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特許7669321反射型マスクブランクおよび反射型マスクの製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2025-04-18
(45)【発行日】2025-04-28
(54)【発明の名称】反射型マスクブランクおよび反射型マスクの製造方法
(51)【国際特許分類】
   G03F 1/24 20120101AFI20250421BHJP
   C23C 14/06 20060101ALI20250421BHJP
【FI】
G03F1/24
C23C14/06 A
【請求項の数】 9
(21)【出願番号】P 2022139059
(22)【出願日】2022-09-01
(65)【公開番号】P2024034663
(43)【公開日】2024-03-13
【審査請求日】2024-08-21
(73)【特許権者】
【識別番号】000002060
【氏名又は名称】信越化学工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】230104019
【弁護士】
【氏名又は名称】大野 聖二
(74)【代理人】
【識別番号】230117802
【弁護士】
【氏名又は名称】大野 浩之
(72)【発明者】
【氏名】▲高▼坂 卓郎
(72)【発明者】
【氏名】生越 大河
【審査官】藤田 健
(56)【参考文献】
【文献】特開2013-225662(JP,A)
【文献】特開2021-039271(JP,A)
【文献】特開2021-167878(JP,A)
【文献】特開2008-103481(JP,A)
【文献】特開2005-210093(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G03F 1/00
C23C 14/06
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
基板と、
前記基板の一方の面に設けられ、少なくともEUV光を反射する多層反射膜と、
前記基板の他方の面に設けられる裏面導電膜と、
を備え、
前記裏面導電膜は、膜厚50nm以上80nm未満からなり、タンタル(Ta)、ケイ素(Si)及び窒素(N)を含み、窒素含有量が18原子%以上35原子%未満であり、ケイ素含有量を原子%でCSi、タンタル含有量を原子%でCTaとしたときに、CSi/(CTa+CSi)は3%以上50%未満となる層を有する
反射型マスクブランク。
【請求項2】
前記裏面導電膜は、
膜厚50nm以上80nm未満からなり、タンタル(Ta)、ケイ素(Si)及び窒素(N)を含み、窒素含有量が18原子%以上35原子%未満であり、ケイ素含有量を原子%でCSi、タンタル含有量を原子%でCTaしたときに、CSi/(CTa+CSi)は3%以上50%未満となる第一層と、
膜厚3nm以上10nm未満からなり、タンタル(Ta)、ケイ素(Si)、窒素(N)及び酸素(O)を含み、窒素と酸素の合計含有量が40原子%以上となる第二層と、
を有する、請求項1に記載の反射型マスクブランク。
【請求項3】
前記基板の他方の面に前記第一層が設けられ、
前記第一層の他方の面に前記第二層が設けられる、請求項2に記載の反射型マスクブランク。
【請求項4】
前記裏面導電膜は、タンタル(Ta)、ケイ素(Si)及び窒素(N)のみを含む、請求項1に記載の反射型マスクブランク。
【請求項5】
前記裏面導電膜は、膜厚50nm以上80nm未満からなり、タンタル(Ta)、ケイ素(Si)及び窒素(N)を含み、窒素含有量が18原子%以上35原子%未満であり、ケイ素含有量を原子%でCSi、タンタル含有量を原子%でCTaとしたときに、CSi/(CTa+CSi)は3%以上50%未満となる層のみを有する、請求項1又は4に記載の反射型マスクブランク。
【請求項6】
前記第一層は、タンタル(Ta)、ケイ素(Si)及び窒素(N)のみを含み、
前記第二層は、タンタル(Ta)、ケイ素(Si)、窒素(N)及び酸素(O)のみを含む、請求項2に記載の反射型マスクブランク。
【請求項7】
前記裏面導電膜は、前記第一層及び前記第二層のみを有する、請求項2又は6に記載の反射型マスクブランク。
【請求項8】
前記裏面導電膜は、
シート抵抗が500Ω/□以下となり、
膜の表面粗さ(Sq)が0.5nm以下となり、
前記裏面導電膜を形成した前記基板の他方側の主表面を基準として、前記裏面導電膜を形成する前の反りに対して、前記裏面導電膜を形成した後の反りの変化量(ΔTIR)を、凹方向への変化である場合をプラス(+)、凸方向への変化である場合をマイナス(-)であらわした場合、前記基板に前記裏面導電膜を形成した際の膜応力の指標となるΔTIRが-0.4~-1.2umであることを特徴とする請求項1又は2に記載の反射型マスクブランク。
【請求項9】
請求項1又は2に記載の反射型マスクブランクを用いて製造することを特徴とする反射型マスクの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、LSIなどの半導体デバイスの製造などに使用される反射型マスクの素材となる反射型マスクブランク、及び反射型マスクブランクを用いた反射型マスクの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
半導体デバイス(半導体装置)の製造工程では、転写用マスクに露光光を照射し、マスクに形成されている回路パターンを、縮小投影光学系を介して半導体基板(半導体ウェハ)上に転写するフォトリソグラフィ技術が繰り返し用いられる。従来、露光光の波長はフッ化アルゴン(ArF)エキシマレーザ光を用いた193nmが主流となっており、露光プロセスや加工プロセスを複数回組み合わせるマルチパターニングというプロセスを採用することにより、最終的には露光波長より小さい寸法のパターンを形成してきた。
【0003】
