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特許7676719透過型荷電粒子顕微鏡を使用して試料を画像化する方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2025-05-07
(45)【発行日】2025-05-15
(54)【発明の名称】透過型荷電粒子顕微鏡を使用して試料を画像化する方法
(51)【国際特許分類】
   H01J 37/22 20060101AFI20250508BHJP
   G01N 23/02 20060101ALI20250508BHJP
   G01N 23/04 20180101ALI20250508BHJP
   G01N 23/20 20180101ALI20250508BHJP
【FI】
H01J37/22 501A
G01N23/02
G01N23/04 330
G01N23/20 380
【請求項の数】 13
【外国語出願】
(21)【出願番号】P 2021104549
(22)【出願日】2021-06-24
(65)【公開番号】P2022008240
(43)【公開日】2022-01-13
【審査請求日】2024-03-21
(31)【優先権主張番号】20182306.9
(32)【優先日】2020-06-25
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(73)【特許権者】
【識別番号】501233536
【氏名又は名称】エフ イー アイ カンパニ
【氏名又は名称原語表記】FEI COMPANY
(74)【代理人】
【識別番号】100107766
【弁理士】
【氏名又は名称】伊東 忠重
(74)【代理人】
【識別番号】100070150
【弁理士】
【氏名又は名称】伊東 忠彦
(74)【代理人】
【識別番号】100135079
【弁理士】
【氏名又は名称】宮崎 修
(72)【発明者】
【氏名】ペーター ティーメイヤー
(72)【発明者】
【氏名】エヴゲーニヤ ペクニコヴァ
(72)【発明者】
【氏名】ルドルフ ゲウリンク
(72)【発明者】
【氏名】アバイ コテチャ
(72)【発明者】
【氏名】ジャミー マコーマック
【審査官】佐藤 海
(56)【参考文献】
【文献】特開2016-051522(JP,A)
【文献】特開平08-222169(JP,A)
【文献】特開2007-073211(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2016/0086762(US,A1)
【文献】中国特許出願公開第1862761(CN,A)
【文献】住友化学株式会社,「電子顕微鏡の最新技術と将来展望」,[online],2004年,https://www.sumitomo-chem.co.jp/rd/report/files/docs/20040204_vie.pdf,特に、第49頁の「エネルギーフィルターTEM(EF-TEM)」を参照。[2024年12月17日検索]
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01J 37/00-37/36
G01N 23/00-23/2276
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
透過型荷電粒子顕微鏡を使用して試料を画像化する方法であって、
-試料を準備することと、
-荷電粒子ビームを準備し、前記試料を透過した荷電粒子フラックスを生成するために、前記荷電粒子ビームを前記試料上に導くことと、
-前記試料を透過した第1のエネルギーフィルタ荷電粒子フラックスを生成および記録することであって、前記第1のエネルギーフィルタ荷電粒子フラックスは、実質的に非散乱荷電粒子および弾性散乱荷電粒子からなる、生成および記録することと、
-前記試料を透過した第2のエネルギーフィルタ荷電粒子フラックスを生成および記録することであって、前記第2のエネルギーフィルタ荷電粒子フラックスは、実質的に非弾性散乱荷電粒子からなる、生成および記録することと、
-前記試料を画像化するために、記録された前記第1のエネルギーフィルタ荷電粒子フラックスおよび記録された前記第2のエネルギーフィルタ荷電粒子フラックスを使用することと、を含み、さらに、
前記試料内の関心エリアの位置を特定するために、記録された前記第2のエネルギーフィルタ荷電粒子フラックスを使用するステップと、
記録された前記第1のエネルギーフィルタ荷電粒子フラックスから記録された前記第2のエネルギーフィルタ荷電粒子フラックスを差し引くステップと、を含む、方法。
【請求項2】
前記第1のエネルギーフィルタ荷電粒子フラックスを生成および記録するステップは、ゼロロスピーク(ZLP)フィルタリングを含む、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記第2のエネルギーフィルタ荷電粒子フラックスを生成および記録するステップは、ゼロロスピーク(ZLP)ブロッキングを含む、請求項1または2に記載の方法。
【請求項4】
前記第1のエネルギーフィルタ荷電粒子フラックスを生成および記録するステップの間、第1の線量が使用される、請求項1~3いずれか1項に記載の方法。
【請求項5】
前記第1の線量は、例えば40e/Å2などの、構造的完全性を失う前に前記試料が耐えることができる最大線量に等しい、請求項4に記載の方法。
【請求項6】
前記第2のエネルギーフィルタ荷電粒子フラックスを生成および記録するステップの間、第2の線量が使用される、請求項4または5に記載の方法。
【請求項7】
