(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2025-04-28
(45)【発行日】2025-05-09
(54)【発明の名称】成形シート及び成形シートの製造方法、並びに、光学素子の製造方法
(51)【国際特許分類】
B29C 43/34 20060101AFI20250430BHJP
【FI】
B29C43/34
(21)【出願番号】P 2021574028
(86)(22)【出願日】2021-01-25
(86)【国際出願番号】 JP2021002480
(87)【国際公開番号】W WO2021153512
(87)【国際公開日】2021-08-05
【審査請求日】2023-12-06
(31)【優先権主張番号】P 2020012936
(32)【優先日】2020-01-29
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】000229117
【氏名又は名称】日本ゼオン株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100147485
【氏名又は名称】杉村 憲司
(74)【代理人】
【識別番号】230118913
【氏名又は名称】杉村 光嗣
(74)【代理人】
【識別番号】100174001
【氏名又は名称】結城 仁美
(72)【発明者】
【氏名】遠藤 充輝
(72)【発明者】
【氏名】摺出寺 浩成
【審査官】宮下 浩次
(56)【参考文献】
【文献】特開平09-267404(JP,A)
【文献】国際公開第2017/126599(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B29C 43/34
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
熱可塑性樹脂を用いて形成された熱可塑性樹脂フィルムを熱プレス成型して、複数の光学面状部を有する成形シートを製造する、成形シートの製造方法であって、
前記熱可塑性樹脂フィルムよりなる枚葉状のシート材料を、互いに離隔した複数の光学面形成領域を有する一対の金型を用いて常圧下で熱プレス成形して成形シートを得る熱プレス工程を含み、
前記光学面形成領域であるキャビティ部の配設密度が0.16個/cm
2以上2.0個/cm
2以下であり、
前記熱可塑性樹脂のガラス転移温度をTg(℃)として、
前記熱プレス工程にて得た前記成形シートを前記一対の金型から離型する際に、前記一対の金型を(Tg-80)℃以上(Tg-20)℃以下の温度にて離型する、離型工程を含み、
前記熱プレス工程にて、前記一対の金型により前記枚葉状のシート材料をプレスした状態で、前記枚葉状のシート材料が、前記一対の金型からはみ出さない、
成形シートの製造方法。
【請求項2】
前記熱可塑性樹脂が脂環式構造含有樹脂である、請求項
1に記載の成形シートの製造方法。
【請求項3】
請求項1
又は2に記載の成形シートの製造方法に従って得られた前記成形シートを、前記複数の光学面状部のそれぞれに対応する位置で分離して、複数の光学素子を得る、光学素子分離工程を含む、光学素子の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、成形シート及び成形シートの製造方法、並びに、光学素子の製造方法に関する。かかる成形シート及び成形シートの製造方法、並びに、光学素子の製造方法は、透過型光学素子の製造に有用である。
【背景技術】
【0002】
近年、電子電気機器の軽量化、小型化、及び薄型化が進み、これらの電子電気機器に搭載されるカメラユニット等においても、薄型化及び小径化へのニーズが高まっている。また、このようなカメラユニット等においては、一層の高画質化のニーズがあり、これらの光学機器に備えられるレンズ及びプリズム等の透過型光学素子についても高性能であることが求められている。
【0003】
従来、カメラユニット等に採用されるレンズ等の透過型光学素子は、一般的に、射出成形法により製造されてきた。しかしながら、射出成形法によりレンズを形成した場合、得られたレンズ内にウェルドラインが形成されることを完全に抑制することは困難であった。また、射出成形法に従って得られたレンズでは、複屈折が生じ易かった。このため、得られたレンズ中において、十分に高い光学的性能を発揮することが可能な領域の占める比率を十分に高めることが難しく、直径が1cmに満たないような小径のレンズを射出成形法に従って形成しても、レンズとして十分に機能させることが難しかった。
【0004】
そこで、近年、射出成形法以外の方法により、小径のレンズ等の透過型光学素子を製造する方法が検討されてきた。例えば、特許文献1には、樹脂シートの平面方向に複数の型を配列して、複数のレンズ部について同時に型成形する方法が開示されている。より具体的には、特許文献1には、金属等からなる複数の雌形の下型の上に、樹脂シートを位置決めされた状態で載置して、金属等からなる複数の雄形の上型を押し付けることにより、樹脂シートを塑性変形させて、複数のレンズ部を同時に型成形する方法が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかし、樹脂シートの平面方向に複数の型を配列し、複数のレンズ部について同時に型成形を行うことを特徴とする上記従来の技術では、例えばレンズ等として使用し得る光学面状部を複数有する成形シートを製造した際に、形状精度が十分に高く、厚み精度のバラツキが小さく、且つ、低複屈折性の、複数の光学面状部を有する成形シートを効率的に製造することができなかった。
【0007】
そこで、本発明は、形状精度が十分に高く、厚み精度のバラツキが小さく、且つ、低複屈折性の、複数の光学面状部を有する成形シートを提供することを目的とする。
また、本発明は、上記成形シートを効率的に製造することができる成形シートの製造方法を提供することを目的とする。