しかし、継続的なデバイスパターンの微細化により、更なる微細パターンの形成が必要とされてきていることから、露光光としてArFエキシマレーザ光より更に波長の短いEUV(Extreme UltraViolet(極端紫外))光を用いたEUVリソグラフィ技術が開発されている。EUV光とは、波長が例えば10~20nm程度の光、より具体的には、波長が13.5nm付近の光である。このEUV光は、物質に対する透過性が極めて低く、従来の透過型の投影光学系やマスクが使えないことから、反射型の光学素子が用いられる。そのため、パターン転写用のマスクも反射型マスクが用いられている。反射型マスクは、一般的には基板上にEUV光を反射する多層反射膜が形成され、多層反射膜の上にEUV光を吸収する吸収体膜がパターン状に形成されたものである。一方、吸収体膜にパターニングする前の状態(レジスト膜が形成された状態も含む)のものが、反射型マスクブランクと呼ばれ、これが反射型マスクの素材として用いられる。
【0004】
反射型マスクブランクは、一般的には低熱膨張の基板と、基板の二つの主表面のうち一方の面に形成されたEUV光を反射する多層反射膜と、その上に形成されたEUV光を吸収する吸収体膜とを含む基本構造を有している。多層反射膜としては、通常、モリブデン(Mo)層とケイ素(Si)層とを交互に積層することで、EUV光に対する必要な反射率を得る多層反射膜が用いられる。更に、多層反射膜を保護するための保護膜として、ルテニウム(Ru)膜が、多層反射膜の上に形成される。また、吸収体膜としては、EUV光に対して消衰係数の値が比較的大きいタンタル(Ta)などが用いられる(特開2002-246299号公報(特許文献1)など)。一方、基板の他方の主表面には、裏面導電膜が形成される。裏面導電膜としては、静電チャッキングのために、金属窒化膜が提案されており、主にクロム(Cr)、タンタル(Ta)、モリブテン(Mo)又はケイ素(Si)の窒化膜が挙げられる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開2002-246299号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
裏面導電膜は、静電チャッキングのためにシート抵抗が低いことや表面粗さが小さいことが求められるだけでなく、露光装置のマスクの着脱時の欠陥発生を低減させる必要がある。裏面導電膜にタンタル(Ta)を用いた場合、シート抵抗を低くし、表面粗さを小さくするためには、膜に窒素を少量添加すればよい。また、露光装置のマスクの着脱時の欠陥発生を低減させるにも窒素を添加して膜を窒化させるのが効果的である。しかし、窒化度が低くタンタル(Ta)のメタル結合が多く残る膜では、膜が別の材料と接触した状態で基板に力が加わるといった所謂擦れがあった場合には、擦れ痕が生じやすく、露光機における静電チャックステージの着脱時に欠陥が発生する場合がある。一方で、膜に窒素を多く添加した場合には、擦れ痕は生じにくくなるが、膜のシート抵抗が上がり静電チャックはできなくなり、さらには窒化タンタルの結晶成長による膜応力が大きくなりやすく、また、膜表面粗さの増加がなども起こり、やはり欠陥が発生する可能性が高くなる。
【0007】
本発明は、上記課題を解決するためになされたものであり、裏面導電膜に求められる導電性や表面粗さを維持しつつ、静電チャックステージからの着脱の際に欠陥が発生しにくい裏面導電膜を備える反射型マスクブランクと、当該反射型マスクブランクを用いた反射型マスクの製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本願の発明者らは、上記課題を解決するために鋭意検討を重ねた結果、裏面導電膜が、タンタル(Ta)、ケイ素(Si)及び窒素(N)を含み、窒素含有量が18原子%以上35原子%未満であり、ケイ素含有量を原子%でCSi、タンタル含有量を原子%でCTaとしたときに、CSi/(CTa+CSi)が3%以上50%未満となる層を有することで、裏面導電膜が微結晶・アモルファス状になりやすく、膜応力や表面粗さなどの増加を抑えられることを見出した。ケイ素(Si)の含有量が多すぎる場合には、膜を窒化させた際のシート抵抗が高くなりやすいが、上記範囲とすることでシート抵抗をひくくすることができ、また、窒素含有量を上記範囲とすることで、タンタルのメタル結合の存在比を抑えることでき、擦れ痕の付きにくい膜質となり、チャックステージ着脱時の発生リスクを下げることができ、本発明をなすに至った。
【0009】
従って、本発明は、以下の、反射型マスクブランク、及び反射型マスクの製造方法を提供する。
【0010】
[概念1]
本発明による反射型マスクブランクは、
基板と、
前記基板の一方の面に設けられ、少なくともEUV光を反射する多層反射膜と、
前記基板の他方の面に設けられる裏面導電膜と、
を備え、
前記裏面導電膜は、膜厚50nm以上80nm未満からなり、タンタル(Ta)、ケイ素(Si)及び窒素(N)を含み、窒素含有量が18原子%以上35原子%未満であり、ケイ素含有量を原子%でCSi、タンタル含有量を原子%でCTaとしたときに、CSi/(CTa+CSi)は3%以上50%未満となる層を有してもよい。
【0011】
[概念2]
概念1における反射型マスクブランクにおいて、
前記裏面導電膜は、
膜厚50nm以上80nm未満からなり、タンタル(Ta)、ケイ素(Si)及び窒素(N)を含み、窒素含有量が18原子%以上35原子%未満であり、ケイ素含有量を原子%でCSi、タンタル含有量を原子%でCTaとしたときに、CSi/(CTa+CSi)は3%以上50%未満となる第一層と、
膜厚3nm以上10nm未満からなり、タンタル(Ta)、ケイ素(Si)、窒素(N)及び酸素(O)を含み、窒素と酸素の合計含有量が40原子%以上となる第二層と、
を有してもよい。
【0012】
[概念3]
概念2における反射型マスクブランクにおいて、
前記基板の他方の面に前記第一層が設けられ、
前記第一層の他方の面に前記第二層が設けられてもよい。
【0013】
[概念4]
