(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2025-04-21
(45)【発行日】2025-04-30
(54)【発明の名称】コンパウンド及び成形体
(51)【国際特許分類】
C08L 63/00 20060101AFI20250422BHJP
C08L 83/04 20060101ALI20250422BHJP
C08K 3/08 20060101ALI20250422BHJP
C08L 83/10 20060101ALI20250422BHJP
C08G 59/24 20060101ALI20250422BHJP
【FI】
C08L63/00 C
C08L63/00 A
C08L83/04
C08K3/08
C08L83/10
C08G59/24
(21)【出願番号】P 2021562690
(86)(22)【出願日】2020-12-02
(86)【国際出願番号】 JP2020044901
(87)【国際公開番号】W WO2021112135
(87)【国際公開日】2021-06-10
【審査請求日】2023-10-05
(31)【優先権主張番号】P 2019219060
(32)【優先日】2019-12-03
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000004455
【氏名又は名称】株式会社レゾナック
(74)【代理人】
【識別番号】100088155
【氏名又は名称】長谷川 芳樹
(74)【代理人】
【識別番号】100128381
【氏名又は名称】清水 義憲
(74)【代理人】
【識別番号】100169454
【氏名又は名称】平野 裕之
(72)【発明者】
【氏名】稲葉 貴一
(72)【発明者】
【氏名】遠藤 由則
【審査官】佐藤 貴浩
(56)【参考文献】
【文献】特開平06-163225(JP,A)
【文献】特開平11-067513(JP,A)
【文献】中国特許出願公開第104371617(CN,A)
【文献】特開2010-138384(JP,A)
【文献】国際公開第2019/229960(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08L 1/00-101/14
C08K 3/00- 13/08
C08G59/00- 59/72
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
金属元素含有粉と、樹脂組成物と、を備え、
前記金属元素含有粉が磁性粉であり、
前記樹脂組成物が、エポキシ樹脂、及びシロキサン結合を有する化合物を含有し、
前記シロキサン結合を有する化合物の含有量が、前記エポキシ樹脂100質量部に対して、20質量部以下であり、
前記シロキサン結合を有する化合物が、下記化学式(1)
及び(2)で表される構造を有するシロキサン化合物を含む、コンパウンド。
【化1】
[前記化学式(1)中、nは2~200の整数であり、R
1及びR
2其々は独立に、炭素数1~10のアルキル基、炭素数6~10のアリール基、炭素数1~10のアルコキシ基、エポキシ基を有する1価の有機基、カルボキシ基を有する1価の有機基、又は炭素数3~500のポリアルキレンエーテル基である。]
【化2】
[前記化学式(2)中、R
3
は、炭素数1~10のアルキレン基である。]
【請求項2】
前記金属元素含有粉の平均粒子径が1μm以上300μm以下である、請求項1に記載のコンパウンド。
【請求項3】
前記シロキサン化合物として、下記化学式(3)で表される化合物を含む、
請求項1又は2に記載のコンパウンド。
【化3】
[前記化学式(3)中、nは、2~200の整数であり、m
1及びm
2其々は独立に、1~200の整数であり、R
4、R
5、R
6及びR
7其々は独立に、炭素数1~10のアルキル基、炭素数6~10のアリール基、炭素数1~10のアルコキシ基、エポキシ基を有する1価の有機基、カルボキシ基を有する1価の有機基、又は炭素数3~500のポリアルキレンエーテル基であり、R
8及びR
9其々は独立に、炭素数1~10のアルキレン基であり、R
10及びR
11其々は独立に、エーテル構造を含んでいてもよい炭素数1~10の2価の炭化水素基である。]
【請求項4】
前記エポキシ樹脂として、ビフェニレンアラルキル型エポキシ樹脂及びイソシアネート変性エポキシ樹脂のうちの少なくとも一種を含む、
請求項1~3のいずれか一項に記載のコンパウンド。
【請求項5】
前記金属元素含有粉の含有量が、90質量%以上100質量%未満である、
請求項1~4のいずれか一項に記載のコンパウンド。
【請求項6】
請求項1~5のいずれか一項に記載のコンパウンドを備える、成形体。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、コンパウンド及び成形体に関する。
【背景技術】
【0002】
金属粉末及び樹脂組成物を含むコンパウンドは、金属粉末の諸物性に応じて、例えば、インダクタ、電磁波シールド、又はボンド磁石等の多様な工業製品の原材料として利用される(下記特許文献1参照。)
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
インダクタ等の工業製品には、熱や電圧に対する耐性が要求される場合がある。本発明は、耐熱性及び耐電圧性を共に有する成形体を得ることが可能なコンパウンド、及び当該コンパウンドを備える成形体を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明の一側面に係るコンパウンドは、金属元素含有粉と、樹脂組成物と、を備え、樹脂組成物が、エポキシ樹脂、及びシロキサン結合を有する化合物(chemical cоmpоund)を含有し、シロキサン結合を有する化合物の含有量が、エポキシ樹脂100質量部に対して、20質量部以下であり、シロキサン結合を有する化合物が、下記化学式(1)で表される構造を有するシロキサン化合物を含む。
【化1】
[前記化学式(1)中、nは2~200の整数であり、R
1及びR
2其々は独立に、炭素数1~10のアルキル基、炭素数6~10のアリール基、炭素数1~10のアルコキシ基、エポキシ基を有する1価の有機基、カルボキシ基を有する1価の有機基、又は炭素数3~500のポリアルキレンエーテル基である。]
【0006】
本発明の一側面に係る上記コンパウンドでは、シロキサン化合物が、下記化学式(2)で表される構造単位をさらに有してよい。
【0007】
【化2】
[前記化学式(2)中、R
3は、炭素数1~10のアルキレン基である。]
【0008】
本発明の一側面に係る上記コンパウンドは、シロキサン化合物として、下記化学式(3)で表される化合物を含んでよい。
【0009】
【化3】
[前記化学式(3)中、nは、2~200の整数であり、m
1及びm
2其々は独立に、1~200の整数であり、R
4、R
5、R
6及びR
7其々は独立に、炭素数1~10のアルキル基、炭素数6~10のアリール基、炭素数1~10のアルコキシ基、エポキシ基を有する1価の有機基、カルボキシ基を有する1価の有機基、又は炭素数3~500のポリアルキレンエーテル基であり、R
8及びR
9其々は独立に、炭素数1~10のアルキレン基であり、R
10及びR
11其々は独立に、エーテル構造を含んでいてもよい炭素数1~10の2価の炭化水素基である。]
【0010】
本発明の一側面に係る上記コンパウンドは、エポキシ樹脂として、ビフェニレンアラルキル型エポキシ樹脂及びイソシアネート変性エポキシ樹脂のうちの少なくとも一種を含んでよい。
【0011】
本発明の一側面に係る上記コンパウンドでは、金属元素含有粉の含有量が、90質量%以上100質量%未満であってよい。