さらに、本発明は、上記成形シートを用いた光学素子の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、上記目的を達成するために鋭意検討を行った。そして、本発明者らは、熱可塑性樹脂フィルムよりなる枚葉状のシート材料を、所定の条件で熱プレス成形することにより、形状精度が十分に高く、厚み精度のバラツキが小さく、且つ、低複屈折性の、複数の光学面状部を有する成形シートを提供しうることを見出し、本発明を完成させた。
【0009】
即ち、この発明は、上記課題を有利に解決することを目的とするものであり、本発明の成形シートの製造方法は、熱可塑性樹脂を用いて形成された熱可塑性樹脂フィルムを熱プレス成型して、複数の光学面状部を有する成形シートを製造する、成形シートの製造方法であって、前記熱可塑性樹脂フィルムよりなる枚葉状のシート材料を、互いに離隔した複数の光学面形成領域を有する一対の金型を用いて常圧下で熱プレス成形して成形シートを得る熱プレス工程を含む、ことを特徴とする。このように、枚葉状のシート材料を、互いに離隔した複数の光学面形成領域を有する一対の金型を用いて常圧下で熱プレス成形すれば、形状精度が十分に高く、厚み精度のバラツキが小さく、且つ、低複屈折性の、複数の光学面状部を有する成形シートを容易に製造することができる。
なお、本明細書において、シート材料が「枚葉状」であることは、シート材料が所定の大きさに裁断され、且つ、巻き取り状態ではないことを意味する。
また、本明細書において、「常圧」とは、ある地点において、加圧及び減圧を行わない場合の気圧であり、通常、その地点における大気圧に等しい気圧である。より具体的には、「常圧」とは、JIS Z8703:1983に規定された標準状態における圧力範囲であって、気圧86kPa以上106kPa以下の範囲内であることをいう。
【0010】
ここで、本発明の成形シートの製造方法は、前記熱可塑性樹脂のガラス転移温度をTg(℃)として、前記熱プレス工程にて得た成形シートを前記一対の金型から離型する際に、前記一対の金型を(Tg-80)℃以上(Tg-15)℃以下の温度にて離型する、離型工程を含むことが好ましい。かかる所定の温度範囲における離型工程を実施することで、得られる成形シートに含まれる複数の光学面状部の形状精度を一層高め、厚み精度のバラツキを一層小さくし、さらには、複屈折を一層小さくすることができる。
なお、本発明において、「熱可塑性樹脂のガラス転移温度」は、JIS K7121:2012に基づき測定することができる。
【0011】
さらに、本発明の成形シートの製造方法は、前記熱プレス工程にて、前記一対の金型により前記枚葉状のシート材料をプレスした状態で、前記枚葉状のシート材料が、前記一対の金型からはみ出さないことが好ましい。プレス状態において枚葉状のシート材料が一対の金型からはみ出さないようにすることで、得られる成形シートに含まれる複数の光学面状部の形状精度を一層高め、厚み精度のバラツキを一層小さくし、複屈折を一層小さくすることができ、さらに、成形シートの生産効率を高めることができる。
【0012】
そして、本発明の成形シートの製造方法において、前記熱可塑性樹脂が脂環式構造含有樹脂であることが好ましい。熱可塑性樹脂が脂環式構造含有樹脂であれば、得られる成形シートに含まれる複数の光学面状部の形状精度を一層高め、厚み精度のバラツキを一層小さくし、さらに、成形シートの生産効率を高めることができる。
【0013】
また、この発明は、上記課題を有利に解決することを目的とするものであり、本発明の光学素子の製造方法は、上述した何れかの成形シートの製造方法に従って得られた成形シートを、前記複数の光学面状部のそれぞれに対応する位置で分離して、複数の光学素子を得ることを特徴とする。かかる本発明の製造方法によれば、形状精度が十分に高く、厚み精度のバラツキが小さく、且つ、複屈折が十分に小さい光学素子を、容易に製造することができる。
【0014】
また、この発明は、上記課題を有利に解決することを目的とするものであり、本発明の成形シートは、熱可塑性樹脂を用いて形成された、光学面状部を複数有する、枚葉状の成形シートであって、前記光学面状部の配設密度が0.16個/cm2以上であり、互いに隣接する光学面状部間の最小間隔が1.0mm以上であり、平面視における前記光学面状部の直径が1mm以上15mm以下であり、前記光学面状部の位相差が50nm以下であり、前記光学面状部の厚み精度のバラツキが0.2μm以下であることを特徴とする。このように、成形シートにおける光学面状部の配設密度、最小間隔、直径、位相差、及び厚み精度のバラツキが所定の範囲内であれば、かかる成型シートの光学面状部は形状精度に優れる。さらに、かかる成形シートを用いることで、光学性能に優れる光学素子を効率的に製造することができる。
なお、「位相差」及び「厚み精度のバラツキ」は、実施例に記載の方法を用いて評価又は測定することができる。
【0015】
ここで、本発明の成形シートは、前記光学面状部の少なくとも一方の表面は、厚み方向の断面形状が変曲点を有する非球面形状であることが好ましい。このような形状を有する光学面状部は、レンズなどの透過型光学素子として有利に使用し得る。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、形状精度が十分に高く、厚み精度のバラツキが小さく、且つ、低複屈折性の、複数の光学面状部を有する成形シートを提供することができる。
また、本発明によれば、上記成形シートを効率的に製造することができる成形シートの製造方法を提供することができる。
さらに、本発明によれば、上記成形シートを用いた光学素子の製造方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【
図1】本発明の一例に係る成形シートの厚み方向に沿う断面を示す概略断面図である。
【
