(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2025-04-25
(45)【発行日】2025-05-08
(54)【発明の名称】導電性接着剤
(51)【国際特許分類】
C09J 163/00 20060101AFI20250428BHJP
C09J 9/02 20060101ALI20250428BHJP
C09J 11/04 20060101ALI20250428BHJP
C09J 11/08 20060101ALI20250428BHJP
C09J 133/00 20060101ALI20250428BHJP
【FI】
C09J163/00
C09J9/02
C09J11/04
C09J11/08
C09J133/00
(21)【出願番号】P 2019034426
(22)【出願日】2019-02-27
【審査請求日】2021-12-06
【審判番号】
【審判請求日】2023-07-07
(73)【特許権者】
【識別番号】591252862
【氏名又は名称】ナミックス株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001508
【氏名又は名称】弁理士法人 津国
(72)【発明者】
【氏名】坂本 孝史
(72)【発明者】
【氏名】神田 大樹
【合議体】
【審判長】村守 宏文
【審判官】関根 裕
【審判官】弘實 由美子
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2012/165416(WO,A1)
【文献】特開2018-145418号公報(JP,A)
【文献】特開2007-91959(JP,A)
【文献】国際公開第2015/098059(WO,A1)
【文献】特開2014-31444(JP,A)
【文献】特開2011-166100号公報(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
IPC C09J 1/00-201/10
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
(A)導電性粒子、(B)溶剤、(C)熱硬化性樹脂、及び(D
)シリカ粒子を含む導電性接着剤であって、
前記(C)熱硬化性樹脂の含有量は、(A)導電性粒子100重量部に対して30~80重量部であり、
(D)シリカ粒子の平均粒径が1~50nmであり、
ブルックフィールド社製(B型)粘度計を用いて25℃の温度で、10rpmの回転速度で測定したときのジェットディスペンスした後の導電性接着剤の粘度が、0.2~15Pa・sである、導電性接着剤。
【請求項2】
(A)導電性粒子、(B)溶剤、(C)熱硬化性樹脂、及び(D)シリカ粒子の合計を100重量部とした時に、(D)シリカ粒子を1~20重量部含む、請求項1に記載の導電性接着剤。
【請求項3】
(D)シリカ粒子が、(C)熱硬化性樹脂に対して予め混合されたものである、請求項1又は請求項2に記載の導電性接着剤。
【請求項4】
(A)導電性粒子、(B)溶剤、(C)熱硬化性樹脂、及び(D)シリカ粒子の合計を100重量部とした時に、(B)溶剤を0.5~15重量部含む、請求項1から3のいずれか1項に記載の導電性接着剤。
【請求項5】
(A)導電性粒子が、銀粒子である、請求項1から4のいずれか1項に記載の導電性接着剤。
【請求項6】
(B)溶剤が、
ソルベントナフサ又はシクロヘキサンを含む、請求項1から5のいずれか1項に記載の導電性接着剤。
【請求項7】
(C)熱硬化性樹脂が、エポキシ樹脂又はアクリル樹脂を含む、請求項1から6のいずれか1項に記載の導電性接着剤。
【請求項8】
請求項1から7のいずれか1項に記載の導電性接着剤を含むカメラモジュール用導電性接着剤。
【請求項9】
請求項1から7のいずれか1項に記載の導電性接着剤を含むジェットディスペンス用導電性接着剤。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えば電子部品の固定に用いられる導電性接着剤に関する。
【背景技術】
【0002】
電子機器及び電気機器では、カメラモジュール及び発光ダイオード(LED)のような微小な電子部品を固定することが必要である。微小な電子部品の固定のために、導電性接着剤が用いられている。
【0003】
