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特許7673881色生成システム、色生成プログラム、色素または発光体の製造方法、色素、および発光体
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2025-04-28
(45)【発行日】2025-05-09
(54)【発明の名称】色生成システム、色生成プログラム、色素または発光体の製造方法、色素、および発光体
(51)【国際特許分類】
   H04N 1/60 20060101AFI20250430BHJP
   G06T 1/00 20060101ALI20250430BHJP
【FI】
H04N1/60
G06T1/00 510
【請求項の数】 6
(21)【出願番号】P 2024568383
(86)(22)【出願日】2024-08-28
(86)【国際出願番号】 JP2024030783
【審査請求日】2024-11-15
(31)【優先権主張番号】PCT/JP2023/031584
(32)【優先日】2023-08-30
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000004455
【氏名又は名称】株式会社レゾナック
(74)【代理人】
【識別番号】100088155
【弁理士】
【氏名又は名称】長谷川 芳樹
(74)【代理人】
【識別番号】100128381
【弁理士】
【氏名又は名称】清水 義憲
(74)【代理人】
【識別番号】100169454
【弁理士】
【氏名又は名称】平野 裕之
(74)【代理人】
【識別番号】100144440
【弁理士】
【氏名又は名称】保坂 一之
(72)【発明者】
【氏名】坂口 俊
(72)【発明者】
【氏名】冨田 みゆき
【審査官】豊田 好一
(56)【参考文献】
【文献】特開2014-160391(JP,A)
【文献】特開2021-012316(JP,A)
【文献】特開2019-088383(JP,A)
【文献】特開2009-077218(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H04N 1/46-62
G06T 1/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
基準色のスペクトルである基準スペクトルと、被験者の色覚系を示す被験者モデルとを取得する取得部と、
参照色覚者の色覚系を示す所定の参照モデルと、前記基準スペクトルとに基づいて、前記基準色を視認した該参照色覚者の色覚系からの応答を参照応答として算出する応答算出部と、
前記参照応答に一致または近似する応答を前記被験者モデルから出力させるための変換スペクトルを算出するスペクトル算出部と、
前記変換スペクトルに基づいて、前記基準色に対応する対応色のスペクトルである対応スペクトルを生成する生成部と、
を備え
前記スペクトル算出部は、
前記基準スペクトルの少なくとも一部を変更して候補スペクトルを生成し、
前記候補スペクトルを前記被験者モデルに入力して、前記候補スペクトルによって示される色を視認した前記被験者の色覚系からの応答を被験者応答として算出し、
前記被験者応答が前記参照応答と一致または近似するか否かを判定し、
前記基準スペクトルの前記少なくとも一部を変更しながら、前記参照応答と一致または近似する前記被験者応答を探索して、前記変換スペクトルを特定する、
色生成システム。
【請求項2】
前記取得部が、前記基準色から前記対応色への変化の度合いを示す考慮割合を更に取得し、
前記生成部が、前記基準スペクトル、前記変換スペクトル、および前記考慮割合に基づいて前記対応スペクトルを生成する、
請求項1に記載の色生成システム。
【請求項3】
前記生成部が、前記考慮割合に基づく線形結合により前記基準スペクトルおよび前記変換スペクトルを合成して、前記対応スペクトルを生成する、
請求項2に記載の色生成システム。
【請求項4】
前記生成部が、前記変換スペクトルを前記対応スペクトルとして設定する、
請求項1に記載の色生成システム。
【請求項5】
前記被験者モデルが、前記被験者のL錐体、M錐体、およびS錐体のそれぞれの感度特性を示し、
前記参照モデルが、前記参照色覚者のL錐体、M錐体、およびS錐体のそれぞれの感度特性を示し、
前記応答算出部が、前記参照色覚者のL錐体、M錐体、およびS錐体のそれぞれからの応答を前記参照応答として算出し、
前記スペクトル算出部が、前記被験者のL錐体、M錐体、およびS錐体のそれぞれからの応答を前記被験者応答として算出する、
請求項1~4のいずれか一項に記載の色生成システム。
【請求項6】
基準色のスペクトルである基準スペクトルと、被験者の色覚系を示す被験者モデルとを取得するステップと、
参照色覚者の色覚系を示す所定の参照モデルと、前記基準スペクトルとに基づいて、前記基準色を視認した該参照色覚者の色覚系からの応答を参照応答として算出するステップと、
前記参照応答に一致または近似する応答を前記被験者モデルから出力させるための変換スペクトルを算出するステップと、
前記変換スペクトルに基づいて、前記基準色に対応する対応色のスペクトルである対応スペクトルを生成するステップと、
をコンピュータに実行させ
前記変換スペクトルを算出する前記ステップでは、
前記基準スペクトルの少なくとも一部を変更して候補スペクトルを生成し、