図2】本発明の一例に係る成形シートの製造方法における、熱プレス工程を説明するための概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、本発明の実施形態について詳細に説明する。本発明の成形シートの製造方法は、例えば本発明の成形シートを製造する際に用いることができる。また、本発明の光学素子の製造方法は、本発明の成形シートの製造方法に従って得られた成形シートを用いて、光学素子を製造する際に好適に適用することができる。そして、本発明に係る成形シートは、特に限定されることなく、種々の形状の光学面を有する光学素子の製造に好適に用いることができる。ここで、「光学面」とは、光に対して、反射、屈折、及び透過等の光学作用を及ぼし得る界面を意味し、その形状としては、平面、球面、非球面、自由曲面、レンチキュラー、及びフレネル等が挙げられる。また、本発明に係る成形シートを用いて好適に製造し得る「光学素子」としては、光学レンズ及びプリズムといった透過型光学素子が挙げられる。ここで、「光学レンズ」とは、光の屈折作用を示す透明体を意味する。また、「プリズム」とは、光学レンズ以外の、光の分散作用、屈折作用、全反射作用、及び/又は、複屈折作用を示す透明多面体を意味する。本発明に係る成形シートを用いれば、形状精度が高く、且つ、低複屈折性の(即ち、位相差が小さい)透過型光学素子を効率的に得ることができる。特に、本発明に係る成形シートは、種々の形状の光学素子の中でも、片面及び/又は両面が変曲点のある非球面レンズ製造する際に好適に用いることができる。そして、当該非球面レンズは、例えば、小型電子電気機器のカメラユニットのレンズとして好適に用いることができる。
【0019】
(成形シート)
本発明の成形シートは、厚み方向に沿う断面の形状を、例えば
図1に示すように、熱可塑性樹脂を用いて形成された枚葉状の成形シート10であって、光学面状部11を複数有するものである。そして、本発明の成形シート10は、光学面状部11の配設密度が0.16個/cm
2以上であり、互いに隣接する光学面状部11間の最小間隔Pが1.0mm以上であり、平面視における光学面状部11の直径Dが1mm以上15mm以下であり、光学面状部11の位相差が50nm以下であり、光学面状部11の厚み精度のバラツキが0.2μm以下であることを必要とする。光学面状部の配設密度、最小間隔、直径及び位相差、並びに、厚み精度のバラツキが上記範囲内であれば、形状精度を高めることができる。さらに、かかる成形シートを用いることで、光学性能に優れる光学素子を効率的に製造することができる。
なお、成形シートの光学面状部の形状は、
図1に示す形状に限定されず、平凸レンズ、両凸レンズ、凸メニスカスレンズ、平凹レンズ、両凹レンズ、及び凹メニスカスレンズ等、任意の形状とすることができる。そして、成形シートの光学面状部は、特に限定されることなく、例えば成形シートから切り出してレンズとして好適に用いることができる。ここで、レンズなどの透過型光学素子として有利に使用し得る観点からは、光学面状部の少なくとも一方の表面は、厚み方向の断面形状が変曲点を有する形状であることが好ましい。
【0020】
<熱可塑性樹脂>
熱可塑性樹脂としては、例えば、(メタ)アクリル樹脂、脂環構造含有樹脂、スチレン系樹脂、ポリカーボネート樹脂、ポリエステル樹脂、ポリエーテル樹脂、ウレタン樹脂、及びチオウレタン樹脂等が挙げられる。なお、「(メタ)アクリル」とは、アクリル及び/又はメタクリルを指す。そして、上述した熱可塑性樹脂は、1種類を単独で用いてもよいし、2種類以上を混合して用いてもよい。
これらの中でも、得られる成形シートに含まれる複数の光学面状部の形状精度を一層高め、厚み精度のバラツキを一層小さくし、さらに、成形シートの生産効率を高めることができることから、熱可塑性樹脂が脂環構造含有樹脂を含むことが好ましい。また、得られる成形シートが透明性に優れることからも、熱可塑性樹脂が脂環構造含有樹脂を含むことが好ましい。
【0021】
脂環構造含有樹脂とは、主鎖及び/又は側鎖に飽和環状炭化水素構造及び不飽和環状炭化水素構造等の脂環式構造を有する重合体である。なかでも、機械強度及び耐熱性に優れる成形シートが得られ易いことから、シクロアルカン構造を主鎖に有するものが好ましい。脂環式構造含有樹脂を構成する重合体(以下、「脂環式構造含有重合体」とも称する)中の脂環式構造を有する繰り返し単位の割合は特に限定されないが、重合体に含まれる全繰り返し単位に対して、50質量%以上が好ましく、70質量%以上がより好ましく、90質量%以上がさらに好ましい。脂環式構造を有する繰り返し単位の割合が50質量%以上の脂環式構造含有重合体を用いることで、得られる成形シートに含まれる複数の光学面状部の形状精度を一層高め、厚み精度のバラツキを一層小さくし、さらに、成形シートの生産効率を高めることができる。また、脂環式構造を有する繰り返し単位の割合が50質量%以上の脂環式構造含有重合体を用いることで、透明性及び耐熱性に優れる成形シートが得られ易くなる。
【0022】
脂環式構造含有重合体の具体例としては、ノルボルネン系重合体、単環の環状オレフィン系重合体、環状共役ジエン系重合体、ビニル脂環式炭化水素系重合体などが挙げられる。これらの中でも、得られる成形シートの透明性、耐熱性、及び機械的強度を高める観点、及び、得られる成形シートに含まれる複数の光学面状部の形状精度を一層高め、厚み精度のバラツキを一層小さくし、さらに、成形シートの生産効率を高める観点から、ノルボルネン系重合体が好ましい。また、得られる成形シートに含まれる複数の光学面状部の形状精度を一層高め、厚み精度のバラツキを一層小さくし、さらに、成形シートの生産効率を高めることができることからも、ノルボルネン系重合体が好ましい。なお、本明細書において、これらの重合体は、重合反応生成物だけでなく、その水素化物も意味するものである。
【0023】
ノルボルネン系重合体は、ノルボルネン系モノマーの重合体又はその水素化物である。ノルボルネン系重合体としては、ノルボルネン系モノマーの開環重合体、ノルボルネン系モノマーとこれと開環共重合可能なその他のモノマーとの開環重合体、ノルボルネン系モノマーの付加重合体、ノルボルネン系モノマーとこれと共重合可能なその他のモノマーとの付加重合体、及びこれらの重合体の水素化物などが挙げられる。なかでも、ノルボルネン系モノマーの開環重合体水素化物(即ち、ノルボルネン系開環重合体水素化物)が好ましい。ノルボルネン系開環重合体水素化物を用いることで、成形シートの透明性、耐熱性、及び機械的強度等を一層高めることができると共に、熱プレス成形を用いて成形シートを製造する際の離型性及び転写性を高めることができる。
