(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2025-04-24
(45)【発行日】2025-05-07
(54)【発明の名称】アセチルコリン高含有ナスを作出する方法
(51)【国際特許分類】
A01H 1/00 20060101AFI20250425BHJP
A01H 6/82 20180101ALI20250425BHJP
A01H 5/00 20180101ALI20250425BHJP
A01H 5/08 20180101ALI20250425BHJP
【FI】
A01H1/00 Z
A01H6/82
A01H5/00 Z
A01H5/08
(21)【出願番号】P 2023073752
(22)【出願日】2023-04-27
【審査請求日】2024-07-30
【微生物の受託番号】IPOD FERM P-22468
【微生物の受託番号】IPOD FERM P-22469
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】501203344
【氏名又は名称】国立研究開発法人農業・食品産業技術総合研究機構
(74)【代理人】
【識別番号】110002572
【氏名又は名称】弁理士法人平木国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】西澤 けいと
(72)【発明者】
【氏名】宮武 宏治
(72)【発明者】
【氏名】安藤 聡
(72)【発明者】
【氏名】松永 啓
(72)【発明者】
【氏名】新村 芳美
【審査官】市島 洋介
(56)【参考文献】
【文献】J. Food Compos. Anal.,2023年,Vol. 119, 105233,Available online 22 February 2023
【文献】Foods,2021年,Vol. 10, 81
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A01H 1/00
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
完熟果において200 mg/kg果実生鮮重(FW)以上及び/又は2500 mg/kg果実乾物重(DW)以上のアセチルコリン含量を有
し、且つ受託番号FERM P-22468で特定されるナス植物若しくはFERM P-22469で特定されるナス植物又はそれらの後代系統である、ナス植物を交配親として、他のナス植物と交配する工程を含み、作出された交雑後代の果実は、前記他のナス植物の果実と比較して高いアセチルコリン含量を有する、アセチルコリン高含有ナス植物の作出方法。
【請求項2】
請求項1記載の方法により作出された、アセチルコリン高含有ナス植物又はその後代系統。
【請求項3】
請求項2記載のアセチルコリン高含有ナス植物又はその後代系統の植物体の一部。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えばアセチルコリン高含有ナス(Solanum melongena L.)を作出する方法及び当該方法により得られたアセチルコリン高含有ナスに関する。
【背景技術】
【0002】
アセチルコリンを含むコリンエステルは、血圧の上昇を抑制する機能性成分として知られており(非特許文献1)、近年、青果物の中でナスに特異的に多く含まれることが発見され(非特許文献1及び2並びに特許文献1及び2)、注目を集めている。また、睡眠改善の効果(特許文献3)も報告されている。高血圧や睡眠改善に対する関心は国内外を問わず高いことから、血圧の上昇抑制や睡眠改善に寄与するアセチルコリン高含有ナスの作出法は社会的ニーズが大きいと考えられる。
【0003】
一方、日本においてナスを食する際、青果用ナスの未熟果を食するのが一般的である。青果用ナス未熟果に含まれるアセチルコリン含量は3~8mg/100gF.W.(非特許文献3)であることから、血圧低下の機能性が期待される1日当たり2.3mg(非特許文献1)のアセチルコリンを摂取するためには、毎日42g程度のナスを食する必要がある。また、睡眠改善の効果が期待される1日あたり3.456 mg(特許文献3)のアセチルコリンを摂取するためには、毎日63g程度のナスを食する必要がある。しかし、国内の現状は、1人1日当たり20g未満であり(総務省家計調査2020)、青果用ナスのみで1日の必要量をクリアするのは容易なことではない。
【0004】
上述のように、機能性が認められる1日のアセチルコリン摂取量2.3mg又は3.456mgをクリアするためには、現状の2倍以上の青果用ナスを食する必要があり、現実的ではない。また、この問題を解決する方法として、乾燥粉末を利用した添加物やサプリメントでの摂取が考えられるが、一般的な青果用ナスから原料粉末への加工に要するコストがネックとなり、普及の足かせとなっている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】WO 2018/070545
【文献】WO 2020/166494
【文献】特開2020-137462号公報
【非特許文献】
【0006】
【文献】Nishimura, M., M. Suzuki, R. Takahashi, S. Yamaguchi, K. Tsubaki, T. Fujita, J. Nishihira, and K. Nakamura. 2019. Daily ingestion of eggplant powder improves blood pressure and psychological state in stressed individuals: A randomized placebo-controlled study. Nutrients. 11:2797.