概念1における反射型マスクブランクにおいて、
前記裏面導電膜は、タンタル(Ta)、ケイ素(Si)及び窒素(N)のみを含んでもよい。
【0014】
[概念5]
概念1又は4における反射型マスクブランクにおいて、
前記裏面導電膜は、膜厚50nm以上80nm未満からなり、タンタル(Ta)、ケイ素(Si)及び窒素(N)を含み、窒素含有量が18原子%以上35原子%未満であり、ケイ素含有量を原子%でCSi、タンタル含有量を原子%でCTaとしたときに、CSi/(CTa+CSi)は3%以上50%未満となる層のみを有してもよい。
【0015】
[概念6]
概念2又は3における反射型マスクブランクにおいて、
前記第一層は、タンタル(Ta)、ケイ素(Si)及び窒素(N)のみを含み、
前記第二層は、タンタル(Ta)、ケイ素(Si)、窒素(N)及び酸素(O)のみを含んでもよい。
【0016】
[概念7]
概念2、3又は6における反射型マスクブランクにおいて、
前記裏面導電膜は、前記第一層及び前記第二層のみを有してもよい。
【0017】
[概念8]
概念1乃至7のいずれか1つにおける反射型マスクブランクにおいて、
前記裏面導電膜は、
シート抵抗が500Ω/□以下となり、
膜の表面粗さ(Sq)が0.5nm以下となり、
前記裏面導電膜を形成した前記基板の他方側の主表面を基準として、前記裏面導電膜を形成する前の反りに対して、前記裏面導電膜を形成した後の反りの変化量(ΔTIR)を、凹方向への変化である場合をプラス(+)、凸方向への変化である場合をマイナス(-)であらわした場合、前記基板に前記裏面導電膜を形成した際の膜応力の指標となるΔTIRが-0.4~-1.2umであってもよい。
【0018】
[概念9]
本発明による反射型マスクの製造方法は、
概念1乃至8のいずれか1つにおける反射型マスクブランクを用いて製造してもよい。
【発明の効果】
【0019】
上記概念1で提供される裏面導電膜を採用することで、良好な導電性や表面平滑性を有し、擦れに強いため静電チャックステージからの着脱の際に欠陥が発生しにくい裏面導電膜を有する反射型マスクブランクを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
図1】本発明の実施の形態による反射型マスクブランクの一例を示す断面図である。
図2】本発明の実施の形態による反射型マスクブランクの別の例を示す断面図である。
図3】本発明の実施の形態による反射型マスクブランクにおいて、ハードマスク膜、反射率低減層、保護膜等をさらに備えた態様を示す断面図である。
図4】本発明の実施の形態による反射型マスクブランクにおいて、吸収体膜がパターニングされた態様を示す断面図である。
図5】本発明の実施の形態による反射型マスクブランクにおいて、保護膜、レジスト膜等を備えた態様を示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下、本発明の実施の形態について更に詳しく説明する。
本実施の形態の反射型マスクブランク(EUVマスクブランク)は、EUV光を露光光とするEUVリソグラフィで用いられる反射型マスク(EUVマスク)の素材として用いられる。反射型マスクブランクは、反射型マスクブランク用膜付き基板に、吸収体膜を形成し、更に、必要に応じて、他の膜を形成することにより得ることができる。EUV光を露光光とするEUVリソグラフィに用いられるEUV光の波長は13~14nmであり、通常、波長が13.5nm程度の光である。
【0022】
本実施の形態の反射型マスクブランクは、一例として図1に示すように、基板10と、基板10の二つの主表面のうちの一方の主表面側(図1の上方側の面)に、好ましくは基板10に接して形成されたEUV光を反射する多層反射膜20と、二つの主表面のうちの他方の主表面(図1の下方側の面)に、好ましくは基板10に接して形成された裏面導電膜30とを少なくとも備える。多層反射膜20の上にさらに保護膜50(図3乃至図5参照)や吸収体膜70(図1乃至図5参照)を備える態様も本発明の反射型マスクブランクに含まれる。また、ハードマスク膜110(図3参照)を備えてもよい。吸収体膜70を有する反射型マスクブランクからは、吸収体膜70をパターニングすることにより、吸収体パターン(吸収体膜70のパターン)を有する反射型マスクを製造することができる(図4参照)。
【0023】
基板10は、EUV光露光用として、低熱膨張特性を有するものであることが好ましく、例えば、熱膨張係数が、±2×10-8/℃の範囲内、好ましくは±5×10-9/℃の範囲内の材料で形成されているものが好ましい。このような材料としては、チタニアドープ石英ガラス(SiO2-TiO2系ガラス)などが挙げられる。また、基板10は、表面が十分に平坦化されているものを用いることが好ましく、基板10の主表面の表面粗さは、Sq値で0.5nm以下、特に0.2nm以下であることが好ましい。このような表面粗さは、基板10の研磨などにより得ることができる。本実施の形態において、基板10のサイズとしては、特に限定されるものではないが、例えば、SEMI規格において規定されている、6インチ角、厚さ0.25インチの6025基板と呼ばれるものが好適であり、SI単位系を用いた場合、通常、152mm角、厚さ6.35mmの基板と表記される。また、基板10は表面に平坦化層などの層を有していてもよい。
【0024】
裏面導電膜30はタンタル(Ta)、ケイ素(Si)及び窒素(N)で構成し、ケイ素の含有量を原子%でCSi、Taの含有量を原子%でCTaとした場合、CSi/(CTa+CSi)は、3%以上50%未満とするのがよく、さらには5%以上20%未満とするのがより好ましい。ケイ素(Si)を所定量添加することで導電膜の膜質が微結晶・アモルファス状になりやすく、膜応力や表面粗さなどの増加を抑える効果得られる。ケイ素(Si)の含有量が多すぎる場合には、膜を窒化させた際のシート抵抗が高くなりやすい。
【0025】
