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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2025-04-17
(45)【発行日】2025-04-25
(54)【発明の名称】発光反応を触媒するペプチド
(51)【国際特許分類】
   C07K 7/08 20060101AFI20250418BHJP
   C12N 1/15 20060101ALI20250418BHJP
   C12N 1/19 20060101ALI20250418BHJP
   C12N 1/21 20060101ALI20250418BHJP
   C12N 5/10 20060101ALI20250418BHJP
   C12N 9/02 20060101ALI20250418BHJP
   C12N 15/12 20060101ALI20250418BHJP
   C12N 15/53 20060101ALI20250418BHJP
   C12N 15/63 20060101ALI20250418BHJP
   C12P 21/02 20060101ALI20250418BHJP
【FI】
C07K7/08 ZNA
C12N1/15
C12N1/19
C12N1/21
C12N5/10
C12N9/02
C12N15/12
C12N15/53
C12N15/63 Z
C12P21/02 C
【請求項の数】 9
(21)【出願番号】P 2023547166
(86)(22)【出願日】2022-09-12
(86)【国際出願番号】 JP2022034659
(87)【国際公開番号】W WO2023038157
(87)【国際公開日】2023-03-16
【審査請求日】2024-01-25
(31)【優先権主張番号】P 2021148584
(32)【優先日】2021-09-13
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)令和2年度、国立研究開発法人科学技術振興機構、戦略的創造研究推進事業(さきがけ)、細胞の動的高次構造体「発光反応場を構成するペプチドプローブ開発」委託研究、産業技術力強化法第17条の適用を受ける特許出願
(73)【特許権者】
【識別番号】301021533
【氏名又は名称】国立研究開発法人産業技術総合研究所
(74)【代理人】
【識別番号】100145403
【弁理士】
【氏名又は名称】山尾 憲人
(74)【代理人】
【識別番号】100170520
【弁理士】
【氏名又は名称】笹倉 真奈美
(74)【代理人】
【識別番号】100221545
【弁理士】
【氏名又は名称】白江 雄介
(72)【発明者】
【氏名】西原 諒
(72)【発明者】
【氏名】栗田 僚二
【審査官】福澤 洋光
(56)【参考文献】
【文献】特開2012-130282(JP,A)
【文献】特開2018-158896(JP,A)
【文献】Luminescence,2012年,Vol.27,pp.234-241
【文献】Bioconjugate Chemistry,2020年,Vol.31,pp.2679-2684
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C07K 1/00-19/00
C12N 1/00-15/90
C12P 1/00-41/00
CAplus/BIOSIS/MEDLINE/EMBASE(STN)
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
UniProt/GeneSeq
PubMed
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
配列番号9、1、12、17、18、19、21、24、25、26、28、31、32、33、34、35、36、37、41、42、43、47、48、49、51、52、53、55、57、59、60、62、63、65、66、67または68のいずれかに示すアミノ酸配列からなる、ルシフェリン酸化発光反応を触媒するペプチド。
【請求項2】
2次構造を形成する、請求項項記載のペプチド。
【請求項3】
請求項記載のペプチドが複数個連結されたペプチドであって、ルシフェリン酸化発光反応を触媒するペプチド。
【請求項4】
請求項1~3いずれか1項記載のペプチドをコードするポリヌクレオチド。
【請求項5】
請求項記載のポリヌクレオチドを含む発現ベクター
【請求項6】
請求項記載の発現ベクターを導入した細胞。
【請求項7】
請求項1~いずれか1項記載のペプチド、該ペプチドをコードするポリヌクレオチド、該ポリヌクレオチドを含む発現ベクター、または該発現ベクターを導入した細胞を含む、生物発光分析用キット。
【請求項8】
ルシフェリン、および請求項1~いずれか1項記載のペプチド、該ペプチドをコードするポリヌクレオチド、該ポリヌクレオチドを含む発現ベクター、または該発現ベクターを導入した細胞を用いることを含む、生物発光分析方法。
【請求項9】