【0012】
本発明の一側面に係る成形体は、上記コンパウンドを備える。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、耐熱性及び耐電圧性を共に有する成形体を得ることが可能なコンパウンド、及び当該コンパウンドを備える成形体が提供される。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明の好適な実施形態について説明する。ただし、本発明は下記実施形態に何ら限定されるものではない。
【0015】
<コンパウンドの概要>
本実施形態に係るコンパウンドは、金属元素含有粉と、樹脂組成物と、を備える。金属元素含有粉は、複数(多数)の金属元素含有粒子から構成される。金属元素含有粉(金属元素含有粒子)は、例えば、金属単体、合金及び金属化合物からなる群より選ばれる少なくとも一種を含有してよい。樹脂組成物は少なくとも、エポキシ樹脂、及びシロキサン結合を有する化合物を含有する。シロキサン結合を有する化合物は、「シロキサン化合物」と表記される場合がある。樹脂組成物は、エポキシ樹脂及びシロキサン化合物に加えて、他の成分を含有してよい。例えば、樹脂組成物は、硬化剤を含有してよい。樹脂組成物は、硬化促進剤を含有してよい。樹脂組成物は、添加剤を含有してよい。樹脂組成物は、エポキシ樹脂、シロキサン化合物、硬化剤、硬化促進剤及び添加剤を包含し得る成分であって、有機溶媒と金属元素含有粉とを除く残りの成分(不揮発性成分)であってよい。添加剤とは、樹脂組成物のうち、樹脂、シロキサン化合物、硬化剤及び硬化促進剤を除く残部の成分である。添加剤は、例えば、カップリング剤又は難燃剤等である。樹脂組成物が添加剤としてワックスを含有してもよい。コンパウンドは、粉末(コンパウンド粉)であってよい。
【0016】
本実施形態に係るコンパウンドは、エラストマーの一種であるシロキサン化合物を所定量含有する。所定量のシロキサン化合物によりコンパウンドから得られる成形体の耐熱性及び耐電圧性が向上する理由は定かではないが、発明者らは次のような可能性を推察している。第一に、シロキサン化合物を添加することで含有成分の流動性が向上し、成形時に内部ボイドの発生を抑制できるためであると考える。第二に、金属元素含有粉とエポキシ樹脂との相溶性が低く、両者の界面から特性低下がもたらされると考えられるが、シロキサン化合物を添加することで両者の相溶性を向上できるためであると考える。ただし、本発明に係る作用効果は、上記の事項に限定されない。
【0017】
コンパウンドは、金属元素含有粉と、当該金属元素含有粉を構成する個々の金属元素含有粒子の表面に付着した樹脂組成物と、を備えてよい。樹脂組成物は、当該粒子の表面の全体を覆っていてもよく、当該粒子の表面の一部のみを覆っていてもよい。コンパウンドは、未硬化の樹脂組成物と、金属元素含有粉と、を備えてよい。コンパウンドは、樹脂組成物の半硬化物(例えばBステージの樹脂組成物)と、金属元素含有粉と、を備えてよい。コンパウンドは、未硬化の樹脂組成物、及び樹脂組成物の半硬化物の両方を備えてもよい。コンパウンドは、金属元素含有粉と樹脂組成物とからなっていてよい。
【0018】
コンパウンドにおける金属元素含有粉の含有量は、コンパウンド全体の質量に対して、90質量%以上100質量%未満、90質量%以上99.8質量%以下、92質量%以上99.5質量%以下、94質量%以上98.5質量%以下、又は94質量%以上97.5質量%以下であってよい。コンパウンドは、金属元素含有粉に加えて、他の充填材(例えば、シリカのフィラー)を含有してもよい。
【0019】
コンパウンドにおける樹脂組成物の含有量は、コンパウンド全体の質量(例えば、金属元素含有粉及び樹脂組成物の質量の合計)に対して、0.2質量%以上10質量%以下、又は4質量%以上6質量%以下であってよい。
【0020】
コンパウンドにおけるシロキサン化合物の含有量は、エポキシ樹脂100質量部に対して、20質量部以下であるが、17.5質量部以下であってよく、15質量部以下であってよい。シロキサン化合物の含有量が上記の範囲内である場合、成形体の耐熱性及び耐電圧性が両立される。一方、コンパウンドにおけるシロキサン化合物の含有量の下限は特に限定されないが、成形性等の観点から、エポキシ樹脂100質量部に対して、0.1質量部以上であってよく、5質量部以上であってよく、7.5質量部以上であってよく、10質量部以上であってよい。
【0021】
金属元素含有粉の平均粒子径は、特に限定されないが、例えば、1μm以上300μm以下であってよい。平均粒子径は、例えば粒度分布計によって測定されてよい。金属元素含有粉を構成する個々の金属元素含有粒子の形状は限定されないが、例えば、球状、扁平形状、角柱状又は針状であってよい。コンパウンドは、平均粒子径が異なる複数種の金属元素含有粉を備えてよい。
【0022】
コンパウンドに含まれる金属元素含有粉の組成又は組合せに応じて、コンパウンドから形成される成形体の電磁気的特性等の諸特性を自在に制御し、当該成形体を様々な工業製品又はそれらの原材料に利用することができる。コンパウンドを用いて製造される工業製品は、例えば、自動車、医療機器、電子機器、電気機器、情報通信機器、家電製品、音響機器、及び一般産業機器であってよい。例えば、コンパウンドが金属元素含有粉としてSm‐Fe‐N系合金又はNd‐Fe‐B系合金等の永久磁石を含む場合、コンパウンドは、ボンド磁石の原材料として利用されてよい。コンパウンドが金属元素含有粉としてFe‐Si‐Cr系合金又はフェライト等の軟磁性粉を含む場合、コンパウンドは、インダクタ(例えばEMIフィルタ)又はトランスの原材料(例えば磁芯)として利用されてよい。コンパウンドが金属元素含有粉として鉄と銅とを含む場合、コンパウンドから形成された成形体(例えばシート)は、電磁波シールドとして利用されてよい。
【0023】
<コンパウンドの組成>
(樹脂組成物)
樹脂組成物は、金属元素含有粉を構成する金属元素含有粒子の結合材(バインダ)としての機能を有し、コンパウンドから形成される成形体に機械的強度を付与する。例えば、樹脂組成物は、金型を用いてコンパウンドが高圧で成形される際に、金属元素含有粒子の間に充填され、金属元素含有粒子を互いに結着する。成形体中の樹脂組成物を硬化させることにより、樹脂組成物の硬化物が金属元素含有粒子同士をより強固に結着して、成形体の機械的強度が向上する。
【0024】
樹脂組成物は、熱硬化性樹脂として、少なくともエポキシ樹脂を含有する。コンパウンドが、熱硬化性樹脂の中でも比較的に流動性に優れたエポキシ樹脂を含むことにより、コンパウンドの流動性、保存安定性、及び成形性が向上する。ただし、本発明の効果が阻害されない限りにおいて、コンパウンドはエポキシ樹脂に加えて他の樹脂を含んでもよい。例えば、樹脂組成物は、熱硬化性樹脂として、フェノール樹脂及びポリアミドイミド樹脂のうち少なくも一種を含んでもよい。樹脂組成物がエポキシ樹脂及びフェノール樹脂の両方を含む場合、フェノール樹脂はエポキシ樹脂の硬化剤として機能してもよい。樹脂組成物は、熱可塑性樹脂を含んでもよい。熱可塑性樹脂は、例えば、アクリル樹脂、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリスチレン、ポリ塩化ビニル、及びポリエチレンテレフタレートからなる群より選ばれる少なくとも一種であってよい。樹脂組成物は、熱硬化性樹脂及び熱可塑性樹脂の両方を含んでよい。樹脂組成物は、シリコーン樹脂を含んでもよい。
【0025】
