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特許7663680積層構造体、半導体装置及び積層構造体の製造方法
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  • 特許-積層構造体、半導体装置及び積層構造体の製造方法 図1
  • 特許-積層構造体、半導体装置及び積層構造体の製造方法 図2
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2025-04-08
(45)【発行日】2025-04-16
(54)【発明の名称】積層構造体、半導体装置及び積層構造体の製造方法
(51)【国際特許分類】
   C30B 29/16 20060101AFI20250409BHJP
   C30B 25/18 20060101ALI20250409BHJP
   C23C 16/448 20060101ALI20250409BHJP
   C23C 16/40 20060101ALI20250409BHJP
   H01L 21/205 20060101ALI20250409BHJP
   H01L 21/208 20060101ALI20250409BHJP
   H01L 21/365 20060101ALI20250409BHJP
【FI】
C30B29/16
C30B25/18
C23C16/448
C23C16/40
H01L21/205
H01L21/208 Z
H01L21/365
【請求項の数】 17
(21)【出願番号】P 2023517200
(86)(22)【出願日】2022-03-30
(86)【国際出願番号】 JP2022015911
(87)【国際公開番号】W WO2022230577
(87)【国際公開日】2022-11-03
【審査請求日】2023-10-18
(31)【優先権主張番号】P 2021076657
(32)【優先日】2021-04-28
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000002060
【氏名又は名称】信越化学工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100102532
【弁理士】
【氏名又は名称】好宮 幹夫
(74)【代理人】
【識別番号】100194881
【弁理士】
【氏名又は名称】小林 俊弘
(74)【代理人】
【識別番号】100215142
【弁理士】
【氏名又は名称】大塚 徹
(72)【発明者】
【氏名】渡部 武紀
(72)【発明者】
【氏名】橋上 洋
(72)【発明者】
【氏名】坂爪 崇寛
【審査官】末松 佳記
(56)【参考文献】
【文献】特開2015-039033(JP,A)
【文献】特開2021-024184(JP,A)
【文献】特開2013-028480(JP,A)
【文献】特開2015-199649(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C30B 1/00-35/00
C23C 16/00-16/56
H01L 21/205
H01L 21/208
H01L 21/365
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
積層構造体であって、下地基板と、酸化ガリウムを主成分とする結晶性酸化物膜とを有し、前記結晶性酸化物膜の表面の二乗平均平方根粗さが0.2μm以下であり、前記下地基板の直径が50mm以上であり、前記下地基板のTTVが30μm以下であることを特徴とする積層構造体。
【請求項2】
前記結晶性酸化物膜は単結晶または一軸配向した膜であることを特徴とする請求項1に記載の積層構造体。
【請求項3】
前記下地基板の厚さが100~5000μmのものであることを特徴とする請求項1または請求項2に記載の積層構造体。
【請求項4】
前記結晶性酸化物膜の膜厚が1~100μmのものであることを特徴とする請求項1から請求項3のいずれか1項に記載の積層構造体。
【請求項5】
前記下地基板が単結晶のものであることを特徴とする請求項1から請求項4のいずれか1項に記載の積層構造体。
【請求項6】
前記下地基板がサファイア基板、タンタル酸リチウム基板またはニオブ酸リチウム基板のいずれかのものであることを特徴とする請求項1から請求項5のいずれか1項に記載の積層構造体。
【請求項7】
前記積層構造体の結晶性酸化物膜を有する面と反対側の面の表面粗さRaが0.5μm以下のものであることを特徴とする請求項1から請求項6のいずれか1項に記載の積層構造体。
【請求項8】
前記積層構造体の結晶性酸化物膜を有する面と反対側の面のうねりWaが50μm以下のものであることを特徴とする請求項1から請求項7のいずれか1項に記載の積層構造体。
【請求項9】
請求項1から請求項8のいずれか1項に記載の積層構造体を含むものであることを特徴とする半導体装置。
【請求項10】
積層構造体の製造方法であって、
ミスト化部において、ガリウムを含む原料溶液をミスト化してミストを発生させるミスト発生工程と、
前記ミストを搬送するためのキャリアガスを前記ミスト化部に供給するキャリアガス供給工程と、
前記ミスト化部と成膜室とを接続する供給管を介して、前記ミスト化部から下地基板が設置された前記成膜室へと、前記ミストを前記キャリアガスにより搬送する搬送工程と、
前記搬送されたミストを熱処理して前記下地基板上に成膜を行う成膜工程と
を含み、
前記下地基板として直径が50mm以上、TTVが30μm以下のものを用いることを特徴とする積層構造体の製造方法。
【請求項11】
前記下地基板として厚さが100~5000μmのものを用いることを特徴とする請求項10に記載の積層構造体の製造方法。
【請求項12】
前記下地基板として単結晶のものを用いることを特徴とする請求項10または請求項11に記載の積層構造体の製造方法。
【請求項13】
前記下地基板としてサファイア基板、タンタル酸リチウム基板またはニオブ酸リチウム基板のいずれかのものを用いることを特徴とする請求項10から請求項12のいずれか1項に記載の積層構造体の製造方法。
【請求項14】
前記下地基板の成膜面と反対側の面の表面粗さRaを0.5μm以下とすることを特徴とする請求項10から請求項13のいずれか1項に記載の積層構造体の製造方法。
【請求項15】