前記候補スペクトルを前記被験者モデルに入力して、前記候補スペクトルによって示される色を視認した前記被験者の色覚系からの応答を被験者応答として算出し、
前記被験者応答が前記参照応答と一致または近似するか否かを判定し、
前記基準スペクトルの前記少なくとも一部を変更しながら、前記参照応答と一致または近似する前記被験者応答を探索して、前記変換スペクトルを特定する、
色生成プログラム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示の一側面は、色生成システム、色生成プログラム、色素または発光体の製造方法、色素、および発光体に関する。
【背景技術】
【0002】
色弱者を考慮した色処理が従来から知られている。例えば、特許文献1に記載の色処理装置は、色処理の対象となる色値を取得し、予め定められた集団に対して実施した色覚検査により得られた検査結果の人数分布に基づいて、色覚障害の程度を表す色覚程度係数を算出し、その色覚程度係数と、L錐体、M錐体およびS錐体の感度特性との対応に基づいて、取得された色値を変換するために用いられる色変換係数を算出し、その色変換係数を用いて該色値に対して色変換処理を施す。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特許第5924289号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
色覚多様性を考慮して色を提供するための仕組みが望まれている。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本開示の一側面に係る色生成システムは、基準色のスペクトルである基準スペクトルと、被験者の色覚系を示す被験者モデルとを取得する取得部と、参照色覚者の色覚系を示す所定の参照モデルと、基準スペクトルとに基づいて、基準色を視認した該参照色覚者の色覚系からの応答を参照応答として算出する応答算出部と、参照応答に一致または近似する応答を被験者モデルから出力させるための変換スペクトルを算出するスペクトル算出部と、変換スペクトルに基づいて、基準色に対応する対応色のスペクトルである対応スペクトルを生成する生成部とを備える。
【0006】
本開示の一側面に係る色生成プログラムは、基準色のスペクトルである基準スペクトルと、被験者の色覚系を示す被験者モデルとを取得するステップと、参照色覚者の色覚系を示す所定の参照モデルと、基準スペクトルとに基づいて、基準色を視認した該参照色覚者の色覚系からの応答を参照応答として算出するステップと、参照応答に一致または近似する応答を被験者モデルから出力させるための変換スペクトルを算出するステップと、変換スペクトルに基づいて、基準色に対応する対応色のスペクトルである対応スペクトルを生成するステップとをコンピュータに実行させる。
【0007】
これらの側面においては、参照色覚者と同様に被験者に基準色を知覚させることが可能な変換スペクトルが算出され、この変換スペクトルに基づいて、基準色に対応する対応色のスペクトル(対応スペクトル)が生成される。この対応スペクトルによって、色覚多様性を考慮して色を提供することが可能になる。
【0008】
本開示の一側面に係る色素または発光体の製造方法は、基準色のスペクトルである基準スペクトルと、被験者の色覚系を示す被験者モデルとを取得するステップと、参照色覚者の色覚系を示す所定の参照モデルと、基準スペクトルとに基づいて、基準色を視認した該参照色覚者の色覚系からの応答を参照応答として算出するステップと、参照応答に一致または近似する応答を被験者モデルから出力させるための変換スペクトルを算出するステップと、変換スペクトルに基づいて、基準色に対応する対応色のスペクトルである対応スペクトルを生成するステップと、対応スペクトルに基づいて対応色の色素または発光体を製造するステップとを含む。
【0009】
この側面においては、参照色覚者と同様に被験者に基準色を知覚させることが可能な変換スペクトルが算出され、この変換スペクトルに基づいて、基準色に対応する対応色のスペクトル(対応スペクトル)が生成される。そして、この対応スペクトルに基づいて対応色の色素または発光体が製造される。この色素または発光体を用いることで、色覚多様性を考慮して色を提供することが可能になる。
【0010】
本開示の一側面に係る色素は、基準色のスペクトルである基準スペクトルに基づく対応スペクトルを有し、対応スペクトルによって示される反射率が、540~560nmの範囲において0.025以下であり、対応スペクトルが、380~540nmの範囲および560~730nmの範囲のそれぞれにおいて、反射率が0.2以上である領域を含む。
【0011】
このような特性を有する色素を用いることで、色覚多様性を考慮して色を提供することが可能になる。
【0012】
本開示の一側面に係る発光体は、基準色のスペクトルである基準スペクトルに基づく対応スペクトルを有し、対応スペクトルの540~560nmの範囲での最大強度に対する、対応スペクトルの380~540nmの範囲での最大強度の比が8.0以上であり、対応スペクトルの540~560nmの範囲での最大強度に対する、対応スペクトルの560~730nmの範囲での最大強度の比が8.0以上である。
【0013】
このような特性を有する発光体を用いることで、色覚多様性を考慮して色を提供することが可能になる。
【発明の効果】
【0014】
本開示の一側面によれば、色覚多様性を考慮して色を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
