(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2025-04-24
(45)【発行日】2025-05-07
(54)【発明の名称】半導体レーザ素子および半導体レーザ素子の製造方法
(51)【国際特許分類】
H01S 5/16 20060101AFI20250425BHJP
H01S 5/343 20060101ALI20250425BHJP
【FI】
H01S5/16
H01S5/343
(21)【出願番号】P 2021052700
(22)【出願日】2021-03-26
【審査請求日】2023-12-21
(73)【特許権者】
【識別番号】000005290
【氏名又は名称】古河電気工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002147
【氏名又は名称】弁理士法人酒井国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】川北 泰雅
(72)【発明者】
【氏名】西條 義人
(72)【発明者】
【氏名】大木 泰
【審査官】高椋 健司
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2020/230874(WO,A1)
【文献】特表2019-515490(JP,A)
【文献】国際公開第02/017450(WO,A1)
【文献】米国特許出願公開第2011/0051767(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01S 5/00-5/50
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
第一方向に、第一導電型クラッド層と、活性層と、第二導電型クラッド層と、コンタクト層とが積層された積層構造であって、前記第一方向と交差した第二方向の端面であってレーザ光を出力する端面と、前記第二方向の少なくとも中央部に形成された非窓領域と、前記非窓領域と前記端面との間に形成され前記非窓領域より大きいバンドギャップを有した窓領域と、を有した積層構造と、
前記第一導電型クラッド層と電気的に接続する第一電極と、
前記コンタクト層上に形成され、前記第一電極との間で前記積層構造を介する電流経路を構成する第二電極と、
前記端面上に形成され前記窓領域より大きいバンドギャップを有したパッシベーション層と、
前記パッシベーション層の前記端面とは反対側を覆う誘電体反射膜と、
を有
し、
前記窓領域を、空孔が拡散され前記第二方向の長さが数10μmの領域にするとともに、
前記パッシベーション層の厚さを、10[nm]以上かつ150[nm]以下にした、半導体レーザ素子。
【請求項2】
第一方向に、第一導電型クラッド層と、活性層と、第二導電型クラッド層と、コンタクト層とが積層された積層構造であって、前記第一方向と交差した第二方向の端面であってレーザ光を出力する端面と、前記第二方向の少なくとも中央部に形成された非窓領域と、前記非窓領域と前記端面との間に形成され前記非窓領域より大きいバンドギャップを有した窓領域と、を有した積層構造と、
前記第一導電型クラッド層と電気的に接続する第一電極と、
前記コンタクト層上に形成され、前記第一電極との間で前記積層構造を介する電流経路を構成する第二電極と、
前記端面上に形成され前記窓領域より大きいバンドギャップを有したパッシベーション層と、
前記パッシベーション層の前記端面とは反対側を覆う誘電体反射膜と、
を有
し、
前記窓領域を、不純物が拡散され前記第二方向の長さが数μmの領域にするとともに、
前記パッシベーション層の厚さを、10[nm]以上かつ150[nm]以下にした、半導体レーザ素子。
【請求項3】
前記パッシベーション層は、前記積層構造と略格子整合された層である、請求項1
または2に記載の半導体レーザ素子。
【請求項4】
前記積層構造は、GaAs系半導体材料で作られ、前記パッシベーション層は、層材料としてII-IV族化合物半導体材料を含む、請求項
3に記載の半導体レーザ素子。
【請求項5】
前記パッシベーション層は、層材料としてZnSeを含む、請求項4に記載の半導体レーザ素子。
【請求項6】
第一方向に、第一導電型クラッド層と、活性層と、第二導電型クラッド層と、コンタクト層とが積層された積層構造であって、前記第一方向と交差した第二方向の端面であってレーザ光を出力する端面と、前記第二方向の少なくとも中央部に形成された非窓領域と、前記非窓領域と前記端面との間に形成され前記非窓領域より大きいバンドギャップを有した窓領域と、を有した積層構造と、
前記第一導電型クラッド層と電気的に接続する第一電極と、
前記コンタクト層上に形成され、前記第一電極との間で前記積層構造を介する電流経路を構成する第二電極と、
前記端面上に形成され前記窓領域より大きいバンドギャップを有したパッシベーション層と、
前記パッシベーション層の前記端面とは反対側を覆う誘電体反射膜と、
を有
し、
前記パッシベーション層は、前記積層構造と略格子整合された層であり、
前記積層構造は、GaAs系半導体材料で作られ、前記パッシベーション層は、層材料としてGaAsを含む、半導体レーザ素子。
【請求項7】
前記パッシベーション層の厚さは、10[nm]以上かつ150[nm]以下である、請求項
6に記載の半導体レーザ素子。
【請求項8】
前記パッシベーション層の厚さは、10[nm]以上かつ50[nm]以下である、請求項
1~7のうちいずれか一つに記載の半導体レーザ素子。
【請求項9】
