(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2025-04-28
(45)【発行日】2025-05-09
(54)【発明の名称】石英ガラスルツボ及びその製造方法並びにシリコン単結晶の製造方法
(51)【国際特許分類】
C30B 29/06 20060101AFI20250430BHJP
C30B 15/10 20060101ALI20250430BHJP
【FI】
C30B29/06 502B
C30B15/10
(21)【出願番号】P 2022569873
(86)(22)【出願日】2021-12-06
(86)【国際出願番号】 JP2021044682
(87)【国際公開番号】W WO2022131047
(87)【国際公開日】2022-06-23
【審査請求日】2023-05-02
(31)【優先権主張番号】P 2020209876
(32)【優先日】2020-12-18
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】302006854
【氏名又は名称】株式会社SUMCO
(74)【代理人】
【識別番号】100115738
【氏名又は名称】鷲頭 光宏
(74)【代理人】
【識別番号】100121681
【氏名又は名称】緒方 和文
(72)【発明者】
【氏名】北原 江梨子
(72)【発明者】
【氏名】岸 弘史
(72)【発明者】
【氏名】藤原 秀樹
【審査官】山本 一郎
(56)【参考文献】
【文献】特開2020-105071(JP,A)
【文献】特開2015-127287(JP,A)
【文献】特表2008-507467(JP,A)
【文献】特表2004-531449(JP,A)
【文献】特開平08-002932(JP,A)
【文献】特開2010-105880(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C30B 29/06
C30B 15/10
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
シリコン単結晶引き上げ用石英ガラスルツボであって、
円筒状の側壁部と、底部と、前記側壁部と前記底部との間に設けられたコーナー部とを有し、シリカガラスからなるルツボ本体と、
前記ルツボ本体の外面に塗布された結晶化促進剤含有層とを備え、
前記ルツボ本体は、ルツボの内面側から外面側に向かって、気泡を含まない内側透明層と、前記内側透明層の外側に設けられた多数の気泡を含む気泡層と、前記気泡層の外側に設けられた気泡を含まない外側透明層とを有し、
前記外側透明層と前記気泡層との境界部には前記気泡層から前記外側透明層に向かって気泡含有率が減少する外側遷移層が設けられており、
前記外側遷移層の厚さは0.1mm以上8mm以下
であり、
前記結晶化促進剤含有層は、前記側壁部及び前記コーナー部の少なくとも一方に設けられており、
前記外側遷移層は、前記側壁部及び前記コーナー部に設けられており、
前記コーナー部における前記外側遷移層の最大厚さは、前記側壁部における前記外側遷移層の最大厚さよりも大きいことを特徴とする石英ガラスルツボ。
【請求項2】
前記外側遷移層の厚さはルツボの肉厚の0.67%以上33%以下である、請求項1に記載の石英ガラスルツボ。
【請求項3】
前記内側透明層と前記気泡層との境界部には前記内側透明層から前記気泡層に向かって気泡含有率が増加する内側遷移層が設けられ、
前記側壁部、前記コーナー部及び前記底部のいずれかの部位における前記内側遷移層の最大厚さは、同じ部位における前記外側遷移層の最大厚さよりも大きい、
請求項1又は2に記載の石英ガラスルツボ。
【請求項4】
前記結晶化促進剤含有層に含まれる結晶化促進剤が第2族元素である、
請求項1乃至3のいずれか一項に記載の石英ガラスルツボ。
【請求項5】
シリコン単結晶引き上げ用石英ガラスルツボであって、
円筒状の側壁部と、底部と、前記側壁部と前記底部との間に設けられたコーナー部とを有し、シリカガラスからなるルツボ本体と、
前記ルツボ本体の外面に塗布された結晶化促進剤含有層とを備え、
前記ルツボ本体は、ルツボの内面側から外面側に向かって、気泡を含まない内側透明層と、前記内側透明層の外側に設けられた多数の気泡を含む気泡層と、前記気泡層の外側に設けられた気泡を含まない外側透明層とを有し、
前記外側透明層と前記気泡層との境界部には前記気泡層から前記外側透明層に向かって気泡含有率が減少する外側遷移層が設けられており、
前記外側遷移層の厚さは0.1mm以上8mm以下
であり、
前記結晶化促進剤含有層及び前記外側遷移層は、前記側壁部及び前記コーナー部の少なくとも一方に設けられており、
前記内側透明層と前記気泡層との境界部には前記内側透明層から前記気泡層に向かって気泡含有率が増加する内側遷移層が設けられ、
前記側壁部、前記コーナー部及び前記底部のいずれかの部位における前記内側遷移層の最大厚さは、同じ部位における前記外側遷移層の最大厚さよりも大きいことを特徴とする石英ガラスルツボ。
【請求項6】
前記外側遷移層の厚さはルツボの肉厚の0.67%以上33%以下である、
請求項5に記載の石英ガラスルツボ。
【請求項7】
回転するモールドの内面に沿って原料シリカ粉の堆積層を形成する原料充填工程と、
前記原料シリカ粉をアーク溶融してシリカガラスからなるルツボ本体を形成するアーク溶融工程と、
前記ルツボ本体の外面又は外側表層部に結晶化促進剤含有層を形成する結晶化促進剤含有層形成工程とを備え、
前記アーク溶融工程は、
前記堆積層を前記モールドの内面側から真空引きしながらアーク溶融することにより気泡を含まない内側透明層を形成する内側透明層形成工程と、
前記真空引きを一時停止又は弱めて前記アーク溶融を継続することにより前記内側透明層の外側に多数の気泡を含む気泡層を形成する気泡層形成工程と、
前記真空引きを再開して前記アーク溶融を継続することにより前記気泡層の外側に気泡を含まない外側透明層を形成する外側透明層形成工程とを含み、
前記外側透明層形成工程は、前記真空引きの再開時に減圧レベルを段階的に変化させて前記気泡層と前記外側透明層との境界部に前記気泡層から前記外側透明層に向かって気泡含有率が減少する外側遷移層を形成する外側遷移層形成工程を含むことを特徴とする石英ガラスルツボの製造方法。
【請求項8】
請求項1乃至6のいずれか一項に記載の石英ガラスルツボを使用してシリコン単結晶をチョクラルスキー法により引き上げることを特徴とするシリコン単結晶の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、石英ガラスルツボ及びその製造方法に関し、特にルツボの外面を積極的に結晶化させて耐久性を向上させることが可能なシリコン単結晶引き上げ用石英ガラスルツボ及びその製造方法に関するものである。また、本発明はそのような石英ガラスルツボを用いたシリコン単結晶の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
半導体デバイス用シリコン単結晶の多くはチョクラルスキー法(CZ法)により製造されている。CZ法では、多結晶シリコン原料を石英ガラスルツボ内で加熱して融解し、このシリコン融液に種結晶を浸漬し、ルツボを回転させながら種結晶を徐々に引き上げて単結晶を成長させる。半導体デバイス用の高品質なシリコン単結晶を低コストで製造するためには、一回の引き上げ工程で単結晶歩留まりを高めることができるだけでなく、一つのルツボから複数本のシリコン単結晶を引き上げるいわゆるマルチ引き上げを実施できる必要があり、そのためには長時間の使用に耐える形状が安定したルツボが必要となる。
【0003】
