(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2025-04-24
(45)【発行日】2025-05-07
(54)【発明の名称】光電変換素子
(51)【国際特許分類】
H10F 10/163 20250101AFI20250425BHJP
H10F 77/48 20250101ALI20250425BHJP
H10F 77/63 20250101ALI20250425BHJP
【FI】
H10F10/163
H10F77/48
H10F77/63
(21)【出願番号】P 2021118024
(22)【出願日】2021-07-16
【審査請求日】2023-11-02
(73)【特許権者】
【識別番号】000004226
【氏名又は名称】日本電信電話株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】504224153
【氏名又は名称】国立大学法人 宮崎大学
(74)【代理人】
【識別番号】110004381
【氏名又は名称】弁理士法人ITOH
(74)【代理人】
【識別番号】100107766
【氏名又は名称】伊東 忠重
(74)【代理人】
【識別番号】100070150
【氏名又は名称】伊東 忠彦
(74)【代理人】
【識別番号】100124844
【氏名又は名称】石原 隆治
(72)【発明者】
【氏名】秋山 一也
(72)【発明者】
【氏名】荒井 昌和
【審査官】原 俊文
(56)【参考文献】
【文献】特開2014-167994(JP,A)
【文献】特開2007-305978(JP,A)
【文献】特開2002-373999(JP,A)
【文献】特開平05-067802(JP,A)
【文献】特開2005-039162(JP,A)
【文献】特開2004-235182(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2019/0280143(US,A1)
【文献】中国特許出願公開第104821313(CN,A)
【文献】ARAI, Masakazu and KONDO, Yasuhiro,“1.3 μm band InGaAs MQWs with InGaP metamorphic graded buffer layer on GaAs substrate”,2007 Conference on Lasers and Electro-Optics - Pacific Rim,2007年08月,DOI: 10.1109/CLEOPR.2007.4391720
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H10F 10/00-10/19
H10F 19/00-19/90
H10F 77/00-77/90
H01S 5/00-5/50
IEEE Xplore
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
n型のGaAs基板の上に成長されたバッファ層と、
前記バッファ層の上に備えられた、AlAsとInGaAsとを含む半導体多層膜反射鏡と、
前記半導体多層膜反射鏡の上に備えられた、光を吸収するための光吸収層と、を備える、
光電変換素子であって、
前記半導体多層膜反射鏡は、前記AlAsと前記InGaAsの格子定数が、前記GaAs基板に対して、それぞれ圧縮、伸張歪となり、結晶成長を行う高温での歪と膜厚の積が合計で0になるようなIn組成をもつ、
光電変換素子。
【請求項2】
前記半導体多層膜反射鏡は、前記AlAsの層と前記InGaAsの層とを交互に含む、
請求項1に記載の光電変換素子。
【請求項3】
前記半導体多層膜反射鏡は、格子定数が大きく格子緩和された半導体層から構成される、
請求項1
又は2に記載の光電変換素子。
【請求項4】
前記バッファ層は、表面のIn組成が5%から20%までの範囲のInGaAsまたはInAlAsから構成される、
請求項1から
3のいずれか1項に記載の光電変換素子。
【請求項5】
前記光吸収層は、波長が0.7μmから1.1μmまでのレーザ光を吸収する、
請求項1から
4のいずれか1項に記載の光電変換素子。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、光電変換素子に関する。
【背景技術】
【0002】
波長1ミクロン帯の光は大気の吸収が少なく、長距離のレーザ光を用いた光無線給電に有望である。しかしながら、従来太陽光に用いられてきたシリコン太陽電池はこの波長帯の光吸収が非常に少ない。また、高効率太陽電池として知られるGaAsはバンドギャップの関係上、波長0.9ミクロンより短波長の光しか電力に変換することはできない。そこで、GaAs基板上に格子整合しないInGaAsメタモルフィック成長(格子歪緩和させた結晶成長)が用いられている。
【0003】
例えば、非特許文献1には、InAsとGaAsの化合物(混晶)を用いた多接合太陽電池が開示されている。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0004】