第一方向に、第一導電型クラッド層と、活性層と、第二導電型クラッド層と、コンタクト層とが積層された積層構造であって、非窓領域と、当該非窓領域と前記第一方向と交差した第二方向に隣接し前記非窓領域よりも大きいバンドギャップを有した窓領域と、が形成された積層構造を形成する工程と、
大気中で、前記積層構造を前記窓領域において劈開し、前記第二方向の端面を形成する工程と、
超高真空中で、前記端面を浄化する工程と、
超高真空中で、前記浄化された前記端面上に、前記窓領域より大きいバンドギャップを有したパッシベーション層を形成する工程と、
前記パッシベーション層の前記端面とは反対側に誘電体反射膜を形成する工程と、
を備え
、
前記窓領域を、空孔が拡散され前記第二方向の長さが数10μmの領域にするか、または不純物が拡散され前記第二方向の長さが数μmの領域にするとともに、
前記パッシベーション層の厚さを、10[nm]以上かつ150[nm]以下にする、半導体レーザ素子の製造方法。
【請求項10】
第一方向に、第一導電型クラッド層と、活性層と、第二導電型クラッド層と、コンタクト層とが積層された積層構造であって、非窓領域と、当該非窓領域と前記第一方向と交差した第二方向に隣接し前記非窓領域よりも大きいバンドギャップを有した窓領域と、が形成された積層構造を形成する工程と、
大気中で、前記積層構造を前記窓領域において劈開し、前記第二方向の端面を形成する工程と、
超高真空中で、前記端面を浄化する工程と、
超高真空中で、前記浄化された前記端面上に、前記窓領域より大きいバンドギャップを有したパッシベーション層を形成する工程と、
前記パッシベーション層の前記端面とは反対側に誘電体反射膜を形成する工程と、
を備え
、
前記パッシベーション層は、前記積層構造と略格子整合された層であり、
前記積層構造は、GaAs系半導体材料で作られ、前記パッシベーション層は、層材料としてGaAsを含む、半導体レーザ素子の製造方法。
【請求項11】
前記端面を浄化する工程では、前記端面にプラズマを照射して浄化する、請求項
9または10に記載の半導体レーザ素子の製造方法。
【請求項12】
半導体基板上に、第一方向に、第一導電型クラッド層と、活性層と、第二導電型クラッド層と、第二導電型不純物でドーピングされたコンタクト層とが積層された積層構造であって、非窓領域と、当該非窓領域と前記第一方向と交差した第二方向に隣接し前記非窓領域よりも大きいバンドギャップを有した窓領域と、が形成された積層構造を形成する工程と、
超高真空中で、前記積層構造を前記窓領域において劈開し、前記第二方向の端面を形成する工程と、
超高真空中で、前記端面上に、パッシベーション層を形成する工程と、
前記パッシベーション層の前記端面とは反対側に誘電体反射膜を形成する工程と、
を備え
、
前記窓領域を、空孔が拡散され前記第二方向の長さが数10μmの領域にするか、または不純物が拡散され前記第二方向の長さが数μmの領域にするとともに、
前記パッシベーション層の厚さを、10[nm]以上かつ150[nm]以下にする、半導体レーザ素子の製造方法。
【請求項13】
半導体基板上に、第一方向に、第一導電型クラッド層と、活性層と、第二導電型クラッド層と、第二導電型不純物でドーピングされたコンタクト層とが積層された積層構造であって、非窓領域と、当該非窓領域と前記第一方向と交差した第二方向に隣接し前記非窓領域よりも大きいバンドギャップを有した窓領域と、が形成された積層構造を形成する工程と、
超高真空中で、前記積層構造を前記窓領域において劈開し、前記第二方向の端面を形成する工程と、
超高真空中で、前記端面上に、パッシベーション層を形成する工程と、
前記パッシベーション層の前記端面とは反対側に誘電体反射膜を形成する工程と、
を備え
、
前記パッシベーション層は、前記積層構造と略格子整合された層であり、
前記積層構造は、GaAs系半導体材料で作られ、前記パッシベーション層は、層材料としてGaAsを含む、半導体レーザ素子の製造方法。
【請求項14】
前記パッシベーション層を形成する工程では、前記パッシベーション層を、エピタキシャル成長により形成する、請求項
9~
13のうちいずれか一つに記載の半導体レーザ素子の製造方法。
【請求項15】
前記パッシベーション層を形成する工程と、前記誘電体反射膜を形成する工程とを、互いに連結されたチャンバ内で実行する、請求項
9~
14のうちいずれか一つに記載の半導体レーザ素子の製造方法。
【請求項16】
前記パッシベーション層を形成する工程と、前記誘電体反射膜を形成する工程とを、それぞれ独立した別のチャンバ内で実行する、請求項
9~
15のうちいずれか一つに記載の半導体レーザ素子の製造方法。
【請求項17】
前記積層構造を形成する工程では、不純物拡散または空孔拡散によって前記窓領域を形成する、請求項
9~
16のうちいずれか一つに記載の半導体レーザ素子の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、半導体レーザ素子および半導体レーザ素子の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
端面出射型の半導体レーザ素子において、出射端面における光学損傷の抑制は、重要な課題である。光学損傷は、以下のような過程によって生じる。すなわち、出射端面に欠陥が生じた場合、当該欠陥を介して電子と正孔が結合することにより端面の温度が上昇し、それに伴い端面の半導体材料のバンドギャップが縮小し、その結果、光吸収が増大する。光吸収が増大すると、さらに端面の温度が上昇し、バンドギャップがさらに縮小し、光吸収がさらに増大する、という循環に陥り、最終的に半導体材料の溶融に至る場合もある。