【文献】Wang W, Yamaguchi S, Koyama M, Tian S, Ino A, Miyatake K, Nakamura K. 2020. LC-MS/MS Analysis of Choline Compounds in Japanese-Cultivated Vegetables and Fruits. Foods. 9:1029.
【文献】Wang, W., S. Yamaguchi, A. Suzuki, N. Wagu, M. Koyama, A. Takahashi, R. Takada, K. Miyatake, and K. Nakamura. 2021. Investigation of the distribution and content of acetylcholine, a novel functional compound in eggplant. Foods. 10:81.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、上述の実情に鑑み、アセチルコリン高含有ナスを作出する方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題を解決するため鋭意研究を行った結果、ナスコアコレクション100点(Miyatake, K., Y. Shinmura, H. Matsunaga, H. Fukuoka and T. Saito, 2019. Construction of a core collection of eggplant (Solanum melongena L.) based on genome-wide SNP and SSR genotypes. Breeding Science, 69: 498-502.)のアセチルコリン含量を網羅的に調査し、アセチルコリン高含有系統を見出して、自殖と選抜を行い、アセチルコリン含量が安定して高濃度に含まれる固定系統AE-ACH03及びAE-ACH04を育成し、これらの系統(AE-ACH03及びAE-ACH04)と既存のナス品種等とを掛け合わせることにより、既存のナス品種等にアセチルコリン高含有性を付与することができることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0009】
すなわち、本発明は、以下を包含する。
[1]完熟果において200 mg/kg果実生鮮重(FW)以上及び/又は2500 mg/kg果実乾物重(DW)以上のアセチルコリン含量を有するナス植物を交配親として、他のナス植物と交配する工程を含み、作出された交雑後代の果実は、前記他のナス植物の果実と比較して高いアセチルコリン含量を有する、アセチルコリン高含有ナス植物の作出方法。
[2]交配親のナス植物が、受託番号FERM P-22468で特定されるナス植物(AE-ACH03)若しくはFERM P-22469で特定されるナス植物(AE-ACH04)又はそれらの後代系統である、[1]記載の方法。
[3][1]又は[2]記載の方法により作出された、アセチルコリン高含有ナス植物又はその後代系統。
[4][3]記載のアセチルコリン高含有ナス植物又はその後代系統の植物体の一部。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、既存のナス品種等にアセチルコリン高含有性を付与し、一般的な青果用ナス品種に比較して、果実において2~3倍程度の濃度のアセチルコリンを含むナスを作出することができる。例えば、加工に適した性質を有する既存のナス品種等にアセチルコリン高含有性を付与することで、食品添加物やサプリメント利用を想定した乾燥粉末の加工コスト(原料費、輸送費、保管費、加工に要する光熱水費、人件費等)を大幅に低減することができる。また、青果用として用いられている既存のナス品種にアセチルコリン高含有性を付与することで、食品添加物やサプリメントではなく、青果用ナスとして調理して食することによっても血圧降下作用や睡眠改善の効果が期待できる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図1】AE-ACH03及び04の外観を示す写真である。