請求項1~いずれか1項記載のペプチドの製造方法であって、請求項記載の細胞を培養し、培養物から請求項1~いずれか1項記載のペプチドを得ることを含む方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、生物発光反応を触媒するペプチドに関する。詳細には、ルシフェリンの発光反応を触媒する短いペプチド、該ペプチドの製造方法、該ペプチドを含む生物発光分析用キット、生物発光プローブとしての該ペプチドの使用等に関する。さらに本発明は、該ペプチドをコードするポリヌクレオチド、該ポリヌクレオチドを含む発現ベクター、該発現ベクターを導入した細胞等にも関する。
【背景技術】
【0002】
生物発光反応には、通常、基質ルシフェリンの酸化反応を触媒する酵素ルシフェラーゼが必要である。ルシフェラーゼの例としては、天然の北米産ホタルルシフェラーゼ(アミノ酸残基数550、分子量61kDa)や深海エビ由来のルシフェラーゼ(アミノ酸残基数169、分子量19kDa)等が挙げられる(特許文献1、2等参照)。ルシフェリン-ルシフェラーゼを組み合わせたプローブは、生命科学分野において欠かせない分子プローブになりつつある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2009-65925号公報
【文献】特開2015-202096号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ルシフェリン-ルシフェラーゼを組み合わせたプローブを用いて生命現象を解析するに際して、ルシフェラーゼの分子量が大きいので、生命現象に対するアーティファクトな効果は無視できない。そこで、ルシフェリン酸化発光反応を触媒する、より分子量の小さい物質を見出す必要がある。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明者らは、上記課題を解決するために鋭意研究を重ね、ヒト血清アルブミンの酵素反応に関与する重要アミノ酸を組み込んだ短いペプチドを設計し、合成した。そして、これらのペプチドがルシフェリンの酸化発光を触媒することを見出し、本発明を完成させるに至った。本発明のルシフェリン酸化発光反応を触媒するペプチドは、世界最小のルシフェラーゼということができる。
【0006】
すなわち、本発明は以下のものを提供する:
(1)下記アミノ酸配列:
(a)RLRFLLHRLAIIAE (配列番号:9)、または
(b)(a)に示すアミノ酸配列において、1個~数個のアミノ酸が置換、欠失、挿入または付加されているアミノ酸配列
を含む、ルシフェリン酸化発光反応を触媒するペプチド。
(2)配列番号:9に示すアミノ酸配列において、1位、4位、5位、6位、7位、8位、9位、10位、13位および14位のうち1個以上のアミノ酸が置換されているアミノ酸配列を含む、(1)記載のペプチド。
(3)配列番号:9に示すアミノ酸配列において、4位、7位および9位のうち1個以上のアミノ酸が置換されているアミノ酸配列を含む、(1)または(2)記載のペプチド。
(4)配列番号:9に示すアミノ酸配列において、
4位のアミノ酸が置換されていないか、あるいはイソロイシンに置換されている、および/または
7位のアミノ酸がグリシン、アスパラギン、グルタミン、セリンまたはスレオニンに置換されている、および/または
9位のアミノ酸がチロシン、フェニルアラニンまたはイソロイシンに置換されている
アミノ酸配列を含む、(3)記載のペプチド。
(5)下記アミノ酸配列(i)~(x)のいずれか:
(i)RLRFLLGRLAIIAE (配列番号:18)
(ii)RLRFLLNRLAIIAE (配列番号:34)
(iii)RLRFLLQRLAIIAE (配列番号:35)
(iv)RLRFLLSRLAIIAE (配列番号:36)
(v)RLRFLLTRLAIIAE (配列番号:37)
(vi)RLRILLGRIAIIAE (配列番号:50)
(vii)RLRILLGRYAIIAE (配列番号:51)
(viii)RLRILLGRFAIIAE (配列番号:52)
(ix)RLRFLLGRIAIIAF (配列番号:60)
(x)(i)~(ix)のいずれかのアミノ酸配列において、1個~数個のアミノ酸が置換、欠失、挿入または付加されているアミノ酸配列
を含む、(1)~(4)いずれか記載のペプチド。
(6)下記アミノ酸配列(i)~(x)のいずれか
(i)RLRFLLGRLAIIAE (配列番号:18)
(ii)RLRFLLNRLAIIAE (配列番号:34)
(iii)RLRFLLQRLAIIAE (配列番号:35)
(vii)RLRILLGRYAIIAE (配列番号:51)
(viii)RLRILLGRFAIIAE (配列番号:52)
(x)(i)、(ii)、(iii)、(vii)または(viii)のいずれかのアミノ酸配列において、1個~数個のアミノ酸が置換、欠失、挿入または付加されているアミノ酸配列
を含む、(5)記載のペプチド。
(7)アミノ酸残基数が50以下である、(1)~(6)のいずれか記載のペプチド。
(8)2次構造を形成する、(1)~(7)のいずれか記載のペプチド。
(9)(1)~(8)のいずれか記載のペプチドが複数個連結されたペプチドであって、ルシフェリン酸化発光反応を触媒するペプチド。
(10)下記アミノ酸配列:
(c)KFWARLRFLLHRLAIIAE (配列番号:1)、または
(d)配列番号:1に示すアミノ酸配列において、1個~数個のアミノ酸が置換、欠失、挿入または付加されているアミノ酸配列
を含む、ルシフェリン酸化発光反応を触媒するペプチド。
(11)配列番号:1に示すアミノ酸配列のN末端から1個~4個のアミノ酸が欠失しているアミノ酸配列を含む、(10)記載のペプチド。
(12)アミノ酸残基数が50以下である、(10)または(11)記載のペプチド。
(13)2次構造を形成する、(10)~(12)のいずれか記載のペプチド。
(14)(10)~(13)のいずれか記載のペプチドが複数個連結されたペプチドであって、ルシフェリン酸化発光反応を触媒するペプチド。
(15)(1)~(14)のいずれか記載のペプチドをコードするポリヌクレオチド。
(16)(15)記載のポリヌクレオチドを含む発現ベクター
(17)(16)記載の発現ベクターを導入した細胞。
(18)(1)~(14)のいずれか記載のペプチド、該ペプチドをコードするポリヌクレオチド、該ポリヌクレオチドを含む発現ベクター、または該発現ベクターを導入した細胞を含む、生物発光分析用キット。
(19)ルシフェリン、および(1)~(14)のいずれか1項記載のペプチド、該ペプチドをコードするポリヌクレオチド、該ポリヌクレオチドを含む発現ベクター、または該発現ベクターを導入した細胞を用いることを含む、生物発光分析方法。
(20)(1)~(14)のいずれか記載のペプチドの製造方法であって、請求項17記載の細胞を培養し、培養物から(1)~(14)のいずれか記載のペプチドを得ることを含む方法。
【発明の効果】
【0007】
本発明のルシフェリン酸化発光反応を触媒するペプチドは短いペプチドであるため、生命現象に対するアーティファクトな効果が少ないか、あるいは問題とならない。そのため、従来のルシフェリン-ルシフェラーゼの組み合わせよりも正確に生命現象を解析することができる。本発明のペプチドは、従来のルシフェラーゼ同様、遺伝子工学的手法により目的分子および組織の発光標識も可能であるが、低分子のプローブであるため、散布するだけでも目的試料の発光標識が可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
図1図1は、KE-18、PS-16、PS-16SSのpH7.4におけるCDスペクトルを示す。
図2図2は、pHまたはバッファーを変えて測定したKE-18のCDスペクトルを示す。
図3図3(i)は、KE-18およびそのC末端欠損ペプチドのCDスペクトル(10mM、PBバッファー、pH7.4)、図3(ii)は、KE-18およびそのN末端欠損ペプチドのCDスペクトル(10mM、PBバッファー、pH7.4)、図3(iii)は、ウミホタルルシフェリンとKE-18C末端欠損ペプチドおよびKE-18N末端欠損ペプチドとの発光シグナル、図3(iv)は、ウミホタルルシフェリンとウミホタルルシフェラーゼ、KE-18およびRE-14との発光スペクトルを示す。
図4図4は、ウミホタルルシフェリンとRE-14の各アミノ酸をグリシンに置換したペプチドとの発光シグナルを示す。各ペプチドの2次構造も合わせて図中に示す。
図5図5は、ウミホタルルシフェリンとRE-14の7位のアミノ酸を他のアミノ酸に置換したペプチドとの発光シグナルを示す。各ペプチドの2次構造も合わせて図中に示す。
図6図6は、ウミホタルルシフェリンとRE14-G7の4位および9位のアミノ酸を他のアミノ酸に置換したペプチドとの発光シグナルを示す。各ペプチドの2次構造も合わせて図中に示す。
【発明を実施するための形態】
【0009】
本発明は、第1の態様において、下記アミノ酸配列:
(a)RLRFLLHRLAIIAE (配列番号:9)、または
(b)配列番号:9に示すアミノ酸配列において、1個~数個のアミノ酸が置換、欠失、挿入または付加されているアミノ酸配列
を含む、ルシフェリン酸化発光反応を触媒するペプチドを提供する。
【0010】
本明細書において、ペプチドは、複数のアミノ酸残基がペプチド結合を介して連結された分子を意味する。本明細書において、短いペプチドとは、約70アミノ酸残基以下、好ましくは50アミノ酸残基以下、例えば約30残基以下、約25残基以下または約20残基以下のペプチドをいう。本発明のペプチドを構成するアミノ酸は、通常はL-アミノ酸であるが、D-アミノ酸であってもよい。本発明のペプチドを構成するアミノ酸は通常のタンパク質を構成するアミノ酸であってもよく、通常のタンパク質を構成しないアミノ酸であってもよい。本発明のペプチドを構成するアミノ酸は、修飾されたものであってもよい。
【0011】
本発明のペプチドは、公知の方法にて製造することができる。例えば、公知の固相合成法を用いて本発明のペプチドを製造することができる、あるいは本発明のペプチドをコードするポリヌクレオチドをベクターに組み込んで、宿主細胞に導入し、宿主細胞を培養して本発明のペプチドを得てもよい。このような遺伝子工学的手法は、本発明のペプチドがタンデムに連結されたものを製造する際に有用である。
【0012】
