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特許7663386研磨用組成物、研磨方法および半導体基板の製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2025-04-08
(45)【発行日】2025-04-16
(54)【発明の名称】研磨用組成物、研磨方法および半導体基板の製造方法
(51)【国際特許分類】
   H01L 21/304 20060101AFI20250409BHJP
   B24B 37/00 20120101ALI20250409BHJP
   C09K 3/14 20060101ALI20250409BHJP
   C09G 1/02 20060101ALI20250409BHJP
   C01B 33/18 20060101ALI20250409BHJP
【FI】
H01L21/304 622D
H01L21/304 622B
H01L21/304 622X
B24B37/00 H
C09K3/14 550D
C09K3/14 550Z
C09G1/02
C01B33/18 E
【請求項の数】 8
(21)【出願番号】P 2021049533
(22)【出願日】2021-03-24
(65)【公開番号】P2022148021
(43)【公開日】2022-10-06
【審査請求日】2023-11-30
(73)【特許権者】
【識別番号】000236702
【氏名又は名称】株式会社フジミインコーポレーテッド
(74)【代理人】
【識別番号】110000671
【氏名又は名称】IBC一番町弁理士法人
(72)【発明者】
【氏名】前 僚太
【審査官】内田 正和
(56)【参考文献】
【文献】特開2016-149402(JP,A)
【文献】国際公開第2021/046080(WO,A1)
【文献】特開2019-165226(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2016/0032461(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01L 21/304
B24B 37/00
C09K 3/14
C09G 1/02
C01B 33/18
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
砥粒と、アルカリ化合物と、分散媒と、を含む研磨用組成物であって、
前記砥粒が、シラノール基密度が0個/nmを超えて4個/nm以下であるシリカ粒子を含み、
前記アルカリ化合物として、水酸化カリウムと、ジグリコールアミンおよびアミノエチルピペラジンからなる群より選択される1種以上と、を含み、
電気伝導度が、0.5mS/cm以上10mS/cm以下であり、
pHが、10以上12以下である、研磨用組成物。
【請求項2】
前記シリカ粒子のシラノール基密度が、0個/nmを超えて2個/nm以下である、請求項1に記載の研磨用組成物。
【請求項3】
前記電気伝導度が、3mS/cm以上8mS/cm以下である、請求項1または2のいずれか1項の研磨用組成物。
【請求項4】
pHが11を超える、請求項1~のいずれか1項に記載の研磨用組成物。
【請求項5】
酸化剤を実質的に含まない、請求項1~のいずれか1項に記載の研磨用組成物。
【請求項6】
多結晶シリコン膜および酸化ケイ素膜を含む研磨対象物を研磨する用途で使用される、請求項1~のいずれか1項に記載の研磨用組成物。
【請求項7】
請求項1~のいずれか1項に記載の研磨用組成物を用いて、多結晶シリコン膜および酸化ケイ素膜を含む研磨対象物を研磨する工程を含む、研磨方法。
【請求項8】
多結晶シリコン膜および酸化ケイ素膜を含む半導体基板を、請求項に記載の研磨方法により研磨する工程を有する、半導体基板の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、研磨用組成物、研磨方法および半導体基板の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、LSI(Large Scale Integration)の高集積化、高性能化に伴って新たな微細加工技術が開発されている。化学機械研磨(chemical mechanical polishing;CMP)法もその一つであり、LSI製造工程、特に多層配線形成工程における層間絶縁膜の平坦化、金属プラグ形成、埋め込み配線(ダマシン配線)形成において頻繁に利用される技術である。
【0003】
当該CMPは、半導体製造における各工程に適用されてきており、その一態様として、例えばトランジスタ作製におけるゲート形成工程への適用が挙げられる。トランジスタ作製の際には、金属、シリコン、酸化ケイ素、多結晶シリコン、シリコン窒化膜といった材料を研磨することがあり、生産性を向上させるべく、各材料を高速で研磨する要求が存在する。かような要求に応えるため、例えば、特許文献1には、多結晶シリコンの研磨速度を向上させようとする技術が存在する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2013-041992号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明者は、CMPの半導体製造における各工程への適用を検討する中で、多結晶シリコン膜のみならず、酸化ケイ素膜を高速で研磨することが製造上好ましい場合があること、およびこのような場合において酸化ケイ素膜の研磨速度に対する多結晶シリコン膜の研磨速度の比(以下、「多結晶シリコン膜の研磨速度の選択比」とも称する)が高い方が製造上好ましいことがあることを知見した。しかしながら、このような新たな知見に対して、これまでほとんど検討がなされていない。