【文献】J.F.Geisz他、"40.8% efficient inverted triple-junction solar cell with two independently metamorphic junctions"、Applied Physics Letters, 93巻、論文番号123505、2008年
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、従来技術のようなInAsとGaAsの化合物(混晶)を用いた光電変換素子は、量子化した格子振動であるフォノンの動きを妨げるため、熱伝導率が低いという問題がある。そのため、太陽光程度の強度では問題なくても、高強度なレーザ光を受光する際には素子の温度が大幅に上昇し、発生した電子と正孔の非発光再結合の割合が上昇し、内部の量子効率が低下し、結果として光電変換効率の大幅な低下をもたらす可能性がある。
【0006】
開示の技術は、光電変換素子の熱伝導性を向上させることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
開示の技術は、n型のGaAs基板の上に成長されたバッファ層と、前記バッファ層の上に備えられた、AlAsとInGaAsとを含む半導体多層膜反射鏡と、前記半導体多層膜反射鏡の上に備えられた、光を吸収するための光吸収層と、を備える、光電変換素子であって、前記半導体多層膜反射鏡は、前記AlAsと前記InGaAsの格子定数が、前記GaAs基板に対して、それぞれ圧縮、伸張歪となり、結晶成長を行う高温での歪と膜厚の積が合計で0になるようなIn組成をもつ、光電変換素子である。
【発明の効果】
【0008】
開示の技術によれば、光電変換素子の熱伝導性を向上させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【
図2】InGaAsバッファ層の表面の原子間力顕微鏡像を示す図である。
【
図3】予備実験における半導体多層膜反射鏡の反射スペクトルを示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、図面を参照して本発明の実施の形態(本実施の形態)を説明する。以下で説明する実施の形態は一例に過ぎず、本発明が適用される実施の形態は、以下の実施の形態に限られるわけではない。
【0011】
(光電変換素子の概要)
本実施の形態に係る光電変換素子は、AlAsとInGaAsとを交互に結晶成長させることによって、高い熱伝導率と光反射率を持つ半導体多層膜を有する。
【0012】
(光電変換素子の層構造)
本実施の形態に係る光電変換素子の層構造について説明する。
【0013】
図1は、光電変換素子の一部断面図である。光電変換素子10は、n型のGaAsであるn-GaAs基板11上にn型のInGaAsバッファ層であるn-In
0.12Ga
0.88Asバッファ12を有する。n-In
0.12Ga
0.88Asバッファ12は、例えばシリコンをドーピングし、厚さ1600nmに結晶成長させることによって生成される。n-In
0.12Ga
0.88Asバッファ12は、In組成0.12の組成で一定としている。
【0014】
図2は、InGaAsバッファ層の表面の原子間力顕微鏡像を示す図である。実際に結晶成長させたn-In
0.12Ga
0.88Asバッファ12は、平坦性の指標となる二乗平均平方根が約1nmと低い値であった。
【0015】
図1に戻り、光電変換素子10は、n-In
0.12Ga
0.88Asバッファ12の上にn型のInGaAs層であるn-In
0.1Ga
0.9As層13を有する。n-In
0.1Ga
0.9As層13は、例えばシリコンをドーピングし、厚さ300nmに結晶成長させることによって生成される。なお、
図1ではIn組成が0.1(10%)の例を示しているが、用いるレーザ光の波長との関係に基づいてIn組成の割合を変更しても良い。具体的には、In組成が0.05から0.30まで(5%から30%まで)の範囲であればよい。
【0016】
さらに、光電変換素子10は、n-In0.1Ga0.9As層13の上にn型のAlAs層であるn-AlAs層14と、n型のInGaAs層であるn-In0.2Ga0.8As層15と、を交互に10ペア程度含む半導体多層膜反射鏡を有する。
【0017】
半導体多層膜反射鏡の各ペアに含まれるn-AlAs層14およびn-In0.2Ga0.8As層15は、例えば、用いるレーザ光の共振波長λと屈折率nに対して、それぞれλ/4nの厚さになるように結晶成長させることによって生成される。
【0018】
結晶成長の方法は、例えば有機金属気相成長法(MOVPE法)を用いる。そこで、予備実験として、110nmの厚さのIn0.09Al0.91Asと90nmの厚さのIn0.1Ga0.9Asを用いて半導体多層膜反射鏡を作製した。
【0019】
図3は、予備実験における半導体多層膜反射鏡の反射スペクトルを示す図である。予備実験の結果、作製した半導体多層膜反射鏡は、90%の高い反射率が得られた。
【0020】