ルシフェリン酸化発光反応は公知であり、基質ルシフェリンが酸化されて励起状態となり、基底状態に戻る際に光子を発生する反応である。この酸化を触媒するのが酵素ルシフェラーゼである。したがって、本発明のペプチドはルシフェラーゼということができる。ペプチドのルシフェリン酸化発光反応触媒活性については、公知の手段・方法にて測定することができる。例えば、ペプチドとルシフェリンを反応させ、生じる光をルミノメーターやプレートリーダーを用いて測定してもよい。
【0013】
ルシフェリンは様々な生物由来の様々な構造のものが知られている。例えば、ホタルのルシフェリン、細菌類のルシフェリン、渦鞭毛藻類のルシフェリン、ウミホタルのルシフェリン、セレンテラジンなどが挙げられる。本発明のペプチドは、イミダゾピラジノン環(イミダゾ[1,2-a]ピラジン-3(7H)-オン)を母骨格に持つルシフェリンを基質とすることができる。またイミダゾ[1,2-b]ピリダジン-3(5H)-オン、イミダゾ[2,1-f][1,2,4]トリアジン-7(1H)-オン、イミダゾ[1,2-a]ピリジン-3-オール、イミダゾ[1,2-a]キノキサリン-1(5H)-オン、ベンゾ[f]イミダゾ[1,2-a]キノキサリン-3(11H)-オン、イミダゾ[1’,2’:1,6]ピラジノ[2,3-c]キノリン-3(11H)-オン、5,11-ジヒドロ-3H-クロメノ[4,3-e]イミダゾ[1,2-a]ピラジン-3-オン(Glwadys Gagnot et al.,Chem.Eur.J.2021,27,2112-2123.)を母骨格とするルシフェリンも基質とすることができる。イミダゾピラジノン環を母骨格に持つルシフェリンの例としては、セレンテラジンやウミホタルのルシフェリン、あるいはそれらの類縁体が挙げられるが、これらに限定されない。本発明のペプチドの基質となるルシフェリンは、天然由来のものであってもよく、その誘導体であってもよく、合成品であってもよい。
【0014】
上記第1の態様のペプチドは、配列番号:9に示す14個のアミノ酸残基からなるアミノ酸配列、またはその変異アミノ酸配列を含む。本明細書において、あるアミノ酸配列を含むペプチドは、そのアミノ酸配列を含むペプチドのほか、そのアミノ酸配列からなるペプチドも意味する。
【0015】
配列番号:9の変異アミノ酸配列は、配列番号:9に示すアミノ酸配列において、1個~数個のアミノ酸が置換、欠失、挿入または付加されているアミノ酸配列である。本明細書において、数個とは、2個、3個、4個、5個、6個、7個、8個または9個を意味する。
【0016】
配列番号:9の変異アミノ酸配列の好ましい例として、その1位、4位、5位、6位、7位、8位、9位、10位、13位および14位のうち1個以上のアミノ酸が置換されているアミノ酸配列が挙げられる。
【0017】
本発明のペプチド中のアミノ酸は任意のアミノ酸にて置換されうるが、好ましくは同様の性質および/または構造を有するアミノ酸にて置換される。例えば、以下のカッコ内のアミノ酸を互いに置換してもよい:(G、A)、(K、R、H)、(D、E)、(N、Q)、(S、T、Y)、(C、M)、(F,W、Y、H)、(V、L、I)。
【0018】
配列番号:9の変異アミノ酸配列のさらに好ましい例として、その4位、7位および9位のうち1個以上のアミノ酸が置換されているアミノ酸配列が挙げられる。
【0019】
配列番号:9のアミノ酸配列の7位のアミノ酸(H)を他のアミノ酸に置換することによって、ルシフェリン発光活性を高めてもよい。配列番号:9のアミノ酸配列の7位のアミノ酸を、グリシン、アスパラギン、グルタミン、セリンまたはスレオニンに置換することによって、ルシフェリン発光活性を高めてもよい。好ましくは、配列番号:9のアミノ酸配列の7位のアミノ酸を、グリシン、アスパラギンまたはグルタミンに置換することによって、ルシフェリン発光活性を高めてもよい。より好ましくは、配列番号:9のアミノ酸配列の7位のアミノ酸をグルタミンに置換することによって、ルシフェリン発光活性を高めてもよい。
【0020】
配列番号:9のアミノ酸配列の4位のアミノ酸(F)および/または9位のアミノ酸(L)を他のアミノ酸に置換することによって、ルシフェリン発光活性を高めてもよい。これらの位置のアミノ酸は、ペプチドがβ-シート構造を形成することに貢献しうる。ペプチドがβ-シート構造やα-ヘリックス構造などの二次構造を形成する場合に、ルシフェリン発光活性が上昇しうる(この点については後ほど説明する)。スレオニン、イソロイシン、フェニルアラニンおよびトリプトファンは、タンパク質やペプチドのβ-シート構造形成に貢献しうる。配列番号:9のアミノ酸配列の4位のアミノ酸をイソロイシンに置換するかまたは置換せず、および/または9位のアミノ酸をチロシン、フェニルアラニンまたはイソロイシンに置換することによって、ルシフェリン発光活性を高めてもよい。好ましくは、配列番号:9のアミノ酸配列の4位のアミノ酸をイソロイシンに置換すること、および/または9位のアミノ酸をチロシンまたはフェニルアラニンに置換することによって、ルシフェリン発光活性を高めてもよい。
【0021】
配列番号:9の変異アミノ酸配列の好ましい具体例として、以下のアミノ酸配列が挙げられる:
(i)RLRFLLGRLAIIAE (配列番号:18)
(ii)RLRFLLNRLAIIAE (配列番号:34)
(iii)RLRFLLQRLAIIAE (配列番号:35)
