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特許7663385研磨用組成物、研磨方法および半導体基板の製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2025-04-08
(45)【発行日】2025-04-16
(54)【発明の名称】研磨用組成物、研磨方法および半導体基板の製造方法
(51)【国際特許分類】
   H01L 21/304 20060101AFI20250409BHJP
   B24B 37/00 20120101ALI20250409BHJP
   C09K 3/14 20060101ALI20250409BHJP
   C09G 1/02 20060101ALI20250409BHJP
   C01B 33/18 20060101ALI20250409BHJP
【FI】
H01L21/304 622D
H01L21/304 622X
H01L21/304 622B
B24B37/00 H
C09K3/14 550Z
C09K3/14 550D
C09G1/02
C01B33/18 E
【請求項の数】 12
(21)【出願番号】P 2021049532
(22)【出願日】2021-03-24
(65)【公開番号】P2022148020
(43)【公開日】2022-10-06
【審査請求日】2023-11-30
(73)【特許権者】
【識別番号】000236702
【氏名又は名称】株式会社フジミインコーポレーテッド
(74)【代理人】
【識別番号】110000671
【氏名又は名称】IBC一番町弁理士法人
(72)【発明者】
【氏名】前 僚太
【審査官】内田 正和
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2017/057478(WO,A1)
【文献】特開2014-022511(JP,A)
【文献】特開2019-057635(JP,A)
【文献】特開2020-155720(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2006/0063326(US,A1)
【文献】特開2020-025066(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01L 21/304
B24B 37/00
C09K 3/14
C09G 1/02
C01B 33/18
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
砥粒と、分散媒と、を含む研磨用組成物であって、
前記砥粒が、シラノール基密度が0個/nmを超えて4個/nm以下である第1のシリカ粒子と、シラノール基密度が4個/nmを超えて12個/nm以下である第2のシリカ粒子と、を含み、
前記第1のシリカ粒子の平均二次粒子径は、前記第2のシリカ粒子の平均二次粒子径よりも小さく、
pHが6を超える、研磨用組成物。
【請求項2】
前記第1のシリカ粒子の平均二次粒子径が10nm以上200nm以下であり、前記第2のシリカ粒子の平均二次粒子径が20nm以上300nm以下である、請求項に記載の研磨用組成物。
【請求項3】
前記第2のシリカ粒子のシラノール基密度が、5個/nmを超えて12個/nm以下である、請求項1または2に記載の研磨用組成物。
【請求項4】
前記第2のシリカ粒子のシラノール基密度が、6個/nmを超えて12個/nm以下である、請求項1または2の研磨用組成物。
【請求項5】
アミノエチルピペラジンおよびアンモニアからなる群より選択される少なくとも1種の研磨速度向上剤をさらに含む、請求項1~のいずれか1項に記載の研磨用組成物。
【請求項6】
pHが7以上である、請求項1~のいずれか1項に記載の研磨用組成物。
【請求項7】
pH調整剤をさらに含み、前記pH調整剤が、水酸化カリウムを含む、請求項1~のいずれか1項に記載の研磨用組成物。
【請求項8】
酸化剤を実質的に含まない、請求項1~のいずれか1項に記載の研磨用組成物。
【請求項9】
n型不純物がドープされた多結晶シリコン膜を含む研磨対象物を研磨する用途で使用される、請求項1~のいずれか1項に記載の研磨用組成物。
【請求項10】
前記研磨対象物が、酸化ケイ素膜および窒化ケイ素膜から選択される少なくとも1種の膜をさらに含む、請求項に記載の研磨用組成物。
【請求項11】
請求項1~10のいずれか1項に記載の研磨用組成物を用いて、n型不純物がドープされた多結晶シリコン膜を含む研磨対象物を研磨する工程を含む、研磨方法。
【請求項12】
n型不純物がドープされた多結晶シリコン膜を含む半導体基板を、請求項11に記載の研磨方法により研磨する工程を有する、半導体基板の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、研磨用組成物、研磨方法および半導体基板の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、半導体基板表面の多層配線化に伴い、デバイスを製造する際に、半導体基板を研磨して平坦化する、いわゆる、化学的機械的研磨(Chemical Mechanical Polishing;CMP)技術が利用されている。CMPは、シリカやアルミナ、セリア等の砥粒、防食剤、界面活性剤などを含む研磨用組成物(スラリー)を用いて、半導体基板等の研磨対象物(被研磨物)の表面を平坦化する方法であり、研磨対象物(被研磨物)は、シリコン、ポリシリコン、シリコン酸化膜(酸化ケイ素)、シリコン窒化物や、金属等からなる配線、プラグなどである。
【0003】
例えば、分離領域を備えるシリコン基板の上に設けられたポリシリコン膜を研磨する技術として、特許文献1には、砥粒とアルカリと水溶性高分子と水とを含有する予備研磨用組成物を用いて予備研磨する工程と、砥粒とアルカリと水溶性高分子と水とを含有する仕上げ研磨用組成物を用いて仕上げ研磨する工程と、を備える研磨方法が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2007-103515号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
最近、半導体基板として、不純物がドープされた多結晶シリコン(ポリシリコン)を含む基板が用いられるようになり、該基板に対して研磨を行うという新たな要求が出てきている。こうした要求に対して、これまでほとんど検討がなされていない。