従来の石英ガラスルツボはシリコン単結晶引き上げ時の1400℃以上の高温下で粘性が低くなり、その初期形状を維持できず、座屈や内倒れなどのルツボの変形が生じ、これによりシリコン融液の液面レベルの変動やルツボの破損、炉内部品との接触などが問題になる。また、ルツボの内面は単結晶引き上げ中にシリコン融液と接触することによって結晶化し、ブラウンリングと呼ばれるクリストバライトが形成されるが、これが剥離して育成中のシリコン単結晶に取り込まれた場合には有転位化の要因となる。
【0004】
このような問題を解決するため、ルツボの壁面を積極的に結晶化させてルツボの強度を高める方法が提案されている。例えば、特許文献1には、ルツボ側壁の外層が石英ガラス中で網状化剤として作用するTi等の第一成分と石英ガラス中で分離点形成剤として作用するBa等の第二成分とを含み、0.2mm以上の厚さを持つドーピング領域からなり、結晶引き上げ時に加熱されたときドーピング領域にクリストバライトを形成して石英ガラスの結晶化を促進させることにより、ルツボの強度を高めることが記載されている。
【0005】
特許文献2には、ルツボの外面を構成するように設けられたアルミニウム平均濃度が相対的に高い高アルミニウム含有層と、高アルミニウム含有層の内側に設けられた高アルミニウム含有層よりもアルミニウム平均濃度が低い低アルミニウム含有層とを備え、低アルミニウム含有層は、多数の微小な気泡を含む石英ガラスからなる不透明層を含み、高アルミニウム含有層は不透明層よりも気泡含有率が低減された透明又は半透明の石英ガラスからなる石英ガラスルツボが記載されている。
【0006】
特許文献3には、ルツボ内面側から外面側に向けて、透明層、半透明層および不透明層を順に有し、透明層の気泡含有率が0.3%未満、半透明層の気泡含有率が0.3%~0.6%、不透明層の気泡含有率が0.6%超であるシリコン単結晶引上用石英ガラスルツボが記載されている。この石英ガラスルツボによれば、ルツボ内の溶融シリコンの局所的な温度ばらつきを抑制して均質なシリコン単結晶を引き上げることが可能である。
【0007】
特許文献4には、ルツボの内面から外面に向かって、気泡含有率が0.5%未満である透明シリカガラス層と、気泡含有率が1%以上50%未満である気泡含有シリカガラス層と、気泡含有率が0.5%以上1%未満であり且つOH基濃度が35ppm以上300ppm未満である半透明シリカガラス層を備えるシリカガラスルツボが記載されている。
【0008】
特許文献5には、内側から順に透明層及び気泡含有層を備え、直胴部の上端と下端の中間部分において、透明層の厚さに対する気泡含有層の厚さの比が0.7~1.4であるシリカガラスルツボが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【文献】特表2005-523229号公報
【文献】国際公開第2018/051714号パンフレット
【文献】特開2010-105880号公報
【文献】特開2012-006805号公報
【文献】特開2012-116713号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
上記のように、マルチ引き上げに用いられる石英ガラスルツボには結晶化促進剤が好ましく使用される。外面に結晶化促進剤が塗布された石英ガラスルツボによれば、ルツボの外面を積極的に結晶化させてルツボの変形を抑制することができる。
【0011】
しかしながら、たとえ結晶化促進剤を使用してルツボの外面を結晶化させたとしても、長時間の加熱によってシリカガラス中の気泡が大きく熱膨張した場合には、ルツボの結晶化した外面がひび割れてルツボが局所的に変形する場合がある。
【0012】
したがって、本発明の目的は、結晶引き上げ工程中の高温下で変形しにくく、長時間の引き上げに耐えられる石英ガラスルツボ及びその製造方法を提供することにある。また本発明の目的は、そのような石英ガラスルツボを用いて製造歩留まりを高めることが可能なシリコン単結晶の製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0013】
上記課題を解決するため、本発明によるシリコン単結晶引き上げ用石英ガラスルツボは、シリカガラスからなるルツボ本体と、前記ルツボ本体の外面又は外側表層部に設けられた結晶化促進剤含有層とを備え、前記ルツボ本体は、ルツボの内面側から外面側に向かって、気泡を含まない内側透明層と、前記内側透明層の外側に設けられた多数の気泡を含む気泡層と、前記気泡層の外側に設けられた気泡を含まない外側透明層とを有し、前記外側透明層と前記気泡層との境界部には前記気泡層から前記外側透明層に向かって気泡含有率が減少する外側遷移層が設けられており、前記外側遷移層の厚さは0.1mm以上8mm以下であることを特徴とする。
【0014】
本発明による石英ガラスルツボは、気泡層と外側透明層との境界部において気泡含有率の変化が緩やかであるため、境界部での局所的な気泡膨張を防止することができる。したがって、気泡の熱膨張によるルツボの変形を防止することができる。
【0015】
本発明において、前記外側遷移層の厚さはルツボの肉厚の0.67%以上33%以下であることが好ましい。外側遷移層が薄すぎると気泡の熱膨張によるルツボの変形を抑制することができない。また外側遷移層が厚すぎるとその代わりに気泡層が薄くなるため、ルツボへの入熱が大きくなってルツボが変形しやすくなる。或いは外側透明層が薄くなることにより、ルツボの外面が結晶化したときに結晶層の発泡剥離の確率が高くなる。しかし、外側遷移層の厚さがルツボの肉厚の0.67%以上33%以下であれば、上記問題を回避することができる。
【0016】
本発明による石英ガラスルツボは、円筒状の側壁部と、底部と、前記側壁部と前記底部との間に設けられたコーナー部とを有し、前記結晶化促進剤含有層及び前記外側遷移層は、前記側壁部及び前記コーナー部の少なくとも一方に設けられていることが好ましい。これにより、側壁部又はコーナー部での気泡膨張を抑制してルツボの変形を防止することができる。
【0017】
前記外側遷移層は、前記側壁部及び前記コーナー部に設けられ、前記コーナー部における前記外側遷移層の最大厚さは、前記側壁部における前記外側遷移層の最大厚さよりも大きいことが好ましい。単結晶引き上げ工程中はルツボの側壁部よりもコーナー部のほうが高温になり、局所的な気泡膨張が生じやすい。しかし、コーナー部の外側遷移層を側壁部の外側遷移層よりも厚くした場合には、コーナー部での局所的な気泡膨張を抑制することができる。
【0018】
本発明において、前記内側透明層と前記気泡層との境界部には前記内側透明層から前記気泡層に向かって気泡含有率が増加する内側遷移層が設けられ、前記側壁部、前記コーナー部及び前記底部のいずれかの部位における前記内側遷移層の最大厚さは、同じ部位における前記外側遷移層の最大厚さよりも大きいことが好ましい。この構成によれば、気泡膨張によるルツボの内面の局所的な変形や剥離を防止することができる。
【0019】
本発明において、前記結晶化促進剤含有層は、前記ルツボ本体の外面に塗布された層であることが好ましい。これにより、均一で十分な厚さの結晶化促進剤含有層を容易に形成することができる。
【0020】
本発明において、前記結晶化促進剤含有層に含まれる結晶化促進剤が第2族元素であることが好ましく、バリウムが特に好ましい。これにより、単結晶引き上げ工程中にルツボの外面を積極的に結晶化させて耐久性を向上させることができる。
【0021】
また、本発明による石英ガラスルツボの製造方法は、回転するモールドの内面に沿って原料シリカ粉の堆積層を形成する原料充填工程と、前記原料シリカ粉をアーク溶融してシリカガラスからなるルツボ本体を形成するアーク溶融工程と、前記ルツボ本体の外面又は外側表層部に結晶化促進剤含有層を形成する結晶化促進剤含有層形成工程とを備え、前記アーク溶融工程は、前記堆積層を前記モールドの内面側から真空引きしながらアーク溶融することにより気泡を含まない内側透明層を形成する内側透明層形成工程と、前記真空引きを一時停止又は弱めて前記アーク溶融を継続することにより前記内側透明層の外側に多数の気泡を含む気泡層を形成する気泡層形成工程と、前記真空引きを再開して前記アーク溶融を継続することにより前記気泡層の外側に気泡を含まない外側透明層を形成する外側透明層形成工程とを含み、前記外側透明層形成工程は、前記真空引きの再開時に減圧レベルを段階的に変化させて前記気泡層と前記外側透明層との境界部に前記気泡層から前記外側透明層に向かって気泡含有率が減少する外側遷移層を形成する外側遷移層形成工程を含むことを特徴とする。