【0024】
ノルボルネン系モノマーとしては、ビシクロ[2.2.1]ヘプト-2-エン(慣用名:ノルボルネン)及びその誘導体、トリシクロ[4.3.01,6.12,5]デカ-3,7-ジエン(慣用名ジシクロペンタジエン)及びその誘導体、7,8-ベンゾトリシクロ[4.3.0.12,5]デカ-3-エン(慣用名メタノテトラヒドロフルオレン:1,4-メタノ-1,4,4a,9a-テトラヒドロフルオレンともいう)及びその誘導体、テトラシクロ[4.4.0.12,5.17,10]ドデカ-3-エン(慣用名:テトラシクロドデセン)及びその誘導体、などが挙げられる。誘導体に含まれうる置換基としては、アルキル基、アルキレン基、ビニル基、アルコキシカルボニル基、アルキリデン基などが挙げられる。例えば、ノルボルネン系モノマーとしての誘導体としては、8-メトキシカルボニル-テトラシクロ[4.4.0.12,5.17,10]ドデカ-3-エン、8-メチル-8-メトキシカルボニル-テトラシクロ[4.4.0.12,5.17,10]ドデカ-3-エン、8-エチリデン-テトラシクロ[4.4.0.12,5.17,10]ドデカ-3-エンなどが挙げられる。これらのノルボルネン系モノマーは、1種単独であるいは2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0025】
ノルボルネン系モノマーと開環共重合可能なその他のモノマーとしては、シクロヘキセン、シクロヘプテン、及びシクロオクテンなどの単環の環状オレフィン系単量体などが挙げられる。ノルボルネン系モノマーと付加共重合可能なその他のモノマーとしては、エチレン、プロピレン、1-ブテン、1-ペンテン、及び1-ヘキセンなどの炭素数2~20のα-オレフィン並びにこれらの誘導体;シクロブテン、シクロペンテン、シクロヘキセン、シクロオクテン、及び3a,5,6,7a-テトラヒドロ-4,7-メタノ-1H-インデンなどのシクロオレフィン並びにこれらの誘導体;1,4-ヘキサジエン、4-メチル-1,4-ヘキサジエン、5-メチル-1,4-ヘキサジエン、及び1,7-オクタジエンなどの非共役ジエン;などが挙げられる。
【0026】
上述のようなノルボルネン系モノマーを含む開環重合体及び付加重合体は、公知の触媒の存在下で重合させることにより合成することができる。また、これらの水素化物は、公知の水素化触媒を用いた水素化反応により、得ることができる。
【0027】
なお、単環の環状オレフィン系重合体、環状共役ジエン系重合体、及びビニル脂環式炭化水素系重合体としては、例えば、国際公開第2017/126599号に記載されたものが挙げられる。
【0028】
また、脂環式構造含有重合体として、市販品を使用することもできる。市販品としては、日本ゼオン社製、ZEONEX(登録商標)、三井化学社製、APEL(登録商標)、JSR社製、ARTON(登録商標)、ポリプラスチックス社製、TOPAS(登録商標)などが挙げられる。
【0029】
そして、熱可塑性樹脂のガラス転移温度(Tg)は、特に限定されないが、100℃以上が好ましく、120℃以上がより好ましく、200℃以下が好ましく、160℃以下がより好ましい。熱可塑性樹脂のガラス転移温度(Tg)が上記下限値以上であれば、成形シートの光学面状部の形状精度を一層高めることができるとともに、光学面状部の厚み精度のバラツキを小さくすることができ、さらには、成形シートの製造効率を高めることができる。また、熱可塑性樹脂フィルムのガラス転移温度(Tg)が上記上限値以下であれば、成形シートの生産効率を高めると共に、光学面状部の形状精度を一層高めることができる。
【0030】
なお、成形シートは、上述したような樹脂成分以外の成分を含有するものであってもよい。樹脂成分以外の成分としては、光安定剤、紫外線吸収剤、赤外線吸収剤、酸化防止剤、離型剤、帯電防止剤、炭素材料(カーボン等)、顔料、及び、染料等の添加剤が挙げられる。これらの成分の配合量は、特に限定されず適宜決定することができる。例えば、これらの添加剤の合計量は、樹脂成分を100質量%として、例えば20質量%以下、好ましくは10質量%以下でありうる。
【0031】
<光学面状部>
光学面状部(
図1における11)は、配設密度が0.16個/cm
2以上であることが必要であり、光学面状部の配設密度は、0.30個/cm
2以上であることが好ましく、0.40個/cm
2以上であることがより好ましく、3.0個/cm
2以下であることが好ましく、2.0個/cm
2以下であることがより好ましく、1.0個/cm
2以下であることが更に好ましく、0.60個/cm
2以下であることが特に好ましい。光学面状部の配設密度が0.16個/cm
2以上であれば、光学面状部の厚み精度のバラツキを小さくすることができると共に、形状精度を高めることができる。また、光学面状部の配設密度が上記上限値以下であれば、形状精度を高めることができ、且つ、複屈折を小さくすることができると共に、厚み精度のバラつきを更に小さくすることができる。
【0032】
また、互いに隣接する光学面状部間の最小間隔(
図1におけるP)は、1.0mm以上であることが必要であり、3.0mm以上であることが好ましく、5.0mm以上であることがより好ましく、7.0mm以上であることが更に好ましい。光学面状部間の最小間隔が1.0mm以上であれば、光学面状部の厚み精度のバラツキを小さくすることができると共に、形状精度を高めることができ、さらには、複屈折を小さくすることができる。また、光学面状部間の最小間隔が1.0mm以上であれば、例えばプレス成形等の成形方法を用いて作製する場合であっても、成形シート中の気泡及びエア溜まりの発生を抑制することができる。なお、光学面状部間の最小間隔は、通常、20mm以下である。
【0033】
更に、平面視における光学面状部の直径(
図1におけるD)は、1mm以上15mm以下であることが必要であり、光学面状部の直径は、3mm以上であることが好ましく、9mm以下であることが好ましい。光学面状部の直径が上記範囲内であれば、光学面状部の厚み精度のバラツキを小さくすることができると共に、形状精度を高めることができる。
【0034】
また、光学面状部の中心の厚み(