前記第1のエネルギーフィルタ荷電粒子フラックスを生成および記録するステップは、先に実行され、前記第2のエネルギーフィルタ荷電粒子フラックスを生成および記録するステップは、後に実行される、請求項6に記載の方法。
【請求項8】
前記第2の線量は、例えば40e/Å2などの、前記第1の線量に少なくとも等しい、請求項7に記載の方法。
【請求項9】
記録された前記第2のエネルギーフィルタ荷電粒子フラックスにスケーリング係数を使用する、請求項1に記載の方法。
【請求項10】
前記試料は、複数のサンプル粒子を含み、前記方法は、サンプル粒子の3次元(3D)再構成を形成するステップを含み、前記第1のエネルギーフィルタ荷電粒子フラックスおよび前記第2のエネルギーフィルタ荷電粒子フラックスを使用する、請求項1~いずれか1項に記載の方法。
【請求項11】
分光装置であって、
-荷電粒子フラックスを受け取り、前記荷電粒子フラックスをそれらのエネルギー損失に従って分散させるための分散デバイスと、
-検出システムと、を備え、
前記分光装置は、
-実質的に非散乱荷電粒子および弾性散乱荷電粒子からなる第1のエネルギーフィルタ荷電粒子フラックスを生成および記録するように、かつ
-実質的に非弾性散乱荷電粒子からなる第2のエネルギーフィルタ荷電粒子フラックスを生成および記録するように構成されており、さらに、
-試料内の関心エリアの位置を特定するために、記録された前記第2のエネルギーフィルタ荷電粒子フラックスを使用し、
-記録された前記第1のエネルギーフィルタ荷電粒子フラックスから記録された前記第2のエネルギーフィルタ荷電粒子フラックスを差し引く、ように構成されている、分光装置。
【請求項12】
透過型荷電粒子顕微鏡であって、
-荷電粒子ビームを放出するための荷電粒子ビーム源と、
-試料を保持するための試料ホルダと、
-前記荷電粒子ビーム源から放出された前記荷電粒子ビームを前記試料上に導くための照明器と、
-前記透過型荷電粒子顕微鏡の動作を制御するための制御ユニットと、を備え、
前記透過型荷電粒子顕微鏡は、
-実質的に非散乱荷電粒子および弾性散乱荷電粒子からなる第1のエネルギーフィルタ荷電粒子フラックスを生成および記録するように、かつ
-実質的に非弾性散乱荷電粒子からなる第2のエネルギーフィルタ荷電粒子フラックスを生成および記録するように構成されており、さらに、
-前記試料内の関心エリアの位置を特定するために、記録された前記第2のエネルギーフィルタ荷電粒子フラックスを使用し、
-記録された前記第1のエネルギーフィルタ荷電粒子フラックスから記録された前記第2のエネルギーフィルタ荷電粒子フラックスを差し引く、ように構成されている、透過型荷電粒子顕微鏡。
【請求項13】
請求項11に記載の分光装置を備える、請求項10に記載の透過型荷電粒子顕微鏡。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
概要
本発明は、透過型荷電粒子顕微鏡を使用して試料を画像化する方法であって、試料を準備することと、荷電粒子ビームを準備することと、試料を透過した荷電粒子フラックスを生成するために荷電粒子ビームを試料上に導くことと、を含む方法に関する。
【背景技術】
【0002】
荷電粒子顕微鏡法は、特に電子顕微鏡の形態で、微小対象物を画像化するための周知の、ますます重要な技術である。これまで、基本的な種類の電子顕微鏡は、透過型電子顕微鏡(TEM)、走査型電子顕微鏡(SEM)、および走査透過型電子顕微鏡(STEM)など、いくつかの周知の装置種に進化し、そして、イオンビームミリングまたはイオンビーム誘導蒸着(IBID)などの支援作用を可能にする集束イオンビーム(FIB)を追加的に採用した、いわゆる「デュアルビーム」装置(例えば、FIB-SEM)など、さまざまな亜種にも進化している。当業者は、異なる種類の荷電粒子顕微鏡法に精通するであろう。
【0003】
TEMでは、試料を照射するために使用される電子ビームは、試料に浸透するのに十分なエネルギーを有するように選択され(この目的のために、一般に、SEM試料の場合よりも薄くなる)、そして、画像を作成するために試料から放出される透過電子の束が使用されることができる。そのようなTEMを走査モードで動作させる(したがってSTEMになる)と、電子ビームと試料との相対走査動作中に問題の画像が蓄積される。
【0004】
電子ビームを試料上で動かすまたは走査させる透過型電子顕微鏡(TEM)には、いくつかの使用例がある。
【0005】
1つの例は、単粒子分析(SPA)である。このワークフローでは、試料は、画像化されるべき生物学的粒子のコピーを含む氷箔を各々が含む多数の円形の穴を有するグリッドを含む。各氷箔は、直径約2μmで、箔の間隔は、約5μmである。ステージが穴の中心に移動し、2~6つの異なる、約.0.5μmのビーム画像シフトが使用されて、各々が約.0.5x0.5μmの面積をカバーする2~6枚の画像が取得される。このコンテクストにおいて、ビーム画像シフトとは、試料の上方の照明ビームと試料の下方の画像ビームとの複合偏向を意味し、二重偏向の後、ビームは、試料の下流の画像化システム内で軸上にあり、かつ軸上にない試料の一部が画像化される。次いで、ステージは、(典型的には5μm離れた)次の穴に移動し、手順が繰り返される。このプロセスが、数百回、または数千回も繰り返され得、したがって、複数の画像が生成される。
【0006】
単粒子分析(SPA)では、タンパク質またはウイルスなどの生物学的粒子の3D構造が、この複数の画像から再構築され、各単一画像は、この同じ生物学的粒子の数十のコピーを含み得る。このプロセスのステップの1つは、複数の画像内の粒子を認識して位置を特定することに関与する。粒子とそれらが埋め込まれた氷との両方が軽元素(N、C、O、H)で構成されているので、これらの粒子のコントラストは(非常に)低い。これにより、画像内の粒子を認識して同定することが困難になる。