前記下地基板の成膜面と反対側の面のうねりWaを50μm以下とすることを特徴とする請求項10から請求項14のいずれか1項に記載の積層構造体の製造方法。
【請求項16】
前記成膜工程においては、前記下地基板はステージに載置されており、前記ステージにおける前記下地基板との接触面の表面粗さRaを0.5μm以下とすることを特徴とする請求項10から請求項15のいずれか1項に記載の積層構造体の製造方法。
【請求項17】
前記成膜工程においては、前記下地基板はステージに載置されており、前記ステージにおける前記下地基板との接触面のうねりWaを50μm以下とすることを特徴とする請求項10から請求項16のいずれか1項に記載の積層構造体の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、積層構造体、半導体装置及び積層構造体の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
被成膜試料上に結晶性の高い酸化ガリウム系薄膜を形成する方法として、ミストCVD法等の水微粒子を用いた成膜手法が知られている(特許文献1)。この方法では、ガリウムアセチルアセトナートなどのガリウム化合物を塩酸などの酸に溶解して原料溶液を作成し、この原料溶液を微粒子化することによって原料微粒子を生成し、この原料微粒子をキャリアガスによって被成膜試料の成膜面に供給し、原料微粒子を反応させて成膜面上に薄膜を形成することによって、被成膜試料上に結晶性の高い酸化ガリウム系薄膜を形成している。
【0003】
酸化ガリウム系薄膜を用いて半導体デバイスを形成するためには、酸化ガリウム系薄膜の導電性の制御が必須であり、特許文献1及び非特許文献1では、α-酸化ガリウム薄膜に不純物のドーピングを行う技術が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2013-028480号公報
【文献】特開2015-199649号公報
【非特許文献】
【0005】
【文献】Electrical Conductive Corundum-Structured α-Ga2O3 Thin Films on Sapphire with Tin-Doping Grown by Spray-Assisted Mist Chemical Vapor Deposition(Japanese Journal of Applied Physics 51(2012)070203)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
特許文献1及び非特許文献1の方法によれば、導電性に優れたα-酸化ガリウム(以下、「α-Ga」ということもある)薄膜を形成することができるが、膜表面が平滑ではないといった特有の問題があり、半導体装置に用いるには、まだまだ満足のいくものではなかった。また、膜表面を平滑にするため、エッチング等の表面処理を行うことも考えられるが、この場合、薄膜が削られてしまったり、半導体特性が損なわれたりするなどの問題があった。
【0007】
この問題に対し、特許文献2は平均粗さ(Ra)を低減する方法を開示している。しかしながら、この方法を用いても表面の平坦性は十分とは言えず、得られた膜を用いた半導体装置特性も満足のいくものではなかった。
【0008】
本発明は、上記問題を解決するためになされたものであり、表面が平滑な結晶性酸化物膜を含む積層構造体を提供すること、及び、前記積層構造体の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明は、上記目的を達成するためになされたものであり、積層構造体であって、下地基板と、酸化ガリウムを主成分とする結晶性酸化物膜とを有し、前記結晶性酸化物膜の表面の二乗平均平方根粗さが0.2μm以下であり、前記下地基板の直径が50mm以上であり、前記下地基板のTTVが30μm以下である積層構造体を提供する。
【0010】
このような積層構造体は、表面が平滑な結晶性酸化物膜を有し、半導体装置に適用した場合に半導体特性は優れたものとなる。
【0011】
また、本発明では、前記結晶性酸化物膜は単結晶または一軸配向した膜としてもよい。
【0012】
これにより、半導体装置に適用した場合に半導体特性が優れたものとなる。
【0013】
また、本発明では、前記下地基板の厚さが100~5000μmのものであることが好ましい。
【0014】
これにより、表面がより平滑なものとなり、半導体装置に適用した場合に半導体特性がより優れた積層構造体とすることができる。
【0015】
また、本発明では、前記結晶性酸化物膜の膜厚が1~100μmであってもよい。
【0016】
これにより、半導体装置に適用した場合に半導体特性がより優れたものとなる。
【0017】
また、本発明では、前記下地基板が単結晶のものであることが好ましい。
【0018】
これにより、結晶性にもより優れた酸化ガリウム膜を有する積層構造体とすることができる。
【0019】
また、本発明では、前記下地基板がサファイア基板、タンタル酸リチウム基板またはニオブ酸リチウム基板のいずれかのものであることが好ましい。
【0020】
これにより、表面がより平滑で結晶性にもより優れた酸化ガリウム膜を有する積層構造体とすることができる。
【0021】
また、本発明では、前記積層構造体の結晶性酸化物膜を有する面と反対側の面の表面粗さRaが0.5μm以下であってもよい。
【0022】
このような積層構造体は、高品質かつ半導体膜装置の製造に適した積層構造体である。
【0023】
また、本発明では、前記積層構造体の結晶性酸化物膜を有する面と反対側の面のうねりWaが50μm以下であってもよい。
【0024】
このような積層構造体は、さらに高品質であり半導体膜装置の製造に適した積層構造体である。
【0025】
また、本発明では、上記記載の積層構造体を含むものである半導体装置を提供する。
【0026】
これにより、より優れた特性を有する半導体装置となる。
【0027】
また、本発明では、積層構造体の製造方法であって、
ミスト化部において、ガリウムを含む原料溶液をミスト化してミストを発生させるミスト発生工程と、
前記ミストを搬送するためのキャリアガスを前記ミスト化部に供給するキャリアガス供給工程と、
前記ミスト化部と成膜室とを接続する供給管を介して、前記ミスト化部から下地基板が設置された前記成膜室へと、前記ミストを前記キャリアガスにより搬送する搬送工程と、
前記搬送されたミストを熱処理して前記下地基板上に成膜を行う成膜工程と
を含み、