【0003】
このような光学損傷を抑制するため、不純物拡散や空孔拡散によって端面に窓領域を形成する技術が知られている(例えば、特許文献1,2)。窓領域によって端面付近のバンドギャップを拡大することができるため、光吸収を抑制し、ひいては光学損傷を抑制することができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】米国特許第5703894号公報
【文献】特許第4128898号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
このような半導体レーザ素子において、光学損傷を抑制するための構成によって、例えば光出力が低下するような不都合な事象が生じるのは、好ましくない。
【0006】
そこで、本発明の課題の一つは、例えば、光学損傷を抑制することが可能な、より改善された新規な構成を有した半導体レーザ素子、および当該半導体レーザ素子の製造方法を得ること、である。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の半導体レーザ素子は、例えば、第一方向に、第一導電型クラッド層と、活性層と、第二導電型クラッド層と、コンタクト層とが積層された積層構造であって、前記第一方向と交差した第二方向の端面であってレーザ光を出力する端面と、前記第二方向の少なくとも中央部に形成された非窓領域と、前記非窓領域と前記端面との間に形成され前記非窓領域より大きいバンドギャップを有した窓領域と、を有した積層構造と、前記第一導電型クラッド層と電気的に接続する第一電極と、前記コンタクト層上に形成され、前記第一電極との間で前記積層構造を介する電流経路を構成する第二電極と、前記端面上に形成され前記窓領域より大きいバンドギャップを有したパッシベーション層と、前記パッシベーション層の前記端面とは反対側を覆う誘電体反射膜と、を有する。
【0008】
前記半導体レーザ素子にあっては、前記パッシベーション層は、前記積層構造と略格子整合された層であってもよい。
【0009】
前記半導体レーザ素子にあっては、前記積層構造は、GaAs系半導体材料で作られ、前記パッシベーション層は、層材料としてGaAsを含んでもよい。
【0010】
前記半導体レーザ素子にあっては、前記積層構造は、GaAs系半導体材料で作られ、前記パッシベーション層は、層材料としてII-IV族化合物半導体材料を含んでもよい。
【0011】
前記半導体レーザ素子にあっては、前記パッシベーション層は、層材料としてZnSeを含んでもよい。
【0012】
前記半導体レーザ素子にあっては、前記パッシベーション層の厚さは、10[nm]以上かつ150[nm]以下であってもよい。
【0013】
前記半導体レーザ素子にあっては、前記パッシベーション層の厚さは、10[nm]以上かつ50[nm]以下であってもよい。
【0014】
前記半導体レーザ素子にあっては、前記窓領域は、不純物が拡散されたものであってもよい。
【0015】
前記半導体レーザ素子にあっては、前記窓領域は、空孔が拡散されたものであってもよい。
【0016】
本発明の半導体レーザ素子の製造方法は、例えば、第一方向に、第一導電型クラッド層と、活性層と、第二導電型クラッド層と、コンタクト層とが積層された積層構造であって、非窓領域と、当該非窓領域と前記第一方向と交差した第二方向に隣接し前記非窓領域よりも大きいバンドギャップを有した窓領域と、が形成された積層構造を形成する工程と、大気中で、前記積層構造を前記窓領域において劈開し、前記第二方向の端面を形成する工程と、超高真空中で、前記端面を浄化する工程と、超高真空中で、前記浄化された前記端面上に、前記窓領域より大きいバンドギャップを有したパッシベーション層を形成する工程と、前記パッシベーション層の前記端面とは反対側に誘電体反射膜を形成する工程と、を備える。
【0017】
前記半導体レーザ素子の製造方法にあっては、前記端面を浄化する工程では、前記端面にプラズマを照射して浄化してもよい。
【0018】
本発明の半導体レーザ素子の製造方法は、例えば、半導体基板上に、第一方向に、第一導電型クラッド層と、活性層と、第二導電型クラッド層と、第二導電型不純物でドーピングされたコンタクト層とが積層された積層構造であって、非窓領域と、当該非窓領域と前記第一方向と交差した第二方向に隣接し前記非窓領域よりも大きいバンドギャップを有した窓領域と、が形成された積層構造を形成する工程と、超高真空中で、前記積層構造を前記窓領域において劈開し、前記第二方向の端面を形成する工程と、超高真空中で、前記端面上に、パッシベーション層を形成する工程と、前記パッシベーション層の前記端面とは反対側に誘電体反射膜を形成する工程と、を備える。
【0019】
前記半導体レーザ素子の製造方法にあっては、前記パッシベーション層を形成する工程では、前記パッシベーション層を、エピタキシャル成長により形成してもよい。
【0020】
前記半導体レーザ素子の製造方法にあっては、前記パッシベーション層を形成する工程と、前記誘電体反射膜を形成する工程とを、互いに連結されたチャンバ内で実行してもよい。
【0021】
前記半導体レーザ素子の製造方法にあっては、前記パッシベーション層を形成する工程と、前記誘電体反射膜を形成する工程とを、それぞれ独立した別のチャンバ内で実行してもよい。
【0022】
前記半導体レーザ素子の製造方法にあっては、前記積層構造を形成する工程では、不純物拡散または空孔拡散によって前記窓領域を形成してもよい。
【発明の効果】
【0023】