窒素の含有量については、18原子%以上35原子%未満とするのがよく、20原子%以上25原子%未満とするのがより好ましい。窒素含有量を所定量に調整し、Taメタル結合の存在比を抑えることで、擦れ痕の付きにくい膜質となり、チャックステージ着脱時の欠陥発生リスクを下げ、かつ膜厚80nm未満でシート抵抗を500Ω/□以下となり、静電チャックで良好に吸着することができる。
【0026】
タンタル(Ta)、ケイ素(Si)及び窒素(N)からなる裏面導電膜30の窒素含有量は、XPS分析のナロースペクトルを指標として用いてもよく、結合エネルギー20~24eV付近に検出されるTa 4fの結合ピークにおいて、ピークの頂点位置が22.5eVより大きく23.0eV以下になることが好ましく、さらに好ましくは22.6eVより大きく22.9eV以下である。
【0027】
裏面導電膜30は、タンタル、ケイ素及び窒素からなる上記の層(第一層)31に加えて、タンタル、ケイ素、窒素及び酸素からなる層(第二層)32を有し、多層構造としてもよい(図2図4及び図5参照)。タンタル、ケイ素、窒素及び酸素からなる第二層32の酸窒化度は、タンタル、ケイ素及び窒素からなる第一層31より高い方が好ましい。また、第二層32は基板10とは離間する側(図2の下方側)の裏面導電膜30の表層にあることが好ましい。この場合には、基板10の他方の面(下方側の面)に第一層31が設けられ、第一層31の他方の面(下方側の面)に第二層32が設けられてもよい。多層構造とする場合でも、裏面導電膜30の全部の膜厚は40~100nmが好ましく、60~80nmとするのがさらに好ましい。また、第二層32の膜厚は20nm以下とするのが好ましく、さらに好ましくは10nm以下である。
【0028】
本願において裏面導電膜30又は第一層31が、タンタル(Ta)、ケイ素(Si)及び窒素(N)のみを含むというのは、裏面導電膜30が、タンタル(Ta)、ケイ素(Si)及び窒素(N)と不可避不純物を含むことを意味する。また、第二層32が、タンタル(Ta)、ケイ素(Si)、窒素(N)及び酸素(O)のみを含むというのは、第二層32が、タンタル(Ta)、ケイ素(Si)、窒素(N)及び酸素(O)と不可避不純物を含むことを意味する。
【0029】
裏面導電膜30の膜応力は、裏面導電膜30と多層反射膜20を形成する面の膜応力とは同程度であることが好ましい。膜を形成した主面において、膜を形成する前に対して、膜を形成した後の基板10の表面形状(そり)の変化量ΔTIRを指標として用いることができる。ΔTIRは本願では対象となる膜を形成した面で膜を形成する前に対して、膜を形成した後の基板形状の変化が凹方向への変化である場合をプラス(+)、凸方向への変化である場合をマイナス(-)と表記する。つまり、膜が引っ張り応力を有するときはプラス(+)となり、圧縮応力を有するときはマイナス(-)となる。反りは、基板10の主表面の中心を中心とした一辺が142mm角の範囲内での反りを適用することができる。ここでは反りの変化量(ΔTIR)は、裏面導電膜30を形成した主表面を基準として、膜を形成する前の反りに対して、膜を形成した後の反りの変化が凹方向への変化である場合をプラス(+)、凸方向への変化である場合をマイナス(-)と表記する。つまり、膜が引っ張り応力を有するときはプラスとなり、圧縮応力を有するときはマイナス(-)となる。ΔTIRは-0.4um~-1.2umとすることが好ましく、-0.4um~-1.0umとすることがより好ましい。
【0030】
裏面導電膜30は上記特性に加えて、静電チャック板の着脱時に欠陥が発生しにくいことも求められる。着脱時の欠陥の発生しやすさを表す指標としては、ダイアモンド端子を使用したナノスクラッチテスト、Steel Woolなどやすり状の材料を膜表面に押し付けて擦り表面状態を観察する方法、Cross-hatch上にスクラッチ跡をつけてテープの貼り付け・剥離を行い膜剥がれ状態を確認する方法などが挙げられる。
【0031】
静電チャック板の着脱時に欠陥が発生しにくいためには裏面導電膜30はタンタル、ケイ素及び窒素で構成するのがよく、さらにケイ素と窒素は所定量に調整するとよい。ケイ素含有量を原子%でCSi、タンタル含有量を原子%でCTaとしたとき、CSi/(CTa+CSi)は、3%以上、50%未満とするのがよく、5%以上20%未満とするのがより好ましい。Siを所定量添加することで導電膜の膜質が微結晶・アモルファス状になりやすく、膜応力や表面粗さなどの増加を抑える効果が得られる。ケイ素の含有量が多すぎると膜を窒化させた際のシート抵抗が大きくなりやすい。
【0032】
反射型マスクブランクの反りは、膜の組成や物性により異なるが、例えば、基板10のサイズが、主表面が152mm角、厚さが6.35mmである場合(基板10が、6025基板である場合)、反射型マスクブランク用膜付き基板10は、(1)基板10に、多層反射膜20又は多層反射膜20及び保護膜50と、裏面導電膜30とを形成する前の、一方の主表面(多層反射膜20又は多層反射膜20及び保護膜50を形成する側の主表面)の反りと、(2)基板10に、多層反射膜20又は多層反射膜20及び保護膜50と、裏面導電膜30とを形成した状態の、一方の主表面(多層反射膜20又は多層反射膜20及び保護膜50を形成する側の主表面)の反りとの間の反りの変化量(ΔTIR)が-0.3~+0.3μmの範囲内であることが好ましい。そのため、基板10に多層反射膜20又は多層反射膜20及び保護膜50のみを形成する前後の基板10の反りの変化量(ΔTIR)の絶対値と、基板10に裏面導電膜30のみを形成する前後の基板10の反りの変化量(ΔTIR)の絶対値が同程度となっていることが好ましい。ここで、反りは、基板10の主表面の中心を中心とした一辺が142mm角の範囲内での反りを適用することができる。なお、ここで反りの変化量(ΔTIR)は、多層反射膜20又は多層反射膜20及び保護膜50を形成した主表面を基準として、膜を形成する前の反りに対して、膜を形成した後の反りの変化量を示し、凹方向への変化である場合をプラス(+)、凸方向への変化である場合をマイナス(-)と表記している。
【0033】