【0022】
本発明によれば、気泡層と外側透明層との境界部において気泡含有率の変化が緩やかな石英ガラスルツボを製造することができる。したがって、境界部での局所的な気泡膨張を防止することができ、気泡の熱膨張によるルツボの変形を防止することができる。
【0023】
さらにまた、本発明によるシリコン単結晶の製造方法は、上述した本発明による石英ガラスルツボを使用してシリコン単結晶をチョクラルスキー法により引き上げることを特徴とする。本発明によれば、高品質なシリコン単結晶の製造歩留まりを高めることができる。
【発明の効果】
【0024】
本発明によれば、単結晶引き上げ工程中の高温下で変形しにくく、長時間の引き上げに耐えられる石英ガラスルツボ及びその製造方法を提供することができる。また本発明によれば、そのような石英ガラスルツボを用いて製造歩留まりを高めることが可能なシリコン単結晶の製造方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0025】
【
図1】
図1は、本発明の第1の実施の形態による石英ガラスルツボの構成を示す略斜視図である。
【
図2】
図2は、
図1に示した石英ガラスルツボの略側面断面図である。
【
図3】
図3は、
図2に示した石英ガラスルツボのX部分の拡大図である。
【
図4】
図4(a)及び(b)は、気泡層13と外側透明層15との境界部の状態を説明するための模式図であって、
図4(a)は従来の境界部、
図4(b)は本発明の境界部をそれぞれ示している。
【
図5】
図5は、石英ガラスルツボの製造方法を説明するための模式図である。
【
図6】
図6は、石英ガラスルツボの製造方法を説明するための模式図である。
【
図7】
図7は、内側透明層及び気泡層を有する二層構造のルツボ本体の肉厚方向の気泡分布(内側透明層及び気泡層の厚さ分布)の測定原理を示す模式図である。
【
図8】
図8は、内側透明層、気泡層、及び外側透明層を有する三層構造のルツボ本体の肉厚方向の気泡分布の測定結果を示す図である。
【
図9】
図9は、本実施形態による石英ガラスルツボを用いた単結晶引き上げ工程を説明するための図であって、単結晶引き上げ装置の構成を示す略断面図である。
【
図10】
図10は、本発明の第2の実施の形態による石英ガラスルツボの構成を示す略側面断面図である。
【
図11】
図11は、本発明の第3の実施の形態による石英ガラスルツボの構成を示す略側面断面図である
【
図12】
図12は、本発明の第4の実施の形態による石英ガラスルツボの構成を示す略側面断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0026】
以下、添付図面を参照しながら、本発明の好ましい実施の形態について詳細に説明する。
【0027】
図1は、本発明の第1の実施の形態による石英ガラスルツボの構成を示す略斜視図である。
【0028】
図1に示すように、石英ガラスルツボ1(シリカガラスルツボ)は、シリコン融液を保持するためのシリカガラス製の容器であって、円筒状の側壁部10aと、底部10bと、側壁部10aと底部10bとの間に設けられたコーナー部10cとを有している。底部10bは緩やかに湾曲した丸底であることが好ましいが、平底であってもよい。
【0029】
コーナー部10cは側壁部10aと底部10bとの間に位置し、底部10bよりも大きな曲率を有する部位である。側壁部10aとコーナー部10cとの境界位置は、側壁部10aが曲がり始める位置である。またコーナー部10cと底部10bとの境界位置は、コーナー部10cの大きな曲率が底部10bの小さな曲率に変化し始める位置である。
【0030】
石英ガラスルツボ1の口径(直径)はシリコン融液から引き上げられるシリコン単結晶インゴットの直径によっても異なるが、18インチ(約450mm)以上であり、22インチ(約560mm)以上が好ましく、32インチ(約800mm)以上が特に好ましい。このような大型ルツボは直径300mm以上の大型シリコン単結晶インゴットの引き上げに用いられ、長時間使用しても単結晶の品質に影響を与えないことが求められるからである。
【0031】
石英ガラスルツボ1の肉厚はその部位によって多少異なるが、18インチ以上のルツボの側壁部10aの肉厚は6mm以上、22インチ以上のルツボの側壁部10aの肉厚は7mm以上、32インチ以上のルツボの側壁部10aの肉厚は10mm以上であることが好ましい。これにより、多量のシリコン融液を高温下で安定的に保持することができる。
【0032】
図2は、
図1に示した石英ガラスルツボの略側面断面図である。また
図3は、
図2に示した石英ガラスルツボのX部分の拡大図である。
【0033】
図2及び
図3に示すように、石英ガラスルツボ1は多層構造であって、内面10i側から外面10o側に向かって順に、気泡を含まない内側透明層11(無気泡層)と、外面10o側に向かって気泡含有率が増加する内側遷移層12と、多数の微小な気泡を含む気泡層13(不透明層)と、外面10o側に向かって気泡含有率が低下する外側遷移層14と、気泡を含まない外側透明層15(無気泡層)と、結晶化促進剤含有層16とを有している。本実施形態において、内側透明層11から外側透明層15まではシリカガラスからなるルツボ本体10を構成しており、結晶化促進剤含有層16はルツボ本体10の外面に形成された結晶化促進剤含有塗布膜からなる。後述するが、結晶化促進剤含有層16は、結晶化促進剤がドーピングされたシリカガラスであってもよい。
【0034】
内側透明層11は、石英ガラスルツボ1の内面10iを構成する層であって、シリカガラス中の気泡が原因で単結晶歩留まりが低下することを防止するために設けられている。シリコン融液と接するルツボの内面10iはシリコン融液と反応して溶損するため、ルツボの内面近傍の気泡をシリカガラス中に閉じ込めておくことができなくなり、熱膨張によって気泡が破裂したときにルツボ破片(シリカ破片)が剥離するおそれがある。シリコン融液中に放出されたルツボ破片が融液対流に乗って単結晶の成長界面まで運ばれて単結晶中に取り込まれた場合には、単結晶の有転位化の原因となる。またシリコン融液中に放出された気泡が浮上して固液界面に到達し、単結晶中に取り込まれた場合には、シリコン単結晶中のピンホールの発生原因となる。しかし、ルツボの内面10iに内側透明層11が設けられている場合には、気泡に起因する単結晶の有転位化やピンホールの発生を防止することができる。
【0035】
内側透明層11が気泡を含まないとは、気泡が原因で単結晶化率が低下しない程度の気泡含有率及び気泡サイズを有することを意味する。そのような気泡含有率は例えば0.1vol%以下であり、気泡の直径は例えば100μm以下である。
【0036】
内側透明層11の厚さは0.5~10mmであることが好ましく、結晶引き上げ工程中の溶損によって完全に消失して内側遷移層12が露出することがないように、ルツボの部位ごとに適切な厚さに設定される。内側透明層11はルツボの側壁部10aから底部10bまでのルツボ全体に設けられていることが好ましいが、シリコン融液と接触することがないルツボの上端部において内側透明層11を省略することも可能である。
【0037】