例えば、特許文献1には、分子量が300~150,000g/molであり、5rpm粘度計における25℃での粘度が1000~100000mPa・secであるシロキサンポリマーと、紫外線照射時にシロキサンポリマーの硬化を促進する硬化剤とを含む、接着剤又は封入剤のための組成物が記載されている。また、特許文献1には、この材料を、LEDデバイスに使用することができることが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
電子機器及び電気機器において、カメラモジュール及び発光ダイオード(LED)のような微小な電子部品を固定するために、導電性接着剤が用いられている。
【0006】
例えば、カメラモジュールを機器に装着するときに、それを格納するものとしてブラケットを用いる。カメラモジュールの装着には、アクティブアライメント工法という方法が採用されている。
【0007】
アクティブアライメント工法では、まず、ブラケットに対してカメラモジュールの位置を調整し、仮固定用接着剤により、ブラケットに対してカメラモジュールを固定する。具体的は、仮固定用接着剤を導入し、カメラモジュールの位置を調整して位置を決めした後、仮固定用接着剤をUV硬化させることで、ブラケットに対して所定の位置でカメラモジュールを固定する。
【0008】
次に、カメラモジュールと、ブラケットとの間の導電性接着剤を導入する。導電性接着剤を導入することにより、カメラモジュールと、ブラケットとの間の導電性を得ることができるので、ブラケットに対するカメラモジュールのアースを取ることができる。
【0009】
最後に、ブラケットフィル用の接着剤を導入することにより、カメラモジュールと、ブラケットの間の隙間を埋め、最終的にカメラモジュールを固定する。カメラモジュールと、ブラケットの間の隙間の寸法は小さいので、ブラケットフィル用の接着剤には、高い流動性が必要になる。したがって、アクティブアライメント工法では、仮固定用接着剤、導電性接着剤及びブラケットフィル用の接着剤の三種類の接着剤が必要である。
【0010】
カメラモジュールの接着のために、近年、さらに、小さい寸法の隙間へ接着剤を注入するという要求が多くなっている。従来、小さい寸法の隙間へ注入するための接着剤は、絶縁性の接着剤に限られていた。導電性接着剤は、導電性を付与するための導電性フィラー(例えば、金属粒子)を多く含有するため、流動性が低い。したがって、導電性接着剤は、小さい寸法の隙間へ注入するための接着剤としては用いられていなかった。
【0011】
一方、電子機器及び電気機器の製造コストを下げるためには、より簡単に電子部品を装着することが必要である。導電性接着剤の流動性が高い場合には、上述のアクティブアライメント工法において、導電性接着剤及びブラケットフィル用の接着剤を、一種類の導電性接着剤により代替できる可能性がある。すなわち、流動性が高い導電性接着剤を用いることにより、ブラケットに対するカメラモジュールのアースを取る工程、及び最終的にカメラモジュールを固定する工程の2つの工程を、1つの工程により行うことができる可能性があり、製造コストの低下が期待できる。
【0012】
そこで、本発明は、高い流動性を有し、かつ導電性を有する導電性接着剤を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
上記課題を解決するため、本発明は以下の構成を有する。
【0014】
(構成1)
本発明の構成1は、(A)導電性粒子、(B)溶剤、(C)熱硬化性樹脂、及び(D)平均粒径1~50nmのシリカ粒子を含む導電性接着剤である。
【0015】
本発明の構成1によれば、高い流動性を有し、かつ導電性を有する導電性接着剤を得ることができる。特に、導電性接着剤をジェットディスペンスした後でも流動性高く保つことができる導電性接着剤を提供することができる。
【0016】
(構成2)
本発明の構成2は、(A)導電性粒子、(B)溶剤、(C)熱硬化性樹脂、及び(D)シリカ粒子の合計を100重量部とした時に、(D)シリカ粒子を1~20重量部含む、構成1の導電性接着剤である。
【0017】
本発明の構成2の導電性接着剤は、所定量のシリカ粒子を含むことにより、所与の導電性を有し、かつ高い流動性を有することができる。
【0018】
(構成3)
本発明の構成3は、(D)シリカ粒子が、(C)熱硬化性樹脂に対して予め混合されたものである、構成1又は構成2の導電性接着剤である。