本発明によれば、例えば、光学損傷を抑制することが可能なより改善された新規な構成を有した半導体レーザ素子、および当該半導体レーザ素子の製造方法を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0024】
【
図1】
図1は、実施形態の半導体レーザ素子の例示的かつ模式的な斜視図である。
【
図4】
図4は、実施形態の非窓領域、窓領域、およびパッシベーション層のバンドギャップを示す説明図である。
【
図5】
図5は、実施形態の半導体レーザ素子の製造手順の一例を示すフローチャートである。
【
図6】
図6は、実施形態の半導体レーザ素子の積層構造を含む複数のバーがマトリクス状に配置されたウエハ片を示す例示的かつ模式的な平面図である。
【
図7】
図7は、実施形態の半導体レーザ素子の製造方法において、劈開により端面を形成する工程を示す例示的かつ模式的な斜視図である。
【
図8】
図8は、実施形態の半導体レーザ素子の製造方法において、一つの分子線生成部を用いてパッシベーション層を形成する工程の一例を示す例示的かつ模式的な斜視図である。
【
図9】
図9は、実施形態の半導体レーザ素子の製造方法において、二つの分子線生成部を用いてパッシベーション層を形成する工程の一例を示す例示的かつ模式的な斜視図である。
【
図10】
図10は、実施形態の変形例の半導体レーザ素子の製造手順の一例を示すフローチャートである。
【
図11】
図11は、実施形態の変形例の製造手順を実現可能な製造装置の一例を示す例示的かつ模式的な構成図である。
【発明を実施するための形態】
【0025】
以下、本発明の例示的な実施形態および変形例が開示される。以下に示される実施形態および変形例の構成、ならびに当該構成によってもたらされる作用および結果(効果)は、一例である。本発明は、以下の実施形態および変形例に開示される構成以外によっても実現可能である。また、本発明によれば、構成によって得られる種々の効果(派生的な効果も含む)のうち少なくとも一つを得ることが可能である。
【0026】
本明細書において、序数は、方向や、部位等を区別するために便宜上付与されており、優先順位や順番を示すものではない。
【0027】
また、各図において、X方向を矢印Xで表し、Y方向を矢印Yで表し、Z方向を矢印Zで表す。X方向、Y方向、およびZ方向は、互いに交差するとともに互いに直交している。
【0028】
[実施形態]
[半導体レーザ素子の構成]
図1は、本実施形態の半導体レーザ素子1の斜視図である。また、
図2は、
図1のII-II断面図であり、
図3は、
図1のIII-III断面図である。X方向は、半導体レーザ素子1からのレーザ光の出射方向である。また、X方向は、長手方向とも称され、Y方向は、幅方向とも称されうる。
【0029】
図1に示されるように、半導体レーザ素子1は、Z方向の端部において、Y方向の中央部からZ方向に突出したリッジ6を有している。リッジ6は、Y方向に略一定の幅で、X方向に延びている。
【0030】
また、
図1に示されるように、半導体レーザ素子1のX方向の端部には、X方向と交差して広がる低反射膜3が形成され、他方、半導体レーザ素子1のX方向の反対方向の端部には、X方向と交差して広がる高反射膜2が形成されている。低反射膜3および高反射膜2は、生成されたレーザ光4を反射し共振させる反射鏡として機能する。レーザ光4は、低反射膜3が形成されたX方向の端面からX方向に出力される。低反射膜3および高反射膜2は、誘電体反射膜の一例である。また、X方向は、第二方向の一例である。
【0031】
図2および
図3に示されるように、半導体レーザ素子1は、n型GaAs基板である半導体基板11上に、III-V族系化合物により形成されたn-バッファ層12、n-クラッド層13、n-ガイド層14、活性層15、p-ガイド層16、p-クラッド層17、p-コンタクト層18、および絶縁層19が、Z方向にこの順に積層された積層構造10を備えている。p-コンタクト層18の上部には、上部電極20が形成され、半導体基板11の下部には、下部電極21が形成されている。活性層15の上側に形成されたp-ガイド層16、活性層15に対しp型のクラッドを積層する側に形成されたp-クラッド層17および、活性層15に対し正孔を注入するために形成されたp-コンタクト層18には、不純物としてZnがドーピングされている。また、
図2,3に示されるように、半導体レーザ素子1は、活性層15に注入される電流をストライプ状に狭窄し、かつ、ストライプに沿った光導波路として機能するリッジ6を有しており、p-クラッド層17の上層およびp-コンタクト層18を含む層領域のレーザ光出射方向と垂直方向の幅が狭まったメサ形状に加工されている。Z方向は、積層方向とも称されうる。Z方向は、第一方向の一例である。
【0032】
また、
図3に示されるように、半導体レーザ素子1には、非窓領域24と、当該非窓領域24と比較してレーザ光の吸収が少ない窓領域23と、が設けられている。非窓領域24は、半導体レーザ素子1の少なくともX方向の中央部に形成されている。他方、窓領域23は、X方向の端面10aと非窓領域24との間に形成されている。端面10aは、レーザ光を出力する端面であり、出射端面とも称されうる。
【0033】
さらに、下部電極21と上部電極20との間には、積層構造10を介した電流経路が構成されている。下部電極21は、第一電極の一例であり、上部電極20は、第二電極の一例である。また、n-クラッド層13は、第一導電型クラッド層の一例であり、p-クラッド層17は、第二導電型クラッド層の一例である。
