菌の選択培地である0.005%(w/v)ムピロシンリチウムを含むTOSプロピオン酸寒天培地に塗沫し、嫌気培養システムを用いて37℃、3日間培養した。寒天培地上に形成されたコロニー数を観測し、対照区を1.0倍とした場合における、各発酵乳製品によるコロニー形成数(cfu)の増加、すなわちビフィズス菌の増殖促進を倍率で算出した。
【0027】
その結果、ラクトバチルス・ムコサエ発酵乳製品を添加しなかった対照区のビフィズス生菌数が4.7E+08cfu/mLであったのに対し、SBT2025発酵乳製品添加では8.7E+08cfu/mL(増殖促進1.8倍)、SBT2268発酵乳製品添加では1.0E+09cfu/mL(増殖促進2.1倍)、SBT2269発酵乳製品添加では1.0E+09cfu/mL(増殖促進2.1倍)、SBT2867発酵乳製品添加では1.3E+09cfu/mL(増殖促進2.9倍)、SBT10043発酵乳製品添加では5.1E+08cfu/mL(増殖促進1.1倍)、SBT10228発酵乳製品添加では1.3E+09cfu/mL(増殖促進2.7倍)であった。すなわち、これらのラクトバチルス・ムコサエ発酵乳製品は、ビフィズス菌の増殖促進が対照区と比較して1.1倍以上であった(表2)。なお「E+08」「E+09」は「×108」「×109」を示す。
【0028】
【0029】
〔実施例2〕ヒト腸内におけるビフィズス菌の割合の増加
(1)菌株と発酵乳製品の試作
実施例1で増殖促進が1.1倍であったSBT10043について、食用発酵乳製品を試作した。SBT10043をMRS寒天培地上に単一コロニー分離した後、1%(w/w)食用酵母エキス、2%(w/w)食用カゼインペプトン、2%(w/w)食用ぶどう糖で構成された栄養培地に釣菌して、嫌気培養システムを使用して37℃、16時間嫌気培養した。この培養物を遠心により容量で10倍に濃縮し、食用濃縮菌体を取得した。次に0.5%(w/w)食用酵母エキス、2.5%(w/w)食用ぶどう糖を含む10%(w/w)脱脂粉乳を調製し、115℃、20分間殺菌した。この脱脂乳培地に10%(v
/w)となるように食用濃縮菌体を添加し、密閉した容器内にて37℃、24時間静置培養した。
【0030】
上記、発酵乳製品を、新たに調製、殺菌した0.5%(w/w)食用酵母エキス、2.5%(w/w)食用ぶどう糖を含む10%(w/w)脱脂粉乳に10%(w/w)となるように植菌して、密閉した容器内にて37℃、24時間静置培養した。これを食用発酵乳製品とした。また、食用発酵乳製品は同じ食用発酵乳製品を種菌として、継代培養を繰り返して必要に応じて複数回製造を行った。すなわち、食用発酵乳製品を同じ脱脂乳培地(0.5%(w/w)食用酵母エキス、2.5%(w/w)食用ぶどう糖を含む10%(w/w)脱脂粉乳)に10%(w/w)となるように植菌して、密閉した容器内にて37℃
24時間静置培養する継代培養を繰り返して、食用発酵乳製品の種菌とするとともに、必要に応じて培養重要を増加させて、食用発酵乳製品として摂取に使用した。
【0031】
(2)食用発酵乳製品におけるSBT10043の生菌数
食用発酵乳製品1.0mLを、容量として10倍となるように段階希釈を行い、0.132%(v/v)酢酸を含む乳酸桿菌用LBS寒天培地に塗沫して生菌数を測定し、5.0E+08cfu/mL以上の生菌数が含まれていることを確認した。
【0032】
(3)食用発酵乳製品の摂取期間と摂取者
上記SBT10043を含む食用発酵乳製品を1日当たり200mL、すなわち1.0E+09cfu/日以上となるように14日間摂取した。摂取前後の糞便を回収してDNAを抽出し、菌叢解析手法の1つであるT-RFLP法にてビフィズス菌の割合を求めた。摂取する者としては、食用発酵乳製品摂取前にビフィズス菌が10%未満の摂取者Aと、ビフィズス菌が10%以上の摂取者Bの2名で行った。
【0033】
(4)摂取者Aにおける腸内ビフィズス菌の割合の増加
ラクトバチルス・ムコサエを含む食用発酵乳製品摂取前の摂取者Aの大腸内におけるビフィズス菌の割合は3.3%であったが、前記発酵乳製品を14日間摂取後は11.6%に増加した。すなわち、前記発酵乳製品摂取前に対して摂取後は3.5倍増加した(表3)。
【0034】
【0035】
(5)摂取者Bにおける腸内ビフィズス菌の割合の増加
ラクトバチルス・ムコサエを含む食用発酵乳製品摂取前の摂取者Bの大腸内におけるビフィズス菌の割合は19.9%であったが、前記発酵乳製品を14日間摂取後は25.9%に増加した。すなわち、前記発酵乳製品摂取前に対して摂取後は1.3倍増加した(表4)。
以上より、試験例1でヒト大腸内環境を模倣した培養試験によりビフィズス菌の増殖促進活性を示すラクトバチルス・ムコサエを含む発酵乳製品をヒトが摂取することにより、大腸内におけるビフィズス菌の割合を増加させることができることがわかった。
【0036】
【産業上の利用可能性】
【0037】
本発明によれば、試験管内でビフィズス菌の増殖を促進するラクトバチルス・ムコサエの発酵乳製品を摂取することにより、ヒト大腸におけるビフィズス菌の割合を増加させることができる。これにより、新たなプロバイオティクスを提供することが可能となった。