【0006】
そこで、本発明が解決しようとする課題は、多結晶シリコン膜および酸化ケイ素膜を高い研磨速度で研磨することができ、かつ多結晶シリコン膜の研磨速度の選択比が高い研磨用組成物を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記の課題を解決すべく、本発明者は鋭意研究を積み重ねた。その結果、砥粒と、アルカリ化合物と、分散媒と、を含む研磨用組成物であって、前記砥粒が、シラノール基密度が0個/nmを超えて4個/nm以下であるシリカ粒子を含み、電気伝導度が、0.5mS/cm以上10mS/cm以下であり、pHが、10以上12以下である、研磨用組成物により、上記課題が解決することを見出し、本発明を完成させるに至った。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、多結晶シリコン膜および酸化ケイ素膜を高い研磨速度で研磨することができ、かつ多結晶シリコン膜の研磨速度の選択比が高い研磨用組成物が提供される。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、本発明の実施の形態を説明するが、本発明は、以下の実施の形態のみには限定されない。なお、特記しない限り、操作および物性等の測定は室温(20~25℃)/相対湿度40~50%RHの条件で測定する。また、本明細書において、範囲を示す「X~Y」は、「X以上Y以下」を意味する。
【0010】
<研磨用組成物>
本発明は、研磨対象物を研磨するために用いられる研磨用組成物であって、砥粒と、アルカリ化合物と、分散媒と、を含む研磨用組成物であって、前記砥粒が、シラノール基密度が0個/nmを超えて4個/nm以下であるシリカ粒子を含み、電気伝導度が、0.5mS/cm以上10mS/cm以下であり、pHが、10以上12以下である、研磨用組成物である。かような構成を有する本発明の研磨用組成物は、多結晶シリコン膜および酸化ケイ素膜を高い研磨速度で研磨することができ、かつ多結晶シリコン膜の研磨速度の選択比(酸化ケイ素膜の研磨速度に対する多結晶シリコン膜の研磨速度の比)が高い。
【0011】
本発明の研磨用組成物により、上記効果を奏する理由は必ずしも明確ではないが、以下のように考えられる。ただし、以下のメカニズムは推測に過ぎず、本発明の技術的範囲を制限しないことは言うまでもない。
【0012】
研磨用組成物は、一般に、基板表面を摩擦することによる物理的作用および砥粒以外の成分が基板の表面に与える化学的作用、ならびにこれらの組み合わせによって研磨対象物を研磨するものである。これにより、砥粒の形態や種類は研磨速度に大きな影響を与えることとなる。
【0013】
本発明の研磨用組成物は、砥粒として、シラノール基密度が0個/nmを超えて4個/nm以下であるシリカ粒子(以下、「低シラノール基密度のシリカ粒子」とも称する)を含む。多結晶シリコンは疎水性が高く、また、一般的に、低シラノール基密度の砥粒ほど疎水性であり、疎水性の研磨対象物に接近しやすい。したがって、研磨の際、研磨用組成物に含まれる低シラノール基密度のシリカ粒子は、研磨対象物である多結晶シリコン膜に接近し、多結晶シリコン膜の表面(研磨面)に機械的力を十分に加えることができ、好適に研磨することができる。
【0014】
また、本発明の研磨用組成物の電気伝導度が、0.5mS/cm以上10mS/cm以下であり、pHは、10以上12以下である。一般的には、アルカリ性とすることで酸化ケイ素膜の研磨速度が高くなるが、それにより、多結晶シリコン膜の研磨速度の選択比は低下しやすい。本発明においては、多結晶シリコン膜の研磨速度の選択比も高くすることが求められるため、多結晶シリコン膜の研磨速度と酸化ケイ素膜の研磨速度とのバランスが必要となる。本発明において、研磨用組成物の電気伝導度が0.5mS/cm以上10mS/cm以下であれば、電気二重層の圧縮により、砥粒と酸化ケイ素膜(例えば、TEOS膜)と間の静電反発が抑えられ、両者が接近しやすくなり、研磨しやすくなるものと考えられる。研磨用組成物のpHが10以上12以下であれば、多結晶シリコン膜の表面をエッチングして脆化させることができるため、多結晶シリコン膜を研磨しやすい。以上のことから、本発明は、電気伝導度とpHとが特定の範囲であることにより酸化ケイ素膜を効率的に研磨でき、かつ低シラノール基密度のシリカ粒子が多結晶シリコン膜に接近して多結晶シリコン膜の研磨にも寄与するという、新規な研磨用組成物を見出したものといえる。
【0015】
[研磨対象物]
本発明に係る研磨対象物は、多結晶シリコン(ポリシリコン)膜および酸化ケイ素膜を含む。すなわち、本発明に係る研磨対象物は、多結晶シリコン膜および酸化ケイ素膜を含む研磨対象物を研磨する用途で使用される。
【0016】
酸化ケイ素膜の例としては、例えば、オルトケイ酸テトラエチルを前駆体として使用して生成されるTEOS(Tetraethyl Orthosilicate)タイプ酸化ケイ素膜(以下、単に「TEOS膜」とも称する)、HDP(High Density Plasma)膜、USG(Undoped Silicate Glass)膜、PSG(Phosphorus Silicate Glass)膜、BPSG(Boron-Phospho Silicate Glass)膜、RTO(Rapid Thermal Oxidation)膜等が挙げられる。
【0017】
本発明に係る研磨対象物は、多結晶シリコン(ポリシリコン)膜および酸化ケイ素膜以外に、他の材料を含んでいてもよい。他の材料の例としては、窒化ケイ素(SiN)、炭窒化ケイ素(SiCN)、非晶質シリコン(アモルファスシリコン)、金属、SiGe等が挙げられる。
