(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2025-04-14
(45)【発行日】2025-04-22
(54)【発明の名称】光導波路素子及びそれを用いた光変調デバイス並びに光送信装置
(51)【国際特許分類】
G02F 1/035 20060101AFI20250415BHJP
G02B 6/122 20060101ALI20250415BHJP
【FI】
G02F1/035
G02B6/122 311
(21)【出願番号】P 2021058675
(22)【出願日】2021-03-30
【審査請求日】2023-08-24
(73)【特許権者】
【識別番号】000183266
【氏名又は名称】住友大阪セメント株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100116687
【氏名又は名称】田村 爾
(74)【代理人】
【識別番号】100098383
【氏名又は名称】杉村 純子
(74)【代理人】
【識別番号】100155860
【氏名又は名称】藤松 正雄
(72)【発明者】
【氏名】村田 祐美
(72)【発明者】
【氏名】釘本 有紀
(72)【発明者】
【氏名】岡橋 宏佑
【審査官】山本 元彦
(56)【参考文献】
【文献】特開平11-064668(JP,A)
【文献】特開平09-105834(JP,A)
【文献】特開2019-095698(JP,A)
【文献】特開2001-124952(JP,A)
【文献】特開2012-073328(JP,A)
【文献】特開2004-053827(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2017/0184792(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G02F 1/00-1/125
G02F 1/21-7/00
G02B 6/12-6/14
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
電気光学効果を有する材料で形成される光導波路を備えた光導波路基板と、該光導波路の端部付近で、該光導波路の上側に配置される補強部材と、該光導波路基板と該補強部材とは接着層を介して接合される光導波路素子において、
該光導波路は、リブ型の光導波路であり、
該接着層は、該光導波路基板と該補強部材との間を接着剤で充填するように構成され、
該補強部材の該光導波路基板に最も近接する部分は、該光導波路の凸状部分の高さよりも離れて配置されており、
該補強部材の該光導波路基板に対向した面には、
平面視した際に該光導波路と重ならない位置であり、かつ、該光導波路を伝搬する光波のモードフィールド径に重ならない位置に、溝が形成されていることを特徴とする光導波路素子。
【請求項2】
請求項1に記載の光導波路素子において、該光導波路の端部には、該光導波路の一部として、該光導波路を伝搬する光波のモードフィールド径を変化するスポットサイズ変換部が配置されていることを特徴とする光導波路素子。
【請求項3】
請求項1
又は2に記載の光導波路素子において、該光導波路の延在方向に対して垂直な面における該溝の断面積は、当該面における該光導波路の該凸状部分の断面積よりも大きくなるように設定されていることを特徴とする光導波路素子。
【請求項4】
請求項1乃至
3のいずれかに記載の光導波路素子において、該補強部材の下側に位置する該光導波路の該凸状部分の体積より、該溝の体積の方がより大きくなるように設定されていることを特徴とする光導波路素子。
【請求項5】
請求項1乃至
4のいずれかに記載の光導波路素子において、該溝の深さは該光導波路の該凸状部分の高さより大きく、又は該溝の開口部の幅は該光導波路の該凸状部分の幅よりも大きくなるように設定されていることを特徴とする光導波路素子。
【請求項6】
請求項1乃至
5のいずれかに記載の光導波路素子において、該溝の延在方向に対して垂直な断面における溝の形状は、多角形状であることを特徴とする光導波路素子。