前記下地基板として直径が50mm以上、TTVが30μm以下のものを用いる積層構造体の製造方法を提供する。
【0028】
このような積層構造体の製造方法によれば、平滑な表面を有する結晶性酸化物膜を含む積層構造体を製造することができる。
【0029】
また、本発明では、前記下地基板として厚さが100~5000μmのものを用いることができる。
【0030】
これにより、表面がより平滑なものとなり、半導体装置に適用した場合に半導体特性がより優れた積層構造体を製造することができる。
【0031】
また、本発明では、前記下地基板として単結晶のものを用いることができる。
【0032】
これにより、結晶性にもより優れた酸化ガリウム膜を有する積層構造体を製造することができる。
【0033】
また、本発明では、前記下地基板としてサファイア基板、タンタル酸リチウム基板またはニオブ酸リチウム基板のいずれかのものを用いることができる。
【0034】
これにより、表面がより平滑で結晶性にもより優れた酸化ガリウム膜を有する積層構造体をより安価に製造することができる。
【0035】
また、本発明では、前記下地基板の成膜面と反対側の面の表面粗さRaを0.5μm以下としてもよい。
【0036】
このような方法であれば、結晶配向性に優れた、高品質な半導体膜を含む積層構造体を安定して製造可能となる。また、基板裏面による搬送系や基板キャリアへのダメージが大幅に軽減されるため、装置内での発塵が抑制されることに加え、搬送系や基板キャリアの材質の自由度が大きくなるので、高品質な半導体膜を含む積層構造体をより安定して安価に製造可能となる。
【0037】
また、本発明では、前記下地基板の成膜面と反対側の面のうねりWaを50μm以下としてもよい。
【0038】
このようにすれば、基板との接触面積が増加することで熱伝導が向上し、成膜用原料ミストによる成膜中の基板表面の温度低下が著しくならず半導体膜の結晶配向性が低下しないため、高品質な積層構造体を安定して製造することができる。
【0039】
また、本発明では、前記成膜工程においては、前記下地基板はステージに載置されており、前記ステージにおける前記下地基板との接触面の表面粗さRaを0.5μm以下としてもよい。
【0040】
このような方法であれば、結晶配向性に優れた、高品質な半導体膜を含む積層体を安定して製造可能となる。また、基板裏面による搬送系や基板キャリアへのダメージが大幅に軽減されるため、装置内での発塵が抑制されることに加え、搬送系や基板キャリアの材質の自由度が大きくなるので、高品質なコランダム型結晶構造を有する半導体膜を含む積層体をより安定して安価に製造可能となる。
【0041】
また、本発明では、前記成膜工程においては、前記下地基板はステージに載置されており、前記ステージにおける前記下地基板との接触面のうねりWaを50μm以下としてもよい。
【0042】
このようにすれば、基板との接触面積が増加することで熱伝導が向上し、成膜用原料ミストによる成膜中の基板表面の温度低下が著しくならず半導体膜の結晶配向性が低下しないため、高品質な積層構造体を安定して製造することができる。
【発明の効果】
【0043】
以上のように、本発明の積層構造体によれば、表面が平滑な結晶性酸化物膜を有し、半導体装置に適用した場合に半導体特性の優れた積層構造体となる。また、本発明の積層構造体の製造方法によれば、表面が平滑な結晶性酸化物膜を有し、半導体装置に適用した場合に半導体特性の優れた積層構造体を製造することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0044】
図1】本発明に係る半導体装置の一例を示す概略構成図である。
図2】本発明に係る積層構造体の製造方法に用いる成膜装置の一例を示す概略構成図である。
図3】本発明に係る下地基板のTTVと結晶性酸化物膜表面の二乗平均平方根粗さの関係を示す図である。
図4】本発明に用いられるミスト化部の一例を示す概略構成図である。
【発明を実施するための形態】
【0045】
上述のように、表面が平滑な結晶性酸化物膜を含む積層構造体、ならびに、前記積層構造体の製造方法を提供することが求められていた。
【0046】
本発明者らは、上記課題について鋭意検討を重ねた結果、下地基板と、酸化ガリウムを主成分とする結晶性酸化物膜とを有する積層構造体であって、前記結晶性酸化物膜の表面の二乗平均平方根粗さが0.2μm以下であり、前記下地基板の直径が50mm(2インチ)以上であり、前記下地基板のTTVが30μm以下であることを特徴とする積層構造体により、表面が平滑な結晶性酸化物膜を有し、半導体装置に適用した場合に半導体特性の優れた積層構造体となることを見出し、本発明を完成した。
【0047】
また、本発明者らは、積層構造体の製造方法であって、
ミスト化部において、ガリウムを含む原料溶液をミスト化してミストを発生させるミスト発生工程と、
前記ミストを搬送するためのキャリアガスを前記ミスト化部に供給するキャリアガス供給工程と、
前記ミスト化部と成膜室とを接続する供給管を介して、前記ミスト化部から下地基板が設置された前記成膜室へと、前記ミストを前記キャリアガスにより搬送する搬送工程と、
前記搬送されたミストを熱処理して前記下地基板上に成膜を行う成膜工程と
を含み、
前記下地基板として直径が50mm以上、TTVが30μm以下のものを用いることを特徴とする積層構造体の製造方法により、表面が平滑な結晶性酸化物膜を有し、半導体装置に適用した場合に半導体特性の優れた積層構造体を製造することができることを見出し、本発明を完成した。
【0048】
ここで、本発明でいうミストとは、気体中に分散した液体の微粒子の総称を指し、霧、液滴等と呼ばれるものを含む。以下、図面を参照しながら説明する。
【0049】
以下、本発明について詳細に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0050】
(積層構造体)
図1に本発明の積層構造体110を備えた半導体装置100を示す。図1に示すように、本発明の積層構造体110は、下地基板101と、酸化ガリウムを主成分とする結晶性酸化物膜103とを有し、前記結晶性酸化物膜103の表面103cの二乗平均平方根粗さが0.2μm以下であり、前記下地基板101の直径が50mm(2インチ)以上であり、前記下地基板101のTTVが30μm以下である。これにより、表面が平滑な結晶性酸化物膜103を有し、半導体装置に適用した場合に半導体特性の優れた積層構造体110となる。
【0051】