気泡層13は、内側透明層11と外側透明層15との間の中間層であって、ルツボ内のシリコン融液の保温性を高めると共に、単結晶引き上げ装置内においてルツボを取り囲むように設けられたヒーターからの輻射熱を分散させてルツボ内のシリコン融液をできるだけ均一に加熱するために設けられている。そのため、気泡層13はルツボの側壁部10aから底部10bまでのルツボ全体に設けられている。
【0038】
気泡層13の気泡含有率は、内側透明層11及び外側透明層15よりも高く、0.1vol%よりも大きく且つ5vol%以下であることが好ましい。気泡層13の気泡含有率が0.1vol%以下では気泡層13に求められる保温機能を発揮できないからである。また、気泡層13の気泡含有率が5vol%を超える場合には気泡の熱膨張によりルツボが変形して単結晶歩留まりが低下するおそれがあり、さらに伝熱性が不十分となるからである。保温性と伝熱性のバランスの観点から、気泡層13の気泡含有率は1~4vol%であることが特に好ましい。なお上述の気泡含有率は、使用前のルツボを室温環境下で測定した値である。気泡層13に多数の気泡が含まれていることは目視で認識できる。気泡層13の気泡含有率は、例えばルツボから切り出した不透明シリカガラス片の比重測定(アルキメデス法)により求めることができる。
【0039】
外側透明層15は、気泡層13の外側に設けられた層であって、結晶引き上げ工程中にルツボの外面が結晶化したときに結晶層が発泡剥離することを防止するために設けられている。外側透明層15が気泡を含まないとは、気泡が原因でルツボの外面が発泡剥離しない程度の気泡含有率及び気泡サイズを有することを意味する。そのような気泡含有率は例えば0.1vol%以下であり、気泡の直径は例えば100μm以下である。
【0040】
外側透明層15の厚さは0.5μm~10mmであることが好ましく、ルツボの部位ごとに適切な厚さに設定される。外側透明層15は結晶化促進剤含有層16が設けられている部位に設けられていることが好ましい。ただし、結晶化促進剤含有層16が設けられていない部位に設けられていても構わない。
【0041】
内側透明層11及び外側透明層15の気泡含有率は、光学的検出手段を用いて非破壊的に測定することができる。光学的検出手段は、ルツボの表面近傍の内部に照射した光の反射光を受光する受光装置を備える。照射光の発光手段は光学的検出手段に内蔵されたものでもよく、また外部の発光手段を利用してもよい。また、光学的検出手段は、ルツボの内面又は外面に沿って回動操作できるものが用いられる。照射光としては、可視光、紫外線及び赤外線のほか、X線もしくはレーザー光などを利用でき、反射して気泡を検出できるものであればいずれも適用できる。受光装置は照射光の種類に応じて選択されるが、例えば受光レンズ及び撮像部を含む光学カメラを用いることができる。表面から一定深さに存在する気泡を検出するには、光学レンズの焦点を表面から深さ方向に走査すればよい。
【0042】
上記光学検出手段による測定結果は画像処理装置に取り込まれ、気泡含有率が算出される。詳細には、光学カメラを用いてルツボ表面近傍の画像を撮像し、ルツボの表面を一定面積ごとに区分して基準面積S1とし、この基準面積S1ごとに気泡の占有面積S2を求め、基準面積S1に対する気泡の占有面積S2の比を体積分することにより気泡含有率が算出される。
【0043】
ルツボ本体10の外面10oには結晶化促進剤含有層16が設けられている。結晶化促進剤含有層16に含まれる結晶化促進剤は、結晶引き上げ工程中の高温下でルツボの外面の結晶化を促進させるので、ルツボの強度を向上させることができる。ここで、石英ガラスルツボ1の内面10i側ではなく、外面10o側に結晶化促進剤含有層16を設ける理由は以下の通りである。ルツボの内面10i側に結晶化促進剤含有層16を設ける場合、シリコン単結晶中にピンホールが発生するリスクやルツボの内面の結晶化層が剥離するリスクが高くなるが、ルツボの外面10o側に設けた場合にはそのようなリスクを低減できる。またルツボの内面に結晶化促進剤含有層16を設ける場合、ルツボの内面10iの不純物汚染による単結晶の汚染のリスクがあるが、ルツボの外面10oの不純物汚染はある程度許容されるため、ルツボの外面10oに結晶化促進剤含有層16を設けることによる単結晶の汚染のリスクは低い。
【0044】
本実施形態において、結晶化促進剤含有層16は、側壁部10aから底部10bまでのルツボ全体に設けられているが、側壁部10a及びコーナー部10cの少なくとも一方に設けられていればよい。側壁部10aやコーナー部10cは底部10bよりも変形しやすく、外面の結晶化によりルツボの変形を抑制する効果も大きいからである。結晶化促進剤含有層16はルツボの底部10bに設けられていてもよく、あるいは設けられていなくてもよい。ルツボの底部10bは多量のシリコン融液の重みを受けているのでカーボンサセプタに馴染みやすく、カーボンサセプタとの間に隙間が生じにくいからである。
【0045】
ルツボの側壁部10aの外面のうちリム上端から下方に1~3cmまでのリム上端部は、結晶化促進剤含有層16の非形成領域としてもよい。これにより、リム上端面の結晶化を抑えることができ、リム上端面から剥離した結晶片が融液中に混入することによるシリコン単結晶の有転位化を防止することができる。
【0046】
結晶化促進剤含有層16に含まれる結晶化促進剤は第2族元素であり、マグネシウム(Mg)、カルシウム(Ca)、ストロンチウム(Sr)、バリウム(Ba)、ラジウム(Ra)などを挙げることができる。中でも、シリコンよりも偏析係数が小さく、常温で安定していて取り扱いが容易なバリウムが特に好ましい。また、バリウムを使用した場合にはルツボの結晶化速度が結晶化と共に減衰せず、他の元素よりも配向成長を強く引き起こすなどの利点もある。結晶化促進剤は第2族元素に限定されず、リチウム(Li)、亜鉛(Zn)、鉛(Pb)、アルミニウム(Al)などであってもよい。
【0047】
結晶化促進剤含有層16に含まれる結晶化促進剤がバリウムである場合、その濃度は4.9×1015atoms/cm2以上3.9×1016atoms/cm2以下であることが好ましい。これによれば、ドーム状配向の結晶成長を促進させることができる。また、結晶化促進剤含有層16に含まれるバリウムの濃度は3.9×1016atoms/cm2以上であってもよい。これによれば、ルツボ表面に無数の結晶核を短時間のうちに発生させて柱状配向の結晶成長を促進させることができる。
【0048】
このように、ルツボ本体10の外面10oの表層部は、引き上げ工程中の加熱によって結晶化し、ドーム状又は柱状の結晶粒の集合からなる結晶層が形成される。特に、結晶層の結晶構造に配向性を持たせることで結晶化を促進でき、ルツボ壁に変形が生じない厚みを持った結晶層を形成することができる。したがって、マルチ引き上げなどの非常に長時間の引き上げ工程中に生じるルツボの変形を防止することができる。
【0049】
内側透明層11と気泡層13との間には内側遷移層12が設けられており、外側透明層15と気泡層13との間には外側遷移層14が設けられている。
【0050】
内側遷移層12は、内側透明層11から気泡層13に向かって気泡含有率が増加する領域であって、内側透明層11の平均気泡含有率を0とし、気泡層13の平均気泡含有率を1としたとき、0.1~0.7の区間として定義される。同様に、外側遷移層14は、気泡層13から外側透明層15に向かって気泡含有率が減少する領域であって、外側透明層15の平均気泡含有率を0とし、気泡層13の平均気泡含有率を1としたとき、0.1~0.7の区間として定義される。
【0051】
外側遷移層14の厚さは0.1~8mmであることが好ましく、或いはルツボの肉厚の0.67%以上33%以下であることが好ましい。従来のルツボは外側遷移層14が実質的に存在しないか、或いは存在したとしても非常に薄かったため、気泡の熱膨張に起因する結晶層のひび割れ及びルツボの変形が生じやすかった。しかし、本実施形態においては外側遷移層14の厚さが0.1~8mmと十分に厚く、気泡層13と外側透明層15との境界部において気泡含有率が緩やかに変化するので、気泡の熱膨張に起因する結晶層のひび割れ及びルツボの変形を防止することができる。