【0019】
本発明の構成3のように、シリカ粒子が、熱硬化性樹脂に対して予め混合されることにより、導電性粒子と混合する際に均一に混合しやすくなる。また、導電性接着剤が、より高い流動性を有することができる。
【0020】
(構成4)
本発明の構成4は、(A)導電性粒子、(B)溶剤、(C)熱硬化性樹脂、及び(D)平均粒径1~50nmのシリカ粒子の合計を100重量部とした時に、(B)溶剤を0.5~15重量部含む、構成1から3のいずれかの導電性接着剤である。
【0021】
本発明の構成4によれば、導電性接着剤が所定量の溶剤を含むことにより、導電性接着剤としての取扱い性に優れ、導電性接着剤の流動性をより確実に得ることができる。
【0022】
(構成5)
本発明の構成5は、(A)導電性粒子が、銀粒子である、構成1から4のいずれかの導電性接着剤である。
【0023】
本発明の構成5によれば、銀の電気伝導率は、他の金属と比べて高いので、より高い導電性の導電性接着剤を得ることができる。
【0024】
(構成6)
本発明の構成6は、(B)溶剤が、芳香族炭化水素を含む、構成1から5のいずれかの導電性接着剤である。
【0025】
本発明の構成6によれば、溶剤が、芳香族炭化水素を含むことにより、導電性接着剤としての取扱い性により優れ、導電性接着剤の流動性をさらに確実に得ることができる。
【0026】
(構成7)
本発明の構成7は、(C)熱硬化性樹脂が、エポキシ樹脂又はアクリル樹脂を含む、構成1から6のいずれかの導電性接着剤である。
【0027】
本発明の構成7によれば、熱硬化性樹脂が、エポキシ樹脂又はアクリル樹脂を含むことにより、固定対象の電子部品の固定をより確実に行うことができる。
【0028】
(構成8)
本発明の構成8は、構成1から7のいずれかの導電性接着剤を含むカメラモジュール用導電性接着剤である。
【0029】
本発明の導電性接着剤は、高い流動性及び所定の導電性を共に有する。そのため、本発明の導電性接着剤は、カメラモジュールの固定の際に必要な流動性及び導電性の要求を満たすことができる。
【0030】
(構成9)
本発明の構成9は、構成1から7のいずれかの導電性接着剤を含むジェットディスペンス用導電性接着剤である。
【0031】
本発明の導電性接着剤は、高い流動性を有する。そのため、本発明の導電性接着剤は、ジェットディスペンス用として好ましく用いることができる。
【発明の効果】
【0032】
本発明によれば、高い流動性を有し、かつ導電性を有する導電性接着剤を提供することができる。本発明によれば、特に、導電性接着剤をジェットディスペンスした後でも流動性高く保つことができる導電性接着剤を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0033】
【
図1】導電性接着剤の流動性を測定するための治具を側面から見た模式図である。
【
図2】導電性接着剤の流動性を測定するための治具を上面から見た模式図である。
【
図3】導電性接着剤の電気抵抗を測定するための、電極及び導電性接着剤の配置を示す模式図である。
【
図4】ジェットディスペンス装置(ジェットディスペンサー)の一例の断面模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0034】
以下、本発明の実施形態について、図面を参照しながら具体的に説明する。なお、以下の実施形態は、本発明を具体化する際の形態であって、本発明をその範囲内に限定するものではない。
【0035】
本発明の実施形態の導電性接着剤は、(A)導電性粒子、(B)溶剤、(C)熱硬化性樹脂、及び(D)シリカ粒子を含む導電性接着剤である。(D)シリカ粒子の平均粒径は、1~50nmである。本実施形態によれば、高い流動性を有し、かつ導電性を有する導電性接着剤を得ることができる。
【0036】
<(A)導電性粒子>
本実施形態の導電性接着剤は、導電性粒子として(A)導電性粒子を含む。導電性粒子は、特に制限されないが、導電性の金属粒子を用いることができる。金属粒子の金属の種類としては、銀(Ag)、金(Au)、銅(Cu)、ニッケル(Ni)、パラジウム(Pd)、白金(Pt)、スズ(Sn)及びこれらの合金等であることができる。導電性粒子は、1種類の金属粒子又は合金粒子を単独で使用しても、2種類以上の金属粒子又は合金粒子を併用してもよい。
【0037】