【0006】
そこで本発明は、n型不純物がドープされた多結晶シリコンを含む研磨対象物を、高い研磨速度で研磨することができる手段を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記の課題を解決すべく、本発明者は鋭意研究を積み重ねた。その結果、砥粒と、分散媒と、を含む研磨用組成物であって、前記砥粒が、シラノール基密度が0個/nmを超えて4個/nm以下である第1のシリカ粒子と、シラノール基密度が4個/nmを超えて12個/nm以下である第2のシリカ粒子と、を含み、pHが6を超える、研磨用組成物により、上記課題が解決することを見出し、本発明を完成させるに至った。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、n型不純物がドープされた多結晶シリコンを含む研磨対象物を、高い研磨速度で研磨することができる研磨用組成物が提供される。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、本発明の実施の形態を説明するが、本発明は、以下の実施の形態のみには限定されない。なお、特記しない限り、操作および物性等の測定は室温(20~25℃)/相対湿度40~50%RHの条件で測定する。また、本明細書において、範囲を示す「X~Y」は、「X以上Y以下」を意味する。
【0010】
<研磨用組成物>
本発明は、研磨対象物を研磨するために用いられる研磨用組成物であって、砥粒と、分散媒と、を含む研磨用組成物であって、前記砥粒が、シラノール基密度が0個/nmを超えて4個/nm以下である第1のシリカ粒子と、シラノール基密度が4個/nmを超えて12個/nm以下である第2のシリカ粒子と、を含み、pHが6を超える、研磨用組成物である。かような構成を有する本発明の研磨用組成物は、n型不純物がドープされた多結晶シリコンを含む研磨対象物を高い研磨速度で研磨することができる。
【0011】
本発明の研磨用組成物により、上記効果を奏する理由は必ずしも明確ではないが、以下のように考えられる。
【0012】
研磨用組成物は、一般に、基板表面を摩擦することによる物理的作用および砥粒以外の成分が基板の表面に与える化学的作用、ならびにこれらの組み合わせによって研磨対象物を研磨するものである。これにより、砥粒の形態や種類は研磨速度に大きな影響を与えることとなる。
【0013】
本発明の研磨用組成物は、砥粒として、シラノール基密度が0個/nmを超えて4個/nm以下である第1のシリカ粒子(以下、「低シラノール基密度の(第1の)シリカ粒子」とも称する)と、シラノール基密度が4個/nmを超えて12個/nm以下である第2のシリカ粒子(以下、「高シラノール基密度の(第2の)シリカ粒子」とも称する)と、を含む。すなわち、本発明の研磨用組成物は、シラノール基密度の異なる2種のシリカ粒子を含む。多結晶シリコンは(n型不純物がドープされた多結晶シリコンも同様に)疎水性が高い。一般的に、低シラノール基密度の砥粒ほど疎水性であり、結合水が少なく、疎水性の研磨対象物に接近しやすい。また、高シラノール基密度の砥粒ほど親水性であり、結合水が多く、疎水性膜に接近しにくい。したがって、研磨の際、研磨用組成物に含まれる低シラノール基密度の第1のシリカ粒子は、研磨対象物に接近し、研磨対象物(研磨面)に機械的力を十分に加えることができ、好適に研磨することができる。研磨の際、研磨用組成物に含まれる高シラノール基密度の第2のシリカ粒子は、研磨面から離れた位置に存在し、第1のシリカ粒子を研磨対象物に押し当てる役目をする。すなわち、第2のシリカ粒子が、第1のシリカ粒子が研磨対象物へと機械的力を付与するのをさらに強め、より強い力で研磨することができる。すなわち、本発明は、研磨面に対して効果的に作用することができる砥粒の組み合わせを見出したものである。
【0014】
本発明の研磨用組成物は、pH6を超える。n型不純物がドープされた多結晶シリコンを含む研磨対象物を研磨対象物とする本発明の研磨用組成物は、pHが6を超えることによりn型不純物がドープされた多結晶シリコンが効率よく研磨されるため、上記砥粒の構成による効果がさらに有意な効果として発揮されるものと考えられる。
【0015】
以上のように、第1のシリカ粒子と第2のシリカ粒子とが、相対的に低シラノール基密度と高シラノール基密度であることにより、研磨対象物に対する吸着性が異なる2種の砥粒が研磨対象物に対して異なる作用を付与でき、研磨速度が向上したものと考えられる。
【0016】
さらに、本発明者は、研磨対象物に対して接近する第1のシリカ粒子と、第1のシリカ粒子よりも研磨対象物から離れた位置に存在する第2のシリカ粒子とが存在する場合(すなわち、低シラノール基密度のシリカ粒子と高シラノール基密度のシリカ粒子とが存在する場合)、その2種のシリカ粒子の粒子サイズが異なることにより本発明の効果(高い研磨速度)がさらに向上することを見出した。第2のシリカ粒子は、第1のシリカ粒子が研磨対象物に強い機械的力を付与できるよう、第2のシリカ粒子は第1のシリカ粒子に力(研磨対象物に向けて押し当てる力)を付与している。この場合、粒子径が大きいほど押し当てる力は強くなる。また、研磨対象物を研磨する第1のシリカ粒子は、粒子径が小さいほど研磨面と接触する面積が小さくなり、研磨面に対して付与するエネルギー密度が高くなる。よって、研磨対象物に対して接近する第1のシリカ粒子の平均二次粒子径が相対的に小さく、研磨対象物から離れた位置に存在する第2のシリカ粒子の平均二次粒子径が相対的に大きいことにより、研磨速度がさらに向上することを見出した。
【0017】
以上のように、本発明の研磨用組成物において、研磨の際に研磨対象物に対して配置される位置が異なる第1のシリカ粒子と第2のシリカ粒子とが、粒子サイズにおいても相対的に異なるサイズを有することにより、研磨用組成物の研磨特性がさらに向上したものと考えられる。ただし、かかるメカニズムは推測に過ぎず、本発明の技術的範囲を制限しないことは言うまでもない。
【0018】
[研磨対象物]
本発明に係る研磨対象物は、n型不純物がドープされた多結晶シリコン(ポリシリコン)膜を含む。すなわち、本発明に係る研磨対象物は、n型不純物がドープされた多結晶シリコン膜を含む研磨対象物を研磨する用途で使用される。
【0019】
多結晶シリコンにドープされるn型不純物の例としては、リン(P)、ヒ素(As)、ビスマス(Bi)、アンチモン(Sb)などの第15族元素が挙げられる。これらn型不純物の中でもリンが好ましい。