(iv)RLRFLLSRLAIIAE (配列番号:36)
(v)RLRFLLTRLAIIAE (配列番号:37)
(vi)RLRILLGRIAIIAE (配列番号:50)
(vii)RLRILLGRYAIIAE (配列番号:51)
(viii)RLRILLGRFAIIAE (配列番号:52)
(ix)RLRFLLGRIAIIAE (配列番号:60)。
上記アミノ酸配列において、1個~数個のアミノ酸が置換、欠失、挿入または付加されていてもよい。
【0022】
配列番号:9の変異アミノ酸配列のより好ましい具体例として、以下のアミノ酸配列が挙げられる:
(i)RLRFLLGRLAIIAE (配列番号:18)
(ii)RLRFLLNRLAIIAE (配列番号:34)
(iii)RLRFLLQRLAIIAE (配列番号:35)
(vii)RLRILLGRYAIIAE (配列番号:51)
(viii)RLRILLGRFAIIAE (配列番号:52)
上記アミノ酸配列において、1個~数個のアミノ酸が置換、欠失、挿入または付加されていてもよい。
【0023】
上記第1の態様のペプチドの長さは特に限定されないが、好ましくは約70残基以下、より好ましくは約50残基以下であり、例えば約30残基以下、約25残基以下または約20残基以下であってもよい。
【0024】
上記第1の態様のペプチドのなかで2次構造を形成するものを用いた場合に発光シグナルが増加する傾向がある。とりわけ中性~塩基性条件下でβ-シート構造を形成するものを用いた場合に発光シグナルが増加する傾向がある。したがって、上記第1の態様のペプチドのなかで中性~塩基性条件下でβ-シート構造を形成するものが好ましいといえる。中性~塩基性条件は、pH約7~約9の条件であってもよく、例えば、pH7、pH7.4、pH8、pH8.5、pH9等であってもよい。
【0025】
本発明は、第2の態様において、上記第1の態様のペプチドを複数個タンデムに連結したペプチドであって、ルシフェリン酸化発光反応を触媒するペプチドを提供する。ここで、複数個とは2個以上を意味し、例えば約2~約10個、約10~約20個、約20~約40個、約50~約100個であってもよい。ペプチドの連結は、ペプチド結合等の化学結合によってペプチド同士を直接連結するものであってもよく、公知のスペーサーを介して連結するものであってもよい。
【0026】
本発明は、第3の態様において、下記アミノ酸配列:
(e)KFWARLRFLLHRLAIIAE (配列番号:1)、または
(f)配列番号:1に示すアミノ酸配列において、1個~数個のアミノ酸が置換、欠失、挿入または付加されているアミノ酸配列
を含む、ルシフェリン酸化発光反応を触媒するペプチドを提供する。
【0027】
上記第3の態様のペプチドの具体例として、配列番号:1に示すアミノ酸配列のN末端から1個~4個のアミノ酸が欠失しているアミノ酸配列を含むペプチドが挙げられる。
【0028】
上記第3の態様のペプチドの長さは特に限定されないが、好ましくは約70残基以下、より好ましくは約50残基以下であり、例えば約30残基以下、約25残基以下または約20残基以下であってもよい。
【0029】
上記第3の態様のペプチドのなかで2次構造を形成するものを用いた場合に発光シグナルが増加する傾向がある。例えば、配列番号:1に示すペプチドについては、中性~塩基性条件下でα-ヘリックス構造、酸性条件下でβ-シート構造を形成する。また例えば、配列番号:1に示すペプチドのN末端欠損ペプチド(アミノ酸4個まで)については、酸性~塩基性でβ-シート構造を形成する。これらのペプチドを用いた場合に発光シグナルが増加する傾向がある。酸性条件はpH約5~約6.5であってもよく、例えばpH5、pH5.5、pH6、pH6.5であってもよい。中性~塩基性条件については上で説明したとおりである。
【0030】
本発明は、第4の態様において、上記第3の態様のペプチドを複数個タンデムに連結したペプチドであって、ルシフェリン酸化発光反応を触媒するペプチドを提供する。ここで、複数個とは2個以上を意味し、例えば約2~約10個、約10~約20個、約20~約40個、約50~約100個であってもよい。ペプチドの連結は、ペプチド結合等の化学結合によってペプチド同士を直接連結するものであってもよく、公知のスペーサーを介して連結するものであってもよい。
【0031】
本発明は、さらなる態様において、上記第1~第4の態様のペプチドをコードするポリヌクレオチドを提供する。ポリヌクレオチドは、通常は、上記ペプチドをコードするDNAであるが、該DNAに相補的なDNA、該DNAに相補的なRNA、さらに該RNAに相補的なRNAであってもよい。
【0032】
本発明は、さらなる態様において、上記ポリヌクレオチドを含む発現ベクターを提供する。このような発現ベクターを公知の方法にて宿主細胞に導入することができる。したがって、本発明は、さらなる態様において、上記発現ベクターを導入した細胞を提供する。
【0033】
上記の本発明のペプチチド、ポリヌクレオチド、ベクターおよび細胞は以下に説明するように有用である。したがって、本発明のさらなる態様は、本発明のペプチドの利用に関するものである。本発明のペプチチド、ポリヌクレオチド、ベクターおよび細胞の利用は、以下に記載する利用に限定されない。