【0007】
コントラストを引き上げるための従来の方法は、デフォーカスするか(CTF理論は、これが低空間周波数の伝達を増加させると教示している)、または位相板を適用することである。最初の方法は、高解像度で情報を低減するという欠点を有する。後者は、実際、利用可能なすべての位相板がビームの強度の一部を何らかの方法でブロックするという欠点を有する。
【発明の概要】
【0008】
したがって、透過型荷電粒子顕微鏡で得られた画像のコントラストを高めるための方法を提供することが、本発明の目的である。
【0009】
このために、本発明は、請求項1に定義される透過型荷電粒子顕微鏡を使用して試料を画像化する方法を提供する。
【0010】
本明細書に定義される方法は、試料を透過した第1のエネルギーフィルタ荷電粒子フラックスを生成および記録するステップであって、第1のエネルギーフィルタ荷電粒子フラックスは、実質的に非散乱荷電粒子および弾性散乱荷電粒子からなるステップを含むことを特徴とする。第1のエネルギーフィルタ荷電粒子フラックスは、例えば粒子とそれらが埋め込まれた氷との間など、試料中の異なるエリアのコントラストを増強する。
【0011】
本明細書に定義される方法は、試料を透過した第2のエネルギーフィルタ荷電粒子フラックスを生成および記録するステップであって、第2のエネルギーフィルタ荷電粒子フラックスは、実質的に非弾性散乱荷電粒子からなるステップを含むことをさらに特徴とする。非弾性的に散乱した荷電粒子と、散乱しなかったかまたは弾性的に散乱した荷電粒子との比率の、異なる領域間の小さいが顕著な差のため、第2のエネルギーフィルタ荷電粒子フラックスは、例えば粒子とそれらが埋め込まれた氷など、試料の異なるエリアに関する情報が含み、これを使用して、方法で得られた画像のコントラストをさらに高めることができる。
【0012】
方法は、コントラストを高めて試料を画像化するために、記録された第1および第2のエネルギーフィルタフラックスの両方からの情報を合成する。これにより、本発明の目的が達成される。
【0013】
さらなる実施形態および利点を以下に説明する。
【0014】
本明細書に定義される方法は、試料の異なる領域間で、非弾性的に散乱する荷電粒子と、散乱しなかったかまたは弾性的に散乱した荷電粒子との比率に、小さいが顕著な差が存在するという洞察に基づく。これは、例えば、SPA試料の氷と粒子との間の場合である。ここで非弾性散乱とは、ビーム中の荷電粒子が、試料上で散乱したときに、運動量伝達のために運動エネルギーの一部を試料に伝達するだけでなく(これは、荷電粒子が電子の場合は、電子と試料中の原子との質量の大きな差のために目立たないほど小さい)、電子または試料中の原子の内部励起によるエネルギーも伝達することを意味する。そのような内部励起は、(エネルギー移動が減少する順序で)(試料中の原子のコアシェル内の結合電子が外殻または真空に励起されるときに発生する)いわゆるコア損失、または(価電子の集団励起である)プラズモン励起、または(価電子帯の電子が伝導帯に励起されるときの)バンドギャップ遷移、または(試料中の原子の集団振動である)フォノン励起を含むことができる。これらのプロセスに関連する典型的なエネルギー移動は、コア損失の場合は100eV....2000eV、プラズモン励起の場合は10eV...40eV、バンドギャップ遷移の場合は2eV...6eV、フォノン励起の場合は0.01eV...0.2eVである。
【0015】
これとは対照的に、弾性散乱とは、ビーム中の荷電粒子が、試料上で散乱したときに、電子または試料中の原子の内部励起を生成しないことを意味する。透過型電子顕微鏡で通常採用される薄い試料(10nm....30nm)の場合、照明ビーム中の電子のほとんどは、散乱しないか、または試料に伴ない弾性的に散乱することに留意されたい。典型的には5%...20%のごく一部の電子のみが、非弾性的に散乱し、これらの非弾性散乱イベントのほとんどは、プラズモン励起である。
【0016】
多くの場合、非散乱荷電粒子と弾性散乱荷電粒子との複合フラックスは、弾性信号または弾性フラックスまたは弾性画像と称される。
【0017】
さらに、方法は、荷電粒子が試料と相互作用する間に伝達または喪失されたエネルギーを分析するため、具体的には、特定のエネルギー損失を経た荷電粒子のみを使用して試料の画像を作成するための分光装置を採用する。電子顕微鏡のコンテクストでは、そのような装置は通常、電子エネルギー損失分光法(EELS)モジュールと称される。
【0018】
第1のエネルギーフィルタフラックスは、試料中で幾分エネルギー損失を被ったすべての電子が画像からフィルタ除去された、いわゆるゼロロスピーク(ZLP)フィルタ画像であり得る。従来技術の理解は、エネルギー損失を被ったこれらの電子(非弾性散乱電子)は、それらの異なるエネルギーのために画像内で焦点が外れていることと、この焦点外れの信号は、信号対ノイズ比を低下させ、それによって氷中の粒子の可視性を低下させるファジーバックグラウンドを画像に与えることとである。この従来技術の理解によれば、ZLPフィルタリングは、有意な非弾性散乱(言わば>50%)が発生する厚い試料(言わば>100nm)ではコントラストを引き上げるが、少量の非弾性散乱(言わば<20%)しか発生しない薄い試料(言わば<30nm)では、コントラストを引き上げない。しかしながら、発明者らは、ZLPフィルタリングが非常に薄い試料(<30nm)でもコントラストを改善することを発見した。後で説明するように、ZLPフィルタリングによって得られるSPAのコントラストの引き上げは、ファジーバックグラウンドの除去によるものではなく、粒子とそれが埋め込まれた周囲の氷との間の非弾性散乱の有意な差によるものである。