【0020】
多結晶シリコンにドープされるn型不純物の含有量(ドープ量)の下限は特に制限されないが、多結晶シリコンと不純物との合計100at%に対して、1at%以上であることが好ましく、2.5at%以上であることがより好ましく、5at%以上であることがさらに好ましい。また、多結晶シリコンにドープされるn型不純物の含有量(ドープ量)の上限は特に制限されないが、多結晶シリコンと不純物との合計100at%に対して、50at%以下であることが好ましく、30at%以下であることがより好ましく、25at%以下であることがさらに好ましい。なお、多結晶シリコンにドープされるn型不純物の含有量は、多機能走査型X線光電子分光分析装置(XPS)を用いて、後述の実施例に記載の方法により算出される。
【0021】
本発明に係る研磨対象物は、n型不純物がドープされた多結晶シリコン(ポリシリコン)膜以外に、他の材料を含んでいてもよい。他の材料の例としては、窒化ケイ素(SiN)、炭窒化ケイ素(SiCN)、酸化ケイ素、アンドープト多結晶シリコン(アンドープトポリシリコン)、アンドープト非晶質シリコン(アンドープトアモルファスシリコン)、金属、SiGe等が挙げられる。
【0022】
酸化ケイ素を含む膜の例としては、例えば、オルトケイ酸テトラエチルを前駆体として使用して生成されるTEOS(Tetraethyl Orthosilicate)タイプ酸化ケイ素膜(以下、単に「TEOS膜」とも称する)、HDP(High Density Plasma)膜、USG(Undoped Silicate Glass)膜、PSG(Phosphorus Silicate Glass)膜、BPSG(Boron-Phospho Silicate Glass)膜、RTO(Rapid
Thermal Oxidation)膜等が挙げられる。
【0023】
上記金属としては、例えば、タングステン、銅、アルミニウム、コバルト、ハフニウム、ニッケル、金、銀、白金、パラジウム、ロジウム、ルテニウム、イリジウム、オスミウム等が挙げられる。
【0024】
本発明に係る研磨対象物は、酸化ケイ素膜または窒化ケイ素膜をさらに含むことが好ましく、酸化ケイ素膜をさらに含むことがより好ましい。よって、本発明の研磨用組成物は、n型不純物がドープされた多結晶シリコン(ポリシリコン)膜、および酸化ケイ素膜または窒化ケイ素膜を含む研磨対象物を研磨する用途で用いられるのが好ましく、n型不純物がドープされた多結晶シリコン(ポリシリコン)膜と酸化ケイ素膜とを含む研磨対象物を研磨する用途で用いられるのがより好ましい。
【0025】
一実施形態において、本発明の研磨対象物は、n型不純物がドープされた多結晶シリコン膜に加えて、酸化ケイ素膜(好ましくはTEOS膜)および窒化ケイ素膜の少なくとも1つをさらに含む。本発明の研磨用組成物は、n型不純物がドープされた多結晶シリコン膜とともに、酸化ケイ素膜(好ましくはTEOS膜)および/または窒化ケイ素膜を研磨した場合に、n型不純物がドープされた多結晶シリコン膜を選択的に研磨することができる。すなわち、n型不純物がドープされた多結晶シリコン膜と、酸化ケイ素膜(好ましくはTEOS膜)および/または窒化ケイ素膜とを含む研磨対象物を研磨した場合であっても、n型不純物がドープされた多結晶シリコン膜を選択的に高い研磨速度で研磨することができる。よって、n型不純物がドープされた多結晶シリコン膜の研磨速度を向上させつつ、酸化ケイ素膜(好ましくはTEOS膜)および/または窒化ケイ素膜の研磨速度を維持または抑制することができる効果、すなわち酸化ケイ素膜および/または窒化ケイ素膜の研磨速度に対するn型不純物がドープされた多結晶シリコン膜の研磨速度の比(選択比)を向上させるという効果も得られうる。
【0026】
一実施形態においては、本発明の研磨対象物は、n型不純物がドープされた多結晶シリコン膜の研磨速度を向上させつつ、酸化ケイ素膜(好ましくはTEOS膜)および/または窒化ケイ素膜の研磨速度を向上し、かつ、酸化ケイ素膜および/または窒化ケイ素膜の研磨速度に対するn型不純物がドープされた多結晶シリコン膜の研磨速度の比(選択比)を向上させることができる。このような酸化ケイ素膜(好ましくはTEOS膜)および/または窒化ケイ素膜の研磨速度も高い研磨用組成物は、自然酸化膜が形成されたときにおいても研磨速度を低下させず、高い研磨速度を維持できるため好ましい。
【0027】
[砥粒]
本発明の研磨用組成物は、砥粒を含む。本発明の研磨用組成物において、砥粒は、シラノール基密度が0個/nmを超えて4個/nm以下である第1のシリカ粒子と、シラノール基密度が4個/nmを超えて12個/nm以下である第2のシリカ粒子と、を含む。一実施形態において、砥粒は、第1のシリカ粒子および第2のシリカ粒子で構成される。本明細書において、「シラノール基密度」とは、シリカ粒子表面の単位面積当たりにおけるシラノール基の数を意味する。シラノール基密度は、シリカ粒子表面の電気特性または化学特性を表すための指標である。
【0028】
本明細書において、シラノール基密度はBET法により測定した比表面積および滴定により測定したシラノール基の量に基づいて計算し求めたものである。例えば、G.W.Searsによる“Analytical Chemistry, vol.28, No.12, 1956, 1982~1983”に記載された中和滴定を用いたシアーズ(Sears)滴定法により、シリカ(研磨砥粒)表面の平均シラノール基密度(単位:個/nm)算出することができる。“シアーズ滴定法”とは、コロイダルシリカメーカーがシラノール基密度を評価する際に通常用いる分析手法であって、pHを4から9まで変化させるのに必要な水酸化ナトリウム水溶液の量に基づいて計算を行う方法である。シラノール基密度測定の詳細については、以下の実施例において詳述する。
【0029】
本発明の一実施形態において、砥粒の単位表面積あたりのシラノール基数を0個/nmを超えて4個/nm以下、または4個/nmを超えて12個/nm以下にするためには、砥粒の製造方法の選択等が有効であり、例えば、焼成等の熱処理を行うことが好適である。本発明の一実施形態において、焼成は、例えば、砥粒(例えば、シリカ)を、120~200℃の環境下に、30分以上保持することにより行われる。このような、熱処理を施すことによって、砥粒表面のシラノール基数を、0個/nmを超えて4個/nm以下、または4個/nmを超えて12個/nm以下等の所望の数値にせしめることができる。このような特殊な処理を施すことにより、砥粒表面のシラノール基数を0個/nmを超えて4個/nm以下、または4個/nmを超えて12個/nm以下とすることができる。