エポキシ樹脂は、例えば、1分子中に2個以上のエポキシ基を有する樹脂であってよい。エポキシ樹脂は、例えば、1分子中に3個以上のエポキシ基を有する樹脂であってよい。エポキシ樹脂は、多官能型エポキシ樹脂であってよい。エポキシ樹脂は、例えば、ビフェニル型エポキシ樹脂、スチルベン型エポキシ樹脂、ジフェニルメタン型エポキシ樹脂、硫黄原子含有型エポキシ樹脂、ノボラック型エポキシ樹脂、ジシクロペンタジエン型エポキシ樹脂、サリチルアルデヒド型エポキシ樹脂、ナフトール類とフェノール類との共重合型エポキシ樹脂、アラルキル型フェノール樹脂のエポキシ化物、ビスフェノール型エポキシ樹脂、ビスフェノール骨格を含有するエポキシ樹脂、アルコール類のグリシジルエーテル型エポキシ樹脂、パラキシリレン及び/又はメタキシリレン変性フェノール樹脂のグリシジルエーテル型エポキシ樹脂、テルペン変性フェノール樹脂のグリシジルエーテル型エポキシ樹脂、シクロペンタジエン型エポキシ樹脂、多環芳香環変性フェノール樹脂のグリシジルエーテル型エポキシ樹脂、ナフタレン環含有フェノール樹脂のグリシジルエーテル型エポキシ樹脂、グリシジルエステル型エポキシ樹脂、グリシジル型又はメチルグリシジル型のエポキシ樹脂、脂環型エポキシ樹脂、ハロゲン化フェノールノボラック型エポキシ樹脂、オルソクレゾールノボラック型エポキシ樹脂、ハイドロキノン型エポキシ樹脂、トリメチロールプロパン型エポキシ樹脂、及びオレフィン結合を過酢酸等の過酸で酸化して得られる線状脂肪族エポキシ樹脂からなる群より選ばれる少なくとも一種であってよい。
【0026】
流動性に優れている観点において、エポキシ樹脂は、ビフェニル型エポキシ樹脂、オルソクレゾールノボラック型エポキシ樹脂、フェノールノボラック型エポキシ樹脂、ビスフェノール型エポキシ樹脂、ビスフェノール骨格を有するエポキシ樹脂、サリチルアルデヒドノボラック型エポキシ樹脂、及びナフトールノボラック型エポキシ樹脂からなる群より選ばれる少なくとも一種であってよい。
【0027】
エポキシ樹脂は、結晶性のエポキシ樹脂であってよい。結晶性のエポキシ樹脂の分子量は比較的低いにもかかわらず、結晶性のエポキシ樹脂は比較的高い融点を有し、且つ流動性に優れる。結晶性のエポキシ樹脂(結晶性の高いエポキシ樹脂)は、例えば、ハイドロキノン型エポキシ樹脂、ビスフェノール型エポキシ樹脂、チオエーテル型エポキシ樹脂、及びビフェニル型エポキシ樹脂からなる群より選ばれる少なくとも一種であってよい。結晶性のエポキシ樹脂の市販品は、例えば、エピクロン860、エピクロン1050、エピクロン1055、エピクロン2050、エピクロン3050、エピクロン4050、エピクロン7050、エピクロンHM‐091、エピクロンHM‐101、エピクロンN‐730A、エピクロンN‐740、エピクロンN‐770、エピクロンN‐775、エピクロンN‐865、エピクロンHP‐4032D、エピクロンHP‐7200L、エピクロンHP‐7200、エピクロンHP‐7200H、エピクロンHP‐7200HH、エピクロンHP‐7200HHH、エピクロンHP‐4700、エピクロンHP‐4710、エピクロンHP‐4770、エピクロンHP‐5000、エピクロンHP‐6000、N500P‐2、及びN500P‐10(以上、DIC株式会社製の商品名)、NC‐3000、NC‐3000‐L、NC‐3000‐H、NC‐3100、CER‐3000‐L、NC‐2000‐L、XD‐1000、NC‐7000‐L、NC‐7300‐L、EPPN‐501H、EPPN‐501HY、EPPN‐502H、EOCN‐1020、EOCN‐102S、EOCN‐103S、EOCN‐104S、CER‐1020、EPPN‐201、BREN‐S、BREN‐10S(以上、日本化薬株式会社製の商品名)、YX‐4000、YX‐4000H、YL4121H、及びYX‐8800(以上、三菱ケミカル株式会社製の商品名)からなる群より選ばれる少なくとも一種であってよい。
【0028】
コンパウンドの成形収縮率が低減され易く、また成形体の耐熱性及び耐電圧性が向上し易い観点から、樹脂組成物は、エポキシ樹脂として、ビフェニレンアラルキル型エポキシ樹脂及びイソシアネート変性エポキシ樹脂のうちの少なくとも一種を含んでよい。樹脂組成物は、エポキシ樹脂として、ビフェニレンアラルキル型エポキシ樹脂及びイソシアネート変性エポキシ樹脂の両方を含んでよい。ビフェニレンアラルキル型エポキシ樹脂の市販品は、例えば、日本化薬株式会社製のNC‐3000であってよい。イソシアネート変性エポキシ樹脂の市販品は、例えば、旭化成株式会社(旧旭化成イーマテリアルズ株式会社)製のAER‐4001であってよい。成形体の耐熱性及び耐電圧性が向上し易い観点から、樹脂組成物は、多官能型エポキシ樹脂を含んでよい。多官能型エポキシ樹脂の市販品としては、例えば、株式会社プリンテック製のVG-3101L等が挙げられる。
【0029】
樹脂組成物は、上記のうち一種のエポキシ樹脂を含有してよい。樹脂組成物は、上記のうち複数種のエポキシ樹脂を含有してもよい。
【0030】
硬化剤は、低温から室温の範囲でエポキシ樹脂を硬化させる硬化剤と、加熱に伴ってエポキシ樹脂を硬化させる加熱硬化型硬化剤と、に分類される。低温から室温の範囲でエポキシ樹脂を硬化させる硬化剤は、例えば、脂肪族ポリアミン、ポリアミノアミド、及びポリメルカプタン等である。加熱硬化型硬化剤は、例えば、芳香族ポリアミン、酸無水物、フェノールノボラック樹脂、及びジシアンジアミド(DICY)等である。
【0031】
低温から室温の範囲でエポキシ樹脂を硬化させる硬化剤を用いた場合、エポキシ樹脂の硬化物のガラス転移点は低く、エポキシ樹脂の硬化物は軟らかい傾向がある。その結果、コンパウンドから形成された成形体も軟らかくなり易い。一方、成形体の耐熱性を向上させる観点から、硬化剤は、好ましくは加熱硬化型の硬化剤、より好ましくはフェノール樹脂、さらに好ましくはフェノールノボラック樹脂であってよい。特に硬化剤としてフェノールノボラック樹脂を用いることで、ガラス転移点が高いエポキシ樹脂の硬化物が得られ易い。その結果、成形体の耐熱性及び機械的強度が向上し易い。
【0032】
フェノール樹脂は、例えば、アラルキル型フェノール樹脂、ジシクロペンタジエン型フェノール樹脂、サリチルアルデヒド型フェノール樹脂、ノボラック型フェノール樹脂、ベンズアルデヒド型フェノールとアラルキル型フェノールとの共重合型フェノール樹脂、パラキシリレン及び/又はメタキシリレン変性フェノール樹脂、メラミン変性フェノール樹脂、テルペン変性フェノール樹脂、ジシクロペンタジエン型ナフトール樹脂、シクロペンタジエン変性フェノール樹脂、多環芳香環変性フェノール樹脂、ビフェニル型フェノール樹脂、及びトリフェニルメタン型フェノール樹脂からなる群より選ばれる少なくとも一種であってよい。フェノール樹脂は、上記のうちの2種以上から構成される共重合体であってもよい。フェノール樹脂の市販品としては、例えば、荒川化学工業株式会社製のタマノル758、又は日立化成株式会社製のHP‐850N等を用いてもよい。
【0033】
フェノールノボラック樹脂は、例えば、フェノール類及び/又はナフトール類と、アルデヒド類と、を酸性触媒下で縮合又は共縮合させて得られる樹脂であってよい。フェノールノボラック樹脂を構成するフェノール類は、例えば、フェノール、クレゾール、キシレノール、レゾルシン、カテコール、ビスフェノールA、ビスフェノールF、フェニルフェノール及びアミノフェノールからなる群より選ばれる少なくとも一種であってよい。フェノールノボラック樹脂を構成するナフトール類は、例えば、α‐ナフトール、β‐ナフトール及びジヒドロキシナフタレンからなる群より選ばれる少なくとも一種であってよい。フェノールノボラック樹脂を構成するアルデヒド類は、例えば、ホルムアルデヒド、アセトアルデヒド、プロピオンアルデヒド、ベンズアルデヒド及びサリチルアルデヒドからなる群より選ばれる少なくとも一種であってよい。フェノールノボラック樹脂の市販品としては、例えば、明和化成株式会社製のHF-3M、MEW-1800等が挙げられる。