【0034】
半導体基板11は、n-GaAsを材料に含む。n-バッファ層12は、半導体基板11上に高品質のエピタキシャル層の積層構造を成長するために必要な緩衝層であり、n-GaAsを層材料として含む。n-クラッド層13とn-ガイド層14は、積層方向に対する任意の光閉じ込め状態を実現するように、屈折率と厚さが設定され、n-AlGaAsを層材料として含む。n-ガイド層14のAl組成は、15[%]以上かつ45[%]未満であることが望ましい。また、n-クラッド層13のAl組成は、n-ガイド層14のAl組成に比べて高くすることで屈折率を小さくすることが一般的である。本実施形態の窓領域23を有した大出力端面放出型多モード半導体レーザ素子においては、n-ガイド層14の膜厚は、200[nm]以上、一例としては400[nm]程度であることが望ましい。また、n-クラッド層13の厚さは、1[μm]以上、一例としては3[μm]程度であることが望ましい。n-ガイド層14は、故意にドーピングをしない層が使用される場合もあるが、n-ガイド層14の厚さを100[nm]以上に設定する場合は、残留不純物の影響が大きく、ドーピングを施すほうがよい。また、本実施形態の構造および方法は、用途に応じて、端面放出型シングルモード半導体レーザ素子に適用することもできる。
【0035】
活性層15は、下部バリア層15a、量子井戸層15b、および上部バリア層15cを有している。下部バリア層15aおよび上部バリア層15cは、量子井戸層15bにキャリアを閉じ込める障壁の機能を有し、意図的にドーピングをしないAlGaAsを材料として含む。また、量子井戸層15bは、意図的にドーピングをしないInGaAsを材料として含む。量子井戸層15bのIn組成および膜厚、ならびに下部バリア層15aおよび上部バリア層15cの組成によって決まるポテンシャル井戸の構造により、閉じ込められたキャリアの発光再結合エネルギーが決定される。なお、ここでは、活性層15が単一の量子井戸層(SQW)の構成を有した場合について説明したが、活性層15は、これには限定されず、量子井戸層15bと下部バリア層15aおよび上部バリア層15cとの積層が所定回数繰り返された多重量子井戸層(MQW)の構成を有してもよい。また、ここでは、意図的にドーピングをしない層での構成を説明したが、量子井戸層15b、下部バリア層15a、および上部バリア層15cには意図的にドナーやアクセプタが添加されてもよい。さらに、下部バリア層15aとn-ガイド層14とが同一の組成の場合があり、また、上部バリア層15cとp-ガイド層16とが同一の組成の場合があるため、下部バリア層15a、上部バリア層15cは必ずしも構成される必要はない。
【0036】
p-ガイド層16およびp-クラッド層17は、n-クラッド層13およびn-ガイド層14と対となり、積層方向に対する任意の光閉じ込め状態を実現するように、屈折率と厚さとが設定されている。p-ガイド層16とp-クラッド層17とは、p-AlGaAsを層材料として含む。p-ガイド層16のAl組成は、20[%]程度である。p-クラッド層17のAl組成は、一般的にp-ガイド層16のAl組成に比べて高く設定される。また、層中の光フィールドをn-クラッド層13の方向にずらして導波路損失を小さくするため、p-クラッド層17のAl組成は、n-クラッド層13に比べて若干高めに設定される。また、p-ガイド層16のAl組成は、p-クラッド層17のAl組成に比べ低く設定される。
【0037】
本実施形態のような窓領域23を有した大出力端面放出型多モード半導体レーザ素子においては、p-ガイド層16の膜厚は、200[nm]以上であることが望ましく、p-クラッド層17の厚さは、1~2[μm]程度であることが望ましい。なお、p-ガイド層16として、意図的にドーピングをしない層が構成される場合もあるが、ガイド層の厚さを厚く設定する場合は、残留不純物による導電性変動の影響が大きいため、製造再現性を高めるため、意図的なドーピングを施すほうがよい。p-クラッド層17は、n型の半導体層によって形成されている。p-コンタクト層18は、活性層15に対し正孔を注入するために電極とコンタクトを取る必要があるため、p型不純物が高濃度でドーピングされている。なお、p-クラッド層17には、注入電流を狭窄して活性層15における電流密度を高める電流狭窄層が形成されてもよい。
【0038】
本実施形態の半導体レーザ素子1においては、積層構造10の一部が加工されて形成されたリッジ6により、上部電極20と下部電極21から注入された電流が活性層15の一部に集中し、レーザ光4が半導体レーザ素子1の外部に取り出されることになる。出射領域5(
図1参照)から出射されるレーザ光4の光密度は高密度であるため、半導体レーザ素子1においては、光出射端面を含む所定の領域に、レーザ光の吸収が少ない窓領域23を設け、それ以外の領域を非窓領域24とすることにより、光学損傷の抑制を図っている。
【0039】
窓領域23では、当該窓領域23の積層構造10を構成する半導体層の少なくとも一部が混晶化されている。
図2において、混晶化された領域には、ハッチングが施されている。混晶化によって窓領域23のバンドギャップが大きくなる結果、非窓領域24のバンドギャップと窓領域23のバンドギャップとに大きな差が生じる。これにより、半導体レーザ素子1においては、光出射端面領域のレーザ光の吸収を抑制し、光学損傷の抑制を図ることができる。
【0040】
窓領域23には、不純物または空孔が拡散されている。不純物は、例えば、Zn、Si、およびMgのうち少なくともいずれか一つである。窓領域23のX方向の長さは、不純物拡散の場合には、数μm程度とし、空孔拡散の場合には、数10μm程度とするのが、一般的である。