【0034】
本発明のペプチドを、従来のルシフェラーゼのようにレポータータンパク質として、プロモーターなどの転写活性の測定に利用することができる。
【0035】
本発明のペプチドを、発光による検出マーカーとして利用することができる。目的タンパク質に本発明のペプチドを化学的または遺伝子工学的に融合させることで、例えば、イムノアッセイなどの体外診断技術に利用することができ、あるいは目的タンパク質の細胞内動態を可視化するイメージングプローブとして利用することができる。
【0036】
本発明のペプチドをコードするポリヌクレオチドをレポーター遺伝子として利用することができる。例えば、本発明のペプチドをコードするポリヌクレオチドを含む発現ベクターを細胞に導入することで、あるいは本発明のペプチドをコードするポリヌクレオチドをマイクロインジェクション等の手法により細胞に導入することで、細胞内の任意のオルガネラまたはタンパク質やその他の分子を本発明のペプチドで標識することができる。これによって、標的分子の動態やその量を可視化および分析することができる。
【0037】
さらに、本発明のペプチドは低分子であるため、従来の低分子プローブのように、目的組織や細胞に散布するだけで、目的組織、細胞または分子を標識することができる。例えば、本発明のペプチドに目的分子と親和性の高いタグを修飾(融合)して、このタグ融合型の本発明のペプチドを散布するだけで標的分子の動態を可視化することができる。この手法は、遺伝子工学技術を利用しないことから、極めて非侵襲的なイメージング技術としての普及が期待される。
【0038】
したがって、本発明は、さらなる態様において、本発明のペプチド、該ペプチドをコードするポリヌクレオチド、該ポリヌクレオチドを含む発現ベクター、または該発現ベクターを導入した細胞を含む、生物発光分析用キットを提供する。
【0039】
本発明のペプチド、該ペプチドをコードするポリヌクレオチド、該ポリヌクレオチドを含む発現ベクター、または該発現ベクターを導入した細胞、あるいは本発明のキットを用いて、生物発光分析を行うことができる。
【0040】
2種類以上の本発明のペプチド、ポリヌクレオチド、ベクター、細胞、またはキットを生物発光分析に使用してもよい。
【0041】
本発明のペプチド、ポリヌクレオチド、ベクター、細胞、またはキットを他の分析手法と組み合わせて用いてもよい。例えば、本発明のペプチドに有機蛍光色素または蛍光タンパク質を修飾して細胞内に導入して、目的分子の動態や発現を、発光および蛍光の2つの方法で検出することができる。このような方法を用いると、得られる情報量が多く、より高度かつ多角的に生命現象を解析することができる。
【0042】
したがって、本発明は、ルシフェリンおよび本発明のペプチドペプチド、該ペプチドをコードするポリヌクレオチド、該ポリヌクレオチドを含む発現ベクター、または該発現ベクターを導入した細胞を用いることを含む、生物発光分析方法を提供する。
【0043】
本発明は、さらなる態様において、上記発現ベクターを導入した細胞を培養し、培養物から上記第1~第4のいずれかの態様のペプチドを得ることを含む、上記第1~第4のいずれかの態様のペプチドの製造方法を提供する。この製造方法に使用する宿主細胞はいずれの細胞であってもよく、例えば、大腸菌、枯草菌等の細菌、麹菌、アカパンカビ等の糸状菌、放線菌、植物細胞、動物細胞であってもよい。目的とするペプチドの種類、必要なペプチド量などを考慮して、宿主細胞を選択し、培養条件を設定することができる。
【0044】
本明細書における用語は、特に断らない限り、生物学、生化学、化学、医学、薬学等の分野において通常に理解されている意味を有する。本明細書において、数に「約」を付した場合、その数値±20%の範囲、好ましくはその数値±10%の範囲を意味する。本明細書において、ペプチドのアミノ酸配列の表記は、アミノ末端アミノ酸を左端に、カルボキシル末端アミノ酸を右端に置く。また本明細書において、アミノ酸配列は公知の3文字法または1文字法を用いて表記される。
【0045】
以下に実施例を示した本発明をさらに詳細かつ具体的に説明するが、実施例の記載は本発明の範囲を限定するものではない。
【実施例1】
【0046】
1.本発明のペプチドの設計とその性質
ヒト血清アルブミン(HSA)の酵素反応に大きく関与する重要アミノ酸(Florian Hollfelder et al.,J.Am.Chem.Soc.2000,122,1022-1029)を組み込んだペプチドを固相合成により得た。得られたペプチドの発光反応触媒能の有無、発光触媒能とアミノ酸配列および構造との相関性を探索した。
【0047】
HSAの酵素反応は、薬物結合サイト1または2が反応場となって進行する。本発明では、各サイトを構成する重要アミノ酸をペプチドに組み込んだペプチドを設計し、合成した。以下の3つのペプチドを合成した。
KFWARLRFLLHRLAIIAE (直鎖ペプチドKE-18、配列番号:1)
PLINCFRYLVCAELRS (直鎖ペプチドPS16、配列番号:2)
PLINCFRYLVCAELRS (Cys4-Cys11間にジスルフィド結合を有する環状ペプチドPS16SS、配列番号:3)