【0019】
第2のエネルギーフィルタフラックスは、いわゆるゼロロスピーク(ZLP)ブロック画像であり得る。発明者らは、ZLPブロック画像がいくつかの強力な情報を担うことを発見した。SPAでは、例えば、非弾性信号は、粒子の位置でより高い。この信号の増加を、画像のコントラストを増強するために使用し得る。論理的には、この非弾性信号の強度の増加は、弾性信号の強度の対応する低下を伴う。この強度の低下が(高周波情報とともに)、ZLPフィルタ画像内で粒子を認識可能にする。
【0020】
一実施形態では、第1のエネルギーフィルタ荷電粒子フラックスを生成および記録するステップの間、第1の線量が使用される。
【0021】
第1の線量は、例えば40電子/Åなど、構造的完全性を失う前に試料が耐えることができる最大線量に匹敵し得る。
【0022】
一実施形態では、第2のエネルギーフィルタ荷電粒子フラックスを生成および記録するステップの間、第2の線量が使用される。第2の線量は、第1の線量とは異なり得るが、一実施形態では、等しくてもよい。
【0023】
一実施形態では、第1のエネルギーフィルタ荷電粒子フラックスを生成および記録するステップは、最初に実行され、第2のエネルギーフィルタ荷電粒子フラックスを生成および記録するステップは、後で実行される。
【0024】
ここで、第2の線量は、例えば少なくとも40e/Åなど、第1の線量に少なくとも等しいことが考えられる。
【0025】
記録された第2のエネルギーフィルタ荷電粒子フラックスは、試料内の関心エリアの位置を特定するために使用され得る。関心エリアは、試料が複数のサンプル粒子を含む場合、サンプル粒子であり得る。サンプル粒子は、例えば、氷中に埋め込まれ得る。
【0026】
一実施形態では、方法は、記録された第1のエネルギーフィルタ荷電粒子フラックスから記録された第2のエネルギーフィルタ荷電粒子フラックスを差し引くステップを含み得る。これは、第1および/または第2のエネルギーフィルタ荷電粒子フラックスの画像を形成し、画像を差し引くステップを含み得る。他の差し引く方法も考えられる。
【0027】
差し引き中に、記録された第2のエネルギーフィルタ荷電粒子フラックスにスケーリング係数を使用し得る。
【0028】
前述したように、試料は、複数のサンプル粒子を含み得る。方法は、一実施形態では、サンプル粒子の3次元(3D)再構成を形成するステップであって、第1および第2のエネルギーフィルタ荷電粒子フラックスが使用されるステップを含む。
【0029】
一態様によれば、請求項13に定義されるように、分光装置が提供される。本明細書に定義される分光装置は、荷電粒子フラックスを受け取り、それらのエネルギー損失に従って荷電粒子フラックスを分散させるための分散デバイスと、分散させた荷電粒子フラックスの少なくとも一部を検出するための検出システムとを備える。
【0030】
本明細書に定義されるように、分光装置は、
-実質的に非散乱荷電粒子および弾性散乱荷電粒子からなる第1のエネルギーフィルタ荷電粒子フラックスを生成および記録するように、かつ
-実質的に非弾性散乱荷電粒子からなる第2のエネルギーフィルタ荷電粒子フラックスを生成および記録するように構成されている。
【0031】
第1のエネルギーフィルタフラックスおよび第2のエネルギーフィルタフラックスは、サンプルの画像を作成するために使用され得る。分光装置は、一実施形態では、そのような画像を作成するように構成され得る。
【0032】
これにより、上記したように、検出されたフラックスから作成された画像内のサンプル中の粒子とそれらの周囲との間のコントラストを高め得る。
【0033】
分光装置は、第1および/または第2のエネルギーフィルタ荷電粒子フラックスを生成するための1つ以上のスリット要素を備え得る。
【0034】
一態様によれば、透過型荷電粒子顕微鏡が提供される。透過型荷電粒子顕微鏡は、
-荷電粒子ビームを放出するための荷電粒子ビーム源と、
-試料を保持するための試料ホルダと、
-荷電粒子ビーム源から放出された荷電粒子ビームを試料上に導くための照明器と、
-透過型荷電粒子顕微鏡の動作を制御するための制御ユニットと、を備える。
【0035】
本明細書に定義されるように、透過型荷電粒子顕微鏡は、
-実質的に弾性散乱荷電粒子からなる第1のエネルギーフィルタ荷電粒子フラックスを生成および記録するように、かつ
-実質的に非弾性散乱荷電粒子からなる第2のエネルギーフィルタ荷電粒子フラックスを生成および記録するように構成されている。
【0036】
透過型荷電粒子顕微鏡は、本明細書に定義される分光装置を備え得る。
【図面の簡単な説明】
【0037】
ここで、本明細書に定義される方法、検出器、および顕微鏡を、例示的な実施形態および添付の概略図に基づいて、より詳細に説明する。
図1】荷電粒子顕微鏡の縦断面図を示す。
図2】フィルタリングなしの設定における本明細書に定義される分光装置の詳細図を示す。
図3】本明細書に定義される第1のエネルギーフィルタ設定における図2の分光装置を示す。
図4】本明細書に定義される第2のエネルギーフィルタ設定における図2の分光装置を示す。
図5a】対応する異なる設定で図2図4の分光装置で得られた画像を示す。
図5b】対応する異なる設定で図2図4の分光装置で得られた画像を示す。
図5c】対応する異なる設定で図2図4の分光装置で得られた画像を示す。
図5d図5cが図5bに追加された、図5bおよび図5cで得られた画像の合成を示す。
図6】氷層とその中に埋め込まれた粒子とを含む試料内の全信号、弾性信号、および非弾性信号の概略図を示す。
図7図5cが図5bから差し引かれた、図5bおよび図5cで得られた画像の合成を示す。
【発明を実施するための形態】
【0038】