図1】色生成システムの機能構成の一例を示す図である。
図2】L錐体、M錐体、およびS錐体の感度特性の例を示すグラフである。
図3】色生成システムの動作の一例を示すフローチャートである。
図4】基準スペクトルと対応スペクトルとの関係を示す図である。
図5】基準スペクトルと対応スペクトルとの関係を示す図である。
図6】基準スペクトルと対応スペクトルとの関係を示す図である。
図7】基準スペクトルと対応スペクトルとの関係を示す図である。
図8】色生成システムの機能構成の別の例を示す図である。
図9】色生成システムの動作の別の例を示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、添付図面を参照しながら本開示での実施形態を詳細に説明する。図面の説明において同一または同等の要素には同一の符号を付し、重複する説明を省略する。
【0017】
[システムの概要]
本開示に係る色生成システムは、色覚多様性を考慮して色を提供するためのコンピュータシステムまたは制御システムである。色覚多様性とは色の認識または識別が人々の間で異なる状況をいう。色生成システムは、色覚が互いに異なる人々の間で、色についての共通認識を持たせたり、色の認識または識別に関する相互理解を促進させたりする目的で利用され得る。
【0018】
色覚の種類として、C型(Common)、P型(Protanope)、D型(Deuteranope)、T型(Tritanope)、およびA型(Acromatic)という5種類が存在する。
【0019】
C型はL錐体、M錐体、およびS錐体の3種類の錐体を持つグループである。L錐体は、赤のような長波長付近の光に高い感度で反応する視細胞である。M錐体は、緑のような中波長付近の光に高い感度で反応する視細胞である。S錐体は、青のような短波長付近の光に高い感度で反応する視細胞である。日本人の場合には95%の男性および99%の女性がC型に属する。C型の人々は一般色覚者ともいわれる。
【0020】
一方、P型、D型、T型、およびA型の人々は色弱者ともいわれる。P型は、L錐体を持たないP型強度(Protanopia)と、L錐体の感度がずれてM錐体の感度と似るP型弱度(Protanomaly)とで構成されるグループである。D型は、M錐体を持たないD型強度(Deuteranopia)と、M錐体の感度がずれてL錐体の感度と似るD型弱度(Deuteranomaly)とで構成されるグループである。T型はS錐体を持たないグループである。A型は、1種類の錐体のみを持つかまたは錐体を全く持たないグループである。色弱者の中ではP型およびD型がほとんどを占め、T型およびA型の割合は極めて小さい。
【0021】
上述した共通認識または相互理解の促進の例として、本開示に係る色生成システムは、一般色覚者が認識する色を色弱者に経験させたり、色弱者が認識する色を一般色覚者に経験させたりするために用いられてもよい。あるいは、色生成システムは、一般色覚者および色弱者の双方で同じように認識される色を提供するために用いられ得る。色生成システムはC型、P型、D型、T型、およびA型の人々の間で色の共通認識または相互理解を促進することを目的として用いられてもよい。
【0022】
色生成システムは、基準色に基づいて、色覚多様性を考慮した別の色である対応色を生成する。基準色は対応色を生成するために指定される色である。対応色は基準色に対応する色であるといえる。一例では、色生成システムは、基準色のスペクトルである基準スペクトルに基づいて、対応色のスペクトルである対応スペクトルを生成する。別の例では、色生成システムはその対応スペクトルに基づいて対応色の色素または発光体を製造する。
【0023】
[システムの構成]
色生成システムは1以上のコンピュータで構成される。複数のコンピュータが用いられる場合には、これらのコンピュータがインターネット、イントラネット等の通信ネットワークを介して接続されることで、論理的に一つの色生成システムが構築される。
【0024】
色生成システムを構成するコンピュータは、一般にハードウェア装置としてプロセッサ、メモリ、通信インタフェース、入力装置、および出力装置を備える。プロセッサの例としてCPUおよびGPUが挙げられる。メモリはフラッシュメモリ、ハードディスク等により構成され得る。通信インタフェースはネットワークカードまたは無線通信モジュールにより構成され得る。入力装置の例として、キーボード、ポインティングデバイス、タッチパネル、マイクロフォン、センサ、およびカメラが挙げられる。出力装置の例として、モニタ、タッチパネル、ヘッドマウントディスプレイ(HMD)、およびスピーカが挙げられる。
【0025】
コンピュータを色生成システムとして機能させるための色生成プログラムは、色生成システムの各機能モジュールを実現するためのプログラムコードを含む。この色生成プログラムは、例えばCD―ROM、DVD―ROM、または半導体メモリの有形の記録媒体に非一時的に記録された上で提供されてもよい。あるいは、色生成プログラムは、搬送波に重畳されたデータ信号として通信ネットワークを介して提供されてもよい。提供された色生成プログラムは例えばメモリに記録される。
【0026】
図1を参照しながら、一例に係る色生成システム1の構成について説明する。図1は色生成システム1の機能構成を示す図である。
【0027】