【0052】
外側遷移層14の厚さは0.4~8mmがより好ましく、2.05~8mmがさらに好ましい。外側遷移層14の厚さが0.4mm未満のときには、使用後のルツボから切り出したサンプルを観察したとき、気泡層と外側透明層との境界で小さな気泡膨張が散見されるが、外側遷移層14の厚さが0.4~8mmのときにはそのような気泡膨張が減少し、結晶層のひび割れやルツボの変形を抑制する効果が大きい。また、外側遷移層14の厚さが2.05~8mmのときには、気泡層と外側透明層との境界で気泡膨張がほとんど見られず、結晶層のひび割れやルツボの変形を抑制する効果がさらに大きい。
【0053】
内側遷移層12の厚さは特に限定されず、0.1mm未満であってもよく、0.1~8mmであってもよく、8mm以上であってもよい。0.1mm未満の場合には、気泡層13の厚さを十分に確保して気泡層13による保温機能を高めることができる。また、内側遷移層12を厚くして内側透明層11と気泡層13との間の気泡含有率を緩やかに変化させた場合には、保温効果を抑えて伝熱性を高めることができ、ルツボ内のシリコン融液を効果的に加熱することができる。このように、内側遷移層12の厚さについてはルツボの用途を考慮して適宜選択できる。
【0054】
外側遷移層14は、少なくとも結晶化促進剤含有層16が形成された領域に設けられている必要がある。結晶化促進剤の作用によってルツボ本体10の外面10oには結晶層が形成されるが、気泡含有率が緩やかに変化する外側遷移層14を設けることにより、気泡の熱膨張によるルツボの変形及び結晶層のひび割れを防止することができる。
【0055】
図4(a)及び(b)は、気泡層13と外側透明層15との境界部の状態を説明するための模式図であって、
図4(a)は従来の境界部、
図4(b)は本発明の境界部をそれぞれ示している。
【0056】
図4(a)及び(b)に示すように、結晶引き上げ工程中にルツボが長時間加熱されると、結晶化促進剤含有層16中の結晶化促進剤の作用によりルツボの外面10oの結晶化が進み、ルツボの外面10oに結晶層18が形成される。これにより、ルツボの強度を高めることができ、長時間の結晶引き上げ工程に耐えられる形状が安定したルツボを実現することができる。
【0057】
ところで、外側遷移層14が薄い場合、すなわち気泡層13と外側透明層15との境界部において気泡含有率が急峻に変化する場合には、外側透明層15との境界に多数の微小な気泡が密集した状態である。そのため、
図4(a)に示すように、長時間の加熱によって気泡が熱膨張した場合には境界部における発泡剥離が大きくなり、ルツボが局所的に変形して結晶層18のひび割れが生じやすい。
【0058】
一方、外側遷移層14が厚い場合、すなわち気泡層13と外側透明層15との境界部において気泡含有率が緩やかに変化する場合には、外側透明層15との境界に気泡がそれほど密集していない。そのため、
図4(b)に示すように、長時間の加熱によって気泡が熱膨張したとしても境界部における発泡剥離を防止することができ、ルツボの局所的な変形による結晶層18のひび割れを抑制することができる。
【0059】
シリコン融液の汚染を防止するため、内側透明層11を構成するシリカガラスは高純度であることが望ましい。そのため、本実施形態による石英ガラスルツボ1は、合成シリカ粉から形成される最も内側の合成シリカガラス層(合成層)と、天然シリカ粉から形成される天然シリカガラス層(天然層)の二層構造を有することが好ましい。合成シリカ粉は、四塩化珪素(SiCl4)の気相酸化(乾燥合成法)やシリコンアルコキシドの加水分解(ゾル・ゲル法)によって製造することができる。また天然シリカ粉は、α-石英を主成分とする天然鉱物を粉砕して粒状にすることによって製造されるシリカ粉である。
【0060】
合成シリカガラス層と天然シリカガラス層の二層構造は、ルツボ製造用モールドの内面に沿って天然シリカ粉を堆積し、その上に合成シリカ粉を堆積し、アーク放電によるジュール熱によりこれらのシリカ粉を溶融することにより製造することができる。アーク溶融工程はシリカ粉の堆積層の外側から強く真空引きすることによって気泡を除去して内側透明層11を形成し、真空引きを一時停止することによって気泡層13を形成し、さらに真空引きを再開することによって外側透明層15を形成する。そのため、合成シリカガラス層と天然シリカガラス層との境界面は、内側透明層11と気泡層13との境界面と必ずしも一致するものではないが、合成シリカガラス層は、内側透明層11と同様に、単結晶引き上げ工程中のルツボ内面の溶損によって完全に消失しない程度の厚さを有することが好ましい。
【0061】
図5及び
図6は、石英ガラスルツボ1の製造方法を説明するための模式図である。
【0062】
図5に示すように、石英ガラスルツボ1のルツボ本体10はいわゆる回転モールド法により製造される。回転モールド法では、ルツボの外形に合わせたキャビティを有するモールド20を用意し、回転するモールド20の内面20iに沿って天然シリカ粉3a及び合成シリカ粉3bを順に充填して原料シリカ粉の堆積層3を形成する(原料充填工程)。原料シリカ粉は遠心力によってモールド20の内面20iに張り付いたまま一定の位置に留まり、ルツボ形状に維持される。
【0063】
次に、モールド内にアーク電極22を設置し、モールド20の内側から原料シリカ粉の堆積層3をアーク溶融する(アーク溶融工程)。加熱時間、加熱温度等の具体的条件は原料シリカ粉の特性やルツボのサイズなどの条件を考慮して適宜定められる。
【0064】
アーク溶融中はモールド20の内面20iに設けられた多数の通気孔21から原料シリカ粉の堆積層3を真空引きすることにより溶融シリカガラス中の気泡量を制御する。具体的には、アーク溶融開始時に原料シリカ粉に対する真空引きを開始して内側透明層11を形成し(内側透明層形成工程)、内側透明層11の形成後に原料シリカ粉に対する真空引きを一時停止又は弱めて気泡層13を形成し(気泡層形成工程)、さらに気泡層13の形成後に真空引きを再開して外側透明層15を形成する(外側透明層形成工程)。内側透明層11及び外側透明層15を形成する際の減圧力は-50~-100kPaであることが好ましい。
【0065】
アーク熱は原料シリカ粉の堆積層3の内側から外側に向かって徐々に伝わり原料シリカ粉を溶融していくので、原料シリカ粉が溶融し始めるタイミングで減圧条件を変えることにより、内側透明層11、気泡層13及び外側透明層15を作り分けることができる。すなわち、シリカ粉が溶融するタイミングで減圧を強める減圧溶融を行えば、アーク雰囲気ガスがガラス中に閉じ込められないので、溶融シリカは気泡を含まないシリカガラスになる。また、シリカ粉が溶融するタイミングで減圧を弱める通常溶融(大気圧溶融)を行えば、アーク雰囲気ガスがガラス中に閉じ込められるので、溶融シリカは多数の気泡を含むシリカガラスになる。
【0066】
外側透明層15を形成するために真空引きを再開する際は、目標レベルまで真空引きの減圧レベルを段階的に引き上げることが好ましい。例えば、目標レベルの半分の減圧レベルで数秒~数分間の真空引きを行った後、目標レベルまで減圧レベルを引き上げて真空引きを継続する。これにより、気泡層13と外側透明層15との間の境界部における気泡含有率の変化を緩やかにすることができ、所望の厚さを有する外側遷移層14を形成することができる(外側遷移層形成工程)。
【0067】
気泡層13を形成するために真空引きを停止又は弱める際は、真空引きの減圧レベルを一気に引き下げてもよく、段階的に引き下げてもよい。例えば、減圧レベルを一気に引き下げる場合には、内側透明層11と気泡層13との間に内側遷移層12が実質的に存在しないか、あるいは内側遷移層12が非常に薄く形成される。また、減圧レベルを段階的に引き下げる場合は、内側遷移層12を厚くすることができる。