【
図2】AE-ACH03及び04のアセチルコリン含量(果実生鮮重あたり)を示すグラフである(Ach:アセチルコリン、A03:AE-ACH03、A04:AE-ACH04)。
【
図3】AE-ACH03及び04のアセチルコリン含量(果実乾物重あたり)を示すグラフである(Ach:アセチルコリン、A03:AE-ACH03、A04:AE-ACH04)。
【
図4】青果用ナス親系統とF
1系統の外観を示す写真である。
【
図5】AE-ACH03、04と青果用ナス系統とのF
1系統のアセチルコリン含量(果実生鮮重あたり)を示すグラフである(Ach:アセチルコリン、A03:AE-ACH03、A04:AE-ACH04、21:「AEP-PBFs21」、23:「AEP-PBFs23」、mean±SD)。
【
図6】AE-ACH03、04と青果用ナス系統とのF
1系統のアセチルコリン含量(果実乾物重あたり)を示すグラフである(Ach:アセチルコリン、A03:AE-ACH03、A04:AE-ACH04、21:「AEP-PBFs21」、23:「AEP-PBFs23」、mean±SD)。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明を詳細に説明する。
【0013】
本発明に係るアセチルコリン高含有ナス植物の作出方法(以下、「本方法」と称する)は、アセチルコリン高含有ナス植物を交配親として、他のナス植物と交配する工程を含むものである。本方法で作出された交雑後代の果実は、交配に使用した他のナス植物の果実と比較して高いアセチルコリン含量を有することとなる。
【0014】
本発明は、果実においてアセチルコリンが高濃度に含まれる固定系統AE-ACH03又はAE-ACH04と既存のナス品種等とを交配させることにより、既存のナス品種等にアセチルコリン高含有性を付与することができるという知見に基づくものである。
【0015】
ここで、交配親として使用するアセチルコリン高含有ナス植物は、例えば、完熟果(開花後2~3ヶ月程度経過し、果実の肥大が止まり、果皮色が変化する品種・系統においては果皮が黄色~茶色の果実、果皮色が変化しない品種・系統においては果皮の光沢が無くなった果実)において200 mg/kg果実生鮮重(FW)以上(好ましくは、250 mg/kg果実生鮮重(FW)以上)及び/又は2500 mg/kg果実乾物重(DW)以上(好ましくは、3000 mg/kg果実乾物重(DW)以上)のアセチルコリン含量を有するナス植物である。当該交配親のナス植物としては、例えば受託番号FERM P-22468で特定されるナス植物(AE-ACH03)若しくはFERM P-22469で特定されるナス植物(AE-ACH04)又はそれらの後代系統が挙げられる。
【0016】
AE-ACH03及びAE-ACH04は、それぞれ令和5年(2023年)2月24日付で独立行政法人製品評価技術基盤機構 特許生物寄託センター(NITE-IPOD)(千葉県木更津市かずさ鎌足2-5-8 120号室)に受託番号FERM P-22468及びFERM P-22469として寄託されている。
【0017】
ここで、AE-ACH03又はAE-ACH04の後代系統とは、上述のAE-ACH03又はAE-ACH04の果実において高いアセチルコリン含量を有するという性質を引き継ぐ次世代及び次世代以降のナスを意味する。
【0018】
一方、交配に使用する「他のナス植物」としては、交配可能であれば、いずれのナス品種であっても良いが、例えばAEP-PBFs21、AEP-PBFs23(いずれも、単為結果性や青枯病抵抗性、とげなし性を有する青果用ナスF1品種として品種登録出願される「安濃交10号」の親系統(固定品種))、AE-P01、AE-P08、AE-P24(単為結果性を有する「あのみのり」や「あのみのり2号」の親系統(固定品種)、「千両二号」(F1品種)、「筑陽」(F1品種)等が挙げられる。
【0019】
本方法では、アセチルコリン高含有ナス植物を交配親(種子親又は花粉親)として他のナス植物(花粉又は種子)と交配し、交雑後代(雑種第一代(F1))を作出する。アセチルコリン高含有ナス植物は、種子親、花粉親のいずれであってもよい。また、得られた交雑後代を交配親(種子親又は花粉親)として、交雑後代作出に使用したナス植物又はその他のナス植物と戻し交配してもよい。