本発明の実施形態では、導電性粒子が、銀粒子又は銀を含む合金粒子であることが好ましく、銀粒子であることがより好ましい。銀の電気伝導率は、他の金属と比べて高い。導電性粒子としてので、銀粒子を用いることにより、より高い導電性の導電性接着剤を得ることができる。
【0038】
導電性粒子の形状は、特に限定されず、例えば、球状、粒状、フレーク状、又は鱗片状の導電性粒子を用いることが可能である。
【0039】
導電性粒子の平均粒径は、0.1μm~50μmが好ましく、0.1μm~10μmがより好ましく、さらに好ましくは0.1μm~7μmであり、最も好ましくは0.1μm~5μmである。ここでいう平均粒径は、レーザー回折散乱式粒度分布測定法により得られる体積基準メジアン径(d50)を意味する。
【0040】
導電性粒子の製造方法は、特に限定されず、例えば、還元法、粉砕法、電解法、アトマイズ法、熱処理法、あるいはそれらの組合せによって製造することができる。例えば銀粒子についてもこれらの製造方法で製造することができる。フレーク状の銀粒子は、例えば、球状または粒状の銀粒子をボールミル等によって押し潰すことによって製造することができる。
【0041】
<(B)溶剤>
本実施形態の導電性接着剤は、(B)溶剤を含む。溶剤としては、例えば、メタノール、エタノール、及びイソプロピルアルコール(IPA)等のアルコール類、酢酸エチレン等の有機酸類、ソルベントナフサ、シクロヘキサン、トルエン、及びキシレン等の芳香族炭化水素類、N-メチル-2-ピロリドン(NMP)等のN-アルキルピロリドン類、N,N-ジメチルホルムアミド(DMF)等のアミド類、メチルエチルケトン(MEK)等のケトン類、テルピネオール(TEL)、ブチルカルビトール(BC)等の環状カーボネート類、並びに水等が挙げられる。
【0042】
本実施形態の導電性接着剤は、(B)溶剤が、芳香族炭化水素を含むことが好ましい。取扱い性及び流動性に優れた導電性接着剤をより確実に得るために、芳香族炭化水素としては、ソルベントナフサ又はシクロヘキサンを用いることが好ましい。
【0043】
溶剤の含有量は、特に限定されない。取扱い性及び流動性に優れた導電性接着剤をより確実に得るために、導電性接着剤は、(A)導電性粒子、(B)溶剤、(C)熱硬化性樹脂、及び(D)シリカ粒子の合計を100重量部とした時に、(B)溶剤を0.5~15重量部含むことが好ましく、1~14重量部含むことがより好ましく、2~13重量部含むことがより好ましい。
【0044】
<(C)熱硬化性樹脂>
本実施形態の導電性接着剤は、(C)熱硬化性樹脂を含有する。熱硬化性樹脂は、接着対象物をつなぎあわせて固定し、また、導電性接着剤中の無機材料である(A)導電性粒子及び(D)シリカ粒子にをつなぎあわせるものである。
【0045】
熱硬化性樹脂としては、例えば、エチルセルロース、ニトロセルロース等のセルロース系樹脂、アクリル樹脂、アルキド樹脂、飽和ポリエステル樹脂、ブチラール樹脂、ポリビニルアルコール、ヒドロキシプロピルセルロース等を用いることができる。これらの樹脂は、単独で使用してもよく、2種類以上を混合して使用してもよい。
【0046】
本実施形態の導電性接着剤は、(C)熱硬化性樹脂として、エポキシ樹脂又はアクリル樹脂を含むことが好ましい。熱硬化性樹脂が、エポキシ樹脂又はアクリル樹脂を含むことにより、固定対象の電子部品の固定をより確実に行うことができる。
【0047】
(C)熱硬化性樹脂の含有量は、(A)導電性粒子100重量部に対して好ましくは30~80重量部であり、より好ましくは35~75重量部であり、さらに好ましくは40~70重量部である。導電性接着剤中の熱硬化性樹脂の含有量が上記の範囲内の場合、接着対象物をつなぎあわせて固定することを確実にできる。また、導電性接着剤中の無機材料である(A)導電性粒子及び(D)シリカ粒子をつなぎあわせて固定することができ、(A)導電性粒子による所定の導電性を維持することができる。
【0048】
<(D)シリカ粒子>
本実施形態の導電性接着剤は、(D)平均粒径1~50nmのシリカ粒子を含有する。シリカ粒子の平均粒径が、1~50nmであることにより、本実施形態の導電性接着剤は高い流動性を有することができる。特に、平均粒径1~50nmのシリカ粒子を含むことにより、導電性接着剤をジェットディスペンスした後でも流動性高く保つことができる。ジェットディスペンスは、導電性接着剤に対して大きな衝撃を与える供給方法であるが、本実施形態の導電性接着剤は、ナノシリカは、ジェットディスペンスの際の導電性接着剤に対する衝撃を和らげる効果があるものと考えられる。