【0068】
その後、アーク溶融を終了し、ルツボを冷却する。以上により、ルツボ壁の内側から外側に向かって内側透明層11、気泡層13、外側透明層15が順に設けられ、内側透明層11と気泡層13との間に内側遷移層12が設けられ、さらに気泡層13と外側透明層15との間に外側遷移層14が設けられたシリカガラスからなるルツボ本体10が完成する。
【0069】
次にルツボ本体10の外面10oに結晶化促進剤含有層16を形成する(結晶化促進剤含有層形成工程)。結晶化促進剤含有層16は、例えば
図6に示すように、ルツボ本体10の外面10oに結晶化促進剤含有塗布液27をスプレー法により塗布(散布)することにより形成することができる。あるいは、刷毛を用いてルツボ本体10の外面10oに結晶化促進剤含有塗布液27を塗布してもよい。結晶化促進剤が例えばバリウムである場合、水酸化バリウム、硫酸バリウム、炭酸バリウム等を含む溶液を用いることができる。また、結晶化促進剤がアルミニウムである場合、結晶化促進剤が添加された原料石英粉を用いてルツボを形成することも可能である。この場合、結晶化促進剤含有層形成工程は、結晶化促進剤が添加された原料石英粉を天然シリカ粉よりも先にモールド内に充填して堆積させる工程を含む。
【0070】
バリウムを含む塗布液としては、バリウム化合物と水からなる塗布液であってもよく、水を含まず無水エタノールとバリウム化合物とを含む塗布液であってもよい。バリウム化合物としては炭酸バリウム、塩化バリウム、酢酸バリウム、硝酸バリウム、水酸化バリウム、シュウ酸バリウム、硫酸バリウム等を挙げることができる。なお、バリウム元素の表面濃度(atoms/cm2)が同じであれば、不溶か水溶かに関わらず結晶化促進効果は同じであるが、水に不溶のバリウムの方が人体に取り込まれ難いので、安全性が高く、取り扱いの面で有利である。
【0071】
バリウムを含む塗布液はカルボキシビニルポリマー等の粘性が高い水溶性高分子(増粘剤)をさらに含むことが好ましい。増粘剤を含まない塗布液を用いる場合にはルツボ壁面へのバリウムの定着が不安定であるため、バリウムを定着させるための熱処理が必要とされ、このような熱処理を施すとバリウムが石英ガラスの内部に拡散浸透し、結晶のランダム成長を促進させる要因となる。ここで、ランダム成長とは、結晶層において結晶成長方向に規則性がなく、結晶があらゆる方向に成長することを言う。ランダム成長では結晶化が加熱初期で止まるため、結晶層の厚みを十分に確保することができない。
【0072】
しかし、バリウムと共に増粘剤を含む塗布液を用いる場合には、塗布液の粘性が高くなるためルツボに塗布したときに重力等で流れて不均一になることを防止することができる。また、炭酸バリウム等のバリウム化合物の塗布液が水溶性高分子を含む場合には、バリウム化合物が塗布液中で凝集せず分散するので、バリウム化合物をルツボ表面に均一に塗布することが可能となる。したがってルツボ壁面に高濃度のバリウムを均一かつ高密度に定着させることができ、柱状配向又はドーム状配向の結晶粒の成長を促進させることができる。
【0073】
柱状配向結晶とは、柱状の結晶粒の集合からなる結晶層のことを言う。また、ドーム状配向結晶とは、ドーム状の結晶粒の集合からなる結晶層のことを言う。柱状配向又はドーム状配向は、結晶成長を持続させることができるため、十分な厚みを持つ結晶層を形成することができる。
【0074】
増粘剤としては、ポリビニルアルコール、セルロース系増粘剤、高純度グルコマンナン、アクリルポリマー、カルボキシビニルポリマー、ポリエチレングリコール脂肪酸エステル等の金属不純物が少ない水溶性高分子をあげることができる。また、アクリル酸・メタクリル酸アルキル共重合体、ポリアクリル酸塩、ポリビニルカルボン酸アミド、ビニルカルボン酸アミド等を増粘剤として用いてもよい。バリウムを含む塗布液の粘度は、100~10000mPa・sの範囲であることが好ましく、溶剤の沸点は50~100℃であることが好ましい。
【0075】
例えば、32インチルツボの外面塗布用の結晶化促進剤塗布液は、炭酸バリウム:0.0012g/mL及びカルボキシビニルポリマー:0.0008g/mLをそれぞれ含み、エタノールと純水との割合を調整し、それらを混合・攪拌することにより作製することができる。
【0076】
ルツボ本体10の外面10oに結晶化促進剤含有層16を形成する場合、ルツボ本体10の開口部を下向きにした状態で回転ステージ25上に載置する。次に、ルツボ本体10を回転させながらスプレー装置26を用いてルツボ本体10の外面10oに結晶化促進剤含有塗布液27を塗布する。結晶化促進剤含有層16に含まれる結晶化促進剤の濃度を変更するには、結晶化促進剤含有塗布液27中の結晶化促進剤の濃度を調整する。
【0077】
結晶化促進剤含有層16に濃度勾配を持たせる場合には、結晶化促進剤含有塗布液27の塗布時間(結晶化促進剤の重ね塗布回数)を変えればよい。例えば、側壁部10aの上部の回転回数を1周分、側壁部10aの中間部の回転回数を2周分、側壁部10aの下部を3周分、コーナー部10c及び底部10bを4周分の塗布とすることにより、結晶化促進剤含有層16中の結晶化促進剤の濃度をルツボの上端側ほど低くすることができる。
【0078】
図7は、内側透明層11及び気泡層13を有する二層構造のルツボ本体10の肉厚方向の気泡分布(内側透明層11及び気泡層13の厚さ分布)の測定原理を示す模式図である。
【0079】
図7に示すように、ルツボ本体10の肉厚方向の気泡分布は、ルツボの壁面に対して斜めにレーザー光を入射したときの光の散乱をカメラ30で撮影することによって求めることができる。レーザー光源28からのレーザー光をルツボ本体10の内面10iに向けて照射し、レーザー光はミラー29で反射して進行方向を変えられ、ルツボの壁面に対して斜めに入射する。
【0080】
ルツボ本体10の内面10i(空気とシリカガラスとの境界面)では光の反射が生じ、カメラ30の撮影画像には反射光が映り込む。内側透明層11中を伝搬する光は気泡の影響を受けないので光の散乱は発生しない。気泡層13に入射した光は気泡の影響を受けて散乱し、カメラ30には散乱光が映り込む。ルツボ本体10の外面10oでは光の反射及び散乱が生じ、光の散乱強度が最大となる。このような反射・散乱光の変化をカメラ30で撮影することにより、輝度レベルに比例した気泡分布を測定することができ、気泡分布から透明層及び気泡層を正確に判別することができる。また撮影画像の画素を実際の長さに換算することにより、透明層及び気泡層の厚さを算出することができる。
【0081】
図8は、内側透明層11、気泡層13、及び外側透明層15を有する三層構造のルツボ本体10の肉厚方向の気泡分布の測定結果を示す図である。
【0082】
図8に示すように、カメラの撮影画像の輝度レベルは、内側透明層11の表面(ルツボ本体10の内面10i)の位置で急峻なピークを持つ。その後、輝度レベルは内側透明層11の区間において小さくなり、気泡層13の区間において大きくなり、外側透明層15の区間において再び小さくなる。さらに、輝度レベルは外側透明層15の表面(ルツボ本体10の外面10o)の位置で急峻なピークを持つ。
【0083】
このように、内側透明層11及び外側透明層15は、輝度レベルが低い状態が安定的に継続する区間であり、気泡層13は、輝度レベルが高い状態が継続する区間である。
【0084】
さらに、内側遷移層12は、内側透明層11側から気泡層13側に向かって輝度レベルがローレベルからハイレベルに変化する立ち上がりエッジ区間であり、外側遷移層14は、気泡層13側から外側透明層15側に向かって輝度レベルがハイレベルからローレベルに変化する立ち下がりエッジ区間である。すなわち、内側遷移層12及び外側遷移層14は、透明層や気泡層と比べて輝度レベルの変化率(傾き)が非常に大きくなる区間である。
【0085】