色生成システム1は色変換システム10を備える。色変換システム10は基準スペクトルに基づいて対応スペクトルを生成するコンピュータシステムである。色変換システム10は一つのコンピュータ、または通信ネットワークにより互いに接続された複数のコンピュータにより構成される。色変換システム10はプロセッサ101およびメモリ102を備える。一例では、プロセッサ101は取得部11、応答算出部12、スペクトル算出部13、および生成部14として機能する。メモリ102は、参照色覚者の色覚系を示すデータである所定の参照モデルを予め記憶する。参照色覚者として一般色覚者および色弱者の少なくとも一方が想定される。参照モデルは一般色覚者および色弱者のそれぞれについて用意されてもよい。参照色覚者として色弱者が想定される場合には、参照モデルは色覚の種類ごとに用意されてもよく、例えばP型の参照モデルとD型の参照モデルとT型の参照モデルとA型の参照モデルとが用意されてもよい。さらに、色弱の強度または軽度等の程度の違いが考慮された参照モデルが用意されてもよい。
【0028】
取得部11は基準スペクトル、被験者モデル、および考慮割合を示す入力データを取得する機能モジュールである。被験者モデルは被験者の色覚系を示すデータである。被験者とは、対応色が提供される対象として想定される人をいう。被験者は一般色覚者でもよいし、P型、D型等のような特定の種類の色弱者でもよい。考慮割合は、基準色から対応色への変化の度合いを示す指標である。
【0029】
応答算出部12は、基準色を視認した人の色覚系からの応答を参照応答として算出する機能モジュールである。応答算出部12は基準スペクトルおよび参照モデルに基づいて参照応答を算出する。応答は、L錐体、M錐体、およびS錐体から視神経を通じて脳に伝えられる電気信号に相当する。
【0030】
スペクトル算出部13は、参照応答に一致または近似する応答を被験者モデルから出力させるための変換スペクトルを算出する機能モジュールである。「参照応答に一致または近似する応答」とは、参照応答との差が所定の閾値以下である応答をいう。
【0031】
生成部14は少なくとも変換スペクトルに基づいて対応スペクトルを生成する機能モジュールである。一例では、生成部14は基準スペクトル、変換スペクトル、および考慮割合に基づいて対応スペクトルを生成する。
【0032】
色生成システム1は製造装置20を更に備えてもよい。製造装置20は、対応スペクトルに基づいて、予め用意された1以上の色素材料30から対応色の色素40を製造する装置または装置群である。色素とは物体に色を与える物質をいう。色素は染料でもよいし顔料でもよい。
【0033】
[色覚モデル]
参照モデルおよび被験者モデルはいずれも、人の色覚系を示す色覚モデルであるともいえる。一例では、色覚モデルはL錐体、M錐体、およびS錐体のそれぞれの感度特性を示す。感度特性は分光特性ともいわれる。図2は、一般色覚者および色弱者についての、各錐体の感度特性の例を示すグラフである。グラフの横軸および縦軸はそれぞれ、波長(nm)および相対感度を示す。図2に示す色弱者はP型弱度に相当する。その色弱者は、一般色覚者(C型)に比べると、M錐体およびL錐体の感度特性の重なりの程度が大きい。このような感度特性の違いが、色の認識または識別の違いを生じさせる。
【0034】
[システムの動作]
図3を参照しながら、色生成システム1によって実行される色生成方法について説明する。図3は色生成システム1の動作の一例を処理フローS1として示すフローチャートである。
【0035】
ステップS11では、取得部11が基準スペクトル、被験者モデル、および考慮割合を取得する。一例では、色変換システム10のユーザは、基準色、被験者の色覚の種類、および考慮割合を入力する。取得部11はその入力を受け付け、基準色に対応する基準スペクトルと、色覚の種類に対応する被験者モデルとを所定の記憶装置から読み出す。あるいは、取得部11は基準スペクトル、被験者モデル、および考慮割合の入力を受け付けてもよい。あるいは、取得部11はこれらのデータを他のコンピュータから受信してもよい。
【0036】
一例では、基準スペクトルは可視光領域における個々の波長(nm)での反射率(%)によって表される。基準スペクトルは、波長と反射率との関係を示すスペクトル関数で表現されてもよい。
【0037】
一例では、被験者モデルは、図2に示すようなL錐体、M錐体、およびS錐体のそれぞれの感度特性を示す。被験者モデルは、波長および相対感度の関係を示す感度関数によって表現されてもよい。この感度関数はL錐体、M錐体、およびS錐体のそれぞれについて用意され得る。上述したように、被験者モデルは一般色覚者および色弱者のいずれかの色覚系(色覚モデル)を示す。被験者モデルは、個人(被験者)のL錐体、M錐体、およびS錐体の感度を測定して得られた色覚モデルであってもよいし、P型弱度、D型弱度等の代表値に基づく色覚モデルであってもよい。
【0038】
一例では、考慮割合は0%より大きく100%以下の数値によって表される。考慮割合が0%である場合には、対応色は基準色と同じである。考慮割合が100%である場合には、対応色を見た被験者が認識する色は、基準色を見た参照色覚者が認識した色と一致するかまたは近似する。すなわち、考慮割合が100%である場合には、参照色覚者が基準色を見る状況を、対応色を通じて被験者に経験させることができる。考慮割合が特定の数値または数値範囲にある場合には、対応色を見た被験者および参照色覚者の双方で、認識する色が一致またはほぼ一致し得る。このような考慮割合は例えば20%またはそれに近い値であり得る。