【0049】
シリカ粒子の形状は、球状、又は球状以外の形状であることができる。高い流動性を維持する点から、本実施形態の導電性接着剤に含まれるシリカ粒子の形状は、球状であることが好ましい。シリカ粒子の製造方法は特に制限されるものではなく、溶射法などの公知の方法によって製造されたシリカ粒子を用いることができる。
【0050】
本実施形態の導電性接着剤に含まれるシリカ粒子の平均粒径は、ナノメートルオーダーなので、レーザー回折散乱式粒度分布測定法による粒径測定が困難である。シリカ粒子の透過型電子顕微鏡(TEM)写真を撮影し、TEM写真中の50個のシリカ粒子の粒径を測定して平均値を算出することにより、シリカ粒子の平均粒径とすることができる。シリカ粒子の粒径は、TEM写真のシリカ粒子の最大寸法を、そのシリカ粒子の粒径とすることができる。シリカ粒子の粒径は、公知の画像処理ソフトを用いることにより、測定することができる。
【0051】
本発明の実施形態の導電性接着剤は、(A)導電性粒子、(B)溶剤、(C)熱硬化性樹脂、及び(D)シリカ粒子の合計を100重量部とした時に、(D)シリカ粒子を、1~20重量部含むことが好ましく、1~10重量部含むことがより好ましく、1~5重量部含むことがさらに好ましい。本発明の実施形態の導電性接着剤は、所定量のシリカ粒子を含むことにより、所与の導電性を有し、かつ高い流動性を有することができる。
【0052】
本発明の実施形態の導電性接着剤に含まれる(D)シリカ粒子は、(C)熱硬化性樹脂に対して予め混合されたものであることが好ましい。本発明の実施形態のように、シリカ粒子が、熱硬化性樹脂に対して予め混合されることにより、より高い流動性を有することができる。なお、シリカ粒子が、熱硬化性樹脂に対して予め混合される形態を、マスターバッチという場合がある。
【0053】
<その他の成分>
本実施形態の導電性接着剤は、その他の添加剤、例えば、分散剤、レオロジー調整剤、及び顔料などから適宜選択したものを含有してもよい。
【0054】
<導電性接着剤の粘度>
本実施形態の導電性接着剤の初期粘度(製造直後の粘度)が、0.1~10(Pa・s)であることが好ましい。また、本実施形態の導電性接着剤の初期粘度(製造直後の粘度)は、製造直後から24時間経過後の粘度(24h後の粘度)が、0.1~10(Pa・s)であることが好ましい。また、初期粘度と、24h後の粘度との比(「24h後の粘度」/「初期粘度」、「24h後の増粘倍率」という。)が0.9~1.4であることが好ましく、1.0~1.3であることがより好ましい。本実施形態の導電性接着剤の初期粘度、24h後の粘度及び24h後の増粘倍率が所定の範囲であることにより、高い流動性を有し、かつ粘度の時間を変化を抑制することができる。そのため、本実施形態の導電性接着剤は、製品としての取扱い性が良好であり、流動性高く保つことができる。
【0055】
本実施形態の導電性接着剤をジェットディスペンスした後の粘度は、0.2~15(Pa・s)であることが好ましく、0.5~10(Pa・s)であることがより好ましい。本実施形態の導電性接着剤の粘度は、ジェットディスペンスした後でも低く保つことができるので、ジェットディスペンスにより、狭い隙間に導電性接着剤を配置させることができる。
【0056】
なお、上述の導電性接着剤の粘度は、ブルックフィールド社製(B型)粘度計を用いて25℃の温度で、10rpmの回転速度で測定することができる。
【0057】
<導電性接着剤の製造方法>
本実施形態の導電性接着剤は、上記の各成分を、例えば、ライカイ機、ポットミル、三本ロールミル、回転式混合機、二軸ミキサー等を用いて混合することで製造することができる。
【0058】
<導電性接着剤の用途>
本実施形態の導電性接着剤の用途について説明する。本実施形態の導電性接着剤は、所定の場所に塗布することにより、封止材及び/又は電極として用いることができる。塗布方法は任意であり、例えば、ディスペンス、ジェットディスペンス、孔版印刷、スクリーン印刷、ピン転写、スタンピングなどの公知の方法を用いて塗布することができる。
【0059】