【0020】
本方法により作出されたアセチルコリン高含有ナス植物又はその後代系統の果実は、交配に使用した他のナス植物の果実と比較して高いアセチルコリン含量を有する。作出されたアセチルコリン高含有ナス植物又はその後代系統の果実は、例えば他のナス植物としてAEP-PBFs21を使用した場合には、例えば、未熟果(開花後1ヶ月程度の肥大生長が停止する直前頃の果実)において118 mg/kg果実生鮮重(FW)以上(好ましくは、148 mg/kg果実生鮮重(FW)以上)及び/又は1448 mg/kg果実乾物重(DW)以上(好ましくは、1970 mg/kg果実乾物重(DW)以上)のアセチルコリン含量を有する。また、作出されたアセチルコリン高含有ナス植物又はその後代系統の果実は、例えば他のナス植物としてAEP-PBFs23を使用した場合には、例えば、未熟果において189 mg/kg果実生鮮重(FW)以上(好ましくは、199 mg/kg果実生鮮重(FW)以上)及び/又は2381 mg/kg果実乾物重(DW)以上(好ましくは、2514 mg/kg果実乾物重(DW)以上)のアセチルコリン含量を有する。
【0021】
ここで、作出されたアセチルコリン高含有ナス植物の後代系統とは、上述の作出されたアセチルコリン高含有ナス植物の果実において、交配に使用した他のナス植物の果実と比較して高いアセチルコリン含量を有するという性質を引き継ぐ次世代及び次世代以降のナスを意味する。
【0022】
また、作出されたアセチルコリン高含有ナス植物又はその後代系統の植物体の一部としては、例えば果実、種子等が挙げられる。
【実施例】
【0023】
以下、実施例を用いて本発明をより詳細に説明するが、本発明の技術的範囲はこれら実施例に限定されるものではない。
【0024】
〔実験方法〕
1.実験材料
AE-ACH03及び04は、ナスコアコレクション(Miyatake et al., 2019)から選抜した母本系統の自殖と選抜を行って作出した、アセチルコリン含量が安定して高濃度に含まれる固定系統である。
【0025】
「千両二号」は、日本の一般的な青果用ナスでありF1品種である。
【0026】
「AEP-PBFs21」及び「AEP-PBFs23」は、単為結果性や青枯病抵抗性、とげなし性を有する青果用ナスF1品種として品種登録出願される「安濃交10号」の親系統(固定品種)である。
【0027】
A03x21及び21xA04は、それぞれAE-ACH03(種子親)と「AEP-PBFs21」(花粉親)とを交配して得られたF1系統及びAE-ACH04(花粉親)と「AEP-PBFs21」(種子親)とを交配して得られたF1系統である。
【0028】
A03x23及び23xA04は、それぞれAE-ACH03(種子親)と「AEP-PBFs23」(花粉親)とを交配して得られたF1系統及びAE-ACH04(花粉親)と「AEP-PBFs23」(種子親)とを交配して得られたF1系統である。
【0029】
2.栽培方法
AE-ACH03及び04と「千両二号」は、3月に温室に播種したものを5月に露地圃場に定植して栽培した。果実の収穫は8月に行い、アセチルコリン含量の測定に用いた。
【0030】
A03x21、21xA04、A03x23、23xA04と「AEP-PBFs21」、「AEP-PBFs23」は、8月に温室に播種し、10月にハウスに定植して栽培した。果実の収穫は11月から1月にかけて行い、アセチルコリン含量の測定に用いた。
【0031】
3.アセチルコリン含量の測定
アセチルコリン含量の測定は、安藤の方法(特願2023-056633号)により行った。
具体的な手順を以下に示す。
【0032】
先ず、トリエチルメチルアンモニウムクロリド(TEMA-Cl)(東京化成)を内部標準として添加したナス果実熱水抽出液を、孔径0.45 μmのフィルターで液過して不溶残渣を除き、キャピラリー電気泳動(CE)分析に供した。
【0033】