【0030】
第1のシリカ粒子のシラノール基密度は、好ましくは0.5個/nm以上4個/nm以下であり、より好ましくは0.6個/nm以上3.8個/nm以下であり、さらに好ましくは0.8個/nm以上3.6個/nm以下であり、特に好ましくは0.9個/nm以上3.5個/nm以下であり、最も好ましくは1個/nm以上3個/nm以下である。第1のシリカ粒子のシラノール基密度が上記範囲内にあることにより、研磨の際に第1のシリカ粒子が研磨対象物に接近することができ、研磨対象物に対して第1のシリカ粒子による機械的力が効果的に付与される。
【0031】
第2のシリカ粒子のシラノール基密度は、好ましくは4.5個/nm以上12個/nm以下であり、より好ましくは5個/nmを超えて12個/nm以下であり、さらに好ましくは5.5個/nm以上12個/nm以下であり、特に好ましくは6個/nmを超えて12個/nm以下であり、最も好ましくは6個/nmを超えて11.5個/nm以下である。第2のシリカ粒子のシラノール基密度が上記範囲内にあることにより、研磨の際に第2のシリカ粒子が第1のシリカ粒子よりも研磨対象物から離れた位置となり、第1のシリカ粒子に対して第2のシリカ粒子による力(研磨対象物に向けて押し当てる力)が効果的に付与される。
【0032】
第1のシリカ粒子および第2のシリカ粒子は、より好ましくはコロイダルシリカである。コロイダルシリカの製造方法としては、ケイ酸ソーダ法、ゾルゲル法が挙げられ、いずれの製造方法で製造されたコロイダルシリカであっても、本発明の第1のシリカ粒子および第2のシリカ粒子として好適に用いられる。しかしながら、金属不純物低減の観点から、高純度で製造できるゾルゲル法により製造されたコロイダルシリカが好ましい。
【0033】
さらに、第1のシリカ粒子および第2のシリカ粒子は、それぞれ、シラノール基密度が上記範囲を満たす限り、表面修飾されていてもよい。例えば、第1のシリカ粒子および第2のシリカ粒子は、有機酸を固定化したコロイダルシリカであってもよい。研磨用組成物中に含まれるコロイダルシリカの表面への有機酸の固定化は、例えばコロイダルシリカの表面に有機酸の官能基が化学的に結合することにより行われている。コロイダルシリカと有機酸を単に共存させただけではコロイダルシリカへの有機酸の固定化は果たされない。有機酸の一種であるスルホン酸をコロイダルシリカに固定化するのであれば、例えば、“Sulfonic acid-functionalized silica through quantitative oxidation of thiol groups”, Chem. Commun. 246-247 (2003)に記載の方法で行うことができる。具体的には、3-メルカプトプロピルトリメトキシシラン等のチオール基を有するシランカップリング剤をコロイダルシリカにカップリングさせた後に過酸化水素でチオール基を酸化することにより、スルホン酸が表面に固定化されたコロイダルシリカを得ることができる。あるいは、カルボン酸をコロイダルシリカに固定化するのであれば、例えば、“Novel Silane Coupling Agents Containing a Photolabile 2-Nitrobenzyl Ester for Introduction of a Carboxy Group on the Surface of Silica Gel”, Chemistry Letters, 3, 228-229 (2000)に記載の方法で行うことができる。具体的には、光反応性2-ニトロベンジルエステルを含むシランカップリング剤をコロイダルシリカにカップリングさせた後に光照射することにより、カルボン酸が表面に固定化されたコロイダルシリカを得ることができる。
【0034】
本発明の研磨用組成物において、砥粒は、第1のシリカ粒子および第2のシリカ粒子以外の砥粒(以下、他の砥粒)を含んでいてもよい。本発明の研磨用組成物に含まれる他の砥粒の種類としては、特に制限されず、例えば、第1のシリカ粒子および第2のシリカ粒子以外のシリカ、アルミナ、ジルコニア、チタニア等の酸化物が挙げられる。他の砥粒は、単独でもまたは2種以上組み合わせても用いることができる。他の砥粒は、それぞれ市販品を用いてもよいし合成品を用いてもよい。
【0035】
なお、以下の説明では、「砥粒」と称する場合、すなわち、第1のシリカ粒子、第2のシリカ粒子と特記しない限り、第1のシリカ粒子、第2のシリカ粒子および他の砥粒を特に区別なく指すものとする。
【0036】
第1のシリカ粒子の平均一次粒子径の下限は、5nm以上が好ましく、7nm以上がより好ましく、10nm以上がさらに好ましく、15nm以上が特に好ましく、20nm以上が最も好ましい。第1のシリカ粒子の平均一次粒子径の上限は、300nm以下が好ましく、250nm以下がより好ましく、200nm以下がさらに好ましく、180nm以下が特に好ましく、150nm以下であるのが最も好ましい。このような範囲であれば、研磨対象物に対する研磨速度をより向上させることができる。
【0037】
第2のシリカ粒子の平均一次粒子径の下限は、10nm以上が好ましく、15nm以上がより好ましく、20nm以上がさらに好ましく、25nm以上が特に好ましく、30nm以上が最も好ましい。第2のシリカ粒子の平均一次粒子径の上限は、400nm以下が好ましく、300nm以下がより好ましく、250nm以下がさらに好ましく、200nm以下が特に好ましく、180nm以下であるのが最も好ましい。このような範囲であれば、研磨対象物に対する研磨速度をより向上させることができる。
【0038】
砥粒の平均一次粒子径の値はBET法を用いて測定された比表面積に基づいて、算出することができる。
【0039】
第1のシリカ粒子の平均二次粒子径の下限は、10nm以上であることが好ましく、20nm以上であることがより好ましく、30nm以上であることがさらに好ましく、40nm以上であることが特に好ましく、50nm以上であることが最も好ましい。また、第1のシリカ粒子の平均二次粒子径の上限は、200nm以下が好ましく、180nm以下がより好ましく、150nm以下がさらに好ましく、100nm以下が特に好ましく、80nm以下が最も好ましい。すなわち、第1のシリカ粒子の平均二次粒子径は、好ましくは10nm以上200nm以下、より好ましくは20nm以上180nm以下、さらに好ましくは30nm以上150nm以下、特に好ましくは40nm以上100nm以下、最も好ましくは10nm以上80nm以下である。このような範囲であれば、研磨対象物に対する研磨速度をより向上させることができる。