【0034】
硬化剤は、例えば、1分子中に2個のフェノール性水酸基を有する化合物であってもよい。1分子中に2個のフェノール性水酸基を有する化合物は、例えば、レゾルシン、カテコール、ビスフェノールA、ビスフェノールF、及び置換又は非置換のビフェノールからなる群より選ばれる少なくとも一種であってよい。
【0035】
樹脂組成物は、上記のうち一種のフェノール樹脂を含有してよい。樹脂組成物は、上記のうち複数種のフェノール樹脂を備えてもよい。樹脂組成物は、上記のうち一種の硬化剤を含有してよい。樹脂組成物は、上記のうち複数種の硬化剤を含有してもよい。
【0036】
エポキシ樹脂中のエポキシ基と反応する硬化剤中の活性基(フェノール性OH基)の比率は、エポキシ樹脂中のエポキシ基1当量に対して、好ましくは0.5~1.5当量、より好ましくは0.6~1.4当量、さらに好ましくは0.8~1.2当量であってよい。硬化剤中の活性基の比率が0.5当量未満である場合、得られる硬化物の充分な弾性率が得られ難い。一方、硬化剤中の活性基の比率が1.5当量を超える場合、コンパウンドから形成された成形体の硬化後の機械的強度が低下する傾向がある。ただし、硬化剤中の活性基の比率が上記範囲外である場合であっても、本発明に係る効果は得られる。
【0037】
硬化促進剤(触媒)は、例えば、エポキシ樹脂と反応してエポキシ樹脂の硬化を促進させる組成物であれば限定されない。硬化促進剤は、例えば、アルキル基置換イミダゾール、又はベンゾイミダゾール等のイミダゾール類であってよい。樹脂組成物は、一種の硬化促進剤を備えてよい。樹脂組成物は、複数種の硬化促進剤を備えてもよい。樹脂組成物が硬化促進剤を含有することにより、コンパウンドの成形性及び離型性が向上し易い。また、樹脂組成物が硬化促進剤を含有することにより、コンパウンドを用いて製造された成形体(例えば、電子部品)の機械的強度が向上したり、高温・高湿な環境下におけるコンパウンドの保存安定性が向上したりする。イミダゾール系硬化促進剤の市販品としては、例えば、2MZ‐H、C11Z、C17Z、1,2DMZ、2E4MZ、2PZ‐PW、2P4MZ、1B2MZ、1B2PZ、2MZ‐CN、C11Z‐CN、2E4MZ‐CN、2PZ‐CN、C11Z‐CNS、2P4MHZ、TPZ、及びSFZ(以上、四国化成工業株式会社製の商品名)からなる群より選ばれる少なくとも一種を用いてよい。硬化促進剤(触媒)として、例えば、ウレア系触媒を用いてもよい。ウレア系触媒の市販品としては、例えば、サンアプロ株式会社製のU-CAT3512Tが挙げられる。
【0038】
硬化促進剤の配合量は、硬化促進効果が得られる量であればよく、特に限定されない。ただし、樹脂組成物の吸湿時の硬化性及び流動性を改善する観点からは、硬化促進剤の配合量は、100質量部のエポキシ樹脂に対して、好ましくは0.1質量部以上30質量部以下、より好ましくは1質量部以上15質量部以下であってよい。硬化促進剤の含有量は、エポキシ樹脂及び硬化剤(例えばフェノール樹脂)の質量の合計100質量部に対して0.001質量部以上5質量部以下であることが好ましい。硬化促進剤の配合量が0.1質量部未満である場合、十分な硬化促進効果が得られ難い。硬化促進剤の配合量が30質量部を超える場合、コンパウンドの保存安定性が低下し易い。ただし、硬化促進剤の配合量及び含有量が上記範囲外である場合であっても、本発明に係る効果は得られる。
【0039】
樹脂組成物は、シロキサン結合を有する化合物(シロキサン化合物)を含有する。シロキサン結合は、2つのケイ素原子(Si)と1つの酸素原子(O)とを含む結合であり、-Si-O-Si-で表されてよい。シロキサン結合を有する化合物はポリシロキサン化合物であってよい。樹脂組成物は、一種のシロキサン化合物を含有してよく、複数種のシロキサン化合物を含有してもよい。コンパウンドの成形収縮率が低減され易く、また成形体の耐熱性及び耐電圧性が向上し易い観点から、樹脂組成物は、シロキサン化合物として、後述される第1シロキサン化合物を含有することが好ましい。樹脂組成物は、シロキサン化合物として、第1シロキサン化合物のみを含有してもよく、さらに第2シロキサン化合物を含有してもよい。樹脂組成物は、第1シロキサン化合物及び第2シロキサン化合物の両方を含有してもよい。樹脂組成物は、第1シロキサン化合物及び第2シロキサン化合物以外のシロキサン化合物を含有してもよい。以下では、第1シロキサン化合物及び第2シロキサン化合物の詳細を説明する。
【0040】
第1シロキサン化合物は、下記化学式(1)で表される構造単位を有してよい。構造単位を単に「構造」ということができる。下記化学式(1)で表される構造単位は、「構造単位1」と表記される場合がある。
【0041】
【0042】
上記化学式(1)中、nは2~200の整数であり、R1及びR2其々は独立に、炭素数1~10のアルキル基、炭素数6~10のアリール基、炭素数1~10のアルコキシ基、エポキシ基を有する1価の有機基、カルボキシ基を有する1価の有機基、又は炭素数3~500のポリアルキレンエーテル基である。
【0043】
第1シロキサン化合物中に存在する複数のR1は、互いに同じであっても異なってもよい。第1シロキサン化合物中に存在する複数のR2は、互いに同じであっても異なってもよい。R1及びR2は、互いに同じであっても異なってもよい。第1シロキサン化合物は、上記化学式(1)で表される繰り返し単位を有してもよい。
【0044】
コンパウンドの成形収縮率が低減され易く、また成形体の耐熱性及び耐電圧性が向上し易い観点から、第1シロキサン化合物は、下記化学式(2)で表される構造単位をさらに有することが好ましい。下記化学式(2)で表される構造単位は、「構造単位2」と表記される場合がある。
【0045】
【0046】
上記化学式(2)中、R3は、炭素数1~10のアルキレン基である。
【0047】
第1シロキサン化合物は、複数の構造単位2を有してよい。第1シロキサン化合物中に存在する複数のR3は、互いに同じであっても異なってもよい。第1シロキサン化合物は、上記化学式(2)で表される繰り返し単位を有してもよい。
【0048】
コンパウンドの成形収縮率が低減され易く、また成形体の耐熱性及び耐電圧性が向上し易い観点から、第1シロキサン化合物は、下記化学式(3)で表される化合物であることが好ましい。下記化学式(3)で表される化合物は、「化合物3」と表記される場合がある。
【0049】
【0050】
上記化学式(3)中、nは、2~200の整数である。m1及びm2其々は独立に、1~200の整数である。R4、R5、R6及びR7其々は独立に、炭素数1~10のアルキル基、炭素数6~10のアリール基、炭素数1~10のアルコキシ基、エポキシ基を有する1価の有機基、カルボキシ基を有する1価の有機基、又は炭素数3~500のポリアルキレンエーテル基である。R8及びR9其々は独立に、炭素数1~10のアルキレン基である。R10及びR11其々は独立に、エーテル構造を含んでいてもよい炭素数1~10の2価の炭化水素基である。R10及びR11其々は独立に、酸素原子を含んでいてもよい、或いは酸素原子を介して結合されていてもよい炭素数1~10の2価の炭化水素基であるということもできる。
【0051】
化合物3中に存在する複数のR4は、互いに同じであっても異なってもよい。化合物3中に存在する複数のR5は、互いに同じであっても異なってもよい。R4、R5、R6及びR7は、互いに同じであっても異なってもよい。化合物3中に存在する複数のR8は、互いに同じであっても異なってもよい。化合物3中に存在する複数のR9は、互いに同じであっても異なってもよい。R8及びR9は、互いに同じであっても異なってもよい。化合物3の重量平均分子量(Mw)は、例えば、4000以上20000以下であってよい。