(下地基板)
従来、下地基板101の直径が大きくなると、結晶性酸化物膜103の表面の二乗平均平方根粗さの悪化が顕著であり、特に直径50mm以上のものでは粗さが0.2μm以下のものは得られなかった。そこで本発明者らが鋭意調査したところ、図3に示すように、下地基板のTTVが30μmを超えた付近から結晶性酸化物膜の表面のRMSが急激に増加しているのがわかった。後述のように、ヒーターとの熱的接触の悪化、および、熱抵抗の増加が原因と考えられる。そこで本発明ではTTVを30μm以下とした。本発明のように、下地基板101の直径が50mm(2インチ)以上のものを用いても、下地基板101のTTVが30μm以下とすることで、結晶性酸化物膜103の表面103cの二乗平均平方根粗さが0.2μm以下となる。
【0052】
本発明の積層構造体に係る下地基板は、直径が50mm(2インチ)以上、TTVが30μm以下である。直径の上限値は特に限定されないが、例えば300mm以下とすることができる。また、TTVの下限値は特に限定されないが、例えば0.1μm以上とすることができる。
【0053】
TTVは、total thickness variationの略であり、ウェハ裏面を基準面として厚さ方向に測定した高さのウェハ全面における最大値と最小値の差である。本発明においては、下地基板のTTVは30μm以下である。このとき得られる積層構造体のTTVも30μm以下となる。TTVは、マイクロメータや、静電容量方式、光干渉方式、レーザー共焦点方式などで測定することができる。
【0054】
前記積層構造体の、結晶性酸化物膜を有する面103cと反対側の面のRaが0.5μm以下であってもよい。表面粗さRaは小さければ小さいほど好ましく、下限値は特に限定されないが、例えば0.1nm以上とすることができる。表面粗さRaが0.5μm以下であれば、下地基板101との接触面積が減少しないため熱伝導が悪化せず、成膜用原料ミストによる成膜中の基体表面の温度低下が起こらず半導体膜の結晶配向性が低下しない。
【0055】
前記積層構造体の、結晶性酸化物膜を有する面103cと反対側の面のうねりWaは50μm以下であってもよい。うねりWaは小さければ小さいほど好ましく、下限値は特に限定されないが、例えば0.5μm以上とすることができる。Waが50μm以下であれば、下地基板101との接触面積が増加することで熱伝導が向上し、成膜用原料ミストによる成膜中の基体表面の温度低下が著しくならず半導体膜の結晶配向性が低下しない。
【0056】
うねりWaは、「平面形状の幾何学的に正しい平面からの狂いの大きさ」で定義される。うねりWaは、該載置面の形状に応じて適宜決定される該載置面上の1つ以上の任意直線上で測定されてよい。例えば、該載置面が円形である場合、該円の中心で直角に交わる2直線上において、該円の直径を測定長とすることができる。うねりWaは、触針法、原子間力顕微鏡(AFM)法、あるいは光干渉法、共焦点法、焦点移動による画像合成法といったレーザー顕微鏡や共焦点顕微鏡を用いた非接触式の測定法による表面形状測定結果を用い、JIS B 0601に基づき算出して得た値をいう。
【0057】
下地基板の厚さは100~5000μmであることが好ましい。この範囲内であればハンドリングが良好となるとともに、成膜時に熱抵抗が小さくなり、良質の膜が得られる。
【0058】
下地基板は、上記の結晶性酸化物膜の支持体となるものであれば特に限定されない。材料は特に限定されず、公知の基板を用いることができ、有機化合物であってもよいし、無機化合物であってもよい。例えば、ポリサルフォン、ポリエーテルサルフォン、ポリフェニレンサルファイド、ポリエーテルエーテルケトン、ポリイミド、ポリエーテルイミド、フッ素樹脂、鉄やアルミニウム、ステンレス鋼、金等の金属、石英、ガラス、炭酸カルシウム、酸化ガリウム、ZnO等が挙げられる。これらに加え、シリコン、サファイアや、α型酸化ガリウム、タンタル酸リチウム、ニオブ酸リチウム、SiC、GaN、酸化鉄、酸化クロム、などの単結晶基板があげられる。本発明の積層構造体に係る下地基板においては以上のような単結晶基板が望ましい。これらにより、より良質な結晶性酸化物膜を得ることができる。特に、サファイア基板、タンタル酸リチウム基板、ニオブ酸リチウム基板は比較的安価であり、工業的に有利である。
【0059】
なお、下地基板表面のRMSは0.1μm以下であることが好ましい。このような基板を用いることで、RMSが0.2μm以下の結晶性酸化物膜を得やすくなる。また、下地基板上の0.5μm以上のパーティクル密度は50/cm以下であることが好ましく、金属不純物密度は1×1011/cm以下であることが好ましい。このような下地基板を用いることで、結晶性の良好な結晶性酸化物膜を得やすくなる。ひとたび積層構造体とした後は、このような下地基板表面のRMSや、下地基板上のパーティクル密度、金属不純物密度等の評価は困難である。
【0060】
(結晶性酸化物膜)
本発明の積層構造体に係る結晶性酸化物膜は、酸化ガリウムを主成分とする結晶性酸化物膜であって、前記酸化ガリウムを主成分とする結晶性酸化物膜の表面の二乗平均平方根粗さが0.2μm以下である。二乗平均平方根粗さの下限値は特に限定されないが、例えば0.0001μm以上とすることができる。
【0061】
一般に結晶性酸化物膜は金属と酸素から構成されるが、本発明の積層構造体に係る結晶性酸化物膜においては、金属としてガリウムを主成分としていればよい。なお、本発明において「ガリウムを主成分とする」とは、金属成分のうち50~100%がガリウムであることを意味する。ガリウム以外の金属成分としては、例えば、鉄、インジウム、アルミニウム、バナジウム、チタン、クロム、ロジウム、イリジウム、ニッケル及びコバルトから選ばれる1種又は2種以上の金属を含んでもよい。
【0062】
結晶性酸化物膜中には、ドーパント元素が含まれていてもよい。例えば、スズ、ゲルマニウム、ケイ素、チタン、ジルコニウム、バナジウム又はニオブ等のn型ドーパント、又は、銅、銀、ニッケル、スズ、イリジウム、ロジウム、コバルト、マグネシウム等のp型ドーパントなどが挙げられ特に限定されない。ドーパントの濃度は、例えば、約1×1016/cm~1×1022/cmであってもよく、約1×1017/cm以下の低濃度としても、約1×1020/cm以上の高濃度としてもよい。
【0063】