【請求項7】
請求項1乃至
6のいずれかに記載の光導波路素子において、該溝の内面の少なくとも一部には曲面が形成されていることを特徴とする光導波路素子。
【請求項8】
請求項1乃至
7のいずれかに記載の光導波路素子において、該補強部材の上方から平面視した際に、該溝は、該光導波路を挟むように配置されていることを特徴とする光導波路素子。
【請求項9】
請求項1乃至
8のいずれかに記載の光導波路素子は、筐体内に収容され、該光導波路に光波を入力又は出力する光ファイバを備えることを特徴とする光変調デバイス。
【請求項10】
請求項
9に記載の光変調デバイスにおいて、該光導波路素子は該光導波路を伝搬する光波を変調するための変調電極を備え、該光導波路素子の変調電極に入力する変調信号を増幅する電子回路を該筐体の内部に有することを特徴とする光変調デバイス。
【請求項11】
請求項
9又は
10に記載の光変調デバイスと、該光変調デバイスに変調動作を行わせる変調信号を出力する電子回路とを有することを特徴とする光送信装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、光導波路素子及びそれを用いた光変調デバイス並びに光送信装置に関し、特に、電気光学効果を有する材料で形成される光導波路を備えた光導波路基板と、該光導波路の端部付近で、該光導波路の上側に配置される補強部材と、該光導波路基板と該補強部材とは接着層を介して接合される光導波路素子に関する。
【背景技術】
【0002】
光計測技術分野や光通信技術分野において、光変調器など、光導波路を形成した基板を用いた光導波路素子が多用されている。例えば、ニオブ酸リチウム(LN)などの電気光学効果を有する基板にTiなどを熱拡散して光導波路が形成される。光導波路を形成した光導波路基板に対しては、外部から入力光を導入又は外部に出力光を導出することが行われる。基板上の光導波路に外部からの入力光を導入するためには、光導波路の入力部が形成され基板の端面には、光ファイバやレンズなどの光学ブロックが接続される。また、光導波路の出力部が形成された基板の端面にも、出力光を適正に導出するため、光ファイバ、レンズ、偏波合成手段、反射手段などの光学ブロックが接続される。
【0003】
光導波路基板への光学ブロックの接続に際しては、光学ブロックをより強固に固定するため、光導波路基板の端面に沿って当該基板上に補強部材を接着剤で固定している。これにより光学ブロックは、光導波路基板と補強部材の2つの端面に接合されることとなる。
【0004】
接着剤で光導波路基板と補強部材とを接合する際には、接着剤に含まれる気泡が、接合後も抜けず、光導波路基板上、特に光導波路上やその近傍に気泡が留まることがある。このような場合は、光導波路を伝搬する光波が気泡の傍を通過する際に散乱等で光損失が発生する原因となる。しかも、Ti等を熱拡散した光導波路では、50nm程度の凸状部分が光導波路基板上に形成されるため、この凸状部原因で気泡が抜けづらいという現象を生じていた。
【0005】
他方、近年の情報通信量の増大に伴い、長距離の都市間やデータセンター間に用いられる光通信の高速化や大容量化が望まれている。しかも、基地局のスペースの制限もあり、光変調器の高速化と小型化が必要となっている。
【0006】
光変調器の小型化には、光導波路の幅を狭くする微細化を施すことで、光の閉じ込め効果を大きくすることができ、結果として、光導波路の曲げ半径を小さくし、小型化が可能となる。例えば、LNは、電気信号を光信号に変換する際に、歪みが少なく、光損失が少ないことから、長距離向け光変調器として用いられる。LN光変調器の従来の光導波路、例えば、Tiの熱拡散による光導波路では、モードフィールド径(MFD)は10μm程度であり、光導波路の曲げ半径は数十mmと大きいため、小型化が困難であった。
【0007】
光導波路の光波の閉じ込めを強くする方法として、