図面において、適切な場合、対応する部分は、対応する参照符号を使用して示される。概して、図は縮尺通りではないことに留意されたい。
【0039】
図1は、透過型荷電粒子顕微鏡Mの実施形態の非常に概略的な図であり、透過型荷電粒子顕微鏡Mは、この場合、TEM/STEMである(しかしながら、本開示の文脈において、透過型荷電粒子顕微鏡は、例えば、イオンベース顕微鏡または陽子顕微鏡でも有効であり得る)。図1において、真空筐体E内では、(例えば、ショットキーエミッタなどの)電子源4が、電子光学照明器6を横切る電子のビーム(B)を生成し、電子光学照明器6は、電子を(例えば、(局所的に)薄く/平坦化され得る)試料Sの選択された部分上に導く/集束させるように機能する。この照明器6は、電子光学軸線B’を有し、多種多様な静電/磁気レンズ、(走査)偏向器(複数可)D、補正器(非点収差補正装置のような)などを広く含み、典型的に、照明器6は、集光レンズ系を含むこともできる(部品6の全体は、「集光レンズ系」と称される場合がある)。
【0040】
試料Sは、試料ホルダH上に保持されている。ここに示すように、(筐体E内の)このホルダHの一部は、位置決めデバイス(ステージ)Aによって複数の自由度で位置決め/移動させることができるクレードルA’に取り付けられ、例えば、クレードルA’は、(とりわけ)X、Y、およびZ方向に変位可能であり得(図示のデカルト座標系を参照)、Xに平行な長手方向軸を中心に回転させ得る。そのような動きにより、試料Sの異なる部分を、軸B’に沿って進む電子ビームによって照射/画像化/検査することが可能になる(かつ/または[偏向器(複数可)Dを使用して]ビームスキャンの代わりにスキャン動作を実行することが可能になり、かつ/または試料Sの選択された部分を、例えば、(図示されていない)集束イオンビームによって機械加工することが可能になる)。
【0041】
軸B’に沿って進む(収束)電子ビームBは、(例えば)2次電子、後方散乱電子、X線、および光放射(カソードルミネッセンス)を含むさまざまなタイプの「誘導」放射線を試料Sから放出させるように、試料Sと相互作用する。必要に応じて、これらの放射線タイプのうちの1つ以上は、検出器22を用いて検出することができ、検出器22は、例えば、複合型シンチレータ/光電子増倍管、またはEDX(エネルギー分散型X線分光)モジュールであってもよく、このような場合では、画像は、SEMにおけるのと基本的に同じ原理を使用して構成することができる。しかしながら、代わりにまたは追加的に、試料Sを横切り(通過し)、それから出射(発射)して、軸B’に沿って(実質的には、ある程度のたわみ/散乱を通常は伴うが)伝搬し続ける電子を調べることができる。このような透過電子束は、多種多様な静電レンズ/磁気レンズ、偏向器、補正器(非点収差補正装置のような)などを広く含む画像化システム(複合型対物レンズ/投影レンズ)24に入射する。
【0042】
通常の(非走査)TEMモードでは、この画像化システム24は、透過電子束を蛍光スクリーン26に集束させることができ、蛍光スクリーン26は、必要に応じて、軸線B’の邪魔にならないように格納/回収することができる(矢印26’によって概略的に示される)。試料Sの(一部の)画像(または回折図)が、画像化システム24によってスクリーン26上に形成され、これを、筐体Eの壁の好適な部分に位置するビューイングポート28を通じて見てもよい。スクリーン26の後退機構は、例えば、機械的/電気的であり得、ここでは図示されていない。
【0043】
スクリーン26上の画像を見ることの代替として、画像化システム24から出射する電子束の収束の深さが普通、極めて大きい(例えば、約1メートル)という事実を代わりに利用することができる。その結果、以下のようなさまざまなタイプの検知デバイス/分析装置をスクリーン26の下流で使用することができる:
-TEMカメラ30。カメラ30の位置では、電子束が静止画像(または、ディフラクトグラム)を形成することができ、静止画像をコントローラCによって処理し、例えば、フラットパネルディスプレイのような表示デバイス(図示せず)に表示することができる。必要でない場合、カメラ30を、(矢印30’で概略的に示すように)後退/退避させて、軸B’から外すことができる。
-STEMレコーダ32。レコーダ32からの出力は、試料S上のビームBの(X,Y)走査位置の関数として記録することができ、X,Yの関数としてのレコーダ32からの出力の「マップ」である画像を構成することができる。レコーダ32は、カメラ30に特徴的に存在する画素のマトリックスとは異なり、例えば、20mmの直径を有する単一画素を含むことができる。さらに、レコーダ32は概して、カメラ30(例えば、10画像/秒)よりもはるかに高い取得レート(例えば、10箇所/秒)を有する。ここでもやはり、必要でない場合、レコーダ32を(矢印32’で概略的に示すように)後退/退避させて、線B’から外すことができる(但し、そのような後退は、例えば、ドーナツ形の環状暗視野レコーダ32の場合には必要とされず、そのようなレコーダでは、レコーダが使用されないときには中心孔がビームを通過させる)。
【0044】
カメラ30またはレコーダ32を使用して画像化を行うことの代替として、例えば、EELSモジュールとすることができる分光装置34を駆動することもできる。
【0045】
アイテム30、32、および34の順序/位置は厳密ではなく、多くの可能な変形が考えられることに留意されたい。例えば、分光装置34は、画像化システム24と一体化することもできる。
【0046】