反射型マスクブランクには、反射型マスクへの加工工程での熱履歴を考慮して、通常、反射型マスクブランクに、予め熱処理が実施される。一般に、熱処理温度が高温になるほど、多層反射膜20の反射率が低下するため、熱処理温度は、150℃以下とすることが好ましい。そのため、反射型マスクブランク用膜付き基板は、(1)基板10に、多層反射膜20又は多層反射膜20及び保護膜50と、裏面導電膜30とを形成する前の、一方の主表面(多層反射膜20又は多層反射膜20及び保護膜50を形成する側の主表面)の反りと、(2)基板10に、多層反射膜20又は多層反射膜20及び保護膜50と、裏面導電膜30とを形成し、150℃で10分間の熱処理を実施した状態の、一方の主表面(多層反射膜20又は多層反射膜20及び保護膜50を形成する側の主表面)の反りとの間の反りの変化量(ΔTIR)が-0.3~+0.3μmの範囲内であることが好ましい。
【0034】
裏面導電膜30は、反射型マスクを露光装置に静電チャッキングするために用いられる膜であることから、シート抵抗(RS)は、500Ω/□以下であれば静電チャックできるが、250Ω/□以下、さらには、100Ω/□以下であることがより好ましい。
【0035】
裏面導電膜30は、静電チャッキングの着脱時のパーティクル発生を抑制する観点から、表面粗さSq(二乗平均平方根高さ(ISO 25178))は、より小さいことが好ましく、0.5nm以下であること、特に0.3nm以下であることが好ましい。測定方法として、例えば、原子間力顕微鏡(AFM)を用いて1μm四方で測定すればよい。表面粗さが大きいと、欠陥が発生する可能性が高くなることから好ましくはない。
【0036】
裏面導電膜30は、多層反射膜20を形成する前に形成してもよいし、基板10の多層反射膜20側の全ての膜を形成した後に形成してもよい。また、基板10の多層反射膜20側の一部の膜を形成した後、裏面導電膜30を形成し、その後、基板10の多層反射膜20側の残部の膜を形成してもよい。
【0037】
裏面導電膜30の形成方法としては、ターゲットに電力を供給し、供給した電力で雰囲気ガスをプラズマ化(イオン化)して、スパッタリングを行うスパッタ法や、イオンビームをターゲットに照射するイオンビームスパッタ法が挙げられる。スパッタ法としては、ターゲットに直流電圧を印加するDCスパッタ法、ターゲットに高周波電圧を印加するRFスパッタ法がある。スパッタ法とはスパッタガスをチャンバーに導入した状態でターゲットに電圧を印加し、ガスをイオン化し、ガスイオンによるスパッタリング現象を利用した成膜方法で、特にマグネトロンスパッタ法は生産性において有利である。また、DCスパッタ法には、ターゲットのチャージアップを防ぐために、ターゲットに印加する負バイアスを短時間反転するパルススパッタリングも含まれる。
【0038】
裏面導電膜30は、例えば、一つ又は二つ以上のターゲットを装着できるスパッタ装置を用いてスパッタ法により形成することができる。具体的には、ターゲットとして、ケイ素とタンタルからなるターゲット、ケイ素(Si)ターゲット、タンタル(Ta)ターゲットなどを用い、スパッタガスとして、ヘリウム(He)ガス、アルゴン(Ar)ガス、クリプトン(Kr)ガス、キセノン(Xe)ガスなどの希ガスと窒素ガス(N2ガス)などの窒素含有ガスと、更に、必要に応じて、酸素ガス(O2ガス)などの酸素含有ガスを用いて形成することができる。
【0039】
裏面導電膜30において、ターゲットに印加する電力(及び複数種のターゲットを用いる場合はそれらの比率)、反応性ガスの流量(及び複数種の反応性ガスを用いる場合はそれらの比率)などを適宜調整することにより、所望の組成とすることができる。
【0040】
多層反射膜20は、反射型マスクにおいて、露光光であるEUV光を反射する膜である。多層反射膜20は、低屈折率材料の層と、高屈折率材料の層とを交互に積層させた多層膜である。露光波長が13~14nmのEUV光に対しては、例えば、モリブデン(Mo)層22と、シリコン(Si)層21とを交互に、40周期(各々40層ずつ)~60周期(各々60層ずつ)程度積層したMo/Si周期積層膜が用いられる。多層反射膜20の膜厚は、通常、280~350nm程度である。また、Mo層とSi層との間に、SiN層を形成してもよい。
【0041】
多層反射膜20の形成方法としては、ターゲットに電力を供給し、供給した電力で雰囲気ガスをプラズマ化(イオン化)して、スパッタリングを行うスパッタ法や、イオンビームをターゲットに照射するイオンビームスパッタ法が挙げられる。スパッタ法としては、特にマグネトロンスパッタ法が、生産性において有利である。ターゲットに印加する電力はDCでもRFでもよく、また、DCには、ターゲットのチャージアップを防ぐために、ターゲットに印加する負バイアスを短時間反転するパルススパッタリングも含まれる。
【0042】
多層反射膜20は、例えば、複数のターゲットを装着できるスパッタ装置を用いてスパッタ法により形成することができ、具体的には、ターゲットとして、モリブデン(Mo)を含有する層を形成するためのモリブデン(Mo)ターゲット、ケイ素(Si)を含有する層を形成するためのケイ素(Si)ターゲットを用い、スパッタガスとして、ヘリウム(He)ガス、アルゴン(Ar)ガス、クリプトン(Kr)ガス、キセノン(Xe)ガスなどの希ガスを用いて形成することができる。また、スパッタリングを、反応性ガスを用いた反応性スパッタリングとしてもよく、その場合、例えば、窒素(N)を含有する膜を形成するときには、窒素ガス(N2ガス)などの窒素含有ガスを、希ガスと共に用いればよい。
【0043】
複数の元素を含む層を形成する場合、ターゲットに印加する電力(及び複数種のターゲットを用いる場合はそれらの比率)、反応性ガスの流量(及び複数種の反応性ガスを用いる場合はそれらの比率)などを適宜調整して、所望の組成、結晶性などの物性などを得ることができる。
【0044】