【0052】
化合物3の市販品は、例えば、Gelest株式会社製のDBL‐C31、DBL‐C32等であってよい。
【0053】
コンパウンドの成形収縮率が低減され易く、また成形体の耐熱性及び耐電圧性が向上し易い観点から、第2シロキサン化合物は、下記化学式(4)で表される構造単位、及び下記化学式(5)で表される構造単位を有することが好ましい。下記化学式(4)で表される構造単位は、「構造単位4」と表記される場合がある。下記化学式(5)で表される構造単位は、「構造単位5」と表記される場合がある。
【0054】
【0055】
上記化学式(4)中、R12は、炭素数1~12の1価の炭化水素基である。R17は炭素数1以上の有機基である。
【0056】
R12は、例えば、メチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基、イソプロピル基、イソブチル基、t-ブチル基、ペンチル基、ヘキシル基、ヘプチル基、オクチル基、2-エチルヘキシル基等のアルキル基;ビニル基、アリル基、ブテニル基、ペンテニル基、ヘキセニル基等のアルケニル基;フェニル基、トリル基、キシリル基、ナフチル基、ビフェニル基等のアリール基;ベンジル基、フェネチル基等のアラルキル基等であってよい。R12は、メチル基又はフェニル基であることが好ましい。
【0057】
第2シロキサン化合物は、複数の構造単位4を有してよい。第2シロキサン化合物中に存在する複数のR12は、互いに同じであっても異なってもよい。第2シロキサン化合物は、上記化学式(4)で表される繰り返し単位を有してもよい。
【0058】
【0059】
上記化学式(5)中、R13及びR14其々は独立に、炭素数1~12の1価の炭化水素基である。
【0060】
R13は、例えば、メチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基、イソプロピル基、イソブチル基、t-ブチル基、ペンチル基、ヘキシル基、ヘプチル基、オクチル基、2-エチルヘキシル基等のアルキル基;ビニル基、アリル基、ブテニル基、ペンテニル基、ヘキセニル基等のアルケニル基;フェニル基、トリル基、キシリル基、ナフチル基、ビフェニル基等のアリール基;ベンジル基、フェネチル基等のアラルキル基等であってよい。R13は、メチル基又はフェニル基であることが好ましい。
【0061】
R14は、例えば、メチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基、イソプロピル基、イソブチル基、t-ブチル基、ペンチル基、ヘキシル基、ヘプチル基、オクチル基、2-エチルヘキシル基等のアルキル基;ビニル基、アリル基、ブテニル基、ペンテニル基、ヘキセニル基等のアルケニル基;フェニル基、トリル基、キシリル基、ナフチル基、ビフェニル基等のアリール基;ベンジル基、フェネチル基等のアラルキル基等であってよい。R14は、メチル基又はフェニル基であることが好ましい。
【0062】
第2シロキサン化合物は、複数の構造単位5を有してよい。第2シロキサン化合物中に存在する複数のR13は、互いに同じであっても異なってもよい。第2シロキサン化合物中に存在する複数のR14は、互いに同じであっても異なってもよい。R13及びR14は、互いに同じであっても異なってもよい。第2シロキサン化合物は、上記化学式(5)で表される繰り返し単位を有してもよい。
【0063】
第2シロキサン化合物の保存安定性の観点から、第2シロキサン化合物の分子の末端は、R12、R13、R14、水酸基及びアルコキシ基のうちのいずれか一つの基であることが好ましい。アルコキシ基は、例えば、メトキシ基、エトキシ基、プロプキシ基、又はブトキシ基であってよい。
【0064】
コンパウンドの成形収縮率が低減され易く、また成形体の耐熱性及び耐電圧性が向上し易い観点から、第2シロキサン化合物は、下記化学式(6)で表される構造単位を有することが好ましい。下記化学式(6)で表される構造単位は、「構造単位6」と表記される場合がある。
【0065】
【0066】
上記化学式(6)中、R15は、炭素数1~12の1価の炭化水素基である。R16は、エポキシ基を有する1価の有機基である。
【0067】
R15は、例えば、メチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基、イソプロピル基、イソブチル基、t-ブチル基、ペンチル基、ヘキシル基、ヘプチル基、オクチル基、2-エチルヘキシル基等のアルキル基;ビニル基、アリル基、ブテニル基、ペンテニル基、ヘキセニル基等のアルケニル基;フェニル基、トリル基、キシリル基、ナフチル基、ビフェニル基等のアリール基;ベンジル基、フェネチル基等のアラルキル基等であってよい。R13は、メチル基又はフェニル基であることが好ましい。
【0068】
R16は、例えば、2,3-エポキシプロピル基、3,4-エポキシブチル基、4,5-エポキシペンチル基、2-グリシドキシエチル基、3-グリシドキシプロピル基、4-グリシドキシブチル基、2-(3,4-エポキシシクロヘキシル)エチル基、3-(3,4-エポキシシクロヘキシル)プロピル基等であってよい。R16は、3-グリシドキシプロピル基であることが好ましい。
【0069】
第2シロキサン化合物は、複数の構造単位6を有してよい。第2シロキサン化合物中に存在する複数のR15は、互いに同じであっても異なってもよい。第2シロキサン化合物中に存在する複数のR16は、互いに同じであっても異なってもよい。第2シロキサン化合物は、上記化学式(6)で表される繰り返し単位を有してもよい。
【0070】
コンパウンドの成形収縮率が低減され易く、また成形体の耐熱性及び耐電圧性が向上し易い観点から、第2シロキサン化合物は、下記化学式(7)で表される構造単位、下記化学式(8)で表される構造単位、下記化学式(9)で表される構造単位、及び下記化学式(10)で表される構造単位からなる群より選ばれる少なくとも一つの構造単位を有する化合物であることが好ましい。下記化学式(7)で表される構造単位は、「構造単位7」と表記される場合がある。下記化学式(8)で表される構造単位は、「構造単位8」と表記される場合がある。下記化学式(9)で表される構造単位は、「構造単位9」と表記される場合がある。下記化学式(10)で表される構造単位は、「構造単位10」と表記される場合がある。上記の構造単位7、構造単位8、構造単位9、及び構造単位10からなる群より選ばれる少なくとも一つの構造単位を有する化合物は、「化合物11」と表記される場合がある。化合物11は、構造単位7、構造単位8、構造単位9、及び構造単位10の全てを有してよい。
【0071】
【0072】
【0073】
【化12】
上記化学式(9)中、R
18は炭素数1以上の有機基である。
【0074】
【化13】
上記化学式(10)中、R
19は炭素数1以上の有機基である。
【0075】
化合物11は、複数の構造単位7を有してよい。化合物11は、上記化学式(7)で表される繰り返し単位を有してもよい。化合物11は、複数の構造単位8を有してよい。化合物11は、上記化学式(8)で表される繰り返し単位を有してもよい。化合物11は、複数の構造単位9を有してよい。化合物11は、上記化学式(9)で表される繰り返し単位を有してもよい。化合物11は、複数の構造単位10を有してよい。化合物11は、上記化学式(10)で表される繰り返し単位を有してもよい。
【0076】
化合物11の市販品は、例えば、東レ・ダウコーニング株式会社製のAY42‐119であってよい。