図1におけるH
mid)は、50μm以上であることが好ましく、100μm以上であることがより好ましく、1500μm以下であることが好ましく、1000μm以下であることがより好ましい。光学面状部の中心の厚みが上記範囲内であれば、レンズなどの透過型光学素子として有利に使用することができる。
【0035】
更に、光学面状部の厚み精度のバラツキは、0.2μm以下である必要があり、0.1μm以下であることが好ましい。厚み精度のバラツキが上記上限値以下であれば、光学面状部における複屈折を小さくすることができる。
【0036】
そして、光学面状部の位相差は、50nm以下であることが必要であり、20nm以下であることが好ましい。位相差が上記上限値以下であれば、光学面状部における複屈折が十分に小さい。さらに、位相差が上記上限値以下となるようにした場合には、光学面状部の厚み精度のバラツキを小さくすることができると共に、形状精度を高めることができる。
【0037】
ここで、成形シートは、最薄部(
図1におけるH
min)の厚みが、50μm以上であることが好ましく、100μm以上であることがより好ましく、500μm以下であることが好ましく、300μm以下であることがより好ましく、200μm以下であることがさらに好ましい。最薄部の厚みが上記上限値以下であれば、光学面状部の厚み精度のバラツキを小さくすることができると共に、形状精度を高めることができる。また、最薄部の厚みが上記下限値以上であれば、成形シートの強度を十分に高めることができる。
【0038】
(成形シートの製造方法)
本発明の成形シートの製造方法は、熱可塑性樹脂を用いて形成された熱可塑性樹脂フィルムを熱プレス成型して、複数の光学面状部を有する成形シートを製造する方法であり、特に限定されることなく、例えば上述した本発明の成形シートを製造する際に用いることができる。そして、本発明の成形シートの製造方法は、熱可塑性樹脂フィルムよりなる枚葉状のシート材料を、互いに離隔した複数の光学面形成領域を有する一対の金型を用いて常圧下で熱プレス成形して成形シートを得る「熱プレス工程」を含むことを特徴とする。さらに、本発明の成形シートの製造方法は、熱プレス工程にて得た成形シートを一対の金型から離型する「離型工程」を含むことが好ましい。本発明の成形シートの製造方法では、「熱プレス工程」にて、枚葉状のシート材料を、互いに離隔した複数の光学面形成領域を有する一対の金型を用いて常圧下で熱プレス成形するため、形状精度が十分に高く、厚み精度のバラツキが小さく、且つ、複屈折が十分に小さい、複数の光学面状部を有する成形シートを容易に製造することができる。
【0039】
<成形シート>
本発明の成形シートの製造方法で製造する成形シートは、互いに離隔した複数の光学面状部を有する枚葉状のシートであれば特に限定されない。中でも、成形シートは、上述した本発明の成形シートと同様の性状を有していることが好ましい。
【0040】
<熱可塑性樹脂フィルム>
熱可塑性樹脂フィルムに用いられる熱可塑性樹脂としては、特に限定されることなく、例えば上述した本発明の成形シートの熱可塑性樹脂と同様のものが挙げられる。なお、「フィルム」とは、表面及び裏面(即ち、主面)が、厚み分の距離を隔てて対向してなる形状を有する物体を意味する。
【0041】
そして、熱可塑性樹脂フィルムの製造方法としては、特に限定されることなく、従来公知の適宜な方法を採用することができる。例えば、所定の成分を混合して熱可塑性樹脂フィルム製造用の成形材料を得た後、これを用いて、溶融押出成形法、溶融流延成形法、射出成形法等により、熱可塑性樹脂フィルムを得ることができる。
【0042】
熱可塑性樹脂フィルムの厚みは、製造する成形シートの光学面状部の直径に応じて、適宜選択することができる。例えば、熱可塑性樹脂フィルムの厚みは、通常50μm以上であり、好ましくは70μm以上であり、通常500μm以下であり、好ましくは400μm以下である。なお、熱可塑性樹脂フィルムの厚みにバラツキがある場合には、熱可塑性樹脂フィルムの厚みは、ランダムに選定した複数の測定点における厚みの単純算術平均の値に相当する。
【0043】
そして、熱可塑性樹脂フィルムを、例えば、A4サイズ~50cm×50cmサイズ等の所望のサイズに切り出して、枚葉状のシート材料とすることができる。
【0044】
<熱プレス工程>
熱プレス工程では、熱可塑性樹脂フィルムよりなる枚葉状のシート材料を、互いに離隔した複数の光学面形成領域を有する一対の金型を用いて常圧下で熱プレス成形する。なお、熱プレス工程を開始するにあたり、枚葉状のシート材料を熱プレス装置にセットする配置操作を実施し得る。
図2に、本発明の一例に係る成形シートの製造方法における、熱プレス工程を説明するための概略図を示す。
図2に示すように、本例に係る熱プレス工程では、枚葉状のシート材料10’を、上側金型1A及び下側金型1Bより成る一対の金型1を用いて熱プレスする。そして、
図2の下図に示すように、一対の金型1により枚葉状のシート材料10’をプレスした状態で、枚葉状のシート材料10’が、一対の金型1からはみ出さないことが好ましい。プレス状態において枚葉状のシート材料10’が一対の金型1からはみ出さないようにすることで、得られる成形シートに含まれる複数の光学面状部の形状精度を一層高め、厚み精度のバラツキを一層小さくし、さらには、複屈折を一層小さくすることができ、さらに、成形シートの生産効率を高めることができる。なお、本発明の成形シートの製造方法において、射出成形法によらず、熱可塑性樹脂フィルムを金型を用いた熱プレスに供することで、得られる成形シートの光学面状部における複屈折の発生を抑制することができる。
【0045】
[金型]
一対の金型1としては、少なくとも一方が光学面状部形成領域であるキャビティ部を複数個有している限りにおいて特に限定されることなく、平板金型などの任意の形状の金型を用い得る。
なお、金型に用いる材質としては、公知の材質が使用できる。例えば、炭素鋼、ステンレス鋼、これらをベースにした合金類が挙げられ、なかでも加工性と硬度の観点から、STAVAX(登録商標)材(ウッデホルム社製)等のステンレス鋼が好ましい。また、離型性の観点から、クロム、チタン、及びニッケル等の金属によるめっきが金型表面に施されてなる、金型を用いることが好ましく、なかでも、無電解ニッケル―リンめっきが金型表面に施されてなる金型を用いることが、より好ましい。