【0040】
第2のシリカ粒子の平均二次粒子径の下限は、20nm以上であることが好ましく、40nm以上であることがより好ましく、50nm以上であることがさらに好ましく、80nm以上であることが特に好ましく、100nm以上であることが最も好ましい。また、第2のシリカ粒子の平均二次粒子径の上限は、300nm以下が好ましく、280nm以下がより好ましく、250nm以下がさらに好ましく、200nm以下が特に好ましく、180nm以下が最も好ましい。すなわち、第2のシリカ粒子の平均二次粒子径は、好ましくは20nm以上300nm以下、より好ましくは40nm以上280nm以下、さらに好ましくは50nm以上250nm以下、特に好ましくは80nm以上200nm以下、最も好ましくは100nm以上180nm以下である。このような範囲であれば、研磨対象物に対する研磨速度をより向上させることができる。
【0041】
本発明の一実施形態において、第1のシリカ粒子の平均二次粒子径は、第2のシリカ粒子の平均二次粒子径よりも小さい。これにより、研磨用組成物による研磨速度はさらに向上する。
【0042】
また、本発明の一実施形態において、第1のシリカ粒子の平均二次粒子径は、第2のシリカ粒子の平均二次粒子径よりも小さく、第1のシリカ粒子の平均二次粒子径は10nm以上200nm以下であり、第2のシリカ粒子の平均二次粒子径は20nm以上300nm以下である。これにより、研磨用組成物による研磨速度はさらに向上する。
【0043】
なお、砥粒の平均二次粒子径は、例えば、レーザー回折散乱法に代表される動的光散乱法により測定することができる。すなわち、砥粒の平均二次粒子径は、レーザー回折散乱法により求められる砥粒の粒度分布において、微粒子側から積算粒子質量が全粒子質量の50%に達するときの粒子の直径D50に相当する。
【0044】
砥粒の平均会合度は、4.0以下であることが好ましく、3.0以下であることがより好ましく、2.5以下であることがさらに好ましい。砥粒の平均会合度が小さくなるにつれて、研磨対象物表面の欠陥発生をより低減することができる。また、砥粒の平均会合度は、1.5以上であることが好ましく、1.8以上であることがより好ましい。砥粒の平均会合度が大きくなるにつれて、研磨用組成物による研磨速度が向上する利点がある。なお、砥粒の平均会合度は、砥粒の平均二次粒子径の値を平均一次粒子径の値で除することにより得られる。
【0045】
砥粒の大きさ(平均粒子径等)は、砥粒の製造方法の選択等により適切に制御することができる。
【0046】
本発明の一実施形態による研磨用組成物中の砥粒の含有量(濃度)の下限は、研磨用組成物に対して、0.2質量%以上であることが好ましく、0.3質量%以上であることがより好ましく、0.5質量%以上であることがさらに好ましい。また、本発明の研磨用組成物中、砥粒の含有量の上限は、研磨用組成物に対して、20質量%以下であることが好ましく、15質量%以下であることがより好ましく、10質量%以下であることがさらに好ましく、5質量%以下であることがよりさらに好ましい。このような範囲であると、研磨速度をより向上させることができる。なお、研磨用組成物が2種以上の砥粒を含む場合には、砥粒の含有量はこれらの合計量を意味する。
【0047】
本発明の一実施形態において、第1のシリカ粒子と第2のシリカ粒子との質量比は、好ましくは第1のシリカ粒子:第2のシリカ粒子=1:10~10:1であり、より好ましくは第1のシリカ粒子:第2のシリカ粒子=1:5~5:1であり、さらに好ましくは第1のシリカ粒子:第2のシリカ粒子=1:2~2:1である。このような範囲であると、研磨速度をより向上させることができる。
【0048】
[研磨速度向上剤]
本発明の研磨用組成物は、一実施形態において、アミノエチルピペラジンおよびアンモニアからなる群より選択される少なくとも1種の研磨速度向上剤をさらに含む。ここで研磨速度向上剤とは、研磨用組成物に添加されることによって該組成物の研磨速度を向上させる機能を有する化合物を指す。研磨速度向上剤は、研磨対象物の面を化学的に研磨する働き、および研磨用組成物の分散安定性を向上させる働きを有する。また、本発明の研磨用組成物に含有される研磨速度向上剤は、研磨用組成物の電気伝導度を上げる効果を有する。これにより、研磨用組成物による研磨速度はさらに向上すると考えられる。
【0049】
本発明の実施形態において、研磨用組成物中の研磨速度向上剤の含有量の下限は、研磨用組成物に対して、好ましく0.001質量%以上であり、より好ましくは0.05質量%以上であり、さらに好ましくは0.01質量%以上であり、特に好ましくは0.05質量%以上であり、最も好ましくは0.07質量%以上である。かような下限であることによって、研磨速度がより向上する。研磨用組成物中の研磨速度向上剤の含有量の上限は、研磨用組成物に対して、好ましくは10質量%以下であり、より好ましくは8質量%以下であり、さらに好ましくは5質量%以下であり、特に好ましくは3質量%以下であり、最も好ましくは1質量%以下である。かような上限であることによって、凝集のない安定なスラリーを得ることができる。
【0050】
[pHおよびpH調整剤]
本発明の研磨用組成物のpHは6を超える。仮に、pH6以下となると、研磨対象物の研磨速度を向上させることができない。本発明の研磨用組成物のpHは6を超えればよいが、好ましくはpH7以上であり、より好ましくはpH7.5以上であり、さらに好ましくはpH8以上であり、さらにより好ましくはpH9以上であり、特に好ましくはpH9.5以上、最も好ましくはpH10以上である。pHが6を超えると、n型不純物がドープされた多結晶シリコンと、酸化ケイ素膜(好ましくはTEOS膜)および/または窒化ケイ素膜とを含む研磨対象物を研磨した場合であっても、n型不純物がドープされた多結晶シリコンを選択的に高い研磨速度で研磨することができる。pHの上限は、実用上、13以下であることが好ましく、12.5以下であることがより好ましい。
【0051】
本発明の研磨用組成物は、必要に応じて、pH調整剤をさらに含有してもよい。pH調整剤は、研磨用組成物のpHを所望の値に調整する。
【0052】