【0018】
上記金属としては、例えば、タングステン、銅、アルミニウム、コバルト、ハフニウム、ニッケル、金、銀、白金、パラジウム、ロジウム、ルテニウム、イリジウム、オスミウム等が挙げられる。
【0019】
[砥粒]
本発明の研磨用組成物は、砥粒を含む。本発明の研磨用組成物において、砥粒は、シラノール基密度が0個/nmを超えて4個/nm以下であるシリカ粒子を含む。一実施形態において、砥粒は、シラノール基密度が0個/nmを超えて4個/nm以下であるシリカ粒子で構成される。本明細書において、「シラノール基密度」とは、シリカ粒子表面の単位面積当たりにおけるシラノール基の数を意味する。シラノール基密度は、シリカ粒子表面の電気特性または化学特性を表すための指標である。
【0020】
本明細書において、シラノール基密度はBET法により測定した比表面積および滴定により測定したシラノール基の量に基づいて計算し求めたものである。例えば、G.W.Searsによる“Analytical Chemistry, vol.28, No.12, 1956, 1982~1983”に記載された中和滴定を用いたシアーズ(Sears)滴定法により、シリカ(研磨砥粒)表面の平均シラノール基密度(単位:個/nm)算出することができる。“シアーズ滴定法”とは、コロイダルシリカメーカーがシラノール基密度を評価する際に通常用いる分析手法であって、pHを4から9まで変化させるのに必要な水酸化ナトリウム水溶液の量に基づいて計算を行う方法である。シラノール基密度測定の詳細については、以下の実施例において詳述する。
【0021】
本発明の一実施形態において、砥粒の単位表面積あたりのシラノール基数を0個/nmを超えて4個/nm以下にするためには、砥粒の製造方法の選択等が有効であり、例えば、焼成等の熱処理を行うことが好適である。本発明の一実施形態において、焼成は、例えば、砥粒(例えば、シリカ)を、120~200℃の環境下に、30分以上保持することにより行われる。このような、熱処理を施すことによって、砥粒表面のシラノール基数を、0個/nmを超えて4個/nm以下等の所望の数値にせしめることができる。よって、本発明において、このような特殊な処理を砥粒に施すことにより、砥粒表面のシラノール基数を0個/nmを超えて4個/nm以下とすることができる。
【0022】
シリカ粒子のシラノール基密度は、一実施形態において、0個/nmを超えて4個/nm以下である。また、シリカ粒子のシラノール基密度は、好ましくは0.5個/nm以上4個/nm以下であり、より好ましくは0.6個/nm以上3.8個/nm以下であり、さらに好ましくは0.8個/nm以上3.6個/nm以下であり、特に好ましくは0.9個/nm以上3.5個/nm以下であり、最も好ましくは1個/nm以上3個/nm以下である。シリカ粒子のシラノール基密度が上記範囲内にあることにより、研磨の際にシリカ粒子が多結晶シリコン膜に接近することができ、多結晶シリコン膜に対してシリカ粒子による機械的力が効果的に付与される。
【0023】
シリカ粒子は、好ましくはコロイダルシリカである。コロイダルシリカの製造方法としては、ケイ酸ソーダ法、ゾルゲル法が挙げられ、いずれの製造方法で製造されたコロイダルシリカであっても、本発明のシリカ粒子として好適に用いられる。しかしながら、金属不純物低減の観点から、高純度で製造できるゾルゲル法により製造されたコロイダルシリカが好ましい。
【0024】
さらに、シリカ粒子は、それぞれ、シラノール基密度が上記範囲を満たす限り、表面修飾されていてもよい。例えば、シリカ粒子は、有機酸を固定化したコロイダルシリカであってもよい。研磨用組成物中に含まれるコロイダルシリカの表面への有機酸の固定化は、例えばコロイダルシリカの表面に有機酸の官能基が化学的に結合することにより行われている。コロイダルシリカと有機酸を単に共存させただけではコロイダルシリカへの有機酸の固定化は果たされない。有機酸の一種であるスルホン酸をコロイダルシリカに固定化するのであれば、例えば、“Sulfonic acid-functionalized silica through quantitative oxidation of thiol groups”, Chem. Commun. 246-247 (2003)に記載の方法で行うことができる。具体的には、3-メルカプトプロピルトリメトキシシラン等のチオール基を有するシランカップリング剤をコロイダルシリカにカップリングさせた後に過酸化水素でチオール基を酸化することにより、スルホン酸が表面に固定化されたコロイダルシリカを得ることができる。あるいは、カルボン酸をコロイダルシリカに固定化するのであれば、例えば、“Novel Silane Coupling Agents Containing a Photolabile 2-Nitrobenzyl Ester for Introduction of a Carboxy Group on the Surface of Silica Gel”, Chemistry Letters, 3, 228-229 (2000)に記載の方法で行うことができる。具体的には、光反応性2-ニトロベンジルエステルを含むシランカップリング剤をコロイダルシリカにカップリングさせた後に光照射することにより、カルボン酸が表面に固定化されたコロイダルシリカを得ることができる。
【0025】