【0039】
ステップS12では、応答算出部12が基準スペクトルおよび参照モデルに基づいて参照応答を算出する。参照応答は、L錐体からの応答αと、M錐体からの応答βと、S錐体からの応答γとによって規定されてもよく、本開示ではこの参照応答を(α,β,γ)と表現する。
【0040】
一例では、応答算出部12は参照色覚者のL錐体、M錐体、およびS錐体のそれぞれについて、基準色を感知した該錐体からの応答を次のように算出する。応答算出部12は、可視光領域内の個々の波長における、該錐体の相対感度と基準スペクトルで示される反射率との積を算出する。この積は励起の度合いを示すといえる。応答算出部12は個々の波長での積の和を、該錐体からの応答として求める。
【0041】
波長をxで表すとし、L錐体、M錐体、およびS錐体の感度関数をそれぞれf(x),f(x),f(x)で表すとし、基準色のスペクトル関数をg(x)と表すとする。この場合、応答α,β,γはそれぞれ式(1)~(3)のように表現され得る。
α=∫f(x)g(x)dx …(1)
β=∫f(x)g(x)dx …(2)
γ=∫f(x)g(x)dx …(3)
【0042】
すなわち、応答算出部12は、各錐体における、感度関数とスペクトル関数との積の積分を、参照応答(α,β,γ)として算出し得る。
【0043】
ステップS13では、スペクトル算出部13が基準スペクトル、被験者モデル、および参照応答に基づいて変換スペクトルを算出する。一例では、スペクトル算出部13は基準スペクトルの少なくとも一部を変更して候補スペクトルを生成する。そして、スペクトル算出部13はその候補スペクトルを被験者モデルに入力して、該候補スペクトルによって示される色を視認した被験者の色覚系からの応答を被験者応答(α´,β´,γ´)として算出する。スペクトル算出部13はその被験者応答(α´,β´,γ´)が参照応答(α,β,γ)と一致または近似するか否かを判定する。スペクトル算出部13は、基準スペクトルの少なくとも一部を変更しながら、参照応答(α,β,γ)と一致または近似する被験者応答(α´,β´,γ´)を探索して、最終的に変換スペクトルを特定する。変換スペクトルは、考慮割合が100%である場合の対応スペクトルであるともいえる。
【0044】
ステップS14では、生成部14が基準スペクトル、変換スペクトル、および考慮割合に基づいて対応スペクトルを生成する。一例では、生成部14は考慮割合に基づく線形結合により基準スペクトルおよび変換スペクトルを合成して、対応スペクトルを生成する。基準スペクトル、変換スペクトル、および考慮割合をそれぞれS,S,rと表すとすると、対応スペクトルSは式(4)によって表される。rは0より大きく1以下である。r=1、すなわち考慮割合が100%である場合には、生成部14は変換スペクトルをそのまま対応スペクトルとして設定する。
=(1-r)・S+r・S …(4)
【0045】
ステップS15では、製造装置20が生成された対応スペクトルに基づいて対応色の色素40を製造する。一例では、製造装置20は対応スペクトルを参照して、予め用意された複数の色素材料30から1以上の色素材料30を選択し、選択された色素材料30のそれぞれについて混合比率を決定する。そして、製造装置20は選択された1以上の色素材料30を決定された混合比率によって混合して色素40を製造する。製造装置20は、オペレータによって選択された1以上の色素材料30および混合比率に従って色素40を生成してもよい。いずれにしても、色素40は基準スペクトルに基づく対応スペクトルを有し、色覚多様性を考慮した色表現に貢献する。
【0046】
[色素]
図4図7を参照しながら、色生成システム1(製造装置20)によって製造される色素40の構成について説明する。図4図7はいずれも、基準スペクトルと対応スペクトルとの関係をグラフで示す図である。各グラフにおいて、横軸および縦軸はそれぞれ波長(nm)および反射率(%)を示す。
【0047】
図4は四つの例310,320,330,340を示す。これらの例のいずれも、ガウス関数型の基準スペクトルと、該基準スペクトルに基づいてP型の人のために生成された対応スペクトルとのペアを示す。例310は、基準スペクトル311と、考慮割合を100%として該基準スペクトル311に基づいて生成された対応スペクトル312とを示す。対応スペクトル322,332,342はそれぞれ、基準スペクトル321,331,341に対応する。対応スペクトル322,332,342についても考慮割合は100%である。
【0048】
図5は三つの例350,360,370を示す。これらの例のいずれも、ステップ関数型の基準スペクトルと、該基準スペクトルに基づいてP型の人のために生成された対応スペクトルとのペアを示す。対応スペクトル352,362,372はそれぞれ、基準スペクトル351,361,371に対応する。対応スペクトル352,362,372についても考慮割合は100%である。
【0049】
図6は四つの例310A,320A,330A,340Aを示す。これらの例のいずれも、ガウス関数型の基準スペクトルと、該基準スペクトルに基づいてD型の人のために生成された対応スペクトルとのペアを示す。対応スペクトル313,323,333,343はそれぞれ、基準スペクトル311,321,331,341に対応する。対応スペクトル313,323,333,343のいずれにおいても考慮割合は100%である。
【0050】