コントローラ(複合型コントローラおよびプロセッサとすることができる)Cは、図示の様々な構成要素に制御線(バス)C’を介して接続されることに留意されたい。コントローラを、ユーザインターフェース(UI)が設けられ得るコンピュータスクリーン51に接続することができる。このコントローラCは、動作を同期させること、設定値を提供すること、信号を処理すること、計算を実行すること、およびメッセージ/情報を表示デバイス(図示せず)に表示することなど、さまざまな機能を提供することができる。(概略的に図示される)コントローラCは、筐体Eの内部または外部に(部分的に)あるようにすることができ、単体構造または複合構造を必要に応じて有することができることが理解されよう。当業者であれば、筐体Eの内部が厳密な真空に維持される必要がないこと、例えば、いわゆる「環境的TEM/STEM」においては、所与の気体のバックグラウンド雰囲気が、筐体E内に意図的に導入/維持されることを理解するであろう。当業者であれば、実際には、可能であれば、筐体Eが本質的に軸B’に沿って延在し、使用された電子ビームが通過する(例えば、直径が約1cmほどの)小さなチューブの形態をとるが、源4、試料ホルダH、スクリーン26、カメラ30、レコーダ32、分光装置34などの構造を収容するために広がるように、筐体Eの容積を限定することが有利であり得ることも理解するであろう。
【0047】
本明細書に定義されるように、透過型荷電粒子顕微鏡Mは、
-荷電粒子ビームBを放出するための荷電粒子ビーム源4と、
-試料Sを保持するための試料ホルダHと、
-荷電粒子ビーム源4から放出された荷電粒子ビームBを試料S上に導くための照明器6と、
-透過型荷電粒子顕微鏡Mの動作を制御するための制御ユニットCと、を備える。
【0048】
本明細書に定義される透過型荷電粒子顕微鏡Mは、以下でより詳細に説明されるように、試料を透過した荷電粒子の第1および第2のエネルギーフィルタフラックスを生成および記録するように構成されている。本明細書に定義される透過型荷電粒子顕微鏡Mは、第1および第2のエネルギーフィルタ荷電粒子フラックスを生成するように構成された分光装置34を備え得る。
【0049】
ここで図2に目を向けると、そのような分光装置34の詳細が示されている。図2は、これは、図1の分光装置34の一実施形態のより詳細な拡大図を示す。図2では、(試料Sおよび画像化システム24を通過した)電子フラックス1が、電子光学軸B’に沿って伝搬しているのが示されている。このフラックス1は、分散デバイス3(「電子プリズム」)に入射し、分散方向に沿って分布したスペクトルサブビームのエネルギー分解(エネルギー分別)アレイ5に分散(扇形展開)されるが、例示のために、これらのサブビームのうちの3つが、図2において5a,5b、および5cの符号を付されている。
【0050】
分散デバイス3の下流で、サブビームのアレイ5は、分散後電子光学素子9に遭遇し、そこで、例えば、拡大/集束され、最終的に、試料Sを透過したエネルギーフィルタ荷電粒子フラックスを画像化するために検出器11上に導かれる/投影される。そのような画像化は、分光装置の入口の平面内の画像が検出器11上で画像化されるように光学素子9を調整することによって行うことができる。これは、エネルギーフィルタ透過型電子顕微鏡(EFTEM)である。あるいは、この画像化は、試料中での電子ビームの相互作用の電子エネルギー損失スペクトル(EELS)を形成するように、分散(扇形展開)したスペクトルサブビームの画像が検出器上で画像化されるように光学素子9を調整することによって、より間接的に行うことができる。集束ビームをサンプル全体に走査させ、各位置でEELSスペクトルを記録することにより、エネルギーフィルタ画像を、記録されたスペクトルから事後的に再構成することができる。この代替方法は、走査透過型電子顕微鏡(STEM)EELSとして知られている。しかしながら、発明者らは、EFTEMモードは、照明ビームの注意深い調整および集束を必要としないので、より使いやすいことを発見した。図2および図3および図4のさまざまな設定はすべて、EFTEMモードに適用される。検出器11は当業者に知られており、本明細書に定義される顕微鏡および/または方法は、原則として、特定の検出器の使用に限定されないことに留意されたい。EFTEMモードでは、分光装置34は、エネルギーフィルタ荷電粒子フラックスを生成するためのスリットを備える。スリットは、(スリットエッジまたはスリットナイフとしても知られている)1つ以上のスリット要素7、8を備え得る。図2に示された実施形態では、分光装置34は、サブビームフラックス5a、5b、5cの一部をフィルタリングするために使用することができる2つのスリット要素7、8を備える。単一のスリット要素の使用、または3つ以上のスリット要素の使用も考えられる。図示の実施形態では、2つのスリット要素7、8は、第1の方向dに可動であり、第1の方向dは、少なくとも、サブビームアレイ5の伝搬方向に垂直な成分を有するか、またはそれに実質的に垂直である。一実施形態では、2つのスリット要素7、8の各々は、独立して動くことができるが、2つのスリット要素7、8は、一緒に可動であり得る。スリット要素7、8は、検出器11上に画像化されるべきサブビーム5a、5b、5cの正確な選択を可能にする。本明細書に定義される方法では、第1および第2のエネルギーフィルタ荷電粒子フラックスが生成され、記録される。これにはスリット要素7、8を使用し得るが、当業者には明らかであるように、同様の結果を達成する他の方法も考えられる。
【0051】
図2では、スリット要素7、8が外され、したがって、サブビーム5a~5cのいずれもフィルタリングされず、すべてのスペクトル情報を含む画像を、分散後電子光学素子9を使用して検出器11上に形成することができる。
【0052】
次いで、図3および図4に目を向けると、第1および第2のエネルギーフィルタ荷電粒子フラックスが、EFTEMモードでどのように生成および記録されるかが示されている。