図1乃至3に示すように、基板(1)表面に凸状部分のリブ型光導波路10を形成することが行われている。しかしながら、上述したようにTiの熱拡散による光導波路では、基板表面に形成される凸状部分の高さは、50nm程度であるが、リブ型光導波路の凸状部分は、数μmにもなる。
図1は、光導波路素子の端部付近を平面視した図であり、
図2は
図1の一点鎖線A-A’における断面図であり、
図3は、
図1の一点鎖線C-C’の断面図である。符号1は、光導波路10を形成する基板(薄板又は薄膜)であり、符号2は、該基板を保持する保持基板である。
【0008】
近年、基板の研磨技術や基板の貼り合わせ技術が向上し、LN基板の薄板化が可能となり、光導波路のMFDも3μm以下、1μm程度が研究開発されている。MFDが小さくなるに従い、光の閉じ込め効果も大きくなるため、光導波路の曲げ半径もより小さくすることができる。
【0009】
しかしながら、光ファイバのMFDである10μmφよりも小さいMFD(例えば4μm以下)を有する光導波路を使用する場合には、光導波路素子に設けられた光導波路の端部(素子端面)と、光ファイバとを直接接合すると、大きな結合損失が発生する。
【0010】
このような不具合を解消するには、光導波路の端部にスポットサイズ変換部(スポットサイズコンバーター,SSC)を配置することが考えらえる。一般的なSSCは、二次元又は三次元に光導波路を拡大する、テーパー形状の光導波路部分を設ける構成である。参考までに、特許文献1乃至3には、テーパー型導波路の例が示されている。
【0011】
光導波路のコア部を徐々に拡大することでスポットサイズを拡大するテーパー型光導波路は、スポットサイズに適したコア部とクラッド部の屈折率調整の難易度が高く、マルチモードを誘起し易いため、光導波路素子のSSCとしては、使用可能なデザインに制限がある。さらに、必要なスポットサイズに変換するためには比較的長くテーパー部分を形成する必要が有り、光導波路素子の小型化が難しいという問題があった。
【0012】
本出願人においては、
図4乃至5に示すようなSSCを提案しており、リブ型の光導波路10の先端を幅が狭くなるテーパー形状10’とし、それを取り囲むようにコア部となるブロック部12を配置している。ブロック部12の屈折率は光導波路10の屈折率よりも低く設定されており、さらに、ブロック部12よりも屈折率が0.01~0.03程度低い有機材料4で、ブロック部12を取り囲んでいる。この有機材料は、接着剤を硬化したもの等で構成することが可能である。このSSCは、ブロック部12で覆われた状態で光導波路10の先端をテーパー形状10’とすることで、光導波路10のテーパー形状10’の部分における実効屈折率が低下し、光の閉じ込めが弱くなる。これによりブロック部12に光のモードが移行し、光導波路10よりも大きなMFDを実現している。
【0013】
さらに、光導波路基板の端面(
図1又は4の図面の下側、あるいは
図3の図面の右側)には、光ファイバやレンズ等の光学ブロックが接続される。これらの接続の際に、基板側を補強するため、補強部材3が設けられている。光導波路基板1と補強部材3とは、接着剤4で接合されている。
図1において符号30は、補強部材3の他方の端面を参考までに示しているが、端面の配置位置はこれに限定されない。
【0014】
上述したように、Tiの熱拡散による光導波路の場合には、光導波路基板と補強部材3との間では接着剤に含まれる気泡が抜けづらいという問題があった。これと同様に、補強部材3との接合面に
図2のリブ型光導波路10や
図5のSSC構造のような高く突出する凸状部分がある場合には、接着剤に含まれる気泡Bの移動が当該突起物で堰き止められ、接着剤4の中に留まり易くなる。特に、従来のTiの熱拡散による光導波路(高さ50nm程度)と比較すると、
図3のリブ型光導波路の高さHが、例えば、2.5μmの場合は、約50倍も高い。さらに
図5のSSCの高さHは、例えば、3μm以上の場合、従来のリブ型光導波路よりも高くなるため、この問題は一層顕著となる。しかも、接着剤4と気泡Bの屈折率が異なるため、気泡Bが光導波路10の近傍に存在することで、伝搬する光波が散乱等の影響を受け、光損失の原因ともなる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0015】