【0077】
第2シロキサン化合物のエポキシ当量は、500以上4000以下、又は1000以上2500以下であってよい。エポキシ当量が上記範囲内である場合、コンパウンドの流動性が向上し易く、成形性が向上し易い。
【0078】
第2シロキサン化合物の軟化点は、40℃以上120℃以下であることが好ましく、50℃以上100℃以下であることがより好ましい。軟化点が上記範囲内である場合、コンパウンドから形成される成形体の機械的強度が向上し易い。第2シロキサン化合物の軟化点は、第2シロキサン化合物の分子量、構造(例えば、各構成単位の含有比率)、ケイ素原子に結合する有機基の種類等により調整されてよい。コンパウンドの流動性を向上する観点から、第2シロキサン化合物中のアリール基の含有量により軟化点を調整することが好ましい。アリール基は、例えば、フェニル基、トリル基、キシリル基、ナフチル基、ビフェニル基等であってよい。アリール基は、フェニル基であることが好ましい。第2シロキサン化合物中のケイ素原子に結合する一価の有機基中のフェニル基の含有量により、軟化点を調整することがより好ましい。上記フェニル基の含有量は、好ましくは60モル%以上100モル%以下、より好ましくは70モル%以上85モル%以下に調整されてよい。
【0079】
第2シロキサン化合物の重量平均分子量(Mw)は、1000以上30000以下、好ましくは2000以上20000以下、より好ましくは3000以上10000以下であってよい。重量平均分子量(Mw)は、ゲルパーミュエーションクロマトグラフィー(GPC)で測定されてよく、標準ポリスチレン検量線を用いて換算された値であってよい。第2シロキサン化合物は、ランダム共重合体であることが好ましい。
【0080】
樹脂組成物は、上記のうち一種のシロキサン化合物を含有してよく、上記のうち複数種のシロキサン化合物を含有してもよい。
【0081】
カップリング剤は、樹脂組成物と、金属元素含有粉を構成する金属元素含有粒子との密着性を向上させ、コンパウンドから形成される成形体の可撓性及び機械的強度を向上させる。カップリング剤は、例えば、シラン系化合物(シランカップリング剤)、チタン系化合物、アルミニウム化合物(アルミニウムキレート類)、及びアルミニウム/ジルコニウム系化合物からなる群より選ばれる少なくとも一種であってよい。シランカップリング剤は、例えば、エポキシシラン、メルカプトシラン、アミノシラン、アルキルシラン、ウレイドシラン、酸無水物系シラン及びビニルシランからなる群より選ばれる少なくとも一種であってよい。特に、アミノフェニル系のシランカップリング剤が好ましい。樹脂組成物は、上記のうち一種のカップリング剤を含有してよく、上記のうち複数種のカップリング剤を含有してもよい。
【0082】
コンパウンドの環境安全性、リサイクル性、成形加工性及び低コストのために、コンパウンドは難燃剤を含んでよい。難燃剤は、例えば、臭素系難燃剤、鱗茎難燃剤、水和金属化合物系難燃剤、シリコーン系難燃剤、窒素含有化合物、ヒンダードアミン化合物、有機金属化合物及び芳香族エンプラからなる群より選ばれる少なくとも一種であってよい。樹脂組成物は、上記のうち一種の難燃剤を含有してよく、上記のうち複数種の難燃剤を含有してもよい。
【0083】
金型を用いてコンパウンドから成形体を形成する場合、樹脂組成物は、ワックスを含有してよい。ワックスは、コンパウンドの成形(例えばトランスファー成形)におけるコンパウンドの流動性を高めると共に、離型剤として機能する。ワックスは、高級脂肪酸等の脂肪酸、及び脂肪酸エステルのうち少なくともいずれか一つであってよい。
【0084】
ワックスは、例えば、モンタン酸、ステアリン酸、12-オキシステアリン酸、ラウリン酸等の脂肪酸類又はこれらのエステル;ステアリン酸亜鉛、ステアリン酸カルシウム、ステアエン酸バリウム、ステアリン酸アルミニウム、ステアリン酸マグネシウム、ラウリン酸カルシウム、リノール酸亜鉛、リシノール酸カルシウム、2-エチルヘキソイン酸亜鉛等の脂肪酸塩;ステアリン酸アミド、オレイン酸アミド、エルカ酸アミド、ベヘン酸アミド、パルミチン酸アミド、ラウリン酸アミド、ヒドロキシステアリン酸アミド、メチレンビスステアリン酸アミド、エチレンビスステアリン酸アミド、エチレンビスラウリン酸アミド、ジステアリルアジピン酸アミド、エチレンビスオレイン酸アミド、ジオレイルアジピン酸アミド、N-ステアリルステアリン酸アミド、N-オレイルステアリン酸アミド、N-ステアリルエルカ酸アミド、メチロールステアリン酸アミド、メチロールベヘン酸アミド等の脂肪酸アミド;ステアリン酸ブチル等の脂肪酸エステル;エチレングリコール、ステアリルアルコール等のアルコール類;ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール、ポリテトラメチレングリコール及びこれらの変性物からなるポリエーテル類;シリコーンオイル、シリコーングリース等のシリコーン化合物;フッ素系オイル、フッ素系グリース、含フッ素樹脂粉末等のフッ素化合物;並びに、パラフィンワックス、ポリエチレンワックス、アマイドワックス、ポリプロピレンワックス、エステルワックス、カルナウバ、マイクロワックス等のワックス類;からなる群より選ばれる少なくとも一種であってよい。例えば、モンタン酸エステルの市販品としては、クラリアントケミカルズ株式会社製のLICOWAX-OPが挙げられる。例えば、天然ワックスの市販品としては、株式会社セラリカNODA製のカルナバワックスNo.1が挙げられる。
【0085】
その他、離型剤としては、例えば、モンタン酸、ステアリン酸、12-オキシステアリン酸、ラウリン酸等の長鎖脂肪酸と金属との結合で構成される金属石鹸が挙げられる。金属石鹸の市販品としては、例えば、日油株式会社製のパウダーベースL等が挙げられる。
【0086】
(金属元素含有粉)
金属元素含有粉(金属元素含有粒子)は、例えば、金属単体、合金及び金属化合物からなる群より選ばれる少なくとも一種を含有してよい。金属元素含有粉は、例えば、金属単体、合金及び金属化合物からなる群より選ばれる少なくとも一種からなっていてよい。合金は、固溶体、共晶及び金属間化合物からなる群より選ばれる少なくとも一種を含んでよい。合金とは、例えば、ステンレス鋼(Fe‐Cr系合金、Fe‐Ni‐Cr系合金等)であってよい。金属化合物とは、例えば、フェライト等の酸化物であってよい。金属元素含有粉は、一種の金属元素又は複数種の金属元素を含んでよい。金属元素含有粉に含まれる金属元素は、例えば、卑金属元素、貴金属元素、遷移金属元素、又は希土類元素であってよい。コンパウンドは、一種の金属元素含有粉を含んでよく、組成が異なる複数種の金属元素含有粉を含んでもよい。
【0087】
金属元素含有粉は上記の組成物に限定されない。金属元素含有粉に含まれる金属元素は、例えば、鉄(Fe)、銅(Cu)、チタン(Ti)、マンガン(Mn)、コバルト(Co)、ニッケル(Ni)、亜鉛(Zn)、アルミニウム(Al)、スズ(Sn)、クロム(Cr)、バリウム(Ba)、ストロンチウム(Sr)、鉛(Pb)、銀(Ag)、プラセオジム(Pr)、ネオジム(Nd)、サマリウム(Sm)及びジスプロシウム(Dy)からなる群より選ばれる少なくとも一種であってよい。金属元素含有粉は、金属元素以外の元素を更に含んでもよい。金属元素含有粉は、例えば、酸素(О)、ベリリウム(Be)、リン(P)、ホウ素(B)、又はケイ素(Si)を含んでもよい。金属元素含有粉は、磁性粉であってよい。金属元素含有粉は、軟磁性合金、又は強磁性合金であってよい。金属元素含有粉は、例えば、Fe‐Si系合金、Fe‐Si‐Al系合金(センダスト)、Fe‐Ni系合金(パーマロイ)、Fe‐Cu‐Ni系合金(パーマロイ)、Fe‐Co系合金(パーメンジュール)、Fe‐Cr‐Si系合金(電磁ステンレス鋼)、Nd‐Fe‐B系合金(希土類磁石)、Sm‐Fe‐N系合金(希土類磁石)、Al‐Ni‐Co系合金(アルニコ磁石)及びフェライトからなる群より選ばれる少なくとも一種からなる磁性粉であってよい。フェライトは、例えば、スピネルフェライト、六方晶フェライト、又はガーネットフェライトであってよい。金属元素含有粉は、Cu‐Sn系合金、Cu‐Sn‐P系合金、Cu‐Ni系合金、又はCu‐Be系合金等の銅合金であってもよい。金属元素含有粉は、上記の元素及び組成物のうち一種を含んでよく、上記の元素及び組成物のうち複数種を含んでもよい。