多層反射膜20の上には、吸収体膜70が形成されてもよい。吸収体膜70は、露光光であるEUV光を吸収して、露光光の反射率を低減する膜であり、反射型マスクにおいては、吸収体膜70が形成されている部分と、吸収体膜70が形成されていない部分との反射率の差によって、転写パターンを形成する。吸収体膜70は、多層反射膜20上に、多層反射膜20に接して形成してもよいが、後述する保護膜50(図3乃至図5参照)を介して、多層反射膜20上に設けられてもよい。
【0045】
吸収体膜70の材料としては、EUV光を吸収し、パターン加工が可能な材料であれば、制限はない。吸収体膜70の材料としては、例えば、タンタル(Ta)又はクロム(Cr)を含有する材料が挙げられる。また、タンタル又はクロムを含有する材料は、酸素(O)、窒素(N)、炭素(C)、ホウ素(B)などを含有していてもよい。タンタル(Ta)を含有する材料としては、Ta単体、TaO、TaN、TaON、TaC、TaCN、TaCO、TaCON、TaB、TaOB、TaNB、TaONB、TaCB、TaCNB、TaCOB、TaCONBなどのタンタル化合物が挙げられる。Crを含有する材料として具体的には、Cr単体、CrO、CrN、CrON、CrC、CrCN、CrCO、CrCON、CrB、CrOB、CrNB、CrONB、CrCB、CrCNB、CrCOB、CrCONBなどのクロム化合物が挙げられる。
【0046】
吸収体膜70は、スパッタリングで形成することができ、スパッタリングは、マグネトロンスパッタが好ましい。具体的には、クロム(Cr)ターゲット、タンタル(Ta)ターゲットなどの金属ターゲットや、クロム化合物ターゲット、タンタル化合物ターゲットなどの金属化合物ターゲット(Cr、Taなどの金属と、酸素(O)、窒素(N)、炭素(C)、ホウ素(B)などとを含有するターゲット)などを用い、スパッタガスとして、ヘリウム(He)ガス、アルゴン(Ar)ガス、クリプトン(Kr)ガス、キセノン(Xe)ガスなどの希ガスを用いたスパッタリング、また、希ガスと共に、酸素含有ガス、窒素含有ガス、炭素含有ガスなどの反応性ガスを用いた反応性スパッタリングにより形成することができる。吸収体膜70の膜厚は、特に制限はないが、通常30~90nm程度である。
【0047】
多層反射膜20と吸収体膜70の間には、好ましくは多層反射膜20に接して、より好ましくは多層反射膜20及び吸収体膜70の双方に接して、保護膜50を形成することが好ましい(図3乃至図5参照)。保護膜50は、キャッピング層とも呼ばれ、その上の吸収体膜70にパターンを形成する際や、吸収体膜70のパターン修正の際などに、多層反射膜20を保護するために設けられる。
【0048】
保護膜50の材料としては、ルテニウム(Ru)を含有する材料が好ましい。ルテニウム(Ru)を含有する材料としては、ルテニウム(Ru)単体、ルテニウム(Ru)に、ニオブ(Nb)やジルコニウム(Zr)を添加した化合物などが好適に用いられる。保護膜50の厚さは、通常5nm以下、特に4nm以下であることが好ましい。保護膜50の厚さの下限は、通常、2nm以上である。
【0049】
保護膜50は、多層反射膜20と同様に、例えば、イオンビームスパッタ法やマグネトロンスパッタ法などのスパッタ法により形成することができる。保護膜50は、例えば、1つ又は複数のターゲットを装着できるスパッタ装置を用いてスパッタ法により形成することができ、具体的には、ルテニウム(Ru)ターゲット、又はニオブ(Nb)、ジルコニウム(Zr)などを添加したルテニウム(Ru)ターゲットと、必要に応じてニオブ(Nb)及びジルコニウム(Zr)から選ばれる1以上の元素のターゲットとを用い、スパッタガスとして、ヘリウム(He)ガス、アルゴン(Ar)ガス、クリプトン(Kr)ガス、キセノン(Xe)ガスなどの希ガスを用いて、スパッタリングすることにより形成することができる。
【0050】
保護膜50を、金属以外の他の元素を含む化合物で形成する場合は、スパッタガスとして、希ガスと共に、酸素含有ガス、窒素含有ガス、炭素含有ガスなどの反応性ガスを用いた反応性スパッタリングにより形成することができる。また、ターゲットを、化合物としてもよい。
【0051】
吸収体膜70上の基板10から離間する側には、好ましくは吸収体膜70と接して、吸収体膜70とはエッチング特性が異なるハードマスク膜(吸収体膜70をドライエッチングする際のエッチングマスクとして機能する、吸収体膜70のエッチングマスク膜)110を設けてもよい(図3参照)。このハードマスク膜110は、吸収体膜70をドライエッチングする際のエッチングマスクとして機能する膜である。このハードマスク膜110は、吸収体パターンを形成した後には、例えば、パターン検査などの検査で用いる光の波長における反射率を低減するための反射率低減層として残して吸収体膜70の一部としても、取り除いて反射型マスク上には残存させないようにしてもよい。ハードマスク膜110の材料としては、クロム(Cr)を含有する材料が挙げられる。クロム(Cr)を含有する材料で形成されているハードマスク膜110は、特に、吸収体膜70が、タンタル(Ta)を含有し、クロム(Cr)を含有しない材料で形成されている場合に好適である。吸収体膜70の上に、パターン検査などの検査で用いる光の波長における反射率を低減する機能を主に担う層(反射率低減層)160を形成するとき、ハードマスク膜110は、吸収体膜70の反射率低減層160の上に形成することができる(図3参照)。ハードマスク膜110は、例えば、マグネトロンスパッタ法により形成することができる。ハードマスク膜110の膜厚は、特に制限はないが、通常5~20nm程度である。
【0052】
更に、反射型マスクブランクは、基板10から最も離間する側に、レジスト膜170が形成されたものであってもよい(図5参照)。レジスト膜170は、電子線(EB)レジストが好ましい。
【実施例
【0053】
以下、実験例、実施例及び比較例を示して本実施の形態を具体的に説明するが、本発明は下記の実施例に制限されるものではない。
【0054】
[実施例1]