本発明の研磨用組成物において、砥粒は、シラノール基数が0個/nmを超えて4個/nm以下であるシリカ粒子以外の砥粒(以下、他の砥粒)を含んでいてもよい。本発明の研磨用組成物に含まれる他の砥粒の種類としては、特に制限されず、例えば、シラノール基数が0個/nmを超えて4個/nm以下であるシリカ粒子以外のシリカ、アルミナ、ジルコニア、チタニア等の酸化物が挙げられる。他の砥粒は、単独でもまたは2種以上組み合わせても用いることができる。他の砥粒は、それぞれ市販品を用いてもよいし合成品を用いてもよい。
【0026】
なお、以下の説明では、「砥粒」と称する場合、すなわち、シリカ粒子と特記しない限り、シラノール基数が0個/nmを超えて4個/nm以下であるシリカ粒子および他の砥粒を特に区別なく指すものとする。
【0027】
本発明の研磨用組成物において、シリカ粒子は、負のゼータ電位を有するのが好ましい。ここで、「ゼータ(ζ)電位」とは、互いに接している固体と液体とが相対運動を行なったときの両者の界面に生じる電位差のことである。本発明の研磨用組成物においては、砥粒が負の電荷を有することによって研磨対象物に対する研磨速度を向上させることができる。シリカ粒子のゼータ電位は、-80mV以上-10mV以下であるのが好ましく、-70mV以上-15mV以下であるのがより好ましく、-65mV以上-20mV以下であるのがさらに好ましく、-60mV以上-25mV以下であるのが特に好ましい。シリカ粒子がこのような範囲のゼータ電位を有していることにより、本発明の所期の効果を効率よく奏することができる。
【0028】
研磨用組成物中の砥粒のゼータ電位は、研磨用組成物を大塚電子株式会社製ELS-Z2に供し、測定温度25℃でフローセルを用いてレーザードップラー法(電気泳動光散乱測定法)で測定し、得られるデータをSmoluchowskiの式で解析することにより、算出する。
【0029】
シリカ粒子の平均一次粒子径の下限は、5nm以上が好ましく、7nm以上がより好ましく、10nm以上がさらに好ましく、15nm以上が特に好ましく、20nm以上が最も好ましい。シリカ粒子の平均一次粒子径の上限は、300nm以下が好ましく、250nm以下がより好ましく、200nm以下がさらに好ましく、180nm以下が特に好ましく、150nm以下であるのが最も好ましい。このような範囲であれば、本発明の所期の効果を効率よく奏することができる。
【0030】
砥粒の平均一次粒子径の値はBET法を用いて測定された比表面積に基づいて、算出することができる。
【0031】
シリカ粒子の平均二次粒子径の下限は、10nm以上であることが好ましく、20nm以上であることがより好ましく、30nm以上であることがさらに好ましく、40nm以上であることが特に好ましく、50nm以上であることが最も好ましい。また、シリカ粒子の平均二次粒子径の上限は、200nm以下が好ましく、180nm以下がより好ましく、150nm以下がさらに好ましく、100nm以下が特に好ましく、80nm以下が最も好ましい。すなわち、シリカ粒子の平均二次粒子径は、好ましくは10nm以上200nm以下、より好ましくは20nm以上180nm以下、さらに好ましくは30nm以上150nm以下、特に好ましくは40nm以上100nm以下、最も好ましくは10nm以上250nm以下である。このような範囲であれば、本発明の所期の効果を効率よく奏することができる。
【0032】
なお、砥粒の平均二次粒子径は、例えば、レーザー回折散乱法に代表される動的光散乱法により測定することができる。すなわち、砥粒の平均二次粒子径は、レーザー回折散乱法により求められる砥粒の粒度分布において、微粒子側から積算粒子質量が全粒子質量の50%に達するときの粒子の直径D50に相当する。
【0033】
砥粒の平均会合度は、4.0以下であることが好ましく、3.0以下であることがより好ましく、2.5以下であることがさらに好ましい。砥粒の平均会合度が小さくなるにつれて、研磨対象物表面の欠陥発生をより低減することができる。また、砥粒の平均会合度は、1.5以上であることが好ましく、1.8以上であることがより好ましい。砥粒の平均会合度が大きくなるにつれて、研磨用組成物による研磨速度が向上する利点がある。なお、砥粒の平均会合度は、砥粒の平均二次粒子径の値を平均一次粒子径の値で除することにより得られる。
【0034】
砥粒の大きさ(平均一次粒子径、平均二次粒子径等)は、砥粒の製造方法の選択等により適切に制御することができる。
【0035】
本発明の一実施形態による研磨用組成物中の砥粒の含有量(濃度)の下限は、研磨用組成物に対して、0.2質量%以上であることが好ましく、0.3質量%以上であることがより好ましく、0.5質量%以上であることがさらに好ましい。また、本発明の研磨用組成物中、砥粒の含有量の上限は、研磨用組成物に対して、20質量%以下であることが好ましく、15質量%以下であることがより好ましく、10質量%以下であることがさらに好ましく、5質量%以下であることがよりさらに好ましい。このような範囲であると、研磨速度をより向上させることができる。なお、研磨用組成物が2種以上の砥粒を含む場合には、砥粒の含有量はこれらの合計量を意味する。
【0036】
[アルカリ化合物]