図8において、撮影画像のY座標(X=0)からのルツボ本体10の内面10i(光の入射位置)までの画素数は100px(ピクセル、以下同様)、内側遷移層12と気泡層13との境界位置までの画素数は198px、気泡層13と外側遷移層14との境界位置までの画素数は300px、外側遷移層14と外側透明層15との境界位置までの画素数は310px、ルツボ本体10の外面10o(光の出射位置)までの画素数は456pxである。0.04mm/pxであるとして画素数から実際の長さを算出すると、気泡層13の厚さは4.08mm、外側遷移層14の厚さは0.4mm、外側透明層15の厚さは5.84mmとなる。
【0086】
上記の値は、以下のように計算することができる。最初に、撮影画像の輝度分布からルツボの内面10iと外面10oの位置をそれぞれ特定する。ルツボの内面10iの位置PIは、ルツボの内面10i側の最初の輝度ピーク位置であり、ここでは100pxの位置である。ルツボの外面10oの位置POは、ルツボの外面10o側の最初の輝度ピーク位置であり、ここでは456pxの位置である。
【0087】
次に、気泡層13における最大輝度レベルBMax及び外側透明層15における最小輝度レベルBMinをそれぞれ求める。気泡層13における最大輝度レベルBMaxは、ルツボの内面10iの位置PIと外側透明層15における最小輝度レベルBMinの発生位置との間の領域に存在する輝度の極大値であり、ここではBMax=125(256階調、以下同様)である。外側透明層15における最小輝度レベルBMinは、ルツボの外面10oの位置POと気泡層13における最大輝度レベルBMaxの発生位置との間の領域に存在する輝度の極小値であり、ここではBMin=29である。
【0088】
次に、最大輝度レベルBMaxと最小輝度レベルBMinの中間値BIntを以下の式より求める。
【0089】
BInt=(BMax-BMin)×0.5+BMin
【0090】
BMax及びBMinが上記の値であるとき、中間値BInt=77となる。
【0091】
次に、中間値BIntよりも大きい輝度レベルの平均値を気泡層13側の輝度レベルの平均値Gaveとして求めると共に、中間値BIntよりも小さい輝度レベルの平均値を外側透明層15側の輝度レベルの平均値Taveとして求める。ここでは、Gave=104.4、Tave=38.3となる。
【0092】
次に、気泡層13の閾値Gth=(Gave-Tave)×0.7+Taveを計算し、Gth以上の領域を気泡層13と定義する。また、外側透明層15の閾値Tth=(Gave-Tave)×0.1+Taveを計算し、Tthを下回った気泡層13側の位置から外面10oまでの領域を外側透明層15と定義する。ここではGth=84.5、Tth=44.9となる。
【0093】
そして、気泡層13の閾値Gthが得られる内面10i側の画素位置は198px、外面10o側の画素位置は300pxである。さらに、外側透明層15の閾値Tthが得られる内面10i側の画素位置は310pxとなる。1px=0.04mmとして画素数をミリメートルに換算すると、気泡層13の厚さは(300-198)×0.04=4.08mm、外側透明層15の厚さは(456-310)×0.04=5.84mmとなる。さらに、外側遷移層14の厚さは(310-300)×0.04=0.4mmとなる。
【0094】
上記の計算により求めたルツボの特徴点の厚さ方向の画素位置を表1に示す。このように、本実施形態によれば、輝度分布から気泡層13、外側遷移層14及び外側透明層15の厚さを正確に測定することができる。
【0095】
【0096】
このように、ルツボの壁面にレーザー光を入射したときの散乱光の撮影画像から気泡分布を求める方法によれば、内側透明層11、気泡層13及び外側透明層15の厚さはもちろんのこと、内側透明層11と気泡層13との境界部である内側遷移層12及び気泡層13と外側透明層15との境界部である外側遷移層14の厚さも求めることができ、ルツボの非破壊検査が可能である。
【0097】
図9は、本実施形態による石英ガラスルツボ1を用いた単結晶引き上げ工程を説明するための図であって、単結晶引き上げ装置の構成を示す略断面図である。
【0098】
図9に示すように、CZ法によるシリコン単結晶の引き上げ工程には単結晶引き上げ装置40が使用される。単結晶引き上げ装置40は、水冷式のチャンバー41と、チャンバー41内においてシリコン融液6を保持する石英ガラスルツボ1と、石英ガラスルツボ1を保持するカーボンサセプタ42と、カーボンサセプタ42を回転及び昇降可能に支持する回転シャフト43と、回転シャフト43を回転及び昇降駆動するシャフト駆動機構44と、カーボンサセプタ42の周囲に配置されたヒーター45と、
石英ガラスルツボ1の上方であって回転シャフト43と同軸上に配置された単結晶引き上げ用ワイヤー48と、チャンバー41の上方に配置されたワイヤー巻き取り機構49とを備えている。
【0099】
チャンバー41は、メインチャンバー41aと、メインチャンバー41aの上部開口に連結された細長い円筒状のプルチャンバー41bとで構成されており、石英ガラスルツボ1、カーボンサセプタ42及びヒーター45はメインチャンバー41a内に設けられている。プルチャンバー41bの上部にはメインチャンバー41a内にアルゴンガス等の不活性ガス(パージガス)やドーパントガスを導入するためのガス導入口41cが設けられており、メインチャンバー41aの下部にはメインチャンバー41a内の雰囲気ガスを排出するためのガス排出口41dが設けられている。
【0100】
カーボンサセプタ42は、高温下で軟化した石英ガラスルツボ1の形状を維持するために用いられるものであり、石英ガラスルツボ1を包むように保持する。石英ガラスルツボ1及びカーボンサセプタ42はチャンバー41内においてシリコン融液を支持する二重構造のルツボを構成している。
【0101】
カーボンサセプタ42は回転シャフト43の上端部に固定されており、回転シャフト43の下端部はチャンバー41の底部を貫通してチャンバー41の外側に設けられたシャフト駆動機構44に接続されている。
【0102】
ヒーター45は石英ガラスルツボ1内に充填された多結晶シリコン原料を融解してシリコン融液6を生成すると共に、シリコン融液6の溶融状態を維持するために用いられる。ヒーター45は抵抗加熱式のカーボンヒーターであり、カーボンサセプタ42内の石英ガラスルツボ1を取り囲むように設けられている。
【0103】
シリコン単結晶5の成長と共に石英ガラスルツボ1内のシリコン融液6の量は減少するが、石英ガラスルツボ1を上昇させることで融液面の高さを一定に維持することができる。
【0104】
ワイヤー巻き取り機構49はプルチャンバー41bの上方に配置されている。ワイヤー48はワイヤー巻き取り機構49からプルチャンバー41b内を通って下方に伸びており、ワイヤー48の先端部はメインチャンバー41aの内部空間まで達している。この図には、育成途中のシリコン単結晶5がワイヤー48に吊設された状態が示されている。シリコン単結晶5の引き上げ時には石英ガラスルツボ1とシリコン単結晶5とをそれぞれ回転させながらワイヤー48を徐々に引き上げてシリコン単結晶5を成長させる。
【0105】
単結晶引き上げ工程中、石英ガラスルツボ1は軟化するが、ルツボの外面10oに塗布した結晶化促進剤の作用により外面10oの結晶化が進むので、ルツボの強度を確保して変形を抑制することができる。したがって、ルツボが変形して炉内部品と接触したり、ルツボ内の容積が変化してシリコン融液6の液面の高さが変動したりすることを防止することができる。さらに、本実施形態においては、気泡層13と外側透明層15との境界部における気泡含有率の変化を緩やかにしているので、高温下で気泡が膨張してルツボが局所的に変形することを抑制することができる。
【0106】
図10は、本発明の第2の実施の形態による石英ガラスルツボの構成を示す略側面断面図である。
