(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2025-04-17
(45)【発行日】2025-04-25
(54)【発明の名称】肺年齢改善剤
(51)【国際特許分類】
A61K 36/232 20060101AFI20250418BHJP
A61P 11/00 20060101ALI20250418BHJP
A61K 36/8968 20060101ALI20250418BHJP
A61K 36/076 20060101ALI20250418BHJP
A61K 36/539 20060101ALI20250418BHJP
A61K 36/346 20060101ALI20250418BHJP
A61K 36/744 20060101ALI20250418BHJP
A61K 36/605 20060101ALI20250418BHJP
A61K 36/725 20060101ALI20250418BHJP
A61K 36/752 20060101ALI20250418BHJP
A61K 36/896 20060101ALI20250418BHJP
A61K 36/8966 20060101ALI20250418BHJP
A61K 36/484 20060101ALI20250418BHJP
A61K 36/79 20060101ALI20250418BHJP
A61K 36/9068 20060101ALI20250418BHJP
A61K 36/899 20060101ALI20250418BHJP
【FI】
A61K36/232
A61P11/00
A61K36/8968
A61K36/076
A61K36/539
A61K36/346
A61K36/744
A61K36/605
A61K36/725
A61K36/752
A61K36/896
A61K36/8966
A61K36/484
A61K36/79
A61K36/9068
A61K36/899
(21)【出願番号】P 2020212309
(22)【出願日】2020-12-22
【審査請求日】2023-11-28
(73)【特許権者】
【識別番号】000186588
【氏名又は名称】小林製薬株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100124431
【氏名又は名称】田中 順也
(74)【代理人】
【識別番号】100174160
【氏名又は名称】水谷 馨也
(74)【代理人】
【識別番号】100175651
【氏名又は名称】迫田 恭子
(72)【発明者】
【氏名】宮島 崇広
【審査官】長谷川 茜
(56)【参考文献】
【文献】特開2019-006750(JP,A)
【文献】Progress in Medicine,2015年,Vol.35, No.2,pp.207-211
【文献】日東医誌,2009年,Vol.60, No.6,pp.617-622
【文献】治療学,2006年,Vol.40, No.4,pp.397-400
【文献】日呼吸会誌,2010年,Vol.48, No.7,pp.541-545
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61K
A61P
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
清肺湯エキスを含有する、肺年齢改善剤。
【請求項2】
40歳以上に適用される、請求項1に記載の肺年齢改善剤。
【請求項3】
非喫煙者に適用される、請求項1又は2に記載の肺年齢改善剤。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、肺年齢改善剤に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、慢性閉塞性肺疾患(COPD)の罹患者が増えてきたことから、COPD発症の好発要因となる喫煙を指摘し、禁煙を支援する目的で、日本呼吸器学会が提唱した「肺年齢」という指標が注目されている。
【0003】
肺年齢から実年齢を差し引いた値が大きいほど肺機能が低下している状態である。肺年齢から実年齢を差し引いた値を大きくする要因として第一に挙げられるのが喫煙である。一方で、非喫煙者でありながら、肺年齢が実年齢を上回る場合も少なからず存在し、その要因として、男性の場合は、20歳時からの体重増加量が7.1kg以上であること又は週に1時間以上の汗をかくような運動をしていないことが挙げられ、女性の場合は、1日に1時間以上の歩行を行っていないことが挙げられる(非特許文献1)。