【0041】
また、本実施形態では、窓領域23が形成された端面10a上に、端面成長によって、窓領域23よりもさらにバンドギャップの大きい材料を積層することにより、パッシベーション層30を形成している。パッシベーション層30は、窓領域23よりもさらにバンドギャップが大きい層であり、これにより、光学損傷の抑制効果のさらなる向上を図ることができる。
図4は、本実施形態の非窓領域24、窓領域23、およびパッシベーション層30のバンドギャップを示す説明図である。ここに、非窓領域24のバンドギャップは、活性層15におけるバンドギャップであり、窓領域23のバンドギャップは、活性層15に対応した層におけるバンドギャップである。
図4に示されるように、窓領域23のバンドギャップV2は、非窓領域24のバンドギャップV1よりも大きく、パッシベーション層30のバンドギャップV3は、窓領域23のバンドギャップV2よりも大きい。
【0042】
そして、本実施形態では、パッシベーション層30の端面10aとは反対側を覆うように、誘電体反射膜としての低反射膜3が設けられている。
【0043】
従来、積層構造10のX方向の端部において不純物拡散によって混晶化領域(窓領域)が形成され、さらに当該混晶化領域のX方向の端面上に、本実施形態のようなパッシベーション層が形成されることなく、誘電体反射膜が形成された、半導体レーザ素子が、知られている。当該構成においては、混晶化領域では光損失が生じるため、当該混晶化領域はX方向に長くし難い。これに伴って、混晶化領域に対してX方向における中央側に隣接した活性層のX方向の長さが長くなってしまい、活性層には、混晶化領域と隣接して電流が流れない区間が生じてしまう。このような電流が流れない区間では、光が吸収されるため、光出力の低下やエネルギロスの増大の要因となる。
【0044】
また、従来、活性層のX方向の端部に、窓領域が形成されることなく、パッシベーション層が形成された半導体レーザ素子が知られている。当該構成においては、パッシベーション層と活性層との界面に電流を流すことができないため、活性層には、パッシベーション層と隣接して電流が流れない区間を設ける必要がある。上述したように、当該電流が流れない区間では、光が吸収されるため、光出力の低下やエネルギロスの増大の要因となる。
【0045】
この点、本実施形態では、
図3,4に示されるように、非窓領域24、窓領域23、パッシベーション層30、および低反射膜3が、X方向に、この順に形成されているため、活性層15において電流が流れない区間をより短くすることができるかあるいは無くすことができ、ひいては光出力の低下やエネルギロスの増大を抑制するかあるいは回避することができる。特に、空孔が拡散した窓領域23の場合には、活性層15において電流が流れない区間をより一層短くすることができるかあるいは無くすことができる確率がより高まる。また、このような観点から、パッシベーション層30の厚さは、10[nm]以上かつ150[nm]以下であるのが好ましく、10[nm]以上かつ50[nm]以下であるのがより好ましいことが判明している。
【0046】
[製造方法]
図5は、本実施形態の半導体レーザ素子1の製造手順を示すフローチャートである。
図5に示されるように、まずは、上述した積層構造10が形成される(S11)。
【0047】
図6は、S11において、半導体レーザ素子1の積層構造10を含む複数のバー101がマトリクス状に配置されたウエハ片100を示す平面図である。ウエハ片100は、ウエハ(不図示)から切り出された当該ウエハの一部である。
【0048】
S11では、公知の半導体プロセスにより、ウエハ(ウエハ片100)上に、上述した積層構造10、窓領域23、および非窓領域24をそれぞれ含む複数のバー101が形成される。言い換えると、積層構造10、窓領域23、および非窓領域24は、ウエハ(ウエハ片100)に対して形成されることにより、複数のバー101について一括して形成される。
【0049】
窓領域23は、ウエハ片100に対し、スクライブ100a(傷)が設けられた位置(仮想的な線PL)を中心として、X方向に略一定の幅wで、Y方向に延びるよう形成されている。線PLは、後の工程S12において、バー101の長手方向の端部となる位置である。
【0050】
図5に示されるように、S11の後、本実施形態では、ウエハ片100の大気中での劈開により、アレイ102に含まれる各バー101において、X方向の端面10aが形成される(S12)。
【0051】
図7は、劈開により端面10aを形成する工程(S12)を示す斜視図である。
図7に示されるように、ウエハ片100を、ブレードB等を用いて劈開することにより、複数のアレイ102を形成する。この際、ブレードBは、予め設けられているスクライブ100a(
図6参照)に位置合わせされる。これにより、ウエハ片100は、当該スクライブ100aが設けられた位置、すなわち、線PLで劈開され、複数のアレイ102に分割される。ここで、スクライブ100aおよび線PLは、窓領域23の幅wの略中央部に位置しているため、端面10aは、窓領域23において形成されることになる。また、
図7に示されるように、分割された複数のアレイ102は、Z方向に積み重ねられる。
【0052】
図5に示されるように、S12の後、本実施形態では、超高真空中で、端面10aが浄化される(S13)。S13では、積み重ねられた複数のアレイ102の端面10aに対し、例えば、水素プラズマのようなプラズマが照射される。