ところで、InAlAs層をそのまま用いると、混晶化することで熱伝導性が低下するという問題がある。そこで、2元で熱伝導率が高いAlAsを用い、InGaAsのIn組成を高め、平均格子歪が0になるように結晶成長条件を最適化するように調整することによって、高い熱伝導性と、高い光反射率と、をともに満たす半導体多層膜を作製する。
【0021】
ここで、平均格子歪とは、AlAs層の厚さをd1、格子定数をa1とし、反射鏡を構成するInGaAs層の厚さをd2、格子定数をa2とし、格子緩和させたInGaAs層の格子定数をa3とした際に、(d1×(a1-a3)+d2×(a2-a3))/(d1+d2)で定義される。半導体多層膜反射鏡は、この平均格子歪が0になるように厚さを調整されている。すなわち、半導体多層膜反射鏡は、AlAsとInGaAsの格子定数が、n-GaAs基板11に対して、それぞれ圧縮、伸張歪となり、結晶成長を行う高温での歪と膜厚の積が合計で0になるようなIn組成をもつ。
【0022】
したがって、半導体多層膜反射鏡は、格子定数が大きく格子緩和された半導体層から構成される。このように、AlAs/InGaAs半導体多層膜反射鏡を組み合わせることで、高い熱伝導率と光反射率を持つ半導体多層膜を作製できる。
【0023】
図1に戻り、さらに、光電変換素子10は、交互に積層されたn-AlAs層14およびn-In
0.2Ga
0.8As層15の上に、n型のInGaAs層であるn-In
0.1Ga
0.9As光吸収層16を有する。n-In
0.1Ga
0.9As光吸収層16は、例えばシリコンをドーピングして結晶成長させることによって生成される。
【0024】
さらに、光電変換素子10は、n-In0.1Ga0.9As光吸収層16の上に、p型のInGaAs層であるp-In0.1Ga0.9As光吸収層17を有する。p-In0.1Ga0.9As光吸収層17は、例えば炭素をドーピングして結晶成長させることによって生成される。
【0025】
p-In0.1Ga0.9As光吸収層17の上にフォトリソグラフィと電極蒸着によりグリッド状の電極を形成することで、レーザ光に特化した光電変換素子が実現できる。90%という高い反射率の反射鏡の上に光吸収層を設けることで、従来技術と比較して量子効率の大幅な改善が期待される。また、AlAsは2元化合物であり、文献値では熱伝導率が90W/Kmという高い値を持つため、従来技術と比較して熱伝導性を大幅に向上させることができる。
【0026】
本実施の形態では、バッファ層としてInGaAsを用いたが、InAlAsを用いても良い。InAlAsも、InGaAsと同様にGaAsに対して格子歪を緩和する効果があるからである。
【0027】
本実施の形態では、InGaAsバッファ層としてIn組成0.12の組成を用いたが、使用するレーザ光の波長との関係に基づいてIn組成の割合を変更しても良い。具体的には、In組成が0.05から0.20まで(5%から20%まで)の範囲であればよい。
【0028】
本実施の形態では、In0.1Ga0.9Asの光吸収層であるため、光電変換できるレーザ光の波長は0.97μm以下である。使用するレーザ光の波長との関係に基づいて、光吸収層におけるIn組成の割合を変更しても良い。具体的には、In組成が0.2まで(20%まで)の範囲であればよい。例えば、In0.2Ga0.8Asの光吸収層であれば、光電変換できるレーザ光の波長は1.1μm以下まで適用できる。
【0029】
(実施の形態のまとめ)
本明細書には、少なくとも下記の各項に記載した光電変換素子が記載されている。
(第1項)
n型のGaAs基板の上に成長されたバッファ層と、
AlAsとInGaAsとを含む半導体多層膜反射鏡と、
光を吸収するための光吸収層と、を備える、
光電変換素子。
(第2項)
前記半導体多層膜反射鏡は、前記AlAsと前記InGaAsの格子定数が、前記GaAs基板に対して、それぞれ圧縮、伸張歪となり、結晶成長を行う高温での歪と膜厚の積が合計で0になるようなIn組成をもつ、
第1項に記載の光電変換素子。
(第3項)
前記半導体多層膜反射鏡は、前記AlAsの層と前記InGaAsの層とを交互に含む、
第1項または第2項に記載の光電変換素子。
(第4項)
前記半導体多層膜反射鏡は、格子定数が大きく格子緩和された半導体層から構成される、
第1項から第3項のいずれか1項に記載の光電変換素子。
(第5項)
前記バッファ層は、表面のIn組成が5%から20%までの範囲のInGaAsまたはInAlAsから構成される、
第1項から第4項のいずれか1項に記載の光電変換素子。
(第6項)
前記光吸収層は、波長が0.7μmから1.1μmまでのレーザ光を吸収する、
第1項から第5項のいずれか1項に記載の光電変換素子。
【0030】
以上、本実施の形態について説明したが、本発明はかかる特定の実施形態に限定されるものではなく、特許請求の範囲に記載された本発明の要旨の範囲内において、種々の変形・変更が可能である。
【符号の説明】
【0031】
10 光電変換素子
11 n-GaAs基板
12 n-In0.12Ga0.88Asバッファ
13 n-In0.1Ga0.9As層
14 n-AlAs層
15 n-In0.2Ga0.8As層
16 n-In0.1Ga0.9As光吸収層
17 p-In0.1Ga0.9As光吸収層