【文献】特開2006-284961号公報
【文献】特開2007-264487号公報
【文献】国際公開WO2012/042708号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0016】
本発明が解決しようとする課題は、上述したような問題を解決し、Ti等の拡散導波路、リブ型光導波路、さらにはスポットサイズ変換部などの凸状部分を光導波路基板に形成した場合でも、補強部材を接合する接着剤内の気泡を、光導波路等の近傍から除去し、光損失を低減した光導波路素子を提供することである。さらには、その光導波路素子を用いた光変調デバイスと光送信装置を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0017】
上記課題を解決するため、本発明の光導波路素子及びそれを用いた光変調デバイス並びに光送信装置は、以下の技術的特徴を有する。
(1) 電気光学効果を有する材料で形成される光導波路を備えた光導波路基板と、該光導波路の端部付近で、該光導波路の上側に配置される補強部材と、該光導波路基板と該補強部材とは接着層を介して接合される光導波路素子において、該光導波路は、リブ型の光導波路であり、該接着層は、該光導波路基板と該補強部材との間を接着剤で充填するように構成され、該補強部材の該光導波路基板に最も近接する部分は、該光導波路の凸状部分の高さよりも離れて配置されており、該補強部材の該光導波路基板に対向した面には、平面視した際に該光導波路と重ならない位置であり、かつ、該光導波路を伝搬する光波のモードフィールド径に重ならない位置に、溝が形成されていることを特徴とする。
【0019】
(2) 上記(1)に記載の光導波路素子において、該光導波路の端部には、該光導波路の一部として、該光導波路を伝搬する光波のモードフィールド径を変化するスポットサイズ変換部が配置されていることを特徴とする。
【0021】
(3) 上記(1)又は(2)に記載の光導波路素子において、該光導波路の延在方向に対して垂直な面における該溝の断面積は、当該面における該光導波路の該凸状部分の断面積よりも大きくなるように設定されていることを特徴とする。
【0022】
(4) 上記(1)乃至(3)のいずれかに記載の光導波路素子において、該補強部材の下側に位置する該光導波路の該凸状部分の体積より、該溝の体積の方がより大きくなるように設定されていることを特徴とする。
【0023】
(5) 上記(1)乃至(4)のいずれかに記載の光導波路素子において、該溝の深さは該光導波路の該凸状部分の高さより大きく、又は該溝の開口部の幅は該光導波路の該凸状部分の幅よりも大きくなるように設定されていることを特徴とする。
【0024】
(6) 上記(1)乃至(5)のいずれかに記載の光導波路素子において、該溝の延在方向に対して垂直な断面における溝の形状は、多角形状であることを特徴とする。
【0025】
(7) 上記(1)乃至(6)のいずれかに記載の光導波路素子において、該溝の内面の少なくとも一部には曲面が形成されていることを特徴とする。
【0026】
(8) 上記(1)乃至(7)のいずれかに記載の光導波路素子において、該補強部材の上方から平面視した際に、該溝は、該光導波路を挟むように配置されていることを特徴とする。
【0027】
(9) 上記(1)乃至(8)いずれかに記載の光導波路素子は、筐体内に収容され、該光導波路に光波を入力又は出力する光ファイバを備えることを特徴とする光変調デバイスである。
【0028】
(10) 上記(9)に記載の光変調デバイスにおいて、該光導波路素子は該光導波路を伝搬する光波を変調するための変調電極を備え、該光導波路素子の変調電極に入力する変調信号を増幅する電子回路を該筐体の内部に有することを特徴とする。
【0029】
(11) 上記(9)又は(10)に記載の光変調デバイスと、該光変調デバイスに変調動作を行わせる変調信号を出力する電子回路とを有することを特徴とする光送信装置である。