本発明の研磨用組成物に含まれるpH調整剤は、無機酸、有機酸、アルカリ等がある。これらは1種単独でもまたは2種以上を組み合わせて使ってもよい。
【0053】
pH調整剤として使用できる無機酸の具体例としては、例えば、塩酸、硫酸、硝酸、フッ酸、ホウ酸、炭酸、次亜リン酸、亜リン酸およびリン酸が挙げられる。なかでも好ましいのは、塩酸、硫酸、硝酸またはリン酸である。
【0054】
pH調整剤として使用できる有機酸の具体例としては、例えば、ギ酸、酢酸、プロピオン酸、酪酸、吉草酸、2-メチル酪酸、n-ヘキサン酸、3,3-ジメチル酪酸、2-エチル酪酸、4-メチルペンタン酸、n-ヘプタン酸、2-メチルヘキサン酸、n-オクタン酸、2-エチルヘキサン酸、安息香酸、グリコール酸、サリチル酸、グリセリン酸、シュウ酸、マロン酸、コハク酸、グルタル酸、アジピン酸、ピメリン酸、マレイン酸、フタル酸、リンゴ酸、酒石酸、クエン酸、乳酸、ジグリコール酸、2-フランカルボン酸、2,5-フランジカルボン酸、3-フランカルボン酸、2-テトラヒドロフランカルボン酸、メトキシ酢酸、メトキシフェニル酢酸およびフェノキシ酢酸が挙げられる。メタンスルホン酸、エタンスルホン酸およびイセチオン酸等の有機硫酸を使用してもよい。なかでも好ましいのは、マロン酸、コハク酸、グルタル酸、アジピン酸、ピメリン酸、マレイン酸、フタル酸、リンゴ酸および酒石酸のようなジカルボン酸、ならびにクエン酸のようなトリカルボン酸である。
【0055】
無機酸または有機酸の代わりにあるいは無機酸または有機酸と組み合わせて、無機酸または有機酸のアルカリ金属塩等の塩をpH調整剤として用いてもよい。弱酸と強塩基、強酸と弱塩基、または弱酸と弱塩基の組み合わせの場合には、pHの緩衝作用を期待することができる。
【0056】
pH調整剤として使用できるアルカリの具体例としては、例えば、アンモニア、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、テトラメチルアンモニウムヒドロキシド等を挙げることができる。pH調整剤の含有量は、本発明の効果を奏する範囲内で適宜調整することによって選択することができる。
【0057】
本発明の一実施形態において、研磨用組成物は、pH調整剤をさらに含み、pH調整剤が、水酸化カリウムを含む。pH調整剤が水酸化カリウムを含むことにより、電気伝導度を好ましい範囲へと調整しやすく、これにより研磨速度がより一層向上する有利な効果がある。
【0058】
なお、研磨用組成物のpHは、例えばpHメータにより測定することができる。具体的には、pHメータ(例えば、株式会社堀場製作所製、型番:LAQUA)等を使用し、標準緩衝液(フタル酸塩pH緩衝液pH:4.01(25℃)、中性リン酸塩pH緩衝液pH:6.86(25℃)、炭酸塩pH緩衝液pH:10.01(25℃))を用いて3点校正した後で、ガラス電極を研磨用組成物に入れて、2分以上経過して安定した後の値を測定することにより、研磨用組成物のpHを測定することができる。
【0059】
[分散媒]
本発明の研磨用組成物は、各成分を分散するための分散媒を含む。分散媒としては、水;メタノール、エタノール、エチレングリコール等のアルコール類;アセトン等のケトン類等や、これらの混合物などが例示できる。これらのうち、分散媒としては水が好ましい。すなわち、本発明の好ましい形態によると、分散媒は水を含む。本発明のより好ましい形態によると、分散媒は実質的に水からなる。なお、上記の「実質的に」とは、本発明の目的効果が達成され得る限りにおいて、水以外の分散媒が含まれ得ることを意図し、より具体的には、好ましくは90質量%以上100質量%以下の水と0質量%以上10質量%以下の水以外の分散媒とからなり、より好ましくは99質量%以上100質量%以下の水と0質量%以上1質量%以下の水以外の分散媒とからなる。最も好ましくは、分散媒は水である。
【0060】
研磨用組成物に含まれる成分の作用を阻害しないようにするという観点から、分散媒としては、不純物をできる限り含有しない水が好ましく、具体的には、イオン交換樹脂にて不純物イオンを除去した後、フィルタを通して異物を除去した純水や超純水、または蒸留水がより好ましい。
【0061】
[その他の成分]
本発明の研磨用組成物は、本発明の効果が著しく妨げられない範囲で、錯化剤、防腐剤、防カビ剤等の、研磨用組成物に用いられ得る公知の添加剤を、必要に応じてさらに含有してもよい。ただし、本発明の実施形態によれば、研磨用組成物は、酸化剤を実質的に含まない。かかる実施形態によって、n型不純物がドープされた多結晶シリコンと、酸化ケイ素膜(好ましくはTEOS膜)および/または窒化ケイ素膜とを含む研磨対象物を研磨した場合であっても、n型不純物がドープされた多結晶シリコンを選択的に高い研磨速度で研磨することができる。なお、「実質的に含まない」とは、研磨用組成物中に全く含まない概念の他、研磨用組成物中に、0.1質量%以下含む場合を含む。
【0062】
[研磨用組成物の電気伝導度]
本発明の研磨用組成物の電気伝導度の下限は、好ましくは0.1mS/cm以上であり、より好ましくは0.3mS/cm以上であり、さらに好ましくは0.5mS/cm以上であり、特に好ましくは0.8mS/cm以上であり、最も好ましくは0.9mS/cm以上である。また、本発明の研磨用組成物の電気伝導度の上限は、好ましくは6mS/cm以下であり、より好ましくは5mS/cm以下であり、さらに好ましくは4.5mS/cm以下であり、特に好ましくは4mS/cm以下であり、最も好ましくは3.5mS/cm以下である。研磨用組成物の電気伝導度が上記範囲であることにより、研磨速度がより一層向上する有利な効果がある。なお、研磨用組成物の電気伝導度は、卓上型電気伝導度計(株式会社堀場製作所製、型番:DS-71)により測定される値である。
【0063】
[研磨用組成物の製造方法]
本発明の研磨用組成物の製造方法は、特に制限されず、例えば、砥粒、および必要に応じて他の成分を、分散媒(例えば、水)中で攪拌混合することにより得ることができる。各成分の詳細は上述した通りである。
【0064】
各成分を混合する際の温度は特に制限されないが、10℃以上40℃以下が好ましく、溶解速度を上げるために加熱してもよい。また、混合時間も、均一混合できれば特に制限されない。
【0065】
[研磨方法および半導体基板の製造方法]