【0004】
また、正常群、COPDが疑われる群(気流制限有群)の肺年齢について、年代別及び喫煙状況別(非喫煙群、禁煙群、喫煙群)の比較研究がされており、非喫煙、禁煙、喫煙を問わず、気流制限有群で、肺年齢から実年齢を差し引いた差分が大きいこと、及び、年齢層が高くなるほど、気流制限有群に該当する当該差分が小さくなること、つまり当該差分が比較的小さくても、COPDのリスクが上がることが示されている(非特許文献2)。
【0005】
ところで、漢方には補剤という、西洋医学にない概念の治療があり、補剤は気や血を補いながら全身状態を保つのに有用とされている。特に、参耆剤である補中益気湯、十全大補湯、人参養栄湯は、呼吸器疾患に対する有効性があると考えられ、COPD症例に対するそれぞれの有効性を免疫賦活効果から述べた報告(非特許文献3、4)、及び呼吸器感染症に人参養栄湯が有効だった報告(非特許文献5、6)がある。このように、肺機能との関連性として特に人参養栄湯が着目されている。このため、臨床的にも、肺年齢が実年齢以上の人に人参養栄湯が適用されている(非特許文献7)。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0006】
【文献】「非喫煙者における肺年齢を悪化させる生活習慣の特徴」、人間ドック Vol.26, No.1 2011 87-93
【文献】「喫煙と肺年齢について」、禁煙科学 7巻(2013)-13-P2
【文献】「慢性閉塞性肺疾患における3大参耆剤の臨床的有効性」漢方医学 40: 172-176, 2016
【文献】「漢方補剤によるCOPDの2次感染予防」漢方と免疫・アレルギー20: 100-109, 2006
【文献】「人参養栄湯の併用が有効であった慢性閉塞性肺疾患の1例」漢方診療 12(9): 4, 1993
【文献】「人参養栄湯が有効であった肺非定型抗酸菌症の1症例」現代東洋医学(臨増) 15: 108-109. 1994
【文献】新見正則,“肺年齢を若返らせる漢方薬は?[漢方医が解説]”,[online],2019年3月23日,[令和2年12月2日検索],インターネット<URL:https://kampo.jp/kampo119/kampo-medicine-rejuvenating-lung-age/>
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
これまで、肺機能の改善を目的とした漢方は、主に高齢者に適用されてきた。一方で、高齢化社会における健康寿命をできるだけ延ばすためには、肺年齢の若返りは、より一層若い世代に対して適用されることが望ましい。また、近年の健康志向の高まりに鑑みると、実年齢よりも高い肺年齢を実年齢に近づくように若返りたいという要望だけでなく、肺年齢が実年齢よりも若い場合であってもより一層若返りたいという要望もある。従って、より広い層に対して肺年齢を若返らせるための漢方薬として、新たな選択肢が望まれる。
【0008】
そこで、本発明は、肺年齢を若返らせるための新たな漢方薬を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者は、鋭意検討を行ったところ、清肺湯エキスが肺年齢を若返らせることができることを見出した。本発明は、かかる知見に基づいて更に検討を重ねることにより完成したものである。
【0010】
即ち、本発明は、下記に掲げる態様の発明を提供する。
項1. 清肺湯エキスを含有する、肺年齢改善剤。
項2. 40歳以上に適用される、項1に記載の肺年齢改善剤。
項3. 非喫煙者に適用される、項1又は2に記載の肺年齢改善剤。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、肺年齢を若返らせるための新たな漢方薬が提供される。
【発明を実施するための形態】
【0012】
本発明の肺年齢改善剤は、清肺湯エキスを含有することを特徴とする。以下、本発明の肺年齢改善剤について詳述する。
【0013】
有効成分
本発明の肺年齢改善剤は、清肺湯エキスを有効成分として含有する。清肺湯とは、オウゴン、キキョウ、ソウハクヒ、キョウニン、サンシシ、テンモンドウ、バイモ、チンピ、タイソウ、チクジョ、ブクリョウ、トウキ、バクモンドウ、ゴミシ、ショウキョウ、カンゾウを含む混合生薬である。これらの生薬は、日本薬局方及び日本薬局方外医薬品規格にて規格及び使用部位が規定されている。本発明において使用し得る清肺湯の調製は、「一般用漢方処方の手引き」(厚生省薬務局監修、日薬連漢方専門委員会編集、薬業時報社発行)や「改定 一般用漢方処方の手引き」(財団法人日本公定書協会監修、日本漢方生薬製剤協会編集、株式会社じほう発行)に準じて行い得る。