【0053】
図5に示されるように、S13の後、本実施形態では、超高真空中で、端面10a上に、パッシベーション層30が形成される(S13)。
【0054】
パッシベーション層30は、積層構造10と略格子整合された層である。パッシベーション層30の形成は、エピタキシャル成長により行われる。上述したように、積層構造10は、GaAs系半導体材料で作られている。これに対応して、パッシベーション層30は、層材料(半導体材料)として、例えば、GaAsのようなIII-V属化合物や、ZnSeのような、II-IV属化合物を含んでいる。
【0055】
パッシベーション層30の形成は、超高真空状態とされた端面成長チャンバ1003(
図11参照)内で行われる。複数のアレイ102は、端面成長チャンバ1003に設けられたヒータ等により、例えば、300[℃]程度の処理温度となるよう加熱される。
【0056】
図8は、パッシベーション層30を形成する工程(S13)の一例を示す斜視図である。
図8に示されるように、パッシベーション層30の形成は、端面10aがZ方向に略面一に並んだ状態に積層された複数のアレイ102に対して、一括して行われる。
【0057】
図8の例では、パッシベーション層30は、アレイ102の端面10aに一つの分子線生成部1031で生成した分子線を照射することにより、形成される。
【0058】
II-IV属化合物としてのZnSe化合物を含むパッシベーション層30を形成する場合、分子線生成部1031は、例えば、クヌーセンセルを用いて実現されうる。この場合、分子線生成部1031は、内部に保持したZnSe化合物原料をもとにZnと低分子Seの分子線を生成し、当該分子線を複数のアレイ102の端面10aに向けて照射する。これにより、端面10a上に、エピタキシャル成長によって、ZnSe膜が形成される。エピタキシャル成長のレートは、分子線の構成元素のうち、分子線強度が小さい方で決まるため、一つの分子線生成部1031を用いたエピタキシャル成長においても、高品質なZnSe膜を得ることができる。
【0059】
図9は、パッシベーション層30を形成する工程(S13)の別の一例を示す斜視図である。
図9に示されるように、この場合も、パッシベーション層30の形成は、端面10aがZ方向に略面一に並んだ状態に積層された複数のアレイ102に対して、一括して行われる。
【0060】
図9の例では、パッシベーション層30は、アレイ102の端面10aに二つの分子線生成部1031で生成した分子線を照射することにより、形成される。
【0061】
II-IV属化合物としてのZnSe化合物を含むパッシベーション層30を形成する場合、二つの分子線生成部1031は、クヌーセンセル、またはバルブドセルを用いて実現することができる。一例として、一つの分子線生成部1031は、Znの分子線を生成して照射し、もう一つの分子線生成部1031は、Seの分子線を生成して照射する。これにより、端面10a上に、エピタキシャル成長によって、ZnSe膜が形成される。なお、Snの分子線を照射する分子線生成部1031は、Seを低分子化するために、バルブドクラッキングセルを用いて実現するのが好ましい。
【0062】
ZnSe化合物を含むパッシベーション層30を形成する場合における、二つの分子線生成部1031の組み合わせは、上述した組み合わせには限定されず、種々に設定することができる。例えば、一つの分子線生成部1031が、ZnSeの分子線を照射し、もう一つの分子線生成部1031が、ZnおよびSeのうちいずれかの分子線を照射してもよい。また、二つの分子線生成部が、それぞれ、ZnSeの分子線を照射してもよい。
【0063】
また、ZnSe化合物を含むパッシベーション層30を形成する場合、端面10a上には、まずは、分子線生成部1031からZnの分子線のみを照射してもよい。これにより、GaAs系半導体材料で作られた積層構造10とZnSe化合物を含むパッシベーション層30との界面で、貫通転移が生じるのを抑制することができ、半導体レーザ素子1の信頼性をより一層高めることができる。
【0064】
二つの分子線生成部1031を用いてIII-V属化合物としてのGaAs化合物を含むパッシベーション層30を形成する場合、一つの分子線生成部1031は、Gaの分子線を照射し、もう一つの分子線生成部1031は、Asの分子線を照射する。この場合、一例として、Gaの分子線を照射する分子線生成部1031は、クヌーセンセルを用いて実現することができ、Asの分子線を照射する分子線生成部1031は、バルブドクラッキングセルを用いて実現することができる。分子線生成部1031からの分子線の照射により、端面10a上に、エピタキシャル成長によって、GaAs膜が形成される。
【0065】
複数の分子線生成部1031を用いることにより、分子線生成部1031を用いた場合に比べて、端面10aの場所によるパッシベーション層30の成分や厚さのばらつきを減らすことができる。なお、分子線生成部1031の数は、二つには限定されず、三つ以上であってもよい。
【0066】
パッシベーション層30は、アレイ102のX方向の端面10a上に形成されるとともに、アレイ102のX方向の反対方向の端面10a上にも形成される。両方の端面10a上にパッシベーション層30を形成するため、支持装置1032には、例えば、Z方向に延びる中心軸C周りに少なくとも180°回転することが可能なターンテーブルが装備される。
【0067】