【0107】
図10に示すように、この石英ガラスルツボ1の特徴は、結晶化促進剤含有層16がルツボ本体10の側壁部10a及びコーナー部10cに設けられているが、底部10bには設けられていない点にある。またこれに合わせて、外側遷移層14がルツボ本体10の側壁部10a及びコーナー部10cにおいて厚く形成されている。外側遷移層14は底部10bにおいて全く形成されていなくてもよく、0.1mm未満の非常に薄い層であってもよい。その他の構成は第1の実施の形態と同様である。外側遷移層14の厚さが0.1mm未満であれば、外側遷移層14が実質的に設けられていないと言える。ルツボの側壁部10a及びコーナー部10cでは気泡の膨張を原因とするルツボの局所的な変形が発生しやすいが、本実施形態によればそのようなルツボの変形を抑制することができる。
【0108】
コーナー部10cにおける外側遷移層14の最大厚さは、側壁部10aにおける外側遷移層14の最大厚さよりも大きいことが好ましい。単結晶引き上げ工程中はルツボの側壁部10aよりもコーナー部10cのほうが高温になり、局所的な気泡膨張が生じやすい。しかし、コーナー部10cの外側遷移層14を側壁部10aの外側遷移層14よりも厚くした場合には、コーナー部10cでの局所的な気泡膨張を抑制することができる。コーナー部10cの外側遷移層14の厚さを側壁部10aよりも厚くした構造は、外側透明層15を形成するための真空引きの段階で真空度を強くする度合いを部位ごとに調整することにより実現できる。
【0109】
図11は、本発明の第3の実施の形態による石英ガラスルツボの構成を示す略側面断面図である。
【0110】
図11に示すように、この石英ガラスルツボ1の特徴は、結晶化促進剤含有層16がルツボ本体10のコーナー部10cだけに設けられており、側壁部10a及び底部10bには設けられていない点にある。またこれに合わせて、外側遷移層14がルツボ本体10のコーナー部10cにおいて厚く形成されている。外側遷移層14は側壁部10a及び底部10bにおいて全く形成されていなくてもよく、0.1mm未満の非常に薄い層であってもよい。その他の構成は第1の実施の形態と同様である。ルツボのコーナー部10cでは気泡の膨張を原因とするルツボの局所的な変形が発生しやすいが、本実施形態によればそのようなルツボの変形を抑制することができる。
【0111】
図12は、本発明の第4の実施の形態による石英ガラスルツボの構成を示す略側面断面図である。
図12に示すように、この石英ガラスルツボ1の特徴は、結晶化促進剤含有層16がルツボ本体の側壁部10aだけに設けられており、コーナー部10c及び底部10bには設けられていない点にある。またこれに合わせて、外側遷移層14がルツボ本体10の側壁部10aにおいて厚く形成されている。外側遷移層14はコーナー部10c及び底部10bにおいて全く形成されていなくてもよく、0.1mm未満の非常に薄い層であってもよい。その他の構成は第1の実施の形態と同様である。ルツボの側壁部10aでは気泡の膨張を原因とするルツボの局所的な変形が発生しやすいが、本実施形態によればそのようなルツボの変形を抑制することができる。
【0112】
以上、本発明の好ましい実施形態について説明したが、本発明は、上記の実施形態に限定されることなく、本発明の主旨を逸脱しない範囲で種々の変更が可能であり、それらも本発明の範囲内に包含されるものであることはいうまでもない。
【0113】
例えば、上記実施形態においては、シリカガラスからなるルツボ本体10の外面10oに結晶化促進剤を塗布することにより結晶化促進剤含有層16を形成しているが、本発明はこのような構成に限定されず、ルツボ本体10の外面10o近傍の外側表層部(シリカガラス中)に結晶化促進剤がドーピングされた構造であってもよい。すなわち、ルツボ本体10が結晶化促進剤含有層16を含む構造であってもよい。この場合、結晶化促進剤としてアルミニウム(Al)を用いることが好ましい。Alを含むシリカガラス層は、アーク溶融時にAlを含む原料シリカ粉を用いることにより形成することができる。Alを含むシリカガラスからなる結晶化促進剤含有層16は外側透明層15に含まれる層であり、外側透明層15の一部である。
【実施例】
【0114】
石英ガラスルツボのサンプル#1~#6を用意した。ルツボサンプル#1~#6は、内側透明層、気泡層、外側透明層の三層構造を有し、ルツボ本体の外面に結晶化促進剤含有層をさらに設けたものである。
【0115】
次に、これらのサンプル#1~#6の気泡分布を
図7に示した方法により測定した。その結果を表2に示す。
【0116】
【0117】
表2に示すように、ルツボサンプル#1の肉厚、気泡層厚、外側遷移層厚、外側透明層厚はそれぞれ、21.20mm、16.53mm、0.05mm、0.50mmであった。ルツボサンプル#2の肉厚、気泡層厚、外側遷移層厚、外側透明層厚はそれぞれ、21.00mm、16.30mm、0.10mm、0.50mmであった。ルツボサンプル#3の肉厚、気泡層厚、外側遷移層厚、外側透明層厚はそれぞれ、21.10mm、14.40mm、2.05mm、0.55mmであった。
【0118】
ルツボサンプル#4の肉厚、気泡層厚、外側遷移層厚、外側透明層厚はそれぞれ、20.90mm、8.17mm、8.00mm、0.55mmであった。ルツボサンプル#5の肉厚、気泡層厚、外側遷移層厚、外側透明層厚はそれぞれ、20.80mm、8.09mm、8.20mm、0.50mmであった。ルツボサンプル#6の肉厚、気泡層厚、外側遷移層厚、外側透明層厚はそれぞれ、21.00mm、6.48mm、10.00mm、0.50mmであった。
【0119】
次に、これらのルツボサンプル#1~#6を用いてCZ法によるシリコン単結晶の引き上げを行った。結晶引き上げ終了後、使用済みルツボの状態を評価した。その結果を表2に示す。
【0120】
表2から分かるように、外側遷移層厚が0.05mmであるルツボサンプル#1(比較例1)の場合、結晶引き上げ工程中の長時間の加熱によって気泡層と外側透明層との境界部で気泡膨張による発泡剥離が発生し、応力集中によるルツボの変形及び結晶層のひび割れが見られた。
【0121】
外側遷移層厚が0.10mmであるルツボサンプル#2(実施例1)では、発泡剥離によるルツボの変形及び結晶層のひび割れは見られなかった。外側遷移層厚が2.05mmであるルツボサンプル#3(実施例2)及び外側遷移層厚が8.00mmであるルツボサンプル#4(実施例3)でも、発泡剥離によるルツボの変形及び結晶層のひび割れは見られなかった。
【0122】
外側遷移層厚が8.20mmであるルツボサンプル#5(比較例2)では、ルツボの変形が見られた。さらに外側遷移層厚が10.00mmであるルツボサンプル#6(比較例3)でもルツボの変形が見られた。ルツボサンプル#5及び#6では、気泡層が薄くなったため、ルツボへの入熱が増えてルツボが変形したものと推察される。
【符号の説明】
【0123】
1 石英ガラスルツボ
3 原料シリカ粉の堆積層
3a 天然シリカ粉
3b 合成シリカ粉
5 シリコン単結晶
6 シリコン融液
10 ルツボ本体
10a 側壁部
10b 底部
10c コーナー部
10i ルツボ本体の内面
10o ルツボ本体の外面
11 内側透明層
12 内側遷移層
13 気泡層
14 外側遷移層
15 外側透明層
16 結晶化促進剤含有層
18 結晶層
20 モールド
20i モールドの内面
21 通気孔
22 アーク電極
25 回転ステージ
26 スプレー装置
27 結晶化促進剤含有塗布液
28 レーザー光源
29 ミラー
30 カメラ
40 単結晶引き上げ装置
41 チャンバー
41a メインチャンバー
41b プルチャンバー
41c ガス導入口
41d ガス排出口
42 カーボンサセプタ
43 回転シャフト
44 シャフト駆動機構
45 ヒーター
48 単結晶引き上げ用ワイヤー
49 ワイヤー巻き取り機構