【発明の効果】
【0030】
本発明は、電気光学効果を有する材料で形成される光導波路を備えた光導波路基板と、該光導波路の端部付近で、該光導波路の上側に配置される補強部材と、該光導波路基板と該補強部材とは接着層を介して接合される光導波路素子において、該光導波路は、リブ型の光導波路であり、該接着層は、該光導波路基板と該補強部材との間を接着剤で充填するように構成され、該補強部材の該光導波路基板に最も近接する部分は、該光導波路の凸状部分の高さよりも離れて配置されており、該補強部材の該光導波路基板に対向した面には、平面視した際に該光導波路と重ならない位置であり、かつ、該光導波路を伝搬する光波のモードフィールド径に重ならない位置に、溝が形成されているため、当該溝に接着剤内の気泡を集め、リブ型光導波路の近傍から気泡を除去することができる。これにより、光導波路素子の光損失を低減させることも可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0031】
【
図1】従来のリブ型光導波路を用いた光導波路素子の平面図である。
【
図2】
図1の一点鎖線A-A’における断面図である。
【
図3】
図1の一点鎖線C-C’における断面図である。
【
図4】スポットサイズ変換部を用いた光導波路素子の平面図である。
【
図5】
図4の一点鎖線A-A’における断面図である。
【
図6】本発明の光導波路素子に係る実施例を示す平面図である。
【
図7】
図6の一点鎖線A-A’における断面図である。
【
図8】本発明の光導波路素子に使用される溝の応用例1を説明する図である。
【
図9】本発明の光導波路素子に使用される溝の応用例2を説明する図である。
【
図10】本発明の光導波路素子に使用される溝の応用例3を説明する図である。
【
図11】本発明の光導波路素子を使用した光変調デバイス及び光送信装置を説明する平面図である。
【発明を実施するための形態】
【0032】
以下、本発明の光導波路素子について、好適例を用いて詳細に説明する。
本発明の光導波路素子は、
図6及び7に示すように、電気光学効果を有する材料で形成される光導波路10を備えた光導波路基板1と、該光導波路の端部付近で、該光導波路の上側に配置される補強部材3と、該光導波路基板1と該補強部材3とは接着層4を介して接合される光導波路素子において、該補強部材3の該光導波路基板1に対向した面に、溝31が形成されていることを特徴とする。
【0033】
本発明の光導波路素子に使用される電気光学効果を有する材料1は、ニオブ酸リチウム(LN)やタンタル酸リチウム(LT)、PLZT(ジルコン酸チタン酸鉛ランタン)などの基板や、これらの材料による気相成長膜などが利用可能である。
また、半導体材料や有機材料など種々の材料も光導波路として利用可能である。
【0034】
光導波路10の形成方法としては、LN基板にTi等を熱拡散して形成する方法や、光導波路以外の基板1をエッチングしたり、光導波路の両側に溝を形成するなど、基板に光導波路に対応する部分を凸状としたリブ型の光導波路を利用することが可能である。さらに、リブ型の光導波路に合わせて、Tiなどを熱拡散法やプロトン交換法などで基板表面に拡散させることにより、屈折率をより高くすることも可能である。以下の説明は、リブ型光導波路やSSCを中心に説明するが、これらの考え方はTi拡散導波路など凸状部分を有する他の光導波路にも該当するものである。
【0035】
光導波路10を形成した基板(薄板)の厚さは、変調信号のマイクロ波と光波との速度整合を図るため、10μm以下、より好ましくは5μm以下、さらに好ましくは1μm以下に設定される。また、リブ型光導波路の高さは、4μm以下、より好ましくは3μm以下、さらに好ましくは1μm以下や0.4μm以下に設定される。また、補強基板3の上に気相成長膜を形成し、当該膜を光導波路の形状に加工することも可能である。
【0036】