152mm角、6.35mm厚の低熱膨張ガラス基板(SiO2-TiO2系ガラス基板)の主表面の上に、タンタル(Ta)ターゲットとケイ素(Si)ターゲットとを用い、これらのターゲットと基板の主表面とを対向させ、基板を自転させながら、DCパルスマグネトロンスパッタリングにより、裏面導電膜30を成膜した。
【0055】
具体的には、タンタル(Ta)ターゲットとケイ素(Si)ターゲットとを装着でき、ターゲットを1つずつ個々に又は2以上同時に放電することができるスパッタ装置に、各々のターゲットを装着して、基板を設置した。
【0056】
そして、チャンバー内にてアルゴン(Ar)ガス(流量:18sccm)と窒素(N)ガス(流量:20sccm)を流しながら、タンタル(Ta)ターゲットに1550W、ケイ素(Si)ターゲットに250W電力を印加し、厚さ70nmのTaSiNの裏面導電膜30を形成した。裏面導電膜形成後の基板形状を測定したところ、ΔTIRは-0.70umであり、シート抵抗値は45Ω/□であった。ここでΔTIRは、基板の主表面の中心を中心とした一辺が142mm角の範囲内で、裏面導電膜30を形成した主表面において、裏面導電膜30を形成する前に対して、膜を形成した後の表面形状(反り)の変化が凹方向への変化である場合をプラス(+)、凸方向への変化である場合をマイナス(-)と表記する(以下、実施例の裏面導電膜形成におけるΔTIRのプラスマイナスの表記は同様である。)。
【0057】
次にこの膜の表面粗さをAFM(原子間力顕微鏡、オックスフォード・インストゥルメンツ株式会社製JupiterXR)にて測定したところ、表面粗さSqは0.22nmであった。
【0058】
この膜の組成をXPS(X線光電子分光装置、サーモフィッシャーサイエンティフィック株式会社製 K-ALPHA)にて測定したところ、窒素含有量は22原子%であり、ケイ素含有量を原子%でCSi、タンタル含有量を原子%でCTaとしたとき、CSi/(CTa+CSi)は10%であった。
【0059】
次にこの膜の静電チャックステージ着脱時の発塵リスクを評価するため、所謂マジックリフトオフ手法でパターンを形成し、擦れ痕の簡易テストを実施した。
【0060】
具体的には予め石英基板上に油性マジックで幅2mm、長さ1cm程度のマーク線を基板中央部に引いた後、上記石英基板をチャンバー内に搬送し、先ほどと同様の条件にてTaSiN組成の70nmの裏面導電膜30を成膜した。その後、エタノールに浸した綿棒をマーク部に押しあてて極力膜面に力を加えないようにして、マジックごと膜を剥離させて膜付着箇所と基板がむき出しのパターンが形成した。次に同じくエタノールに浸した綿棒をマークに押し当て、今度は力を加えてパターン箇所を中心に30秒ほど綿棒を擦り、その後シングルビューカメラで基板上方から倍率3.5倍に拡大してパターン部に擦り跡がついているか観察を行った。
【0061】
本実施の条件ではパターン部に擦り跡は観察されなかったことから、ステージ着脱時の発塵リスクは低いと考えられる。
【0062】
[実施例2]
実施例1と同様のチャンバーで、まず、チャンバー内にてアルゴン(Ar)ガス(流量:18sccm)と窒素ガス(流量:25sccm)を流しながら、タンタル(Ta)ターゲットに1550W、ケイ素(Si)ターゲットに250W電力を印加し、厚さ70nmのTaSiNの裏面導電膜30を形成した。裏面導電膜形成後の基板形状を測定したところ、ΔTIRは-1.0umであり、シート抵抗値は64Ω/□であった。
【0063】
次にこの膜の表面粗さをAFMにて測定したところ、表面粗さSqは0.45nmであった。
【0064】
この膜の組成をXPS分析にて測定したところ、窒素含有量は31原子%であり、ケイ素含有量を原子%でCSi、タンタル含有量を原子%でCTaとしたとき、CSi/(CTa+CSi)は10%であった。実施例1と同様に石英基板上にマジックリフトオフでパターンを形成し、擦り跡の簡易テストを実施したところ、本実施の条件ではパターン部に擦り跡は観察されなかった。このため、チャックステージ着脱時の発塵性リスクは低いと考えられる。
【0065】
[実施例3]
実施例1と同様のチャンバーで、まず、チャンバー内にてアルゴン(Ar)ガス(流量:18sccm)と窒素(N)ガス(流量:15sccm)を流しながら、タンタル(Ta)ターゲットに1550W、ケイ素(Si)ターゲットに250W電力を印加し、厚さ70nmのTaSiNの裏面導電膜30を形成した。裏面導電膜形成後の基板形状を測定したところ、ΔTIRは-0.75umであり、シート抵抗値は37Ω/□であった。
【0066】
次にこの膜の表面粗さをAFMにて測定したところ、表面粗さSqは0.21nmであった。
【0067】
この膜の組成をXPS分析にて測定したところ、窒素含有量は18原子%であり、ケイ素含有量を原子%でCSi、タンタル含有量を原子%でCTaとしたとき、CSi/(CTa+CSi)は10%であった。実施例1と同様に石英基板上にマジックリフトオフでパターンを形成し、擦り跡の簡易テストを実施したところ、パターン部にわずかな擦り跡が観察されたが、チャックステージ着脱時の発塵性リスクは低いと考えられる。
【0068】
[実施例4]
実施例1と同様のチャンバーで、まず、チャンバー内にてアルゴン(Ar)ガス(流量:18sccm)と窒素(N)ガス(流量:20sccm)を流しながら、タンタル(Ta)ターゲットに1050W、ケイ素(Si)ターゲットに750W電力を印加し、厚さ70nmのTaSiNの裏面導電膜30を形成した。裏面導電膜形成後の基板形状を測定したところ、ΔTIRは-0.49umであり、シート抵抗値は71Ω/□であった。
【0069】
次にこの膜の表面粗さをAFMにて測定したところ、表面粗さSqは0.22nmであった。
【0070】
この膜の組成をXPS分析にて測定したところ、窒素含有量は25原子%であり、ケイ素含有量を原子%でCSi、タンタル含有量を原子%でCTaとしたとき、CSi/(CTa+CSi)は42%であった。実施例1と同様に石英基板上にマジックリフトオフでパターンを形成し、擦り跡の簡易テストを実施したところ、本実施の条件ではパターン部に擦り跡は観察されなかった。このため、チャックステージ着脱時の発塵性リスクは低いと考えられる。