図7は三つの例350A,360A,370Aを示す。これらの例のいずれも、ステップ関数型の基準スペクトルと、該基準スペクトルに基づいてD型の人のために生成された対応スペクトルとのペアを示す。対応スペクトル353,363,373はそれぞれ、基準スペクトル351,361,371に対応する。対応スペクトル353,363,373についても考慮割合は100%である。
【0051】
図4図7に示すように、色生成システム1によって得られる対応スペクトルおよび色素40は以下の二つの特性を持ち得る。
・対応スペクトルによって示される反射率が、540~560nmの範囲において0.025以下である。
・対応スペクトルが、380~540nmの範囲および560~730nmの範囲のそれぞれにおいて、反射率が0.2以上である領域を含む。
【0052】
色素40は、P型およびD型ではL錐体およびM錐体の重なりの程度が大きい傾向がある540~560nmの範囲をほぼ使わず、かつ主にL錐体によって吸収される長波長領域の反射率を積極的に利用した結果である。この色素40によって、一般色覚者が基準色を認識する状況を色弱者に経験させたり、この逆を実現したりすることが可能になる。
【0053】
色素40は様々な物品を製造するために用いられてよい。例えば、色素40は塗料またはインクに用いられてもよいし、筆記用具、付箋、ノート等の文房具に用いられてもよいし、絵本、絵画、写真集等の出版物に用いられてもよい。あるいは、色素40は洋服、布、家具、小物、看板等の他の物品に用いられてもよい。色素40を用いた物品を通じて、一般色覚者および色弱者の間で色についての共通認識を持たせたり、色の認識または識別に関する相互理解を促進させたりすることができる。一般色覚者と同様に物品の利用を楽しむ機会を色弱者に提供することも可能になる。あるいは、色素40を用いた物品を通じて、色の選択について色弱者に自信を持たせたり、色の選択における間違いを減らしたりすることも期待できる。
【0054】
[発光体およびその製造]
図8を参照しながら、一例に係る色生成システム1Aの構成について説明する。図8は色生成システム1Aの機能構成を示す図である。色生成システム1Aは、上述した色変換システム10と、製造装置50とを備える。製造装置50は、対応スペクトルに基づいて対応色の発光体60を製造する装置または装置群である。発光体とは、励起エネルギ(電気エネルギ、化学エネルギ、光エネルギ等)によって発光する物品をいう。図8の例に示すように、色変換システム10は、色素を製造するためだけではなく、発光体を製造するためにも利用され得る。
【0055】
図9を参照しながら、色生成システム1Aによって実行される色生成方法について説明する。図9は色生成システム1Aの動作の一例を処理フローS1Aとして示すフローチャートである。処理フローS1Aは、上記のステップS15に代えてステップS15Aを含む点で、上記の処理フローS1と異なる。以下ではそのステップS15Aについて説明する。
【0056】
ステップS15Aでは、製造装置50が、生成された対応スペクトルに基づいて対応色の発光体60を製造する。一例では、製造装置50は対応スペクトルを参照して、予め用意された複数の色から1以上の色を選択し、選択された各色の蛍光体の混合比率を決定する。そして、製造装置50は選択された1以上の色に対応する1種類以上の蛍光体を決定された混合比率で有する発光体60を製造する。発光体60を製造するために用意される各色の蛍光体は、例えば、特開2009-161372号公報に実施例1として開示されている手法によって製造されてもよい。この文献に開示されている量子ドット(量子ドット蛍光体)は、半値全幅(FWHM)が30nm程度であるシャープな発光スペクトルを有する。製造装置50は、オペレータによって選択された1以上の色(すなわち1種類以上の蛍光体)および混合比率に従って発光体60を生成してもよい。いずれにしても、発光体60は基準スペクトルに基づく対応スペクトルを有し、色覚多様性を考慮した色表現に貢献する。
【0057】
色生成システム1A(製造装置50)によって製造される発光体60も、上記の色素40と同様に、図4図7に示すような、基準スペクトルと対応スペクトルとの関係を示す。発光体60の場合には、図4図7の各グラフの縦軸は相対強度を示す。図4図7に示すように、色生成システム1Aによって得られる対応スペクトルおよび発光体60は以下の二つの特性を持ち得る。
・対応スペクトルの540~560nmの範囲での最大強度Maに対する、対応スペクトルの380~540nmの範囲での最大強度Mbの比が8.0以上である。すなわち、Mb/Ma≧8.0である。
・対応スペクトルの540~560nmの範囲での最大強度Maに対する、対応スペクトルの560~730nmの範囲での最大強度Mcの比が8.0以上である。すなわち、Mc/Ma≧8.0である。
【0058】
発光体60は、P型およびD型ではL錐体およびM錐体の重なりの程度が大きい傾向がある540~560nmの範囲をほぼ使わず、かつ主にL錐体によって吸収される長波長領域の強度を積極的に利用した結果である。この発光体60によって、一般色覚者が基準色を認識する状況を色弱者に経験させたり、この逆を実現したりすることが可能になる。
【0059】