光導波路を形成した基板1は、機械的強度を高めるため、直接接合又は樹脂等の接着層を介して、保持基板2に接着固定される。直接接合する保持基板2としては、光導波路や光導波路を形成した基板よりも屈折率が低く、光導波路などと熱膨張率が近い材料、例えば水晶やガラス、サファイヤ等の酸化物層を含む基板が好適に利用される。SOI、LNOIと略されるシリコン基板上に酸化ケイ素層やLN基板上に酸化ケイ素層を形成した複合基板も利用可能である。
【0037】
光導波路10の高さが1μm以下の場合には、
図6及び7に示すように、
図4及び5と同様のスポットサイズ変換部(SSC)のブロック体12が形成される。本発明はこれらに限定されず、特許文献1乃至3に示すようなテーパー形状のスポットサイズ変換部であっても良い。なお、ここではスポットサイズ変換部はリブ型の光導波路の先端を幅が狭くなるテーパー形状とし、それを取り囲むようにコア部となるブロック部を配置した構成として説明したが、それに限定されることはなく、ブロック部を用いずリブ型の光導波路の先端の幅を徐々に拡大した形状としてもよい。
【0038】
図1乃至5で説明したように、リブ型光導波路10やスポットサイズ変換部(SSC)の上側には、補強部材3が配置される。補強部材3には、保持基板2と同じ程度の屈折率や線膨張係数を有する材料が利用される。線膨張係数が一致していると、補強部材(上部基板)が熱応力で外れるなど不具合を低減することが可能となり、耐熱性に優れた光導波路素子が得られる。補強部材3と光導波路基板1又は保持基板2とを接合する接着剤4には、UV硬化樹脂や、アクリル系やエポキシ系等の樹脂などによる接着剤が使用可能である。
【0039】
本発明の光導波路素子の特徴は、接着剤4に含まれる気泡Bを集め、光導波路近傍から除去するため、補強部材3に溝31を設けることである。溝31は、
図1乃至3に示すようなリブ型光導波路10や、
図6及び7に示すような光導波路の一部であるスポットサイズ変換部(SSC)を伝搬する光波のモードフィールド径(MFD)のプロファイルに影響を与えないようにMFDに重ならない位置に設けることが好ましい。また、MFDの端部よりMFDの15%以上離れた位置に設けるとさらに好ましい。
図2のリブ型光導波路10に適用する場合も同様である。
なお、本発明において「光導波路」とは、特に限定した構成が明記されていない場合は、SSCも光導波路の一部として含む概念である。
【0040】
溝31のサイズは、光導波路近傍の気泡Bを十分に収容できる程度の大きさを確保する必要がある。その一例として、光導波路の延在方向に対して垂直な面(
図7の状態)における溝31の断面積AR1は、当該面における光導波路のリブ部分(
図7の場合はSSCのブロック体12)の断面積AR0よりも大きくなるように設定されている。より精確には、リブ部分の周辺に気泡が存在している状態から、リブ部分を伝搬する光波のMFDの範囲内、より好ましくは、MFDの端部よりMFDの15%以上離れた位置の範囲内には気泡が存在しないように、気泡を集めるために必要な断面積が、溝31の最低限の断面積となる。
【0041】
溝31のサイズを、溝の断面積AR1で設定したが、これに限らず、溝31の深さを光導波路の凸状部分の高さより大きく設定したり、溝31の開口部の幅を光導波路の凸状部分の幅よりも大きくなるように設定することも可能である。当然、これらの条件を組み合わせて用いることもできる。なお、凸状部分とはTi拡散導波路などの凸状部分、リブ型光導波路などの凸状部分、SSCのブロック体などの凸状部分はもちろんのこと、接着層4内において光導波路基板1や保持基板2の凸状の形状変化部や光導波路基板1や保持基板2の上部に設けた別体の凸状部分を含む概念である。
【0042】
さらに、溝31のサイズの別の設定方法として、補強部材3の下側に位置する光導波路のリブ部分(SSCの場合はブロック体12)の体積より、溝の体積の方がより大きくなるように設定することも可能である。また、より精確には、リブ部分の周り1μmの範囲の体積(リブ部分を除く)を、溝31の最低限の体積とすることである。
【0043】