結晶性酸化物膜の結晶構造は特に限定されず、βガリア構造であってもよいし、コランダム構造であってもよいし、直方晶でもよい。複数の結晶構造が混在していたり、多結晶でもかまわないが、単結晶もしくは一軸配向した膜であることが好ましい。単結晶もしくは一軸配向した膜であることは、X線回折装置や電子線回折装置などで確認することができる。膜にX線や電子線を照射すると結晶構造に応じた回折像が得られるが、一軸配向していると特定のピークのみが出現する。これにより、一軸配向していると判断できる。
【0064】
前記二乗平均平方根粗さ(RMS)は、0.2μm以下であれば特に限定されない。なお、二乗平均平方根粗さ(RMS)は、原子間力顕微鏡(AFM)による10μm角の領域についての表面形状測定結果を用い、JIS B 0601に基づき(同規格内におけるRqに相当)算出して得た値をいう。
また、算術平均粗さ(Ra)は、原子間力顕微鏡(AFM)による10μm角の領域についての表面形状測定結果を用い、JIS B 0601に基づき算出して得た値をいう。
【0065】
結晶性酸化物膜の膜厚は特に限定されないが、1μm以上であることが好ましい。上限値は特に限定されない。例えば、100μm以下であってよく、好ましくは50μm以下であり、より好ましくは20μm以下とすることができる。このような膜厚とすることで、半導体装置に適用した場合に、耐圧が向上するなど半導体特性がより優れたものとなる。
【0066】
また、下地基板と結晶性酸化物膜の間には別の層が介在しても構わない。別の層とは、下地基板ならびに最表層の結晶性酸化物膜と組成が異なる層であり、バッファ層とも呼ばれる。バッファ層は、酸化物半導体膜、絶縁膜、金属膜等、いずれでも構わなく、材料としては、例えば、Al、Ga、Cr、Fe、In、Rh、V、Ti、Ir等が好適に用いられる。バッファ層の厚さとしては0.1μm~2μmが好ましい。
【0067】
(成膜装置)
図2に、本発明の積層構造体の製造方法に係る成膜装置201の一例を示す。成膜装置201は、ガリウムを含む原料溶液204aをミスト化してミストを発生させるミスト化部220と、ミストを搬送するキャリアガスを供給するキャリアガス供給部230と、ミスト化部220と成膜室207とを接続し、キャリアガスによってミストが搬送される供給管209と、供給管209からキャリアガスとともに供給されたミストを熱処理して、下地基板210上に成膜を行う成膜室207とを少なくとも有している。
【0068】
(ミスト化部)
ミスト化部220では、ガリウムを含む原料溶液204aをミスト化してミストを発生させる。ミスト化手段は、ガリウムを含む原料溶液204aをミスト化できさえすれば特に限定されず、公知のミスト化手段であってよいが、超音波振動によるミスト化手段を用いることが好ましい。より安定してミスト化することができるためである。
【0069】
このようなミスト化部220の一例を図4に示す。ミスト化部220は、ガリウムを含む原料溶液204aが収容されるミスト発生源204と、超音波振動を伝達可能な媒体、例えば水205aが入れられる容器205と、容器205の底面に取り付けられた超音波振動子206を含んでもよい。詳細には、ガリウムを含む原料溶液204aが収容されている容器からなるミスト発生源204が、水205aが収容されている容器205に、支持体(図示せず)を用いて収納されることができる。容器205の底部には、超音波振動子206が備え付けられていてもよく、超音波振動子206と発振器216とが接続されていてもよい。そして、発振器216を作動させると超音波振動子206が振動し、水205aを介してミスト発生源204内に超音波が伝播し、ガリウムを含む原料溶液204aがミスト化するように構成されることができる。
【0070】
(ガリウムを含む原料溶液)
ガリウムを含む原料溶液204aはミスト化が可能であり、ガリウムを含んでいれば溶液に含まれる材料は特に限定されず、無機材料であっても、有機材料であってもよい。金属又は金属化合物が好適に用いられ、例えば、ガリウム、鉄、インジウム、アルミニウム、バナジウム、チタン、クロム、ロジウム、ニッケル及びコバルトから選ばれる1種又は2種以上の金属を含むものを使用してもかまわない。このような原料溶液として、金属を錯体又は塩の形態で、有機溶媒又は水に溶解又は分散させたものを好適に用いることができる。塩の形態としては、例えば、塩化金属塩、臭化金属塩、ヨウ化金属塩のようなハロゲン化塩などが挙げられる。また、上記金属を、臭化水素酸、塩酸、ヨウ化水素酸のようなハロゲン化水素等に溶解したものも塩の溶液として用いることができる。錯体の形態としては、例えば、アセチルアセトナート錯体、カルボニル錯体、アンミン錯体、ヒドリド錯体などが挙げられる。前述した塩の溶液にアセチルアセトンを混合することによっても、アセチルアセトナート錯体を形成することができる。ガリウムを含む原料溶液204a中の金属濃度は特に限定されず、0.005~1mol/Lなどとすることができる。
【0071】
ガリウムを含む原料溶液204aには、ハロゲン化水素酸や酸化剤等の添加剤を混合してもよい。ハロゲン化水素酸としては、例えば、臭化水素酸、塩酸、ヨウ化水素酸などが挙げられるが、なかでも、臭化水素酸またはヨウ化水素酸が好ましい。酸化剤としては、例えば、過酸化水素(H)、過酸化ナトリウム(Na)、過酸化バリウム(BaO)、過酸化ベンゾイル(CCO)等の過酸化物、次亜塩素酸(HClO)、過塩素酸、硝酸、オゾン水、過酢酸やニトロベンゼン等の有機過酸化物などが挙げられる。
【0072】
ガリウムを含む原料溶液204aには、ドーパントが含まれていてもよい。ドーパントは特に限定されない。例えば、スズ、ゲルマニウム、ケイ素、チタン、ジルコニウム、バナジウム又はニオブ等のn型ドーパント、又は、銅、銀、イリジウム、ロジウム、マグネシウム等のp型ドーパントなどが挙げられる。
【0073】
(キャリアガス供給部)
図2に示すように、キャリアガス供給部230はキャリアガスを供給するキャリアガス源202aを有する。このとき、キャリアガス源202aから送り出されるキャリアガスの流量を調節するための流量調節弁203aを備えていてもよい。また、必要に応じて希釈用キャリアガスを供給する希釈用キャリアガス源202bや、希釈用キャリアガス源202bから送り出される希釈用キャリアガスの流量を調節するための流量調節弁203bを備えることもできる。
【0074】