本実施形態の導電性接着剤を所定の位置に塗布した後、塗布した導電性接着剤を、加熱処理することにより、硬化させることができる。加熱処理は、60~100℃まで20~40分間で温度を上昇させ、その後50~70分間、昇温後の温度を保つことにより硬化させることができる。具体的には、80℃まで30分間で温度を上昇させ、その後60分間80℃に温度を保つことにより硬化させることができる。
【0060】
本実施形態の導電性接着剤は、カメラモジュール用導電性接着剤として用いることができる。本発明の導電性接着剤は、高い流動性及び所定の導電性を共に有する。そのため、本発明の導電性接着剤は、カメラモジュールの固定の際に必要な流動性及び導電性の要求を満たすことができる。
【0061】
本実施形態の導電性接着剤は、ジェットディスペンス用導電性接着剤として好ましく用いることができる。本実施形態の導電性接着剤は、ジェットディスペンスの後であっても高い流動性を有する。そのため、ジェットディスペンスにより、カメラモジュールの固定のために、好ましく用いることができる。
【0062】
図4に、ジェットディスペンス装置(ジェットディスペンサー50)の断面模式図を示す。ジェットディスペンサー50は、ピストンのように往復運動が可能なニードル52と、ニードル52の往復運動によっても外部に導電性接着剤20が漏れないようにするためのシール54(密封部材)と、導電性接着剤20をジェットディスペンスするためのノズル56とを有する。
図4(a)に示すように、ニードル52がストロークSの長さで往復運動することにより、導電性接着剤20がジェットディスペンサー50に供給され、ノズル56からジェットディスペンスされる。なお、ノズル56は、内径100~200μmの注射針のような形状である。この結果、
図4(b)に示すように、ノズル56からジェットディスペンスされた導電性接着剤20が、所定の対象物に供給される。本実施形態の導電性接着剤は、ジェットディスペンスの後であっても高い流動性を有するため、狭い隙間に対しても導電性接着剤20を供給することができる。
【0063】
なお、ジェットディスペンサー50は、ニードル52の往復運動によって、1秒間に数百ショットのジェットディスペンスを行うことができる。そのため、導電性接着剤20は、大きな衝撃が加わることになる。このような大きな衝撃が加わった後でも、本実施形態の導電性接着剤20は、流動性を維持することができる。
【0064】
ブラケットに対するカメラモジュールの固定のための接着剤の供給には、ジェットディスペンスが用いられている。ブラケットへのカメラモジュールの接着のために、近年、さらに、小さい寸法の隙間へ接着剤を注入するという要求が多くなっている。具体的には、ブラケットとカメラモジュールの間意の隙間は、数百μm(例えば600μm)であり、長さ数mmに渡って接着剤を注入することが必要である。仮固定用接着剤により、ブラケットに対してカメラモジュールを固定した後に、本実施形態の導電性接着剤をジェットディスペンスするならば、カメラモジュールとブラケットとの間の小さい寸法の隙間へ、導電性接着剤を供給(注入)することができる。本実施形態の導電性接着剤は、導電性を有するので、導電性接着剤(アース用の接着剤)及びブラケットフィル用の接着剤(封止用の接着剤)の二つの機能を有する。したがって、本実施形態の導電性接着剤は、導電性接着剤及びブラケットフィル用の接着剤の二つの接着剤の代わりに、一つの接着剤として用いることができる。
【0065】
以上述べたように、流動性が高く、導電性を有する本実施形態の導電性接着剤を用いることにより、ブラケットに対するカメラモジュールのアースを取る工程、及び最終的にカメラモジュールを固定する工程の2つの工程を、1つの工程により行うことができる可能性があり、製造コストの低下が期待できる。
【0066】
本実施形態の導電性接着剤の電気抵抗率ρは、1×10-4~5×10-1Ω・cmであることが好ましい。本実施形態の導電性接着剤は、封止及び導電性を得る目的で使用されることが好ましいので、高い導電性を求める必要はない。
【0067】
本実施形態の導電性接着剤は、小さい寸法の隙間へ供給することが可能なので、カメラモジュール及びイメージセンサモジュールのような、微小な素子を、装置の所定の場所に固定するために好ましく用いることができる。また、本実施形態の導電性接着剤は、狭い隙間の封止及び接着のために用いることができるので、チップ抵抗器、発光ダイオード(LED)など、電子部品の回路の形成や電極の形成、電子部品の基板への接合等に用いることが可能である。
【実施例】
【0068】