図5に示されるように、S14の後、本実施形態では、X方向の端面10aに形成されたパッシベーション層30上には、低反射膜3が形成され、X方向の反対方向の端面10aに形成されたパッシベーション層30上には、高反射膜2が形成される(S15)。低反射膜3および高反射膜2は、エピタキシャル成長が行われた端面成長チャンバ1003とは別に設けられたスパッタ装置あるいはプラズマCVD装置などによって、形成することができる。なお、S14において形成されたパッシベーション層30によって端面10aは保護されているため、S14からS15への移行に際し、アレイ102が大気中に晒されたとしても、端面10aの劣化は生じ難い。
【0068】
以上、説明したように、本実施形態では、窓領域23に設けられた端面10a上に、当該窓領域23よりもバンドギャップの大きいパッシベーション層30が形成され、当該パッシベーション層30に対して端面10aとは反対側に低反射膜3(誘電体反射膜)が形成される。
【0069】
このような構成および方法によれば、例えば、活性層15において電流の流れない区間をより短くすることができるか、あるいは無くすことができるため、従来構造において活性層15において電流の流れない区間があることによる、例えば光出力の低下やエネルギロスの増大といった不都合な事象が生じるのを、抑制するかあるいは回避することができる。すなわち、本実施形態によれば、光学損傷を抑制可能な、より改善された新規な構成の半導体レーザ素子1、および当該半導体レーザ素子1の製造方法を、得ることができる。
【0070】
[変形例]
図10は、本実施形態の変形例の半導体レーザ素子1の製造手順を示すフローチャートである。
図10を
図5と比較すれば明らかとなるように、本変形例では、実施形態のS11,S12に替えて、超高真空中において窓領域23においてウエハ片100を劈開することにより端面10aを形成する(S22)。このような手順によれば、超高真空中において端面10aを浄化する処理を行うことなく、端面10aにおける自然酸化膜の形成や、端面10aに対するパーティクルの付着等を抑制し、さらなる信頼性の向上を図ることができる。
【0071】
図11は、変形例の製造手順を実現可能な製造装置1000の一例を示す構成図である。製造装置1000は、ロードロックチャンバ1001、劈開チャンバ1002、端面成長チャンバ1003、およびコーティングチャンバ1004、を備えている。
【0072】
また、各チャンバ間には、チャンバ間を開閉するとともに、閉状態において気密シールするゲートバルブ1005が設けられている。製造装置1000には、チャンバ間でウエハ片100やアレイ102を搬送する搬送機構1006が設けられている。搬送機構1006は、例えば、搬送トロリーや、搬送アーム等として構成されうる。
【0073】
ロードロックチャンバ1001は、不図示の開閉扉を有している。ロードロックチャンバ1001では、ウエハ片100の搬入およびアレイ102の搬出が行われる。
【0074】
劈開チャンバ1002内では、超高真空状態において、
図7に例示されたような劈開(S12)が行われる。
【0075】
端面成長チャンバ1003は、エピタキシャル成長装置である。端面成長チャンバ1003内では、
図8や
図9に示されたようなパッシベーション層30の形成、すなわち端面成長(S22)が行われる。端面成長チャンバ1003には、分子線生成部1031、およびヒータおよびターンテーブルを有した支持装置1032が設けられる。
【0076】
コーティングチャンバ1004では、低反射膜3および高反射膜2の形成(S15)が行われる。なお、本変形例では、端面成長チャンバ1003と、コーティングチャンバ1004とが、互いに連結されているが、これには限定されず、端面成長チャンバ1003と、コーティングチャンバ1004とは、互いに独立していてもよい。この場合、端面成長チャンバ1003と、コーティングチャンバ1004との間において、アレイ102は、大気中に晒されてもよい。
【0077】
以上、本発明の実施形態および変形例が例示されたが、上記実施形態および変形例は一例であって、発明の範囲を限定することは意図していない。上記実施形態および変形例は、その他の様々な形態で実施されることが可能であり、発明の要旨を逸脱しない範囲で、種々の省略、置き換え、組み合わせ、変更を行うことができる。また、各構成や、形状、等のスペック(構造や、種類、方向、型式、大きさ、長さ、幅、厚さ、高さ、数、配置、位置、材質等)は、適宜に変更して実施することができる。
【0078】
例えば、半導体レーザ素子は、リッジを有さなくてもよい。
【符号の説明】
【0079】
1…半導体レーザ素子
2…高反射膜(誘電体反射膜)
3…低反射膜(誘電体反射膜)
4…レーザ光
5…出射領域
6…リッジ
10…積層構造
10a…端面
11…半導体基板
12…n-バッファ層
13…n-クラッド層(第一導電型クラッド層)
14…n-ガイド層
15…活性層
15a…下部バリア層
15b…量子井戸層
15c…上部バリア層
16…p-ガイド層
17…p-クラッド層(第二導電型クラッド層)
18…p-コンタクト層
19…絶縁層
20…上部電極(第二電極)
21…下部電極(第一電極)
23…窓領域
24…非窓領域
30…パッシベーション層
100…ウエハ片
100a…スクライブ
101…バー
102…アレイ
1000…製造装置
1001…ロードロックチャンバ
1002…劈開チャンバ
1003…端面成長チャンバ
1004…コーティングチャンバ
1005…ゲートバルブ
1006…搬送機構
1031…分子線生成部
1032…支持装置
B…ブレード
C…中心軸
V1,V2,V3…バンドギャップ
w…幅
X…方向(第二方向)
Y…方向
Z…方向(第一方向)