キャリアガスの種類は、特に限定されず、成膜物に応じて適宜選択可能である。例えば、酸素、オゾン、窒素やアルゴン等の不活性ガス、又は水素ガスやフォーミングガス等の還元ガスなどが挙げられる。また、キャリアガスの種類は1種類でも、2種類以上であってもよい。例えば、第2のキャリアガスとして、第1のキャリアガスと同じガスをそれ以外のガスで希釈した(例えば10倍に希釈した)希釈ガスなどをさらに用いてもよく、空気を用いることもできる。キャリアガスの流量は特に限定されない。例えば、50mm(2インチ)の下地基板上に成膜する場合には、キャリアガスの流量は0.05~50L/分とすることが好ましく、5~20L/分とすることがより好ましい。
【0075】
(供給管)
成膜装置201は、ミスト化部220と成膜室207とを接続する供給管209を有する。この場合、ミストは、ミスト化部220のミスト発生源204から供給管209を介してキャリアガスによって搬送され、成膜室207内に供給される。供給管209は、例えば、石英管やガラス管、樹脂製のチューブなどを使用することができる。
【0076】
(成膜室)
成膜室207内には下地基板210が設置されており、該下地基板210を加熱するためのヒーター208を備えることができる。ヒーター208は、図2に示されるように成膜室207の外部に設けられていてもよいし、成膜室207の内部に設けられていてもよい。また、成膜室207には、下地基板210へのミストの供給に影響を及ぼさない位置に、排ガスの排気口212が設けられてもよい。また、下地基板210を成膜室207の上面に設置するなどして、フェイスダウンとしてもよいし、下地基板210を成膜室207の底面に設置して、フェイスアップとしてもよい。
なお、成膜室207内には下地基板210を載置するためのステージが設置されていてもよい。このとき、前記ステージの表面粗さRaは、0.5μm以下であってもよい。表面粗さRaは小さければ小さいほど好ましく、下限値は特に限定されないが、例えば0.1nm以上とすることができる。表面粗さRaが0.5μm以下であれば、下地基板210との接触面積が減少しないため熱伝導が悪化せず、成膜用原料ミストによる成膜中の基体表面の温度低下が起こらず半導体膜の結晶配向性が低下しない。
また、うねりWaが50μm以下であってもよい。うねりWaは小さければ小さいほど好ましく、下限値は特に限定されないが、例えば0.5μm以上とすることができる。Waが50μm以下であれば、下地基板210との接触面積が増加することで熱伝導が向上し、成膜用原料ミストによる成膜中の基体表面の温度低下が著しくならず半導体膜の結晶配向性が低下しない。
【0077】
(積層構造体の製造方法)
次に、以下、図2を参照しながら、本発明の積層構造体の製造方法の一例を説明する。本発明は、ミストCVDにおいて、基板の直径を50mm以上、TTVを30μm以下とした点に特徴がある。
【0078】
ミストCVD法は、他のCVD法と異なり、原料を液体の状態で基板表面まで到達させる必要がある。このため、基板表面の温度は大きく低下する。このとき、基板のTTVが30μmより大きいと、基板とヒーターの熱的な接触が悪化する。同時に、基板厚が厚い箇所は、相対的に熱抵抗が大きくなる。これらの影響で、基板表面温度の低下はさらに大きくなる。特に直径50mm以上で顕著である。この状態で成膜を行うと、膜表面では異常成長が起こり、得られる膜の表面粗さは0.2μm超の非常に大きなものになってしまう。従って、本発明の積層構造体の製造方法において、直径が50mm以上、TTVが30μm以下の下地基板を用いることで、as-grown(アズクロウン)の状態で膜表面の二乗平均平方根粗さが0.2μm以下の積層構造体を得ることができる。
【0079】
前述の方法で混合したガリウムを含む原料溶液204aをミスト発生源204内に収容し、下地基板210を成膜室207内に載置して、ヒーター208を作動させる。次に、流量調節弁203a、203bを開いてキャリアガス源202a、202bからキャリアガスを成膜室207内に供給し、成膜室207の雰囲気をキャリアガスで十分に置換した後、キャリアガスの流量と希釈用キャリアガスの流量をそれぞれ調節する。
【0080】
次に、ミスト発生工程として、超音波振動子206を振動させ、その振動を、水205aを通じてガリウムを含む原料溶液204aに伝播させることによって、ガリウムを含む原料溶液204aをミスト化してミストを発生させる。
【0081】
次に、キャリアガス供給工程として、ミストを搬送するためのキャリアガスをミスト化部220に供給する。
【0082】
次に、搬送工程として、ミスト化部220と成膜室207とを接続する供給管209を介して、ミスト化部220から成膜室207へと、ミストをキャリアガスにより搬送する。
【0083】
次に、成膜工程として、成膜室207に搬送されたミストを加熱し熱反応を生じさせて、下地基板210の表面の一部又は全部に成膜を行う。
【0084】
熱反応は、加熱によりミストが反応すればよく、反応条件等も特に限定されない。原料や成膜物に応じて適宜設定することができる。例えば、加熱温度は120~600℃の範囲であり、好ましくは200℃~600℃の範囲であり、より好ましくは300℃~550℃の範囲とすることができる。
【0085】
なお、熱反応は、真空下、非酸素雰囲気下、還元ガス雰囲気下、空気雰囲気下及び酸素雰囲気下のいずれの雰囲気下で行われてもよく、成膜物に応じて適宜設定すればよい。また、反応圧力は、大気圧下、加圧下又は減圧下のいずれの条件下で行われてもよいが、大気圧下の成膜であれば、装置構成が簡略化できるので好ましい。
【0086】
(バッファ層)
上記成膜にあたっては、下地基板と当該膜の間に適宜バッファ層を設けてもよい。バッファ層の形成方法は特に限定されず、スパッタ法、蒸着法など公知の方法により成膜することができるが、上記のようなミストCVD法を用いる場合は、ガリウムを含む原料溶液を適宜変更するだけで形成でき簡便である。具体的には、アルミニウム、ガリウム、クロム、鉄、インジウム、ロジウム、バナジウム、チタン、イリジウム、から選ばれる1種又は2種以上の金属を、錯体又は塩の形態で水に溶解又は分散させたものを原料水溶液として好適に用いることができる。錯体の形態としては、例えば、アセチルアセトナート錯体、カルボニル錯体、アンミン錯体、ヒドリド錯体などが挙げられる。塩の形態としては、例えば、塩化金属塩、臭化金属塩、ヨウ化金属塩などが挙げられる。また、上記金属を、臭化水素酸、塩酸、ヨウ化水素酸等に溶解したものも塩の水溶液として用いることができる。この場合も、溶質濃度は0.005~1mol/Lが好ましく、溶解温度は20℃以上とする。他の条件についても、上記と同様にすることでバッファ層を形成することが可能である。バッファ層を所定の厚さで成膜した後、結晶性酸化物膜の成膜を行う。