【0053】
図3では、スリット要素7、8は、第1のエネルギーフィルタ荷電粒子フラックスを生成するために、対応する第1の位置に動かされている。この場合、サブビーム5aはフィルタリングされ(すなわち通過され)、他のサブビーム5b、5cはブロックされる。分散後電子光学素子9の光学素子は、サブビーム5aのみのスペクトル情報を含む画像を形成するために使用される。このようにして、第1のエネルギーフィルタ荷電粒子フラックスが、生成および記録される。
【0054】
図4では、スリット要素7、8は、第2のエネルギーフィルタ荷電粒子フラックスを生成するために、対応する第2の位置に動かされている。この場合、サブビーム5aはブロックされ、他のサブビーム5b、5cは通過して検出器11に達する。
【0055】
本明細書に定義されるように、第1のエネルギーフィルタ荷電粒子フラックスは、図3に示されたように、実質的に非散乱荷電粒子および弾性散乱荷電粒子からなる。図示の実施形態では、第1のエネルギーフィルタ荷電粒子フラックスを生成および記録するステップは、いわゆるゼロロスピーク(ZLP)フィルタリングを含み、第1のエネルギーフィルタ荷電粒子フラックスは、非散乱荷電粒子および弾性散乱荷電粒子を含む。これにより、コントラストを高めた試料Sの画像が得られる。
【0056】
本明細書に定義されるように、第2のエネルギーフィルタ荷電粒子フラックスは、図4に示されたように、実質的に非弾性散乱荷電粒子からなる。図示の実施形態では、スリット要素7、8は、それらがサブビーム5a(ZLPサブビーム)をブロックするように配置されている。したがって、方法は、いわゆるゼロロスピーク(ZLP)ブロッキングのステップを含み得る。第2のエネルギーフィルタ荷電粒子フラックスを用いて得られた画像は、試料のコントラストを高めるためにも使用し得る。コントラストを高めて試料Sを画像化するために、記録された第1および第2のエネルギーフィルタフラックスを使用し得る。スリット要素8は、所望であれば、サブビームのうちの1つ内で動かし得ることに留意されたい。例えば、スリット要素8は、サブビームアレイ5のサブビーム5cまたは他の部分をブロックするように設定され得る。
【0057】
発明者らは、図3を参照して説明したZLPフィルタリングは、非常に薄いサンプル(<30nm)でもコントラストを改善させることを発見した。これは、一般的な理解の教示と一致しない。ZLPフィルタリングによって得られるSPAのコントラストの引き上げは、実際には、ファジーバックグラウンドの除去によるものではなく、粒子とそれが埋め込まれた周囲の氷との間の非弾性散乱の有意な差によるものである。
【0058】
上記は、以下の実験結果で実証されている。試料Sの画像を取得するために電子顕微鏡Mを使用した。アモルファス氷に埋め込まれたアポフェリチン粒子を試料Sとして使用した。顕微鏡Mを、当業者に知られているようなSPA取得の典型的な条件、つまり(氷のアモルファス構造を維持し、放射線損傷を最小限にするために)80Kまで冷却された試料、直径500nmを有する平行照明、電子フラックス8電子/Å/秒、照射時間5秒に設定した。各画像に同じ光学設定を使用して、但しスリット要素7、8に異なる位置を使用して得られるような異なるエネルギーフィルタ荷電粒子フラックスを使用して、画像を取得した。図2図4の設定を使用し、対応する結果を図5a~図5cに示す。
【0059】
第1の画像(図5a)では、スリット7、8は挿入されず、ビーム中のすべての電子(非散乱、弾性、非弾性)を使用して画像が作成されている。これは、図2に示す設定に対応する。アポフェリチン粒子a(そのうちのいくつかが、読み取りやすくするために円で示されている)は、氷領域i(そのうちの1つが、読み取りやすくするために示されている)とほとんど区別できない。
【0060】
第2の画像(図5b)では、ZLPフィルタリングに使用される位置にスリットが挿入され、非散乱電子と弾性散乱電子(±10eV)のみを通過させる。これは、図3に示した設定に対応する。明らかに、ZLPフィルタリング(図5b)は、アポフェリチンaをはっきりと見えるようにする。明瞭さを最大にするために、画像を処理して、1/2nmを超えるすべての空間周波数を除去したが、未処理の画像も、ZLPフィルタリングがアポフェリチンの認識可能性を引き上げることを明確に示すことに留意されたい。
【0061】
第3の画像(図5c)では、上方スリットエッジ8が完全に後退され、下方スリットエッジ7が上方エッジの元の位置に動かされている。これにより、非散乱電子と弾性散乱電子とがブロックされ、非弾性電子のみが通過する。これは、図4に示した設定に対応する。氷領域iとアポフェリチン粒子aとは、やはりある程度区別し得る。
【0062】
図5dは、図5bおよび5cに示された画像の和、すなわち、ZLPフィルタ画像とZLPブロック画像との和を示す。予想通り、ZLPフィルタ画像とZLPブロック画像との和(図5d)は、アポフェリチンと氷との間に(ほぼ)コントラストがないことを含め、未フィルタ画像(図5a)によく似ている。したがって、ZLPフィルタ画像で十分に認識可能なアポフェリチンは、ZLPブロック画像をZLPフィルタ画像に付加することによって認識不可能にすることができる。このことから、ZLPブロック画像も何らかの強力な情報を担うはずであると推測することができる。
【0063】
図5cは、この情報の性質、正確には粒子の位置で、非弾性信号がより高いことを明らかにしている。論理的には、この非弾性信号の強度の増加は、弾性信号の強度の対応する低下を伴う。この強度の低下が(高周波情報とともに)、ZLPフィルタ画像内で粒子を認識可能にする(図5b)。図6は、アポフェリチン粒子aにおけるこの非弾性信号の強度の増加と、アポフェリチン粒子aにおける弾性信号(つまり、非散乱電子および弾性散乱電子)の対応する強度の低下とを概略的に示す。したがって、図6から、弾性信号と非弾性信号との両方が、試料Sの特徴、この場合は氷層i中の粒子aの存在に関する情報を含むと推測することができる。