本発明の研磨用組成物は、一実施形態において、アルカリ化合物を含む。アルカリ化合物は、本発明の研磨用組成物において、pHの調整と電気伝導度の調整との作用を有する。アルカリ化合物としては、例えば、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム等のアルカリ金属の水酸化物;炭酸ナトリウム、炭酸カリウムなどの炭酸塩;エチレンジアミン、ジグリコールアミン、ピペラジン、アミノエチルピペラジンなどのアミン;アンモニア;が挙げられる。アルカリ化合物は、単独でもまたは2種以上混合しても用いることができる。これらアルカリ化合物を使用することにより、研磨対象物に含まれる多結晶シリコンおよび酸化ケイ素が溶解しやすいアルカリ領域にpHを調整できる。また、これらアルカリ化合物を使用することにより、研磨用組成物の電気伝導度を砥粒およびウェハー(多結晶シリコン膜または酸化ケイ素膜)の界面に生じる電気二重層を圧縮し、両者間の静電反発が生じ始める領域を小さくするような範囲に調整できる。これにより砥粒がウェハーに接近しやすくなり、研磨速度が向上する。アルカリ化合物は研磨中に砥粒表面や研磨対象物表面へほとんど吸着せず、大半が分散媒中に溶解しているため、多結晶シリコン膜および酸化ケイ素膜の研磨を阻害することがほとんどないかまたはない。よって、本発明に係るアルカリ化合物を含む研磨用組成物によれば、効率的な研磨が実現でき、本発明の所期の効果を効率よく奏することができる。
【0037】
本発明において、pH調整と電気伝導度の調整との観点から、アルカリ化合物として、水酸化カリウムを用いることが好ましい。また、電気伝導度の観点から、アルカリ化合物として、炭酸カリウムを含むことが好ましい。研磨速度の観点から、アルカリ化合物として、ジグリコールアミン、アミノエチルピペラジン、アンモニアを含むことが好ましい。よって、好ましい実施形態としては、アルカリ化合物として、炭酸カリウム、ジグリコールアミン、アミノエチルピペラジンおよびアンモニアからなる群より選択される1種以上を含むことが好ましい。
【0038】
また、アルカリ化合物として、ジグリコールアミン、アミノエチルピペラジンおよびアンモニアからなる群より選択される1種以上を含むことにより、多結晶シリコン膜および酸化ケイ素膜の研磨速度をより一層向上することができる。
【0039】
一実施形態において、アルカリ化合物は、水酸化カリウム、炭酸カリウム、ジグリコールアミン、アミノエチルピペラジンおよびアンモニアからなる群より選択される1種以上である。また、一実施形態において、アルカリ化合物は、水酸化カリウムと;炭酸カリウム、ジグリコールアミン、アミノエチルピペラジンおよびアンモニアからなる群より選択される1種以上と;を含む。一実施形態において、アルカリ化合物は、水酸化カリウムと;アミノエチルピペラジンおよびジグリコールアミンからなる群より選択される1種以上と;を含む。研磨用組成物がこのようなアルカリ化合物を含むことにより、本発明の所期の効果を効率よく奏することができる。
【0040】
アルカリ化合物の含有量(濃度)は特に制限されず、研磨用組成物が所望のpHおよび電気伝導度となるよう適宜、含有量を調整することができる。例えば、アルカリ化合物の含有量は、研磨用組成物の総質量に対して、0.01質量%以上であることが好ましく、0.05質量%以上であることがより好ましく、0.15質量%以上であることがさらに好ましい。また、アルカリ化合物の含有量の上限は、研磨用組成物の総質量に対して、10質量%以下であることが好ましく、5質量%以下であることがより好ましく、2質量%以下であることがさらに好ましい。なお、研磨用組成物が2種以上のアルカリ化合物を含む場合には、アルカリ化合物の含有量は、これらの合計量を意図する。
【0041】
[電気伝導度]
本発明の研磨用組成物の電気伝導度は、0.5mS/cm以上10mS/cm以下である。本発明の研磨用組成物の電気伝導度は、一実施形態において、3mS/cm以上8mS/cm以下である。研磨用組成物の電気伝導度が0.5mS/cm未満であると、砥粒およびウェハー(多結晶シリコン膜または酸化ケイ素膜)の界面に生じる電気二重層が大きくなり、静電反発が生じる範囲が広くなる。これにより、トータルの静電反発が増加し、砥粒がウェハーに接近しにくくなり、研磨速度が低下してしまう。一方、研磨用組成物の電気伝導度が10mS/cmを超えると、砥粒間の静電反発が小さくなり砥粒が凝集するため、保管安定性に問題が生じる。
【0042】
研磨用組成物の電気伝導度の下限は、好ましくは1mS/cm以上であり、より好ましくは2mS/cm以上であり、さらに好ましくは3mS/cm以上であり、特に好ましくは4mS/cm以上であり、最も好ましくは4.5mS/cm以上である。また、本発明の研磨用組成物の電気伝導度の上限は、好ましくは9mS/cm以下であり、より好ましくは8mS/cm以下であり、さらに好ましくは7.5mS/cm以下であり、特に好ましくは7mS/cm以下であり、最も好ましくは6mS/cm以下である。すなわち、本発明の研磨用組成物の電気伝導度は、好ましくは1mS/cm以上9mS/cm以下であり、より好ましくは2mS/cm以上8mS/cm以下であり、さらに好ましくは3mS/cm以上7.5mS/cm以下であり、特に好ましくは4mS/cm以上7mS/cm以下であり、最も好ましくは4.5mS/cm以上6mS/cm以下である。研磨用組成物の電気伝導度が上記範囲であることにより、本発明の所期の効果を効率よく奏することができる。なお、研磨用組成物の電気伝導度は、卓上型電気伝導度計(株式会社堀場製作所製、型番:DS-71)により測定される値である。
【0043】
[pHおよびpH調整剤]
本発明の研磨用組成物のpHは10以上12以下である。研磨用組成物のpHが10未満となると、研磨対象物である多結晶シリコン膜と酸化ケイ素膜との研磨速度を向上させることができず、本発明の所期の効果が発揮されない。本発明の研磨用組成物のpHは10以上であればよいが、好ましくはpH10.5以上であり、より好ましくはpH10.9以上であり、さらに好ましくはpH11以上であり、さらにより好ましくはpH11を超えることであり、特に好ましくはpH11.1以上であり、最も好ましくはpH11.2以上である。研磨用組成物のpHが12を超えると、研磨対象物である多結晶シリコン膜と酸化ケイ素膜とに対して過研磨が生じ、多結晶シリコン膜の研磨速度の選択比が低下する。本発明の研磨用組成物のpHは12以下であればよいが、好ましくはpH12未満であり、より好ましくはpH11.9以下であり、さらに好ましくはpH11.9未満であり、さらにより好ましくはpH11.8以下であり、特に好ましくはpH11.7以下であり、最も好ましくはpH11.6以下である。