【0087】
(熱処理)
また、本発明の積層構造体の製造方法に係る成膜方法で得られた膜を、200~600℃で熱処理してもよい。これにより、膜中の未反応種などが除去され、より高品質の積層構造体を得ることができる。熱処理は、空気中、酸素雰囲気中で行ってもよいし、窒素やアルゴン等の不活性ガス雰囲気下で行ってもかまわない。熱処理時間は適宜決定されるが、例えば、5~240分とすることができる。
【0088】
(剥離)
本発明の積層構造体においては、結晶性酸化物膜を下地基板から剥離してもよい。剥離手段は特に限定されず、公知の手段であってもよい。剥離手段の方法としては例えば、機械的衝撃を与えて剥離する手段、熱を加えて熱応力を利用して剥離する手段、超音波等の振動を加えて剥離する手段、エッチングして剥離する手段などが挙げられる。前記剥離によって、前記結晶性酸化物膜を自立膜として得ることができる。
【0089】
(半導体装置の構成例)
本発明の積層構造体を用いた半導体装置100の好適な例を図1に示す。図1の例では、下地基板101上に結晶性酸化物膜103が形成されている。結晶性酸化物膜103は、下地基板101側から順に絶縁性薄膜103aと導電性薄膜103bが積層されて構成されている。導電性薄膜103b上にゲート絶縁膜105が形成されている。ゲート絶縁膜105上にはゲート電極107が形成されている。また、導電性薄膜103b上には、ゲート電極107を挟むように、ソース・ドレイン電極109が形成されている。このような構成によれば、ゲート電極107に印加するゲート電圧によって、導電性薄膜103bに形成される空乏層の制御が可能となり、トランジスタ動作(FETデバイス)が可能となる。
【0090】
本発明の積層構造体を用いて形成される半導体装置としては、MISやHEMT、IGBT、TFT等のトランジスタや、半導体-金属接合を利用したショットキーバリアダイオード、他のP層と組み合わせたPN又はPINダイオード、受発光素子が挙げられる。本発明の積層構造体は、これらデバイスの特性向上に有用である。
【0091】
(積層構造体の製造システム)
次に、以下、図2を参照しながら、本発明の積層構造体の製造システムの一例を説明する。本発明は、ミストCVDにおいて、基板の直径を50mm以上、TTVを30μm以下とした点に特徴がある。
【0092】
ミストCVD法は、他のCVD法と異なり、原料を液体の状態で基板表面まで到達させる必要がある。このため、基板表面の温度は大きく低下する。このとき、基板のTTVが30μmより大きいと、基板とヒーターの熱的な接触が悪化する。同時に、基板厚が厚い箇所は、相対的に熱抵抗が大きくなる。これらの影響で、基板表面温度の低下はさらに大きくなる。特に直径50mm以上で顕著である。この状態で成膜を行うと、膜表面では異常成長が起こり、得られる膜の表面粗さは0.2μm超の非常に大きなものになってしまう。従って、本発明の積層構造体の製造システムにおいて、直径が50mm以上、TTVが30μm以下の下地基板を用いることで、as-grown(アズクロウン)の状態で膜表面の二乗平均平方根粗さが0.2μm以下の積層構造体を得ることができる。
【0093】
前述の方法で混合したガリウムを含む原料溶液204aをミスト発生源204内に収容し、下地基板210を成膜室207内に載置して、ヒーター208を作動させる。次に、流量調節弁203a、203bを開いてキャリアガス源202a、202bからキャリアガスを成膜室207内に供給し、成膜室207の雰囲気をキャリアガスで十分に置換した後、キャリアガスの流量と希釈用キャリアガスの流量をそれぞれ調節する。
【0094】
次に、ミスト発生機構として、超音波振動子206を振動させ、その振動を、水205aを通じてガリウムを含む原料溶液204aに伝播させることによって、ガリウムを含む原料溶液204aをミスト化してミストを発生させる。
【0095】
次に、キャリアガス供給機構として、ミストを搬送するためのキャリアガスをミスト化部220に供給する。
【0096】
次に、搬送機構として、ミスト化部220と成膜室207とを接続する供給管209を介して、ミスト化部220から成膜室207へと、ミストをキャリアガスにより搬送する。
【0097】
次に、成膜機構として、成膜室207に搬送されたミストを加熱し熱反応を生じさせて、下地基板210の表面の一部又は全部に成膜を行う。
【0098】
熱反応は、加熱によりミストが反応すればよく、反応条件等も特に限定されない。原料や成膜物に応じて適宜設定することができる。例えば、加熱温度は120~600℃の範囲であり、好ましくは200℃~600℃の範囲であり、より好ましくは300℃~550℃の範囲とすることができる。
【0099】
なお、熱反応は、真空下、非酸素雰囲気下、還元ガス雰囲気下、空気雰囲気下及び酸素雰囲気下のいずれの雰囲気下で行われてもよく、成膜物に応じて適宜設定すればよい。また、反応圧力は、大気圧下、加圧下又は減圧下のいずれの条件下で行われてもよいが、大気圧下の成膜であれば、装置構成が簡略化できるので好ましい。
【0100】
(バッファ層)
上記成膜にあたっては、下地基板と当該膜の間に適宜バッファ層を設けてもよい。バッファ層の形成方法は特に限定されず、スパッタ法、蒸着法など公知の方法により成膜することができるが、上記のようなミストCVD法を用いる場合は、ガリウムを含む原料溶液を適宜変更するだけで形成でき簡便である。具体的には、アルミニウム、ガリウム、クロム、鉄、インジウム、ロジウム、バナジウム、チタン、イリジウム、から選ばれる1種又は2種以上の金属を、錯体又は塩の形態で水に溶解又は分散させたものを原料水溶液として好適に用いることができる。錯体の形態としては、例えば、アセチルアセトナート錯体、カルボニル錯体、アンミン錯体、ヒドリド錯体などが挙げられる。塩の形態としては、例えば、塩化金属塩、臭化金属塩、ヨウ化金属塩などが挙げられる。また、上記金属を、臭化水素酸、塩酸、ヨウ化水素酸等に溶解したものも塩の水溶液として用いることができる。この場合も、溶質濃度は0.005~1mol/Lが好ましく、溶解温度は20℃以上とする。他の条件についても、上記と同様にすることでバッファ層を形成することが可能である。バッファ層を所定の厚さで成膜した後、結晶性酸化物膜の成膜を行う。
【0101】
(熱処理)