【0064】
EELS分光法から、非弾性信号は、約10eV...40eVのエネルギー損失で発生するプラズモン損失によって支配されることが知られている。発明者らは、図5cから、アポフェリチンのプラズモン相互作用は氷よりも強いはずであると結論付けている。プラズモンは、試料中の価電子の集合振動である。Egerton(Egerton,R.F.,2011.Electron Energy-Loss Spectroscopy in the Electron Microscope.doi:10.1007/978-1-4419-9583-4)によると、「プラズモン励起の必須要件は、関与する電子が互いに連絡し、エネルギーを共有できることであり、非局在化状態の帯域では満たされるが、原子のようなコアレベルでは満たさない要件である。」発明者らは、氷の緩く不規則な構造により、電子が粒子内よりも互いにうまく連絡できないので、プラズモンは粒子内よりもアモルファス氷内で励起される可能性が低いと仮定している。
【0065】
記録された第1および第2のエネルギーフィルタフラックスは、コントラストを高めて試料を画像化するために使用され得る。上記を考慮して、本発明の一実施形態は、以下によって、ZLPフィルタ画像(すなわち、高周波情報およびプラズモンコントラスト)ならびにZLPブロック画像(すなわち、プラズモンコントラスト)において入手可能な情報を使用する:
-第1に、構造的完全性を失う前に試料が耐えることができるほぼ最大の線量(典型的には300kVビーム電位で40e/Å)で、ZLPフィルタ画像を記録することと、次いで
-第2に、同じ位置で、同様(またはそれ以上)の線量のZLPブロック画像を記録すること。
【0066】
ZLPブロック画像のプラズモン信号により、試料内の粒子、またはより一般的には関心領域の位置を特定できる精度が改善される。これは、多くの方法で行うことができる。プラズモン画像は、例えば、粒子の位置を特定するために処理され、この情報を使用して、ZLPフィルタ画像内の粒子の位置を特定したり、かつ/またはZLPフィルタ画像を増強することが考えられる。
【0067】
別の実施形態では、プラズモン画像は、ZLPフィルタ画像から差し引かれる。そのような変更の例を図7に示す。ここでは、ZLPブロック画像(図5c)がZLPフィルタ画像(図5b)から差し引かれる。これにより、粒子とそれらが埋め込まれた氷との間のコントラストがより高い高品質の画像が得られる。次いで、粒子を同定するために、この画像をデジタル処理および/または分析し得る。一実施形態では、画像化および同定された粒子は、サンプル粒子の3次元(3D)再構成を形成するために使用することができる。ここで、例えば、ZLPフィルタ画像からZLPブロック画像を差し引くことによって、第1および第2のエネルギーフィルタ荷電粒子フラックスが使用される。
【0068】
差し引きの前に、プラズモン画像を係数によって調整してもよい。係数は、最大コントラストになるように最適化し得る。
【0069】
ZLPブロック画像は、すでに何らかの放射線損傷を受けた試料の一部について記録されるが、プラズモン信号は高周波情報を担う必要がない(および担うことができない)ので、これは限定的ではない。したがって、ZLPフィルタ画像を取得するために最大線量を使用することは許容される。
【0070】
第1のエネルギーフィルタフラックスは、原則として、それが弾性散乱荷電粒子を含む限り、全スペクトルのうちの任意の選択されたサブスペクトルを含み得ることに留意されたい。一実施形態では、スリット要素7、8の間の距離およびそれらの位置は、画像結果を最適化するように選択されることが考えられる。同じことが、第2のエネルギーフィルタフラックスを生成するためのスリット要素の距離および位置にも当てはまる。言い換えれば、最適な画像結果をレンダリングするために、ZLPフィルタ画像とZLPブロック画像との間の境界の最適位置を変更して、経験的に決定し得る。これは、まだ未知の粒子または試料が画像化される場合に役立つ。この場合、実際のSPA取得を開始する前に、スリット幅が異なる少数の一連の画像を取得することが役立ち得る。
【0071】
例えばZLPブロック画像を捕捉するなど、第2のエネルギー荷電粒子フラックスの生成および記録には追加の時間がかかり、これにより、ステージ移動ごとに必要な時間と露光ごとに必要な時間とに応じて、スループット時間がある程度増加する。この影響は、一部のサンプルでは、1000枚の弾性画像と1000枚の非弾性画像とが2000枚の弾性画像よりも優れた再構成を提供するという事実によって打ち消すことができる。さらに、一実施形態では、非弾性画像を取得するときにビーム電流を上げることができ、これにより、非弾性画像の取得時間が短縮される。小さな粒子の場合、従来の取得方法では高品質の薄い氷が必要である。グリッドスクリーニングで(存在したとして)薄氷を見つけるには、かなりの時間がかかる。非弾性画像の情報を用いると、中程度またはより厚い氷を使用でき、したがって、スループットが効果的に高められる。最後に、スループット時間は、何らかの理由でサンプルの粒子数が限られており(言わば、1000未満)、スループット時間に関係なく使用可能な各粒子のすべての情報を取得することが望ましい場合、関連性の低いパラメータである。
【0072】
所望の保護は、添付の特許請求の範囲によって決定される。
図1
図2
図3
図4
図5a
図5b
図5c
図5d
図6
図7