【0048】
各ペプチドについて、基質セレンテラジンおよびその類縁体との発光活性をプレートリーダー(Promega社製、GloMax)で確かめた。その結果、HSA薬物結合サイト1を構成するアミノ酸を組み込んだペプチドKE-18(18アミノ酸、約2kDa)が、セレンテラジンと発光反応を示すことが分かった。円二色性分散計(日本分光(株)、J-1100)で円二色性スペクトル(CDスペクトル)を測定した結果(図1)、KE-18はα-ヘリックス構造を形成しており、発光活性を示さなかったペプチドに関しては、α-ヘリックスのような2次構造は確認されなかった。以上の結果は、ルシフェラーゼの立体構造(3-4次構造)が反応場に必要とされてきた従来の生物発光研究とは異なり、2次構造体ペプチドでもルシフェリンの酸化発光反応を触媒する初めての知見となる。
【0049】
2.本発明のペプチドがルシフェリンと反応する条件(疎水性)
セレンテラジンなどのイミダゾピラジノン化合物は、発光場の疎水的性質が一重項励起の効率を高め、結果として高い発光強度に繋がるとされている。分子内部に疎水的な空洞を持つシクロデキストリンは、同じイミダゾピラジノン化合物であるウミホタルルシフェリン(Cypridina Luciferin)を酸化発光させるという報告がある。(Yoshiaki Toya,Nippon Nogeikagaku Kaishi,1992,66,742-747)
【0050】
そこで、KE-18、PS-16、PS16SS、シクロデキストリン(α、β、γ)とセレンテラジン誘導体:
【化1】
[式中、R-Rは表1に示すとおりである。]
とを反応させ、発光強度を測定した。表1に示したセレンテラジン誘導体は、Ryo Nishihara et al.,Chem.Commun.2015,51,391-394,Ryo Nishihara et al.,Sci.Rep.2017,7,8 pages,Masahiro Abe et al.,ChemBioChem,2019,20,1870,Ryo Nishihara et al.,Theranostics,2019,9,2646-2661,Ryo Nishihara et al.,Bioconjugate Chem.2020,31,2679-2684,特開2018-158896公報,特願2020-046137,PCT/JP2021/010852に合成法が記載されている。ペプチドまたはシクロデキストリン50μMとセレンテラジン誘導体及び市販品(Nano Light Technology社製;Prolume Purple、Prolume Purple II、Prolume Purple III、Prolume Purple IV、Prolume Purple V、e-Coelenterazine、Coelenterazin-f、e-Coelenterazine-f、富士フイルム和光純薬社製;Coelenterazine、Coelenterazine-h、ATTO社製;Cypridina Luciferin)20μMとを10mM PBS pH7.4中で60秒反応させた。本発明者らが開発したKE-18は、シクロデキストリンよりも大幅に高い発光活性(S/N比)を示した(表2:本発明のペプチドにおけるS/N比、表3:シクロデキストリンにおけるS/N比)。これらの結果は、単純な疎水的環境だけではなく、ペプチドの適切なアミノ酸の配置および高次構造がイミダゾピラジノン化合物の効率的な発光反応に必要であることを示している。
【表1】
【表2】
【表3】
【0051】
3.本発明のペプチドがルシフェリンと反応する条件(ペプチドの構造)
発光活性を確認したKE-18を基に、発光反応場を構成する条件(ペプチド長、アミノ酸配列及び構造)を検討した。具体的にはKE-18のN末端またはC末端より2アミノ酸ずつ欠損させたペプチドを設計し、合成した。CDスペクトル分析を行った結果、KE-18の2次構造は、pH依存的であり、酸性側(pH6)でβ-シート構造、中性~塩基性(pH7~8)でα-ヘリックス構造であったことから(図2)、欠損ペプチドにおいてもCDスペクトル及び発光活性のpH依存性を網羅的に検討した。
【表4】
【0052】
結果を図3に示す。C末端欠損ペプチドでは、2次構造を形成しない、またはランダムコイル構造が確認されたが(図3(i))、いずれのルシフェリンとも発光シグナルを観察することができなかった(図3(iii)、ウミホタルルシフェリンでの結果のみを示す)。しかし一方で、N末端欠損ペプチドについては、4つのアミノ酸欠損までは2次構造が確認され(WE-16及びRE-14)、いずれも酸性~塩基性でpH非依存的にβ-シート構造を形成することが判明した(図3(ii))。また2次構造体を形成したWE-16及びRE-14は、いずれのルシフェリンとも発光シグナルを示したものの、構造が観察されないRE-12及びLE-10は、C末端欠損ペプチド同様に発光シグナルが確認されなかった(図3(iii)、ウミホタルルシフェリンでの結果のみを示す)。更に興味深いことに、欠損ペプチドRE-14(14アミノ酸、約1.7kDa)の発光シグナルは、KE-18よりも概して高かった(図3(iii))。