【0044】
なお、研磨用組成物のpHは、例えばpHメータにより測定することができる。具体的には、pHメータ(例えば、株式会社堀場製作所製、型番:LAQUA)等を使用し、標準緩衝液(フタル酸塩pH緩衝液pH:4.01(25℃)、中性リン酸塩pH緩衝液pH:6.86(25℃)、炭酸塩pH緩衝液pH:10.01(25℃))を用いて3点校正した後で、ガラス電極を研磨用組成物に入れて、2分以上経過して安定した後の値を測定することにより、研磨用組成物のpHを測定することができる。
【0045】
本発明の研磨用組成物は、砥粒、アルカリ化合物、および分散媒を必須成分とするが、これらのみによって所望のpHを得ることが難しい場合は、本発明の効果を阻害しない範囲内において、pH調整剤を添加してpHを調整してもよい。
【0046】
pH調整剤は、上記アルカリ化合物以外の塩基、無機酸、有機酸であってよく、これらは1種単独でもまたは2種以上を組み合わせて使ってもよい。
【0047】
pH調整剤として使用できる塩基の具体例としては、上記のアルカリ化合物以外の化合物が挙げられ、例えば、水酸化第四級アンモニウムまたはその塩等が挙げられる。塩の具体例としては、硫酸塩、酢酸塩等が挙げられる。
【0048】
pH調整剤として使用できる無機酸の具体例としては、例えば、塩酸、硫酸、硝酸、フッ酸、ホウ酸、炭酸、次亜リン酸、亜リン酸およびリン酸が挙げられる。なかでも好ましいのは、塩酸、硫酸、硝酸またはリン酸である。
【0049】
pH調整剤として使用できる有機酸の具体例としては、例えば、ギ酸、酢酸、プロピオン酸、酪酸、吉草酸、2-メチル酪酸、n-ヘキサン酸、3,3-ジメチル酪酸、2-エチル酪酸、4-メチルペンタン酸、n-ヘプタン酸、2-メチルヘキサン酸、n-オクタン酸、2-エチルヘキサン酸、安息香酸、グリコール酸、サリチル酸、グリセリン酸、シュウ酸、マロン酸、コハク酸、グルタル酸、アジピン酸、ピメリン酸、マレイン酸、フタル酸、リンゴ酸、酒石酸、クエン酸、乳酸、ジグリコール酸、2-フランカルボン酸、2,5-フランジカルボン酸、3-フランカルボン酸、2-テトラヒドロフランカルボン酸、メトキシ酢酸、メトキシフェニル酢酸およびフェノキシ酢酸が挙げられる。メタンスルホン酸、エタンスルホン酸およびイセチオン酸等の有機硫酸を使用してもよい。なかでも好ましいのは、マロン酸、コハク酸、グルタル酸、アジピン酸、ピメリン酸、マレイン酸、フタル酸、リンゴ酸および酒石酸のようなジカルボン酸、ならびにクエン酸のようなトリカルボン酸である。
【0050】
無機酸または有機酸の代わりにあるいは無機酸または有機酸と組み合わせて、無機酸または有機酸のアルカリ金属塩等の塩をpH調整剤として用いてもよい。弱酸と強塩基、強酸と弱塩基、または弱酸と弱塩基の組み合わせの場合には、pHの緩衝作用を期待することができる。
【0051】
pH調整剤の添加量は、特に制限されず、研磨用組成物が所望のpHとなるように適宜調整すればよい。
【0052】
[分散媒]
本発明の研磨用組成物は、各成分を分散するための分散媒を含む。分散媒としては、水;メタノール、エタノール、エチレングリコール等のアルコール類;アセトン等のケトン類等や、これらの混合物などが例示できる。これらのうち、分散媒としては水が好ましい。すなわち、本発明の好ましい形態によると、分散媒は水を含む。本発明のより好ましい形態によると、分散媒は実質的に水からなる。なお、上記の「実質的に」とは、本発明の目的効果が達成され得る限りにおいて、水以外の分散媒が含まれ得ることを意図し、より具体的には、好ましくは90質量%以上100質量%以下の水と0質量%以上10質量%以下の水以外の分散媒とからなり、より好ましくは99質量%以上100質量%以下の水と0質量%以上1質量%以下の水以外の分散媒とからなる。最も好ましくは、分散媒は水である。
【0053】
研磨用組成物に含まれる成分の作用を阻害しないようにするという観点から、分散媒としては、不純物をできる限り含有しない水が好ましく、具体的には、イオン交換樹脂にて不純物イオンを除去した後、フィルタを通して異物を除去した純水や超純水、または蒸留水がより好ましい。
【0054】
[その他の成分]
本発明の研磨用組成物は、本発明の効果が著しく妨げられない範囲で、錯化剤、防腐剤、防カビ剤等の、研磨用組成物に用いられ得る公知の添加剤を、必要に応じてさらに含有してもよい。ただし、本発明の実施形態によれば、研磨用組成物は、酸化剤を実質的に含まない。かかる実施形態によって、多結晶シリコン膜と、酸化ケイ素膜(好ましくはTEOS膜)とを含む研磨対象物を研磨した場合であっても、多結晶シリコン膜および酸化ケイ素膜を高い研磨速度で研磨することができ、かつ多結晶シリコン膜の研磨速度の選択比(酸化ケイ素膜の研磨速度に対する多結晶シリコン膜の研磨速度の比)が高い。なお、「実質的に含まない」とは、研磨用組成物中に全く含まない概念の他、研磨用組成物中に、0.1質量%以下含む場合を含む。
【0055】
[研磨用組成物の製造方法]
本発明の研磨用組成物の製造方法は、特に制限されず、例えば、砥粒、および必要に応じて他の成分を、分散媒(例えば、水)中で攪拌混合することにより得ることができる。各成分の詳細は上述した通りである。
【0056】
各成分を混合する際の温度は特に制限されないが、10℃以上40℃以下が好ましく、溶解速度を上げるために加熱してもよい。また、混合時間も、均一混合できれば特に制限されない。