以下、本発明の実施例及び比較例について説明する。
[導電性接着剤の調製]
以下の成分を、表1~3に示す割合で混合して、実施例及び比較例の導電性接着剤を調製した。なお、表1~3に示す各成分の割合は、全て重量部で示している。
【0069】
(A)銀粒子
(銀粒子1)フレーク状粒子、平均粒径6μm(METALOR社製、製品名:EA-0001)
(銀粒子2)球状粒子、平均粒径5μm(METALOR社製)
【0070】
(B)溶剤
(溶剤1)ソルベントナフサ、(丸善石油化学工業製、SW1800)
(溶剤2)シクロヘキサン、(富士フィルム和光純薬製、製品名:シクロヘキサン)
【0071】
(C)熱硬化性樹脂
(熱硬化性樹脂1)ビスフェノールF型エポキシ樹脂・ビスフェノールA型エポキシ樹脂混合物(芳香族系エポキシ樹脂)(DIC株式会社製、EXA835LV、エポキシ当量165)
(熱硬化性樹脂2)アミノフェノール型液状エポキシ樹脂、(三菱化学株式会社製、製品名:jER630D)
【0072】
(D)ナノシリカ
(ナノシリカ1)平均粒径:10nm、マスターバッチ処理(アドマテックス製、製品名:YA010AJGP)
(ナノシリカ2)平均粒径:50nm、マスターバッチ処理(アドマテックス製、製品名:YA050C-SM1)
(ナノシリカ3)平均粒径:10nm、(日本アエロジル社製、製品名:R805)
(シリカ4)平均粒径(D50)1.5μm、(アドマテックス製、製品名:SE5200 SEE)
【0073】
なお、ナノシリカ1及びナノシリカ2は、マスターバッチ処理をしているため、樹脂成分が含まれている。表1~3に示す配合量は、樹脂成分を除いたナノシリカのみの配合量を示している。ナノシリカ1及びナノシリカ2のナノシリカの重量割合は、マスターバッチ全体の90重量%であり、樹脂成分の重量割合は、マスターバッチ全体の10重量%である。例えば実施例1の場合、ナノシリカ1の配合量は、銀粒子1を100重量部とした場合に3.8重量部なので、マスターバッチ処理をしたナノシリカ1を、4.2重量部配合し、ナノシリカ1の樹脂成分は0.42重量部である。ナノシリカ1及びナノシリカ2の樹脂成分は、表1~3には記載されていない。
【0074】
その他の成分
(ナノAg)平均粒径:100nm、(METALOR製、P620-24)
(硬化剤)潜在性硬化剤、(T&K TOKA製、製品名:フジキュアー FXR-1020)
【0075】
実施例及び比較例に用いた導電性接着剤は、上記の各成分を、プラネタリーミキサーで混合し、さらに三本ロールミルで分散し、ペースト化することによって製造した。
【0076】
[粘度の測定方法]
実施例及び比較例の導電性接着剤の粘度は、ブルックフィールド社製(B型)粘度計を用いて25℃の温度で測定した。粘度の測定は、実施例及び比較例のそれぞれの導電性接着剤に対して、10rpmの回転速度で行った。
【0077】
表1~3の「初期粘度」は、導電性接着剤を製造した直後に、上記条件で粘度の測定を行ったときの測定値である。表1~3の「24h後の粘度」は、導電性接着剤を製造した直後に「初期粘度」を測定したときから、24時間後に上記条件で粘度の測定を行ったときの測定値である。表1~3の「24h後の増粘倍率(倍)」は、「24h後の粘度」と「初期粘度」との比(「24h後の粘度」/「初期粘度」)である。24h後の増粘倍率(倍)が高すぎる場合には、導電性接着剤を塗布する際の条件が時間によって変化してしまうので、再現性良く導電性接着剤を塗布するためには好ましくない。24h後の増粘倍率(倍)が、1.5倍以下であれば、許容できる粘度の増加であるといえる。
【0078】
表1~3の「JET後粘度」とは、導電性接着剤を、所定のジェットディスペンスし、ジェットディスペンスした導電性接着剤を回収して、上記条件で粘度の測定を行ったときの測定値である。JET後粘度が10.000(Pa・s)以下であれば、小さな寸法の隙間、例えば600μmの隙間へのジェットディスペンスによる導電性接着剤の注入が可能であるといえる。
【0079】
[流動性の測定方法]
表1~3の「流動性(秒/mm)」は、600μmの隙間へジェットディスペンスしたときの、導電性接着剤20の流動性を示す指標である。具体的には、
図1(側面から見た模式図)及び
図2(上面から見た模式図)を示すような治具を用いて、導電性接着剤20の流動速度を測定した。すなわち、
図1及び