同じ条件下(pH7.4)でKE-18はα-ヘリックス構造を形成、RE-14はβ-シート構造を形成することから、イミダゾピラジノン化合物の発光反応は、β-シート構造を形成するペプチドで効率的に進行することが分かった。次にATTO社製LumiFLで発光スペクトルを評価した。その結果、ウミホタルルシフェリンの発光スペクトルは、ペプチドの2次構造に大きく依存しており、ウミホタルルシフェラーゼ(CLuc)より、いずれも長波長にシフトしていることが判明した(図3(iv):λmax[CLuc]:471nm、λmax[KE-18]:498nm、λmax[RE-14]:528nm)。ウミホタルルシフェリンは周囲の微小環境により発光波長がシフトするソルバトクロミズムを持つ(Osamu Shimomura,Bioluminescenc:Chemical Principles and Methods,2012,66)。図3(iv)のスペクトル変化は、発光反応場の微小環境(構造・極性・疎水性など)がルシフェラーゼ及びペプチド種によって異なることを示唆している。
【0053】
4.本発明のペプチドがルシフェリンと反応する条件(ペプチドのアミノ酸配列)
次に、発光反応場に必要なアミノ酸を確かめた。ルシフェリン反応場として必要な最短ペプチド(RE-14)を基準として、1残基をG(グリシン)に置換したペプチドを新規に合成し、構造と発光活性相関を確かめた。
【表5】
【0054】
結果を図4に示す。発光を示したペプチドは、項目3で示した結果同様、β-シート構造を形成している。一方でβ-シート構造を形成していながら、発光シグナルを確認出来なかったペプチド(RE-14G5)も見出されており、構造だけでなく、アミノ酸配列も発光反応に必要であることが示唆された。RE14ペプチドの1位のR、6位のL、7位のH、10位のA、13位のAは、Gに置換しても発光強度が比較的維持されているため(RE14-G1、RE14-G6、RE14-G7、RE-14G10、RE14-G13)、これら部位における変異は、発光強度を更に向上させる可能性がある。特にH7のG置換は、基準ペプチド(RE-14)の約3倍の発光強度向上が見られ、7番目の変異は、より発光強度の高いペプチドプローブ開発に有利であることが判明した。
【実施例2】
【0055】
1.RE-14の7位のアミノ酸を様々なアミノ酸で置換した変異体の発光活性
上記実験において、基準ペプチドRE14の7位をグリシンに置換した変異体体(RE14-G7)は、発光強度を向上させた。そこで、RE14の7位に様々なアミノ酸を導入し(表6)、その発光強度への影響を調べた。発光基質は上記実験と同様にウミホタルルシフェリンを使用した。
【表6】
【0056】
結果を図5に示す。基準ペプチドRE14の7位のアミノ酸をQ(グルタミン)に置換したRE14-Q7は、RE14-G7の約1.2倍の発光強度を示した。基準ペプチドRE14の7位のアミノ酸をN(アスパラギン)に置換したRE14-N7は、RE14-G7とほぼ同じ発光強度を示した。基準ペプチドRE14の7位のアミノ酸を、それぞれS(セリン)およびT(スレオニン)に置換したRE14-S7およびER14-T7も、基準ペプチドRE14を上回る発光強度を示した。
【0057】
2.RE-14の4位および9位のアミノ酸をT、I、FまたはWに置換した変異体の発光活性
発光強度の高いRE14-G7ペプチドは、円二色性スペクトル(CDスペクトル)より、βシート構造を形成する。そこで、シート構造形成傾向にあるアミノ酸(T、I、F、W)(Nature,1994,367,660-663)をRE14-G7の4位および9位に導入することで(表7)、発光強度が向上しないかを試験した。発光基質は上記実験と同様にウミホタルルシフェリンを使用した。
【表7】
【0058】
結果を図6に示す。4位をI(イソロイシン)、9位をY(チロシン)に置換したRE14-G7-IYはRE14-G7の1.6倍、4位をI(イソロイシン)、9位をF(フェニルアラニン)に置換したRE14-G7-IFはRE14-G7の1.3倍も発光強度が向上することが判明した。4位をI、9位をIに置換したRE14-G7-II、および4位を置換せず、9位をIに置換したRE14-G7-FIも基準ペプチドRE14を上回る発光強度を示した(RE14の発光強度はRE14-G7の約3分の1)。
【産業上の利用可能性】
【0059】
本発明のルシフェリン酸化発光反応を触媒するペプチドは短いペプチドであるため、生命現象に対するアーティファクトな効果が少ないか、あるいは問題とならない。そのため、従来のルシフェリン-ルシフェラーゼの組み合わせよりも正確に生命現象を解析することができる。そのため、本発明は、生物学、生化学、化学、医学、薬学等の分野において有用であり、具体的には、分析試薬や診断薬等に応用することができる。
【0060】
配列表フリーテキスト
配列番号:1~68の各アミノ酸配列は、本発明者らがルシフェリン酸化発光反応を触媒するペプチドとして設計し、合成したペプチドのアミノ酸配列を示す。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
【配列表】
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