発光体60は様々な物品を製造するために用いられてよい。発光体60は蛍光体でも燐光体でもよい。発光体60は例えば、ディスプレイ、信号機、照明、波長変換フィルム、バックライト、インジケータ、発光染料、発光塗料、または発光インクに用いられてもよい。発光体60を用いた物品を通じて、一般色覚者および色弱者の間で色についての共通認識を持たせたり、色の認識または識別に関する相互理解を促進させたりすることができる。一般色覚者と同様に物品の利用を楽しむ機会を色弱者に提供することも可能になる。あるいは、発光体60を用いた物品を通じて、色の選択について色弱者に自信を持たせたり、色の選択における間違いを減らしたりすることも期待できる。
【0060】
[変形例]
以上、本開示に係る技術をその様々な例に基づいて詳細に説明した。しかし、本開示は上記の例に限定されるものではない。本開示に係る技術については、その要旨を逸脱しない範囲で様々な変形が可能である。
【0061】
上記の例では、色変換システム10が考慮割合に基づいて対応スペクトルを生成する。しかし、色生成システム(変換システム)が変換スペクトルをそのまま対応スペクトルとして設定する場合、すなわち、考慮割合が100%である対応スペクトルを生成する場合には、色生成システム(変換システム)は考慮割合を取得および利用しなくてもよい。
【0062】
対応色の色素または発光体を製造する製造装置は、色生成システムとは別のコンピュータシステムまたは制御システムに設けられてもよい。
【0063】
少なくとも一つのプロセッサにより実行される方法の処理手順は上記の例に限定されない。例えば、上述したステップの一部が省略されてもよいし、別の順序で各ステップが実行されてもよい。また、上述したステップのうちの任意の2以上のステップが組み合わされてもよいし、ステップの一部が修正または削除されてもよい。あるいは、上記の各ステップに加えて他のステップが実行されてもよい。
【0064】
本開示における二つの数値の大小関係の比較では、「以上」および「よりも大きい」という二つの基準のどちらが用いられてもよく、「以下」および「未満」の二つの基準のうちのどちらが用いられてもよい。
【0065】
本開示において、「少なくとも一つのプロセッサが、第1の処理を実行し、第2の処理を実行し、…第nの処理を実行する。」との表現、またはこれに対応する表現は、第1の処理から第nの処理までのn個の処理の実行主体、すなわちプロセッサ、が途中で変わる場合を含む概念を示す。すなわち、この表現は、n個の処理のすべてが同じプロセッサで実行される場合と、n個の処理においてプロセッサが任意の方針で変わる場合との双方を含む概念を示す。
【0066】
本開示に係る色素または発光体が用いられる物品は、種々のカテゴリに分類される。カテゴリは、例えば、衣食住、被服/ファッション、学校/子ども、ブランド/広告、おもちゃ、その他を含む。これらのカテゴリに含まれる具体的な物品の例は以下の通りである。衣食住に関連する物品は、例えば、衣服、着色料を含む食品、食器、テーブルクロス、壁紙、家具、寝具などである。衣食住に関連する物品は、壁紙、家具、寝具などと照明とを組み合わせたものでもよい。被服/ファッションに関連する物品は、例えば、傘、帽子、ヘアピン、ヘアゴム、カチューシャ、ヘアバンド、眼鏡、サングラス、イヤリング、ピアス、イヤフォン、化粧品、ネイルアートに関する物品(マニキュア、ジェル、シールなど)、ネックレス、ネクタイ、スカーフ、マフラー、ショール、タイピン、インナートップス、アウタートップス、インナーボトムス、アウターボトムス、手袋、リストバンド、ブレスレット、時計、スマートウォッチ、指輪、スマホケース、鞄、ベルト、靴下、レギンス、タイツ、ストッキング、アンクレット、靴、サンダル、下駄、スリッパ、団扇、扇子、ハンカチ、タオルなどである。学校/子どもに関連する物品は、例えば、文房具、ノート、レターセット、道具入れ、ランドセル、教科書/教材、制服、体操着、上履き、絵の具セット、弁当箱、クレヨン、付箋、ファイル、バインダーなどである。ブランド/広告に関連する物品は、例えば、ロゴが付与された物品、看板、広告に係る物品、パッケージ(飲料、菓子、本の表紙、CDジャケット)などである。おもちゃに関連する物品は、例えば、ぬいぐるみ/人形、おままごと用品、粘土(クレイ)などである。その他の物品は、例えば、キャンドル、石鹸、名刺などである。このように、本開示に係る物品は多岐にわたり、各カテゴリにおいて具体的な物品が含まれる。これにより、様々な用途またはシーンに対応することが可能である。
【0067】
[付記]
上記の様々な例から把握されるとおり、本開示は以下に示す態様を含む。
(付記1)
基準色のスペクトルである基準スペクトルと、被験者の色覚系を示す被験者モデルとを取得する取得部と、
参照色覚者の色覚系を示す所定の参照モデルと、前記基準スペクトルとに基づいて、前記基準色を視認した該参照色覚者の色覚系からの応答を参照応答として算出する応答算出部と、
前記参照応答に一致または近似する応答を前記被験者モデルから出力させるための変換スペクトルを算出するスペクトル算出部と、
前記変換スペクトルに基づいて、前記基準色に対応する対応色のスペクトルである対応スペクトルを生成する生成部と、
を備える色生成システム。
(付記2)
前記取得部が、前記基準色から前記対応色への変化の度合いを示す考慮割合を更に取得し、
前記生成部が、前記基準スペクトル、前記変換スペクトル、および前記考慮割合に基づいて前記対応スペクトルを生成する、
付記1に記載の色生成システム。
(付記3)
前記生成部が、前記考慮割合に基づく線形結合により前記基準スペクトルおよび前記変換スペクトルを合成して、前記対応スペクトルを生成する、
付記2に記載の色生成システム。
(付記4)
前記生成部が、前記変換スペクトルを前記対応スペクトルとして設定する、