上述のように、本発明の研磨用組成物は、n型不純物がドープされた多結晶シリコン膜を含む研磨対象物の研磨に好適に用いられる。よって、本発明は、n型不純物がドープされた多結晶シリコン膜を含む研磨対象物を、本発明の研磨用組成物で研磨する研磨方法を提供する。すなわち、本発明には、本発明の研磨用組成物を用いて、n型不純物がドープされた多結晶シリコン膜を含む研磨対象物を研磨する工程を含む、研磨方法が包含される。また、本発明は、n型不純物がドープされた多結晶シリコン膜を含む半導体基板を前記研磨方法で研磨する工程を含む半導体基板の製造方法を提供する。
【0066】
研磨装置としては、研磨対象物を有する基板等を保持するホルダーと回転数を変更可能なモータ等とが取り付けてあり、研磨パッド(研磨布)を貼り付け可能な研磨定盤を有する一般的な研磨装置を使用することができる。
【0067】
研磨パッドとしては、一般的な不織布、ポリウレタン、および多孔質フッ素樹脂等を特に制限なく使用することができる。研磨パッドには、研磨液が溜まるような溝加工が施されていることが好ましい。
【0068】
研磨条件については、例えば、研磨定盤の回転速度は、10rpm(0.17s-1)以上500rpm(8.3s-1)以下が好ましい。研磨対象物を有する基板にかける圧力(研磨圧力)は、0.5psi(3.4kPa)以上10psi(68.9kPa)以下が好ましい。研磨パッドに研磨用組成物を供給する方法も特に制限されず、例えば、ポンプ等で連続的に供給する方法が採用される。この供給量に制限はないが、研磨パッドの表面が常に本発明の研磨用組成物で覆われていることが好ましい。
【0069】
研磨終了後、基板を流水中で洗浄し、スピンドライヤ等により基板上に付着した水滴を払い落として乾燥させることにより、金属を含む層を有する基板が得られる。
【0070】
本発明の研磨用組成物は一液型であってもよいし、二液型をはじめとする多液型であってもよい。また、本発明の研磨用組成物は、研磨用組成物の原液を水などの希釈液を使って、例えば10倍以上に希釈することによって調製されてもよい。
【0071】
[研磨速度]
本発明において、n型不純物がドープされた多結晶シリコン膜の研磨速度は、好ましくは1000Å/min以上7000Å/min以下であり、より好ましくは1200Å/min以上6800Å/min以下であり、さらに好ましくは1500Å/min以上6500Å/min以下であり、特に好ましくは2000Å/min以上6000Å/min以下である。酸化ケイ素膜(好ましくはTEOS膜)および/または窒化ケイ素膜の研磨速度は、好ましくは15Å/min以上500Å/min以下であり、より好ましくは20Å/min以上300Å/min以下であり、さらに好ましくは25Å/min以上250Å/min以下であり、特に好ましくは50Å/min以上200Å/min以下である。
【0072】
[選択比]
n型不純物がドープされた多結晶シリコン膜(P’poly-Si)の研磨速度(Å/min)を酸化ケイ素膜(TEOS)および/または窒化ケイ素膜(SiN)の研磨速度(Å/min)で除した値を算出して、選択比とすると、本発明において、選択比(P’poly-Si/(TEOSまたはSiN)は、10以上50以上が好ましく、11以上45以下がより好ましく、15以上40以上であることがさらに好ましい。
【実施例
【0073】
本発明を、以下の実施例および比較例を用いてさらに詳細に説明する。ただし、本発明の技術的範囲が以下の実施例のみに制限されるわけではない。なお、特記しない限り、「%」および「部」は、それぞれ、「質量%」および「質量部」を意味する。また、下記実施例において、特記しない限り、操作は室温(20~25℃)/相対湿度40~50%RHの条件下で行われた。
【0074】
[砥粒の調製]
(第1のシリカ粒子および第2のシリカ粒子の調製)
第1のシリカ粒子および第2のシリカ粒子として、表1に記載のシラノール基密度を有するシリカ粒子を準備した。すなわち、第1のシリカ粒子および第2のシリカ粒子は、例えば、シリカを、120~200℃の環境下に、30分以上保持して焼成が行われることにより、シリカ粒子表面のシラノール基数を、0個/nmを超えて4個/nm以下、または4個/nmを超えて12個/nm以下等の所望の数値に調整した。
・シリカ粒子a:シラノール基密度1.6個/nm、平均一次粒子径:30nm、平均二次粒子径:60nm、平均会合度:2
・シリカ粒子b:シラノール基密度3.5個/nm、平均一次粒子径:30nm、平均二次粒子径:60nm、平均会合度:2
・シリカ粒子c:シラノール基密度7.9個/nm、平均一次粒子径:90nm、平均二次粒子径:210nm、平均会合度:2.3
・シリカ粒子d:シラノール基密度6.57個/nm、平均一次粒子径:78nm、平均二次粒子径:120nm、平均会合度:1.6
・シリカ粒子e:シラノール基密度5.7個/nm、平均一次粒子径:35nm、平均二次粒子径:70nm、平均会合度:2
なお、第1のシリカ粒子および第2のシリカ粒子のシラノール基密度(単位:個/nm)は、以下の測定方法および計算方法により、各パラメータを測定および算出した後、下記の方法により算出した。
【0075】
[シラノール基密度の算出方法]
第1のシリカ粒子および第2のシリカ粒子のシラノール基密度は、G.W.シアーズによる Analytical Chemistry, vol.28, No.12, 1956, 1982~1983に記載された中和滴定を用いたシアーズ法により算出した。
【0076】
より具体的には、第1のシリカ粒子および第2のシリカ粒子のシラノール基密度は、第1のシリカ粒子および第2のシリカ粒子のそれぞれを測定サンプルとして、上記の方法による滴定を行い、下記式1により算出した。
【0077】
ρ=(c×V×N×10-21)/(C×S)・・・式1
上記式1中、
ρは、シラノール基密度(個/nm)を表し;
cは、滴定に用いた水酸化ナトリウム溶液の濃度(mol/L)を表し;
Vは、pHを4.0から9.0に上げるのに要した水酸化ナトリウム溶液の容量(L)を表し;
は、アボガドロ定数(個/mol)を表し;
Sは、シリカ粒子のBET比表面積(nm/g)を表す。
【0078】
[第1のシリカ粒子および第2のシリカ粒子の粒子径]
砥粒(第1のシリカ粒子および第2のシリカ粒子)の平均一次粒子径は、マイクロメリテックス社製の“Flow SorbII 2300”を用いて測定されたBET法による砥粒の比表面積と、砥粒の密度とから算出した。また、砥粒(第1のシリカ粒子および第2のシリカ粒子)の平均二次粒子径は、日機装株式会社製 動的光散乱式粒子径・粒度分布装置 UPA-UTI151により測定した。