【0071】
[実施例5]
実施例1と同様のチャンバーで、まず、チャンバー内にてアルゴン(Ar)ガス(流量:18sccm)と窒素(N)ガス(流量:20sccm)を流しながら、タンタル(Ta)ターゲットに1550W、ケイ素(Si)ターゲットに250W電力を印加し、厚さ67nmのTaSiN層(第一層31)を形成した。
【0072】
続けて同一チャンバー内にてアルゴン(Ar)ガス(流量:18sccm)と窒素(N)ガス(流量:20sccm)と酸素(O)ガス(流量:20sccm)を流しながら、タンタル(Ta)ターゲットに1550W、ケイ素(Si)ターゲットに250W電力を印加し、厚さ3nmのTaSiON層(第二層32)を積層し多層の裏面導電膜30を形成した。
【0073】
次にこの膜の表面粗さをAFMにて測定したところ、表面粗さSqは0.21nmであった。
【0074】
この膜の組成をXPS分析にて測定したところ、TaSiN層(第一層31)の窒素含有量は22原子%であり、CSi/(CTa+CSi)は10%であり、TaSiON層(第二層32)の窒素と酸素の合計含有量は53原子%であり、CSi/(CTa+CSi)は15%であった。
【0075】
実施例1と同様に石英基板上にマジックリフトオフでパターンを形成し、擦り跡の簡易テストを実施したところ、本実施の条件ではパターン部に擦り跡は観察されなかった。表層のTaSiON層は、TaSiN層と比べさらに微結晶化、アモルファス構造を形成し易い膜質となっており、チャックステージ着脱時の発塵性リスクはさらに低いと考えられる。
【0076】
[比較例1]
実施例1と同様のチャンバーで、まず、チャンバー内にてアルゴン(Ar)ガス(流量:18sccm)と窒素(N)ガス(流量:12.5sccm)を流しながら、タンタル(Ta)ターゲットに1550W、ケイ素(Si)ターゲットに250W電力を印加し、厚さ70nmのTaSiNの裏面導電膜を形成した。裏面導電膜形成後の基板形状を測定したところ、ΔTIRは-0.74umであり、シート抵抗値は36Ω/□であった。
【0077】
次にこの膜の表面粗さをAFMにて測定したところ、表面粗さは0.20nmであった。
【0078】
この膜の組成をXPS分析にて測定したところ、窒素含有量は17原子%であり、ケイ素含有量を原子%でCSi、タンタル含有量を原子%でCTaとしたとき、CSi/(CTa+CSi)は10%であった。
【0079】
実施例1と同様に石英基板上にマジックリフトオフでパターンを形成し、擦り跡の簡易テストを実施したところ、本実施の条件ではパターン部に擦り跡が観察され、擦った箇所での膜剥がれも発生しており、静電チャックステージ着脱時の発塵リスクが高いといえる。
【0080】
[比較例2]
実施例1と同様のチャンバーで、まず、チャンバー内にてアルゴン(Ar)ガス(流量:18sccm)と窒素(N)ガス(流量:30sccm)を流しながら、タンタル(Ta)ターゲットに1550W、ケイ素(Si)ターゲットに250W電力を印加し、厚さ70nmのTaSiNの裏面導電膜を形成した。裏面導電膜形成後の基板形状を測定したところ、ΔTIRは-0.73umであり、シート抵抗値は848Ω/□であった。
【0081】
次にこの膜の表面粗さをAFMにて測定したところ、表面粗さSqは1.1nmであった。
【0082】
この膜の組成をXPS分析にて測定したところ、窒素含有量は37原子%であり、ケイ素含有量を原子%でCSi、タンタル含有量を原子%でCTaとしたとき、CSi/(CTa+CSi)は10%であった。実施例1と同様に石英基板上にマジックリフトオフでパターンを形成し、擦り跡の簡易テストを実施したところ、本実施の条件ではパターン部に擦り跡は観察されなかった。しかしながら、前述したとおりシート抵抗が848Ω/□と高いほか、表面粗さも荒く静電チャックステージ着脱時の発塵リスクも高く裏面導電膜としては不向きであった。
【0083】
[比較例3]
実施例1と同様のチャンバーで、まず、チャンバー内にてアルゴン(Ar)ガス(流量:18sccm)と窒素(N)ガス(流量:25sccm)を流しながら、タンタル(Ta)ターゲットに800W、ケイ素(Si)ターゲットに1000W電力を印加し、厚さ70nmのTaSiNの裏面導電膜を形成した。裏面導電膜形成後の基板形状を測定したところ、ΔTIRは-0.61umであり、シート抵抗値は520Ω/□であった。
【0084】
次にこの膜の表面粗さをAFMにて測定したところ、表面粗さSqは0.3nmであった。この膜の組成をXPS分析にて測定したところ、窒素含有量は30原子%であり、ケイ素含有量を原子%でCSi、タンタル含有量を原子%でCTaとしたとき、CSi/(CTa+CSi)は56%であった。
【0085】
実施例1と同様に石英基板上にマジックリフトオフでパターンを形成し、擦り跡の簡易テストを実施したところ、本実施の条件ではパターン部に擦り跡は観察されなかった。しかしながら、シート抵抗値が520Ω/□と高い値になっており、静電チャックで良好に吸着するという観点からは好ましい態様ではない。
【0086】
[比較例4]
実施例1と同様のチャンバーで、まず、チャンバー内にてアルゴン(Ar)ガス(流量:18sccm)と窒素(N)ガス(流量:20sccm)を流しながら、タンタル(Ta)ターゲットにのみ1800W電力を印加し、厚さ70nmのTaNの裏面導電膜を形成した。裏面導電膜形成後の基板形状を測定したところ、ΔTIRは-2.18umであり、シート抵抗値は37Ω/□であった。
【0087】
次にこの膜の表面粗さをAFMにて測定したところ、表面粗さSqは0.3nmであった。
【0088】
この膜の組成をXPS分析にて測定したところ、窒素含有量は28原子%であった。
【0089】
実施例1と同様に石英基板上にマジックリフトオフでパターンを形成し、擦り跡の簡易テストを実施したところ、本実施の条件ではパターン部に擦り跡は観察されなかったが、膜応力が大きく裏面導電膜としては不向きであった。
図1
図2
図3
図4
図5