CE分析では、ポリイミド樹脂コーティングされた未修飾の溶融シリカ管(内径 75 μm、ジーエルサイエンス)を80 cmに切断し、キャピラリーとして用いた。フォトダイオードアレイ検出器を装備したCEシステム(Agilent 7100,アジレント製)を用い、既報(楊井理恵 et al., 2003)を参考にして、間接吸光法により主要な陽イオンを検出した。ただし、対象成分の含有量に応じ、最終希釈倍率を1~1000倍とした分析用試料を50 mbarで5秒間加圧注入した。泳動液組成は、10mM imidazole、5mM HIBA、2mM 18-crown-6-ether、0.2% (v/v) 酢酸とし、25 kVを10~12分間印加した。毎泳動前に電気泳動液を5分間流してキャピラリー管内を洗浄、平衡化した。キャピラリー管は25℃に冷却した。
【0034】
検出においては、参照波長を215nm、検出波長を吸収のない310 nmに設定することにより、215 nmにおいてマイナス側に検出されるピークを見かけ上逆転させる間接吸光度法とした。
【0035】
アセチルコリン(東京化成)及びコリン(東京化成)、主要な陽イオン成分(アンモニウムイオン(NH4)、カリウムイオン(K)、カルシウムイオン(Ca)、ナトリウムイオン(Na)及びマグネシウムイオン(Mg)の混合標準液(Agilent))をスタンダードとして用い、分析対象成分として、内部標準法により定量した。
【0036】
〔結果及び考察〕
1.アセチルコリン含量
AE-ACH03及び04は、アセチルコリン含量が高く果形や果肉質等についても日本の青果用ナスに近いという条件のもとナスコアコレクションより選抜された母本系統の自殖と選抜を行った後代である(
図1)。
【0037】
AE-ACH03及び04を露地圃場で栽培し、果実のアセチルコリン含量を測定した。その結果、未熟果においてAE-ACH03のアセチルコリン含量は238 mg/kg FW (2937mg/kg DW)、AE-ACH04のアセチルコリン含量は169 mg/kg FW (2170mg/kg DW)であり、一般的な青果用ナスである「千両二号」の含量68 mg/kg FW (1061mg/kg DW)に対して、生鮮重あたりで2.5~3.5倍、乾物重あたりで2~2.8倍であった。また、完熟果において、AE-ACH03のアセチルコリン含量は217 mg/kg FW (2867 mg/kg DW)、AE-ACH04のアセチルコリン含量は274 mg/kg FW (3111 mg/kg DW)であり、一般的な青果用ナスである「千両二号」の含量127 mg/kg FW (1664 mg/kg DW)に対して、生鮮重、乾物重あたりとも約2倍であった(
図2及び3)。なお、アセチルコリン含量は未熟果よりも完熟果において高くなっており、ナスのアセチルコリン含量を高める方法として果実を完熟させることが有効である。
【0038】
2.F1系統のアセチルコリン含量
次に、AE-ACH03、04と、青枯病抵抗性や単為結果性、とげ無し性を有する青果用ナスとして品種登録出願される「安濃交10号」の親系統(「AEP-PBFs21」、「AEP-PBFs23」)とを交配し、F1系統を作出した。
【0039】
F
1系統について、未熟果(
図4)のアセチルコリン含量を測定した。その結果、A03x21のアセチルコリン含量は202 mg/kg FW (2702 mg/kg DW)、21xA04では148 mg/kg FW (1970 mg/kg DW)であり、「AEP-PBFs21」の含有量97 mg/kg FW (1164 mg/kg DW)に対して、生鮮重あたりで1.5~2.1倍、乾物重あたりで1.7~2.3倍であった。一方、A03x23のアセチルコリン含量は199 mg/kg FW (2790 mg/kg DW)、23xA04では212 mg/kg FW (2514 mg/kg DW)であり、「AEP-PBFs23」の含有量177mg/kg FW (1572 mg/kg DW)に対して、生鮮重あたりで1.1~1.2倍であったが、乾物重あたりでは2倍近くであった(
図5及び6)。
【0040】
A03x23や23xA04のアセチルコリン含量が生鮮重あたりでは「AEP-PBFs23」に比べて少ししか増加していなかった理由は、「AEP-PBFs23」の乾物率が11.2%と、A03x23や23xA04の乾物率7.1%及び8.4%に比べて高かったためである。このため、生鮮重あたりでは1.1~1.2倍の差であったが、乾物重あたりでは2倍近くと差が大きくなっている。