【0079】
[研磨用組成物の調製]
(実施例1)
砥粒として上記で得られた第1のシリカ粒子:シリカ粒子a(シラノール基密度1.6個/nm、平均一次粒子径:30nm、平均二次粒子径:60nm、平均会合度:2)および第2のシリカ粒子:シリカ粒子c(シラノール基密度7.9個/nm、平均一次粒子径:90nm、平均二次粒子径:210nm、平均会合度:2.3)を1質量%および1.5質量%、ならびに研磨促進剤としてアミノエチルピペラジンを0.02質量%の最終濃度となるように、それぞれ分散媒である純水に室温(25℃)で加え、混合液を得た。
【0080】
その後、混合液にpH調整剤として水酸化カリウムを、pHが11となるように添加し、室温(25℃)で30分攪拌混合し、研磨用組成物を調製した。研磨用組成物(液温:25℃)のpHは、pHメータ(株式会社堀場製作所製 型番:LAQUA)により確認した。また、研磨用組成物の電気伝導度は、卓上型電気伝導度計(株式会社堀場製作所製、型番:DS-71)により測定した。
【0081】
(実施例2~11、比較例1~8)
第1のシリカ粒子および第2のシリカ粒子の種類と含有量、研磨促進剤の種類と含有量、およびpH(pH調整剤の種類と含有量)を下記表1のように変更したこと以外は、実施例1と同様にして、実施例2~11、比較例1~8の各研磨用組成物を調製した。なお、下記表1において「-」と表示されているものは、その剤を含んでいないことを示す。得られた各研磨用組成物のpHおよび電気伝導度、各研磨用組成物中の砥粒(第1のシリカ粒子および第2のシリカ粒子)の平均二次粒子径は、下記表1に示す。
【0082】
表1において、第1のシリカ粒子および第2のシリカ粒子における「粒子径」は平均二次粒子径を表し、研磨速度向上剤の欄における「AEP」はアミノエチルピペラジンを表し、「EC」は電気伝導度を表し、研磨速度の欄における「P’poly-Si」はリンドープドポリシリコンを表し、選択比の欄における「P’poly-Si/TEOS」はTEOS膜に対するリンドープトポリシリコン膜の選択比を表す。なお、「P’poly-Si/TEOS」は、P’poly-Siの研磨速度をTEOSの研磨速度で除することにより算出される。
【0083】
研磨用組成物中の砥粒の粒子径(平均一次粒子径、平均二次粒子径)は、粉末状の砥粒の粒子径と同様であった。なお、粒子径の測定方法は、上記した測定方法と同じである。ここで、本発明では、砥粒として第1のシリカ粒子を含む研磨用組成物を調製し(砥粒以外の構成は同じとする)、その研磨用組成物中の第1のシリカ粒子の粒子径を測定した。これを第2のシリカ粒子についても行った。これにより、研磨用組成物中の第1のシリカ粒子および第2のシリカ粒子の粒子径(平均一次粒子径、平均二次粒子径)は、粉末状の第1のシリカ粒子および第2のシリカ粒子の粒子径とそれぞれ同様であることを確認した。
【0084】
[研磨速度の評価]
上記で得られた各研磨用組成物を用いて、下記の研磨対象物に対して、以下の研磨条件で研磨した際の研磨速度を測定した。
【0085】
(研磨装置および研磨条件)
研磨装置:日本エンギス株式会社製 ラッピングマシーン EJ-380IN-CH
研磨パッド:ニッタ・デュポン株式会社製 硬質ポリウレタンパッド IC1010
研磨圧力:3.0psi(1psi=6894.76Pa)
研磨定盤回転数:60rpm
ヘッド(キャリア)回転数:60rpm
研磨用組成物の供給:掛け流し
研磨用組成物供給量:100mL/分
研磨時間:30秒。
【0086】
(研磨対象物)
研磨対象物として、表面に厚さ3000Åのリンドープトポリシリコン(リン含有量:20at%)膜を有する300mmブランケットウェーハを準備した。また、研磨対象物として、表面に厚さ10000ÅのTEOS膜を形成したシリコンウェーハ(300mm、ブランケットウェーハ、株式会社アドバンテック製)を準備した。その後、ウェーハを30mm×30mmのチップに切断したクーポンを試験片とし、研磨試験を実施した。試験に用いた研磨対象物の詳細を下記に示す。
【0087】
なお、不純物の含有量(ドープ量)は、ポリシリコンおよび不純物の合計100at%に対する量である。多結晶シリコンにドープされるn型不純物の含有量は、下記機器を用いて下記条件により算出される。
【0088】
測定機器;多機能走査型X線光電子分光分析装置(XPS)
機器名および製造会社:PHI5000 Versa Probe アルバック・ファイ株式会社製
測定:リンドープトポリシリコンの場合、測定元素はリン、シリコン、酸素、炭素の4種類であり、測定機器のsweep回数は各元素とも10回とし、そのポリシリコンの出力値(Poly-Si出力値;すなわち、Si、OおよびCの合計出力値)とリンの出力値(P出力値)とを用いて、下記式2によりポリシリコンとリンとの合計100at%に対するリンの含有量(P含有量)(at%)を算出した。
【0089】
P含有量(at%)
=P出力値(%)/(Poly-Si出力値(%)+P出力値(%))・・・式2。
【0090】
(研磨速度)
研磨速度(Removal Rate;RR)は、以下の式により計算した。
【0091】
【数1】
【0092】
膜厚は、光干渉式膜厚測定装置(大日本スクリーン製造株式会社製、型番:ラムダエースVM-2030)によって求めて、研磨前後の膜厚の差を研磨時間で除することにより研磨速度を評価した。
【0093】
リンドープトポリシリコン膜およびTEOS膜に対する研磨速度の評価結果を下記表1に示す。
【0094】
【表1】
【0095】
表1に示すように、実施例1~11の研磨用組成物を用いた場合、リンドープトポリシリコン膜に対する研磨速度は1000Å/minを超え、比較例1~8の研磨用組成物に比べて、リンドープトポリシリコン膜を高い研磨速度で研磨できることがわかった。
【0096】
また、表1に示すように、実施例1~11の研磨用組成物を用いた場合、TEOS膜に対する研磨速度が40Å/minを超え、TEOS膜に対するリンドープトポリシリコン膜の選択比が19以上であり、比較例1~8の研磨用組成物に比べて、リンドープトポリシリコン膜およびTEOS膜を高い研磨速度で研磨しつつ、TEOS膜に対するリンドープトポリシリコン膜の選択比も高くなることがわかった。
【0097】
このことから、研磨用組成物が、砥粒としてシラノール基密度が異なる2種のシリカ粒子を含むことにより、研磨対象物の研磨速度が向上することがわかる。