【0057】
[研磨方法および半導体基板の製造方法]
上述のように、本発明の研磨用組成物は、多結晶シリコン膜および酸化ケイ素膜を含む研磨対象物の研磨に好適に用いられる。よって、本発明は、多結晶シリコン膜および酸化ケイ素膜を含む研磨対象物を、本発明の研磨用組成物で研磨する研磨方法を提供する。すなわち、本発明には、本発明の研磨用組成物を用いて、多結晶シリコン膜および酸化ケイ素膜を含む研磨対象物を研磨する工程を含む、研磨方法が包含される。また、本発明は、多結晶シリコン膜および酸化ケイ素膜を含む半導体基板を前記研磨方法で研磨する工程を含む半導体基板の製造方法を提供する。
【0058】
研磨装置としては、研磨対象物を有する基板等を保持するホルダーと回転数を変更可能なモータ等とが取り付けてあり、研磨パッド(研磨布)を貼り付け可能な研磨定盤を有する一般的な研磨装置を使用することができる。
【0059】
研磨パッドとしては、一般的な不織布、ポリウレタン、および多孔質フッ素樹脂等を特に制限なく使用することができる。研磨パッドには、研磨液が溜まるような溝加工が施されていることが好ましい。
【0060】
研磨条件については、例えば、研磨定盤の回転速度は、10rpm(0.17s-1)以上500rpm(8.3s-1)以下が好ましい。研磨対象物を有する基板にかける圧力(研磨圧力)は、0.5psi(3.4kPa)以上10psi(68.9kPa)以下が好ましい。研磨パッドに研磨用組成物を供給する方法も特に制限されず、例えば、ポンプ等で連続的に供給する方法が採用される。この供給量に制限はないが、研磨パッドの表面が常に本発明の研磨用組成物で覆われていることが好ましい。
【0061】
研磨終了後、基板を流水中で洗浄し、スピンドライヤ等により基板上に付着した水滴を払い落として乾燥させることにより、金属を含む層を有する基板が得られる。
【0062】
本発明の研磨用組成物は一液型であってもよいし、二液型をはじめとする多液型であってもよい。また、本発明の研磨用組成物は、研磨用組成物の原液を水などの希釈液を使って、例えば10倍以上に希釈することによって調製されてもよい。
【0063】
[多結晶シリコン膜およびシリコン酸化膜を高い研磨速度で研磨しつつ、かつ多結晶シリコン膜の研磨速度の選択比を高くする方法]
本発明によれば、多結晶シリコン膜および酸化ケイ素膜を高い研磨速度で研磨することができ、かつ多結晶シリコンの研磨速度の選択比が高くする方法も提供される。前記研磨用組成物の具体的な説明は、上記の説明が適用される。
【0064】
[研磨速度]
本発明において、多結晶シリコン膜の研磨速度は、好ましくは2000Å/min以上7000Å/min以下であり、より好ましくは2200Å/min以上6800Å/min以下であり、さらに好ましくは2500Å/min以上6500Å/min以下であり、特に好ましくは3000Å/min以上6000Å/min以下である。酸化ケイ素膜(TEOS膜)の研磨速度は、好ましくは35Å/min以上500Å/min以下であり、より好ましくは50Å/min以上300Å/min以下であり、さらに好ましくは80Å/min以上250Å/min以下であり、特に好ましくは100Å/min以上200Å/min以下である。
【0065】
[選択比]
多結晶シリコン膜(poly-Si)の研磨速度(Å/min)を酸化ケイ素膜(TEOS)の研磨速度(Å/min)で除した値を算出して、選択比とすると、本発明において、選択比(poly-Si/TEOS)は、10以上50以上が好ましく、11以上45以下がより好ましく、15以上40以上であることがさらに好ましい。
【実施例
【0066】
本発明を、以下の実施例および比較例を用いてさらに詳細に説明する。ただし、本発明の技術的範囲が以下の実施例のみに制限されるわけではない。なお、特記しない限り、「%」および「部」は、それぞれ、「質量%」および「質量部」を意味する。また、下記実施例において、特記しない限り、操作は室温(20~25℃)/相対湿度40~50%RHの条件下で行われた。
【0067】
[砥粒の調製]
(シリカ粒子の調製)
シリカ粒子として、表1に記載のシラノール基密度を有するシリカ粒子を準備した。すなわち、シリカ粒子は、例えば、シリカを、120~200℃の環境下に、30分以上保持して焼成が行われることにより、シリカ粒子表面のシラノール基数を、0個/nmを超えて4個/nm以下等の所望の数値に調整した。
・シリカ粒子a:シラノール基密度1.6個/nm、平均一次粒子径:30nm、平均二次粒子径:70nm、平均会合度:2.3
・シリカ粒子b:シラノール基密度3.5個/nm、平均一次粒子径:30nm、平均二次粒子径:70nm、平均会合度:2.3
・シリカ粒子c:シラノール基密度5.7個/nm、平均一次粒子径:35nm、平均二次粒子径:70nm、平均会合度:2
なお、シリカ粒子のシラノール基密度(単位:個/nm)は、以下の測定方法および計算方法により、各パラメータを測定および算出した後、下記の方法により算出した。
【0068】
[シラノール基密度の算出方法]
シリカ粒子のシラノール基密度は、G.W.シアーズによる Analytical Chemistry, vol.28, No.12, 1956, 1982~1983に記載された中和滴定を用いたシアーズ法により算出した。
【0069】
より具体的には、シリカ粒子のシラノール基密度は、シリカ粒子のそれぞれを測定サンプルとして、上記の方法による滴定を行い、下記式1により算出した。
【0070】
ρ=(c×V×N×10-21)/(C×S)・・・式1
上記式1中、
ρは、シラノール基密度(個/nm)を表し;