【0046】
そして、本発明の製造方法で用いる金型の少なくとも一方は、複数のキャビティ部が金型の平面方向にて離散配置されてなる。複数のキャビティ部は、金型の平面方向にて、等間隔で離隔して配置されていることが好ましい。
ここで、一対の金型は、両方が、それぞれ複数のキャビティ部を有していてもよい。キャビティ部をそれぞれ有する一対の金型を用いて成形することで、両面が賦形された成形シートを効率的に製造することができるからである。なお、一対の金型の各形状は、当然、製造する成形シートの形状に応じて、同一であっても、相異なっていても良い。
【0047】
キャビティ部は、配設密度が0.16個/cm2以上であることが好ましく、0.30個/cm2以上であることがより好ましく、0.40個/cm2以上であることが更に好ましく、3.0個/cm2以下であることが好ましく、2.0個/cm2以下であることがより好ましく、1.0個/cm2以下であることが更に好ましく、0.60個/cm2以下であることが特に好ましい。キャビティ部の配設密度が0.16個/cm2以上であれば、得られる成形シートの光学面状部の厚み精度のバラツキを小さくすることができると共に、形状精度を高めることができる。また、キャビティ部の配設密度が上記上限値以下であれば、得られる成形シートにおける形状精度を高めることができ、且つ、複屈折を小さくすることができると共に、厚み精度のバラつきを更に小さくすることができる。
【0048】
また、互いに隣接するキャビティ部間の最小間隔(
図1におけるPに相当)は、1.0mm以上であることが好ましく、3.0mm以上であることがより好ましく、5.0mm以上であることが更に好ましく、7.0mm以上であることが特に好ましい。キャビティ部間の最小間隔(P)が1.0mm以上であれば、得られる成形シートの光学面状部の厚み精度のバラツキを小さくすることができると共に、形状精度を高めることができ、さらには、複屈折を小さくすることができ。また、キャビティ部の最小間隔が1.0mm以上であれば、成形シート中の気泡及びエア溜まりの発生を抑制することができる。なお、キャビティ部間の最小間隔は、通常、20mm以下である。
【0049】
更に、平面視におけるキャビティ部の直径(
図1におけるDに相当)は、1mm以上15mm以下であることが好ましく、3mm以上であることがより好ましく、9mm以下であることが好ましい。キャビティ部の直径が上記範囲内であれば、得られる成形シートの光学面状部の厚み精度のバラツキを小さくすることができると共に、形状精度を高めることができる。
【0050】
また、金型を閉じた状態(閉型状態)におけるキャビティ部の中心の深さ(形成される光学面状部の中心における、厚み方向に対応する方向の距離;Hmid)は、50μm以上であることが好ましく、100μm以上であることがより好ましく、1500μm以下であることが好ましく、1000μm以下であることがより好ましい。キャビティ部の中心の深さが上記範囲内であれば、得られる成形シートの光学面状部をレンズなどの透過型光学素子として有利に使用することができる。
【0051】
更に、金型は、閉型状態における成形シート形成面間の最小間隔(Hmin)が、50μm以上であることが好ましく、100μm以上であることがより好ましく、500μm以下であることが好ましく、300μm以下であることがより好ましく、200μm以下であることが更に好ましい。最小間隔が上記上限値以下であれば、得られる成形シートの光学面状部の厚み精度のバラツキを小さくすることができると共に、形状精度を高めることができる。また、最小間隔が上記下限値以上であれば、得られる成形シートの強度を十分に確保することができる。
【0052】
[プレス温度]
熱プレス工程において一対の金型で熱可塑性樹脂フィルムを熱プレスする際のプレス温度(金型温度)は、熱可塑性樹脂のガラス転移温度(Tg)よりも40℃高い温度(Tg+40℃)以上であることが好ましく、プレス温度は、ガラス転移温度よりも50℃高い温度(Tg+50℃)以上であることがより好ましく、ガラス転移温度よりも55℃高い温度(Tg+55℃)以上であることがさらに好ましい。プレス温度が上記下限値以上であれば、得られる成形シートの光学面状部の厚み精度のバラツキを小さくすることができると共に、形状精度を高めることができる。なお、効率的に成形シートを製造する観点からは、プレス温度は、ガラス転移温度よりも80℃高い温度(Tg+80℃)以下とすることが好ましい。
なお、プレス温度は、特に限定されることなく、既知の一般的な方法(例えば、既知のヒーター及びクーラー等を用いた温度制御方法)に従って金型の温度を制御することにより、適宜調節することができる。
【0053】
[プレス圧力]
熱プレス工程では、金型で熱可塑性樹脂フィルムを熱プレスする際のプレス圧力を、所定の昇圧速度で最終プレス圧力まで昇圧させた後、任意に最終プレス圧力で所定時間保持することが好ましい。
【0054】
-昇圧速度-
ここで、プレス圧力の平均昇圧速度は、0.1MPa/秒以下であることが好ましく、0.07MPa/秒以下であることがより好ましく、0.05MPa/秒以下であることがさらに好ましい。平均昇圧速度が上記上限値以下であれば、得られる成形シートの光学面状部の複屈折を小さくすることができると共に、形状精度を高めることができる。なお、効率的に成形シートを製造する観点からは、平均昇圧速度は、0.04MPa/秒以上とすることが好ましい。
【0055】
-最終プレス圧力-
最終プレス圧力は、特に限定されることなく、例えば1MPa以上10MPa以下とすることができる。最終プレス圧力が上記範囲内であれば、得られる成形シートの光学面状部の形状精度を更に高めると共に、厚み精度のバラツキ及び複屈折を更に小さくすることができる。
【0056】
[その他のプレス条件]