図7に示すように、溝31は、2本以上設けることが可能である。特に、平面視した際に光導波路を挟むように左右対称に溝を配置することが好ましい。これは、溝の存在により接着剤に発生する内部応力が、光導波路に左右均等に印加されるように構成するためでもある。光導波路に近傍して配置する溝が多くなると、その分、1本当たりの溝に収容する気泡の量も少なくなるため、上述した断面積や体積は、溝の本数で案分することも可能である。
【0044】
補強部材3の光導波路のリブ部分(
図7のSSCのブロック体12)に近接する面3Dの表面は、滑らかに仕上げ、気泡が移動し易くなるように構成し、溝の内面、特に最深部の面3Eの表面は、粗く仕上げ、気泡が移動し難くなるように構成することが好ましい。これにより、より効率的に気泡が溝に収容されることとなる。
【0045】
補強部材3に形成する溝の断面形状は、
図7に示すように矩形状に限らず、
図8に示すように三角形状32とすることも可能である。なお、
図8のように多角形状で構成する場合には、角部R1~R3に接着剤の内部応力が集中する可能性もあるため、角部R1~R3の形状は、溝の外側に膨らんだ曲面とすることが好ましい。また、
図8に示す角度θは、30度から90度の範囲で設定することが可能である。当然、溝の内面全体を曲面で構成することも可能である。
【0046】
図9及び10は、溝の形状の応用例であり、
図9では、直線的な溝31に対して、波打つような非直線的な溝であっても良い。溝31は、光導波路の延在する方向に並行に配置されているが、必要に応じて、溝の配置角度を傾けることも可能である。例えば、MFDが広がるのに合わせて溝間の距離も変化させても良い。
【0047】
図10のように、補強部材3の局所的に孤立した溝34や、光導波路のリブ部分(SSCのブロック体12)の延在方向に対し垂直など角度を持った方向に延びる溝35を設けることも可能である。なお、
図9の溝31,33、
図10の溝35のように、補強部材3の端面に露出する溝を形成することで、気泡が補強部材3の外側に排出されやすくなり、より気泡の除去効果を高めることが可能となる。なお、溝35は補強部材3の端面に露出するように形成されているが、溝34のように局所的に孤立した溝としてもよい。
【0048】
本発明の光導波路素子は、光導波路基板1に光導波路10を伝搬する光波を変調する変調電極を設け、
図11のように、筐体CA内に収容される。さらに、光導波路に光波を入出力する光ファイバ(F)を設けることで、光変調デバイスMDを構成することができる。
図11では、光ファイバは、筐体の側壁を貫通する貫通孔を介して筐体内に導入し、光導波路素子に直接接合されている。光導波路素子と光ファイバとは、空間光学系を介して光学的に接続することも可能である。
【0049】
光変調デバイスMDに変調動作を行わせる変調信号S0を出力する電子回路(デジタル信号プロセッサーDSP)を、光変調デバイスMDに接続することにより、光送信装置OTAを構成することが可能である。光導波路素子に印加する変調信号Sは増幅する必要があるため、ドライバ回路DRVが使用される。ドライバ回路DRVやデジタル信号プロセッサーDSPは、筐体CAの外部に配置することも可能であるが、筐体CA内に配置することも可能である。特に、ドライバ回路DRVを筐体内に配置することで、ドライバ回路からの変調信号の伝搬損失をより低減することが可能となる。
【産業上の利用可能性】
【0050】
以上説明したように、本発明によれば、Ti等の拡散導波路、リブ型光導波路、さらにはスポットサイズ変換部などの凸状部分を光導波路基板に形成した場合でも、補強部材を接合する接着剤内の気泡を、光導波路等の近傍から除去し、光損失を低減した光導波路素子を提供することが可能となる。さらには、その光導波路素子を用いた光変調デバイスと光送信装置を提供することが可能となる。
【符号の説明】
【0051】
1 光導波路を形成する基板(薄板,膜体)
2 保持基板(光導波路基板の一部)
3 補強部材
4 接着剤
10 リブ型光導波路
12 ブロック体(SSCの一部)
31~35 溝