【0088】
金属元素含有粉は、Fe単体であってもよい。金属元素含有粉は、鉄を含む合金(Fe系合金)であってもよい。Fe系合金は、例えば、Fe‐Si‐Cr系合金、又はNd‐Fe‐B系合金であってよい。金属元素含有粉は、アモルファス系鉄粉及びカルボニル鉄粉のうちの少なくともいずれかであってもよい。金属元素含有粉がFe単体及びFe系合金のうちの少なくともいずれかを含む場合、高い占積率を有し、且つ磁気特性に優れる成形体をコンパウンドから作製し易い。金属元素含有粉は、Feアモルファス合金であってもよい。Feアモルファス合金粉の市販品としては、例えば、AW2‐08、KUAMET‐6B2、KUAMET 9A4‐II(以上、エプソンアトミックス株式会社製の商品名)、DAP MS3、DAP MS7、DAP MSA10、DAP PB、DAP PC、DAP MKV49、DAP 410L、DAP 430L、DAP HYBシリーズ(以上、大同特殊鋼株式会社製の商品名)、MH45D、MH28D、MH25D、及びMH20D(以上、神戸製鋼株式会社製の商品名)からなる群より選ばれる少なくとも一種が用いられてよい。
【0089】
<コンパウンドの製造方法>
コンパウンドの製造では、金属元素含有粉と樹脂組成物(樹脂組成物を構成する各成分)とを加熱しながら混合する。例えば、金属元素含有粉と樹脂組成物とを加熱しながらニーダー、ロール、攪拌機などで混練してよい。金属元素含有粉及び樹脂組成物の加熱及び混合により、樹脂組成物が金属元素含有粉を構成する金属元素含有粒子の表面の一部又は全体に付着して金属元素含有粒子を被覆し、樹脂組成物中のエポキシ樹脂の一部又は全部が半硬化物になる。その結果、コンパウンドが得られる。金属元素含有粉及び樹脂組成物の加熱及び混合によって得られた粉末に、さらにワックスを加えることによって、コンパウンドを得てもよい。予め樹脂組成物とワックスとが混合されていてもよい。
【0090】
混練では、金属元素含有粉、シロキサン化合物、エポキシ樹脂、フェノール樹脂等の硬化剤、硬化促進剤、及びカップリング剤を槽内で混練してよい。金属元素含有粉、シロキサン化合物及びカップリング剤を槽内に投入して混合した後、エポキシ樹脂、硬化剤、及び硬化促進剤を槽内へ投入して、槽内の原料を混練してもよい。シロキサン化合物、エポキシ樹脂、硬化剤、カップリング剤を槽内で混練した後、硬化促進剤を槽内に入れて、更に槽内の原料を混練してもよい。予めエポキシ樹脂、硬化剤、及び硬化促進剤の混合粉(樹脂混合粉)を作製して、続いて、金属元素含有粉とシロキサン化合物とカップリング剤とを混練して金属混合粉を作製して、続いて、金属混合粉と上記の樹脂混合粉とを混練してもよい。
【0091】
混練時間は、混練機械の種類、混練機械の容積、コンパウンドの製造量にもよるが、例えば、1分以上であることが好ましく、2分以上であることがより好ましく、3分以上であることがさらに好ましい。また、混練時間は、20分以下であることが好ましく、15分以下であることがより好ましく、10分以下であることがさらに好ましい。混練時間が1分未満である場合、混練が不十分であり、コンパウンドの成形性が損なわれ、コンパウンドの硬化度にばらつきが生じる。混練時間が20分を超える場合、例えば、槽内で樹脂組成物(例えばエポキシ樹脂及びフェノール樹脂)の硬化が進み、コンパウンドの流動性及び成形性が損なわれ易い。槽内の原料を加熱しながらニーダーで混練する場合、加熱温度は、例えば、エポキシ樹脂の半硬化物(Bステージのエポキシ樹脂)が生成し、且つエポキシ樹脂の硬化物(Cステージのエポキシ樹脂)の生成が抑制される温度であればよい。加熱温度は、硬化促進剤の活性化温度よりも低い温度であってよい。加熱温度は、例えば、50℃以上であることが好ましく、60℃以上であることがより好ましく、70℃以上であることがさらに好ましい。加熱温度は、150℃以下であることが好ましく、120℃以下であることがより好ましく、110℃以下であることがさらに好ましい。加熱温度が上記の範囲内である場合、槽内の樹脂組成物が軟化して金属元素含有粉を構成する金属元素含有粒子の表面を被覆し易く、エポキシ樹脂の半硬化物が生成し易く、混練中のエポキシ樹脂の完全な硬化が抑制され易い。
【0092】
<成形体>
本実施形態に係る成形体は、上記のコンパウンドを備えてよい。成形体は、未硬化の樹脂組成物、樹脂組成物の半硬化物(Bステージの樹脂組成物)、及び樹脂組成物の硬化物(Cステージの樹脂組成物)からなる群より選ばれる少なくとも一種を含んでいてよい。成形体は、上記コンパウンドの硬化物であってよい。
【0093】
<成形体の製造方法>
本実施形態に係る成形体の製造方法は、コンパウンドを金型中で加圧する工程を備えてよい。成形体の製造方法は、コンパウンドを金型中で加圧する工程のみを備えてよく、当該工程に加えてその他の工程を備えてもよい。成形体の製造方法は、第一工程、第二工程及び第三工程を備えてもよい。以下では、各工程の詳細を説明する。
【0094】
第一工程では、上記の方法でコンパウンドを作製する。
【0095】
第二工程では、コンパウンドを金型中で加圧することにより、成形体(Bステージの成形体)を得る。ここで、樹脂組成物が、金属元素含有粉を構成する個々の金属元素含有粒子間に充填される。そして樹脂組成物は、結合材(バインダ)として機能し、金属元素含有粒子同士を互いに結着する。
【0096】
第二工程として、コンパウンドのトランスファー成形を実施してもよい。トランスファー成形では、コンパウンドを5MPa以上50MPa以下で加圧してよい。成形圧力が高いほど、機械的強度に優れた成形体が得られ易い傾向がある。成形体の量産性及び金型の寿命を考慮した場合、成形圧力は8MPa以上20MPa以下であることが好ましい。トランスファー成形によって形成される成形体の密度は、コンパウンドの真密度に対して、好ましくは75%以上86%以下、より好ましくは80%以上86%以下であってよい。成形体の密度が75%以上86%以下である場合、機械的強度に優れた成形体が得られ易い。トランスファー成形において、第二工程と第三工程とを一括して実施してもよい。
【0097】
第三工程では、成形体を熱処理によって硬化させ、Cステージの成形体を得る。本実施形態に係るコンパウンドは、エラストマーの一種であるシロキサン化合物を含有するため、コンパウンド全体の弾性が低減され、コンパウンドの成形収縮(熱硬化)に伴ってコンパウンドに作用する応力が低減される。その結果、コンパウンドの熱硬化により成形体を形成する過程において、コンパウンドの成形収縮率が低減される。また、上述のとおりそのメカニズムは定かではないが、本実施形態に係るコンパウンドは、エラストマーの一種であるシロキサン化合物を所定量含有するため、コンパウンドから得られる成形体の耐熱性及び耐電圧性が向上する。熱処理の温度は、成形体中の樹脂組成物が十分に硬化する温度であればよい。熱処理の温度は、好ましくは100℃以上300℃以下、より好ましくは110℃以上250℃以下であってよい。成形体中の金属元素含有粉の酸化を抑制するために、熱処理を不活性雰囲気下で行うことが好ましい。熱処理温度が300℃を超える場合、熱処理の雰囲気に不可避的に含まれる微量の酸素によって金属元素含有粉が酸化されたり、樹脂硬化物が劣化したりする。金属元素含有粉の酸化、及び樹脂硬化物の劣化を抑制しながら樹脂組成物を十分に硬化させるためには、熱処理温度の保持時間は、好ましくは数分以上10時間以下、より好ましくは3分以上8時間以下であってよい。