【0014】
清肺湯に含まれる各生薬の混合比については、特に制限されないが、通常、重量比で、オウゴン2~2.5、キキョウ2~2.5、ソウハクヒ2~2.5、キョウニン2~2.5、サンシシ2~2.5、テンモンドウ2~2.5、バイモ2~2.5、チンピ2~2.5、タイソウ2~2.5、チクジョ2~2.5、ブクリョウ3、トウキ3、バクモンドウ3、ゴミシ0.5~1、ショウキョウ0.5~1、カンゾウ1が挙げられる。
【0015】
本発明で使用される清肺湯エキスの製造に供される生薬調合物の好適な例としては、重量比で、オウゴン2、キキョウ2、ソウハクヒ2、キョウニン2、サンシシ2、テンモンドウ2、バイモ2、チンピ2、タイソウ2、チクジョ2、ブクリョウ3、トウキ3、バクモンドウ3、ゴミシ0.5、ショウキョウ0.5、カンゾウ1が挙げられる。
【0016】
清肺湯エキスの形態としては、流エキス、軟エキス等の液状のエキス、又は固形状の乾燥エキス末のいずれであってもよい。
【0017】
清肺湯の液状のエキスは、清肺湯に従った混合生薬を抽出処理し、得られた抽出液を必要に応じて濃縮することにより得ることができる。抽出処理に使用される抽出溶媒としては、特に限定されず、水又は含水エタノール、好ましくは水が挙げられる。また、清肺湯の乾燥エキス末は、液状のエキスを乾燥処理することにより得ることができる。乾燥処理の方法としては特に限定されず、例えば、スプレードライ法や、エキスの濃度を高めた軟エキスに適当な吸着剤(例えば無水ケイ酸、デンプン等)を加えて吸着末とする方法等が挙げられる。
【0018】
本発明において、清肺湯エキスとしては、前述の方法で調製したエキスを使用してもよいし、市販されるものを使用してもよい。例えば、清肺湯エキスの乾燥エキスとして、「清肺湯乾燥エキス-S」(日本粉末薬品株式会社)等が商品として知られており、商業的に入手することもできる。
【0019】
本発明の肺年齢改善剤において、清肺湯エキスの含有量としては、本発明の効果を奏する限り、特に限定されないが、例えば、清肺湯エキスの乾燥エキス末量換算で、通常10~100重量%、好ましくは20~90重量%、より好ましくは40~80重量%、更に好ましくは60~70重量%が挙げられる。なお、本発明において、清肺湯の乾燥エキス末量換算とは、清肺湯の乾燥エキス末を使用する場合にはそれ自体の量であり、清肺湯の液状のエキスを使用する場合には、溶媒を除去した残量に換算した量である。また、清肺湯の乾燥エキス末が、製造時に添加される吸着剤等の添加剤を含む場合は、当該添加剤を除いた量である。
【0020】
その他の成分
本発明の肺年齢改善剤は、前記成分の他に、その用途に応じて、他の栄養成分や薬理成分を含有していてもよい。このような添加剤及び基剤としては、薬学的に許容されることを限度として特に制限されないが、例えば、賦形剤、結合剤、崩壊剤、滑沢剤、等張化剤、可塑剤、分散剤、乳化剤、溶解補助剤、湿潤化剤、安定化剤、懸濁化剤、粘着剤、コーティング剤、光沢化剤、水、油脂類、ロウ類、炭化水素類、脂肪酸類、高級アルコール類、エステル類、水溶性高分子、界面活性剤、金属石鹸、低級アルコール類、多価アルコール、pH調整剤、緩衝剤、酸化防止剤、紫外線防止剤、防腐剤、矯味剤、香料、粉体、増粘剤、色素、キレート剤等が挙げられる。これらの添加剤は、1種単独で使用してもよく、また2種以上を組み合わせて使用してもよい。また、これらの添加剤及び基剤の含有量については、使用する添加剤及び基剤の種類、肺年齢改善剤の製剤形態等に応じて適宜設定される。
【0021】
また、本発明の肺年齢改善剤は、清肺湯エキスの他に、必要に応じて、他の栄養成分や薬理成分を含有していてもよい。このような栄養成分や薬理成分としては、薬学的に許容されることを限度として特に制限されないが、例えば、制酸剤、健胃剤、消化剤、整腸剤、鎮痙剤、粘膜修復剤、抗炎症剤、収れん剤、鎮吐剤、鎮咳剤、去痰剤、消炎酵素剤、鎮静催眠剤、抗ヒスタミン剤、カフェイン類、強心利尿剤、抗菌剤、血管収縮剤、血管拡張剤、局所麻酔剤、生薬エキス、ビタミン類、メントール類等が挙げられる。これらの栄養成分や薬理成分は、1種単独で使用してもよく、また2種以上を組み合わせて使用してもよい。また、これらの成分の含有量については、使用する成分の種類等に応じて適宜設定される。
【0022】
製剤形態