なお、熱プレス工程におけるプレス時間は特に限定されることなく、用いる熱可塑性樹脂フィルムの種類及びサイズ、目的とする成形シートの形状及び大きさ等に応じて、適宜決定することができる。例えば、最終プレス圧力までプレス圧力を昇圧させる時間は、20秒以上300秒以下とすることができ、プレス圧力を最終プレス圧力で保持する時間は、0秒以上180秒以下とすることができる。
【0057】
<離型工程>
離型工程では、熱プレス工程にて得た成形シートを一対の金型から離型する際に、一対の金型を(Tg-80)℃以上(Tg-15)℃以下の温度(以下、「離型温度」とも称することがある。)にて離型する。かかる工程を実施することで、得られる成形シートに含まれる複数の光学面状部の形状精度を一層高め、厚み精度のバラツキを一層小さくし、さらには、複屈折を一層小さくすることができる。なお、離型工程の始点は、例えば、熱プレス工程の開始時点から所定時間経過後に、金型を冷却するための温度制御を開始する時点、或いは、熱プレス工程の開始時点から所定時間経過後に、金型に対する熱入力を停止した時点であり得る。
【0058】
[離型温度]
離型温度は、熱可塑性樹脂のガラス転移温度(Tg)以下である必要があり、ガラス転移温度よりも15℃低い温度(Tg-15℃)以下が好ましく、ガラス転移温度よりも20℃低い温度(Tg-20℃)以下がより好ましく、ガラス転移温度よりも30℃低い温度(Tg-30℃)以下がさらに好ましい。また、離型温度は、ガラス転移温度よりも80℃低い温度(Tg-80℃)以上であることが好ましく、ガラス転移温度よりも75℃低い温度(Tg-75℃)以上であることがより好ましい。離型温度が上記上限値以下であれば、離型し易く、得られる成形シートの光学面状部の形状精度を効果的に高めることができる。さらに、離型温度が上記上限値以下であれば、得られる成形シートの光学面状部厚み精度のバラツキを小さくし、且つ、複屈折を小さくすることができる。さらにまた、離型温度が上記上限値以下であれば、離型時におけるトラブルの発生を抑制して、成形シートの製造効率を一層高めることができる。また、離型温度が上記下限値以上であれば、一対の金型の冷却、及び後続する熱プレス工程における昇温の際に要する温度調整時間を短縮することができ、成形シートの製造効率を一層高めることができる。
【0059】
[その他の離型条件]
離型温度まで金型を冷却するための所要時間(金型冷却時間)及び金型冷却速度等は、特に限定されることなく、枚葉状のシート材料の種類及びサイズ、目的とする成形シートの光学面状部の形状及び大きさ等に応じて、適宜決定することができる。例えば、金型冷却時間は、10秒以上100秒以下とすることができ、金型冷却速度は、50℃/分以上300℃/分以下とすることができる。
【0060】
そして、離型工程では、離型温度まで金型を冷却した後に、熱プレスフィルムを金型から離型して、成形シートを得る。
【0061】
(光学素子の製造方法)
本発明の光学素子の製造方法は、本発明の製造方法に従って得られた成形シートを、複数の光学面状部のそれぞれに対応する位置で分離して、複数の光学素子を得る、光学素子分離工程を含むことを特徴とする。かかる本発明の製造方法によれば、形状精度が十分に高く、厚み精度のバラツキが小さく、且つ、複屈折が十分に小さい光学素子を、容易に製造することができる。
【0062】
<光学素子分離工程>
光学素子分離工程では、本発明の製造方法に従って得られた成形シートから、複数の光学素子を分離する。分離方法としては特に限定されることなく、抜き型による打ち抜き、レーザーカット等の既知のあらゆる方法で、成形シートから、一つ一つの光学素子を分離することができる。
【実施例】
【0063】
以下、実施例及び比較例を挙げて、本発明をさらに詳細に説明する。なお、本発明はこれらの例に何ら限定されるものではない。実施例及び比較例において、熱可塑性樹脂のガラス転移温度は以下のようにして測定した。また、実施例及び比較例において、成形シートの光学面状部の形状精度、厚み精度のバラツキ及び位相差、並びに、成形シートの生産性は、以下のようにして評価した。実施例及び比較例における配置~離型までの各種操作は、全て常圧にて、即ち、金型内部を加圧又は減圧雰囲気としない条件にて実施した。
【0064】
<熱可塑性樹脂のガラス転移温度>
熱可塑性樹脂のガラス転移温度(Tg)は、示差走査熱量分析計(日立ハイテクサイエンス社製、「DSC6220」)を用いて、JIS K7121:2012に基づき昇温速度10℃/分の条件で測定した。
【0065】
<形状精度>
成形シートの光学面状部を打ち抜き、光学レンズを得て測定試料とした。なお、実施例、比較例に従って得た光学レンズは、表面及び裏面が、それぞれ、光学レンズの厚み方向に沿う断面形状が変曲点を有する非球面形状を有する、非球面レンズであった。
次に、打ち抜いた光学面状部のうち300個の測定試料について、形状測定器(パナソニック社製、「UA-3P」)を用いて、光学面の設計値を基準とするPV値(基準表面に対する測定試料の表面の形状の最大誤差、即ち測定範囲内での最も高い点(Peak)と最も低い点(Valley)の差)を測定した。そして、測定したPV値の単純平均値を形状精度として以下の基準で評価した。
A:PV値の単純平均値が0.5μm以下
B:PV値の単純平均値が0.5μm超1.0μm以下
C:PV値の単純平均値が1.0μm超2.0μm以下
D:PV値の単純平均値が2.0μm超
<厚み精度のバラツキ>
成形シートの光学面状部を打ち抜き、光学レンズを得て測定試料とした。
次に、得られた光学レンズのうち300個の測定試料について、中心の厚みを、形状測定器(パナソニック社製、「UA-3P」)を用いて測定した。そして、測定した厚みの標準偏差を厚み精度のバラツキとして以下の基準で評価した。
A:標準偏差が0.1μm以下
B:標準偏差が0.1μm超0.2μm以下
C:標準偏差が0.2μm超
<位相差>
成形シートの光学面状部を打ち抜き、光学レンズを得て測定試料とした。
次に、得られた光学レンズのうち300個の測定試料について、樹脂成形レンズ検査システム(フォトニックスラティス社製、「WPA-100」)を用いて位相差を測定した。
測定波長(543nm)で規格化した値として得られる位相差の値の単純平均値を用いて、以下の基準に従って評価した。位相差の値が小さいほど、複屈折が小さいことを意味する。