図2に示すように、ステンレス板14の上に隙間dが600μmとなるようにスペーサ16を介してガラス板12を配置し、その隙間の開口部近傍(
図1の矢印部分)に、実施例及び比較例の導電性接着剤20をジェットディスペンスすることにより配置した。その隙間への導電性接着剤20の流動が、所定の流動距離L(mm)=20mmになったときの時間t(秒)を測定し、1mm当たりの流動時間t/L(秒/mm)を計算することにより、流動性とした。流動性の測定は、25℃で行った。なお、表1に示す比較例1及び比較例2の場合には、流動距離Lが20mmに達しなかった。そのため、表1の「流動性」欄には、NG(Not Good)と記載し、括弧内には流動が停止した距離を記載した。すなわち、比較例1の導電性接着剤の場合は6mmで流動が停止し、比較例2の導電性接着剤の場合は1mmで流動が停止した。
【0080】
[電気抵抗の測定方法]
表1~3の「抵抗値(Ω)」は、実施例及び比較例の導電性接着剤を硬化させたときの電気抵抗の測定値である。電気抵抗の測定は、
図3に示すような電極24を用いて行った。すなわち、
図3に示すように、硬化させたガラス板12の上に1対の帯状の電極24を、電極24の間隔Dが40mmとなるように配置した。ガラス板12及び1対の電極24の上に、実施例及び比較例の導電性接着剤を幅Wが10mmとなるように孔版印刷法で配置し、硬化させた。配置した導電性接着剤を、80℃まで30分間で温度を上昇させ、その後60分間80℃に温度を保つことにより硬化させた。硬化したときの導電性接着剤の膜厚は、20μmだった。硬化した1対の電極24の間の電気抵抗値を抵抗計Rにより測定することで、実施例及び比較例の電気抵抗値を得た。なお、膜厚の測定には、(株)東京精密製表面粗さ形状測定機(型番:サーフコム1500SD-2)を用いた。また、電気抵抗値の測定には、(株)TFFケースレーインスツルメンツ製デジタルマルチメーター(型番:2001)を用いた。
【0081】
表1に示すように、比較例1及び2は、JET後粘度及び流動性に問題があった。すなわち、ナノシリカを有しない比較例1の導電性接着剤は、JET後粘度が14.500(Pa・s)と高く、流動性の測定でも良好な流動性を示さなかった。すなわち、表1に示すように、比較例1の導電性接着剤の場合は6mmで流動が停止した。また、シリカの平均粒径が1.5μmの比較例2の導電性接着剤は、JET後粘度が22.375(Pa・s)と高く、流動性の測定でも流動性をほとんど示さなかった。すなわち、表1に示すように、比較例2の導電性接着剤の場合は1mmで流動が停止した。また、表1に示すように、ナノシリカの代わりにナノAgを有する比較例3の導電性接着剤は、24h後の粘度が13.375と高く、24h後の増粘倍率も3.8倍という高い倍率だった。
【0082】
これに対して、表1~3に示すように、実施例1~14の導電性接着剤のJET後粘度は、0.625~9.875(Pa・s)であり、比較例1及び2の導電性接着剤よりも低い粘度だった。また、実施例1~14の導電性接着剤の流動性は、49~645秒/mmであり、流動性を示さない比較例1及び2の導電性接着剤と比べて高い流動性を示した。また、実施例1~14の導電性接着剤の24h後の粘度は、0.375~7.875(Pa・s)であり、24h後の増粘倍率も1.0~1.2倍であり、比較例3の導電性接着剤の24h後の粘度及び24h後の増粘倍率(倍)と比べて良好な範囲だった。また、電気抵抗値も1.8~850Ωの範囲(電気抵抗率ρは9.0×10-4~4.25×10-1Ω・cm)であり、アースをとるという用途においては適切な値だった。
【0083】
以上のことから、所定のナノシリカを有する実施例1~14の導電性接着剤は高い流動性を示し、所定の時間後であっても粘度の増加は生じないことが明らかとなった。したがって、本発明の導電性接着剤は、高い流動性を有し、かつ導電性を有することが明らかとなった。したがって、本発明の導電性接着剤は、例えばカメラモジュールの固定のために、ジェットディスペンス用導電性接着剤として好ましく用いることができるといえる。
【0084】
【0085】
【0086】
【符号の説明】
【0087】
12 ガラス板
14 ステンレス板
16 スペーサ
20 導電性接着剤
22 ガラス板
24 電極
R 抵抗計
50 ジェットディスペンサー
52 ニードル
54 シール(密封部材)
56 ノズル
S ストローク