また、本発明の積層構造体の製造システムに係る成膜システムで得られた膜を、200~600℃で熱処理してもよい。これにより、膜中の未反応種などが除去され、より高品質の積層構造体を得ることができる。熱処理は、空気中、酸素雰囲気中で行ってもよいし、窒素やアルゴン等の不活性ガス雰囲気下で行ってもかまわない。熱処理時間は適宜決定されるが、例えば、5~240分とすることができる。
【0102】
(剥離)
本発明の積層構造体においては、結晶性酸化物膜を下地基板から剥離してもよい。剥離手段は特に限定されず、公知の手段であってもよい。剥離手段の方法としては例えば、機械的衝撃を与えて剥離する手段、熱を加えて熱応力を利用して剥離する手段、超音波等の振動を加えて剥離する手段、エッチングして剥離する手段などが挙げられる。前記剥離によって、前記結晶性酸化物膜を自立膜として得ることができる。
【0103】
また、本発明では、前記成膜室に前記下地基板を設置するに先立って、前記下地基板の直径が50mm以上の場合にTTVが30μm以下であることを確認する積層構造体の製造システムであることが好ましい。
【実施例
【0104】
以下、実施例及び比較例を用いて本発明を具体的に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0105】
(実施例1)
図2を参照しながら、本実施例で用いた成膜装置201を説明する。成膜装置201は、キャリアガスを供給するキャリアガス源202aと、キャリアガス源202aから送り出されるキャリアガスの流量を調節するための流量調節弁203aと、希釈用キャリアガスを供給する希釈用キャリアガス源202bと、希釈用キャリアガス源202bから送り出される希釈用キャリアガスの流量を調節するための流量調節弁203bと、ガリウムを含む原料溶液204aが収容されるミスト発生源204と、水205aが収容された容器205と、容器205の底面に取り付けられた超音波振動子206と、ヒーター208を具備する成膜室207と、ミスト発生源204から成膜室207までをつなぐ石英製の供給管209と、を備えている。
【0106】
(下地基板)
下地基板210として直径100mm(4インチ)のc面サファイア基板を用意した。光干渉式のフラットネステスターによりTTVを測定したところ16μmであった。当該基板を成膜室207内に載置し、ヒーター208を作動させて温度を500℃に昇温した。
【0107】
(ガリウムを含む原料溶液)
次に、ガリウムを含む原料溶液の作製を行った。溶媒は超純水、溶質は臭化ガリウムとした。ガリウム濃度を0.1mol/Lとし、これをガリウムを含む原料溶液204aとした。
【0108】
(成膜)
上述のようにして得たガリウムを含む原料溶液204aをミスト発生源204内に収容した。続いて、流量調節弁203a、203bを開いてキャリアガス源202a、202bからキャリアガスを成膜室207内に供給し、成膜室207の雰囲気をキャリアガスで十分に置換した後、キャリアガスの流量を2L/分に、希釈用キャリアガスの流量を6L/分にそれぞれ調節した。キャリアガスとしては窒素を用いた。
【0109】
次に、超音波振動子206を2.4MHzで振動させ、その振動を、水205aを通じてガリウムを含む原料溶液204aに伝播させることによって、ガリウムを含む原料溶液204aをミスト化してミストを生成した。このミストを、キャリアガスによって供給管209を経て成膜室207内に導入した。そして、大気圧下、500℃の条件で、成膜室207内でミストを熱反応させて、下地基板210上に酸化ガリウムの薄膜を形成した。成膜時間は30分とした。
【0110】
(評価)
下地基板210上に形成した薄膜について、X線回折により、α-Gaが形成されていることを確認した。次いで、AFMにて膜表面の二乗平均平方根粗さRMSを測定した。この結果RMSは8nmであった。
また、膜厚をフィルメトリクス社の反射分光式膜厚計F50で測定したところ、0.52μmであった。
【0111】
(実施例2、3)
下地基板210として、TTVの異なる直径100mm(4インチ)のc面サファイア基板を用意した。具体的には、TTVが3、26μmの基板を用意し、これ以外は実施例1と同じ条件で成膜、評価を行った。この結果RMSはそれぞれ2、8nmであった。また、膜厚はそれぞれ0.49、0.51μmであった。
【0112】
(比較例1、2)
下地基板210として、TTVが41、61μmの直径100mm(4インチ)のc面サファイア基板を用意した。これ以外は実施例1と同じ条件で成膜、評価を行った。この結果RMSはそれぞれ245、303nmであった。また、膜厚はそれぞれ0.47、0.46μmであった。
【0113】
(実施例4)
成膜時間を60分としたこと以外は実施例1と同じ条件で成膜、評価を行った。この結果、膜厚は1.1μm、RMSは11nmであった。
【0114】
(実施例5)
成膜時間を480分としたこと以外は実施例1と同じ条件で成膜、評価を行った。この結果、膜厚は8.5μm、RMSは15nmであった。
【0115】
(実施例6)
実施例1において、基板非成膜面のRaを0.41μmとした以外は実施例1と同じ条件で成膜、評価を行った。この結果RMSは7nmであった。また、膜厚は0.51μmであった。
【0116】
(実施例7)
実施例1において、基板非成膜面のWaを47.7μmとした以外は実施例1と同じ条件で成膜、評価を行った。この結果RMSは10nmであった。また、膜厚は0.53μmであった。
【0117】
(実施例8)
実施例1において、ヒーター上に銅板(ステージ)を敷設し、当該銅板のRaを0.45μmとした以外は実施例1と同じ条件で成膜、評価を行った。この結果RMSは5nmであった。また、膜厚は0.48μmであった。
【0118】
(実施例9)
実施例1において、ヒーター上に銅板(ステージ)を敷設し、当該銅板のWaを48.2μmとした以外は実施例1と同じ条件で成膜、評価を行った。この結果RMSは6nmであった。また、膜厚は0.50μmであった。
【0119】
実施例1、2、3および比較例1、2をまとめたグラフを図3に示す。下地基板のTTVが30μmを超えると結晶性酸化物膜の表面のRMSが急激に増加しているのがわかる。前述のように、ヒーターとの熱的接触の悪化、および、熱抵抗の増加が原因と考えられる。
【0120】
なお、本発明は、上記実施形態に限定されるものではない。上記実施形態は例示であり、本発明の特許請求の範囲に記載された技術的思想と実質的に同一な構成を有し、同様な作用効果を奏するものは、いかなるものであっても本発明の技術的範囲に包含される。
図1
図2
図3
図4