本発明の肺年齢改善剤の製剤形態については、経口投与が可能であることを限度として特に制限されないが、例えば、散剤、細粒剤、顆粒剤、錠剤、トローチ剤、チュアブル剤、カプセル剤(軟カプセル剤、硬カプセル剤)、丸剤等の固形状製剤;ゼリー剤等の半固形状製剤;液剤、懸濁剤、シロップ剤等の液状製剤が挙げられ、好ましくは固形状製剤が挙げられ、より好ましくは顆粒剤又は錠剤が挙げられる。
【0023】
製造方法
本発明の肺年齢改善剤の製造方法は、上記生薬成分を用いて、医薬分野で採用されている通常の製剤化手法に従って製剤化すればよい。
【0024】
用途
本発明の肺年齢改善剤は、肺年齢を若返らせる目的で使用される。肺年齢は、一秒間に吐ける息の量(一秒量)から、標準の人に比べて呼吸機能がどの程度であるかを確認する目安として、広く用いられている指標である。
【0025】
本発明の肺年齢改善剤は、肺年齢を若返らせる効果に優れているため、その適用対象の例としては、肺年齢が実年齢を上回る人が挙げられる。肺年齢が実年齢を差し引いた差分としては特に限定されないが、例えば3歳以上、好ましくは10歳以上、より好ましくは15歳以上が挙げられる。肺年齢が実年齢を差し引いた差分の上限としては、例えば25歳以下、好ましくは20歳以下が挙げられる。本発明の肺年齢改善剤は、当該差分が比較的小さい人に対しても有効であるため、当該差分の上限としては、より小さい、15歳以下、10歳以下、又は5歳以下であってもよい。
【0026】
本発明の肺年齢改善剤は、肺年齢が実年齢以下の人に対しても、肺年齢をより一層若返らせることができる。従って、本発明の肺年齢改善剤の適用対象の例としては、肺年齢が実年齢以下の人も挙げられる。
【0027】
本発明の肺年齢改善剤の適用対象の年齢としては特に限定されないが、好ましくは40歳以上が挙げられ、より好ましくは50歳以上が挙げられる。当該年齢の上限としては特に限定されないが、肺機能へのケアはより若い世代で行われることが望ましい点、及び本発明の肺年齢改善剤が比較的若い世代に対しても有効である点から、例えば60歳未満又は50歳未満が挙げられる。
【0028】
また、本発明の肺年齢改善剤の適用対象としては、喫煙者、禁煙者(習慣的喫煙の経験がある人)、及び非喫煙者のいずれであってもよいが、好ましくは喫煙者及び禁煙者、より好ましくは喫煙者が挙げられる。
【実施例】
【0029】
以下、本発明を実施例により具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0030】
肺年齢改善剤の調製
乾燥重量換算で、オウゴン2重量部、キキョウ2重量部、ソウハクヒ2重量部、キョウニン2重量部、サンシシ2重量部、テンモンドウ2重量部、バイモ2重量部、チンピ2重量部、タイソウ2重量部、チクジョ2重量部、ブクリョウ3重量部、トウキ3重量部、バクモンドウ3重量部、ゴミシ0.5重量部、ショウキョウ0.5重量部、カンゾウ1重量部の比率で混合し、これらの合計量(原料乾燥重量)の5倍量の水を用いて約95℃で1時間抽出処理し、遠心分離して抽出液を得た。得られた抽出液をろ過(150メッシュ)することにより清肺湯エキスを得た。得られた清肺湯エキスを常法に従い、60℃以下の減圧下で濃縮して、スプレードライ法を用いて乾燥させ、清肺湯エキス末を調製し、造粒して顆粒を調製した。
【0031】
6名の男女に、上記の肺年齢改善剤を2週間服用させ、服用前後での肺年齢を測定した。肺年齢の測定は、呼吸機能検査(スパイロメトリー、いわゆる肺活量の検査)を用いて各人の呼吸機能(息を強く吐き始めて最初の1秒間の呼気量(FEV1.0))を測定し、各人の身長及び呼吸機能検査上の数値に基づいて以下の公式を使って計算した。結果を表1に示す。
男性:肺年齢=(0.036×身長(cm)-1.178-FEV1.0)/0.028
女性:肺年齢=(0.022×身長(cm)-0.005-FEV1.0)/0.022
【0032】
【0033】
表1から明らかなとおり、6名の被験者は、喫煙者、禁煙者及び非喫煙者、並びに、肺年齢が実年齢を上回る人及び肺年齢が実年齢以下である人を含んでおり、また、肺年齢から実年齢を差し引いた差についても様々なバリエーションがあったが、6名全員の肺年齢が改善し、平均4.3歳の肺年齢の若返りが認められた。40歳代と50歳代とで、喫煙者同士、禁煙者同士を対比すると、50歳代のほうで高い肺年齢改善効果が認められた。年齢層が高くなるほど、肺年齢から実年齢を差し引いた差が比較的小さくてもCOPDのリスクが上がることが知られていることに鑑みると、表1で示される50歳代での肺年齢改善の向上効果は、実質的には、当該差の値を超える高い効果であると認められる。