A:位相差の単純平均値が20nm以下
B:位相差の単純平均値が20nm超50nm以下
C:位相差の単純平均値が50nm超
【0066】
<連続生産性>
枚葉状のシート材料100枚を成形シートへ加工した際に起こったトラブルによる装置の停止時間の合計を、以下の基準に従って評価した。
A:停止時間30分未満
B:停止時間30分以上120分未満
C:停止時間120分以上
【0067】
(実施例1)
ノルボルネン系開環重合体水素化物を含む熱可塑性樹脂(ZEONEX E48R(日本ゼオン社製)、ガラス転移温度:139℃)を、フィルム押出成形機(単軸押出機、φ=20mm、GSIクレオス社製)に入れ、これを260℃で溶融し、溶融樹脂をTダイから押し出し、これを冷却して、厚みが500μmである、幅295mmの熱可塑性樹脂フィルムを100m以上の長さで得た。このようにして得られた熱可塑性樹脂フィルムを250mm角に切り出して枚葉状のシート材料として使用した。
上記に従って得られた枚葉状のシート材料を、温度調節装置を有する、一対の300mm角の金型を備える熱プレス成形機にセットした(配置操作)。なお、一対の金型としては、表1に示す性状を有するものを用いた。
そして、金型の温度を表1に示すプレス温度まで昇温させた後、表1に示す条件で枚葉状のシート材料を昇圧速度0.045MPa/秒で9.5MPaまで昇圧させつつ熱プレスした(熱プレス工程)。
さらに、枚葉状のシート材料をプレスしたままの状態で、一対の金型を100℃まで冷却して、金型間に挟まれた状態の成形シートを冷却した。その後、一対の金型を開いて表1に示す性状の成形シートを一対の金型から剥離した(離型工程)。なお、成形シートにおける光学面状部の直径は金型におけるキャビティ部の直径Dに対応し、光学面状部間の最小間隔は金型におけるキャビティ部の最小間隔Pに対応し、光学面状部の配設密度は金型におけるキャビティ部の配設密度に対応し、光学面状部の中心の厚みは閉型状態におけるキャビティ部の中心の深さHmidに対応し、成形シートの最薄部の厚みは、閉型状態における成形シート形成面間の最小間隔Hminが対応する。
得られた成形シートについて、上記に従って各種評価を行った結果を、シート材料の配置から成形シートの離型までの時間(サイクルタイム)と共に表1に示す。
【0068】
(実施例2~4)
一対の金型を表1に示す性状の金型に変更したこと以外は実施例1と同様にして成形シートを製造し、各種評価を行った。結果を表1に示す。
【0069】
(実施例5~7)
離型工程における離型温度を、表1に示す温度に変更したこと以外は実施例1と同様にして成形シートを製造し、各種評価を行った。結果を表1に示す。
【0070】
(実施例8)
400mm角に切り出したシート材料を用いたこと以外は実施例1と同様にして成形シートを製造し、各種評価を行った。結果を表1に示す。本実施例に従う熱プレス工程では、枚葉状のシート材料の端部が、一対の金型からはみ出していた。
【0071】
(実施例9)
熱可塑性樹脂フィルムとしてノルボルネンとエチレンとをモノマーとして用いたランダム付加重合により得られたノルボルネン-エチレンランダム共重合体を含む熱可塑性樹脂(TOPAS6013(Polyplastics社製)、ガラス転移温度:138℃)を用い、プレス温度を表1に示す温度に変更したこと以外は実施例1と同様にして成形シートを製造し、各種評価を行った。結果を表1に示す。
【0072】
(実施例10)
熱可塑性樹脂フィルムとしてポリカーボネート樹脂(ワンダーライトPC-115(旭化成社製)、ガラス転移温度:145℃)を用い、プレス温度を表1に示す温度に変更したこと以外は実施例1と同様にして成形シートを製造し、各種評価を行った。結果を表1に示す。
【0073】
(実施例11)
熱可塑性樹脂フィルムとしてポリメチルメタクリレート樹脂(デルペット80NH(旭化成ケミカルズ社製)、ガラス転移温度:100℃)を用い、プレス温度を表1に示す温度に変更したこと以外は実施例1と同様にして成形シートを製造し、各種評価を行った。結果を表1に示す。
【0074】
(実施例12)
熱可塑性樹脂フィルムとしてポリエステル樹脂(OKP-1(大阪ガスケミカル社製)、ガラス転移温度:132℃)を用い、プレス温度を表1に示す温度に変更したこと以外は実施例1と同様にして成形シートを製造し、各種評価を行った。結果を表1に示す。
【0075】
(比較例1)
一対の金型を、表1に示す性状の金型に変更したこと以外は実施例1と同様にして成形シートを製造し、各種評価を行った。結果を表1に示す。
【0076】
(比較例2)
一対の300mm角の金型を備える熱プレス成形機を、金型間の間隔を20mmに設定した四対の100mm角の金型を2×2の配置態様で備える熱プレス成形機に変更した。かかる熱プレス成型機を用いて、枚葉状のシート材料を4対の金型で同時成形したこと以外は実施例1と同様にして成形シートの製造を試みたが、成形時にシート材料が金型間の間隙にて破れてしまい、成形シートを製造できなかった。
【0077】
【0078】
表1より、実施例1~12の成形シートは形状精度が十分に高く、厚み精度のバラツキが小さく、且つ、複屈折が十分に小さい、複数の光学面状部を有することが分かる。さらに、実施例1~12の成形シートは連続生産性に優れていたことが分かる。また、比較例1の成形シートは、光学面状部の形状精度が低く、厚み精度のバラツキが大きく、且つ、複屈折が大きかったことが分かる。また、比較例1の成形シートは連続生産性に乏しかったことが分かる。
【産業上の利用可能性】
【0079】
本発明によれば、形状精度が十分に高く、厚み精度のバラツキが小さく、且つ、低複屈折性の、複数の光学面状部を有する成形シートを提供することができる。
また、本発明によれば、上記成形シートを効率的に製造することができる成形シートの製造方法を提供することができる。
さらに、本発明によれば、上記成形シートを用いた光学素子の製造方法を提供することができる。
【符号の説明】
【0080】
1 一対の金型
1A 上側金型
1B 下側金型
10 成形シート
10’ 枚葉状のシート材料
11 光学面状部