付記1に記載の色生成システム。
(付記5)
前記被験者モデルが、前記被験者のL錐体、M錐体、およびS錐体のそれぞれの感度特性を示し、
前記参照モデルが、前記参照色覚者のL錐体、M錐体、およびS錐体のそれぞれの感度特性を示し、
前記応答算出部が、前記参照色覚者のL錐体、M錐体、およびS錐体のそれぞれからの応答を前記参照応答として算出し、
前記スペクトル算出部が、前記被験者のL錐体、M錐体、およびS錐体のそれぞれからの応答に基づいて前記変換スペクトルを算出する、
付記1~4のいずれか一つに記載の色生成システム。
(付記6)
基準色のスペクトルである基準スペクトルと、被験者の色覚系を示す被験者モデルとを取得するステップと、
参照色覚者の色覚系を示す所定の参照モデルと、前記基準スペクトルとに基づいて、前記基準色を視認した該参照色覚者の色覚系からの応答を参照応答として算出するステップと、
前記参照応答に一致または近似する応答を前記被験者モデルから出力させるための変換スペクトルを算出するステップと、
前記変換スペクトルに基づいて、前記基準色に対応する対応色のスペクトルである対応スペクトルを生成するステップと、
をコンピュータに実行させる色生成プログラム。
(付記7)
基準色のスペクトルである基準スペクトルと、被験者の色覚系を示す被験者モデルとを取得するステップと、
参照色覚者の色覚系を示す所定の参照モデルと、前記基準スペクトルとに基づいて、前記基準色を視認した該参照色覚者の色覚系からの応答を参照応答として算出するステップと、
前記参照応答に一致または近似する応答を前記被験者モデルから出力させるための変換スペクトルを算出するステップと、
前記変換スペクトルに基づいて、前記基準色に対応する対応色のスペクトルである対応スペクトルを生成するステップと、
前記対応スペクトルに基づいて前記対応色の色素または発光体を製造するステップと、
を含む色素または発光体の製造方法。
(付記8)
基準色のスペクトルである基準スペクトルに基づく対応スペクトルを有し、
前記対応スペクトルによって示される反射率が、540~560nmの範囲において0.025以下であり、
前記対応スペクトルが、380~540nmの範囲および560~730nmの範囲のそれぞれにおいて、反射率が0.2以上である領域を含む、
色素。
(付記9)
基準色のスペクトルである基準スペクトルに基づく対応スペクトルを有し、
前記対応スペクトルの540~560nmの範囲での最大強度に対する、前記対応スペクトルの380~540nmの範囲での最大強度の比が8.0以上であり、
前記対応スペクトルの前記540~560nmの範囲での前記最大強度に対する、前記対応スペクトルの560~730nmの範囲での最大強度の比が8.0以上である、
発光体。
【0068】
付記1,6によれば、参照色覚者と同様に被験者に基準色を知覚させることが可能な変換スペクトルが算出され、この変換スペクトルに基づいて、基準色に対応する対応色のスペクトル(対応スペクトル)が生成される。この対応スペクトルによって、色覚多様性を考慮して色を提供することが可能になる。
【0069】
付記2によれば、考慮割合を用いることで所望の対応スペクトルを精緻に生成できる。例えば、一般色覚者および色弱者の双方で同じように認識される色のスペクトルを生成できる。
【0070】
付記3によれば、基準スペクトルおよび変換スペクトルが線形結合によって合成されるので、簡単な計算によって対応スペクトルを生成できる。
【0071】
付記4によれば、変換スペクトルがそのまま対応スペクトルとして設定されるので、一般色覚者が認識する色を色弱者に経験させたり、この逆を実現したりすることが可能になる。
【0072】
付記5によれば、ヒトの実際の色覚系を模した被験者モデルおよび参照モデルが用いられるので、対応スペクトルをより正確に生成できる。
【0073】
付記7によれば、参照色覚者と同様に被験者に基準色を知覚させることが可能な変換スペクトルが算出され、この変換スペクトルに基づいて、基準色に対応する対応色のスペクトル(対応スペクトル)が生成される。そして、この対応スペクトルに基づいて対応色の色素または発光体が製造される。この色素または発光体を用いることで、色覚多様性を考慮して色を提供することが可能になる。
【0074】
付記8によれば、上記の特性を有する色素を用いることで、色覚多様性を考慮して色を提供することが可能になる。
【0075】
付記9によれば、上記の特性を有する発光体を用いることで、色覚多様性を考慮して色を提供することが可能になる。
【符号の説明】
【0076】
1,1A…色生成システム、10…色変換システム、11…取得部、12…応答算出部、13…スペクトル算出部、14…生成部、20…製造装置、30…色素材料、40…色素、50…製造装置、60…発光体。
【要約】
色生成システムは、基準色のスペクトルである基準スペクトルと、被験者の色覚系を示す被験者モデルとを取得する取得部と、参照色覚者の色覚系を示す所定の参照モデルと、基準スペクトルとに基づいて、基準色を視認した該参照色覚者の色覚系からの応答を参照応答として算出する応答算出部と、参照応答に一致または近似する応答を被験者モデルから出力させるための変換スペクトルを算出するスペクトル算出部と、変換スペクトルに基づいて、基準色に対応する対応色のスペクトルである対応スペクトルを生成する生成部とを備える。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9