【0041】
以上のように、AE-ACH03やAE-ACH04との交配により既存の品種等からアセチルコリン高含有ナスを作出することができる。
【0042】
なお、アセチルコリン含量が約2倍となったことにより、サプリメント用原料粉末への加工コスト(原料費、輸送費、保管費、加工に要する光熱水費、人件費等)は従来の青果用ナスを用いた場合の約半分になると推定される。また、AE-ACH03、04をそのまま使用するよりも、既存の品種等とのF
1系統を作出する方が、加工面において望ましいと考えられる。例えば、A03x21、21xA04、A03x23、23xA04の外観はAE-ACH03、04に比べて、日本で一般的に使用されているナスの外観に近いことから(
図1、
図4)、これらのF
1系統を加工する際に、既存品種での加工法を適用しやすくなると考えられる。
【0043】
さらに、サプリメントではなく、F1系統の未熟果を調理して食するだけでも血圧低下作用や睡眠改善の効果が期待できる。この場合にも、AE-ACH03、04をそのまま使用するよりも、既存の品種等とのF1系統とする方が食感や食味の点で食べやすいと考えられる。
【0044】
栽培面においても、これらのF1系統の方がAE-ACH03、04に比べて青枯病抵抗性や単為結果性、収量性の面で有利になる可能性が考えられる。
【0045】
このように、何らかの好ましい性質を有する既存のナス品種等からアセチルコリン高含有ナス系統を作出するために、本発明に係る方法は有用である。
【0046】
参考文献
Miyatake, K., Y. Shinmura, H. Matsunaga, H. Fukuoka and T. Saito, 2019. Construction of a core collection of eggplant (Solanum melongena L.) based on genome-wide SNP and SSR genotypes. Breeding Science, 69: 498-502.
Nishimura, M., M. Suzuki, R. Takahashi, S. Yamaguchi, K. Tsubaki, T. Fujita, J. Nishihira, and K. Nakamura. 2019. Daily ingestion of eggplant powder improves blood pressure and psychological state in stressed individuals: A randomized placebo-controlled study. Nutrients. 11:2797.
Wang W, Yamaguchi S, Koyama M, Tian S, Ino A, Miyatake K, Nakamura K. 2020. LC-MS/MS Analysis of Choline Compounds in Japanese-Cultivated Vegetables and Fruits. Foods. 9:1029.
Wang, W., S. Yamaguchi, A. Suzuki, N. Wagu, M. Koyama, A. Takahashi, R. Takada, K. Miyatake, and K. Nakamura. 2021. Investigation of the distribution and content of acetylcholine, a novel functional compound in eggplant. Foods. 10:81.
信州大学. WO 2018/070545 A1. 経口摂取用コリンエステル含有組成物
信州大学、(株)ADEKA.WO2020/166494. 血圧低下作用を有するナス由来組成物
株式会社ウェルナス. 特開2020-137462号公報. 睡眠を改善するための経口摂取用組成物
【受託番号】
【0047】
FERM P-22468
FERM P-22469