【実施例】
【0098】
以下では実施例及び比較例により本発明をさらに詳細に説明するが、本発明はこれらの例によって何ら限定されるものではない。
【0099】
(実施例1)
[コンパウンドの調製]
50gのビフェニレンアラルキル型エポキシ樹脂、50gの多官能型エポキシ樹脂、14.5gのフェノールノボラック樹脂1(硬化剤)、23.6gのフェノールノボラック樹脂2(硬化剤)、5.9gのウレア系触媒(硬化促進剤)、7.5gのジンクラウレート型金属石鹸(離型剤)、2.0gのモンタン酸エステル(離型剤(ワックス))、及び4.0gの天然ワックス(離型剤(ワックス))を、ポリ容器に投入した。これらの原料をポリ容器内で10分間混合することにより、樹脂混合物を調製した。樹脂混合物とは、樹脂組成物のうち、シロキサン化合物及びカップリング剤を除く他の全成分に相当する。
ビフェニレンアラルキル型エポキシ樹脂としては、日本化薬株式会社製のNC‐3000を用いた。
多官能型エポキシ樹脂としては、株式会社プリンテック製のVG-3101Lを用いた。
フェノールノボラック樹脂1としては、明和化成株式会社製のHF-3Mを用いた。
フェノールノボラック樹脂2としては、明和化成株式会社製のMEW-1800を用いた。
ウレア系触媒としては、サンアプロ株式会社製のU-CAT3512Tを用いた。
ジンクラウレート型金属石鹸としては、日油株式会社製のパウダーベースLを用いた。
モンタン酸エステルとしては、クラリアントケミカルズ株式会社製のLICOWAX-OPを用いた。
天然ワックスとしては、株式会社セラリカNODA製のカルナバワックスNo.1を用いた。
【0100】
アモルファス系鉄粉1とアモルファス系鉄粉2とを、加圧式2軸ニーダー(日本スピンドル製造株式会社製、容量5L)で5分間均一に混合して、3741gの金属元素含有粉を調製した。金属元素含有粉におけるアモルファス系鉄粉1の含有量は、82質量%であった。金属元素含有粉におけるアモルファス系鉄粉2の含有量は、18質量%であった。1.9gのメタクリロキシオクチルトリメトキシシラン(カップリング剤)、1.9gの3-メルカプトプロピルトリメトキシシラン(カップリング剤)、及び15gのカプロラクトン変性ジメチルシリコーン(シロキサン結合を有する化合物)を2軸ニーダー内の金属元素含有粉へ添加した。続いて、2軸ニーダーの内容物を90℃になるまで加熱し、その温度を保持しながら、2軸ニーダーの内容物を10分間混合した。続いて、上記の樹脂混合物を2軸ニーダーの内容物へ添加して、内容物の温度を120℃に保持しながら、内容物を15分間溶融・混練した。以上の溶融・混練によって得られた混練物を室温まで冷却した後、混練物が所定の粒度を有するようになるまで混練物をハンマーで粉砕した。なお、上記の「溶融」とは、2軸ニーダーの内容物のうち樹脂組成物の少なくとも一部の溶融を意味する。コンパウンド中の金属元素含有粉は、コンパウンドの調製過程において溶融しない。
アモルファス系鉄粉1としては、エプソンアトミックス株式会社製のKUAMET 9A4‐II 053C03(平均粒径24μm)を用いた。
アモルファス系鉄粉2としては、エプソンアトミックス株式会社製のAW2‐08(平均粒径5.3μm)を用いた。
メタクリロキシオクチルトリメトキシシランとしては、信越化学工業株式会社製のKBM‐5803を用いた。
3-メルカプトプロピルトリメトキシシランとしては、信越化学工業株式会社製のKBM‐803を用いた。
カプロラクトン変性ジメチルシリコーンとしては、Gelest社製のDBL‐C32を用いた。このカプロラクトン変性ジメチルシリコーンは、上記の化学式(3)で表される化合物である。
【0101】
以上の方法により、実施例1のコンパウンドを調製した。コンパウンドにおける金属元素含有粉の含有量は95.5質量%であった。
【0102】
(その他の実施例及び比較例)
原料処方を表1に示すように変更したこと以外は、実施例1と同様にして、その他の実施例及び比較例のコンパウンドを作製した。実施例1と同様の方法で、各例のコンパウンドに関する評価を行った。なお、表1に記載のKBM-403は、信越化学工業株式会社製の3-グリシドキシプロピルトリメトキシシランである。
【0103】
[評価]
各実施例及び比較例のコンパウンドを用いて以下の評価を行った。結果を表1に示す。
【0104】
(耐熱性の評価:250℃曲げ試験)
各実施例及び比較例のコンパウンドを、成形金型温度175℃、成形圧力13.5MPa、硬化時間360秒の条件でトランスファー成形した後、175℃で5.5時間ポストキュアすることによって、試験片を得た。試験片の寸法は、縦幅80mm×横幅10mm×厚さ3.0mmであった。
恒温槽付きオートグラフを用いて、試験片に対して3点支持型の曲げ試験を実施した。オートグラフとしては、株式会社島津製作所製のAGS-500Aを用いた。恒温槽の温度は、250℃であった。曲げ試験では、2つの支点により試験片の一方の面を支持した。試験片の他方の面における2つの支点間の中央の位置に荷重を加えた。試験片が破壊されたときの荷重を測定した。曲げ試験の測定条件は、以下のとおりであった。
2つの支点間の距離Lv: 64.0±0.5mm
ヘッドスピード: 2.0±0.2mm/分
チャートスピード: 100mm/分
チャートフルスケール: 490N(50kgf)
下記数式(A)に基づいて、曲げ強度σ(単位:MPa)を算出した。下記数式(B)に基づいて、曲げ弾性率E(単位:GPa)を算出した。下記数式(C)に基づいて、曲げ伸び率ε(単位:%)を算出した。下記数式において、「P」は、試験片が破壊されたときの荷重(単位:N)である。「Lv」は、2つの支点間の距離(単位:mm)である。「W」は、試験片の横幅(単位:mm)である。「t」は、試験片の厚さ(単位:mm)である。「F/Y」は、荷重‐たわみ曲線の直線部分の勾配(単位:N/mm)である。「s」は、試験片が破壊される直前の試験片のたわみ(単位:mm)である。
σ=(3×P×Lv)/(2×W×t2) (A)
E=[Lv3/(4×W×t3)]×(F/Y) (B)
ε=(600×s×t)/Lv2 (C)
【0105】
(耐電圧性の評価:耐電圧試験)
各実施例及び比較例のコンパウンドを、成形金型温度175℃、成形圧力13.5MPa、硬化時間360秒の条件でトランスファー成形した後、175℃で5.5時間ポストキュアすることによって、厚さ2.0mmの試験片を作製した。
耐電圧試験に際し、絶縁板上に、接地線を接続したステンレス板、導電ゴム板、試験片、高圧線を接続した直径10mmのステンレス製電極を順に配置した。高圧線及び接地線を、高圧アンプの高圧出力端子、接地端子にそれぞれ接続した。ファンクションジェネレータの波形出力を高圧アンプに入力して、0Vから最大2000Vまで毎秒10Vの速度で昇圧するよう試験電圧を発生し、試験片に印加した。試験片を通過する電流が10mAを超過した時点の電圧を読み取った。次いで、試験片上の異なる位置にステンレス製電極を配置し、同様に電圧を印加した。所定回数繰り返し、読み取った電圧の平均値を試験片の耐電圧(絶縁破壊電圧:V/mm)とした。
【0106】
【産業上の利用可能性】
【0107】
本発明に係るコンパウンドは、耐熱性及び耐電圧性を共に有する成形体を得ることができるため、高い工業的な価値を有している。