cは、滴定に用いた水酸化ナトリウム溶液の濃度(mol/L)を表し;
Vは、pHを4.0から9.0に上げるのに要した水酸化ナトリウム溶液の容量(L)を表し;
は、アボガドロ定数(個/mol)を表し;
Sは、シリカ粒子のBET比表面積(nm/g)を表す。
【0071】
[シリカ粒子の粒子径]
砥粒(シリカ粒子)の平均一次粒子径は、マイクロメリテックス社製の“Flow SorbII 2300”を用いて測定されたBET法による砥粒の比表面積と、砥粒の密度とから算出した。また、砥粒(シリカ粒子)の平均二次粒子径は、日機装株式会社製 動的光散乱式粒子径・粒度分布装置 UPA-UTI151により測定した。
【0072】
[研磨用組成物の調製]
(実施例1)
砥粒として上記で得られたシリカ粒子a(シラノール基密度1.6個/nm、平均一次粒子径:30nm、平均二次粒子径:70nm、平均会合度:2.3を2質量%、アルカリ化合物としてアミノエチルピペラジンを0.1質量%の最終濃度となるように、それぞれ分散媒である純水に室温(25℃)で加え、混合液を得た。
【0073】
その後、pHを調整するために、混合液にアルカリ化合物として水酸化カリウムを、pHが11.3となるように添加し、室温(25℃)で30分攪拌混合し、研磨用組成物を調製した。研磨用組成物(液温:25℃)のpHは、pHメータ(株式会社堀場製作所製 型番:LAQUA)により確認した。
【0074】
[シリカ粒子の粒子径]
得られた研磨用組成物中の砥粒の粒子径(平均一次粒子径、平均二次粒子径)は、粉末状の砥粒の粒子径と同様であった。なお、粒子径の測定方法は、上記した測定方法と同じである。
【0075】
[ゼータ電位]
研磨用組成物中の砥粒(シリカ粒子)のゼータ電位については、大塚電子株式会社製のゼータ電位測定装置(機器名「ELS-Z2」)を用いて行った。
【0076】
[電気伝導度]
研磨用組成物(液温:25℃)の電気伝導度(単位:mS/cm)は、卓上型電気伝導率計(株式会社堀場製作所製、型番:DS-71)を用いて測定した。
【0077】
(実施例2~9、比較例1~3)
シリカ粒子の種類、アルカリ化合物の種類と含有量(pHおよび電気伝導度)を下記表1のように変更したこと以外は、実施例1と同様にして、実施例2~9、比較例1~3の各研磨用組成物を調製した。なお、下記表1において「-」と表示されているものは、その剤を含んでいないことを示す。得られた各研磨用組成物のpHおよび電気伝導度、各研磨用組成物中の砥粒(シリカ粒子)の平均二次粒子径、ゼータ電位は、下記表1に示す。なお、得られた研磨用組成物中の砥粒の粒子径(平均一次粒子径、平均二次粒子径)は、粉末状の砥粒の粒子径と同様であった。
【0078】
表1において、シリカ粒子における「粒子径」は平均二次粒子径を表し、アルカリ化合物の欄における「AEP」はアミノエチルピペラジンを表し、「DGA」はジグリコールアミンを表し、「EC」は電気伝導度を表す。研磨速度の欄における「poly-Si」は多結晶シリコン膜を表す。選択比の欄における「poly-Si/TEOS」はTEOS膜に対する多結晶シリコン膜の選択比を表し、多結晶シリコン膜の研磨速度をTEOS膜の研磨速度で除することにより算出される。
【0079】
[研磨速度の評価]
上記で得られた各研磨用組成物を用いて、下記の研磨対象物に対して、以下の研磨条件で研磨した際の研磨速度を測定した。
【0080】
(研磨装置および研磨条件)
研磨装置:日本エンギス株式会社製 ラッピングマシーン EJ-380IN-CH
研磨パッド:ニッタ・デュポン株式会社製 硬質ポリウレタンパッド IC1010
研磨圧力:3.0psi(1psi=6894.76Pa)
研磨定盤回転数:60rpm
ヘッド(キャリア)回転数:60rpm
研磨用組成物の供給:掛け流し
研磨用組成物供給量:100mL/分
研磨時間:60秒。
【0081】
(研磨対象物)
研磨対象物として、表面に厚さ5000Åの多結晶シリコン膜を有する300mmブランケットウェーハを準備した。また、研磨対象物として、表面に厚さ500ÅのTEOS膜を形成したシリコンウェーハ(300mm、ブランケットウェーハ、株式会社アドバンテック製)を準備した。その後、ウェーハを30mm×30mmのチップに切断したクーポンを試験片とし、研磨試験を実施した。試験に用いた研磨対象物の詳細を下記に示す。
【0082】
(研磨速度)
研磨速度(Removal Rate;RR)は、以下の式により計算した。
【0083】
【数1】
【0084】
膜厚は、光干渉式膜厚測定装置(大日本スクリーン製造株式会社製、型番:ラムダエースVM-2030)によって求めて、研磨前後の膜厚の差を研磨時間で除することにより研磨速度を評価した。
【0085】
多結晶シリコン膜およびTEOS膜に対する研磨速度の評価結果を下記表1に示す。
【0086】
【表1】
【0087】
表1に示すように、実施例1~9の研磨用組成物を用いた場合、多結晶シリコン膜に対する研磨速度は2000Å/minを超え、TEOS膜に対する研磨速度は100Å/min以上であり、比較例1~3の研磨用組成物に比べて、高い研磨速度で研磨できることがわかった。また、実施例1~9の研磨用組成物を用いた場合、多結晶シリコン膜に対する研磨速度の選択比が10以上50以下であり、多結晶シリコン膜およびTEOS膜を高い研磨速度で研磨することができ、かつ多結晶シリコン膜を高い選択比で研磨できることがわかった。
【0088】
このことから、研磨用組成物が、特定の範囲のpHおよび電気伝導度を有し、特定のシラノール基密度を有するシリカ粒子を含むことにより、多結晶シリコン膜およびTEOS膜を高い研磨速度で研磨することができ、かつ多結晶シリコン膜を高い選択比で研磨できることがわかる。